(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】腸のマイクロバイオームの乱れた組成又は機能に伴う障害を処置するためのプレバイオティック
(51)【国際特許分類】
A61K 31/715 20060101AFI20240607BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240607BHJP
A61K 36/28 20060101ALI20240607BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240607BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240607BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240607BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240607BHJP
A61P 5/50 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
A61K31/715
A23L33/105
A61K36/28
A61P1/00
A61P3/00
A61P3/04
A61P3/10
A61P5/50
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023039424
(22)【出願日】2023-03-14
(62)【分割の表示】P 2021509965の分割
【原出願日】2018-09-07
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】520193161
【氏名又は名称】ニュートリリーズ ビー.ヴイ.
【氏名又は名称原語表記】NUTRILEADS B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100206944
【氏名又は名称】吉川 絵美
(72)【発明者】
【氏名】アルバース, ルード
(72)【発明者】
【氏名】ツゾウマキ, マリア
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/148277(WO,A1)
【文献】Carbohydrate Polymer,2016年,Vol.136,p.1074-1084
【文献】Molecules,2017年,Vol.22, 699,p.1-13
【文献】Carbohydrate,2016年,Vol.146,p.187-196
【文献】Obesity Facts,2018年05月,Vol.11, Suppl. 1,p.85, T1P63
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における腸のマイクロバイオームの乱れた組成又は機能に伴う障害の治療的又は予防的処置のためのプレバイオティック組成物の製造における、ラムノガラクツロナンI(RG-I)多糖の使用であって、前記障害が、体重過多、肥満症、インスリン抵抗性、及び腸のバリア機能不全から選択され、
前記組成物が、前記対象に経口投与されるものであり、前記組成物が、乾物で少なくとも0.1重量%の
、チコ
リを起源とするRG-I多糖を含有し、前記RG-I多糖が、15kDaを超える分子量を有し、ガラクツロン酸残基及びラムノース残基からなる主鎖を有し、前記ラムノース残基が、アルファ(1→4)-ガラクツロン-アルファ(1→2)-ラムノース残基に含有され、前記RG-I多糖の、ガラクツロン酸残基のラムノース残基に対するモル比が、20:1~1:1の範囲内にある、使用。
【請求項2】
前記組成物が、1日当たり体重1kgにつき少なくとも1mgのRG-I多糖を付与する量で少なくとも3日間、前記対象により摂取される、請求項1に記載のRG-I多糖の使用。
【請求項3】
前記RG-I多糖が、前記プレバイオティック組成物に存在するペクチン多糖の少なくとも20重量%を占める、請求項1又は2に記載のRG-I多糖の使用。
【請求項4】
前記RG-I多糖の、ガラクツロン酸残基のラムノース残基に対するモル比が、15:1を超
えない、請求項1~3のいずれか一項に記載のRG-I多糖の使用。
【請求項5】
前記RG-I多糖の、アラビノース残基のラムノース残基に対するモル比が、30:1を超えない、請求項1~4のいずれか一項に記載のRG-I多糖の使用。
【請求項6】
前記RG-I多糖の、ガラクトース残基のラムノース残基に対するモル比が、30:1を超えない、請求項1~5のいずれか一項に記載のRG-I多糖の使用。
【請求項7】
前記RG-I多糖の、前記ガラクツロン酸残基の85%未満が、メチルエステルの形態にエステル化されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のRG-I多糖の使用。
【請求項8】
前記対象が、代謝障害に罹っている又は罹るリスクにある、請求項1~
7のいずれか一項に記載のRG-I多糖の使用。
【請求項9】
前記対象が、腸のバリア機能不全に罹っている又は罹るリスクにある、請求項1~
7のいずれか一項に記載のRG-I多糖の使用。
【請求項10】
前記組成物がドリンク、カプセル、錠剤、粉末、バー及びスプレッドから選択される、請求項1~
9のいずれか一項に記載のRG-I多糖の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の技術分野】
【0001】
本発明は、対象における、腸のマイクロバイオームの乱れた組成又は機能に伴う障害の治療的又は予防的処置の方法であって、障害が、代謝障害及び腸のバリア機能不全から選択され、前記方法が、プレバイオティック組成物を対象に経口投与することを含み、前記プレバイオティック組成物が、果実、ニンジン、マメ(pea)、チコリ又はテンサイを起源とするラムノガラクツロナンI(RG-I)多糖を含有する、方法に関する。
【0002】
本発明は、更に、前述した処置方法における使用に好適なプレバイオティック組成物及びシンバイオティック組成物に関する。
【発明の背景】
【0003】
腸管微生物叢とヒトの健康との関係が一層認められつつある。現在では、健康な腸管微生物叢が宿主の総体的健康を広く左右することが確立されている。
【0004】
宿主であるヒトは、消化、代謝及び免疫機能の調整において重要な役割を果たし且つ胃腸管を超えて著しい影響を有する微生物群の大規模で多様なエコシステムに、生息場所及び栄養物を提供している。微生物群の多様性及び機能における変化は、宿主の健康に対して広範囲な結果を伴い、機能性腸障害、炎症性腸疾患、並びに他の免疫媒介性疾患(セリアック病、アレルギー)及び代謝状態(2型糖尿病、NASH)を含む多くの障害と関連している。
【0005】
細菌叢異常(細菌叢異常症とも呼ばれる)は、体表面又は体内の、微生物の不均衡又は適応不良、例えば不良な微生物叢を表す用語である。例えば、宿主の一定の表面積を占める細菌群、例えば腸管微生物叢、皮膚微生物叢又は膣微生物叢は、正常であれば優位を占める種が過小となるように、正常であれば排除される又は抑制される種が望ましくないレベルまで増加するように、修正/変更されることになりうる。そのような群における細菌の集まりは、まとめて微生物叢と呼ばれる。酵母、真菌、ウイルスを含む他の微生物と一緒の局所的微生物叢と、そのような微小環境に住む寄生生物とは、合わせてマイクロバイオームと呼ばれる。細菌叢異常は、微生物叢における不均衡に限定されず、マイクロバイオームにおける他の微生物(例えばウイルス、古細菌及び真菌)もまた包含しうる。
【0006】
マイクロバイオームが、細菌叢正常と呼ばれるようによく均衡がとれているとき、特定の微小環境を占める微生物は、局所的条件によく適合している多少なりとも安定な群を形成し、利用可能な基質の生存代謝能力を有し、ストレッサー及び基質利用性の調整に効率よく対処し、且つ群のメタ安定性及びその宿主の長期の健康に寄与する適切な制御機序を有する。
【0007】
細菌叢異常は、最も一般的には、胃腸管の状態として研究されているが、細菌叢異常は、微生物群が生息する任意の体腔、粘膜及び皮膚表面に影響を及ぼしうる。
【0008】
細菌叢異常は、宿主の病気に関連しており、腸の細菌叢異常は、例としては、炎症性腸疾患、慢性疲労症候群、肥満、がん、心血管代謝状態、インスリン非感受性、(前)糖尿病、細菌性膣症及び大腸炎に関連している。
【0009】
微生物叢の組成及び安定性は、宿主の遺伝的背景によって、又は例えば宿主の食事、ライフスタイル、医薬品(例えば抗生物質)の使用若しくは発達段階(年齢)を含む環境条件若しくはストレッサーによって影響される。これは、宿主と、局所的微生物エコシステムの主な構成要素との間の永久的且つ複合的な相互作用であると解釈される。これらの構成要素には、微生物叢、宿主の免疫系、局所的上皮バリア、及び腸管の事例では腸内神経系が挙げられる。
【0010】
