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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】水中仮締切り構造体及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 19/04 20060101AFI20240610BHJP
   E02D 23/00 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
E02D19/04
E02D23/00 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021205033
(22)【出願日】2021-12-17
(65)【公開番号】P2023090197
(43)【公開日】2023-06-29
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】324002731
【氏名又は名称】日本工営エナジーソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135965
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 要泰
(73)【特許権者】
【識別番号】504024597
【氏名又は名称】独立行政法人水資源機構
(74)【代理人】
【識別番号】100135965
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 要泰
(74)【代理人】
【識別番号】100100169
【弁理士】
【氏名又は名称】大塩 剛
(72)【発明者】
【氏名】涌井 健
(72)【発明者】
【氏名】村崎 雅之
(72)【発明者】
【氏名】仁子 幸子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 浩司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】柴田 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】坂上 聡明
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-001838(JP,A)
【文献】特開2005-139865(JP,A)
【文献】特開平11-229355(JP,A)
【文献】特開2014-190078(JP,A)
【文献】特開平11-100830(JP,A)
【文献】特開2010-001615(JP,A)
【文献】特開2011-231524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 19/04
E02D 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
堤体の上流面に沿って水中に設置された鋼製の台座と、該台座の上に鉛直方向に積み重ねられた複数のブロックを有するケーソンと、該ケーソンと堤体の上流面の間に設けられた戸当り構造体とを備えた水中仮締切り構造体において、
前記ケーソンは、最上段の第1ブロックと第1ブロックの下側の第2ブロックを有し、第2ブロックの上端面は、水平面に平行な当接面を有し、
前記戸当り構造体は、前記堤体の上流面に固定されており、1対の戸当り部材と該戸当り部材の間に設けられた浮力対策部材とを有し、戸当り部材は、前記堤体の上流面より外方に延びる互いに平行な1対の逆L字形の突起部を有し、該突起部の下面は水平面に平行な支圧面を有し、
2ブロックの当接面と前記戸当り構造体の支圧面が当接することによって、前記ケーソンに作用する浮力が戸当り構造体によって支持される、水中仮締切り構造体。
【請求項2】
請求項1記載の水中仮締切り構造体において、
1ブロックの上端面と前記戸当り構造体の上面とは、前記堤体の天端面と同一高さである、水中仮締切り構造体。
【請求項3】
請求項1に記載の水中仮締切り構造体において、
前記戸当り部材は、互いに平行な且つ対面する内側面を有し、該内側面には支持部材が設けられており、該支持部材によって前記浮力対策部材が保持される、水中仮締切り構造体。
【請求項4】
請求項1記載の水中仮締切り構造体において、
前記第2ブロックの当接面と前記戸当り構造体の支圧面の間に油圧ジャッキが設置される、水中仮締切り構造体。
【請求項5】
請求項1記載の水中仮締切り構造体において、
