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  • 特許-密封装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3288 20160101AFI20240610BHJP
   F16J 15/34 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
F16J15/3288
F16J15/34 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020067698
(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2021162144
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(ACCEL)「濃厚ポリマーブラシのレジリエンシー強化とトライボロジー応用」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】橋本 孝誠
(72)【発明者】
【氏名】細沼 慎正
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 望
(72)【発明者】
【氏名】福原 拓人
(72)【発明者】
【氏名】榊原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】辻井 敬亘
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/198876(WO,A1)
【文献】特開2019-065787(JP,A)
【文献】特開2014-169787(JP,A)
【文献】特開2007-187310(JP,A)
【文献】特表2011-521182(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225693(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0001395(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3288
F16J 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対回転する第1シール部材及び第2シール部材を備え、
前記第1シール部材のシール面及び前記第2シール部材のシール面の両方にポリマーブラシ層が設けられ、
前記ポリマーブラシ層の各乾燥膜厚が0nm超、10000nm以下であり、
前記各乾燥膜厚の差が100nm以上であることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記ポリマーブラシ層が濃厚ポリマーブラシを含む、請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記第1シール部材及び前記第2シール部材の少なくとも一方のシール面にシリカコート層がさらに設けられ、前記ポリマーブラシ層が前記シリカコート層上に設けられている、請求項1又は2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記ポリマーブラシ層が液体物質で膨潤されている、請求項1乃至3までのいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項5】
前記密封装置がメカニカルシールである、請求項1乃至4までのいずれか1項に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
密封装置は、機械等の内部から液体及び気体が外部に漏れ出ることを防止する働きと、外部から塵埃が機械等の内部に侵入することを防止する働きとを有する。このような密封装置は、大きく分けると、オイルシール及びメカニカルシールなどの運動用シールと、ガスケットのような固定用シールに分けることができるが、いずれの場合も、シール面において高い密封性が要求される。
【0003】
シール面の密封性を向上させる技術としては、例えばシール面を平滑に仕上げることでシール対象部材の表面との面接触(密着性)を良好にし、密封性を向上させる方法が知られている。例えば、特許文献1には、安定した高い密着性を発揮させるために、金属ガスケットのシール面となり得る部分に精密研磨を施す技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1のような技術は、高精度な面加工を必要とし、工程が煩雑で作業負担も大きい。また、シール部材を構成する基材が硬質材である場合等は、高精度な面加工は実質的に困難で、シール面において十分な密封性が得られない場合もある。さらに、シール面が高い表面平滑性を有していても、シール対象部材の表面が粗い場合には、シール面とシール対象部材の表面との間で良好な面接触は得られず、漏れが発生してしまう。そのため、このような方法では、シール対象部材の表面に対しても高精度な面加工を施す必要があり、シール部材側だけでの密着性の改善には限界があった。このように、上記のような方法では、様々な用途に使用される各種シール部材のシール面において密封性を向上させる技術としては十分ではなかった。
