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特許7499896ウイルスフリーの細胞株及びそれを取得する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】ウイルスフリーの細胞株及びそれを取得する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20240607BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20240607BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20240607BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20240607BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALN20240607BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20240607BHJP
【FI】
C12N5/07 ZNA
G01N33/569 G
C12Q1/686 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/6813 Z
C12N5/10
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023008174
(22)【出願日】2023-01-23
(62)【分割の表示】P 2021147576の分割
【原出願日】2016-11-01
(65)【公開番号】P2023061952
(43)【公開日】2023-05-02
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】62/249,288
(32)【優先日】2015-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518145167
【氏名又は名称】グライコバック エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】GLYCOBAC, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】エージェイ マゴーディア
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ガイスラー
(72)【発明者】
【氏名】ドナルド ジャーヴィス
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/051255(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sf-ラブドウイルスに汚染したツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)生物又はSf-ラブドウイルスに汚染したツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)細胞株に由来する細胞株であって、永続的なSf-ラブドウイルス感染が存在していないことを特徴とし、Sf-ラブドウイルスに汚染した前記ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)生物又はSf-ラブドウイルスに汚染した前記ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)細胞株とは構造的に異なり、完全な状態でアセンブルされたSf-ラブドウイルスゲノムが細胞株のトランスクリプトームに存在しない、細胞株。
【請求項2】
Sf-ラブドウイルスに汚染した前記ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)細胞株は、Sf-21又はSf9細胞を含む、請求項1に記載の細胞株。
【請求項3】
Sf9細胞と同じ条件で増殖させた場合、細胞密度、倍加時間、平均細胞直径、形態及びN-グリコシル化パターンがSf9細胞と同じであるか又は実質的に同じであることを更に特徴とする、請求項1又は2に記載の細胞株。
【請求項4】
同じ条件でのSf9細胞での産生と比較して感染性組換えバキュロウイルス粒子の産生が増加することを更に特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項5】
前記感染性組換えバキュロウイルス粒子がAcP(-)p6.9hEPO又はAcP(-)p6.9hSEAPである、請求項4に記載の細胞株。
【請求項6】
Sf-ラブドウイルスに汚染したツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)生物又はSf-ラブドウイルスに汚染したツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)細胞株から細胞を単離する工程;
単離した前記細胞を、抗ウイルス化合物を含む細胞培養培地と混合して第1の培養組成物を作製する工程;
前記細胞が増殖及び分裂するのに適した条件下で前記第1の培養組成物をインキュベートし、それにより多数の細胞を生成する工程;
前記多数の細胞又は前記細胞培養培地の一部を除去し、ウイルスの存在又は非存在について試験する工程;
前記多数の細胞の少なくともいくつかを、抗ウイルス化合物を含まない細胞培養培地と混合して第2の培養組成物を作製する工程;及び
前記細胞が増殖及び分裂するのに適した条件下で前記第2の培養組成物をインキュベートし、それによりウイルスフリーの細胞株を得る工程を含む方法を使用して製造される請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項7】
前記試験が、(a)RT-PCR;(b)RT-PCR及びnested PCR;(c)定量RT-PCR;又は、(d)抗体をベースとした検出技術を含む、請求項6に記載の細胞株。
【請求項8】
前記抗ウイルス化合物がヌクレオシド類似体である、請求項6又は7に記載の細胞株。
【請求項9】
前記ヌクレオシド類似体が、リバビリン、6-アザウリジン、ビダラビン、アシクロビル、9-/3-D-アラビノフラノシルアデニン(Ara-A)、シトシンアラビノース、アデニンアラビノシド及びグアニン7-N-オキシド(g-7-Ox)の少なくとも1つを含む、請求項8に記載の細胞株。
【請求項10】
前記ヌクレオシド類似体が6-アザウリジンである、請求項9に記載の細胞株。
【請求項11】
前記単離工程が限界希釈を含み;前記抗ウイルス化合物が6-アザウリジンであり;前記試験が(a)RT-PCR又は(b)RT-PCR及びnested PCRを含む、請求項6~10のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項12】
Sf-ラブドウイルスの存在について試験するための、請求項1~11のいずれか一項に記載の細胞株の使用。
【請求項13】
組換えタンパク質又は生物製剤の生産における、請求項1~11のいずれか一項に記載の細胞株の使用。
【請求項14】
前記生物製剤がバキュロウイルス-昆虫細胞系である、請求項13の使用。
【請求項15】
生産において、バキュロウイルス-昆虫細胞系が利用される、請求項13の使用。
【請求項16】
前記組換えタンパク質がマルチサブユニットタンパク質複合体である、請求項13又は15に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照] 本出願は、2015年11月1日に出願された米国仮出願第62/249,288号の利益を主張するものであり、その内容全体を参照により本願明細書に援用する。[連邦予算による研究に関する宣言]
【0002】
この研究は、一部、国立衛生研究所助成金NIH R43 GM102982及びNIH R43 AI112118の下で政府の支援を受けて実施された。米国政府は、本願において請求された発明に一定の権利を有する場合がある。
【0003】
本願発明は、広く、汚染ウイルスフリーの継代細胞株に関するものである。本願発明はまた、ウイルスに汚染した細胞又は生物からウイルスフリーの細胞株を得るための方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0004】
インビトロで増殖させた細胞は、初代細胞、又は樹立細胞株とも呼ばれる継代細胞株のどちらかとして大きく分類することができる。初代細胞は、器官又は組織を生物から単離し、それをバラバラにして個々の細胞の混合物を作製することによって得ることができる。初代細胞は、培養して増殖する場合、限られた回数だけ分裂した後、その増殖能力を失うが、これは老化として知られる遺伝的に決定された事象である。しかし、いくつかの細胞は形質転換と呼ばれる過程を経て、無限に分裂する能力を獲得する。これらの細胞は、形質転換細胞又は継代細胞と呼ばれる。これら細胞が由来する組織や器官で自然に存在する細胞と比較すると、継代細胞株は、典型的には、異数性(aneuploidy)又は異数性(heteroploidy)などの遺伝的異常を有し、初代細胞でしばしば見られる接触阻害及び足場依存性を欠いている。
【0005】
この何年もの間、生物学的生産で使われる培養細胞がウイルスによって汚染していることが繰り返し発見されてきている。例えば、1960年代初めに、初代アカゲザル腎臓(RMK)細胞で産生したアデノウイルスワクチンとポリオウイルスワクチンが、シミアンウイルス40(SV40)に汚染していることが発見された。続いて、SV40がハムスターにおいて腫瘍を引き起こし、SV40に対する抗体が、初代RMK細胞において産生された不活化ポリオワクチンの接種を受けた人々において検出された。1970年代には、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹及びポリオの生ワクチンのいくつかのロットが、バクテリオファージとして知られる細菌ウイルスに汚染していることが発見された。ニワトリ胚線維芽細胞で産生された黄熱病、麻疹、流行性耳下腺炎の弱毒化ワクチンにおいて、トリ白血病ウイルス(ALV)及び内因性鳥類ウイルス(AEV)が検出された。ワクチン関連ALV及びAEVの由来源は、ニワトリゲノムに組み込まれた内因性レトロウイルスであると考えられた。更に最近、ロタウイルスワクチンのいくつかのロットが感染性ブタサーコウイルス1(PCV-1)に汚染していることが判明した。
【0006】
1980年代初めにピアレビューされた文献の中で最初に記載されて以来、バキュロウイルス-昆虫細胞系(BICS)は、広く知られ、よく利用される組換えタンパク質生産のプラットフォームとなっている。前記BICSの利点には、柔軟性、スピード、簡便さ、真核生物様のタンパク質プロセッシング能力、及びマルチサブユニットタンパク質複合体を産生する能力がある。約30年近くにわたり、前記BICSは、主に学術及び産業の研究室で、基礎研究のための組換えタンパク質の産生に使用されてきた。しかし、最近では、前記BICSは、ヒトでの使用が認可されたいくつかの生物製剤(CERVARIX(登録商標)、PROVENGE(登録商標)、GLYBERA(登録商標)及びFLUBLOK(登録商標))又は獣医科の医薬品(PORCILIS(登録商標)PESTI、BAYOVAC CSFE2(登録商標)、CIRCUMVENT(登録商標)PCV、INGELVAC CIRCOFLEX(登録商標)及びPORCILIS(登録商標)PCV)の製造に使用され、真の商業生産プラットフォームとして世の中に知られるようになった。更に、前記BICSは、ヒト臨床試験の様々な段階にある、ノロウイルス、パルボウイルス、エボラウイルス、呼吸器合胞体ウイルス及びE型肝炎ウイルスワクチン候補品を含むいくつかの他の生物製剤の製造に使用されてきている。
【0007】
前記BICSで宿主として最も一般的に使用される昆虫細胞株は、イラクサギンウワバ(cabbage looper, Trichoplusia ni(Tn))、又はツマジロクサヨトウ(fall armyworm, Spodoptera frugiperda(Sf))由来であり、前記BICSで製造されたほとんどの生物製剤は後者を用いて生産される。最初のSf細胞株は、IPLB-SF-21と名付けられたが、Sf-21としても知られ、1977年に蛹卵巣から得られた。他の一般的に使用されるSf細胞株には、Sf9(IPLB-SF-21のサブクローン)、及び、EXPRESSF+(登録商標)としても知られるSuper 9やSf900+などのSf9の娘サブクローンが含まれる。TN-368と称された最初のTn細胞株は、1970年にHinkによって報告されたように、新しく発生した処女雌蛾から単離された卵巣組織から得られた。他の一般的に使用されるTn細胞株には、BTI-Tn-5B1-4(HIGHFIVE(登録商標)として商業化されている)及びTniPRO細胞を含む。
【0008】
2007年に、日本及びニュージーランドの科学者のグループが、BTI-Tn-5B1-4細胞が、本願明細書中で「Tn-ノダウイルス」と称する新規のノダウイルス(Li et al., J. Virol. 81:10890-96)に汚染していることを発見した。本願発明者らはこの発見を、TN-368、BTI-Tn-5B1-4及びTniPROを含む全ての本願発明者らの研究室にあるTn細胞株がこのウイルスに汚染していることが判明した際に正しいと確認し、報告した。続いて、2014年に米国FDAの生物製剤研究評価センター(CBER)の科学者は、2つの信頼できる商業ソースから得たSf-21細胞とSf9細胞を含めて、評価したSf細胞株のすべてが、Sf-ラブドウイルス(Ma et al., J. Virol. 88:6576-85,2014)として今や知られるラブドウイルスに汚染していることを発見した。これとは独立に、タケダワクチン株式会社(Takeda Vaccines, Inc.)の研究グループも、ノロウイルスワクチンの候補品(タケダワクチン株式会社(Takeda Vaccines, Inc.)、米国特許出願公開第2016/0244487号明細書;PCT/US14/59060)の生産に使われるSf9細胞にSf-ラブドウイルスが存在することを確認した。更に、Sf-21、Sf9、EXPRESSF+(登録商標)など、さまざまなソースから入手した本願発明者らの研究室にあるSf細胞株がすべてこのウイルスに汚染していることがわかった。