新生児の微生物叢は、誕生以降にそれ自体を確立し、生活の1週間及び1か月間に著しく変動して、3~4歳のころに中心的な成人の微生物叢に近くなる。腸管の、この段階的な微生物の定着は、宿主の免疫系及び腸内神経系、腸管バリア及び機能、並びに宿主の代謝プログラミングの育成及び成熟にとって重要であり、これは、短期間への影響を有し、且つ後に、生活の健康状態及び疾患のリスクに影響を有する。新生児の微生物叢は、母親の食事及び微生物叢によって、送達方法によって、幼児の栄養物(母乳若しくは調整粉乳)及び周囲の環境条件によって、影響される。
【0011】
対照的に、健康な成人の中心的な微生物叢は、多様なストレッサー(例えば抗生物質又は医薬品の使用)によって乱されたときに、微生物叢の回復力として示される、健康な対象におけるその元々の組成に近いものに戻るという意味において、より安定である。多様性の損失、有益な微生物の不在又は低含量、及び回復力の低下は、全て、疾患を伴う。
【0012】
加齢の又は高齢の対象の微生物叢は、組成の変化によって、健康な成人の個体群における微生物叢よりも多様であり、細菌多様性の低下、有益な微生物の減少、及び回復力の低下へと至らせる。これらの変化の全ては、健康状態における変化を伴う。
【0013】
微生物叢は、空間及び源/栄養素を競うきわめて多様な種から構成されるが、それは、それらのそれぞれの発酵生成物を用いて互いに食物を与えることもでき、そのようにして、健康な状態において、宿主である哺乳動物とのシンバイオシスにおいて生きる、微生物のコンソーシアムへと導く。腸の微生物叢内の微生物の高い多様性が宿主の健康にとって有益であると考えられ、その理由は、多様性が、腸の微生物叢を乱す因子(例えば抗生物質、食事の変更、新しい種の侵入)に対して、より回復力に富ませるためである。また重要なのは、微生物のコンソーシアムであり、即ち、互いの発酵生成物の食物を与え且つ利用可能な基質を用いる特定の微小環境において(例えば粘液、細胞放出及び食事から)活発に増殖する多少なりとも安定なエコシステムを合わせて形成する、種々の微生物のメタ安定な組み合わせである。
【0014】
体表面又は体内で見出される典型的な微生物の種は、ほとんど有益である又は無害である。病原性共生生物又は病原体でさえもまた、それらが臨界値を下回ったままである限り、「正常な」微生物叢の一部である。哺乳動物の腸の微生物叢は、消化を助ける、食物からエネルギーを生成する、特定の(ミクロ)栄養素を宿主に付与する、短鎖脂肪酸等の重要な代謝産物を生成する、並びに宿主の免疫系を育成する(新生児及び幼児)又は維持する(成人)等の、一連の有益かつ必要な機能を実行する。それらはまた、入ってくる病原性微生物又は毒性化合物から体を防御することも助ける。
【0015】
微生物の種はまた、多くの種々のタイプの廃棄性副生成物を排泄する。種々の廃棄物徐去の機構を用いて、正常な状況下で、体は、これらの副生成物をほとんどトラブルなく又は全くトラブルなく効率的に管理する。不運にも、大きすぎる微生物の個体群、及びそれらの数が増えたことによる微生物の種の不適切な優勢性は、増加した量のこれらの副生成物を排泄する。微生物の副生成物の量が増加するにつれ、より高い排泄性副生成物レベルが、体の排泄物除去の機構に重荷となりうる。この例は、タンパク質発酵からのアンモニア形成であり、これは、宿主にとって有害な化合物へと更に発酵されうる。
【0016】
細菌叢異常に罹っている対象で観察される負の健康的症状のうちの多くを引き起こすのは、特定の微生物の種の相対的優勢性又は過小性、微生物の代謝産物の低密度及び/又は生成の乱れである。
【0017】
プロバイオティクス及び/又はプレバイオティクスを消費すると、腸の微生物叢に、好ましい影響を有することができる。
【0018】
プロバイオティクスは、「適切な量で投与されたとき、宿主に健康の利益を授ける生きた微生物」である(世界保健機関の定義)。
【0019】
プレバイオティクスは、群における1つの又は限定された数の微生物の種の増殖及び/又は活性を選択的に刺激することによって宿主に有益に影響を及ぼす非消化性食品成分である。
【0020】
最も知られたプレバイオティクスは、グリコシド結合によって結合された同一の糖(例えばフルクトース、ガラクトース又はアラビノース)の単純なオリゴマーである。これらは、これらの相対的に単純な基質を(急速に)発酵させ、短鎖脂肪酸等の有益な代謝産物を生成する代謝能力を有する微生物の種の選択的増殖を刺激する。そのような発酵されやすい基質の使用の典型的な副作用には、腸の不快感、鼓腸及び逆流が挙げられる。これらの副作用は、ガスの急速な発酵生成によって引き起こされる。
【0021】
ペクチンは、陸生植物の一次細胞壁に存在する構造的なヘテロ多糖である。
ペクチン多糖は、様々な量の多糖成分:
(i)ホモガラクツロナン(HG)、
(ii)キシロガラクツロナン(XG)、
(iii)アピオガラクツロナン(AG)、
(iv)ラムノガラクツロナン-I(RG-I)、及び
(v)ラムノガラクツロナン-II(RG-II)
を含む多糖の異種群である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】は、前述した4種の多糖成分を含む、ペクチン多糖の構造の模式図を提供する。多糖成分HG、XG及びRG-IIが、典型的には、ペクチン多糖のごく一部を占めるのみであることが特記される。
【0023】
多糖成分HG、XG及びRG-IIはそれぞれ、α-(1-4)-結合D-ガラクツロン酸単糖単位の直鎖からなる主鎖を含む。
【0024】
RG-Iのみが、繰り返しの二糖単位4)-α-D-ガラクツロン酸-(1,2)-α-L-ラムノース-(1の直鎖からなる主鎖を含む。RG-Iの構造の模式図を
図2に示す。
【0025】
ペクチン多糖の組成及び微細構造は、植物源及び適用される抽出条件に応じて広く多様である。ホモガラクツロナンドメインは、最大約100の連続するD-GalA残基の長さを有することができる。側鎖を含有するRG-Iドメインは、通常、「枝分かれした領域」又は「毛様領域」と呼ばれ、その一方でホモガラクツロナンドメイン(2つのRG-Iドメイン同士の間)は、典型的にはオリゴ糖で置換されない。
【0026】
RG-IのGalA残基は、1位及び4位を介してRha残基に結合し、その一方でRha残基は、アノマー位及び2-OH位を介してGalA残基に結合する。一般に、Rha残基の約20~80%が、中性及び酸性の側鎖を有し、(植物源及び単離方法に応じて)4-OH位において分枝状である。これらの側鎖は、多様な方法で結合されたAra及びGal残基から主になり、アラビノガラクタン-I(AG-I)及び/又はAG-IIとして知られるポリマーを構成する。AGIは、アルファ-L-アラビノシル基の3-OHでの置換を有するベータ-(1,4)-結合D-Gal主鎖からなり、このGal主鎖は、間隔が空いたアルファ(1,5)-L-Ara単位を有することができる。AG-IIは、外部に短い(1,6)-結合鎖の置換を有する主に内部のベータ(1,3)-結合D-Galを有する高度に枝分かれしたガラクタンからなる。(1,6)-結合鎖は、(1,3)-及び/又はアルファ(1,5)-結合L-Araの更なる結合を有する。オリゴ糖側鎖は、直鎖状であっても分枝状であってもよく、これらの側鎖のうちのいくつかは、アルファ-L-フコシド残基、ベータ-D-グルクロニド残基及び4-O-メチルベータ-D-グルコロニル残基で末端化させることができる。
【0027】
Gomezら(Prebiotic potential of pectins and pectic oligosaccharides derived from lemon peel wastes and sugar beet pulp:A comparative evaluation、Journal of Functional Foods、第20巻、2016年1月、108~121頁)は、そこでテンサイパルプ(SBP)及びレモンの皮の廃棄物(LPW)が使用されてペクチンオリゴ糖の2種の混合物(それぞれ、SBPOS及びLPOSと示される)が得られた、研究の結果を記載した。プレバイオティック効果を引き起こすための、ペクチンオリゴ糖、SBP及びLPWからのペクチン、並びに市販のFOSの好適性を、ヒトの便の接種菌液及び8種の種々の細菌プローブを使用して、インビボ発酵及び蛍光in situハイブリダイゼーションによって比較した。ビフィドバクテリウム属(bifidobacteria)とラクトバチリー(lactobacilli)とを合わせた個体群は、それぞれ、LPOS、SBPOS及びFOSでの培養において、19%から、29%、34%及び32%まで増加した。フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)及びロセブリア(Roseburia)のカウントもまた、全ての基質で(特にLPOSで)増加した。有機酸の最大濃度は、オリゴ糖を含有する培地において観察された。著者らによれば、この作用は、ペクチンオリゴ糖が、ペクチンよりも良好なプレバイオティック特性を提示すること、且つFOSと同様である又はより良好であることを確認している。
