(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】広域セル基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/0456 20170101AFI20240607BHJP
H04B 7/0413 20170101ALI20240607BHJP
H04B 7/0452 20170101ALI20240607BHJP
H04B 7/06 20060101ALI20240607BHJP
H04W 16/26 20090101ALI20240607BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20240607BHJP
H04W 84/06 20090101ALI20240607BHJP
H04B 7/185 20060101ALN20240607BHJP
【FI】
H04B7/0456 300
H04B7/0413 310
H04B7/0452
H04B7/06 152
H04B7/06 910
H04B7/06 950
H04W16/26
H04W16/28
H04W84/06
H04B7/185
(21)【出願番号】P 2023035066
(22)【出願日】2023-03-07
【審査請求日】2023-03-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、「革新的情報通信技術研究開発委託研究/上空プラットフォームにおけるCPSを活用した動的エリア最適化技術」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】田代 晃司
(72)【発明者】
【氏名】星野 兼次
(72)【発明者】
【氏名】長手 厚史
【審査官】吉江 一明
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-503711(JP,A)
【文献】特表2012-506194(JP,A)
【文献】米国特許第7995528(US,B1)
【文献】特表2020-512755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/0456
H04B 7/06
H04W 16/28
H04W 84/06
H04W 16/26
H04B 7/0413
H04B 7/0452
H04B 7/185
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上又は海上に向けて形成されたセル内の端末との無線通信に用いる複数のビームの候補に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックを用いてビームフォーミング制御を行う多素子アンテナを有し飛行体又は浮揚体に搭載された上空の中継通信局を介して端末と通信する基地局であって、
前記コードブックに基づき、互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットを決定する手段と、
前記上空の中継通信局の位置及び姿勢の少なくとも一方に基づいて、中継前記複数組のコードブックサブセットから、前記ビームフォーミング制御に用いるコードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを選択する手段と、
前記ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち前記干渉ビームの使用を停止する手段と、
を備える、ことを特徴とする基地局。
【請求項2】
請求項1の基地局において、
前記コードブックは、前記多素子アンテナを中心とした方位角及び仰俯角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックであり、
前記コードブックサブセットは、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、方位角方向において互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットであり、
前記ビームフォーミング制御において、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉対象に対応する方位角の方向への利得が最大となる干渉ビームの使用を停止する、
ことを特徴とする基地局。
【請求項3】
請求項1の基地局において、
前記コードブックは、前記多素子アンテナを中心とした方位角及び仰俯角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックであり、
前記コードブックサブセットは、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、仰俯角方向において互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットであり、
前記ビームフォーミング制御において、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉対象に対応する仰俯角の方向への利得が最大となる干渉ビームの使用を停止する、
ことを特徴とする基地局。
【請求項4】
請求項1の基地局において、
前記コードブックは、前記多素子アンテナを中心とした方位角及び仰俯角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックであり、
前記コードブックサブセットは、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、方位角方向及び仰俯角方向において互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットであり、
前記ビームフォーミング制御において、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉対象に対応する方位角及び仰俯角の方向への利得が最大となる干渉ビームの使用を停止する、
ことを特徴とする基地局。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの基地局において、
前記被干渉対象は、地上又は海上に固定配置された基地局である、
ことを特徴とする基地局。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかの基地局において、
前記被干渉対象は、前記上空の中継通信局が搭載されている前記飛行体又は前記浮揚体の周辺に位置する別の飛行体又は浮揚体に搭載された他の上空の中継通信局である、
ことを特徴とする基地局。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかの基地局において、
前記被干渉対象は、衛星通信システムの衛星地上局である、
ことを特徴とする基地局。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれかの基地局において、
前記被干渉対象は、電波天文観測局のアンテナである、
ことを特徴とする基地局。
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれかの基地局と、被干渉対象の他の基地局、周辺の飛行体若しくは浮揚体に搭載された他の上空の中継通信局又は衛星通信システムの衛星地上局と、を備える、ことを特徴とするシステム。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれかの基地局と、被干渉対象の他の基地局、周辺の飛行体若しくは浮揚体に搭載された他の上空の中継通信局又は衛星通信システムの衛星地上局と、前記基地局と通信する端末と、を備える、ことを特徴とするシステム。
【請求項11】
地上又は海上に向けて形成されたセル内の端末との無線通信に用いる複数のビームの候補に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックを用いてビームフォーミング制御を行う多素子アンテナを有し飛行体又は浮揚体に搭載された上空の中継通信局を介して端末と通信する基地局におけるアンテナ指向性のヌルを形成する方法であって、
前記コードブックに基づき、互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットを決定することと、
前記上空の中継通信局の位置及び姿勢の少なくとも一方に基づいて、前記複数組のコードブックサブセットから、前記ビームフォーミング制御に用いるコードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを選択することと、
前記ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち前記干渉ビームの使用を停止することと、
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項12】
地上又は海上に向けて形成されたセル内の端末との無線通信に用いる複数のビームの候補に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックを用いてビームフォーミング制御を行う多素子アンテナを有し飛行体又は浮揚体に搭載された上空の中継通信局を介して端末と通信する基地局に備えるコンピュータ又はプロセッサにおいて実行されるプログラムであって、
