(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】圧電ひげぜんまい、及びひげぜんまいを製造する方法
(51)【国際特許分類】
F16F 1/10 20060101AFI20240607BHJP
G04B 17/06 20060101ALI20240607BHJP
G04B 17/22 20060101ALI20240607BHJP
G04B 1/10 20060101ALI20240607BHJP
F16F 1/02 20060101ALI20240607BHJP
H10N 30/06 20230101ALI20240607BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240607BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20240607BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20240607BHJP
【FI】
F16F1/10
G04B17/06 Z
G04B17/22 Z
G04B1/10
F16F1/02 B
H10N30/06
H10N30/20
H10N30/853
H10N30/87
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022159274
(22)【出願日】2022-10-03
【審査請求日】2022-10-03
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル・ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ・ゲイシャ
(72)【発明者】
【氏名】エリアス・ラフォルジュ
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101546965(CN,A)
【文献】特開2017-049026(JP,A)
【文献】特開平05-296713(JP,A)
【文献】特開2012-159494(JP,A)
【文献】米国特許第04374402(US,A)
【文献】特開2001-268953(JP,A)
【文献】特開2019-053054(JP,A)
【文献】特開2007-123583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/10
G04B 17/06
G04B 17/22
G04B 1/10
F16F 1/02
H10N 30/06
H10N 30/20
H10N 30/853
H10N 30/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振機構システム(2、3)の発振周波数を自己調整する回路(10)、又はエネルギー回収回路、又はムーブメントを作動させるか若しくはムーブメントを自動で維持するモータ回路のための圧電ひげぜんまい(3)であって、
前記圧電ひげぜんまい(3)は、特定の巻き数の前記ひげぜんまいの上面(20)又は底面上に平面で堆積された少なくとも1つの圧電層(7、7’、17、17’、27、27’)と、少なくとも2対の電極(8a、8b、8c、8d)とを備え、
前記2対の電極(8a、8b、8c、8d)のうちの第1の対の電極の第1の電極(8a)および第2の対の電極の第1の電極(8b)、ならびに前記第1の対の電極の第2の電極(8c)および前記第2の対の電極の第2の電極(8d)は、
前記第1の対の電極の間と前記第2の対の電極の間とにバイアス電圧を
反対に印加するように、
前記第1の電極(8a、8b)と前記第2の電極(8c、8d)とが少なくとも1つの圧電層(7)
又は2つの個別の圧電層(7、7’)の夫々の2つの対向面
であるように、同じ側に
夫々配設され
、
前記第1の対の電極の第1の電極(8a)は、前記第2の対の電極の第2の電極(8d)に接続し、前記第1の対の電極の第2の電極(8c)は、前記第2の対の電極の第1の電極(8b)に接続することを特徴とする、圧電ひげぜんまい(3)。
【請求項2】
発振機構システム(2、3)の発振周波数を自己調整する回路(10)、又はエネルギー回収回路、又はムーブメントを作動させるか若しくはムーブメントを自動で維持するモータ回路のための圧電ひげぜんまい(3)であって、
前記圧電ひげぜんまい(3)は、特定の巻き数の前記ひげぜんまいの上面(20)又は底面上に平面で堆積された少なくとも1つの圧電層(7、7’、17、17’、27、27’)と、少なくとも2対の電極(8a、8b、8c、8d)とを備え、
前記2対の電極(8a、8b、8c、8d)のうちの第1の対の電極の第1の電極(8a)および第2の対の電極の第1の電極(8b)、ならびに前記第1の対の電極の第2の電極(8c)および前記第2の対の電極の第2の電極(8d)は、前記第1の対の電極の間と前記第2の対の電極の間とにバイアス電圧を反対に印加するように、前記第1の電極(8a、8b)と前記第2の電極(8c、8d)とが少なくとも1つの圧電層(7)又は2つの個別の圧電層(7、7’)の夫々の2つの対向面であるように、同じ側に夫々配設され、
前記第1の対の電極の第1の電極(8a)及び前記第2の対の電極の第2の電極(8d)は、前記圧電ひげぜんまい(3)の第1の端部で第1の接続端子に接続し、前記第2の対の電極の第1の電極(8b)及び前記第1の対の電極の第2の電極(8c)は、前記圧電ひげぜんまい(3)の第1の端部で第2の接続端子に接続することを特徴とする
、圧電ひげぜんまい(3)。
【請求項3】
前記2対の電極の電極(8a、8b、8c、8d)の全てはそれぞれ、前記圧電ひげぜんまい(3)の第1の端部でそれぞれの接続端子に接続することを特徴とする、請求項1に記載の圧電ひげぜんまい(3)。
【請求項4】
