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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】乾燥装置及びインクジェット描画装置
(51)【国際特許分類】
   F26B 13/10 20060101AFI20240610BHJP
   F26B 3/24 20060101ALI20240610BHJP
   F26B 25/00 20060101ALI20240610BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240610BHJP
   F26B 21/12 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
F26B13/10 B
F26B3/24
F26B25/00 A
B41J2/01 125
B41J2/01 305
B41J2/01 501
F26B21/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019195715
(22)【出願日】2019-10-28
(65)【公開番号】P2021067446
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】596117773
【氏名又は名称】株式会社トライテック
(72)【発明者】
【氏名】矢代 浩一
(72)【発明者】
【氏名】石原 巧也
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-141365(JP,A)
【文献】特開2005-059478(JP,A)
【文献】特開平10-185428(JP,A)
【文献】特開2019-059220(JP,A)
【文献】特開2019-166666(JP,A)
【文献】特開2011-046094(JP,A)
【文献】特開2013-166258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 13/10
F26B 3/24
F26B 25/00
B41J 2/01
F26B 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体表面に付与されたインクを乾燥させる乾燥装置であって、
インクが付与された前記被記録媒体を接触させながら巻回する外周面を有し、所定の軸を中心に回転して前記外周面に接触した前記被記録媒体を加熱しながら前記外周面に沿った搬送経路を所定の搬送方向に搬送する円筒形状のドラム部材と、
前記ドラム部材の1回転中の第1の回転区間において前記外周面を前記ドラム部材の半周を超える長さに亘りカバーして前記外周面との間に前記搬送経路に沿った所定の空間を形成し、前記第1の回転区間とは異なる第2の回転区間において前記外周面に対し前記被記録媒体を搬入するための開口部を配置する様に前記ドラム部材の外周に前記外周面に対向して配置されたカバー部材と、
を有し、
前記第1の回転区間は、前記被記録媒体が前記ドラム部材の前記外周面に接触しながら巻回する区間であって前記ドラム部材の鉛直方向最下点に対する前記搬送方向上流側から前記最下点を経て前記最下点に対する前記搬送方向下流側に至る巻回区間を含み、
前記カバー部材は、前記最下点に対する前記搬送方向上流側において、前記巻回区間を超えた区間から前記巻回区間に亘る区間をカバーして前記所定の空間を形成し、
前記被記録媒体を前記最下点よりも鉛直方向上方に位置する前記開口部から搬入して前記搬送経路に沿って搬送し、前記ドラム部材により加熱することにより前記被記録媒体表面に付与されたインクを乾燥させるものであり、
更に、
前記搬送経路上の前記巻回区間に対応した領域に配置され、前記所定の空間に空気を供給するための複数の給気口と、
前記搬送経路上の前記巻回区間に対応した領域に配置され、前記所定の空間の空気を排出する複数の排気口と、
を有し、
前記給気口及び前記排口は、前記最下点に対して前記搬送経路の前記搬送方向上流側及び前記搬送方向下流側にそれぞれ配置され、
更に前記搬送方向上流側において前記給気口は前記排気口よりも前記搬送方向上流側に配置され、前記搬送方向上流側から前記所定の空間に空気を供給することにより前記搬送方向下流側の前記排気口に向かう空気の流れを形成し、
前記所定の空間から前記複数の排気口により排出される空気の風量は、前記所定の空間に対して前記複数の給気口により供給される空気の風量よりも多くなるように設定されていることを特徴とする乾燥装置。
【請求項2】
