(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞に由来するエクソソームを含む腎臓疾患の予防又は治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20240607BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20240607BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
A61K35/28
C12N5/0775 ZNA
A61P13/12
(21)【出願番号】P 2022527079
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(86)【国際出願番号】 KR2020015790
(87)【国際公開番号】W WO2021096220
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】10-2019-0144420
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0149965
(32)【優先日】2020-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521504245
【氏名又は名称】プレクソジェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】スゥ・キム
(72)【発明者】
【氏名】スルギ・リ
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-542158(JP,A)
【文献】特許第7246569(JP,B2)
【文献】Int. J. Mol. Sci. (2018) Vol.19, No.3119, pp.1-16
【文献】Int. J. Mol. Sci.,2019年04月01日,Vol.20, No.1619,pp.1-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前処理物質で前処理された、誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell、iPSC)由来間葉幹細胞(mesenchymal stem cell、MSC)の前駆細胞から分離されたエクソソームを有効成分として含み、
前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞が、細胞表面にSSEA-4(stage-specific embryonic antigen 4)タンパク質を発現しないSSEA-4(-)細胞の培養細胞であり、前記SSEA-4(-)細胞が誘導万能幹細胞に由来し、
前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞が、12~36時間前処理され、前処理物質が10~100nMのエクセンディン-4又は5~50μMのラニフィブラノールである、腎臓疾患(Kidney disease)の予防又は治療用薬剤学的組成物。
【請求項2】
前記腎臓疾患は、腎臓線維症、糖尿病性腎症、高血圧性腎症、糸球体腎炎、腎盂腎炎、間質性腎炎、ループス腎炎、多嚢胞性腎臓疾患、腎不全症、糸球体硬化症、移植後の急性拒否反応及び薬物による腎臓損傷からなる群から選ばれる、請求項1に記載の腎臓疾患の予防又は治療用薬剤学的組成物。
【請求項3】
前処理物質で前処理された誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソームであって、
前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞が、細胞表面にSSEA-4(stage-specific embryonic antigen 4)タンパク質を発現しないSSEA-4(-)細胞の培養細胞であり、前記SSEA-4(-)細胞が誘導万能幹細胞に由来し、
前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞が、12~36時間前処理され、前処理物質が10~100nMのエクセンディン-4又は5~50μMのラニフィブラノールである、エクソソーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前処理物質で前処理した或いは前処理していない誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞に由来するエクソソームを有効成分として含む、腎臓疾患の予防又は治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉幹細胞は、多分化能を有する間質細胞であって、造骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、脂肪細胞などを含む様々な細胞へと分化可能な細胞のことをいう。間葉幹細胞は、軟骨や骨組織、靭帯、骨髄基質などの様々な結合組織へと分化可能なことから、関節炎や外傷、火傷などによる軟部組織の欠損を治療するなど、様々な疾患への治療用途として研究されている。
【0003】
最近では、間葉幹細胞自体を用いず、間葉幹細胞が分泌するエクソソームを用いた様々な疾患に対する治療効果に対する研究が活発に行われつつある。このようなエクソソームを商業的に利用するためには、多量かつ良質のエクソソームが必要である。しかしながら、間葉幹細胞から得られるエクソソームの量は僅かであり、間葉幹細胞の機能及び増殖能力も継代の反復につれて減少するため、間葉幹細胞と同等である或いはそれよりも優れた機能性を有しながらも、増殖能力に優れた細胞を確立する技術開発の必要性がでてきた。
【0004】
一方、腎臓は左右に1個ずつ合計2個があり、各腎臓は、約100万個のネフロン(nephron)という基本構造からなり、1個のネフロンは、糸球体と呼ばれる微細な毛細血管の塊と腎細尿管とから構成され、濾過及び吸収の機能を担当する。
【0005】
腎臓が排泄、調節、代謝及び内分泌的機能を正常に行えず、全般的に低下又は異常が起きた状態を腎臓疾患というが、腎臓疾患は、進行状態によって、急性腎不全症と慢性腎不全症とに分類されるか、発病の原因によって、血管複合体の沈着による糸球体腎炎、糖尿病又は高血圧などの合併症による糖尿病性腎症、抗生剤又は抗癌剤などの薬物投与による毒性腎症、細菌感染による尿路感染などに分類される。
【0006】
腎臓疾患は、原因とされる腎臓疾患の種類に関係なく、慢性的に腎機能の障害が進んで糸球体の濾過率が50%以下に減少すると、一般に、糸球体の濾過率が減少し続き、最終的に末期腎不全症に到達して血液学的異常、神経系合併症、胃腸関連合併症、免疫学的合併症、感染又は骨異栄養症などの合併症が発生し、ひどい場合には死に至る。
【0007】
腎臓疾患は、世界的に毎年発病者が増加しており、その上、症状が発現しない或いはよく認知できず、初期に発見しても末期腎不全に至るケースが多い。韓国にも概ね45万人の腎不全症患者がおり、初期腎不全症患者まで考慮すると、発病者はさに多いと予測される。腎不全症の治療において、長期的透析や腎臓移植(renal transplantation)などの治療手段があるものの、慢性腎不全症の初期・中期の治療問題を解決することはできず、しかも治療費用が高いため、国と患者の家庭に深刻な経済的負担をもたらす。
【0008】
したがって、より安全かつ効果的な腎臓疾患の治療に適する新しい治療用組成物の開発ニーズが高まっている状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、間葉幹細胞のエクソソームを用いた腎臓疾患の治療剤を開発しようと鋭意研究努力した。その結果、誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell、iPSC)由来の間葉幹細胞よりも未分化段階にある間葉幹細胞の前駆細胞を確立し、前処理物質で前処理した或いは前処理していない前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞に由来するエクソソームが、腎臓疾患において優れた予防又は治療効果を示すことを究明し、本発明を完成するに至った。
【0010】
