(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】人工血管およびその作製方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/06 20130101AFI20240607BHJP
D03D 3/02 20060101ALI20240607BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20240607BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20240607BHJP
D03D 15/233 20210101ALI20240607BHJP
D06C 7/02 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
A61F2/06
D03D3/02
D03D1/00 Z
D03D15/283
D03D15/233
D06C7/02
(21)【出願番号】P 2022554301
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 CN2020096804
(87)【国際公開番号】W WO2021179468
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】202010167879.4
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521523453
【氏名又は名称】チョーチヤン アクパス スマート マニュファクチュアリング(グループ) カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミン,ジン
(72)【発明者】
【氏名】マー,シャオマン
(72)【発明者】
【氏名】グー,ズーチー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,フイ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ジン
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-218158(JP,A)
【文献】特表2004-527332(JP,A)
【文献】国際公開第2019/116792(WO,A1)
【文献】特開平01-183580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/06
D03D 3/02
D03D 1/00
D03D 15/283
D03D 15/233
D06C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各第1織りと
各第2織りとが緯糸方向に沿って交互になるように、経糸および緯糸
のみを織って複合布を形成し、前記第1織りの柔軟度を前記第2織りの柔軟度よりも低くすることと、
前記複合布を順次に波形成形し熱硬化することにより人工血管を得ることと、
を備え
、
前記第1織りは平織りであり、前記第2織りは朱子織りであり、1つの朱子織りの両側には2つの平織りが配置され、1つの平織りの両側には2つの朱子織りが配置され、
各平織りについて、前記経糸および前記緯糸が互いに織り込まれ、
各朱子織りの両側にある2つの平織りについて、前記経糸と前記緯糸の織り込みが反対になり、各糸の織り込み点は、隣接する各糸のそれぞれの織り込み点のちょうど反対側になる人工血管の作製方法。
【請求項2】
前記第1織りと前記第2織りとは、1:1から1:3の面積比で交互になる請求項1に記載の人工血管の作製方法。
【請求項3】
前記経糸および前記緯糸を織って前記複合布を形成する前に前記経糸に糊付けすることと、
前記複合布を波形成形する前に前記複合布を糊抜きすることと、をさらに備える請求項1に記載の人工血管の作製方法。
【請求項4】
前記経糸は、50m/minから100m/minの糊付け速度、および50℃から80℃の乾燥シリンダ温度で糊付けされる請求項
3に記載の人工血管の作製方法。
【請求項5】
前記糊抜きは、3時間から5時間、80℃から85℃の温度で行われる請求項
3に記載の人工血管の作製方法。
【請求項6】