前記コードブックに基づき、互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットを決定するためのプログラムコードと、
前記上空の中継通信局の位置及び姿勢の少なくとも一方に基づいて、前記複数組のコードブックサブセットから、前記ビームフォーミング制御に用いるコードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを選択するためのプログラムコードと、
前記ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち前記干渉ビームの使用を停止するためのプログラムコードと、
を含む、ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コードブックを用いてビームフォーミング制御を行う広域セル基地局及びシステム、並びに、コードブックを用いてビームフォーミング制御を行う方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信における一部の周波数帯域では、互いに異なる複数の無線通信システムによる利用が認められている。例えば、日本における3.7GHz帯(3.6GHz~4.2GHz)では、第5世代の移動通信システムによる利用と、固定衛星通信システムのダウンリンクによる利用が認められている。この場合、移動通信システムの基地局から固定衛星通信システムの衛星地上局(「地球局」ともいう。)のダウンリンクへの干渉が発生するおそれがある。特に、移動通信システムの基地局のアンテナとして用いられるMassive MIMO等の超多素子で構成されたアレーアンテナは高利得であり、干渉電力も大きくなる。このような干渉を低減するため、移動通信システムの基地局を設置する事業者は、衛星地上局(被干渉対象)を運用する事業者との間で事前の干渉調整を行う必要がある。例えば、衛星地上局(被干渉対象)の近くに位置する全基地局からの干渉(電力)の総和を所定の基準値以下に抑える干渉調整を行う必要がある。
【0003】
従来、上空に位置する高高度プラットフォーム局(HAPS)(「高高度疑似衛星」ともいう。)、地球低軌道(LEO)衛星、静止軌道(GEO)衛星等に搭載されたリピータ型又は基地局装置型の中継通信局から地上又は海上に向けて広域セルを形成する基地局(以下「広域セル基地局」という。)が知られている。このような広域セル基地局がUE(端末)とサービスリンクの通信を行うシステム(以下「上空システム」という。)と、既存の地上セル基地局がUE(端末)とサービスリンクの通信を行うシステム(以下「地上システム」という。)が混在する環境において、同一周波数帯を利用して同時に通信を行う場合、上空システムの中継通信局からの信号が地上システムへの干渉となる。この上空システムからの干渉が発生すると、地上システムのスループットが大きく低下する。同様に、地上システムからの信号も上空システムへの干渉となる。この地上システムからの干渉が発生すると、上空システムのスループットが低下する。
【0004】
特許文献1には、eNB(地上セル基地局)のマップに基づいて、地上セル基地局にヌルを向けて指向性ビームを形成するように上空のHAPのアンテナシステムを調整することにより、地上セルでカバーされている領域を排除又は回避し、地上システムへの干渉を抑圧(低減)する技術が開示されている。
【0005】
また、基地局間の干渉を回避する方法として、基地局アンテナの方位角及び仰俯角が互いに異なる複数の指向性ビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合であるコードブックに基づくコードブック型のビームフォーミングを行う基地局において、ビームフォーミングに使用するコードブックを制限する方法が知られている。
【0006】
例えば、特許文献2には、送信端が、基本コードブックから選択された少なくとも一つ以上のプリコーディング行列を含む基本コードブックサブセットを生成し、前記基本コードブックサブセットに含まれるプリコーディング行列を示す基本コードブックサブセット指示子を受信端に伝送する干渉制御方法が開示されている。この干渉制御方法によれば、無線通信システムの性能を向上させる、隣接セルに及ぼす干渉を減少させる、オーバーッドを減少させる、などの効果があるとされている。
【0007】
また、特許文献3には、コードブックを使用する無線通信システムにおいてセル間干渉を回避する方法であって、基地局が、前記コードブックの一部の使用を制限するための情報を隣接セルから受信し、前記基地局が、セル内で一つ以上の端末が使用しない「制限-PMI」として前記コードブックのプリコーディング行列指示子(PMI)を決定する、セル間干渉回避方法が開示されている。このセル間干渉回避方法によれば、セル間干渉を効果的に回避することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許出願公開第2017/0272131号明細書
【文献】特表2012-506194号公報
【文献】特表2011-518478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来のビームフォーミング制御に使用するコードブックを制限する方法では、上空の中継通信局から被干渉対象に向けてアンテナ指向性パターンのヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果は得られない、という課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る基地局は、地上又は海上に向けて形成されたセル内の端末との無線通信に用いる複数のビームの候補に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックを用いてビームフォーミング制御を行う多素子アンテナを有し飛行体又は浮揚体に搭載された上空の中継通信局を介して端末と通信する基地局である。この基地局は、前記コードブックに基づき、互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットを決定する手段と、前記上空の中継通信局の位置及び姿勢の少なくとも一方に基づいて、前記複数組のコードブックサブセットから、前記ビームフォーミング制御に用いるコードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを選択する手段と、前記ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち前記干渉ビームの使用を停止する手段と、を備える。
【0011】
本発明の他の態様に係るシステムは、前記基地局と、被干渉対象の他の基地局、周辺の飛行体若しくは浮揚体に搭載された他の上空の中継通信局、衛星通信システムの衛星地上局又は電波天文観測局のアンテナと、を備える。
【0012】
本発明の更に他の態様に係るシステムは、前記基地局と、被干渉対象の他の基地局、周辺の飛行体若しくは浮揚体に搭載された他の上空の中継通信局、衛星通信システムの衛星地上局又は電波天文観測局のアンテナと、前記基地局と通信する端末と、を備える。
【0013】
本発明の更に他の態様に係る方法は、地上又は海上に向けて形成されたセル内の端末との無線通信に用いる複数のビームの候補に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックを用いてビームフォーミング制御を行う多素子アンテナを有し飛行体又は浮揚体に搭載された上空の中継通信局を介して端末と通信する基地局におけるアンテナ指向性のヌルを形成する方法である。この方法は、前記コードブックに基づき、互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットを決定することと、前記上空の中継通信局の位置及び姿勢の少なくとも一方に基づいて、前記複数組のコードブックサブセットから、前記ビームフォーミング制御に用いるコードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを選択することと、前記ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち前記干渉ビームの使用を停止することと、を含む。
【0014】
本発明の更に他の態様に係るプログラムは、地上又は海上に向けて形成されたセル内の端末との無線通信に用いる複数のビームの候補に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックを用いてビームフォーミング制御を行う多素子アンテナを有し飛行体又は浮揚体に搭載された上空の中継通信局を介して端末と通信する基地局に備えるコンピュータ又はプロセッサにおいて実行されるプログラムである。このプログラムは、前記コードブックに基づき、互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットを決定するためのプログラムコードと、前記上空の中継通信局の位置及び姿勢の少なくとも一方に基づいて、前記複数組のコードブックサブセットから、前記ビームフォーミング制御に用いるコードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを選択するためのプログラムコードと、前記ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち前記干渉ビームの使用を停止するためのプログラムコードと、を含む。
【0015】
