IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人自治医科大学の特許一覧

特許7500074関節リウマチの再燃を予測する方法及びそれに用いるバイオマーカー群
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】関節リウマチの再燃を予測する方法及びそれに用いるバイオマーカー群
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240610BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240610BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240610BHJP
   C12N 15/19 20060101ALI20240610BHJP
   C12N 15/21 20060101ALI20240610BHJP
   C12N 15/22 20060101ALI20240610BHJP
   C12N 15/23 20060101ALI20240610BHJP
   C12N 15/24 20060101ALI20240610BHJP
   C12N 15/26 20060101ALI20240610BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20240610BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20240610BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20240610BHJP
   C07K 14/525 20060101ALI20240610BHJP
   C07K 14/54 20060101ALI20240610BHJP
   C07K 14/55 20060101ALI20240610BHJP
   C07K 14/56 20060101ALI20240610BHJP
   C07K 14/565 20060101ALI20240610BHJP
   C07K 14/57 20060101ALI20240610BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20240610BHJP
【FI】
G01N33/68
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/19
C12N15/21
C12N15/22
C12N15/23
C12N15/24
C12N15/26
C12N15/56
C07K14/47
C07K16/24
C07K14/525
C07K14/54
C07K14/55
C07K14/56
C07K14/565
C07K14/57
C12P21/08
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021051183
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2021156888
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2020054438
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】簑田 清次
(72)【発明者】
【氏名】永谷 勝也
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 仁司
(72)【発明者】
【氏名】坂下 英司
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/199180(WO,A1)
【文献】特表2013-511506(JP,A)
【文献】Takeshita M et al,Infliximab and etanercept have distinct actions but similar effects on cytokine profiles in rheumatoid arthritis,Cytokine,2015年01月01日,vol.75,222-227
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的製剤を投与後寛解した関節リウマチ患者由来の血清サンプルにおいて、IL-34、IL-32、CCL1、IL-2、TNFSF12、IFNβ、IL-12p40、IL-26、IL-1β、IL-6、IL-19、CCL8、IFNγ、IFNλ2、CCL26、CCL25、IFNα2、IFNλ1、CCL7、TNFSF14、CCL11、Pentraxin3、CCL21、IL-27p28、CXCL5、IL-35、TSLP、CCL19、IL-4、IL-10、CXCL2、CCL20、Chitinase 3-like 1、CCL27、IL-4、CCL22、CXCL1、IFNβ、IL-20及びそれらの組合せから成る群より選択されるサイトカイン濃度を測定する工程を含む、関節リウマチの再燃を予測するためのin vitroにおけるデータ収集方法
【請求項2】
血清サンプルが、関節リウマチ寛解後の関節リウマチ患者由来の血清サンプルである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
血清サンプルが、生物学的製剤投与前及び/又は生物学的製剤投与中の関節リウマチ患者由来の血清サンプルである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の方法により再燃が予測されると決定された関節リウマチ患者由来の血清サンプルにおいて、sTNFR2、Fractalkine、IL-6、TSLP、MMP3又はそれらの組合せの濃度を測定する工程を含む、関節リウマチの再燃直前を予測するためのin vitroにおけるデータ収集方法
【請求項5】
血清サンプルが、関節リウマチ寛解後の関節リウマチ患者由来の血清サンプルである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
IL-34、IL-32、CCL1、IL-2、TNFSF12、IFNβ、IL-12p40、IL-26、IL-1β、IL-6、IL-19、CCL8、IFNγ、IFNλ2、CCL26、CCL25、IFNα2、IFNλ1、CCL7、TNFSF14、CCL11、Pentraxin3、CCL21、IL-27p28、CXCL5、IL-35、TSLP、CCL19、IL-4、IL-10、CXCL2、CCL20、Chitinase 3-like 1、CCL27、IL-4、CCL22、CXCL1、IFNβ、IL-20及びそれらの組合せから成る群より選択されるサイトカインに対する抗体又はその断片を含む、関節リウマチの再燃を予測する診断キット。
【請求項7】
sTNFR2、Fractalkine、IL-6、TSLP、MMP3又はそれらの組合せに対する抗体又はその断片を含む、関節リウマチの再燃直前を予測する診断キット。
【請求項8】
IL-34、IL-32、CCL1、IL-2、TNFSF12、IFNβ、IL-12p40、IL-26、IL-1β、IL-6、IL-19、CCL8、IFNγ、IFNλ2、CCL26、CCL25、IFNα2、IFNλ1、CCL7、TNFSF14、CCL11、Pentraxin3、CCL21、IL-27p28、CXCL5、IL-35、TSLP、CCL19、IL-4、IL-10、CXCL2、CCL20、Chitinase 3-like 1、CCL27、IL-4、CCL22、CXCL1、IFNβ、IL-20及びそれらの組合せから成る群より選択されるサイトカインを含む、関節リウマチの再燃を予測する診断バイオマーカー。
