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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240607BHJP
【FI】
H02M7/48 W
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022563819
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2021042379
(87)【国際公開番号】W WO2022107838
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/043320
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/043321
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 天次郎
(72)【発明者】
【氏名】佐野 壮太
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 彰
(72)【発明者】
【氏名】大石 潔
(72)【発明者】
【氏名】横倉 勇希
(72)【発明者】
【氏名】小林 勇斗
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-89244(JP,A)
【文献】特開平9-182439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイッチング素子を有し、各スイッチング素子のスイッチング状態量に応じて、直流電力を交流電力に変換して負荷に供給する電力変換部、
前記スイッチング状態量に基づいて、前記電力変換部から供給される多相交流の電圧出力値を計算する電圧出力計算部、
多相交流の電圧指令値と、前記電圧出力計算部で計算された多相交流の電圧出力値とをそれぞれ積分して、電圧指令積分値と電圧出力積分値とを計算して求める積分値計算部、
前記電圧指令積分値と、前記電圧出力積分値とを用いて、前記電力変換部のスイッチング状態量を決定して出力するスイッチング決定部、
を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記スイッチング決定部は、
前記電圧指令積分値と、前記電圧出力積分値と、外部より入力される許容範囲とに基づいて、前記電力変換部のスイッチング状態量を決定するための設定信号を出力するスイッチング計算部と、
前記設定信号に基づいて、前記電力変換部のスイッチング状態量を決定するスイッチング出力部、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記スイッチング計算部は、前記電圧指令積分値と、前記電圧出力積分値と、前記許容範囲との関係によりスイッチング状態量を算出する、
ことを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記スイッチング計算部は、前記電力変換部のスイッチング状態量を前記設定信号として出力する、
ことを特徴とする請求項2または3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記スイッチング計算部は、前記電力変換部のスイッチング状態量と、前記スイッチング状態量の継続時間を前記設定信号として出力する、
ことを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記スイッチング計算部は、現在のスイッチング状態量を使用し続けた時に、前記電圧出力積分値と、前記電圧指令積分値に設定した前記許容範囲の限界値とが交差するまでの継続時間を計算し、前記交差した相と、前記スイッチング状態量を決定するスイッチング決定テーブルと、前記交差の際の電圧指令積分値の位相もしくは電圧出力積分値の位相のどちらか一方とに基づき、前記スイッチング状態量を計算し、前記継続時間と、前記スイッチング状態量とを前記設定信号として出力する、
ことを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記スイッチング計算部は、現在のスイッチング状態量を使用し続けた時に、前記電圧指令積分値に設定した前記許容範囲の限界値と、前記電圧出力積分値とが交差するまでの第一の継続時間を計算し、交差した地点から次に前記許容範囲の限界値と、前記電圧出力積分値とが交差するまでの第二の継続時間を複数のスイッチング状態量とに基づいて計算し、第二の継続時間が最も長くなる第一のスイッチング状態量を選択し、前記設定信号として、前記第一の継続時間と、前記第一のスイッチング状態量とを出力する、
ことを特徴とする請求項2、3、5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記スイッチング計算部は、前記第二の継続時間が最も長くなる前記第一のスイッチング状態量を選択し、前記電圧出力積分値と、前記許容範囲の限界値とが交差した後に前記第一のスイッチング状態量を切り替えて、次に前記電圧出力積分値と、前記許容範囲の限界値とが交差するまでの第三の継続時間を複数のスイッチング状態量に基づいて計算し、前記第三の継続時間が最も長くなる第二のスイッチング状態量を選択し、前記設定信号として、第一および第二の継続時間とスイッチング状態量との組み合わせを出力する、
ことを特徴とする請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記スイッチング計算部は、第N+1の継続時間が最も長くなる第Nのスイッチング状態量までを計算し、N個の継続時間とスイッチング状態量との組み合わせを出力する、
ことを特徴とする請求項7または8に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記スイッチング計算部は、前記複数のスイッチング状態量からスイッチング状態量を選択する際に継続時間が最も長くなるスイッチング状態量を選択する、もしくは前記スイッチング状態量の各相のスイッチング切り替わり回数と、継続時間とに基づき、
前記各相のスイッチング切り替わり回数の合計値/継続時間の合計値から求まる評価値に基づき、最も評価値が小さいスイッチング状態量を選択する、
ことを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記負荷は回転電機であり、当該回転電機に流れる電流を検出電流値として検出する電流検出部をさらに備え、
前記電流検出部にて検出した前記検出電流値の高調波成分である電流高調波データを計算する高調波処理部と、
前記高調波処理部にて計算した電流高調波データと、高調波電流指令値とに基づき、前記許容範囲を計算する高調波電流制御器と、
前記電流検出部にて検出した前記検出電流値の低周波成分である電流低周波値を計算する低周波抽出部と、
前記低周波抽出部にて計算した電流低周波値と、電流指令値とに基づき、前記多相交流の電圧指令値を計算する電流制御器とを備えることを特徴とする請求項2から10のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記低周波抽出部は、前記検出電流値を2点以上検出し、複数の検出電流値に基づき、前記電流低周波値を計算することを特徴とする請求項11に記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記高調波処理部は、前記検出電流値を2点以上検出し、複数の検出電流値に基づき、前記電流高調波データを計算することを特徴とする請求項11または12に記載の電力変換装置。
【請求項14】
前記スイッチング決定部は、オフセット調整された前記電圧指令積分値と、前記電圧出力積分値とに基づいて計算することを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記電圧出力計算部は、直流電源の直流電源電圧と、前記スイッチング状態量とに基づいて、前記電力変換部から供給される多相交流の電圧出力値を計算することを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)方式を用いた電力変換装置では、一般的に、三角波キャリアと電圧指令値を比較してスイッチング素子のスイッチング状態を決定する三角波キャリア比較PWM方式が用いられるが、出力電圧が正弦波を模擬した矩形パルスになるため、基本波である正弦波に加えて高調波が発生し、回転電機に流れる電流、あるいは発生するトルクに脈動(リプルとも呼ばれる)が生じることになる。
【0003】
そこで、この問題を解消するために電力変換部の複数スイッチング素子のスイッチング状態を直接決定する方式(直接スイッチング制御方式)が提案されている。直接スイッチング制御方式の1つに直接トルク制御が知られており、直接トルク制御は、回転電機のトルクと磁束の指令値に対して許容値を設定し、これらの値が許容値を超えた時にスイッチング状態を切り替える方式である。磁束とトルク脈動を抑えるようにスイッチング状態を決定するため、前記PWM方式に対して、回転電機に流れる電流、あるいは発生するトルク脈動を低減できる。また、許容値を大きく設定することで、電力変換部の複数スイッチング素子のスイッチング状態が遷移する回数が少なくなるため、スイッチング状態の遷移時に発生するスイッチング損失も小さくできる。
【0004】
また、前記直接トルク制御を改良した直接スイッチング制御方式としてモデル予測制御が知られている。モデル予測制御は電力変換部の全候補のスイッチング状態による回転電機に流れる電流、発生するトルク、あるいは磁束を回転電機の状態方程式に基づいて計算し、計算したこれらの値に基づいてスイッチング状態を決定する方式である。このように回転電機の駆動状態の予測値に基づいて、スイッチング状態を制御することで、前記PWM方式と前記直接トルク制御と比較して、過渡状態における電流、トルク、磁束の時定数の向上、定常状態における電流、あるいはトルク脈動を低減でき、スイッチング状態の遷移回数も少なくなり、スイッチング損失も小さくできる。
【0005】
しかしながら、全候補のスイッチング状態による回転電機の値を計算するために、回転電機の状態方程式を計算する必要があり、計算量が非常に多くなる。また、使用する回転電機のパラメータが多く、パラメータ誤差の影響を受けやすいという欠点がある。
【0006】
例えば、下記の特許文献1記載の従来技術においては、電圧値を積分した値に基づいた直接スイッチング制御方式が検討されている。この制御方式は、電圧指令値ベクトルと電圧出力ベクトルの誤差を積分し、この積分値が電圧指令値ベクトルに設定した境界円を超えた場合に、境界円の中心に最も近い方向の電圧出力ベクトルを出力するものである。このため、電圧指令ベクトルと電圧出力ベクトルの電圧積分誤差を長く境界円に留まるようにスイッチング状態を決定するため、電力変換部におけるスイッチング素子のスイッチング遷移回数を必要最低限に抑えながら、出力電圧を正弦波状に制御される。
【0007】
また、下記の特許文献2記載の従来技術においては、回転電機の磁束に基づいた直接スイッチング制御方式が検討されている。この制御方式は、回転電機の磁束の基準回転磁束をあらかじめ設定し、基準回転磁束に設定した許容範囲に計算した磁束の偏差が収まるように零電圧ベクトルと非零電圧ベクトルを適宜出力するものである。このため、回転電機の磁束を円周で設定された基準回転磁束に沿うように制御されるため、回転電機に流れる高調波電流に起因した鉄損と銅損、およびトルク脈動が抑制される。
【0008】
さらに、下記の特許文献3記載の従来技術においてはモデル予測制御に基づいた直接トルク制御により直接スイッチング制御方式が検討されている。この制御方式は、回転電機の状態方程式に基づいて回転電機のトルクと固定子磁束を定められた区間において予測演算し、予測した区間においてトルクと固定子磁束が所望の許容値を満たしつつ、各相スイッチング素子のスイッチング遷移回数が最小となるスイッチングパターン(複数スイッチング状態の組み合わせ)を探索する。このため、定常状態において所望のトルクと固定子磁束のリプルの条件下で、最小限のスイッチング遷移回数となる。また、トルクに関わるステップ指令などの過渡状態においては、回転電機のトルクと固定子磁束の予測値の中で、最もトルク指令に追従するスイッチング状態を選択するため、高速なトルク応答時間を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平11-89244号公報
【文献】特開昭59-025592号公報
【文献】特開2011-152038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載されているような電圧値を積分した値に基づいた直接スイッチング制御方式は、電圧指令値ベクトルに設定した境界円を電圧指令ベクトルと電圧出力ベクトルの誤差の積分値が超えた場合に、スイッチング遷移回数が少なくなるようにスイッチング状態を切り替える。しかしながら、常に境界円の中心に最も近い方向の電圧出力ベクトルを選択するため、零電圧ベクトルを積極的に選択することができず、スイッチング状態が遷移する回数の低減効果には限界がある。
【0011】
また、特許文献2に記載されているような回転電機の磁束に基づいた直接スイッチング制御方式は、回転電機の磁束が基準回転磁束に設定した円状の許容範囲に収まるように零電圧ベクトルと非零電圧ベクトルを適宜選択する。そのため、特許文献1と比較して、零電圧ベクトルを選択することで、スイッチング遷移回数を低減しやすいが回転電機の磁束が含まれる領域毎に選択する電圧ベクトルを切り替える必要があるため、スイッチング状態を決定するテーブルが煩雑になる。また、基準回転磁束のベクトルに対して設定した円状の許容範囲に基づいて、電圧ベクトルを切り替えるか判定するため、切り替え判定時の計算量が多くなる。
【0012】
さらに、特許文献3に記載されているようなモデル予測制御に基づいた直接トルク制御は、特許文献1と特許文献2と比較して、制御対象である回転電機のトルクと固定子磁束の予測値を計算してスイッチング状態を決定するため、過渡状態の高速なトルク応答時間を維持しながら、定常状態のスイッチング損失を低減することができるが、回転電機の状態方程式に基づいてスイッチング状態を計算するため、回転電機のパラメータを多く使用することに加えて、回転電機の速度と回転電機に流れる電流値を使用するため、各パラメータにて誤差が生じた場合にスイッチング損失の低減効果が劣化することになる。
【0013】
本願は、前記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、
電力変換部のスイッチング状態量から求めた多相交流の各相の電圧値を積分した値と電圧指令値を積分した値とに基づき、スイッチング状態量を決定することにより、安価なマイコンにも実装可能な電力変換部のスイッチング損失を低減する電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願に開示される電力変換装置は、
複数のスイッチング素子を有し、各スイッチング素子のスイッチング状態量に応じて、直流電力を交流電力に変換して負荷に供給する電力変換部、
前記スイッチング状態量に基づいて、前記電力変換部から供給される多相交流の電圧出力値を計算する電圧出力計算部、
前記多相交流の電圧指令値と、前記電圧出力計算部で計算された前記多相交流の電圧出力値とを、それぞれ積分して、電圧指令積分値と電圧出力積分値とを計算して求める積分値計算部、
前記電圧指令積分値と、前記電圧出力積分値とを用いて、前記電力変換部のスイッチング状態量を決定して出力するスイッチング決定部、
を備えるものである。
【発明の効果】
【0015】
本願に開示される電力変換装置によれば、
電力変換部のスイッチング状態量から求めた多相交流の各相の電圧値を積分した値と電圧指令値を積分した値とに基づき、スイッチング状態量を決定することにより、安価なマイコンにも実装可能な電力変換部のスイッチング損失を低減する電力変換装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態1に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1に係る電力変換装置のハードウェア構成図である。
図3】実施の形態1に係る電力変換部の全候補のスイッチング状態を示す図である。
図4】実施の形態1に係る電力変換部のスイッチング状態指標と多相電圧出力値Voutとの関係を示す図である。
図5】実施の形態1に係る電力変換部のスイッチング状態量の更新判定方法と決定方法について説明するための図である。
図6】実施の形態1に係る電力変換装置の動作例を示すフローチャート図である。
図7】実施の形態2に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図8】実施の形態2に係る電力変換部のスイッチング状態量の更新判定方法と決定方法について説明するための図である。
図9】実施の形態2に係る電力変換装置の動作例を示すフローチャート図である。
図10】実施の形態3に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図11】実施の形態3に係る電力変換装置のハードウェア構成図である。
図12】実施の形態3に係る電力変換部のスイッチング状態量の更新判定方法と決定方法について説明するための図である。
図13】実施の形態3に係る電力変換装置の動作例を示すフローチャート図である。
図14】実施の形態4に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図15】実施の形態4に係る速度推定演算部の構成を示すブロック図である。
図16】実施の形態4に係る電力変換装置のハードウェア構成図である。
図17】実施の形態4に係る電力変換部のスイッチング状態量の更新判定方法と決定方法について説明するための図である。
図18】実施の形態4に係る電力変換装置の動作例を示すフローチャート図である。
図19】実施の形態5に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図20】実施の形態5に係る学習済みモデルおよび教師データに基づく機械学習を説明するブロック図である。
図21】実施の形態5に係る学習済みモデルを生成するためのハードウェア構成図である。
図22】実施の形態5に係る電力変換装置の動作例を示すフローチャート図である。
図23】実施の形態6に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図24】実施の形態6に係る電力変換装置のスイッチング状態量とスイッチング状態量の継続時間の計算方法について説明するための図である。
図25】実施の形態6に係る電力変換装置の動作例を示すフローチャート図である。
図26】実施の形態7に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図27】実施の形態7に係る検出した電流値から電流高調波データを計算する方法について説明するための図である。
図28】実施の形態7に係る検出した電流値から電流低周波データを計算する方法について説明するための図である。
図29】実施の形態7に係る電力変換装置の動作例を示すフローチャート図である。
図30】実施の形態8に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図31】実施の形態8に係る電力変換装置のハードウェア構成図である。
図32】実施の形態8に係る電力変換部の全候補のスイッチング状態量を示す図である。
図33】実施の形態8に係るスイッチングパターンを説明する図である。
図34】実施の形態8に係る電圧出力積分値を初期値として全候補の電圧予測値の積分値を説明する図である。
図35】実施の形態8に係る電圧指令値の位相60度にわたる電圧指令積分値と電圧予測値の積分値の軌跡を説明する図である。
図36】実施の形態8に係る電力変換装置の動作例を示すフローチャート図である。
図37】実施の形態9に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図38】実施の形態9に係る電力変換装置の電圧指令値の位相60度以上にわたる電圧指令積分値に許容値を設定した値と電圧予測値の積分値の軌跡を説明する図である。
図39】実施の形態9に係る電力変換装置の動作例を示すフローチャート図である。
図40】実施の形態10に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図41】実施の形態10に係る電力変換装置のハードウェア構成図である。
図42】実施の形態10に係る電圧指令値の位相60度以上にわたる電圧指令積分値に許容値を設定した値と電圧予測値の積分値の軌跡を説明する図である。
図43】実施の形態10に係る電力変換装置の動作例を示すフローチャート図である。
図44】実施の形態11に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図45】実施の形態11に係る電力変換装置に用いられる学習済みモデルおよび教師データに基づく機械学習を説明するブロック図である。
図46】実施の形態11に係る電力変換装置に用いられる学習済みモデルを生成するためのハードウェア構成図である。
図47】実施の形態11に係る電力変換装置の動作例を示すフローチャート図である。
図48】実施の形態12に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図49】実施の形態12に係る電力変換装置の速度推定演算部の構成を示すブロック図である。
図50】実施の形態12に係る電力変換装置の動作例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
本願は、直流電力を交流電力に変換する電力変換装置に関し、特に、回転電機に電力を供給するための電力変換部の複数スイッチング素子のスイッチング状態の制御を行う電力変換装置に関するものである。以下、本願の実施の形態1に係る電力変換装置について、図を用いて説明する。
図1は実施の形態1による電力変換装置100の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、電力変換装置100は、主回路である電力変換部1と、電力変換部1を出力制御する制御装置10とを備え、直流電源2と負荷3との間に接続される。
【0018】
電力変換部1は、直流電源2からの直流電力を交流電力に変換して負荷3に供給して負荷3を駆動する。負荷3は、電力変換部1から供給された交流電力によって駆動される。なお、負荷3として、例えば変圧器またはリアクトル、誘導電動機または同期電動機等の各種の電動機を用いることができる。
【0019】
制御装置10は、電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSに基づいて、電力変換部1から負荷3に出力する多相電圧出力値Voutを計算する電圧出力計算部11と、多相電圧指令値Vrefと、多相電圧出力値Voutをそれぞれ積分して、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutを計算する積分値計算部12と、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPref(ここで、許容範囲は1つの値だけから決定されるとは限らず、広がりを持った領域から決定されても良い。以下では、これら両方の意味を含めるため、許容範囲ΔPrefと呼ぶ)とに基づき、電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSを更新するか否かを判定する更新信号Snewを算出するスイッチング更新判定部13と、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、更新信号Snewとに基づき、電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSを決定するスイッチング決定テーブル14とを備える。電力変換部1のスイッチング状態量SWSは、スイッチング更新判定部13とスイッチング決定テーブル14によって決定するため、後述するスイッチング決定部300に相当する。
【0020】
スイッチング更新判定部13は、電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと、電圧出力積分値Poutとに基づき、電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSを更新するかどうかを判定する。例えば、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新する場合は、更新信号Snewとして1を出力し、スイッチング状態量SWSを更新しない場合は、更新信号Snewとして0を出力する。更新信号Snewの算出方法についての詳細は後述する。
【0021】
スイッチング決定テーブル14は、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、更新信号Snewとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する。この決定されたスイッチング状態量を、以降、決定SWSと呼ぶ。例えば、更新信号Snewが1の場合は、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新し、更新信号Snewが0の場合は、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新しない、つまりスイッチング状態量SWSを維持する。スイッチング決定テーブル14の詳細は後述する。
【0022】
図2は、電力変換装置100を実現するハードウェア構成図である。
電力変換部1は、直流電源2の直流電力を三相交流電力に変換する三相インバータ回路により構成され、負荷3を駆動する。電力変換部1は、それぞれ、ダイオードDが逆並列接続された複数のスイッチング素子Q1~Q6を備える。そして、各相の上アームと下アームとの接続点からバスバーによって負荷3の各相の入力端子に接続されている。この場合、u相はスイッチング素子Q1、Q2を備え、v相はスイッチング素子Q3、Q4を備え、w相はスイッチング素子Q5、Q6を備える。
【0023】
制御装置10は、プロセッサ40および記憶装置41で構成される。
記憶装置41は、RAM(Random Access Memory)等の揮発性記憶装置(図示省略)と、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、等の不揮発性の補助記憶装置(図示省略)とを備えている。なお、不揮発性の補助記憶装置としては、HDDの代わりにフラッシュメモリを使用してもよい。