前記基地局、前記システム、前記方法及び前記プログラムにおいて、前記コードブックは、前記多素子アンテナを中心とした方位角及び仰俯角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックであり、前記コードブックサブセットは、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、方位角方向において互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットであり、前記ビームフォーミング制御において、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉対象に対応する方位角の方向への利得が最大となる干渉ビームの使用を停止してもよい。
【0016】
前記基地局、前記システム、前記方法及び前記プログラムにおいて、前記コードブックは、前記多素子アンテナを中心とした方位角及び仰俯角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックであり、前記コードブックサブセットは、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、仰俯角方向において互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットであり、前記ビームフォーミング制御において、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉対象に対応する仰俯角の方向への利得が最大となる干渉ビームの使用を停止してもよい。
【0017】
前記基地局、前記システム、前記方法及び前記プログラムにおいて、前記コードブックは、前記多素子アンテナを中心とした方位角及び仰俯角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックであり、前記コードブックサブセットは、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、方位角方向及び仰俯角方向において互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットであり、前記ビームフォーミング制御において、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉対象に対応する方位角及び仰俯角の方向への利得が最大となる干渉ビームの使用を停止してもよい。
【0018】
前記基地局、前記システム、前記方法及び前記プログラムにおいて、前記被干渉対象は、地上又は海上に固定配置された基地局であってもよい。前記被干渉対象は、前記上空の中継通信局が搭載されている前記飛行体又は前記浮揚体の周辺に位置する別の飛行体又は浮揚体に搭載された他の上空の中継通信局であってもよい。前記被干渉対象は、衛星通信システムの衛星地上局であってもよい。前記被干渉対象は、電波天文観測局のアンテナであってもよい。
【0019】
前記複数組のコードブックサブセットの決定、前記コードブックサブセットの選択及び前記ビームの使用の停止を行うプログラムには、機械学習に用いられる学習済モデルを含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、コードブックを用いてビームフォーミング制御を行う上空の中継通信局を介して端末と通信する基地局において、被干渉対象に向けてアンテナ指向性パターンのヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施形態に係るHAPSを含む通信システムの全体構成の一例を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、実施形態のHAPSの一例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態のHAPSの他の例を示す側面図である。
【
図4】
図4は、実施形態のHAPSのサービスリンクのアレーアンテナの一例を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、実施形態のHAPSのサービスリンクのアレーアンテナの他の例を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、HAPSのアレーアンテナを用いたMU-MIMOにおけるビームフォーミングを実施する場合の課題を示す説明図である。
【
図7】
図7は、HAPSのアレーアンテナを用いたMU-MIMOにおけるビームフォーミングの一例を示す説明図である。
【
図8】
図8(a)及び
図8(b)はそれぞれ、実施形態に係るHAPS基地局の中継通信局におけるコードブックでビームフォーミング制御の候補となる水平面内及び垂直面内の複数のビームの一例を示す図である。
【
図9】
図9(a)及び
図9(b)はそれぞれ、比較参考例のコードブック制限の一例を示す説明図である。
【
図10】
図10は、実施形態に係るHAPS基地局の中継通信局におけるコードブック制限の一例を示す図である。
【
図11】
図11(a)~
図11(c)は、実施形態に係るHAPSの機体の経時的な移動及び旋回等の姿勢変化に応じた適応的なコードブック制限の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、実施形態のコードブック制限による衛星地上局への干渉の低減の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、実施形態のコードブックを用いたビームフォーミング制御における方位角方向及び仰俯角方向の複数のビーム候補の配列の一例を示す図である。
【
図14】
図14は、
図13の方位角方向における複数のビームのピーク角の一例を示す図である。
【
図15】
図15は、実施形態のコードブックを用いたビームフォーミング制御におけるコードブック制限前のビーム分布の一例を示す図である。
【
図16】
図16は、比較参考例のコードブック制限における使用停止対象のビームと、それらに対応するピークの方位角の一例を示す図である。
【
図17】
図17は、
図16のコードブック制限を行った場合のビーム分布の一例を示す図である。
【
図18】
図18は、実施形態のコードブック制限における使用停止対象のビームと、それらに対応するヌルの方位角の一例を示す図である。
【
図19】
図19は、実施形態のビームフォーミング制御で選択可能な複数のコードブックサブセットの直交グループ1~4それぞれのビーム分布の一例を示す図である。
【
図20】
図20は、実施形態で選択したコードブックサブセットの直交グループ2におけるビーム使用停止の一例を示す図である。
【
図21】
図21は、実施形態に係るHAPS基地局の中継通信局の主要構成の一例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
本書に記載された実施形態に係る基地局は、地上又は海上に向けて形成されたセル内の端末との無線通信に用いる複数の指向性ビーム(以下、単に「ビーム」ともいう。)の候補に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックを用いてビームフォーミング制御を行う多素子アンテナ(例えば、Massive MIMO等の超多素子で構成されたアレーアンテナ)を有し飛行体又は浮揚体に搭載された上空の中継通信局を介して端末と通信する広域セル基地局(以下「HAPS基地局」ともいう。)である。本実施形態のHAPS基地局の中継通信局は、コードブックで定義されるビームフォーミング制御における複数のビーム候補の直交性を着目して複数組のコードブックサブセットを決定し、その複数組のコードブックサブセットから特定のコードブックサブセットを選択して使用対象とし、更に、その選択したコードブックサブセットにおける複数のビームのうち、被干渉対象(例えば、地上若しくは海上に固定配置された基地局、周辺の飛行体若しくは浮揚体に搭載された他の上空の中継通信局、衛星通信システムの衛星地上局、又は、電波天文観測局のアンテナ)の方向への利得が最大となるビーム(干渉ビーム)の使用を停止している。これにより、HAPS基地局の中継通信局が形成するビームによる被干渉対象(例えば、衛星地上局、地上基地局等)への干渉について、被干渉対象に向けてアンテナ指向性パターンのヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果が得られる。
【0023】
図1は、実施形態に係るHAPS(上空滞在型の通信中継装置)を含む通信システムの全体構成の一例を示す概略構成図である。
図1において、本実施形態の通信システムを構成するHAPSシステムは、中継通信局が搭載された飛行体又は浮揚体である上空滞在型の通信中継装置(無線中継装置)としての高高度プラットフォーム局(HAPS)、(「高高度疑似衛星」、「成層圏プラットフォーム」ともいう。)10を備えている。HAPS10は、所定高度の空域に位置して広域セル(第1セル)としての3次元セル(以下「HAPSセル」ともいう。)100Cを形成する。HAPS10は、自律制御又は外部からの制御により地面又は海面から所定高度の空域(浮揚空域)に浮遊あるいは飛行して位置するように制御される飛行体又は浮揚体(例えば、ソーラープレーン、飛行船、ドローン、気球)に、中継通信局が搭載されたものである。なお、上空滞在型の通信中継装置は、地球低軌道(LEO)衛星、静止軌道(GEO)衛星等の人工衛星に中継通信局が搭載されたものであってもよい。また、本実施形態の通信システムは、HAPS10が通信する一又は複数の端末を含んでもよいし、ゲートウェイ局(フィーダ局)70を含んでもよい。
【0024】