発振機構システム(2、3)の発振周波数を自己調整する回路(10)、又はエネルギー回収回路、又はムーブメントを作動させるか若しくはムーブメントを自動で維持するモータ回路のための圧電ひげぜんまい(3)であって、
前記圧電ひげぜんまい(3)は、特定の巻き数の前記ひげぜんまいの上面(20)又は底面上に平面で堆積された少なくとも1つの圧電層(7、7’、17、17’、27、27’)と、少なくとも2対の電極(8a、8b、8c、8d)とを備え、
前記2対の電極(8a、8b、8c、8d)のうちの第1の対の電極の第1の電極(8a)および第2の対の電極の第1の電極(8b)、ならびに前記第1の対の電極の第2の電極(8c)および前記第2の対の電極の第2の電極(8d)は、前記第1の対の電極の間と前記第2の対の電極の間とにバイアス電圧を反対に印加するように、前記第1の電極(8a、8b)と前記第2の電極(8c、8d)とが少なくとも1つの圧電層(7)又は2つの個別の圧電層(7、7’)の夫々の2つの対向面であるように、同じ側に夫々配設され、
前記第1の対の電極の第1の電極(8a)は、前記圧電ひげぜんまい(3)の上面(20)に直接堆積し、前記第2の対の電極の第1の電極(8b)は、前記圧電ひげぜんまい(3)の上面(20)に直接堆積し、前記2対の電極の第1の電極(8a、8b)は、互いに均等に離間し、それぞれ、前記ひげぜんまい(3)の第1の端部から前記ひげぜんまい(3)の第2の端部に向かってコイルの形状を取
り、
第1の圧電層(7)は、前記第1の対の電極の第1の電極(8a)上に堆積し、第2の圧電層(7’)は、前記第2の対の電極の第1の電極(8b)上に堆積し、前記第1の圧電層(7)が前記第1の対の電極の第1の電極(8a)上に堆積する方向から見た場合、前記第1の圧電層(7)の形状及び寸法は、前記第1の対の電極の第1の電極(8a)の形状及び寸法と同一であり、前記第2の圧電層(7’)が前記第2の対の電極の第1の電極(8b)上に堆積する方向から見た場合、前記第2の圧電層(7’)の形状及び寸法は、前記第2の対の電極の第1の電極(8b)の形状及び寸法と同一であることを特徴とする
、圧電ひげぜんまい(3)。
【請求項5】
前記2対の電極の第1の電極(8a、8b)及び第2の電極(8c、8d)は、前記ひげぜんまい(3)の第1の端部から前記ひげぜんまい(3)の全長に沿った中間を越えて延在することを特徴とする、請求項
4に記載の圧電ひげぜんまい(3)。
【請求項6】
前記2対の電極の第1の電極(8a、8b)及び第2の電極(8c、8d)、並びに前記圧電層(7)は、前記ひげぜんまい(3)の第1の端部から前記ひげぜんまい(3)の
最初の1巻きにわたり延在することを特徴とする、請求項1に記載の圧電ひげぜんまい(3)。
【請求項7】
前記第1の対の電極の第1の電極(8a)は、前記圧電ひげぜんまい(3)の上面(20)に直接堆積し、前記第2の対の電極の第1の電極(8b)は、前記圧電ひげぜんまい(3)の上面(20)に直接堆積し、前記圧電層(7)は
、2つの
前記第1の電極(8a、8b)の幅部、及
び2つの
前記第1の電極(8a、8b)の間の空間にわたり、前記第1の電極(8a、8b)上に堆積することを特徴とする、請求項1に記載の圧電ひげぜんまい(3)。
【請求項8】
発振機構システム(2、3)の発振周波数を自己調整する回路(10)、又はエネルギー回収回路、又はムーブメントを作動させるか若しくはムーブメントを自動で維持するモータ回路のための圧電ひげぜんまい(3)であって、
前記圧電ひげぜんまい(3)は、特定の巻き数の前記ひげぜんまいの上面(20)又は底面上に平面で堆積された少なくとも1つの圧電層(7、7’、17、17’、27、27’)と、少なくとも2対の電極(8a、8b、8c、8d)とを備え、
前記2対の電極(8a、8b、8c、8d)のうちの第1の対の電極の第1の電極(8a)および第2の対の電極の第1の電極(8b)、ならびに前記第1の対の電極の第2の電極(8c)および前記第2の対の電極の第2の電極(8d)は、前記第1の対の電極の間と前記第2の対の電極の間とにバイアス電圧を反対に印加するように、前記第1の電極(8a、8b)と前記第2の電極(8c、8d)とが少なくとも1つの圧電層(7)又は2つの個別の圧電層(7、7’)の夫々の2つの対向面であるように、同じ側に夫々配設され、
前記第1の対の電極の第1の電極(8a)は、前記圧電ひげぜんまい(3)の上面(20)と接触する状態で配設し、前記第1の対の電極の第2の電極(8c)は、前記第1の対の電極の第1の電極(8a)上に組み付けられた第1のセットの複合層(7、17、27)上に配設し、前記第1のセットの複合層(7、17、27)の少なくとも1つの層は、圧電層(7)であり、前記第2の対の電極の第1の電極(8b)は、前記圧電ひげぜんまい(3)の上面(20)上に配設する一方で、前記第2の対の電極の第2の電極(8d)は、前記第2の対の電極の第1の電極(8b)上に組み付けられた第2のセットの複合層(7’、17’、27’)上に配設し、前記第2のセットの複合層(7’、17’、27’)の少なくとも1つの層は、圧電層(7’)であることを特徴とする
、圧電ひげぜんまい(3)。
【請求項9】
中間電極は
、各前記セットの複合層(7、7’、17、17’、27、27’)の各層の間に設け
られ、所望の選択に応じて、該層を直列若しくは並列に接続するか、又は1つ若しくは複数の該層を短絡することを特徴とする、請求項
8に記載の圧電ひげぜんまい(3)。
【請求項10】
発振機構システム(2、3)の発振周波数を自己調整する回路(10)、又はエネルギー回収回路、又はムーブメントを作動させるか若しくはムーブメントを自動で維持するモータ回路のための圧電ひげぜんまい(3)であって、
前記圧電ひげぜんまい(3)は、特定の巻き数の前記ひげぜんまいの上面(20)又は底面上に平面で堆積された少なくとも1つの圧電層(7、7’、17、17’、27、27’)と、少なくとも2対の電極(8a、8b、8c、8d)とを備え、
