(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】溶接構造
(51)【国際特許分類】
F16K 7/12 20060101AFI20240607BHJP
F16J 3/02 20060101ALI20240607BHJP
F16K 7/16 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
F16K7/12 B
F16J3/02 C
F16K7/16 C
(21)【出願番号】P 2022201071
(22)【出願日】2022-12-16
(62)【分割の表示】P 2019051370の分割
【原出願日】2019-03-19
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】室屋 祐成
(72)【発明者】
【氏名】南波佐間 一徳
(72)【発明者】
【氏名】金崎 文雄
(72)【発明者】
【氏名】村田 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】宮川 理
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 龍介
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-310462(JP,A)
【文献】特開平08-219303(JP,A)
【文献】特開平08-219304(JP,A)
【文献】特開2004-257549(JP,A)
【文献】実開昭62-093469(JP,U)
【文献】特開昭62-288786(JP,A)
【文献】特開平02-142691(JP,A)
【文献】特表昭59-501956(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111232(WO,A1)
【文献】特開2017-035736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00
B23K 15/00 - 15/10
B23K 26/00 - 26/70
F16K 7/12 - 7/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁室内に設けられる弁体と、前記弁室をシールするダイヤフラムと、を備えた弁装置における前記弁体と前記ダイヤフラムとを溶接接合するための溶接構造であって、
前記弁体は、円柱状の軸部を有し、
前記ダイヤフラムは、1又は複数の薄板材で構成されるとともに、前記軸部を挿通させる挿通孔を有して構成され、
前記軸部には、第一面と、その反対側の第二面と、を有して軸方向に突出するとともに、周方向に連続した環状の接続部が設けられ、
前記ダイヤフラムの前記挿通孔には、前記接続部の前記第一面に沿って軸方向に延びるとともに、周方向に連続した環状の被溶接部が設けられ、
前記接続部および前記被溶接部は、互いの先端部同士が溶接されて断面円形の溶融固化部によって接合されていることを特徴とする溶接構造。
【請求項2】
前記被溶接部は、前記ダイヤフラムを構成する薄板材の端部を折り返して重ねた折返部によって構成され、前記薄板材の端縁側が前記接続部の前記第一面に沿って設けられていることを特徴とする請求項1に記載の
溶接構造。
【請求項3】
前記溶融固化部の直径は、前記接続部の先端側および前記被溶接部を合せた厚み寸法以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の溶接構造。
【請求項4】
前記接続部の先端側および前記被溶接部の先端側の厚み寸法は、互いに同程度であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の溶接構造。
【請求項5】
前記弁体の前記軸部は、主としてオーステナイト系ステンレス鋼からなり、前記ダイヤフラムの薄板材は、主としてニッケル基合金からなることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の溶接構造。
【請求項6】
前記溶融固化部の直径は、前記接続部の先端側および前記被溶接部を合せた厚み寸法に対し、1.1倍以上かつ1.6倍以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の溶接構造。
【請求項7】
前記接続部における前記第一面と前記第二面とは、当該接続部の先端に向かって狭まる交差角度を有して設けられ、前記交差角度が40°以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の
