(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】光学装置、撮像システム、分析システム、方法、及び空間光変調素子の使用方法
(51)【国際特許分類】
G02B 21/00 20060101AFI20240610BHJP
G03H 1/16 20060101ALI20240610BHJP
G03H 1/26 20060101ALI20240610BHJP
G02B 21/36 20060101ALI20240610BHJP
G02B 21/02 20060101ALI20240610BHJP
H04N 23/55 20230101ALI20240610BHJP
H04N 23/60 20230101ALI20240610BHJP
G02B 27/40 20060101ALN20240610BHJP
【FI】
G02B21/00
G03H1/16
G03H1/26
G02B21/36
G02B21/02
H04N23/55
H04N23/60 500
G02B27/40
(21)【出願番号】P 2019224774
(22)【出願日】2019-12-12
【審査請求日】2022-07-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開の事実1:平成30年12月19日、Proceedings of DHIP2018 公開の事実2:平成30年12月19日、The 8ht Japan-Korea Workshop on Digital Holography and Information Photonics 公開の事実3:令和 1年 9月 2日、第2回極みプロジェクトシンポジウム 公開の事実4:令和 1年12月 9日、第8回 大阪府立大学・和歌山大学 工学研究シーズ合同発表会
(73)【特許権者】
【識別番号】504145283
【氏名又は名称】国立大学法人 和歌山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】最田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】米田 成
(72)【発明者】
【氏名】野村 孝徳
【審査官】岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/056657(WO,A1)
【文献】特開2007-128009(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146506(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/063463(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
G02B 9/00-17/08
G02B 21/02-21/04
G02B 25/00-25/04
G02B 5/18
G02B 5/32
G03H 1/00-5/00
H04N 5/222-5/257
G01C 3/00-3/32
G06T 1/00-1/40
G06T 3/00-5/50
G06T 11/60-13/80
G06T 17/05
G06T 19/00-19/20
G06T 7/00-7/90
G06V 10/00-20/90
G06V 30/418
G06V 40/16-40/20
G03B 3/00-3/12
G03B 13/30-13/36
G03B 21/53
G02B 7/28-7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像の対象物と撮像装置の撮像面との間に配置される光学装置であって、
前記対象物
に対向するレンズと、前記レンズの後側焦点におけるフーリエ変換作用を有する空間光変調素子と、を備え、
前記空間光変調素子は、前記対象物の合焦像に対して異なる複数の点像分布関数が畳み込まれた複数の非合焦像を、前記撮像装置における単一の前記撮像面内において回折格子による0次回折光が表れる位置の周囲に生成するよう構成され、
前記撮像装置における単一の前記撮像面内に生成された前記複数の非合焦像は、それぞれ、非合焦度合いが異なるとともに、合焦位置から光軸方向に変位した複数の異なる非合焦位置において得られる複数の非合焦像に相当する像であり、
前記複数の異なる非合焦位置は、前記合焦位置からの変位量の絶対値が異なる複数の位置を含み、