したがって、本発明の目的は、誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell、iPSC)由来間葉幹細胞(mesenchymal stem cell、MSC)の前駆細胞から分離されたエクソソームを有効成分として含む、腎臓疾患(Kidney disease)の予防又は治療用薬剤学的組成物を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソームを提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、前処理物質で前処理された、誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell、iPSC)由来間葉幹細胞(mesenchymal stem cell、MSC)の前駆細胞から分離されたエクソソームを有効成分として含む、腎臓疾患(Kidney disease)の予防又は治療用薬剤学的組成物を提供することである。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、前処理物質で前処理された、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソームを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、間葉幹細胞のエクソソームを用いた腎臓疾患の治療剤を開発しようと鋭意研究努力した。その結果、誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell、iPSC)由来の間葉幹細胞よりも未分化段階にある間葉幹細胞の前駆細胞を確立し、前処理物質で前処理した或いは前処理していない前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞に由来するエクソソームが、腎臓疾患において優れた予防又は治療効果を示すことを究明した。
【0015】
本発明は、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソーム及びこれを有効成分として含む、腎臓疾患の予防又は治療用薬剤学的組成物、及び前処理物質で前処理された、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソーム及びこれを有効成分として含む、腎臓疾患の予防又は治療用薬剤学的組成物に関する。
【0016】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明の一態様は、誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell、iPSC)由来間葉幹細胞(mesenchymal stem cell、MSC)の前駆細胞から分離されたエクソソームを有効成分として含む、腎臓疾患(Kidney disease)の予防又は治療用薬剤学的組成物に関する。
【0018】
本明細書において、用語「幹細胞」とは、未分化された細胞であって、自己複製能力を有しながら2つ以上の異なる種類の細胞に分化する能力を有する細胞をいう。本発明の幹細胞は、自己又は同種由来幹細胞であってよい。
【0019】
本明細書において、用語「誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell、iPSC)」とは、体細胞のように既に分化された細胞に逆分化(dedifferentiation)を誘導して初期の未分化された状態に戻り、全分化能(pluripotency)を有するようになった細胞のことを意味する。
【0020】
前記逆分化は、特定の遺伝子(例えば、Sox2、c-Myc、K1f4、Oct-4など)を導入して発現させるか、或いは前記特定の遺伝子が導入された細胞で作られた逆分化誘導タンパク質を注入して誘導できる。
【0021】
前記全分化能は、生体を構成する3つの胚葉(germ layer)、すなわち内胚葉(endoderm)、中胚葉(mesoderm)及び外胚葉(ectoderm)起源の組織又は器官へと分化可能な能力のことを意味する。
【0022】
本明細書において、用語「間葉幹細胞」とは、多分化能を有する細胞であり、造骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、脂肪細胞などを含む様々な細胞に分化可能な幹細胞をいう。前記間葉幹細胞は、骨髄由来間葉幹細胞が最も頻繁に用いられるが、骨髄の他にも臍帯又は臍帯血、脂肪組織、羊水、奥歯の歯蕾(tooth bud)に由来してよい。間葉幹細胞は、間質細胞(stromal cell)という用語とも呼ばれる。
【0023】
前記間葉幹細胞の前駆細胞は、一般の間葉幹細胞ではなく、[本発明者らが開発した]誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell、iPSC)に由来する間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)である。
【0024】
前記「誘導万能幹細胞」は、分化された細胞から人為的な逆分化過程を通じて多能成分化能を有するように誘導された細胞のことを指し、逆分化幹細胞とも呼ばれる。
【0025】
前記人為的な逆分化過程は、レトロウイルス、レンチウイルス及びセンダイウイルスを用いたウイルス媒介又は非ウイルス性ベクターの利用、タンパク質及び細胞抽出物などを用いる非ウイルス媒介逆分化因子の導入により行われるか、或いは幹細胞抽出物、化合物などによる逆分化過程を含む。
【0026】
前記誘導万能幹細胞は、胚性幹細胞とほぼ同じ特性を有し、具体的には、類似の細胞形態を示し、遺伝子及びタンパク質の発現パターンが類似しており、インビトロ(in vitro)及びインビボ(in vivo)で全分化能を有し、テラトーマ(teratoma)を形成し、マウスの胚盤胞(blastocyst)に挿入させたときにキメラ(chimera)マウスを形成し、遺伝子のジャームライン転移(germLine transmission)が可能である。
【0027】
本発明の誘導万能幹細胞は、ヒト、サル、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ウサギなどのあらゆる哺乳動物由来の誘導万能幹細胞を含むが、好ましくは、ヒト由来の誘導万能幹細胞である。
【0028】
また、本発明の前記誘導万能幹細胞が逆分化される前の体細胞は、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜、羊水又は胎盤などに由来する体細胞であってよいが、これに限定されない。
【0029】
具体的に、前記体細胞は、線維芽細胞(fibroblast)、肝細胞(hepatocyte)、脂肪細胞(adipose cell)、上皮細胞(epithelial cell)、表皮細胞(epidermal cell)、軟骨細胞(chondrocyte)、筋細胞(muscle cell)、心筋細胞(cardiac muscle cell)、メラノサイト(melanocyte)、神経細胞(neural cell)、膠細胞(glial cell)、星状膠細胞(astroglial cell)、単球(monocyte)、大食細胞(macrophage)などを含むが、これに限定されるものではない。
【0030】
本発明の一具現例において、前記本発明の間葉幹細胞の前駆細胞は、同等な数の間葉幹細胞に比べ、ANKRD11、CPE、NKAIN4、LCP1、CCDC3、MAMDC2、CLSTN2、SFTA1P、EPB41L3、PDE1C、EMILIN2、SULT1C4、TRIM58、DENND2A、CADM4、AIF1L、NTM、SHISA2、RASSF4、及びACKR3からなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子をより高いレベルで発現させる。
【0031】
また、本発明の他の具現例において、前記本発明の間葉幹細胞の前駆細胞は、同等な数の間葉幹細胞に比べ、DHRS3、BMPER、IFI6、PRSS12、RDH10、及びKCNE4からなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子をより低いレベルで発現させる。
【0032】
前記間葉幹細胞の前駆細胞及び同等な数の間葉幹細胞は、同種組織由来である。さらに具体的には、前記間葉幹細胞の前駆細胞は、誘導万能幹細胞に由来する間葉幹細胞の前駆細胞である。
【0033】
本発明の一実施例において、前記間葉幹細胞の前駆細胞は、臍帯組織由来の誘導万能幹細胞に由来する間葉幹細胞の前駆細胞であり、これと比較される同等な数の間葉幹細胞は、臍帯組織由来の間葉幹細胞である。
【0034】
本発明者らは、前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞を、BxC(brexogen stem cell)と命名した。本明細書において、前記「誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)」は、「誘導万能幹細胞由来間葉前駆細胞」とも表現される。
【0035】