【0009】
ウイルスに汚染していない細胞株が必要とされている。そして、永続的に感染しているか、又は内因性ウイルスを含むウイルス感染細胞株又は生物から得られるウイルスフリーの細胞株を作製する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明は、ウイルスに感染した細胞又は生物に由来して樹立された細胞株であって、関連する細胞機能を保持しつつウイルスが存在しないことを特徴とする細胞株を目的としている。そのような樹立細胞株は、ヒト及び獣医科で使用されるワクチン、組換えタンパク質及び生物製剤を生産するのに使われる生物学的プラットフォームの構成要素(例えばBICS)として特に有用である。本願発明はまた、ウイルスに汚染した細胞又はウイルスに汚染した生物(限定するものではないが、例えば、永続的な感染又は内因性ウイルスによる)からウイルスフリーの樹立細胞株を得る方法も目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの例示する実施形態によれば、樹立された昆虫細胞株は、ツマジロクサヨトウの幼虫(fall armyworm, Spodoptera frugiperda)から直接的又は間接的に得られる。この細胞株は、Sf9細胞株及び前記Sf9細胞株の由来源であるツマジロクサヨトウの幼虫(fall armyworm)とは異なり、Sf-ラブドウイルスが存在しないことを特徴とする。前記Sf9細胞株と比較した場合、この例示する樹立細胞株の細胞は、培養物において同じ又は非常に類似した細胞密度まで増殖し、同じ又は非常に類似した細胞直径(サイズ)を有し、同じ又は非常に類似した倍加時間(成長速度)を有し、かつ、類似したN-グリコシル化パターンを生じる。この新規樹立細胞株の細胞は、AcP(-)p6.9hEPO又はAcP(-)p6.9hSEAPで、より感染性が高い組換えバキュロウイルス粒子を産生し、Sf-ラブドウイルスに汚染していない点で、Sf9細胞と機能的に異なる。この新規樹立細胞株は、Sf9細胞の由来源であるツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)及びSf-21細胞と構造的に(遺伝的に)異なることを更に特徴とする。
【0012】
特定の細胞株の実施形態によれば、ウイルスが存在しないことを特徴とする例示する樹立細胞株は、ウイルスに汚染した生物、又はウイルスに汚染した細胞に由来する。ある実施形態では、前記細胞株は、ウイルスに汚染したイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)細胞に由来する。ある実施形態では、前記イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)細胞株はTN-368細胞株である。ある実施形態では、前記ウイルスはアルファノダウイルスである。ある実施形態によれば、前記細胞株とTN-368細胞とを同じ条件で培養をする場合、細胞密度、平均細胞直径、形態及びN-グリコシル化パターンが前記TN-368細胞と同じ又は実質的に同じであることを更に特徴とする細胞株である。
【0013】
別の例示する樹立細胞株の実施形態によれば、昆虫細胞株は、イラクサギンウワバの幼虫(cabbage looper, Trichoplusia ni)から直接的又は間接的に得られる。この細胞株は、TN-368細胞とは異なり、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)由来のノダウイルスが存在していないことを特徴とする。前記TN-368細胞株と比較した場合、この例示する樹立細胞株の細胞は、培養物において同じ又は非常に類似した細胞密度まで増殖し、同じ又は非常に類似した細胞直径(サイズ)を有し、類似したN-グリコシル化パターンを生じる。
【0014】
ウイルスに汚染した生物又はウイルスに汚染した細胞に由来するウイルスフリーの細胞株を得るための例示する方法によれば、以下の工程を含む:ウイルスに汚染した生物又はウイルスに汚染した細胞から細胞を単離する工程;単離した細胞を抗ウイルス化合物を含む細胞培養培地と混合して第1の培養組成物を作製する工程;前記細胞が増殖及び分裂するのに適した条件下で前記第1の培養組成物をインキュベートし、それにより多数の細胞を生成する工程;前記多数の細胞又は細胞培養培地の一部を除去し、ウイルスの存在又は非存在について試験する工程;前記多数の細胞の少なくともいくつかを抗ウイルス化合物を含まない細胞培養培地と混合して第2の培養組成物を作製する工程;前記細胞が増殖及び分裂するのに適した条件下で前記第2の培養組成物をインキュベートし、それによってウイルスフリーの細胞株を得る工程。
【0015】
ある例示する方法によれば、樹立細胞株は、ウイルスに感染した初代細胞、ウイルスに汚染した細胞株、又はウイルスに汚染した生物から、単一細胞又は少数の細胞を単離することによって得られる。単離した細胞を、抗ウイルス化合物を含む細胞培養培地と混合して、第1の培
養組成物を作製する。前記第1の培養組成物を、細胞が増殖及び分裂することができる条件下でインキュベートし、それにより多数の細胞を生成する。培養培地を、抗ウイルス化合物を含有する新しい培養培地と定期的に交換する。前記第1の培養組成物から得られた少数の細胞又は前記第1の培養組成物から得られた多量の培養培地について、ウイルスの存在又は非存在を試験する。ウイルスの核酸が検出されない場合、前記第1の培養組成物由来の細胞の少なくとも一部を、抗ウイルス化合物を含まない培地と混合して、第2の培養組成物を作製する。前記第2の培養組成物を、細胞が増殖及び分裂できる条件下で培養し、その培養培地を新しい培養培地と定期的に交換する。ある実施形態では、前記細胞は増殖し続けるので、細胞の数は増加し、細胞を定期的に分けるときなど(継代としても知られる)、1つの増殖容器から複数の容器に細胞を拡げる。ある実施形態では、少なくとも1つの増殖容器からの細胞又は培養培地のサンプルについて、ウイルス核酸が存在するか、あるいは存在しないかをウイルスの存在指標として試験する。細胞の数が十分な量に達したら、細胞の一部を、既知の方法を用いて凍結又は保存することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本願発明のこれら及び他の特徴並びに利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲及び添付図面を考慮して、よりよく理解されるであろう。当業者は、以下に記載される図面は、説明の目的のみのものであり、開示した発明の範囲を決して限定するものではないことを理解するであろう。
【0017】
図1】抗ウイルス薬で処理したポリクローナルSf9細胞におけるSf-ラブドウイルス。 ポリクローナルSf9細胞集団を、種々の濃度のリバビリン(図1A及び1B)、又はリバビリン、6-アザウリジン及びビダラビン(図1C)で約1ヶ月間処理した後、全RNAを抽出し、Sf-ラブドウイルスRNAの存在・非存在を、実施例4に記載するようにRT-PCRにより試験した。図1A及び1Cに示す結果は、抗ウイルス薬の存在下で常に培養していた細胞由来のRNAを用いて得た。一方、図1Bに示す結果は、実施例2に記載するように、リバビリンで最初処理し、その後、抗ウイルス薬の非存在下で12回継代した細胞からのRNAを用いて得た。Sf9細胞又はキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)S2R+細胞(図1A-1C、図2A-2B、図3A-3CでのS2)から抽出した全RNAをそれぞれ陽性対照及び陰性対照として使用した。追加の陰性対照反応をテンプレートなし(H2O)で行った。「M」と記したレーンは、100-bpマーカーを示し、代表的なサイズを選んで左側に示している。
図2】単離し、抗ウイルス薬で処理したSf9細胞サブクローン中のSf-ラブドウイルス。 限界希釈によって単一のSf9細胞サブクローンを単離し、種々の抗ウイルス薬で約1ヶ月間処理した。その後、実施例4に記載するように、個々のクローンから全RNAを抽出し、RT-PCR(図2A)又はRT-PCRを行った後にネステッドPCR(nested PCR)を行うことにより(図2B)、Sf-ラブドウイルスRNAの存在・非存在を試験した。図2Aと2Bで示したすべての結果は、抗ウイルス薬を常に存在させて培養した細胞からのRNAを用いて得た。陽性対照並びに陰性対照及び100-bpマーカーは、図1Aから1Cについての図面の簡単な説明に記載した通りとした。
図3】Sf-RVN細胞にSf-ラブドウイルスが存在しないこと。 実施例4で記載するように、「Sf-RVN細胞」と呼ぶ例示する細胞株から、種々の継代レベルで、全RNAを単離し、Sf-ラブドウイルス特異的RT-PCRを行った後にnested PCRを行うことで、Sf-ラブドウイルスの存在についてアッセイした。この例示する細胞株は、図2BにあるようにSf-ラブドウイルス汚染に関して陰性であることがわかっている6-アザウリジン処理Sf9サブクローンを増殖させることによって生成されたものである。前記Sf-ラブドウイルス特異的RT-PCR/nested PCRの結果によれば、Sf-RVN細胞には60継代及び120継代までを通じてSf-ラブドウイルスは存在しないことが示された(それぞれ図3A及び3B)。本願発明者らはまた60継代目のSf-RVN細胞の無細胞培地(CFM)を超遠心分離して得られたペレット画分から全RNAを単離した。このCFMペレットからの全RNAをSf-ラブドウイルス特異的RT-PCR/nested PCRによって、Sf-ラブドウイルスの存在・非存在についてアッセイした。図3Cに示すように、Sf9細胞から単離したRNAに対応するレーン、及びSf9無細胞培地ペレットから単離したRNAに対応するレーンで、Sf-ラブドウイルスのアンプリコンが観察された(図3C、それぞれレーンSf9及びSf9CFM)。対照的に、Sf-ラブドウイルスのアンプリコンは、Sf-RVN無細胞培地ペレットから単離されたRNAでは検出されなかった(図3C、レーンSf-RVNCFM)。図3Aから3Cに示す全ての結果は、抗ウイルス薬の非存在下で培養した細胞からのRNAを用いて得た。Sf9細胞から抽出したRNA、及びSf9CFMを超遠心分離して得たペレットからのRNAを陽性対照として用いた。そしてS2R+細胞(S2)から抽出したRNAを陰性対照として使用した。追加の陰性対照反応をテンプレートなし(H2O)で行い、Mでマークしたレーンは100-bpマーカーを示し、その中から選択したサイズを左側に示した。
図4】マイコプラズマアッセイ。 実施例6で記載するように、PCRをベースとしたユニバーサルマイコプラズマ検出キット(アメリカ培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection))を用いて、Sf-RVN細胞及びSf9細胞抽出物(-)をマイコプラズマ汚染についてアッセイした。M. argininiのrRNA標的配列をコードするプラスミドを陽性対照(図4、レーン「M. arginini」)として使用した。このプラスミドでスパイクしたSf-RVN細胞及びSf9細胞溶解物(図4、それぞれSf-RVN(+)及びSf9(+)と標識したレーン)を用いてさらなる対照実験を実施し、この溶解物が前記アッセイを妨害したかどうかを判断した。テンプレートなしで陰性対照反応を行った(図4、レーンH2O)。Mと記されたレーンは100-bpマーカーを示し、その中から選択したサイズを左側に示した。
図5】ツマジロクサヨトウ(Spodoptera)細胞の増殖と形態。 Sf-RVN細胞及びSf9細胞を、ESF921培地中1.0×106細胞/mLの密度で振盪フラスコに播種した。播種した後の様々な時点において3連サンプルを採取し、実施例7に記載するように、自動細胞計数器を用いて生存細胞数及び直径を測定した。図は3回の独立した実験で測定した平均生細胞密度(図5A)、直径(図5B)及び倍加時間(図5C)を示す。同じく、図はSf-RVN細胞及びSf9細胞の10倍の倍率の位相差顕微鏡写真(図5D)を示す。エラーバーは信頼区間を表す(P<0.05)。
図6】バキュロウイルス感染後の細胞生存率。 Sf-RVN細胞及びSf9細胞を、0.1pfu/細胞(図6A)又は5pfu/細胞(図6B)のMOIで、Sf-ラブドウイルスフリーのストックのAcP(-)p6.9hSEAPに感染させた。感染後の様々な時点において3連サンプルを採取し、実施例7に記載するように自動細胞カウンターを用いて生存率を測定した。プロットは2回の独立した実験で測定した平均生存率を示す。エラーバーは信頼区間を表す(P<0.05)。
図7】組換えβ-galの産生。 Sf-RVN細胞及びSf9細胞を、5pfu/細胞のMOIでSf-ラブドウイルスフリーのストックのBacPAK6-ΔChi/Cathに感染させた。実施例9に記載するように、感染後の様々な時点において3連サンプルを採取し、清澄化した細胞内抽出物についてβ-gal活性をアッセイした(図7A)。このプロットは平均の結果を示し、エラーバーは信頼区間(P<0.05)を表す。1セットの抽出物を使用してイムノブロッティング分析(図7B)を行い、抗体と反応したバンドの相対的な濃さを評価する走査レーザーデンシトメトリー(図7C)と併せることによって、全細胞内でのβ-galの産生レベルも測定した。この実験を2回独立して繰り返し取得した生物サンプルにおいて、同じ一般的傾向が観察された。