前記2対の電極(8a、8b、8c、8d)のうちの第1の対の電極の第1の電極(8a)および第2の対の電極の第1の電極(8b)、ならびに前記第1の対の電極の第2の電極(8c)および前記第2の対の電極の第2の電極(8d)は、前記第1の対の電極の間と前記第2の対の電極の間とにバイアス電圧を反対に印加するように、前記第1の電極(8a、8b)と前記第2の電極(8c、8d)とが少なくとも1つの圧電層(7)又は2つの個別の圧電層(7、7’)の夫々の2つの対向面であるように、同じ側に夫々配設され、
第1の圧電層(7)は、前記圧電ひげぜんまい(3)の上面(20)上に堆積し、第2の圧電層(7’)は、前記第1の圧電層(7)から離間して、前記圧電ひげぜんまい(3)の上面(20)上に堆積し、前記第1の対の電極の第1の電極(8a)は、前記第1の圧電層(7)の側面に配設する一方で、前記第1の対の電極の第2の電極(8c)は、前記第1の圧電層(7)の対向側面に配設し、前記第2の対の電極の第1の電極(8b)は、前記第2の圧電層(7’)の側面に配設する一方で、前記第2の対の電極の第2の電極(8d)は、前記第2の圧電層(7’)の対向側面に配設することを特徴とする
、圧電ひげぜんまい(3)。
【請求項11】
前記圧電ひげぜんまい(3)の上面(20)に配設された各前記圧電層(7、7’)は、AIN、AIScN、PZT又はKNN層と呼ばれる層であることを特徴とする、請求項1に記載の圧電ひげぜんまい(3)。
【請求項12】
SOIウエハ(30)、石英ウエハ又はガラス・ウエハの基体上に請求項1に記載の圧電ひげぜんまい(3)を製造する方法であって、前記ひげぜんまい(3)の基体は、最初に、SOI若しくは石英ウエハに対するトップダウン型DRIEによって生成するか、又はガラス・ウエハに対するトップダウン型レーザー支援化学エッチングによって生成し、DRIE又はレーザー支援化学エッチングによって前記ウエハの基体(30)を残した状態又は前記ウエハの基体(30)を完全に除去した状態で前記ひげぜんまい(3)の形状を生成した後、1つ又は複数の圧電層(7、7’)を前記ひげぜんまい(3)の上面(20)上に堆積し、前記2対の電極の第1の電極(8a、8b,)及び第2の電極(8c、8d)は、前記1つ又は複数の圧電層(7、7’)と組み合わせて、プログラムされた形状及び寸法に従って堆積することを特徴とする、方法。
【請求項13】
SOIウエハ(30)、石英ウエハ又はガラス・ウエハの基体上に請求項1に記載の圧電ひげぜんまい(3)を製造する方法であって、前記方法は、SOIウエハ(30)、石英ウエハ又はガラス・ウエハの粗上面上に直接実行し、1つ又は複数の圧電層(7、7’)の堆積物は、コイルのプログラムされた形状及び長さを取り、前記2対の電極の第1の電極(8a、8b)及び第2の電極(8c、8d)の堆積物は、前記1つ又は複数の圧電層(7、7’)と組み合わせて、コイルのプログラムされた形状及び長さを取り、各前記対の電極の電極(8a、8b、8c、8d)を前記1つ又は2つの圧電層(7、7’)の2つの対向面上、又は前記粗上面(20)上の1つ若しくは2つのセットの複合層(7、7’、17、17’、27、27’)の2つの対向面上に配設した後、プログラムされた全長及び形状に従って、トップダウン型DRIE動作を前記ひげぜんまい(3)のSOI若しくは石英ウエハ上で実行するか、又はトップダウン型レーザー支援化学エッチング動作をガラス・ウエハ上で実行し、最終DRIE動作又はレーザー支援化学エッチング動作は、最終圧電ひげぜんまい(3)を得るように、前記ウエハの基体(30)を完全に除去するように実行することを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振機構システムの発振周波数を自己調整する回路、又はエネルギー回収回路、又はムーブメントを作動させるか若しくはムーブメントを自動で維持するモータ回路のための圧電ひげぜんまいに関する。
【0002】
本発明は、圧電ひげぜんまいを製造する方法に更に関する。
【背景技術】
【0003】
測時器の分野において、機械的な観点から、発振機械システムは、てんぷとすることができ、てんぷの上にひげぜんまいが組み付けられる。ひげぜんまいの一端は、てんぷの回転軸に取り付けられ、ひげぜんまいのもう一端は、板の固定要素に取り付けられる。この機械システムは、典型的には香箱とし得る機械的な動力源により発振が保たれ、香箱は、回転アンクル・レバーと協働するがんぎ車と共に歯車列を駆動する。こうして、脱進機に結合されたひげぜんまいを有するてんぷは、時計ムーブメントの調整部材を形成し得る。この完全な機械調整を伴う時計ケース内では、大量の空間が使用され、このことは、場合によっては欠点となる場合がある。
【0004】
フランス特許第2119482号は、圧電素子の発振機械システムを記載している。この圧電素子は、好ましくは、てんぷに接続されたひげぜんまい上に配設される。このことは、ひげぜんまいの長さ部の大部分にわたり、前記金属ひげぜんまいの内面及び外面上に圧電材料(PZT)の膜を堆積することによって達成される。電圧変換器は、圧電素子に交流電圧を供給し、ひげぜんまい上に圧縮力及び拡張力を交互に生成し、ひげぜんまいに接続されたてんぷの発振を調整するために使用される。この特許文献において、電極は、ひげぜんまいに沿って、各側面上に配設されるが、このことは、ひげぜんまいの生成を複雑にする場合があり、欠点となる。
【0005】
従来技術の
図1及び
図2は、デバイス1を示し、デバイス1は、発振機械システム2、3と、発振機械システムの発振周波数foscを自己調整する回路10とを備え、欧州特許第2590035B1に記載されるものである。機械式時計において、発振機械システムは、例えば、3つのアーム5によって回転軸6に接続される金属リングによって形成されるてんぷ2と、圧電素子又は電気的活性ポリマー要素が上に配設されるひげぜんまい3とを備える。ひげぜんまい3の第1の端部3aは、てんぷ受けのひげ持4によって固定保持される。このてんぷ受けは、時計ムーブメントの板に取り付けられる。ひげぜんまい3の第2の端部3bは、てんぷの回転軸6に直接取り付けられる。圧電層又は電気的活性ポリマー層23、23’は、金属条片24の2つの側面に堆積され、このことは、生成を複雑にし得る。
