(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】ポリマーオパール
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240610BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20240610BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240610BHJP
C08K 3/11 20180101ALI20240610BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240610BHJP
C08K 5/06 20060101ALI20240610BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20240610BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20240610BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240610BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240610BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
C08L101/00
C08J5/00 CER
C08J5/00 CEZ
C08K3/04
C08K3/11
C08K3/38
C08K5/06
C08K5/05
C08K5/17
B82Y30/00
B82Y40/00
C08K7/00
(21)【出願番号】P 2021531867
(86)(22)【出願日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 GB2019053435
(87)【国際公開番号】W WO2020115486
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-11-18
(32)【優先日】2018-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】521240815
【氏名又は名称】ユニヴァーシティー オブ サリー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF SURREY
【住所又は居所原語表記】Guildford GU2 7XH(GB)
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジュレヴィッチ, イザベラ
(72)【発明者】
【氏名】ドルトン, アラン
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108912254(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0051231(KR,A)
【文献】特開2007-271609(JP,A)
【文献】特表2016-508176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー及び添加剤を含むポリマーオパールであって、前記添加剤は、二次元(2D)材料及び/又はカーボンナノチューブを含み、そして前記ポリマーと前記添加剤との重量比は100:0.001~100:0.1である、ポリマーオパール。
【請求項2】
前記ポリマーと前記添加剤との体積比は、100:0.0005~100:0.0
5である、請求項1に記載のポリマーオパール。
【請求項3】
前記添加剤は2D材料からなり、および/または、前記2D材料は、平均厚さが50nm未満であり、最大横寸法の平均サイズが30μm未満である複数の粒子を含み、および/または、前記2D材料は、グラフェン、六方晶窒化ホウ素(h-BN)及び遷移金属ジカルコゲナイドからなる群から選択される、請求項1又は2に記載のポリマーオパール。
【請求項4】
界面活性剤を含む、請求項1~3のいずれかに記載のポリマーオパール。
【請求項5】
前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤を含む、請求項4に記載のポリマーオパール。
【請求項6】
前記非イオン性界面活性剤は、
【化5】
(ここで、nは1~50の整数である)及び/又はポリソルベートを含み、
ここで、前記非イオン性界面活性剤は、Trito
n(登録商標)X-100及び/又はポリソルベート80を含んでもよい、請求項5に記載のポリマーオパール。
【請求項7】
前記ポリマーと前記非イオン性界面活性剤との体積比は、
100:0.0001~100:2である、請求項5または6のいずれかに記載のポリマーオパール。
【請求項8】
前記ポリマーの乾燥ガラス転移温度(T