プロセッサ40は記憶装置41から入力された制御プログラムを実行する。
記憶装置41は補助記憶装置と揮発性記憶装置とを備える。プロセッサ40には補助記憶装置から揮発性記憶装置を介して制御プログラム42が入力される。
【0024】
プロセッサ40は、演算結果などの処理データ43を記憶装置41の揮発性記憶装置に出力し、これらの処理データを、必要に応じて揮発性記憶装置を介して補助記憶装置に保存する。
上述したように、制御装置10は、電力変換部1の複数のスイッチング素子Q1~Q6のスイッチング状態量SWSを出力して電力変換部1を制御する。
【0025】
図3は、電力変換部1の2レベルを対象とした場合の複数のスイッチング素子のスイッチング状態量の一例を示す図である。スイッチング状態量SWSは、各スイッチング素子Q1~Q6のオン(:1)とオフ(:0)の信号の組み合わせで決まる。この場合、この組み合わせは、オンに対応するスイッチング状態であるレベル1とオフに対応するスイッチング状態であるレベル0で示したスイッチングパラメータ(スイッチング状態のレベルを表す数値)により、一意に対応して定まるため、スイッチング状態を表す指標として定めることができる。
この図3では、u相のスイッチング状態SWu、v相のスイッチング状態SWv、w相のスイッチング状態SWwをそれぞれ規定するスイッチング素子Q1とQ2、Q3とQ4、Q5とQ6のスイッチング状態レベルの数値の組み合わせが全部で9通りあるため、これらを9通りのスイッチング状態指標SW0~SW8で表わすことで区別するようにしている。
具体的には、上アームおよび下アームのスイッチング素子Q1~Q6の内、一方がオンで他方がオフとなる8通りのスイッチング状態量SWS(スイッチング状態指標SW0、SW1、SW2、SW3、SW4、SW5、SW6、SW7にそれぞれ対応するスイッチング状態量)と、電力変換部1の動作停止時に全てのスイッチング素子Q1~Q6をオフするスイッチング状態量SWS(スイッチング状態指標SW8に対応するスイッチング状態量)の9通りのスイッチング状態量SWSがある。
【0026】
電圧出力計算部11は、多相電圧が三相電圧の場合において、三相電圧出力値Voutの各相の電圧出力、すなわち、u相電圧Vu、v相電圧Vv、w相電圧Vwの値が、図3に示す電力変換部1のスイッチング状態量SWSに基づいて、図4のように計算される。図4に示したように、スイッチング状態指標SW0~SW8に対応させて、u相電圧Vu、v相電圧Vv、w相電圧Vwの値が示されている。ここで、Vdcは直流電源2の母線電圧Vdcを表している。
【0027】
図5は、スイッチング更新判定部13とスイッチング決定テーブル14による電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する方法について説明するための図である。なお、詳しく言うと、図5は、図5Aと、この図5Aの一部拡大図である図5Bの2つの図から構成されている。なお、図5A図5Bでは、多相電圧指令値Vrefを積分した電圧指令積分値Prefと、多相電圧出力値Voutを積分した電圧出力積分値Poutとを、三相の静止座標系であるuvw座標系において、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する場合を代表例として示している。
【0028】
ここでは、多相電圧指令値Vrefがuvw三相の静止座標系において定常状態であると仮定すると、uvw三相の電圧指令値の周波数にしたがって変化する。そして、例えば周波数が正の場合は、反時計方向に、円状に変化する。そのため、三相電圧指令値Vrefを積分した三相電圧指令積分値Prefも、反時計方向に、円状に変化する。
【0029】
三相電圧出力値Voutは、電力変換部1のスイッチング状態量SWSにより、図4のようにして決定される値であり、スイッチング状態指標SW0~SW7に対応して、Vdc/2と-Vdc/2の2値にしたがって、uvw座標上に描かれることになる。そして、u相、v相、w相全ての電圧の合成ベクトルが実際に出力される電圧出力値になる。この時、スイッチング状態指標SW0、SW7、SW8に対応する各スイッチング状態量は、各相の上アームのスイッチング状態量SWSによる合成ベクトルが零となるため、零の電圧出力値が3通り、非零の電圧出力値が6通りということになる。
【0030】
図5A図5Bに示したように、三相電圧指令値Vrefを積分した三相電圧指令積分値Prefに対して設定した許容範囲ΔPrefによって、六角形の許容範囲ΔPrefが描かれている。三相電圧指令積分値Prefに対して許容範囲ΔPrefを設定した三相電圧許容値Pdeltaは、三相電圧指令積分値Prefの各相に対して許容範囲ΔPrefを設定するため(図中、Δuがu相の許容範囲、Δvがv相の許容範囲、Δwがw相の許容範囲を示す)、六角形の許容範囲ΔPrefとなる。この六角形の許容範囲ΔPrefと、三相電圧出力積分値Poutとに基づいて、スイッチング更新判定部13は、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新する必要があるかどうかを判定する。以下、この手法についてさらに詳しく説明する。
【0031】
図5A図5Bに示すように、開始点として、三相電圧出力積分値Poutが六角形の許容範囲ΔPrefのv相の下限値と交差する点(図5Bの点V参照)としている。
まず、三相電圧出力積分値Poutが六角形の許容範囲ΔPrefのv相の下限値と交差しているため(交差点は点V)、スイッチング更新判定部13は更新信号Snewとして、スイッチング状態量SWSを更新する1を出力する。スイッチング決定テーブル14は、更新信号Snewが1であるため、スイッチング状態量SWSを更新する。
この時、三相電圧出力積分値Poutは、三相電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向が交差する六角形(両者の交差点は図5Bの点V1i)の許容範囲ΔPrefの辺(この辺は図5Bの辺V1d)と隣り合う辺(これらの辺は図5Bの辺V1cと辺V1e)を含めた3辺ではない辺(具体的には、この辺は図5Bの辺V1a)であるv相の下限値に到達しているため、スイッチング状態量SWSとして非零電圧ベクトルが出力される。
ここで、非零電圧ベクトルは、三相電圧指令積分値Prefの進行方向と交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺(この辺は図5Bの辺V1d)に変化するスイッチング状態量SWSを出力するため、スイッチング状態量SWS1として、三相電圧出力積分値Poutがv相の上限値(図5Bの辺V1dに対応)の方向に変化するスイッチング状態指標SW3が選択される。
【0032】
次に、三相電圧出力積分値Poutは三相電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向が交差する六角形(両者の交差点は図5Bの点V2i)の許容範囲ΔPrefの辺(この辺は図5Bの辺V2c)と隣り合う辺(これらの辺は図5Bの辺V2bと辺V2d)を含めた3辺ではない辺(具体的には、この辺は図5Bの辺V2f)であるのu相の上限値に到達しているため、スイッチング状態量SWSとして非零電圧ベクトルが出力される。
ここで、非零電圧ベクトルは、三相電圧指令積分値Prefの進行方向と交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺(具体的には、この辺は図5Bの辺V2c)に変化するスイッチング状態量SWSを出力するため、スイッチング状態量SWS2は、三相電圧出力積分値Poutがu相の下限値(図5Bの辺V2cに対応)の方向に変化するスイッチング状態指標SW4が選択される。
【0033】
その後、三相電圧出力積分値Poutは、三相電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向が交差する六角形(両者の交差点は図5Bの点V3i)の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺の内、u相の下限値(図5Bの辺V3cに対応)に到達するため、スイッチング状態量SWS3として零電圧ベクトルとなるスイッチング状態指標SW0またはSW7に基づくスイッチング状態量が出力される。
【0034】
以上をまとめると、図5A図5Bに示したように、開始時点である六角形の許容範囲ΔPrefのv相の下限値と交差した時は、スイッチング状態量SWS1として三相電圧指令積分値Prefの進行方向と交差する六角形の許容範囲ΔPrefのv相の上限値の方向に変化するスイッチング状態指標SW3に応じたスイッチング状態量が出力される。
次にu相の上限値と交差した時は、スイッチング状態量SWS2として三相電圧指令積分値Prefの進行方向と交差する六角形の許容範囲ΔPrefのu相の下限値の方向に変化するスイッチング状態指標SW4に対応したスイッチング状態量が出力される。
その後、u相の下限値と交差した時は、スイッチング状態量SWS3として零電圧ベクトルとなるスイッチング状態指標SW0またはSW7に対応したスイッチング状態量が出力される。すなわち、いずれの場合においても、スイッチング状態量は、前記電圧指令積分値の変化を表わすベクトルから定まると言える。
【0035】
このようにして、各相の電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、許容範囲ΔPrefとに基づき、スイッチング状態量SWSを更新するか判定する更新信号Snewをスイッチング更新判定部13にて計算し、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、更新信号Snewとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSをスイッチング決定テーブル14のスイッチング状態指標に従って決定することで、少ない計算量にて電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSの遷移時に生じるスイッチング損失SWlossが低減される。
【0036】
次に、この実施の形態1の電力変換装置100における制御動作について、以下、図を用いて詳しく説明する。
【0037】
図6は、電力変換装置100における制御動作を説明するフローチャートを示す図である。
まず、電圧出力計算部11は、スイッチング決定テーブル14が出力したスイッチング状態量SWSに基づいて、多相電圧出力値Voutを計算する(ステップS1)。
次に、積分値計算部12は、多相電圧指令値Vrefと、多相電圧出力値Voutとをそれぞれ積分し、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとを計算する(ステップS2)。
スイッチング更新判定部13は、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefとに基づいて、図5のように電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新するかどうかの更新信号Snewを計算する(ステップS3)。
スイッチング決定テーブル14は、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、更新信号Snewとに基づいて、図5に示すようなスイッチング状態量の変化に従って、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する(ステップS4)。
電力変換部1は、スイッチング決定テーブル14にて決定されたスイッチング状態量SWSに基づいて、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して、負荷3に出力する(ステップS5)。
負荷3は、電力変換部1から出力された交流電力によって駆動制御される(ステップS6)。
【0038】
以上説明したように、この実施の形態1の電力変換装置100は、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して負荷3に供給する電力変換部1と、スイッチング決定テーブル14が出力したスイッチング状態量SWSとに基づいて、多相電圧出力値Voutを計算する電圧出力計算部11と、多相電圧指令値Vrefと、多相電圧出力値Voutとをそれぞれ積分し、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとを計算する積分値計算部12と、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefと、に基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新するかどうかを判定するスイッチング更新判定部13と、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、許容範囲ΔPrefから計算した電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向と、更新信号Snewとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定するスイッチング決定テーブル14とを備え、スイッチング更新判定部13は、三相電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaにより構成される六角形の許容範囲ΔPrefのいずれかの辺に三相電圧出力積分値Poutのいずれかの相が到達した場合に、更新信号Snewとして1、それ以外の場合は更新信号Snewとして0を出力し、スイッチング決定テーブル14は更新信号Snewが1の場合に、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新する。
スイッチング決定テーブル14は、電圧出力積分値Poutが電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向と交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺に到達した場合は、電力変換部1のスイッチング状態量SWSとして零電圧ベクトルを出力し、残りの3辺に到達した場合は、電力変換部1のスイッチング状態量SWSとして電圧出力積分値Poutが電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向に変化する非零電圧ベクトルを出力する。
【0039】
このため、実施の形態1の電力変換装置100は、多相電圧指令値Vrefを積分した電圧指令積分値Prefに多相電圧出力値Voutを積分した電圧出力積分値Poutを追従させつつ、電力変換部1のスイッチング状態量SWSの更新判定を電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、許容範囲ΔPrefとの各相の値に基づいて算出し、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、電圧指令積分値Prefから計算した電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向と、更新信号Snewと、に基づいて決定するため、安価なマイコンにも実装可能な計算量にて、電力変換部1のスイッチング損失SWlossを低減するように負荷3を駆動制御することができる。
【0040】
実施の形態2.
実施の形態2に係る電力変換装置について、以下図7を用いて説明する。ここで、図7は実施の形態2に係る電力変換装置100Aの構成を示すブロック図である。
【0041】
図7に示したように、電力変換装置100Aのスイッチング決定テーブル14Aは、電力変換部1のスイッチング状態量SWSとして非零電圧ベクトルを出力する際の選択方法において、上述の実施の形態1に係る電力変換装置100のスイッチング決定テーブル14と異なる。以下においては、実施の形態1と同様の機能を有する構成要素については同一符号を付して説明を省略し、実施の形態1と異なる点を中心に説明する。
【0042】
図7に示すように、実施の形態2による電力変換装置100Aは、実施の形態1による制御装置10が有するスイッチング決定テーブル14に代えて、制御装置10Aが有するスイッチング決定テーブル14Aを備える。電力変換部1のスイッチング状態量SWSは、スイッチング更新判定部13とスイッチング決定テーブル14Aによって決定するため、後述するスイッチング決定部300に相当する。
【0043】
スイッチング決定テーブル14Aは、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、更新信号Snewとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する。スイッチング状態量SWSの決定方法についての詳細は後述する。
【0044】
図8は、スイッチング更新判定部13とスイッチング決定テーブル14Aによる電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する方法について説明している。図8では、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとを三相の静止座標系であるuvw座標において電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する場合としている。スイッチング更新判定部13における、スイッチング状態量SWSを更新するかどうかの判定方法は実施の形態1と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0045】
実施の形態2におけるスイッチング決定テーブル14Aと実施の形態1におけるスイッチング決定テーブル14との違いは、スイッチング状態量SWSとして出力する非零電圧ベクトルの選択方法である。
【0046】
実施の形態1では、三相電圧出力積分値Poutが三相電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向が交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺ではない辺に到達した場合に、電力変換部1のスイッチング状態量SWSとして非零電圧ベクトルを出力し、非零電圧ベクトルは電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向に変化する非零電圧ベクトルを出力していた。
【0047】
これに対して、実施の形態2の非零電圧ベクトルは、電圧出力積分値Poutが到達した相方向かつ六角形の許容範囲ΔPref内に変化する非零電圧ベクトルを出力する。図8は開始時点として、三相電圧出力積分値Poutが六角形の許容範囲ΔPrefのu相の上限値と交差する時点としている。
【0048】
まず、三相電圧出力積分値Poutが六角形の許容範囲ΔPrefと交差しているため、スイッチング更新判定部13は、更新信号Snewとして1が出力する。スイッチング決定テーブル14Aは、更新信号Snewが1であるため、スイッチング状態量SWSを更新する。
【0049】
この時、三相電圧出力積分値Poutは、三相電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向が交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺ではない辺のu相の上限値に到達しているため、スイッチング状態量SWSとして非零電圧ベクトルが出力される。
【0050】
非零電圧ベクトルは、到達した相方向かつ六角形の許容範囲ΔPref内に変化する非零電圧ベクトルを出力するため、スイッチング状態量SWS1は、三相電圧出力積分値Poutが六角形の許容範囲ΔPrefのu相の下限値方向に変化するスイッチング状態指標SW4に対応したスイッチング状態量が出力される。
【0051】
次に、三相電圧出力積分値Poutは、三相電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向が交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺ではない辺のv相の下限値に到達しているため、スイッチング状態量SWSとして非零電圧ベクトルが出力される。
【0052】
非零電圧ベクトルは、到達した相方向かつ六角形の許容範囲ΔPref内に変化する非零電圧ベクトルを出力するため、スイッチング状態量SWS2は、三相電圧出力積分値Poutが六角形の許容範囲ΔPrefのv相の上限値方向に変化するスイッチング状態指標SW3に応じたスイッチング状態量が出力される。
【0053】
次に、三相電圧出力積分値Poutは三相電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向が交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺ではない辺のu相の上限値に到達しているため、スイッチング状態量SWSとして非零電圧ベクトルが出力される。
【0054】
非零電圧ベクトルは、到達した相方向かつ六角形の許容範囲ΔPref内に変化する非零電圧ベクトルを出力するため、スイッチング状態量SWS3は、三相電圧出力積分値Poutが六角形の許容範囲ΔPrefのu相の下限値方向に変化するスイッチング状態指標SW4に対応したスイッチング状態量が出力される。
【0055】
その後、三相電圧出力積分値Poutは三相電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向が交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺の内、u相の下限値に到達するため、スイッチング状態量SWS4として零電圧ベクトルとなる、スイッチング状態指標SW0またはSW7に応じたスイッチング状態量が出力される。
【0056】
従って、実施の形態1のスイッチング決定方法と比較すると、実施の形態2では、図8のスイッチング状態量SWS1からSWS2への遷移のように、電圧指令積分値Prefに対して電圧出力積分値Poutの誤差が小さくなるように非零電圧ベクトルを出力するため、計算コストを増やすことなく、高調波電圧Vthd(電圧の高調波成分Vthdとも呼ぶ)および高調波電圧Vthdに起因した高調波電流Ithdが抑制される。
【0057】
次に、この実施の形態2の電力変換装置100Aにおける制御動作について、以下、図9を用いて詳しく説明する。図9は、電力変換装置100Aにおける制御動作を説明するフローチャートである。
【0058】
まず、実施の形態1と同様の手順で処理を実行し、スイッチング更新判定部13は、許容範囲ΔPrefと、電圧出力計算部11と、積分値計算部12とで計算された電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新するかどうかの更新信号Snewを出力する(ステップS1からステップS3)。
【0059】
次に、スイッチング決定テーブル14Aは、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、更新信号Snewとに基づき、図8に示すようなスイッチング状態量の変化に従って、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する(ステップS7)。
そして、電力変換部1は、スイッチング決定テーブル14Aにて決定されたスイッチング状態量SWSに基づいて、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して、負荷3に出力し、負荷3が駆動制御される(ステップS8とステップS9)。ここで、ステップS8の動作は、図6に示したステップS5の動作と同じであり、ステップS9の動作は図6に示したステップS6の動作と同じである。
【0060】
この実施の形態2の電力変換装置100Aは、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して負荷3に供給する電力変換部1と、スイッチング決定テーブル14Aが出力したスイッチング状態量SWSに基づいて、多相電圧出力値Voutを計算する電圧出力計算部11と、多相電圧指令値Vrefと、多相電圧出力値Voutとをそれぞれ積分し、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとを計算する積分値計算部12と、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新するかどうかを判定するスイッチング更新判定部13と、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、電圧指令積分値Prefから計算した電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向と、更新信号Snewとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定するスイッチング決定テーブル14Aとを備え、スイッチング更新判定部13は、三相電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaにより構成される六角形の許容範囲ΔPrefのいずれかの辺を三相電圧出力積分値Poutのいずれかの相が到達した場合に更新信号Snewとして1、それ以外の場合は更新信号Snewとして0を出力し、スイッチング決定テーブル14Aは更新信号Snewが1の場合に、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新する。
スイッチング決定テーブル14Aは、電圧出力積分値Poutが電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向と交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺に到達した場合は、電力変換部1のスイッチング状態量SWSとして零電圧ベクトルを出力し、残りの3辺に到達した場合は、電力変換部1のスイッチング状態量SWSとして電圧出力積分値Poutが到達した相方向かつ六角形の許容範囲ΔPref内に変化する非零電圧ベクトルを出力する。
【0061】
このため、実施の形態2の電力変換装置100Aは、実施の形態1よりも電圧指令積分値Prefと電圧出力積分値Poutとの誤差を小さくできるため、計算コストを増やすことなく高調波電圧Vthdおよび高調波電圧Vthdに起因した高調波電流Ithdを抑制できる。
【0062】
実施の形態3.
