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特許7499960貴金属を含有する不均一系触媒から貴金属を回収する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】貴金属を含有する不均一系触媒から貴金属を回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 1/20 20060101AFI20240607BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20240607BHJP
   C22B 3/20 20060101ALI20240607BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240607BHJP
   C22B 11/00 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
C25C1/20
C22B3/10
C22B3/20
C22B7/00 B
C22B11/00 101
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023521763
(86)(22)【出願日】2021-08-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-09
(86)【国際出願番号】 EP2021073936
(87)【国際公開番号】W WO2022078667
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】20202223.2
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515131116
【氏名又は名称】ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー、ディルク
(72)【発明者】
【氏名】ゲバウアー、クリスチアン
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第3591082(EP,A1)
【文献】特開平1-108390(JP,A)
【文献】特表2010-509050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C1/00-7/08
C22B7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体担体材料と、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、及びロジウム(Rh)からなる群から選択され、少なくとも部分的に元素形態で存在する少なくとも1種の貴金属とを含む不均一系触媒の及び/又は不均一系触媒から、貴金属を回収する方法であって、
(a)前記不均一系触媒を塩酸の存在下で、酸化剤で処理することによって、少なくとも部分的に元素形態で存在する前記少なくとも1種の貴金属を>0の酸化状態に変換して、塩酸水性相A1と、それに不溶性である前記担体材料を含む固相とを含む二相系Aを形成するステップと、
(b)任意選択で、前記二相系Aから前記塩酸水性相A1を少なくとも部分的に分離し、前記二相系Aの残りの残留物に更なる水性相を添加して、塩酸水性相B1と、それに不溶性である前記担体材料を含む固相とを含む二相系Bを形成するステップと、
(b’)ステップ(b)が行われた場合、任意選択で、1回又は複数回の繰り返しで、先行するステップで形成された前記二相系から前記塩酸水性相を少なくとも部分的に分離し、更なる水性相を添加して、塩酸水性相と、それに不溶性である前記担体材料を含む固相とを含む更なる二相系を形成するステップと、
(c)(c1)前記二相系Aの前記塩酸水性相A1、又は(c2)前記二相系Bの前記塩酸水性相B1、又は(c3)ステップ(b’)で最終的に形成された前記二相系の前記塩酸水性相のいずれかからの前記少なくとも1種の貴金属の陰極電着ステップと、
の前記連続するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記更なる水性相が、塩酸溶液、塩酸、又は水である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記連続するステップ(a)及び変法(c1)における(c)を含み、ステップ(b)及び(b’)を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記連続するステップ(a)、(b)、及び変法(c2)における(c)を含み、ステップ(b’)を含まない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記連続するステップ(a)、(b)、(b’)、及び変法(c3)における(c)を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
固体担体材料と、少なくとも部分的に元素形態で存在するパラジウムとを含む不均一系触媒の及び/又は不均一系触媒から、パラジウムを回収する方法であって、
(a)前記不均一系触媒を塩酸の存在下で、酸化剤で処理することによって、少なくとも部分的に元素形態で存在する前記パラジウムを>0の酸化状態に変換して、塩酸水性相A1と、それに不溶性である前記担体材料を含む固相とを含む二相系Aを形成するステップと、
(b)任意選択で、前記二相系Aから前記塩酸水性相A1を少なくとも部分的に分離し、前記二相系Aの残りの残留物に更なる水性相を添加して、塩酸水性相B1と、それに不溶性である前記担体材料を含む固相とを含む二相系Bを形成するステップと、