【0028】
Chatterjeeら(Effect of Fruit Pectin on Growth of Lactic Acid Bacteria、J Prob Health 2016、4:2)は、そこで異なるタイプの果実廃棄物[(バナナ(Musa sp.)及びスイートレモン(Citruus limetta)及びスイカ(Citrullus lanatus)の皮、並びにトマト(Solanum lycopersicum)及びグアバ(Psidium guajava)の腐らせた果実]から抽出されたペクチンの、乳酸菌(LAB)及びビフィドバクテリウム属[ラクトバチルス・カセイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・アシドフィルス(L.acidophilus)及びビフィドバクテリウム・ビフィドゥム(Bifidobacterium bifidum)]の増殖に対する効果が試験された研究を報告している。ペクチンが、細菌の増殖、及び滴定酸度をかなり増強できたことが観察された。著者らは、果実廃棄物から抽出されたペクチンが、ラクトバチリー及びビフィドバクテリウムの増殖を促進するのに使用されうると結論づけた。
【0029】
Babbarら(Pectic oligosaccharides from agricultural by-products:production,characterization and health benefits、Crit.Rev.Biotech.2016;36(4)594~606頁)は、ペクチンを含有する農業副産物が、ペクチンオリゴ糖(POS)として知られる新しいクラスのプレバイオティクスの潜在源であると述べている。化学処理、酵素処理及び水熱処理による、テンサイ、リンゴ、オリーブ及び柑橘類のようなペクチンを含有する農業副産物の制御加水分解を、オリゴ-ガラクトツロニド、ガラクト-オリゴ糖、ラムノガラクツロナン-オリゴ糖などを生成するために使用することができる。
【0030】
Hoon Kimら(Effect of arabinoxylan- and rhammogalacturonan I-rich polysaccharides isolated from young barley leaf on intestinal immunostimulatory activity、Journal of Functional Foods、2017;35、384~390頁)では、オオムギ葉から4種の多糖断片を調製し、腸の免疫刺激活性をインビトロで比較した。断片の中で、酵素抽出(BLE-P)によって調製された高分子量の断片が、パイエル板(PP)を通して骨髄細胞増殖を活性化させる効能、及びサイトカイン生成をインビトロで刺激する効能を示した。BLE-Pは、ヘミセルロースのグルクロノアラビノキシランと、80%超を占めるペクチンラムノガラクツロナンIとの混合物として特定される。続いて、インビボの腸の免疫刺激活性に対する効果を調べるために、BLE-Pがマウスに20日間、経口投与された。BLE-Pの投与は、免疫グロブリンA(IgA)の生成を増加させただけでなく、IgA関連サイトカイン、例えばトランスフォーミング増殖因子-β及びインターロイキン-10のレベルもまた高めた。
【0031】
米国特許出願公開第2014/275233号は、植物組織1グラム当たり少なくとも0.25mgのグリセオリン含有量を有する、有効量の、単離された植物組織を含む組成物を対象に経口投与することを含む、対象における胃腸の細菌叢異常を処置する方法について記載している。グリセオリンI、グリセオリンII及びグリセオリンIIIと呼ばれる3種のきわめて似たフィトアレキシンが、植物が、土壌微生物、紫外線(UV)光又は重金属に曝露されるときに、ダイズによって生成される。
【0032】
国際公開第2011/069781号は、免疫応答を調整することができる多糖について記載しており、前記多糖は、チャノキ(Camellia sinensis)の種の植物から得られ、多糖の主鎖は、交互のラムノガラクツロナン-Iドメイン及びアルファ(1,4)-結合ポリガラクツロン酸又はアルファ(1,4)-結合オリゴガラクツロン酸ドメインを含み、多糖の主鎖の、ガラクツロン酸残基の、ラムノシル残基に対するモル比は、2.5:1~1:1を範囲とし、多糖は、少なくとも70kDaの分子量を有する。
【0033】
国際公開第2012/148277号は、少なくとも20重量%の乾物含有量を有する調製品について記載しており、前記調製品は、ペクチン多糖の重量により計算して少なくとも20%の40kDa超の分子量を有するラムノガラクツロナン-Iペクチンを含む、乾物で少なくとも50重量%のペクチン多糖の混合物を含有し、前記ペクチン多糖の混合物は、
20%以下の、ガラクツロン酸残基のメチル化度、
20%以下の、ガラクツロン酸残基のアセチル化度
によって特徴づけられ、
調製品は、それが50mMアンモニウム重炭酸塩の水溶液で2.5重量%の固体含有量まで希釈されるときにゲルを形成しない。この調製品の、免疫応答を調整するための医薬品としての使用も記載されている。
【0034】
[発明の概要]
発明者らは、腸のマイクロバイオームの乱れた組成又は機能に伴う障害、特に代謝障害又は腸のバリア機能不全が、果実、ニンジン、マメ、チコリ又はテンサイを起源とするラムノガラクツロナンI(RG-I)多糖を経口投与することによって治療的に又は予防的に処置されうることを予想外に発見し、前記RG-I多糖は、15kDaを超える分子量を有し、ラムノガラクツロナン-Iドメイン、及び任意選択でアルファ(l,4)-結合ホモ-ガラクツロン酸ドメインを含む主鎖を有し、前記主鎖の、ガラクツロン酸残基のラムノース残基に対するモル比は、20:1~1:1の範囲内にある。
【0035】
発明者らが理論に束縛されることを望むものではないが、RG-I多糖が、腸の微生物叢内の微生物の高い多様性を促進することによって、有益な細菌[例えばアッケルマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)及びビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium spp.)]の増殖又は活性を刺激することによって、及び/又は撹乱に対する腸の微生物叢の回復力を高めることによって、プレバイオティクスとして作用することが確信される。
【0036】
RG-I多糖の腸の発酵が、有益な短鎖脂肪酸の形成をもたらすことが、更に見出された。驚くべきことに、RG-I多糖の、短鎖脂肪酸への発酵変換は、例えばイヌリン等の従来のプレバイオティクスで観察されるよりも著しく少ないガス産生を伴う。
【0037】
したがって、本発明の一態様は、対象における腸のマイクロバイオームの乱れた組成又は機能に伴う障害の治療的又は予防的処置の方法における使用のためのプレバイオティック組成物であって、障害が、代謝障害及び腸のバリア機能不全から選択され、前記使用が、プレバイオティック組成物を対象に経口投与することを含み、組成物が、乾物で少なくともの0.1重量%の、果実、ニンジン、マメ、チコリ又はテンサイを起源とするRG-I多糖を含有し、前記RG-I多糖が、15kDaを超える分子量を有し、ガラクツロン酸残基及びラムノース残基からなる主鎖を有し、前記ラムノース残基が、アルファ(1→4)-ガラクツロン-アルファ(1→2)-ラムノース残基に含有され、RG-I多糖の、ガラクツロン酸残基のラムノース残基に対するモル比が、20:1~1:1の範囲内にある、プレバイオティック組成物に関する。
【0038】
本発明に従って利用されるRG-I多糖は、(例えばポリガラクツロナーゼを使用した)酵素処理と任意選択で組み合わされた水性抽出によって、果実、ニンジン、マメ、チコリ又はテンサイから単離されうる。
【0039】
本発明の別の態様は、
乾物で少なくとも0.1重量%の、前述したRG-I多糖と、
乾物で少なくとも1重量%の、ラクツロース、イヌリン、フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳オリゴ糖、グアーガム、アラビアガム、又はこれらの任意の組み合わせから選択される1種以上のプレバイオティクスと
を含むプレバイオティック組成物に関する。
【0040】
本発明の、なおも別の態様は、
乾物で少なくとも0.1重量%のRG-I多糖と、
生存可能な微生物、生存不能な微生物、微生物の断片、及びこれらの組み合わせの形態にある、1種以上のプロバイオティック微生物株と
を含むシンバイオティック組成物に関する。
【発明の詳細な説明】
【0041】