前記異なる複数の点像分布関数それぞれは、
前記複数の非合焦像それぞれの非合焦度合い応じた特性を有する
光学装置。
【請求項2】
対象物に対向する第1レンズと、
前記第1レンズの光軸上に配置された第2レンズと、
前記第1レンズの後側焦点であって前記第2レンズの前側焦点である位置に配置された空間光変調素子と、
を備え、
前記空間光変調素子は、前記第2レンズの後側焦点に位置する撮像面内に、
非合焦度合が異なる複数の非合焦像を生成する
ため、前記対象物の合焦像に対して、前記非合焦度合に応じた異なる複数の点像分布関数を畳み込む光変調特性を有
する、
光学装置。
【請求項3】
前記複数の非合焦像は、複数の異なる非合焦位置において得られる複数の非合焦像に相当する像であり、
前記複数の異なる非合焦位置それぞれは、前記撮像面の位置から光軸方向に変位した位置である
請求項2に記載の光学装置。
【請求項4】
前記複数の異なる非合焦位置は、前記撮像面からの距離の絶対値が異なる複数の位置を含む
請求項3に記載の光学装置。
【請求項5】
前記複数の異なる非合焦位置は、前記撮像面からの距離の絶対値が同じであって、距離の符号が異なる複数の位置を含む
請求項4に記載の光学装置。
【請求項6】
前記空間光変調素子は、少なくとも光の振幅変調をすることによって前記光変調特性を生じさせるよう構成されている
請求項2に記載の光学装置。
【請求項7】
前記空間光変調素子は、前記光変調特性を生じさせるよう構成された回折格子を含む
請求項2又は請求項6に記載の光学装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の光学装置と、
前記光学装置における前記撮像面の位置に配置された撮像装置と、
を備える撮像システム。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の光学装置と、
前記光学装置における前記撮像面の位置に配置され、対象物についての前記複数の非合焦像を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置から取得した前記複数の非合焦像に基づいて、対象物の分析をする分析装置と、
を備える分析システム。
【請求項10】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の光学装置を用いて、前記複数の非合焦像を撮像することを含む方法。
【請求項11】
空間光変調素子の使用方法であって、
前記空間光変調素子は、対象物に対向する第1レンズの光軸上に配置された第2レンズの後側焦点に位置する撮像面内に、
非合焦度合が異なる複数の非合焦像を生成する
ため、前記対象物の合焦像に対して、前記非合焦度合に応じた異なる複数の点像分布関数を畳み込む光変調特性を有
し、
前記空間光変調素子を、対象物に対向する第1レンズの後側焦点であって、前記第1レンズの光軸上に配置された第2レンズの前側焦点である位置に配置し、
前記撮像面内の0次回折光が表れる位置の周囲に前記複数の非合焦像を生成する
空間光変調素子
の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非合焦像の生成に関する。
【背景技術】
【0002】
撮像装置を合焦位置から光軸方向にずらして撮影された像(非合焦像)には、様々な応用分野がある。一つの応用分野として、非合焦像を用いた位相計測法がある。
【0003】
位相計測法は、例えば、光の吸収のない透明な物体の観察に用いられる。通常の撮像装置によって取得される合焦像では、光の吸収のない透明な物体の内部構造などの確認は困難である。このような場合、屈折率変化に伴う光学的な位相差を観察することが有用である。
【0004】
位相差は、合焦時の強度にはほとんど影響せず視認することはできない。しかし、合焦位置から光軸方向に撮像装置をずらして撮影される非合焦像では、撮像対象における屈折率変化に対応した強度変化が見られ、合焦位置から離れるほど、強度変化の度合いは大きくなる。
【0005】
非合焦像から撮像対象の位相分布を取得する位相計測法として、強度輸送方程式(Transport of Intensity Equation:TIE)を用いた方法などがある。このような位相計測法では、光軸方向の異なる位置で取得された非合焦度合いの異なる複数の非合焦像が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