(b’)ステップ(b)が行われた場合、任意選択で、1回又は複数回の繰り返しで、先行するステップで形成された前記二相系から前記塩酸水性相を少なくとも部分的に分離し、更なる水性相を添加して、塩酸水性相と、それに不溶性である前記担体材料を含む固相とを含む更なる二相系を形成するステップと、
(c’)前記二相系Aの前記塩酸水性相A1、又は前記二相系Bの前記塩酸水性相B1、又はステップ(b’)で最終的に形成された前記二相系の前記塩酸水性相の塩基性pHを、水酸化アンモニウムを用いて≧8~14の範囲に調整するステップと、
(c)ステップ(c’)で塩基性に調整された前記二相系の前記塩酸水性相からの前記パラジウムの陰極電着ステップと、
の前記連続するステップを含む、方法。
【請求項7】
前記不均一系触媒が使用済み不均一系触媒である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記不均一系触媒が、ステップ(a)の前に1つ以上の前処理ステップに供されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記酸化剤が、塩素酸塩、硝酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩、亜塩素酸塩、亜臭素酸塩、亜ヨウ素酸塩、次亜塩素酸塩、過塩素酸塩、過酸化物化合物、塩素、及び/又はオゾンから選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記貴金属回収が、前記担体材料からのほぼ完全な取り出しという意味で行われる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記陰極電着が、部分反応を空間的に分離して行われる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記陰極電着が、前記塩酸水性相中の貴金属濃度が<50wt ppmに達するまで行われる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属含有不均一系触媒から貴金属を回収する方法に関する。
【0002】
本明細書で使用される用語「貴金属含有不均一系触媒」、又は略して「不均一系触媒」は、触媒活性貴金属を担持するか、又は触媒活性貴金属種を含む担体材料を意味すると理解される。
【0003】
今日、多数の化学プロセスについて、貴金属又は貴金属含有種は、均一系触媒の形態又は不均一系触媒の形態のいずれかで触媒として使用されている。均一系触媒作用において、触媒活性貴金属種は、例えば溶液中で反応物と均一に混合され、一方、不均一系触媒作用における触媒活性貴金属種は、少なくとも実質的に不活性な担体材料の表面及び/又は内部に存在し、反応物と不均一混合物を形成する。多くの場合、不均一系触媒は、簡単な方法で、例えば濾過によって反応混合物から除去することができるので、好ましい。燃料製造又はポリマー化学のためのモノマーの製造において使用される改質などの多数の工業化学プロセスでは、数トン規模の不均一系触媒を使用する。しかしながら、不均一系触媒は、排気ガス又は排気後処理の場合のようなガス浄化においても広く使用されている。
【0004】
高い触媒活性を確保するために、貴金属は、典型的には、不均一系触媒中の少なくとも実質的に不活性な担体材料の内側及び/又は外側表面上に微細に分布して適用される。このような担体材料は、典型的には、多孔質であり、大きな表面積上に触媒活性貴金属種を一様に分布させることができる。
【0005】
ある一定の操作時間の後、活性の貴金属含有触媒の活性使用済み触媒を交換する必要がある。貴金属の価格が高いため、貴金属含有触媒の使用は、使用した貴金属を回収することができる場合にのみ経済的であることが多い。
【0006】
貴金属回収の目的で、使用済み貴金属含有不均一系触媒は、典型的には、例えば、欧州特許第2985354(A1)号に記載されているような湿式冶金法に供される。貴金属含有不均一系触媒は、貴金属が水溶性形態にされる酸化ステップに供される。その後、この水溶性貴金属種は、複数の洗浄ステップにおいて担体材料から取り出される。次いで、貴金属は、組み合わされた洗浄媒体から回収される必要があり、これは、大量の液体の取り扱い並びにエネルギー及び時間のかかるステップを必要とする。米国特許第7,166,145(B1)号には、例えば、最終的な電解析出によって、多段階法において、そのような組み合わされた洗浄媒体から貴金属を回収することができる方法が記載されている。事前に、固体構成成分(担体材料)と液体構成成分(貴金属を含有し、洗浄媒体を含む水性相)との分離が行われる。
【0007】
本発明の目的は、貴金属、より正確にはパラジウム及び/又は白金及び/又はロジウムを含有する不均一系触媒の、又は不均一系触媒からの、貴金属、より正確にはパラジウム及び/又は白金及び/又はロジウムの、少なくともほぼ完全な回収のための効率的な方法を見出すことであった。特に、洗浄媒体をほとんど必要としない方法を提供することが目的の一部であった。
【0008】
この目的は、固体担体材料と、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、及びロジウム(Rh)からなる群から選択され、少なくとも部分的に元素形態で存在する少なくとも1種の貴金属とを含む不均一系触媒の及び/又は不均一系触媒から、貴金属を回収する方法であって、
(a)不均一系触媒を塩酸の存在下で、酸化剤で処理することによって、少なくとも部分的に元素形態で存在する少なくとも1種の貴金属を>0の酸化状態に変換して、塩酸水性相A1と、それに不溶性である担体材料を含む固相とを含む二相系Aを形成するステップと、
