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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】微生物を同定する方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/552 20140101AFI20240607BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
G01N21/552
C12Q1/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021577304
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(86)【国際出願番号】 IT2019000062
(87)【国際公開番号】W WO2021019581
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】518079770
【氏名又は名称】アリファックス ソチエタ レスポンサビリタ リミタータ
【氏名又は名称原語表記】ALIFAX S.R.L.
【住所又は居所原語表記】VIA PETRARCA 2/1 35020 POLVERARA (PD) ITALY
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ガリアーノ パオロ
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0178793(US,A1)
【文献】国際公開第2006/088208(WO,A1)
【文献】特開2018-179991(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0121326(US,A1)
【文献】特開2005-195586(JP,A)
【文献】特表2019-509051(JP,A)
【文献】SOUSA, C et al.,Discrimination of the Acinetobacter calcoaceticus-Acinetobacter baumannii complex species by Fourier transform infrared spectroscopy,Eur J Clin Microbiol Infect Dis,2014年02月22日,Vol.33,pp.1345-1353,DOI 10.1007/s10096-014-2078-y
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/74
G01N 15/00 - G01N 15/1492
C12Q 1/00 - C12Q 3/00
G16B 5/00 - G16B 99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動プロファイルを評価することによって試料中の微生物を同定する方法であって、以下の工程を含む方法:
・既知の微生物の既知の試料の参照スペクトルのデータベースを作成する工程(A)であって、以下の工程を含む工程(A):
・既知の試料をサンプリングする1つ以上の工程(A1);
・前記既知の試料のスペクトルを取得する1つ以上の工程(A2);
・前記既知の試料のスペクトルを処理して、各カテゴリおよび/または分類群を同定するスペクトル特性の存在を評価するためのスペクトル領域を少なくとも同定する、場合により自動化された1つ以上の工程(A3);
・比較的広いカテゴリおよび/または分類群から比較的小さいカテゴリおよび/または分類群まで階層的に組織化された微生物のカテゴリおよび/または分類群に関連付けられた複数の予め計算されたモデルを作成する1つ以上の工程(A4)であって、各予め計算されたモデルが、微生物のカテゴリおよび/または分類群に関連付けられた前記スペクトル特性を含む1つ以上の工程(A4);
・未知の試料をサンプリングする工程(B);
・前記未知の試料のスペクトルを取得する1つ以上の工程(C);
・工程(A3)で定義されたものに基づいて、前記未知の試料のスペクトルを処理する1つ以上の工程(D);
・前記未知の試料のスペクトルと、前記予め計算されたモデルとを比較する複数のサブ工程を連続して行うことをそれぞれ提供する1つ以上の分析工程(E)であって、各サブ工程が、多変量解析方法によって、前記未知の試料のスペクトルと、漸進的に小さくなるカテゴリおよび/または分類群の前記予め計算されたモデルとを比較して、微生物の前記カテゴリおよび/または分類群への前記未知の試料の所属を示す少なくともスコアを提供する1つ以上の分析工程(E);
・前記分析工程(E)において決定された前記スコアが所定の許容値と比較された場合、前記未知の試料のスペクトル(C)の新しい取得工程が要求され、前記所属スコアが前記許容値よりも高い場合、成功した同定(G)からなる最終結果が供給され、前記所属スコア前記所定の許容値よりも低い場合に、前記未知の試料のスペクトル(C)の第2取得工程が要求され、そして、1つ以上の処理工程(D)および1つ以上の分析工程(E)の結果に基づいて、成功した同定(H)が供給されるか、または前記未知の試料のスペクトル(C)の第3取得工程が要求され、1つ以上の処理工程(D)および1つ以上の分析工程(E)の結果に基づいて、失敗した同定(J)または成功した同定(I)を含、前記方法の最終結果が提供される1つ以上の制御工程(F)。
【請求項2】
前記制御工程(F)が、前記比較サブ工程の各々において、前記未知の試料が所属する少なくとも1つの分類群が同定されたことを検証することを提供し、少なくとも1つの分類群が、前記所定の許容値よりも高い所属スコアを有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複数の予め計算されたモデルを作成する前記工程(A4)が、主成分の分析を行い、続いて、主成分の線形判別の分析(PCA-LDA)を行うことを提供する組合せ統計的方法を使用することを提供することを特徴とする、請求項1から2のいずれか一項に記載の方法、次いで、これらの予め計算されたモデルが、前記未知の試料を分析する工程(E)において前記カテゴリおよび/または分類群を予測するために適用される。
【請求項4】
前記未知の試料および/または前記既知の試料が、生物学的流体および/または複合マトリックスの存在下または非存在下で、いかなるものであれ任意の好適な培養培地を使用して増殖されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記未知の試料および/または前記既知の試料が、増殖期に供されていない天然試料から直接得られた試料であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記分析工程(E)が、ニューラルネットワークに基づく方法を使用することを提供することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(C、A2)が、試料の非存在下および存在下の両方で連続取得モードを提供し、前記連続モードが、スペクトルの標準化された取得に備えて、器械の洗浄動作と、スペクトルパラメータの客観的評価とをそれぞれ支援することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記スペクトルパラメータが、信号強度、信号対雑音比、スペクトル形状、最適な乾燥レベルであることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