溶接構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁室内に設けられる弁体と、弁室をシールするダイヤフラムと、を備えた弁装置における弁体とダイヤフラムとを溶接接合するための溶接構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、冷凍空調装置等に利用される弁装置において、弁室をシールするためのシール部材として、金属ダイヤフラムが利用されている。(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された弁装置(ダイヤフラム弁)は、弁室および弁口(弁座)を有する弁本体(ボディおよびボンネット)と、弁室内に進退自在に設けられる弁体(ステムおよびディスク)と、弁本体と弁体とに亘って設けられて弁室をシールする金属ダイヤフラムと、を備えている。金属ダイヤフラムは、全体円盤状(皿状)の薄板材で形成され、中央部に弁体の軸部を挿通させる挿通孔(取り付け穴)が形成されている。金属ダイヤフラムの外周縁部は、弁本体に挟持されて固定され、内周縁部は、弁体の軸部に溶接されて固着されている。
【0003】
ところで、冷媒等の高温、高圧流体の流量等を制御する弁装置において、金属ダイヤフラムの金属素材としては耐熱性や耐蝕性に優れたステンレス合金やニッケル基合金が用いられ、その溶接対象物である弁体の金属素材としてはステンレス合金が用いられることがある。特に、ステンレス合金としては、オーステナイト系ステンレス鋼(例えば、SUS316Lなど)が用いられ、ニッケル基合金としては、耐熱性、耐蝕性、耐酸化性などに優れたインコネル(登録商標。例えば、インコネル625など)が用いられることがあり、加工性や材料コスト等の要因から部位ごとに異なる金属素材が適宜に選択され、その異種金属素材同士が溶接されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、オーステナイト系ステンレス鋼は、一般的に溶接割れを起こしやすい金属素材であることが知られており、オーステナイト系ステンレス鋼とニッケル基合金等との異種金属素材同士の溶接においても、溶接欠陥が生じやすいことが予想される。特に、薄板材からなる金属ダイヤフラムを肉厚な弁体等に溶接する際に、金属ダイヤフラムを板厚方向に貫通して弁体の内部に至るような溶接部が形成されると、溶融金属が固化するときの収縮が拘束されることから、溶接固化部に引張応力が作用して割れが発生しやすくなる。このため、金属ダイヤフラムと弁体等との異種金属素材同士の溶接部における溶接割れを防止しつつ、溶接耐久性を向上させることができる溶接構造が求められていた。
【0006】
本発明の目的は、弁装置における弁体とダイヤフラムとを溶接接合する際の溶接割れを防止しつつ、溶接耐久性を向上させることができる溶接構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の溶接構造は、弁室内に設けられる弁体と、前記弁室をシールするダイヤフラムと、を備えた弁装置における前記弁体と前記ダイヤフラムとを溶接接合するための溶接構造であって、前記弁体は、円柱状の軸部を有し、前記ダイヤフラムは、1又は複数の薄板材で構成されるとともに、前記軸部を挿通させる挿通孔を有して構成され、前記軸部には、第一面と、その反対側の第二面と、を有して軸方向に突出するとともに、周方向に連続した環状の接続部が設けられ、前記ダイヤフラムの前記挿通孔には、前記接続部の前記第一面に沿って軸方向に延びるとともに、周方向に連続した環状の被溶接部が設けられ、前記接続部および前記被溶接部は、互いの先端部同士が溶接されて断面円形の溶融固化部によって接合されていることを特徴とする。
【0008】
以上のような本発明によれば、弁体の軸部に設けた接続部およびダイヤフラムの挿通孔に設けた被溶接部の先端部に断面円形の溶融固化部が形成されていることで、溶接割れを防止することができる。すなわち、接続部および被溶接部の先端部同士を溶接することで、溶融した金属が表面張力で円形(溶接部が点であれば球状)となり、凝固する過程で収縮したとしても、その収縮力が母材に作用しにくくなり、収縮による引張応力の発生を抑制することができる。従って、溶融固化部や周辺の母材における溶接割れを防止することができ、残留応力を抑制することによって溶接耐久性を向上させることができる。また、溶融固化部が周方向に連続した環状に形成され、この溶融固化部の溶接耐久性が向上することで、ダイヤフラムによる良好なシール性が維持されることから弁装置の製品寿命を延ばすことができる。
【0009】
