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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】保持部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20240610BHJP
   C04B 35/582 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
H01L21/68 R
C04B35/582
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020041204
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021144991
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 則幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕明
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-029458(JP,A)
【文献】特開2005-032842(JP,A)
【文献】特開2001-357965(JP,A)
【文献】特開2018-184316(JP,A)
【文献】特開2011-057488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
C04B 35/582
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体に形成され、処理対象を表面上に保持する板状の保持部材であって、
AlNを主成分とするセラミック焼結体で形成された表面層およびバルク層と、
前記表面層とバルク層との間に設けられた電極と、を備え、
前記表面層は、前記セラミック焼結体のAlN粒界にYAG粒子が含まれ、YAP粒子およびYAM粒子が含まれず、
前記バルク層は、前記セラミック焼結体のAlN粒界に、YAP粒子またはYAM粒子が含まれ、YAG粒子が含まれないことを特徴とする保持部材。
【請求項2】
前記YAG粒子の粒子径とAlN粒子の粒子径との比が0.3以下であることを特徴とする請求項1記載の保持部材。
【請求項3】
一体に形成され、処理対象を表面上に保持する板状の保持部材の製造方法であって、
AlN原料にYを添加した原料粉を造粒して複数の成形体を作製する工程と、
前記複数の成形体を脱脂処理して複数の脱脂体を作製する工程と、
前記複数の脱脂体に電極を挟んで積層し、前記積層された積層体をホットプレス焼成する工程と、を含み、
前記脱脂処理の工程において、脱脂温度T1(℃)と脱脂時間H1(h)とがH1≧300/(T1-540)を満たす条件で、焼成時に表面側に配置される第1の脱脂体を作製し、
前記脱脂処理の工程において、脱脂温度T2(℃)と脱脂時間H2(h)とがH2<300/(T2-540)を満たす条件で、焼成時に前記第1の脱脂体よりも表面側の反対側であるバルク側に配置される第2の脱脂体を作製することを特徴とする保持部材の製造方法。
【請求項4】
前記複数の脱脂体のうち、焼成時に表面側に配置される第1の脱脂体に対するY添加量より焼成時にバルク側に配置される第2の脱脂体に対するY添加量の方が大きいことを特徴とする請求項3記載の保持部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一体に形成され、処理対象を表面上に保持する板状の保持部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AlN製静電チャックは、半導体製造装置の部品であり、処理対象の基板をその表面に吸着させる。このようなAlN製静電チャックの製法の一つとして、従来、成形体ホットプレス法が知られている。この製法では、まず、AlN原料に添加物およびバインダを混合し、造粒する。その際には、焼結体の熱伝導率を高くするために、AlN原料には数wt%程度のYが添加される。
【0003】
造粒された顆粒を成形して複数の成形体を作製し、作製された成形体を脱脂して脱脂体を作製する。そして、複数の脱脂体の間に電極を挟んで積層し、積層体をホットプレス焼成して、AlN製静電チャックを製造する(例えば特許文献1参照)。
【0004】
