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特許7499877不透過性の高いインナーライナーコンパウンド及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】不透過性の高いインナーライナーコンパウンド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/14 20060101AFI20240607BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240607BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20240607BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20240607BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
B60C5/14 A
C08K3/013
C08L97/00
C08K3/01
C08L21/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022564032
(86)(22)【出願日】2021-04-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2021060202
(87)【国際公開番号】W WO2021214038
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】102020000008497
(32)【優先日】2020-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】518333177
【氏名又は名称】ブリヂストン ヨーロッパ エヌブイ/エスエイ
【氏名又は名称原語表記】BRIDGESTONE EUROPE NV/SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100228120
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 蓮太朗
(72)【発明者】
【氏名】パオロ フィオレンツァ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンパオロ キエフィ
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/140155(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0073720(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0204368(US,A1)
【文献】特開2019-206653(JP,A)
【文献】特表2018-515660(JP,A)
【文献】特表2019-535592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00
B60C 5/14
C08K 3/01
C08K 3/013
C08L 21/00
C08L 97/00-97/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーライナーコンパウンドの製造方法であって、
少なくとも一種の架橋可能な不飽和鎖ポリマー基材と、充填剤系とを共に混合する第一混合ステップと、
加硫系を加え、より前の混合ステップで得られた混合物と混合する最終混合ステップと、を含み、
前記方法が、前記第一混合ステップと前記最終混合ステップの間に入る中間混合ステップを含み、該中間混合ステップで、リグニンを、前の混合ステップで得られた混合物に加えて混合することを特徴とする、インナーライナーコンパウンドの製造方法。
【請求項2】
前記リグニンが、5phrから25phrの量で存在することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リグニンが、クラフトリグニンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記クラフトリグニンが、平均表面積400μm未満の粒子で構成されていることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法を使用して製造されたインナーライナーコンパウンド。
【請求項6】
請求項5に記載のコンパウンドを使用して製造されたインナーライナー層。
【請求項7】
請求項6に記載のインナーライナー層を具える、空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不透過特性が向上したインナーライナーコンパウンド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤ産業ではしばらくの間、インナーライナー層に、これまでよりも高い不透過性を与える必要性が特に感じられてきた。