放射線(17)の供給源(13)、検出器(14)、分析される試料が配置される、画定された取得ゾーン(18)を備える、振動プロファイルを検出する装置と、処理システムおよびデータ表示システムが設置されている、前記検出装置に結合された固定型または携帯型の電子装置(15)と、を備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の試料中の微生物を同定する方法を行う機器において、前記電子装置(15)には、比較的広い分類群から比較的小さい分類群まで階層的に組織化された微生物の分類群に関連付けられた予め計算されたモデルが保存され、各予め計算されたモデルが、微生物の分類群に関連付けられた同定スペクトル特性を含み、したがって、結果を得るために必要な計算動作を行うためにインターネットに接続する必要がないことを特徴とする機器。
【請求項10】
データを収集し、データベースに関してそれらを分析するために使用されるコンピュータプログラムまたはソフトウェアであって、電子装置によって読み取り可能な媒体に保存可能であり、微生物の分類および同定のために分析機器によって実行されると、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法の実行を決定する命令を含むコンピュータプログラムまたはソフトウェア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、統計的技術、例えば、スペクトルプロファイルの多変量解析のための方法、または代替的にニューラルネットワークなどを使用して、従来の方法と比較して極めて短時間で微生物の増殖に関する指標を同定および取得する、医療分野、臨床分野、獣医学分野、農業分野および食品分野、ならびに環境分野に適用可能な、微生物を同定する方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、未知の試料の振動スペクトルのスペクトルプロファイルの分析、およびスペクトルプロファイルと以前に収集されデータベースに記憶された試料のスペクトルとの比較によって微生物を同定する分析器械を提供する。
【背景技術】
【0003】
微生物を同定するために振動分光法技術を使用することが知られている。
【0004】
例えば、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)は、非破壊分析技術であり、分析された試料の化学組成に関する情報を得ることを可能にする。1990年代の初めから、この技術は生体試料の分析に使用されてきた(Diem M.et al.,The Analyst[27Aug2004,129(10):880-885])。
【0005】
同時に、未知の微生物を同定および分類するFTIR技術の能力が示された(Helm D.et al.,Journal of General Microbiology(1991,137,69-79)およびMarley L.et al.,Vibrational Spectroscopy26,2,2001,151-159)。
【0006】
微生物の異なる種、亜種または亜分類は、タンパク質、脂質、核酸および多糖に関する正確な生化学組成を特徴とし、これは異なる振動スペクトルに反映されることが知られている(ed.Griffiths and Chalmers,2001 Handbook of vibrational spectroscopy,John Wiley&sons,New York,Volume5)。
【0007】
微生物学におけるFTIR技術によって示唆されるいくつかの潜在的な用途には、以下が含まれる:
(i)ヒトまたは獣医学分野、例えば臨床検査室における病原体の同定;
(ii)疫学的調査、試験の主題、病原体のスクリーニング、衛生チェック、感染鎖の解明、制御療法、および再発性感染の検出;
(iii)環境から得られた微生物の特性評価およびスクリーニング;
(iv)バイオテクノロジープロセスのモニタリング;
(v)食品産業または製薬産業における微生物学的品質管理;
(vi)採取した株の維持。
【0008】
未知の試料のスペクトルとデータベースに保存された既知の微生物種のスペクトルとの間の比較分析の技術に基づいて、微生物を同定する方法が知られている。
【0009】
この種類の公知の同定方法の例は、米国特許第5660998号明細書、中国特許第103217398号明細書、米国特許第6379920号明細書、国際公開第2006002537号パンフレット、米国特許第9551654号明細書、米国特許第20170167973号明細書、国際公開第2017/210783号パンフレット、Sousa et al.,European Journal of Clinical Microbiology&Infectious Diseases(2014)33:1345-1353、Whittaker et al.,Journal of Microbiological Methods55(2003)709-716、Wang et al.,International Journal of Food Microbiology167(2013)293-302といった文献に報告されている。
【0010】
別の方法は、本出願人名義の特許出願PCT/イタリア特許第2019/050025号明細書に記載されている。
【0011】
ただし、公知の方法の多くでは、スペクトル取得は、透過モード、反射モードまたはイメージングモードで行われる。
【0012】
例えば、透過取得モードまたは反射取得モードは米国特許第5660998号明細書および米国特許第6379920号明細書に報告されており、イメージングモードは国際公開第2006002537号パンフレット、米国特許第9551654号明細書、米国特許第20170167973号明細書に採用されている。
【0013】
これらの方法は、得られる信号が試料の厚さおよび形態に直接依存し、これにより、厚すぎて飽和を生じる、または不均一であり散乱による歪みを生じる可能性があるという事実に関連する欠点を有する。
【0014】
イメージング手法、例えばマルチピクセルに基づく方法は、単一点検出器と比較して、1ピクセル当たりに得られる信号/ノイズ比が低いため、個々のスペクトルの分解能に制限がある場合があることも知られている。
【0015】
先行技術の別の欠点は、多くの場合、スペクトルが、微生物の特有の信号を隠す、水または他の汚染物質の存在に起因する信号を提示し得ることである。
【0016】
例えば中国特許第103217398号明細書などのいくつかの場合では、乾燥手順が採用されているが、国際公開第2017/210783号パンフレットに報告されているように、これらの手順は微生物に損傷を与え不可逆的な影響を及ぼし、それらのスペクトルを変化させる可能性がある。
