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特許7500027バインダー組成物、これを用いた常温補修用混合物、道路の常温補修工法
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  • 特許-バインダー組成物、これを用いた常温補修用混合物、道路の常温補修工法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】バインダー組成物、これを用いた常温補修用混合物、道路の常温補修工法
(51)【国際特許分類】
   C08L 95/00 20060101AFI20240610BHJP
   C08L 13/00 20060101ALI20240610BHJP
   C08L 9/02 20060101ALI20240610BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20240610BHJP
   E01C 7/18 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
C08L95/00
C08L13/00
C08L9/02
C08K5/09
E01C7/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020121782
(22)【出願日】2020-07-16
(65)【公開番号】P2022018581
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】593228003
【氏名又は名称】株式会社近代化成
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 昭一
(72)【発明者】
【氏名】松下 忠男
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-214283(JP,A)
【文献】特開2003-064156(JP,A)
【文献】特開2001-115034(JP,A)
【文献】特開2017-082180(JP,A)
【文献】特開2018-184511(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107988815(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
E01C 7/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルトと、アスファルトの改質剤と、炭素数C16以上の長鎖脂肪酸とからなり、アスファルトの改質剤が、主鎖がゴム状でカルボキシル基を持つブタジエンアクリロニトリル共重合物であることを特徴とするバインダー組成物。
【請求項2】
長鎖脂肪酸が炭素数C16以上の脂肪酸であり、不飽和脂肪酸の合計の成分割合が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項3】
質量比でアスファルトの成分割合が35~65%、アスファルトの改質剤が1~15%、炭素数C16以上の長鎖脂肪酸が35~60%であることを特徴とする請求項1または2に記載のバインダー組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のバインダー組成物と、アルカリ性添加剤と、骨材とを混合したことを特徴とする常温補修用混合物。
【請求項5】
請求項4に記載の常温補修用混合物を道路に施工し、水を散布して促進固化させることを特徴とする道路の常温補修工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路の常温補修に用いられるバインダー組成物、常温補修用混合物、および道路の常温補修工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路の路面全体をアスファルト舗装する場合には、従来から加熱アスファルト混合物が用いられている。加熱アスファルト混合物は施工直後から大きい強度を得られる利点がある。しかし加熱アスファルト混合物は温度が低下すると使用できなくなるため、道路の部分的な欠陥を補修する場合には温度が急速に低下し易いこともあり、不便である。このため、道路の欠陥を常温で補修することができる常温補修用混合物が開発されている。
【0003】