【請求項9】
sTNFR2、Fractalkine、IL-6、TSLP、MMP3又はそれらの組合せを含む、関節リウマチの再燃直前を予測する診断バイオマーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば関節リウマチの再燃を予測するバイオマーカー、並びに当該バイオマーカーを利用した関節リウマチの再燃を予測する検査方法及び関節リウマチの再燃を予測する診断キットに関する。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチ(RA)は、関節炎を主な臨床症状とする全身性の炎症性自己免疫疾患であり、人口の0.5~1%が罹患する。関節リウマチの原因および発症機序は未だ完全には解明されていない。関節リウマチの治療は、現在、根治的な治療法は存在しない。現在の治療アプローチは、基本的に、痛みを軽減させ、炎症を低減させ、関節の損傷および骨の破壊を停止または減速させることを目的にしており、症状の初期に疾患修飾抗リウマチ薬(DMARD)を投与することである。近年、関節リウマチの病態生理に関する理解の進展により開発された生物学的DMARD(「生物学的製剤」とも呼ぶ)である抗腫瘍壊死因子α(TNFα)抗体、抗インターロイキン6(IL-6)受容体抗体、抗インターロイキン1(IL-1)抗体などの抗体製剤が使用されることにより、症状の寛解に至る割合が顕著に高くなっている。一方で、生物学的製剤の薬価は非常に高く、漫然とした使用は医療費の高騰を招く。また、生物学的製剤の副作用として、使用期間中における結核の再燃などの感染リスク、脱髄性疾患の増悪リスク、間質性肺炎のリスクなどが高まる。従って、生物学的製剤の適切な使用法の開発が必要である。
【0003】
さらに、生物学的製剤は炎症性サイトカイン抑制による対症療法であるため、治療により炎症もなく腫脹もない寛解に至った関節リウマチの患者であっても、一定の確率で再燃する。また、生物学的製剤の1回使用量を減じたり(tapering)、投与間隔を伸ばした(spacing)場合は、再燃の確率が増加する。一方で、臨床的寛解に至った患者での生物学的製剤の使用を中止した場合は、再燃の確率がさらに増加するものの、一定の確率で再燃せず、臨床的寛解の状態が続くといわれている(非特許文献1)。このような臨床的寛解が継続する患者には、生物学的製剤の継続的な投与の必要はない。しかしながら、現在のところ、生物学的製剤の使用中止を考える臨床的寛解の時点で、再燃等の予後を予測できる手段はない。さらに、再燃が予測される患者において、再燃する直前に生物学的製剤の投与を再開できれば再燃させずにすむことができ、関節症状等の悪化を予防することができると推察されるが、再燃の直前を予測する手段もない。
【0004】
現在、関節リウマチ患者において、生物学的製剤により臨床的寛解を達成した後、休薬を検討する際に、休薬後に臨床的に再燃するか否かを予測する適切なバイオマーカーは知られていない。
【0005】
以上から、1)休薬後の関節リウマチの再燃を予測するバイオマーカーの探索と、2)その再燃の時期を予測するバイオマーカーの探索が必要である。
【0006】
これまで、関節リウマチのバイオマーカーには、診断に用いられるバイオマーカーや疾患活動性を評価するバイオマーカーが多数報告されている。例えば、ACPA(抗CCP抗体)やリウマチ因子などは診断マーカーであり、疾患活動性の評価にはCRP、MMP-3などがあり、その他S100A8、S100A9、S100A12等も報告されている(非特許文献2,3)。このような疾患活動性を示すバイオマーカーは、症状の寛解時では変化が認められず、また、臨床的な再燃に先立って変動するバイオマーカーではない。生物学的製剤の適切な使用を可能にするには、将来の再燃を判定するマーカー、及び再燃直前を判定するマーカーが必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Ann Rheum Dis 2016, 75: 45-51
【文献】Genes and Immunity 2005, 6: 388-397
【文献】Rheumatology 2010, 49: 671-682
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の実情に鑑み、関節リウマチの再燃又は再燃直前を予測するバイオマーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、生物学的製剤を投与後寛解し同製剤を休薬した関節リウマチ患者を前向き研究にて再燃までの血液を追跡し、サイトカインの網羅的な解析を実施することで、再燃する患者を予測可能なバイオマーカー群、及び再燃予測群で、当該患者の状態が再燃直前であることを予測可能とするバイオマーカー群を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)生物学的製剤を投与後寛解した関節リウマチ患者由来の血清サンプルにおいて、IL-34、IL-32、CCL1、IL-2、TNFSF12、IFNβ、IL-12p40、IL-26、IL-1β、IL-6、IL-19、CCL8、IFNγ、IFNλ2、CCL26、CCL25、IFNα2、IFNλ1、CCL7、TNFSF14、CCL11、Pentraxin3、CCL21、IL-27p28、CXCL5、IL-35、TSLP、CCL19、IL-4、IL-10、CXCL2、CCL20、Chitinase 3-like 1、CCL27、IL-4、CCL22、CXCL1、IFNβ、IL-20及びそれらの組合せから成る群より選択されるサイトカイン濃度を測定する工程を含む、関節リウマチの再燃を予測する検査方法。
(2)血清サンプルが、関節リウマチ寛解後の関節リウマチ患者由来の血清サンプルである、(1)記載の方法。
(3)血清サンプルが、生物学的製剤投与前及び/又は生物学的製剤投与中の関節リウマチ患者由来の血清サンプルである、(1)記載の方法。
(4)(1)~(3)のいずれか1記載の方法により再燃が予測されると決定された関節リウマチ患者由来の血清サンプルにおいて、sTNFR2、Fractalkine、IL-6、TSLP、MMP3又はそれらの組合せの濃度を測定する工程を含む、関節リウマチの再燃直前を予測する検査方法。
(5)血清サンプルが、関節リウマチ寛解後の関節リウマチ患者由来の血清サンプルである、(4)記載の方法。
(6)IL-34、IL-32、CCL1、IL-2、TNFSF12、IFNβ、IL-12p40、IL-26、IL-1β、IL-6、IL-19、CCL8、IFNγ、IFNλ2、CCL26、CCL25、IFNα2、IFNλ1、CCL7、TNFSF14、CCL11、Pentraxin3、CCL21、IL-27p28、CXCL5、IL-35、TSLP、CCL19、IL-4、IL-10、CXCL2、CCL20、Chitinase 3-like 1、CCL27、IL-4、CCL22、CXCL1、IFNβ、IL-20及びそれらの組合せから成る群より選択されるサイトカインに対する抗体又はその断片を含む、関節リウマチの再燃を予測する診断キット。
(7)sTNFR2、Fractalkine、IL-6、TSLP、MMP3又はそれらの組合せに対する抗体又はその断片を含む、関節リウマチの再燃直前を予測する診断キット。
(8)IL-34、IL-32、CCL1、IL-2、TNFSF12、IFNβ、IL-12p40、IL-26、IL-1β、IL-6、IL-19、CCL8、IFNγ、IFNλ2、CCL26、CCL25、IFNα2、IFNλ1、CCL7、TNFSF14、CCL11、Pentraxin3、CCL21、IL-27p28、CXCL5、IL-35、TSLP、CCL19、IL-4、IL-10、CXCL2、CCL20、Chitinase 3-like 1、CCL27、IL-4、CCL22、CXCL1、IFNβ、IL-20及びそれらの組合せから成る群より選択されるサイトカインを含む、関節リウマチの再燃を予測する診断バイオマーカー。