【0005】
このような問題点に鑑み、特許文献2には、イオン液体を膨潤させた濃厚ポリマーブラシをシール部材のシール面に付与することで、境界潤滑領域、混合潤滑領域で摩擦が低減し、密封性能が向上することが開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2には、差圧を与えた一定速度での回転に対する初動のシール性能については評価されているものの、回転を継続させた場合の密封性能の持続性については言及されていない。そのため、密封装置のさらなる改良のため、静的な密封性能だけでなく、動的な密封性能についても検討する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-218737号公報
【文献】国際公開第2018/198876号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、シール面において優れた密封持続性を発揮し得る密封装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、互いに相対回転する第1シール部材及び第2シール部材の一方又は両方のシール面にポリマーブラシ層を設け、一方のシール面に設けられたポリマーブラシ層の乾燥膜厚、又は両方のシール面に設けられた各ポリマーブラシ層の乾燥膜厚の差を制御することにより、シール面において優れた密封持続性を発揮し得る密封装置を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の密封装置は、互いに相対回転する第1シール部材及び第2シール部材を備え、前記第1シール部材のシール面及び前記第2シール部材のシール面の少なくとも一方にポリマーブラシ層が設けられ、前記ポリマーブラシ層の各乾燥膜厚が0~10000nmであり、前記各乾燥膜厚の差が100nm以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明の密封装置ルにおいて、前記ポリマーブラシ層が濃厚ポリマーブラシを含むことが好ましい。
【0012】
本発明の密封装置において、前記第1シール部材及び前記第2シール部材の少なくとも一方のシール面にシリカコート層がさらに設けられ、前記ポリマーブラシ層が前記シリカコート層上に設けられていることが好ましい。
【0013】
本発明の密封装置において、前記ポリマーブラシ層が液体物質で膨潤されていることが好ましい。
【0014】
本発明の密封装置がメカニカルシールであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シール面において優れた密封持続性を発揮し得る密封装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明に係る密封装置が備える各シール部材の一実施形態を模式的に示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る密封装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
<密封装置>
本実施形態に係る密封装置は、互いに相対回転する第1シール部材と第2シール部材とを備える。第1シール部材のシール面及び第2シール部材のシール面の少なくとも一方には、ポリマーブラシ層が設けられている。各シール部材において、ポリマーブラシ層の各乾燥膜厚は0~10000nmであり、各乾燥膜厚の差が100nm以上であることにより、シール面において優れた密封持続性を発揮し得る密封装置を提供できる。
【0019】
本実施形態に係る密封装置は、第1シール部材及び第2シール部材の少なくとも一方のシール面上に100nm以上の乾燥膜厚を有するポリマーブラシ層が設けられており、両方のシール面にポリマーブラシ層が設けられる場合には、各ポリマーブラシ層の乾燥膜厚の差が100nm以上になるように調整されている。このような所定の乾燥膜厚を有するポリマーブラシ層の存在により、各シール部材において基材表面の表面性状の影響が緩和され、各シール部材のシール面において高い密封性を確保することができるだけでなく、密封持続性を向上させることができる。その結果、長時間の回転においても漏れの発生を有効に防止することができる。
【0020】
第1シール部材及び第2シール部材の基材表面は、十分な密封性を確保する観点から、高平坦性及び高平滑性を有することが好ましい。また、各シール部材において、これらの基材表面が高平坦性及び高平滑性を示すように、例えば基材表面に表面研磨による面加工が施されていてもよい。
【0021】
<シール部材>