【0006】
従来技術の
図3に示すように、欧州特許第3629103B1号は、計時器の圧電ひげぜんまい70を記載している。断面を介して示されるひげぜんまい70は、シリコンから作製された中心本体72と、ひげぜんまいの温度補償のために中心本体の表面に堆積された酸化シリコン層74と、酸化シリコン層上に堆積された導電層76と、圧電層78の形態で導電層76上に堆積された圧電材料とを備える。2つの電極20a及び22aはそれぞれ、ひげぜんまいの2つの横辺上で、圧電層78上に配置される。圧電層の第1の部分80a及び第2の部分80bはそれぞれ、中心本体72の2つの横辺にわたり延在し、2つの横辺に平行な正中面84に対して対称なそれぞれの結晶構造を有する。2つの横部分80a及び80bにおいて、圧電層は、2つの同じそれぞれの圧電分極軸82a、82bを有し、圧電分極軸82a、82bは、圧電層に直交し、反対方向のものである。そのような圧電ひげぜんまいの生成は、複雑であり、時間がかかり、欠点となる。
【0007】
従来技術において、例えば、ひげぜんまい上に圧電層及び接触電極を生成する際、いくつかの技術的困難に遭遇する。1つの問題は、陰影効果に遭遇する可能性、即ち、1つ又は複数の層堆積により厚さの勾配がもたらされることである。短絡回路は、圧電層の厚さが不十分であるために、コイルの底部に生じる可能性がある。このことは、ひげぜんまいの寸法の制限につながる。というのは、陰影効果を軽減するため、コイルの間に空間、及び十分に大きなアスペクト比を設けなければならないためである。
【0008】
スパッタリングの場合、圧電層に、垂直から側壁まで数十度の角度でテクスチャが付けられることがある。このことにより、電界方向における突出部のみが圧電効果に寄与するため、圧電効果を低減させる。
【0009】
ひげぜんまいの付いたてんぷの共振周波数が、正方形状の厚さに依存する、ひげぜんまいの剛性に反応することにも留意されたい。堆積の典型的な再現可能性には、圧電層を堆積した後の最終的な周波数の設定状態を必要とする。更に、スパッタリングによって作製された材料堆積物は、基体表面上で数パーセント変動する厚さを有し、これにより、堆積した層の厚さを正確に修正することを困難にする。
【0010】
ひげぜんまいの生成には、非標準的な製造方法が使用されることが多い。というのは、パターン形成したウエハ上に層を堆積し、前記層に損害を与えずに、電極を側壁上にパターン形成しなければならないためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】フランス特許第2119482号
【文献】欧州特許第2590035B1号
【文献】欧州特許第3629103B1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、少数の構成要素で発振機械システムの発振周波数を正確に調整し、従来技術の上述の欠点を克服するため、発振機械システムの発振周波数を自己調整する回路のための容易に生成可能な圧電ひげぜんまいを提供することである。圧電ひげぜんまいは、エネルギー回収回路、又はムーブメントを作動させるか若しくはムーブメントを自動で維持するモータ回路も対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的で、本発明は、発振機構システムの発振周波数を自己調整する回路、又はエネルギー回収回路、又はムーブメントを作動させるか若しくはムーブメントを自動で維持するモータ回路のための圧電ひげぜんまいに関し、圧電ひげぜんまいは、独立請求項1に記載の特徴を含む。
【0014】
ひげぜんまいの特有の実施形態は、従属請求項2から13において規定される。
【0015】
本発明によるそのような圧電ひげぜんまいの1つの利点は、圧電ひげぜんまいを容易に生成し得ることである。というのは、圧電層の堆積は、上面に堆積する際、又は底面に堆積する際でさえ、制御が容易であるためである。上面又は底面への堆積を実行することによって、圧電層の厚さの増大又は圧電層の長さの増大も容易である。
【0016】
有利には、圧電層の亀裂に関与する問題を生じる可能性があるひげぜんまいのコイルの縁部の縁には、影響を及ぼさない。というのは、全体に上面又は底面に堆積されるため、亀裂に関する問題は低減するためである。
【0017】
圧電層を上面に堆積する別の利点は、このことにより、結晶方位が傾斜する側面への堆積よりも、良好な直角の垂直結晶方位を上面にもたらすことである。全ウエハ及び各コイル上の堆積物の均質性は、かなりより高い。このことは、ひげぜんまいの個々のコイルの間の空間に依存しない。一方で、圧電層を側面に堆積する場合、コイルの間の空間が小さいほど、そのような層を側面に堆積することはより困難になる。この場合、薄すぎる可能性もある側面への層の堆積に対して陰影効果があり、不十分な厚さの層により短絡回路が生じ得る。したがって、圧電層を上面に堆積することは、製造の正確さを制御し、設計と現実との間の差を制限するのに有利である。
【0018】
別の利点は、今や、パターン形成が困難な材料から作製された圧電層を上面に堆積することが、側面に堆積するよりも容易であることである。概して、層のパターン形成と、パターンのエッチング及び保護とを含む全体的なトップダウン型製造方法は、コイルの側壁に対する非標準的なパターン形成よりも容易である。
【0019】
この目的で、本発明は、更に、独立請求項14又は15に記載の特徴を含む圧電ひげぜんまいを製造する方法に関する。
【0020】
本発明の推奨される方法によれば、例えば、SOI(シリコン・オン・インシュレータ)から作製された基板の形態の基体を第1のステップとして使用し得る。ひげぜんまいは、より詳細に以下で説明するように、この第1のステップが完了するとすぐにエッチングし得る。又は第1のシリコン層をエッチングする前に、電極、圧電層及び圧電層の上の他の電極を堆積し、パターン形成し得る。
