(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】扇、扇絵図の変換装置、扇絵図の変換方法および扇絵部材
(51)【国際特許分類】
A45B 27/00 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
A45B27/00 C
(21)【出願番号】P 2020149060
(22)【出願日】2020-09-04
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】523331865
【氏名又は名称】株式会社スペースシーファイブ
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】萩原 一郎
(72)【発明者】
【氏名】山崎 桂子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 富士子
【審査官】高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-085165(JP,A)
【文献】特開2002-112819(JP,A)
【文献】特開2019-054901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸により構成された要部と、
前記要部が一端部を貫通し且つ前記要部を中心として回転可能な複数の骨部と、
扇形に形成されて前記骨部に支持され、表面に絵図が付与可能な扇絵部と、
を備え、
前記扇絵部が展開した状態において前記要部の位置が前記扇形の扇の中心と扇の外辺との間にある場合には、前記扇形の外辺を基準として前記扇形の扇の中心側の方に近づくにつれて周方向に圧縮されるように、絵図の元となる元図を変換した変換図を、前記扇絵部に付与した
ことを特徴とする扇。
【請求項2】
前記扇絵部の扇形における周方向の中央部の扇片において、前記扇形の中心と前記要部との距離の差をCとし、扇片の周方向をx軸とし、扇片の径方向をy軸とし、外辺のy座標をHとし、y軸方向の任意の位置における絵図のx軸方向の圧縮率をr1とした場合に、
r1={H(y-C)}/{y(H-C)}
に基づいて元図から前記変換図に変換された
ことを特徴とする
請求項1に記載の扇。
【請求項3】
回転軸により構成された要部と、
前記要部が一端部を貫通し且つ前記要部を中心として回転可能な複数の骨部と、
扇形に形成されて前記骨部に支持され、表面に絵図が付与可能な扇絵部と、
を備え、
前記扇絵部が展開した状態において前記要部の位置が前記扇形の扇の中心を挟んで扇の外辺の反対側にある場合には、前記扇形の内辺を基準として前記扇形の扇の外辺側の方に近づくにつれて周方向に圧縮されるように、絵図の元となる元図を変換した変換図を、前記扇絵部に付与した
ことを特徴とする扇。
【請求項4】
前記扇絵部の扇形における周方向の中央部の扇片において、前記扇形の中心と前記要部との距離の差をCとし、扇片の周方向をx軸とし、扇片の径方向をy軸とし、外辺のy座標をHとし、内辺と外辺とのy軸方向の距離をBとし、y軸方向の任意の位置における絵図のx軸方向の圧縮率をr2とした場合に、
r2={(H―B)(y-C)}/{y(H-B-C)}
に基づいて元図から前記変換図に変換された
ことを特徴とする
請求項3に記載の扇。
【請求項5】
扇形の扇絵部が展開した状態において、扇の要部の位置が前記扇形の扇の中心と扇の外辺との間にある場合には、前記扇形の外辺を基準として前記扇形の扇の中心側の方に近づくにつれて周方向に圧縮されるように、前記扇絵部に付与される絵図の元となる元図を
変換し、前記扇絵部が展開した状態において前記要部の位置が前記扇形の扇の中心を挟んで扇の外辺の反対側にある場合には、前記扇形の内辺を基準として前記扇形の扇の外辺側の方に近づくにつれて周方向に圧縮されるように、前記元図を変換する変換手段、
を備えたことを特徴とする扇絵図の変換装置。
【請求項6】
扇形の扇絵部が展開した状態において、扇の要部の位置が前記扇形の扇の中心と扇の外辺との間にある場合には、前記扇形の外辺を基準として前記扇形の扇の中心側の方に近づくにつれて周方向に圧縮されるように、前記扇絵部に付与される絵図の元となる元図を
変換し、前記扇絵部が展開した状態において前記要部の位置が前記扇形の扇の中心を挟んで扇の外辺の反対側にある場合には、前記扇形の内辺を基準として前記扇形の扇の外辺側の方に近づくにつれて周方向に圧縮されるように、前記元図を変換することを特徴とする扇絵図の変換方法。
【請求項7】
扇形状に形成されて扇の骨部に支持される
と共に表面に絵図が付与された扇絵部材であって、
扇状の扇絵部が展開した状態において、扇の要部の位置が前記扇形の扇の中心と扇の外辺との間にある場合には、前記扇形の外辺を基準として前記扇形の扇の中心側の方に近づくにつれて周方向に圧縮されるように、前記扇絵部に付与される絵図の元となる元図
が変換され、前記扇絵部が展開した状態において前記要部の位置が前記扇形の扇の中心を挟んで扇の外辺の反対側にある場合には、前記扇形の内辺を基準として前記扇形の扇の外辺側の方に近づくにつれて周方向に圧縮されるように、前記元図が変換されたことを特徴とする扇絵部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、展開または収納可能な扇や、扇に描かれる扇絵図の変換装置、扇絵図の変換方法、および、変換された扇絵図が付与された扇絵部材に関する。
