(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】異種金属接合体及び異種金属接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/00 20060101AFI20240610BHJP
B23P 11/02 20060101ALI20240610BHJP
H01M 50/543 20210101ALN20240610BHJP
【FI】
B23K20/00 310E
B23P11/02 Z
H01M50/543
(21)【出願番号】P 2020113765
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 研也
(72)【発明者】
【氏名】石井 尚憲
(72)【発明者】
【氏名】古賀 一博
(72)【発明者】
【氏名】瀬古 尚廣
(72)【発明者】
【氏名】小島 剛
(72)【発明者】
【氏名】勝又 雄一
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-126872(JP,A)
【文献】特開平08-257653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00
B23P 11/02
H01M 50/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
降伏強度の大きい金属製の筒状体に、降伏強度の小さい金属製の棒状体を圧入して一体化した異種金属接合体であって、
前記筒状体の内部周面には入口側から出口側に向かって突出量を増加させた突起が複数形成されており、
降伏強度の小さい金属は
、前記突起の入口側から出口側に向かって突出量が増加する入口に面する側の表面に密着しているとともに、降伏強度の小さい金属は前記突起の出口側の面にも密着していることを特徴とする異種金属接合体。
【請求項2】
前記突起は軸方向の断面が三角形のセレーションであることを特徴とする請求項1に記載の異種金属接合体。
【請求項3】
降伏強度の大きい金属が銅又はその合金であり、降伏強度の小さい金属がアルミニウム又はその合金であることを特徴とする請求項1または2に記載の異種金属接合体。
【請求項4】
降伏強度の異なる2種類の金属からなる異種金属接合体の製造方法であって、
降伏強度の大きい金属製の筒状体の内周面に、入口側から出口側に向かって突出量を増加させた突起を複数形成しておき、
降伏強度の小さい金属製の棒状体を、その先端が出口側から突出するまで前記筒状体の入口側から圧入して前記突起に食い込ませたうえ、
この突出部を反対方向から前記筒状体の内部に圧入し、降伏強度の小さい金属を突起の出口側の面に密着させることを特徴とする異種金属接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種金属接合体及び異種金属接合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばリチウムイオン電池のマイナス端子は、電解液に溶けることのない銅製であり、この銅端子を溶接するためにバスバーも銅製とされている。このため多くの材料コストがかかっているが、電解液に浸る部分の材質を銅とし、電池の外に出る部分をアルミニウム等の別金属とすると、大幅なコスト削減が期待できる。このように電気電子分野では異種金属接合体が求められているが、降伏強度や融点などの材質の異なる金属を接合一体化することは容易ではない。
【0003】
例えば特許文献1には、モータの通電部品として用いられる異種金属接合体の製造方法が開示されている。特許文献1ではアルミニウム製の円筒の内部に銅製の丸棒を圧入しており、アルミニウムの表面に形成される酸化膜を圧入時に銅製の丸棒によって削り落とし、接合面の電気抵抗を低減させると記載されている。
【0004】
しかしこの特許文献1の方法によってもなお接合面に酸化膜が残存するおそれがあり、導電性の悪化、熱伝導係数の差による発熱、熱膨張係数の差による剥離強度の低下などが懸念される。異種金属であるため、これらの問題を完全に解消することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、降伏強度の異なる異種金属を、電気抵抗の増加を抑制した状態で強固に接合した異種金属接合体とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の異種金属接合体は、降伏強度の大きい金属製の筒状体に、降伏強度の小さい金属製の棒状体を圧入して一体化した異種金属接合体であって、前記筒状体の内部周面には入口側から出口側に向かって突出量を増加させた突起が複数形成されており、降伏強度の小さい金属は、前記突起の入口側から出口側に向かって突出量が増加する入口に面する側の表面に密着しているとともに、降伏強度の小さい金属は前記突起の出口側の面にも密着していることを特徴とするものである。
【0008】
なお好ましい実施形態においては、前記突起は軸方向の断面が三角形のセレーションであり、降伏強度の大きい金属が銅又はその合金であり、降伏強度の小さい金属がアルミニウム又はその合金である。
【0009】