(9)sTNFR2、Fractalkine、IL-6、TSLP、MMP3又はそれらの組合せを含む、関節リウマチの再燃直前を予測する診断バイオマーカー。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、関節リウマチの再燃又は再燃直前を予測するバイオマーカーを、関節リウマチ患者の予後予測、生物学的製剤の使用適応などに使用することで、適切な治療プロトコールの開発が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1-1】研究デザインおよび寛解維持群と再燃群への分類を示す。A. 研究デザイン。生物学的製剤を使用して1年以上寛解状態を維持した患者(40名)をコホートとし、生物学的製剤の投与を中止した後、再燃するまで2年間(24ヶ月)追跡した。その間、原則1ヶ月毎の観察と採血を実施した。B. 2年のスクリーニング期間における寛解維持率のKaplan-Meier曲線。生物学的製剤の投与中止後、6ヶ月で約50%の患者が再燃したものの、その後再燃する頻度が下がり、24ヶ月で35%であった。
図1-2】図1-1の続きである。
図2】研究デザインの模式図と寛解維持群と再燃群の検体採取ポイントを示す。A. 研究デザインの模式図。縦軸は疾患活動性、横軸は時間を示す。サンプルのラベルは、再燃群においては、生物学的製剤休薬直後(B)、再燃直前(C)、再燃時(D)、BとCとの間(E)、寛解維持群においては、生物学的製剤休薬直後(A)、観察終了時(F)、AとFとの間(G)とした。B. 各サンプルの採取数を示す。
図3】sPLS-DAによる寛解維持群(N)と再燃群(R)の生物学的製剤投与中止後の寛解状態での比較を示す。AとFを寛解維持群(N)、BとCを再燃群(R)とし、この二群をsPLS-DAで比較した。左パネルは、成分数を2、変数数を5として解析したsPLS-DAの2Dスコアプロットを、右パネルは成分1と成分2の係数の絶対値(ローディング)の上位5つを示す。
図4】相関分析による寛解維持群(N)と再燃群(R)の生物学的製剤投与中止後の寛解状態での比較を示す。AとFを寛解維持群(N)、BとCを再燃群(R)とし、この二群を相関分析で比較した。左パネルは相関係数の上位25のグラフを、右パネルは上位15の値を示す。
図5】Volcano Plotによる寛解維持群(N)と再燃群(R)の生物学的製剤投与中止後の寛解状態での比較(AF vs BC)を示す。
図6】再燃関連生体分子ネットワークを示す。a. t検定で有意差を有する12因子を用いたSTRINGデータベースによるタンパク質-タンパク質間相互作用ネットワークを示す。b. KEGGパスウェイ解析を示す。c.Reactomeパスウェイ解析を示す。
図7】寛解維持群(N)と再燃群(R)の生物学的製剤投与中止後の寛解状態での各バイオマーカー候補のROC曲線とバイオリンプロットを示す。AとFを寛解維持群(N)、BとCを再燃群(R)とし、この二群を単変量ROC解析で比較し、AUC(Area under the curve)が0.7以上のバイオマーカーについて、左パネルにROC曲線を、右パネルにバイオリンプロットを示す。
図8-1】寛解維持群(N)と再燃群(R)の生物学的製剤投与中止後の寛解状態でのバイオマーカー候補のランキング解析と多変量ROC解析を示す。A. AとFを寛解維持群(N)、BとCを再燃群(R)とし、この二群にて比較した。対数データを平均0、分散1になるように再変換したデータを用いてサポートベクターマシン(SVM)法によるランキング解析(multivariate exploratory ROC解析)を行い、変数の数によるROC曲線を示す。B.5因子選択モデルにおけるバイオマーカーのランキングのグラフを示す。C. ランキングされた上位5つのバイオマーカーの組合せについて、ロジスティック回帰モデルを検討し、10重交差検証法によるROC曲線を示す。DおよびE. ロジスティック回帰モデルを用いた再燃予測指数(RPI)スコアの計算式(D)とその特徴のまとめ(E)を示す。F. 選択された5つのバイオマーカーを用いて、A、G、Fを寛解維持群(N)、B、E、Cを再燃群(R)とした10重交差検証法によるROC曲線を示す。G. 選択された5つのバイオマーカーを用いて、Aを寛解維持群(N)、Bを再燃群(R)とした10重交差検証法によるROC曲線を示す。H. 選択された5つのバイオマーカーを用いて、生物学的製剤の中止直前時期のPre-Aを寛解維持群(N)、Pre-Bを再燃群(R)とした10重交差検証法によるROC曲線を示す。
図8-2】図8-1の続きである。
図8-3】図8-2の続きである。
図8-4】図8-3の続きである。
図9】研究デザインの模式図と寛解維持群と再燃群の生物学的製剤の投与前および投与中の検体採取ポイントを示す。A. 研究デザインの模式図。縦軸は疾患活動性、横軸は時間を示す。サンプルのラベルは、再燃群においては、生物学的製剤の投与直前をrP1、投与中で以下のrD2を含まない時点をrD1、投与中で生物学的製剤を休止する直前およびその一つ前の時点をrD2とした。なお、rD1とrD2は各々の複数サンプルの値の平均値をそれぞれの値として用いた。また、寛解維持群(非再燃群)においても同様に、生物学的製剤の投与直前をnP1、投与中で以下のnD2を含まない時点をnD1、投与中で生物学的製剤を休止する直前およびその一つ前の時点をnD2とした。B. 各サンプルの採取数を示す。
図10-1】sPLS-DAによる寛解維持群(N)と再燃群(R)の生物学的製剤投与前および投与中での比較を示す。A. nP1を寛解維持群(N)、rP1を再燃群(R)とし、この二群をsPLS-DAで比較した。左パネルは、成分数を2、変数数を5として解析したsPLS-DAの2Dスコアプロットを、右パネルは成分1と成分2の係数の絶対値(ローディング)の上位5つを示す。B. Pre-N (nP1、nD1、nD2)を寛解維持群(N)、Pre-R (rP1、rD1、rD2)を再燃群(R)とし、この二群をsPLS-DAで比較した。左パネルは、成分数を2、変数数を5として解析したsPLS-DAの2Dスコアプロットを、右パネルは成分1と成分2の係数の絶対値(ローディング)の上位5つを示す。
図10-2】図10-1の続きである。
図11-1】相関分析による寛解維持群(N)と再燃群(R)の生物学的製剤投与前および投与中での比較を示す。A. nP1を寛解維持群(N)、rP1を再燃群(R)とし、この二群を相関分析で比較した。左パネルは相関係数の上位25のグラフを、右パネルは相関係数の絶対値が0.2以上(28個)の値を示す。B. Pre-N (nP1、nD1、nD2)を寛解維持群(N)、Pre-R (rP1、rD1、rD2)を再燃群(R)とし、この二群を相関分析で比較した。左パネルは相関係数の上位25のグラフを、右パネルは相関係数の絶対値が0.2以上(32個)の値を示す。
図11-2】図11-1の続きである。
図12-1】寛解維持群(N)と再燃群(R)の生物学的製剤投与前および投与中での各バイオマーカー候補のROC曲線とバイオリンプロットを示す。Pre-N (nP1、nD1、nD2)を寛解維持群(N)、Pre-R (rP1、rD1、rD2)を再燃群(R)とし、この二群を単変量ROC解析で比較し、AUC(Area under the curve)が0.7以上のバイオマーカーについて、左パネルにROC曲線を、右パネルにバイオリンプロットを示す。
図12-2】図12-1の続きである。