例えば特許文献1には、アスファルトと骨材とカットバック材としてのトール油脂肪酸と、セメントとを混合した常温補修用混合物が開示されている。これは施工時に水を供給することにより固化し、強度を発現するものである。特許文献2には、カットバック材として、揮発しにくいスピンドルオイルとダイマー酸含有添加剤を用いた常温補修用混合物が開示されている。特許文献3には、アスファルトと亜麻仁油脂肪酸と骨材とセメントを混合した常温補修用混合物が開示されている。特許文献4には、アスファルトと骨材と有機酸ポリマーとアルカリ性添加剤を混合した常温補修用混合物が開示されている。特許文献5には、アスファルトと骨材とオレイン酸、リノール酸、セメントを混合した常温補修用混合物が開示されている。特許文献6には、アスファルトと骨材にオレイン酸を含む界面活性剤と、アルカリ性添加剤を混合した常温補修用混合物が開示されている。
【0004】
これらの特許文献に示された常温補修用混合物は何れも、150℃で溶融されたアスファルトと骨材を混合するため、100℃以上の高温で製造されており、そのためには大規模なプラントが必要である。そのため製造コストが高くなるという問題があった。
【0005】
またこれらの特許文献に示された常温補修用混合物は、骨材やセメントを含む重量物であるため、その保管や施工現場までの搬送に多くの労力が必要であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5583978号公報
【文献】特開2017-71674号公報
【文献】特許第5939722号公報
【文献】特許第6344873号公報
【文献】特許第6458194号公報
【文献】特開2019-143046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、大規模なプラントを必要とせずに製造することができ、しかも取扱い性に優れたバインダー組成物、常温補修用混合物、およびこれを用いた道路の常温補修工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明のバインダー組成物は、アスファルトと、アスファルトの改質剤と、炭素数C16以上の長鎖脂肪酸とからなり、アスファルトの改質剤が、主鎖がゴム状でカルボキシル基を持つブタジエンアクリロニトリル共重合物であることを特徴とするものである。
【0009】
なお、長鎖脂肪酸がC16以上の脂肪酸であり、不飽和脂肪酸の合計の成分割合が80%以上であることが好ましい。また、質量比で、アスファルトの成分割合が35~65%、アスファルト改質剤が1~15%、炭素数C16以上の長鎖脂肪酸が35~60%であることが好ましい。
【0010】
本発明の常温補修用混合物は、上記のバインダー組成物と、アルカリ性添加剤と、骨材とを混合したことを特徴とするものである。
【0011】
また本発明の道路の常温補修工法は、上記の常温補修用混合物を道路に施工し、水を散布して促進固化させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバインダー組成物は、アスファルトと、主鎖がゴム状でカルボキシル基を持つブタジエンアクリロニトリル共重合物からなるアスファルトの改質剤と、炭素数C16以上の長鎖脂肪酸とからなる。長鎖脂肪酸は炭素が16以上ある脂肪酸をいい、炭素鎖が長くなると疎水性が増し、アスファルトと馴染み易く、相溶性が上がる。また長鎖脂肪酸のうち不飽和結合を有するものは常温で液体であり、常温で固形状態のアスファルトを液状にすることができる。このため本発明のバインダー組成物は大規模なプラントを必要とせず、常温で容易に製造することができる。
【0013】
また本発明のバインダー組成物に含ませたブタジエンアクリロニトリル共重合物は端部にカルボキシル基を有するので、アルカリ性添加剤に含まれるアルカリイオンとイオン結合し、強固なネットワークを形成する。しかも主鎖がゴム状であるため、柔軟性を持つ。このため早期強度の発現と、補修部の耐久性の向上に寄与する。
【0014】
使用者は施工現場又はその近傍において本発明のバインダー組成物にアルカリ性添加剤と、骨材とを混合することにより、容易に常温補修用混合物を得ることができ、これを道路に施工して水を散布することにより、促進固化させることができる。本発明のバインダー組成物は、骨材やセメントを含まないため、軽量であって保管や搬送が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例のマーシャル安定度試験の結果を示すグラフである。
図2】実施例の1軸圧縮試験における平均残留歪率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態を説明する。