この際、前記溶融固化部の直径は、前記接続部の先端側および前記被溶接部を合せた厚み寸法以上であることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、溶融固化部が接続部の先端側および被溶接部を合せた厚み寸法以上の直径を有する断面円形に形成されることで、溶融固化部と被溶接部および接続部とを滑らかに連続させ、被溶接部や接続部の先端にエッジが残らないようにすることができる。
【0011】
さらに、前記接続部の先端側および前記被溶接部の先端側の厚み寸法は、互いに同程度であることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、互いに同程度の厚み寸法を有する接続部および被溶接部の先端部を溶接することで、溶接時の溶融金属量を同等にするとともに、生じる熱や応力を均等化することができ、母材に与える熱や応力の影響を抑制して溶接割れを防止することができる。
【0013】
また、前記弁体の前記軸部は、主としてオーステナイト系ステンレス鋼からなり、前記ダイヤフラムの薄板材は、主としてニッケル基合金からなってもよい。
【0014】
この構成によれば、弁体の軸部およびダイヤフラムの薄板材がオーステナイト系ステンレス鋼とニッケル基合金とからなる異種金属素材同士であり、溶融固化部や周辺の母材に溶接割れが生じやすい条件であっても、溶接割れを防止することができる。
【0015】
また、前記溶融固化部の直径は、前記接続部の先端側および前記被溶接部を合せた厚み寸法に対し、1.1倍以上かつ1.6倍以下であることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、溶融固化部の直径が接続部の先端側および被溶接部を合せた厚み寸法に対して1.1倍以上かつ1.6倍以下に設定されることで、被溶接部や接続部の先端にエッジが残らず、溶接部の溶接耐久性や力学特性を向上させることができる。
【0017】
さらに、前記接続部における前記第一面と前記第二面とは、当該接続部の先端に向かって狭まる交差角度を有して設けられ、前記交差角度が40°以下であることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、接続部における第一面と第二面とが先端に向かって狭まる40°以下の交差角度で設けられていることで、溶融金属が凝固する際の収縮力が母材に与える影響を抑制し、接続部の溶接割れを防止することができる。
【0019】
また、前記被溶接部は、前記ダイヤフラムを構成する薄板材の端部を折り返して重ねた折返部によって構成され、前記薄板材の端縁側が前記接続部の前記第一面に沿って設けられていることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、薄板材の端部を折り返して重ねた折返部によってダイヤフラムの被溶接部を構成することで、被溶接部の厚み寸法が大きくなり、溶接時の熱の影響や凝固する際の収縮力の影響を抑制し、被溶接部の溶接割れを防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の溶接構造によれば、ダイヤフラムと弁体との溶接部における溶接割れを防止しつつ、溶接耐久性を向上させることができ、弁装置の製品寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る溶接構造を用いた弁装置を示す断面図である。
【
図3】前記弁装置における溶接構造を示す拡大断面図である。
【
図4】前記弁装置における溶接構造の変形例を示す拡大断面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る溶接構造を用いた弁装置を示す断面図である。
【
図7】前記弁装置における溶接構造を示す拡大断面図である。
【
図8】本発明の第1の変形例の溶接構造を示す拡大断面図である。
【
図9】本発明の第2の変形例の溶接構造を示す拡大断面図である。
【
図10】本発明の第3の変形例の溶接構造を示す拡大断面図である。
【
図11】本発明の第4の変形例の溶接構造を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第1実施形態に係る溶接構造を用いた弁装置について、
図1~
図4を参照して説明する。本実施形態の弁装置は、変位可能なシール部材である金属ダイヤフラムを備えたものである。
図1は、実施形態の弁装置であるダイヤフラム弁10を示す断面図である。
図2は、ダイヤフラム弁10の要部を示す拡大断面図であり、
図1に丸囲み部Aで示す部分の拡大図である。
図3は、ダイヤフラム弁10における溶接構造を示す拡大断面図であり、
図2に丸囲み部Bで示す部分の拡大図である。また、