(b)任意選択で、しかし好ましくは、二相系Aから塩酸水性相A1を少なくとも部分的に分離し、二相系Aの残りの残留物に更なる水性相を添加して、塩酸水性相B1と、それに不溶性である担体材料を含む固相とを含む二相系Bを形成するステップと、
(b’)ステップ(b)が行われた場合、任意選択で、1回又は複数回の繰り返しで、先行するステップで形成された二相系から塩酸水性相を少なくとも部分的に分離し、更なる水性相を添加して、塩酸水性相と、それに不溶性である担体材料を含む固相とを含む更なる二相系を形成するステップと、
(c)(c1)二相系Aの塩酸水性相A1、又は(c2)二相系Bの塩酸水性相B1、又は(c3)ステップ(b’)で最終的に形成された二相系の塩酸水性相のいずれかからの少なくとも1種の貴金属の陰極電着ステップと、
の連続するステップを含む、方法によって達成することができる。
【0009】
本明細書で使用され、当業者に既知の用語「酸化状態」は、化合物内の原子の式での電荷又は単原子イオンの実際の電荷を意味する。定義により、元素状態の原子は、酸化状態0を有する。
【0010】
本明細書では、塩酸水性相と、塩酸水性相に不溶性である担体材料を含むか又はそれからなる固相とを含む二相系について繰り返し言及する。固相は、二相系中に懸濁液の意味で分布することができるか、又は部分的に底に沈降して存在するか若しくは2つの相のうちの下相を形成することができる。後者は特に静止状態の場合である。
【0011】
ステップ(a)、(b)、(b’)、及び(c)は連続するステップであり、中間ステップなしに直接に連続するステップであってもよい。ステップ(a)は、ステップ(b)、(b’)、及び(c)の前に行われる。任意選択で、しかしが好ましくは、実施されるステップ(b)に加えて、本発明による方法はまた、ステップ(a)の前、ステップ(a)~(c)の間、又はステップ(c)の後に実施される更なる方法ステップを含んでもよい。好ましくは実施されるステップ(b)の後に、任意選択のステップ(b’)が続いてもよく、これはステップ(c)の前に行われる。ステップ(b’)が行われる場合、ステップ(b)に類似のステップがこのステップにおいて1回又は複数回実施され、各場合において、塩酸水性相の少なくとも一部分が関連する二相系から分離され、更なる水性相が関連する二相系の残りの部に添加される。例えば、塩酸溶液、塩酸、又は水が、添加される更なる水性相として好適であり得る。
【0012】
一実施形態では、本発明による方法は、連続するステップ(a)及び(c)を含み、ステップ(c)が変法(c1)においてであり、ステップ(b)及び(b’)を含まない。言い換えれば、この場合、本発明による方法は、固体担体材料と、パラジウム、白金、及びロジウムからなる群から選択され、少なくとも部分的に元素形態で存在する少なくとも1種の貴金属とを含む不均一系触媒の及び/又は不均一系触媒から、貴金属を回収する方法であって、
(a)不均一系触媒を塩酸の存在下で、酸化剤で処理することによって、少なくとも部分的に元素形態で存在する少なくとも1種の貴金属を>0の酸化状態に変換して、塩酸水性相A1と、それに不溶性である担体材料を含む固相とを含む二相系Aを形成するステップと、
(c)二相系Aの塩酸水性相A1からの少なくとも1種の貴金属の陰極電着ステップと、の連続するステップを含み、ステップ(b)及び(b’)を含まない、方法である。二相系Aの塩酸水性相A1からの陰極電着は、ステップ(c)が塩酸水性相A1に不溶性である固体担体材料の存在下で行われることを意味する。貴金属回収は、ここでは陰極電着によって電解的に行われる。
【0013】
好ましい実施形態では、本発明による方法は、連続するステップ(a)、(b)、及び(c)を含み、ステップ(c)が変法(c2)においてであり、ステップ(b’)を含まない。言い換えれば、この場合、本発明による方法は、固体担体材料と、パラジウム、白金、及びロジウムからなる群から選択され、少なくとも部分的に元素形態で存在する少なくとも1種の貴金属とを含む不均一系触媒の及び/又は不均一系触媒から、貴金属を回収する方法であって、
(a)不均一系触媒を塩酸の存在下で、酸化剤で処理することによって、少なくとも部分的に元素形態で存在する少なくとも1種の貴金属を>0の酸化状態に変換して、塩酸水性相A1と、それに不溶性である担体材料を含む固相とを含む二相系Aを形成するステップと、
(b)二相系Aから塩酸水性相A1を少なくとも部分的に分離し、二相系Aの残りの残留物に更なる水性相を添加して、塩酸水性相B1と、それに不溶性である担体材料を含む固相とを含む二相系Bを形成するステップと、
(c)二相系Bの塩酸水性相B1からの少なくとも1種の貴金属の陰極電着ステップと、の連続するステップを含み、ステップ(b’)を含まない、方法である。二相系Bの塩酸水性相B1からの陰極電着は、ステップ(c)が塩酸水性相B1に不溶性である固体担体材料の存在下で行われることを意味する。本発明による方法のこの好ましい実施形態のステップ(b)において少なくとも部分的に分離される塩酸水性相A1は、それに溶解された貴金属を回収する目的で、当業者に既知の通常的な方法、例えば湿式冶金法によって更に処理される。少なくとも部分的に分離された塩酸水性相A1からの陰極電着による貴金属の回収は、好ましくは行われない。全体として、貴金属回収は、ここでは、部分的には非電解的に、例えば湿式冶金的に行われ、部分的には電解的に陰極電着によって行われる。
【0014】
更に別の実施形態では、本発明による方法は、連続ステップ(a)、(b)、(b’)、及び(c)を含み、ステップ(c)は変法(c3)においてである。言い換えれば、この場合、本発明による方法は、固体担体材料と、パラジウム、白金、及びロジウムからなる群から選択され、少なくとも部分的に元素形態で存在する少なくとも1種の貴金属とを含む不均一系触媒の及び/又は不均一系触媒から、貴金属を回収する方法であって、