実施の形態3に係る電力変換装置について、以下図10を用いて説明する。ここで、図10は実施の形態3に係る電力変換装置100Bの構成を示すブロック図である。
【0063】
図10に示すように、電力変換装置100Bは、電力変換部1の母線電圧Vdcを検出するための母線電圧検出部15と、電圧指令積分値Prefと電圧出力積分値Poutのオフセット値を調整するためのオフセット調整部16とをさらに備え、電圧出力計算部11Aは母線電圧検出部15で検出した母線電圧Vdcと、スイッチング決定テーブル14Bが出力したスイッチング状態量SWSとに基づき、多相電圧出力値Voutを計算する点と、スイッチング更新判定部13Aがオフセット調整部16にて計算された補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、に基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新するかどうかを判定する点と、スイッチング決定テーブル14Bが電力変換部1のスイッチング状態量SWSとして非零電圧ベクトルを出力する際の選択方法で、実施の形態2による電力変換装置100Aと異なる。
以下において、実施の形態1、2と同様の機能を有する構成要素については同一符号を付して説明を省略し、実施の形態1、2と異なる点を中心に説明する。
【0064】
図10に示すように、実施の形態3による電力変換装置100Bは、実施の形態2による電力変換装置100Aと比較して、母線電圧検出部15をさらに備え、実施の形態2による制御装置10Aが有する電圧出力計算部11と、スイッチング更新判定部13と、スイッチング決定テーブル14Aに代えて、制御装置10Bが有する電圧出力計算部11Aと、スイッチング更新判定部13Aと、スイッチング決定テーブル14Bを備え、さらに制御装置10Bはオフセット調整部16を備える。電力変換部1のスイッチング状態量SWSは、スイッチング更新判定部13Aとスイッチング決定テーブル14Bによって決定するため、後述するスイッチング決定部300に相当する。
【0065】
まず、実施の形態2の電力変換装置100Aとの差異である実施の形態3の電力変換装置100Bにおける電圧出力計算部11Aと、スイッチング更新判定部13Aと、スイッチング決定テーブル14Bと、母線電圧検出部15と、オフセット調整部16との機能について説明する。
【0066】
母線電圧検出部15は、電力変換部1における母線電圧Vdcを検出する。
電圧出力計算部11Aは、スイッチング決定テーブル14Bの出力したスイッチング状態量SWSと、母線電圧検出部15で検出した母線電圧Vdcに基づき、多相電圧出力値Voutを計算する。
【0067】
オフセット調整部16は、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとのそれぞれの値のオフセット値を0に調整し、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompを出力する。
スイッチング更新判定部13Aは、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、補正した電圧指令積分値Prefcompに設定する許容範囲ΔPrefとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新するかどうかを判定する更新信号Snewを出力する。例えば、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新する場合は、更新信号Snewとして1を出力し、スイッチング状態量SWSを更新しない場合は、更新信号Snewとして0を出力する。
【0068】
スイッチング決定テーブル14Bは、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、更新信号Snewとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する。スイッチング状態量SWSの決定方法についての詳細は後述する。
【0069】
図11は、電力変換装置100Bを実現するハードウェア構成を示した図である。
実施の形態1の電力変換装置100と比較して、実施の形態3の電力変換装置100Bのハードウェア構成図は、母線電圧検出部15をさらに備える点で異なる。ここで、母線電圧検出部15は、直流電源2の正側(+)と負側(―)の電圧差を測定して母線電圧Vdcを検出する機構である。
【0070】
図12は、スイッチング更新判定部13Aとスイッチング決定テーブル14Bによる電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する方法について説明するための図である。この図12では、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompとを三相の静止座標系であるuvw座標系において電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する場合を示している。
【0071】
スイッチング更新判定部13Aにおける、スイッチング状態量SWSを更新するかどうかの判定方法は、入力値が補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompとに変更しているのみであり、方法自体は実施の形態1、2と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0072】
次に、実施の形態3におけるスイッチング決定テーブル14Bと実施の形態2におけるスイッチング決定テーブル14Aとの違いについて説明する。この違いは、スイッチング状態量SWSとして出力する非零電圧ベクトルの選択方法にある。
【0073】
実施の形態2では、三相電圧出力積分値Poutが三相電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向が交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺ではない辺に到達した場合に、電力変換部1のスイッチング状態量SWSとして非零電圧ベクトルを出力し、非零電圧ベクトルは、電圧出力積分値Poutが到達した相方向かつ六角形の許容範囲ΔPref内に変化する非零電圧ベクトルを出力していた。
【0074】
これに対して、実施の形態3の非零電圧ベクトルは、補正した電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向と交差する辺と近い辺を含めた2辺のどちらか一方に向かって変化する非零電圧ベクトルを出力する。
【0075】
図12では、開始時点として、補正した三相電圧出力積分値Poutcompが六角形の許容範囲ΔPrefのu相の上限値と交差する時点としている。
まず、補正した三相電圧出力積分値Poutcompが六角形の許容範囲ΔPrefと交差しているため、スイッチング更新判定部13Aは、更新信号Snewとして1を出力する。スイッチング決定テーブル14Bは、更新信号Snewが1であるため、スイッチング状態量SWSを更新する。
この時、補正した三相電圧出力積分値Poutcompは、補正した三相電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向が交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺ではない辺のu相の上限値に到達しているため、スイッチング状態量SWSとして非零電圧ベクトルが出力される。
非零電圧ベクトルは、補正した電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向と交差する辺と近い辺を含めた2辺のどちらか一方に向かって変化する非零電圧ベクトルを出力するため、スイッチング状態量SWS1は、六角形の許容範囲ΔPrefのu相の下限値方向に変化するスイッチング状態指標SW4に対応したスイッチング状態量が出力される。
【0076】
次に、補正した三相電圧出力積分値Poutcompは補正した三相電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向が交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺ではない辺のw相の上限値に到達しているため、スイッチング状態量SWSとして非零電圧ベクトルが出力される。
【0077】
非零電圧ベクトルは、補正した電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向と交差する辺と近い辺を含めた2辺のどちらか一方に向かって変化する非零電圧ベクトルを出力するため、スイッチング状態量SWS2は、六角形の許容範囲ΔPrefのv相の上限値方向に変化するスイッチング状態指標SW3に対応するスイッチング状態量が出力される。
【0078】
次に、補正した三相電圧出力積分値Poutcompは補正した三相電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向が交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺ではない辺のu相の上限値に到達しているため、スイッチング状態量SWSとして非零電圧ベクトルが出力される。
【0079】
非零電圧ベクトルは、補正した電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向と交差する辺と近い辺を含めた2辺のどちらか一方に向かって変化する非零電圧ベクトルを出力するため、スイッチング状態量SWS3として、六角形の許容範囲ΔPrefのu相の下限値方向に変化するスイッチング状態指標SW4に対応したスイッチング状態量が出力される。
【0080】
その後、補正した三相電圧出力積分値Poutcompは補正した三相電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向が交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺の内、u相の下限値に到達するため、スイッチング状態量SWS4として零電圧ベクトルとなるスイッチング状態指標SW0またはSW7に対応したスイッチング状態量が出力される。
【0081】
従って、実施の形態1のスイッチング決定方法と比較すると、実施の形態3では、図12のスイッチング状態量SWS1の時に相方向(ここでは、uvw座標軸のうちの特定の座標軸に平行な方向)に変化する非零電圧ベクトルを出力するため、実施の形態1と比較して、高調波電圧Vthdおよび高調波電圧Vthdに起因した高調波電流Ithdが抑制される。
【0082】
そして、実施の形態2のスイッチング決定方法と比較すると、実施の形態3では、図12のスイッチング状態量SWS1からスイッチング状態量SWS2への遷移のように、v相の上限値方向に変化する非零電圧ベクトルを出力するため、実施の形態2の電圧出力積分値Poutが到達した相の方向に変化する非零電圧ベクトルを出力する方法よりも、さらに高調波電圧Vthdおよび高調波電圧Vthdに起因した高調波電流Ithdが抑制される。スイッチング決定方法における計算コストも実施の形態1、2と比較してほとんど同じである。
【0083】
次に、この実施の形態3の電力変換装置100Bにおける制御動作について、以下、図13を用いて詳しく説明する。図13は、電力変換装置100B(図10参照)における制御動作を説明するフローチャート図である。
【0084】
図13において、まず、母線電圧検出部15は、電力変換部1の母線電圧Vdcを検出する(ステップS10)。
次に、電圧出力計算部11Aは、母線電圧検出部15にて検出した母線電圧Vdcと、スイッチング決定テーブル14Bが出力したスイッチング状態量SWSとに基づき、多相電圧出力値Voutを計算する(ステップS11)。
【0085】
次に、実施の形態1、2と同様の手順で処理を実行し、積分値計算部12は、多相電圧指令値Vrefと、多相電圧出力値Voutとをそれぞれ積分し、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとを計算する(ステップS12)。
【0086】
オフセット調整部16は、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとのそれぞれのオフセット値を零(0)に調整した電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとをそれぞれ補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompとして出力する(ステップS13)。
【0087】
スイッチング更新判定部13Aは、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、許容範囲ΔPrefとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新するかどうかの更新信号Snewを出力する(ステップS14)。
【0088】
スイッチング決定テーブル14Bは、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、更新信号Snewとに基づき、図12に示すようなスイッチング状態量の変化に従って、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する(ステップS15)。
【0089】
そして、電力変換部1は、スイッチング決定テーブル14Bにて決定されたスイッチング状態量SWSに基づいて、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して、負荷3に出力し、負荷3が駆動制御される(ステップS16とステップS17)。
【0090】
この実施の形態3の電力変換装置100Bは、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して負荷3に供給する電力変換部1と、電力変換部1の母線電圧Vdcを検出する母線電圧検出部15と、母線電圧検出部15にて検出した母線電圧Vdcと、スイッチング決定テーブル14Bが出力したスイッチング状態量SWSとに基づいて、多相電圧出力値Voutを計算する電圧出力計算部11Aと、多相電圧指令値Vrefと、多相電圧出力値Voutとをそれぞれ積分し、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとを計算する積分値計算部12と、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとのオフセット値を0に調整して、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompとして出力するオフセット調整部16と、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、補正した電圧指令積分値Prefcompに設定する許容範囲ΔPrefとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新するかどうかを判定するスイッチング更新判定部13Aと、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、補正した電圧指令積分値Prefcompから計算した補正した電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向と、更新信号Snewとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定するスイッチング決定テーブル14Bとを備え、スイッチング更新判定部13Aは、三相電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaにより構成される六角形の許容範囲ΔPrefのいずれかの辺を三相電圧出力積分値Poutのいずれかの相が到達した場合に更新信号Snewとして1を出力し、それ以外の場合は更新信号Snewとして0を出力し、スイッチング決定テーブル14Bは更新信号Snewが1の場合に、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新する。
スイッチング決定テーブル14Bは、補正した電圧出力積分値Poutcompが補正した電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向と交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺に到達した場合は、電力変換部1のスイッチング状態量SWSとして零電圧ベクトルを出力し、残りの3辺に到達した場合は、電力変換部1のスイッチング状態量SWSとして、補正した電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向と交差する辺と近い辺を含めた2辺のどちらか一方に向かって変化する非零電圧ベクトルを出力する。
【0091】
このため、実施の形態3の電力変換装置100Bは、実施の形態1、2よりも電圧指令積分値Prefと電圧出力積分値Poutとの誤差を小さくできるため、計算コストを増やすことなく高調波電圧Vthdおよび高調波電圧Vthdに起因した高調波電流Ithdを抑制でき、オフセット調整部16により、多相電圧値を積分した値が常に多相平衡になるため、スイッチング状態量SWSの更新判定とスイッチング状態量SWSの決定における性能が劣化しない。
【0092】
実施の形態4.
実施の形態に係る電力変換装置について、以下図14を用いて説明する。ここで、図14は実施の形態に係る電力変換装置100Cの構成を示すブロック図である。
【0093】
図14に示すように、電力変換装置100Cは、負荷3を回転電機4に置き換え、電力変換部1と回転電機4の間に流れる電流を検出する電流検出部17を備える点と、回転電機4の角速度推定手段として適応磁束オブザーバである速度推定演算部21を備える点と、回転電機4の角速度と電流を制御するための速度制御器19、および電流制御器20とを備える点と、スイッチング更新判定部13Bにおいて使用する許容範囲ΔPrefを補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompとに基づき、スイッチング状態量を計算する点で、実施の形態1から3の電力変換装置100、100A、100Bと異なる。
以下においては、実施の形態1から3と同様の機能を有する構成要素については同一符号を付して説明を省略し、実施の形態1から3と異なる点を中心に説明する。
【0094】
図14は実施の形態4による電力変換装置100Cの構成を示すブロック図である。図14に示すように、実施の形態4による電力変換装置100Cは、実施の形態3と比較して、負荷3を回転電機4に代えて、電力変換部1と回転電機4の間に電流検出部17を備え、制御装置10Cは、スイッチング更新判定部13Aに代えて、スイッチング更新判定部13Bを備え、回転電機4の角速度と位相を推定するための速度推定演算部21と、回転電機4の角速度ωrmを制御するための速度制御器19と、回転電機4の電流Irを制御するための電流制御器20と、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompとから新たに設定する許容範囲ΔPrefを計算するための許容範囲計算部18と、をさらに備える点が異なる。
【0095】
次に、実施の形態3との差異である実施の形態4のスイッチング更新判定部13Bと、電流検出部17と、許容範囲計算部18と、速度制御器19と、電流制御器20と、速度推定演算部21の機能について、以下に説明する。
【0096】
電流検出部17は、電力変換部1と回転電機4との間に流れる電流を検出する。
許容範囲計算部18は、オフセット調整部16で計算された補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompとに基づき、新たに設定する許容範囲ΔPrefを計算する。
【0097】
ここで、許容範囲ΔPrefを計算する時に、補正した電圧指令積分値Prefcompから計算した位相情報を用いてもよい。また、許容範囲ΔPrefは入力値の何れかの値に依存した関数として算出してもよい。
【0098】
スイッチング更新判定部13Bは、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、許容範囲計算部18にて計算した許容範囲ΔPrefとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新するかどうかの更新信号Snewを出力する。例えば、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新する場合は、更新信号Snewとして1を出力し、スイッチング状態量SWSを更新しない場合は、更新信号Snewとして0を出力する。
【0099】
速度制御器19は、角速度指令値ωrmrefと、速度推定演算部21にて計算した角速度推定値hωrmとに基づき、回転電機の角速度ωrmを制御するための電流指令値Irefを計算する。電流指令値Irefを計算する方法として、角速度指令値ωrmrefに対する回転電機の角速度ωrmを一致させる方法であればよく、比例積分制御器(PI制御器)、あるいは比例積分微分制御器(PID制御器)を用いてもよい。
【0100】
電流制御器20は、速度制御器19にて計算した電流指令値Irefと、電流検出部17にて検出した検出電流値Iuvwと、速度推定演算部21にて計算した位相推定値hθとに基づき、回転電機に流れる電流Irを制御するための多相電圧指令値Vrefを計算する。多相電圧指令値Vrefを計算する方法として、回転座標系での電流指令値Irefに対する回転電機に流れる電流Irを一致させる方法であればよく、回転電機に流れる電流Irを回転座標系での値に座標変換した後、PI制御器、あるいはPID制御器を用いて回転座標系での電圧指令値を計算し、座標変換することによって多相電圧指令値Vrefを計算してもよい。
【0101】
速度推定演算部21は、多相電圧指令値Vrefと電流検出部17の検出電流値Iuvwに基づいて、回転電機の角速度ωrmと位相θを推定演算する。
【0102】
図15は、速度推定演算部21の構成を示すブロック図である。速度推定演算部21は適応オブザーバにより構成されており、回転電機4の位相θ、および角速度ωrmを推定演算する。適応オブザーバは、回転電機4の固定子磁束φsおよび回転子磁束φrを状態変数とする状態方程式で規定されているため、適応磁束オブザーバとも呼ばれる。なお、状態変数として拡張誘起電圧または電流などを採用して適応オブザーバを構成することもできる。
【0103】
図15に示す速度推定演算部21は、多相電圧指令値Vrefと検出電流値Iuvwを用いて、角速度推定値hωrmと位相推定値hθとを演算し、演算した角速度推定値hωrmと位相推定値hθとを出力する。多相電圧指令値Vrefは電流制御器20で計算された値であり、検出電流値Iuvwは電流検出部17で検出された値である。ここで、速度推定演算部21には多相電圧指令値Vrefを入力しているが、電力変換部1から出力される電圧値を検出して、この検出した電圧出力値を速度推定演算部21の入力値としてもよい。
【0104】
速度推定演算部21は、モデル偏差演算部22と、角速度推定器23と、一次角周波数演算器24と、積分器25とを備える。モデル偏差演算部22は、多相電圧指令値Vrefと、検出電流値Iuvwと、一次角周波数ωと、角速度推定値hωrmとに基づきモデル偏差εを演算する。角速度推定器23は、モデル偏差εに基づき角速度推定値hωrmを演算する。一次角周波数演算器24は、磁束推定値hφと電流推定値hiと、角速度推定値とに基づき、一次角周波数ωを演算する。積分器25は、一次角周波数ωを積分して位相推定値hθを出力する。
【0105】
モデル偏差演算部22は、電流推定器221と、減算器222と、偏差演算器223とを備える。電流推定器221は、多相電圧指令値Vrefと、検出電流値Iuvwと、一次角周波数ωと、角速度推定値hωrmとに基づき、磁束推定値hφと電流推定値hiとを演算し、演算した磁束推定値hφと電流推定値hiとを出力する。減算器222は、電流推定値hiから検出電流値Iuvwを減算することによって電流偏差Ierrを演算し、演算した電流偏差Ierrを出力する。
【0106】
偏差演算器223は、減算器222で演算した電流偏差Ierrと、磁束推定値hφとに基づき、モデル偏差εを演算する。ここで、電流偏差Ierrがベクトル量、磁束推定値hφがベクトル量の場合は、電流偏差Ierrのベクトルを入力とし、磁束推定値hφのベクトルの直交成分をスカラー量として抽出し、抽出したスカラー量をモデル偏差εとして出力する。磁束推定値hφのベクトルの直交成分をスカラー量として抽出する手法としては、電流偏差Ierrのベクトルを回転する直交座標系上に座標変換する手法と、電流偏差Ierrのベクトルと磁束推定値hφのベクトルとの外積値の大きさを演算する手法とが公知である。
【0107】
電流推定器221は、回転電機4の状態方程式から電流推定値hiと磁束推定値hφを演算する。ここでは、回転電機4は一般的な永久磁石埋込型同期電動機であると仮定するが、誘導電動機、表面型永久磁石同期電動機、巻線界磁式同期電動機、またはリラクタンス式同期電動機などの状態方程式が立式できれば、どのような種類の電動機であってもよい。すなわち、電流推定器221は、永久磁石埋込型同期電動機以外の回転電機についても、同様の方法にて電流推定を行うことができる。
【0108】