図3(A)は溶接接合された弁体およびダイヤフラムの要部を示し、
図3(B)は弁体およびダイヤフラムの溶接接合前の状態を示している。
【0024】
ダイヤフラム弁10は、
図1に示すように、内部に弁室11を有する弁本体(ボディ)12と、弁室11内に設けられた弁体13と、弁体13を進退移動させるために回転操作される操作部14と、弁室11の内部をシールする金属ダイヤフラム15と、を備えた手動開閉タイプのバルブである。弁本体12は、互いに螺合される第1部材12aおよび第2部材12bを備え、第1部材12aと第2部材12bとの面合せ部に金属ダイヤフラム15の外周縁が挟持されている。
【0025】
弁本体12の第1部材12aは、その一端側に開口して弁室11に連通する流入ポート12cと、他端側に開口して弁室11に連通する流出ポート12dと、流入ポート12cが弁室11に開口した開口である弁ポート12eと、を備える。弁本体12の第2部材12bは、全体円筒状に形成され、操作部14の軸部14bを回転支持する軸受部12fと、軸部14bの雄ねじ部14cと螺合する雌ねじ部12gと、を備えて構成されている。
【0026】
弁体13は、
図2に示すように、上下にフランジを有した円筒状の弁体ケース13aと、弁体ケース13aの内部に保持された弁部材13bと、弁部材13bよりも上側にて弁体ケース13aに保持された連結部材13cと、連結部材13cの上面の凹穴に設けられた球体13dと、を有して構成されている。弁部材13bは、樹脂製やゴム製のパッキン
であって、弁ポート12eに着座して密閉可能に構成されている。連結部材13cは、弁体ケース13aよりも上方に延びる円柱状の軸部13eを有し、この軸部13eに金属ダイヤフラム15が固定されている。球体13dは、連結部材13cの凹穴に転動自在に支持されるとともに、上方から当接する操作部14の当接部14dと連結部材13cとの間に挟まれている。この球体13dによって操作部14の中心軸X回りの回転や弁体13の傾き等が吸収されることで、操作部14からの下向きの押圧力だけが球体13dを介して弁体13に伝達されるようになっている。
【0027】
操作部14は、ハンドル14aと、ハンドル14aに上端部が固定されて軸方向に延びる軸部14bと、軸部14bに設けられた雄ねじ部14cと、雄ねじ部14cよりも下方の先端部に設けられた当接部14dと、を備える。軸部14bは、弁本体12の軸受部12fに回転支持され、雄ねじ部14cは、雌ねじ部12gに螺合されている。当接部14dは、弁体13の球体13dに当接して設けられている。
【0028】
金属ダイヤフラム15は、1枚の全体円形板状(皿状)の金属薄板材からなり、中央部に弁体13の軸部13eを挿通させる挿通孔15aが形成されている。金属ダイヤフラム15は、その外周縁が弁本体12の第1部材12aと第2部材12bとの間に挟持され、挿通孔15aの内周縁が弁体13の軸部13eに溶接固定されている。また、金属ダイヤフラム15は、自身の弾性により面外方向に撓むことで弁体13を上下移動自在に支持するとともに、
図1、2に示すように、金属ダイヤフラム15の弾性による上向きの付勢力が作用することで、弁体13は、弁部材13bが弁ポート12eから離れた弁開位置にて支持されている。
【0029】
このようなダイヤフラム弁10では、操作部14のハンドル14aが回転操作されることで、雄ねじ部13bが雌ねじ部12gに案内されて操作部14が上下移動し、この上下移動が当接部14dおよび球体13dを介して弁体13に伝達される。ハンドル14aの閉操作により操作部14が下方に移動すると、その押圧力によって金属ダイヤフラム15を面外方向下向きに撓ませつつ弁体13が下方に移動し、弁部材13bが弁ポート12eに着座する。ハンドル14aの開操作により操作部14が上方に移動すると、金属ダイヤフラム15が初期位置に復帰しようとする弾性力(復元力)によって弁部材13bが上方に移動し、弁部材13bが弁ポート12eから離座する。このように弁部材13bは、操作部14のハンドル14aの操作に伴って弁閉位置と弁閉位置との間を上下方向に進退移動するようになっている。
【0030】
次に、
図3を参照して金属ダイヤフラム15と弁体13の軸部13eとの溶接構造について説明する。金属ダイヤフラム15の厚み寸法tは、0.2mm~0.4mm程度であり、挿通孔15a側の端部には、下方に向かって折り曲げられるとともに径方向の外側方向に延び、周方向に連続した環状の被溶接部15bが設けられている。被溶接部15bの厚み寸法TBは、金属ダイヤフラム15の厚み寸法tと略同一(TB=t)の0.2mm~0.4mm程度となっている。
【0031】
軸部13eには、径方向の外側方向に突出した接続部16が周方向に連続した環状に形成されている。接続部16は、