HAPS10が位置する空域は、例えば、地上(又は海や湖などの水上)の高度が11[km]以上及び50[km]以下の成層圏の空域である。この空域は、気象条件が比較的安定している高度15[km]以上25[km]以下の空域であってもよく、特に高度がほぼ20[km]の空域であってもよい。
【0025】
HAPSは一般的な人工衛星の飛行高度よりも低く、地上や海上の基地局よりも高い場所を飛行するため、衛星通信よりも小さい伝搬ロスでありながら、高い見通し率を確保できる。この特徴から、HAPSから地上又は海上のセルラ携帯端末等のユーザ装置である端末装置(移動局)61に対して通信サービスを提供することも可能である。通信サービスをHAPSから提供することで、これまで多数の地上又は海上の基地局でカバーされていた広いエリアを少数のHAPSで一度にカバーできるため、低コストで安定した通信サービスを提供できるメリットがある。
【0026】
HAPS10の中継通信局は、利用者の端末(以下「UE」(ユーザ装置)という。)と無線通信するためのビームを地面(又は海面)に向けて形成することにより、UE61と無線通信可能なHAPSセル100Cを形成する。このHAPSセル100Cの地上(又は海上)におけるフットプリント100Fからなるサービスエリア(「HAPSサービスエリア」ともいう。)100Aの半径は、例えば数10[km]~100[km]である。
【0027】
なお、本実施形態において、HAPS10の中継通信局は、複数の3次元セル(例えば、3セル又は7セル)を形成し、その複数の3次元セルの地上(又は海上)における複数のフットプリントからなるサービスエリア100Aを形成してもよい。
【0028】
本実施形態の通信システムは、広域セル基地局(以下「HAPS基地局」ともいう。)を構成する上空の中継通信局を搭載したHAPS10と、地上又は海上に位置する干渉抑圧対象であるセルを形成する低位置の基地局(以下「地上セル基地局」又は「地上基地局」という。)30と、衛星通信システムの衛星地上局90とが混在した環境になっている。
図1の例では、HAPSセル100Cの内側に複数の低位置の地上基地局30のアンテナ(以下「基地局アンテナ」ともいう。)及び衛星地上局90が位置し、3次元のセル100Cのフットプリント100Fからなるサービスエリア100Aの内側に、セル100Cのフットプリント100Fよりも小さい地上基地局30のセル(以下「地上セル」という。)300Cが形成される。
【0029】
なお、地上基地局30は、多素子アンテナである基地局アンテナ310を有するRRH(遠隔無線ヘッド)とBBU(ベースバンドユニット)とを光回線で接続した構成であってもよい。この場合、
図1中の基地局30の位置に、基地局アンテナ310を有するRRHが位置する。また、基地局アンテナ310は、例えば、平板状のアンテナ基体を有し、そのアンテナ基体の平面状のアンテナ面に沿って多数のパッチアンテナなどのアンテナ素子が互いに直交する軸方向に二次配列された平面型のアレーアンテナである。
【0030】
HAPS10に搭載された中継通信局を含む広域セル基地局と、地上基地局(例えばeNodeB、gNodeB)30はそれぞれ、自局のセル100C、300Cに在圏するUE61,65との間のサービスリンクの無線通信に、互いに時間同期された無線フレーム及び同一の周波数帯を用いる。地上基地局30は、基地局アンテナを有するRRH(遠隔無線ヘッド)とBBU(ベースバンドユニット)とを光回線で接続した構成であってもよい。この場合、
図1中の基地局30の位置に、基地局アンテナを有するRRHが位置する。
【0031】
HAPS10に搭載された中継通信局は、例えば、地上(又は海上)側の移動通信網80のコアネットワークに接続され上空を向いたアンテナ71を有する中継局としてのゲートウェイ局(「フィーダ局」ともいう。)70と無線通信する基地局(例えば、eNodeB、gNodeB)である。HAPS10の中継通信局は、地上又は海上に設置されたフィーダ局70を介して、移動通信網80のコアネットワークに接続されている。HAPS10とフィーダ局70との間の通信は、マイクロ波などの電波による無線通信で行ってもよいし、レーザ光などを用いた光通信で行ってもよい。
【0032】
HAPS10に搭載された中継通信局(「無線中継局」ともいう。)は、リピータ型の中継通信局であってもよいし、又は、基地局装置型の中継通信局であってもよい。リピータ型の中継通信局は、フィーダ局70に搭載される基地局装置と組み合わされて広域セル基地局を構成する。基地局装置型の中継通信局は、広域セル基地局として機能する。
【0033】
リピータ型の中継通信局は、例えば、リピータと周波数変換装置とを有する。リピータは、サービスリンクアンテナを介して受信したサービスリンクの受信信号を増幅する低ノイズ増幅器、サービスリンクアンテナを介して送信する送信信号を増幅する電力増幅器等を有する。周波数変換装置は、サービスリンクの周波数とフィーダリンクの周波数との間の変換を行う。フィーダ局70は、例えば、基地局装置と周波数変換装置を有する。基地局装置は、サービスリンクのベースバンド信号を処理するベースバンド処理装置、バックホール回線を介してコアネットワークと通信するための通信インターフェース部等を有する。周波数変換装置は、基地局装置に対して入出力されるサービスリンク信号の周波数とフィーダリンク信号の周波数との間の変換を行う。
【0034】
基地局装置型の中継通信局は、例えば、基地局装置とフィーダリンク送受信機とを有する。基地局装置は、サービスリンクの受信信号を増幅する低ノイズ増幅器、サービスリンクアンテナを介して送信する送信信号を増幅する電力増幅器、サービスリンクのベースバンド信号処理するベースバンド処理装置などを有する。フィーダリンク送受信機は、フィーダ局70との間で送受信されるバックホール回線の信号の送信及び受信を行う。フィーダ局70は、上空の中継通信局との間で送受信されるバックホール回線の信号の送信及び受信を行う。
【0035】
HAPS10は、内部に組み込まれたコンピュータ等で構成された制御部が制御プログラムを実行することにより、自身の浮揚移動(飛行)や中継通信局での処理を自律制御してもよい。例えば、HAPS10はそれぞれ、自身の現在位置情報(例えばGPS位置情報)、予め記憶した位置制御情報(例えば、飛行スケジュール情報)、周辺に位置する他のHAPSの位置情報などを取得し、それらの情報に基づいて浮揚移動(飛行)や中継通信局での処理を自律制御してもよい。
【0036】
また、HAPS10の浮揚移動(飛行)や中継通信局での処理は、移動通信網80の通信センター等に設けられた管理装置としての管理装置(「遠隔制御装置」ともいう。)によって制御できるようにしてもよい。管理装置は、例えば、PCなどのコンピュータ装置やサーバ等で構成することができる。この場合、HAPS10は、管理装置からの制御情報を受信したり管理装置に監視情報などの各種情報を送信したりできるように制御用通信端末装置(例えば、移動通信モジュール)が組み込まれ、管理装置から識別できるように端末識別情報(例えば、IPアドレス、電話番号など)が割り当てられるようにしてもよい。制御用通信端末装置の識別には通信インターフェースのMACアドレスを用いてもよい。また、HAPS10は、自身又は周辺のHAPSの浮揚移動(飛行)や中継通信局での処理に関する情報、HAPS10の状態に関する情報や各種センサなどで取得した観測データなどの監視情報を、管理装置等の所定の送信先に送信するようにしてもよい。制御情報は、HAPSの目標飛行ルート情報を含んでもよい。監視情報は、HAPS10の現在位置、飛行ルート履歴情報、対気速度、対地速度及び推進方向、HAPS10の周辺の気流の風速及び風向、並びに、HAPS10の周辺の気圧及び気温の少なくとも一つの情報を含んでもよい。
【0037】
図2は、実施形態の通信システムに用いられるHAPS10の一例を示す斜視図である。
図2のHAPS10は、ソーラープレーンタイプのHAPSであり、長手方向の両端部側が上方に反った主翼部101と、主翼部101の短手方向の一端縁部にバス動力系の推進装置としての複数のモータ駆動のプロペラ103とを備える。主翼部101の上面には、太陽光発電機能を有する太陽光発電部としての太陽光発電パネル(以下「ソーラーパネル」という。)102が設けられている。また、主翼部101の下面の長手方向の2箇所には、板状の連結部104を介して、ミッション機器が収容される複数の機器収容部としてのポッド105が連結されている。各ポッド105の内部には、ミッション機器としての中継通信局110と、バッテリー106とが収容されている。また、各ポッド105の下面側には離発着時に使用される車輪107が設けられている。ソーラーパネル102で発電された電力はバッテリー106に蓄電され、バッテリー106から供給される電力により、プロペラ103のモータが回転駆動され、中継通信局110による無線中継処理が実行される。
【0038】
図3は、実施形態の通信システムに用いられるHAPS10の他の例を示す斜視図である。
図3のHAPS10は、無人飛行船タイプのHAPSであり、ペイロードが大きいため大容量のバッテリーを搭載することができる。HAPS10は、浮力で浮揚するためのヘリウムガス等の気体が充填された飛行船本体201と、バス動力系の推進装置としてのモータ駆動のプロペラ202と、ミッション機器が収容される機器収容部203とを備える。機器収容部203の内部には、中継通信局110とバッテリー204とが収容されている。バッテリー204から供給される電力により、プロペラ202のモータが回転駆動され、中継通信局110による無線中継処理が実行される。なお、飛行船本体201の上面に、太陽光発電機能を有するソーラーパネルを設け、ソーラーパネルで発電された電力をバッテリー204に蓄電するようにしてもよい。