このようにして得られるAlN製静電チャックの内部には、少なくとも静電吸着用の電極が埋設されている。そして、静電吸着用の電極と基板載置面との間には、絶縁層として表面層が形成されている。この表面層の体積抵抗率を使用される温度域で一定の範囲に収めるように設計することで、基板との間に強い静電吸着力を発生できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6148845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の成形体プレス法によって製造された静電チャックは、絶縁層領域の体積抵抗率が十分に低下しない。その結果、特に温度域(200~400℃)での静電吸着力が不足していた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、表面層の体積抵抗率が低下し、処理対象に対し強い静電吸着力を発揮できる保持部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の保持部材は、一体に形成され、処理対象を表面上に保持する板状の保持部材であって、AlNを主成分とするセラミック焼結体で形成された表面層およびバルク層と、前記表面層とバルク層との間に設けられた電極と、を備え、前記表面層は、前記セラミック焼結体のAlN粒界にYAG粒子が含まれ、YAP粒子およびYAM粒子が含まれないことを特徴としている。これにより、YAP粒子またはYAM粒子が含まれる場合に比べて表面層の体積抵抗率が低下し、処理対象に対し強い静電吸着力を発揮できる。
【0009】
(2)また、本発明の保持部材は、前記YAG粒子の粒子径とAlN粒子の粒子径との比が0.3以下であることを特徴としている。このようにYAG粒子が細かく多数分散しているため表面層の体積抵抗率を低下させることができる。
【0010】
(3)また、本発明の保持部材は、前記バルク層が、前記セラミック焼結体のAlN粒界に、YAP粒子またはYAM粒子が含まれ、YAG粒子が含まれないことを特徴としている。このようにバルク層にYAP粒子またはYAM粒子が含まれることで体積抵抗率を相対的に高く維持でき、リーク電流を抑止するとともに電極の電圧制御が容易になる。
【0011】
(4)また、本発明の保持部材は、前記バルク層が、前記セラミック焼結体のAlN粒界にYAG粒子が含まれ、YAP粒子およびYAM粒子が含まれないことを特徴としている。このように表面層とバルク層とを同じ構成にすることで、製造工程を簡略化できる。
【0012】
(5)また、本発明の保持部材の製造方法は、一体に形成され、処理対象を表面上に保持する板状の保持部材の製造方法であって、AlN原料にYを添加した原料粉を造粒して複数の成形体を作製する工程と、前記複数の成形体を脱脂処理して複数の脱脂体を作製する工程と、前記複数の脱脂体に電極を挟んで積層し、前記積層された積層体をホットプレス焼成する工程と、を含み、前記脱脂処理の工程においては、脱脂温度T1(℃)と脱脂時間H1(h)とがH1≧300/(T1-540)を満たす条件で、焼成時に表面側に配置される第1の脱脂体を作製することを特徴としている。これにより、第1の脱脂体から得られる表面層にYAG粒子が含まれ、YAP粒子およびYAM粒子が含まれないものとなる。その結果、表面層の体積抵抗率が低下し、処理対象に対し強い静電吸着力を発揮できる。
【0013】
(6)また、本発明の保持部材の製造方法は、前記脱脂処理の工程において、脱脂温度T2(℃)と脱脂時間H2(h)とがH2<300/(T2-540)を満たす条件で、焼成時に前記第1の脱脂体よりも表面側の反対側であるバルク側に配置される第2の脱脂体を作製することを特徴としている。これにより、第2の脱脂体から得られるバルク層にYAP粒子またはYAM粒子が含まれることで体積抵抗率を相対的に高く維持でき、リーク電流を抑止するとともに電極の電圧制御が容易になる。また、電極の炭化を抑止することができ保持部材の静電吸着機能、RF特性やヒータ機能を安定化させることができる。
【0014】
(7)また、本発明の保持部材の製造方法は、前記複数の脱脂体のうち、焼成時に表面側に配置される第1の脱脂体に対するY添加量より焼成時にバルク側に配置される第2の脱脂体に対するY添加量の方が大きいことを特徴としている。これにより、第2の脱脂体から得られるバルク層の体積抵抗率を表面層の体積抵抗率よりも高く維持することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表面層の体積抵抗率が低下し、処理対象に対し強い静電吸着力を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態の保持部材を示す正断面図である。
図2】(a)~(d)それぞれ第1実施形態の製造工程の一段階を模式的に示す断面図である。