本発明のバインダー組成物は、アスファルトと、アスファルトの改質剤と、炭素数C16以上の長鎖脂肪酸とからなる。好ましい混合割合は、アスファルトが35~65質量%、アスファルト改質剤が1~15質量%、長鎖脂肪酸が35~60質量%である。
【0017】
本発明のバインダー組成物は、長鎖脂肪酸とアスファルトの改質剤とからなる液状の溶媒にアスファルトを溶かしたものである。長鎖脂肪酸とは炭素が16以上ある脂肪酸をいい、炭素鎖が長くなると疎水性が増し、アスファルトとなじみやすく、相溶性が上がる。また不飽和脂肪酸は常温で液体であり、常温で固形状態のアスファルトを液状にするのには好適である。長鎖脂肪酸で不飽和脂肪酸のものはオレイン酸(不飽和結合数1)、リノール酸(不飽和結合数2)、リノレン酸(不飽和結合数3)、リシノール酸(水酸基と不飽和結合をそれぞれ1個有する)などがある。脂肪酸は天然の動植物の油脂から由来し、上記の不飽和脂肪酸の合計の成分割合が80%以上では常温では液体である。天然の脂肪酸で液体のものには、大豆脂肪酸、綿実脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、トール油脂肪酸などがあるが、精製されたオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、またオレイン酸やリノール酸を2量化した2量体酸(ダイマー酸)をそれぞれ単独またはそれらを組み合わせて配合させてもよい。
【0018】
アスファルトの改質剤としては、主鎖がゴム状で末端にカルボキシル基を持つブタジエンアクリロニトリル共重合物(CTBN)が用いられる。これは従来からエポキシ樹脂の機械的強度特性を高めるために用いられている。しかしアスファルトの改質剤として用いた前例は知られていない。
【0019】
CTBNは主鎖がゴム状のオリゴマー分子(分子量3000~4000)で柔軟性があり、両末端にカルボキシル基を有する構造になっているため2価のアルカリ性イオンとの間にイオン的に結合し、しかも両末端に位置しているため、橋掛けが起こり、ネットワーク化が起こりやすいため、上記の脂肪酸に配合することによって、早期強度の発現、耐久性の向上に貢献する。
【0020】
上記したように、本発明のバインダー組成物は、長鎖脂肪酸とアスファルトの改質剤とからなる液状の溶媒にアスファルトを溶かしたものであり、従来のように大規模なプラントを用いて150℃以上のアスファルトを用いて、100℃以上で骨材と混合製造する必要がなく、常温で安価に製造することができる。本発明のバインダー組成物は製造後、缶などの容器に保管しておくことができ、使用時にはアルカリ性添加剤と、骨材とを混合して常温補修用混合物とする。この常温補修用混合物を道路の補修箇所に施工し、水を散布することにより、促進固化させることができる。
【0021】
アルカリ性添加剤としては、水に溶解してナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオ。(K+)、マグネシウムイオン(Mg++)、カルシウムイオン(Ca++)になどに分解する金属塩を含む粉末が使用できる。本発明では2価の金属イオンに分解する金属塩含む粉末が望ましく、酸化カルシウム、シリカを主成分とする普通ポルトランドセメントを使用することができる。
【0022】
この常温補修混合物の硬化機構は、次の通りである。バインダー組成物の主成分の脂肪酸は長鎖であるため、疎水性であるアスファルトになじみやすく相容している状態で骨材の表面上で膜を形成している。また骨材成分に混合されたセメントは膜内に分散状態にあり、この時点では脂肪酸のカルボキシル基およびセメントのカルシウム塩等はイオン化していないため、急な反応は起こらない。しかし水が添加されることによって両者はイオン化して速やかに中和反応が起こる。なお、長鎖脂肪酸は一価でありアルカリ性添加剤と反応して堅い硬化物となり、柔軟性には劣る。しかし前記したように、CTBNは主鎖がゴム状のオリゴマー分子(分子量3000~4000)で柔軟性があり、両末端にカルボキシル基を有する構造になっているため2価のアルカリ性イオンとの間にイオン的に結合し、しかも両末端に位置しているため、橋掛けが起こり、ネットワーク化が起こりやすいため、上記の脂肪酸に配合することによって、早期強度の発現、耐久性の向上に貢献することができる。
【0023】
以上に説明したように、本発明のバインダー組成物は大規模なプラントを必要とせずに比較的低温で安価に製造することができ、しかも取扱い性に優れたものである。以下に具体的な実施例を示す。
【実施例
【0024】
(実施例1)