前記堤体に増設される放流管の予備ゲートを開閉するための予備ゲート開閉装置が設けられ、該予備ゲート開閉装置は前記戸当り構造体の上面に設置される、水中仮締切り構造体。
【請求項6】
ケーソンと戸当り構造体と台座とを備えた水中仮締切り構造体を用いて堤体に放流管を増設する施工方法において、
前記堤体の上流面に沿って水中に鋼製の台座を設置する台座設置工程と、
前記台座の上に鉛直方向に積み重ねられた複数のブロックを有するケーソンを設置するケーソン設置工程と、
前記ケーソンと前記堤体の上流面の間に、該堤体の上流面に固定して戸当り構造体を設置する戸当り構造体設置工程と、
前記ケーソンの内部を排水して作業空間を形成する排水工程と、
前記堤体に放流管を形成する放流管形成工程とを有し、
前記ケーソンは、最上段の第1ブロックと第1ブロックの下側の第2ブロックを有し、第2ブロックの上端面は水平面に平行な当接面を有し、
前記戸当り構造体は、前記堤体の上流面より外方に延びる互いに平行な1対の逆L字形の突起部を有し、該突起部の下面は水平面に平行な支圧面を有し、
2ブロックの当接面と前記戸当り構造体の支圧面が当接することによって、前記ケーソンに作用する浮力が該戸当り構造体によって支持され、既設ダムの貯水側の堤体の上流面に沿って作業空間を作り、この作業空間の中において放流管を形成する施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に作業空間を作るための水中仮締切り構造体及びその施工方法に関し、特に、既設ダムの貯水側の堤体の上流面に沿って作業空間を作るのに好適な水中仮締切り構造体及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設ダムに新たな放流設備を増設する場合、水中の作業箇所の周囲に作業空間を形成するために水中仮締切り構造体が使用される。水中仮締切り構造体の据付では、最初にダイバーが水中に潜って初期的な作業を行う。次に、水中仮締切り構造体を設置し、水中に一時的に作業空間を作り、そこで本格的な作業を行う。一般に、水中仮締切り構造体は、ケーソンと称される断面がコの字型のプレートガーダの構造を有する。ケーソンを、水中のコンクリート壁面に沿って設置し、水中仮締切り構造体の内部を排水して作業空間を作る。
【0003】
水中に没したケーソンの内部を排水すると、浮力が作用する。ケーソンが浮力によって浮き上がるのを防止する方法には、ケーソンの下部を固定する方法と上部を固定する方法がある。下部を固定する方法は、大深度の水中における作業が金額・工期・安全面で負担となる欠点があり、上部を固定する方法が望ましい。
【0004】
特許文献1には、仮締切り構造体の上部に浮き上がり防止機構を設ける例が開示されている。この引例の例では、仮締切り構造体の上端と堤体の天端の間の空間に浮き上がり防止機構を設ける。従って、浮き上がり防止機構を設ける空間を確保するためには、仮締切り構造体の上端の位置を高くすることができない。そのため、工事中のダム貯水位を下げて施工することになり、利水者等に対する影響が大きくなるとともに、ダムの施設管理者の貯水位調節作業の負担も増え、作業能率の向上を図ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-190078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、工事中のダム貯水位を下げることなく、かつ大深度における潜水作業を最小限にするため、施工を効率的に且つ容易に水中の作業空間を作ることができる水中仮締切り構造体及びその施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、堤体の上流面に沿って水中に設置された鋼製の台座と、該台座の上に鉛直方向に積み重ねられた複数のブロックを有するケーソンと、該ケーソンと前記堤体の上流面の間に設けられた戸当り構造体と、を有する水中仮締切り構造体において、
前記ケーソンは、最上段の第1ブロックと該第1ブロックの下側の第2ブロックを有し、前記第2ブロックの上端面は水平面に平行な当接面を有し、
前記戸当り構造体は、1対の戸当り部材と該戸当り部材の間に設けられた浮力対策部材とを有し、前記戸当り部材は、前記堤体の上流面より外方に延びる互いに平行な1対の逆L字形の突起部を有し、該突起部の下面は水平面に平行な支圧面を有し、
前記第2ブロックの当接面と前記戸当り構造体の支圧面が当接することによって、前記ケーソンに作用する浮力が前記戸当り構造体によって支持される、としてよい。
【0008】
本発明の実施形態によると、前記水中仮締切り構造体において、
前記第1ブロックの上端面と前記戸当り構造体の上面は前記堤体の天端面と同一高さである、としてよい。
【0009】