【0039】
なお、以下の実施形態では、UE61と無線通信する上空滞在型の通信中継装置が、
図2のソーラープレーンタイプのHAPS10及び無人飛行船タイプのHAPS20のいずれの一方の場合について図示して説明するが、上空滞在型の通信中継装置は
図3の無人飛行船タイプのHAPS10でもよい。また、以下の実施形態は、HAPS10以外の他の上空滞在型の通信中継装置にも同様に適用できる。
【0040】
また、HAPS10とフィーダ局としてのゲートウェイ局(以下「GW局」と略す。)70との間のリンクFL(F),FL(R)を「フィーダリンク」といい、HAPS10とUE61の間のリンクを「サービスリンク」という。特に、HAPS10とGW局70との間の区間を「フィーダリンクの無線区間」という。また、GW局70からHAPS10を経由してUE61に向かう通信の下りリンクを「フォワードリンク」FL(F)といい、UE61からHAPS10を経由してGW局70に向かう通信のアップリンクを「リバースリンク」FL(R)ともいう。
【0041】
本実施形態の通信システムにおいて、地上基地局30とUE65との無線通信の上りリンク及び下りリンクの複信方式は、特定の方式に限定されず、例えば、時分割複信(Time Division Duplex:TDD)方式でもよいし、周波数分割複信(Frequency Division Duplex:FDD)方式でもよい。また、地上基地局30とUE65との無線通信のアクセス方式は、特定の方式に限定されず、例えば、FDMA(Frequency Division Multiple Access)方式、TDMA(Time Division Multiple Access)方式、CDMA(Code Division Multiple Access)方式、又は、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)であってもよい。
【0042】
同様に、中継通信局110を介したUE61との無線通信の上りリンク及び下りリンクの複信方式は、特定の方式に限定されず、例えば、時分割複信(TDD)方式でもよいし、周波数分割複信(FDD)方式でもよい。また、中継通信局110を介したUE61との無線通信のアクセス方式は、特定の方式に限定されず、例えば、FDMA方式、TDMA方式、CDMA方式、又は、OFDMAであってもよい。
【0043】
また、本実施形態のサービスリンクの無線通信には、ダイバーシティ・コーディング、送信ビームフォーミング、空間分割多重化(SDM:Spatial Division Multiplexing)等の機能を有し、多数のアンテナ素子を有するアレーアンテナを用いてマルチレイヤ伝送を行うmassive MIMO(多入力多出力:Multiple-Input Multiple-Output)伝送方式を用いている。特に、本実施形態では、HAPS10の中継通信局からセル内の複数のUE61への下りリンク通信において、複数の異なるUE61に同一時刻・同一周波数で信号を送信するMU-MIMO(Multi-User MIMO)技術を用いている。多数のアンテナ素子を有するアレーアンテナを用いてMU-MIMO伝送を行うことにより、各UE61の通信環境に応じてUE61ごとに適切なビームを向けて通信できるため、セル全体の通信品質を改善できる。また、同一の無線リソース(時間・周波数リソース)を用いて複数のUE61との通信ができるため、システム容量を拡大することができる。
【0044】
図4及び
図5はそれぞれ、本実施形態のHAPS10におけるMU-MIMO伝送方式に用いることができる多素子で構成されるアレーアンテナ130の一例を示す斜視図である。
【0045】
図4のアレーアンテナ130は、平板状のアンテナ基体を有し、そのアンテナ基体の平面状のアンテナ面に沿って多数のパッチアンテナなどのアンテナ素子130aが互いに直交する軸方向に二次元的に配列された平面型のアレーアンテナである。
【0046】
図5のアレーアンテナ130は、円筒状又は円柱状のアンテナ基体を有し、そのアンテナ基体の第1アンテナ面としての円周側面の軸方向及び周方向のそれぞれに沿って多数のパッチアンテナなどのアンテナ素子130aが配置されたシリンダー型のアレーアンテナである。
図5のアレーアンテナ130では、図示のように、第2アンテナ面としての底面に沿って複数のパッチアンテナなどのアンテナ素子130aが円形状に配置されていてもよい。また、
図5におけるアンテナ基体は、多角筒状又は多角円柱状のアンテナ基体であってもよい。
【0047】
なお、アレーアンテナ130の形状、並びに、アンテナ素子の数、種類及び配置は、
図4及び
図5に例示したものに限定されない。
【0048】
図6は、HAPS10のアレーアンテナ(以下「上空アレーアンテナ」ともいう。)130を用いたMU-MIMO伝送方式におけるビームフォーミングを実施する場合の課題を示す説明図である。
図6のHAPS10の上空アレーアンテナ130とサービスエリア100A(セル100Cのフットプリント100F)との間のサービスリンクSLにおいて、MU-MIMO伝送方式を用いて、各UE61の通信環境に応じて、各UE61(1)~61(4)に対して個別に適切な高利得のビーム100B(1)~100B(4)を向けて長距離の伝搬損失を補って通信するビームフォーミングを行うことにより、通信品質を改善することができる。特に、サービスリンクSLにおいて同一の無線リソース(例えば、同一の時間・周波数のリソースブロック(RB))を用いて複数のUE61と通信するMU-MIMO伝送方式を用いた場合は、システム容量を改善することができる。
【0049】
しかしながら、
図6のようにHAPS10と地上基地局30(1),30(2)が混在した環境において、HAPS10及び地上基地局30(1),30(2)が同一の周波数帯を利用して各セルに在圏するUE61,65と同時に通信を行う場合、HAPS10から送信した下りリンクの無線送信信号は、地上基地局30(1),30(2)と地上セル300C(1),300C(2)に在圏するUE65(1),65(2)との間のサービスリンクの通信(以下「地上システムの通信」ともいう。)に対する干渉となるおそれがある。このHAPS10からの干渉が発生すると、地上基地局30(1),30(2)とUE65との間の通信のスループットが大きく低下する。
【0050】
本実施形態では、HAPS10において、予め設定されたコードブックを用い、地上基地局の基地局アンテナの位置情報に基づいて、HAPSセル内に位置する地上基地局(アンテナ)に対してビームパターン(ビームの空間分布のプロファイル)のヌルが向くようにHAPSセルのビームフォーミング制御を行っている。これにより、HAPSセルに在圏する複数のUE61のそれぞれに対してマルチビームによって所望信号を送信する通信品質の大きな低下を発生させることなく、HAPS10が地上システムの通信に与える干渉を抑圧している。
【0051】
図7は、実施形態に係るHAPSのアレーアンテナを用いたMU-MIMOにおけるビームフォーミングの一例を示す説明図である。
図7の例では、HAPSセル100C内に位置する地上基地局(アンテナ)30及び衛星地上局70のそれぞれに対してビームパターン(ビームの空間分布のプロファイル)のヌルが向くようにHAPS10側でビームフォーミング制御を行っている。これにより、HAPS10が地上基地局(アンテナ)30の通信及び衛星通信システムの衛星地上局70の下りリンク通信に与える干渉を送信側で抑圧することができるので、地上基地局30と地上セル300C内のUE65は正常に通信することができ、また、人工衛星と衛星地上局70は正常に下りリンク通信を行うことができる。また、HAPSセルに在圏する複数のUE61(1)~61(4)のそれぞれに所望信号を送信するマルチビームは維持されるため、HAPS10から複数のUE61(1)~61(4)への下りリンク通信の通信品質の大きな低下は発生しない。
【0052】
図8(a)及び
図8(b)はそれぞれ、実施形態に係るHAPS基地局の中継通信局におけるコードブックでビームフォーミング制御の候補となる水平面内及び垂直面内の複数のビーム140の一例を示す説明図である。HAPS基地局の中継通信局とUE61との無線通信の上りリンク及び下りリンクの複信方式は、特定の方式に限定されず、例えば、時分割複信(Time Division Duplex:TDD)方式でもよいし、周波数分割複信(Frequency Division Duplex:FDD)方式でもよい。また、地上基地局30とUE65との無線通信のアクセス方式は、特定の方式に限定されず、例えば、FDMA(Frequency Division Multiple Access)方式、TDMA(Time Division Multiple Access)方式、CDMA(Code Division Multiple Access)方式、又は、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)であってもよい。
【0053】
HAPS基地局の中継通信局のサービスリンクの無線通信には、ダイバーシティ・コーディング、送信ビームフォーミング、空間分割多重化(SDM:Spatial Division Multiplexing)等の機能を有し、多数のアンテナ素子を有するアレーアンテナを用いてマルチレイヤ伝送を行うmassive MIMO(多入力多出力:Multiple-Input Multiple-Output)伝送方式を用いている。
【0054】