前記カバー部材は、さらに、前記最下点に対する前記搬送方向下流側において、前記巻回区間から前記巻回区間を超えた区間に亘る区間をカバーして前記所定の空間を形成していることを特徴とする請求項1に記載の乾燥装置。
【請求項3】
前記開口部は、さらに前記ドラム部材の外周面に巻回された前記被記録媒体を前記外周面から搬出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の乾燥装置。
【請求項4】
前記排気口の数は、前記給気口の数よりも多く配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の乾燥装置。
【請求項5】
前記ドラム部材の温度は、摂氏80度以上摂氏160度以下となるように制御されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の乾燥装置。
【請求項6】
前記給気口又は前記排気口において空気を流すために開口する通風口には、空気の流れを制御するための整流部材が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の乾燥装置。
【請求項7】
前記被記録媒体は合成樹脂フィルムであり、前記インクは水を含有する水系インクであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の乾燥装置。
【請求項8】
ロール状の前記被記録媒体を供給搬送するための巻き出し部と、前記巻き出し部から供給搬送された前記被記録媒体を加温するプレヒート部と、前記被記録媒体に対してインクを吐出して印刷を実施する印刷部と、印刷を実施された前記被記録媒体を乾燥させるための請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の乾燥装置と、前記被記録媒体を巻き取る巻き取り部を有し、前記プレヒート部は前記巻き出し部、前記乾燥装置及び前記巻き取り部よりも鉛直方向上方に配置され、前記印刷部は、前記プレヒート部よりも鉛直方向上方に配置されていることを特徴とするインクジェット描画装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体に塗布されたインクの乾燥装置及びこれを用いたインクジェット描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
長尺のロール状のフィルムなどの被記録媒体に対してインクを塗布し印刷した後でインクを乾燥させるための乾燥装置としては、ヒーターを内蔵したヒートドラムの外周面に被記録媒体を接触させて加熱しながら搬送して、インクを乾燥させるものが存在する。
【0003】
また、近年、印刷において、環境や人体への影響がより少ない、溶媒に水を用いた、いわゆる水系インクを使用する需要が増加しており、インクジェット印刷でも同様に水系インクを使用する需要が増加している。水系インクは、UV等の活性光線を照射すれば即座に硬化して乾燥する活性光線硬化型のインクと異なり、主成分が水であることから、乾燥させるためには水系インクに含有される水をすべて蒸発させる必要があり、効率の良い乾燥方法の適用が必要となる。
【0004】
このような水系インクを用いて印刷するための印刷システムに適用される上記のヒートドラムを用いた乾燥装置において、乾燥効率を高めるために、ヒートドラム外周に外壁を形成し、当該外壁に、温風や空気を吹き付ける機構と、ヒートドラム外周と外壁との間の空気を排気する機構を配置した乾燥装置が、下記の特許文献1及び特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭37-3054号公報
【文献】特開2014-152964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、水系インクは、乾燥させる際に大量の水蒸気が発生するため、ヒートドラム外周と外壁との間の空気中の水蒸気量がすぐに飽和水蒸気量に達してしまうことから、ヒートドラム外周と外壁との間に形成されている空間内の空気を効率よく入れ替える必要がある。
【0007】
この点、特許文献1及び2に開示されるような、温風(空気)を導入する機構と排気する機構とが1か所ずつしか配置されていない構成とした場合、前記空間内の空気を効率よく給排気することができず、大量の水蒸気がヒートドラム外周と外壁との間に形成されている空間内に滞留する結果、この空間内の空気が飽和水蒸気量に達したままとなりインクが乾燥しなくなってしまう上に、発生した水蒸気が排気機構以外から漏出して乾燥装置内や印刷装置に付着してしまうという問題が生じていた。特に高速印刷を実施する場合には、大量のインクを高速で乾燥させる必要があるため、これらの問題はより顕著に発生する。