また上記の課題を解決するためになされた本発明の異種金属接合体の製造方法は、降伏強度の異なる2種類の金属からなる異種金属接合体の製造方法であって、降伏強度の大きい金属製の筒状体の内周面に、入口側から出口側に向かって突出量を増加させた突起を複数形成しておき、降伏強度の小さい金属製の棒状体を、その先端が出口側から突出するまで前記筒状体の入口側から圧入して前記突起に食い込ませたうえ、この突出部を反対方向から前記筒状体の内部に圧入し、降伏強度の小さい金属を突起の出口側の面に密着させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、降伏強度の大きい金属製の筒状体の内部に降伏強度の小さい金属製の棒状体を圧入する際に、金属製の棒状体の外周面は筒状体の内周面に形成された突起に喰いこむように塑性変形する。その結果、降伏強度の大きい金属と降伏強度の小さい金属とは強固に密着する。さらに降伏強度の小さい金属製の棒状体を、その先端が出口側から突出するまで前記筒状体の入口側から圧入して前記突起に食い込ませたうえ、この突出部を反対方向から前記筒状体の内部に圧入するため、降伏強度の小さい金属を突起の出口側の面に密着し、広い接触面積を確保できるとともに、筒状体から棒状体が脱落することもなくなる。このように本発明の異種金属接合体は両金属の接触面積を拡大できるため、接合面に酸化膜が残存していたとしても電気抵抗の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】反対方向からの圧入を行った状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を説明する。この実施形態では、降伏強度の大きい金属が導電性に優れる銅合金であり、降伏強度の小さい金属が導電性に優れるアルミニウム合金である。しかし金属の材質はこれらに限定されるものではない。周知のように、大気中ではアルミニウム合金の表面に酸化膜が形成されることは避けられない。
【0013】
図1に示すように、本発明では降伏強度の大きい金属により形成された筒状体10の内部に、降伏強度の小さい金属により形成された棒状体20を入口側から圧入する。棒状体20の外径は筒状体10の内径とほぼ等しいか、僅かに小さくしておくものとする。
【0014】
筒状体10の内部周面には、入口側から出口側に向かって突出量を増加させた突起11が複数形成されている。実施形態では突起11は筒状体10の軸方向の断面が略直角三角形であり、軸線に垂直方向の断面形状が二等辺三角形であり、筒状体10の内周面に全周にわたり等間隔で配置され、全体としてセレーションを形成している。これらの突起11は筒状体10の略中央部に形成することが好ましい。すなわち、突起11の始端部12と筒状体10の入口側端面13との間には距離S1があり、突起11の後端部14と筒状体10の出口側端面15との間にも距離S2があるようにしておく。距離S1は筒状体10に棒状体20を圧入するときのガイド面として機能する。距離S2については後述する。
【0015】
この実施形態では周方向に12個の突起11が配置されているが、その数は適宜増減することができる。少なくとも2個の突起11を軸対象に配置すればよいが、突起11は降伏強度の大きい金属と降伏強度の小さい金属との接触面積を増加させる機能を持つため、好ましくは4個以上とする。一方、個数を増加させると個々の突起11を小型化、もしくは薄肉化せざるを得なくなるので、16個以上とすることは好ましくない。最も好ましいのは6個から12個の範囲である。なお、個数は偶数とする必要はないが、例えば3個の場合には120度間隔とするなど、圧入された棒状体20を偏らせない配置とすることが好ましい。
【0016】
突起11の始端部12は筒状体10の内面と同一面としておくことが好ましい。圧入された棒状体20に滑らかに食い込ませるためである。突起11の後端部14は筒状体10の内面に対して垂直に近い角度としておくことが好ましい。その高さはこの実施形態では筒状体の内径の約10%である。後端部14の高さが低すぎると本発明の効果が低下し、後端部14の高さが高すぎると棒状体20の圧入がスムーズに行なわれなくなるため、筒状体の内径の5~15%程度とすることが好ましい。
【0017】
実施形態では突起11は筒状体10の軸軸線に垂直方向の断面形状が二等辺三角形であり、中央に稜線となるエッジ16が形成されている。しかし突起11は必ずしもこのような三角形状である必要はなく、断面を四角形としたり半円形とすることもできる。エッジ16があれば棒状体20に喰い込み易いが、十分な荷重で圧入すればエッジ16のない形状としても差し支えない。圧入時に棒状体20の表面は突起11に対して強く押し込まれ、突起11の入口側から出口側に向かって突出量が増加する入口に面する側の表面に接触するため、棒状体20の表面に形成されていた酸化膜は破壊され、突起11と棒状体20は広い面積で密着する。これにより両金属の接合面の電気抵抗の増加は抑制される。
【0018】
棒状体20は筒状体10の入口側から圧入されるが、この圧入は
図2に示すように棒状体20の先端21が筒状体10の出口側端面15よりもやや突出するまで行われる。その後、この突出部を反対方向から筒状体10の内部に圧入する。
図3に示したように、棒状体20の先端21が筒状体10の出口側端面15と同一面となるように圧入することが好ましい。この逆方向からの圧入を行わせるために、前記の距離S2が必要となる。
【0019】
図2に示すように、棒状体20を筒状体10の内部に圧入しただけでは、突起11の後端部14に降伏強度の小さい金属が流入しない空隙17が残る。しかし棒状体20の突出部を反対方向から筒状体10の内部に圧入することにより、降伏強度の小さい金属は塑性流動し、突起11の後端部14である出口側の面に密着する。このため、両金属間に広い接触面積を確保できるとともに、筒状体10から棒状体20が脱落することもなくなる。
【0020】
以上に説明したように、本発明によれば、降伏強度の異なる異種金属を、電気抵抗の増加を抑制した状態で強固に接合することができる。突起11を食い込ませることによって接触面積を拡大できるのみならず、回り止め効果を得ることもできるので、本発明の異種金属接合体は、回転モーメントを受ける部材として使用することもできる。本発明の異種金属接合体は電気電子分野で用いられる通電部材として用いるに適したものであるが、その用途はこれに限定されるものではない。
【0021】
なお、上記の実施形態では筒状体10を円筒とし、棒状体20を丸棒としたが、断面を多角形としてもよく、筒状体10を角型筒体とし、棒状体20を多角柱とすることも可能である。
【符号の説明】
【0022】
10 筒状体
11 突起
12 突起の始端部
13 筒状体の入口側端面
14 突起の後端部
15 筒状体の出口側端面
16 エッジ
17 空隙
20 棒状体
21 棒状体の先端