本実施形態に係る密封装置が備える各シール部材の一例として、図1に、シール部材1の断面の一部(シール面1a付近)を拡大した概略模式図を示す。図1に示されるように、シール部材1は、その表面1Aにシール面1aを有する。ここで、シール面1aとは、シール部材1の表面1Aの少なくとも一部であり、図示しない他のシール部材の表面(以下、被シール面という。)に対向し、被シール面との間でシール(密封)状態を形成し得る面を意味する。尚、図1に示されるシール部材1は、ポリマーブラシ層12が設けられた第1シール部材及び第2シール部材のいずれかであってもよく、第1シール部材及び第2シール部材の両方であってもよい。
【0022】
また、シール部材1は、図1に示されるように、基材11と、該基材11上に形成されたポリマーブラシ層12と、を有する。ここで、ポリマーブラシ層12の形成状態は、特に限定されず、基材11の形状、材質、表面性状、シール部材1の使用形態等に応じて適宜選択すればよい。
【0023】
ポリマーブラシ層12は、基材表面11A上に、直接的に形成されていてもよく、間接的に形成されていてもよい。ここで、ポリマーブラシ層12が基材表面11A上に間接的に形成される場合としては、例えば基材11を表面処理して基材表面11A上に別な層を形成し、この別な層の表面上にポリマーブラシ層12を形成するような場合である。ここでの別な層としては、例えば、後述するシリカコート層が挙げられる。
【0024】
ポリマーブラシ層12は、必ずしも基材11上のシール面1aに対応する部分の全体を完全に覆っている必要はない。シール部材1は、本発明の効果を妨げない範囲で、基材11上のシール面1aに対応する部分にポリマーブラシ層12が形成されていない部分があってもよく、基材11上のシール面1aに対応する部分に一定の面積をもったポリマーブラシ層12が点在していてもよい。さらに、シール部材1において、基材11上のシール面1aに対応する部分を超えて、例えば、基材11上の全体を覆うようにポリマーブラシ層12が形成されていてもよい。すなわち、シール部材1は、シール面1aにポリマーブラシ層12を有していれば、シール面1aにおいて優れた密封性が発揮される。尚、シール面1aにおいてより高い密封性を得る観点から、ポリマーブラシ層12は、基材11上のシール面1aに対応する部分の全面に形成されていることが好ましく、この場合、シール面1aはポリマーブラシ層12からなる表面12Aとなる。
【0025】
<基材>
基材11は、シール部材1に対応する部材であれば、特に限定されるものではない。このようなシール部材1に対応する部材としては、シール部材1と概ね同じ形状を有している部材であればよく、例えば、(i)その部材単独(ポリマーブラシ層なし)では十分な密封性が得られないが、その表面(シール面1a)にポリマーブラシ層が設けられることによって、所望の密封性を発揮されるような部材、及び(ii)シール面1aにポリマーブラシ層12を有するシール部材1に比べて密封性は劣るものの、その部材単独(ポリマーブラシ層なし)でも密封性を発揮し得る部材のいずれも用いることができる。
【0026】
基材11の材質は、例えば、アルミナ、炭化ホウ素等の硬質セラミックス、ゴム及びプラスチック等が挙げられる。
【0027】
基材11の表面性状は、特に限定されず、特にシール面1aとして機能する基材表面11Aは、適度な平坦性及び平滑性を有していればよく、精密に面加工されていなくてもよい。
【0028】
<ポリマーブラシ層>
ポリマーブラシ層12は、図1に示されるように、基材11上に複数の高分子グラフト鎖121が共有結合で固定されている層である。このようなポリマーブラシ層12の表面12Aは、高分子グラフト鎖121の基材11上に固定されていない側の先端がブラシ状に密集した面であり、ブラシの表面のような表面性状を有する。
【0029】
このようなポリマーブラシ層12をシール面1aに有するシール部材1では、シール面1aに対応する基材表面11Aの表面性状は、ポリマーブラシ層12によって緩和されるため、シール面1aの平坦性には殆ど影響しない。したがって、シール面1aに対応する基材表面11Aは精密に面加工しなくても、シール面1aにおいて高い密封性を確保することができる。
【0030】
また、高分子グラフト鎖121がブラシ状に密集しているポリマーブラシ層12の表面12Aは、適度な柔軟性を有し、被シール面に接触した場合には、被シール面の表面に対し優れた追従性を発揮する。そのため、被シール面の表面性状の影響も、シール面1aのポリマーブラシ層12により緩和され、被シール面との間で良好な密着性が得られる。
【0031】
ポリマーブラシ層の材料としては、例えば、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(ラウリルメタクリレート)(PLMA)、ポリ(N,N-ジエチル-N-メチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド)(PDEMM-TFSI)、ポリ(スチレン)(PS)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)等のリビングラジカル重合法で合成可能な材料が挙げられる。これらの中でも、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が好適である。