非合焦度合いの異なる複数の非合焦像を得るには、撮像装置を光軸方向に物理的に移動させる必要がある。撮像装置を複数の位置へ移動させることが必要であると、複数の非合焦像を得るのに時間を要する。しかも、撮像装置の移動精度を高くする必要がある。しかも、撮像の対象が動いている場合には、撮像が困難である。したがって、これらの問題の解決が望まれる。
【0008】
本開示の一つの側面は、光学装置である。開示の光学装置は、合焦像に対して異なる複数の点像分布関数それぞれが畳み込まれた複数の非合焦像を、単一の撮像面内に生成するよう構成されている。前記複数の非合焦像は、それぞれ、非合焦度合いが異なる
【0009】
他の観点において、開示の光学装置は、対象物に対向する第1レンズと、前記第1レンズの光軸上に配置された第2レンズと、前記第1レンズの後側焦点であって前記第2レンズの前側焦点である位置に配置された空間光変調素子と、を備え、前記空間光変調素子は、前記第2レンズの後側焦点に位置する撮像面内に、複数の非合焦像を生成する光変調特性を有し、前記複数の非合焦像は、それぞれ、非合焦度合いが異なる。
【0010】
本開示によれば、撮像面に、非合焦度合いが異なる複数の非合焦像が生成される。したがって、1回の撮像によって、複数の非合焦像を取得できる。この結果、撮像装置の移動の必要がなく、撮像の移動によって生じる前述の問題が解決される。
【0011】
なお、特許文献1は、ボケ画像を得ることを開示している。しかし、特許文献1において、1回の撮像で、一つのボケ画像を取得することしか開示しておらず、複数の非合焦像を取得することは開示していない。しかも、特許文献1は、撮像装置を光軸方向に物理的に移動させたときに得られる非合焦像に相当する像を得ることも開示していない。
【0012】
本開示の他の側面は、前記光学装置が用いられる撮像システム、分析システム、及び方法である。本開示の更に他の側面は、前記光学装置に用いられる空間光変調素子である。本開示に関し、更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態に係る分析システムの構成図である。
【
図2】
図2は、複数の非合焦像の取得の説明図である。
【
図3】
図3は、光軸方向の異なる位置に配置された非合焦像及び合焦像を示す図である。
【
図4】
図4は、複数の非合焦像の取得のための撮像装置の移動を示す図である。
【
図5】
図5は、強度輸送方程式に基づく位相イメージングの説明図である。
【
図8】
図8は、非合焦像が畳み込み積分によって表されることの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1.光学装置、撮像システム、分析システム、方法、及び空間光変調素子の概要>
【0015】
(1)実施形態に係る光学装置は、撮像の対象物の合焦像に対して、異なる複数の点像分布関数が畳み込まれた複数の非合焦像を、単一の撮像面内に生成するよう構成されている。前記複数の非合焦像は、それぞれ、非合焦度合いが異なる。
【0016】
(2)実施形態に係る光学装置は、対象物に対向する第1レンズと、前記第1レンズの光軸上に配置された第2レンズと、前記第1レンズの後側焦点であって前記第2レンズの前側焦点である位置に配置された空間光変調素子と、を備える。前記空間光変調素子は、前記第2レンズの後側焦点に位置する撮像面内に、複数の非合焦像を生成する光変調特性を有し、前記複数の非合焦像は、それぞれ、非合焦度合いが異なる。
【0017】
(3)前記複数の非合焦像は、複数の異なる非合焦位置において得られる複数の非合焦像に相当する像である。前記複数の異なる非合焦位置それぞれは、前記撮像面の位置から光軸方向に変位した位置である。
【0018】
(4)前記複数の異なる非合焦位置は、前記撮像面からの距離の絶対値が異なる複数の位置を含むことができる。
【0019】
(5)前記複数の異なる非合焦位置は、前記撮像面からの距離の絶対値が同じであって、距離の符号が異なる複数の位置を含むことができる。
【0020】
(6)前記空間光変調素子は、少なくとも光の振幅変調をすることによって前記光変調特性を生じさせるよう構成されているのが好ましい。
【0021】
(7)前記空間光変調素子は、前記光変調特性を生じさせるよう構成された回折格子を含むことができる。この場合、回折により生じる共役像が得られるため、複数の非合焦像を得るのが容易になる。
【0022】