前記経糸および前記緯糸は、生体適合性を有するポリマー素材製の紡績糸である請求項1に記載の人工血管の作製方法。
【請求項7】
前記紡績糸の素材は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、および天然マルベリーシルクの群から選択される少なくとも1つである請求項
6に記載の人工血管の作製方法。
【請求項8】
前記緯糸は、モノフィラメント、合糸、および合撚糸のうちの1つである請求項1に記載の人工血管の作製方法。
【請求項9】
各第1織りと
各第2織りとが緯糸方向に沿って交互になるように経糸および緯糸
のみを織ることにより形成された複合布を備え、前記第1織りの柔軟度は前記第2織りの柔軟度よりも低
く、
前記第1織りは平織りであり、前記第2織りは朱子織りであり、1つの朱子織りの両側には2つの平織りが配置され、1つの平織りの両側には2つの朱子織りが配置され、
各平織りについて、前記経糸および前記緯糸が互いに織り込まれ、
各朱子織りの両側にある2つの平織りについて、前記経糸と前記緯糸の織り込みが反対になり、各糸の織り込み点は、隣接する各糸のそれぞれの織り込み点のちょうど反対側になる請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法によって作製された人工血管。
【請求項10】
前記第1織りと前記第2織りとは、1:1から1:3の面積比で交互になる請求項
9に記載の人工血管。
【請求項11】
前記朱子織りは、5から9本の長い経糸の浮き線を有する請求項
9に記載の人工血管。
【請求項12】
前記複合布の経糸密度の範囲は480本/10cmから748本/10cmであり、前記複合布の緯糸密度の範囲は280本/10cmから400本/10cmである請求項
9に記載の人工血管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器の技術分野に関し、特に、人工血管およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化に伴い、大動脈瘤および大動脈解離等の血管疾患の発症率が大幅に増加している。切除および血管空置術によって行われる血管再建は、患者の命を大幅に伸ばすことができる。大動脈解離(AD)は、大動脈内腔内を流れる血液が断裂した大動脈内膜を介して大動脈中膜へと進入し、大動脈に沿って縦方向にさらに中膜組織を断裂することで、真腔に加えて偽腔が形成される状態である。ADは、内膜亀裂の始まりの位置に応じて、ドベーキーI型、II型、およびIII型に分類される。これらは全て発症すると危険で、死亡率が高いことを特徴とする。金属ステント、すなわち、術中ステントで縫合された人工血管は、切開手術を通じて病変部位へと送達されてもよく、ステントの弾性膨張力によって人工血管が損傷動脈の両端に縫合されることなく固定されることで、完全に内膜の破損を密閉する。同時にステントに縫合されない人工血管の部分(長さ約1cm)が大動脈弓に縫合されることで、AD治療の目的が達成される。
【0003】
織物人工血管の研究は、1952年にボールヒーズ(Voorhees)が血液に浸された絹糸で細胞が増殖する現象を観察してから始まっている。今のところ、織り、編み、不織等の従来のテキスタイル技術が、人工血管を作製する主流の方法として残っている。人工血管の素材は、金属およびVinyon-Nから今日のポリエステル類、絹、ポリテトラフルオロエチレンなどまで何世代もの変化を遂げてきた。適切な繊維素材およびテキスタイル(textile)構造を選択することは、常に国内および国外の専門家および学者の研究の焦点となってきた。織物人工血管には、平織り、斜文織り、および朱子織り、またはその様々な変形例等のテキスタイル織の基本組織が含まれる。とりわけ、平織りの人工血管は、水(血液)の透過性が最小であると共に、その管壁構造がコンパクトで変形が小さいため、広く利用されている。しかしながら、このような血管の低い柔軟性は、手術中の操作および縫合を難しくし、さらには細胞の接着および増殖を困難にし、細胞の内皮化を促進しない。最終的に、血管閉塞および他の問題へとつながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の人工血管の低柔軟性および過透過性の問題を克服可能な人工血管およびその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的に向けて、本発明は、