本発明の実施形態によると、前記水中仮締切り構造体において、
前記戸当り部材は、互いに平行な且つ対面する内側面を有し、該内側面には支持部材が設けられており、該支持部材によって前記浮力対策部材が保持される、としてよい。
【0010】
本発明の実施形態によると、前記水中仮締切り構造体において、
前記第2ブロックの当接面と前記戸当り構造体の支圧面の間に油圧ジャッキが設置される、としてよい。
【0011】
本発明の実施形態によると、前記水中仮締切り構造体において、
前記堤体に増設される放流管の予備ゲートを開閉するための予備ゲート開閉装置が設けられ、該予備ゲート開閉装置は前記戸当り構造体の上面に設置される、としてよい。
【0012】
本発明の実施形態によると、前記水中仮締切り構造体において、
前記戸当り構造体は、前記堤体の上流面に固定されている、としてよい。
【0013】
本発明によると、ケーソンと戸当り構造体と鋼製の台座とを有する水中仮締切り構造体を用いて堤体に放流管を増設する施工方法において、
堤体の上流面に沿って水中に鋼製の台座を設置する台座設置工程と、
前記台座の上に鉛直方向に積み重ねられた複数のブロックを有するケーソンを設置するケーソン設置工程と、
前記ケーソンと前記堤体の上流面の間に戸当り構造体を設置する戸当り構造体設置工程と、
前記ケーソンの内部を排水して作業空間を形成する排水工程と、
前記堤体に放流管を形成する放流管形成工程と、
を有し、
前記ケーソンは、最上段の第1ブロックと該第1ブロックの下側の第2ブロックを有し、前記第2ブロックの上端面は水平面に平行な当接面を有し、
前記戸当り構造体は、前記堤体の上流面より外方に延びる互いに平行な1対の逆L字形の突起部を有し、該突起部の下面は水平面に平行な支圧面を有し、
前記第2ブロックの当接面と前記戸当り構造体の支圧面が当接することによって、前記ケーソンに作用する浮力が前記戸当り構造体によって支持される、としてよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、効率的に且つ容易に水中に作業空間を作ることができる水中仮締切り構造体及びその施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A図1Aは、本実施形態に係る水中仮締切り構造体の例の全体構造の外観を説明する図である。
図1B図1Bは、本実施形態に係る水中仮締切り構造体の全体の縦断面構成を説明する図である。
図2図2は、本実施形態に係る水中仮締切り構造体の上部を説明する斜視図である。
図3図3は、本実施形態に係るケーソンの上部の構造、特に、4個のブロックの構造を説明する図である。
図4A図4Aは、本実施形態に係る戸当り構造体を説明する図である。
図4B図4Bは、本実施形態に係る戸当り構造体の支持部材を説明する図である。
図5A図5Aは、本実施形態に係る戸当り構造体における浮力の作用について説明する図である。
図5B図5Bは、本実施形態に係る戸当り構造体に油圧ジャッキを設ける位置を説明する図である。
図6図6は、本実施形態に係る戸当り構造体に予備ゲート開閉装置を設ける構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る水中仮締切り構造体の実施形態に関して、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図中、同一の要素に対しては同一の参照符号を付して重複した説明を省略することを承知されたい。
【0017】
図1A及び図1Bを参照して、本実施形態に係る水中仮締切り構造体の全体構造を説明する。ここでは、既設のダムの堤体50に穴あけ工事を行い、そこに放流管55を設置する工事を例として説明する。ダムの堤体50は、貯水側の上流面51と天端面52と外部空間に面した下流面53とを有する。上流面51は、僅かに傾斜しており、コンクリート材より構成されている。図1Aに示すように、堤体50の上流面51と天端面52が交差する線に直交し、鉛直線に沿ってダム軸Aを設定する。
【0018】
図1Aに示すように、本実施形態に係る水中仮締切り構造体1は、ケーソン10と、ケーソン10と堤体50の間に設けられた戸当り構造体20と、ケーソンの下側に湖底に設けられた鋼製の台座30とを有する。本例では、ケーソン10の上端面と戸当り構造体20の上面と堤体50の天端面の高さは同一である。
【0019】
ケーソン10は、複数のブロック(扉体)101~104・・・を鉛直方向に沿って積み上げた構造を有する。ここでは18個のブロックが積み上げられているが、ブロックの個数は18個に限定される必要はない。これらのブロックの外面は共面を含み、ケーソン10の外面を形成している。