【0017】
場合によっては、例えば国際公開第2017/210783号パンフレットのように、スペクトル中に存在する水成分を除去するために複数回の取得に頼ることが可能である。ただし、この解決策は、スペクトルを比較するための分析手順の分析時間が増大すること、および複雑性が高くなることに関連する欠点を有する。
【0018】
先行技術の別の欠点は、多くの場合、参照データベースに含まれる微生物種の数は限られているため、広範囲の存在し得る種を網羅しないことである。
【0019】
例として、中国特許第103217398号明細書に報告されているデータベースおよび関連する同定方法は、13の細菌種に言及している。
【0020】
また、参照データベースのサイズが大きくなるのに伴って、微生物の種を培養し増殖させる手順、スペクトルを取得する手順、および比較分析手順に関する一連の問題が生じている。
【0021】
例えば、データベースのサイズが大きくなるにつれて、未知の試料のスペクトルをデータベースに含まれる多数のスペクトルと比較しなければならないことを考慮すると、未知の試料の分析時間も長くなる。
【0022】
さらに、同じ種の微生物が、スペクトル特性に大きな変動性を有し、それらとデータベースに含まれるスペクトルとを比較することを困難にする可能性がある。
【0023】
この変動性は、各種に対する異なる株の存在、または培養培地の化学組成および/または増殖条件の起こり得る変動に起因する同じ種の異なる培養物間の差によるものであり得る。
【0024】
したがって、参照データベースの変動性が大きい微生物の多数の分類(例えば、分類学的カテゴリまたは表現型群もしくは遺伝子型群)に対して機能することができる、微生物を同定するための新しい方法を開発する必要がある。
【0025】
以上のことから、本発明の1つの目的は、未知の微生物の試料が上記の1つ以上のカテゴリおよび/または群に所属するかどうかを決定することができる同定方法を提案することである。
【0026】
本発明の別の目的は、生物学的流体および/または複合マトリックスの存在下または非存在下で、異なる培地上の異なる培養物中で、または異なる環境条件で場合により増殖させた微生物の同じ種、亜種または亜分類の異なる株を区別することができる、微生物を同定する方法を提案することである。
【0027】
本発明の別の目的は、大規模データベースの場合であっても、正確であり、個々の分析ごとに要する時間が迅速であり、高い計算能力を必要としない、微生物を同定する方法を提供することである。
【0028】
本発明の別の目的は、分析の様々な工程、および器械構成要素をいずれも統合して、微生物を同定する方法を簡単な方法で実施することができる機器を提供することである。
【0029】
本発明の別の目的は、リモートデータ処理、および結果の必然的な達成のために連続的または部分的なインターネット接続を必要としない機器および方法を提供することである。
【0030】
本出願人は、先行技術の欠点を克服し、これらおよび他の目的および利点を得るために、本発明を考案し、試験し、具現化した。
【発明の概要】
【0031】
本発明は、独立請求項に記載され、独立請求項を特徴とする。従属請求項は、本発明の他の特徴、または本発明の主要な着想に対する変形例を記載する。
【0032】
本発明は、微生物を同定する方法、特に、未知の試料中に存在する微生物の同定を可能にする方法であって、上記未知の試料の振動スペクトルと、データベースに以前にアーカイブされている既知の試料の参照振動スペクトルから作成された予め計算されたモデルとを比較することを含む方法に関する。
【0033】
本発明による、微生物を同定する方法は、以下の工程を含む:
・既知の微生物の試料の参照スペクトルのデータベースを作成する工程;
・比較的広いカテゴリおよび/または分類群から比較的小さいカテゴリおよび/または分類群まで階層的に組織化された微生物のカテゴリおよび/または分類群に関連付けられた複数の予め計算されたモデルを作成する1つ以上の工程であって、各予め計算されたモデルが、微生物のカテゴリおよび/または分類群に関連付けられた同定スペクトル特性を含む1つ以上の工程;
・未知の試料をサンプリングする1つの工程;
・未知の試料のスペクトルを取得する1つ以上の工程;
・未知の試料のスペクトルを処理する1つ以上の工程;
・未知の試料のスペクトルと、上記予め計算されたモデルとを比較する複数のサブ工程を連続して行うことをそれぞれ提供する1つ以上の分析工程であって、各サブ工程が、多変量解析方法を用いて、未知の試料のスペクトルと、漸進的に小さくなるカテゴリおよび/または分類群の予め計算されたモデルとを比較して、微生物のカテゴリおよび/または分類群に未知の試料が所属することを示す少なくともスコアを提供する1つ以上の分析工程。
・信頼性パラメータが所定の許容値よりも低い場合に未知の試料のスペクトルの新しい取得工程が要求されるか、失敗した同定または成功した同定を含み得る、方法の最終結果が提供される1つ以上の制御工程。
【0034】
いくつかの実施形態では、既知の微生物試料に関連付けられた参照スペクトルのデータベースを作成する工程は、各既知の試料について、以下の工程を提供する:
・生物学的流体および/または複合マトリックスの存在下または非存在下で固体媒体または液体媒体上での増殖から場合により得られる既知の試料をサンプリングする工程;
・既知の試料のスペクトルを取得する1つ以上の工程;
・既知の試料のスペクトルを処理する1つ以上の工程。
【0035】
未知の試料および/または既知の試料は、方法の第1の実施形態では、場合により生物学的流体および/または複合マトリックスの存在下または非存在下で、いかなるものであれ任意の好適な培地、例えば、固体または液体を使用した増殖から得られた試料であり得る。
【0036】
別の実施形態では、未知の試料および/または既知の試料は、増殖期に供されることなく、天然試料から直接得ることができる。
【0037】
いくつかの実施形態では、データベースを作成する工程は、データベースを作成するために1回だけ行うことができ、次いで、データベースを未知の試料の各その後の分析に使用することができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、データベースを作成する工程とはまた、微生物の新しいカテゴリおよび/または分類群を含み、したがって、方法の適用可能性の範囲を拡大することが望まれる際にはいつでも行われるデータベース更新を指し得る。
【0039】
同様に、予め計算されたモデルは、作成されると、未知の試料のその後の分析ごとに使用され得るか、微生物の新しいカテゴリおよび/または分類群を追加することが望まれるたびに更新され得る。
【0040】
本発明によれば、スペクトルは、例えば振動分光光度計など、直接的または間接的に赤外線放射の吸収を検出することができる機器によって取得される。
【0041】
いくつかの実施形態では、本発明は、試料の非存在下および存在下の両方で連続信号取得モードを使用することができ、連続モードは、スペクトルの取得に備えて、器械の洗浄動作と、スペクトルパラメータ(例えば、信号強度、信号対雑音比、スペクトル形状、最適な乾燥レベル)の客観的評価とをそれぞれ支援する。