第1織りと第2織りとが緯糸方向に沿って交互になるように、経糸および緯糸を織って複合布を形成し、前記第1織りの柔軟度を前記第2織りの柔軟度よりも低くすることと、
前記複合布を順次に波形成形し熱硬化することにより人工血管を得ることと、
を備える人工血管の作製方法を提供する。
【0006】
任意選択で、前記方法において、前記第1織りと前記第2織りとは、1:1から1:3の面積比で交互になってもよい。
【0007】
任意選択で、前記方法において、前記第1織りは平織りを含み、前記第2織りは朱子織りを含んでもよい。
【0008】
任意選択で、前記方法は、前記経糸および前記緯糸を織って前記複合布を形成する前に前記経糸に糊付けすることをさらに備えてもよい。
【0009】
前記複合布を波形成形する前に前記複合布を糊抜きすることをさらに備えてもよい。
【0010】
任意選択で、前記方法において、前記経糸は、50m/minから100m/minの糊付け速度、および50℃から80℃の乾燥シリンダ温度で糊付けされてもよい。
【0011】
任意選択で、前記方法において、前記糊抜きは、3時間から5時間、80℃から85℃の温度で行われてもよい。
【0012】
任意選択で、前記方法において、前記経糸および前記緯糸は、生体適合性を有するポリマー素材製の紡績糸であってもよい。
【0013】
任意選択で、前記方法において、前記紡績糸の素材は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、および天然マルベリーシルクの群から選択される少なくとも1つであってもよい。
【0014】
任意選択で、前記方法において、前記緯糸は、モノフィラメント、合糸、および合撚糸のうちの1つであってもよい。
【0015】
本発明は、上述の方法によって作製される人工血管も提供する。人工血管は、第1織りと第2織りとが緯糸方向に沿って交互になるように経糸および緯糸を織ることにより形成された複合布を備え、前記第1織りの柔軟度は前記第2織りの柔軟度よりも低い。
【0016】
任意選択で、前記人工血管において、前記第1織りと前記第2織りとは、1:1から1:3の面積比で交互になってもよい。
【0017】
任意選択で、前記人工血管において、前記第1織りは平織りを含み、前記第2織りは朱子織りを含んでもよい。
【0018】
任意選択で、前記人工血管において、前記朱子織りは、5から9本の長い経糸の浮き線を有してもよい。
【0019】
任意選択で、前記人工血管において、前記複合布の経糸密度の範囲は480本/10cmから748本/10cmであり、前記複合布の緯糸密度の範囲は280本/10cmから400本/10cmであってもよい。
【0020】
要約すると、本発明は、人工血管およびその作製方法を提供する。方法は、第1織りと第2織りとが緯糸方向に沿って交互になるように、経糸および緯糸を織って複合布を形成することと、複合布を順次に波形成形し熱硬化することにより人工血管を得ることと、を備える。人工血管では、経糸および緯糸により形成される第1織りおよび第2織りの複合構造が採用されている。第1織りの柔軟度は第2織りの柔軟度よりも低いため、最終的に形成された複合構造は第1織りの剛性及び第2織りの柔軟度を備えることができ、布地の低透過性および向上した柔軟性の両方を確保することができる。従って、従来の織物人工血管の欠点を程度改善し、処理および縫合がより容易になっている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態による人工血管を作製する方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の実施例1で作製される複合布の組成を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の実施例2で作製される複合布の組成を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の実施例3で作製される複合布の組成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、主に従来の人工血管の低柔軟性および過透過性の問題を解決する。
【0023】