【0020】
本実施形態では、1個のブロック101~104・・・の高さは約3メートルである。ケーソン10の高さは、約50~60メートルである。放流管55は満水時の水面57より約50メートルの深さの場所に作られる。
【0021】
図1Bに示すように、水中に設置されたケーソン10の内部を排水することによって、作業空間12が形成される。尚、ケーソン10の各ブロック及び戸当り構造体20を構成する部材の間の接合面には、接続金属部材及び水密ゴムが配置されるが、これらの技術は既知であり、ここではその説明を省略する。
【0022】
図2を参照して、本実施形態に係る水中仮締切り構造体1の上部の構造を説明する。ケーソン10を構成するブロック101~104・・・は、水平方向の断面がコの字型の部材であり、内部に形成される作業空間の水平方向の断面は略長方形である。戸当り構造体20は、堤体50の上流面51とケーソン10の間に挟まれており、垂直方向の断面は、図示のように、楔形を有する。
【0023】
ここで、説明の都合上、3次元空間座標を設定する。原点Oを、堤体50の上流面51と天端面52が交差する線上に、ケーソン10の幅方向の中央に、設定する。Z軸を、原点Oを通り、鉛直方向下方に設定する。XY平面を、原点Oを通り、水平面に沿って設定する。即ち、X軸を、堤体50の上流面51と天端面52が交差する線に垂直に外方に向けて設定し、Y軸を堤体50の上流面51と天端面52が交差する線に沿って設定する。
【0024】
図3を参照して、ケーソン10の上部の構造、特に、4個のブロック101~104の構造を説明する。4個のブロック101~104の幅方向の寸法、即ち、Y方向の寸法は同一である。上から2番目から4番目のブロック102~104の奥行方向の寸法、即ち、X方向の寸法は同一であるが、最上段の、即ち1番目のブロック101のX方向の寸法は、それより小さい。従って、2番目のブロック102の上面の一部は、1番目のブロック101に重なっていない。この部分を当接面102aと称する。当接面102aは水平面に沿って上向きに配置されている。1番目のブロック101の上端面101a及び背面101bと2番目のブロックの当接面102a及び背面102bによって階段状の構造が形成される。2番目のブロック102の当接面102aの機能は後に説明する。
【0025】
図4Aを参照して、本実施形態に係る戸当り構造体20の構造の例を説明する。戸当り構造体20は、1対の戸当り部材21、21とその間に設けられた浮力対策部材22とを有する。浮力対策部材22は、コンクリート材(増打ちコンクリート)によって構成されてよい。浮力対策部材22は、上面221、前面222及び背面223を有する。
【0026】
戸当り部材21の上端には、X方向に突き出た逆L字形の突起部210が設けられている。突起部210は、上面211、端面212及び背面213、下面、即ち、支圧面214、外側面215及び内側面216を、有する。支圧面214は水平面に沿って下向きに配置されている。突起部210の端面212は、1番目のブロック101の背面101bに接し、突起部210の支圧面214は、2番目のブロック102の当接面102aに接する。
【0027】
戸当り部材21の突起部210の上面211と浮力対策部材22の上面221は共面を含む。戸当り構造体20の上面211、221と1番目のブロック101の上端面101aと堤体50の天端面52は共面を含む。戸当り部材21の突起部210の背面213と浮力対策部材22の背面223は共面を含み、ダム軸Aに対して傾斜している。従って、戸当り構造体20は、楔形を有する。
【0028】
図4Bを参照して、本実施形態に係る戸当り構造体の支持部材の構造の例を説明する。両側の戸当り部材21の互いに対向する内面に、複数の支持部材23が装着される。図示の例では、各戸当り部材21に6個の支持部材23が装着されているが、支持部材23の個数は6個に限定されない。支持部材23は、図示しない取付金具に、溶接、ボルト止め、リベット等の結合手段によって固定される。支持部材23は、浮力対策部材22の内部に、互いに向かい合って内方に延びている。支持部材23によって、浮力対策部材22は戸当り部材21に強固に支持される。
【0029】
図5Aを参照して、本実施形態に係る戸当り構造体に作用する浮力について説明する。図示のように、2番目のブロック102の上面の当接面102aと戸当り構造体20の戸当り部材21の突起部210の支圧面214が対向している。上述のように、当接面102aと支圧面214は水平面に沿って互いに平行に向かい合って配置されている。ケーソン10に作用する浮力Fは、2番目のブロック102の当接面102aから、戸当り構造体20の戸当り部材21の突起部210の支圧面214に作用する。一方、戸当り構造体20は、堤体50に固定されている。従って、ケーソン10に作用する浮力Fは、戸当り構造体20を介して堤体50によって支持される。