図3】各試料の脱脂条件および評価結果を示す表である。
図4】(a)、(b)それぞれ各試料の体積低効率および粒子径比のデータを脱脂温度と脱脂時間のグラフ上にプロットした図である。
図5】測定温度における表面層の体積抵抗を示すグラフである。
図6】Y-Al系化合物の相図である。
図7】脱脂条件を変えた各試料の破断面を示すSEM写真である。
図8】各試料の脱脂条件および評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
[第1実施形態]
[保持部材の構成]
図1は、保持部材100を示す正断面図である。保持部材100は、円板等の板状に形成され、表面層110、バルク層120および電極150、160を備える。表面層110およびバルク層120は、AlNを主成分とするセラミック焼結体で形成され、YとAlの複酸化物の結晶相が含まれている。また、図1に示す例では、電極150が、表面層110とバルク層120との間に設けられており、さらにヒータ用の電極160がバルク層120の内部に設けられている。電極150、160には、モリブデンまたはタングステンが用いられる。
【0019】
保持部材100は、例えば、静電チャックであり、セラミック材料により一体に形成され、ジョンセン・ラーベック効果による静電吸着力で処理対象を表面上に保持する。この場合、電極150は、静電吸着に用いられる。電極150は、表面層110の材料が所定範囲の体積抵抗率を有していれば、ジョンセン・ラーベック効果が活かされる。表面層110は、表面(処理対象の載置面)から電極150までの領域に形成されていることが吸着力や製造の便宜上好ましいが、表面から電極150の手前までの領域に形成されていてもよいし、表面から電極150と電極160の間の位置までに形成されていてもよい。
【0020】
表面層110を構成するセラミック焼結体のAlN粒界には、YAG粒子が含まれ、YAP粒子およびYAM粒子が含まれない。これにより、YAP粒子またはYAM粒子が粒子として含まれる場合に比べて表面層110の体積抵抗率が低下し、処理対象に対し強い静電吸着力を発揮できる。
【0021】
なお、このような組成は、X線回折においてYAG、YAM、YAPのピークが認められるか否かで評価できる。ピークか否かは、バックグラウンドの2倍以上の強度を示す先端があるか否かで判断できる。YAG粒子が含まれるか否かは、JCPDSカードICDD#01-073-3184に示されたYAGの回折ピークのうち、回折角度18.11°付近に表れるピークの有無で判断できる。YAM粒子が含まれるか否かは、JCPDSカードICDD#00-033-0368に示されたYAMの回折ピークのうち、回折角度30.60°付近に表れるピークの有無で判断できる。YAP粒子が含まれるか否かは、JCPDSカードICDD#00-033-0041に示されたYAPの回折ピークのうち、回折角度34.24°付近に表れるピークの有無で判断できる。
【0022】
表面層110において、YAG粒子の粒子径とAlN粒子の粒子径との比は、0.3以下であることが好ましい。このように細かいYAG粒子が分散しているため表面層110の体積抵抗率を低下させられると考えられる。
【0023】
バルク層120を構成するセラミック焼結体のAlN粒界には、YAP粒子またはYAM粒子が含まれ、YAG粒子が含まれないことが好ましい。これにより、体積抵抗率を相対的に高く維持でき、リーク電流を抑止するとともにバルク層内の電極の電圧制御が容易になる。なお、保持部材100は必ずしも静電チャックである必要はなく、電極150がRF電源の電極として用いられてもよい。なお、上記の例では、円板状の部材のみで保持部材100が構成されているが、基板の載置面の反対側にシャフトが設けられていてもよい。また、シャフトには、助剤を用いずに熱伝導率を低くすることが好ましい。
【0024】
[保持部材の製造方法]
次に、上記のように構成された保持部材100の製造方法を説明する。図2(a)~(d)は、それぞれ製造工程の一段階を模式的に示す断面図である。まず、AlN原料に2~6wt%のYを添加し、PVA系のバインダを添加して原料粉を造粒する。そして、得られた造粒粉を用いて複数の成形体210、220a、220bを作製する。複数の成形体210、220a、220bを所定の温度以上、所定の時間以上脱脂処理して複数の脱脂体を作製する。なお、脱脂には、大気炉または窒素雰囲気炉を用いることができるが、バインダの有機成分を除去することが重要なので大気炉の方が好ましい。
【0025】