【0032】
高分子鎖は、1種類のモノマーを重合させたホモ重合体であっても、2種類以上のモノマーを重合させた共重合体であってもよい。共重合体として、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラジエント共重合体等が挙げられる。
【0033】
このように、シール面1aにポリマーブラシ層12を有するシール部材1によれば、シール面1aに対応する基材表面11A及び被シール面の表面性状の影響を受けず、シール面1aにおいて優れた密封性が得られる。
【0034】
シール面1aに設けられたポリマーブラシ層12の各乾燥膜厚は、0~10000nmであり、100nm以上2000nm以下が好ましい。また、各乾燥膜厚の差は100nm以上である。ここで、乾燥膜厚が0nmであることは、ポリマーブラシ層12がシール部材1に設けられていないことを意味する。この場合、ポリマーブラシ層12の乾燥膜厚の差は、ポリマーブラシ層12が設けられた一方のシール部材1の乾燥膜厚に相当する。また、ポリマーブラシ層12が第1シール部材及び第2シール部材の両方に設けられる場合、第1シール部材のシール面1aに設けられたポリマーブラシ層12の乾燥膜厚と、第2シール部材のシール面1aに設けられたポリマーブラシ層12の乾燥膜厚との差が100nm以上になるように、各シール部材のシール面1aに設けられたポリマーブラシ層12の乾燥膜厚が調整される。この場合、各シール部材に設けられたポリマーブラシ層12の乾燥膜厚は、第1シール部材に設けられたポリマーブラシ層及び第2シール部材に設けられたポリマーブラシ層のいずれの乾燥膜厚が厚くもよい。尚、ポリマーブラシ層12の乾燥膜厚の測定は、偏光解析法(ellipsometry)により測定することができる。具体的な測定方法は、後述する実施例にて説明する。
【0035】
以下、図1に示すような基材表面11A上に直接ポリマーブラシ層12を形成する場合を例に、ポリマーブラシ層12の形成方法を説明する。
【0036】
ポリマーブラシ層12は、例えば、表面開始リビングラジカル重合法により形成することができる。表面開始リビングラジカル重合法は、(I)高分子グラフト鎖121の起点となる基材表面11Aに、重合開始基を導入し、(II)該重合開始基を始点として、表面開始リビングラジカル重合法を行うことで、高分子グラフト鎖121を形成する手法である。具体的には、このような表面開始リビングラジカル重合法としては、Arita, T., Kayama, Y., Ohno, K., Tsujii, Y. and Fukuda, T., “High-pressure atom transfer radical polymerization of methyl methacrylate for well- defined ultrahigh molecular-weight polymers,” Polymer, 49, 2008, 2426-2429(以下、非文献Pとする)や、特開2009-59659号公報(以下、文献Qとする)、特開2010-218984号公報(以下、文献Rとする)、特開2014-169787号公報(以下、文献Sとする)等に記載された方法などを適用することができる。
【0037】
(I)シール面に対応する基材表面への重合開始基の固定
基材表面11Aに重合開始基を導入する方法としては、特に限定されないが、重合開始剤を溶剤に溶解あるいは分散させることで、重合開始剤溶液を調製し、調製した重合開始剤溶液中に基材11を浸漬する方法などが挙げられる。
【0038】
重合開始剤としては、特に限定されないが、基材11上に結合可能な基と、ラジカル発生基とを有する化合物が好ましく、例えば、文献P、文献R及び文献Sなどに開示されている重合開始剤を広く用いることができる。これらの中でも、重合開始剤としては、原子移動ラジカル重合(ATRP:Atom Transfer Radical Polymerization)系の重合開始剤が好ましく、(3-トリメトキシシリル)プロピル-2-ブロモ-2-メチルプロピオネートがより好ましい。
【0039】
尚、必要に応じて、重合開始基の導入に先立ち、基材表面11Aを洗浄することが望ましい。基材表面11Aの洗浄は、基材11の材質及び形状などに応じて、公知の方法により行うことができる。
【0040】
(II)表面開始リビングラジカル重合による高分子グラフト鎖の合成
重合開始基を導入した基材表面11Aに高分子グラフト鎖を形成する方法は、特に限定されないが、まず、所定のモノマーや各種低分子遊離開始剤(ラジカル開始剤)等の重合反応に必要な各種成分を、溶剤に溶解又は分散させることで重合反応溶液を調製する。次に、調製した重合反応溶液に、予め重合開始基を導入しておいた基材11を浸漬させた後、必要に応じて加圧、加熱することで、基材表面11Aに、重合単位として所定のモノマーを含有する高分子グラフト鎖121を形成することができる。
【0041】