g)は0~100℃であって、および/または、前記ポリマーは、平均粒径が50nm~1000nmである複数の粒子を含み、および/または、前記ポリマーは、カルボン酸基を有する、請求項1~7のいずれかに記載のポリマーオパール。
【請求項9】
間隙液を含
み、
前記ポリマーオパールは前記間隙液を0.5wt%~30wt%含んでもよく、および/または前記間隙液は、水、アルコール又はアミンを含んでもよい
請求項1~8のいずれかに記載のポリマーオパール。
【請求項10】
ポリマー被覆層を含む、および/または、200nm~1000nm波長で阻止帯域を示し、
前記ポリマー被覆層は、前記間隙液の蒸発速度を変化させるように構成されていてもよい、
請求項9に記載のポリマーオパール。
【請求項11】
ポリマー及び添加剤を溶媒中に含む分散液であって、前記添加剤が、二次元(2D)材料及び/又はカーボンナノチューブを含み、前記ポリマーと前記添加剤との体積比が100:0.0001~100:0.1である分散液を供給する工程と、
前記ポリマー及び前記添加剤の拡散及び沈降に対して支配的な速度で前記溶媒を蒸発させることによってポリマーオパールを形成する工程と、を含
み、
前記ポリマー及び前記添加剤の拡散及び沈降に対して支配的な速度で前記溶媒を蒸発させる工程が、ペクレ数(P
e
)が0.25以上、沈降数(N
s
)が10未満となるように、前記分散液を晒す条件を制御する工程を含む、ポリマーオパールの製造方法。
【請求項12】
前記分散液は、1~80℃の温度及び5%~99%の湿度で保持される、および/または、前記分散液は、界面活性剤を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれかに記載のポリマーオパールを含むフォトニックペーパー、宝飾品、時間温度指示計、メカノクロミックセンサー、導波路、組織工学用スキャフォールド又はセンサー。
【請求項14】
請求項13に記載のフォトニックペーパーと、溶媒を含むペンとを含む偽造防止キット。
【請求項15】
請求項1~10のいずれかに記載のポリマーオパールの、フォトニックペーパーとしての、宝飾品における、時間温度指示計としての、メカノクロミックセンサーにおける、導波路における、組織工学用スキャフォールドとしての、又はセンサーとしての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーオパールに関する。本発明は、ポリマーオパールの製造方法及びポリマーオパールの様々な用途に及ぶ。
【背景技術】
【0002】
自然界には驚くべき機能性材料の例が存在している。蝶の羽又はオパール原石に見られるような構造色は特に魅力的である。単一粒径のコロイド粒子の高度に秩序化された集合体からなる合成フォトニック結晶を使用してこのような挙動を模倣することは、様々な新しい用途が期待される。感色性が要求されるコロイドフォトニック結晶の主な制限要因の1つは、不透明性である。不透明性の原因は、拡散光及び低屈折率差を発生させる強い非干渉性散乱を引き起こす構造的無秩序である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、本発明者らが合成コロイドフォトニック結晶を製造しようとする試みによるものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様によれば、ポリマー及び添加剤を含むポリマーオパールが提供され、前記添加剤は、二次元(2D)材料及び/又はカーボンナノチューブを含み、そしてポリマーと添加剤との重量比は100:0.001~100:0.1である。
【発明の効果】
【0005】
有利なことに、本発明者らは、第1の態様に記載のポリマーオパールが、コロイドポリマー結晶格子に閉じ込められた添加剤を含む、機械的に強固で、自立した、柔軟で厚い合成オパールであることを見出した。特に、この添加剤は、虹色を著しく増加させると共に、角度依存性の高い構造色と、可視光スペクトル全体で可逆的にシフトできる阻止帯域とを生成する有害散乱を低減する。
【0006】
実施例で用いられるグラフェン及びポリマーの場合、100:0.001~100:0.1の重量比は、約100:0.0005~100:0.05の体積比に相当する。
【0007】
ポリマーと添加剤との重量比は、100:0.002~100:0.08であり、より好ましくは100:0.004~100:0.06、100:0.006~100:0.04又は100:0.007~100:0.02であり、最も好ましくは100:0.008~100:0.015又は100:0.009~100:0.0125であってよい。
【0008】
代替的又は追加的に、ポリマーと添加剤との体積比は、100:0.001~100:0.01であり、より好ましくは100:0.002~100:0.08又は100:0.003~100:0.007であり、最も好ましくは100:0.004~100:0.006であってよい。
【0009】
添加剤は、2D材料で構成することができる。
【0010】