【背景技術】
【0002】
日本独自の扇としては、和紙と竹骨を使って折り畳み仕立てられたものが知られており、1000年以上の歴史がある。扇には、絵図が付与されたものがあり、工芸品だけでなく美術品としての価値もある。中でも、俵屋宗達、葛飾北斎、歌川国貞ら江戸時代に華々しく活躍した絵師の手がけた扇が世界に数多く遺されている。このような絵師らによって手がけられた扇は、保存のために骨を外された和紙(扇絵部分)のみで展示、保存されているものも多い。扇から骨を外し表装する際には扇絵の傷んでいる部分が切り落とされることが多く、また、場合によっては折り目の位置や数及び扇骨の数や長さ等の情報も失われる。
扇絵に関する研究として、扇型状の扇絵を矩形状の絵図に変換する技術(非特許文献1)が公知である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】"面出和子","扇絵の空間表現の歪みについて",図学研究,41巻,2号(2007),pp.3-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載の技術は、扇形の扇絵を矩形状の絵図に変換しているが、2次元から2次元の変換であるため、扇絵で直線状の柱や建物の縁等が不自然であっても、矩形に変換しても不自然さは解消されない。
【0005】
実際には、扇絵は、「扇」が開いて凹凸がある状態で鑑賞される。よって、扇絵の構図は、3次元の「扇」の凹凸を考慮したうえで、骨と一体化した立体造形として扇に仕立てられたときに効果を発揮する構図で描画される必要がある。過去の扇絵も、表装された扇(骨が取り外された平面状の扇絵部分)として鑑賞される前提ではなく、扇を立体的に再現することで初めて本来絵師の意図した構図で鑑賞することが可能となる。
【0006】
したがって、写真や絵画等の元図のそのままを、凹凸のない扇形の扇絵部分に転写した後、骨を取り付けると、3次元の扇の状態では元図が歪んでしまい、意図した構図(元図の状態)で鑑賞することはできない。したがって、扇絵には、扇になる際の凹凸を考慮した図面が描かれる必要がある。
非特許文献1に記載の技術では、骨が取り外された扇絵(2次元の扇絵)を矩形(2次元)の絵図に変換しているだけであり、扇となった状態(3次元)で見える絵図に対して何ら寄与するものではない。
【0007】
本発明は、3次元の扇の状態において歪みが抑制された絵図を鑑賞可能にすることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の扇は、
回転軸により構成された要部と、
前記要部が一端部を貫通し且つ前記要部を中心として回転可能な複数の骨部と、
扇形に形成されて前記骨部に支持され、表面に絵図が付与可能な扇絵部と、
を備え、
前記扇絵部が展開した状態において前記要部の位置が前記扇形の扇の中心と扇の外辺との間にある場合には、前記扇形の外辺を基準として前記扇形の扇の中心側の方に近づくにつれて周方向に圧縮されるように、絵図の元となる元図を変換した変換図を、前記扇絵部に付与した
ことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の扇において、
前記扇絵部の扇形における周方向の中央部の扇片において、前記扇形の中心と前記要部との距離の差をCとし、扇片の周方向をx軸とし、扇片の径方向をy軸とし、外辺のy座標をHとし、y軸方向の任意の位置における絵図のx軸方向の圧縮率をr1とした場合に、
r1={H(y-C)}/{y(H-C)}
に基づいて元図から前記変換図に変換された
ことを特徴とする。
【0011】
前記技術的課題を解決するために、請求項3に記載の発明の扇は、
回転軸により構成された要部と、
前記要部が一端部を貫通し且つ前記要部を中心として回転可能な複数の骨部と、
扇形に形成されて前記骨部に支持され、表面に絵図が付与可能な扇絵部と、
を備え、
前記扇絵部が展開した状態において前記要部の位置が前記扇形の扇の中心を挟んで扇の外辺の反対側にある場合には、前記扇形の内辺を基準として前記扇形の扇の外辺側の方に近づくにつれて周方向に圧縮されるように、絵図の元となる元図を変換した変換図を、前記扇絵部に付与した
ことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の扇において、
前記扇絵部の扇形における周方向の中央部の扇片において、前記扇形の中心と前記要部との距離の差をCとし、扇片の周方向をx軸とし、扇片の径方向をy軸とし、外辺のy座標をHとし、内辺と外辺とのy軸方向の距離をBとし、y軸方向の任意の位置における絵図のx軸方向の圧縮率をr2とした場合に、
r2={(H―B)(y-C)}/{y(H-B-C)}
に基づいて元図から前記変換図に変換された
ことを特徴とする。
【0013】
前記技術的課題を解決するために、請求項5に記載の発明の扇絵図の変換装置は、
扇形の扇絵部が展開した状態において、扇の要部の位置が前記扇形の扇の中心と扇の外辺との間にある場合には、前記扇形の外辺を基準として前記扇形の扇の中心側の方に近づくにつれて周方向に圧縮されるように、前記扇絵部に付与される絵図の元となる元図を変換し、前記扇絵部が展開した状態において前記要部の位置が前記扇形の扇の中心を挟んで扇の外辺の反対側にある場合には、前記扇形の内辺を基準として前記扇形の扇の外辺側の方に近づくにつれて周方向に圧縮されるように、前記元図を変換する変換手段、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