回転電機4が永久磁石埋込型同期電動機の場合、状態方程式は、下記式(1)および式(2)のように表現される。ここで、「Ld」はd軸のインダクタンス、「Lq」はq軸のインダクタンス、「id」はd軸電流、「iq」はq軸電流、「φds」はd軸固定子磁束、「φqs」はq軸固定子磁束、「φdr」はd軸回転子磁束、「^」記号は(文字の上部に記号^が付加されているもの)は推定値(例えば、φの推定値である「hφ」を意味する。他の推定値の場合でも同様)を表す。また、「Ra」は電機子抵抗、「ω」は一次角周波数、「vd」はd軸電圧、「vq」はq軸電圧、「h11」から「h32」はオブザーバゲインを表す。
また、一次角周波数ωは下記式(3)のように与えられる。式(3)で「h41」、「h42」はオブザーバゲインを表す。
【0109】
【数1】
【数2】
【数3】
【0110】
上記式(1)および式(2)は通常の誘起電圧に基づく式であるが、上記式(1)および式(2)に変形を加えて拡張誘起電圧の形式で表現しても同様の計算ができる。なお、上記式(1)および式(2)は回転座標系でのdq座標における数式であるが、上記式(1)および式(2)を座標変換し、静止座標系の二相交流のαβ座標系、あるいは三相交流のuvw座標系といった他の座標系で表現しても同様の計算ができる。上記式(1)には角速度推定値hωrmが含まれるため、角速度推定値hωrmと実際の回転の角速度ωrmとが一致していない場合、電流推定値hiに誤差が生じる。
【0111】
ここではモデル偏差εを下記式(4)のように定義し、速度推定演算部21はモデル偏差εが零になるように、角速度推定器23を用いて角速度推定値hωrmを調整する。角速度推定器23は、例えば、PI制御器に積分器を直接接続して構成される。
【数4】
また、一次角周波数演算器24は、上記式(3)に基づき、磁束推定値hφと、電流推定値hiと、角速度推定値hωrmとに基づき、一次角周波数ωを演算する。積分器25は、一次角周波数ωを積分することにより位相推定値hθを演算する。適応オブザーバの利点は、磁束鎖交数の変動に対してロバストであり、定常状態における速度推定誤差が発生しない点である。そのため、適応オブザーバは高性能に回転電機4の角速度ωrmを推定できる。
【0112】
図16は、電力変換装置100Cを実現するハードウェア構成図である。
この図16において、電力変換装置100Cのハードウェア構成図は、実施の形態3の電力変換装置100Bと比較して、電力変換部1と回転電機4の間に電流検出部17を新たに追加している点で異なる。
【0113】
電流検出部17は、電力変換部1が回転電機4に出力している三相分の電流値Iuvwを検出する。ここで、電流検出部17には、CT(Current Transformer)検出器、シャント抵抗等、いずれの電流検出器を用いてもよい。三相の電流の内、ニ相分の電流を検出し、残りの一相の電流を算出したものを用いてもよい。また、一つの電流検出器で三相交流電流値を復元する1シャント電流検出方式を用いてもよい。
【0114】
図17は、スイッチング更新判定部13Bとスイッチング決定テーブル14Bによる電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する方法について説明するための図である。図17は、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompとを三相の静止座標系であるuvw座標系において、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する場合を示している。
【0115】
実施の形態4におけるスイッチング更新判定部13Bと実施の形態3におけるスイッチング更新判定部13Aとの違いは、スイッチング状態量SWSを更新するかどうかの更新信号Snewを計算する際に使用する許容範囲ΔPrefとして、補正した電圧指令積分値Prefcompと補正した電圧出力積分値Poutcompに基づいて計算する点である。
【0116】
実施の形態3では、補正した三相電圧指令値Vrefに許容範囲ΔPrefを設定して描かれる六角形の許容範囲ΔPrefの大きさは常に一定となっていたが、実施の形態4では、六角形の許容範囲ΔPrefの大きさが変化する。
図17に示したように、開始点として、補正した三相電圧出力積分値Poutcompが六角形の許容範囲ΔPrefのu相の上限値と交差する点としている。
【0117】
まず、補正した三相電圧出力積分値Poutcompが六角形の許容範囲ΔPrefと交差しているため、スイッチング更新判定部13Bは、更新信号Snewとして1を出力する。スイッチング決定テーブル14Bは、実施の形態3と同様の手順で処理を実行し、スイッチング状態量SWS1は、六角形の許容範囲ΔPrefのu相の下限値方向に変化するスイッチング状態指標SW4に対応したスイッチング状態量が出力される。
【0118】
ここで、六角形の許容範囲ΔPrefの大きさが補正した電圧指令積分値Prefcompの位相に基づいて図17のように変化すると、スイッチング状態量SWS1を使用した後は、補正した三相電圧出力積分値Poutcompは、補正した三相電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向が交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺ではない辺のv相の下限値に到達するため、スイッチング状態量SWS2は、六角形の許容範囲ΔPrefのv相の上限値方向に変化するスイッチング状態指標SW3に対応したスイッチング状態量が出力される。
【0119】
次に、補正した三相電圧出力積分値Poutcompは補正した三相電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向が交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺ではない辺のu相の上限値に到達しているため、スイッチング状態量SWS3は、六角形の許容範囲ΔPrefのu相の下限値方向に変化するスイッチング状態指標SW4に対応したスイッチング状態量が出力される。
【0120】
その後、補正した三相電圧出力積分値Poutcompは補正した三相電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向が交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺の内、u相の下限値に到達するため、スイッチング状態量SWS4として、零電圧ベクトルとなるスイッチング状態指標SW0またはSW7に対応したスイッチング状態量が出力される。
【0121】
従って、実施の形態3のスイッチング決定方法と比較すると、実施の形態4では、図17のスイッチング状態量SWS1からSWS2への遷移時のように、非零電圧ベクトルの変化する方向が補正した三相電圧指令積分値 refcomのベクトルの進行方向と近くなる時に許容範囲ΔPrefの大きさが小さくなることで、三相電圧指令積分値Prefと、三相電圧出力積分値Poutとの誤差を小さくできる。
【0122】
そのため、実施の形態4におけるスイッチング更新判定方法により、実施の形態3と比較して、高調波電圧Vthdおよび高調波電圧Vthdに起因した高調波電流Ithdがさらに抑制される。
【0123】
次に、この実施の形態4の電力変換装置100Cにおける制御動作について、以下、図18を用いて詳しく説明する。ここで、図18は、電力変換装置100C(図14参照)における制御動作を説明するフローチャート図である。
【0124】
まず、実施の形態3と同様の手順にて電圧出力計算部11Aは、母線電圧検出部15で検出した母線電圧Vdcと、スイッチング決定テーブル14Bが出力したスイッチング状態量SWSとに基づき、多相電圧出力値Voutを計算する(ステップS20、ステップS21)。
【0125】
次に、電流検出部17は、電力変換部1と回転電機4の間を流れる電流を検出する(ステップS22)。
速度推定演算部21は、多相電圧指令値Vrefと、電流検出部17で検出した検出電流値Iuvwとに基づき、回転電機4の角速度ωrmの推定値と、位相θの推定値を演算する(ステップS23)。
速度制御器19と電流制御器20により、角速度指令値ωrmrefと、速度推定演算部21にて演算した角速度推定値hωrmと、位相推定値hθと、検出電流値Iuvwとに基づき、多相電圧指令値Vrefを計算により求める(ステップS24)。
【0126】
実施の形態3と同様の手順にて、積分値計算部12とオフセット調整部16は処理を実行し、補正した電圧指令積分値Prefcompと補正した電圧出力積分値Poutcompを計算する(ステップS25、ステップS26)。
【0127】
許容範囲計算部18は、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompとに基づき、許容範囲ΔPrefを計算する(ステップS27)。
スイッチング更新判定部13Bは、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、許容範囲計算部18にて計算した許容範囲ΔPrefとに基づき、更新信号Snewを出力する(ステップS28)。
スイッチング決定テーブル14Bは、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、更新信号Snewとに基づき、図17に示すようなスイッチング状態量の変化に従って、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する(ステップS29)。
【0128】
そして、電力変換部1は、スイッチング決定テーブル14Bにて決定されたスイッチング状態量SWSに基づいて、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して、回転電機4に出力し、回転電機4が駆動制御される(ステップS30、ステップS31)。
【0129】
この実施の形態4の電力変換装置100Cは、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して回転電機4に供給する電力変換部1と、電力変換部1の母線電圧Vdcを検出する母線電圧検出部15と、母線電圧検出部15にて検出した母線電圧Vdcと、スイッチング決定テーブル14Bが出力したスイッチング状態量SWSとに基づいて、多相電圧出力値Voutを計算する電圧出力計算部11Aと、電力変換部1と回転電機4の間に流れる電流を検出する電流検出部17と、多相電圧指令値Vrefと、検出電流値Iuvwとに基づき、回転電機4の角速度と位相を推定演算する速度推定演算部21と、角速度指令値ωrmrefと、角速度推定値hωrmとに基づき、電流指令値Irefを計算する速度制御器19と、電流指令値Irefと、検出電流値Iuvwと、位相推定値hθとに基づき、多相電圧指令値Vrefを計算する電流制御器20と、電流制御器20が計算した多相電圧指令値Vrefと、電圧出力計算部11Aが計算した多相電圧出力値Voutとをそれぞれ積分し、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとを計算する積分値計算部12と、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとのオフセット値を0に調整して、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompとして出力するオフセット調整部16と、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompとに基づき、許容範囲ΔPrefを計算する許容範囲計算部18と、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、許容範囲計算部18にて計算した許容範囲ΔPrefとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新するかどうかを判定するスイッチング更新判定部13Bと、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、補正した電圧指令積分値Prefcompから計算した補正した電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向と、更新信号Snewとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定するスイッチング決定テーブル14Bとを備え、許容範囲計算部18は補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、に基づき、補正した三相電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向と非零電圧ベクトルの進行方向が近くなると許容範囲ΔPrefを小さく計算し、スイッチング更新判定部13Bは、許容範囲計算部18で計算した許容範囲ΔPrefに基づいて、スイッチング状態量SWSを更新するかどうかを判定するため、三相電圧指令積分値Prefと三相電圧出力積分値Poutとの誤差を小さくするようにスイッチング状態量SWSが更新される。
【0130】
このため、実施の形態4の電力変換装置100Cは、実施の形態1から3よりも電圧指令積分値Prefと電圧出力積分値Poutとの誤差を小さくするようにスイッチング状態量SWSの更新を判定するため、さらに高調波電圧Vthdおよび高調波電圧Vthdに起因した高調波電流Ithdを抑制できる。
【0131】
実施の形態5.
実施の形態5に係る電力変換装置について、以下図19を用いて説明する。ここで、図19は実施の形態5に係る電力変換装置100Dの構成を示すブロック図である。
【0132】
図19に示すように、許容範囲計算部18を有する制御装置10Cに代えて、学習済みモデル26を有する制御装置10Dを備え、許容範囲ΔPrefの計算において、この学習済みモデル26(機械学習を実行して取得したデータを出力する)を使用して計算する点で、実施の形態4による電力変換装置100Cと異なる。以下においては、実施の形態1から4と同様の機能を有する構成要素については同一符号を付して説明を省略し、実施の形態1から4と異なる点を中心に説明する。
【0133】
図19は実施の形態5による電力変換装置100Dの構成を示すブロック図である。図19に示すように、実施の形態5による電力変換装置100Dは、実施の形態4と比較して、許容範囲計算部18の代わりに学習済みモデル26を備える。そこで、実施の形態4との差異である実施の形態5の学習済みモデル26の機能について以下に説明する。
【0134】
学習済みモデル26は、教師データに基づく機械学習で得た情報を基に、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、角速度推定値と、位相推定値とに基づいて推論を行い、許容範囲ΔPrefを計算する。
【0135】
図20は、学習済みモデルの作成方法および教師データに基づく機械学習を説明するブロック図である。図20に示すように、事前に用意した学習用データ51から得る教師データ57に基づいて、学習部50が機械学習を行って学習済みモデルを生成する。
【0136】
学習用データ51には、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、角速度推定値hωrmと、位相推定値hθと、許容範囲ΔPrefとが含まれる。学習用データ51は、回転電機4を駆動する方式にて計算した値を保管しており、例えば、PWM方式と比較して、電力変換部1のスイッチング損失SWlossを小さくする制御方式である、モデル予測制御を用いた制御方式、選択的高調波消去、低次高調波消去、あるいは最適パルスパターンを用いた制御方式を用いて学習用データ51を生成してもよい。
【0137】
図20に示すように、学習用データ51は、教師データ取得部52に入力される。教師データ取得部52は、入力データ取得部53とラベルデータ取得部54とを備える。
入力データ取得部53は、学習用データ51から、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、角速度推定値hωrmと、位相推定値hθとを教師用入力データ55として取得し、学習部50に出力する。
ラベルデータ取得部54は、学習用データ51から、許容範囲ΔPrefを教師用ラベルデータ56として取得し、学習部50に出力する。
教師データ57は、教師用入力データ55と教師用ラベルデータ56とから成り、学習部50は、教師用入力データ55と教師用ラベルデータ56との組み合わせである教師データ57に基づいて、機械学習を実行する。
【0138】
この実施の形態5における機械学習の教師データ付き学習は、パーセプトロンを組み合わせて構成したニューラルネットワークにより行われる。そして、これらによる教師データ57をニューラルネットワークに与えて、ニューラルネットワークの出力が教師用ラベルデータ56と同じとなるように、各パーセプトロンについての重みづけを変更しながら学習を繰り返すものである。
【0139】
学習の過程では、誤差逆伝搬法による処理を繰り返し行うことにより各パーセプトロンの出力の誤差を小さくするように重みづけ値を調整する。すなわち、教師データ付き学習は、重みづけ値を調整しながら、教師用ラベルデータ56とニューラルネットワークの出力データの誤差がなくなるようにするものである。
【0140】
このようにして、教師データ57の特徴を学習し、入力に基づいて推論を行って結果を導出するための学習済みモデルを獲得する。
【0141】
このように機械学習により生成された学習済みモデルは、教師データ57の特徴を有する。例えば、教師データ57に変成される学習用データ51が、モデル予測制御を利用したものであれば、学習済みモデルは許容範囲ΔPrefをモデル予測制御にて回転電機4を制御している時と同等の値に計算するため、該許容範囲ΔPrefを使用することで、PWM方式と比較して、電力変換部1のスイッチング損失SWlossを小さくすることができる。
なお、学習部50が学習に用いるニューラルネットワークは三層であってもよいが、さらに多層であっても良く、ディープラーニングにより機械学習を実行するものでも良い。
【0142】
図21は、学習済みモデルを生成するためのハードウェア構成図である。学習済みモデルを生成するための機械学習は、ニューラルネットワークとして機能する機械学習器60で行い、機械学習器60は、図21に示すハードウェア構成により実現される。
【0143】
機械学習器60は、プロセッサ61および記憶装置62で構成される。
記憶装置62は、揮発性記憶装置である、例えばRAM63と、不揮発性の補助記憶装置である、例えばHDD64とを備える。なお、不揮発性の補助記憶装置としては、HDDの代わりにSSDあるいはフラッシュメモリを使用してもよい。
HDD64は、学習プログラム65、教師データ66を保持し、生成される学習結果67も保持する。
【0144】
プロセッサ61には、HDD64からRAM63を介して各種の学習プログラム65が入力され、入力された各種の学習プログラム65を実行する。学習プログラム65は、教師データ付き学習をプロセッサ61に実行させる。即ち、教師データ66も、HDD64からRAM63を介してプロセッサ61に入力され、学習プログラム65に従って学習される。
また、プロセッサ61は、学習結果67のデータを、記憶装置62のRAM63に出力し、必要に応じてRAM63を介してHDD64に保存する。
学習プログラム65は、教師データ付き学習をプロセッサ61に実行させ、機械学習の結果(学習結果67)のデータを生成させるための命令を含むプログラムである。
【0145】
以上のような機械学習器60は、PC(Personal Computer)、サーバ装置等により実現できる。但し、演算量が多いため、例えば、PCにGPU(Graphics Processing Units)を搭載し、GPGPU(General-Purpose computing on Graphics Processing Units)と呼ばれる技術により、GPUを教師データ付き学習の演算処理に利用して、高速に処理できるようにしてもよい。
【0146】
次に、この実施の形態5の電力変換装置100Dにおける制御動作について、以下、図22を用いて説明する。ここで、図22は、電力変換装置100Dにおける制御動作を説明するフローチャート図である。
【0147】
まず、実施の形態4と同様の手順にて電圧出力計算部11Aは、母線電圧検出部15で検出した母線電圧Vdcと、スイッチング決定テーブル14Bが出力したスイッチング状態量SWSとに基づき、多相電圧出力値Voutを計算する(ステップS40、ステップS41)。
【0148】
次に、実施の形態4と同様の手順にて、速度推定演算部21は、多相電圧指令値Vrefと、電流検出部17で検出した検出電流値Iuvwとに基づき、回転電機4の角速度ωrmと位相θの推定値を演算する(ステップS42、ステップS43)。
また、実施の形態4と同様の手順にて、速度制御器19と電流制御器20は、角速度指令値ωrmrefと、速度推定演算部21にて演算した角速度推定値hωrmと、位相推定値hθと、検出電流値Iuvwとに基づき、多相電圧指令値Vrefを計算する(ステップS44)。
【0149】
実施の形態4と同様の手順にて積分値計算部12とオフセット調整部16は処理を実行し、補正した電圧指令積分値Prefcompと補正した電圧出力積分値Poutcompを計算する(ステップS45、ステップS46)。
【0150】
学習済みモデル26は、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、角速度推定値hωrmと、位相推定値hθに基づき、許容範囲ΔPrefを計算する(ステップS47)。
【0151】
実施の形態4と同様の手順にてスイッチング更新判定部13Bは、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、学習済みモデル26にて計算した許容範囲ΔPrefとに基づき、更新信号Snewを出力し、スイッチング決定テーブル14Bは、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、更新信号Snewとに基づき、図17に示した方法により電力変換部のスイッチング状態量SWSを決定する(ステップS48、ステップS49)。
【0152】
そして、電力変換部1は、スイッチング決定テーブル14Bにて決定されたスイッチング状態量SWSに基づいて、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して、回転電機4に出力し、回転電機4が駆動制御される(ステップS50とステップS51)。
【0153】
この実施の形態5の電力変換装置100Dは、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して回転電機4に供給する電力変換部1と、電力変換部1の母線電圧Vdcを検出する母線電圧検出部15と、母線電圧検出部15にて検出した母線電圧Vdcと、スイッチング決定テーブル14Bが出力したスイッチング状態量SWSとに基づいて、多相電圧出力値Voutを計算する電圧出力計算部11Aと、電力変換部1と回転電機4の間に流れる電流を検出する電流検出部17と、多相電圧指令値Vrefと、検出電流値Iuvwとに基づき、回転電機4の角速度ωrmと位相θを推定演算する速度推定演算部21と、角速度指令値ωrmrefと、角速度推定値hωrmとに基づき、電流指令値Irefを計算する速度制御器19と、電流指令値Irefと、検出電流値Iuvwと、位相推定値hθとに基づき、多相電圧指令値Vrefを計算する電流制御器20と、電流制御器20が計算した多相電圧指令値Vrefと、電圧出力計算部11Aが計算した多相電圧出力値Voutとをそれぞれ積分し、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとを計算する積分値計算部12と、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとのオフセット値を0に調整して、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompとして出力するオフセット調整部16と、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、角速度推定値hωrmと、位相推定値hθとに基づいて推論を行い、許容範囲ΔPrefを計算する学習済みモデル26と、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、学習済みモデル26にて計算した許容範囲ΔPrefと、に基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを更新するかどうかを判定するスイッチング更新判定部13Bと、補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、補正した電圧指令積分値Prefcompから計算した補正した電圧指令積分値Prefcompのベクトルの進行方向と、更新信号Snewとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定するスイッチング決定テーブル14Bとを備える。
【0154】
このため、実施の形態5の電力変換装置100Dは、許容範囲ΔPrefを補正した電圧指令積分値Prefcompと、補正した電圧出力積分値Poutcompと、角速度推定値と、位相推定値と、学習済みモデル26に基づいて計算するため、実施の形態4と比較して、学習済みモデル26を生成するために使用した学習用データ通りの性能が獲得できるように許容範囲ΔPrefを変更できる。したがって、電力変換装置100Dは、学習用データの作成に使用した回転電機4を制御する方式通りの性能が獲得できる。
【0155】
実施の形態6.