「2D材料」という用語は、厚さが数ナノメートル以下の材料を意味することができる。したがって、材料の厚さは、10nm以下、5nm以下又は2nm以下であってよい。2D材料は、単層の原子を含み得る。なお、単層は複数の階層を含み得ることを理解されたい。例えば、二硫化モリブデンは、硫化物イオンの2つの平面の間に挟まれたモリブデンイオンの平面を含む。代替的に、グラフェンの層中の全ての炭素原子が同一平面上に配置されているため、単層のグラフェンは1層であると見られる可能性がある。したがって、単層は、1~5の階層、好ましくは1~3の階層を含むことができる。原子の単層内の1つの原子は、原子の単層内の他の原子と共有結合してよい。単層が複数の階層を含むいくつかの実施形態では、1つ原子は、原子の単層内の異なる階層内の1つ以上の原子と共有結合してよい。ただし、原子の単層内の1つの原子は、原子の単層内でない別の原子と共有結合しなくてよい。
【0011】
したがって、2D材料は、複数の層を含み得る。複数の層は、互いに隣接してよい。複数の層は、共有結合によって連結されなくてよい。
【0012】
好ましくは、2D材料は、複数の粒子を含む。
【0013】
複数の粒子は、平均厚さが50nm未満、40nm未満、30nm未満又は20nm未満、より好ましくは10nm未満、7.5nm未満、5nm未満又は2.5nm未満、最も好ましくは2nm未満、1.5nm未満又は1nm未満であってよい。代替的又は追加的に、複数の粒子は、平均層数が1層~20層、より好ましくは1層~15層又は1層~10層、最も好ましくは1層~5層であってよい。
【0014】
複数の粒子は、最大横寸法の平均サイズが30μm未満、20μm未満、15μm未満又は10μm未満であってよく、より好ましくは5μm未満又は4μm未満、最も好ましくは3.5μm未満であってよい。複数の粒子は、最大横寸法の平均サイズが20nm以上、30nm以上又は40nm以上、より好ましくは50nm以上又は75nm以上、最も好ましくは100nm以上であってよい。複数の粒子は、最大横寸法の平均サイズが20nm~20μm、30nm~15μm又は40nm~10μm、より好ましくは50nm~5μm又は75nm~4μm、最も好ましくは100nm~3.5μmであってよい。なお、横寸法とは、粒子の厚さに垂直な方向の寸法であることが理解されよう。
【0015】
2D材料は、グラフェン、酸化グラフェン(GO)、六方晶窒化ホウ素(h-BN)及び遷移金属ジカルコゲナイドからなる群から選択される。なお、遷移金属ジカルコゲナイドは、一般式MX2(ここで、Mは遷移金属であり、Xはカルコゲンである)で表されることが理解されるであろう。遷移金属ジカルコゲナイドは、二硫化モリブデン(MoS2)、二硫化タングステン(WS2)、二セレン化モリブデン(MoSe2)、二セレン化タングステン(WSe2)、テルル化モリブデン(IV)(MoTe2)であってよい。
【0016】
添加剤は、複数のカーボンナノチューブで構成することができる。各カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブであってよい。
【0017】
好ましくは、ポリマーオパールは、界面活性剤を含む。
【0018】
界面活性剤は、好ましくは非イオン性界面活性剤を含む。したがって、非イオン性界面活性剤は、下記式(I)で表される構造を有してよい。
【0019】
R1‐R2(I)
【0020】
ここで、R1は親水性基であり、そして
R2は疎水性基である。
【0021】
R1は、任意に置換されたC5~C10のアリール基、任意に置換された5~10員のヘテロアリール基又はC1~C30のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基であってよい。任意に置換されたC5~C10のアリール基は、任意に置換されたフェニル基であってよい。代替的に、R1は、C10~C20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基であってよい。
【0022】
アリール基又はヘテロアリール基は、C1~C20の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基又はハロゲン基で置換されてよい。アリール基又はヘテロアリール基は、好ましくはC2~C15の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基で置換され、最も好ましくはC3~C10の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基で置換される。
【0023】
好ましい実施形態では、R
1は、
【化1】
である。
【0024】
R
2は、好ましくは酸素を含み、より好ましくは
【化2】
を含む。R
2は、好ましくは
【化3】
(ここで、nは1~50の整数である)である。非イオン性界面活性剤は、複数の式(I)の分子を含み得る。したがって、nは、複数の分子内で変化してよい。nの平均値は、好ましくは2~40又は3~30であり、最も好ましくは5~15又は7.5~12.5である。
【0025】
代替的に、R
2は、
【化4】
(ここで、w、x、y、zは、それぞれ独立して1~20の整数である)であってよい。好ましくは、w、x、y、zの和は20である。
【0026】
したがって、1つの実施態様では、非イオン性界面活性剤は、