(a)不均一系触媒を塩酸の存在下で、酸化剤で処理することによって、少なくとも部分的に元素形態で存在する少なくとも1種の貴金属を>0の酸化状態に変換して、塩酸水性相A1と、それに不溶性である担体材料を含む固相とを含む二相系Aを形成するステップと、
(b)二相系Aから塩酸水性相A1を少なくとも部分的に分離し、二相系Aの残りの残留物に更なる水性相を添加して、塩酸水性相B1と、それに不溶性である担体材料を含む固相とを含む二相系Bを形成するステップと、
(b’)1回又は複数回の繰り返しで、先行するステップで形成された二相系から塩酸水性相を少なくとも部分的に分離し、更なる水性相を添加して、塩酸水性相と、それに不溶性である担体材料を含む固相とを含む更なる二相系を形成するステップと、
(c)ステップ(b’)で最終的に形成された二相系の塩酸水性相からの少なくとも1種の貴金属の陰極電着ステップと、
の連続するステップを含む、方法である。ステップ(b’)で最終的に形成された二相系の塩酸水性相からの陰極電着は、ステップ(c)が塩酸水性相に不溶性である固体担体材料の存在下で行われることを意味する。本発明による方法のこの実施形態のステップ(b)及び(b’)において少なくとも部分的に分離された塩酸水性相A1及びB1、並びに任意選択で、ステップ(b’)において少なくとも部分的に分離された更なる塩酸水性相は、各場合において、それに溶解された貴金属を回収する目的で、当業者に既知の通常的な方法、例えば湿式冶金法によって、単独で、又は好都合に互いに組み合わせて、更に処理することができる。好ましくは、少なくとも部分的に分離された塩酸水性相A1及びB1、並びに任意選択で、ステップ(b’)において少なくとも部分的に分離された更なる塩酸水性相からの陰極電着による貴金属の回収は行われない。全体として、貴金属回収は、ここでは、部分的には非電解的に、例えば湿式冶金的に行われ、部分的には電解的に陰極電着によって行われる。
【0015】
本発明による方法の上述した3つの実施形態全てについて、ステップ(c)による陰極電着が、有利には、当該の二相系の塩酸水性相から、すなわち、各場合において、関連する塩酸水性相に不溶性である固体担体材料の存在下で、すなわち言い換えれば、全ての場合において、関連する二相系A若しくはB全体、又はステップ(b’)で最終的に形成された二相系の存在下で行われることは、本発明にとって不可欠である。
【0016】
本発明による方法において塩酸の存在下で、酸化剤で処理された不均一系触媒は、固体担体材料と、パラジウム、白金、及びロジウムからなる群から選択され、少なくとも部分的に元素形態で存在する少なくとも1種の貴金属とを含む。言い換えれば、不均一系触媒は、固体担体材料と、各場合において少なくとも部分的に元素形態で存在するパラジウム及び/又は白金及び/又はロジウムとを含む。パラジウム及び/又は白金及び/又はロジウムに加えて、不均一系触媒は、好ましくは更なる貴金属を含まない。一実施形態では、不均一系触媒は、固体担体材料と、各場合において少なくとも部分的に元素形態で存在するパラジウム及び/又は白金及び/又はロジウムとからなる。元素形態で存在しない任意の貴金属は、正の酸化状態の貴金属化合物として、例えば、貴金属酸化物として存在し得る。パラジウム、白金、及び/又はロジウムから形成される不均一系触媒の貴金属含有量は、例えば、0.02~80wt%(重量%)の範囲であってもよい。上述したように、少なくとも部分的に元素形態で存在する少なくとも1種の貴金属は、パラジウム、白金、及びロジウムからなる群から選択される。当該貴重な金属は、互いに合金の形態で存在することができる。好ましくは、これらは、少なくとも部分的に元素形態で存在する白金及び/又は少なくとも部分的に元素形態で存在するパラジウムである。
【0017】
ここでは、固体担体材料について言及する。これは、触媒活性貴金属又は触媒活性貴金属種を担持することができる、実質上貴金属を含まない固体担体を意味すると理解される。好適な固体担体材料は、多くの異なる条件又は反応条件に対して化学的に少なくとも十分に不活性である。このことは、以下に述べる炭素系担体についても確保することができる。特に、固体担体材料は、酸性及び酸化性媒体に対して、好ましくは塩基性媒体に対しても少なくとも十分に不活性である。それは、-1~+7のpH範囲で、好ましくはまたアルカリ性範囲でも水性媒体に不溶性である。「不溶性」は、ここでは絶対的な用語で理解されるべきではない。当業者は、それが実質的に不溶性又は実質上不溶性であると理解する。好適な担体材料は、市販されており、又は当業者に既知の従来の方法を使用して生成され得る。担体材料の例は、無機セラミック材料、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素などの純粋な酸化物セラミックスだけでなく、チタン酸アルミニウム及び分散セラミック(Al/ZrO)などの混合酸化物セラミックスでもある。担体材料は、希土類金属などの更なる元素でドープすることができる。担体材料の更なる例としては、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ホウ素、及び窒化ホウ素などの非酸化物セラミックスが挙げられる。更なる例は、シリケート系材料、特にケイ酸アルミニウム、とりわけ特にゼオライトである。
【0018】
可能な担体材料の更なる部類は、炭素系材料である。既に述べたように、担体材料は、触媒操作条件下で優勢な条件及び本発明による方法の条件に対して少なくともいくらかの耐性を有している必要がある。担体材料が炭素材料である場合、この炭素材料は、高い黒鉛化度を有することが好ましい場合がある。高い黒鉛化度を有する好適な炭素系担体材料はまた、例えば、Porocarb(登録商標)の名称でHeraeusから市販されている。