【0042】
有利には、本発明によれば、上記のようなスペクトルパラメータのモニタリングが提供され、これにより、得られたスペクトルの品質を標準化し、プロセスがオペレータによる主観的評価から独立することが可能になる。
【0043】
したがって、このモードによって取得されるスペクトルは、実質的に同じレベルの強度および乾燥を有し、したがって互いに比較的同等である試料を指す。
【0044】
いくつかの実施形態では、本発明は、分類群の最上位同定スペクトル特性を自動的に同定するアルゴリズムを使用することを提供する。
【0045】
この特性により、分析工程に必要な時間を大幅に短縮することができ、時間を加速し、同定の精度を高めることができる。
【0046】
有利には、先行技術の方法に関して、階層的に組織化された微生物の分類群と関連付けられた複数の予め計算されたモデルを連続的に使用すると、未知の試料の同定に必要な計算能力が低減され、したがって、データ処理のために分散コンピューティングシステムまたはリモートコンピューティングシステムを使用する場合に必要なインターネット接続の使用を必要としないことが可能になる。
【0047】
これらの特性は、データベースのサイズを大きくすることを可能にし、場合により生物学的流体および/または複合マトリックスの存在下で、異なる培地上の異なる培養物中で、または異なる環境条件で場合により増殖させた同じ種、亜種または亜科の異なる株の異なる微生物の多くの種、亜種、分類または亜分類を同定することを可能にする。
【0048】
本発明はまた、本明細書に記載の微生物を同定する方法を行うための機器であって、放射線の供給源、検出器、分析される試料が配置される、画定された取得ゾーンを備える、振動プロファイルを検出する装置と、処理システムおよびデータ表示システムが設置されている、検出装置に結合された固定型または携帯型の電子装置とを備える機器に関する。
【0049】
いくつかの実施形態では、比較的広い分類群から比較的小さい分類群まで階層的に組織化された微生物の分類群に関連付けられた予め計算されたモデルは、電子装置に保存され、各予め計算されたモデルは、微生物のカテゴリおよび/または分類群に関連付けられた同定スペクトル特性を含む。
【0050】
本開示のこれらおよび他の態様、特性および利点は、以下の説明、図面および添付の特許請求の範囲を参照して理解されるであろう。図面は、説明の不可欠な部分であり、本発明のいくつかの実施形態を示し、説明とともに、本開示の原理を説明することを提案する。
【0051】
本発明は、以下の図面を用いてさらによく説明され、示される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1図1は、本発明の方法による可能な機器の概略図である。
図2図2は、本発明の方法の一実施形態の工程を例として示すブロック図を示す。
図3図3aおよび図3bは、FTIR-ATR技術を使用して収集された実験データを示し、ここで、図3aは、収集された生データを示し、各種は異なる色によって表されており、図3bは、変換されたデータを示す。
図4図4aおよび図4bは、それぞれ、工程Eによって得られた未知の試料の分類のためのサブ工程のグラフィック表現と、同定の信頼性について工程Fによって生成されたスコアを割り当てるための対応する表とを示す。
図5図5は、本明細書に記載の実施形態による方法と、データベースのスペクトルとの交差検証による検証によって得られ、「属」カテゴリによる微生物の分類を評価するために使用される混同行列である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
理解を容易にするために、可能であれば、図面の同一の共通要素を識別するために同じ参照番号が使用されている。一実施形態の要素および特性は、さらに明確化することなく他の実施形態に都合よく組み込むことができることが理解される。
【0054】
ここで、本発明の様々な実施形態を詳細に参照し、その1つ以上の例を添付の図面に示す。各例は、本発明の例示として提供されており、その限定として理解されるべきではない。例えば、一実施形態の一部であるという理由で示されるか記載される特性が、他の実施形態に対して、または他の実施形態に関連して採用されて、別の実施形態を生じさせ得る。本発明は、すべてのそのような修正および変形例を含むものとすることが理解される。
【0055】
これらの実施形態を説明する前に、添付の図面を使用して以下の説明に記載されるような構成要素の構成および配置の詳細に本説明がその適用において限定されないことも明確にしなければならない。本明細書は、他の実施形態を提供することができ、様々な他の方法で取得または実行することができる。また、本明細書中で使用される表現および用語は、説明のみを目的としており、限定的とみなすことはできないことを明確にしなければならない。
【0056】
別途定義されない限り、本明細書において以後、使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の通常の経験を有する者によって一般的に理解される同じ意味を有する。
【0057】
本開示を検証するために、本明細書に記載されるものと類似または同等の方法および材料を実際にまたは試験で使用することができるが、方法および材料を例として以下に説明する。矛盾する場合は、定義を含む本出願が優先するものとする。材料、方法および例は、純粋に例示的なものであり、限定的に理解されてはならない。
【0058】
本明細書において以後、試料とは、分析目的のためだけでなく、例えば微生物などの微生物生物を含有する、いかなるものであれ任意の物質の最小量を意味する。
【0059】
場合によっては、必要に応じて、微生物の組成がそれぞれ未知または既知である場合に、未知の試料または既知の試料が特定される。
【0060】
いくつかの実施形態では、微生物は、医学的、臨床的、獣医学的、農業および食品、環境的に関心のあるものであり得る。
【0061】
図1は、本発明による、微生物を同定するための機器10を概略的に示す。
【0062】
いくつかの実施形態では、赤外線放射の吸収の直接的または間接的な検出のために、機器は、例えば、以下のような装置を使用する:
・場合によりフーリエ変換赤外で動作する赤外IR分光光度計
・ラマン分光計、
・光熱分光計(photothermal spectrometer)
・光音響分光計
・上記列挙の器械のうちの1つと、信号上昇のためのものではない共鳴技術、例えば、共鳴ラマン分光法、表面増強分光法、表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強赤外吸収(SEIRA)、共鳴表面増強赤外吸収(共鳴SEIRA)、Tip増強ラマン分光法(Tip-enhanced Raman spectroscopy)(TERS)との組合せ。
【0063】
本発明の適用可能性は、実際には、未知の試料の振動プロファイルを取得するために使用される技術の種類によって限定されず、本明細書に記載の方法および機器は、いかなるものであれ、任意の種類の振動スペクトルに関連して使用することができる。
【0064】