本発明の同一組織由来(例えば、臍帯組織)の誘導万能幹細胞の間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)は、同一組織由来(例えば、臍帯組織)の間葉幹細胞(MSC)と比べて、染色体核型に異常がなく、増殖能力に優れている。具体的に、本発明のBxCは、継代を9回以上繰り返す場合に、同一組織由来の間葉幹細胞(MSC)と比べて10倍以上の増殖能の差を示し、継代を12回以上繰り返しても増殖能の減少が観察されない。また、BxCは、MSCに比べて、細胞増殖能に関連するマーカーであるKi67の発現量も2倍以上高く見られる。
【0036】
前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)は、エンドスタチン(Endostatin)、エンドセリン-1(Endothelin-1)、VEGF-A、トロンボスポンジン-2(Thrombospondin-2)、PIGF、PDGF-AA、beta-NGF、及びHB-EGFなどの機能性タンパク質を、同等な数の間葉幹細胞と比べて多量分泌する。
【0037】
本明細書において、前記エンドスタチンは、自然に生成されるXVIII型コラーゲンに由来する20kDa C末端断片であり、抗新生血管製剤として報告されている。
【0038】
本明細書において、前記エンドセリン-1は、プレプロエンドセリン-1(PPET1)とも知られており、EDN1遺伝子によりエンコードされるタンパク質であり、血管内皮細胞から生産される。エンドセリン-1は強力な血管収縮剤として知られている。
【0039】
本明細書において、前記VEGF-A(vascular endothelial growth factor A)は、VEGFA遺伝子がエンコードするタンパク質であり、血管内皮細胞のVEGFR1及びVEGFR2との相互作用によって血管の成長を誘導するものと知られている。
【0040】
本明細書において、前記トロンボスポンジン-2は、THBS2遺伝子によりエンコードされるタンパク質であり、細胞-細胞の相互作用又は細胞-基質の相互作用を媒介するものと知られている。トロンボスポンジン-2の癌に対する働きは論争の余地があるが、間葉幹細胞の細胞表面の特性を調節することが報告されており、細胞の付着及び移動に関与すると知られている。
【0041】
本明細書において、前記PIGF(placental growth factor)は、PGF遺伝子によりエンコードされるタンパク質であり、VEGFサブファミリーのメンバーとして胚発生期において血管新生に主な働きをするタンパク質として知られている。
【0042】
本明細書において、前記PDGF-AA(platelet-derived growth factor)は、細胞の成長及び分裂を調節する成長因子であり、血管の生成及び成長、間葉幹細胞の増殖、化学走性、及び移動において重要な役割を担うと知られている。
【0043】
本明細書において、NGF(Nerve growth factor)は、神経親和性因子及びニューロペプチドであり、主に神経の成長、保持、増殖及び生存に関与する。NGFは、alpha-、beta-、及びgamma-NGFが約2:1:2の割合で発現する3つのタンパク質の複合体であり、ここで、gamma-NGFはセリンプロテアーゼとして働き、beta-NGFのN末端を切断してNGFを活性化させると知られている。
【0044】
本明細書において、前記HB-EGF(heparin-binding EGF-like growth factor)は、HBEGF遺伝子によりエンコードされるEGFファミリータンパク質のメンバーである。HB-EGFは心臓の発達及び血管分布に重要な役割を担うと知られており、表皮創傷の治癒において上皮化過程に必須なタンパク質として知られている。
【0045】
本明細書において、用語「エクソソーム(exosome)」とは、細胞が細胞外に分泌させるか、細胞内に存在する脂質-二重層からなる膜構造を有する小胞(membrane vesicle)であり、大部分の真核生物の体液に存在する。エクソソームの直径は、30~1000nm程度であり、多重小胞体(multivesicular bodies)が細胞膜と融合するときに細胞から放出されるか、細胞膜から直接放出される。エクソソームが、凝固、細胞-細胞間のコミュニケーション及び細胞性免疫を仲裁する機能的役目を果たすために、細胞内の生体分子であるタンパク質、生体活性脂質及びRNA(miRNA)を輸送する役割を担っていることはよく知られている。
【0046】
前記エクソソームは、微細小胞体(microvesicle)を包括する概念である。エクソソームのマーカータンパク質としては、CD63、CD81などが知られており、他には、EGFRのような細胞表面の受容体、信号伝達関連分子、細胞付着関連タンパク質、MSC関連抗原、熱衝撃タンパク質(heat shock protein)、小胞形成に関連したAlixなどのタンパク質が知られている。
【0047】
本発明において、前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソームは、前述した誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)内に存在するか、BxCから分泌されたエクソソームを意味する。
【0048】
本明細書において、用語「有効成分として含む」とは、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソームが、腎臓疾患の予防又は治療活性を達成するに十分な量を含むことを意味する。
【0049】
前記腎臓疾患は、腎臓線維症、糖尿病性腎症、高血圧性腎症、糸球体腎炎、腎盂腎炎、間質性腎炎、ループス腎炎、多嚢胞性腎臓疾患、腎不全症、糸球体硬化症、移植後急性拒否反応及び/又は薬物による腎臓損傷でよいが、これに制限されるものではない。
【0050】
前記薬物は抗癌剤でよく、例えば、シスプラチン(Cisplatin)でよいが、これに制限されない。
【0051】
本発明における用語「予防」は、本発明の組成物の投与により腎臓疾患を抑制させるか、進行を遅らせる全ての行為を意味する。
【0052】
本明細書における用語「治療」は、(a)腎臓疾患の進展の抑制;(b)腎臓疾患の軽減;及び(c)腎臓疾患の除去を意味する。
【0053】
本発明に係る薬剤学的組成物は、有効成分の他に薬剤学的に許容される担体を含んでもよい。このとき、薬剤学的に許容される担体は、製剤の際に通常用いられるものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、安息香酸ヒドロキシメチル、安息香酸ヒドロキシプロピル、滑石、ステアリン酸マグネシウム及びミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。また、前記成分の他にも、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含んでよい。
【0054】
本発明の薬剤学的組成物は、目的とする方法によって、経口投与又は非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内又は局所に適用)でき、投与量は、患者の状態及び体重、疾病の程度、薬物の形態、投与の経路及び時間によって異なるが、当業者によって適切に選択されてよい。
【0055】
本発明の薬剤学的組成物は、薬剤学的に有効な量で投与する。本発明において、「薬剤学的に有効な量」とは、医学的治療に適用可能な合理的な受恵/危険の割合で疾患を治療することに十分な量を意味し、有効量は、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出割合、治療期間、同時使用される薬物を含む要素及びその他医学分野によく知られた要素によって決定されてよい。
【0056】
本発明に係る薬剤学的組成物は、個別治療剤として投与されるか、他の治療剤と併用して投与されてよく、既存の治療剤とは順次に又は同時に投与されてよく、単回又は多回投与されてよい。前記要素を全て考慮し、副作用なしに、最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要であり、これは当業者によって容易に決定されてよい。
【0057】
具体的に、本発明の薬剤学的組成物の有効量は、患者の年齢、性別、状態、体重、体内における活性成分の吸収度、不活性率及び排泄速度、疾患の種類、併用される薬物によって異なってよい。
【0058】
本発明の他の態様は、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソームに関する。
【0059】