不飽和脂肪酸の合計成分割合が80%以上の長鎖脂肪酸として綿実脂肪酸を用いて、バインダー製造を行った。綿実脂肪酸の脂肪酸組成は、リノール酸50~60%、オレイン酸27~35%、リノレン酸0~6%、飽和脂肪酸であるパルミチン酸、およびステアリン酸が2~10%である。120℃に溶融保温したストレートアスファルト(60~80)に、あらかじめ30~50℃で綿実脂肪酸に内比で20%重量のアスファルト改質剤である両末端カルボキシル基のブタジエンアクリロニトリル共重合物(CTBN)を溶解した混合物を、重量比でアスファルト55%と混合物45%の割合で混合した後、冷却してバインダー組成物Aを調整した。
【0025】
上記のバインダー組成物Aを、骨材及びアルカリ性添加剤と混合した。骨材粒度分布を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
またアルカリ性添加剤およびバインダーを加えた常温アスファルト混合物を構成する全材料の配合割合は、表2の通りである。
【0028】
【表2】
【0029】
(実施例2)
バインダーを構成する綿実脂肪酸と改質剤である両末端カルボキシル基のブタジエンアクリロニトリル共重合物(CTBN)の比率を70:30の重量比率とし、両者合計とアスファルトとの比率は実施例1と同じにしたバインダー組成物Bを調整し、骨材配合およびバインダー添加量も同様にして常温アスファルト混合物を得た。
【0030】
(実施例3)
バインダーを構成する綿実脂肪酸と改質剤である両末端カルボキシル基のブタジエンアクリロニトリル共重合物(CTBN)の比率を80:15の重量比率とし、両者合計とアスファルトとの比率は実施例1と同じにしたバインダー組成物Cを調整し、骨材配合およびバインダー添加量も同様にして常温アスファルト混合物を得た。
【0031】
(比較例1)
バインダーを構成する綿実脂肪酸と改質剤である両末端カルボキシル基のブタジエンアクリロニトリル共重合物(CTBN)の比率が100:0の重量比率として、改質剤を含まないようにし、綿実脂肪酸とアスファルトとの比率は実施例1と同じ55:45にしたバインダー組成物Dを調整し、骨材配合およびバインダー添加量も同様にして常温アスファルト混合物を得た。
【0032】
(マーシャル安定度試験)
以上のバインダー組成物A~Dから得られた4種の常温アスファルト混合物の強度発現状況を確認するため、常温によるマーシャル安定度試験を実施した。マーシャル安定度の供試体作成はマーシャルモールドにそれぞれの混合物を所定量計り取り、水100cc添加した後、両面50回ランマで締固め、直径10.16cm厚み約6.35mmの供試体を作成した。供試体は作成直後からマーシャル安定度試験を行うまで室温20℃で養生をした。養生時間は3時間、1日、3日、7日とした。マーシャル安定度試験結果を表3と図1に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
表3と図1の常温マーシャル安定度の試験結果から、オリゴマー分子である両末端カルボキシル基ブタジエンアクリロニトリル共重合物を配合することにより両末端カルボキシル基がアルカリ添加剤であるセメントの2価のカルシウムイオンのイオン結合によるネットワーク化が起こり、早期強度および耐久的に強度を高める効果があることが確認された。
【0035】
(一軸圧縮試験)
(実施例5)
重交通、全天候型常温混合物の供用時の耐久性、混合物の粘り性の必要性能としての試験評価に、残留歪率1.0%以上がある。バインダー組成物Aによるマーシャル安定度試験と同様の供試体を作成し、供試体作成後60℃で1週間養生した後、放冷後20℃で5時間養生し、一軸圧縮試験を行った。
【0036】
(実施例6)
同様に、バインダー組成物Bによるマーシャル安定度試験と同様の供試体を作成し、供試体作成後60℃で1週間養生した後、放冷後20℃で5時間養生し、一軸圧縮試験を実施例6として実施した。
【0037】
(比較例2)
またバインダー組成物Dによる一軸圧縮試験を比較例2として実施した。それらの試験結果を表4に示す。
残留歪率とは圧縮強度試験において図2に示す荷重-変位曲線において、最大荷重までの歪量ε1(変位量)と最大荷重から荷重が1/2に低下する時までの歪量ε2の比を言い、 残留歪率δ=ε2/ε1で表される。重交通、全天候型の補修用混合物の基準は1.0%以上となっているがこの値大きいほど補修用混合物の粘り強さが大きく、供用時の耐久性の指標として用いられている。
【0038】
【表4】
【0039】
表4に示された結果によると、CTBNを配合したバインダー組成物A,BはCTBNの配合されていないバインダー組成物Dに対して平均残留歪率が伸びていることが解る。したがってCTBNを配合することが、混合物の粘り強さ、および耐久性の向上に有益であることを確認した。
図1
図2