図8】組換えhSEAPの産生 Sf-RVN細胞及びSf9細胞を、0.1pfu/細胞(図8A、8B及び8C)又は5pfu/細胞(図8D、8E及び8F)のMOIでSf-ラブドウイルスフリーのストックのAcP(-)p6.9hSEAPに感染させた。実施例9に記載するように、感染後の様々な時間において3連サンプルを採取し、無細胞培地を調製し、hSEAP活性についてアッセイし、その平均結果を信頼区間を表すエラーバーとともにプロットした(P<0.05;図8A及び8D)。1セットの無細胞培地を使用してイムノブロッティング分析(図8B及び8E)を行い、抗体と反応したバンドの相対的な濃さを評価する走査レーザーデンシトメトリー(図8C及び8F)と併せることによって、全細胞外のhSEAPの産生レベルも測定した。
図9】組換えhEPOの産生。 Sf-RVN細胞及びSf9細胞を、5pfu/細胞のMOIでSf-ラブドウイルスフリーのストックのAcP(-)p6.9hEPOに感染させた。実施例9に記載するように、感染後の様々な時間にサンプルを採取し、無細胞の培地を調製し、イムノブロッティング分析(図9A)行い、抗体と反応したバンドの相対的な濃さを評価する走査レーザーデンシトメトリー(図9B)と併せることによって、全細胞外のhEPOの産生レベルをアッセイした。
図10】N-グリコシル化プロファイル。 Sf-RVN細胞及びSf9細胞を、3pfu/細胞のMOIでSf-ラブドウイルスフリーのストックのAcP(-)p6.9hSEAPに感染させた。そして実施例10に記載するように、無細胞の培地からhEPO-Hisをアフィニティ精製した。N-グリカンを酵素的に切り離し、回収し、パーメチル化し、[M+Na]+が割り当てられた構造として分子イオンを検出する既知の方法に従ってMALDI-TOF-MSによる分析を行い(図10A)、一般的な模式図による象徴表現を使用して注釈を付け、単純化のために番号を付け、全体のパーセンテージとして示した(図10B)。
図11】組換えバキュロウイルスの産生。 Sf-RVN細胞及びSf9細胞を、Sf-ラブドウイルスフリーのストックのAcP(-)p6.9hSEAP又はAcP(-)p6.9hEPOに感染させた。実施例11に記載するように、得られた後代ウイルスを採取し、プラークアッセイによって力価を測定した。結果を3回の独立した実験で得られた平均ウイルス力価としてプロットし、信頼区間を表すエラーバーを’*’(P<0.05)又は'**'(P<0.001)のように図示した。
図12】Sf-RVN細胞のSf-ラブドウイルス感染。 実施例13に記載するように、Sf-RVN細胞を偽感染、又はSf9細胞由来の無細胞培地で感染させた後、実施例4に記載するように、全RNAを抽出し、RT-PCRによりSf-ラブドウイルスの存在・非存在についてアッセイした。レーンには以下のように印をつけた:Mは塩基対マーカーを含む;Sf9は、Sf9細胞RNAから増幅したものを含む;Mockは、細胞を「擬感染させた」後に得られたSf-RVN細胞RNAから増幅したものを含む;P0(24)及び(72)は、それぞれ、細胞をSf-ラブドウイルスに24時間及び72時間感染させた後に得られたSf-RVN細胞RNAから増幅したものを含む;P1(72)、P2(72)及びP3(72)は、それぞれ、Sf-ラブドウイルスに感染させた後に、1回、2回又は3回と細胞を継代し、72時間後に得られたSf-RVN細胞RNAから増幅したものを含む;S2は、S2R+細胞RNAから増幅したものを含む;H2Oは蒸留水を含む。
図13】抗ウイルス薬で処理したポリクローナルTN-368細胞におけるTn-ノダウイルス。 ポリクローナルTN-368細胞集団を、様々な濃度の3種類の抗ウイルス薬カクテル(リバビリン、6-アザウリジン及びビダラビン)で、15日間処理した。実施例16に記載するように、これらの薬剤の存在下で常に培養した細胞から全RNAを抽出し、RT-PCRによりTn-ノダウイルスRNAセグメント1(図13A)又は2(図13B)の存在・非存在をアッセイした。TN-368細胞又はSf9細胞から抽出した全RNAをそれぞれ陽性対照又は陰性対照とした。追加の陰性対照反応をテンプレート無し(H2O)で行った。「M」と記したレーンは、100-bpマーカーを示し、その中から選択したサイズを左側に示した。
図14】リバビリン処理TN-368細胞サブクローンにはTn-ノダウイルスが存在しない。 200μg/mLのリバビリンで1ヶ月処理した6つの単一細胞TN-368サブクローンから全RNAを単離した。次いで、実施例16に記載するように、Tn-ノダウイルスRNAセグメント1について、RT-PCR(図14A)又はRT-PCRを行った後にnested PCR(図14B)を行うことによってサンプルをアッセイした。TN-368細胞又はSf9細胞から抽出した全RNAをそれぞれ陽性対照又は陰性対照として用いた。「M」と記したレーンは、100-bpマーカーを示し、その中から選択したサイズを左側に示した。
図15】Tn-NVN細胞にはTn-ノダウイルスが存在しない。 実施例16に記載するように、抗ウイルス剤の非存在下で種々の継代数で培養し、「Tn-NVN細胞」と呼ぶ例示する細胞株から全RNAを単離して、Tn-ノダウイルスセグメント1(図15A)又はセグメント2(図15B)に対する特異的なプライマーを使って、RT-PCRを行った後にnested PCRを行うことによりTn-ノダウイルスの存在をアッセイした。Tn-NVN細胞と呼ぶこの例示する細胞株は、リバビリン処理されたTN-368細胞クローン(Cl#3)を増殖させることによって作製されたが、これはTn-ノダウイルス汚染について陰性であることが判明した(図15Aから15C)。Tn-ノダウイルス特異的なRT-PCRを行った後にnested PCRを行った結果によれば、継代55代後のTn-NVN細胞にはTn-ノダウイルスが存在しないことが示された(図15A及び15B)。本願発明者らはまた、実施例16で記載するように、継代55代目のTn-NVN細胞のCFMを超遠心分離して得たペレット画分から全RNAを単離し、これを使用してTn-ノダウイルス特異的なRT-PCRを行った後にnested PCRを行うことでTn-ノダウイルスの存在・非存在をアッセイした。図15Cに示すように、TN-368細胞から単離したRNA及びTN-368無細胞培地ペレットから単離したRNAに対応するレーンでTn-ノダウイルスのアンプリコンが観察された(図15C、それぞれレーンTN-368及びTN-368CFM)。対照的に、Tn-ノダウイルスのアンプリコンは、Tn-NVN無細胞培地ペレットから単離したRNAでは検出されなかった。繰り返して記載するが、図15Aから15Cに示した結果は、抗ウイルス薬の非存在下で培養した細胞由来のRNAを用いて得たものである。TN-368細胞から抽出したRNA及びTN-368無細胞培地(CFM)を超遠心分離して得たペレットからのRNAを陽性対照として用い、Sf9細胞から抽出したRNAを陰性対照として用いた。追加の陰性対照反応をテンプレート無し(H2O)で行い、「M」と記したレーンは、100-bpマーカーを示し、その中から選択したサイズを左側に示した。
図16】マイコプラズマアッセイ。 実施例6及び18に記載するように、PCRをベースとしたユニバーサルマイコプラズマ検出キット(アメリカ培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection))を用いて、Tn-NVN細胞及びTN-368細胞抽出物(-)を、マイコプラズマ汚染についてアッセイした。M. arginini rRNA標的配列をコードするプラスミドを陽性対照として使用した(図16、レーン「M.argini」)。このプラスミドをスパイクしたTn-NVN細胞及びTN-368細胞溶解物を用いて追加対照実験を実施して(図16、それぞれレーンTn-NVN(+)及びTN-368(+))、この溶解物が前記アッセイを妨害したかどうかを判断した。テンプレート無し(H2O)で陰性対照反応を行った。「M」と記したレーンは、100-bpマーカーを示し、その中から選択したサイズを左側に示した。
図17】細胞の増殖及び形態。 Tn-NVN細胞及びTN-368細胞を、ESF921培地中1.0×106細胞/mLの密度で振盪フラスコに播種した。実施例7及び19に記載するように、播種後様々な時点において3連サンプルを採取し、自動細胞計数器を用いて生細胞数及び直径を測定した。3回の独立した実験において測定された平均生存細胞密度(図17A)及び直径(図17B)を図で示す。同じく、Tn-NVN細胞及びTN-368細胞の10倍の倍率の位相差顕微鏡写真(図17C)を図で示す。エラーバーは信頼区間を表す(P<0.05)。
図18】組換えβ-galの産生。 Tn-NVN細胞及びTN-368細胞を、5pfu/細胞のMOIでTn-ノダウイルスフリーのストックのBacPAK6-ΔChi/Cathに感染させた。実施例9及び20に記載するように、感染後の様々な時間において3連サンプルを採取し、清澄化した細胞内抽出物についてβ-gal活性をアッセイした(図18A)。このプロットは平均結果を示し、エラーバーは信頼区間(P<0.05)を表す。1セットの抽出物を使用してイムノブロッティング分析(図18B)を行い、抗体と反応したバンドの相対的な濃さを評価する走査レーザーデンシトメトリー(図18C)と併せることによって、全細胞内β-gal産生レベルも測定した。この実験を2回独立して繰り返し取得した生物サンプルにおいて、同じ一般的傾向が観察された。
図19】組換えhSEAPの産生。 Tn-NVN細胞及びTN-368細胞を、5pfu/細胞のMOIでTn-ノダウイルスフリーのストックのAcP(-)p6.9hSEAPに感染させた。実施例9及び20に記載するように、感染後の様々な時間において3連サンプルを採取し、無細胞培地を調製し、hSEAP活性についてアッセイした。その平均結果は信頼区間を表すエラーバーとともにプロットした(P<0.05;図19A)。1セットの無細胞培地を使用してイムノブロッティング分析(図19B)を行い、抗体と反応したバンドの相対的な濃さを評価する走査レーザーデンシトメトリー(図19C)と併せることによって、全細胞外hSEAP産生レベルも測定した。
図20】組換えhEPOの産生。 Tn-NVN細胞及びTN-368細胞を、5pfu/細胞のMOIでTn-ノダウイルスフリーのストックのAcP(-)p6.9hEPOに感染させた。実施例9及び20に記載するように、感染後の様々な時間にサンプルを採取し、無細胞の培地を調製し、イムノブロッティング分析(図20A)を行い、抗体と反応したバンドの相対的な濃さを評価する走査レーザーデンシトメトリー(図20B)と併せることによって、全細胞外hEPO産生レベルをアッセイした。
図21】N-グリコシル化プロファイル。 実施例10及び21に記載するように、Tn-NVN細胞及びTN-368細胞を、3pfu/細胞のMOIでTn-ノダウイルスフリーのストックのAcP(-)p6.9hEPOに感染させて、無細胞の培地からhEPO-Hisをアフィニティ精製した。N-グリカンを酵素的に切り離し、回収し、パーメチル化し、[M+Na]+が割り当てられた構造として分子イオンを検出する既知の方法に従ってMALDI-TOF-MSによる分析を行い(図21A)、一般的な模式図による象徴表現を使用して注釈を付け、単純化のために番号を付け、全体のパーセンテージとして示した(図21B)。
図22】BmN細胞におけるSf-ラブドウイルス。 実施例4に記載するように、鱗翅目の昆虫であるカイコガ(Bombyx mori)由来のBmN細胞株から全RNAを抽出した。次いで、実施例22に記載するように、サンプルについて、種々のSf-ラブドウイルスRNAs(N、P、M、G、X及びL)を、RT-PCRによってアッセイした。
【0018】
前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明の両方は、説明的かつ例示するものにすぎず、開示された本願発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。本願明細書で使用されるセクション見出しは、形式的な目的のみのためであり、開示された本願発明の主題を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0019】
上記発明の概要、発明の詳細な説明、添付した図面及び特許請求の範囲において、本願発明の特定の特徴(方法の工程を含む)について言及される。本願明細書における開示は、そのような特定の特徴の可能な組合せを含むことと理解されるべきである。限定するものではないが、例えば、特定の特徴が本願発明の特定の実施形態又は特定の請求項と関連して開示されている場合、可能な範囲で、他の特定の実施形態との組み合わせとして、及び/若しくは他の特定の実施形態との関連で、並びに本願発明の一般として、その特徴を利用することができる。
【0020】
2つ以上を組み合わせた工程を含む方法に言及する場合、定義された工程は、任意の順序で又は同時に実行してもよい(状況からその可能性が排除される場合を除く)。及び、前記方法は、いかなる定義された工程の前に、定義された2つの工程の間に、定義された工程全ての後に、実施する1つ又は複数の追加的な工程を含むことができる(状況からその可能性が排除される場合を除く)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[定義] 本願発明を説明する際に使用される用語「細胞株」は、1つ又はいくつかの共通の祖先細胞(これは限定するものではないが、例えば単一の単離細胞から増殖した細胞のクローン集団)から増殖していった細胞の1集団を意味する。「樹立細胞株」とは、新しい培養培地、増殖のための空間、及び適切な条件下でインキュベートした場合に無限に増殖する可能性を有する細胞株である。このような細胞株は、生体内に見出される自然に存在する対応細胞と比較すると、インビトロでの変化(限定するものではないが例えば、形質転換、染色体変化、又はその両方)を経ている。第1の細胞株から単一の細胞を単離し、第2の細胞株を得るために、この単離した細胞を増殖させて多数の細胞を得ること、によって得られる細胞株を、時には前記第1の細胞株の「サブクローン」と呼ぶ。細胞株はサブクローンに由来する。
【0022】