【化5】
及び/又はポリソルベートを含むことができる。非イオン性界面活性剤は、TritonX-100及び/又はポリソルベート80を含み、好ましくはritonX-100を含むことができる。
【0027】
ポリマーと界面活性剤との体積比は、100:0.0001~100:2であり、より好ましくは100:0.001~100:1又は100:0.01~100:0.75であり、最も好ましくは100:0.4~100:0.6であってよい。
【0028】
ポリマーと非イオン性界面活性剤との体積比は、100:0.0001~100:2であり、より好ましくは100:0.001~100:1又は100:0.01~100:0.75であり、最も好ましくは100:0.4~100:0.6であってよい。
【0029】
ポリマーの乾燥ガラス転移温度(Tg)は、好ましくは0℃~100℃、より好ましくは5℃~75℃又は10℃~50℃、最も好ましくは15℃~47.5℃、20℃~45℃、22.5℃~42.5℃又は25℃~35℃であってよい。なお、Tgは、実施例に記載されているように決定され得ることが理解されよう。
【0030】
なお、界面活性剤の配合により、オパールの乾燥ガラス転移温度(Tg)はポリマーとは異なる場合があることを理解されたい。オパールのTgは、好ましくは-20℃~120℃、より好ましくは-15℃~95℃又は-10℃~70℃、最も好ましくは-5℃~67.5℃、0℃~65℃、2.5℃~62.5℃又は5℃~55℃である。
【0031】
ポリマーは、好ましくは複数の粒子を含む。
【0032】
複数のポリマー粒子の平均粒径は、好ましくは50nm~1000nm又は100nm~500nm、より好ましくは150nm~450nm又は200nm~400nm、最も好ましくは210nm~380nm、220nm~360nm、230nm~340nm、240nm~320nm又は250nm~300nmである。粒径は、動的光散乱法及び/又は原子間力顕微鏡法を用いて決定することができる。
【0033】
好ましくは、複数のポリマー粒子は、実質的に単分散である。
【0034】
複数のポリマー粒子は、動的光散乱(DLS)による多分散指数(PDI)が0.4未満、より好ましくは0.3未満又は0.2未満、最も好ましくは0.1未満又は0.05未満の場合には、実質的に単分散であると見られる。DLSからのPDIの算出は、ISO標準文書であるISO 22412:2017に規定される。
【0035】
代替的又は追加的に、複数のポリマー粒子は、多分散度の百分率が30%未満、より好ましくは25%未満、最も好ましくは20%未満の場合には、実質的に単分散であると見られる。多分散度の百分率はPDIから導出される。
【0036】
複数のポリマー粒子は、ポリマーオパール中に、好ましくは最密充填構造を画定し、より好ましくは六方最密充填構造を画定する。
【0037】
複数のポリマー粒子は、他の界面活性剤により安定化されてよい。ポリマー粒子を安定化させるための適切な界面活性剤は、当技術分野でよく知られている。他の界面活性剤は、非イオン性又はイオン性界面活性剤であり得る。例えば、乳化重合に用いられる界面活性剤の例としては、アルキルジフェニルオキシドジスルホネート、アルキルフェノールエトキシレート、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0038】
好ましくは、ポリマーは、カルボン酸基を含む。
【0039】
ポリマーは、複数のモノマーからなるコポリマーであってよい。好ましくは、ポリマーは、複数のモノマーからなるランダムコポリマーである。
【0040】
複数のモノマーは、カルボン酸基を含む第1のモノマーを含むことができる。好ましくは、第1のモノマーは、不飽和カルボン酸である。第1のモノマーは、メタクリル酸(MAA)又はアクリル酸(AA)であってよい。
【0041】
複数のモノマー中の第1のモノマーのモル比率は、0.5%~20%であり、より好ましくは1%~10%又は1.5%~7.5%であり、最も好ましくは2%~5%又は2.5%~4%であってよい。
【0042】
好ましくは、複数のモノマーは、エステル基を含む第2のモノマーを含む。好ましくは、第2のモノマーは、不飽和エステルである。したがって、第2のモノマーは、下記式(II)で表される化合物を含むことができる。
【0043】
【0044】
ここで、R3は、C1~C20の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基である。
【0045】
R3は、好ましくはC1~C15の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基であり、より好ましくはC1~C10の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基であり、最も好ましくはC1~C5の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基である。したがって、R3は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はプロピル基であってよい。好ましい実施形態では、R3は、ブチル基である。したがって、第2のモノマーは、ブチルアクリレート(BA)であってよい。