図13】寛解維持群(N)と再燃群(R)の生物学的製剤投与前および投与中での多変量ROC解析を示す。A. 実施例1にて選択された5つのバイオマーカーを用いて、Pre-N (nP1、nD1、nD2)を寛解維持群(N)、Pre-R (rP1、rD1、rD2)を再燃群(R)としたロジスティック回帰モデルを検討し、10重交差検証法によるROC曲線を示す。BおよびC. ロジスティック回帰モデルを用いた再燃予測指数(RPI)スコアの計算式(B)とその特徴のまとめ(C)を示す。
図14-1】寛解維持群(N)と再燃群(R)の生物学的製剤投与前および投与中でのバイオマーカー候補のランキング解析と多変量ROC解析を示す。A. Pre-N (nP1、nD1、nD2)を寛解維持群(N)、Pre-R (rP1、rD1、rD2)を再燃群(R)とし、サポートベクターマシン(SVM)法によるランキング解析(multivariate exploratory ROC解析)を行い、変数の数によるROC曲線を示す。B. 5因子選択モデルにおけるバイオマーカーのランキングのグラフを示す。C. ランキングされた上位5つのバイオマーカーの組合せについて、ロジスティック回帰モデルを検討し、10重交差検証法によるROC曲線を示す。DおよびE. ロジスティック回帰モデルを用いた再燃予測指数(RPI)スコアの計算式(D)とその特徴のまとめ(E)を示す。F. 選択された5つのバイオマーカーを用いて、nP1を寛解維持群(N)、rP1を再燃群(R)とした100重交差検証法によるROC曲線を示す。G. 選択された5つのバイオマーカーを用いて、nD2を寛解維持群(N)、rD2を再燃群(R)とした100重交差検証法によるROC曲線を示す。
図14-2】図14-1の続きである。
図14-3】図14-2の続きである。
図15-1】再燃群(R)の生物学的製剤休薬後の休薬直後(B)と再燃直前(C)との2群比較による再燃直前予測バイオマーカー候補の同定を示す。A. 再燃群の生物学的製剤の休薬直後の群(B群)と、再燃が生じる直前時の群(C群)の2群におけるt検定の結果を示す。B. 再燃群の生物学的製剤の休薬直後の群(B群)と、再燃が生じる直前時の群(C群)の2群におけるheatmapを示す。C. 各患者におけるsTNFR2とFractalkine/CX3CL1の実測値のC/B比、cut-off値、どちらかの因子が陽性になった場合を陽性と判定した場合の陽性率を示す。
図15-2】図15-1の続きである。
図16】再燃直前予測マーカーを再探索するための患者サンプルのサブグループ化を示す。
図17】再燃直前予測マーカーを再探索するための患者サンプルのサブグループ化におけるVolcano plot analysisを示す。
図18】再燃直前予測マーカーを再探索するための患者サンプルのサブグループ化における、有為判定されたIL6、TSLP、MMP3のB/C群(再燃群の生物学的製剤の休薬直後の群(B群)と、再燃が生じる直前時の群(C群))における分布を示す。
図19】再燃直前予測マーカーを再探索するための患者サンプルのサブグループ化における、IL6、IFNλ1、TSLP、MMP3の単変量ROC解析を示す。
図20】再燃直前予測マーカーを再探索するための患者サンプルのサブグループ化における、IL6、TSLP及びMMP3を用いた多変量ROC解析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
1.関節リウマチの再燃を予測する診断バイオマーカー
本発明の第1態様は、IL(Interleukin)-34、IL-32、CCL(CC chemokine ligand)1、IL-2、TNFSF12(Tumor necrosis factor ligand superfamily member 12)、IFNβ、IL-12p40、IL-26、IL-1β、IL-6、IL-19、CCL8、IFN(Interferon)γ、IFNλ2、CCL26、CCL25、IFNα2、IFNλ1、CCL7、TNFSF14、CCL11、Pentraxin3、CCL21、IL-27p28、CXCL(CXC chemokine ligand)5、IL-35、TSLP(Thymic stromal lymphopoietin)、CCL19、IL-4、IL-10、CXCL2、CCL20、Chitinase 3-like 1、CCL27、IL-4、CCL22、CXCL1、IFNβ、IL-20及びそれらの組合せから成る群より選択されるサイトカインが、関節リウマチの再燃を予測する診断バイオマーカーであるとの知見に基づくものである。これらサイトカインの組合せとしては、これらサイトカインのうちの2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、15以上、16以上、17以上、18以上、19以上、20以上、21以上、22以上、23以上、24以上、25以上、26以上、27以上、28以上、29以上、30以上、31以上、32以上、33以上、34以上、35以上、36以上、37以上、38以上、39種全てを含むものであってよい。特に、IL-34、IL-32、TNFSF12、TNFSF14、IFNγ、IL-2、IL-1β、IL-19及びCCL1の組合せによれば、関節リウマチの再燃を高感度に予測することができる。
【0015】
また、生物学的製剤を投与し、関節リウマチ寛解後の関節リウマチ患者においては、CCL1、IL-2、IL-19、IL-34及びIL-1βの組合せによれば、関節リウマチの再燃を高感度に予測することができる。あるいは、生物学的製剤で治療前及び/又は治療中の関節リウマチ患者においては、IFNγ、TNFSF14、TNFSF12、IL-34及びIL-32の組合せによれば、関節リウマチの再燃を高感度に予測することができる。
【0016】
本発明に係る関節リウマチの再燃を予測する検査方法(以下、「第1態様の方法」と称する)は、生物学的製剤を投与後寛解した関節リウマチ患者由来の血清サンプルにおいて、上述のサイトカイン濃度を測定する工程を含むものである。測定されたサイトカインの濃度(又は量若しくはレベル)に基づいて、当該関節リウマチ患者において関節リウマチが再燃するか否かの予測を判定又は評価することができる。第1態様の方法によれば、関節リウマチの再燃の予測を高感度に検査でき、その後の治療を早期に行うことができる。なお、第1態様の方法は、関節リウマチの再燃を予測する方法、関節リウマチの再燃を予測するための評価又は判定方法、関節リウマチの再燃を予測するためのin vitroにおけるデータ収集方法等ということができる。
【0017】
第1態様の方法において検査対象となる関節リウマチ患者は、生物学的製剤の投与等の治療により関節リウマチが寛解し、関節リウマチ寛解後の休薬中の関節リウマチ患者、関節リウマチを患うものの生物学的製剤の投与等の治療前の関節リウマチ患者、及び/又は生物学的製剤の投与による治療中の関節リウマチ患者であってよい。ここで、生物学的製剤としては、関節リウマチに効果のある治療薬である抗体製剤(例えば、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ等のTNF阻害薬、トシリズマブ等のIL-6阻害薬)が挙げられる。
【0018】
第1態様の方法では、サイトカイン濃度を測定すべく、関節リウマチ患者由来の血清サンプル中のサイトカインと抗サイトカイン抗体又はその断片とが結合するように、当該血清サンプルと抗サイトカイン抗体又はその断片とを接触させる。
【0019】
血清サンプルと抗サイトカイン抗体又はその断片との接触によるサイトカイン測定は、例えば酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)等の免疫学的測定方法により行うことができる。例えば、ELISAを使用する場合には、抗サイトカイン抗体又はその断片をプレートのウェルに固定化し、次いで血清サンプルを当該ウェルに加える。さらに、二次抗体として酵素(例えばペルオキシダーゼ)標識した別の抗サイトカイン抗体又はその断片を反応させ、当該酵素の色原性基質を加え、酵素反応による色原性基質からの色素の呈色を分光光度計で吸光度として測定する。