特に、本実施形態では、HAPS基地局の中継通信局から自セル内の複数のUE61への下りリンク通信において、複数の異なるUE61に同一時刻・同一周波数で信号を送信するMU-MIMO(Multi-User MIMO)技術を用いている。多数のアンテナ素子を有する上空アレーアンテナ130に対してコードブックを用いたビームフォーミング制御によってMU-MIMO伝送を行うことにより、各UE61の通信環境に応じてUE61ごとに適切なビームを向けて通信できるため、セル全体の通信品質を改善できる。また、同一の無線リソース(時間・周波数リソース)を用いて複数のUE61との通信ができるため、システム容量を拡大することができる。
【0055】
実施形態のHAPS基地局の中継通信局におけるビームフォーミング制御で用いるコードブックは、上空アレーアンテナ130の方位角及び仰俯角が互いに異なる複数の指向性ビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合である。例えば、移動通信の国際標準化機関の一つである3GPP(3rd Generation Partnership Project)では、離散フーリエ変換(DFT)に基づくコードブックが採用されている。
【0056】
ここで、上空アレーアンテナ130の指向性ビームの「方位角」φは、上空アレーアンテナ130の中心を通る水平面において、上空アレーアンテナ130を中心とした特定方向を基準にした指向性ビームを投影したビームの方向の角度である。上記特定方向は、例えば、上空アレーアンテナ130のアンテナ面に垂直な方向を水平面に投影した方向である。また、上空アレーアンテナ130の指向性ビームの「仰俯角」θは、上空アレーアンテナ130の中心及び指向性ビームの方向を通る垂直面において、上空アレーアンテナ130を中心とした水平方向を基準にした指向性ビームの上下方向の角度である。仰俯角θのプラス側の角度は仰角ともいい、仰俯角θのマイナス側の角度は俯角ともいう。
【0057】
コードブックを用いたビームフォーミング制御では、例えば、ユーザ装置である端末61が、基地局・ユーザ間のチャネル推定結果に基づいて、自身に最適なビームに対応するプリコーディング行列を指定する指定情報(インデックス)であるプリコーディング行列指示子(PMI:Precoding Matrix Indicator)をHAPS基地局に通知する。HAPS基地局の中継通信局は、ユーザの端末61から通知されたビーム140Cに対応するプリコーディングウェイト行列を選択し、選択したプリコーディングウェイト行列を適用して形成されるビーム140Cを用いて端末61との通信を行う。
【0058】
前述のように、無線通信における一部の周波数帯域では、互いに異なる複数の無線通信システム(例えば、第5世代の移動通信システム、固定衛星通信システム)による利用が認められているが、移動通信システムの基地局から固定衛星通信システムの衛星地上局のダウンリンクへの干渉が発生するおそれがある。特に、本実施形態のように超多素子で構成された上空アレーアンテナ130は高利得であり、干渉電力も大きくなる。
【0059】
コードブックを用いたビームフォーミング制御を行う上空の中継通信局から被干渉対象(例えば、衛星地上局、地上基地局等)への干渉を低減する方法として、コードブック制限を用いた方法がある。
【0060】
図9(a)及び
図9(b)はそれぞれ、比較参考例における水平面内のビーム(水平ビーム)に対応するコードブック制限の一例を示す説明図である。
図9(a)の方法は、HAPS基地局における上空の中継通信局のビームフォーミング制御において、コードブックで定義されている複数の水平ビーム140のうち被干渉対象の方向(以下「被干渉方向」ともいう。)を向いている単一のビーム140Sの利用を停止する方法である。この方法では、被干渉方向に対応するビーム140Sを停止することで、わずかな干渉低減効果が得られる。しかしながら、利用を停止するビーム140S以外の他のビーム140のサイドローブが被干渉方向にも放射されるので、干渉低減効果は限定的である。
図9(b)の方法は、HAPS基地局における上空の中継通信局のビームフォーミング制御において、コードブックで定義されている複数の水平ビーム140のうち被干渉対象の方向(被干渉方向)を向いているビームを含む連続する複数のビーム140Sの利用を停止する方法である。この方法では、隣接する複数のビーム140Sを停止することで、サイドローブに起因する干渉を低減することができる。しかしながら、サイドローブを完全に抑圧できないので、干渉低減効果は数dB程度にとどまる。
図9(a)及び
図9(b)の比較参考例におけるコードブック制限を利用した方法では、被干渉対象に向けてアンテナ指向性パターンのヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果は得られない。
【0061】
そこで、本実施形態のHAPS基地局の中継通信局では、ビームフォーミング制御において利用を停止するビームの選択を工夫したコードブック制限により、被干渉対象に向けてアンテナ指向性パターンのヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果を得ている。ここで、上記被干渉対象は、例えば、衛星地上局90又は地上基地局30である。上記被干渉対象は、当該上空の中継通信局が搭載されているHAPSの周辺に位置する別のHAPS等の飛行体又は浮揚体に搭載された他の上空の中継通信局であってもよく、又は、電波天文観測局のアンテナであってもよい。
【0062】
例えば、コードブックに基づくビームフォーミングを利用する上空の中継通信局を有するHAPS基地局を備える無線通信システムにおいて、コードブックの一部の使用を制限することにより、上空アレーアンテナ130から特定の被干渉方向に対するトラフィックCH(チャネル)の干渉を低減する。
【0063】
本実施形態のビームフォーミング制御に用いられる、上空アレーアンテナ130を中心とした方位角及び仰俯角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックを制限するコードブック制限の方法では、次の(A1)~(A4)を行う。
【0064】
(A1)予め設定されたコードブックに基づき、互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットを決定する。
【0065】
(A2)上空の中継通信局を搭載するHAPS10の位置及び姿勢の少なくとも一方に基づいて、複数組のコードブックサブセットから、ビームフォーミング制御に用いるコードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを選択する。
【0066】
(A3)ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止する。
【0067】
(A4)更に、ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉方向への利得が最大となるビーム(干渉ビーム)の使用を停止する。
【0068】
また、本実施形態のビームフォーミング制御に用いられる、上空アレーアンテナ(多素子アンテナ)130を中心とした方位角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックを制限する水平コードブック制限の方法では、次の(B1)~(B4)を行う。
【0069】
(B1)予め設定されたコードブックに基づき、方位角方向において互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットを決定する。
【0070】
(B2)上空の中継通信局を搭載するHAPS10の位置及び姿勢の少なくとも一方に基づいて、複数組の水平コードブックサブセットから、水平面内のビームフォーミング制御に用いる水平コードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなる水平コードブックサブセットを選択する。
【0071】
(B3)水平面内のビームフォーミング制御において、前記選択した水平コードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止する。
【0072】
(B4)更に、水平面内のビームフォーミング制御において、前記選択した水平コードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉方向への利得が最大となるビーム(干渉ビーム)の使用を停止する。
【0073】
また、本実施形態のビームフォーミング制御に用いられる、上空アレーアンテナ130を中心とした仰俯角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックを制限する垂直コードブック制限の方法では、次の(C1)~(C4)を行う。
【0074】
(C1)予め設定されたコードブックに基づき、互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組の垂直コードブックサブセットを決定する。
【0075】
(C2)上空の中継通信局を搭載するHAPS10の位置及び姿勢の少なくとも一方に基づいて、複数組の垂直コードブックサブセットから、垂直面内のビームフォーミング制御に用いる垂直コードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなる垂直コードブックサブセットを選択する。
【0076】
(C3)垂直面内のビームフォーミング制御において、前記選択した垂直コードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止する。
【0077】