本発明の前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソーム(BxC-e)は、既存のエクソソームとしての特性を有するエクソソームである。本発明の実施例で立証しているように、前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソームは、腎臓細胞の再生に優れた効果を示すことが確認された(
図2)。また、本発明のBxC-eは、腎不全(Kidney failure)が誘導された腎臓細胞において、炎症を抑制し、細胞の死滅を抑制する他、小胞体のストレスを抑制することも確認された(
図4A~
図6B)。
【0060】
本発明のさらに他の態様は、前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソームを個体に投与する段階を含む、腎臓疾患の治療方法に関する。
【0061】
前記「個体」とは、疾病の治療が必要な対象を意味し、より具体的には、ヒト又は非ヒトの霊長類、マウス(mouse)、イヌ、ネコ、ウマ及びウシなどの哺乳類を意味する。
【0062】
本発明のさらに他の態様は、前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソームの腎臓疾患の治療用途に関する。
【0063】
前記腎臓疾患の治療方法及び治療用途は、前述した本発明の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソーム及びこれを含む薬剤学的組成物と構成成分が共通するので、それらに共通する内容は、本明細書の過度な複雑性を避けるために、その記載を省略する。
【0064】
本発明のさらに他の態様は、前処理物質で前処理された、誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell、iPSC)由来間葉幹細胞(mesenchymal stem cell、MSC)の前駆細胞から分離されたエクソソームを有効成分として含む、腎臓疾患(Kidney disease)の予防又は治療用薬剤学的組成物に関する。
【0065】
本明細書における用語「前処理」とは、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞の培養過程において、前処理物質が添加された細胞培養培地を誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞に接触させる過程を意味する。
【0066】
前記前処理は、前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞を、前処理物質を含む細胞培養培地で培養する方法により行われてよい。
【0067】
前記細胞培養培地は、動物細胞の培養に通常用いられるいかなる培地も可能であり、例えば、DMEM(Dulbecco’s modification of Eagle’s medium)、DMEMとF12との混合物、イーグルのMEM(Eagle’s minimum essential medium)、α-MEM、Iscove’s MEM、199培地、CMRL 1066、RPMI 1640、F12、F10、Way-mouth’s MB752/1、McCoy’s 5A及びMCDBシリーズなどが用いられてよい。
【0068】
前記培養は6~48時間行われてよい。
【0069】
具体的に、前記培養は、6~42時間、6~36時間、6~30時間、6~27時間、12~48時間、12~42時間、12~36時間、12~30時間、12~27時間、18~48時間、18~42時間、18~36時間、18~30時間、18~27時間、21~48時間、21~42時間、21~36時間、21~30時間、又は21~27時間行われてよい。
【0070】
前記前処理物質はエクセンディン-4(Exendin-4)であってよい。
【0071】
本発明のエクセンディン-4は、グルカゴン様ペプチド(glucagon-like peptide;GLP)受容体のペプチドアゴニストである。エクセンディン-4は、インスリン分泌を促進するものと知られており、2型糖尿及びパーキンソン疾患の治療用途として臨床的に使用されてきた。
【0072】
前記エクセンディン-4は、細胞培養培地内に1~100nMの濃度で含まれてよい。
【0073】
具体的に、前記エクセンディン-4は、細胞培養培地内に1~90nM、1~80nM、1~70nM、1~60nM、1~50nM、1~40nM、1~30nM、10~90nM、10~80nM、10~70nM、10~60nM、10~50nM、10~40nM、及び10~30nMの濃度で含まれてよい。
【0074】
前記前処理物質は、ラニフィブラノール(Lanifibranor)であってよい。
【0075】
本発明のラニフィブラノールは、PPAR(peroxisome proliferator-activated receptors)作用剤(agonist)であって、PPARα、PPARδ及びPPARγと知られた3つのPPARアイソフォーム(isoforms)をそれぞれ活性化させ、身体内で抗線維化、抗炎、そして有益な代謝変化を誘導するものと知られている小分子(small molecule)である。PPARは、遺伝子の発現を調節する核ホルモン受容体ファミリーに属するリガンド-活性化された転写因子である。PPARは、細胞の分化、発達及び腫瘍形成の調節に必須の役割を担う。線維症を調節するPPARを活性化させて結合組織の異常成長を減少させることが知られている。また、ラニフィブラノールは全身硬化症の治療剤、特発性肺線維症の治療剤などの用途に臨床的に用いられてきた。
【0076】
前記ラニフィブラノールは、細胞培養の培地内に1~100nMの濃度で含まれてよい。
【0077】
具体的に、前記ラニフィブラノールは、細胞培養の培地内に1~1000μM、1~500μM、1~100μM、1~90μM、1~80μM、1~70μM、1~60μM、1~50μM、1~40μM、1~30μM、1~20μM、5~1000μM、5~500μM、5~100μM、5~90μM、5~80μM、5~70μM、5~60μM、5~50μM、5~40μM、5~30μM、5~20μMの濃度で含まれてよい。
【0078】
本発明のさらに他の態様は、前処理物質で前処理された、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソームに関する。
【0079】
本発明の前記前処理物質で前処理された、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソーム(BxC-G63e)は、既存のエクソソームとしての特性を有するエクソソームである。本発明の実施例で立証しているように、本発明のBxC-G63eは、腎不全が誘導された腎臓細胞において、炎症を抑制し、細胞の死滅を抑制する他、小胞体のストレスを抑制することも確認された(
図4A~
図6B)。
【0080】
本発明のさらに他の態様は、前記前処理物質で前処理された、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソームを個体に投与する段階を含む、腎臓疾患の治療方法に関する。
【0081】
前記「個体」とは、疾病の治療が必要な対象を意味し、より具体的には、ヒト又は非ヒトの霊長類、マウス(mouse)、イヌ、ネコ、ウマ及びウシなどの哺乳類を意味する。
【0082】
本発明のさらに他の態様は、前記前処理物質で前処理された、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソームの腎臓疾患の治療用途に関する。
【0083】
前記腎臓疾患の治療方法及び治療用途は、前述した本発明の前処理物質で前処理された、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソーム及びこれを含む薬剤学的組成物と構成成分が共通するので、それらに共通する内容は、本明細書の過度な複雑性を避けるために、その記載を省略する。
【発明の効果】
【0084】
本発明は、前処理物質で前処理した或いは前処理していない誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離されたエクソソームを有効成分として含む、腎臓疾患の予防又は治療用組成物に関する。本発明のエクソソームは、既存の間葉幹細胞から分離されたエクソソームに比べてより改善された腎臓疾患の予防又は治療効果を示すので、これを関連の研究開発及び製品化に有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【
図1A】
図1Aは、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)から分離したエクソソーム(BxC-e)の平均サイズ及び分布を示す図である。
【0086】
【
図1B】
図1Bは、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)から分離したエクソソーム(BxC-e)の電子顕微鏡写真である。