前記技術的課題を解決するために、請求項6に記載の発明の扇絵図の変換方法は、
扇形の扇絵部が展開した状態において、扇の要部の位置が前記扇形の扇の中心と扇の外辺との間にある場合には、前記扇形の外辺を基準として前記扇形の扇の中心側の方に近づくにつれて周方向に圧縮されるように、前記扇絵部に付与される絵図の元となる元図を変換し、前記扇絵部が展開した状態において前記要部の位置が前記扇形の扇の中心を挟んで扇の外辺の反対側にある場合には、前記扇形の内辺を基準として前記扇形の扇の外辺側の方に近づくにつれて周方向に圧縮されるように、前記元図を変換することを特徴とする。
【0015】
前記技術的課題を解決するために、請求項7に記載の発明の扇絵部材は、
扇形状に形成されて扇の骨部に支持されると共に表面に絵図が付与された扇絵部材であって、扇状の扇絵部が展開した状態において、扇の要部の位置が前記扇形の扇の中心と扇の外辺との間にある場合には、前記扇形の外辺を基準として前記扇形の扇の中心側の方に近づくにつれて周方向に圧縮されるように、前記扇絵部に付与される絵図の元となる元図が変換され、前記扇絵部が展開した状態において前記要部の位置が前記扇形の扇の中心を挟んで扇の外辺の反対側にある場合には、前記扇形の内辺を基準として前記扇形の扇の外辺側の方に近づくにつれて周方向に圧縮されるように、前記元図が変換されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1,3,5~7に記載の発明によれば、3次元の扇の状態において歪みが抑制された絵図を鑑賞可能にすることができる。
請求項1,5~7に記載の発明によれば、要部が扇形の中心と扇形の外辺との間にある場合に扇形の外辺を基準としない場合に比べて、歪みの少ない絵図を得ることができる。
請求項2に記載の発明によれば、圧縮率r1に基づいて歪みの少ない絵図を得ることができる。
請求項3,5~7に記載の発明によれば、要部が扇形の中心を挟んで扇形の外辺の反対側にある場合に扇形の内辺を基準としない場合に比べて、歪みの少ない絵図を得ることができる。
請求項4に記載の発明によれば、圧縮率r2に基づいて歪みの少ない絵図を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は本発明の扇絵図の変換装置の一例としての情報処理装置の説明図である。
【
図3】
図3は実施例1の扇絵図の変換装置の制御部の説明図である。
【
図4】
図4は実施例1の扇絵図の変換装置において表示される入力画像の一例の説明図である。
【
図5】
図5は実施例1の要部と扇形の中心との差の導出方法の説明図であり、
図5Aは骨部の長さが扇絵部の外辺までの径よりも短い場合の説明図、
図5Bは骨部の長さが扇絵部の外辺までの径よりも長い場合の説明図である。
【
図6】
図6は変換式の説明における扇絵部の説明図である。
【
図7】
図7は変換式の説明における骨部が取り付けられた後の扇絵部の説明図である。
【
図8】
図8は中央部のセクションの説明図であり、
図8AはC>0の場合の説明図、
図8BはC<0の場合の説明図である。
【
図9】
図9は各セクションの説明図であり、
図9Aは回転前の状態の説明図、
図9Bは回転後の状態の説明図、
図9Cは扇上の回転後の点Qの座標を回転前点P′から導出する説明図である。
【
図10】
図10は
図9Bと同じく折りたたみ後の各セクションにおいて扇面の角度θと扇の開く角度βとの関係の説明図であり、
図10AはC>0の場合の説明図、
図10BはC<0の場合の説明図である。
【
図11】
図11は実施例1の中央以外のセクションの変換の工程の説明図であり、
図11Aは回転前の状態の説明図、
図11Bは中央位置に変換した状態の説明図、
図11Cは圧縮率を適用して変換した状態の説明図、
図11Dはセクションを角θだけ回転させた状態の説明図、
図11Dは中央位置から元の位置に回転(逆回転)させた状態の説明図である。
【
図12】
図12は骨部の長さが異なる場合の扇の説明図であり、Cが+60から-60までの9種類の場合の説明図である。
【
図14】
図14は折りあげられた扇絵図とCとの関係の説明図である。
【
図15】
図15は実験例の扇絵部に付与される絵図の一例の説明図である。
【
図16】
図16はCの違いによって付与された絵図が歪む場合の説明図である。
【
図18】
図18はC=60の扇について仰角やセクションの傾き角の違いで絵図が歪む状況の説明図であり、
図18Aは仰角0度かつ傾き角8度の場合の説明図、
図18Bは仰角1度かつ傾き角8度の場合の説明図、
図18Cは仰角1度かつ傾き角20度の場合の説明図である。
【
図19】
図19はC=-60の扇について仰角やセクションの傾き角の違いで絵図が歪む状況の説明図であり、
図19Aは仰角0度かつ傾き角8度の場合の説明図、
図19Bは仰角3度かつ傾き角8度の場合の説明図、
図19Cは仰角3度かつ傾き角20度の場合の説明図である。
【
図22】
図22は扇として最終的に折りあげられた状態で得たい目的の画像の説明図である。
【
図23】
図23は目的の画像を得るために変換をした絵図の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例(以下、実施例と記載する)を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【0019】