脱脂する際には、表面層に相当する成形体かバルク層かで条件が異なる。例えば、焼成時に表面側に配置される脱脂体310(第1の脱脂体)は、脱脂温度T1(℃)と脱脂時間H1(h)とがH1≧300/(T1-540)を満たす条件で作製することが好ましい。これにより、脱脂体310から得られる表面層が、不純物粒子にYAG粒子が含まれ、YAP粒子およびYAM粒子が含まれなくなる。その結果、表面層の体積抵抗率が低下し、処理対象に対し強い静電吸着力を発揮できる。
【0026】
また、焼成時に前記第1の脱脂体よりも表面側の反対側であるバルク側に配置される脱脂体(第2の脱脂体)は、脱脂温度T2(℃)と脱脂時間H2(h)とがH2<300/(T2-540)を満たす条件で作製することが好ましい。これにより、脱脂体から得られるバルク層にYAP粒子またはYAM粒子が含まれることで体積抵抗率を相対的に高く維持でき、リーク電流を抑止するとともに電極の電圧制御が容易になる。また、電極の炭化を抑止することができる。
【0027】
複数の脱脂体のうち、焼成時に表面側に配置される脱脂体310に対するY添加量より焼成時にバルク側に配置される脱脂体320a、320bに対するY添加量の方が大きいことが好ましい。これにより、脱脂体から得られるバルク層の体積抵抗率を表面層の体積抵抗率よりも高く維持することができる。
【0028】
このようにして得られた脱脂体310と脱脂体320aとの間に静電吸着用電極150を挟み、脱脂体320aと脱脂体320bとの間にヒータ用の電極160を挟んで積層し、積層体をホットプレス焼成する。ヒータ用の電極160を同時に埋設することによって自己発熱によって静電チャックを特定の温度域(200~400℃)に加熱することができ、そのような温度域で絶縁層の体積抵抗率が静電吸着するのに十分な値に下がり強い吸着力を発揮させることができる。また、このような製法によって自己加熱により特定の温度域(200~400℃)で使用できる静電チャックを作製することができる。なお、ヒータ用の電極160の設置は設計に応じて決めればよく、必ずしもヒータ用の電極160を設けなくてもよい。
【0029】
従来の脱脂条件では、YAM(YAl)、YAP(YAlO)組織がまばらに粒界に分散する。しかし、脱脂を十分に行った後にホットプレス焼成することによって、AlN粒子の周囲が(一部)酸化しAlやYと反応したYAG(YAl12)の組織が粒界に細かく、かつ、多数分散する形態となる。
【0030】
YAGは、Alとの間、YAGとYAP間の間で比較的低い温度で共晶を形成するため、焼成時に不純物を取り込みやすい。したがって、YAG相が表れている粒界の抵抗は下がり、全体としての体積抵抗率が下がると推察される。このような製法によって特定の温度域(200~400℃)で使用できる静電チャックを作製することができる。このようにして作製された静電チャックは所定温度で強い静電吸着力を発揮することができる。
【0031】
上記の工程では、成形体を適切に脱脂することで、ホットプレス焼成後にAlNセラミックス組織の粒界に生成するAlとY成分からなる複酸化物の分布および結晶相が調節される。その結果、AlNセラミックスの体積抵抗率が適度に低下する。その効果には、2~6wt%のYの添加が好ましく、3~5wt%の添加がより好ましい。
【0032】
[第2実施形態]
上記の実施形態では、バルク層120が表面層110とは脱脂条件または組成の異なる材料で形成されているが、バルク層120が表面層110と同じ材料で形成されていてもよい。すなわち、表面層110およびバルク層120のいずれも、セラミック焼結体のAlN粒界にYAG粒子を含み、YAP粒子およびYAM粒子を含まないように構成することもできる。表面層110とバルク層120とを同じ構成にすることで、製造工程を簡略化できる。
【0033】
[実施例1]
上記の保持部材100の製造方法に基づいて、異なる脱脂条件でセラミック焼結体を作製し、各温度における体積抵抗率の測定、XRD分析、破断面のSEM観察を行なった。原料、造粒粉作製方法、成形方法、成形体加工方法、脱脂方法、ホットプレス方法の詳細は特許第6148845号公報に記載の方法に準拠した。
【0034】
(試料a1~a15)
いずれもAlN原料に5wt%のYを添加した原料粉を造粒して成形体を作製した。そして、成形体を所定の温度、所定の時間脱脂処理して脱脂体を作製した。図3は、各試料の脱脂条件および評価結果を示す表である。脱脂温度および脱脂時間は、図3に示す通りである。得られた脱脂体に電極を挟んで積層し、ホットプレス焼成した。SEM観察は、サンプルの破断面を用いて行なった。なお、研磨等は行なっていない。AlN相以外の粒子径は焼結体組織を2000倍または5000倍で撮影し、AlN相以外の粒子の長軸寸法が最大のものから上位5点の粒子径の平均とした。組成評価の際のX線回折ピークの確認には、X線回折装置(Rigaku MultiFlex Cu Kα 40kV/40mA)を用いた。