【0003】
ここで、また、以下では、インナーライナー層は、内側ゴム層を指し、実質的に空気不透過性である場合に、カーカスの凹面により画定される空洞に閉じ込められる膨張空気を加圧下で維持するために、チューブレス空気入りタイヤに使用される。
【0004】
インナーライナー層の不透過性をより良くすることにより、カーカス内の空気の拡散を確定的により低くし、結果的に、カーカス自体の一部の酸化分解現象が起こることを防いで、空気入りタイヤの耐用年数をより長くするのに有利に働くという利点を有する。
【0005】
当業者が知っているように、カーカスの完全性に最も重要な部分の一つは、カーカスのベルトパックに関係する。ベルトパックは、ほとんどの場合、スチールベルトでできている。基本的に、スチールベルトは、ホイールを強化するスチールメッシュを形成する。空気入りラジアルタイヤのスチールベルトの目的は、ステアリングホイールから道路にステアリング指令を正確、かつ、効率的に伝えるために、道路と相互作用する領域内の空気入りタイヤのカーカスを安定させることである。すぐに分かるように、スチールベルトへのダメージは、空気入りタイヤの正常な操作に影響を及ぼし得る。
【0006】
空気入りタイヤ産業で特に感じられる他の必要性は、車両の全エネルギー消費及び転がり抵抗への良い影響を与える空気入りタイヤの重量の減少に関係することである。
【0007】
この点については、インナーライナーの不透過性を向上させることにより、インナーライナーの厚さを減少させることができるため、結果的に空気入りタイヤの重量をより小さくできることがすぐにわかる。
【発明の概要】
【0008】
上記の観点から、本研究の一部では、インナーライナー層の不透過性を向上させることに焦点を置いている。
【0009】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、特定の決まった手順でリグニンをコンパウンドに導入すると、コンパウンド自体に高い空気不透過特性を与えることができることを見いだした。このような解決策を、インナーライナーコンパウンドに適用すると、上記で述べた空気入りタイヤ産業で感じられている要求に答えられることを見いだした。
【0010】
これまで、空気入りタイヤのインナーライナー層以外の部分のコンパウンド内で、とりわけ、コンパウンドの他の特性を変化させないまま粘度を低下させるために、リグニンを使用することが知られている。
【0011】
本発明は、インナーライナーコンパウンドの製造方法であって、該製造方法は、
少なくとも一種の架橋可能な不飽和鎖ポリマー基材と、充填剤系とを共に混合する第一混合ステップと、
加硫系を加え、より前の混合ステップで得られた混合物と混合する最終混合ステップと、を含み、
前記方法が、前記第一混合ステップと前記最終混合ステップの間に入る中間混合ステップを含み、該中間混合ステップで、より前の混合ステップで得られた混合物にリグニンを加え、混合することを特徴とする。
【0012】
ここで、また、以下では、「架橋可能な不飽和鎖ポリマー基材」という用語は、硫黄ベースの系との架橋(加硫)の際に、エラストマーが通常有する全ての物理化学特性及び力学特性を有することができる任意の天然又は合成の非架橋ポリマーを指す。
【0013】
ここで、また、以下では、充填剤系という用語は、カーボンブラック、及び/又はシリカ、及び/又はクレー等の補強性充填剤で構成される複合物を指す。
【0014】
ここで、また、以下では、加硫系という用語は、少なくとも硫黄化合物と促進化合物を含む材料の複合物を指し、該加硫系は、コンパウンドの調製時に、最終混合ステップで加えられ、コンパウンドが加硫温度に曝されると、ポリマー基材の加硫を促進する目的を有する。
【0015】
リグニンの量は、5phrから25phrであることが好ましい。
【0016】
リグニンは、クラフトリグニンであることが好ましい。
【0017】
クラフトリグニンは、平均表面積400μm未満の粒子で構成されていることが好ましい。
【0018】
さらなる本発明の対象は、本方法、すなわち本発明の対象を使用して製造されたインナーライナーコンパウンドである。
【0019】
他のさらなる本発明の対象は、コンパウンド、すなわち本発明の対象を使用して製造されたインナーライナー層である。
【0020】
他のさらなる本発明の対象は、本発明により製造されたインナーライナー層を具える空気入りタイヤである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明をより理解するための、以下の例は、例示的で、限定しない目的のものである。
【0022】
(例)
10個のインナーライナーコンパウンドを製造し、そのうち4個を比較例、6個を本発明の実施例とした。
【0023】