【0046】
複数のモノマー中の第2のモノマーのモル比率は、1%~95%であり、より好ましくは5%~80%又は10%~70%であり、最も好ましくは25%~60%、35%~50%又は40%~45%である。
【0047】
複数のモノマーは、第2のモノマーのほか又は第2のモノマーの代わり、エステル基及び/又はC5~C10のアリール基を含む第3のモノマーを含むことができる。好ましくは、第3のモノマーは、不飽和エステルである。したがって、第3のモノマーは、下記式(III)で表される化合物を含むことができる。
【0048】
【0049】
ここで、R4及びR5は、それぞれ独立してC1~C20の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基である。
【0050】
R4及びR5は、それぞれ独立して、好ましくはC1~C15の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基であり、より好ましくはC1~C10の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基であり、最も好ましくはC1~C5の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基である。したがって、R4及びR5は、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はプロピル基であってよい。好ましい実施形態では、R4及びR5は、それぞれメチル基である。したがって、第3のモノマーは、メチルメタクリレート(MMA)であってよい。代替的に、第3のモノマーは、メタクリル酸-2-(アセトキシ)エチル(AAEM)又はスチレンであってよい。
【0051】
複数のモノマー中の第3のモノマーのモル比率は、1%~95%であり、より好ましくは5%~90%又は10%~80%であり、最も好ましくは20%~70%、40%~65%又は50%~60%である。
【0052】
したがって、いくつかの実施形態では、第1のモノマーはMAAであり、第2のモノマーはBAであり、第3のモノマーはMMAである。本実施形態では、ポリマーは、さらに、AAEMであってよい第4のモノマーから構成されてよい。
【0053】
代替的な実施形態では、第1のモノマーはAAであり、第2のモノマーはBAであり、第3のモノマーはスチレンである。
【0054】
好ましくは、ポリマーオパールは、間隙液を含む。好ましくは、間隙液は、ポリマーオパールの膨潤を誘発しない。間隙液は、水、アルコール又はアミンを含んでいてもよい。アルコールは、ジオールを含んでいてもよい。アミンは、ジアミンを含み、好ましくは1,6-ヘキサンジアミンを含んでいてもよい。有利には、オパールの色は、用いられる間隙液によって異なる。
【0055】
間隙液は、ポリマーオパールの0.5wt%以上、より好ましくはポリマーオパールの2wt%以上、4wt%以上又は6wt%以上含まれ、最も好ましくはポリマーオパールの7wt%以上、8wt%以上又は8.5wt%以上であってよい。間隙液は、ポリマーオパールの30wt%未満、より好ましくは20wt%未満、17.5wt%未満又は15wt%未満含まれ、最も好ましくはポリマーオパールの12.5wt%未満、10wt%未満又は9.5wt%未満含まれ得る。間隙液は、ポリマーオパールの0.5wt%~30wt%、より好ましくはポリマーオパールの2wt%~20wt%、4wt%~17.5wt%又は6wt%~15wt%、最も好ましくはポリマーオパールの7wt%~12.5wt%、8wt%~10wt%又は8.5wt%~9.5wt%含まれ得る。
【0056】
ポリマーオパールは、ポリマー被覆層を含み得る。ポリマー被覆層は、間隙液の蒸発速度を変化させるように構成されてよい。有利には、これにより、ポリマーオパールがその色を失うのにかかる時間を変更することができ、これを、時間温度指示計(TTI)として利用することができる。代替的に、ポリマー被覆層は、間隙液の蒸発を防止するように構成されてよい。有利には、これにより、ポリマーオパールの色が維持され、例えば宝飾品で装飾的に使用できるようになる。ポリマー被覆層は、ポリマー樹脂を含むことができる。
【0057】
好ましくは、ポリマーオパールは、阻止帯域を示す。ポリマーオパールは、好ましくは200nm~1000nm又は300nm~800nm、より好ましくは390nm~700nmの波長で阻止帯域を示す。いくつかの実施形態では、ポリマーオパールは、400nm~650nm、450nm~600nm、500nm~550nm又は510nm~530nmの波長で阻止帯域を示す。
【0058】
また、本発明者らは、これらのポリマーオパールの製造方法が新規性及び進歩性を有すると考えている。
【0059】
したがって、本発明の第2の態様によれば、ポリマーオパールの製造方法が提供され、この方法は、