【0008】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、乾燥に伴い発生する水蒸気を確実に排出してインクを確実に乾燥させることができる乾燥装置及び当該乾燥装置を適用したインクジェット描画装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の発明者は、鋭意工夫の結果、以下の構成を見出した。
【0010】
すなわち、本発明において、被記録媒体の表面に付与されたインクを乾燥させる乾燥装置であって、
インクが付与された前記被記録媒体を接触させながら巻回する外周面を有し、前記外周面に接触した前記被記録媒体を加熱しながら前記外周面に沿った搬送経路にて搬送する搬送手段と、
前記外周面に対向して、前記外周面との間に前記搬送経路に沿った所定の空間を形成するように配置されているカバー部材と、
前記所定の空間に空気を供給する給気口と、
前記所定の空間の空気を排出する排気口とを有し、
前記排気口は、前記外周面に対向して複数配置されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明において、前記排気口は、前記外周面の鉛直方向最下点に対して、前記搬送経路の搬送方向の上流側に1個以上配置され、前記搬送方向の下流側に1個以上配置されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明において、前記所定の空間から前記排気口により排出される空気の風量は、前記所定の空間に対して前記給気口により供給される空気の風量よりも多くなるように制御されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明において、前記ヒートドラムの温度は、摂氏80度以上摂氏160度以下となるように制御されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明において、前記給気口又は前記排気口の開口部には、空気の流れを制御するための整流部材が設けられていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明において、前記被記録媒体は合成樹脂フィルムであり、前記インクは水を含有する水系インクであることを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明は、ロール状の前記被記録媒体を供給搬送するための巻き出し部と、前記巻き出し部から供給搬送された前記被記録媒体を加温するプレヒート部と、前記被記録媒体に対してインクを吐出して印刷を実施する印刷部と、印刷を実施された前記被記録媒体を乾燥させるための上記のいずれかに記載の乾燥装置と、前記被記録媒体を巻き取る巻き取り部を有し、前記プレヒート部は前記巻き出し部、前記乾燥装置及び前記巻き取り部よりも鉛直方向上方に配置され、前記印刷部は、前記プレヒート部よりも鉛直方向上方に配置されていることを特徴とする、インクジェット描画装置と構成してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、上記の構成とすることで、乾燥に伴い発生する水蒸気を確実に排出してインクを確実に乾燥させることができる乾燥装置及び当該乾燥装置を適用したインクジェット描画装置を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】乾燥装置の構成例を示す全体図である。
図2】給気口及び排気口の配置例を示す図である。
図3】水蒸気排出検証にて検証した給気口及び排気口の配置パターンを示す図である。
図4図1における破線b内の部分拡大図である。
図5】整流部材の構成例の概略図である。
図6】ヒートドラムの構造例を示す断面図である。
図7】本発明の乾燥装置を用いたインクジェット描画装置の構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
まず、本発明の実施形態として、乾燥装置が搭載されたインクジェット描画装置を、図7を用いて説明する。
【0021】
図7は、乾燥装置が搭載されたインクジェット描画装置全体構成の概略図である。
【0022】
まず、ロール状になっている被記録媒体19を供給する巻き出し部71から、被記録媒体19が搬送供給される。供給された被記録媒体19は、プレヒート部72に到達し、所定の温度で事前加熱(プレヒート)される。プレヒートすることで、インクが意図せずにじむことを防止して印刷画質を確保することができる。なお、プレヒート部72は、本実施例では、加温と被記録媒体19の搬送を兼ねる加温機能を有するベルトとして示してあるが、搬送ベルトと別に加温装置を搭載することもできるし、必要に応じて複数搭載してもよい。