【0019】
概して、本発明による方法のステップ(a)において塩酸の存在下で、酸化剤で処理された不均一系触媒は、大きな表面積を有する、例えば、10~500m/g、好ましくは300~500m/gのBET表面積を有する材料である。概して、これらは多孔質材料である。BET表面積は、DIN ISO 9277に従う(6.3.1章、static volumetric measurement method,gas used:nitrogenに従う)BET測定によって決定することができる。特に断りのない限り、本明細書で引用された全ての規格は、いずれの場合も本特許出願の優先日時点の現行版である。開放多孔率は、開放細孔容積によって表すことができる。開放細孔容積は、水銀ポロシメトリーによって、又は吸水容量を決定することによって決定することができる。例えば、それは0.2~1.2ml/gの範囲であり得る。多孔性は、様々な大きさの細孔、例えばメソ及び/又はマクロ細孔によって形成することができる。細孔径は、例えば、5nm~10μmの範囲であり得る。
【0020】
不均一系触媒は、微粒子形態で存在してもよい。担体材料の平均粒径d50は、例えば、3~100μmの範囲であり得る。平均粒径d50は、粒径分析器を使用してレーザー回折法によって決定することができる。しかしながら、不均一系触媒はまた成形体の形態であってもよい。成形体の例としては、ストランド、円筒、ペレット、リング、多孔リング、ボール、サドル体、ホイール、椅子、発泡体、及びハニカムが挙げられる。そのような成形体は、最も厚い点で例えば、100μmから最大50cmの直径を有し得る。不均一系触媒は、それが微粒子形態で存在するか、又は規定されたような成形された成形体として存在するかに関係なく、ステップ(a)の前に、付随的に粉砕する、例えば、ミリングすることができる。
【0021】
概して、本発明による方法において塩酸の存在下で、酸化剤で処理される不均一系触媒は、使用済み不均一系触媒である。使用済み不均一系触媒とは、ある一定の操作時間後に触媒活性が減少した、もはや十分でない不均一系触媒である。使用済み不均一系触媒が使用されたプロセスに応じて、本来の触媒活性貴金属種に対して変性された貴金属種及び/又は本来存在しない更なる物質が担体材料上に位置し得る。したがって、本発明による方法を実施する前に、より正確には方法ステップ(a)を実施する前に、前述の可能な機械的粉砕に加えて、不均一系触媒を更なる前処理ステップに供することが好都合であり得る。この点において、不均一系触媒は、ステップ(a)の前に適宜前処理されてもよいし、既に前処理されていてもよい。例えば、熱処理又はアニーリングの形態の前処理が有利であり得る。これは、有機物質が、使用後の不均一系触媒を占め、ステップ(a)の前に熱分解及び/又は燃焼によって除去される場合に特に好都合である。不均一系触媒が貴金属を元素形態で含まず、より高い酸化状態の貴金属種として含む場合、還元前処理を、特に有利には還元雰囲気中で好都合にに実施することができる。したがって、特に、ステップ(a)の前の前処理は、熱処理、還元処理、又は熱処理とその後の還元処理を含むことができる。
【0022】
方法ステップ(a)では、少なくとも部分的に元素形態で存在する少なくとも1種の貴金属を、不均一系触媒を塩酸の存在下で、酸化剤で処理することによって、>0の酸化状態に変換して、塩酸水性相A1と、それに不溶性である担体材料を含む固相とを含む二相系Aを形成する。
【0023】
方法ステップ(a)の最中、最初に、少なくとも部分的に元素形態で存在する少なくとも1種の貴金属を有する担体を含む不均一系触媒、塩酸、及び1種以上の酸化剤を含む反応系が存在する。方法ステップ(a)の完了後、塩酸水性相A1と、それに不溶性である担体材料を含む固相とを含む二相系Aが得られる。塩酸水性相A1は、担体から除去され、この時点で>0の酸化状態かつ溶解形態で存在する貴金属を含む。固相は、塩酸水性相A1に不溶性である担体材料を含み、粒子として及び/又は成形体としての貴金属を実質的に含まない。
【0024】
方法ステップ(a)で使用された塩酸は、例えば、1リットル当たり1~12モルの範囲の酸(H)の濃度であり得る。
【0025】
方法ステップ(a)で使用された酸化剤は、固体、液体、又は気体であってもよい。当業者に既知の使用可能な固体酸化剤の例としては、塩素酸塩、硝酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩、亜塩素酸塩、亜臭素酸塩、亜ヨウ素酸塩、次亜塩素酸塩、過塩素酸塩、及び過酸化物化合物が挙げられる。そのような酸化剤は、特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩として存在することができる。好適な液体酸化剤は、例えば、上述の固体酸化剤及び/又は過酸化水素の水溶液である。好適な気体酸化剤は、特に塩素及びオゾンである。酸化剤は、個々に又は任意の組み合わせで使用することができる。
【0026】
少なくとも1種の酸化剤の曝露時間は更に限定されない。好ましい実施形態では、曝露時間は、5~240分、特に好ましくは10~120分、特に15~60分であり得る。酸化ステップは、例えば、20~80℃の温度範囲又は更に最高は沸点で実施することができる。
【0027】
酸化剤での処理後、少なくとも1種の貴金属は、>0の酸化状態で存在する。好ましくは、例えば、パラジウムはPd(II)及び/又はPd(IV)として、白金はPt(II)及び/又はPt(IV)として、ロジウムはRh(I)及び/又はRh(III)として存在する。
【0028】