具体的には、コンパウンドAは、一般的に使用される、材料としてリグニンを含まないインナーライナーコンパウンドを表す比較コンパウンドであり、3個のコンパウンドB、E及びHは、個別の3種のリグニンを含むが、本発明の手順と異なる手順で加えた比較コンパウンドであり、6個のコンパウンドC、D、F、G、I及びLは、本発明の手順によって加えた個別の3種のリグニンを含む本発明のコンパウンドである。特に、本発明のコンパウンドC、D、F、G、I及びLは、異なる二つの量(7phr及び14phr)で、3種のリグニンを使用することを必要とする。
【0024】
表1は、10個のコンパウンドA~Lの組成をphrで示している。
【表1】
【0025】
表1中、1MBという語は、第一混合ステップを指し、一方、2MBという語は、第二混合ステップを指す。
【0026】
Br-IIRは、ブロモブチルゴムを表す。
【0027】
CBは、N6タイプのものであり、表面積36m/gのカーボンブラックを意味する。
【0028】
クレーは、頭字語ASP(登録商標)NC X-1で、BASF社により製造販売されている鉱物充填剤である。
【0029】
リグニンは、頭字語Borreseperse NAで、Borregaardにより販売されているスルホン化リグニンである。
【0030】
リグニン**は、頭字語Lineo Classicで、Stora Ensoにより販売されている針葉樹由来のクラフトリグニンである。
【0031】
リグニン***は、頭字語FP602で、Suzanoにより販売されている針葉樹由来のクラフトリグニンである。
【0032】
電子顕微鏡(Zeissブランド、Aurigaモデル、二次電子-解析した画像サイズ約1mm)を用いて、使用した3種のリグニンの粒子の平均面積を明らかにした。リグニンの粒子は平均表面積673μmであり、リグニン**の粒子は平均表面積263μmであり、リグニン***の粒子は平均表面積194μmであることが分かった。
【0033】
以下では、例で説明したコンパウンドを準備するための手順を述べる。
【0034】
-コンパウンドの準備-
(第一混合ステップ-1MB)
混合を開始する前に、接線方向ロータを備え、内部体積230リットルから270リットルの混合器に、本発明のコンパウンド(C、D、F、G、I、L)の加硫系(硫黄、ZnO)及びリグニンを除いた表1に記載の材料を、フィルファクターが66%から72%に達するように投入した。
【0035】
混合器を速度40回転/分~60回転/分で動作させ、温度が140℃~160℃に到達したら、形成された混合物を排出させた。
【0036】
(第二混合ステップ-2MB)
この混合ステップは、本発明のコンパウンド(C、D、F、G、I、L)にのみ関係した。表1に示す量のリグニンを、第一混合ステップで作り出した混合物に加えた。温度が130℃~150℃に達したら、混合物を排出させた。
【0037】
(最終混合ステップ)
第一混合ステップ(1MB)から得られた比較コンパウンド(A、B、E、H)の混合物、及び第二混合ステップ(2MB)から得られた本発明のコンパウンド(C、D、F、G、I、L)の混合物に、フィルファクターが63%から67%に達するように加硫系(硫黄、ZnO)を加えた。
【0038】
混合器を速度20回転/分~40回転/分で動作させ、温度が100℃~110℃に到達したら、形成された混合物を排出させた。
【0039】
上記で説明したコンパウンドA~Lを使用してそれぞれの試験試料を作製し、脆性(もろさ)、M300%及び酸素不透過性に関するプロパティを検証するために、評価試験にかけた。
【0040】
酸素不透過性試験は、通常装置のMOCON(登録商標)社製OX-TRA(登録商標)(モデル2/61)を使用して、厚さ0.7mmの材料で行った。測定は、温度25℃で行った。
【0041】
機械試験は、ISO-812規格に従って行った。
【0042】
得られた結果をより簡単に説明するために、インナーライナー層の実装で一般的に使用される比較コンパウンド(コンパウンドA)の結果を参照として指標化した形で、不透過性の値を表している。
【0043】
表2及び3には、M300、もろさ及び酸素不透過性についての値が報告されており、報告されている値がより低いと、特性がより良くなることを明確に示している。
【表2】

【表3】
【0044】
表2及び3に報告したデータから、本発明によるコンパウンドは、許容範囲内の機械特性の値を維持したまま、酸素透過性の点で顕著な向上があることが明らかである。実際、この分野の専門家には一見して明らかなように、報告した全てのM300ともろさの値は、インナーライナー層にふさわしいと考えることができる。
【0045】
表2及び3に報告した値は、同一のリグニンを、第一混合ステップ又は第二混合ステップで加えた場合に、リグニンの効果が、酸素不透過性に関して驚くほど異なることを証明している。実際、コンパウンドB及びEに関係する値は、リグニンを第一混合ステップで加えると、酸素透過性は変化しないか、或いは比較コンパウンドAと比較してさらに悪くなることを示している。
【0046】
上記の観点から、(加硫系を除くすべての材料を混合する)第一混合ステップの後の混合ステップでリグニンを加えることにより生じる技術的な効果は、予測外で驚くべきものと明確に考えられるはずであると言える。