【0023】
プレヒートされた被記録媒体19は、印刷部73の下部を通過しつつ、印刷部73に搭載されたインクジェットヘッド74をからインクが吐出されて印刷される。印刷部73には、通常は、インクの数に対応した、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色分のインクを吐出するためのインクジェットヘッド74が搭載され、これに追加してホワイト等の特色インクを吐出するためのインクジェットヘッド74が適宜搭載されるが、これに限られるものではなく、必要なインクを吐出するためのインクジェットヘッド74を適宜配置すればよい。
【0024】
印刷部73による被記録媒体19への印刷完了後、被記録媒体19は、本実施形態に係る乾燥装置10に搬送され、上記の通りの作用により被記録媒体19に塗布されたインクが乾燥される。そして、被記録媒体19が乾燥装置10を通過して乾燥完了したのちに、巻き取り部75に巻き取られ、印刷が完了する。なお、必要に応じて被記録媒体19の搬送経路制御のために、本実施例にかかるインクジェット描画装置の構成内に適宜搬送ローラーを配置してもよい。また、乾燥装置10は、必要に応じて複数搭載してもよい。
【0025】
ここで、本実施形態では、プレヒート部72は巻き出し部71、乾燥装置10及び巻き取り部75よりも上部に配置され、印刷部73は、プレヒート部72よりも上部に配置されている。これは、省スペース化とメンテナンス性能を両立するためには、被記録媒体19の交換をするために、巻き出し部71及び巻き取り部77がプレヒート部72よりも下部に配置され、かつ被記録媒体19の印刷面を表にし、裏面をヒータードラム11に接触させるためには乾燥装置10もプレヒート部72より下部に配置することが望ましいためであり、また、印刷部73は、プレヒート部72よりも上部にあることで、インクを適切に吐出して印刷することができるためである。
【0026】
なお、本実施形態は、あくまで、想定されるインクジェット描画装置の構成の一例であり、適宜、別の構成を設定しうることを確認する。
【0027】
次に、本発明の実施形態としての乾燥装置を、図を適宜参照しつつ説明する。
【0028】
図1は、本実施形態に係る乾燥装置の構成例を示す全体図である。
【0029】
本実施形態における乾燥装置10に適用される、インクが付与された被記録媒体19を接触させながら巻回する外周面を有し、外周面に接触した被記録媒体19を加熱しながら外周面に沿った搬送経路に沿って搬送する搬送手段として、図1に図示されるヒートドラム11が想定される。ヒートドラム11には表面を所定の温度に加熱することが可能なヒーターが内蔵されており、回転軸11aを中心に回転可能に配置されている。ヒートドラム11の形状は、被記録媒体を効率よくしわなく搬送する必要があるため円筒形状が望ましい。また、表面は、被記録媒体全体を均一に加熱する必要があるため、基本的にはヒートドラム11表面と被記録媒体19がすべて接触するように平滑であることが望ましいが、必要に応じて、蛇行やしわの防止等の所定の機能を付与するため、表面に溝加工やクラウン加工など何らかの加工を適宜なしうる。また、材質は、被記録媒体を効率よく均一に加熱するべく熱伝導率の高い金属素材が好ましく、取扱いの容易さなどからステンレスなどが好ましいがこれに限られるものではない。図1の例であれば、ヒートドラムは回転軸11aを中心に、実線矢印方向の搬送経路上流から下流に向けて回転して、被記録媒体19を搬送しつつ加熱する。なお、搬送手段としては、本実施形態のヒートドラム11のような円筒ドラム形状に限定されるものではなく、上記の搬送機能と加熱機能がある構成であればよく、搬送機能及び加熱機能を有するベルトのような構成とすることも想定される。
【0030】
ヒートドラム11の外周面に対向して、当該外周面との間に被記録媒体19の搬送経路に沿った所定の空間を形成するための、カバー部材13が配置されている。図1の例では、カバー部材11はヒートドラム11に沿って湾曲したU字形状に形成されているが、加工コスト削減等のために、平板を複数接続させて形成した多角形状にしてもよいし、前記の空間を形成できる方法であればその他の方法でもよい。カバー部材13は、ヒートドラム11の外周面表面上の温度低下を防止しつつ、被記録媒体19の乾燥の際に発生した水蒸気を乾燥装置以外の部分に流れないようにして印刷装置の他の部分に影響を及ぼすことを防止するために設けられた部材である。