上記を踏まえて、本発明は、人工血管およびその作製方法を提供する。方法は、経糸および緯糸を織って、平織りと朱子織りとが交互となる複合布を形成することと、複合布を順次に波形成形し熱硬化することにより、人工血管を得ることとを含む。人工血管には、経糸および緯糸により形成される平織りおよび朱子織りの複合構造を採用し、これは、低透過性を確保するのみならず、布地の柔軟性を向上させる。従って、本発明で得られる人工血管は、従来の織物人工血管の欠点をある程度改善し、処理および縫合がより容易になる。
【0024】
本発明により提案される人工血管および方法は、添付の図面と具体的な実施例とを参照することによって以下に詳細に説明されている。なお、図面は、必ずしも正確な縮尺通りに描かれているわけではない非常に簡略化された形態で、本実施例の容易で明確な説明を手助けする目的のみのため提供されている。加えて、図面に示される構造は、多くの場合はその実際的な対応部分の部分的な描写である。特に、図面には異なる強調点があるため、異なる縮尺で描かれている場合もある。
【0025】
図1に示されるように、本発明の実施形態で提供される、人工血管を作製する方法は、
第1織りと第2織りとが緯糸方向に沿って交互になるように、経糸および緯糸を織って複合布を形成し、第1織りの柔軟度を第2織りの柔軟度よりも低くするステップS11、および
複合布を順次に波形成形し熱硬化することにより人工血管を得るステップS12、
を備える。
【0026】
低透過性および高柔軟性の要求事項を満たす複合布を作製するには、ステップS11において、第1織りと第2織りとは、1:1から1:3の面積比で交互になる。具体的には、その面積比は、1:1、1:2、1:3等であってもよい。
【0027】
本実施形態では、第1織りは平織りであってもよく、第2織りは朱子織りであってもよい。平織りの特徴は、経糸と緯糸が互いに織り込まれ、隣接する2本の糸の織り込みが正反対になることである。各糸の織り込み点は、隣接する各糸のそれぞれの織り込み点のちょうど反対側となる。他の織りに比べ、平織りは最も織り込み点が多い。
従って、平織りは布地に硬く、滑らかな表面と手触りとを与える。朱子織りの特徴は、経糸と緯糸とが独立して繋がっていないいくつかの織り点を形成することである。他の織りに比べ、朱子織りは織り込み点がより少ない。殆どの経糸(緯糸)が緯糸(経糸)の上に浮き、布地表面に長く浮いた経糸線または緯糸線が見える。従って、朱子織りは布地に柔らかな手触りを与えるが、引っ掛かりおよび毛羽立ちができやすい。上記を踏まえて、平織りを朱子織りと組み合わせることで、結果として表面に均一な長い糸の浮き線を有する布地となることができ、これは布地に相対的に柔らかな風合いを与え、引っ掛かりおよび毛羽立ちをできにくくする。
【0028】
他の実施形態では、第2織りは、代わりに斜文織りであってもよい。斜文織りは、平織りに比べてより長い経糸(緯糸)の浮き線を持つため、同じ糸数(カウント)および経糸緯糸密度において、より緩く、より柔らかな質感となる。このように、第1織りおよび第2織りをそれぞれ平織りおよび斜文織りとすると、結果として得られる複合布も透過性および柔軟性の要求事項を満たすことができる。
【0029】
第1および第2織りの種類は、第1織りの柔軟度が第2織りの柔軟度よりも低くあるべきである以外にはその他限定されず、このようにして、透過性および柔軟性の両方の要求事項を満たす複合布を可能にする。例えば、他の実施形態では、第1織りは平織り、第2織りは補強された斜文織りと他の織りと含む結合織り、またはその派生物である。あるいは、第1織りは、相対的に大きな経糸緯糸密度を有する斜文織りであってもよく、第2織りは朱子織りであってもよい。その他もまた可能である。
【0030】
好ましくは、経糸および緯糸は、生体適合性ポリマー素材製の紡績糸である。例えば、経糸および緯糸の素材は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、および天然マルベリーシルクの群から選択される少なくとも1つである。
【0031】
経糸の繊度は、40Dから100Dであってもよい。経糸は、それぞれ異なる数のモノフィラメント糸から成るマルチフィラメント糸であってもよい。好ましくは、経糸および緯糸を織って複合布を形成する前に、経糸は表面を覆う均一な糊付け層を形成するように糊付けされる。糊付けは、50m/minから100m/minの糊付け速度および50℃から80℃の乾燥シリンダ温度で行われる。これによって、経糸の強度と耐摩擦性を高めることができる。その後、糊付けされた経糸には、さらに部分整経を施してもよい。