【0087】
【
図2A】
図2A~
図2Cは、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)から分離したエクソソーム(BxC-e)の、様々な腎臓細胞における腎臓細胞の再生効果を示す図である。
図2Aは、上皮細胞株であるHK-2における結果を示す。
【
図2B】
図2Bは、腎臓上皮細胞であるRPTECにおける結果を示す。
【
図2C】
図2Cは、腎臓上皮細胞であるGECにおける結果を示す。
【0088】
【
図3A】
図3Aは、エクセンディン-4前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)から分離したエクソソーム(BxC-G63e)の平均サイズ及び分布を示す図である。
【0089】
【
図3B】
図3Bは、エクセンディン-4前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)から分離したエクソソーム(BxC-G63e)の電子顕微鏡写真である。
【0090】
【
図3C】
図3Cは、ラニフィブラノール前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)から分離したエクソソーム(BxC-V37e)の平均サイズ及び分布を示す図である。
【0091】
【
図3D】
図3Dは、ラニフィブラノール前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)から分離したエクソソーム(BxC-V37e)の電子顕微鏡写真である。
【0092】
【
図4A】
図4A及び
図4Bは、腎不全(Kidney failure)が誘導された様々な腎臓細胞において、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)から分離したエクソソーム(BxC-e)及びエクセンディン-4前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-G63e)による炎症(Inflammation)の抑制効果を示す図である。
図4Aは、シスプラチン処理により毒性が誘発された細胞における結果を示す。
【
図4B】
図4Bは、LPS処理により毒性が誘発された細胞における結果を示す。
【0093】
【
図5A】
図5A及び
図5Bは、腎不全が誘導された様々な腎臓細胞において、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)から分離したエクソソーム(BxC-e)及びエクセンディン-4前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-G63e)による細胞死滅(Apoptosis)抑制効果を示す図である。
図5Aは、シスプラチン処理により毒性が誘発された細胞における結果を示す。
【
図5B】
図5Bは、LPS処理により毒性が誘発された細胞における結果を示す。
【0094】
【
図6A】
図6A及び
図6Bは、腎不全が誘導された様々な腎臓細胞において、誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)から分離したエクソソーム(BxC-e)及びエクセンディン-4前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-G63e)による小胞体ストレス(ER Stress)抑制効果を示す図である。
図6Aは、シスプラチン処理により毒性が誘発された細胞における結果を示す。
【
図6B】
図6Bは、LPS処理により毒性が誘発された細胞における結果を示す。
【0095】
【
図7A】
図7A及び
図7Bは、腎不全が誘導された腎臓細胞において、エクセンディン-4前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-G63e)による腎臓損傷の治療及び回復機能を確認した図である。
【
図7B】
図7A及び
図7Bは、腎不全が誘導された腎臓細胞において、エクセンディン-4前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-G63e)による腎臓損傷の治療及び回復機能を確認した図である。
【0096】
【
図8】
図8は、腎不全が誘導された腎臓細胞において、ラニフィブラノール前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-V37e)による細胞死滅(Apoptosis)抑制効果を示す図である(ここで、*はp<0.05 vs. TGFβ-、#はp<0.05 vs. TGFβ+、†はp<0.05 vs. TGFβ+eである。)
【0097】
【
図9A】
図9A~
図9Dは、腎不全が誘導された腎臓細胞において、ラニフィブラノール前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-V37e)による腎臓線維化(Fibrosis)抑制効果を、コラーゲンI(Collagen I)、CTGF、α-SMA及びフィブロネクチン(Fibronectin)の発現抑制により確認した図である(ここで、*はp<0.05 vs. TGFβ-、#はp<0.05 vs. TGFβ+、†はp<0.05 vs. TGFβ+eである。)
図9Aは、コラーゲンI(Collagen I)の発現抑制により確認した図である。
【
図9B】
図9Bは、CTGFの発現抑制により確認した図である。
【
図9C】
図9Cは、α-SMAの発現抑制により確認した図である。
【
図9D】
図9Dは、フィブロネクチン(Fibronectin)の発現抑制により確認した図である。
【0098】
【
図10A】
図10A~
図10Eは、腎不全が誘導された腎臓細胞において、ラニフィブラノール前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-V37e)による腎臓線維化抑制効果を結節(Nodule)の生成抑制により確認した図である。
図10Aは対照群を表す。
【
図10C】
図10Cは、TGF-β、及びエクソソーム(BxC-e)を処理した結果を表す。
【
図10D】
図10Dは、TGF-β、及びエクソソーム(BxC-V37e)を処理した結果を表す。
【0099】
【
図11】
図11は、腎不全が誘導された腎臓細胞において、ラニフィブラノール前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-V37e)による腎臓線維化抑制効果をSmad2リン酸化抑制により確認した図である。
【0100】
【
図12A】
図12A~
図12Cは、腎不全が誘導された腎臓細胞において、ラニフィブラノール前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-V37e)による腎臓線維化抑制効果を、腎臓細胞の線維化(Fibrosis)関連の重要な機序であるEMT(Epithelial mesenchymal transition)経路(pathway)の調節効果により確認した図である(ここで、*はp<0.05 vs. TGFβ-、#はp<0.05 vs. TGFβ+、†はp<0.05 vs. TGFβ+eである。)。
図12Aは、E-カドヘリン(E-cadherin遺伝子の発現を測定した結果である。
【
図12B】
図12Bは、N-カドヘリン(N-cadherin)遺伝子の発現を測定した結果である。
【
図12C】
図12Cは、ビメンチン(Vimentin)遺伝子の発現を測定した結果である。
【0101】
【
図13A】
図13A及び
図13Bは、腎不全が誘導された腎臓細胞において、ラニフィブラノール前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-V37e)による腎臓線維化抑制効果を、腎臓細胞の線維化(Fibrosis)関連の重要な機序であるEMT(Epithelial mesenchymal transition)経路の下位シグナル(snail1及びslug mRNAの発現)の調節効果により確認した図である(ここで、*はp<0.05 vs. TGFβ-、#はp<0.05 vs. TGFβ+、†はp<0.05 vs. TGFβ+eである)。
図13Aは、snail1 mRNAについて表す。
【0102】
【
図14A】
図14A及び
図14Bは、腎不全が誘導された腎臓細胞において、ラニフィブラノール前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-V37e)による腎臓損傷の治療及び回復機能を確認した図である。
図14Aは、シスプラチンにより増加された腎臓の血中尿素窒素(BUN)数値を表す。
【発明を実施するための形態】