本願明細書で使用される場合、用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」又は「を特徴とする(characterized by)」と同義であり、それぞれの同語源語(例えば、含む(comrises)及び含む(includes))は包括的又は制限なしであり、記載されていない構成、要素あるいは方法工程が加わることを排除しない。すなわち他の構成、工程などが任意選択的に存在する。限定するものではないが、例えば、構成A、B及びCを含む物品とは、構成A、B及びCから成っていても良い(すなわち、これら成分のみを含む)し、又は前記物品は成分A、B及びCだけでなく、1つ又は複数の構成も追加して含んでいても良い。
【0023】
本願明細書で使用される場合、用語「由来する、得る(derived)」は、供給源から直接的又は間接的に得ることを意味する。例えば、細胞は、生物から組織又は器官を得て、次いで組織又は器官をバラバラにして初代細胞を得ることによって、生物から直接的に得ることができる。細胞を、生物から間接的に得ることもできる。これは、以下に限定するものではないが、例えば、単離物、典型的には前記生物から得られた細胞株から単離した単一細胞の単離物を得て、次いで前記単離物を増殖させて、サブクローンと時には呼ぶこともある、多数の細胞からなる細胞株を得ることである。
【0024】
用語「鱗翅目の昆虫」は、成虫が、通常は僅かに重なり、しばしば鮮やかな色の鱗粉に覆われた4枚の大きく、又はやり状の羽を有し、幼虫はイモ虫である、蝶、蛾及びセセリチョウを含む昆虫の大きな目(鱗翅目(Lepidoptera))のいずれかのメンバーを意味する。例示する鱗翅目の昆虫には、ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)、カイコガ(Bombyx mori)、Heliothis subflexa及びイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)が含まれるが、これらに限定されない。
【0025】
本願明細書で使用される場合、用語「実質的に(substantially)」は、指定された1つ又は複数の項目に対してプラス又はマイナス10パーセント以下の変動を指す。限定されるものではないが、例えば、前記細胞株及び前記Sf9細胞を同じ条件下で培養し、平均細胞直径が本願明細書で記載するものとして決まる場合、統計的に有意なサンプルサイズに基づいて、前記細胞株はSf9細胞の平均直径の90%と110%との間の平均細胞直径を有する。又は、前記細胞株及び前記Sf9細胞を同じ条件下で培養し、細胞密度が本願明細書で記載するものとして決まる場合、統計的に有意なサンプルサイズに基づいて、前記細胞株はSf9細胞の細胞密度の90%と110%との間の細胞密度を有する。
【0026】
用語「ウイルスの存在の試験(testing for thepresence of virus)」、「Sf-ラブドウイルスの存在の試験(testing for the presence of Sf-rhabdovirus)」、「Tn-ノダウイルスの存在の試験(testing for the presence of Tn-nodavirus)」、「
ウイルスの存在又は非存在の検出(detecting the presence or absence of virus)」及び関連する用語は、本願明細書では広い意味で使う。当業者は、本願発明との関係で使うことができる当業者に知られている様々な試験技術があることを理解する。ウイルスの存在を試験するのに適した例示する試験技術には、逆転写(RT)、RT-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、nested PCRと組み合わさったRT-PCR(限定するものではないが、例えば、実施例4、16及び22で開示される例示する技術が挙げられる)、定量PCR(リアルタイムPCRと呼ぶことがある)、様々なプローブハイブリダイゼーション技術、電子顕微鏡法、及び当業者に公知の様々な抗体をベースとした検出技術(限定するものではないが、例えば、少なくとも1つの抗ウイルス抗体を含むELISAアッセイ)、を含む。溶解性であるか、又は細胞内で観察可能な細胞変性効果(CPE)を引き起こすウイルスの場合、例示する試験技術は、限定するものではないが、プラークアッセイ及びCPEの観察(顕微鏡検査の使用を含む)を含む。バイオインフォマティクス技術(限定するものではないが、例えば、注目する細胞株又は生物が有するRNA又はDNAの配列の電子データベースを検索するBLASTなど)もまた、本願発明の範囲内にある。
【0027】
ある特定の実施形態によれば、ウイルスが存在しないことを特徴とする樹立細胞株とは、ウイルスに感染した生物に由来するものであり、限定するものではないが、例えばウイルスに汚染した生物由来のウイルスフリーの樹立細胞株がある。ある特定の実施形態では、前記細胞株は、ウイルスに汚染した昆虫に由来する。ある特定の実施形態では、前記昆虫としては、限定するものではないが、例えば、ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda (Sf))、カイコガ(Bombyx mori)、Heliothis subflexa、又はイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)といった鱗翅目の昆虫を含む。ある特定の実施形態では、前記細胞株は、Sf細胞株(限定するものではないが、例えばSf9細胞株又はSf-21細胞株)に由来する。ある特定の実施形態では、前記細胞株は、ウイルスに汚染したイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)、又はウイルスに汚染したイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)細胞株(限定するものではないが、例えば、アルファノダウイルスに汚染したTN-368細胞株)に由来する。
【0028】
ある特定の実施形態では、樹立細胞株は、当該細胞株が由来するウイルスに汚染した細胞と同じ又は実質的に同じ細胞密度、倍加時間、平均細胞直径、形態及びN-グリコシル化パターンを有することを特徴とするが、それは以下の場合である:すなわち、(1)ウイルスフリー細胞株及びウイルスが感染した細胞株を同じ条件下で増殖させた場合、(2)本願明細書に記載するように比較した場合、及び(3)統計学的に有意なサンプルサイズに基づいて比較した場合。ある特定の実施形態では、実施例11に従って、同じ条件下でAcP(-)p6.9hEPO又はAcP(-)p6.9hSEAPに感染させ、比較を行った場合、細胞株は、当該細胞株を得たウイルス感染細胞よりも感染性の高い組み換えバキュロウイルスを産生することを特徴とする。ある特定の実施形態では、本願発明の細胞株は、Sf-ラブドウイルス感染への感受性が高い。
【0029】
ウイルスが存在しない細胞株を得るためのある特定の例示する方法によれば、ウイルスに感染した細胞の集団(例えば、ウイルスに汚染した細胞株、又はウイルスに感染した組織又は器官をバラバラにしたものからの細胞、若しくはウイルスに感染した生物からの細胞)から1又は数個の細胞を単離する。単離した細胞を、第1の培養組成物を作製するために、1つ又は複数の抗ウイルス化合物を含有する適切な細胞培養培地と混合する。この第1の培養組成物を、細胞が増殖及び分裂するのに適した条件下、そして、1つ又は複数の抗ウイルス化合物がウイルス複製に影響を及ぼすのに十分な時間でインキュベートする。ある特定の方法の実施形態では、細胞又は培養培地の一部を培養物から取り出し、ウイルスの存在について試験する。ウイルスが存在しない細胞を、抗ウイルス化合物を含まない培養培地と混合して、第2の培養組成物を作製する。この第2の培養組成物を、細胞が増殖及び分裂することができる条件下でインキュベートする。前記細胞を増殖させて、当該細胞が由来する生物又は細胞を汚染していたウイルスが存在しない細胞株を得る。
【0030】
ある特定の実施形態では、ウイルスフリーの細胞株を得るための方法は以下の工程を含む:鱗翅目の昆虫細胞(限定するものではないが、例えばツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)細胞又はイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)細胞)の集団から単一の細胞を単離する工程;単離した細胞を、少なくとも1つの抗ウイルス化合物を含む細胞培養培地と組み合わせて、第1の培養組成物を作製する工程;細胞が増殖及び分裂するのに適した条件下で第1の培養組成物をインキュベートし、それにより多数の細胞を生成する工程;任意選択的に、細胞又は細胞培養培地の一部を採り、Sf-ラブドウイルス又はノダウイルスの存在について試験する工程;第1の培養組成物由来の多数の細胞の少なくともいくつかを抗ウイルス化合物を含まない細胞培養培地と混合して第2の培養組成物を作製する工程;及び細胞が増殖及び分裂するのに適した条件下で第2の培養組成物をインキュベートし、それによりウイルスが存在しないことを特徴とする細胞株を得る工程。
【0031】
ある特定の方法の実施形態によれば、ウイルス(限定するものではないが、例えば、Sf-ラブドウイルス又はTn-ノダウイルス)が存在しない樹立細胞株が得られる。ある特定の方法の実施形態では、個々の細胞、又は小さなグループの細胞(限定するものではないが、例えば、2つの細胞、3つの細胞、4つの細胞、5つの細胞、10個以下の細胞、又は20個以下の細胞(1から20までのすべての数字を含む))は、ウイルスに感染した細胞の集団から単離される。単一細胞又は少数の細胞を単離するための技術の非限定的な例には、限界希釈クローニング(連続希釈によるクローニングと呼ばれることもある)、細胞を軟寒天中でクローン化した後、細胞コロニーを拾うこと、単一又は少数の細胞を単離するセルソーティング、レーザー捕捉マイクロダイセクション(LCM)、個々もしくは少数の細胞を手動で捕捉するマイクロピペット(限定するものではないが、例えば、超薄毛細管)の使用、マイクロ流体技術、単一又は少数の細胞を選択することを顕微鏡的に支援するためのマイクロマニピュレーターの使用、が含まれる。ある特定の実施形態では、単一細胞を単離することには限界希釈クローニングが含まれる。
【0032】
ある特定の方法の実施形態では、単離された単一細胞又は小さな集団の細胞を、少なくとも1つの抗ウイルス化合物を含む細胞培養培地と混合して、第1の培養組成物を作製する。例示する抗ウイルス化合物には、限定するものではないが、ヌクレオシド類似体、インターフェロン及びウイルス特異的抗体(限定するものではないが、例えば、中和モノクローナル抗体又は中和ポリクローナル抗体)などの薬剤を含まれる。ヌクレオシド類似体の非限定的な例には、リバビリン、6-アズアウリジン、ビダラビン、アシクロビル、9-/3-D-アラビノフラノシルアデニン(Ara-A)、シトシンアラビノース、アデニンアラビノシド及びグアニン7-N-オキシド(G-7-Ox)が含まれる。ある特定の方法の実施形態において、少なくとも1つの抗ウイルス化合物は、6-アザウリジンを含む。ある特定の実施形態では、抗ウイルス化合物はリバビリン、6-アザウリジン、ビダラビン、アシクロビル、9-3-アラビノフラノシルアデニン(Ara-A)、シトシンアラビノース、アデニンアラビノシド及びグアニン7-N-オキシド(G-7-Ox)から選択される。ある特定の実施形態では、抗ウイルス化合物は6-アザウリジンである。ある特定の実施形態では、抗ウイルス化合物はリバビリンを含む。
【0033】
ある特定の方法の実施形態によれば、第1の培養組成物を、細胞増殖に適した条件下でインキュベートする。ある特定の開示された方法によれば、第1の培養組成物から得た細胞又は細胞培養上清を、ウイルスの存在又は非存在を確認する試験(限定するものではないが、例えば、RT-PCR、nested PCR、又はRT-PCRとnested PCRなど)に供し、得られたアンプリコンについて、ウイルス特異的増幅産物の有無を分析する。ある特定の方法の実施形態において、感染性ウイルスの存在又は非存在は、(a)ウイルスに感染した可能性がある細胞又は前記感染した可能性がある細胞をインキュベートした細胞培養上清、(b)前記感染した可能性があるとしたウイルスに感染することとなる細胞、及び(c)適切な細胞培養培地を混合し;(2)前記ウイルスが前記細胞に感染するのに適した条件下でこの培養物をインキュベートし;(3)培養した細胞又はそれら細胞を培養した培地にウイルス核酸が存在するかをモニターすること、により判断する。ある特定の実施形態では、前記細胞又は培養培地をウイルスの存在について定期的に試験する(限定するものではないが、例えば、ウイルス特異的RT-PCRを行った後にnested PCRを行い、その後、特定のアンプリコンの存在又は非存在を判断することによる)。
【0034】
ある特定の実施形態によれば、ウイルス複製を阻害するのに適した期間、単離された細胞を第1の培養組成物中でインキュベートし、前記対応する細胞又は培養培地のサンプルを試験し、ウイルスを含有しないことが判明した後、前記細胞を抗ウイルス化合物を含まない細胞培地と混合し、第2の培養組成物を作製する。前記第2の培養組成物を、細胞増殖に適した条件下でインキュベートする。ある特定の実施形態において、前記第2の培養組成物由来の細胞又は培地をウイルスの存在又は非存在について試験する。
【0035】
当業者であれば、様々な情報源(限定するものではないが、例えば、細胞培養マニュアル、商業的な細胞バンク、又は培養培地及び/又はプラスチック製品の供給業者など)から、特定の細胞株の増殖に適した条件を容易に確認できることを理解するであろう。適切な細胞培養条件はまた、当業者に知られた方法を用いて容易に決めることができる。
【0036】