実施の形態6に係る電力変換装置について、以下図23を用いて説明する。ここで、図23は実施の形態6に係る電力変換装置100Eの構成を示すブロック図である。
【0156】
図23に示すように、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、許容範囲ΔPrefとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定するスイッチング決定部300を備え、スイッチング決定部300は、スイッチング計算部27とスイッチング出力部28で構成されており、スイッチング計算部27は、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、許容範囲ΔPrefに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSとスイッチング状態量SWSの継続時間Tswを設定信号SetSWとして計算し、スイッチング出力部28は、スイッチング計算部27で計算した設定信号SetSWに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを出力する。
実施の形態6に係る電力変換装置は、実施の形態1から5に係る電力変換装置の構成と比較して、スイッチング状態量SWSの継続時間Tswを計算する点で異なる。以下においては、実施の形態1から5と同様の機能を有する構成要素については同一符号を付して説明を省略し、実施の形態1から5と異なる点を中心に説明する。
【0157】
まず、実施の形態1から5との差異であるスイッチング計算部27と、スイッチング出力部28の機能について、以下に説明する。
スイッチング計算部27は、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、許容範囲ΔPrefとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSとスイッチング状態量SWSの継続時間Tswを設定信号SetSWとして計算する。スイッチング状態量SWSとスイッチング状態量SWSの継続時間Tswの計算方法についての詳細は後述する。
スイッチング出力部28は、スイッチング計算部27で計算した設定信号SetSWに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する。
【0158】
図24は、スイッチング計算部27におけるスイッチング状態量SWSとスイッチング状態量SWSの継続時間Tswを計算する方法について説明するための図である。この図24では、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとを三相の静止座標系であるuvw座標系において電力変換部1のスイッチング状態量SWSとスイッチング状態量SWSの継続時間Tswを計算する場合を示している。なお、スイッチング状態量SWSの決定は、実施の形態2と同様の方法としている。
【0159】
図24では、開始時点として、三相電圧出力積分値Poutが六角形の許容範囲ΔPrefのu相の上限値と交差する時点としている。まず、三相電圧出力積分値Poutが六角形の許容範囲ΔPrefと交差しているため、三相電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向が交差する六角形の許容範囲ΔPrefの辺と隣り合う辺を含めた3辺ではない辺のu相の上限値に到達しているため、スイッチング状態量SWS1として非零電圧ベクトルが出力される。非零電圧ベクトルは、三相電圧指令積分値Prefのベクトルの進行方向と交差する辺と近い辺を含めた2辺のどちらか一方に向かって変化する非零電圧ベクトルを出力するため、スイッチング状態量SWS1は、六角形の許容範囲のu相の下限値方向に変化するスイッチング状態指標SW4に対応したスイッチング状態量SWSが選択される。
【0160】
次にスイッチング状態指標SW4を出力した際の、三相電圧出力積分値Poutと、六角形の許容範囲ΔPrefの上限または下限と交差するまでの継続時間T1swを計算する。ここで、六角形の許容範囲ΔPrefの辺の内、v相の下限値に到達するまでの時間が継続時間T1swとなる。
【0161】
以降においても、実施の形態2と同様の手順でスイッチング状態量SWSが計算される。さらに、図24では各スイッチング状態量SWSにおける継続時間Tswも計算し、計算したスイッチング状態量SWSと継続時間Tswを設定信号SetSWとして出力する。
従って、実施の形態2のスイッチング決定方法と比較すると、実施の形態6では、各スイッチング状態量SWSにおける継続時間Tswも計算するため、実施の形態2と比較して、逐次的にスイッチング状態量SWSを更新する必要があるか否かを判定する必要がなく、演算周期を長く設定できるため、安価なマイコンに実装し易い形態である。
【0162】
次に、この実施の形態6の電力変換装置100Eにおける制御動作について、以下、図25を用いて詳しく説明する。図25は、電力変換装置100Eにおける制御動作を説明するフローチャートである。
【0163】
まず、実施の形態2と同様の手順で処理を実行し、電圧出力計算部11は多相電圧出力値Voutを計算し、積分値計算部12は多相電圧指令値Vrefと、多相電圧出力値Voutをそれぞれ積分し、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとを計算する(ステップS52とステップS53)。
次に、スイッチング計算部27は、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、許容範囲ΔPrefとに基づき、図24に示すようにスイッチング状態量SWSとスイッチング状態量SWSの継続時間Tswを計算する(ステップS54)。
そして、スイッチング出力部28は、スイッチング計算部27にて計算されたスイッチング状態量SWSと継続時間Tswに基づいて、SWS1からSWS3まで順にスイッチング状態量SWSを出力する(ステップS55)。
【0164】
電力変換部1は、スイッチング出力部28にて決定されたスイッチング状態量SWSに基づいて、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して、負荷3に出力し、負荷3が駆動制御される(ステップS56)。
【0165】
この実施の形態6の電力変換装置100Eは、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して負荷3に供給する電力変換部1と、スイッチング出力部28が出力したスイッチング状態量SWSに基づいて、多相電圧出力値Voutを計算する電圧出力計算部11と、多相電圧指令値Vrefと、多相電圧出力値Voutとをそれぞれ積分し、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとを計算する積分値計算部12と、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSと継続時間Tswを設定信号SetSWとして計算するスイッチング計算部27と、スイッチング計算部27で計算した設定信号SetSWに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを出力するスイッチング出力部28とを備える。
【0166】
このため、実施の形態6の電力変換装置100Eは、実施の形態2から5と比較して、逐次的にスイッチング状態量SWSを更新する必要があるか否かを判定する必要がなく、演算周期を長く設定できるため、安価なマイコンに実装しやすい形態である。
【0167】
実施の形態7.
実施の形態7に係る電力変換装置について、以下図26を用いて説明する。ここで、図26は実施の形態7に係る電力変換装置100Fの構成を示すブロック図である。
【0168】
図26に示すように、実施の形態7による電力変換装置100Fは、実施の形態6と比較して、電力変換部1と負荷3の間に電流検出部17を備え、電流検出部17で検出した検出電流値Iuvwに基づき、高調波電流Ithdを計算する高調波処理部29と、高調波電流指令値Ithdrefと高調波電流Ithdとに基づき、許容範囲ΔPrefを計算する高調波電流制御器30と、検出電流値Iuvwに基づき、電流低周波値Ifundを計算する低周波抽出部31と、電流指令値Irefと電流低周波値Ifundとに基づき、多相電圧指令値Vrefを計算する電流制御器20と、をさらに備える点が異なる。
【0169】
次に、実施の形態6との差異である実施の形態7の電流検出部17と、高調波処理部29と、高調波電流制御器30と、低周波抽出部31と、電流制御器20の機能について、以下に説明する。
【0170】
電流検出部17は、電力変換部1と負荷3の間に流れる電流を検出する。
高調波処理部29は、2点以上の検出電流値Iuvwに基づき、高調波電流Ithdを計算する。ここで、高調波電流Ithdとは、例えば、電流に含まれる高調波成分を数値化したデータ、あるいは周波数軸上で表現された電流スペクトルデータを計算する。高調波電流制御器30は、高調波電流指令値Ithdrefと、高調波電流Ithdとに基づき、許容範囲ΔPrefを計算する。高調波電流Ithdと許容範囲ΔPrefの計算方法についての詳細は後述する。
【0171】
低周波抽出部31は、2点以上の検出電流値Iuvwに基づき、電流低周波値Ifundを計算する。ここで、電流低周波値Ifundは、電流の基本波である。電流制御器20は、電流指令値Irefと、電流低周波値Ifundとに基づき、多相電圧指令値Vrefを計算する。電流低周波値Ifundの計算方法についての詳細は後述する。
【0172】
図27は、2点以上の検出電流値Iuvwから描かれる電流1周期分の電流波形に基づき、高調波処理部29にて高調波電流Ithdを計算する場合を示している。図27の時間軸の電流波形に対して、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)を用いると、周波数軸の電流スペクトルが計算される。周波数軸の電流スペクトルは、電流波形の基本波と高調波とから計算される。高調波電流Ithdは、図27の高調波に該当する。
【0173】
この図27の高調波を各次数の成分とするか、高調波の各次数の合計値とするか、高調波と基本波の比率で高調波を表現するかは、高調波電流指令値Ithdrefによって変更する。例えば、高調波電流指令値Ithdrefが高調波と基本波の比率として与える場合は、高調波電流Ithdも周波数軸の電流スペクトルの高調波と基本波の比率から計算する。
また、図27で得られる周波数軸の基本波を電流低周波値Ifundとしてもよい。許容範囲ΔPrefは、高調波電流指令値Ithdrefと、高調波電流Ithdとの差分がなくなるように調整する。
【0174】
図28は、2点以上の検出電流値Iuvwに基づき、低周波抽出部31にて電流オーバーサンプリングを活用して電流低周波値Ifundを計算する場合を示している。ここで、電流オーバーサンプリングは、通常の演算周期よりも短い周期で電流を検出することである。
【0175】
図28からわかるように、電流オーバーサンプリングなしの場合は、検出電流値Iuvwから電流基本波を電流低周波値Ifundとして計算することは困難である。これに対して、図28の電流オーバーサンプリングありの場合は、短い周期で電流を検出して、電流低周波値Ifundを一定時間毎に平均値処理で計算することで、検出電流値Iuvwから電流基本波に近い値を電流低周波波として得られる。
【0176】
次に、この実施の形態7の電力変換装置100Fにおける制御動作について、以下、図29を用いて詳しく説明する。図29は、電力変換装置100Fにおける制御動作を説明するフローチャートである。
【0177】
まず、電流検出部17にて負荷3に流れる電流を検出電流値Iuvwとして測定する(ステップS57)。この時、指定した回数だけ検出電流値Iuvwを測定する(ステップS58)。
次に、2点以上の検出電流値Iuvwに基づき、高調波処理部29と低周波抽出部31は、それぞれ高調波電流Ithdと電流低周波値Ifundを計算する(ステップS59、図27図28参照)。
【0178】
そして、高調波電流指令値Ithdrefと、高調波電流Ithdとに基づき、許容範囲ΔPrefを計算し(ステップS60)、電流指令値Irefと電流低周波値Ifundとに基づき、多相電圧指令値Vrefを計算する(ステップS61)。
【0179】
以降は、実施の形態6と同様の手順で処理を実行し、電力変換部1は、スイッチング出力部28にて決定されたスイッチング状態量SWSに基づいて、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して、負荷3に出力し、負荷3が駆動制御される(ステップS52からステップS56)。
【0180】
この実施の形態7の電力変換装置100Fは、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して負荷3に供給する電力変換部1と、電力変換部1と負荷3の間に電流検出部17を備え、電流検出部17で検出した検出電流値Iuvwに基づき、高調波電流Ithdを計算する高調波処理部29と、高調波電流指令値Ithdrefと高調波電流Ithdに基づき、許容範囲ΔPrefを計算する高調波電流制御器30と、検出電流値Iuvwに基づき、電流低周波値Ifundを計算する低周波抽出部31と、電流指令値Irefと電流低周波値Ifundとに基づき、多相電圧指令値Vrefを計算する電流制御器20と、スイッチング出力部28が出力したスイッチング状態量SWSに基づいて、多相電圧出力値Voutを計算する電圧出力計算部11と、多相電圧指令値Vref(以下では、単に、電圧指令値Vrefとも呼ぶ)と、多相電圧出力値Voutとをそれぞれ積分し、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutとを計算する積分値計算部12と、電圧指令積分値Prefと、電圧出力積分値Poutと、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefとに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSと継続時間Tswを設定信号として計算するスイッチング計算部27と、スイッチング計算部27で計算した設定信号SetSWに基づき、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを出力するスイッチング出力部28とを備える。
【0181】
実施の形態7の電力変換装置100Fは、実施の形態1から6と比較して、負荷3の高調波電流Ithdを指令値通りに制御することができるため、さまざまな運転条件において所望の高調波電流Ithdを得ることができる。
【0182】
実施の形態8.