【0032】
緯糸は、製織工程中に綜絖の目または筬羽を通過する必要がないため、摩耗がより少なく、糊付けの必要はない。従って、緯糸は、モノフィラメント、合糸、および合撚糸のうちの1つであってもよい。緯糸の繊度は、40Dから100Dの範囲であってもよい。複数の糸における単糸の数は0から6本の範囲であってもよく、その撚り数は0から300回転/10cmであってもよい。撚った後、糸内の繊維間のねじれが増加し、その撚り数が増えるにつれて繊維間の距離も増える。その結果、前述の経糸と緯糸とが互いに織り合わされると、それに応じて結果として得られる布地の空隙率が増加する。従って、布地の透過性は、使用される糸の撚り数と密接な関係がある。従って、実用的なニーズに応じて、適切な撚り数の糸を選択することが勧められる。一例においては、経糸および緯糸を織って複合布を形成する前に、緯糸に巻き取り機または撚糸機で巻き取りまたは撚り操作が施される。これらは、その後、杼に均一に巻かれることで、製織準備ができる。緯糸にモノフィラメント糸が選択される場合、巻き糸における単糸の数は、巻き取り機ではゼロに設定される。緯糸を撚る必要がない他の例では、撚糸機の撚り数はゼロに設定される。
【0033】
経糸と緯糸とは、高精度製織機で織られてもよい。経糸ビームから経糸が繰り出された後、経糸には順次、糸通し処理がさらに施される、すなわち、経糸が順次、綜絖の目および筬羽を通過する。その後、経糸は緯糸と織り合わされて、織り合わされた平織りと朱子織りを有する複合布を形成する。
【0034】
製織工程中、経糸は、綜絖の目、筬羽、および杼から繰り返し摩擦を受ける。摩擦は、経糸を引っ掛かりやすくしたり、毛羽立ちやすくしたりして、経糸の切断を招き、結果として布地表面に明らかな欠陥となる。それ故、その後の波形成形および硬化処理の後、人工血管の外観に品質低下等の欠陥を示し、結果的に、その管壁が不均一となり、このことは、人工血管使用時の治療効果に悪影響を与えるおそれがある。これを回避するために、本発明の実施形態では、経糸と緯糸とを織って複合布を形成する前に、すなわち、経糸が綜絖の目、筬羽、および杼を引き続き糸通しする前に、経糸は糊付けされる。これによって、切断や毛羽立ち等がなく、工程が円滑に進むことを確実にし、最終的に結果として得られる人工血管が均一な管壁を有することを可能にする。
【0035】
ステップS11で経糸が糊付けされた後で、ステップS12で複合布を波形成形する前に、複合布は糊抜きされる。好ましくは、糊抜きは、80℃から85℃の範囲の温度で、3時間から5時間の範囲の期間で行われる。
【0036】
ステップS12において複合布を波形成形する際に、糊抜きされた複合布は、1mmから2mmのピッチのステンレス鋼製コアシャフトに配置されて、その上に厚デニールで高強度の糸が10kg/Nから12kg/Nの張力で巻き付けられてもよい。硬化工程中、その上に布が巻かれたコアシャフトを3分から5分ほど80℃から90℃の温度の湯の中に入れ、布地の波形形状を安定させてから乾燥させてもよい。このようにして、高柔軟性および低透過性を有する人工血管を得ることができる。
【0037】
本発明の実施形態は上記の方法によって作製される人工血管も提供する。人工血管は、熱硬化工程で得られる3次元チューブであって、8mmから36mmの径を有する。さらに、本発明の実施形態で提供される人工血管において、複合布の経糸密度の範囲は480本/10cmから748本/10cmであり、複合布の緯糸密度の範囲は280本/10cmから400本/10cmであることが好ましい。このようにすれば、望ましい柔軟性と低透過性とを有する人工血管を確保することができる。
【0038】
複合布が低透過性と高柔軟性との両方を有することを可能にするために、第1織りと第2織りとは、1:1の面積比で交互になり、第1織りは平織り、第2織りは5から9本の長い経糸の浮き線を有する朱子織りであることが好ましい。本発明の実施形態で提供される人工血管および方法は、以下において、例示的な実施例により詳細に説明される。本発明利点および目的は、以下の実施例の説明からより明らかとなる。
【0039】
[実施例1]