(C4)更に、垂直面内のビームフォーミング制御において、前記選択した垂直コードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉方向への利得が最大となるビーム(干渉ビーム)の使用を停止する。
【0078】
図10は、実施形態に係るHAPS10の中継通信局におけるコードブック制限の一例を示す説明図である。本実施形態のコードブック制限の方法では、例えば
図10に示すように、予め設定されたコードブックに基づいて、互いに直交する複数の水平ビーム141(1)~141(7)に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを、ビームフォーミング制御で利用可能な対象として選択し、更に、その選択したコードブックサブセットに対応する複数の水平ビーム141(1)~141(7)のうち被干渉対象の方向への利得が最大となるビーム(干渉ビーム)141(4)Sの使用を停止するように、コードブック制限を行う。このようにコードブック制限を行うだけで、被干渉対象の方向に向けて完全なヌルを形成することができる。前述のように異なる通信事業者間又は隣国間の干渉調整では厳しい基準が設けられるが、本実施形態のHAPS基地局の中継通信局では被干渉方向に完全なヌルを向けることができ、与干渉を最小限にとどめることができる。
【0079】
上空のHAPS10の機体が経時的に移動したり旋回等によって経時的に姿勢が変化したりすると、HAPS基地局の中継通信局から見て被干渉対象の衛星地上局90が存在する方位角方向(被干渉方向)が変化する。本実施形態では、この方位角方向(被干渉方向)の変化に応じて、上記(A2)等において、上空の中継通信局を搭載するHAPS10の位置及び姿勢の少なくとも一方に基づき、被干渉方向への利得が最大となる干渉ビームを判断し、その干渉ビームを含むコードブックサブセットを適応的に選択し、干渉ビームの使用を停止(制限)している。
【0080】
図11(a)~
図11(c)は、実施形態に係るHAPS10の機体の経時的に変化する移動・姿勢に応じた適応的なコードブック制限の一例を示す図である。例えば、
図11(a)の時刻t1では、HAPS10の機体が図中上方向を向き、HAPS10の右後方に被干渉対象の衛星地上局90が存在するので、その衛星地上局90の方向(被干渉方向)を向いているビーム141(6)(
図10参照)の使用を停止(制限)してビームフォーミング制御を行う。また、
図11(b)の時刻t2では、HAPS10の機体が図中右回転方向に旋回し、HAPS10の右側方に被干渉対象の衛星地上局90が存在するので、その衛星地上局90の方向(被干渉方向)を向いているビーム141(4)(
図10参照)の使用を停止(制限)してビームフォーミング制御を行う。また、
図11(c)の時刻t3では、HAPS10の機体が更に図中右回転方向に旋回し、HAPS10の右前方に被干渉対象の衛星地上局90が存在するので、その衛星地上局90の方向(被干渉方向)を向いているビーム141(2)(
図10参照)の使用を停止(制限)してビームフォーミング制御を行う。
【0081】
図12は、実施形態の水平コードブック制限による衛星地上局90への干渉の低減の一例を示す図である。前記選択した水平コードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、
図12に示すようにHAPS10の上空アレーアンテナ130から見て衛星地上局90が存在する方位角方向のビーム141Sの使用を制限することにより、HAPS基地局の中継通信局から衛星地上局90への干渉低減効果を高めることができる。
【0082】
図12(b)は、実施形態の垂直コードブック制限による衛星地上局への干渉の低減の一例を示す図である。前記選択した垂直コードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、
図4(b)に示すようにHAPS10の上空アレーアンテナ130から見て衛星地上局90が存在する仰俯角方向のビーム141Sの使用を制限することにより、HAPS基地局の中継通信局から衛星地上局90への干渉低減効果を高めることができる。
【0083】
図13は、本実施形態のコードブックを用いたビームフォーミング制御における方位角方向及び仰俯角方向の複数のビーム候補の配列の一例を示す図である。
図14は、
図13の方位角方向における複数のビームのピーク角の一例を示す図である。表1は、コードブックにおいて方位角及び仰俯角それぞれのピーク角が互いに異なる複数のビーム(本例では、方位角方向に32個かつ仰俯角方向に8個で合計256個のビーム)の候補を定義するためのパラメータの値の例である。表1中の「CSI-RSポート構成」は、チャネル状態情報参照信号(CSI-RS)で情報が伝送される水平方向及び垂直方向のアンテナポートの構成である。本例において、本実施形態のHAPS10の中継通信局は、表1の構成のコードブックで定義された合計256個のビームの候補(
図13及び
図14参照)のうち、端末61から受信したPMIによって指定されたビームを端末61に向けて形成するように、ビームフォーミング制御を行うことができる。
【表1】
【0084】
図15は、本実施形態のコードブックを用いたビームフォーミング制御におけるコードブック制限前のビーム分布の一例を示す図である。
図15のコードブック制限前の例では、水平面内において方位角のピーク角が互いに異なる32個のビーム140(1)~140(32)が部分的に重なるように分布する。
【0085】
図16は、比較参考例のコードブック制限における使用停止対象のビームと、それらに対応するピークの方位角の一例を示す図である。
図17は、
図16のコードブック制限を行った場合のビーム分布の一例を示す図である。
図16及び
図17の比較参考例では、
図8の32個のビーム140(1)~140(32)のうち、被干渉対象の方向への利得が最大となるビーム(干渉ビーム)140(30)(ビーム番号=31)を含む連続した4個のビーム140(28)(ビーム番号=28)~140(31)(ビーム番号=31)の利用を制限(停止)した状態で、ビームフォーミング制御を行う。このように連続するビーム140(28)~140(31)の利用を制限しても、
図17中の矢印幅Dで示すように数dB程度の干渉低減効果しか得られない。
【0086】
図18は、本実施形態のコードブック制限における使用停止対象のビームと、それらに対応するヌルの方位角の一例を示す図である。
図19は、本実施形態のビームフォーミング制御で選択可能な複数のコードブックサブセットの直交グループ1~4それぞれのビーム分布の一例を示す図である。
図20は、本実施形態で選択したコードブックサブセットの直交グループ2におけるビーム使用停止の一例を示す図である。
図18~
図20の例では、ビーム間の直交性に基づいて制限するビームの選択を行うことで、被干渉対象に向けたヌルフォーミングによる大幅な干渉低減を実現している。ビーム間の直交性を利用したコードブック制限法では、次の(D1)~(D4)を行う。
【0087】
(D1)まず、予め設定されたコードブックに基づき、互いに直交する複数のビーム(本例では、ビーム番号が4ずつ離れた8ビーム)に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした4組のコードブックサブセット(
図19の直交グループ1~4参照)を決定する。
【0088】
(D2)次に、4組のコードブックサブセット(
図19の直交グループ1~4)から、ビームフォーミング制御に用いるコードブックサブセットとして、
図18に示すように、被干渉対象の方向(方位角55°の方向)への利得が最大となるビーム(干渉ビーム)141(30)を含む互いに直交する8個のビーム141(2),141(6),141(10),141(14),141(18),141(22),141(26),141(30)に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセット(
図19におけるビーム141(2-1)~ビーム141(2-8)に対応する直交グループ2)を選択する。
【0089】
(D3)次に、ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット(直交グループ2)以外の未選択のコードブックサブセット(直交グループ1、3、4)に対応する複数のビームの利用を停止(制限)する。
【0090】
(D4)更に、ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット(直交グループ2)に対応する8個のビームのうち、被干渉方向(方位角55°の方向)への利得が最大となるビーム(干渉ビーム)141(30)(
図20では、ビーム141(2-8))の利用を停止(制限)し、他の7個のビーム141(2),141(6),141(10),141(14),141(18),141(22),141(26)(
図20では、ビーム141(2-1)~141(2-7))を利用する。
【0091】
図18~
図20のコードブック制限を行ってビームフォーミング制御を行うことにより、特定方向(図示の例では、方位角55°の方向)に位置する被干渉対象(例えば、国内又は国外に位置する衛星地上局90、地上基地局、海上基地局、当該HAPS基地局の中継通信局の周辺に位置する別のHAPS等の飛行体若しくは浮揚体に搭載された他の上空の中継通信局、又は、電波天文観測局のアンテナ)に向けて上空アンテナ130のアンテナ指向性のヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果を得ることができる。
【0092】
図21は、実施形態に係るHAPS10の中継通信局110の主要構成の一例を示す機能ブロック図である。