【0035】
(体積抵抗率の測定方法)
体積抵抗率の測定は、JIS C2139に準拠する。セラミック焼結体の両面に耐熱金属(Niなど)の電極を配置し、電極間に電圧(500V)を印加し電流を測定し、セラミック焼結体および電極寸法より体積抵抗率に換算する。微小電流計、例えばエーディーシー社R8340Aで測定することができる。その他、高圧電源と電流計により同様に電流値から算出できる。
【0036】
(実験結果)
図4(a)、(b)は、それぞれ各試料の体積抵抗率および粒子径比のデータを脱脂温度と脱脂時間のグラフ上にプロットした図である。なお、図4(a)において、例えば「4e11」は、4×1011Ωcmを表している。図4(a)、(b)に示すように、脱脂温度T(℃)および脱脂時間H(時間)を用いて表されるしきい式H=300/(T-540)は脱脂条件を示しており、得られた試料の組成を区分している。
【0037】
すなわち、H≧300/(T-540)の領域内にプロットされた試料a5、a6、a8~a10、a12およびa13、a15では、AlN粒界にYAG粒子が含まれている。H<300/(T-540)の領域内にプロットされた試料a1~a4、a7、a11、a14では、AlN粒界にYAP粒子またはYAM粒子が含まれている。図4(a)、(b)によれば、AlN粒界にYAG粒子が含まれる試料の方が、AlN粒界にYAP粒子またはYAM粒子が含まれる試料より、体積抵抗率が小さく、粒子径比が小さいことが分かる。
【0038】
図5は、測定温度における表面層の体積抵抗率を示すグラフである。図5に示すように、脱脂温度が高くなるほどホットプレス焼成後の体積抵抗率は低下した。また、脱脂時間が長くなるほどホットプレス焼成後の体積抵抗率は低下した。
【0039】
図6は、Y-Al系化合物の相図である。図6を参照すると、表面層では脱脂を十分に行った後にホットプレス焼成したことにより、AlN粒子の周囲が(一部)酸化しAlやYと反応したYAG(YAl12)の組織が粒界に細かく、かつ、多数分散したと考えられる。
【0040】
図7は、脱脂条件を変えた各試料(表面層)の破断面を示すSEM写真である。図7に示すように、体積抵抗率が低下している試料a9およびa10のセラミックス組織の粒界の粒子の結晶相はYAGが主であり、細かい多数の粒子(図中白色)が分散していることが分かった。体積抵抗率が低下していない試料a3およびa7のセラミックス組織の粒界の粒子の結晶相はYAPが主であり、大きい粒子として偏っていることが分かった。
【0041】
脱脂温度が高くなるほどホットプレス焼成後の体積抵抗率は低下した。また、脱脂時間が長くなるほどホットプレス焼成後の体積抵抗率は低下した。体積抵抗率が低下しているセラミックス組織の粒界の粒子の結晶相はYAGが主であった。体積抵抗率が低下していないセラミックス組織の粒界の粒子の結晶相はYAPが主であった。
【0042】
[実施例2]
(試料b1~b4)
次に、保持部材を作製して静電吸着力およびリーク電流を評価する実験を行なった。いずれもAlN原料に5wt%Yを添加した原料粉を造粒して成形体を作製した。表面層用の成形体(第1の成形体)を温度T1、時間H1で脱脂処理し脱脂体(第1の脱脂体)を作製した。一方、バルク層用の成形体(第2の成形体)を温度T2、時間H2で脱脂処理して脱脂体(第2の脱脂体)を作製した。温度T1は、温度T2より大きく、いずれも550℃以上である。脱脂時間には、いずれも1時間以上とった。
【0043】
このようにして得られた表面層用の脱脂体またはバルク層用の脱脂体に静電吸着用の電極およびヒータ用の電極を埋設する凹部を形成した。表面層用の脱脂体またはバルク層用の脱脂体の間に静電吸着用の電極を配置し、バルク層用の脱脂体の間にヒータ用の電極を挟んで積層した。いずれも電極として、Moメッシュ(線径0.1mm、平織、メッシュサイズ50)を所定の形状に裁断して用いた。このようにして積層された脱脂体をホットプレス焼成した。
【0044】
(静電吸着力の測定方法)
静電チャックの表面(基板載置面)に8インチシリコンウェハを載せ、内蔵ヒータで自己加熱し、300℃まで大気中で加熱する。温度が定常状態になったのち、静電吸着電極に500V印加し、5秒後にシリコンウェハの側面にプッシュプルゲージを押し当て、シリコンウェハが動き出すときの荷重を静電吸着力とした。その荷重が、1000gf以上であった場合を〇、1000gf未満であった場合を×と評価した。なお、内蔵ヒータおよび静電吸着電極のいずれについても焼結体の内部に形成されている電極を用いた。
【0045】