経糸は、それぞれが24本のモノフィラメント糸から成るマルチフィラメント糸であり、糊付けされた、80D/24F医療用ポリエチレンテレフタレート糸であった。緯糸は、それぞれが40Dポリエステル製の3本のモノフィラメントを300回転/10cmの撚り数で撚った撚糸であった。複合布は、平織りと9本の長い浮き線を有する朱子織りからなり、平織りと朱子織りとの面積比は1:1であった。さらに、複合布は、24mmの直径を有する布チューブへと加工された。
【0040】
複合布の外観が
図2に示されており、黒色のブロックは平織りの経糸の織り合わせ点を表し、灰色のブロックは朱子織りの経糸の織り合わせ点を表し、長い経糸の浮き線の数は9本で、白色のブロックは緯糸の織り合わせ点を表す。アラビア数字の1、2、3...10は、平織りを示し、大文字のA、B、C...Jは、朱子織りを示す。
【0041】
人工血管の布地は、高精度製織機で織られ、経糸の密度は600本/10cm、緯糸の密度は280本/10cmであった。経糸の総数は450本で、それぞれ24本の繊維を有し、2つのシステムの経糸ビームが同時に作動して経糸を送り出した。引き続き糸を合計60個の筬羽に糸通しすることを含む順次的な糸通し工程が続いた。製織工程中、糸は均一な張力で織られ、破断または毛羽立ちは起こらなかった。このようにして、結果的に、顕著な浮き線、均一で整った質感、および光沢があって清潔な外観を持つ複合布となった。
【0042】
複合布には、糊抜き、波形成形、および熱硬化工程が順番に施された。糊抜き工程は、5時間、85℃の温度で行われた。糊抜き工程後、複合布は2mmのピッチのステンレス鋼製コアシャフトに配置されて、その上に厚デニールで高強度の糸が12kg/Nの張力で巻き付けられて布地に波形成形した。波形成形工程後、その上に複合布が巻き付けられたコアシャフトは、5分間、90℃の温度の湯の中に置かれて、熱硬化された。布地の波形形状が安定した後、乾燥された。最終的に、3次元チューブ状形態を有する人工血管が得られた。
【0043】
実施例1で作製された人工血管は、望ましい柔軟性を有する。心臓ループ試験では、ループ高さは10cmと測定された。一般的に、より高いループ高さは柔軟性の良さを示すと認められている。16kPaの圧力では、その透過性は150ml/cm2・minと測定された。一般に、400ml/cm2・minを下回ると低透過性と考えられている。中国国家規格GB/T14233.1-2008、すなわち、医用輸液、輸血、および注射機器の試験方法、第1部:化学分析方法に従って、実施例1で作製された人工血管に化学分析が行われた。さらに、中国国家規格GB/T16886.4-2003、すなわち、医療機器の生体評価、第4部:血液との相互作用に関する試験の選択、およびGB/T168865-2017、すなわち、医療機器の生体評価、第5部:体外細胞毒性の試験に従って、実施例1の人工血管に生体試験も行われた。化学分析および生体試験の結果は、以下の表1にまとめてある。
【0044】
【0045】
表1から、実施例1で作製された人工血管は、全ての化学的および生物学的性能要求事項を満たしていることが分かる。
【0046】
[実施例2]
経糸は、それぞれが72本のモノフィラメント糸から成るマルチフィラメント糸であり、糊付けされた、100D/72f医療用ポリテトラフルオロエチレン糸であった。緯糸は、それぞれが40Dポリテトラフルオロエチレンのフィラメント製で、撚られていない6本のモノフィラメントを有する合糸であった。複合布は、平織りと5本の長い浮き線を有する朱子織りからなり、平織りと朱子織りとの面積比は1:1であった。さらに、複合布は、36mmの直径を有する布チューブへと加工された。
【0047】
複合布の外観が
図3に示されており、黒色のブロックは平織りの経糸の織り合わせ点を表し、灰色のブロックは朱子織りの経糸の織り合わせ点を表し、長い経糸の浮き線の数は5本で、白色のブロックは緯糸の織り合わせ点を表す。アラビア数字の1、2、3...6は、平織りを示し、大文字のA、B、C...Fは、朱子織りを示す。
【0048】
人工血管の布地は、高精度製織機で織られ、経糸の密度は480本/10cm、緯糸の密度は300本/10cmであった。経糸の総数は544本で、それぞれ24本の繊維を有し、2つのシステムの経糸ビームが同時に作動して経糸を送り出した。引き続き経糸を合計86個の筬羽に糸通しすることを含む順次的な糸通し工程が続いた。製織工程中、糸は均一な張力で織られ、破断または毛羽立ちは起こらなかった。この方法では、結果的に、顕著な浮き、均一で整った質感、および光沢があって清潔な外観を持つ複合布となった。