方法ステップ(a)の最中に、少なくとも1種の貴金属は、少なくとも部分的に、大部分が、又はほぼ完全に、担体材料から出て及び/又は担体材料から塩酸水性相に移行し、それによって最終的に塩酸水性相A1を形成することができる。
【0029】
原則として、貴金属を含有する使用済み不均一系触媒の及び/又は使用済み不均一系触媒からの貴金属の回収において、担体材料から貴金属をほぼ完全に取り出すことが望ましい。ほぼ完全な取り出しとは、貴金属の取り出し後に、担体材料が、担体材料とその中に残っている貴金属との総重量に基づいて、≦500wt ppm(重量ppm)、好ましくは≦100wt ppmの貴金属のみを有することを意味すると理解されるべきである。本発明による方法は、当該不均一系触媒の及び/又は当該不均一系触媒から貴金属を回収する方法である。より正確には、本発明による方法は、当該不均一系触媒の及び/又は当該不均一系触媒から、パラジウム、白金、及びロジウムからなる群から選択される少なくとも1種の貴金属を回収する方法である。好ましくは、回収は、担体材料からの前述のほぼ完全な取り出しという意味で行われる。
【0030】
二相系Aの塩酸水性相A1は、例えば、1リットル当たり最大12モルの酸、特に1~12モルの範囲の酸(H)の濃度を有し得る。塩酸水性相A1のpHは、例えば、-1~+3の範囲であり得る。
【0031】
二相系Aの塩酸水性相A1は、>0の酸化状態かつ溶解形態で存在する少なくとも1種の貴金属の、担体材料から移行した部をある量的割合で、例えば0.1~30g/Lの範囲で含む。
【0032】
溶解していない担体材料は、二相系A中にある量的割合で、例えば、1Lの塩酸水性相A1当たり10~1000gの範囲、好ましくは1Lの塩酸水性相A1当たり50~100gの範囲の量で存在する。
【0033】
二相系Aの塩酸水性相A1は、担体材料を取り囲み、概して担体材料の内部、例えば細孔中にも存在する。
【0034】
塩酸水性相A1はまた、更なる成分、例えば、酸化剤及び/又は酸化からの貴金属不含反応生成物の残留物を含有してもよい。
【0035】
任意選択で、二相系Aの塩酸水性相A1を希釈することが有利であり得る。好適な希釈剤は、例えば、塩酸溶液、塩酸、又は水である。
【0036】
本発明による方法の前述の好ましい実施形態、及びまた前述の更なる実施形態では、ステップ(b)が行われ、その過程で、塩酸水性相A1が二相系Aから少なくとも部分的に分離され、更なる水性相が二相系Aの残りの残留物に添加されて、二相系Bを形成する。少なくとも部分的な分離は、例えば、デカンテーション、濾過、又は遠心分離によって行うことができる。添加される好適な更なる水性相は、例えば、塩酸溶液、塩酸、又は水である。このようにして形成された二相系Bは、塩酸水性相B1と、それに不溶性である担体材料を含む固相とを含む。
【0037】
二相系Bの塩酸水性相B1は、例えば、1リットル当たり最大12モルの酸、特に1~12モルの酸(H)の濃度を有し得る。塩酸水性相B1のpHは、例えば、-1~+3の範囲であり得る。
【0038】
二相系Bの塩酸水性相B1は、>0の酸化状態かつ溶解形態で存在する少なくとも1種の貴金属をある量的割合で、例えば0.01~30g/Lの範囲で含む。
【0039】
溶解していない担体材料は、二相系B中にある量的割合で、例えば、1Lの塩酸水性相B1当たり10~1000gの範囲、好ましくは1Lの塩酸水性相B1当たり50~100gの範囲の量で存在する。
【0040】
二相系Bの塩酸水性相B1は、担体材料を取り囲み、概して担体材料の内部、例えば細孔中にも存在する。
【0041】
塩酸水性相B1はまた、更なる成分、例えば、酸化剤及び/又は酸化からの貴金属不含反応生成物の残留物を含有してもよい。
【0042】
任意選択で、二相系Bの塩酸水性相B1を希釈することが有利であり得る。好適な希釈剤は、例えば、塩酸溶液、塩酸、又は水である。
【0043】
ステップ(b)が本発明による方法において実現される場合において、好ましい場合、任意選択のステップ(b’)が続くことができる。この任意選択のステップは、各場合において、直前のステップで形成された関連する二相系から塩酸水性相を少なくとも部分的に分離し、更なる水性相を添加して、塩酸水性相と、それに不溶性である担体材料を含む固相とを含む更なる二相系を形成する、1回又は複数回の繰り返しで行われるステップである。1回のみの場合、又はステップ(b’)による第1の部分分離の場合、直前のステップで形成された二相系は、ステップ(b)で形成された二相系Bである。
【0044】
本発明による方法のステップ(c)では、(c1)二相系Aの塩酸水性相A1、又は(c2)二相系Bの塩酸水性相B1、又は(c3)ステップ(b’)で最終的に形成された二相系の塩酸水性相のいずれかからの少なくとも1種の貴金属の陰極電着ステップが、すなわち、各場合において、関連する塩酸水性相に不溶性である固体担体材料の存在下で行われる。ステップ(c)の過程で、当該の塩酸水性相全体から少なくとも1種の貴金属が枯渇する。ここで、「塩酸水性相全体」は、固体担体材料の内部(特に、例えば、細孔及び空洞)及び外部の部分の両方を意味する。
【0045】
本発明による方法の文脈において、陰極電着とは、>0の酸化状態で存在する貴金属が電気化学的に還元され、元素形態で陰極上又は陰極に析出される方法を意味すると理解される。
【0046】
ステップ(c)の最中、固体担体材料は、例えば、二相系を撹拌するか又はそれに不活性ガスを流す結果として、懸濁液の意味で関連する二相系中に均一に分布させることができる。更なる実施形態では、固体担体材料は、2つの相のうちの下相を形成することができ、不動にでき、塩酸水性上相のみが、例えば、撹拌によって移動する。例えば、陰極電着はまた、撹拌せずに行うこともできる。固体担体材料を同時に部分的に懸濁させ、残留物を底に沈降させることも可能である。