【0103】
誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell、iPSC)由来間葉幹細胞(mesenchymal stem cell、MSC)の前駆細胞から分離されたエクソソームを有効成分として含む、腎臓疾患(Kidney disease)の予防又は治療用薬剤学的組成物。
【0104】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0105】
本明細書全体を通じて、特定物質の濃度を示すために使われる「%」は、別に断りのない限り、固体/固体は(重量/重量)%、固体/液体は(重量/体積)%、そして、液体/液体は(体積/体積)%である。
【0106】
製造例:誘導万能幹細胞(iPSC)由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)の分離及び培養
【0107】
まず、誘導万能幹細胞(iPSC)を10%のFBS及び10ng/mlのbFGFを添加したDMEMで7日間培養した。次に、培養された誘導万能幹細胞で、FACSにより、細胞表面にSSEA-4(stage-specific embryonic antigen 4)タンパク質を発現しないSSEA-4(-)細胞を分離した。また、分離されたSSEA-4(-)細胞を継代して前記と同一の培地で7日間さらに培養し、本発明の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞を作製した。本発明者らは、前記誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞をBxC(brexogen stem cell)と命名した。
【0108】
BxCと命名された誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞を、培養培地[高グルコースDMEM(Gibco,Cat no.11995-065)、10%ウシ胎児血清(HyClone)、1%MEM非必須アミノ酸溶液(MEM Non-Essential Amino Acids Solution)(100X)(Gibco,Cat no.11140-050)]でさらに培養した。
【0109】
実施例1:誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)由来エクソソームの分離
【0110】
前記製造例で培養された誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞(以下、BxC)の培養培地を回収して300xgで10分間遠心分離し、残っている細胞と細胞残余物を除去した。上澄液を取って0.22μmフィルターを用いて濾過した後、高速遠心分離機(high speed centriguge)を用いて10,000xg、4℃で70分間遠心分離した。遠心分離された上澄液を再び取って超遠心分離機(ultracentrifuge)を用いて100,000xg、4℃で90分間遠心分離し、上澄液を除去した。下層に残っているエクソソームをPBS(phosphate bufferd salin)に希釈し、以下の実験で使用した。
【0111】
実験例1:誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)由来エクソソームの特性の確認
【0112】
前記実施例1で分離されたエクソソーム(以下、BxC-e)に対して、ナノ粒子トラッキングアッセイ(nanoparticle tracking assay)(NanoSight NS300,Malvern)を用いてエクソソームのサイズ分布を確認し、電子顕微鏡を用いてエクソソームの形態を確認した。
【0113】
図1A及び
図1Bから確認できるように、本発明のBxCに由来するエクソソームはエクソソームとしての特性を有することが分かる。
【0114】
実験例2:誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞由来エクソソーム(BxC-e)の腎臓細胞再生効果の確認
【0115】
前記実施例1で分離されたエクソソームに対して、シスプラチン(Cisplatin)又はLPS(Lipopolysaccharide)処理により損傷された腎臓細胞に対する再生効果を確認した。
【0116】
2-1.シスプラチン損傷
【0117】
まず、96ウェル培養皿(culture dish)に、上皮細胞株(epithelial cell line)であるHK-2(韓国細胞株銀行)、腎臓上皮細胞(kidney epithelial cell)であるRPTEC(Renal Proximal Tubule Epithelial Cells)(Lonza、CC-2553)及び腎臓上皮細胞であるGEC(Glomerular Endothelial Cells)(Cell Systems,ACBRI 128)をそれぞれ、ウェル当たり1×104ずつ接種(seeding)した。
【0118】
細胞接種16時間後、細胞の状態を確認し、無血清成長培地(serum free growth medea)と共にシスプラチン(Sigma P4394)25μMを24時間処理した。24時間後、上澄液を捨ててDPBS(HyClone SH30028.02)で洗浄した後、新しい無血清成長培地と共に、前記実施例1で分離されたエクソソームを、50μg(低用量)又は100μg(高用量)ずつ48時間処理した。
【0119】
最終に、10μLのCCK-8溶液(Cell Counting Kit-8、Enzo ALX-850-039-KI01)を入れて37℃のCO2インキュベーターで2時間インキュベーションした。色が変わることを確認し、450nmで吸光度を測定した。
【0120】
2-2.LPS損傷
【0121】
前記実験例2-1のシスプラチンの代わりにLPS(Sigma L2880)20μg/mLを処理した以外は、前記実験例2-1と同じ方法で実験を行った。
【0122】
図2A~
図2Cから確認できるように、本発明のBxCに由来するエクソソーム(BxC-e)は、様々な腎臓細胞に対する再生効果に優れていることが分かった。
【0123】
実施例2:前処理物質処理による誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞由来エクソソーム(BxC-G63e)の分離
【0124】
2-1.エクセンディン-4処理による誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞由来エクソソーム(BxC-G63e)の分離
【0125】
20nMのエクセンディン-4が含まれた培養培地[高グルコースDMEM(Gibco,Cat no.11995-065);10%ウシ胎児血清(HyClone)、1%MEM非必須アミノ酸溶液(100X)(Gibco,Cat no.11140-050)]で、前記製造例で製造された誘導万能幹細胞(iPSC)由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)を24時間培養した。
【0126】
培養を完了した後、エクセンディン-4が前処理されたBxCを洗浄し、エクソソームが除去されたウシ胎児血清(FBS)を10%添加した培養培地で、72時間さらに培養した。エクソソームが除去されたFBSを使用する理由は、一般に使用するFBSにはウシ血清由来のエクソソームが非常に多く含まれているため、細胞の分泌するエクソソームの他にFBS由来のエクソソームが混入することを防止するためである。
【0127】
72時間の培養後、前処理物質が処理されたBxC培養培地を回収して300xgで10分間遠心分離し、残っている細胞と細胞残余物を除去した。上澄液を取り、0.22μmフィルターを用いて濾過した後、高速遠心分離機(high speed centriguge)を用いて10,000xg、4℃で70分間遠心分離した。遠心分離された上澄液を再び取って超遠心分離機(ultracentriguge)を用いて100,000xg、4℃で90分間遠心分離し、上澄液を除去した。下層に残っているエクソソームをPBS(phosphate bufferd saline)に希釈し、以下の実験で使用した。
【0128】
2-2.ラニフィブラノール処理による誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞由来エクソソーム(BxC-V37e)の分離
【0129】
10μMのラニフィブラノールが含まれた培養培地[高グルコースDMEM(Gibco,Cat no.11995-065);10%ウシ胎児血清(HyClone)、1%MEM非必須アミノ酸溶液(100X)(Gibco,Cat no.11140-050)]で、前記製造例で製造された誘導万能幹細胞(iPSC)由来間葉幹細胞の前駆細胞(BxC)を24時間培養した。