図3(B)に示すように、被溶接部15bが沿う上側の第一面16aと、その反対側(下側)の第二面16bと、接続部16の先端側を構成する第三面16cと、を有して突起状に形成され、第二面16bが中心軸Xと略直交する面に沿って延び、この第二面16bと第一面16aとの交差角度θが30°程度になっている。接続部16の先端側の厚み寸法TFと、被溶接部15bの厚み寸法TBとは、互いに同程度(TF=TB、0.2mm~0.4mm程度)となっている。なお、被溶接部15bの厚み寸法TBと接続部16の先端側の厚み寸法TFとは、0.8≦(TB/TF)≦1.2となるように設定されていることが好ましい。また、第一面16aと第二面16bとの交差角度
θは、40°以下であることが好ましい。
【0032】
溶融固化部17は、被溶接部15bおよび接続部16の先端側からの電子ビーム溶接によって被溶接部15bおよび接続部16の先端部を溶融、固化させることで形成され、周方向に連続した環状に形成されている。溶融固化部17は、溶接時に溶融した金属が固化する際に、その表面張力によって収縮することで断面円形に形成されている。溶融固化部17の中心Oは、被溶接部15bと接続部16の接触面(第一面16a)の延長線上に位置し、溶融固化部17の半径Rは、被溶接部15bの厚み寸法TBおよび接続部16の先
端側の厚み寸法TF以上であり、すなわち、溶融固化部17の直径が被溶接部15bおよ
び接続部16の先端側を合せた厚み寸法以上に形成されている。なお、溶融固化部17は、被溶接部15bや接続部16の先端にエッジが残らず、かつ滑らかに連続することが好ましく、そのために溶融固化部17の直径は、被溶接部15bおよび接続部16の先端側を合せた厚み寸法の1.1倍以上かつ1.6倍以下であることが好ましい。
【0033】
次に、ダイヤフラム弁10を構成する各部材の金属素材について説明する。金属ダイヤフラム15は、主としてニッケル基合金から構成される。ニッケル基合金としては、耐熱性、耐蝕性、耐酸化性などに優れたインコネル(登録商標)が好適である。ニッケル基合金は、含有ニッケル量が50%以上のものであって、NCF600、NCF601、NCF625、NCF690、NCF718、NCF750、NCF751、NCF80A(以上の記号は、JIS G 4902:1992耐食耐熱超合金板に基づく)が例示できる。
【0034】
弁体13の連結部材13cは、主としてオーステナイト系ステンレス鋼から構成される。オーステナイト系ステンレス鋼としては、SUS304系のものが好適であるが、その中でも耐蝕性に優れたSUS316L、SUS316LN、SUS321、SUS347が例示できる。このようなオーステナイト系ステンレス鋼からなる連結部材13cと、ニッケル基合金からなる金属ダイヤフラム15と、の溶接によって形成される溶融固化部17は、主としてオーステナイト相となる。
【0035】
なお、本実施形態における溶接構造は、以下の
図4に示すものであってもよい。
図4は、ダイヤフラム弁10における溶接構造の変形例を示す拡大断面図である。
【0036】
図4に示す変形例の溶接構造において、金属ダイヤフラム15は、厚み寸法tが0.1mm~0.2mm程度の薄板材からなり、その被溶接部15bは、薄板材の端部を折り返して重ねた折返部によって構成されている。この被溶接部15bは、周方向に連続した環状に形成されるとともに、薄板材の端縁側が接続部16の第一面16aに沿って設けられている。被溶接部15bの厚み寸法TBは、薄板材を2枚重ねた寸法(TB=2t)であり、0.2mm~0.4mm程度となっている。また、接続部16の第一面16aは、中心軸Xに対して略45°傾斜した面に沿って延び、この第一面16aと第二面16bとの交差角度θが10°程度になっている。
【0037】
以上の本実施形態によれば、金属ダイヤフラム15の被溶接部15bおよび弁体13の接続部16の先端部に溶融固化部17が設けられ、被溶接部15bおよび接続部16を合せた厚み寸法以上の直径を有する断面円形に溶融固化部17が形成されている。このように被溶接部15bおよび接続部16の先端部同士を溶接することで、溶融した金属が表面張力で断面円形となり、凝固する過程で収縮したとしても、その収縮力が母材に作用しにくくなり、収縮による引張応力の発生を抑制することができる。従って、溶融固化部17や周辺の母材における溶接割れを防止することができ、残留応力を抑制することによって溶接耐久性を向上させることができる。
【0038】
金属ダイヤフラム15の被溶接部15bの先端側および弁体13の接続部16の先端側