(8)実施形態に係る撮像システムは、(1)から(7)のいずれか1項に記載の光学装置と、前記光学装置における前記撮像面の位置に配置された撮像装置と、を備えることができる。前記撮像装置は、例えば、光学顕微鏡、又はカメラである。前記光学装置は、光学顕微鏡用のアタッチメント、又はカメラ用アタッチメントとして構成される。
【0023】
(9)実施形態に係る分析システムは、(1)から(7)のいずれか1項に記載の光学装置と、前記光学装置における前記撮像面の位置に配置され、対象物についての前記複数の非合焦像を撮像する撮像装置と、前記撮像装置から取得した前記複数の非合焦像に基づいて、対象物の分析をする分析装置と、を備えることができる。
【0024】
(10)実施形態に係る方法は、(1)から(7)のいずれか1項に記載の光学装置を用いて、前記複数の非合焦像を撮像することを含む。
【0025】
(11)実施形態に係る空間光変調素子は、対象物に対向する第1レンズの後側焦点であって、前記第1レンズの光軸上に配置された第2レンズの前側焦点である位置に配置される空間光変調素子であって、前記第2レンズの後側焦点に位置する撮像面内に、複数の非合焦像を生成する光変調特性を有し、前記複数の非合焦像は、それぞれ、非合焦度合いが異なる。
【0026】
<2.光学装置、撮像システム、分析システム、方法、及び空間光変調素子の例>
【0027】
図1は、実施形態に係る光学装置20を備えた撮像システム15を示している。撮像システム15は、対象物100の非合焦像を取得する。実施形態の撮像システム15は、複数の非合焦像を1回の撮影によって得ることができる。実施形態において、撮像システム15は、分析装置50に接続され、分析システム10の一部を構成する。
【0028】
対象物100は、一例として、生体細胞サンプルなどの無色透明な物体(純位相物体)である。対象物100が透明である場合、合焦像においては、光の強度分布がほとんど生じない。このため、対象物100の合焦像から、対象物100の形状又は構造などを分析するのは困難である。実施形態においては、対象物100の分析のため、複数の非合焦像が取得される。
【0029】
撮像システム15は、光学装置20と撮像装置40とを備える。実施形態に係る光学装置20は、第1レンズ21と、第2レンズ22と、空間光変調素子30と、を備える。
【0030】
第1レンズ21は、撮像の対象物100に対向するよう配置される。第1レンズ21は、焦点距離fを有する。第1レンズ21の前側焦点位置に対象物100が配置されると、第1レンズ21の後側焦点位置では、数学的に対象物100がフーリエ変換された分布(フーリエスペクトル)が現れる。
【0031】
第2レンズ22は、第1レンズの光軸上に配置され、焦点距離fを有する。なお、ここでは、簡単化のため、第1レンズ21及び第2レンズ22の焦点距離が同じ値fであるが両レンズ21,22の焦点距離は異なっていてもよい。また、
図1において、光軸は、z方向に平行な方向である。
【0032】
第2レンズ22は、第2レンズ22の前側焦点位置が、第1レンズ21の後側焦点位置に一致するように配置される。第2レンズ22の後側焦点位置は、撮像装置40による撮像位置(撮像面41)となる。撮像面41は、
図1のxy平面に平行な面である。撮像装置40は、撮像装置40が有する撮像素子(イメージセンサ)の面(撮像素子面)が、第2レンズ22の後側焦点位置に存在するように配置される。前述の空間光変調素子30が存在しない場合、このように配置された撮像装置40で、対象物100を撮影すると、対象物100の合焦像が得られる。ここでは、合焦像が得られる撮像面41の位置を「合焦位置」ともいう。
【0033】
実施形態においては、空間光変調素子30が、第1レンズ21の後側焦点位置(第2レンズの前側焦点位置でもある)に配置されている。空間光変調素子30は、空間的に光の振幅及び位相の少なくともいずれか一方を変調するための素子である。実施形態の空間光変調素子30は、合焦像を撮影できる位置(合焦位置)に配置された撮像装置40の撮像面41に、非合焦度合いの異なる複数の非合焦像を生成するよう構成されている。
【0034】
空間光変調素子30は、複数の非合焦像を生成するため、例えば、回折格子を有し、光の回折により光の振幅を変調するよう構成される。空間光変調素子30は、振幅に加えて位相を変調するよう構成されていてもよい。一例として、空間光変調素子30は、光振幅変調作用及び光位相変調作用の少なくともいずれか一方を与える分布を表示した液晶ディスプレイによって構成される。なお、以下の例では、光振幅変調作用を与える分布を表示した液晶ディスプレイが用いられるが、光振幅変調作用に加えて位相変調作用も与える分布を表示した液晶ディスプレイが用いられてもよい。