特に、被記録媒体19とヒートドラム11が接触して巻回する部分では、被記録媒体19の乾燥により水蒸気が発生する部分であるため、この部分と対向する部分には、カバー部材13を配置するとより好適である。カバー部材13を配置することで、上述の通り、ヒートドラム11の外周面表面上の温度低下を防止しつつ、乾燥の際に発生した水蒸気を乾燥装置以外の部分に流れないようにする効果を発揮するのみならず、カバー部材13がヒートドラム11から発生する熱を乾燥装置10の外部に対して遮熱する効果が期待できる。この遮熱効果により、印刷装置を構成する乾燥装置10以外の部分(印刷部等)への影響(高熱による破損など)を防止する効果も期待できる。この遮熱効果により、乾燥装置10と、他の構成を近づけて配置することが可能となり、印刷装置全体の省スペース化に寄与することができる。
【0031】
カバー部材13上には、ヒートドラム11とカバー部材13との間の所定の空間に対して空気を供給するための給気口15と、ヒートドラム11とカバー部材13との間の所定の空間に存在する被記録媒体上のインクを乾燥させた際に発生する水蒸気を含む空気を排出するための複数の排気口17が、ヒートドラム11の外周面に対向して配置されている。このように、給気口と複数の排気口がヒートドラム11に対向して配置される構成をとることで、被記録媒体19を乾燥することで発生した、ヒートドラム11外周面とカバー部材との間に搬送経路に沿って形成された空間内の水蒸気を含む空気を効率よく入れ替えることができる。これにより空気が飽和水蒸気量に達しないようにすることができるため、被記録媒体19を確実にかつ高速に乾燥させることのできる乾燥装置を提供することができる。給気口から供給される空気は、加温された温風でもよいが、温風を発生させる装置を搭載するスペースを削減するために、特に加温をしないこととしてもよい。また、図1の例であれば、1個以上の給気口15及び複数個の排気口17は、カバー部材のヒートドラム11がある側の反対側表面に、ヒートドラム11に対向するように配置されているが、給気口15および排気口17は、本実施形態のようにカバー部材上に接続させて取り付けてもよいし、カバー部材とは別個独立に配置してもよい。
【0032】
なお、本実施形態の乾燥装置においては、被記録媒体19として、長尺のロール状のシート部材が用いられる。当該シート部材の素材はコート紙などの紙も想定されるが、基本的には、ポリプロピレン(OPP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロンなどの樹脂により形成された合成樹脂フィルムが好適である。また、被記録媒体に塗布されるインクは、加熱による乾燥が必要となる溶剤インクなども想定しうるが、環境や人体への影響が低い溶媒に水を使用している水系インクがより好適となる。
【0033】
図2は、本実施形態における、給気口15及び排気口17の配置例を示している。ここで、給気口15及び排気口17の配置方法の詳細について説明する。
【0034】
前提として、本実施形態の乾燥装置においては、前述の通り、ヒートドラムによりインクを乾燥させた際に発生した水蒸気を適切に排出して、前記所定の空間内の空気が飽和水蒸気量に達しないようにすることのみならず、発生した水蒸気が配置された排気口17からのみ排出されるようにし、カバー部材13の開口部などの排気口17以外からは漏出しないようにすることが望ましい。これは、水蒸気が排気口17以外から漏出することで発生する、描画装置の他の部品に水蒸気が付着して装置の破損を招く問題や、水蒸気に含まれる臭気の漏出の問題などを回避するためである。
【0035】
ここで、給気口15及び排気口17の具体的な配置例につき、例えば、図2αのように、給気口15と排気口17を交互に配置することも想定され、図2βのよう、排気口17の次に給気口15が複数配置された後に排気口17が配置されるというようなアトランダムな配置方法も機械設計上の理由などにより想定され、図2γのようにカバー部材13の開口部がそもそも鉛直方向に対して上方向を向いていない場合も想定される。しかし、いずれの場合であっても、排気口17は、ヒートドラム11の外周面の鉛直方向最下点に対して、ヒートドラム11の表面に接触して巻回して搬送される被記録媒体19の搬送経路の上流側および下流側にそれぞれ1個以上配置されることが好ましい。図2の例であれば、ヒートドラム11の回転軸aを鉛直方向に通過する破線cと、ヒートドラム11の外周面が交差する点dが最下点になり、この最下点を基準とした搬送経路上流側および下流側に、少なくとも1個ずつ排気口17が配置されている。
【0036】