【0030】
図5Bを参照して、本実施形態に係る戸当り構造体の他の例を説明する。堤体50の上流面51に沿って、アンカー金物261が装着されている。アンカー金物261は、複数のアンカーボルト263によって、堤体50に固定されている。アンカー金物261の表側の面には複数の差し筋262が装着されている。差し筋262は、戸当り構造体20の内部まで延びている。従って、戸当り構造体20は、アンカー金物261、差し筋262、及び、アンカーボルト263を介して、堤体50の上流面51に強固に支持されている。尚、これらの構造物の間には、図示しない水密ゴムが配置されるが、ここではその説明を省略する。
【0031】
本例によると、2番目のブロック102の上面の当接面102aと戸当り構造体20の戸当り部材21の突起部210の支圧面214の間に隙間が形成され、この隙間に、複数の油圧ジャッキ25が設けられている。油圧ジャッキ25を作動させることによって、ケーソン10に作用する浮力Fは、2番目のブロックの上面の当接面102aから、戸当り構造体20の戸当り部材21の突起部210の支圧面214に確実に作用させることができる。
【0032】
図6を参照して、本実施形態に係る戸当り構造体の他の例を説明する。堤体50の下方に作られた放流管55に予備ゲート40が設置されてよい。水中仮締切り構造体1の上側に、予備ゲート40を開閉するための予備ゲート開閉装置42が設けられる。本例では、予備ゲート開閉装置42は、戸当り構造体20の上に設置される。即ち、戸当り構造体20の上に、予備ゲート開閉装置支持構造体44が設けられ、その上に予備ゲート開閉装置42が配置されている。予備ゲート開閉装置42及び予備ゲート開閉装置支持構造体44の重量は、戸当り構造体20で支持することができる。
【0033】
本実施形態による水中仮締切り構造体を用いてダムの堤体に放流管形成する施工方法について説明する。再度、図1A及び図1Bを参照する。先ず、堤体50の上流面51に沿って水中に鋼製の台座30を設置する。これは、ダイバーが行う。次に、台座30の上に鉛直方向に積み重ねられた複数のブロックを有するケーソン10を設置する。これは、堤体50の下流面53の仮設構台上に設置したクレーン等を用いて行う。
【0034】
ケーソン10の内部を排水して作業空間12を形成する。一方、これらの作業と並行して、堤体50の下流面53より放流管55を設置するための穴を掘削する。作業空間12に作業員を配置し、堤体50の上流面51から、穴を掘削する作業を行う。こうして、堤体50の両側から掘り進めた穴が貫通し、放流管55が設置されたら、工事が完了する。上述のように、放流管55に予備ゲート40を設置してもよい。水中仮締切り構造体を解体する工事は、設置する工程と逆に実行すればよい。
【0035】
仮締切り構造体の上部に浮き上がり防止機構を設ける場合、利水者等への影響が大きい工事制限水位を設けないことが望ましい。本発明の発明者は、浮き上がり防止機構を仮締切り設備上部と水面の間に設置できる構造を開発した。本発明の実施形態によると、戸当り構造体20、即ち、「浮力対策工兼戸当り」を逆L字形の階段形状とし階段形状の水平部、即ち、戸当り部材の支圧面214で浮力を支える構造とした。従って、本発明による実施形態によると、従前では行えなかった上流仮締切り設備の高さをダムの天端面の高さと同一にすることが可能となる。
【0036】
本実施形態によると、戸当り構造体20、即ち、「浮力対策工兼戸当り」は、ケーソンに作用する浮力による下流側への転倒モーメントとケーソンの自重による上流側への回転モーメントが工学的にバランスするような構造を有する。
【0037】
これにより上流仮締切り設備の高さを、堤体の天端の高さと同一にすることができ、また、「浮力対策工兼戸当り」の施工部分を水面上にすることで大深度潜水作業の削減を可能とした。なお本実施形態によると、戸当り構造体20は、ケーソンの下部に設置する戸当りと連結させており、戸当りを兼用する構造物とした。
【0038】
本発明の実施形態によると、「浮力対策工兼戸当り」、即ち、戸当り構造体20は、増打ちコンクリート、即ち、浮力対策部材(コンクリート部材)22を有する。増打ちコンクリートは、ダムの堤体の上流面51に差し筋262で付着される。即ち、増打ちコンクリートは、堤体の上流面51との接合面のせん断力及び接合面の差し筋262の付着力により堤体と一体化される。こうして、浮力荷重を堤体全体で支持する。本実施形態によると、この支持構造に加えて、戸当り構造体20の両側の内側に合計12個の支圧金物、即ち、支持部材23を設けて、増打ちコンクリートを支持する。即ち、アンカー金物と支持部材23の二重の受圧荷重構造を採用した。従って、万が一アンカー金物の施工不良等で、増打ちコンクリート、即ち、浮力対策部材(コンクリート部材)22の荷重の支持が期待できない場合でも、浮力荷重は、戸当り構造体20に確実に伝達される。