(実施例1)
図1は本発明の扇絵図の変換装置の一例としての情報処理装置の説明図である。
図1において、本発明の扇絵図の変換装置の一例としての情報処理装置は、コンピュータ装置1により構成されている。コンピュータ装置1は、コンピュータ本体2と、表示部の一例としてのディスプレイ3と、入力部の一例としてのキーボード4およびマウス5を有する。
【0020】
図2は実施例1の扇の一例の説明図である。
実施例1の扇11は、複数の骨部12を有する。骨部12は、板状に形成されている。骨部12における板の幅と長さは同様に形成されており、厚さは、両端部のもののみ厚く形成されている。複数の骨部12の一端部には、要部13が貫通している。要部13は、回転軸により構成されており、骨部12は、要部13を中心として回転可能(展開、収納可能)に構成されている。
骨部12の長さ方向(長手方向)において要部13よりも外側には、扇絵部14が支持されている。扇絵部14は、展開図が扇形のシートで構成されている。なお、扇絵部14の材料は和紙、紙、布、樹脂等、任意の材料で構成可能である。扇絵部14には、扇形の中心に向けて径方向に沿った山折り線16aと谷折り線16bとが扇形の周方向に沿って交互に形成されている。よって、扇絵部14は、隣り合う山折り線16aと谷折り線16bとで挟まれた扇片の一例としてのセクション16を複数有する。セクション16は、扇形の周方向に沿って1つおきに骨部12に支持されている。したがって、要部13の回転軸方向に沿って見た場合に、骨部12が重なった状態(収納状態)では扇絵部14が折り畳まれ、骨部12がずれた状態(展開状態)では、扇絵部14が展開した状態となる。
【0021】
(実施例1の制御部の説明)
図3は実施例1の扇絵図の変換装置の制御部の説明図である。
制御部の一例としてのコンピュータ本体2は、外部との信号の入出力等を行う入出力インターフェースI/Oを有する。また、コンピュータ本体2は、必要な処理を行うためのプログラムおよび情報等が記憶されたROM:リードオンリーメモリを有する。また、コンピュータ本体2は、必要なデータを一時的に記憶するためのRAM:ランダムアクセスメモリを有する。また、コンピュータ本体2は、ROM等に記憶されたプログラムに応じた処理を行うCPU:中央演算処理装置を有する。よって、コンピュータ本体2は、ROM等に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
【0022】
(コンピュータ本体2の機能)
コンピュータ本体2は、キーボード4やマウス5、その他の図示しないセンサ等の信号出力要素からの入力信号に応じた処理を実行して、ディスプレイ3等の被制御要素に制御信号を出力する機能(処理手段)を有している。
【0023】
図4は実施例1の扇絵図の変換装置において表示される入力画像の一例の説明図である。
実施例1のコンピュータ本体2の入力画像の表示手段C1は、扇絵の変換に必要な入力情報が入力される入力画像21をディスプレイ3に表示する。
図4において、実施例1の入力画像21は、一例として、骨部の本数の入力部22と、骨部の長さの入力部23と、扇絵部の中心角の入力部24と、扇絵部の内辺までの径の入力部25と、扇絵部の外辺までの径の入力部26と、入力完了の入力部27と、入力取り消しの入力部28とを有する。実施例1では、キーボード4やマウス5等の入力部材を使用して、各入力部22~28への入力が行われる。なお、ディスプレイ3が、利用者が指で触れることで入力が可能ないわゆるタッチパネルで構成されている場合は、キーボード等を使用せずに入力することが可能である。また、入力画像21に例示した情報以外の情報、例えば、扇の展開時の中心角等を入力可能とすることも可能である。
【0024】
骨部の情報の取得手段C2は、骨部の本数の入力部22や骨部の長さの入力部23で入力された骨部12の本数N1や骨部12の長さL0を取得する。
扇絵部の情報の取得手段C3は、扇絵部14に関する各入力部24~26で入力された中心角αや、扇絵部14の内辺14aまでの径L1、扇絵部14の外辺14bまでの径L2を取得する。
【0025】
セクションの導出手段C4は、扇片の一例としてのセクション16の大きさを導出する。実施例1のセクションの導出手段C4は、骨部12の本数N1や、扇絵部14の中心角φ、内辺の径L1、外辺の径L2から、セクション16を導出する。セクションの数N2は、両端が必ず骨部12で支持される扇の構造から、骨部12の本数N1に対して、N2=2×N1-1、となる。このセクションの数N2で、扇絵部14全体の中心角φを等分すると、セクション16の1つ当たりの中心角αが導出される。そして、各セクション16の内辺と外辺の径はそれぞれL1,L2となり、各セクション16の径方向の長さは、(L2-L1)となる。
【0026】
図5は実施例1の要部と扇形の中心との差の導出方法の説明図であり、
図5Aは骨部の長さが扇絵部の外辺までの径よりも短い場合の説明図、
図5Bは骨部の長さが扇絵部の外辺までの径よりも長い場合の説明図である。
中心差の導出手段(要部と扇の中心との差の導出手段)C5は、要部13の位置と扇絵部14の中心との差を導出する。ここで、扇11が展開する際に、骨部12の長さL0が扇絵部14の外辺の径L2と必ずしも一致しない。L0<L2の場合、