【0130】
培養を完了した後、ラニフィブラノールが前処理されたBxCを洗浄し、エクソソームが除去されたウシ胎児血清(FBS)を10%添加した培養培地で72時間さらに培養した。
【0131】
72時間の培養後、前処理物質が処理されたBxC培養培地を回収して300xgで10分間遠心分離し、残っている細胞と細胞残余物を除去した。上澄液を取り、0.22μmフィルターを用いて濾過した後、高速遠心分離機(high speed centriguge)を用いて10,000xg、4℃で70分間遠心分離した。遠心分離された上澄液を再び取って超遠心分離機(ultracentriguge)を用いて100,000xg、4℃で90分間遠心分離し、上澄液を除去した。下層に残っているエクソソームをPBSに希釈し、以下の実験で使用した。
【0132】
実験例3:前処理物質の処理による誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞由来エクソソームの特性の確認
【0133】
前記実施例2で分離されたエクソソーム(BxC-G63e、BxC-V37e)に対して、ナノ粒子トラッキングアッセイ(NanoSight NS300,Malvern)を用いてエクソソームのサイズ分布を確認し、電子顕微鏡を用いてエクソソームの形態を確認した。
【0134】
図3A~
図3Dから確認できるように、本発明のエクセンディン-4及びラニフィブラノール処理によるBxC由来のエクソソームがエクソソームとしての特性を有することが分かる。
【0135】
実験例4:エクセンディン-4処理による誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞由来エクソソーム(BxC-G63e)の腎臓疾患治療活性の評価
【0136】
前記実施例1で分離されたエクソソーム(BxC-e)及び前記実施例2-1で分離されたエクソソーム(BxC-G63e)に対して、下記のように実験した。
【0137】
4-1.炎症(Inflammation)抑制効果
【0138】
6ウェル培養皿に、上皮細胞株であるHK-2、腎臓上皮細胞であるRPTEC及び腎臓上皮細胞であるGECをそれぞれ、ウェル当たり1×105ずつ接種した。細胞接種16時間後、細胞の状態を確認し、無血清成長培地と共にシスプラチン25μM又はLPS 20μg/mL、及び前記実施例1で分離されたエクソソーム(BxC-e)又は前記実施例2で分離されたエクソソーム(BxC-G63e)100μgを24時間処理した。この際、陽性対照群としては、シスプラチン又はLPSのみを処理して腎不全を誘導した群を使用した。
【0139】
24時間後、上澄液を捨ててDPBSで洗浄した後、トリゾール(Trizol)を処理して全RNA(total RNA)を抽出した。RNAを用いてcDNAを合成した後、qRT-PCRによりTNFα遺伝子の発現を測定した。
【0140】
図4A及び
図4Bから確認できるように、本発明のエクソソーム(BxC-e及びBxC-G63e)は、シスプラチン又はLPS処理により毒性が誘発された様々な腎臓細胞において炎症を顕著に抑制する効果を有することが分かる。
【0141】
4-2.細胞死滅(Apoptosis)抑制効果
【0142】
6ウェル培養皿に、上皮細胞株であるHK-2、腎臓上皮細胞であるRPTEC及び腎臓上皮細胞であるGECをそれぞれ、ウェル当たり1×105ずつ接種した。細胞接種16時間後、細胞の状態を確認し、無血清成長培地と共にシスプラチン25μM又はLPS 20μg/mL、及び前記実施例1で分離されたエクソソーム(BxC-e)又は前記実施例2で分離されたエクソソーム(BxC-G63e)100μgを24時間処理した。この際、陽性対照群としては,シスプラチン又はLPSのみを処理して腎不全を誘導した群を使用した。
【0143】
24時間後、上澄液を捨ててDPBSで洗浄した後、トリゾールを処理して全RNAを抽出した。RNAを用いてcDNAを合成した後、qRT-PCRによりカスパーゼ-3(caspase-3)遺伝子の発現を測定した。
【0144】
図5A及び
図5Bから確認できるように、本発明のエクソソーム(BxC-e及びBxC-G63e)は、シスプラチン又はLPS処理により毒性が誘発された様々な腎臓細胞において細胞死滅を顕著に抑制する効果を有することが分かる。
【0145】
4-3.小胞体ストレス(ER Stress)の抑制効果
【0146】
6ウェル培養皿に、上皮細胞株であるHK-2、腎臓上皮細胞であるRPTEC及び腎臓上皮細胞であるGECをそれぞれウェル当たり1×105ずつ接種した。細胞接種16時間後、細胞の状態を確認し、無血清成長培地と共にシスプラチン25μM又はLPS 20μg/mL、及び前記実施例1で分離されたエクソソーム(BxC-e)又は前記実施例2で分離されたエクソソーム(BxC-G63e)100μgを24時間処理した。この際、陽性対照群としては、シスプラチン又はLPSのみを処理して腎不全を誘導した群を使用した。
【0147】
24時間後、上澄液を捨ててDPBSで洗浄した後、トリゾールを処理して全RNAを抽出した。RNAを用いてcDNAを合成した後、qRT-PCRによりCHOP遺伝子の発現を測定した。
【0148】
図6A及び6Bから確認できるように、本発明のエクソソーム(BxC-e及びBxC-G63e)は、シスプラチン又はLPS処理により毒性が誘発された様々な腎臓細胞において腎臓細胞内の小胞体ストレスを顕著に抑制する効果を有することが分かる。
【0149】
4-4.腎臓損傷の治療及び回復機能
【0150】
シスプラチンにより腎不全(Kidney failure)が誘導されたマウス腎臓損傷モデルにおいて、エクセンディン-4前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-G63e)の腎臓損傷治療及び回復機能を確認した。
【0151】
8週齢のBalb/c雄マウスにシスプラチン(Cisplatin)(15mg/kg)を腹腔内投与して腎臓損傷を誘発した。シスプラチンの注入後、エクセンディン-4前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-G63e)をIV投与し、3日後に血液を分離してクレアチニン(Creatinine)、血中尿素窒素(BUN)レベルを測定し、BxC-G63eの腎臓損傷治療及び回復機能を確認した。
【0152】
【0153】
【0154】
実験の結果、
図7A及び
図7B、及び表1及び表2から確認できるように、本発明に係るエクセンディン-4前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-G63e)は、シスプラチンにより増加された腎臓の血中尿素窒素(BUN)数値とクレアチニン数値を顕著に減少させ得ることが確認され、これにより、BxC-G63eエクソソームが損傷された腎臓の機能を回復させることに顕著に優れた効果があることを確認した。
【0155】
実験例5:ラニフィブラノール処理による誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞由来エクソソーム(BxC-V37e)の腎臓疾患治療活性の評価
【0156】
5.1.細胞死滅(Apoptosis)の抑制効果
【0157】
ウェル培養皿に、腎臓上皮細胞をウェル当たり1×105ずつ接種した。細胞接種16時間後、細胞の状態を確認し、無血清成長培地と共にTGF-β(10ng/mL)及び前記実施例1で分離されたエクソソーム(BxC-e)又はラニフィブラノール処理による誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞由来エクソソーム(BxC-V37e)100μgを24時間処理した。この際、陽性対照群としては、TGF-βのみを処理して腎不全を誘導した群を使用した。
【0158】
24時間後、上澄液を捨ててDPBSで洗浄した後、トリゾールを処理して全RNAを抽出した。その後、下記表3のプライマーを用いてRNAにてcDNAを合成した後、qRT-PCRによりカスパーゼ-3遺伝子の発現を測定した。
【0159】
【0160】
【0161】
図8及び表4から確認できるように、本発明のエクソソーム(BxC-e及びBxC-V37e)は、TGF-β処理により線維化が誘発された腎臓細胞において細胞の死滅を顕著に抑制する効果があることが分かる。
【0162】
5.2.線維化(Fibrosis)抑制効果
【0163】
5.2.1.コラーゲンI、CTGF、α-SMA及びフィブロネクチン(Fibronectin)発現抑制
【0164】
6ウェル培養皿に、腎臓上皮細胞をウェル当たり1×105ずつ接種した。細胞接種16時間後、細胞の状態を確認し、無血清成長培地と共にTGF-β(10ng/mL)、及び前記実施例1で分離されたエクソソーム(BxC-e)又はラニフィブラノール処理による誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞由来エクソソーム(BxC-V37e)100μgを24時間処理した。この際、陽性対照群としては、TGF-βのみを処理して腎不全を誘導した群を使用した。