本発明の一態様は、対象における腸のマイクロバイオームの乱れた組成又は機能に伴う障害の治療的又は予防的処置の方法における使用のためのプレバイオティック組成物であって、障害が、代謝障害及び腸のバリア機能不全から選択され、前記使用が、プレバイオティック組成物を対象に経口投与することを含み、組成物が、乾物で少なくともの0.1重量%の、果実、ニンジン、マメ、チコリ又はテンサイを起源とするラムノガラクツロナンI(RG-I)多糖を含有し、前記RG-I多糖が、15kDaを超える分子量を有し、ガラクツロン酸残基及びラムノース残基からなる主鎖を有し、前記ラムノース残基が、アルファ(1→4)-ガラクツロン-アルファ(1→2)-ラムノース残基に含有され、RG-I多糖の、ガラクツロン酸残基のラムノース残基に対するモル比が、20:1~1:1の範囲内である、プレバイオティック組成物に関する。
【0042】
用語「腸のマイクロバイオームの乱れた組成又は機能に伴う障害」は、本明細書で使用されるとき、腸の細菌叢異常状態(乱れた組成)、及び腸のマイクロバイオームによる必須代謝産物の不十分な発酵生成に伴う障害(乱れた機能)を包含する。短鎖脂肪酸(アセテート、プロピオネート及びブチレート)は、そのような必須代謝産物の例である。
【0043】
用語「腸の細菌叢異常状態」は、本明細書で使用されるとき、対象の健康に悪影響を及ぼし且つ均衡のとれた腸のマイクロバイオーム(細菌叢正常)からの著しい逸脱によって引き起こされる状態を指す。
【0044】
用語「分枝状の多糖」は、本明細書で使用されるとき、グリコシド結合によって一緒に結合された単糖単位の直鎖状の主鎖の鎖を含む多糖を指し、主鎖の鎖内の単糖単位のうちの少なくとも1つは、1つ以上のグリコシド結合単糖単位の側鎖を有する。
【0045】
用語「主鎖の鎖」と「主鎖」とは同義語である。
【0046】
用語「ペクチン多糖」は、本明細書で使用されるとき、15kDaを超える分子量を有し且つガラクツロン酸残基及びラムノース残基からなる主鎖を含む、任意選択で分枝状の多糖を指し、前記ラムノース残基は、アルファ(1→4)-ガラクツロン-アルファ(1→2)-ラムノース残基に含有される。
【0047】
用語「ストレッチ」は、本明細書で使用されるとき、そこに結合している任意の側鎖を除く、多糖の主鎖の2つ以上のグリコシド結合単糖の配列を指す。
【0048】
用語「ドメイン」は、本明細書で使用されるとき、ストレッチ、及び前記ストレッチに結合している任意の側鎖を指す。
【0049】
用語「ラムノガラクツロナン-Iストレッチ」又は「RG-Iストレッチ」は、ガラクツロン酸(GalA)とラムノース(Rha)とのペアからなるストレッチを指し、このGalA残基は、1位及び4位を介してRha残基に結合し、その一方でRha残基は、アノマー位及び2-OH位を介してGalA残基に結合し、即ち交互のアルファ(1→4)-ガラクツロン酸-アルファ(1→2)-ラムノース残基である。RG-Iストレッチのガラクツロン酸残基のカルボキシル基は、エステル化されていてもよい。エステル化されたガラクツロン酸は、メチルエステル又はアセチルエステルの形態で存在しうる。
【0050】
RG-Iドメインは、側鎖、例えばガラクタン側鎖、アラビナン側鎖及びアラビノガラクタン側鎖を含むことができる。
【0051】
用語「ラムノガラクツロナン-I多糖」又は「RG-I多糖」は、1種以上のラムノガラクツロナン-Iストレッチを含有する主鎖を含む、任意選択で分枝状のペクチン多糖を指す。
【0052】
用語「アルファ(l,4)-結合ガラクツロン酸ストレッチ」は、アルファ(1→4)-ガラクツロン残基からなるストレッチを指す。
【0053】
RG-Iドメイン以外に、本発明のRG-I多糖は、1種以上のドメイン:
ホモガラクツロナン(HG)、
キシロガラクツロナン(XG)、
アピオガラクツロナン(AG)、
ラムノガラクツロナン-II(RG-II)
を含有しうる。
【0054】
ドメインXG、AG及びRG-IIは、典型的には、RG-I多糖の、ごく一部を表す。
【0055】
本発明のRG-I多糖に任意選択で存在するHGドメイン、XGドメイン、AG及びRG-IIドメインは、2種以上のα-(1-4)-結合D-ガラクツロン酸の直鎖からなる主鎖を含む。これらのドメインの主鎖のガラクツロン酸残基のカルボキシル基は、エステル化されていてもよい。エステル化されたガラクツロン酸は、メチルエステル又はアセチルエステルの形態で存在しうる。
【0056】
HGドメインは、側鎖を一切含有しない。
XGドメインの主鎖は、D-キシロースの形態にある1つ以上の側鎖を含有する。
AGドメインの主鎖は、1つ以上のD-アピオース残基からなる1つ以上の側鎖を含有する。
【0057】
RG-IIの主鎖は、排他的にではなくD-キシロース又はD-アピオースからなる1つ以上の側鎖を含有する。
【0058】
用語「果実」は、本明細書で使用されるとき、顕花植物における種子をつける構造体を指す。
【0059】
用語「プレバイオティック」は、本明細書で使用されるとき、それらの宿主の福祉に寄与する微生物の増殖又は活性を選択的に誘起する物質を指す。
【0060】
用語「プロバイオティック」は、本明細書で使用されるとき、適切な量で経口投与されたときに健康の利益を付与する微生物を指す。これらの微生物は、生存可能な微生物、生存不能な微生物、微生物の断片、及びこれらの組み合わせから選択される。
【0061】
用語「シンバイオティック」は、(a)1種以上のプレバイオティクスと(b)1種以上のプロバイオティクスとの組み合わせを含有する組成物を指す。
【0062】
種々の多糖の濃度、及びそれらの単糖の組成は、当業者に既知の分析技術によって測定することができる。酸加水分解の後、単糖の組成は、好適には、高性能陰イオン交換クロマトグラフィーをパルス電流滴定検出と組み合わせて(HPAEC-PAD)測定することができる。
【0063】
分子サイズ分布は、屈折率(RI)検出法(濃縮法)、光散乱検出法(分子量検出法)、UV検出法(タンパク質の存在を示唆)及び差圧検出法(固有粘度検出法)を用いて、高性能サイズ排除クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0064】
上に挙げた分析方法は、Analytical Biochemistry Vol.207、第1巻、1992、176頁(中性糖分析について)、及びMol.Nutr.Food Res.、Vol61、第1巻、2017、1600243(ガラクツロン酸分析及び分子サイズ分布について)に記載されている。
【0065】
本明細書で挙げる全ての百分率は、別段の記述がない限り、重量百分率を指す。
【0066】
本発明のRG-I多糖含有組成物が経口投与される対象は、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトの対象である。好ましい実施形態によれば、ヒトの対象は、その中心的な成人の微生物叢を依然として発達させている幼児(<4歳)、又はその中心的な成人の微生物叢の多様性及び回復力を失うリスクにある高齢者(>50歳)である。
【0067】
経口投与は、本処置方法の文脈では、自己投与を包含する。
【0068】
好ましい実施形態によれば、経口投与されるRG-I多糖含有組成物を受ける対象は、代謝障害に罹っている又は罹るリスクにある。最も好ましくは、対象は、代謝障害に罹っている。
【0069】
本処置によって(治療的に又は予防的に)首尾よく処置されうる代謝障害には、体重過多、肥満症、メタボリックシンドローム、インスリン欠乏又はインスリン抵抗性関連障害、2型糖尿病、グルコース不耐症、脂質代謝異常、高血糖、脂肪肝、脂質異常症、高コレステロール、トリグリセリド上昇が挙げられる。本処置は、体重過多又は肥満症及びインスリン抵抗性の治療的又は予防的処置に特に好適である。
【0070】
別の好ましい実施形態によれば、対象は、腸のバリア機能不全に罹っている又は罹るリスクにある。より好ましくは、対象は、腸のバリア機能不全に罹っている。
【0071】
腸のバリア又は腸の粘膜バリアは、栄養素を吸収する能力を保持しながら、腸内の望ましくない管腔の含有物の適切な封じ込めを確実にする腸の粘膜の性質を指す。体と、腸管の管腔の含有物との間にバリアがもたらす分離は、管腔の含有物が制御されずに体内に移行することを防ぐ。粘膜組織及び循環系を、炎症誘発性病原体、毒素及び抗原への曝露から防御するバリアの役割は、健康及び福祉の維持において重要である。腸のバリア機能不全は、食物アレルギー、微生物感染症、被刺激性腸症候群、炎症性腸疾患、セリアック病、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪肝疾患、糖尿病及び敗血症性ショック等の多くの健康状態に関係があるとされてきた。
【0072】
本発明の好ましい実施形態によれば、プレバイオティック組成物は、腸の細菌叢異常状態を治療的に又は予防的に処置するために使用される。
【0073】
本発明に従って腸の細菌叢異常状態の処置を受ける対象は、好ましくは、病原性の腸の細菌叢異常状態に罹っている又は罹るリスクにある対象であり、最も好ましくは、そのような病原性の腸の細菌叢異常状態に罹っている対象である。ここで、「病原性の」は、状態が、疾患を引き起こしうる又は悪化させうることを意味する。
【0074】
別の好ましい実施形態によれば、プレバイオティック組成物は、短鎖脂肪酸の、腸の発酵生成を高めるために使用される。
【0075】