【0049】
複合布には、糊抜き、波形成形、および熱硬化工程が順番に施された。糊抜き工程は、3時間、80℃の温度で行われた。糊抜き工程後、複合布は1mmのピッチのステンレス鋼製コアシャフトに配置されて、その上に厚デニールで高強度の糸が10kg/Nの張力で巻き付けられて布地に波形成形した。波形成形工程後、その上に複合布が巻き付けられたコアシャフトは、3分間、80℃の温度の湯の中に置かれて、熱硬化された。布地の波形形状が安定した後、乾燥された。最終的に、3次元チューブ状形態を有する人工血管が得られた。
【0050】
実施例2で作製された人工血管は、望ましい柔軟性を有する。心臓ループテストでは、ループ高さは8cmと測定された。一般的に、より高いループ高さは柔軟性の良さを示すと認められている。16kPaの圧力では、その透過性は50ml/cm2・minと測定された。さらに実施例1と同じ化学分析および生物学的性能試験が行われ、試験結果は全ての要求事項を満たした。
【0051】
[実施例3]
経糸は、それぞれが16本のモノフィラメント糸から成るマルチフィラメント糸であり、糊付けされた、40D/16f医療用ポリエチレンテレフタレート糸であった。緯糸は、40D/16f医療用ポリエチレンテレフタレート糸であり、100回転/10cmの撚り数で撚られた。複合布は、平織りと6本の長い浮き線を有する朱子織りからなり、平織りと朱子織りとの面積比は1:1であった。さらに、複合布は、8mmの直径を有する布チューブへと加工された。
【0052】
複合布の外観が
図4に示されており、黒色のブロックは平織りの経糸の織り合わせ点を表し、灰色のブロックは朱子織りの経糸の織り合わせ点を表し、長い経糸の浮き線の数は6本で、白色のブロックは緯糸の織り合わせ点を表す。アラビア数字の1、2、3...8は、平織りを示し、大文字のA、B、C...Hは、朱子織りを示す。
【0053】
人工血管の布地は、高精度製織機で織られ、経糸の密度は748本/10cm、緯糸の密度は400本/10cmであった。経糸の総数は138本で、2つのシステムの経糸ビームが同時に作動して経糸を送り出した。引き続き経糸を合計22個の筬羽に糸通しすることを含む順次的な糸通し工程が続いた。製織工程中、糸は均一な張力で織られ、破断または毛羽立ちは起こらなかった。結果的に、顕著な浮き線、均一で整った質感、および光沢があって清潔な外観を持つ複合布となった。
【0054】
複合布には、糊抜き、波形成形、および熱硬化工程が順番に施された。糊抜き工程は、4時間、85℃の温度で行われた。糊抜き工程後、複合布は1.5mmのピッチのステンレス鋼製コアシャフトに配置されて、その上に厚デニールで高強度の糸が11kg/Nの張力で巻き付けられて布地に波形成形した。波形成形工程後、その上に複合布が巻き付けられたコアシャフトは、4分間、85℃の温度の湯の中に置かれて、熱硬化された。布地の波形形状が安定した後、乾燥された。最終的に、3次元チューブ状形態を有する人工血管が得られた。
【0055】
実施例3で作製された人工血管は、望ましい柔軟性を有する。心臓ループテストでは、ループ高さは16cmと測定された。一般的に、より高いループ高さは柔軟性の良さを示すと認められている。16kPaの圧力では、その透過性は200ml/cm2・minと測定された。さらに実施例1と同じ化学分析および生物学的性能試験が行われ、試験結果は全ての要件を満たした。
【0056】
以上、いくつかの人工血管およびその作製方法を例として説明したが、本実施例により、糸の径/本数および撚り数等のパラメータは、明細書内の上述の範囲から選択されてもよいことが理解されるであろうことに留意されたい。従って、上述の例は改良されて、様々な代替手段を得てもよく、本発明は、上述の例に限定されない。
【0057】
結論として、本発明において提供される人工血管および方法は、従来の人工血管の低柔軟性と過透過性の問題を解決するものである。
【0058】
上記に提示された説明は、本発明のいくつかの好ましい実施例の説明に過ぎず、いかなる意味においても、その範囲を限定する意図はない。上記の教示に基づいて、当業者によって行われるあらゆる変更および改良は、添付の請求の範囲に定義される範囲に含まれる。