【0021】
発振機械システムの発振周波数を自己調整する回路、エネルギー回収回路、又はムーブメントを作動させるか若しくはムーブメントを自動で維持するモータ回路のための圧電ひげぜんまい、及びひげぜんまいを製造する方法の目的、利点及び特徴は、図示される非限定的な実施形態に基づき示される以下の説明においてより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】従来技術による、発振機械システムと、発振機械システムの発振周波数を自己調整する回路とを備えるデバイスの簡略図である。
【
図2】従来技術による、デバイスの圧電素子を備える発振機械システムのひげぜんまいの部分図である。
【
図3】従来技術による、別の種類の圧電ひげぜんまいのコイルの断面図である。
【
図4a】本発明による、圧電ひげぜんまいの第1の実施形態の圧電ひげぜんまいのコイル部分の3次元部分図である。
【
図4b】本発明による、圧電ひげぜんまいの第1の実施形態のこのコイルの断面図を示す。
【
図5】本発明による、第2の実施形態の圧電ひげぜんまいのコイルの断面図である。
【
図6】本発明による、第3の実施形態の圧電ひげぜんまいのコイルの断面図である。
【
図7】本発明による、第4の実施形態の圧電ひげぜんまいのコイルの断面図である。
【
図8】基板上に圧電ひげぜんまいのコイルを生成した図であり、圧電層は、本発明による上面に堆積された層と、側面に堆積された層との間の差を規定するように圧電層をコイル上に被覆されている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図4a及び
図4bは、圧電ひげぜんまい3の第1の実施形態の圧電ひげぜんまい3のコイル部分の3次元部分図、及びこのコイルの断面図を示す。ひげぜんまい3は、典型的には、発振機械システムを形成するように、複数のコイルを備え、てんぷ(図示せず)に接続される。ひげぜんまいの第1の端部は、てんぷ受けに取り付けられる一方で、第2の端部は、天真に取り付けられる。ひげぜんまい3は、2つの端部の間の平面内にある。
【0024】
圧電ひげぜんまい3は、この第1の実施形態では、ひげぜんまいの上面に、2対の電極8a、8b、8c、8dを備え、これらのうち、並んだ2対の電極の第1の電極8a及び8bは、ひげぜんまいの上面に直接取り付けられる。第1の圧電層7は、第1の対の電極の第1の電極8aと第2の電極8cとの間に取り付けられる一方で、第1の層とは別個の第2の圧電層7’は、第2の対の電極の第1の電極8bと第2の電極8dとの間に取り付けられる。
【0025】
好ましくは、シリコンは、絶縁体を下に有するひげぜんまい3の形状を得るように、SOI(又は石英)ウエハ上でエッチングされ、ひげぜんまい3は、一方ではSiO2酸化物層を備え、もう一方ではシリコン基板を備える。SOI又は石英ウエハは、有利には、圧電層の活性化と、ひげぜんまい3を生成するために使用される基体との間の干渉を回避するため、約500nmの厚さを有するSiO2型絶縁層で被覆し得る。SOIウエハは、約500μmの厚さを有し得る。圧電ひげぜんまいを製造する方法の代替実施形態によれば、エッチング後にひげぜんまい3の外形が得られた後、電極8a、8b、8c、8d及び圧電層7、7’の堆積及びパターン形成をひげぜんまいの上面で実行し得る。
【0026】
代替的に、ひげぜんまい3は、ガラス・ウエハ上に作製し得る。これらの条件下、ひげぜんまい3を得るため、ガラス・ウエハに対するレーザー支援化学エッチングのステップが実行される。ひげぜんまいの製造方法を適合させることによって、セラミックス又は複合物等、他の種類の基体を考慮し得る。
【0027】
第1の対の電極の第1の電極8a及び第2の対の電極の第1の電極8bは、圧電ひげぜんまい3の上面20上に平面で配設又は堆積される。第1の電極8a及び8bは、互いから均等に離間し、それぞれ、ひげぜんまいの第1の端部からひげぜんまいの第2の端部に向かってコイルの形状を取る。2対の電極の第1の電極8a及び8bは、実質的に等しい長さであり、前記ひげぜんまいの第1の端部から、ひげぜんまいの長さ部の一部分の上にある。好ましくは、2対の電極の第1の電極8a、8bの長さ部は、圧電ひげぜんまい3の第1の端部から第2の端部まで延在する。
【0028】
第1の圧電層7は、第1の対の電極の第1の電極8a上に直接堆積され、好ましくは、圧電ひげぜんまい3の長さ部の少なくとも一部分にわたり前記第1の電極8aに形状が等しい。第2の圧電層7’は、第2の対の電極の第1の電極8b上に直接堆積され、好ましくは、圧電ひげぜんまい3の長さ部の少なくとも一部分にわたり前記第1の電極8bに形状が等しい。
【0029】
最後に、第1の対の電極の第2の電極8cは、第1の電極8aと第1の圧電層7との間の接触面とは反対の面上で、第1の圧電層7上に直接配設又は堆積される。第2の対の電極の第2の電極8dは、第1の電極8bと第2の圧電層7’との間の接触面とは反対の面上で、第2の圧電層7’上に直接配設又は堆積される。この第1の実施形態では、各第2の電極8c、8dの形状及び長さは、各第1の電極8a、8bの形状及び長さに等しい。
【0030】
圧電ひげぜんまいを製造する方法の2つの代替実施形態が提供される。ひげぜんまい3をシリコン(SOI)ウエハ又は石英ウエハから作製する際、シリコン又は石英は、ひげぜんまい3の基体を得るため、最初にエッチングし得る。その後、電極8a、8b、8c、8d及び圧電層7、7’は、既にパターン形成してあるひげぜんまい3の上面又は底面上に堆積される。ガラス・ウエハの場合、ひげぜんまい3の基体は、最初に、化学支援レーザー切断又は他のレーザー切断方法によって、ウエハの上部から切断し得る。
【0031】