重合反応溶液の調製方法は、特に限定されないが、例えば文献P及び文献S等に記載の方法を好適に用いることができ、これらの文献に記載のモノマーや低分子遊離開始剤等を広く用いることができる。これらの中でも、文献Pに記載の方法により重合反応溶液を調製することが好ましく、モノマーとしては、メタクリル酸メチル(以下、「MMA」ともいう)が好ましい。また、低分子遊離開始剤としてはエチル-2-ブロモ-2-メチルプロピオネートを用いることが好ましい。
【0042】
表面開始リビングラジカル重合の反応条件は、特に限定されないが、例えば文献Pや文献Sの条件等で行うことができる。これらの中でも、文献Pに記載の方法により重合反応を行うことが好ましく、特に加圧(例えば、400MPa以上500MPa以下程度)、加熱(例えば、50℃以上60℃以下程度)した条件下で行うことが好ましい。加圧して重合反応を行うことにより、より濃厚な(高分子グラフト鎖121のグラフト密度が高く)、且つより高膜厚な(平均分子鎖長さが長い)ポリマーブラシ層12を形成することができる。
【0043】
基材11上に形成する高分子グラフト鎖121は、基材表面11Aの面積に対する表面占有率σ*(ポリマー断面積あたりの占有率)で10%以上となることが好ましく、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上である。表面占有率σ*は、ポリマーの伸びきり形態における繰り返し単位長さとポリマーのバルク密度よりポリマー断面積を求め、グラフト密度を掛けて算出することができる。より具体的には、表面占有率σ*は、下記式により求めることができる。すなわち、表面占有率σ*は、基材表面11Aをグラフト点(1つ目のモノマー)が占める面積割合を意味する(最密充填で100%、100%を超えてグラフト化はできない)。
【0044】
σ*=(ポリマー断面積)×グラフト密度σ
(ポリマー断面積=(グラフト鎖部分のモノマー1個当たりの体積)/(ポリマーの伸びきり形態における繰り返し単位の長さ)
グラフト鎖部分のモノマー1個当たりの体積=[{(グラフト鎖部分のモノマーの分子量)/(アボガドロ数)}/(ポリマーのバルク密度)])。
【0045】
グラフト密度σはnm当たりに存在する高分子グラフト鎖121の数(chain/nm)を表す。具体的には、グラフト密度σは、グラフト鎖の数平均分子量(Mn)の絶対値、グラフトされたポリマー量(ポリマーブラシ層12の乾燥膜厚)及び基材11の表面積から算出することができる。特に、0.1chain/nm以上のグラフト密度σを有するポリマーブラシは濃厚ポリマーブラシとして定義される。尚、表面占有率σ*が100%(最密充填)である場合、理論上のグラフト密度σの上限は、PMMAであれば1.79(chain/nm)となる。
【0046】
ポリマーブラシ層12を構成する高分子グラフト鎖121の平均分子鎖長さL(すなわち、ポリマーブラシ長)は、好ましくは0nm以上10000nm以下であり、実用的な観点より、100nm以上2000nm以下の範囲であることがより好ましい。高分子グラフト鎖121の平均分子鎖長さLが短すぎると、密封性が低下する傾向にある。また、高分子グラフト鎖121の平均分子鎖長さLは、例えば、重合条件等により調整することができる。
【0047】
高分子グラフト鎖121の平均分子鎖長さLは、例えば、高分子グラフト鎖121の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定し、これらの測定結果から求めることができる。また、高分子グラフト鎖121の数平均分子量(Mn)、及び分子量分布(Mw/Mn)は、例えば、フッ化水素酸処理により基材11から高分子グラフト鎖121を切り出し、切り出した高分子グラフト鎖121を用いてゲルパーミエーションクロマトグラフ法により測定する方法が挙げられる。あるいは、重合時に生成する遊離ポリマーが基材11に導入された高分子グラフト鎖121と等しい分子量を有することが知られており、該遊離ポリマーについてゲルパーミエーションクロマトグラフ法により、数平均分子量(Mn)、及び分子量分布(Mw/Mn)を測定し、これをそのまま用いる方法を採用してもよい。シール面1aを形成するポリマーブラシ層12における高分子グラフト鎖121の分子量分布(Mw/Mn)は、1.6以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。
【0048】
<液体物質>
ポリマーブラシ層12は、基材11上に形成された高分子グラフト鎖121を液体物質で膨潤されていることが好ましい。高分子グラフト鎖121を膨潤させる液体物質としては、高分子グラフト鎖121に対して膨潤性を示す化合物であればよく、特に限定はされるものではないが、高分子グラフト鎖121との親和性が高いという観点により、イオン液体が好ましい。このようなイオン液体としては、例えば、文献Sに記載の化合物等を用いることができる。これらの中でも、イオン液体としては、N,N-ジエチル-N-メチル-(2-メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、「DEME-TFSI」ともいう。)及びメトキシエチルメチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、「MEMP-TFSI」ともいう)が好ましい。