図5Aに示すように、各骨部12が扇絵部14に固定された状態で扇11を展開しようとしても、最大でも扇絵部14の外辺14bの周長の長さまでしか展開できない。そして、骨部12を最大まで展開した状態では、扇絵部14の外辺14b側は山折り線16aと谷折り線16bで折り畳まれた部分が展ばされてセクション16どうしがほぼ平坦な状態となるが、長さL0と外辺の径L2との差に応じて、扇絵部14の内辺14a側は完全に展開されず、波型(アコーディオン状)になる。このとき、骨部12の長さL0が外辺の径L2に対して短いほど、要部13の位置は、扇絵部14の中心14cに対して、内辺14a側に近づく。
【0027】
逆に、L0>L2の場合、
図5Bに示すように、扇11を展開しようとしても最大でも扇絵部14の内辺14aの周長の長さまでしか展開できない。よって、展開された扇11は内辺14a側がほぼ平坦になるが、外辺14b側はアコーディオン状になる。このとき、骨部12の長さL0が外辺の径L2に対して長いほど、要部13の位置は、扇絵部14の中心14cに対して、内辺14aから遠ざかる。
図5において、実施例1の中心差の導出手段C5は、中心差Cとして、C=L2-L0を演算する。よって、
図5Aの場合は、C>0となり、
図5Bの場合は、C<0となる。
【0028】
圧縮率の導出手段C6は、扇絵部の元図を変換する際に元図を圧縮または伸長する程度である圧縮率rを導出する。
実施例1の圧縮率の導出手段C6は、C>0の場合、すなわち、要部13の方が扇形(扇絵部14)の中心14cよりも扇形の外辺14bに近い場合には、セクション16の周方向をx軸とし、セクション16の径方向をy軸とし、外辺14bのy座標をH(=L2)とし、y軸方向の任意の位置における絵図のx軸方向の圧縮率をr1とした場合に、
r1={H(y-C)}/{y(H-C)}
と圧縮率r1を演算する。
また、実施例1の圧縮率の導出手段C6は、C<0の場合、すなわち、扇形(扇絵部14)の中心14cの方が要部13よりも、扇形の外辺14bに近い場合には、セクション16の周方向をx軸とし、セクション16の径方向をy軸とし、外辺14bのy座標をH(=L2)とし、内辺14aと外辺14bとのy軸方向の距離をB(=L2-L1)とし、y軸方向の任意の位置における絵図のx軸方向の圧縮率をr2とした場合に、
r2={(H―B)(y-C)}/{y(H-B-C)}
と圧縮率r2を演算する。
【0029】
絵図の変換手段C7は、圧縮率の導出手段C6で導出された圧縮率r(r1またはr2)を使用して、絵図(扇絵部の元図)を、扇11(扇絵部14)が展開した状態において、要部13の回転軸方向から見た場合に歪みが抑制された絵図である変換図に変換する。実施例1の絵図の変換手段C7は、C>0の場合には、扇形の外辺14bを基準として、扇形の内辺14a側の方に近づくにつれて元図が周方向に圧縮されるように変換する。また、実施例1の絵図の変換手段C7は、C<0の場合には、扇形の内辺14aを基準として、扇形の外辺14b側の方に近づくにつれて元図が周方向に伸長されるように変換する。
【0030】
(変換式の説明)
〇扇の形状とパラメータの説明
図6は変換式の説明における扇絵部の説明図である。
扇11は、平面図である扇絵(扇絵部)14を等間隔に折り、骨部12を刺して扇11に仕立てる。日本で発展した伝統的な扇11は、扇絵14作成における円弧の原点(中心14c)と、折り上げ後の円弧の中心点である扇11の要部13の中心点は同一ではない。このため、扇11は開いた時には放射状に広がり、上下で収縮率の違う蛇腹構造となる。また、山谷で折り上げられた各面(セクション16)は歪んだ曲面となる。ここでは、一例として、十一本の骨部12の扇11をモデルとし、扇絵14を、
図6のように、山折及び谷折の折線16a,16bごとの二十一からなるセクション16に分け、それぞれのセクション16毎に変換式を求める。
扇11の骨部12の数及び扇絵14の寸法を定めると、前述のφ/N2以外にも、各セクション16それぞれの外辺の長さがわかる場合には、各セクション16の折り線が原点でなす角αが式(1)で示される。
なお、Aは扇11の一つのセクション16の上辺の長さ、Hは扇絵14における扇の高さで、扇絵における円弧の原点0(中心14c)と扇の上辺までの長さ(=L2)である。
【0031】
図7は変換式の説明における骨部が取り付けられた後の扇絵部の説明図である。
一般的に普及している扇11、特に、日本の江戸期の扇11は、扇絵14における円弧の原点(中心14c)と、折り上げ後の円弧の中心点である扇11の要部13の中心点(回転中心)は同一ではない。つまり、
図7に示すとおり、原点0(扇絵部14の中心14c)と要部13の中心点0′の距離Cはゼロではなく、各セクション16は歪んだ曲面となる。
以下では(1)C>0すなわち扇骨(骨部)12が短い扇11に仕立てる場合、各セクション16の上辺は強く引っ張られるものの元の長さを超えて伸びることはないため元の長さのままで変形せず、(2)C<0すなわち扇骨12が長い扇11に仕立てる場合も同様に各セクションの下辺は元の長さのままで変形せず、(1)及び(2)いずれの場合においても各セクション16上の全ての点は、扇11の開く方向に同じ収縮率で圧縮され、折り上げ後も平面状のセクション16上に変換される、と仮定して近似的な扇11の折上げ後の姿を求める。
【0032】
〇(扇の中央面の図形変換式)
図8は中央部のセクションの説明図であり、