【0020】
一方で、標準品のサイトカインの測定結果から、サイトカイン濃度に対する吸光度の検量線を作成する。当該検量線に基づいて、上述の測定試料の吸光度から血清サンプル中のサイトカイン濃度を決定することができる。
【0021】
測定した血清サンプル中のサイトカイン濃度に基づいて、例えば各サイトカインのカットオフ値と比較して、血清サンプルが由来する関節リウマチ患者において、関節リウマチが再燃するか否かを予測することができる。例えば、ROC解析における各サイトカインのカットオフ値は、以下の通りである:
生物学的製剤を休薬後の際のカットオフ値:
IL-34: 192 (= 27.58) pg/mL以上
IL-32: 95.0 (= 26.57) pg/mL以上
CCL1: 31.5 (= 24.98) pg/mL以上
IL-1β: 0.840 (= 2-0.252) pg/mL以上
CCL3: 6.01 (= 22.59) pg/mL以上。
生物学的製剤を投薬前および投薬中の際のカットオフ値:
IFNγ: 17.15 (= 24.1) pg/mL以上
IL-34: 137.19 (= 27.1) pg/mL以上
IFNλ2: 48.17 (= 25.59) pg/mL以上
CCL26: 4.32 (= 22.11) pg/mL以上
CCL25: 192.67 (= 27.59) pg/mL以上
IL-2: 44.32 (= 25.47) pg/mL以上
IL-32: 121.10 (= 26.92) pg/mL以上
IFNλ1: 50.56 (= 25.66) pg/mL以上
TNFSF14: 42.52 (= 25.41) pg/mL以下
IL-35: 276.28 (= 28.11) pg/mL以上
CCL1: 34.06 (= 25.09) pg/mL以上
CCL11: 59.30 (= 25.89) pg/mL以上。
【0022】
また、生物学的製剤を投与し、関節リウマチ寛解後の関節リウマチ患者において、CCL1、IL-2、IL-19、IL-34及びIL-1βの組合せを用いた場合には、測定した血清サンプル中の各サイトカイン濃度に基づいて、再燃予測指数(RPI, relapse prediction index)スコアを、例えば以下の数式で計算する(Pのcut-off値は0.6である)。
(式) RPIスコア = logit(P) = log(P / (1 - P)) = -21.228 + 0.791*log2(IL-34) + 4.252*log2(CCL1) - 2.419*log2 (IL-2) + 0.465*log2(IL1β) - 0.18*log2(IL-19)
なお、ここに用いられる各バイオマーカーの単位はpg/mLである。
得られたRPIスコアが、閾値以上を示した場合、血清サンプルが由来する関節リウマチ患者において、関節リウマチが再燃すると予測することができる。例えば、閾値はP値のcut-off値を示し、0.6である。
【0023】
さらに、生物学的製剤で治療前及び/又は治療中の関節リウマチ患者において、IFNγ、TNFSF14、TNFSF12、IL-34及びIL-32の組合せを用いた場合には、測定した血清サンプル中の各サイトカイン濃度に基づいて、再燃予測指数(RPI, relapse prediction index)スコアを、例えば以下の数式で計算する(Pのcut-off値は0.27である)。
(式) RPIスコア = logit(P) = log(P / (1 - P)) = -80.983 + 0.75*log2(IL-34) + 3.002*log2(IFNγ) - 1.991*log2(TNFSF14) + 7.139*log2(TNFSF12) + 2.443*log2(IL-32)
なお、ここに用いられる各バイオマーカーの単位はpg/mLである。
得られたRPIスコアが、閾値以上を示した場合、血清サンプルが由来する関節リウマチ患者において、関節リウマチが再燃すると予測することができる。例えば、閾値はP値のcut-off値を示し、0.27である。
【0024】
また、第1態様の方法は、関節リウマチが再燃すると予測された関節リウマチ患者に対して生物学的製剤投与等の治療処置を施す工程をさらに含む、再燃が予測された関節リウマチ患者における再燃予防又は治療方法とすることができる。
【0025】
さらに、第1態様の方法は、カットオフ値との比較において、血清サンプルが由来する関節リウマチ患者が再燃するリスクが高いか否かを決定する工程をさらに含む、関節リウマチ患者の再燃群と非再燃群との階層化方法とすることができる。
【0026】
また、本発明は、例えばELISA等の免疫学的測定方法において使用するための、上述のサイトカインに対する抗体又はその断片を含む、関節リウマチの再燃を予測する診断キット(以下、「第1態様のキット」と称する)に関する。当該キットは、検量線作成のための標準品(陽性対照)のサイトカイン、キットの取り扱い説明書、関節リウマチの再燃を予測する診断のための説明書、容器、試薬等も適宜含むことができる。
【0027】
2.関節リウマチの再燃直前を予測する診断バイオマーカー
本発明の第2態様は、第1態様の方法により再燃が予測されると決定された関節リウマチ患者由来の血清サンプルにおいて、サイトカインであるsTNFR2(Soluble Tumor Necrosis Factor Receptor 2)、Fractalkine(CX3CL1(Chemokine (C-X3-C motif) ligand 1)としても知られている)、IL-6、TSLP、MMP(matrix metalloproteinase)3又はそれらの組合せ(これらのうち、2以上、3以上、4以上、好ましくは5つ全ての組合せ)が、関節リウマチの再燃直前を予測する診断バイオマーカーであるとの知見に基づくものである。これらサイトカイン等をバイオマーカーとして使用することで、第1態様の方法により再燃が予測されると決定された関節リウマチ患者(例えば、関節リウマチ寛解後の関節リウマチ患者)において関節リウマチが再燃の直前(例えば、再燃の6時間~90日前、好ましくは再燃の72時間~30日前)にあるか否かの予測を判定又は評価することができる。本態様においては、関節リウマチの再燃直前の予測を高感度に検査でき、早急に生物学的製剤の投与等の治療が必要か否かを判断することができる。
【0028】
本態様における関節リウマチの再燃直前を予測する検査方法(以下、「第2態様の方法」と称する)及び関節リウマチの再燃直前を予測する診断キットは、それぞれ第1態様の方法及びキットに準じたものである。
【0029】
sTNFR2及びFractalkineのカットオフ値としては、例えば生物学的製剤の休薬直後の寛解時(B)とその後、経時的に測定した時点(C)との間で、実測値のC/B比を求めて得られた比のカットオフ値が挙げられる。この場合、例えばsTNFR2のカットオフ値を<0.8、Fractalkineのカットオフ値を>1.2とすることができる。
【0030】
また、IL-6、TSLP及びMMP3の組合せを用いた場合には、測定した血清サンプル中の各サイトカイン等濃度に基づいて、再燃直前予測指数(RPI, relapse prediction index)スコアを、例えば以下の数式で計算する(Pのcut-off値は0.31である)。
(式) RPIスコア = logit(P) = log(P / (1 - P)) = 12.519 + 2.63*log2(IL-6) + 23.393*log2 (TSLP) - 12.014*log2 (MMP3)
なお、ここに用いられる各バイオマーカーの単位はpg/mLである。
得られたRPIスコアが、閾値以上を示した場合、血清サンプルが由来する関節リウマチ患者において、関節リウマチが再燃直前であると予測することができる。例えば、閾値はP値のcut-off値を示し、0.31である。