例として、この機器は、例えばATR(減衰全反射)など、試料の振動スペクトルの取得の任意のモードを使用することができ、したがってFTIR-ATR分光光度計であり得るFTIR型振動分光法用の分光光度計を備える(図1)。
【0065】
分光光度計は、処理システムおよびデータ表示システムと結合され得る。
【0066】
処理システムおよび表示システムは、例えば、単一の処理および表示システムに統合され得、および/または、例えば、画面を備えたパーソナルコンピュータ、またはポータブル装置、例えば、携帯電話もしくはタブレットなどの電子装置15に含まれ得る。
【0067】
いくつかの実施形態では、処理システムは、電子装置15によって読み取り可能な媒体に記憶され得、機器10によって都度実行され得る命令を含むコンピュータプログラムを備える。
【0068】
以下、説明を簡単にするために、電子装置15を参照して、機器10を管理することができ、データを処理および表示することができるソフトウェアおよびハードウェアシステムのセットを示す。
【0069】
分光光度計は、それ自体その主要構成要素において知られており、放射線17の供給源13と、検出器14とを少なくとも備える。
【0070】
簡単にするために、分光光度計の他の構成要素、例えば、モノクロメータ、チョッパ、干渉計は、図1には示されていない。
【0071】
供給源13は、試料中に存在する分子を励起するのに適した任意の種類の放射線17を放出することができ、例えば、IR、FTIRまたはFTIR-ATR分光光度計の場合、赤外線放射17の供給源であり得る。
【0072】
いくつかの実施形態では、供給源13は、Globar型の黒体源、または量子カスケードレーザ(QCL)、または赤外領域に発光を有する一般的なレーザであり得る。
【0073】
いくつかの実施形態では、例えば、分光光度計がラマン技術に基づく場合、供給源13は、使用される特定の種類のラマン技術に基づいて、場合により赤外領域に関連する周波数以上を有する単色光のレーザ源13であり得る。
【0074】
いくつかの実施形態では、供給源13によって放出された放射線17、すなわち入射放射線17aは、場合により反射要素16によって、取得ゾーン18に配置された試料に向かって導かれ得る。
【0075】
ATRモードが使用される実施形態では、入射放射線17aは、反射要素16によって導かれて内部反射要素をもたらすことができる。
【0076】
いくつかの実施形態では、内部反射要素は、例えば、結晶12であり得る。
【0077】
いくつかの実施形態では、結晶12は、高い屈折率を有する結晶12であり得る。
【0078】
いくつかの実施形態では、結晶12は、ダイヤモンド、ZnSe、ケイ素またはゲルマニウムの結晶12であり得る。
【0079】
有利には、結晶12がダイヤモンド結晶12である場合、それは、ZnSe、ケイ素またはゲルマニウムよりも耐久性があり、同等の測定で使用され、比較的大きな透明度範囲を有するという利点を有する。
【0080】
結晶12内の放射線17の反射は、結晶12の表面にエバネッセント場を生じさせ、その上に取得ゾーン18が画定され得る。
【0081】
このエバネッセント場は、場合に応じて、試料内部の数ミクロンまで達することができる深さの範囲にわたって貫通することができる。
【0082】
特に、深さのこの範囲は、入射角、および入射放射線17aの波長、ならびに結晶12に使用される材料の屈折率の関数であり、したがって、分析されるあらゆる試料について実質的に一定であると考えることができる。
【0083】
このため、有利には、ATRモードは、試料を通る放射線の光路とは無関係に、したがって試料の厚さとは無関係にスペクトルを取得し、透過率または反射率を使用する手法と比較して高い再現性を保証することを可能にする。
【0084】
さらに、このモードは、スペクトルの品質に悪影響を及ぼし得る散乱および/または信号飽和の現象を制限または防止することを可能にする。
【0085】
したがって、このモードは、測定の比較的大きな再現性と、試料の比較的簡単な調製とを保証する。
【0086】
試料との相互作用後の出口における放射線17、すなわち、出射放射線17bは、次いで、反射要素16によって検出器14に導かれる。
【0087】
いくつかの実施形態では、検出器14は、DLaTGS検出器(重水素化L-アラニンドープ硫酸トリグリシン)であり得る。
【0088】
代替的な実施形態では、検出器14は、DTGS検出器であり得る。代替的な実施形態では、検出器14は、単一の、またはアレイ状に配置されたMCT(テルル化カドミウム水銀)検出器であり得る。
【0089】
代替的な実施形態では、検出器14は、CCD検出器であり得る。
【0090】
代替的な実施形態では、検出器は、単一の、またはアレイ状に配置されたボロメータまたはマイクロボロメータであり得る。
【0091】
例として、検出器14は、出射放射線17bに含まれる光学情報を電気信号に変換し、電気信号は電子装置15に送信される。
【0092】
いくつかの実施形態では、機器は、領域NIR(近赤外)および/またはMIR(中赤外)および/またはFIR(遠赤外)のスペクトルを取得するように配置される。
【0093】
いくつかの実施形態では、機器10は、連続取得モードで動作し、すなわち、取得ゾーン18内で都度取得されるものをリアルタイムで電子装置15の画面に表示することができる。
【0094】
本発明はまた、図2に概略的に示され、以下の工程を含む、振動プロファイルを評価することによって試料中の微生物を同定する方法に関する:
・以下の工程を含む、既知の微生物の既知の試料の参照スペクトルのデータベースを作成する工程A:
・既知の試料をサンプリングする1つ以上の工程A1;
・既知の試料のスペクトルを取得する1つ以上の工程A2;
・既知の試料のスペクトルを処理して、各カテゴリおよび/または分類群の同定スペクトル特性の存在を評価するためのスペクトル領域を少なくとも同定する、場合により自動化された1つ以上の工程A3。
・比較的広いカテゴリおよび/または分類群から比較的小さいカテゴリおよび/または分類群まで階層的に組織化された微生物のカテゴリおよび/または分類群に関連付けられた複数の予め計算されたモデルを作成する1つ以上の工程A4であって、各予め計算されたモデルが、微生物のカテゴリおよび/または分類群に関連付けられた同定スペクトル特性を含む1つ以上の工程A4;
・未知の試料をサンプリングする工程B;
・未知の試料のスペクトルを取得する1つ以上の工程C;
・工程A3で定義されたものに基づいて、未知の試料のスペクトルを処理する1つ以上の工程D
・未知の試料のスペクトルと上記予め計算されたモデルとを比較する複数のサブ工程を連続して行うことをそれぞれ提供する1つ以上の分析工程Eであって、各サブ工程が、多変量解析方法によって、未知の試料のスペクトルと、漸進的に小さくなるカテゴリおよび/または分類群の予め計算されたモデルとを比較して、微生物の上記カテゴリおよび/または分類群への未知の試料の所属を示す少なくともスコアを提供する1つ以上の分析工程E。
・上記信頼性パラメータが所定の許容値よりも低い場合に未知の試料のスペクトルの新しい取得工程Cが要求されるか、失敗した同定Jまたは成功した同定G、H、Iを含み得る、方法の最終結果が提供される1つ以上の制御工程F。
【0095】