図8AはC>0の場合の説明図、
図8BはC<0の場合の説明図である。
まず、扇絵14を扇11に仕立てて開く際に生じる扇絵14の歪みの処理を、扇11の中央面セクション16(16-1)に行う。各セクション16上の全ての点を、扇の開く方向に同じ収縮率で圧縮すると仮定すると、
図8に示すようにセクション16-1上の任意の点P(x,y,z)は原点と要部との距離Cによって点P′(x′,y′,z′)に移動する。
【0033】
C>0の場合は
図8Aに示すように上辺の長さは変化せず、セクション16-1上のすべての点は、扇の要部13の中心点0′を通り扇11の上辺(外辺14b)の両端(±A/2,H,0)を通る二本の直線32,33と扇11の上端をなす直線(外辺14b)及び扇11の下端をなす直線(内辺14a)で囲まれた図形にx軸方向に均等に圧縮される。このx軸方向の圧縮率r1は次の式(2)で表される。
Cは扇絵14における円弧の原点0(中心14c)と要部13の中心点0′との距離(中心差)であり、yはセクション16-1上の任意の点P(x,y,z)のy座標である。
【0034】
C<0の場合は
図8Bに示すように下辺(内辺14a)の長さは変化せず、セクション16-1上のすべての点は、扇11の要部13の中心点0′を通り扇11の下辺(内辺14a)の両端(±A(H-B)/2H,H-B,0)を通る二本の直線34,35と扇11の上端をなす直線(外辺14b)及び扇11の下端をなす直線(内辺14a)で囲まれた図形にx軸方向に均等に圧縮する。このx軸方向の圧縮率r2は次の式(3)で表される。
ここでBは扇面縦寸法、すなわち、B=L2-L1である。
【0035】
従って、セクション16上の任意の点P(x,y,z)が扇の折り上げに伴って移動した点P′(x′,y′,z′)は次の式(4)の通りである。
なお、rはC>0の時はr1、C=0の時1、C<0の時はr2の圧縮率である。
【0036】
図9は各セクションの説明図であり、
図9Aは回転前の状態の説明図、
図9Bは回転後の状態の説明図、
図9Cは扇上の回転後の点Qの座標を回転前点P′から導出する説明図である。
図10は
図9Bと同じく折りたたみ後の各セクションにおいて扇面の角度θと扇の開く角度βとの関係の説明図であり、
図10AはC>0の場合の説明図、
図10BはC<0の場合の説明図である。
次に
図9に示す通り点P′(x′,y′,z′)をy軸周りに角度θ回転し点Q(x″,y″,z″)に移動する。
また
図5に示す通り、折り上げ後の扇11の開く角度β(=(α×L2)/L0)を用いて、それぞれのセクション16のxy平面となす角θが求められる。
図9、
図10から、Cの正負に応じた角度θと角度βとの関係式は次の式(5)となる。
以上の変換により、扇絵14の中央セクションであるセクション16-1上のすべての点は、折り上げ後の扇のセクション16-1上に移動する。
【0037】
○扇の中央面以外の面の図形変換式
図11は実施例1の中央以外のセクションの変換の工程の説明図であり、
図11Aは回転前の状態の説明図、
図11Bは中央位置に変換した状態の説明図、
図11Cは圧縮率を適用して変換した状態の説明図、
図11Dはセクションを角θだけ回転させた状態の説明図、
図11Dは中央位置から元の位置に回転(逆回転)させた状態の説明図である。
扇11の中央面(セクション16-1)以外の面(セクション16-2)については、まず扇絵部14のそれぞれのセクション16-2ごとに全ての点を原点0(中心14c)を中心にxy平面上で回転移動し、折り上げ前の中央面セクション16-1の位置まで移動する。そして、式(4)に示したセクション16に対する変換を行う。その後変換後の点すべてを、扇11の要部13の中心点0′中心にxy平面と平行に回転移動することで、折上げ後の其々のセクション16-2の位置に移動させる。
図11にセクション16-2の扇折上げに伴う扇面上の点の移動を示す。
【0038】
図11において、セクション16-2上のすべての点の扇絵から扇への変換は以下の式(6)から(9)で示される。最初に、セクション16-2上のすべての点Pを原点0(中心14c)を中心としてz軸回り正の方向に角度α回転移動する(
図11A、
図11B、式(6)参照)。次に、扇骨12の要部13の位置0′によって異なる圧縮率rでx軸方向に圧縮する(
図11B、
図11C、式(7)参照)。さらに折り上げに伴い、y軸周りに角度θだけy軸回り負の方向に回転移動させる(
図11C、
図11D、式(8)参照)。そして、点0′(要部13)を中心として角度βだけz軸回り負の方向に回転(逆回転)移動する(
図11D、
図11E、式(9)参照)。
21個のセクション16の中で、セクション1~10、および13~21における変換式は、セクション16-2の変換式において角度α及びθをそれぞれのセクションの該当する角度に置き換えることで得られる。
【0039】
したがって、実施例1の絵図の変換手段C7は、中央のセクション16-1については式(4)、中央以外のセクション16-2については、式(6)~式(9)を使用して、扇絵部14の元図の各座標を変換する。すなわち、扇11として折りあげられた状態で歪みが抑制された絵図を得るには、中央のセクション16-1については、式(4)を使用して元図を変換し、中央以外のセクション16-2については、式(6)~式(9)を使用して元図を変換する。したがって、中央のセクション16-1については、元図上の座標が点P′となり、変換後の絵図が点Pとなる。中央以外のセクション16-2については、元図上の座標が点Qとなり、変換後の絵図が点Pとなる。