ある特定の実施形態では、細胞株は、ウイルス(限定するものではないが、例えば、Sf-ラブドウイルス又はTn-ノダウイルス)で汚染した初代細胞に由来する。ある特定の実施形態では、細胞株は、ウイルス(限定するものではないが、例えば、Sf-ラブドウイルス又はTn-ノダウイルスなど)に感染した細胞株に由来する。ある特定の実施形態では、前記感染した細胞の集団は感染した細胞株の一部である。ある特定の実施形態では、前記感染細胞株は、感染生物(限定するものではないが、例えば、ウイルスに持続的に感染している蛾、イモ虫又は他の昆虫)から得られる。ある特定の実施形態では、前記細胞株は、ウイルスに感染した昆虫に由来する汚染細胞株(限定するものではないが、例えば、Sf-ラブドウイルスに感染したSf細胞株)から得られる。ある特定の実施形態では、前記細胞株は、Tn-ノダウイルスに汚染したイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)細胞株(限定するものではないが、例えば、TN-368、BTI-Tn-5B1-4(HIGH-FIVE(商標登録)としても知られる)又はTniPRO細胞)である。
【0037】
ある特定の開示された方法によれば、前記細胞又は前記細胞が増殖した培養培地をウイルスの存在又は非存在について試験する。ある特定の方法では、前記試験は、RT-PCR及びnested PCR;定量PCR;プローブハイブリダイゼーション技術;バイオインフォマティクス法(BLAST検索を含むがこれに限定されない);プラークアッセイ;CPE観察;又は抗体をベースとした検出方法、を含む。
【実施例
【0038】
(実施例1) 昆虫細胞培養。 Sf-ラブドウイルスに汚染していることが知られているSf9細胞を、ESF921培地(エクスプレッション・システムズ(Expression Systems)、ウッドランド(Woodland)、CA)中28℃で振盪フラスコ培養として規定通りに培養した。Tn-ノダウイルスに汚染していることが知られているTN-368細胞を、10%ウシ胎児血清
(アトランタ・バイオロジカルズ(Atlanta Biologicals, Inc.)、フローリーブランチ(Flowery Branch)、GA)と1%pluronicF-68(インビトロジェン(Invitrogen)、カールスバッド(Carlsbad)、CA)を添加したTN-MFH培地中28℃で付着培養として規定通りに培養した。
【0039】
(実施例2) 従来の方法では、ウイルスが存在しない樹立ツマジロクサヨトウ(S. frugiperda)細胞株を産生することができない。 Sf-ラブドウイルスフリーの由来株を単離するために本願発明者らが最初に努力したことには、10%(v/v)ウシ胎児血清(アトランタ・バイオロジカルズ(Atlanta Biologicals, Inc.)、フローリーブランチ(Flowery Branch)、GA)と種々の濃度のリバビリン(オキシケム・コーポレーション(Oxchem Corporation)、イルウインデール(Irwindale)、CA)を添加したTNM-FH培地中でポリクローナルSf9細胞集団を培養することが含まれていた。続いて、本願発明者らは、ポリクローナルSf9細胞集団を、種々の濃度の3種類の抗ウイルス薬(リバビリン、6-アザウリジン(アルファ・エイサー(Alfa Aesar)、ウォードヒル(Ward Hill)、MA)及びビダラビン(ティーシーアイ・アメリカ(TCI America)、ポートランド(Portland)、OR))で処理した。前記Sf9細胞を、これらの3つの薬物が添加された状態で、約1ヶ月間随時継代しながら培養し、サンプルを、実施例4に記載するように、RT-PCRによるSf-ラブドウイルス汚染の試験に規定通りに供した。100μg/mLのリバビリンで約1か月処理した後、本願発明者らはRT-PCRで検出可能なSf-ラブドウイルスを含まないSf9サブクローンを得た(図1A)。このSf-ラブドウイルスフリーのサブクローンを、10%(v/v)ウシ胎仔血清を添加したが抗ウイルス剤を添加していないTNM-FH培地に移し、実施例4に記載するように、RT-PCR/nested PCRにより再試験をした。本願発明者らが驚いたことに、これらの細胞を、抗ウイルス薬を欠く培養培地に移すと、それらはSf-ラブドウイルス陽性の表現型に戻った(図1B)。続いて、本願発明者らはポリクローナルSf9細胞集団を、3種類の抗ウイルス薬(リバビリン、6-アザウリジン及びビダラビン)の様々な濃度の組み合わせで処理した。再び、本願発明者らが驚いたことに、これらの3つの薬物で約1ヶ月間処理した細胞がSf-ラブドウイルスについて依然として陽性であることを発見した(図1C)。従って、これらの同じ抗ウイルス薬による処理によって、脊椎動物細胞でラブドウイルス汚染が無くなった以前の研究とは全く対照的に、このアプローチではSf9細胞からSf-ラブドウイルスを除去することができなかった。
【0040】
(実施例3) ウイルスが存在しないことを特徴とする樹立Sf細胞株を得るための例示する方法。 抗ウイルス薬で処理したポリクローナルSf9培養細胞が、薬剤フリー培地で増殖すると、Sf-ラブドウイルス陽性の表現型に戻ったことを発見した後、本願発明者らはウイルスに汚染した出発物質から樹立ウイルスフリー細胞株を得るための新規方法を開発した。この例示する実施形態には、限界希釈により単一のSf9細胞を単離し、次いでこの単離した細胞サブクローンを抗ウイルス薬で処理することが含まれている。10%(v/v)ウシ胎児血清(アトランタ・バイオロジカルズ(Atlanta Biologicals, Inc.)、フローリーブランチ(Flowery Branch)、GA)及び10μg/mLのリバビリン(オキシケムコーポレーション(Oxchem Corporation)、イルウインデール(Irwindale)、CA)又はビダラビン(ティーシーアイ・アメリカ(TCI America)、ポートランド(Portland)、OR))を添加したTNM-FH培地中、96ウェルプレートに前記細胞を播種した。前記細胞を、段々と大きな培養スケールになるよう随時増殖させながら約1ヶ月間培養し、25cm2フラスコレベルに達したら、実施例4に記載するように、サンプルをSf-ラブドウイルス汚染についてPCRにより試験した。Sf-ラブドウイルス汚染が無いクローン(図2B)を抗ウイルス薬を含まない培地に移し、Sf-RVN細胞継代ゼロ代目(P0)と称するとした。そして、P2で、無血清ESF921培地中の振盪フラスコ培養に移し、続いてこの培地と様式で培養した。
【0041】
(実施例4) Sf-ラブドウイルス特異的な逆転写PCR(RT-PCR)/nested PCR。 1×106個の細胞を含有するSf9及びSf-RVN細胞培養物のサンプルを採取し、細胞を低速遠心分離によってペレットとした。細胞を含まない上清を0.22μmフィルター(セルトリート・サイエンティフィック(CELLTREAT Scientific)、シャーリー(Shirley)、MA)で濾過し、次に131,000xg、22時間、4℃で超遠心分離した。製造業者のプロトコールに従って、RNASolv試薬(オメガ・バイオテック(OmegaBio-Tek, Inc.)、ノルクロス(Norcross)、GA)を用いて低速遠心による細胞ペレット及び高速遠心による無細胞ペレットの両方から全RNAを抽出した。次いで、前記RNAを定量し、これをテンプレートとして、ProtoScript II First Strand cDNA合成キット(ニューイングランド・バイオラボ(New England Biolabs)、イプスウィッチ(Ipswich)、MA)及び320-SP1(配列番号:9)と名付けたSf-ラブドウイルス特異的プライマーを用いて、製造業者のプロトコールに従ってcDNAを合成した。等量の各cDNA調製物を用いて、TaqDNAポリメラーゼ、ThermoPol反応バッファー(ニューイングランド・バイオラボ(New England Biolabs))、及びSf-ラブドウイルス特異的プライマーMono-1(配列番号:1)及びMono-2(配列番号:2)によるPCRを行った。この反応混合物を94℃で3分間インキュベートし、94℃で30秒、55℃で1分間、及び72℃で1分間のサイクルを35回行い、最後に72℃で10分間インキュベートした。それから、プライマーがネスト化したSf-ラブドウイルス特異的プライマーMono-1i(配列番号:7)及びMono-2i(配列番号:8)であることを除いては同じ条件の下で、各1次PCR(RT-PCR)産物の1μLを、2次PCR(RT-PCR/nested PCR)のテンプレートとして用いた。RT-PCR及びRT-PCRを行った後にnested PCRを行って得られた産物を、標準的方法に従ってアガロースゲル電気泳動とエチジウムブロマイド染色によって分析した。これらのアッセイに使用した各プライマーの配列を表1に示す
【0042】
【表1】
【0043】
(実施例5) 例示するSfサブクローン「Sf-RVN細胞」には、Sf-ラブドウイルスが存在しない。 実施例4に記載したように、種々の継代レベルにおけるSf-RVN細胞抽出物から全RNAを単離し、RT-PCR/nested PCRを用いてSf-ラブドウイルスの存在について試験した。予想されたように、このアッセイの陽性対照としてSf9細胞由来の全RNAを使用した場合、予想されたサイズの強い増幅産物が観察された(図3A、3B及び3C)。対照的に、本願発明者らが、本願発明者らの研究室にあるいずれの抗ウイルス薬も添加しないで、60代(図3A)又は120代(図3B)の連続継代の過程で5継代ごとにSf-RVN細胞から全RNAを単離して使用した場合、増幅産物は観察されなかった。本願発明者らは、Sf-ラブドウイルスの複製が行われないキイロショウジョウバエ(D. melanogaster)S2R+細胞から単離した全RNAの陰性対照においても、増幅産物を観察しなかった。本願発明者らは、Sf-ラブドウイルスのLタンパク質のコーディング配列の他の領域に由来する2つの他のSf-ラブドウイルス特異的プライマー対(Mono-3(配列番号:3)/Mono-4(配列番号:4)及びMono-5(配列番号:5)/Mono-6(配列番号:6);表1参照)を使用してSf9細胞から単離した全RNAについてのRT-PCRを行った場合、予想したサイズの強い増幅を観察したが、Sf-RVN細胞からの全RNAではこの増幅を観察しなかった(データ示さず)。最後に、本願発明者らは継代60代後に、Sf9無細胞培地を超遠心して得られたペレットから単離した全RNAについて、RT-PCR/nested PCRアッセイを行うと、予想されるサイズの強い増幅産物を観察したが、Sf-RVN無細胞培地を超遠心して得られたペレットから単離した全RNAではこの増幅を観察しなかった(図3C)。まとめると、これらの結果から、いずれの抗ウイルス薬も添加せずに120代継代を重ねたSf-RVN細胞又は無細胞培地には検出可能なSf-ラブドウイルスRNAは存在せず、これらの細胞がSf-ラブドウイルスフリーであることが示された。
【0044】
(実施例6) マイコプラズマ検出。 本願発明者らはまた、約105個のSf-RVN細胞又はSf9細胞を含むサンプルを、マイコプラズマの有無について、アメリカ培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection(マナサス(Manassas)、VA))のユニバーサルマイコプラズマ検出キット(マナサス(Manassas)、VA)を製造者のプロトコールに従って用いて、試験した。このPCRをベースとしたアッセイでは、60種類以上のマイコプラズマ、アコレプラズマ、スピロプラズマ及びウレアプラズマ種、細胞培養の汚染要因としてしばしば見出される8種を含めての16SrRNA遺伝子間で保存された配列に相補的なプライマーを使用する。図4に示す結果によれば、Sf9細胞とSf-RVN細胞のいずれも検出可能なほどにマイコプラズマに汚染されていないことが示された。コントロールテンプレートをスパイクした溶解物を用いて行ったPCRでは予想サイズのアンプリコンが観察されたため、PCR産物が存在しないのは、昆虫細胞溶解物による前記PCR反応の阻害によるものではなかった(図4)。
【0045】
(実施例7) 細胞増殖の特性、形態及び直径。 Sf-RVN細胞又はSf9細胞を、50mLの振盪フラスコ培養液中において、1.0x106細胞/mLの開始密度で播種し、3連サンプルを24時間毎に4日間採取し、COUNTESS(登録商標)自動細胞カウンター(サーモフィッシャー・サイエンティフィック(ThermoFisher Scientific, Inc.))を使用して、生存細胞密度及びサイズを測定した。倍加時間は以下の公式を用いて計算した:Td=T×Log2/Log(Q2/Q1)ここで、Td=倍加時間、T=最後の継代以後に経過した時間(時間)、Q1=細胞播種密度及びQ2=生存細胞数である。細胞形態は、Olympus FSX-100顕微鏡及びFSX-BSW画像ソフトウェア(オリンパス・ライフサイエンス・ソリューション(Olympus Life Sciences Solutions)、セントラルバレー(Center Valley)、ペンシルバニア(Pennsylvania))を用いて、10倍の倍率で位相差画像を収集することにより記録した。
【0046】
Sf-RVN細胞のいくつかの一般的な性質をSf9細胞のそれと比較するために、本願発明者らは、それら細胞の培養密度、直径、倍加時間、形態及びバキュロウイルス感染に応答したときの生存度を評価した。結果によれば、ESF-921培地中、平行振盪フラスコ培養物に播種した後、4日間にわたって、Sf-RVN細胞及びSf9細胞は実質上同一の平均密度となった(図5A)。この4日間という時間枠は、昆虫細胞株を規定通りに培養する際に継代間隔の期間として通常許容される2から3日の増殖期間を包含するものであった。これらの結果によれば、これらの細胞培養実験を通じて、Sf-RVN細胞及びSf9細胞の平均直径(図5B)、倍加時間(図5C)又は形態(図5D)に有意差がないことが明らかとなった。最後に、本願発明者らは、バキュロウイルス感染に応答したときのSf-RVN細胞及びSf9細胞の生存率に有意差がないことを見出したが、0.1(図6A)又は5(図6B)pfu/細胞のいずれの感染多重度での感染後4日間にわたり、Sf-RVN細胞及びSf9細胞の生存率を区別することができなかった。この実験を行った時間枠及び2つの異なるMOIは、それぞれ低MOI又は高MOIでバキュロウイルスワーキングストック又は組換えタンパク質を産生する際に、典型的に使用される条件を包含するものであった。全体として、これらの実験の結果によれば、この研究で調べたSf-RVN細胞及びSf9細胞の一般的な特性は、区別できないことが示された。