【0049】
基材11上に形成された高分子グラフト鎖121を液体物質で膨潤させる方法としては、特に限定されないが、例えば、基材11上に形成された高分子グラフト鎖121に液体物質を塗布して、その後、静置する方法や、高分子グラフト鎖121を形成した基材11を液体物質中に浸漬させる方法等が挙げられる。
【0050】
<シリカコート層>
本実施形態に係るシール部材1において、基材11とポリマーブラシ層12との間にシリカコート層が設けられていてもよい。シリカコート層は、例えば、基材表面11Aに対してアルコキシシランを用いたゾル-ゲル法によるシリカコーティング処理により設けることができる。アルコキシシランを用いたゾル-ゲル法によるシリカコーティング処理の種類・条件としては、シリカコート層を設けることができれば特に制限はない。アルコキシシランを用いたゾル-ゲル法によるシリカコーティング処理としては、例えば、テトラアルコキシシラン等のアルコキシシラン及び所定濃度のアンモニア水等のアルカリ水溶液を溶媒に溶解又は分散させて反応溶液を調製し、調製した反応溶液中に基材11を浸漬する方法などが挙げられる。アルコキシシランを用いたゾル-ゲル法によるシリカコーティング処理では、アルコキシシランは加水分解等によりシリカ(SiO)に変換する。尚、ポリマーブラシ層12は、基材11上に設ける場合と同様にしてシリカコート層上に設けることができる。
【0051】
また、必要に応じて、シリカコート層が設けられる前に、上述したポリマーブラシ層12を設ける際と同様に、基材表面11Aが洗浄されていることが望ましい。基材表面11Aの洗浄は、基材11の材質及び形状などに応じて、公知の方法により行うことができる。
【0052】
<密封装置の用途>
本実施形態に係る密封装置は、第1シール部材及び第2シール部材のシール面1aの少なくとも一方にポリマーブラシ層12が設けられることにより、シール面1aに対応する基材表面11A及び被シール面の表面性状の影響を受けず、シール面1aにおいて優れた密封性が得られる。このような密封装置は、シール面1aにおいて高い密封性が要求される各種密封装置に好適に用いることができ、特にメカニカルシールとして好適である。
【0053】
密封装置がメカニカルシールである場合、第1シール部材及び第2シール部材は、メイティングリング及びシールリングから構成されている。第1シール部材及び第2シール部材は、メイティングリング及びシールリングのいずれであってもよい。すなわち、メイティングリング及びシールリングの少なくとも一方のシール面に所定の乾燥膜厚のポリマーブラシ層が設けられていればよく、メイティングリング及びシールリングの両方のシール面に所定の乾燥膜厚のポリマーブラシ層がそれぞれ設けられていてもよい。メイティングリング及びシールリングの基材としては、耐摩耗性及び耐熱性などの観点から、アルミナや炭化ケイ素等の硬質セラミックスのような硬質材が好ましい。このようなメカニカルシールは、シール面において優れた密封持続性を発揮できる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例
【0055】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
まず、材質が炭化ケイ素である基材を用いて、メカニカルシールのメイティングリング及びシールリングをそれぞれ作製した。さらに、シールリングの基材表面に対し、以下の方法でポリマーブラシ層の形成処理を施し、シール面にポリマーブラシ層が設けられたシール部材(シールリング)を作製した。一方、メイティングリングについては、ポリマーブラシ層が形成されていない基材をシール部材として使用した。
【0057】
<シール面に対応する基材表面への重合開始基の固定>
まず、基材をアセトン及びヘキサンの混合溶媒(アセトンとヘキサンとが質量比で1:1)で30分間、次いでクロロホルムで30分間、次いで2-プロパノールで30分間、それぞれ超音波洗浄し、UVオゾンクリーナー(メイワフォーシス社製「PC440」)で30分処理した。
【0058】
次いで、蓋付きサンプル容器に、(3-トリメトキシシリル)プロピル-2-ブロモ-2-メチルプロピオネート0.5質量部と、エタノール22.3質量部との混合溶液Aを調製した。別のサンプル容器に28質量%アンモニア水5.7質量部と、エタノール25.4質量部との混合溶液Bとを調製した。混合用液A及びBを混合して混合溶液Cを調製した。
【0059】
次に、この混合溶液Cに、上記洗浄処理を施した基材を浸漬させ、室温で24時間静置し、シランカップリング反応に供した。その後、上記反応溶液から基材を取り出し、エタノールで超音波洗浄した後、乾燥させて、基材表面に重合開始基を固定化した基材を得た。
【0060】
<表面開始原子移動ラジカル重合による高分子グラフト鎖の合成>