代替実施形態によれば、電極8a、8b、8c、8d及び圧電層7、7’は、ひげぜんまいを得るためのパターン形成前、即ち、DRIE方法を使用するエッチング前、又はひげぜんまい3を得るためのガラス・ウエハに対するトップダウン型レーザー支援化学エッチング前にシリコン又は石英ウエハ上に堆積し得る。簡単に説明した2つの代替実施形態による圧電ひげぜんまい3を製造する方法の更なる詳細は、本明細書の以下で示す。
【0032】
図4aに示すように、自己調整回路は、整合電圧を印加し、圧縮力-T1を一方の圧電層7に生成するか、又はもう一方の圧電層7’上に逆整合電圧を印加し、拡張力T1を連続的若しくは特定の時間期間で生成することを可能にする。このことにより、発振機械システムの発振周波数を調整可能にする。
【0033】
最初に、ひげぜんまい3をウエハから既に生成してある場合、第1の対の電極の第1の電極8a及び第2の対の電極の第1の電極8bは、共に上面20上に、好ましくは、ひげぜんまい3の長さ部の大部分、ひげぜんまい3の長さ部の少なくとも半分にわたり、例えば、ひげぜんまい3の全長にわたり、配設又はパターン形成される。第1の電極8a及び8bは、予め規定された間隔で互いに隣接して、例えば、ひげぜんまい3の全長に沿って配設される。各側面22に電極は堆積しない。
【0034】
次に、第1の圧電層7は、第1の対の電極の第1の電極8a上に堆積、パターン形成される。好ましくは、第1の圧電層は、第1の対の電極の第1の電極8aの横寸法及び長さに対してパターン形成される。第2の圧電層7’は、第1の圧電層7と同時に、又は第1の圧電層7を生成した後、第2の対の電極の第1の電極8b上に堆積又はパターン形成し得る。好ましくは、第2の圧電層7’は、第2の対の電極の第1の電極8bの横寸法及び長さに対してパターン形成される。
【0035】
第1の圧電層7及び第2の圧電層7’を2対の電極の第1の電極8a、8b上に適切にパターン形成した後、第1の対の電極の第2の電極8cを、第1の対の電極の第1の電極8aに面する第1の圧電層7上に堆積又はパターン形成する。第2の電極8cは、第1の対の電極の第1の電極8aと同じ形状及び寸法である。第2の対の電極の第2の電極8dは、第2の対の電極の第1の電極8bに面する第2の圧電層7’上に配設又は堆積される。第2の電極8dは、第2の対の電極の第1の電極8bと同じ形状及び寸法である。
【0036】
圧電ひげぜんまい3が完成した後、圧電ひげぜんまい3は、発振機械システム内に組み付け得る。本実施形態では、2対の電極は、特に、圧電ひげぜんまいを発振させる発振システムの運動を維持するように、電圧源によって正反対に、交互にバイアスがかけられる。この目的で、第1の対の電極の第1の電極8aは、第2の対の電極の第2の電極8dに接続し得る。第2の対の電極の第1の電極8bは、第1の対の電極の第2の電極8cに接続し得る。第1の電極8a及び第2の電極8dは、圧電ひげぜんまい3の第1の端部に配設された第1の接続端子に接続し得る。第1の電極8b及び第2の電極8cは、圧電ひげぜんまい3の第1の端部の第2の接続端子に接続し得る。
【0037】
2対の電極の2つの第1の電極8a、8b上に第1の圧電層7のみを堆積可能であることに留意されたい。この後、2対の電極の各第1の電極8a、8bに関して説明するように、2つの圧電層7、7’への分離を実行し得る。
【0038】
圧電ひげぜんまい3の電気接続は、特に、電極8a、8b、8c、8d及び1つ又は複数の圧電層7、7’の堆積と同時に画定される接続端子により、上部から行い得る。好ましくは、圧電ひげぜんまい3の第1の端部における2つの接続端子は、少なくとも2対の電極の電極8a、8b、8c、8dに接続をもたらす。接続端子は、ひげぜんまいの付いたてんぷに機械的に影響を与えないように、天真の後に配設される。SiO2型抵抗層は、あらゆる短絡を回避するように、ひげぜんまいが天真に取り付けられる領域に少なくとも局所的に堆積される。絶縁天真を使用することもできる。しかし、電気接続をもたらす天真を直接使用することも可能である。
【0039】
前述のように、2対の電極に逆にバイアスをかけるため、電極8a及び8dは、例えばVo-で示される第1の端子に接続される一方で、電極8b及び8cは、例えばVo+で示される第2の端子に接続される。電圧Vo+及びVo-は、時間に依存する交流電圧であり、圧電ひげぜんまい3の発振を維持するように、矩形信号若しくは正弦信号、又はパルス列を有する。
【0040】
各対の電極に対して、起こり得る非対称を補償するように、様々な大きさの電圧、例えば、第1の対の電極8a及び8cに対しては電圧V0、並びに第2の対の電極8b及び8dに対しては、V0とは異なる大きさの逆電圧V1を印加し得ることに留意されたい。これらの条件下、それぞれが2対の電極のそれぞれの電極に接続される4つの接続端子を圧電ひげぜんまい3の第1の端部に設けなければならない。
【0041】
図5に示す圧電ひげぜんまい3は、
図4b示す特徴と同様の特徴を有する。しかし、圧電ひげぜんまい3のこの第2の実施形態では、1つの圧電層7のみが2つの第1の電極8a、8b上に堆積、維持される。各対の電極の第2の電極8c、8dは、対の電極のそれぞれの第1の電極8a、8bに面する圧電層7上に堆積される。しかし、圧電層7は、2つの第1の電極8a及び8bの幅部、並びに2つの第1の電極8aと8bとの間の空間の両方にわたり堆積される。圧電層7の形状及び寸法は、2つの第1の電極8aと8bの間の空間を含めて、2つの第1の電極8a及び8bの組み合わせた形状に等しい。
【0042】
ひげぜんまい3の上面20に堆積された圧電層7の結晶方位は、ひげぜんまいの側面22に横に堆積された層よりもかなり良好な結果をもたらす。
図8に示すように、側面22に堆積された層の結晶方位は、傾斜し、したがって、ひげぜんまいの上面20に堆積された圧電層の結晶方位のように垂直ではない。
【0043】