【0047】
(実施例8) バキュロウイルス発現ベクター。 完全長でタグを付けていない大腸菌β-ガラクトシダーゼ(β-gal)
をコードするBacPAK6-ΔChi/Cathと称するバキュロウイルス発現ベクターを2つの連続した工程で産生した。第1工程では、BacPAK6ウイルスDNAを、バキュロウイルスp6.9プロモーターの制御下で大腸菌β-グルクロニダーゼをコードするプラスミドで組み換えた。このプラスミドでは、AcMNPVのchiA遺伝子及びv-cath遺伝子の代わりに前記p6.9-β-グルクロニダーゼ遺伝子が挿入されており、野生型AcMNPVのフランキング配列内に埋め込まれている。所望の組換え体を、X-GlcA(アールピーアイ(RPICorp.)、マウントプロスペクト(Mount Prospect)、IL)の存在下でその青色プラークの表現型によって暫定的に同定した。組換え部位を、β-グルクロニダーゼ遺伝子配列及びAcMNPVgp64遺伝子の5'UTR配列(それぞれ前記転移プラスミドの内部配列及び外部配列に相当する)に特異的なプライマーを用いたPCRにより確認した。このウイルスを増幅し、ウイルスDNAを単離し、I-SceIで切断してβ-グルクロニダーゼ発現カセット全体を除去した。第2工程では、Sf9細胞をI-SceI切断ウイルスDNAでトランスフェクトした。得られた後代をX-GlcAの存在下でプラークアッセイをして分離し、最終的な組換えバキュロウイルスBacPAK6-ΔChi/Cathをその白色プラークの表現型によって同定した。
【0048】
AcP(-)p6.9hSEAP及びAcP(-)p6.9hEPOと称するとした組換えバキュロウイルス発現ベクターは、AcMNPVp6.9プロモーター及びミツバチプレプロメリチンシグナルペプチドの制御下で、それぞれ8X HISタグ化ヒト分泌型アルカリホスファターゼ(hSEAP)及びヒトエリスロポエチン(hEPO)をコードした。N末端TEVプロテアーゼ切断部位(ENLYFQG)を有する成熟SEAP及びEPO(それぞれGenbankNP_001623.3のアミノ酸23から511及びGenbank NP_000790.2のアミノ酸28から193)をコードする合成遺伝子は、OPTIMIZER(Puigbo et al.、2007)を使うことで、AcMNPVのコドン使用頻度(http://www.kazusa.or.jp)に適合させて、設計した。これらの配列を、Genscript(ピスカタウェイ(Piscataway)、NJ)により合成、クローニング、配列決定し、以前に報告されているように(Toth et al.、2011)、エラーのないクローンを用いて、Ac6.9GTとのインビトロ組換えにより組換えバキュロウイルス発現ベクターを作製した。
【0049】
標準的な方法を用いて、Sf9細胞で組換えバキュロウイルス発現ベクターを、プラーク精製、増幅、力価測定した。更に、この研究のために、Sf-ラブドウイルス及びTn-ノダウイルスフリーのストックを産生した。まず、Sf9細胞に各バキュロウイルスベクターのワーキングストックを感染させた後、標準的な方法でバキュロウイルスDNAを単離した。この方法には、プロテナーゼK、SDS及びRNaseAで処理し、続いてフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール抽出及びイソプロパノールによるDNA沈殿を行うことが含まれるが、これによりSf-ラブドウイルス及びTn-ノダウイルスが除去されるものと考えられる。得られたバキュロウイルスDNA調製物をSf-RVN細胞にトランスフェクションし、その後代細胞について、Sf9細胞の代わりにSf-RVN細胞をプラーク精製及び増幅のための宿主として使用した以外は同様に、プラーク精製、増幅及び力価測定を行った。この過程の中で、本願発明者らは、バキュロウイルスDNAをトランスフェクトしたSf-RVN細胞抽出物及びバキュロウイルス感染Sf-RVN細胞抽出物について、最終ワーキングウイルスストックのサンプルを超遠心分離することによって得られたペレットと同様に、実施例4に記載のRT-PCR/nested PCRアッセイを用いて、Sf-ラブドウイルス及びTn-ノダウイルスの存在又は非存在を試験した。Sf-ラブドウイルス又はTn-ノダウイルス配列は検出されなかった。
【0050】
(実施例9) 組換えタンパク質の発現。 ESF921培地中のSf-RVN細胞又はSf9細胞を、1×106細胞/ウェルの密度で6ウェルプレートに播種した。次いで、細胞をESF921培地で偽感染させるか、又は0.1若しくは5プラーク形成単位(pfu)/細胞の感染多重度(multiplicities of infection, MOIs)で、Sf-ラブドウイルスフリーのストックのBacPAK6-ΔChi/Cath、AcP(±)p6.9hSEAP若しくはAcP(+)p6.9hEPOに感染させた。感染後の様々な時点において、感染細胞を採取し、細胞密度を測定し、低速遠心分離によって細胞をペレット化した。次に、細胞及び無細胞培地を、以下に記載するように、発現するモデルタンパク質の性質及び実験の目的に応じて、様々な方法で処理した。しかし、いずれの場合も、以下に示すように、細胞抽出物及び/又は無細胞培地中の組換えタンパク質のレベルを、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE;(Laemmli、1970))及びタンパク質特異的又はタグ特異的一次抗体並びにアルカリホスファターゼ結合二次抗体を使ったイムノブロッティング(Towbin et al.、1979)によって測定した。抗体と反応するタンパク質を、標準的なアルカリ性ホスファターゼに基づく発色反応を用いて可視化し、Image Jソフトウェアのバージョン1.48(米国国立衛生研究所)を使用してバンドをスキャン、及び定量することによって相対強度を見積もった。
【0051】
β-galについては、感染細胞のペレットを使用して、酵素活性アッセイのための細胞質抽出物を、既知の方法を用いて調製した。イムノブロッティングは、ウサギ抗β-gal抗体(イーエムディー・ミリポア(EMD Millipore Corporation)、ドイツ)及びアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗ウサギIgG(シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)、セントルイス(St. Louis)、MO)をそれぞれ一次及び二次プローブとして用いて行った。
【0052】
hSEAPについては、酵素活性アッセイのために感染した無細胞培地を調製し、イムノブロッティングは、マウス抗ペンタHis抗体(サーモフィッシャー(Thermo Fisher))及びアルカリホスファターゼ結合ウサギ抗マウスIgG(シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich))をそれぞれ一次及び二次プローブとして用いて行った。
【0053】
hEPOについては、ウサギ抗hEPO抗体(U-Cyテック(U-CyTech)、ユトレヒト(Utrecht)、オランダ)及びアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗ウサギIgG(シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich))をそれぞれ一次及び二次プローブとしたイムノブロット用に感染した無細胞培地を調製した。
【0054】
本願発明者らは、Sf-RVN細胞及びSf9細胞でのバキュロウイルス媒介組換えタンパク質産生のレベルを、細菌細胞内タンパク質のモデルである大腸菌β-gal;ヒト分泌糖タンパク質のモデルであるhSEAP;バイオテクノロジー的に重要であり、ヒト分泌糖タンパク質のモデルであるhEPOを用いて比較した。上記のように、Sf-ラブドウイルスフリーのワーキングストックである各々の組換えバキュロウイルスを調製し、これらの研究に使用したことを強調することは重要である。
【0055】
大腸菌β-galの発現実験によれば、組換えバキュロウイルスの感染の4日間の間にSf-RVN細胞及びSf9細胞によって産生された前記細胞内酵素の活性レベルに有意差はなかった(図7A)。図7Bに示した代表的なイムノブロッティングの結果によれば、Sf-RVN細胞は全細胞内β-galタンパク質をわずかに多く生成していた。独立して繰り返し取得した生物サンプルについて、クーマシーブリリアントブルーでのゲル染色を行うと、同じ結果となったが、図7Aから7Cに示した結果と同じように、Sf-RVN細胞によって産生される細胞内β-galレベルの増加は軽微であった(データは示さず)。最後に、本願発明者らは、Sf-RVN細胞及びSf9細胞によって産生された酵素活性及び抗体と反応する細胞内β-galのレベルが、両方とも感染後4日でそれよりも前の時間点と比較して低くなり、これは、感染後のこの非常に遅い時期では、バキュロウイルス誘導性の細胞毒性が反映されているのかもしれない、ということにも気付いた。
【0056】
感染から4日間のhSEAP産生及び分泌に関する本願発明者らの分析は、本質的に同じ結果であった。この場合、本発明者らは実験を低(0.1pfu/細胞;図8A、8B及び8C)及び高(5pfu/細胞;図8D、8E及び8F)MOI感染の両方を含むように拡大した。なぜならBICSにおいては、従来の高MOI感染よりも低MOI感染で、生産性がより高くなることを報告した研究者がいるからである。これらの実験の結果によると、低(図8A)又は高(図8D)MOIsのどちらで感染させてもSf-RVN細胞及びSf9細胞によって産生されるhSEAP活性のレベルに統計的に有意な差はなかった。代表的なイムノブロッティングの結果は、低MOI(図8B及び8C)で感染した場合にはSf9細胞がわずかに多くのhSEAPを産生し、高MOI(図8E及び8F)で感染した場合にはSf-RVN細胞がわずかに多くのhSEAPを産生したことを示すものであった。しかしながら、これらはわずかな違いにしかすぎず、この実験を独立して繰り返し取得した生物サンプルでは、完全には再現できなかった(データは示さず)。高MOIで感染させた場合、Sf-RVN細胞及びSf9細胞の両方で、感染後1日でより高いhSEAP活性及び抗体と反応する細胞外タンパク質が産生され、感染後4日までには、hSEAP活性が約3倍以上増加した。本願発明者らはまた、本願明細書に記載したhSEAP発現及び分泌実験の一部として得られたデータから、図6Aから6Bに示すように、いずれのMOIにおける感染4日間でのSf-RVN細胞及びSf9細胞の生存率に差異がないことに気が付いた。
【0057】
最後に、本願発明者らは、Sf-RVN細胞及びSf9細胞によるhEPO産生及び分泌のレベルを比較したときに同じ一般的結果を得た。この生成物hEPOに対しては簡単な機能アッセイがないので、本願発明者らは、4日間の感染の間に、2つの異なる細胞株によって細胞外培地に分泌された抗体と反応するhEPOのレベルを比較することに限定して分析した。この実験を2回独立して繰り返し取得した生物サンプルでの結果によれば、Sf-RVN細胞及びSf9細胞によって産生された分泌hEPOのレベルにおいて、再現しうる大きな違いは見出されなかった(図9A及び9B)。
【0058】
まとめると、これらの結果から、Sf-RVN細胞とSf9細胞は3つの異なる組換えタンパク質をほぼ同じレベルで産生し、分泌することがわかった。
【0059】
(実施例10) N-グリカンの分析。 Sf-RVN細胞及びSf9細胞の50mL振盪フラスコ培養物に、Sf-ラブドウイルスフリーのストックであるAcP(-)p6.9hEPOを感染させ、hEPOをNi-NTA樹脂(サーモフィッシャー(Thermo Fisher))を用いて細胞及びウイルスフリーの上清からアフィニティー精製した。PNGase-F(ニューイングランドバイオラボ(New England Biolabs))で処理することにより精製hEPO調製物からN-グリカンを酵素的に切り離し、この切り離されたN-グリカンを精製し、誘導体化し、既知の方法に従ってMALDI-TOF-MSによって分析した。Sf細胞において産生されたN-グリカンの予測された質量及び知見に基づいて、ピークに構造を割り当て、一般的な模式図による象徴表現を用いて注釈を付け、簡略化のために番号を付けた。異なる構造の相対的な定量は、個々のペルメチル化N-グリカン構造の同位体クラスターからのピーク強度を合わせたものを、すべての注釈を付けたN-グリカンピークの総強度で割ることによって行った。
【0060】
Sf-RVN細胞とSf9細胞を比較する際に評価するもう1つの重要な要素は、それらから産生されるタンパク質のN-グリコシル化パターンである。なぜなら、そのパターンが異なる細胞株によって劇的に異なる可能性があるためである。そこで、本願発明者らは、Sf9細胞及びSf-RVN細胞をAcP(-)p6.9hEPOに感染させ、無細胞培地から分泌されたhEPOを精製し、酵素的に全N-グリカンを切り離し、MALDI-TOF-MSによってペルメチル化生成物を分析した。結果は、予想通り、両方の細胞株によって産生されたhEPOに結合していたN-グリカンの大部分が、トリマンノシルコア構造を有することを示すものであった(図10Aの構造2及び3)。本願発明者らはまた、予想通り、わずかな割合の、末端N-アセチルグルコサミン残基を有するハイブリッド型構造(図10Aの構造4及び5)も観察した。これらの異なる構造を定量化することにより、本願発明者らは、Sf-RVN細胞の産物がわずかにより多くのフコシル化N-グリカンを有するも