【0031】
また、第2態様の方法は、関節リウマチが再燃直前であると予測された関節リウマチ患者に対して生物学的製剤投与等の治療処置を施す工程をさらに含む、再燃直前が予測された関節リウマチ患者における関節リウマチの再燃予防又は治療方法とすることができる。
【0032】
さらに、第2態様の方法は、生物学的製剤投与により寛解し、休薬中の関節リウマチ患者において、カットオフ値との比較において、血清サンプルが由来する関節リウマチ患者が再燃直前である否かを予測する工程をさらに含む、関節リウマチ患者における再燃予防のための投薬再開時期の予測方法とすることができる。
【実施例
【0033】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
〔実施例1〕生物学的製剤の休薬後寛解時における将来の関節リウマチの再燃を予測するバイオマーカー
1.材料及び方法
生物学的製剤の休薬後寛解時における将来の関節リウマチの再燃を予測するバイオマーカーを同定する目的で、生物学的製剤を投与後寛解した関節リウマチ患者をコホートとして前向き研究を実施した。具体的には、対象コホートを、生物学的製剤を用いて臨床的寛解が1年以上継続した関節リウマチ患者40名とした。研究デザインとして、図1Aに示す通り、生物学的製剤の投与を中止したのち、再燃までを約2年間原則1ヶ月毎に採血し経過観察した。再燃した患者は再燃の時点で観察を中止した。2年の観察期間の寛解維持率のKaplan-Meier曲線を図1Bに示す。その結果、再燃群(26名/40名)および寛解維持群(非再燃群)(14名/40名)の2群に分類した。2群の患者プロファイルを比較すると、特に有意な差を有するパラメーターは認められなかった(表1)。
【0035】
表1は、コホート患者の基本的特徴を示す。A. 寛解維持群と再燃群の患者の基本的特徴。B. 寛解維持群と再燃群の患者の使用した生物学的製剤。
【0036】
【表1】
【0037】
図2に研究デザインの模式図と患者血清の分類を示す。再燃群において、生物学的製剤の休薬直後をB、再燃直前をC、再燃時をD、BとCの間のサンプルをEとした。また、寛解維持群(非再燃群)においても同様に、生物学的製剤の休薬直後を A、2年間の観察終了時をF、AとFの間のサンプルをGとした。これらの全ての地点における血清を用いて、73種類のサイトカインを、BioRad社のBio-Plex Pro human Inflammation 1, 37-Plex panelおよびBio-Plex Pro human chemokine, 40-Plex panelを用いて網羅的に測定した。測定したサイトカインの項目を表2に示す。
【0038】
表2は、BioPlexにて測定したサイトカイン一覧を示す。BioPlex IDに対応した、遺伝子名およびUniprot IDを示す。
【0039】
【表2】
【0040】
統計学的解析:患者由来の血清サンプル数は、特に再燃群においては再燃までの期間に応じて患者毎に異なる。患者の特性に由来するバイアスを除くため、先ず患者におけるサンプル数を固定して解析した。臨床的寛解期間におけるベースラインの変動を考慮するため、時期の異なるポイントを独立したサンプルとして探索的モデル作成の検討に用いた。寛解維持群としてAおよびFのAF群、再燃群としてBおよびCのBC群とし、対数(log2)変換し、さらに平均0、分散1になるように変換したデータを用いて、Sparse Partial Least Squares Discriminant Analysis (sPLS-DA)、相関分析、およびt検定による有意差検定(p値が5%未満を有意な差と判定)を用いて再燃群と寛解維持群の判別に寄与する因子の選択を行った。更に、バイオマーカー解析として対数(log2)変換したデータを用いてROC (Receiver 0perating characteristics)曲線を作製し、各々の因子に対してAUC(area under curve)値とcut-off値を算定した。更に、対数データを平均0、分散1になるように再変換したデータを用いてサポートベクターマシン(SVM)法によるランキング解析(multivariate exploratory ROC解析)を行い、組合せによるバイオマーカーの選定を行った。選択されたバイオマーカーの組合せについて、対数データをもとにしたロジスティック回帰モデルを検討し、10重交差検証法によるROC曲線の作成により組合せの有用性を判定した。統計学的解析に用いたソフトウエアは、RおよびMetaboAnalyst (https://www.metaboanalyst.ca)を用いた。
【0041】
2.結果及び考察
生物学的製剤の休薬後寛解時における将来の関節リウマチの再燃を予測するバイオマーカーを同定する目的で、先ず、寛解維持群(AF群)および再燃群(BC群)の2群について、sPLS-DA(図3)、相関分析およびvolcano plot解析(図4及び図5)を実施したところ、バイオマーカーの候補としてIL-34、IL-32、CCL1、IL-2、TNFSF12、IFNβ、IL-12p40、IL-26、IL-1β、IL-6、IL-19およびCCL8の12個が、p値が5%未満の統計学的有意差を有した(図4)。これら12因子のタンパク質-タンパク質間相互作用ネットワーク解析で、これら因子はIL-6、IL-10、IL-1β、IL-2、STAT3を中心としたネットワークで相互に連携しあっていることが判明した(図6)。更に対数変換したデータを用いて単変量ROC解析を行うと、AUC値が0.8以上のものはIL-34のみであり、IL-32、CCL1、IL-1βおよびCCL3は0.7台であった(表3)。それぞれのROC曲線とバイオリンプロットを図7に示す。各因子のcut-off値は、IL-34 192 (= 27.58) pg/mL以上、IL-32 95.0 (= 26.57) pg/mL以上、CCL1 31.5 (= 24.98)pg/mL以上、IL-1β 0.840 (= 2-0.252)pg/mL以上、CCL3 6.01 (= 22.59)pg/mL以上である(表3、図7)。
【0042】
表3は、単変量ROC解析による寛解維持群(N)と再燃群(R)の生物学的製剤投与中止後の寛解状態でのバイオマーカー候補を示す。AとFを寛解維持群(N)、BとCを再燃群(R)とし、この二群を単変量ROC解析で比較し、AUC(Area under the curve)が0.7以上のバイオマーカー候補を表で示す。
【0043】
【表3】
【0044】
更に、因子の組合せによる信頼度の高い再燃予測を可能とする最小因子数を同定するために、multivariate exploratory ROC解析を実施した。選択因子数を5因子まで減少させてもAUC = 0.809と再燃予測の高い有用性を示したが、3因子まで減少させるとAUC = 0.741とその予測性能が低下した(図8A)。このことから、信頼度の高い再燃予測には5因子選択が妥当であると判断した。続いて再燃予測判定に適した5因子モデルを検討したところ、IL-34、CCL1、IL-2、IL-1β、IL-19が選択頻度の高い因子として選定された(図8B)。選択された5因子について、寛解維持群(AF群)と再燃群(BC群)でロジスティック回帰モデルによる組合せの有用性を検討したところ、AUC = 0.92の高い有用性を示した(図8C)。また、G群およびE群を追加してサンプル数を増やした寛解維持群(AGF群)および再燃群(BEC群)にてロジスティック回帰モデルによる組合せの解析を実施したところ、AUC = 0.927と依然として高い有用性を示した(図8F)。一方、A群とB群のみの少ないサンプル数で同因子の組み合わせによるロジスティック回帰モデルによる解析を行ったところ、AUC = 0.796とある程度高い有用性を示した(図8G)。さらに、生物学的製剤を休薬直前の時点(Pre-A群およびPre-B群)での同因子の組み合わせによるロジスティック回帰モデルによる解析を行ったところ、AUC = 0.814と比較的高い有用性を示した(図8H)。寛解維持群(AF群)と再燃群(BC群)の再燃予測指数(RPI, relapse prediction index)を検討すると、RPIスコアは、例えば以下の数式で計算され、Pのcut-off値は0.6であった(図8D、図8Eは各因子の回帰係数のまとめ)。