【0035】
空間光変調素子30は、液晶ディスプレイによって構成されるものに限られず、光変調作用を与える分布が、微細加工によって予め作製された素子であってもよい。
【0036】
空間光変調素子30は、回折格子としての作用を有しており、撮像面41内の異なる位置に複数の非合焦像を生成することができる。空間光変調素子30の更なる詳細については後述する。
【0037】
図2は、空間光変調素子30を備える光学装置20によって、単一の撮像面41に同時に生成される複数(ここでは一例として8個)の非合焦像B
1,B
2,B
3,B
4,B
-1,B
-2,B
-3,B
-4と、一つの合焦像B
0と、の計9個の像を示している。なお、
図2では、撮像面41に表れる9個の像B
1,B
2,B
3,B
4,B
-1,B
-2,B
-3,B
-4,B
0の配置が、配置
図41A中に示されている。8個の非合焦像B
1,B
2,B
3,B
4,B
-1,B
-2,B
-3,B
-4は、合焦像B
0の周囲に現れる。
【0038】
対象物100が透明である場合、合焦像においては、対象物100の形状・構造に基づく光の強度分布がほとんど生じない。しかし、合焦位置から離れた位置で撮像される非合焦像においては屈折率変化に対応した強度変化により、対象物100の形状・構造に基づく光の強度分布が生じる。強度変化は、合焦位置から離れるほど大きくなる。
【0039】
配置
図41A中の各寸法(1mm,2mm,3mm,4mm,-1mm,-2mm,-3mm,-4mm,0mm)は、撮像面41の位置(合焦位置)からの光軸方向(z軸方向)への変位量を示している。例えば、非合焦像B
1の変位量は、1mmであり、これは、非合焦像B
1が、合焦位置からz方向に+1mm変位した位置において生じる非合焦像に相当する像であることを示している。
【0040】
同様に、非合焦像B2は、合焦位置からz方向に+2mm変位した位置において生じる非合焦像に相当し、非合焦像B3は、合焦位置からz方向に+3mm変位した位置において生じる非合焦像に相当し、非合焦像B4は、合焦位置からz方向に+4mm変位した位置において生じる非合焦像に相当する。
【0041】
非合焦像B-1は、合焦からz方向に-1mm変位した位置において生じる非合焦像に相当し、非合焦像B-2は、合焦位置からz方向に-2mm変位した位置において生じる非合焦像に相当し、非合焦像B-3は、合焦位置からz方向に-3mm変位した位置において生じる非合焦像に相当し、非合焦像B-4は、合焦位置からz方向に-4mm変位した位置において生じる非合焦像に相当する。
【0042】
ここでは、合焦位置(撮像面41の位置)から、光軸方向(z軸方向)に変位した位置を非合焦位置という。合焦位置にある撮像面41に表れる非合焦像B
1,B
2,B
3,B
4,B
-1,B
-2,B
-3,B
-4は、
図3に示すように、合焦位置から変位した非合焦位置において得られる非合焦像に相当する像である。非合焦像における非合焦度合い(ボケ度合い)は、合焦位置からの変位量(非合焦位置)に応じて決まるため、異なる非合焦位置において得られる非合焦像は、非合焦度合いが異なるものとなる。つまり、複数の非合焦像B
1,B
2,B
3,B
4,B
-1,B
-2,B
-3,B
-4は、それぞれ、非合焦度合いが異なる像である。
【0043】
このように、本実施形態では、1回の撮影によって、単一の撮像面41に、非合焦度合いが異なる複数の非合焦像B
1,B
2,B
3,B
4,B
-1,B
-2,B
-3,B
-4を得ることができる。実施形態に係る空間光変調素子30を用いない場合、非合焦度合いが異なる複数の非合焦像を得るには、
図4に示すように、撮像装置40を光軸方向(z軸方向)に移動させる必要がある。しかし、撮像装置40を移動させることが必要であると、複数の非合焦像を得るのに時間を要する。しかも、撮像装置40の移動精度を高くする必要がある。しかも、対象物100が動いている場合には、撮像が困難である。
【0044】
これに対して、本実施形態では、撮像装置40を移動させることなく、複数の非合焦像が得られる。したがって、短時間で複数の非合焦像が得られる。また、撮像装置40の移動精度も問題にならなくなる。さらに、対象物100が動いていても、同一時点における対象物100の複数の非合焦像を得ることができる。