いくつかの実施形態では、上記工程A1、A2、A3は、新しい既知の試料をデータベースに挿入することが望まれる際にはいつでも繰り返され得る。
【0096】
いくつかの実施形態では、サンプリング工程B、A1において、試料は、微生物に栄養物質を加える予備手順に供され得る。
【0097】
いくつかの実施形態では、試料を固体培養培地上で増殖させることができる。
【0098】
いくつかの実施形態では、試料をペトリ皿上で増殖させることができる。
【0099】
いくつかの実施形態では、試料を液体培養培地上で増殖させ、次いで、遠心分離し、濃縮ペレットを得ることができる。
【0100】
いくつかの実施形態では、試料を液体培養培地または液体増殖ブロス上で増殖させ、次いで、濾過することができる。
【0101】
いくつかの実施形態では、試料を液体培養培地または液体増殖ブロス上で増殖させることができるか、濃縮手順または富化手順に供して、存在する微生物の濃度を増加させることができる。
【0102】
他の実施形態では、分析中の試料は、増殖期を経ることなく天然試料から直接得ることができる。
【0103】
いくつかの実施形態では、試料は、ヒト、動物、環境、農業および食品起源の生物学的流体および/または複合マトリックスを場合により含有することができる。いくつかの実施形態では、スペクトル取得工程C、A2は、例えば、図1に示す取得ゾーン18の、試料と接触している装置の表面を洗浄する予備工程を提供することができる。
【0104】
いくつかの実施形態では、例えば、連続取得モードによってバックグラウンドスペクトルを取得して、例えば、取得ゾーン18に堆積した不純物に関連する吸収バンドの消失を観察することによって、そのような洗浄の効果を検証することが可能である。
【0105】
いくつかの実施形態では、スペクトル取得工程C、A2はまた、試料の分析物が採取され、場合により分光光度計の結晶12上に配置された取得ゾーン18上に堆積されることを提供する。
【0106】
いくつかの実施形態では、分析物は、例えば、使い捨てロッドによってそれを取り出し、堆積させることによって、取得ゾーン18上に固体形態で堆積される。
【0107】
いくつかの実施形態では、例えば、ダイナモメトリックプレス(dynamometric press)を使用することによって、分析物を取得ゾーン18に押し付けることができる。
【0108】
いくつかの実施形態では、スペクトルの取得に備えて、試料の乾燥レベルと、スペクトルパラメータ(例えば、信号強度、信号対雑音比、スペクトル形状)とが、分光学的にモニタリングされる。
【0109】
いくつかの実施形態では、連続取得モードで、機器を出る含水量を評価し、それぞれの波数範囲の水のスペクトル特性に関連する吸収バンドの起こり得る完全消失までの減少をモニタリングすることが可能である。
【0110】
本発明によれば、試料のスペクトルは、所定の標準レベルの乾燥およびスペクトルパラメータに達した際に取得される。
【0111】
有利には、この特性は、微生物の特有の信号を隠すか、それに干渉する水の存在に起因する信号をスペクトルが有し得るという先行技術の問題を克服または少なくとも制限することを可能にする。
【0112】
スペクトル取得工程C、A2はまた、試料から採取された分析物のスペクトルが記録されることを提供する。
【0113】
いくつかの実施形態では、スペクトル記録は、所定数の連続したスペクトルを取得することを提供し、その後、所定数の連続したスペクトルは、信号対雑音比を改善するために平均化される。
【0114】
いくつかの実施形態では、各分析物について8~512、好ましくは各分析物について32~256、さらになお好ましくは各分析物について64~128の範囲に含まれるいくつかのスペクトルが取得され、平均化され得る。
【0115】
スペクトル、またはスペクトルの平均を処理する工程D、A3は、以下を提供することができる:
・各カテゴリおよび/または分類群を同定するスペクトル特性の存在を評価するためのスペクトル領域の場合により自動化された同定;
・スペクトルプロファイルの線形および/または非線形補間、および/またはフィッティングアルゴリズムを使用すること;
・スペクトルプロファイルの一次および/または二次導関数を計算すること;
・スペクトル範囲全体にわたってベクトル正規化アルゴリズムを使用して導関数を正規化すること。例として、図3aは、異なる試料について収集され得るスペクトルを示し、図3bは、処理されたスペクトルを示す。
【0116】
いくつかの既知の試料について工程A1、A2、A3を繰り返すことによって、既知の微生物の参照スペクトルのデータベースを作成することができる。
【0117】
ただし、本方法のいくつかの実施形態では、データベースが他の方法を使用して得られた既知の微生物のスペクトルを含み得ることも提供される。
【0118】
いくつかの実施形態では、データベースは、既知の微生物の異なる分類群に所属する単一微生物培養物に関するスペクトルを含む。
【0119】
いくつかの実施形態では、データベースは、各カテゴリおよび/または分類群について既知の微生物の異なる株に関するスペクトルを含む。
【0120】
いくつかの実施形態では、データベースは、限定されることなく、寒天、CNA寒天、CLED寒天、血液寒天、発色寒天、サブロー寒天などの培養培地上で増殖させた試料に関するスペクトルを含む。
【0121】
いくつかの実施形態では、データベースは、液相増殖ブロス中で増殖させた試料に関するスペクトルを含み、液相増殖ブロス中で増殖させた試料は、次いで、ペレットまたは濃縮試料を得るために、遠心分離されるか、濾過されるか、富化される。
【0122】
いくつかの実施形態では、データベースは、増殖期を用いず得られた、すなわち、天然試料から得られた、いかなるものであれ任意の物質または材料から直接得られた試料に関するスペクトルを含む。
【0123】
有利には、液体ブロス中での増殖、およびその後のペレット化または濾過または富化から得られたスペクトルの測定は、生物学的流体、例えば、体液および/または複合マトリックスの存在下で直接スペクトルを同定することを可能にする。
【0124】
データベースに含まれるスペクトルのこの不均一性および変動性は、一般的な分析を行うことを可能にし、これにより、異なる培養培地上での増殖に由来する効果も含めて、微生物を同定することが可能になる。
【0125】
各スペクトルの複数回の取得が使用される実施形態では、繰り返された個々のスペクトルおよび/または繰返しを用いて計算された平均スペクトルをデータベースに挿入することができる。
【0126】
工程A4は、データベースに含まれるスペクトルから開始して、予め計算されたモデル、すなわち、階層的に組織化された微生物の分類群と関連付けられた同定スペクトル特性を含む参照ライブラリを作成することを提供する。
【0127】
いくつかの実施形態では、予め計算されたモデルは、機器10の電子装置15に保存され得る。
【0128】
いくつかの実施形態では、同定スペクトル特性は、例えば、ピークの形状、サイズ、強度および面積、強度間または異なるピークの面積間の相関および比、ピークの最大値の頻度を含むことができる。
【0129】