の厚み寸法TF,TBが互いに同程度であり、このように互いに同程度の厚み寸法を有した被溶接部15bおよび接続部16の先端部同士を溶接することで、溶接時の溶融金属量を同等にするとともに、生じる熱や応力を均等化することができ、母材に与える熱や応力の影響を抑制して溶接割れを防止することができる。
【0039】
また、弁体13の連結部材13cが主としてオーステナイト系ステンレス鋼からなり、金属ダイヤフラム15が主としてニッケル基合金からなり、溶融固化部17が主としてオーステナイト相となる異種金属素材同士であり、溶融固化部17や周辺の母材に溶接割れが生じやすい条件であっても、溶接割れを防止することができる。
【0040】
また、溶融固化部17の直径が被溶接部15bおよび接続部16の先端側を合せた厚み寸法以上に形成されていることで、溶融固化部17と被溶接部15bおよび接続部16とを滑らかに連続させ、被溶接部15bや接続部16の先端にエッジが残らないようにでき、溶接部の溶接耐久性や力学特性を向上させることができる。
【0041】
また、接続部16における第一面16aと第二面16bとが先端に向かって狭まる40°以下の交差角度θで設けられていることで、溶融金属が凝固する際の収縮力が母材に与える影響を抑制し、接続部16周辺の溶接割れを防止することができる。
【0042】
また、金属ダイヤフラム15において、
図4に示すように、薄板材の端部を折り返して重ねた折返部によって被溶接部15bを構成することで、被溶接部15bの厚み寸法が大きくなり、溶接時の熱の影響や凝固する際の収縮力の影響を抑制し、被溶接部15bの溶接割れを防止することができる。
【0043】
また、ダイヤフラム弁10の金属ダイヤフラム15において、周方向に連続した溶融固化部17が形成され、この溶融固化部17周辺の溶接割れが防止されて溶接耐久性が向上することで、金属ダイヤフラム15の良好なシール性が維持されることからダイヤフラム弁10の製品寿命を延ばすことができる。
【0044】
次に、本発明の第2実施形態に係る溶接構造を用いた弁装置について、
図5~
図7を参照して説明する。
図5は、本実施形態の弁装置であるダイヤフラム弁20を示す断面図である。
図6は、ダイヤフラム弁20の要部を示す拡大断面図であり、
図5に丸囲み部Aで示す部分の拡大図である。
図7は、ダイヤフラム弁20における溶接構造を示す拡大断面図であり、
図6に丸囲み部Bで示す部分の拡大図である。また、
図7(A)は溶接接合された弁体およびダイヤフラムの要部を示し、
図7(B)は弁体およびダイヤフラムの溶接接合前の状態を示している。
【0045】
ダイヤフラム弁20は、前記第1実施形態のダイヤフラム弁10と略同様の構造を備えた手動開閉タイプのバルブであり、
図5に示すように、内部に弁室21を有する弁本体(ボディ)22と、弁室21内に設けられた弁体23と、弁体23を進退移動させるために回転操作される操作部24と、弁室21の内部をシールする金属ダイヤフラム25と、を備える。弁本体22は、互いに螺合される第1部材22aおよび第2部材22bを備え、第1部材22aと第2部材22bとの面合せ部に金属ダイヤフラム25の外周縁が挟持されている。
【0046】
弁本体22の第1部材22aは、流入ポート22cと、流出ポート22dと、弁ポート22eと、を備え、第2部材22bは、軸受部22fと、雌ねじ部22gと、を備えて構成されている。弁体23は、
図6に示すように、弁体ケース23aと、弁部材23bと、連結部材23cと、球体23dと、を有して構成されている。連結部材23cは、円柱状の軸部23eを有し、この軸部23eに金属ダイヤフラム25が固定されている。操作部
24は、ハンドル24aと、軸部24bと、雄ねじ部24cと、当接部24dと、を備える。
【0047】
金属ダイヤフラム25は、1枚の全体円形板状(皿状)の金属薄板材からなり、中央部に弁体23の軸部23eを挿通させる挿通孔25aが形成されている。金属ダイヤフラム25は、その外周縁が弁本体22の第1部材22aと第2部材22bとの間に挟持され、挿通孔25aの内周縁が弁体23の軸部23eに溶接固定されている。
【0048】
次に、
図7を参照して金属ダイヤフラム25と弁体23の軸部23eとの溶接構造について説明する。金属ダイヤフラム25の厚み寸法tは、0.2mm~0.4mm程度であり、挿通孔25a側の端部には、軸方向(中心軸Xの方向)に沿って上方に折り曲げられるとともに、周方向に連続した環状の被溶接部25bが設けられている。被溶接部25bの厚み寸法TBは、金属ダイヤフラム25の厚み寸法tと略同一(TB=t)の0.2mm~0.4mm程度となっている。
【0049】
軸部23eには、軸方向に沿って上方に突出した接続部26が周方向に連続した環状に形成されている。接続部26は、