実施の形態8に係る電力変換装置100Gについて、以下図を用いて説明する。
図30は実施の形態8による電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図30に示すように、実施の形態8の電力変換装置100Gは、主回路である電力変換部1と、電力変換部1の母線電圧Vdcを検出する母線電圧検出部15と、電力変換部1を出力制御する制御装置10Eとを備え、直流電源2と負荷3との間に接続される。
【0183】
電力変換部1は、直流電源2からの直流電力を交流電力に変換して負荷3に供給し負荷3を駆動する。負荷3は、電力変換部1から供給された交流電力によって駆動する。なお、負荷3には、例えば変圧器、リアクトル、または誘導電動機、あるいは同期電動機等の各種の電動機を用いることができる。
【0184】
制御装置10Eは、母線電圧検出部15にて検出した母線電圧Vdcと電力変換部1における全候補のスイッチング状態量SWSallに基づいて、電圧予測値Vpredを計算する電圧予測部32と、電圧指令値Vrefと電圧予測部32で計算した全候補の電圧予測値Vpredallに基づいて、電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSと該スイッチング状態量を継続するスイッチング状態量の継続時間Tsw(以下では、略して継続時間Tswと呼ぶ)を予測するスイッチング予測部33と、スイッチング予測部33で計算したスイッチング状態量SWSと継続時間Tswに基づいて電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量を決定するための信号である「決定SWS」を出力するスイッチング出力部28を備える。電力変換部1のスイッチング状態量SWSは、スイッチング予測部33とスイッチング出力部28によって決定するため、前述のスイッチング決定部300に相当する。
【0185】
電圧予測部32は、電力変換部1の複数スイッチング素子が取りうる全候補のスイッチング状態量SWSallによる多相電圧出力値Voutを電圧予測値Vpredとして計算する。電力変換部1の全候補のスイッチング状態量SWSallについての詳細は後述する。
【0186】
スイッチング予測部33は、電圧指令値Vrefと電圧予測部32で計算した電圧予測値Vpredをそれぞれ積分し、それぞれの積分した値である電圧指令積分値Prefおよび電圧予測値の積分値Ppredを、所望の区間まで拡張する。この時、電圧予測値の積分値Ppredの初期値Cは、スイッチング予測部33にて計算したスイッチング状態量SWSと継続時間Tsw、母線電圧検出部15で検出した母線電圧Vdcから多相電圧出力値Voutを計算し、この多相電圧出力値Voutを積分して電圧出力積分値Poutとする。所望の区間まで拡張した予測値から評価値Jを計算し、計算した評価値Jから電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSとその継続時間Tswを計算する。予測値の拡張方法と評価値についての詳細は後述する。
【0187】
図31は、電力変換装置100Gを実現するハードウェア構成図である。
電力変換部1は、直流電源2の直流電力を三相交流電力に変換する三相インバータ回路により構成され、負荷3を駆動する。電力変換部1は、それぞれダイオードDが逆並列接続された複数のスイッチング素子Q1~Q6を備える。そして、各相の上アームと下アームとの接続点からバスバーによって負荷3の各相の入力端子に接続されている。この場合、u相はスイッチング素子Q1、Q2を備え、v相はスイッチング素子Q3、Q4を備え、w相はスイッチング素子Q5、Q6を備える。
【0188】
母線電圧検出部15は、直流電源2の正側(+)と負側(―)の電圧差を測定して母線電圧Vdcを検出する機構である。
制御装置10Eは、プロセッサ40および記憶装置41で構成されるハードウェアを備える。
【0189】
記憶装置41は、RAM(Random Access Memory)等の揮発性記憶装置(図示省略)と、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、等の不揮発性の補助記憶装置(図示省略)とを備えている。なお、不揮発性の補助記憶装置としては、HDDの代わりにフラッシュメモリを使用してもよい。
【0190】
プロセッサ40は記憶装置41から入力された制御プログラムを実行する。
記憶装置41は補助記憶装置と揮発性記憶装置とを備える。プロセッサ40には補助記憶装置から揮発性記憶装置を介して制御プログラム42が入力される。
プロセッサ40は、演算結果等の処理データ43を記憶装置41の揮発性記憶装置に出力し、これらの処理データ43を、必要に応じて揮発性記憶装置を介して補助記憶装置に保存する。
【0191】
上述したように、制御装置10Eは、電力変換部1の複数のスイッチング素子Q1~Q6のスイッチング状態量SWSを出力して電力変換部1を制御する。
【0192】
図32は、電力変換部1の全候補のスイッチング状態量SWSallとして2レベルを対象とした場合の一例を示す図である。スイッチング状態量SWSは、各スイッチング素子Q1~Q6のオン(:1)とオフ(:0)の信号の組み合わせである。上アームおよび下アームのスイッチング素子Q1~Q6の内、一方がオンで他方がオフとなる8通りのスイッチング状態指標SWn(nは0~7の整数)と、電力変換部1の動作停止時に全スイッチング素子(スイッチング素子Q1~Q6のすべて)をオフするスイッチング状態指標(スイッチング状態指標SW8)の9通りのスイッチング状態指標がある。
【0193】
図33は、電力変換部1のスイッチングパターンSWPについて説明する図である。図33では、スイッチングパターンSWPの一例として、電力変換部1のスイッチング状態量SWSと継続時間Tswのデータ組を3つ組み合わせたものを図示している。
【0194】
本願では、電力変換部1のスイッチング状態量SWSと継続時間Tswのデータ組を2つ以上組み合わせたものをスイッチングパターンSWPとしている。図33の場合、スイッチングパターンSWPは、1番目のスイッチング状態量SWS1(ここでは図32のスイッチング状態指標SW1に該当)を継続時間T1swだけ継続、2番目のスイッチング状態量SWS2(ここでは図32のスイッチング状態指標SW2に該当)を継続時間T2swだけ継続、3番目のスイッチング状態量SWS3(ここでは図32のスイッチング状態指標SW7に該当)を継続時間T3swだけ継続するように設定された、組み合わせである。
【0195】
図34は、スイッチング予測部33における電圧出力積分値Poutからの全候補の電圧予測値Vpredallについて説明する図である。スイッチング予測部33にて計算した電圧出力積分値Poutを初期値Cとして、その地点から図32のスイッチング状態指標SWn(nは0~8の整数)に基づいて、全候補の電圧予測値Vpredallの積分値Ppredall(以下、簡略化して、全候補の電圧予測値の積分値Ppredallと呼ぶ)を描いている。
【0196】
図34において、スイッチング状態指標SW0、SW7、SW8に対応するスイッチング状態量SWSは、多相電圧出力値Vout(以下では、単に、電圧出力値Voutとも呼ぶ)が零になるため、電圧予測値の積分値Ppredは電圧出力積分値Poutと一致する。そのため、(スイッチング状態指標SW1からSW6に相当する)点線で示した合計6本の電圧予測値の積分値Ppredが描かれている。
【0197】
図35は、スイッチング予測部33における電圧指令積分値Prefと電圧予測値の積分値Ppredの予測区間の拡張方法について説明する図である。図35では、2相の静止座標系であるαβ座標において、予測開始時点から、電圧指令積分値Prefと電圧予測値の積分値Ppredについて電圧指令値Vrefの位相60度分まで拡張した場合を一例として示している。ここで、図35においては、電圧指令積分値Prefは、実線の矢印で示され、電圧予測値の積分値Ppredは、5個の点線の矢印(スイッチング状態量SWS1~SWS5)で示される。
【0198】
電圧指令値Vrefは静止座標上においては、定常状態を仮定すると電圧指令値Vrefの周波数にしたがって変化するため、例えば周波数が正の場合は反時計方向に円旋回する。そのため、電圧指令積分値Prefも反時計方向に円旋回する。つまり、図35で、予測開始時点から予測終了時点に60度分、移動する。
【0199】
これに対して、電圧予測値Vpredは電力変換部1のスイッチング状態量SWSによる電圧出力値Voutとなっているので、スイッチング素子がオンとオフの状態である2値しか取らない。しかしながら、電圧予測値の積分値Ppredであれば、電圧予測値Vpredに到達するまでの軌跡を表現できるため、図35のように電圧予測値の積分値Ppredは電圧指令値の位相60度分の軌跡を計算できる。
【0200】
図35の場合は、スイッチング状態量SWS1からSWS5までのスイッチング状態量SWSの順番で電圧指令値Vrefの60度分の軌跡を予測演算している。つまり、予測演算時に、各スイッチング状態量SWSによる電圧予測値Vpredを積分する時間を変更するのみで軌跡の長さが変わる。この軌跡を、例えば従来方式であるモデル予測制御にて固定子磁束φを計算しようとした場合、負荷3の状態方程式を逐次計算する必要がある。つまり、本願の方式は、従来方式と比較すると計算量が大幅に低減されている。
【0201】
図35のように計算した電圧指令値の位相60度分の電圧指令積分値Prefと電圧予測値の積分値Ppredとの差である積分偏差Perrの合計値Perrsum(以下、簡略化して、積分偏差の合計値Perrsumと呼ぶ)を計算し、この積分偏差の合計値Perrsumを評価値Jとして、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定するために使用してもよいし、積分偏差の合計値Perrsumとスイッチング状態量SWSの切り替わりにおけるスイッチング状態量SWSのオンとオフのスイッチング切り替わり回数SWcountの合計値SWcountsum(以下、簡略化して、スイッチング切り替わり回数の合計値SWcountsumと呼ぶ)に基づき、SWcountsum×Perrsumにより評価値Jを計算し、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定するために使用してもよい。なお、図35においては、上記積分偏差の合計値Perrsumは明示的には表されていない。
【0202】
次に、この実施の形態8の電力変換装置100Gにおける制御動作について、以下に、図を用いて説明する。
図36は、電力変換装置100Gにおける制御動作を説明するフローチャートである。
【0203】
まず、母線電圧検出部15は、直流電源2の母線電圧Vdcを検出する(ステップS62)。
次に、電圧予測部32は、ステップS62で取得した母線電圧Vdcと、電力変換部1の全候補のスイッチング状態量SWSallに基づいて、全候補の電圧予測値Vpredallを計算する(ステップS63)。
次に、スイッチング予測部33は、電圧指令値Vrefを取得する(ステップS64)。
そして、スイッチング予測部33は、ステップS63で取得した全候補の電圧予測値VpredallとステップS64で取得した電圧指令値Vrefをそれぞれ積分した、全候補の電圧予測値の積分値Ppredallと、電圧指令積分値Prefとに基づいて、図35に示すように、電圧指令値の位相60度分にわたる予測値に拡張する(ステップS65)。
次に、ステップS65で拡張した予測値に基づいて、スイッチング予測部33は、全候補のスイッチング状態量SWSallにおける評価値Jをそれぞれ計算する(ステップS66)。ここで評価値Jとは、例えば、電圧指令値の位相60度に拡張した電圧指令積分値Prefと電圧予測値の積分値Ppredの積分偏差の合計値Perrsumである。
次に、ステップS66で計算した全候補のスイッチング状態量SWSallにおける評価値Jに基づいて、スイッチング予測部33は、評価値Jを最小とするスイッチング状態量SWSを探索する(ステップS67)。例えば、評価値Jが積分偏差の合計値Perrsumの場合は、積分偏差の合計値Perrsumが最も小さいスイッチング状態量SWSが選択される。
次に、ステップS67で探索して選択されたスイッチング状態量SWSと該スイッチング状態量の継続時間Tswに基づいて、スイッチング出力部28は、電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSを決定する(ステップS68)。
最後に、電力変換部1は、ステップS68で決定したスイッチング状態量SWSと該スイッチング状態量の継続時間Tswに応じて、スイッチング状態量SWSを制御して負荷3を制御する(ステップS69)。
【0204】
この実施の形態8の電力変換装置100Gは、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して負荷3に供給する電力変換部1と、直流電源2の母線電圧Vdcを検出するための母線電圧検出部15と、母線電圧Vdcと電力変換部1における全候補のスイッチング状態量SWSallに基づいて、電圧予測値Vpredを計算する電圧予測部32と、電圧指令値Vrefと電圧予測部32で計算した全候補の電圧予測値Vpredallに基づいて、電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSと該スイッチング状態量を継続する継続時間Tswを計算するスイッチング予測部33と、スイッチング予測部33で計算したスイッチング状態量SWSと継続時間Tswに基づいて電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSを決定するスイッチング出力部28とを備え、スイッチング予測部33は、電圧指令値の位相60度にわたる電圧指令積分値Prefと全候補の電圧予測値の積分値Ppredallから計算した積分偏差の合計値Perrsumに基づいて、積分偏差の合計値Perrsumを最小にするスイッチング状態量SWSと継続時間Tswを出力し、これに応じてスイッチング出力部28が電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSを決定する。
【0205】
このため、実施の形態8の電力変換装置100Gは、実施の形態7と比較すると、電圧指令積分値Prefに電力変換部1の電圧出力積分値Poutを追従させつつ、電圧指令値の位相60度にわたる積分偏差の合計値Perrsumを最小にするため、高調波電圧Vthd、および高調波電流Ithdを小さくするように負荷3を駆動することができる。
【0206】
ここで、評価値Jを積分偏差の合計値Perrsumと説明したが、評価値Jはスイッチング状態量SWSのオンとオフのスイッチング切り替わり回数の合計値SWcountsumも考慮して、評価値Jを電圧指令値の位相60度にわたるSWcountsum×Perrsumとすることで、電力変換部1のスイッチング切り替わり回数を少なくできる、つまりスイッチング損失SWlossを小さくするように負荷3を駆動できる。
また、ここでは、位相60度としたが、位相60度ではなく、さらに短い区間、または長い区間に変更しても、同様の手順で電力変換部1のスイッチング状態量SWSと継続時間Tswを計算することができる。
【0207】
実施の形態9.
実施の形態9に係る電力変換装置100Hについて、以下図を用いて説明する。
図37は実施の形態9による電力変換装置100Hの構成を示すブロック図である。
図37に示すように、実施の形態9による電力変換装置100Hは、実施の形態8による制御装置10Eが有するスイッチング予測部33に代えて、電力変換装置100Hの制御装置10Fはスイッチング予測部33Aを備える。電力変換部1のスイッチング状態量SWSは、スイッチング予測部33Aとスイッチング出力部28によって決定するため、前述のスイッチング決定部300に相当する。
【0208】
実施の形態9の電力変換装置100Hのスイッチング予測部33Aは、電圧指令積分値Prefに対する許容範囲ΔPrefを用いて、電力変換部1のスイッチング状態量SWSと継続時間Tswを計算する点で、実施の形態8による電力変換装置100Gのスイッチング予測部33と異なる。以下においては、実施の形態1から8と同様の機能を有する構成要素については同一符号を付して説明を省略し、実施の形態1から8と異なる点を中心に説明する。
【0209】
スイッチング予測部33Aは、電圧指令値Vrefを積分した電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと電圧予測部32で計算した電圧予測値Vpredを積分した電圧予測値の積分値Ppredに基づいて、電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSと該スイッチング状態量を継続する継続時間Tswを計算する。この時、電圧予測値の積分値Ppredの初期値Cは実施の形態8と同様に、スイッチング予測部33Aにて計算したスイッチング状態量SWSと継続時間Tsw、母線電圧検出部15で検出した母線電圧Vdcから電圧出力値Voutを計算し、この電圧出力積分値Poutを初期値Cとする。PdeltaとPpredの拡張方法と評価値についての詳細は後述する。
【0210】
スイッチング予測部33Aにおける電圧指令値Vrefを積分した電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefは、電圧出力積分値Poutが電圧指令積分値Prefに対して許容される範囲を表している。そのため、許容範囲ΔPrefの大きさは、値を大きく設定すると高調波電圧Vthdが大きくなるが電力変換部1における複数スイッチング素子のスイッチング切り替わり回数SWcountが少なくなり、反対に許容範囲ΔPrefを小さく設定すると高調波電圧Vthdが小さくなるが電力変換部1における複数スイッチング素子のスイッチング切り替わり回数SWcountが多くなるという、高調波電圧Vthdとスイッチング切り替わり回数SWcountのトレードオフを決定する値になっている。
【0211】
図38は、スイッチング予測部33Aにおける電圧指令値Vrefを積分した電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと電圧予測値の積分値Ppredの拡張方法の一例を説明した図である。
図38では、2相の静止座標系であるαβ座標において、予測開始時点から、電圧指令積分値Prefと電圧予測値の積分値Ppredについて、電圧指令値の位相60度以上に拡張した場合を一例として示している。ここで、図38において、電圧指令積分値Prefは、実線の矢印で示され、電圧予測値の積分値Ppredは、4個の点線の矢印(スイッチング状態量SWS1~SWS4)で示される。
【0212】
電圧指令値Vrefは静止座標上においては、定常状態を仮定すると電圧指令値Vrefの周波数にしたがって変化するため、例えば周波数が正の場合は反時計方向に円旋回する。そのため、電圧指令積分値Prefも反時計方向に円旋回する。
【0213】
電圧指令値Vrefに対して、電圧予測値Vpredは電力変換部1のスイッチング状態量SWSによる電圧出力値Voutであるため、図34のようにスイッチング状態量SWSによって、Ppredの軌跡が描かれる。
【0214】
各相のスイッチング素子は図32に示すQ1~Q6の上記2レベルに相当するオン・オフに対応する1あるいは0で示したスイッチングパラメータ(スイッチング状態のレベルを表す数値)により定まるスイッチング状態指標SW0~SW8を取りうるため、合計9通りの電圧出力値Voutとなる。しかしながら、スイッチング状態指標SW0、SW7、SW8は各相の上アームのスイッチング状態量SWSによる合成ベクトルは零となるため、非零の電圧出力値Voutが6通り、零の電圧出力値Voutが3通りということになる。ここでは、上記の合計9通りの電圧出力値Voutをそれぞれ積分した電圧予測値の積分値Ppredを計算する。
【0215】
図38では、αβ座標上での電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaが描かれている。すなわち、Pdeltaは、αβ座標上に示された電圧指令積分値Prefに対して、許容範囲ΔPrefを設定するため、電圧許容値の上限値Pupperと電圧許容値の下限値Plowerが描かれている。そして、電圧許容値の上限値Pupperと電圧許容値の下限値Plowerは、電圧指令積分値Prefと同様に、定常状態において時間的に円旋回する。
【0216】
電圧予測値の積分値Ppredはスイッチング状態量SWSにより、時間的に図34のように直線状に変化する。そのため、電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと電圧予測値の積分値Ppredを時間関数で表現し、電圧許容値の上限値Pupperまたは電圧許容値の下限値Plowerと電圧予測値の積分値Ppredが交差するまでの交差到達時間Tcrossを計算する。
【0217】
図38では、スイッチング状態量SWS1(スイッチング状態指標SW3相当)が継続時間T1swで電圧予測値の積分値Ppredが電圧許容値の上限値Pupperと交差し、スイッチング状態量SWS2(スイッチング状態指標SW4相当)が継続時間T2swで電圧予測値の積分値Ppredが電圧許容値の下限値Plowerと交差し、スイッチング状態量SWS3(スイッチング状態指標SW3相当)が継続時間T3swで電圧予測値の積分値Ppredが電圧許容値の上限値Pupperと交差し、スイッチング状態量SWS4(スイッチング状態指標SW4相当)が継続時間T4swで電圧予測値の積分値Ppredが電圧許容値の上限値Pupperと交差する。
【0218】
実施の形態8の許容範囲ΔPrefを使用しない予測値の拡張方法と比較すると、実施の形態9では、許容範囲ΔPrefを使用することで予測値を拡張する際に時間関数を解くのみでよいため、実施の形態8と比較して、さらに計算量が低減される。つまり、上述したように、電圧予測値の積分値Ppredがスイッチング状態量SWSの変化に対して時間的に直線状に変化することを利用することができるので、さらに計算量が低減される。
【0219】
ここで、図38のようにして計算した予測値からPdeltaと電圧予測値の積分値Ppredが交差するまでの交差到達時間Tcrossの合計値Tcrosssumを計算し、この交差するまでの時間の合計値Tcrosssumの逆数1/Tcrosssumを評価値Jとして、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定するために使用してもよいし、交差するまでの時間の合計値Tcrosssumとスイッチング切り替わり回数の合計値SWcountsumに基づき、SWcountsum/Tcrosssumから評価値Jを計算し、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定するために使用してもよい。
【0220】
次に、この実施の形態9の電力変換装置100Hにおける制御動作について、以下、図を用いて説明する。
図39は、電力変換装置100Hにおける制御動作を説明するフローチャートである。
まず、スイッチング予測部33Aは、電圧指令値Vrefと電圧予測部32にて計算した全候補の電圧予測値Vpredallを取得する(ステップS62からステップS64)。
【0221】
次に、スイッチング予測部33Aは、電圧指令積分値Prefに設定するための許容範囲ΔPrefを取得する(ステップS70)。
そして、スイッチング予測部33Aは、電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと全候補の電圧予測値の積分値に基づいて、許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと電圧予測値の積分値Ppredが交差するまでの時間の合計値Tcrosssumを電圧指令値の位相60度以上に拡張した予測値から計算する(ステップS71)。
【0222】
スイッチング予測部33Aは、ステップS71にて計算した交差するまでの時間の合計値Tcrosssumの逆数1/Tcrosssumに基づき、全候補のスイッチング状態量における評価値Jをそれぞれ計算する(ステップS72)。
【0223】
スイッチング予測部33Aは、ステップS72にて計算した評価値Jに基づいて、実施の形態8と同様の手順にて電力変換部1のスイッチング状態量SWSと該スイッチング状態量を継続する継続時間Tswを探索し、探索したスイッチング状態量SWSと継続時間Tswに基づいて電力変換部1は、スイッチング状態量SWSを制御して負荷3を制御する(ステップS73からステップS75)。
【0224】
この実施の形態9の電力変換装置100Hは、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して負荷3に供給する電力変換部1と、直流電源2の母線電圧Vdcを検出するための母線電圧検出部15と、母線電圧Vdcと電力変換部1における全候補のスイッチング状態量SWSallに基づいて、電圧予測値Vpredを計算する電圧予測部32と、電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと電圧予測部32で計算した全候補の電圧予測値の積分値Ppredallに基づいて、電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSと該スイッチング状態量を継続する継続時間Tswを計算するスイッチング予測部33Aと、スイッチング予測部33Aで計算したスイッチング状態量SWSと継続時間Tswに基づいて電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSを決定するスイッチング出力部28とを備え、スイッチング予測部33Aは、電圧指令値の位相60度以上にわたる電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと、全候補の電圧予測値の積分値Ppredallが交差するまでの時間の合計値Tcrosssumを計算し、交差するまでの時間の合計値Tcrosssumの逆数1/Tcrosssumを最小にするスイッチング状態量SWSと継続時間Tswを出力し、これに応じてスイッチング出力部28が電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSを決定する。
【0225】
このため、実施の形態9の電力変換装置100Hは、電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと電圧予測値の積分値Ppredを時間関数で表現し、予測区間を電圧指令値の位相60度以上に拡張するため、実施の形態と比較して、予測演算するための計算量をより少なくでき、電圧指令値Vrefと電圧出力値Voutの積分偏差Perrも許容範囲ΔPrefにて一定に制限して負荷3を駆動することができる。したがって、実施の形態9の電力変換装置100Hは、実施の形態8よりも予測区間を長期に設定しやすいため、電圧高調波の抑制効果を向上させることができる。
【0226】
ここで、評価値Jを交差するまでの時間の合計値Tcrosssumの逆数1/Tcrosssumと説明したが、評価値Jはスイッチング状態量SWSのオンとオフのスイッチング切り替わり回数の合計値SWcountsumも考慮して、評価値Jを電圧指令値の位相60度以上にわたるSWcountsum/Tcrosssumとすることで、電力変換部1のスイッチング損失SWlossも小さくするように負荷3を駆動できる。また、ここでは位相60度としたが、位相60度ではなく、さらに短い区間、または長い区間に変更しても、同様の手順で電力変換部1のスイッチング状態量SWSと継続時間Tswを計算することができる。
【0227】
実施の形態10.