【0045】
図1に示す分析装置50は、一例として、複数の非合焦像B
1,B
2,B
3,B
4,B
-1,B
-2,B
-3,B
-4を撮像装置40から取得し、対象物100の位相イメージングをすることができる。位相イメージングには、例えば、強度輸送方程式(TIE)が用いられる。
【0046】
図5は、TIEに基づく位相計測を示している。合焦位置における対象物100の位相分布φ
0(x,y)は、
図5中の式(1)によって算出される。式(1)中の点線内の項は、式(2)によって近似(有限差分近似)される。式(2)の左辺は、式(2)の右辺で示されるように、合焦位置から+Δzほど変位した位置で得られる非合焦像の光強度分布I
Δz(x,y)と、合焦位置から-Δzほど変位した位置で得られる非合焦像の光強度分布I
-Δz(x,y)と、によって近似される。
【0047】
図5では、2つの非合焦像を用いて位相分布φ
0(x,y)が算出されるが、より多くの非合焦像を用いる高次強度輸送方程式(HO-TIE)を採用することで、より精度良く位相分布を算出できる。本実施形態の分析装置50は、8個の非合焦像を用いる高次強度輸送方程式に基づいて、高精度に対象物100を計測できる。
【0048】
実施形態において、空間光変調素子30は、計算機合成ホログラム(Computer Generated Hologram:CGH)が表示された液晶ディスプレイによって構成される。CGH(以下では、単に、「ホログラム」ということがある)は、対象物100についての複数の非合焦像を、撮像面41上に生成するように、設計される。CGHの設計は、コンピュータによって、光の干渉及び回折を計算することで行える。CGHの生成については、後述する。
【0049】
図2に示すように、CGHの変調特性をH(μ,ν)とし、対象物100からの光をa(x,y)とする。以下では、a(x,y)を「物体光」ともいう。物体光a(x,y)が、第1レンズ21を透過すると、第1レンズ21のフーリエ変換作用によって、第1レンズ21の後側焦点位置(空間光変調素子30の位置)に、物体光a(x,y)がフーリエ変換された分布(フーリエスペクトル)A(μ,ν)が現れる。第1レンズ21の後側焦点位置には、空間光変調素子30が配置されているため、フーリエスペクトルA(μ,ν)にCGHの変調特性H(μ,ν)が乗じられる。したがって、第1レンズ21の後側焦点位置における光波の複素振幅分布は、A(μ,ν)H(μ,ν)になる。
【0050】
空間光変調素子30により変調を受けた光波A(μ,ν)H(μ,ν)は、第2レンズ22によってフーリエ変換される。第2レンズ22によるフーリエ変換演算子をFT[]で表すと、撮像面41において生じる像は、FT[A(μ,ν)H(μ,ν)]で表される。畳み込みの定理より、FT[A(μ,ν)H(μ,ν)]=a(x,y)*h(x,y)になる。ここで、*は、畳み込み積分演算子である。
【0051】
上記のように、撮像面41には、物体光a(x,y)と、CGHの変調特性H(μ,ν)の逆フーリエ変換h(x,y)との畳み込みである非合焦像が現れる。
【0052】
図6に示すように、CGHは、点像分布関数(Point Spread Function:PSF)から、計算機合成ホログラム技術を用いた計算をコンピュータによって行うことで、作製される。
【0053】
例えば、所望の点像分布関数p
n(x,y)に従った像を撮像面41に表したい場合、CGHの変調特性H(μ,v)は、
図6の式(3)に従って計算される。式(3)から明らかなように、CGHの変調特性H(μ,ν)は、所望の点像分布関数p
n(x,y)が与えられると計算可能である。点像分布関数p
n(x,y)の特性は、合焦位置からの変位量(非合焦位置n)によって決まるため、非合焦位置nを決めれば、その非合焦位置nに対応した点像分布関数p
n(x,y)が決まる。
【0054】
図7に示すように、式(3)によって計算された変調特性H(μ,ν)を有するCGHに対して平面波を与えると、撮像面41においてCGHの再生像h(x,y)が現れる。CGHの再生像h(x,y)は、第2レンズ22によって、変調特性H(μ,ν)がフーリエ変換されたものである。実施形態のCGHは、回折格子による振幅変調作用を持つよう設計されているため、撮像面41の中心には、0次光(0次回折光)が現れ、0次光の周囲に、点像分布関数p
n(x,y)の再生像(+1次光;+1次回折光)と、点像分布関数p
n(x,y)の共役像(-1次光;-1次回折光)とが現れる。共役像は、点像分布関数p