この排気口17の配置方法の理由を説明する。インクを乾燥させた際に発生した水蒸気は、水蒸気の比重が主に窒素や酸素により構成される空気より軽いため、鉛直方向上方に上がっていくことから、排気口17が前期搬送経路上流側または下流側の一方にのみ配置されている場合は、ヒートドラム11とカバー部材13との間に形成されている空間内の空気の流れが、給気口15から排気口17へ流れるように形成されず、水蒸気も排気口17から流れない問題が生じる。この問題に起因して、水蒸気が前記所定の空間内に滞留してしまう問題や、水蒸気が排気口17以外(カバー部材13の開口部等)から漏出してしまう問題が生じる。最終的には、前記空間内の空気中の水蒸気量が飽和水蒸気量に達してしまうため被記録媒体19を乾燥できない問題が生じるのみならず、水蒸気が排気口17以外から漏出することで描画装置の破損等を生じさせる結果となる。これを解決するために、本実施形態における排気口17の配置方法を上記の方法とすることで、前記空間内の適切な空気の流れを形成でき、効率よく確実に水蒸気を含む空気を排気口17から排出することができる。
【0037】
発明者は、排気口17の配置関係と水蒸気の排出状況について、次の通り実験を行った。図3は本実験における排気口17の配置パターンを示している。図3αは排気口17が前記搬送経路下流側一方にしか配置されていないパターンであり、図3βは排気口17がヒートドラム11の前記外周面の鉛直方向最下点にのみ配置されたパターンであり、図3γは排気口17が前記上流側および下流側にそれぞれ1個ずつ配置されているパターンである。本実験では、ヒートドラム11の温度を摂氏110度、被記録媒体19に対するインク付与量を22.3cc/m2となるよう制御したうえで、図3αから図3γのそれぞれの配置パターンにおける、20m/min、30m/minの印刷(搬送)速度とした場合の、被記録媒体19に付与されたインクの乾燥状態と水蒸気の排出性能を検証した。そして、各場合における、水蒸気の排出性能と、被記録媒体19に付与されたインクの乾燥性能を、良好な側から○、△、×の順番で評価した。
【0038】
まず、図3αの配置パターンでは、20m/min、30m/minいずれの印刷速度においても、インク乾燥の際に発生した水蒸気が適切に排出されず、多くの水蒸気が乾燥装置10の外に漏れだしてしまい、被記録媒体19に付与されたインクも完全に乾燥しておらず、水蒸気の排出性能とインクの乾燥状態の総合評価は×という結果になった。
【0039】
次に、図3βの配置パターンでは、、20m/minの印刷速度においては、若干の水蒸気の漏れがあるものの、被記録媒体19に付与されたインクはある程度乾燥しており、△という評価であったが、30m/minの印刷速度とした場合、水蒸気の排出性能とインクの乾燥状態の総合評価は×という結果になった。これは、乾燥装置10において一度に乾燥させる必要があるインク量が多くなる結果、発生する水蒸気量も多くなることで、発生した水蒸気の排気が不十分となったためと思慮される。
【0040】
最後に、図3γの配置パターンでは、20m/min、30m/minいずれの印刷速度においても、排気口17から適切に水蒸気が排出され、被記録媒体19に付与されたインクも完全に乾燥しており水蒸気の排出性能とインクの乾燥状態の総合評価は〇という結果になった。
【0041】
以上の実験結果によると、排気口17が被記録媒体19の搬送経路上流側および下流側にそれぞれ1個以上配置されることで、水蒸気の排出性能とインクの乾燥状態はより良好な結果となっていることがわかる。
【0042】
ここで、乾燥装置10の給気風量及び排気風量の制御方法について説明する。なお、風量とは、単位時間当たりに移動させる空気量を示す。また、給気風量とは、乾燥装置10に搭載されているすべての給気口15から、ヒートドラム11とカバー部材13との間に形成された被記録媒体19の搬送経路に沿った所定の空間に対して単位時間当たりに供給される空気量を示す。また、排気風量とは、前記所定の空間から、乾燥装置10に搭載されているすべての排気口17により単位時間当たりに排気される空気量を示す。
【0043】
乾燥装置10においては、搭載されているすべての給気口15と排気口17の風量を適宜制御することで、排気風量を、給気風量よりも多くなるように制御して、前記所定の空間内の空気圧を、空間外の空気圧よりも低い負圧の状態となるよう制御することが望ましい。前記所定の空間内の空気圧が、空間外の空気圧よりも高く制御されている正圧の状態となっている場合、前記所定の空間内の空気は、排気口17から排出されず、カバー部材の開口部などの隙間から、より空気圧の低い、前記所定の空間の外部に漏出する現象が生じやすくなる。これにより被記録媒体上のインクを乾燥させた際に発生する水蒸気も、乾燥装置10の外部に漏出する現象が生じるため、これを回避するべく、前記所定の空間内の空気圧を負圧に制御するように、排気風量を給気風量より多くなるように制御することが考えられる。これにより、水蒸気が漏出することなく、排気口17から適切に排出することができる。給気口15及び排気口17の風量の制御方法としては、適宜のものを想定することができ、給気口15と排気口17の配置個数を調整する方法でもよいし、個々の給気口15と排気口17に各々接続されたファンの回転数を切り替えて風量を制御する方法でもよいし、両方の方法を併用する方法でもよく、その他の方法でもよい。