なお、図の変換は、図形の角のみを変換したり、図形を微細な画素に分割して画素ごとに変換する等、任意の方法を採用することが可能である。
【0040】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の扇絵図の変換方法では、扇絵部14の中心14cと、扇11の要部13との位置のずれを考慮して、元図が変換される。したがって、変換後の絵図自体は、元図に対して歪んでいるが、変換後の絵図が付与された扇絵部14を折りあげると、扇11として展開すると、元図と同様の絵図を見ることが可能である。よって、凹凸のある扇11の状態において、凹凸のない元図の構図の絵図を鑑賞できる。
特に、実施例1では、C>0の場合と、C<0の場合とで、扇11の展開、収納の状態に合わせて変換する際の基準を変更している。したがって、Cの値に対する場合分けを行わない場合に比べて、適切な変換図を得ることができる。
【0041】
(実験例)
次に、実施例1の効果を確認するシミュレーション結果や実際に扇を作成した結果を説明する。
(実験例1:要部13の位置による扇11の形の変化)
図12は骨部の長さが異なる場合の扇の説明図であり、Cが+60から-60までの9種類の場合の説明図である。
実施例で前述した変換式を、長さが異なる扇骨12で仕立てた九種類の扇11のモデルに適用する。
図12において、扇11の外辺14bから要部13の中心点までの長さを115mmから235mmまで15mm毎に変えて仕立てる。この時、扇絵14作成における円弧の原点(中心14c)と要部13の中心点との距離Cも15mmずつ-60mmから60mmの間で変化する。また、扇面縦寸法(=L2-L1)を扇骨12の長さL0で除した扇面比(=(L2-L1)/L0)はCの大きい順から87%、77%、69%、63%、57%、53%、49%、45%、43%である。なお、変数C以外の変数は、A=20mm、H=175mm、B=100mm、θ=8°のモデルとする。
【0042】
図13は扇絵部を折りあげた後の状態の説明図であり、
図13AはC=60の場合の説明図、
図13BはC=0の場合の説明図、
図13CはC=-60の場合の説明図である。
図14は折りあげられた扇絵図とCとの関係の説明図である。
図13にC=60,0,-60mmの扇11を折り上げ後のモデルを示す。C=60mmでは扇骨12が短く扇面に要部13が近くなり、扇絵部14の下辺(内辺14a)が内側にすぼまって要部13に近い場所で大きく収縮している。C=0mmでは扇絵部14の上辺(外辺14b)と下辺(内辺14a)で収縮率が同じ蛇腹に折り上げられている。C=-60mmでは扇骨12が長く扇面から要部13が離れており、扇11の下辺(内辺14a)が外側に伸び、さらに上辺(外辺14b)が収縮している。
図14に九種類の扇骨12の長さで扇11に仕立てた扇面(扇絵14)を、z軸方向からの視点で重ねて示している。C=0mmの扇11を中心として、Cの値が大きくなってゆくほど扇面下辺(内辺14a)が収縮してゆき、Cの値がマイナスに減ってゆくほど扇面上辺(外辺14b)が収縮してゆく様子がこの図からも確認できる。
【0043】
(実験例2:扇上の図形の変形)
図15は実験例の扇絵部に付与される絵図の一例の説明図である。
図16はCの違いによって付与された絵図が歪む場合の説明図である。
図17は
図16の各絵図に対応する扇を実際に作成したものの写真である。
次に、扇絵部14に描かれた画像が扇11に折り上げられることによってどのように歪み変形するか示す。
図15において、折り上げ前の扇面(扇絵部14)に扇面中心線で線対称となるように同じ大きさの正方形41を三個配置し、扇骨12の長さを実験例1と同様に九種類に変化させて九種類の扇に仕立てる。扇11の各パラメータは実験例1の値と同じ値にする。
デジタル上で扇11を折り上げた画像が、
図16である。Cの値によって、それぞれ上辺(外辺14b)側もしくは下辺(内辺14a)側の収縮が起こり、その収縮に応じて扇絵に描画した正方形41が変形している。
図17に
図16の扇のシミュレーションモデルと同じ寸法で仕立てた実物の扇11を示す。
【0044】
図18はC=60の扇について仰角やセクションの傾き角の違いで絵図が歪む状況の説明図であり、
図18Aは仰角0度かつ傾き角8度の場合の説明図、
図18Bは仰角1度かつ傾き角8度の場合の説明図、
図18Cは仰角1度かつ傾き角20度の場合の説明図である。
図16、
図17において、シミュレーションモデルと実物の扇の形と表面図形を比較すると、おおむね同じような形状となっている。なお、C=60mm及び-60mmの扇11では、扇11の形状及び表面図形に差異が大きい。この違いが生じる原因は、二点考えられる。
一点目は、実際の扇を撮影する際のカメラの角度と、デジタルの扇(シミュレーションモデル)を正面から捉える角度が異なることから生じるものであり、C=60mmのケースでは、
図18A及び
図18Bに示す通り、デジタルの扇の見方の仰角を0度から1度に変更しただけで、扇のセクションごとの上辺と下辺が角ばった見え方になり、より実物の扇の写真と近い見え方に変わる。
【0045】