実施の形態10に係る電力変換装置100Iについて、以下図を用いて説明する。
図40は実施の形態10に係る電力変換装置100Iの構成を示すブロック図である。図40に示すように、実施の形態10に係る電力変換装置100Iは、実施の形態9と比較して、負荷3を回転電機4に代え、電力変換部1と回転電機4の間に電流検出部17を備え、制御装置10Gが有するスイッチング予測部33Aに代えて、電力変換装置100Iの制御装置10Gはスイッチング予測部33Bを備える。そして、この制御装置10Gは、上記電流検出部17から検出した検出電流値Iuvwに基づいて、回転電機4の駆動状態を表す駆動状態量Mstateを計算する状態観測部34を備えるとともに、状態観測部34で計算した駆動状態量Mstateに基づいて、電圧指令積分値Prefに対する許容範囲ΔPrefを計算する許容範囲計算部18を備える。電力変換部1のスイッチング状態量SWSは、スイッチング予測部33Bとスイッチング出力部28によって決定するため、前述のスイッチング決定部300に相当する。
【0228】
上述の電力変換装置100Iのスイッチング予測部33Bは、電圧指令積分値Prefに対する許容範囲ΔPrefを回転電機4の駆動状態に合わせて変更する点で、実施の形態9による電力変換装置100Hのスイッチング予測部33Aと異なる。以下においては、実施の形態1から9と同様の機能を有する構成要素については同一符号を付して説明を省略し、実施の形態1から9と異なる点を中心に説明する。
【0229】
上述のように、電力変換装置100Iは、実施の形態8、9と比較し、電流検出部17を備える点で異なる。
この電力変換装置100Iは、図40に示したように、電力変換部1、母線電圧検出部15、電流検出部17、及び制御装置10Gの構成要素である、電圧予測部32、スイッチング予測部33B、スイッチング出力部28、状態観測部34、許容範囲計算部18を、備える。以下では、実施の形態9とは異なる構成要素である、電流検出部17、状態観測部34、許容範囲計算部18の機能について説明する。
【0230】
電流検出部17は、電力変換部1と回転電機4の間に流れる電流を検出し、状態観測部34に出力する。
【0231】
状態観測部34は、電圧指令値Vrefと電流検出部17により検出した検出電流値Iuvwに基づいて、回転電機4の駆動状態を表した駆動状態量Mstateを計算して、計算した駆動状態量Mstateを出力する。ここで、駆動状態量Mstateは、例えば、電圧指令値Vrefと電流検出部17で検出した検出電流値Iuvwを二相の静止座標であるαβ座標上に変換し、電圧指令値Vrefと二相の電流αβに基づいて計算した二相の磁束φαβ、二相の磁束φαβに基づいて計算した回転電機4の磁束φ、あるいは一次角周波数ω、角速度ωrm、二相の磁束φαβと二相の電流Iαβに基づいて計算したトルクτ、検出電流値Iuvwから計算した回転電機4の損失Mlossの少なくとも何れか1つを含む。
【0232】
許容範囲計算部18は、状態観測部34で計算した回転電機4の駆動状態量Mstateに基づいて、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefを計算して、スイッチング予測部33Bに出力する。許容範囲ΔPrefの大きさは、前述のとおり、高調波電圧Vthdとスイッチング切り替わり回数SWcountのトレードオフを決定する値になっている。そのため、例えば、回転電機4のトルクリプルを低減する時は、許容範囲ΔPrefを小さくして高調波電圧Vthdが小さくなるよう設定する。また、許容範囲ΔPrefは回転電機4に関わる何れかの値に依存した関数として算出してもよい。
【0233】
図41は、電力変換装置100Iを実現するハードウェア構成図である。
図41に示した電力変換装置100Iのハードウェア構成図は、実施の形態8の電力変換装置100Gと比較して、電力変換部1と回転電機4の間に電流検出部17を新たに追加している点で異なる。
【0234】
電流検出部17は、電力変換部1が回転電機4に出力している三相分の電流値を検出する。ここで、電流検出部17には、CT(Current Transformer)検出器、シャント抵抗等、いずれの電流検出器を用いてもよい。三相の電流の内、ニ相分の電流を検出し、残りの一相の電流を算出したものを用いてもよい。また、一つの電流検出器で三相交流電流値を復元する1シャント電流検出方式を用いてもよい。
【0235】
図42は、実施の形態10によるスイッチング予測部33Bにおける電圧指令値Vrefを積分した電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと電圧予測値の積分値Ppredの拡張方法について説明するための図である。
【0236】
図42では、2相の静止座標系であるαβ座標において、予測開始時点から、電圧指令積分値Prefと電圧予測値の積分値Ppredについて、電圧指令値の位相60度以上に拡張した場合を一例として示している。ここで、図42において、電圧指令積分値Prefは、実線の矢印で示され、電圧予測値の積分値Ppredは、2個の点線の矢印(スイッチング状態量SWS1~SWS2)で示される。
【0237】
そこで、次に、実施の形態9と同様にして、電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと電圧予測値の積分値Ppredを時間関数で表現し、電圧許容値の上限値Pupperまたは電圧許容値の下限値Plowerと電圧予測値の積分値Ppredが交差するまでの交差到達時間Tcrossを計算する。
【0238】
図42では、許容範囲計算部18にて計算した許容範囲ΔPrefに基づいて許容範囲ΔPrefの大きさが予測計算の途中で変化している。これは、例えば、許容範囲ΔPrefが電圧出力積分値Poutに依存した関数として計算された場合、電圧出力積分値Poutに依存して許容範囲ΔPrefの大きさが変化する場合を仮定したものである。
【0239】
また、図42に示したように、スイッチング状態量SWS1(スイッチング状態指標SW3相当)が継続時間T1swで電圧予測値の積分値Ppredが許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値の上限値Pupperと交差し、その後、スイッチング状態量SWS2(スイッチング状態指標SW4相当)が継続時間T2swで電圧予測値の積分値Ppredが許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値の上限値Pupperと交差する。
【0240】
実施の形態9の許容範囲ΔPrefが一定値の方式と比較すると、実施の形態10では、回転電機4の駆動状態に合わせて許容範囲ΔPrefを変化させるため、高調波電圧Vthdと電力変換部1のスイッチング切り替わり回数SWcountだけでなく、回転電機4のトルクτ、あるいは磁束φ、一次角周波数ω、損失Mlossの性能を考慮しつつ、電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定することができる。
【0241】
次に、この実施の形態10の電力変換装置100Iにおける制御動作について、以下、図を用いて説明する。
【0242】
図43は、電力変換装置100Iにおける制御動作を説明するフローチャートである。
まず、スイッチング予測部33Bは、電圧指令値Vrefと、電圧予測部32にて計算した全候補の電圧予測値Vpredallを取得する(ステップS62からステップS64)。
次に、電流検出部17は、回転電機4に流れる電流を検出する(ステップS76)。
次に、状態観測部34は、ステップS76で検出した検出電流値Iuvwと電圧指令値Vrefに基づいて、回転電機4の駆動状態量Mstateを計算する(ステップS77)。
許容範囲計算部18は、ステップS77で計算した駆動状態量Mstateに基づいて、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefを計算する(ステップS78)。
そして、スイッチング予測部33Bは、電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと全候補の電圧予測値の積分値Ppredallに基づいて、実施の形態9と同様の手順で処理を実行し、電圧指令値の位相60度以上に拡張したPdeltaとPpredallに基づき、許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと電圧予測値の積分値Ppredが交差するまでの時間の合計値Tcrosssumを計算し、計算した交差するまでの時間の合計値Tcrosssumの逆数1/Tcrosssumを評価値Jとする(ステップS79からステップS81)。
スイッチング予測部33Bは、ステップS81にて計算した評価値Jに基づいて、実施の形態8、9と同様の手順にて電力変換部1のスイッチング状態量SWSと該スイッチング状態量を継続する継続時間Tswを探索し、探索したスイッチング状態量SWSと継続時間Tswに基づいて電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する(ステップS82、ステップS83)。
電力変換部1は、ステップS83で決定した電力変換部1のスイッチング状態量SWSにより、直流電力を交流電力に変換し、回転電機4を制御する(ステップS84)。
【0243】
この実施の形態10の電力変換装置100Iは、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して回転電機4に供給する電力変換部1と、直流電源2の母線電圧Vdcを検出するための母線電圧検出部15と、母線電圧Vdcと電力変換部1における全候補のスイッチング状態量SWSallに基づいて、電圧予測値Vpredを計算する電圧予測部32と、電力変換部1と回転電機4の間に流れる電流を検出電流値Iuvwとして検出する電流検出部17と、電圧指令値Vrefと検出電流値Iuvwに基づいて回転電機4の駆動状態を表す駆動状態量Mstateを計算する状態観測部34と、状態観測部34で計算した駆動状態量Mstateに基づいて、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefを計算する許容範囲計算部18と、電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと電圧予測部32で計算した全候補の電圧予測値の積分値Ppredallに基づいて、電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSと該スイッチング状態量を継続する継続時間Tswを計算するスイッチング予測部33Bと、スイッチング予測部33Bで計算したスイッチング状態量SWSと継続時間Tswに基づいて電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSを決定するスイッチング出力部28とを備え、スイッチング予測部33Bは、電圧指令値の位相60度以上にわたる電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと、全候補の電圧予測値の積分値Ppredallが交差するまでの時間の合計値Tcrosssumを計算し、交差するまでの時間の合計値Tcrosssumの逆数1/Tcrosssumを最小にするスイッチング状態量SWSと継続時間Tswを出力し、これに応じてスイッチング出力部28が電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSを決定する。
【0244】
このため、実施の形態10の電力変換装置100Iは、回転電機4の駆動状態に合わせて許容範囲ΔPrefを変化させるため、実施の形態9と比較して、回転電機4のトルクリプル、あるいは磁束リプル、損失Mlossを考慮した電力変換部1のスイッチング状態量SWSの制御ができる。
【0245】
ここで、評価値Jを交差するまでの時間の合計値Tcrosssumの逆数1/Tcrosssumと説明したが、評価値Jはスイッチング状態量SWSのオンとオフのスイッチング切り替わり回数の合計値SWcountsumも考慮して、評価値Jを電圧指令値の位相60度以上にわたるSWcountsum/Tcrosssumとすることで、電力変換部1のスイッチング損失SWlossも小さくするように回転電機4を駆動できる。また、ここでは位相60度としたが、位相60度ではなく、さらに短い区間、または長い区間に変更しても、同様の手順で電力変換部1のスイッチング状態量SWSと継続時間Tswを計算することができる。
【0246】
実施の形態11.
実施の形態11に係る電力変換装置100Jについて、以下、図を用いて説明する。
図44は実施の形態11による電力変換装置100Jの構成を示すブロック図である。図44に示すように、実施の形態11による電力変換装置100Jは、実施の形態10と比較して、制御装置10Gに代えて制御装置10Hを備えるとともに、この制御装置10Hは、制御装置10Gが備えている許容範囲計算部18の代わりに、学習済みモデル26を備える。この学習済みモデル26は、教師データに基づく機械学習で得た情報を基に、状態観測部34から入力される駆動状態量Mstateに基づいて推論を行い、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefを計算する。
【0247】
ここで、実施の形態11による電力変換装置100Jの許容範囲ΔPrefの計算においては、許容範囲ΔPrefは、機械学習を実行して取得した学習済みモデル26を使用して計算する点で、実施の形態10による電力変換装置100Iの許容範囲計算部18と異なる。以下においては、実施の形態1から10と同様の機能を有する構成要素については同一符号を付して説明を省略し、実施の形態1から10と異なる点を中心に説明する。
【0248】
図45は、学習済みモデルの作成方法および教師データに基づく機械学習を説明するブロック図である。
図45に示すように、事前に用意した学習用データ51から得る教師データ57に基づいて、学習部50が機械学習を行って学習済みモデルを生成する。
【0249】
学習用データ51には、回転電機4の磁束φ、トルクτ、損失Mloss、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefが含まれる。学習用データ51は、回転電機4を駆動する方式にて計算した値を保管しており、例えば、PWM方式と比較して、電力変換部1のスイッチング損失SWlossを小さくする制御方式である、モデル予測制御を用いた制御方式、選択的高調波消去、低次高調波消去、あるいは最適パルスパターンを用いた制御方式を用いて学習用データ51を生成してもよい。
【0250】
学習用データ51は、教師データ取得部52に入力される。教師データ取得部52は、入力データ取得部53とラベルデータ取得部54とを備える。
入力データ取得部53は、学習用データ51から、回転電機4の磁束φと、トルクτと、損失Mlossとを教師用入力データ55として取得し、学習部50に出力する。
ラベルデータ取得部54は、学習用データ51から、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefを教師用ラベルデータ56として取得し、学習部50に出力する。
【0251】
教師データ57は、教師用入力データ55と教師用ラベルデータ56とから成り、学習部50は、教師用入力データ55と教師用ラベルデータ56との組み合わせである教師データ57に基づいて、機械学習を実行する。
【0252】
この実施の形態11における機械学習の教師データ付き学習は、パーセプトロンを組み合わせて構成したニューラルネットワークにより行われる。具体的には、回転電機4の磁束φと、トルクτと、損失Mlossとを教師用入力データ55とし、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefを教師用ラベルデータ56とする。そして、これらによる教師データ57をニューラルネットワークに与えて、ニューラルネットワークの出力が教師用ラベルデータ56と同じとなるように、各パーセプトロンについての重みづけを変更しながら学習を繰り返すものである。
【0253】
学習の過程では、誤差逆伝搬法による処理を繰り返し行うことにより各パーセプトロンの出力の誤差を小さくするように重みづけ値を調整する。すなわち、教師データ付き学習は、重みづけ値を調整しながら、教師用ラベルデータ56とニューラルネットワークの出力データの誤差がなくなるようにするものである。
【0254】
このようにして、教師データ57の特徴を学習し、入力に基づいて推論を行って結果を導出するための学習済みモデルを獲得する。
【0255】
このように機械学習により生成された学習済みモデルは、教師データ57の特徴を有する。例えば、教師データ57に変成される学習用データ51が、モデル予測制御を利用したものであれば、学習済みモデルは電圧指令積分値Prefがモデル予測制御にて回転電機4を制御している時と同等の値に制御されるため、PWM方式と比較して、電力変換部1のスイッチング損失SWlossを小さくすることができる。
なお、学習部50が学習に用いるニューラルネットワークは三層であってもよいが、さらに多層であっても良く、ディープラーニングにより機械学習を実行するものでも良い。
【0256】
図46は、学習済みモデルを生成するためのハードウェア構成図である。学習済みモデルを生成するための機械学習は、ニューラルネットワークとして機能する機械学習器60で行い、機械学習器60は、図46に示すハードウェア構成により実現される。
【0257】
機械学習器60は、プロセッサ61および記憶装置62で構成される。
記憶装置62は、揮発性記憶装置である例えばRAM63と、不揮発性の補助記憶装置である例えばHDD64とを備える。なお、不揮発性の補助記憶装置としては、HDDの代わりにSSDあるいはフラッシュメモリを使用してもよい。
HDD64は、学習プログラム65、教師データ66を保持し、生成される学習結果67も保持する。
【0258】
プロセッサ61には、HDD64からRAM63を介して各種の学習プログラム65が入力され、入力された各種の学習プログラム65を実行する。学習プログラム65は、教師データ付き学習をプロセッサ61に実行させる。即ち、教師データ66も、HDD64からRAM63を介してプロセッサ61に入力され、学習プログラム65に従って学習される。
【0259】
また、プロセッサ61は、学習結果67のデータを、記憶装置62のRAM63に出力し、必要に応じてRAM63を介してHDD64に保存する。
学習プログラム65は、教師データ付き学習をプロセッサ61に実行させ、機械学習の結果(学習結果67)のデータを生成させるための命令を含むプログラムである。
【0260】
以上のような機械学習器60は、PC(Personal Computer)、サーバ装置等により実現できる。但し、演算量が多いため、例えば、PCにGPU(Graphics Processing Units)を搭載し、GPGPU(General-Purpose computing on Graphics Processing Units)と呼ばれる技術により、GPUを教師データ付き学習の演算処理に利用して、高速に処理できるようにしてもよい。
【0261】
次に、この実施の形態11の電力変換装置100Jにおける制御動作について、以下に説明する。
【0262】
図47は、電力変換装置100Jにおける制御動作を説明するフローチャートである。
まず、実施の形態10と同様の手順で処理を実行し、スイッチング予測部33Bは、電圧指令値Vrefと電圧予測部32にて計算した全候補の電圧予測値Vpredallを取得する(ステップS62からステップS64)。
【0263】
次に、状態観測部34は、実施の形態10と同様に、電圧指令値Vrefと検出電流値Iuvwに基づいて回転電機4の磁束φと、トルクτと、損失Mlossとを駆動状態量Mstateとして計算する(ステップS76、ステップS77)。
次に、ステップS77で計算した駆動状態量Mstateに基づいて、学習済みモデル26は、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefを計算する(ステップS85)。
【0264】
そして、スイッチング予測部33Bは、電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと全候補の電圧予測値の積分値Ppredallに基づいて、実施の形態10と同様の手順で処理を実行し、電圧指令値の位相60度以上に拡張したPdeltaとPpredallに基づき、許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと電圧予測値の積分値Ppredが交差するまでの時間の合計値Tcrosssumを計算し、計算した交差するまでの時間の合計値Tcrosssumの逆数1/Tcrosssumを評価値Jとする(ステップS86からステップS88)。
【0265】
スイッチング予測部33Bは、ステップS88にて計算した評価値Jに基づいて、実施の形態8と同様の手順にて電力変換部1のスイッチング状態量SWSと該スイッチング状態量の継続時間Tswを探索し、探索したスイッチング状態量SWSと継続時間Tswに基づいて電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する(ステップS89、ステップS90)。
【0266】
電力変換部1は、実施の形態10と同様にステップS90で決定した電力変換部1のスイッチング状態量SWSにより、直流電力を交流電力に変換し、回転電機4を制御する(ステップS91)。
【0267】
この実施の形態11の電力変換装置100Jは、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して回転電機4に供給する電力変換部1と、直流電源2の母線電圧Vdcを検出するための母線電圧検出部15と、母線電圧Vdcと電力変換部1における全候補のスイッチング状態量SWSallに基づいて、電圧予測値Vpredを計算する電圧予測部32と、電力変換部1と回転電機4の間に流れる電流を検出電流値Iuvwとして検出する電流検出部17と、電圧指令値Vrefと検出電流値Iuvwに基づいて回転電機4の駆動状態を表す駆動状態量Mstateを計算する状態観測部34と、教師データに基づく機械学習で得た情報を基に、状態観測部34から入力される駆動状態量Mstateに基づいて推論を行い、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefを計算する学習済みモデル26と、電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと電圧予測部32で計算した全候補の電圧予測値の積分値Ppredallに基づいて、電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSと該スイッチング状態量を継続する継続時間Tswを計算するスイッチング予測部33Bと、スイッチング予測部33Bで計算したスイッチング状態量SWSと継続時間Tswに基づいて電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSを決定するスイッチング出力部28とを備え、スイッチング予測部33Bは、電圧指令値の位相60度以上にわたる電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと、全候補の電圧予測値の積分値Ppredallが交差するまでの時間の合計値Tcrosssumを計算し、交差するまでの時間の合計値Tcrosssumの逆数1/Tcrosssumを最小にするスイッチング状態量SWSと継続時間Tswを出力し、これに応じてスイッチング出力部28が電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSを決定する。
【0268】
このため、実施の形態11の電力変換装置100Jは、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefを回転電機4の駆動状態量Mstateと学習済みモデル26に基づいて生成するため、実施の形態10と比較して、学習済みモデル26を生成するために使用した学習用データ通りの性能が獲得できるように許容範囲ΔPrefを変更できる。したがって、電力変換装置100Jは、学習用データの作成に活用した回転電機4の制御方式通りの性能が獲得できる。
【0269】
ここで、評価値Jを交差するまでの時間の合計値Tcrosssumの逆数1/Tcrosssumと説明したが、評価値Jはスイッチング状態量SWSのオンとオフのスイッチング切り替わり回数の合計値SWcountsumも考慮して、評価値Jを電圧指令値の位相60度以上にわたるSWcountsum/Tcrosssumとすることで、電力変換部1のスイッチング損失SWlossも小さくするように回転電機4を駆動できる。また、ここでは位相60度としたが、位相60度ではなく、さらに短い区間、または長い区間に変更しても、同様の手順で電力変換部1のスイッチング状態量SWSと継続時間Tswを計算することができる。
【0270】
実施の形態12.