いくつかの実施形態では、同定スペクトル特性は、図3aおよび図3bに例として示されている、950~1280cm-1(核酸、炭水化物および多糖に関連付けられる)、1280~1480cm-1(デンプンに関連付けられる、例えば、タンパク質、メチルおよびメチレンの、例えば、脂質の)、1700~1800cm-1(カルボニル基に関連付けられる、例えば、脂質の)、2800~3000cm-1(脂肪族鎖に関連付けられる、例えば、脂質の)のスペクトルゾーンのスペクトルプロファイルを含むことができる。
【0130】
いくつかの実施形態では、分類群は、分類学的カテゴリ、例えば、ドメイン、界、門、綱、目、科、族、属、種、亜種などを含むことができる。
【0131】
いくつかの実施形態では、分類群は、例えば、原核生物、真核生物、古細菌、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、酵母、糸状菌であり得る。
【0132】
さらなる実施形態では、分類群は、例えば、分類学的カテゴリおよび/または表現型群および/または遺伝子型群であり得る。
【0133】
いくつかの実施形態では、分類群は、比較的広い分類群から比較的小さい分類群まで階層的に組織化され得、その結果、比較的広い分類群は、比較的小さい分類群のセットを含み、例えば、微生物の1つの属は、異なる種を含むことができ、微生物の1つの種は、いくつかの亜種を含むことができる。
【0134】
いくつかの実施形態では、予め計算されたモデルは、各カテゴリおよび/または分類群に関連する同定スペクトル特性のリストを含むことができる。
【0135】
次いで、工程A4では、微生物の分類群に共通の同定スペクトル特性を同定するために、データベースに含まれるスペクトルが比較される。
【0136】
いくつかの実施形態では、分類群に関連付けられた同定スペクトル特性を同定するための自動認識システムが提供され得る。
【0137】
いくつかの実施形態では、分類群に関連付けられた同定スペクトル特性は、以下に記載される統計分析技術、および/またはニューラルネットワークおよび/または人工学習に基づく手法によって同定され得る。
【0138】
したがって、いくつかの実施形態では、分類群に基づいて、任意の数の予め計算されたモデルが作成され得る。
【0139】
このように、分析工程Eでは、未知の試料のスペクトルがモデルと比較されるたびに、この比較は、スペクトル範囲全体および/またはあらゆるスペクトル特性に対してではなく、スペクトル間隔においておよび/または最も関心の高いスペクトル特性に関してのみ行われ得る。
【0140】
例えば、スペクトル範囲全体にわたって、1cm-1の分解能で取得された未知の試料のスペクトルと、例えば、同じ分解能で取得された18000個の参照スペクトルを含むデータベースとを比較したい場合、この比較は、先行技術の方法を使用すると、6500万個のポイントの評価を必要とする。
【0141】
本出願人は、本発明による予め計算されたモデルを使用することによって、この比較に要するのは、先行技術の方法の20~80分の1のポイントの数の評価とすることができることを見出した。
【0142】
したがって、予め計算されたモデルを使用すると、必要な計算能力を相関的に低減することが可能になるため、大規模データベースが存在する場合であっても、リモートデータ分析および/または分散コンピューティングの必要性が排除される。
【0143】
そのため、この特性は、多数の分類群を含むようにデータベースのサイズを大幅に増大し、ひいては、本発明の方法の予測能力および同定能力を改善および拡張することを可能にする。
【0144】
この特性はまた、高分解能であってもスペクトルを扱うことを可能にし、方法の精度および正確性を向上させる。
【0145】
さらに、例えば、リストの存在により、あらゆるスペクトルの波数の範囲全体に対して、最小二乗法の使用を不要とすることができ、および/または場合により二乗平均平方根(average square)の計算を除くことができる。
【0146】
いくつかの実施形態では、分析工程Eは、未知の試料のスペクトルが予め計算されたモデルと比較される複数の比較サブ工程を連続して提供する。
【0147】
特に、各サブ工程は、未知の試料のスペクトルと漸進的に小さくなる分類群の予め計算されたモデルとを比較し、微生物の微生物分類群への未知の試料の所属を示す少なくともいくつかのスコアを提供する。
【0148】
本発明のいくつかの実施形態では、多変量解析の統計的および/または計量化学的方法、例えば、主成分分析(PCA)、もしくは線形判別分析(LDA)、線形部分最小二乗判別分析(LDPLS)、二次判別分析(QD)、階層的クラスタ分析(HCA)、ランダムフォレスト、または明示的に言及されていないこれらおよび他の技術のいかなるものであれ任意の組合せなどを比較に使用することができる。
【0149】
いくつかの実施形態では、ニューラルネットワークに基づく手法を実施する方法、技術またはアルゴリズムを上記比較に使用することができる。
【0150】
いくつかの実施形態では、人工学習(機械学習)に基づく手法を実施する方法、技術またはアルゴリズムを上記比較に使用することができる。
【0151】
本発明のいくつかの実施形態では、上記比較は、スペクトルおよびモデルの一次導関数および/または二次導関数を比較することも提供することができる。
【0152】
いくつかの実施形態では、統計的重みを使用して、スペクトルの異なる領域を異なる方法で重み付けすることが可能である。
【0153】
本発明のいくつかの実施形態では、スペクトルとモデルとの間の比較は、例えば、最小二乗に基づく方法を使用して、スペクトルとモデルとの間の距離の定義によって行われ得る。
【0154】
いくつかの実施形態では、距離は、統計学的および/または計量化学的分析を行うための測定尺度として使用され得る。
【0155】
いくつかの実施形態では、スペクトル間のばらつきをPCAおよび/またはLDA分析に使用することができる。
【0156】
いくつかの実施形態では、PCAを行い、続いてLDAによる主成分の線形判別の分析を行うことを提供する組合せ統計的方法を使用することができる。
【0157】
これらの実施形態では、PCAの結果をその後のLDA分析に供すると、PCAによって得られたクラスタの分離が強調され、互いに非常に類似したスペクトル特性を有する種を同定することも可能になる。
【0158】
いくつかの実施形態では、比較サブ工程は、最初に未知のスペクトルと比較的広い分類群の予め計算されたモデルとを比較して、未知の試料が所属する比較的広いカテゴリおよび/または分類群を同定することを提供することができる。その後、未知のスペクトルが漸進的に小さくなる分類群の予め計算されたモデルと比較されて、未知の試料が所属する漸進的に小さくなる分類群を同定する。
【0159】
有利には、この特性は、他の公知の方法に関して、スペクトルのタイプ間で比較的少ない数の比較を行うことを可能にする。
【0160】
例えば、データベースが45の異なる種に関連付けられた45種類のスペクトルを含む場合、公知の先行技術の方法は、45種類の存在する種全部と比較することによって未知の試料を同定しようとする。
【0161】
一方、本発明の方法の実施形態では、45の種は、同様の特性を特徴とする比較的広い分類マクロ群(例えば、4つ)に従って分類され得る。
【0162】