本発明に従って利用されるRG-I多糖は、好ましくは、リンゴ、ピーマン、コケモモ、ニンジン、柑橘類、ブドウ、マメ、チコリ、テンサイ及びオリーブ、オクラ、並びにこれらの組み合わせから選択される植物源を起源とする。更により好ましくは、RG-I多糖は、リンゴ(例えばリンゴ搾汁滓)、ピーマン、ニンジン、柑橘類の皮、ブドウ、チコリ、テンサイ(例えばテンサイパルプ)、オリーブ(例えばオリーブパルプ)、オクラ、及びこれらの組み合わせから選択される植物源を起源とする。最も好ましくは、RG-I多糖は、ニンジン又はリンゴを起源とする。
【0076】
RG-I多糖は、好ましくは、RG-I多糖で富化されるペクチン多糖単離物の形態において、プレバイオティック組成物に組み込まれる。したがって、特に好ましい実施形態では、RG-I多糖は、プレバイオティック組成物に存在するペクチン多糖の、少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも40重量%、更により好ましくは少なくとも50重量%、最も好ましくは少なくとも60重量%を占める。
【0077】
RG-I多糖は、ラムノガラクツロナン-Iストレッチ、及び任意選択でアルファ(1,4)-結合ホモ-ガラクツロン酸ストレッチを含む主鎖を有する。RG-I多糖の、ガラクツロン酸残基のラムノース残基に対するモル比は、20:1~1:1の範囲内にある。好ましくは、RG-I多糖の、ガラクツロン酸残基のラムノース残基に対するモル比は、15:1~1:1、より好ましくは12:1~1:1、更により好ましくは10:1~1:1、最も好ましくは9:1~1:1を範囲とする。
【0078】
好ましくは、ラムノース残基は、RG-I多糖の主鎖の単糖残基の、3~50%、より好ましくは5~50%、最も好ましくは10~50%を占める。
【0079】
ラムノース残基は、典型的には、RG-I多糖に含有される全ての単糖残基の、即ち側鎖に含有される単糖残基を含む全ての単糖残基の、3~50%、より好ましくは3.5~40%、最も好ましくは4~35%を占める。
【0080】
ガラクツロン酸残基は、典型的には、RG-I多糖の主鎖の単糖残基の、50~97%、より好ましくは50~95%、最も好ましくは50~90%を占める。
【0081】
ガラクツロン酸残基は、典型的には、RG-I多糖に含有される全ての単糖残基の、即ち側鎖に含有される単糖残基を含む全ての単糖残基の、10~80%、より好ましくは15~70%、最も好ましくは20~65%を占める。
【0082】
RG-I多糖は、典型的には、少なくとも20kDaの分子量を有する。好ましくは、RG-I多糖は、25kDa~2,000kDaの間、より好ましくは30kDa~1,500kDaの間、更により好ましくは35kDa~1,200kDaの間、最も好ましくは40kDa~1,000kDaの間の分子量を有する。
【0083】
本組成物に含有されるRG-I多糖の平均分子量は、好ましくは30kDaを超え、より好ましくは40kDaを超え、最も好ましくは60kDaを超える。
【0084】
好ましくは、RG-I多糖のガラクツロン酸残基の85%未満が、メチルエステルの形態にエステル化されている。より好ましくは、RG-I多糖は、0%~70%の間、より好ましくは0%~60%の間、更により好ましくは0%~55%の間、最も好ましくは0%~50%の間のエステル化度を有する。
【0085】
好ましくは、RG-I多糖のガラクツロン酸残基の0~95%が、アセチルエステルの形態にエステル化されている。より好ましくは、RG-I多糖は、5%~90%の間、より好ましくは7%~50%の間、最も好ましくは8%~30%の間のエステル化度を有する。
【0086】
RG-I多糖の主鎖は、ガラクツロン酸残基及びラムノース残基からなる。RG-I多糖が1種以上の側鎖を含む場合、多糖は、付加的に、アラビノース及び/又はガラクトースの残基を含有してもよい。更に、RG-I多糖の側鎖は、モノマーの、フコース、グルコース、グルクロン酸、キシロース及び/又はウロン酸の少量の残基を付与することができる。1つ以上の側鎖は、好ましくは、ガラクタン側鎖、アラビナン側鎖及びアラビノガラクタン側鎖から選択される。
【0087】
アラビナン側鎖は、少なくとも1つ以上のアルファ(1,5)-結合アラビノース残基を含み、且つRG-Iドメインのラムノース残基の4-OH位において置換される。アラビナン側鎖は、直鎖状であっても分枝状であってもよい。側鎖が直鎖状である事例では、側鎖は、アルファ(1,5)-結合アラビノース残基からなる。アラビナン側鎖が分枝状の側鎖である事例では、1つ以上のアルファ-アラビノース残基は、アルファ(1,5)-結合アラビノースの2-OH及び/又は3-OHに結合される。アラビナン側鎖の長さ(モノマー単位の数で表される)は、好ましくは1~100モノマー単位の間、より好ましくは1~50単位の間、更により好ましくは1~30単位の間である。
【0088】
ガラクタン側鎖は、少なくとも1つ以上のベータ(1,4)-結合ガラクトース残基を含み、且つRG-Iドメインのラムノース残基の4-OH位において置換される。
【0089】
ガラクタン側鎖は、好ましくは本質的に直鎖状(非分枝状)であり、即ち鎖内のガラクトース残基の10mol%未満が、ベータ(1,3)-結合又はベータ(1,6)-結合ガラクトース残基であり、好ましくは5モル%未満、好ましくは2モル%未満、好ましくは1モル%未満である。ガラクタン側鎖の長さは、好ましくは1~100モノマー単位の間、より好ましくは1~50単位の間、更により好ましくは1~30単位の間である。
【0090】
アラビノガラクタン側鎖は、RG-Iドメインのラムノース残基の4-OH位において置換され、且つタイプIアラビノガラクタン(AGI)又はタイプIIアラビノガラクタン(AGII)であることができる。AGIは、その上でO-6位又はO-3位において、モノマーGalp単位による置換が起こりうる(1→4)-β-D-Galp主鎖からなる。AGIは、α-L-Araf-p残基で、及び/又は(1→5)-α-L-Araf短側鎖で、更に置換される。AGIIは、(1→6)-β-D-Galp第2鎖で装飾されたα(1→3)-β-D-Galp主鎖からなり、これらは、アラビノシル化される。
【0091】
好ましくは、RG-I多糖の、アラビノース残基のラムノース残基に対するモル比は、30:1を超えず、より好ましくは15:1を超えず、更により好ましくは8:1を超えず、最も好ましくは5:1を超えない。
【0092】
RG-I多糖の、ガラクトース残基のラムノース残基に対するモル比は、好ましくは30:1を超えず、より好ましくは15:1を超えず、更により好ましくは8:1を超えず、最も好ましくは5:1を超えない。
【0093】
好ましい実施形態によれば、RG-Iストレッチのラムノース残基の少なくとも20%が、4-OH位において置換される。これらのラムノース残基の、より好ましくは少なくとも30%、更により好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは少なくとも45%が、4-OH位において置換される。これらのラムノース残基の、好ましくは多くとも90%、より好ましくは多くとも80%が、4-OH位において置換される。
【0094】
本方法における使用のためのプレバイオティック組成物は、好ましくは乾物で少なくとも0.2重量%、より好ましくは0.3~10重量%、最も好ましくは0.4~5重量%の、本明細書で定義されたRG-I多糖を含有する。
【0095】
本方法における使用のためのプレバイオティック組成物は、有利には、RG-I多糖以外に、1種以上の他のプレバイオティクスを含有する。好ましくは、組成物は、乾物で少なくとも1重量%、より好ましくは乾物で少なくとも3重量%の、ラクツロース、イヌリン、フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳オリゴ糖、グアーガム及びアラビアガムから選択される1種以上のプレバイオティクスを含有する。
【0096】
RG-I多糖は、それが細胞壁材料のマトリックスで最早もつれない場合、本処置方法において特に効果的であると確信される。したがって、特に好ましい実施形態では、本発明のRG-I多糖含有組成物は、乾物で少なくとも0.05重量%、より好ましくは乾物で少なくとも0.1重量%、更により好ましくは乾物で少なくとも0.2重量%、最も好ましくは乾物で少なくとも0.3重量%の、直ちに水に可溶なRG-I多糖を含有する。RG-I多糖含有組成物の、直ちに水に可溶なRG-I多糖の濃度は、100mlの脱塩水(20℃)を十分な量のRG-I多糖含有組成物と合わせて乾物2.5グラムとし、続いて5分間撹拌し、100μmのフィルターでろ過することによって、測定することができる。ろ液のRG-I多糖は、直ちに水に可溶なRG-I多糖である。