不活性ガス(アルゴンガス)置換されたグローブボックス内のテフロン(登録商標)製耐圧容器中で、モノマーとしてメタクリル酸メチル(ナカライテスク社製)26.6質量部と、低分子遊離開始剤としてエチル-2-ブロモ-2-メチルプロピオネート(東京化成工業社製)0.00026質量部と、臭化銅(I)(和光純薬工業社製)0.12質量部と、臭化銅(II)(和光純薬工業社製)0.021質量部と、4,4’-ジノニル-2,2’-ビピリジル(和光純薬工業社製)0.78質量部と、アニソール(和光純薬工業社製)27.5質量部とを混合して重合反応溶液を調製した。
【0061】
次に、この重合反応溶液に、上記重合開始基を固定化した基材を浸漬させ、耐熱容器の蓋をした。そして、60℃、400MPaの条件で4時間、表面開始原子移動ラジカル重合(SI-ATRP)を行った。反応終了後に、上記反応溶液から基材を取り出し、テトラヒドロフラン(以下THF、ナカライテスク社製)で超音波洗浄し、乾燥させて、反応によって高分子グラフト鎖を基材表面に導入した。
【0062】
<イオン液体による膨潤>
さらに、上記のように基材表面に高分子グラフト鎖が導入されたシールリングのシール面に、イオン液体としてのメトキシエチルメチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(MEMP-TFSI:日清紡ホールディングス社製)を塗布し、15時間浸漬させ、高分子グラフト鎖を該イオン液体で膨潤させて、シール面に乾燥膜厚が693nmのポリマーブラシ層が設けられたシールリングを作製した。
【0063】
(実施例2)
材質が炭化ケイ素である基材を用いて、メカニカルシールのメイティングリング及びシールリングをそれぞれ作製した。さらに、これらの基材表面に対し、実施例1と同様の方法でポリマーブラシ層の形成処理をそれぞれ施し、ポリマーブラシ層の乾燥膜厚が480nm、825nmになるようにメイティングリング及びシールリングをそれぞれ作製した。
【0064】
(実施例3)
材質が炭化ケイ素である基材を用いて、メカニカルシールのメイティングリング及びシールリングをそれぞれ作製した。さらに、メイティングリングの基材表面に対し、実施例1と同様の方法でポリマーブラシ層の形成処理を施し、ポリマーブラシ層の乾燥膜厚が789nmになるようにメイティングリングを作製した。一方、シールリングについては、ポリマーブラシ層が形成されていない基材をシール部材として使用した。
【0065】
(実施例4)
材質が炭化ケイ素である基材を用いて、メカニカルシールのメイティングリング及びシールリングをそれぞれ作製した。さらに、これらの基材表面に対し、実施例1と同様の方法でポリマーブラシ層の形成処理をそれぞれ施し、ポリマーブラシ層の乾燥膜厚が789nm、1285nmになるようにメイティングリング及びシールリングをそれぞれ作製した。
【0066】
(実施例5)
材質が炭化ケイ素である基材を用いて、メカニカルシールのメイティングリング及びシールリングをそれぞれ作製した。さらに、これらの基材表面に対し、実施例1と同様の方法でポリマーブラシ層の形成処理をそれぞれ施し、ポリマーブラシ層の乾燥膜厚が945nm、837nmになるようにメイティングリング及びシールリングをそれぞれ作製した。
【0067】
(実施例6)
材質が炭化ケイ素である基材を用いて、メカニカルシールのメイティングリング及びシールリングをそれぞれ作製した。さらに、これらの基材表面に対し、実施例1と同様の方法でポリマーブラシ層の形成処理をそれぞれ施し、ポリマーブラシ層の乾燥膜厚が1191nm、837nmになるようにメイティングリング及びシールリングをそれぞれ作製した。
【0068】
(比較例1)
材質が炭化ケイ素である基材を用いて、メカニカルシールのメイティングリング及びシールリングをそれぞれ作製した。一方、メイティングリング及びシールリングのいずれにおいても、ポリマーブラシ層の形成処理を行わなかった。すなわち、メイティングリング及びシールリングとして、ポリマーブラシ層が形成されていない基材をそれぞれシール部材として使用した。
【0069】
(比較例2)
材質が炭化ケイ素である基材を用いて、メカニカルシールのメイティングリング及びシールリングをそれぞれ作製した。さらに、これらの基材表面に対し、実施例1と同様の方法でポリマーブラシ層の形成処理をそれぞれ施し、ポリマーブラシ層の乾燥膜厚が822nm、825nmになるようにメイティングリング及びシールリングをそれぞれ作製した。
【0070】
(比較例3)
材質が炭化ケイ素である基材を用いて、メカニカルシールのメイティングリング及びシールリングをそれぞれ作製した。さらに、これらの基材表面に対し、実施例1と同様の方法でポリマーブラシ層の形成処理をそれぞれ施し、ポリマーブラシ層の乾燥膜厚が945nm、872nmになるようにメイティングリング及びシールリングをそれぞれ作製した。
【0071】
<測定及び評価>
上記実施例及び比較例に係るシール部材(メイティングリング及びシールリング)について、各種測定及び特性評価を行った。測定・評価条件は下記の通りである。
【0072】
[分子量分布の測定]
SI-ATRP終了後、各実施例及び比較例で用いた各重合溶液からサンプルを適量採取し、各重合溶液のH-NMR測定とゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)から、以下の操作により分子量分布(以下、「Mw/Mn」ともいう)を算出した。