第1の対の電極の第2の電極8cは、電圧Vo+を受けるように構成される一方で、第1の対の電極の第1の電極8aは、電圧Vo+の逆である電圧Vo-を受けるように構成される。第2の対の電極は、第1の対の電極に対して逆にバイアスをかけられるように構成され、第2の対の第1の電極に電圧Vo+を供給する一方で、第2の対の電極の第2の電極8dは、電圧Vo-によってバイアスをかけられるように構成される。しかし、2つの接続端子から電極8a、8b、8c、8dに供給されるバイアス電圧は、交流である。したがって、電極8b及び8cは、電圧Vo+によって時間的に交互にバイアスがかけられる一方で、電極8a及び8dは、電圧Vo+の逆である電圧Vo-によって時間的に交互にバイアスがかけられ、圧電ひげぜんまい3を発振させる発振システムの運動を維持するようにする。言うまでもないが、電極のバイアス電圧は、矩形信号又は正弦信号によって変更し得る。
【0044】
有限要素計算は、この構成により、ひげぜんまい3を、ひげぜんまいの側面22に堆積したものと同様に励起し得ることを示す。この方法により達成される圧電効果が側面22に堆積されたものよりも低い場合でさえ、このことは、より高い圧電係数を有する材料の使用によって補償し得る。より高い圧電係数を有する材料は、必ずしも、ひげぜんまい3の側面22に首尾よく堆積し得るわけではない。本方法は、特に、スパッタリングによって堆積し得る全ての圧電材料(AlN、AlScN、PZT及び無鉛圧電材料)に適合する。製造方法の2つの代替実施形態を以下で考慮し、説明する。
【0045】
図6は、第3の実施形態による圧電ひげぜんまい3のコイルの断面を示す。第1の実施形態の場合と同様に、少なくとも2対の電極が設けられ、このうち、第1の対の電極の第1の電極8aは、圧電ひげぜんまい3の上面20と接触する状態で配設され、第1の対の電極の第2の電極8cは、少なくとも1つの圧電層7を含めた第1のセットの複合層7、17、27上に配設され、少なくとも1つの圧電層7は、第1のセットの複合層の最初の層から最後の層までの層の1つであり得る。第2の対の電極の第1の電極8bは、コイルの上面20に配設される一方で、第2の対の電極の第2の電極8dは、少なくとも1つの圧電層7’を含めた第2のセットの複合層7’、17’、27’上に配設され、少なくとも1つの圧電層7’は、第2のセットの複合層の最初の層から最後の層までの層の1つであり得る。
【0046】
第1のセットの複合層及び第2のセットの複合層の層は、第1の対の電極の2つの電極8aと8cとの間、又は第2の対の電極の2つの電極8bと8dとの間に直列又は並列に配設し得る。中間電極は、所望の選択に応じて、層を直列若しくは並列に接続するか、又は1つ若しくは複数の層を短絡するように、各セットの複合層の各層の間に設け得る。層は、圧電層のみだけでなく、機能層であってもよく、この場合、セットの複合層の各層は、設けられた次の層又は他の層とは異なる材料で作製し得る。
【0047】
最後に、第4の実施形態を
図7に示し、
図4bと比較する。2対の電極が設けられるが、第1の対の電極の第1の電極8a及び第2の電極8c、並びに第2の対の電極の第1の電極8b及び第2の電極8dに対して異なる向きを有する。好ましくは、この第4の実施形態では、第1の圧電層7が上面20上に生成され、次に又は同時に第2の圧電層7’が上面20上に生成される。その後、2対の電極の第1の電極8a、8c及び第2の電極8b、8dは、各圧電層7、7’の2つの対向側面に堆積される。
【0048】
第1の圧電層7は、第1の対の電極の第1の電極8a及び第2の電極8cによって配設され、上面20に垂直にバイアスがかけられる。更に、第2の圧電層7’は、第2の対の電極の第1の電極8b及び第2の電極8dによって配設され、バイアスがかけられる。結晶方位は、第2の実施形態又は以前の実施形態とは対照的に、上面20に対して平行に配設し得る。しかし、第4の実施形態の生成は、以前の実施形態よりも複雑化する。
【0049】
上記の実施形態の全てによれば、各圧電層又は電極は、上面20に堆積されるが、底面(図示せず)に堆積し得る。更に、本発明では、堆積は、ウエハの上面に実行されるか、又は圧電ひげぜんまい3の上面20に直接実行されるため、側面22に満足の行く堆積をもたらさないとしても、他の圧電材料を使用し得る。更に、ひげぜんまいの寸法に関し、更なる制限もない。ひげぜんまいの高さは、ひげぜんまいの長さと同様に、ひげぜんまいの付いたてんぷの共振周波数に寄与する。一方で、上部、特に上面20への堆積は、側面への堆積よりも制御が容易である。
【0050】
次に、石英若しくはSOIウエハ及びDRIE方法を使用して、又はガラス・ウエハ及びレーザー支援化学エッチング方法を使用して圧電ひげぜんまい3を製造する方法の2つの代替実施形態を説明する。圧電ひげぜんまい3の全ての4つの実施形態は、圧電ひげぜんまい3を製造する方法の2つの代替実施形態を使用して得られる。
【0051】
上記で既に説明したように、圧電ひげぜんまい3を製造する方法の第1の代替実施形態によれば、SOI若しくは石英ウエハに対するトップダウン型DRIEによって、又はガラス・ウエハに対するパルス・レーザー若しくはレーザー支援化学エッチングによって、ひげぜんまい3の基体を最初に生成する。より従来の様式で、圧電ひげぜんまいの作製に必要な圧電層又は電極を堆積する前に、ひげぜんまいを最初に生成し得る。
【0052】
特に、AIN又はAIScN又はPZT、並びにKNN(ニオブ酸カリウム(KNbO3、KN)及びニオブ酸ナトリウム(NaNbO3、NN)から生成される固溶体)等の無鉛圧電材料等の圧電層7、7’をスパッタリングすると、この圧電層は、ひげぜんまい3の側面22上に垂直から数十度の角度でテクスチャが付くことがある。このことにより、電界方向における突出部のみが圧電効果に寄与するため、圧電効果を低減させる。
【0053】
しかし、圧電材料KNNの使用は、KNNをひげぜんまい3の上面20に堆積する場合、有利であり得る。というのは、KNNは、多大な困難を伴わずに十分な厚さ、例えば、5μmで堆積し得るためである。
【0054】