【0097】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、本組成物は、1日当たり体重1キロにつき少なくとも1mgのRG-I多糖を付与する量で、少なくとも2日間、対象に経口投与される。より好ましくは、1日当たり体重1キロにつき少なくとも4mgのRG-I多糖の量、更により好ましくは、1日当たり少なくとも15mg/体重kg、最も好ましくは1日当たり体重1キロにつき少なくとも20~100mg/kgのRG-I多糖が、少なくとも7日間、最も好ましくは少なくとも14日間、RG-I多糖を含有する組成物の食事を与えることによって付与される。
【0098】
別の好ましい実施形態によれば、RG-I多糖含有組成物は、少なくとも21日間、対象に経口投与されて、RG-I多糖を、1日当たり体重1kgにつき少なくとも4mgのRG-I多糖の量で、より好ましくは1日当たり体重1kgにつき15~300mgのRG-I多糖の量で付与する。
【0099】
本発明のプレバイオティック組成物は、特にアッケルマンシア・ムシニフィラ及びビフィドバクテリウム属の健康の利益を付与すると確信される腸の微生物の増殖を誘起することができると見出された。したがって、別の好ましい実施形態では、RG-I多糖含有組成物は、対象の腸の微生物叢で、アッケルマンシア・ムシニフィラ及び/又はビフィドバクテリウム属の増殖又は活性を誘起することができる。最も好ましくは、組成物は、対象の腸の微生物叢で、アッケルマンシア・ムシニフィラの増殖又は活性を誘起することができる。
【0100】
本発明のプレバイオティック組成物は、腸の微生物叢によって短鎖脂肪酸の生成を誘起することができると見出されたが、一方で、生成は、イヌリン等の従来のプレバイオティクスに比べて、実質的に少ないガス産生が伴われる。したがって、別の好ましい実施形態では、RG-I多糖含有組成物は、急速なガス産生を伴う腸の不快感、鼓腸及び逆流等の副作用の少ない短鎖脂肪酸の腸の発酵生成を促進することができる。
【0101】
特に好ましい実施形態によれば、組成物は、ドリンク、経口投与ユニット、粉末、バー及びスプレッドから選択される。
【0102】
ドリンクは、典型的には液体である。好ましくは、ドリンクは、少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも85重量%の水を含有する。ドリンクは、好ましくは、少なくとも1.5g/l、より好ましくは少なくとも3g/l、最も好ましくは5~200g/lのRG-I多糖を含有する。
【0103】
経口投与ユニットは、好ましくはカプセル又は錠剤である。経口投与ユニットは、好ましくは、50~1500ミリグラム、より好ましくは100~800ミリグラムの範囲の重量を有する。経口投与ユニットは、典型的には、少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも20重量%、最も好ましくは40~90重量%のRG-I多糖を含有する。
【0104】
粉末の形態にある組成物は、好ましくは、飲料物を調製するのに使用されうる水に可溶な粉末である。典型的には、粉末は、少なくとも0.5重量%、より好ましくは少なくとも5重量%、最も好ましくは10~75重量%のRG-I多糖を含有する。
【0105】
バーの形態にある組成物は、好ましくはバーであり、好ましくは、10~200グラム、より好ましくは25~100グラムの範囲の重量を有するバーである。バーは、典型的には、少なくとも0.1重量%、より好ましくは少なくとも0.5重量%、最も好ましくは1~20重量%のRG-I多糖を含有する。
【0106】
スプレッドの形態にある組成物は、好ましくは油中水エマルションであり、好ましくは、20~90重量%の脂肪相と10~80重量%の水性相とを含む油中水エマルションである。スプレッドは、好ましくは、少なくとも0.3重量%、より好ましくは少なくとも1~10重量%、最も好ましくは1.5~16重量%のRG-I多糖を含有する。
【0107】
本発明の別の態様は、
乾物で少なくとも0.1重量%の、本明細書で前に定義したRG-I多糖と、
乾物で少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも3重量%の、ラクツロース、イヌリン、フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳オリゴ糖、グアーガム及びアラビアガムから選択される1種以上のプレバイオティクスと
を含むプレバイオティック組成物に関する。
【0108】
更により好ましくは、製品は、乾物で少なくとも1重量%、より好ましくは乾物で少なくとも3重量%の、ラクツロース、イヌリン、フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖及び乳オリゴ糖から選択される1種以上のプレバイオティクスを含有する。
【0109】
プレバイオティック組成物の好ましい実施形態は、本処置方法における使用のためのプレバイオティック組成物に関して本明細書で前に記載したものと同じである。
【0110】
本発明のなおも別の態様は、
乾物で少なくとも0.1重量%の、本明細書で前に定義したRG-I多糖と、
生存可能な微生物、生存不能な微生物、微生物の断片、及びこれらの組み合わせの形態にある1種以上のプロバイオティック微生物株と
を含むシンバイオティック組成物に関する。
【0111】
シンバイオティック組成物の好ましい実施形態は、本処置方法における使用のためのプレバイオティック組成物に関して本明細書で前に記載したものと同じである。
【0112】
シンバイオティック組成物の1種以上のプロバイオティック微生物株は、好ましくは生きている微生物株、より好ましくは生きている細菌株である。
【0113】
1種以上のプロバイオティック微生物株は、酵母株、カビ株、細菌株、及びこれらの組み合わせから選択することができる。好適な酵母株の例には、サッカロミケス属(Saccharomyces)、デバロミケス属(Debaromyces)、カンジダ・ピチア属(Candida Pichia)に属する株、及びこれらの組み合わせが挙げられる。好適なカビ株の例には、アスペルギルス属(Aspergillus)、リゾプス属(Rhizopus)、ムコール属(Mucor)、ペニシリウム属(Penicillium)に属する株、及びこれらの組み合わせが挙げられる。好適な細菌株の例には、ビフィドバクテリウム属、バクテロイデス属(Bacteroides)、フソバクテリウム属(Fusobacterium)、メリッソコッカス属(Melissococus)、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus)、バチルス属(Bacillus)、ペディコッカス属(Pediococcus)、ミクロコッカス属(Micrococcus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ワイセラ属(Weissella)、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)、アッケルマンシア属(Akkermansia)、オエノコッカス属(Oenococcus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、アロバクルム属(Allobaculum)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)に属する株、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0114】
特定の好ましい実施形態によれば、1種以上のプロバイオティック微生物株は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、ビフィドバクテリウム・ビフィドゥム、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、[エンテロコッカス(Enterococcus)((ストレプトコッカス(Streptococcus))フェカリス(faecalis)]、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・アリメンタリウス(Lactobacillus alimentarius)、ラクトバチルス・カセイ亜種カセイ(Lactobacillus casei subsp.Casei)、ラクトバチルス・カセイ、ラクトバチルス・クルバトゥス(Lactobacillus curvatus)、ラクトバチルス・デルブレッキー亜種ラクティス(Lactobacillus delbruckii subsp.Lactis)、ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ジョンソニー(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・ラムノスス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・サケ(Lactobacillus sake)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ミクロコッカス・バリアンス(Micrococcus varians)、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)、ペディオコッカス・ハロフィルス(Pediococcus halophilus)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、スタフィロコッカス・カルノスス(Staphylococcus carnosus)、スタフィロコッカス・キシロスス(Staphylococcus xylosus)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、アッケルマンシア・ムシニフィラ、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)、ロゼブリア・ホミニス(Roseburia hominis)及びユーバクテリウム・ハリー(Eubacterium hallii)から選択される。