いずれの試料においても、バルク層の体積抵抗率が3×1012Ωcmであり、表面層の体積抵抗率が6×1010Ωcm以下であった。このようにバルク層の体積抵抗率が高く、静電吸着用電極とヒータ用電極との間のリーク電流が小さく抑えられるとともに、表面層の体積抵抗率が低下していた。そのため、良好な温度コントロールのもと静電吸着用電極に電圧を印加した5秒後でも十分大きな静電吸着力を発現できた。
【0046】
(試料b5)
表面層用の成形体としてAlN原料に2wt%Yを添加した原料粉を造粒して成形体を複数枚作製した。また、バルク層用の成形体としてAlN原料に5wt%のYを添加した原料粉を造粒して成形体を複数枚作製した。表面層用の成形体のその他の条件は、試料a9と同一にした。バルク層用の成形体は、試料a3と同一の条件にした。このときの表面層の体積抵抗率は1×1010Ωcmであった。バルク層の体積抵抗率は3×1012であった。その結果、表面層の体積抵抗率がさらに小さくすることができたことおよび、リーク電流が小さく抑えられたことで、良好な温度コントロールのもと静電吸着用電極に電圧を印加した5秒後でも十分大きな静電吸着力を発現できた。
【0047】
(試料b6、b7)
いずれもAlN原料に5wt%Yを添加した原料粉を造粒して成形体を作製した。試料b6では、表面層用の成形体とバルク層用の成形体の脱脂条件を各々550℃、4時間とし、試料b7では表面層用の成形体とバルク層用の成形体の脱脂条件を各々600℃、4時間と表面層用の成形体とバルク層用の成形体の脱脂条件を同一にした。表面層およびバルク層の体積抵抗率は各々が3×1012Ωcmであった。表面層の体積抵抗率が高いため、静電吸着電極に電圧を印加した5秒後において高い吸着力は発現しなかった。
【0048】
このようにして得られた結果によれば、脱脂温度が高くなるほどホットプレス焼成後の体積抵抗率は低下した。また、脱脂時間が長くなるほどホットプレス焼成後の体積抵抗率は低下した。体積抵抗率が低下しているセラミックス組織の粒界の粒子の結晶相はYAGが主であった。体積抵抗率が低下していないセラミックス組織の粒界の粒子の結晶相はYAPが主であった。
【0049】
そのため、脱脂体をホットプレス焼成した後の表面層およびバルク層の体積抵抗率が異なり、バルク層の体積抵抗率が高く維持されるような脱脂条件を選択すれば、リーク電流が抑制されたAlN製電極埋設部材が作製できることが分かった。
【0050】
(試料b8)
AlN原料に5wt%のYを添加して原料粉を造粒した。そして、造粒粉から成形体を3枚作製した。このうち、1枚の脱脂体は表面層用の脱脂体として600℃で24時間脱脂した。2枚の脱脂体はバルク層用の脱脂体として550℃で4時間脱脂した。
【0051】
バルク層用の脱脂体に電極埋設用の凹部加工を行った後、表面層用およびバルク層用の脱脂体の間に静電吸着用の電極を挟み、バルク層用の脱脂体同士の間にヒータ用の電極を挟んで積層し、積層体を最高温度1850℃、1MPaで窒素雰囲気下においてホットプレス焼成した。外形加工および必要な端子を取り付けてヒータ内蔵静電チャックを製作した。
【0052】
作製したヒータ内蔵静電チャックに通電して自己発熱させ300℃に昇温し、基板載置面に基板を載置し静電吸着用電源に電圧を印加して静電吸着を行うことができた。その時のリーク電流は1mAより小さかった。
【0053】
(試料b9)
まず、AlN原料に5wt%のYを添加した原料粉を造粒して、成形体を4枚作製した。そのうち、2枚の成形体は600℃で24時間脱脂して、2枚の表面層用の脱脂体を作製した。一方、残りの2枚の成形体は、550℃で4時間脱脂しバルク層用の脱脂体として得た。
【0054】
表面層用およびバルク層用の脱脂体に電極埋設用の凹部加工を行った後、各々の脱脂体の間に静電吸着用の電極とヒータ用の電極を挟んで積層し、最高温度1850℃、1MPaで窒素雰囲気下ホットプレス焼成した。そして、外形加工および必要な端子を取り付けてヒータ内蔵静電チャックを作製した。
【0055】
作製した静電チャックのヒータに通電して自己発熱させ300℃に昇温し、基板載置面に基板を載置し静電吸着用電源に電圧を印加して静電吸着を行うことができた。その時のリーク電流は1mAより小さかった。
【符号の説明】
【0056】
100 保持部材
110 表面層
120 バルク層
150 静電吸着用の電極
160 ヒータ用の電極
210 表面層用の成形体
220a、220b バルク層用の成形体
310 表面層用の脱脂体(第1の脱脂体)
320a、320b バルク層用の脱脂体(第2の脱脂体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8