図7(B)に示すように、被溶接部25bが沿う径方向外側の第一面26aと、その反対側(径方向内側)の第二面26bと、接続部26の先端側を構成する第三面26cと、を有して突起状に形成され、第一面26aと第二面26bとの交差角度θが20°程度になっている。接続部26の先端側の厚み寸法TFと、被溶
接部25bの厚み寸法TBとは、互いに同程度(TF=TB、0.2mm~0.4mm程度
)となっている。なお、被溶接部25bの厚み寸法TBと接続部26の先端側の厚み寸法
TFとは、0.8≦(TB/TF)≦1.2となるように設定されていることが好ましい。
また、第一面26aと第二面26bとの交差角度θは、40°以下であることが好ましい。
【0050】
溶融固化部27は、被溶接部25bおよび接続部26の先端側からの電子ビーム溶接によって被溶接部25bおよび接続部26の先端部を溶融、固化させることで形成され、周方向に連続した環状に形成されている。溶融固化部27は、溶接時に溶融した金属が固化する際に、その表面張力によって収縮することで断面円形に形成されている。溶融固化部27の中心Oは、被溶接部25bと接続部26の接触面(第一面26a)の延長線上に位置し、溶融固化部27の半径Rは、被溶接部25bの厚み寸法TBおよび接続部26の先
端側の厚み寸法TF以上であり、すなわち、溶融固化部27の直径が被溶接部25bおよ
び接続部26の先端側を合せた厚み寸法以上に形成されている。なお、溶融固化部27は、被溶接部25bや接続部26の先端にエッジが残らず、かつ滑らかに連続することが好ましく、そのために溶融固化部27の直径は、被溶接部25bおよび接続部26の先端側を合せた厚み寸法の1.1倍以上かつ1.6倍以下であることが好ましい。
【0051】
以上のダイヤフラム弁20を構成する各部材の金属素材としては、前記第1実施形態のダイヤフラム弁10と同様であり、金属ダイヤフラム25は、主としてニッケル基合金から構成され、弁体23の連結部材23cは、主としてオーステナイト系ステンレス鋼から構成される。従って、連結部材23cと金属ダイヤフラム25との溶接によって形成される溶融固化部27は、主としてオーステナイト相となる。なお、本実施形態において、被溶接部25bは、金属ダイヤフラム25の挿通孔25a側の端部から軸方向下向きに折り曲げられ、接続部26は、軸部23eから軸方向に下向きに突出して設けられ、これらの被溶接部25bと接続部26の先端部同士が溶接接合されていてもよい。
【0052】
以上の本実施形態によれば、前記第1実施形態と同様の効果を奏することができ、溶融固化部27や周辺の母材における溶接割れを防止することができ、残留応力を抑制することによって溶接耐久性を向上させることができる。従って、金属ダイヤフラム25の良好
なシール性が維持されることからダイヤフラム弁20の製品寿命を延ばすことができる。
【0053】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。例えば、前記実施形態では、弁装置として、手動開閉タイプのバルブを例示したが、本発明の弁装置は、モータによって駆動される電動弁や、その他の開閉形式を備えたものなどにも適用可能である。
【0054】
また、前記実施形態では、弁体13,23の軸部13e,23eおよび金属ダイヤフラム15,25の金属素材として、オーステナイト系ステンレス鋼とニッケル基合金との組合せを例示したが、各部の金属素材としては、同種のものを組み合わせてもよいし、前記実施形態の組合せ以外の異種金属を組み合わせてもよい。また、金属ダイヤフラム15,25の被溶接部15b,25bおよび弁体13,23の接続部16,26の形状や寸法についても前記実施形態のものに限定されず、それらの先端部に形成される溶融固化部が断面円形となっていればよい。
【0055】
また、前記実施形態では、被溶接部15b,25bおよび接続部16,26の先端部を電子ビーム溶接によって溶接して溶融固化部17が形成されるものとしたが、これに限らず、レーザー溶接やマイクロプラズマ溶接(TIG溶接)など、適宜な溶接方法を採用することができる。
【0056】
また、前記第2実施形態では、金属ダイヤフラム25の挿通孔25a側の端部に、軸方向に沿って上方に折り曲げられた被溶接部25bが設けられるものとしたが、ダイヤフラムは、挿通孔側において軸方向に沿って折り曲げられた後、径方向に沿って折り曲げられていてもよい。
【0057】
例えば、第1の変形例として