【0039】
「浮力対策工兼戸当り」、即ち、戸当り構造体20の支圧面と、据付されるブロック(扉体)との間に十分なクリアランスが確保されていないと据付調整が困難になる。発明の実施の形態によると、図5Bに示すように、据付時の調整が円滑に進められるようにクリアランスを確保し、このクリアランス部分に油圧ジャッキを片側に8台、合計16台を挿入する。油圧ジャッキによって、ブロック(扉体)据付後に、このクリアランスを伸長して突っ張る。こうして、ブロック(扉体)から伝達される浮力荷重を「浮力対策工兼戸当り」、即ち、戸当り構造体20に確実に伝達する構造とした。
【0040】
発明の実施の形態によると、図6に示すように、「浮力対策工兼戸当り」、即ち、戸当り構造体20は、予備ゲート開閉装置鋼製床版の支持構造物と兼用し、開閉装置等の自重、開閉荷重を支持する構造物とした。これにより、予備ゲート開閉装置鋼製床版の支持構造物を新たに設置する手間の省略を図る。
【0041】
ここでは、本発明の実施の形態について、既設ダムに新たに放流管を増設する工事を例に説明した。しかしながら、本発明は、水中において新たな放流設備を増設したり、既存の設備の補修を行う場合のように、水中に一時的な作業空間を作る場合に適用可能である。
【0042】
本実施形態の利点・特徴に関して簡単に説明する。
仮締切り構造体の上部に浮き上がり防止機構を設ける空間を確保するためには、仮締切り構造体の上端の位置を高くすることができない。そのため、工事中のダム貯水位を下げて施工することになり、利水者等に対する影響が大きくなるとともに、ダムの施設管理者の貯水位調節作業の負担も増え、作業能率が低下する課題があった。
【0043】
水中仮締切り構造体は、堤体の上流面に沿って水中に設置された鋼製の台座と、該台座の上に鉛直方向に積み重ねられた複数のブロックを有するケーソンと、該ケーソンと堤体の上流面の間に設けられた戸当り構造体と、を有する。ケーソンは、最上段の第1ブロックと該第1ブロックの下側の第2ブロックを有し、第2ブロックの上端面は水平面に平行な当接面を有し、戸当り構造体は、1対の戸当り部材と該戸当り部材の間に設けられた浮力対策部材とを有し、戸当り部材は、堤体の上流面より外方に延びる互いに平行な1対の逆L字形の突起部を有し、該突起部の下面は水平面に平行な支圧面を有し、第2ブロックの当接面と戸当り構造体の支圧面が当接することによって、ケーソンに作用する浮力が戸当り構造体によって支持される。前記第1ブロックの上端面と前記戸当り構造体の上面は前記堤体の天端面と同一高さとすることができるため、工事中のダム貯水位を下げる必要がなく、従来に比べて大幅に作業能率の向上を図ることができる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は以上の実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、実施の形態に種々の変更を加えられることは明白である。本発明の技術的範囲は、添付の特許請求の範囲の記載によって定められる。
【符号の説明】
【0045】
1…水中仮締切り構造体、10…ケーソン、12…作業空間、20…戸当り構造体、21…戸当り部材、22…浮力対策部材(コンクリート部材)、23…戸当り部材構造体の支持部材、25…油圧ジャッキ、30…台座、40…予備ゲート、42…予備ゲート開閉装置、44…予備ゲート開閉装置支持構造体、50…堤体、51…堤体の上流面、52…堤体の天端面、53…堤体の下流面、55…放流管、57…水面、101…第1ブロック、101a…第1ブロックの上端面、101b…第1ブロックの背面、102…第2ブロック、102a…第2ブロックの当接面(上端面)、102b…第2ブロックの背面、103…第3ブロック、104…第4ブロック、210…戸当り部材の突起部、211…戸当り部材の突起部の上面、212…戸当り部材の突起部の端面、213…戸当り部材の突起部の背面、214…戸当り部材の突起部の支圧面(下面)、215…戸当り部材の突起部の外側面、216…戸当り部材の突起部の内側面、221…浮力対策部材の上面、222…浮力対策部材の前面、223…浮力対策部材の背面、261…アンカー金物、262…差し筋、263…アンカーボルト
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6