二点目は、扇骨12を非常に短くした状態又は扇骨12を非常に長くした状態では、実際の紙(扇絵部14)に強い歪みが生じてそのたわむ力が強く生じるために、各セクションの傾きθが物理的に大きくならざるを得ないが、デジタルの扇では各セクション上の全ての点は「扇の開く方向に同じ収縮率で圧縮され、折り上げ後も平面状のセクションとなる」と仮定して近似的な扇の折上げ後の姿を求めたことに起因すると考えられる。
図18B、
図18Cに示すように、デジタルの扇の各セクションの傾きθを8度から20度まで修正すると、デジタル扇上の表面図形及び扇の開く角度が実際の扇の画像と近い画像として表示できる。
【0046】
図19はC=-60の扇について仰角やセクションの傾き角の違いで絵図が歪む状況の説明図であり、
図19Aは仰角0度かつ傾き角8度の場合の説明図、
図19Bは仰角3度かつ傾き角8度の場合の説明図、
図19Cは仰角3度かつ傾き角20度の場合の説明図である。
同様に、C=-60mmのケースでも、デジタルの扇の見方の仰角を3度に変更し、各セクションの傾きθを20度に調節すると、
図19に示すようにデジタル扇と実際の扇でより近い形に修正できることから上述の近似は許容できるものと考えられる。
角度θの修正値は、実物の扇の素材に左右されるが、扇面比に応じて式(5)の角度βを実際の扇と比較して調整して得ることが可能である。
また、実物の扇を正面から見る際には要部付近の骨部の重なった厚みによって扇面は少し傾いている。この角度をデジタル上で再現するために仰角を上記の説明で用いているが、この仰角はデジタル再現する対象の扇の素材及び骨部の厚みを考慮することで求められる。
【0047】
図20は
図18、
図19の角度調整前後の実際の扇の説明図であり、
図20Aは
図18のC=60の場合の説明図、
図20Bは
図19のC=-60の場合の説明図である。
図21は
図18~
図20の角度調整を行ったものを実際の扇に適用したものの説明図である。
上記の二点の角度調整前後のデジタル扇の表面画像を、実際の扇上に重ね合わせ、どの程度画像の形が近いか確かめた画像が
図20である。C=60mm及び-60mmのいずれの場合においても、修正後の画像は実際の扇上の表面画像を良い精度で再現できていることが確認できる。
したがって、実施例1の式(4)~式(9)の変換後に、仰角や傾き角θのいずれかまたは両方の調整を行う構成とすることも可能であり、調整を行う方が好適である。
図18~
図20で説明したものと同様の角度調整を施した九種類のデジタル扇の図形を実物の扇に重ね合わせたものを
図21に示す。九種類すべての扇で表面画像の形及び大きさがデジタルで再現できていることが確認できる。
【0048】
(実験例3:扇上の図形の変形の逆算)
実験例2において、要部13の位置を変化させて扇11に折り上げることによって、平面に描かれた図形が、それぞれ異なる歪みの図形に変化することが確認できたが、実験例3では逆に、扇11に折り上げた際に目的とする図形を表示するための元となる平面画像がどのような形でなければならないかを逆算的に求める。
変数Cごとに折り上げた扇面比のそれぞれ異なる扇で、扇11の正面すなわちz軸方向から見て同じ大きさの正方形41が扇面中心線で線対称に見えるように扇11を仕立てる。目的とする画像を
図22に示す。
【0049】
図22は扇として最終的に折りあげられた状態で得たい目的の画像の説明図である。
図23は目的の画像を得るために変換をした絵図の説明図である。
図22の画像を表現する扇を、前述の変換式(式(4)~式(9))の逆算で平面に展開し、
図23の扇絵部14が得られた。
図23では、変数Cの絶対値が大きいほど、元画像の正方形41からの変化は大きくゆがんでいることが分かる。C=-15mm,0mm,15mmでは扇絵部14上の図形が正方形41に近い形であるが、Cの絶対値が大きい扇絵部14上の図形は正方形41からは大きく離れた見かけとなる。
【0050】
図24は
図23の扇絵部を実際に扇に折りあげたものの説明図である。
図23に示すデジタルで再現した扇絵部14を、実際に折り上げたものが
図24である。
正面から見ると、おおむね同じ大きさで等間隔に並んだ正方形41が再現できていることが確認できる。なお、
図24において、C=-30~-60のものでは、両端で正方形が外側に折れるように変形して見えるが、これは扇11の外端を扇11の骨部12で固定することで角度がθ=0に近くなるため、このような見え方になると考える。
【0051】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)~(H02)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、例示した具体的な数値は、例示した値に限定されず、設計や仕様等に応じて任意に変更可能である。また、入力する数値として、L0~L2や中心角φ、骨部12の本数N1を例示したが、これに限定されない。HやC等のパラメータを入力するような構成とすることも可能である。
(H02)前記実施例において、C>0の場合とC<0の場合で基準を外辺14bとするか内辺14aとするかを切り替えることが望ましいが、これに限定されない。内辺14aと外辺14bの中間の位置を基準にする等の変更も可能である。
【符号の説明】
【0052】
1…扇絵図の変換装置、
11…扇、
12…骨部、
13…要部、
14…扇絵部、
14a…内辺、
14b…外辺、
14c…扇形の中心、
16…扇片、
16-1…中央部の扇片、
16a…山折り線、
16b…谷折り線、
41…絵図、
C…扇形の中心と要部との距離の差、
C7…変換手段。