【0047】
好適な電極材料は、原理的に当業者に既知である。黒鉛、チタン、又はステンレス鋼から構成される電極が特に好適であることが判明した。本発明によれば、陰極は貴金属から、特に有利には、回収もされ得るような貴金属から製造されてもよい。可能な限り大きな表面積を有する電極が特に好適である。原則として、いかなる形状を有する電極も好適である。網状又は扇状の電極を使用することが有利であり得る。一実施形態では、複数の陰極を使用することができる。
【0048】
陰極電着は、部分反応を空間的に分離することなく行うことができる。しかしながら、膜、隔膜、又はイオン交換膜による部分反応の空間的分離を行うことも有利であり得る。例えば、このようにして、希硫酸で満たされた陽極チャンバを使用することができ、ひいては、陽極での塩素発生を回避することができる。
【0049】
陰極電着の最中、1.1~5Vの範囲の電圧で動作することが特に好都合である。
【0050】
陰極電着中の電流密度は、例えば、5~300mA/cmの範囲、好ましくは10~100mA/cmの範囲、特に20~40mA/cmの範囲であり得る。
【0051】
陰極電着は、室温で、例えば15~25℃の範囲で、又は更により高い温度、例えば最高90℃で行うことができる。特に、塩酸水性相からの陰極電着が行われる場合、高温、例えば70~90℃の範囲で動作することが好都合であり得る。
【0052】
陰極電着の持続時間は更に限定されない。それは、とりわけ、電極表面積の大きさ、設定電流密度、ステップ(c)の開始時の貴金属濃度、及び塩酸水性相中の貴金属濃度が所望の限界値を下回る時に基づく。
【0053】
ステップ(c)が終了した後、塩酸水性相中の貴金属濃度は、<50wt ppm、好ましくは<10wt ppmであり得る。例えば、この場合、貴金属濃度は、0~<50wt ppmの範囲、好ましくは5~<10wt ppmの範囲であり得る。
【0054】
方法ステップ(c)は、通常、例えば-1~+3の範囲のpHを有することができる塩酸水性相からの少なくとも1種の貴金属の陰極電着という意味で、酸性条件下で進行する。ここで、全ての貴金属は陰極析出される。
【0055】
しかしながら、ある特定の場合には、陰極電着を行う前に、塩酸水性相のpHを、例えば、≧8~14、好ましくは≧8~11.5、特に≧8~10の塩基性pH範囲に上昇させることが好都合であり得る。ここで、このようなpHを上昇させた塩酸水性相を「塩基性調整塩酸水性相」と呼ぶ。特に、少なくとも1種の貴金属がパラジウムを含むか又は特にパラジウムである場合、陰極電着を行う前に、塩酸水性相のpHを、例えば、≧8~14、好ましくは≧8~11.5、特に≧8~10の塩基性pH範囲に上昇させることが好都合であり得る。したがって、この場合、ステップ(c’)は、例えば、≧8~14、好ましくは≧8~11.5、特に≧8~10の範囲の好適な塩基性pHを調整するために、ステップ(c)の直前に実施することができる。この場合、関連する二相系A、B、又はステップ(b’)で最終的に形成された二相系は、水酸化アンモニウム及び任意選択で追加的に更なる塩基、例えばNaOH又はKOHなどと混和される。水酸化アンモニウムは、アンモニアとして供給されてもよく、好ましくは水溶液として添加されてもよいが、代替的に、強塩基の影響下で水酸化アンモニウムを放出するアンモニウム塩を、そのような塩基、例えばNaOH又はKOHなどと一緒に添加することも可能である。pHのこの塩基性調整の利点は、陽極での塩素形成の減少又は回避、及び水素発生を減らしながら増加した電流密度でステップ(c)を実施可能であることを含む。電気化学的効率(析出パラジウムの電流密度に対する比)を改善することができる。本発明による方法のこの特定の実施形態は、固体担体材料と、少なくとも部分的に元素形態で存在するパラジウムとを含む不均一系触媒の及び/又は不均一系触媒から、パラジウムを回収する方法であって、
(a)不均一系触媒を塩酸の存在下で、酸化剤で処理することによって、少なくとも部分的に元素形態で存在するパラジウムを>0の酸化状態に変換して、塩酸水性相A1と、それに不溶性である担体材料を含む固相とを含む二相系Aを形成するステップと、
(b)任意選択で、しかし好ましくは、二相系Aから塩酸水性相A1を少なくとも部分的に分離し、二相系Aの残りの残留物に更なる水性相を添加して、塩酸水性相B1と、それに不溶性である担体材料を含む固相とを含む二相系Bを形成するステップと、
(b’)ステップ(b)が行われた場合、任意選択で、1回又は複数回の繰り返しで、先行するステップで形成された二相系から塩酸水性相を少なくとも部分的に分離し、更なる水性相を添加して、塩酸水性相と、それに不溶性である担体材料を含む固相とを含む更なる二相系を形成するステップと、
(c’)二相系Aの塩酸水性相A1、又は二相系Bの塩酸水性相B1、又はステップ(b’)で最終的に形成された二相系の塩酸水性相の塩基性pHを、水酸化アンモニウムを用いて≧8~14、好ましくは≧8~11.5、特に≧8~10の範囲に調整するステップと、
(c)ステップ(c’)で塩基性に調整された二相系の塩酸水性相からのパラジウムの陰極電着ステップと、
の連続するステップを含む、方法である。ステップ(c’)で塩基性に調整された二相系の塩酸水性相からの陰極電着は、ステップ(c)が塩基性に調整された塩酸水性相に不溶性である固体担体材料の存在下で行われることを意味する。
【0056】
ステップ(c’)は、水酸化アンモニウムを使用して実施される。水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムなどの様々な塩基を、記載したように更に使用することができる。特に、pHを≧8~10の範囲に調整する場合には、塩基として水酸化アンモニウムのみを使用しながらpH調整を実施することができる。