のの、Sf-RVN細胞及びSf9細胞によって産生されるhEPOのN-グリコシル化プロフィールはほぼ同一であると判断した(図10B)。
【0061】
(実施例11) Sf-RVN細胞はより多くの感染性のバキュロウイルス後代を産生する。 Sf9細胞は、組換えタンパク質生産の宿主としての有用性に加えて、バキュロウイルスストックの産生のための最良の宿主の一つであると広く考えられている。したがって、Sf9細胞及びSf-RVN細胞によって産生される感染性組換えバキュロウイルスベクター後代の量を比較することは興味深いものであった。この実験では、2つの異なるSf-ラブドウイルスフリーのバキュロウイルスストック(AcP(-)p6.9hEPO及びAcP(-)p6.9hSEAP)を両方の細胞株に感染させ、4つ全ての感染体から出芽してきた後代ウイルス(すなわち感染性組み換えバキュロウイルスを含む細胞培養培地)を回収し、実施例8で記載したように、プラークアッセイで感染性ウイルスの力価を比較した。3回独立して繰り返し取得した生物サンプルの結果によれば、両方のバキュロウイルス(AcP(-)p6.9hEPO及びAcP(-)p6.9hSEAP)のワーキングストックは、Sf-RVN細胞によって産生された場合、Sf9細胞によって産生されたものと比較して、約5から10倍高い力価を示した(図11)。
【0062】
(実施例12) BLAST検索。 Sf細胞ゲノム及びトランスクリプトームのバイオインフォマティクス検索は、公的にアクセス可能なNCBI BLASTNインターフェース(blast.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi)を用いて行った。既定の設定としたmegaBLASTを使い、公開されているSf-ラブドウイルスゲノム(Genbankアクセッション番号NC_025382.1)をクエリーとして、Sf-21細胞株の転写配列アセンブリ(Genbankアクセッション番号GCTM00000000.1、BioProjectID 271593(Kakumani \et al., Biol. Direct 10, 1-7,2015)及びツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)幼虫頭部転写配列アセンブリ(Genbankアクセッション番号GESP00000000.1、BioProjectID 318819(Cinel et al.))を検索した。
【0063】
公開されているSf-ラブドウイルスゲノム(Genbankアクセッション番号NC_025382.1)をクエリーとして用いて、IPLB-SF-21細胞株の転写配列アセンブリ(Genbankアクセッション番号GCTM00000000.1、BioProjectID 271593(Kakumani et al.,Biol. Direct10, 1-7, 2015))に対してmegaBLAST検索を行った結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
これらの結果は、Sf-21細胞株トランスクリプトームが、完全な状態でアセンブルされたSf-ラブドウイルスゲノムを含むことを示している。Sf-21細胞株はSf-ラブドウイルスに持続的に感染していることが以前に示されていたので、この結果は予想されたものであった。
【0066】
公開されているSf-ラブドウイルスゲノム(Genbankアクセッション番号NC_025382.1)をクエリ―として用いて、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)のBioProjectPRJNA318819(Cinel et al.)から入手したオスの羽化後のツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)成虫(幼虫はfall armyworm)のアセンブルされた全脳遺伝子発現プロファイルに対してmegaBLAST検索を行った結果を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
驚くべきことに、いくつかのアセンブルされた配列がこれら生物のトランスクリプトームで検出され、集めると完全な状態のSf-ラブドウイルスゲノムを含むものとなった。これらのデータは、全てのSf細胞株が由来するイモ虫(ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda))それ自体がSf-ラブドウイルスに感染していることを示している。したがって、ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)に由来する全ての細胞株がSf-ラブドウイルスによって汚染されている理由は、その生物が最初のSf細胞株が単離される前の環境においてこのウイルスに自然に感染していたためである。実験室で細胞株がウイルスに汚染したわけではない。
【0069】
対照的に、Sf-ラブドウイルス配列をクエリーにして、Sf-RVN細胞トランスクリプトームをBLAST検索してもヒットは得られず、Sf-RVN細胞はSf-ラブドウイルスで汚染されていないことが更に実証された。前記BLAST検索の結果を表4にまとめる。以前に本願発明者ら及び他の実験室で試験した全てのSf細胞株がSf-ラブドウイルス汚染に対して陽性であることが示されたので、Sf-RVN細胞のトランスクリプトーム中にSf-ラブドウイルス配列が存在しないことは、これらの細胞が、他のSf細胞株及びツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda(先に記載したSf細胞株の全てが由来する天然に存在する生物))とは構造的に(遺伝的に)異なることを明らかに示している。この構造的差異は、Sf-RVN細胞がSf-ラブドウイルス感染に感受性であるという事実によって実証される。
【0070】
【表4】
【0071】
(実施例13) Sf-RVN細胞株はSf-ラブドウイルス感染に感受性がある。 Sf9細胞株を10%(v/v)ウシ胎児血清(アトランタ・バイオロジカル(Atlanta Biologicals, Inc.)、フローリーブランチ(Flowery Branch)、GA)を添加したTNM-FH培地に、50mLの振盪フラスコ中で1.0×106細胞/mLの開始密度で播種した。細胞を振盪インキュベーター内、28℃で3日間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を低速遠心分離によってペレット化し、無細胞上清を0.22μMフィルター(セルトリート・サイエンティフィック(CELLTREAT Scientific)、シャーリー(Shirley)、MA)で濾過した。この濾液をSf-ラブドウイルス接種物として用いて、このウイルスに対するSf-RVN細胞の感受性を調べた。
【0072】
感染性実験のために、Sf-RVN細胞を、25cm2フラスコ中の5mlのESF921培地(エクスプレッション・システムズ(Expression Systems)、ウッドランド(Woodland)、CA)にて、2.0×106の細胞密度、2連で播種し、1時間、28℃でインキュベートして細胞を付着させた。次いで、増殖培地を除去し、2連のフラスコの内のどちらかの細胞を、(1)10%(v/v)ウシ胎仔血清を添加した2.5mLのTNM-FH培地で偽感染させる、又は(2)2.5mLの上記のSf-ラブドウイルス接種物に感染させる、ことを行った。前記細胞を2時間28℃でインキュベートし、次いで10%(v/v)ウシ胎仔血清を添加した2.5mLの新しいTNM-FH培地を加え、前記細胞を更に24時間28℃でインキュベートした。感染24時間後に、1つ目のセットの偽感染又はSf-ラブドウイルス接種物感染細胞を3回洗浄し、採取した。2つ目のセットでは28℃で更にインキュベートして採取し、感染後72時間に継代(P0からP1)して採取し、その後、合計3回の継代が行われるまで、更に2回の72時間のインキュベーション期間の後の継代を続けて行った。各継代レベルで得られたサンプルは、低速遠心分離によって細胞のペレットとし、全RNAを抽出し、サンプルを実施例4に記載のようにRT-PCRによりアッセイした。
【0073】
Sf-ラブドウイルス特異的なアンプリコンは、偽感染Sf-RVN細胞から任意の時点で得られたRNA、又はSf-ラブドウイルス接種物感染後24又は72時間のP0のSf-RVN細胞から得られたRNAでは観察されなかった(図13A-13B)。しかし、P1後72時間にSf-ラブドウイルス接種物感染Sf-RVN細胞から得られたRNAでは僅かなアンプリコンが観察され、P2後72時間及びP3後72時間に得られたRNAではアンプリコンの強度が次第に増加した(図13A-13B)。これらの結果より、Sf-RVN細胞が、汚染しているSf細胞によって産生されたSf-ラブドウイルスによる感染に対して感受性であることは明らかである。
【0074】
(実施例14) 従来方法ではウイルスフリーの樹立T. ni細胞株を産生することはできない。 本願発明者らはまた、10%(v/v)のウシ胎仔血清及びリバビリン、アザウリジン及びビダラビンを含む種々の濃度の抗ウイルス薬のカクテルを添加したTNM-FH培地中で、ポリクローナルTN-368細胞集団を培養することによってTn-ノダウイルスフリーの細胞を単離することを試みた。前記細胞をこれらの3つの薬物を用いて15日間随時継代しながら培養し、サンプルを実施例16に記載するようにRT-PCRでTn-ノダウイルスの存在・非存在についての試験を規定通りに行った。図13A図13Bに示すように、試験した抗ウイルス性カクテルの全ての濃度でインキュベートしたTN-368細胞において、Tn-ノダウイルスセグメント1及び2に対応するアンプリコンが存在した(それぞれ図13A及び13B)。したがって、Sf9細胞の場合と同様に、本願発明者らは、この抗ウイルス性カクテルで処理したTN-368細胞の集団を用いてノダウイルスフリーのT. ni細胞を得ることができなかった。
【0075】
(実施例15) ウイルスが存在しない樹立T. ni細胞株を得る例示する方法。 抗ウイルス薬カクテルで処理したポリクローナルTN-368細胞培養物がTn-ノダウイルス陽性のままであることを発見した後、本願発明者らは、ウイルスフリーの細胞株を得るために、本願発明の方法を用いた。この例示する方法の実施形態では、単一細胞を単離するための限界希釈によって単一のTN-368細胞を単離し、この単離した細胞を10%(v/v)ウシ胎仔血清及び200μg/mLリバビリンを添加したTNM-FH培地中で96ウェルプレートに播種して第1の培養組成物を作製した。第1の培養組成物を約1ヶ月間、随時増幅をしながら段々により大きな培養物とする。25cm2のフラスコレベルに到達した後、実施例16に記載するように、サンプルについてRT-PCRを行った後にnested PCRを行うことによりTn-ノダウイルスの存在を確認する試験をした。Tn-ノダウイルスが存在しないクローン(図14A、レーンCL#3)を、抗ウイルス薬を含まない培地に移して第2の培養組成物とした。Tn-NVN細胞継代ゼロ代目(P0)と称するとしたクローンを、血清を含まないESF921培地に馴化させ、懸濁液中で増殖させた。続いてTn-NVN細胞株をこの第2の培養組成物及び増殖様式で維持した。
【0076】
(実施例16) Tn-ノダウイルス特異的な逆転写-PCR(RT-PCR)/nested PCR。 1×106細胞を含有するTN-368細胞培養物及びTn-NVN細胞培養物のサンプルを採取し、低速遠心分離によって細胞をペレットとした。細胞を含まない上清を0.22μmフィルター(セルトリート・サイエンティフィック(CELLTREAT Scientific)、シャーリー(Shirley)、MA)で濾過し、次に131,000xg、22時間、4℃で超遠心分離した。製造業者のプロトコールに従って、RNASolv試薬(オメガ・バイオテック(OmegaBio-Tek, Inc.),ノルクロス(Norcross),GA)を用いて低速遠心による細胞ペレット及び高速遠心による無細胞ペレットの両方から全RNAを抽出した。次いで前記RNAを定量し、これをテンプレートとして、ProtoScript II First Strand cDNA合成キット(ニューイングランドバイオラボ(New England Biolabs)、イプスウィッチ(Ipswich)、MA)及びNoda-7(配列番号24)と名付けたTn-ノダウイルス特異的プライマーを用いて、製造業者のプロトコールに従って、cDNAを合成した。等量の各cDNA調製物を用いて、TaqDNAポリメラーゼ、ThermoPol反応バッファー(ニューイングランドバイオラボ(New England Biolabs))、及びTn-ノダウイルスRNAセグメント1-(Noda-1;配列番号19及びNoda-2;配列番号20)又はセグメント2-(Noda-6;配列番号23及びNo
da-7;配列番号24)特異的プライマー対によるnested PCRを行った。反応混合物を94℃で3分間インキュベートし、94℃で30秒、60℃で1分、及び72℃で1分のサイクルを35回行い、最後に72℃で10分間インキュベートした。次いで、Tn-ノダウイルスRNAセグメント1-(Noda-1i;配列番号21及びNoda-2i;配列番号22)又はセグメント2-(Noda-6i;配列番号25及びNoda-7i;配列番号26)特異的プライマー対を用いて、同じ条件の下で、各1次PCR産物の1μLを、nested PCRのテンプレートとして用いた。RT-PCR及びRT-PCRを行った後にnested PCRを行って得られた産物を、標準的方法に従ってアガロースゲル電気泳動とエチジウムブロマイド染色によって分析した。これらのアッセイに使用した各プライマーの配列を表5に示す。
【0077】
【表5】
【0078】