【0115】
シンバイオティック組成物は、好ましくは、プロバイオティック微生物株が生存不能な形態で適用される事例において、1種以上のプロバイオティック微生物株を、104~1010cfu又はそれらの当量の濃度で含有する。より好ましくは、シンバイオティック組成物は、1種以上のプロバイオティック微生物株を、105~109cfu又はそれらの当量の濃度で含有する。
【0116】
アッケルマンシア・ムシニフィラは、好ましくは、プロバイオティック組成物に、105~1010cfu/グラム、より好ましくは106~109cfu/グラムの濃度で含有される。
【0117】
ビフィドバクテリウム属は、好ましくは、プロバイオティック組成物に、106~1010cfu/グラム、より好ましくは107~109cfu/グラムの濃度で含有される。
本発明は、以下の非限定的な実施例によって更に例示される。
【実施例】
【0118】
実施例1
RG-I多糖断片を、乾燥ピーマン粉末(Paprika Mild 80-100 Atsa Steamtr-Felix Reverte S.A.)から、パイロットプラント規模で、以下に説明する手順を用いて単離した。
【0119】
ピーマンの材料(100kg)を、80%水性エタノールで、穏やかな操縦下で3回洗浄し、即ち80℃で2時間にわたり2回、次いで室温にて一晩洗浄し、各回12.5%(w/v)を使用してエタノール可溶性材料を除去した。エタノール不溶性残渣を毎回、遠心分離(1000G、10分間)によって回収した。3回の洗浄サイクル後に得たエタノール不溶性残渣を乾燥させ、95℃の温度を有する1000Lの熱水で90分間、90kgを2回抽出した。各回に、1000Gで10分間の遠心分離後、上清を保持した。回収した上清を、続いて布を通してろ過し、2KDa分画分子量の膜を用いて限外ろ過して、分子量の小さい材料を除去した。残余分を乾燥凍結して乾燥RG-I富化抽出物を得、およそ5kgの乾燥RG-I富化多糖抽出物を得た。
【0120】
RG-I多糖富化抽出物の特徴付け
分子量分布:
多糖サンプルの分子量分布を、屈折率(RI)検出法(濃縮法)、光散乱検出法(分子量検出法)、UV検出法(タンパク質の存在を示唆)及び差圧検出法(固有粘度検出法)を用いて、高性能サイズ排除クロマトグラフィーにより測定した。プルラン分子量標準を用いて較正した。
【0121】
単糖の組成:
多糖サンプルを0.5M水性トリフルオロ酢酸に溶解し、120℃にて2時間、加水分解した。次いで、サンプルをNaOHで中和し、パルス電流検出法(PAD)を用いて高pH陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC)によって分析するまで凍結を保持した。サンプル中のウロン酸を、自動分析装置(Skalar)で自動化した比色分析m-ヒドロキシジフェニルアッセイ(Achmed&Labavitch、J.Food Biochem、1978、361頁)を用いて測定した。
【0122】
エステル化度
多糖サンプルを水酸化ナトリウムで処理し(0.25M、5時間、20℃)、次いで中和した。現像試薬(2M酢酸アンモニウム中アセチルアセトン及び酢酸)と組み合わせたアルコールオキシダーゼでのインキュベーションの後、420nmでの吸光度として、放出したメタノールを測定した。放出した酢酸を、K-ACETAF酢酸アッセイキット(Megazyme)を用いて測定した。既知のメチル化度及びアセチル化度を有するテンサイペクチンを標準として使用した。エステル化度は、ウロン酸の量の百分率として、放出したメタノール及び酢酸のモル量として表す。
【0123】
RG-I多糖断片の分子の特性を表1及び表2に示す。
【0124】
【0125】
【0126】
実施例2
6週齢の特定の病原体フリーのメスC57BL/6マウスに、滅菌した飲料水、及び半合成の照射済みAIN-93G食(Research Diet Services、Wijk bij Duurstede、オランダ)を、30mmol/kgカルシウムと共に自由に受けさせ(非感染群及び感染群)、又は1%(w/w)の、ピーマンからのRG-I富化抽出物を補充した同じ食物を、自由に受けさせた。
【0127】
マウスを処置群にランダムに割り当て、1ケージ当たりマウス3頭で2週間収容し、次いで個々に、別の1週間、収容した。AIN-93G食の組成は、Reevesら(AIN-93 purified diets for laboratory rodents:final report of the American Institute of Nutrition ad hoc writing committee on the reformulation of the AIN-76A rodent diet.J Nutr(1993)123:1939~1951頁)によって説明されている。
【0128】
便を、食事介入前にベースラインにて回収し、且つ食事介入3週間後に回収した。ゲノムDNAを、製造者のプロトコル(Zymo research)に従って、便サンプルから抽出した。単離したgDNAを、16S rRNA遺伝子配列決定によって、微生物の同定に供した。特定のプライマーを使用して、16S rRNA遺伝子のV3-V4又はV4の超可変領域のような対象のゲノム領域を、PCR増幅した。端部対の配列読み出しをIllumina MiSeqシステムを用いて生成した。FASTQ配列ファイルを、Illumina Casavaパイプラインバージョン1.8.3.を用いて生成した。初期の品質評価は、Illumina Chastityフィルタリングに基づかせた。続いて、PhiXコントロールシグナルを含有する読み出しを、インハウスのフィルタリングプロトコル(Baseclear)を用いて取り除いた。加えて、(部分的な)アダプタを含有する読み出しを、(50bpの最小読み出し長さまで)クリップした。第2の品質評価は、FASTQC品質コントロールツールバージョン0.10.0.を用いた残りの読み出しに基づかせた。
【0129】
細菌のDNA配列決定
Illumina Miseqデータを、Quantitative Insights Into Microbial Ecology(QIIME、v8)pipeline[Caporasoら、QIIME allows analysis of high-throughput community sequencing data、Nature Methods(2010)、7(5)、335~336頁]、及び[Edgar、Search and clustering orders of magnitude faster than BLAST,Bioinformatics(オックスフォード、イギリス)、(2010)、26(19)、2460~2461頁]を利用したワークフローを用いて分析した。バーコードにマッチしないもの及び小さい断片(>50nt)について、データを多重化し、フィルタリングした。QIIMEにおいてSilva 111データベースを用いてオープンリファレンスOTUピッキングを実施し、USEARCHによってキメラを検出し、OTUからフィルタリングした。フィルタリングしたOTUから、再びSilva 111データベースを用いて、バイオームファイル及び系統分類上の階層ファイルを生成した。1サンプル当たりのフィルタリングした読み出し、PD全体の階層多様性測定、及び比較した存在率でのレベル1~6の分類学的分布等の更なるアウトプットを、QIIMEを介して生成した。
【0130】
RG-1富化多糖抽出物の微生物組成に対する影響
1群当たり12頭のマウスの個々の便サンプルをIllumina 16S rRNA配列決定に供して、微生物組成における更なる洞察を得た。1サンプル当たり26×103から79×104の間の読み出しを得た。結果を、表3、表4及び表5に示す。
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