【0057】
本発明による方法の完了後、貴金属がほとんど放れていった担体材料を回収することが有利な場合がある。有利な場合は主に、担体材料が高価に製造された成形体の形態である場合である。この目的のために、本発明による方法は、成形体に対して穏やかに実施することができ、例えば、関連する陰極電着ステップ中の撹拌無しで済ませることも可能である。
【0058】
関連する陰極電着ステップにおいて得られた元素貴金属の更なる処理のための方法は、当業者に既知であり、例えば、貴金属の種類、方法条件、及び/又は使用される陰極に依存する。例えば、析出した貴金属は陰極に付着することがある。この場合、それは、その後、例えば機械的処理によって陰極から分離され得るか、又は元の電極材料とそこに析出した貴金属とを含む陰極が、全体として更に処理される。貴金属は、電気化学的還元後に陰極に付着しないことが可能であることもある。例えば、貴金属が、粉末又は粒子の形態で、特に有利に分離される反応空間内に存在する場合があり、既知の方法によって分離され得る。
【0059】
本発明による方法を使用して、貴金属、より正確にはパラジウム、白金、及び/又はロジウムを、環境的及び省資源的方法で使用済み不均一系触媒から回収することができる。一方では、直接電解析出は、必要とする反応器容積の容積がより少ない。加えて、従来技術による方法と比較して低減された洗浄媒体又は洗浄水の体積の結果として、これまで必要であったプロセスステップ及びワークアップステップが無しで済み、これは、エネルギー及び時間消費の低減を意味する。
【0060】
例示的な実施形態
実施例1:
500mgのパラジウムに相当する100gの不均一系触媒(直径3mmのボール、酸化アルミニウム上の0.511wt%のパラジウム)を1Lの6N塩酸と混合した。撹拌しながら、この二相系に塩素を10Nl/h、60℃で15分間流した。その後、90℃で30分間保持して塩素を除去した。固体成分を沈降させた後、865mlの液相を取り出した。取り出した液相から、476mgのパラジウムを湿式冶金的に回収することができた。二相残留物を160mlの水で希釈し、7gの塩化アンモニウムを添加した。その後、28wt%水酸化アンモニウム溶液を、pHが8.8に達するまで添加した。4Vの黒鉛電極による25℃及び33mA/cm2の電流密度でのその後の電解析出において、元素パラジウムが25%の電気化学的効率で陰極に析出した。回収した全パラジウムの収率は99.5%であった。ICP-OESによる担体材料のパラジウム分析は、担体材料の総重量に基づいて、<10wt ppmのパラジウムの残留含有量を示した。
【0061】
実施例2
1000mgのパラジウムに相当する50gの不均一系触媒(100μm~1mmの粒径を有する粉末、ケイ酸アルミニウム上の2wt%のパラジウム)を、空気雰囲気中800℃で5時間加熱し、その後、H雰囲気下500℃で2時間アニールし、その後、1Lの6N塩酸と混合した。撹拌しながら、この二相系に塩素を6Nl/h、60℃で15分間流した。その後、85℃で30分間保持して塩素を除去した。固体成分を沈降させた後、850mlの液相を取り出した。取り出した液相から、890mgのパラジウムを湿式冶金的に回収することができた。二相残留物を150mlの水で希釈し、7gの塩化アンモニウムを添加した。その後、28wt%水酸化アンモニウム溶液を、pHが8に達するまで添加した。4Vの黒鉛電極による25℃及び33mA/cmの電流密度でのその後の電解析出において、元素パラジウムが25%の電気化学的効率で陰極に析出した。回収した全パラジウムの収率は99.5%であった。ICP-OESによる担体材料のパラジウム分析は、担体材料の総重量に基づいて、<10wt ppmのパラジウムの残留含有量を示した。
【0062】
実施例3:
500mgのパラジウム及び500mgの白金に相当する100gの不均一系触媒(100μm~1mmの粒径を有する粉末、酸化アルミニウム上の0.5wt%のパラジウム及び0.5wt%の白金)を1Lの6N塩酸と混合した。撹拌しながら、この二相系に塩素を6Nl/h、60℃で30分間流した。その後、85℃で30分間保持して塩素を除去した。固体成分を沈降させた後、850mlの液相を取り出した。取り出した液相から、470mgのパラジウム及び450mgの白金を湿式冶金的に回収することができた。二相残留物を150mlの水で希釈した。1.8Vの黒鉛電極による85℃及び33mA/cmの電流密度でのその後の電解析出において、元素パラジウム及び元素白金が12%の電気化学的効率で陰極に析出した。回収した全貴金属(パラジウム及び白金)の収率は99.5%であった。ICP-OESによる担体材料の白金及びパラジウム分析は、担体材料の総重量に基づいて、<10wt ppmのパラジウム及び<10wt ppmの白金の残留含有量を示した。
【0063】
実施例4:
500mgのパラジウムに相当する100gの不均一系触媒(直径3mmのボール、酸化アルミニウム上の0.511wt%のパラジウム)を1Lの6N塩酸と混合した。撹拌しながら、この二相系に塩素を10Nl/h、60℃で15分間流した。その後、90℃で30分間保持して塩素を除去した。固体成分を沈降させた後、865mlの液相を取り出した。取り出した液相から、476mgのパラジウムを湿式冶金的に回収することができた。二相残留物を150mlの水で希釈した。1.8Vの黒鉛電極による85℃及び33mA/cmの電流密度でのその後の電解析出において、元素パラジウムが12%の電気化学的効率で陰極に析出した。回収した全パラジウムの収率は99.5%であった。ICP-OESによる担体材料のパラジウム分析は、担体材料の総重量に基づいて、<10wt ppmのパラジウムの残留含有量を示した。