【0044】
次に、給気口15と排気口17の構造について図4及び図5を用いつつ詳述する。
【0045】
図4図1の破線b枠内の拡大図である。給気口15及び排気口17のヒートドラム11側の開口部に、空気の流れを制御するための整流部材31が配置されている。ヒートドラム11とカバー部材13との間の空間内の空気を効率よく入れ替えるために、給気口15から排気口17への空気の流れを整流することが有効となる。具体的には、図3に図示された実線矢印の流れのように、隣接または近接する給気口15および排気口17との間で、給気口15から供給した空気が排気口17へ流れる流れを形成するように、整流部材31を形成することが望ましい。なお、給気口15と排気口17の形状自体は、それぞれ空気の吸引機能と排出機能が搭載されていれば、同じ形状としても異なる形状としてもよいことを確認する。
【0046】
図5は、給気口または排気口に対して整流部材31が取り付けられている場合の構成例である。図5αのように、開口部に整流板を取り付ける方法も想定される。また、図5βのように、回動可能に配置された整流弁を設けることも想定される。さらに、図5γのように、空気の流れを制御する整流部材を設けたノズルとして構成することも可能である。
【0047】
図6は、ヒートドラム11の構成例を示す断面図である。ヒートドラム11には、前述のとおりヒートドラム11表面に接触している被記録媒体19を加熱するために、ヒーターユニットを設けることが望ましい。図6のように、ヒーターユニット51は、熱伝導率の関係からも、ヒートドラム11の外周表面に沿って複数配置される形態が好ましく、また、前述の通り、ヒートドラム11の表面温度は、なるべく均一にすることが必要であるため、ヒーターユニット51は出力を調整したものを適宜配置することが好ましい。ただし、機械構成によっては、ヒーターユニット51は、ヒートドラム11の軸部分にのみ配置するなど、ヒートドラム11の外周面表面以外に配置する構成をとってもよい。
【0048】
次に、ヒートドラム11の温度制御について説明する。ヒートドラム11の設定温度は、主には、被記録媒体19の種類、インクの乾燥性能及び要求される印刷(搬送)速度(ヒートドラム11の回転速度)等の条件により決定される。
【0049】
例えば、被記録媒体19がその表面におけるインク定着安定性が高い受理層を有するコート紙などである場合などは、ヒートドラム11の制御温度が摂氏80度程度でも乾燥させることが可能である。また、水系インクでは、上述の通り溶媒として使用されているのは水であることから、短い時間で乾燥させるためには、基本的には水の沸点である摂氏100度以上であることが望ましい。なお、水系インクであっても、含有される添加剤の性質等により、より低い温度でも乾燥させることができる場合も想定される。そして、基本的には、ヒートドラム11の設定温度が高ければ高いほど、より高速でインクを乾燥させることが可能となる結果、被記録媒体19に対する印刷速度(搬送速度)を高めることができる。
【0050】
しかし、被記録媒体19には、どの程度の温度であればその性質や形状を維持できる最高温度を示す耐熱温度が存在する。例えば上述したようなポリプロピレン(OPP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロンなどの樹脂により形成された合成樹脂フィルムの場合、ヒートドラム11の温度を高くしすぎれば、被記録媒体19が収縮してしまい破損してしまうことから、設定温度には上限がある。これらの合成樹脂フィルムの場合、耐熱温度は最高でも摂氏160度以下であることが通常と想定される。これらを鑑みると、ヒートドラム11の温度を摂氏80度以上摂氏160度以下にて制御することで、被記録媒体19を破損させることなく、乾燥性、乾燥速度を確保しうる。
【符号の説明】
【0051】
10 乾燥装置
11 ヒートドラム
11a 回転軸
13 カバー部材
15 給気口
17 排気口
19 被記録媒体
31 整流部材
71 巻き出し部
72 プレヒート部
73 印刷部
74 インクジェットヘッド
75 巻き取り部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7