実施の形態12に係る電力変換装置100Kについて、以下図を用いて説明する。
図48は実施の形態12による電力変換装置100Kの構成を示すブロック図である。図48に示すように、実施の形態12に係る電力変換装置100Kは、この電力変換装置100Kの制御装置10Iが、実施の形態10、11と比較して、新たに速度制御器19と、電流制御器20と、速度推定演算部21とを備え、速度推定演算部21に回転電機4の角速度ωrmを推定する機構を備える。この速度推定演算部21は、電圧指令値Vrefと電流検出部17の検出電流値Iuvwに基づいて、回転電機4の角速度ωrmと位相θを推定演算する。
【0271】
実施の形態12による電力変換装置100Kの回転電機4の速度計算は、状態観測部34で計算するのではなく、新たに設けた速度推定演算部21を用いて行う。この速度推定演算部21を備える点で、言い換えると、適応磁束オブザーバを備える点で、実施の形態10、11による電力変換装置100I、100Jと異なる。以下においては、実施の形態1から11と同様の機能を有する構成要素については同一符号を付して説明を省略し、実施の形態1から11と異なる点を中心に説明する。
【0272】
図49は、速度推定演算部21の構成を示すブロック図である。速度推定演算部21は適応オブザーバにより構成されており、回転電機4の位相θ、および角速度ωrmを推定演算する。適応オブザーバは、回転電機4の固定子磁束φsおよび回転子磁束φrを状態変数とする状態方程式で規定されているため、適応磁束オブザーバとも呼ばれる。なお、状態変数として拡張誘起電圧または電流などを採用して適応オブザーバを構成することもできる。
【0273】
図49に示す速度推定演算部21は、電圧指令値Vrefと検出電流値Iuvwを用いて、回転電機4の角速度ωrmの推定値(以下、角速度推定値hωrmと記載する)と回転電機4の位相θの推定値(以下、位相推定値hθと記載する)とを演算し、演算した角速度推定値hωrmと位相推定値hθとを出力する。電圧指令値Vrefは電流制御器20(図示せず)で計算された値であり、検出電流値Iuvwは電流検出部17で検出された値である。ここで、速度推定演算部21には電圧指令値Vrefを入力しているが、回転電機4に電力変換部1から出力される電圧出力値Voutを検出して、この電圧出力値Voutを速度推定演算部21の入力値としてもよい。
【0274】
速度推定演算部21は、モデル偏差演算部22と、角速度推定器23と、一次角周波数演算器24と、積分器25とを備える。モデル偏差演算部22は、電圧指令値Vrefと、検出電流値Iuvwと、一次角周波数ωと、角速度推定値hωrmとに基づきモデル偏差εを演算する。角速度推定器23は、モデル偏差εに基づき角速度推定値hωrmを演算する。一次角周波数演算器24は、磁束φの推定値(以下、磁束推定値hφと記載する)と電流iの推定値(以下、電流推定値hiと記載する)と、角速度推定値hωrmとに基づき、一次角周波数ωを演算する。積分器25は、一次角周波数ωを積分して位相推定値hθを出力する。
【0275】
モデル偏差演算部22は、電流推定器221と、減算器222と、偏差演算器223とを備える。電流推定器221は、電圧指令値Vrefと、検出電流値Iuvwと、一次角周波数ωと、角速度推定値hωrmとに基づき、磁束推定値hφと電流推定値hiとを演算し、演算した磁束推定値hφと電流推定値hiとを出力する。減算器222は、電流推定値hiから検出電流値Iuvwを減算することによって電流偏差Ierrを演算し、演算した電流偏差Ierrを出力する。
【0276】
偏差演算器223は、減算器222で演算した電流偏差Ierrと、磁束推定値hφとに基づき、モデル偏差εを演算する。ここで、電流偏差Ierrがベクトル量、磁束推定値hφがベクトル量の場合は、電流偏差Ierrのベクトルを入力とし、磁束推定値hφのベクトルの直交成分をスカラー量として抽出し、抽出したスカラー量をモデル偏差εとして出力する。磁束推定値hφのベクトルの直交成分をスカラー量として抽出する手法としては、電流偏差Ierrのベクトルを回転する直交座標系上に座標変換する手法と、電流偏差Ierrのベクトルと磁束推定値hφのベクトルとの外積値の大きさを演算する手法とが公知である。
【0277】
電流推定器221は、回転電機4の状態方程式から電流推定値hiと磁束推定値hφを演算する。ここでは、回転電機4は一般的な埋込型永久磁石同期電動機であると仮定するが、誘導電動機、表面型永久磁石同期電動機、巻線界磁式同期電動機、またはリラクタンス式同期電動機などの状態方程式を立式すれば、どのような他種の電動機であってもよい。すなわち、電流推定器221は、他種の回転電機についても、同様の方法にて電流推定を行うことができる。
【0278】
回転電機4が永久磁石埋込型同期電動機の場合、状態方程式は上記式(1)および式(2)のように表現される。ここで、記号Ldはd軸のインダクタンス、記号Lqはq軸のインダクタンス、記号idはd軸電流、記号iqはq軸電流、記号φdsはd軸固定子磁束、記号φqsはq軸固定子磁束、記号φdrはd軸回転子磁束、「^」記号は(文字の上部に記号^が付加されているもの)は推定値(例えば、φの推定値である「hφ」を意味する。他の推定値の場合でも同様)を表す。また、記号Raは電機子抵抗、記号vdはd軸電圧、記号vqはq軸電圧、記号h11、h12、h21、h22、h31、h32はオブザーバゲインを表す。ここで、一次角周波数ωは上記式(3)のように与えられる。なお、式(3)で記号h41、および記号h42はオブザーバゲインを表す。
【0279】
上記式(1)および式(2)は通常の誘起電圧に基づく式であるが、上記式(1)および式(2)に変形を加えて拡張誘起電圧の形式で表現しても同様の計算ができる。なお、上記式(1)および式(2)は回転座標上のdq座標における数式であるが、上記式(1)および式(2)の座標変換し、静止座標上の二相交流のαβ座標、あるいは三相交流のuvw座標といった他の座標系で表現しても同様の計算ができる。
【0280】
上記式(1)には角速度推定値hωrmが含まれるため、角速度推定値hωrmと実際の角速度ωrmとが一致していない場合、電流推定値hiに誤差が生じる。ここではモデル偏差εを上記式(4)のように定義し、速度推定演算部21はモデル偏差εが零になるように、角速度推定器23を用いて角速度推定値hωrmを調整する。角速度推定器23は、例えば、比例積分制御器に積分器を直接接続して構成される。
【0281】
一次角周波数演算器24は、上記式(3)に基づき、磁束推定値hφと、電流推定値hiと、角速度推定値hωrmとに基づき、一次角周波数ωを演算する。積分器25は、一次角周波数ωを積分することにより位相推定値hθを演算する。適応オブザーバの利点は、磁束鎖交数の変動に対してロバストであり、定常状態における速度推定誤差が発生しない点である。そのため、適応オブザーバは高性能に回転電機4の角速度ωrmを推定できる。
【0282】
次に、この実施の形態12の電力変換装置100Kにおける制御動作について、以下、図を用いて説明する。
【0283】
図50は、電力変換装置100Kにおける制御動作を説明するフローチャートである。
まず、実施の形態1と同様の手順で処理を実行し、スイッチング予測部33Bは、電圧予測部32にて計算した全候補の電圧予測値Vpredallを取得する(ステップS62、ステップS63)。
電流検出部17は、実施の形態10と同様に回転電機4に流れる電流を検出する(ステップS92)。
【0284】
図49の手順により、速度推定演算部21は、電圧指令値Vrefと検出電流値Iuvwに基づき、回転電機4の角速度ωrmの推定値であるhωrmと、回転電機4の位相θの推定値であるhθとを演算する(ステップS93)。
【0285】
次に、速度推定演算部21で計算した角速度推定値hωrmと位相推定値hθと、検出電流値Iuvwとに基づき、速度制御器19と電流制御器20は演算処理を実行し、スイッチング予測部33Bは電圧指令値Vrefを取得する(ステップS94)。
【0286】
次に、状態観測部34は、電圧指令値Vrefと、検出電流値Iuvwと、速度推定演算部21で計算した角速度推定値hωrmと、位相推定値hθとに基づき、回転電機4の磁束φと、トルクτと、損失Mlossとを駆動状態量Mstateとして計算する(ステップS95)。
【0287】
次に、学習済みモデル26は、実施の形態11と同様にステップS95で計算した駆動状態量Mstateに基づき、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefを計算する(ステップS96)。
【0288】
そして、スイッチング予測部33Bは、電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと全候補の電圧予測値の積分値Ppredallに基づいて、実施の形態10と同様の手順で処理を実行し、電圧指令値の位相60度以上に拡張したPdeltaとPpredallに基づき、許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと電圧予測値の積分値Ppredが交差するまでの時間の合計値Tcrosssumを計算し、計算した交差するまでの時間の合計値Tcrosssumの逆数1/Tcrosssumを評価値Jとする(ステップS97からステップS99)。
【0289】
次に、スイッチング予測部33Bは、ステップS99にて計算した評価値Jに基づいて、実施の形態8と同様の手順にて電力変換部1のスイッチング状態量SWSと該スイッチング状態量を継続する継続時間Tswを探索し、探索したスイッチング状態量SWSと継続時間Tswに基づいて電力変換部1のスイッチング状態量SWSを決定する(ステップS100、ステップS101)。
【0290】
電力変換部1は、実施の形態10と同様にステップS101で決定した電力変換部1のスイッチング状態量SWSにより、直流電力を交流電力に変換し、回転電機4を制御する(ステップS102)。
【0291】
この実施の形態12の電力変換装置100Kは、直流電源2の直流電力を交流電力に変換して回転電機4に供給する電力変換部1と、直流電源2の母線電圧Vdcを検出するための母線電圧検出部15と、母線電圧Vdcと電力変換部1における全候補のスイッチング状態量SWSallに基づいて、電圧予測値Vpredを計算する電圧予測部32と、電力変換部1と回転電機4の間に流れる電流を検出電流値Iuvwとして検出する電流検出部17と、電圧指令値Vrefと検出電流値Iuvwに基づいて回転電機4の角速度ωrmと位相θの推定値を演算する速度推定演算部21と、角速度指令値ωrmrefと速度推定演算部21で計算した角速度推定値hωrmに基づいて、電流指令値Irefを計算する速度制御器19と、速度制御器19で計算した電流指令値Irefと、速度推定演算部21で計算した位相推定値hθと、電流検出部17で検出した検出電流値Iuvwとに基づき、電圧指令値Vrefを計算する電流制御器20と、電流制御器20で計算した電圧指令値Vrefと、電流検出部17で検出した検出電流値Iuvwと、速度推定演算部21で計算した角速度推定値hωrmと、位相推定値hθとに基づいて、回転電機4の駆動状態を表す駆動状態量Mstateを計算する状態観測部34と、教師データに基づく機械学習で得た情報を基に、状態観測部34から入力される駆動状態量Mstateに基づいて推論を行い、電圧指令積分値Prefに設定する許容範囲ΔPrefを計算する学習済みモデル26と、電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと電圧予測部32で計算した全候補の電圧予測値の積分値Ppredallに基づいて、電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSと該スイッチング状態量を継続する継続時間Tswを計算するスイッチング予測部33Bと、スイッチング予測部33Bで計算したスイッチング状態量SWSと継続時間Tswに基づいて電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSを決定するスイッチング出力部28とを備え、スイッチング予測部33Bは、電圧指令値の位相60度以上にわたる電圧指令積分値Prefに許容範囲ΔPrefを設定した電圧許容値Pdeltaと、全候補の電圧予測値の積分値Ppredallが交差するまでの時間の合計値Tcrosssumを計算し、交差するまでの時間の合計値Tcrosssumの逆数1/Tcrosssumを最小にするスイッチング状態量SWSと継続時間Tswを出力し、これに応じてスイッチング出力部28が電力変換部1の複数スイッチング素子のスイッチング状態量SWSを決定する。
【0292】
このため、実施の形態12の電力変換装置100Kは、速度推定演算部21にて高精度に回転電機4の角速度ωrmを推定するため、実施の形態11と比較して、回転電機4の速度制御を高性能化でき、学習済みモデル26の入力である駆動状態量Mstateを計算する際の角速度ωrmの精度も向上するため、学習済みモデル26が回転電機4の駆動状態に合わせて、適切に許容範囲ΔPrefを計算できる。
【0293】
ここで、評価値Jを交差するまでの時間の合計値Tcrosssumの逆数1/Tcrosssumと説明したが、評価値Jはスイッチング状態量SWSのオンとオフのスイッチング切り替わり回数の合計値SWcountsumも考慮して、評価値Jを電圧指令値の位相60度以上にわたるSWcountsum/Tcrosssumとすることで、電力変換部1のスイッチング損失SWlossも小さくするように回転電機4を駆動できる。また、ここでは位相60度としたが、位相60度ではなく、さらに短い区間、または長い区間に変更しても、同様の手順で電力変換部1のスイッチング状態量SWSと継続時間Tswを計算することができる。

【0294】
以上の実施の形態に示した構成は、本願の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本願の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0295】
1 電力変換部、2 直流電源、3 負荷、4 回転電機、10、10A、10B、10C、10D、10E、10F、10G、10H、10I 制御装置、11、11A 電圧出力計算部、12 積分値計算部、13、13A、13B スイッチング更新判定部、14、14A、14B スイッチング決定テーブル、15 母線電圧検出部、16 オフセット調整部、17 電流検出部、18 許容範囲計算部、19 速度制御器、20 電流制御器、21 速度推定演算部、22 モデル偏差演算部、23 角速度推定器、24 一次角周波数演算器、25 積分器、26 学習済みモデル、27 スイッチング計算部、28 スイッチング出力部、29 高調波処理部、30 高調波電流制御器、31 低周波抽出部、32 電圧予測部、33、33A、33B スイッチング予測部、34 状態観測部、40 プロセッサ、41 記憶装置、42 制御プログラム、43 処理データ、50 学習部、51 学習用データ、52 教師データ取得部、53 入力データ取得部、54 ラベルデータ取得部、55 教師用入力データ、56 教師用ラベルデータ、57 教師データ、60 機械学習器、61 プロセッサ、62 記憶装置、63 RAM、64 HDD、65 学習プログラム、66 教師データ、67 学習結果、100、100A、100B、100C、100D、100E、100F、100G、100H、100I、100J、100K 電力変換装置、221 電流推定器、222 減算器、223 偏差演算器、300 スイッチング決定部、
C 初期値、D ダイオード、Ifund 電流低周波値、Iref 電流指令値、Ithd 高調波電流、Ithdref 高調波電流指令値、Iuvw 検出電流値、Iαβ 二相の電流、J 評価値、Mloss 損失、Mstate 駆動状態量、Pdelta 電圧許容値、Perr 積分偏差(PrefとPpredの差)、Perrsum 積分偏差の合計値、Plower 電圧許容値の下限値、Pref 電圧指令積分値、Pout 電圧出力積分値、Ppred 電圧予測値の積分値、Ppredall 全候補の電圧予測値の積分値、Pupper 電圧許容値の上限値、Q1~Q6 スイッチング素子、SetSW 設定信号、SWcount スイッチング切り替わり回数、SWcountsum スイッチング切り替わり回数の合計値、SWloss スイッチング損失、SWS スイッチング状態量、SWSall 全候補のスイッチング状態量、SWSn スイッチング状態量(n番目のスイッチング状態量(nは正数))、SWP スイッチングパターン、Tcross 交差到達時間、Tsw、T1sw、T2sw、T3sw 継続時間、Vdc 母線電圧、Vout 電圧出力値(多相電圧出力値)、Vpred 電圧予測値、Vpredall 全候補の電圧予測値、Vref 電圧指令値(多相電圧指令値)、Vthd 電圧の高調波成分、hi 電流推定値、hθ 位相推定値、hφ 磁束推定値、hωrm 角速度推定値、ΔPref 許容範囲、ε モデル偏差、θ 位相(回転電機の位相)、τ トルク、φ 磁束、φαβ 二相の磁束、ω 一次角周波数、ωrm 角速度、ωrmref 角速度指令値
図1
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