門のレベルにおいて、RG-I富化多糖抽出物を食事に添加すると、放線菌門(Actinobacteria)及びベルコミクロビウム門(Verrucomicrobia)の存在率が著しく上がり、その一方でバクテロイデス門(Bacteroidetes)及びプロテオバクテリア(Proteobacteria)は、それらの存在率が低下し(>0.5%の存在率、Wilcoxon、P<0.05)、ファーミキューテス門(Firmicutes)/バクテロイデス門の比の増加がもたらされた。
【0135】
属のレベルにおいて、冗長性分析は、RG-I富化多糖抽出物を食事に添加すると、微生物の組成に対して著しい影響を有したことを示した(P<0.05;Monte Carlo permutation)。RG-I富化多糖抽出物を食事に含ませると、ビフィドバクテリウム属(放線菌門(Phylum Actinobacteria))、アロバクルム属(Allobaculum)(ファーミキューテス門(Phylum Firmicutes))、アッケルマンシア属(ウェルコミクロビウム門(Phylum Verrucomicrobia))、及び割り当てていない細菌群の、より高い存在率へと導かれる。
【0136】
実施例3
非消化性多糖は、主に、ヒトの大腸において腸管微生物叢によって消化される。これは、健康に有益な細菌の増殖へと導き、pHを減少させ、腸の病原体への抵抗力を高め、微生物叢の代謝活性を調整することができる。有益な(プレバイオティック)機能性炭水化物は、短鎖脂肪酸(SCFA、即ちアセテート、プロピオネート及びブチレート)等の健康に有益な代謝産物の生成を促進し、その一方で、分枝状SCFA及びアンモニア等のタンパク質代謝の望ましくない代謝産物の生成を減少させることになる。
【0137】
植物由来の多糖抽出物を、微生物叢の代謝活性に対するそれらの影響について、確立された短期間の結腸インキュベーションモデルを用いて試験した。
【0138】
インキュベーションの開始時に、結腸に存在する栄養素(例えばムチン等の宿主由来グリカン)を含有する、糖欠乏のベース結腸培地を、試験抽出物(最終濃度5g/L)を既に収容していた70mLペニシリンボトルに導入した。ボトルをゴムストッパーで封止し、N2でフラッシングして嫌気環境を得た。続いて、ヒトの便の接種菌液を、新たに回収した便サンプルを嫌気性リン酸緩衝液と混合して調製した。遠心分離(2分、500g)を介して粒子を均質化し除去した後、便の接種菌液を、種々のボトルに添加した。その時点で、48時間にわたるインキュベーションが開始し、その間、温度を37℃に制御し、振とう機(90rpm)によって連続混合を確実にした。pHのための6時間、24時間及び48時間のインキュベーション(Senseline F410;ProSense、オーストレハウト、オランダ)、ガス圧(携帯型圧力インジケータCPH6200;Wika、エヒト、オランダ)及びSCFA分析の後、サンプルを採った。アセテート、プロピオネート、ブチレート及び分枝状SCFA(イソブチレート、イソバレレート及びイソカプロエート)であるSCFAを、De Weirdtら(Human faecal microbiota display variable patterns of glycerol metabolism、FEMS Microbiol.Ecol.2010、74、601~611頁)に記載されている通りに測定した。
【0139】
糖欠乏の結腸培地、及び周知のプレバイオティックであるイヌリン(Beneo、DP≧23、約100%イヌリン)を、それぞれ負の参照物及び正の参照物として使用した。
【0140】
サンプルAをピーマン粉末(Paprika poeder、Natural Spices Mijdrecht、オランダ)から、水性抽出(10w/w%、2時間、90℃)によって、遠心分離して不溶性残渣を除去し、ろ過して(40kDa分画)小分子を除去し、乾燥させて粉末を得て、製造した。
【0141】
サンプルBを、乾燥ニンジン搾汁滓、ニンジン汁生成物の残渣(ニンジン繊維粉末、GreendFields、ポーランド)から製造した。サンプルBを、ペクチナーゼ(ペクチネックス(Pectinex)(商標)Ultra Mash、Novozymes)を使用する水性抽出(10w/w%、2時間、45℃)によって、熱不活性化させ(90℃、10分)、デカンティングにより不溶性残渣を除去し、限外ろ過(40kDa分画)し、最後に乾燥させて、製造した。
【0142】
サンプルCを、サンプルBと同じ方法で、リンゴ搾汁滓粉末(リンゴ搾汁滓、GreendFields、ポーランド)から抽出した。
【0143】
サンプルDを、熱水抽出(10w/w%、2時間、90℃)を用いてオクラ粉末(Ground Okra、My Foods、Blue mountain peak、イギリス)から、水に対して数時間透析して小分子量の材料を除去して、製造した。次いで、透析した抽出物を凍結乾燥させた。前述したサンプルの単糖の組成の測定を、実施例1で説明した通りに実施した。結果を表6に示す。
【0144】
【0145】
インキュベーション実験の結果を表7に示す。
【0146】
【0147】
結果は、4種の全ての植物由来RG-I多糖抽出物が、腸管微生物叢によって直ちに発酵されたことを示す。
【0148】
全てのRG-I多糖抽出物が、SCFAの生成を増加させた。実際に、全ての抽出物が、SCFA生成を、イヌリンで観察したレベルと似たレベルまで、又はそれを超えるレベルまで増加させたことを見出した。
【0149】
全てのRG-I多糖抽出物は、分枝状SCFA及びアンモニアの生成を減少させた。
【0150】
驚くべきことに、全てのRG-I多糖抽出物で観察したガス産生は、イヌリンで観察したガス産生よりも実質的に低かった。過剰なガス産生は、イヌリンを含む最も従来型のプレバイオティクスの望まれない副作用をよく説明している腸管の不快感及び膨満感へと至らせうる。
【0151】
実施例4
低温殺菌した乳飲料を、表8に示すレシピに基づいて調製する。
【0152】
【0153】
ヒトの成人に1日当たりこの乳飲料200mlを消費させると、腸の健康が改善し、一般の風邪及びインフルエンザに対して格外の防御性が提供される。
【0154】
実施例5
栄養バー(45g)を、表9に示すレシピに基づいて調製する。
【0155】
【0156】
バーを、以下のように製造する:全ての湿潤成分(シロップ、グリセリン、アーモンド脂及び香料)を50℃にて一緒に混合する。
【0157】
それとは別に、乾燥成分を一緒に混合し、次いで湿潤スラリーを乾燥ミックスに添加し、その塊を高剪断下で2~5分間混合する。ドウを厚切りにし、バーの形状に切断し、その後、包装する。
【0158】
ヒトの成人に1日当たり2本のバーを消費させると、腸の健康が改善し、一般の風邪及びインフルエンザに対して格外の防御性が提供される。
【0159】
実施例6
栄養補助食品を、表10に示す乾燥ミックスを収容するカプセルの形態で調製する。
【0160】
【0161】
実施例7
RG-I多糖断片を、実施例3で説明した短期間の結腸インキュベーションモデルにおける試験のために、種々の源材料から抽出した。糖欠乏の結腸培地、及び周知のプレバイオティックであるイヌリン(Beneo、DP≧23、約100%イヌリン)を、それぞれ負の参照物及び正の参照物として使用した。
【0162】
サンプルAを、乾燥させてミリングしたマメのさや(Cosucra製、ワーコイング、ベルギー)から製造した。この粉末を、脱塩水(100g/L)に分散させ、90℃にて30分間、熱安定なアルファ-アミラーゼ(Megazyme)で酵素前加水分解に供し、ペクチナーゼ(2時間、45℃、0.2v/v%ペクチネックス(商標)Ultra Mash、Novozymes)を用いて更なる加水分解に供した。100℃にて10分間加熱して酵素分解を終え、続いて遠心分離し(18.000g、10分)、12~14kDa分画を備えた膜(Visking、ロンドン、イギリス)を用いて上清の徹底的な透析を行った。次いで、この材料を凍結乾燥した。
【0163】
サンプルBを、同じ方法を用いて、乾燥させてミリングしたテンサイパルプ(Suiker Unie製、ディンテロールト、オランダ)から製造し、但し、α-アミラーゼ前インキュベーションの工程を省いた。
【0164】
サンプルCを、同じ方法を用いて、乾燥させてミリングしたチコリパルプ(Cosucra製、ワーコイング、ベルギー)から製造し、但し、α-アミラーゼ前インキュベーションの工程を省いた。
【0165】
前述したサンプルの単糖の組成を、実施例1で説明した方法を用いて測定した。結果を表11に示す。
【0166】
【0167】
インキュベーション実験の結果を表12に示す。
【0168】
【0169】
これらの結果は、これらの種々の植物に由来するRG-I多糖抽出物が、腸管微生物叢によって直ちに発酵されたことを示す。
【0170】
全てのRG-I多糖抽出物は、SCFAの生成を増加させた。実際に、全ての抽出物が、イヌリンで観察したレベルと似たレベルまで、又はそれを超えるレベルまで、SCFA生成を増加させることを見出した。
【0171】
全てのRG-I多糖抽出物は、培地の対照と比べて、分枝状SCFA及びアンモニアの生成を減少させた。