【0165】
24時間後、上澄液を捨ててDPBSで洗浄した後、トリゾールを処理して全RNAを抽出した。下記表5のプライマーを用いてRNAにてcDNAを合成した後、qRT-PCRによりコラーゲンI、CTGF、α-SMA、フィブロネクチン遺伝子の発現を測定した。
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
図9A~9D及び表6~表9から確認できるように、本発明のエクソソーム(BxC-e及びBxC-V37e)は、TGFβ処理により腎不全が誘導された腎臓細胞において、腎臓細胞の線維化(Fibrosis)と関連した遺伝子であるコラーゲンI、CTGF、α-SMA及びフィブロネクチン(Fibronectin)の発現を顕著に減少させ得ることが確認された。
【0172】
5.2.2.結節(Nodule)形成抑制
【0173】
6ウェル培養皿に、腎臓上皮細胞をウェル当たり1×105ずつ接種した。細胞の接種時に、無血清成長培地と共にTGF-β、及び前記実施例1で分離されたエクソソーム(BxC-e)又はラニフィブラノール処理による誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞由来エクソソーム(BxC-V37e)100μgを24時間処理した。この際、陽性対照群としては、TGF-βのみを処理して腎不全を誘導した群を使用した。24時間後、上澄液を除去してDPBSで洗浄した後、メタノールで 4℃で5分間固定した後、ピクロシリウスレッド溶液(Picrosirius Red Solution)を入れて処理し、酢酸溶液(Acetic Acid Solution)(0.5%)で2回洗浄し、顕微鏡を用いて結節(nodule)の形成程度を観察して比較し、また、0.1N KOHでピクロシリウスレッド染料(Picrosirius Red dye)を溶かして540nmで吸光度を測定し、陽性対照群と比較した。
【0174】
【0175】
図10A~
図10E及び表10から確認できるように、本発明のエクソソーム(BxC-e及びBxC-V37e)は、TGFβ処理により腎不全が誘導された腎臓細胞で形成される結節(nodule)生成を顕著に減少させ得ることが確認された。
【0176】
5.2.3.Smad2リン酸化の防止
【0177】
6ウェル培養皿に、腎臓上皮細胞をウェル当たり1×105ずつ接種した。細胞接種16時間後、細胞の状態を確認し、無血清成長培地と共にTGF-β及び前記実施例1で分離されたエクソソーム(BxC-e)又はラニフィブラノール処理による誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞由来エクソソーム(BxC-V37e)100μgを24時間処理した。この際、陽性対照群としては、TGF-βのみを処理して腎不全を誘導した群を使用した。
【0178】
24時間後、上澄液を捨て、DPBSで洗浄した後、細胞を集めてNP40バッファーによりタンパク質を抽出した。タンパク質は、ウェスタンブロット(western blot)を用いて全Smad2タンパク質及びリン酸化タンパク質を分析した。それぞれの全タンパク質でリン酸化されたSmad2タンパク質を定量し、TGF-βが処理されない陰性対照群と比較した。
【0179】
図11から確認できるように、本発明のエクソソーム(BxC-e及びBxC-V37e)は、TGFβ処理により腎不全が誘導された腎臓細胞においてTGF-βによるSmad2タンパク質のリン酸化を抑制するが確認された。
【0180】
5.2.4.EMT(Epithelial-mesenchymal transition)経路の調節
【0181】
6ウェル培養皿に、腎臓上皮細胞をウェル当たり1×105ずつ接種した。細胞接種16時間後、細胞の状態を確認し、無血清成長培地と共にTGF-β、及び前記実施例1で分離されたエクソソーム(BxC-e)又はラニフィブラノール処理による誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞由来エクソソーム(BxC-V37e)100μgを24時間処理した。この際、陽性対照群としては、TGF-βのみを処理して腎不全を誘導した群を使用した。
【0182】
24時間後、上澄液を捨て、DPBSで洗浄した後、トリゾールを処理して全RNAを抽出した。その後、表11のプライマーを用いてRNAにてcDNAを合成した後、qRT-PCRによりE-カドヘリン(E-cadherin)、N-カドヘリン(N-cadherin)、ビメンチン(Vimentin)遺伝子の発現を測定した。
【0183】
【0184】
【0185】
【0186】
【0187】
図12A~
図12C及び表12~表14から確認できるように、本発明のエクソソーム(BxC-e及びBxC-V37e)は、TGFβ処理により腎不全が誘導された腎臓細胞において、線維化(Fibrosis)関連の重要な機序であるEMT(Epithelial-mesenchymal transition)経路の調節効果に優れていることが確認された。
【0188】
5.2.5.snail1及びslugのmRNA発現抑制
【0189】
6ウェル培養皿に、腎臓上皮細胞をウェル当たり1×105ずつ接種した。細胞接種16時間後、細胞の状態を確認し、無血清成長培地と共にTGF-β(10ng/mL)、及び前記実施例1で分離されたエクソソーム(BxC-e)又はラニフィブラノール処理による誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞由来エクソソーム(BxC-V37e)100μgを24時間処理した。この際、陽性対照群としては、TGF-βのみを処理して腎不全を誘導した群を使用した。
【0190】
24時間後、上澄液を捨て、DPBSで洗浄した後、トリゾールを処理して全RNAを抽出した。その後、表15のプライマーを用いてRNAにてcDNAを合成した後、qRT-PCRによりSnail、Slug遺伝子の発現を測定した。
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
図13A及び
図13B並びに表16~表17から確認できるように、本発明のエクソソーム(BxC-e及びBxC-V37e)は、TGFβ処理により腎不全が誘導された腎臓細胞において、線維化(Fibrosis)関連の重要な機序であるEMT(Epithelial-mesenchymal transition)経路の下位シグナルであるsnail1及びslug mRNAの発現(Expression)を調節する効果に優れていることが確認された。
【0195】
5.3腎臓損傷の治療及び回復機能
【0196】
シスプラチンにより腎不全が誘導されたマウス腎臓損傷モデルにおいて、ラニフィブラノール前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-V37e)の腎臓損傷治療及び回復機能を確認した。
【0197】
8週齢のBalb/c雄マウスにシスプラチン(15mg/kg)を腹腔内投与して腎臓損傷を誘発した。シスプラチンの注入後に、ラニフィブラノール前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-V37e)をIV投与し、3日後に血液を分離してクレアチニン、BUNを測定し、BxC-V37eの腎臓損傷治療及び回復機能を確認した。
【0198】
【0199】
【0200】
実験の結果、
図14A及び
図14B並びに表18及び表19から確認できるように、本発明に係るエクセンディン-4前処理の誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞から分離したエクソソーム(BxC-V37e)は、シスプラチンにより増加された腎臓の血中尿素窒素(BUN)数値とクレアチニン(Creatinine)数値を顕著に減少させ得ることが確認され、これにより、BxC-V37eエクソソームは、損傷された腎臓の機能を回復させる効果に優れていることが確認された。
【0201】
以上の内容を総合すると、本発明のBxC-e、BxC-G63e及びBxC-V37eは、腎不全が誘導された腎臓細胞において、炎症を抑制し、細胞死滅を抑制する他、小胞体ストレスも抑制させるので、腎臓疾患の予防又は治療効能に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0202】
本発明は、前処理物質で前処理した或いは前処理していない誘導万能幹細胞由来間葉幹細胞の前駆細胞に由来するエクソソームを有効成分として含む、腎臓疾患の予防又は治療用組成物に関する。
【配列表】