各マクロ群は、例えば、3つの比較的小さい分類群を含み、この分類群それぞれは2つのさらに小さい分類サブ群を含み、後者は、例えば、異なる種または亜種に関連付けられる。
【0163】
この場合、3つのサブ工程が提供され得、第1のサブ工程では、第1の分類マクロ群が未知の試料に割り当てられ、第2のサブ工程では、第2の分類群が割り当てられ、第3のサブ工程では、第3の分類群が割り当てられる。
【0164】
有利には、この特性は、スペクトルを類似のマクロ群に分割することを可能にし、データ行列を単純化し、第1の工程の後に、例えば、特に類似の種または亜種を分割する特性を同定することがさらに容易な、複雑性が低いデータ行列を扱うことを可能にする。
【0165】
さらに、したがって、この特性は、公知の方法に関して、時間的にも計算リソースの消費に関しても、さらに高速でさらに効率的な方法を得ることを可能にする。
【0166】
いくつかの実施形態では、各比較サブ工程において、多変量解析技術は、未知のスペクトルが比較される分類群の各々への所属を示すスコアを提供する。
【0167】
所属スコアは、上記のような多変量解析技術から公知の方法で得ることができ、場合により正規化し、百分率として表すことができる。
【0168】
例えば、いくつかの実施形態では、所属スコアは、主成分間の線形判別と関連付けられ得る。
【0169】
いくつかの実施形態では、制御工程Fは、分析工程Eで行われた同定の信頼性を検証することを提供する。
【0170】
この制御は、例えば、各サブ工程において、未知の試料が所属する少なくとも1つの分類群が同定されたことを検証することによって行われ得、少なくとも1つの分類群は、所定の許容値よりも高い、例えば70%よりも高い所属スコアを有する。
【0171】
この場合、(図2のブロックG)、未知の試料は、比較的小さい分類群によって同定される。
【0172】
1つ以上の比較サブ工程で、所属スコアの1つが所定の許容値よりも低い場合、方法は、未知の試料から採取された第2の分析物に対して行われる第2の取得工程C、第2の処理工程Dおよび第2の分析工程Eを提供する。
【0173】
2つの分析工程Eが未知の試料を同じ分類群に割り当てる場合(図2のブロックH)、未知の試料は、2つの分析工程Eによって割り当てられた最小の分類群によって同定される。
【0174】
そうでなければ、第3の分析物を採取し、第3の取得工程C、第3の処理工程Dおよび第3の分析工程Eを行うことが提供される。
【0175】
第3の分析工程Eが、先の分析工程Eのうちの少なくとも1つの同じ分類群に未知の試料を割り当てる場合(図2のブロックI)、未知の試料は、一致する結果を有する2つの分析工程Eによって割り当てられた最小の分類群によって同定される。
【0176】
そうでなければ、非同定のメッセージが提供される(図2のブロックJ)。
【0177】
一実施形態は、データを収集し、データベースに関してそれらを分析するために使用されるコンピュータプログラムまたはソフトウェアを提供し、コンピュータプログラムまたはソフトウェアは、コンピュータ可読媒体に記憶され得、微生物の分類および同定のために分析機器によって実行されると、本明細書による方法の実行を決定する命令を含む。
【0178】
[実施例1]
図4aは、本発明による複数の予測モデルを適用することによって(工程E)、未知のスペクトルに対して行われて、続いて目的の様々なカテゴリを決定するプロセスフローを概略的に示す。未知のスペクトルは、既知のスペクトルのデータベース上の工程A1、A2、A3、A4で開発された複数の予測モデルと比較される。各モデルは、例えば、決定されているカテゴリについて可能なもののうちの特定の種類の属性に関して、PCA-LDA分析に基づく。特に、図4aの各パネルでは、各点は、PCA-LDA計算によって、既知の試料のデータベースに存在するスペクトルに割り当てられた座標に対応する(工程A4)。セットA、B、C内の各点は、決定されているカテゴリに所属する特定の種類を反映している。カテゴリ1に提供された様々な種類への所属が決定されるモデル1では、既知の試料のあらゆるスペクトルが、所属A、B、Cのそれぞれのセットに群分けされる(図4aの第1のパネル)。したがって、モデル1では、モデルによって定義された空間の特定の部分にそれぞれ関連付けられた3つの異なる種類が存在し得る。
【0179】
工程Eでは、未知のスペクトルごとに、モデルによって定義された空間内で取る空間座標が予測され、同じ空間内のその配置を評価することによって、当該カテゴリに関連する種類が決定される。例として、図4aの第1のパネルでは、モデル1の場合、その座標はタイプAに所属するモデルのスペクトルの座標に類似しており、したがって同じ種類が割り当てられていることが分かる。
【0180】
最も広いものから最も小さいものまでのモデルの階層的細分化は、複数のモデルの適用を提供するサブ工程によって、当該微生物の種類に関してさらに詳細な情報を得ることを可能にする(図4aの第2および第3のパネル)。
【0181】
カテゴリ1に提供されたものの中の特定の種類への所属が、未知の試料に適用する後続モデルを決定することに留意されたい。
【0182】
したがって、未知のスペクトルは、未知の試料を関連付けるための所属の漸進的に詳細度が高まるカテゴリを同定するために、漸進的に小さくなる分類群の予め計算されたモデルと比較される(図4a)。
【0183】
未知の試料の分析工程Eで適用される各モデルについて、関連付けられた種類への所属を示すスコアも、場合により百分率の形式で計算される。この値は、未知のスペクトルに対して計算された座標が、同じカテゴリのスペクトルのモデルで定義された座標とどれだけ類似しているかを反映する(図4bの表)。
【0184】
続いて、図4bに概略的に示す工程Fでは、結果の信頼性を評価するために、プロセスの様々なサブ工程中に決定された種類の各々に関連付けられた所属スコアが評価される。各モデルについて、許容値が定義されており、それを超えると、結果は信頼できると考えることができる。上記の比較から、所属スコアの値がいずれも、各モデルについて予め確立された値よりも高いことが明らかになり、結果が提供され(工程G)、そうでなければ新しい分析工程が要求される。
【0185】
[実施例2]
方法の一実施形態では、方法は、上記の存在し得る分類学的特性のいかなるものであれいずれか1つ、例えば微生物の属などを同定するために使用され得る。本発明によるデータベースのスペクトルを用いた方法の検証から得られた混同行列を示す図5を参照されたい。図5では、実際の結果と予測された結果との間に97.5%~100%の対応関係が観察され得る。
【0186】
本発明の分野および範囲から逸脱することなく、これまでに説明した方法および/または機器に対して、部品または工程の修正および/または追加を行うことができることは明らかである。本発明をいくつかの特定の例を参照して説明してきたが、当業者であれば、特許請求の範囲に記載されているような特性を有し、したがってそれによって定義される保護の分野にすべてが入る、多くの他の同等の形態の方法および/または機器を確実に実現することができることも明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5