第2の代替実施の製造方法のステップの第1のシリーズにおいて、SOI又は石英ウエハの上面にプログラムされた形状及び長さの圧電層又は電極を最初に生成することができ、この後、圧電ひげぜんまいを得ることができる。圧電層に接続される電極セットがSOI、石英又はガラスのウエハの上面に得られた後、ひげぜんまいを、特にひげぜんまいの特定のエッチング深さまでエッチング又はパターン形成し得る。最終生成ステップでは、SOIウエハの基体もDRIE(深反応性イオンエッチング)によって除去する。圧電ひげぜんまいは、この時点で得られ、電極及び圧電層の構成をひげぜんまいの上面20上に既に含んでいる。
【0055】
動力を引き出す、又はモータ回路に動力を与えるために圧電ひげぜんまい3を使用する際、より大型のより長いひげぜんまいを必要とし得る。
【0056】
より大きな圧電表面積は、同等の電圧でより大きな運動振幅を暗示することにも留意されたい。このことは、概して、モータにとって有益である。しかし、適切な歯車比で、数百Hzというより高い周波数及びより小さな振幅で稼働させることが可能である。そのような場合、同様の全体寸法のひげぜんまいを使用し得る。逆に、より少ない部品、例えば、より高さが高い香箱又はより小型の香箱を時計内で使用し得る。幅広コイルを有するモータひげぜんまいの典型的な外径は、従来の時刻測定ひげぜんまいの場合の約5mmと比較して、約7mmである。この外径は、てんぷの直径よりも依然として小さいことは明らかである。
【0057】
圧電層の厚さは、例えば、発振周波数に適応させるため、容易に増大し得るか、又はひげぜんまい自体の長さを容易に増大し得る。しかし、亀裂問題につながる可能性があるコイル縁部の縁には影響を及ぼさない。圧電層を上面又は底面の一方に配置することがかなりより容易である。ひげぜんまいの長さは、厚さを増大させる場合、同じ共振又は発振周波数を維持するように増大させなければならない。別の結果は、このように、ひげぜんまいの形状をほとんど変化させずに又は変化させずに、層をひげぜんまいに追加し得ることである。側面に堆積する影響は、かなりより大きく、ひげぜんまいの形状に対するより大きな調節を必要とする。
【0058】
側面へのパターン形成が困難な圧電材料、又は事前に混合された標的が入手可能ではない場合に複数の異なる材料、例えばAIScNの同時堆積を必要とし得る圧電材料の使用がより容易であることも指摘し得る。
【0059】
別の利点は、上面がより良好な垂直結晶方位を有する一方で、側面が傾斜結晶方位を有することである。全ウエハ及び各コイル上の堆積物の均質性は、かなりより高い。
【0060】
比較として、ひげぜんまいの側面上の堆積物の厚さは、ひげぜんまいのコイルの間の間隔にも依存し、このことは、上記で説明した陰影効果に関連する。よりコイルが近いほど、側面に堆積する厚さはより小さくなり、側面上の厚さの勾配はより大きくなる。トップダウン型堆積の場合、圧電層の厚さは、各コイル上でほぼ同一である。このことは、製造の正確さを制御し、製造設計と現実との間の差を制限する点で有利である。
【0061】
使用される電極の対の数は、2に限定されない。例えば、3又は4対の電極を使用し得る。数対の電極の場合、異なる電圧シーケンス、例えば、時計の振幅に対するドリフトを修正するための中心対に対する電気励起、及びエネルギー回収又は収集のための2つの外側の対に対する電気励起を層に印加し得る。
【0062】
代替的に、奇数対の電極、例えば、3対の電極を使用でき、中心対は収集器としてのみ使用され、外側層は、ひげぜんまいに作用するために使用される。このようにして、様々な修正回路を使用でき、直接的なフィードバックは、中心層上で収集される情報に応じて変化する。
【0063】
方法の第1の代替実施形態及び第2の代替実施形態のいずれかの場合、方法の最終ステップは、絶縁体の一部を形成するシリコン基板を除去することとし得る。その後、シリコンひげぜんまいは、発振周波数を自己調整する回路、又はエネルギー回収回路、又はムーブメントを作動させるか若しくはムーブメントを自動で維持するモータ回路に接続し得る。更に、シリコンひげぜんまいは、他のシステム構成要素に接続するための印刷回路板に接続し得る。圧電ひげぜんまいの一端における2つの接続端子は、圧電ひげぜんまい3の上面20に配設された少なくとも2対の電極8a、8b、8c、8dに接続される。電極8a及び8dは、第1の接続端子に接続される一方で、電極8b及び8cは、第2の接続端子に接続される。
【0064】
前述のように、電極及び圧電層を上面に生成することによって、ひげぜんまい上の圧電層の厚さ又は長さでさえ増大することが容易である。圧電層は、上面では最大3μmの厚さを容易に作製し得る一方で、側面では1μmの厚さのみを制御し得る。これらの値は、圧電層としてAINの使用に対応する。KNN等のいくつかの他の材料は、最大5μm堆積し得る。パターン形成に多少の困難が生じる可能性があるが、より高い圧電係数を有する材料の使用を伴わない。
【0065】
2対の電極の電極及び圧電層は、接続端子が位置するひげぜんまいの第1の端部からひげぜんまいの最初の1巻きのみにわたり延在し得ることに留意されたい。このことは、低出力自己調整回路に対して有利である。
【0066】
更に、ひげぜんまいの上面に連続的に堆積された電極及び圧電層の寸法及び主に幅は、製造方法の結果として、数μmかなりわずかに変動し得る。したがって、上面に直接堆積されたそれぞれの第1の電極は、層上に堆積された第2の電極よりもわずかに幅が広い場合がある。
【0067】
たった今示してきた説明から、特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲から逸脱することなく、圧電ひげぜんまいのいくつかの他の実施形態を生成し得る。圧電ひげぜんまいの上面に、異なる材料から作製される2つの圧電層を使用し得る。
【符号の説明】
【0068】
2 発振機構システム
3 圧電ひげぜんまい
7 圧電層
8a 電極
8b 電極
8c 電極
8d 電極
10 回路
20 上面
17 圧電層
27 圧電層