図8に示す溶接構造のように、金属ダイヤフラム3が、接続部26の第一面26aに沿って軸方向に延びる第1環状部31と、第1環状部31の先端から径方向の内側方向に延びる第2環状部32と、を有する構成としてもよい。第1環状部31は、前記第2実施形態の被溶接部25bに相当する部分であって、周方向に連続して形成される。第2環状部32は、周方向に連続して形成され、接続部26の先端部である第三面26cに重ねられる。電子ビーム溶接によって、第2環状部32および接続部26の先端部を溶融、固化させることにより、周方向に連続した環状の溶融固化部33が形成される。このとき、第1環状部31の先端部も同時に溶融、固化されてもよい。また、図示の形状では、第2環状部32全体が溶融されているが、第2環状部32のうち先端部のみが溶融されてもよい。
【0058】
尚、第1の変形例では、前記第2実施形態と同様に接続部26が軸方向に沿って突出しているものとしたが、前記第1実施形態のように接続部16が径方向に沿って突出した構成において、ダイヤフラムに、接続部16の第一面16aに沿って径方向の外側方向に延びるとともに周方向に連続した第1環状部と、第1環状部の先端から軸方向に延びて接続部16の先端部に重ねられるとともに周方向に連続した第2環状部と、を設けてもよい。
【0059】
また、前記実施形態では、金属ダイヤフラム15、25が1枚の金属薄板材からなるものとしたが、ダイヤフラムは複数の薄板材によって構成されていてもよい。例えば第2~第4の変形例として
図9~11のそれぞれに示す溶接構造のように、金属ダイヤフラムが2枚の金属薄板材によって構成されるものとしてもよい。
【0060】
第2の変形例の溶接構造では、金属ダイヤフラム4が、上側の第1薄板41と下側の第2薄板42とを有する。第1薄板41は、接続部26の第一面26aに沿って軸方向に延びる第1環状部411と、第1環状部411の先端から径方向の内側方向に延びる第2環
状部412と、を有し、第1の変形例における金属ダイヤフラム3と同様の形状を有している。第2薄板42は、接続部26の第一面26aに沿って軸方向に延びる被溶接部421を有し、前記第2実施形態の金属ダイヤフラム25と同様の形状を有している。電子ビーム溶接によって、第2環状部412の先端部と、被溶接部421の先端部と、接続部26の先端部と、を溶融、固化させることにより、周方向に連続した環状の溶融固化部43が形成される。このとき、第1環状部411の先端部も同時に溶融、固化されてもよい。
【0061】
第3の変形例の溶接構造では、金属ダイヤフラム5が、上側の第1薄板51と下側の第2薄板52とを有する。第1薄板51は、接続部26の第一面26aに沿って軸方向に延びる第1環状部511と、第1環状部511の先端から径方向の内側方向に延びる第2環状部512と、を有し、第1の変形例における金属ダイヤフラム3と同様の形状を有している。第2薄板52は、接続部26の第一面26aに沿って軸方向に延びる第1環状部521と、第1環状部521の先端から径方向の内側方向に延びる第2環状部522と、を有し、第1の変形例における金属ダイヤフラム3と同様の形状を有している。電子ビーム溶接によって、第2環状部512の先端部と、第2環状部522の先端部と、接続部26の先端部と、を溶融、固化させることにより、周方向に連続した環状の溶融固化部53が形成される。このとき、第1環状部511、521の先端部も同時に溶融、固化されてもよい。
【0062】
第4の変形例の溶接構造では、金属ダイヤフラム6が、上側の第1薄板61と下側の第2薄板62とを有する。第1薄板61は、接続部26の第一面26aに沿って軸方向に延びる被溶接部611を有し、前記第2実施形態の金属ダイヤフラム25と同様の形状を有している。第2薄板62は、接続部26の第一面26aに沿って軸方向に延びる被溶接部621を有し、前記第2実施形態の金属ダイヤフラム25と同様の形状を有している。電子ビーム溶接によって、被溶接部611の先端部と、被溶接部621の先端部と、接続部26の先端部と、を溶融、固化させることにより、周方向に連続した環状の溶融固化部63が形成される。
【0063】
尚、第2~第4の変形例においては、第1薄板および第2薄板の合計の厚み寸法は、前記実施形態における金属ダイヤフラム15、25の厚み方向寸法tと同程度であればよい。また、第1~第4の変形例の溶融固化部33、43、53、63は、前記実施形態における溶融固化部17、27と同程度の寸法を有していればよい。
【0064】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
10,20 ダイヤフラム弁(弁装置)
11,21 弁室
13,23 弁体
13e,23e 軸部
15,25、3~6 金属ダイヤフラム
15a,25a 挿通孔
15b,25b、421、611、621 被溶接部
16,26 接続部
16a,26a 第一面
16b,26b 第二面
17,27、33、43、53、63 溶融固化部
31、411、511、521 第1環状部
32、412、512、522 第2環状部