n(x,y)とは、xy平面における位置が異なる他の点像分布関数の再生像としてみなすこともできる。なお、振幅変調に加えて位相変調も行うことで、共役像が現れないようにすることも可能である。
【0055】
図2に示すように、対象物100の撮像時において、撮像面41に現れるのは、対象物100の物体光a(x,y)と、CGHの変調特性H(μ,ν)の逆フーリエ変換である再生像h(x,y)と、の畳み込み積分に相当する像である。
【0056】
前述のように、実施形態においては、CGHの再生像h(x,y)は、点像分布関数p
n(x,y)の再生像と、点像分布関数p
n(x,y)の共役像と、を含む。このため、
図8に示すように、撮像面41に現れる対象物100の非合焦像は、物体光(合焦像)a(x,y)と点像分布関数p(x,y)との畳み込み積分である第1非合焦像と、物体光(合焦像)a(x,y)と点像分布関数p(x,y)の共役複素数p
*(x,y)との畳み込み積分である第2非合焦像とを含む。
図8に示す第1非合焦像は、例えば、
図2及び
図3に示す非合焦像B
2(非合焦位置:2mm)であり、この場合、
図8に示す第2非合焦像は、
図2及び
図3に示す非合焦像B
-2(非合焦位置:-2mm)である。このように、一つの点像分布関数p(x,y)から作製されたCGHを用いると、2つの非合焦像を生成できる。これら2つの非合焦像が取得される2つの非合焦位置は、合焦位置から、非合焦像が得られる非合焦位置までの距離(変位量;デフォーカス量)の絶対値が等しく、符号(プラスとマイナス)が異なる関係にある。
【0057】
異なる複数の非合焦位置に対応した複数の点像分布関数pn(x,y)を用いることで、より多くの非合焦像を生成できる。
【0058】
図9は、
図2に示す8個の非合焦像B
1,B
2,B
3,B
4,B
-1,B
-2,B
-3,B
-4を生成するために用いられるCGHの作成を示している。8個の非合焦像を生成するCGHを作製するには、4個(複数)の点像分布関数p
i(x,y)(iは1からnまでの整数;ここでは、n=4)が用いられる。4個(複数)の点像分布関数p
i(x,y)の特性は、所望される非合焦像に対応する非合焦位置によって決定される。ここでは、4つの非合焦位置を、それぞれ、合焦位置から1mm、2mm、3mm及び4mmとする。4個(複数)の点像分布関数p
iは、
図9に示すように、撮像面41内の異なる位置に配置される。
【0059】
8個の非合焦像を生成するためのCGHの変調特性H(μ,v)は、
図9の式(4)に従って計算される。式(4)から明らかなように、CGHの変調特性H(μ,ν)は、4つの点像分布関数p
i(x,y)の特性と位置が与えられると計算可能である。
【0060】
図10に示すように、式(4)によって計算された変調特性H(μ,ν)を有するCGHに対して平面波を与えると、撮像面41においてCGHの再生像h(x,y)が現れる。一つの点像分布関数p
iによって、点対称位置に2つの像(点像分布関数の再生像と共役像)が現れるため、ここでは、非合焦度合いの異なる計8個の像が現れる。また、8個の像の中心に、合焦像(0次光)が現れる。
【0061】
このようにして作製されたCGHを用いると、
図2に示すように、撮像面41の中心に合焦像B0が現れ、その周囲に、非合焦度合いの異なる8個の非合焦像B
1,B
2,B
3,B
4,B
-1,B
-2,B
-3,B
-4が現れる。
【0062】
<3.付記>
【0063】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、空間光変調素子30は、第2レンズ22と別素子として設けられている必要はない。空間光変調素子30に、光変調作用だけでなく、第2レンズ22と同等のフーリエ変換作用をも具備させることで、第2レンズ22を省略できる。
【0064】
また、複数の非合焦像の用途は、TIEに限られず、複数の非合焦像を利用可能な他の分析手法であってもよい。さらに、複数の非合焦像の用途は、対象物100の分析に限られず、非合焦像を用いた画像処理であってもよいし、光学系の検査であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 :分析システム
15 :撮像システム
20 :光学装置
21 :第1レンズ
22 :第2レンズ
30 :空間光変調素子
40 :撮像装置
41 :撮像面
41A :配置図
50 :分析装置
100 :対象物