(実施例17) Tn-NVN細胞には検出可能なTn-ノダウイルスが存在しない。 実施例16で記載したように、種々の継代レベルにおけるTn-NVN細胞から全RNA単離し、Tn-ノダウイルスの存在についてTn-ノダウイルスセグメント1(図15A)又は2(図15B)に特異的なプライマーを用いたRT-PCRを行った後にnested PCRを行うことによりアッセイした。Tn-ノダウイルス特異的RT-PCR/nested PCRの結果によれば、いずれの抗ウイルス薬も存在しない状態で、Tn-NVN細胞は少なくとも55代の連続継代の間に検出可能なTn-ノダウイルスを有さないことが示された(図15Aから15C)。本願発明者らは、実施例16に記載したように、継代55代目のTn-NVN細胞からの無細胞培地(CFM)を超遠心分離して得られたペレット画分から全RNAを単離し、Tn-ノダウイルス特異的RT-PCR/nested PCRを用いてTn-ノダウイルスのアッセイを実施した。図15Cで示すように、TN-368細胞及びTN-368無細胞培地のペレットから単離されたRNAに対応するレーンにTn-ノダウイルスのアンプリコンが観察された。対照的に、前記Tn-ノダウイルスのアンプリコンは、Tn-NVN無細胞培地のペレットから単離されたRNAでは検出されなかった。図15Aから15Cに示す全ての結果は、抗ウイルス薬の非存在下で培養された細胞由来のRNAを用いて得られたものである。まとめると、これらの結果により、いずれの抗ウイルス薬も存在しない状態で、継代55代目までのTn-NVN細胞又は無細胞培地中には検出可能なTn-ノダウイルスRNAは存在せず、これらの細胞がTn-ノダウイルスフリーであることが示された。
【0079】
(実施例18) マイコプラズマの検出。 本願発明者らはまた、約105個のTn-NVN細胞又はTN-368細胞を含むサンプルについて、マイコプラズマの有無を、ATCC(マナサス(Manassas)、VA)のユニバーサルマイコプラズマ検出キットを製造者のプロトコールに従って使用し、試験をした。このPCRをベースとしたアッセイでは、60種類以上のマイコプラズマ、アコレプラズマ、スピロプラズマ及びウレアプラズマ種、細胞培養の汚染要因としてしばしば見出される8種を含めての16SrRNA遺伝子間で保存された配列に相補的なプライマーを使用する。図16に示す結果によれば、TN-368細胞とTn-NVN細胞のいずれも検出可能な程度にマイコプラズマに汚染されていないことが示された。両方の場合において、PCR産物が存在しないことは、昆虫細胞溶解物による前記PCR反応の阻害によるものではなかった。コントロールテンプレートをスパイクした溶解物を用いて行ったPCRでは予想されるサイズのアンプリコンが観察されたからである(図16、レーンTn-NVN(+)及びTN-368(+))。
【0080】
(実施例19) Tn-NVN細胞とTN-368細胞の細胞増殖の特性、形態及び直径。 本願発明者らは、実施例7に記載の技術を用いて、培養密度、直径及び形態を含めて、Tn-NVN細胞の特性をTn-368細胞の特性と比較した。その結果、ESF-921培地中の平行振盪フラスコ培養に播種した後5日間にわたって、Tn-NVN細胞及びTN-368細胞は、実質的に同一の平均密度となった(図17A)。この結果によりまた、これらの細胞培養実験を通じて、Tn-NVN細胞及びTN-368細胞の平均直径(図17B)又は形態(図17C)に有意差がないことが明らかになった。全体として、これらの結果は、この研究で調べたTn-NVN細胞及びTN-368細胞の一般的性質が同じであるか又は実質的に同じであることを示した。
【0081】
(実施例20) Tn-NVN細胞とTN-368細胞は組換えタンパク質をほぼ同じレベルで産生する。 本願発明者らはまた、実施例9に記載したように、β-gal、hSEAP及びhEPOを用いて、Tn-NVN細胞及びTN-368細胞におけるバキュロウイルスを介した組換えタンパク質の産生レベルを比較した。実施例8に記載したように、各組換えバキュロウイルスのTn-ノダウイルスフリーのワーキングストックを調製し、これらの研究に使用したことを強調することは重要である。
【0082】
大腸菌β-galの発現実験では、感染して4日間の間、Tn-NVN細胞及びTN-368細胞によって産生された細胞内酵素活性レベル(図18A)又は全細胞内β-galタンパク質量(図18B及び18C)に有意な差は見られなった。ここでもまた、本願発明者らは、酵素活性及び抗体と反応する細胞内β-galのレベルが、感染後3日から4日で、それより前の時点と比較して、減少していることに気付いた。おそらく、感染後のこれらの遅い時期では、バキュロウイルス誘導性の細胞毒性が反映されているものと思われる。
【0083】
感染して4日間にわたるhSEAP産生及び分泌についての本願発明者らの分析によれば、Tn-NVN細胞及びTN-368細胞によって産生されたhSEAP活性、又は抗体と反応する分泌hSEAPタンパク質のレベルには統計学的有意差がなく、基本的に同じ結果であった(図19Aから図19C)。
【0084】
最後に、本願発明者らは、4日間の感染の間にTn-NVN細胞及びTN-368細胞によるhEPO産生及び分泌のレベルを比較したとき、同じ一般的な結果を得た(図20Aと20B)。これらの結果は、Tn-NVN細胞及びTN-368細胞が、同じ又は実質的に同じレベルで3つの異なる組換えタンパク質を産生及び分泌することを示した。
【0085】
(実施例21) Tn-NVN細胞とTN-368細胞のN-グリカンの分析。 実施例10で記載した通り、本願発明者らはTn-NVN細胞及びTN-368細胞のN-グリコシル化プロファイルを分析した。Tn-NVN細胞及びTN-368細胞によって産生されたhEPOから単離されたN-グリカンをMALDI-TOF-MS分析すると、両方の細胞株が本質的に同一のグリコシル化パターンを生じることが示された。両方の細胞株由来のhEPO上のN-グリカンの大部分はバイマンノシルコア構造(図21A、構造1)であった。しかし、本願発明者らは僅かながら、末端N-アセチルグルコサミンが付いているあるいは付いていないフコシル化されたトリマンノシルコア構造も観察した(図21A、構造3及び6)。
【0086】
(実施例22) カイコガ(Bombyx mori)から得られたBmN細胞はSf-ラブドウイルスに感染している。 鱗翅目の昆虫であるカイコガ(Bombyx mori)由来の細胞が汚染しているかどうかを調べるために、本願発明者らはSf-ラブドウイルスの存在についてBmN細胞株を分析した。本願発明者らの実験室細胞バンクからのBmN細胞(ATCC-CRL8910)のバイアルを解凍し、実施例4に記載のように、細胞を低速遠心分離によってペレット化し、全RNAを抽出し、定量し、RT-PCRによってアッセイした。この場合、6つすべてのSf-ラブドウイルス遺伝子に特異的なプライマーを用いて、それぞれ独立してRT-PCRを行った以外は、基本的に記載のように実施した。
【0087】
【表6】
【0088】
図22にあるように、6個すべてのSf-ラブドウイルス遺伝子(N、P、M、G、X及びL)に対応するアンプリコンが観察された。これらの結果は、ツマジロクサヨトウ(S. frugiperda)の近縁種である鱗翅目の昆虫のカイコガ(Bombyx mori)に由来するBmN細胞株もSf-ラブドウイルスに感染していることを示していた。
【0089】
まとめると、本願発明者らの結果は、多くの樹立細胞株がウイルスに感染している可能性があることを示唆している。これは、これらの細胞株由来の生物が持続的にウイルス感染していることが原因である可能性がある。本願発明者らの結果はまた、樹立系統を得るために本願発明の方法が広く適用可能であることを示している。
【0090】
BICS由来生物製剤のヒト患者及び獣医科の患畜への使用に関する規制当局の承認が最近急増していることは、真の商業的生物製剤製造プラットフォームとして、BICSが世の中に知られるようになることにおいて非常に重要なマイルストーンである。しかしながら、Sf細胞及びTn細胞などのバキュロウイルスベクターの宿主として最も頻繁に使用される昆虫細胞株が感染性ウイルスに汚染しているということの発見は、BICS産生生物製剤の安全性に疑問を投げかけている。この点において、Sf-ラブドウイルス又はTn-ノダウイルスがヒト患者及び獣医科の患畜に明らかな脅威をもたらすという証拠はないことを強調することは重要である。そうはいっても、生物製剤の製造プラットフォームに、どんなものであれ不定の病原体が見つかった場合に対する明確な対応は、本質的により安全な系を創出するためにその病原体を取り除くことである。そこで、本願発明者らは、Sf-ラブドウイルス又はTn-ノダウイルスに汚染していないSf-RVN細胞及びTn-NVN細胞をそれぞれ発明した。事実、これら両方の細胞株で、これらの最近同定されたいずれのウイルス汚染に関する痕跡も、検出されない。
【0091】
この結論は、本願発明者らの研究室で少なくとも55継代にわたり、Sf-RVN細胞及び無細胞培地にSf-ラブドウイルスが検出されないこと、及びTn-NVN細胞及び無細胞培地にTn-ノダウイルスRNAが検出されないこと、を示すために使用した高感度RT-PCR/nested PCRアッセイの結果に基づいている。更に継続して、本願発明者らは、Sf-ラブドウイルス及びTn-ノダウイルス特異的RT-PCR/nested PCR検査レジメを実施してきている。これは現在進行中であるが、現時点において、Sf-RVN細胞においてSf-ラブドウイルス、Tn-NVN細胞においてTn-ノダウイルスの存在の痕跡がないことが、それぞれ170継代と100継代にわたって明らかになっていることによっても、前記結論は強く支持される。もし、これらの細胞が低レベルのSf-ラブドウイルス又はTn-ノダウイルスで汚染しているならば、高レベルと言われているSf細胞培養物中での汚染度(細胞外増殖培地中2×109粒子/mL)を特に考慮すると、これらのウイルスはすぐさま検出可能レベルまで複製するはずである。加えて、本願発明者らは、本願発明者らのSf-RVN細胞について大規模な並列配列決定を行うことにより得た独自のゲノム及びトランスクリプトームのデータベースと共に、一般に入手可能なSf-21細胞のゲノム及びトランスクリプト―ムのデータ(Geisler and Jarvis,2016)をバイオインフォマティクス解析することにより、Sf-RVN細胞での結果が正しいと確認し、提示した(表2)。
【0092】
本願発明の別の結論は、BICSの代替宿主としての潜在的可能性という点において、Sf-RVN細胞及びTn-NVN細胞の本質的な性質は、それぞれ、Sf9細胞及びTN-368細胞(当該分野で広く使用されているため、BICSの「ゴールドスタンダード」宿主として使用されている)の性質と非常に類似している。本願発明者らは、Sf-RVN細胞とTn-NVN細胞の何れも、マイコプラズマに検出可能なほどに汚染されていないことを見出した。また、標準的な細胞培養維持プロトコールの条件内で検討したSf-RVN細胞、Sf9細胞、Tn-NVN細胞及びTN-368細胞の基本的な増殖特性は、それぞれ区別できないことも見出した。
【0093】
本願発明の別の結論は、Sf-RVN細胞及びTn-NVN細胞は、B
ICSの宿主として、少なくともウイルスに汚染しているそれぞれに対応する細胞と同様に機能し得る、ということである。この結論は、それぞれ、Sf-RVN細胞、Sf9細胞、Tn-NVN細胞及びTN-368細胞が、組換えタンパク質並びに糖タンパク質の産生、分泌及び酵素活性において、ほぼ等しいレベルをもたらす、という知見によって裏付けられた。正式には、この結論は、本願明細書のモデルとして使用した3つの異なる生成物に対してのみ適用可能である。本願発明者らは、自分らの解析を拡げようと努力して、細胞内細菌タンパク質及び2つの分泌ヒトN-糖タンパク質を使用した。将来、Sf-RVN細胞及び/又はTn-NVN細胞が他の組換えタンパク質をより高レベル又はより低レベルで産生することを見出される可能性はある。本願発明者らはまた、Sf-RVN細胞、Sf9細胞、Tn-NVN細胞及びTN-368細胞で、それぞれ、ほぼ同一のN-グリコシル化パターンが生じることも見出した。Sf-RVN細胞、Sf9細胞、Tn-NVN細胞及びTN-368細胞でほぼ同一のN-グリコシル化パターンが生じる、という結論は、正式には、本願分析に使われたモデルであるhEPOに対してのみ適用される。しかし、組換えタンパク質の産生レベルがばらつく可能性と比較すれば、Sf-RVN細胞、Sf9細胞、Tn-NVN細胞及びTN-368細胞が、他の産物については異なるN-グリコシル化をする可能性ははるかに低い。なぜなら、ある生成物で得られた分析結果は、内因的なN-グリカンのプロセシング能を反映しているからである。もし、N-グリコシル化の違いが存在するなら、異なる細胞株によるhEPOのグリコシル化を本願発明者らが分析した際に、N-グリカンのプロセシングの程度において、差異が検出されたであろう。
【0094】
本願明細書において検討されたSf-RVN細胞及びSf9細胞の別の重要な機能的能力には、感染性組換えバキュロウイルスの後代を産生する能力があった。驚くべきことに、本願発明者らは、2つの異なる組換えバキュロウイルスを増殖するために使用した場合に、Sf9細胞と比較して、Sf-RVN細胞は、より高いレベルの感染性後代(場合によっては5から10倍)を産生することを見出した(図11)。この違いは統計的に有意であり、Sf-RVN細胞には、Sf9細胞に対するはっきりとした優位性があることを示している。
【0095】
本願発明は、様々な応用、方法及び構成要素について言及しながら記載してはいるが、本願明細書の教示から逸脱することなく様々な変更及び修正を行うことができると理解される。前述の例は、本願発明をより良く説明するために提示するのであって、本願発明の範囲を限定することを意図するものではない。更に、現在のところ見当がつかない、又は予期せぬ種々の代替、修正、変形又は改良が当業者によって引き続いてなされることがあるが、これらは以下の請求項に包含されることも意図されている。本願発明の特定の態様は、以下の特許請求の範囲に照らして更に理解され得る。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【配列表】
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