(式) RPIスコア = logit(P) = log(P / (1 - P)) = -21.228 + 0.791*log2(IL-34) + 4.252*log2(CCL1) - 2.419*log2 (IL-2) + 0.465*log2(IL1β) - 0.18*log2(IL-19)
なお、ここに用いられる各バイオマーカーの単位はpg/mLである。
【0045】
例えば、上記の式で計算されたスコアをもとに、症状が寛解している時期において、各々の患者で将来再燃が予測されるか否かの判定が可能である。
【0046】
〔実施例2〕生物学的製剤の治療前及び治療中の解析による関節リウマチの再燃を予測するバイオマーカー
1.材料及び方法
生物学的製剤の治療前および治療中の時点においても、将来の関節リウマチの再燃を予測するバイオマーカーを同定する目的で、実施例1に用いたコホートにおいて、生物学的製剤の治療前および治療中の時点での血清サンプルが存在する患者(再燃群21症例、寛解持続群11症例)を対象コホートとして用いた(図9)。患者血清の分類は、再燃群において、生物学的製剤の投与直前をrP1、投与中で以下のrD2を含まない時点をrD1、投与中で生物学的製剤を休止する直前およびその一つ前の時点をrD2とした。なお、rD1とrD2は各々の複数サンプルの値の平均値をそれぞれの値として用いた。また、寛解維持群(非再燃群)においても同様に、生物学的製剤の投与直前をnP1、投与中で以下のnD2を含まない時点をnD1、投与中で生物学的製剤を休止する直前およびその一つ前の時点をnD2とした。なお、nD1とnD2は各々の複数サンプルの値の平均値をそれぞれの値として用いた。これらの全ての地点における血清を用いて、実施例1と同様の方法で73種類のサイトカインを網羅的に測定した。
【0047】
統計学的解析:患者サンプルは、先ず生物学的製剤の治療前の時点における寛解維持群(nP1群)および再燃群(rP1群)の2群を、対数(log2)変換し、平均0、分散1になるように変換したデータを用いて、Sparse Partial Least Squares Discriminant Analysis (sPLS-DA)、相関分析、およびt検定による有意差検定(p値が5%未満を有意な差と判定)を用いて再燃群と寛解維持群の判別に寄与する因子の選択を行った。更に、臨床的な活動期、生物学的製剤使用開始後、生物学的製剤使用中における臨床的寛解期などのベースラインの変動を考慮するため、時期の異なるポイントを独立したサンプルとして探索的モデル作成の検討に用いた。治療前のサンプルに治療中のサンプルを加えた寛解維持群のサンプル群(Pre-N群;nP1+nD1+nD2)および再燃群(Pre-R群;rP1+rD1+rD2)の2群を同様に解析した。更に、バイオマーカー解析として対数(log2)変換したデータを用いてROC曲線を作成し、各々の因子に対してAUC値とcut-off値を算定した。対数データを平均0、分散1になるように再変換したデータを用いてSVM法によるランキング解析を行い、組合せによるバイオマーカーの選定を行った。選択されたバイオマーカーの組合せについて、対数変換データをもとにしたロジスティック回帰モデルを検討し、10重交差検証または100重交差検証法によるROC曲線の作成により組合せの有用性を判定した。
【0048】
2.結果及び考察
生物学的製剤の治療前および治療中の時点においても、将来の関節リウマチの再燃を予測するバイオマーカーを同定する目的で、先ず、生物学的製剤の治療前の時点における寛解維持群(nP1群)および再燃群(rP1群)の2群について、sPLS-DA(図10A)、相関分析およびt検定(図11A)を実施したところ、バイオマーカーの候補としてCCL26、IL-34、IFNγ、CCL25、IL-32、IFNλ2、CCL21、IL-2、IFNα2、IFNλ1、CCL1および、IL-27(p28)の12個がp値5%未満の統計学的有意差を有した(図11A)。さらに、治療前のサンプルに治療中のサンプルを加えた寛解維持群のサンプル群(Pre-N群;nP1+nD1+nD2)および再燃群(Pre-R群;rP1+rD1+rD2)の2群を比較したところ(図10B及び図11B)、バイオマーカーの候補としてIL-34、IFNγ、IFNλ2、CCL26、CCL25、IL-32、IL-2、IFNα2、IFNλ1、CCL1、CCL7、TNFSF14、TNFSF12、CCL11、IL-12(p40)、Pentraxin3、CCL21、IL-26、IL-27(p28)、CXCL5、IL-35、TSLP、CCL19、IL-4、IL-10、CXCL2、IL-12(p70)、CCL20、Chitinase 3-like 1、CXCL1、IFNβおよび、IL-20の32個が、p値5%未満の統計学的有意差を有した(図11B)。更に対数変換したデータを用いて単変量ROC解析を行うと、IFNγ、IL-34、IFNλ2、CCL26および、CCL25がAUC値0.8以上を示し、IL-2、IL-32、IFNλ1、TNFSF14、IL-35、CCL1および、CCL11は0.7台を示した(表4)。それぞれのROC曲線とバイオリンプロットを図12に示す。各因子のcut-off値は、IFNγ 17.15 (= 24.1) pg/mL以上、IL-34 137.19 (= 27.1) pg/mL以上、IFNλ2 48.17 (= 25.59) pg/mL以上、CCL26 4.32 (= 22.11) pg/mL以上、CCL25 192.67 (= 27.59) pg/mL以上、IL-2 44.32 (= 25.47) pg/mL以上、IL-32 121.10 (= 26.92) pg/mL以上、IFNλ1 50.56 (= 25.66) pg/mL以上、TNFSF14 42.52 (= 25.41) pg/mL以下、IL-35 276.28 (= 28.11) pg/mL以上、CCL1 34.06 (= 25.09) pg/mL以上、CCL11 59.30 (= 25.89) pg/mL以上 である(表4)。
【0049】
表4は、単変量ROC解析による寛解維持群(N)と再燃群(R)の生物学的製剤投与前および投与中でのバイオマーカー候補を示す。Pre-N (nP1、nD1、nD2)を寛解維持群(N)、Pre-R (rP1、rD1、rD2)を再燃群(R)とし、AUC (Area under the curve)が0.7以上のバイオマーカー候補を表で示す。
【0050】
【表4】
【0051】