【0073】
H-NMR測定では、フーリエ変換核磁気共鳴装置FT-NMR(JEOL RESONANCE社製「JNM-ECA600」)を用い、重溶媒として、重クロロホルム(和光純薬工業社製)を用いた。また、ゲル浸透クロマトグラフィー測定では、分子量測定装置(昭和電工社製「Shodex GPC-101」(カラム(昭和電工社製「Shodex KF-806L」)を2本直列に接続)を用い、溶離液として、テトラヒドロフランを用いた。測定は40℃で行い、流量は、0.8ml/minとした。そして、上記分子量測定装置付属のRI検出器により得られた測定結果より、キャリブレーション試料を遊離ポリメタクリル酸メチル(VARIAN社製)とし、ポリメタクリル酸メチル換算の検量線を用いて分子量分布(Mw/Mn)を算出した。結果を表1に示す。
【0074】
[乾燥膜厚及びグラフト密度の測定]
偏光解析法(ellipsometry)により、各実施例及び比較例で作製した各シール部材のシール面に設けられたPMMAのポリマーブラシ層の乾燥膜厚を分析した。乾燥膜厚の測定では、分光エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン社製「M-2000U」)を用い、光源には重水素(Deuterium)及び石英タングステンハロゲン(Quartz Tungsten Halogen:QTH)ランプを用いた。得られたデータを分析し、乾燥膜厚(nm)及びグラフト密度(以下σ(chain/nm))を算出した。結果を表1に示す。
【0075】
[乾燥膜厚の差]
上記で得られた各シール部材のポリマーブラシ層が有する乾燥膜厚に基づき、乾燥膜厚の差の絶対値を算出した。尚、メイティングリング及びシールリングのいずれか一方のシール面にポリマーブラシ層が設けられている場合、いずれかのシール面に設けられたポリマーブラシ層の乾燥膜厚を乾燥膜厚の差とみなして算出した。結果を表1に示す。
【0076】
[シール性評価]
各実施例及び比較例で作製したメイティングリング及びシールリングを、25Nの接触荷重となるように組み付けてメカニカルシールを作製した。その際、メイティングリングのシール面とシールリングのシール面とがそれぞれ密封面(摺動面)になるように各シール部材をシールした。シール外周部にイオン液体としてMEMP-TFSIを充填し、シール内周部を差圧が0.1MPaになるまで真空引きした。この段階でイオン液体の液量が減少していないことを確認して、メイティングリングを100rpmで回転させた。シール外周部からシール内周部に流出したイオン液体を確認した場合に、漏れが発生していると評価し、漏れが発生するまでの時間(密封時間)を測定した。1000時間以上漏れの発生が観察されずに密封状態が維持された場合を「◎」、400時間以上1000時間未満漏れの発生が観察されずに密封状態が維持された場合を「〇」、400時間未満で漏れの発生が観察された場合を「×」と評価した。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
実施例1~6では、メカニカルシールを構成するメイティングリング及びシールリングの少なくとも一方のシール面に100nm以上の乾燥膜厚を有するポリマーブラシポリマーブラシ層が設けられている。具体的には、実施例1、3では、メイティングリング及びシールリングのいずれか一方のシール面に100nm以上の乾燥膜厚を有するポリマーブラシ層が設けられ、一方で、実施例2、4~6では、メイティングリング及びシールリングの両方のシール面にポリマーブラシ層が設けられ、各ポリマーブラシ層の乾燥膜厚の差が100nm以上である。このようなメカニカルシールでは、シール性評価において密封時間がいずれも400時間以上を達成しており、密封持続性に優れていた。特に、実施例3~6では、1000時間以上漏れの発生が確認されず、シール性評価が「◎」であった。
【0079】
一方、比較例1では、メカニカルシールを構成するメイティングリング及びシールリングのいずれのシール面にもポリマーブラシポリマーブラシ層が設けられていない。このようなメカニカルシールでは、メイティングリングのシール面とびシールリングのシール面との摺動面には微小な隙間が生じ、その隙間からイオン液体がシール内周部に流出したと推測される。そのため、シール性評価において密封時間が0時間で漏れが観察され、密封持続性を示さなかった。
【0080】
また、比較例2、3では、メカニカルシールを構成するメイティングリング及びシールリングの両方のシール面にポリマーブラシポリマーブラシ層がそれぞれ設けられているものの、各ポリマーブラシ層の乾燥膜厚の差はそれぞれ100nm未満である。このようなメカニカルシールでは、シール性評価において400時間未満で漏れの発生が観察され、密封持続性に劣っていた。
【符号の説明】
【0081】
1 シール部材
1a シール面
1A シール部材の表面
11 基材
11A 基材表面
12 ポリマーブラシ層
12A 表面
121 高分子グラフト鎖
図1