図21において、中継通信局110は、コードブックサブセット決定部1101と、コードブックサブセット選択部1102と、特定ビーム使用停止部1103と、ビームフォーミング制御部1104とを備える。コードブックサブセット決定部1101は、前述の(A1)、(B1)、(C1)又は(D1)における複数組のコードブックサブセットの決定を行う。コードブックサブセット選択部1102は、前述の(A2)、(B2)、(C2)又は(D2)における複数組のコードブックサブセットの選択を行う。特定ビーム使用停止部1103は、前述の(A3)及び(A4)、(B3)及び(B4)、(C3)及び(C4)、又は、(D3)及び(D4)における特定のビームの使用の停止(制限)を行う。ビームフォーミング制御部1104は、特定ビーム使用停止部1103で特定のビームの使用が停止(制限)された後の選択コードブックサブセットと端末61から受信したプリコーディング行列指示子(PMI)とに基づいてビームフォーミング制御を行い、端末61との間の通信を行う。
【0093】
コードブックサブセット選択部1102は、前述の(A2)、(B2)、(C2)又は(D2)における複数組のコードブックサブセットの選択を、HAPS10の中継通信局110の位置及び姿勢に基づいて行う。ここで、HAPS10の中継通信局110の位置の情報は、例えば、HAPS10の本体又は中継通信局110に搭載されたGPS(Global Positioning System)受信機などのGSNN(Global Navigation Satellite System)受信機等の位置測定装置から取得することができる。HAPS10の中継通信局110の位置の情報は、HAPS10の本体又は中継通信局110に搭載され、予め設定された時系列の飛行ルート情報及び現在時刻情報に基づいて現在位置を算出する位置測定装置から取得してもよい。また、HAPS10の中継通信局110の姿勢の情報は、例えば、HAPS10の本体又は中継通信局110に搭載された2軸又は3軸の加速度センサ、角速度センサ(ジャイロスコープ、ジャイロセンサ)、地磁気センサ、又は、それらの2以上を組み合わせた姿勢測定装置から取得することができる。
【0094】
なお、上記実施形態では、HAPS10の中継通信局110からの干渉を受ける被干渉対象が単一の場合、すなわち、中継通信局110におけるビームフォーミング制御で選択した選択コードブックサブセットで使用を停止(制限)するビームが単一の場合について説明したが、被干渉対象は複数であってもよい。この場合、選択コードブックサブセットに対応する複数のビームのうち複数の被干渉対象それぞれの方向への利得が最大となる複数のビーム(干渉ビーム)の使用を停止するように、コードブック制限を行う。例えば、前述の
図10において、選択コードブックサブセットに対応する複数の水平ビーム141(1)~141(7)のうち中央のビーム141(4)Sと両端の2つのビーム141(1),141(7)の使用を停止するように、コードブック制限を行ってもよい。
【0095】
また、実施形態に係るシステムは、上記コードブック制限を伴うビームフォーミング制御を行う一又は複数の中継通信局110を有するHAPS10を複数備える。また、実施形態に係るシステムは、上記コードブック制限を伴うビームフォーミング制御を行う一又は複数の中継通信局110を有するHAPS10と、被干渉対象である衛星地上局90、地上基地局30、海上基地局、当該HAPS基地局の中継通信局の周辺に位置する別のHAPS等の飛行体若しくは浮揚体に搭載された他の上空の中継通信局、又は、電波天文観測局のアンテナとを備えるように構成してもよい。また、実施形態に係るシステムは、上記コードブック制限を伴うビームフォーミング制御を行う一又は複数の中継通信局110を有するHAPS10と、被干渉対象である衛星地上局90、地上基地局30、海上基地局、当該HAPS基地局の中継通信局の周辺に位置する別のHAPS等の飛行体若しくは浮揚体に搭載された他の上空の中継通信局、又は、電波天文観測局のアンテナと、HAPS10の中継通信局110と通信する端末61とを備えるように構成してもよい。
【0096】
以上、本実施形態によれば、コードブックを用いてビームフォーミング制御を行うHAPS10上空の中継通信局110を介して端末と通信するHAPS基地局において、被干渉対象に向けてアンテナ指向性パターンのヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果を得ることができる。
【0097】
特に、本実施形態によれば、HAPS10の上空の中継通信局110から衛星地上局90のダウンリンクへの干渉について、衛星地上局90に向けて上空の中継通信局110のアンテナ指向性のヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果を得ることができる。
【0098】
また、本実施形態によれば、HAPS10の上空の中継通信局110から地上基地局30への干渉について、地上基地局30又は海上に設置された基地局に向けて上空の中継通信局110のアンテナ指向性のヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果を得ることができる。
【0099】
また、本実施形態によれば、上空にHAPS10を含めて複数のHAPSが存在するような場合に、HAPS10の中継通信局110の周辺に位置する別のHAPSに搭載された他の上空の中継通信局に向けて上空の中継通信局110のアンテナ指向性のヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果を得ることができる。
【0100】
また、本実施形態によれば、HAPS10の上空の中継通信局110から電波天文観測局のアンテナへの干渉について、電波天文観測局のアンテナに向けて上空の中継通信局110のアンテナ指向性のヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果を得ることができる。
【0101】
本発明は、被干渉対象に向けてアンテナ指向性のヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果を得ることができる基地局、システム、方法及びプログラムを提供できるため、持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成に貢献できる。
【0102】
なお、本明細書で説明された処理工程並びに移動通信の基地局、衛星通信の地球局、通信中継装置の中継通信局、フィーダ局、ゲートウェイ局、管理装置、監視装置、遠隔制御装置、サーバ、端末装置(UE:ユーザ装置、移動局、通信端末)、基地局及び基地局装置の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0103】
ハードウェア実装については、実体(例えば、中継通信局、フィーダ局、ゲートウェイ局、基地局、基地局装置、中継通信局装置、端末装置(UE:ユーザ装置、移動局、通信端末)、管理装置、監視装置、遠隔制御装置、サーバ、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において前記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレー(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0104】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、前記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された前記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0105】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であればよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【0106】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0107】
10 :HAPS
30 :地上基地局(地上セル基地局)
61 :端末
70 :フィーダ局(GW局)
71 :アンテナ
80 :移動通信網(ネットワーク)
90 :衛星地上局
100A :サービスエリア
100B :ビーム
100C :HAPSセル(3次元セル)
100F :フットプリント
110 :中継通信局
130 :アレーアンテナ(サービスリンクアンテナ)
130a :アンテナ素子
130 :基地局アンテナ(アレーアンテナ)
140 :コードブックのビーム
141 :選択コードブックサブセットのビーム
141S :干渉ビーム(使用停止のビーム)
300C :地上セル
【要約】
【課題】コードブックを用いてビームフォーミング制御を行う上空の中継通信局を介して端末と通信する基地局において、被干渉対象に向けてアンテナ指向性パターンのヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果を得る。
【解決手段】基地局は、上空の中継通信局の位置及び姿勢の少なくとも一方に基づいて、複数組のコードブックサブセットから、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを選択し、ビームフォーミング制御において、選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち前記干渉ビームの使用を停止する。
【選択図】
図10