先ず、本コホートにおいて、生物学的製剤の使用中や使用前の時点で再燃予測判定が可能か否かを、実施例1で同定したIL-34、CCL1、IL-2、IL-1β、IL-19の5因子を用いて、寛解維持群(Pre-N群)と再燃群(Pre-R群)でロジスティック回帰モデルにてROC解析を実施すると、AUC値は0.794と0.8以下の値となり、実施例1に比べてAUC値は低下した(図13)。なお前述した様に、生物学的製剤を休薬直前の時点(Pre-A群およびPre-B群)での同因子の組み合わせによるロジスティック回帰モデルによる解析を行ったところ、AUC = 0.814と比較的高い有用性を示した(図8H)。更に信頼度の高い再燃予測を可能にする因子の組合わせを探索するために、multivariate exploratory ROC解析を実施した。選択因子数を5因子まで減少させてもAUC = 0.944と再燃予測の高い有用性を示したが、3因子まで減少させるとAUC = 0.897とその予測性能が低下した(図14A)。このことから、信頼度の高い再燃予測には5因子選択が妥当であると判断した。続いて再燃予測判定に適した5因子モデルを検討したところ、IFNγ、TNFSF14、TNFSF12、IL-34、IL-32が選択頻度の高い因子として選定された(図14B)。選択された5因子について、寛解維持群(Pre-N群)と再燃群(Pre-R群)でロジスティック回帰モデルによる組合せの有用性を検討したところ、AUC = 0.976の高い有用性を示した(図14C)。一方、nP1群とrP1群のみ、またnD2群とrD2群のみの少ないサンプル数で同因子の組み合わせによる100重交差検証法によるROC解析を行ったところ、それぞれAUC = 0.919、およびAUC = 0.857とある程度高い有用性を示した(図14F, 14G)。寛解維持群(Pre-N群)と再燃群(Pre-R群)での再燃予測指数(RPI, relapse prediction index)を検討すると、RPIスコアは、例えば以下の数式で計算され、Pのcut-off値は0.27であった(図14D、図14Eは各因子の回帰係数のまとめ)。
(式) RPIスコア = logit(P) = log(P / (1 - P)) = -80.983 + 0.75*log2(IL-34) + 3.002*log2(IFNγ) - 1.991*log2(TNFSF14) + 7.139*log2(TNFSF12) + 2.443*log2(IL-32)
なお、ここに用いられる各バイオマーカーの単位はpg/mLである。
【0052】
例えば、上記の式で計算されたスコアをもとに、症状が活動中である生物学的製剤を使用前の時期や、生物学的製剤を使用中の時期においても、各々の患者で将来再燃が予測されるか否かの予後を検査可能である。特に、生物学的製剤を使用して寛解に至った時期での検査は有用である。
【0053】
〔実施例3〕関節リウマチの再燃の直前を予測するバイオマーカー
1.材料及び方法
生物学的製剤の休薬後寛解時において、将来関節リウマチの再燃をある程度予測することは可能となったが、臨床的には再燃直前を予測し、生物学的製剤を再開する時期を決定することは非常に重要である。実施例1に用いたコホートの再燃群において、休薬直後の寛解時の群(B群, n=25)と、再燃が生じる直前時の群(C群, n=23)の2群において、網羅的に測定した73種類の血清サイトカインを検討した。用いた値は対数(log2)変換し、平均0、分散1になるように変換したデータを用いて、t検定による2群比較を実施し、heatmapを作成した。次に、実測値のC/B比を求め、sTNFR2のcut-off値を<0.8、Fractalkine/CX3CL1のcut-off値を>1.2として、いずれかが該当する場合を陽性と判定した。また、再燃に至るまでの期間が3ヶ月以下の短い群(R short, n=9)と3ヶ月より長い群(R long, n=14)にサブグループ化し、それぞれのサブグループにおいても実施例1と同様の方法で統計学的解析を行った。
【0054】
2.結果及び考察
実施例1に用いたコホートの再燃群の生物学的製剤の休薬直後の群(B群)と、再燃が生じる直前時の群(C群)はいずれも臨床的には寛解状態である。この2群において2群比較を行ったところ、t検定において有意な差のあったバイオマーカーの候補因子は、sTNFR2およびFractalkine/CX3CL1の2因子であった(図15A)。図15Bにheatmapの図を示す。sTNFR2は、免疫抑制性の因子であり、B群に比べC群ではタンパク量が減少し、Fractalkine/CX3CL1は、免疫賦活性の因子であり、B群に比べC群ではタンパク量が増加する。実測値のC/B比を求め、sTNFR2のcut-off値を<0.8、Fractalkine/CX3CL1のcut-off値を>1.2として、このいずれかの傾向が陽性に出た症例数を確認すると、17/23 (74%)の陽性率であった(図15C)。
【0055】
以上から、この2因子を検討することにより、ある程度、再燃直前の時期を推測することが可能である。
【0056】
2年の観察期間の寛解維持率のKaplan-Meier曲線において、休薬後3ヶ月以内の下落曲線が大きくその後なだらかに下落が続く(図16左)。再燃する患者の約半数(12人、全体の46.2%)が3か月以内に再燃しており、サブグループを形成する傾向が観察された(図16右)。寛解状態と再燃直前状態がより明確化されることを期待して、休薬後3ヶ月以内に再燃した患者群(R short, n=12)と休薬後3ヶ月より後に再燃した患者群(R long, n=14)にサブグループ化し、各サブグループにおいて実施例1と同様の解析を行った。生物学的製剤の休薬直後の群(B群)と、再燃が生じる直前時の群(C群)を比較するvolcano plot解析において、R short(B群とC群の両方に値が存在する患者数n=9)でCXCL13がバイオマーカーの候補因子として抽出された(図17)。一方で、R long(B群とC群の両方に値が存在する患者数n=14)では、IL-6、TSLP、MMP3が抽出された。これら因子はいずれもC群で増加傾向が認められた(図18)。更にR long群において再燃直前マーカーの有効性を検証するために対数変換したデータを用いてROC解析を行うと、IL-6、TSLP、MMP3はAUC値が0.7以上を示した(図19)。このことは、再燃直前予測マーカーとしてこれら3因子の有効性を示唆するものである。続いて再燃直前予測判定に適した3因子モデルついて、生物学的製剤の休薬直後の群(B群)と、再燃が生じる直前時の群(C群)でロジスティック回帰モデルによる組合せの有用性を検討したところ、AUC = 0.811の有用性を示した(図20)。生物学的製剤の休薬直後の群(B群)と、再燃が生じる直前時の群(C群)の再燃直前予測指数(RPI, relapse prediction index)を検討すると、RPIスコアは、例えば以下の数式で計算され、Pのcut-off値は0.31であった。
(式) RPIスコア = logit(P) = log(P / (1 - P)) = 12.519 + 2.63*log2(IL-6) + 23.393*log2 (TSLP) - 12.014*log2 (MMP3)
なお、ここに用いられる各バイオマーカーの単位はpg/mLである。
【0057】
例えば、上記の式で計算されたスコアをもとに、再燃直前の時期を予測することが可能である。特に将来再燃が予測される患者において、これらの予測スコアは有用である。例えば、生物学的製剤が休薬中の状態で、当該の再燃直前予測スコアを測定することは、生物学的製剤の再使用を行う治療法の選択を判断する大きな指標の一つとなるものである。
より好ましい使用法は、まず実施例1および実施例2における使用法を用いて、まず、生物学的製剤の使用により寛解した患者が、将来再燃するか否かを予測し、生物学的製剤の使用の中止を適切に選択する。生物学的製材を中止した場合、特に再燃予測マーカーの使用により再燃の可能性が高いと判定された場合は、実施例3に示すように、再燃直前予測マーカーを継時的に用いて、再燃直前時期を予測する。再燃直前時期を予測した場合は、再燃が生じる前に生物学的製剤の使用の速やかな再開を選択することが好ましい。以上のような使用により、再燃を事前に防ぎ、関節炎の不可逆的な進行を予防することが可能であり、結果として、関節リウマチ患者のQOLを高めることが可能である。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図8-4】
図9
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
図12-1】
図12-2】
図13
図14-1】
図14-2】
図14-3】
図15-1】
図15-2】
図16
図17
図18
図19
図20