ポリマー及び添加剤を溶媒中に含む分散液であって、前記添加剤が、二次元(2D)材料及び/又はカーボンナノチューブを含み、前記ポリマーと前記添加剤との体積比が100:0.0001~100:0.1である分散液を供給する工程と、
ポリマー及び添加剤の拡散及び沈降に対して支配的な速度で溶媒を蒸発させることによってポリマーオパールを形成する工程と、を含む。
【0060】
有利には、第2の態様に係る方法は、第1の態様に係るポリマーオパールを製造する。
【0061】
ポリマー及び添加剤は、第1の態様に関して定義された通りであってよい。
【0062】
なお、ポリマー及び添加剤の拡散及び沈降に対して支配的な速度で溶媒を蒸発させる条件は、ポリマー、添加剤及び溶媒の性質によって異なることが理解されよう。ただし、これらの条件は、当業者が算出することができる。
【0063】
好ましくは、ポリマー及び添加剤の拡散及び沈降に対して支配的な速度で溶媒を蒸発させることによってポリマーオパールを形成する工程は、ペクレ数(Pe)が0.25以上、より好ましくは0.5以上又は0.75以上、より好ましくは1以上、2.5以上、5以上又は7.5以上、最も好ましくは10以上となるように、分散液を晒す条件を制御する工程を含む。
【0064】
好ましくは、ポリマー及び添加剤の拡散及び沈降に対して支配的な速度で溶媒を蒸発させることによりポリマーオパールを形成する工程は、沈降数(Ns)が10未満、より好ましくは7.5未満、5未満又は2.5未満、最も好ましくは1未満となるように、分散液を晒す条件を制御する工程を含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、溶媒を蒸発させている間、分散液を1~80℃、5~60℃、10~40℃、15~30℃又は17.5~25℃の温度に維持してもよい。いくつかの実施形態では、溶媒を蒸発させている間、溶媒を5%~99%、10%~95%、20%~90%、30%~85%、40%~80%、50%~75%、60%~70%又は62.5%~67.5%の湿度に維持してもよい。
【0066】
分散液は、界面活性剤を含むことができる。界面活性剤は、第1の態様において定義された通りであってよい。
【0067】
溶媒は、水を含んでいてもよい。
【0068】
ポリマー及び添加剤を含む溶媒中に分散液を供給する工程は、
ポリマーを第1の溶媒中に含む第1の分散液を供給する工程と、
添加剤を第2の溶媒中に含む第2の分散液を供給する工程と、
第1の分散液と第2の分散液とを接触させて、ポリマー及び添加剤を溶媒中に含む分散液を供給する工程と、を含むことができる。
【0069】
本方法は、第1の分散液と第2の分散液とを接触させた後に、ポリマー及び添加剤を溶媒中に含む分散液を超音波処理する工程を含むことができる。ポリマー及び添加剤を含む分散液は、1分間以上、より好ましくは2分間以上、4分間以上又は6分間以上、最も好ましくは8分間又は9分間以上超音波処理してもよい。
【0070】
第1の分散液は、界面活性剤を含むことができる。代替的又は追加的に、第2の分散液は、界面活性剤を含むことができる。好ましい実施形態では、第2の分散液は、界面活性剤を含む。
【0071】
ポリマーは、好ましくは10~90wt%の第1の分散液、より好ましくは20~80wt%又は30~75wt%の第1の分散液、最も好ましくは40~70wt%、45~65wt%又は50~60wt%の第1の分散液を含む。
【0072】
第2の分散液は、好ましくは0.001~50mgml-1の添加剤を含み、より好ましくは0.01~10mgml-1又は0.05~5mgml-1の添加剤及び最も好ましくは0.01~10mgml-1又は0.05~5mgml-1の界面活性剤を含み、最も好ましくは0.1~1mgml-1、0.25~0.75mgml-1又は0.4~0.6mgml-1の添加剤を含む。
【0073】
第1の分散液を供給する工程は、
第1の溶媒及び複数のモノマーを含むエマルションを供給する工程と、
モノマーを重合させて、ポリマーを第1の溶媒中に含む第1の分散液を供給する工程と、を含むことができる。
【0074】
好ましくは、エマルションは、更なる界面活性剤を含む。適切な更なる界面活性剤及びその濃度は、当技術分野で周知である。
【0075】
好ましくは、複数のモノマーは、第1の態様において定義された通りである。
【0076】
第1の溶媒は、水を含んでいてもよい。
【0077】
第2の分散液を供給する工程は、添加剤と第2の溶媒とを接触させて第2の分散液を供給する工程を含むことができる。
【0078】
添加剤と第2の溶媒とを接触させる前に、本方法は、第2の溶媒と界面活性剤とを接触させる工程を含むことができる。界面活性剤は、非イオン性界面活性剤を含んでいてもよい。非イオン性界面活性剤は、第1の態様に関して定義された通りであってよい。したがって、添加剤と第2の溶媒とを接触させる工程は、添加剤と、第2の溶媒及び界面活性剤を含む溶液とを接触させる工程を含むことができる。接触させる第2の溶媒及び界面活性剤の量は、好ましくは0.001~100mgml-1の界面活性剤、より好ましくは0.01~10mgml-1又は0.05~5mgml-1の界面活性剤、最も好ましくは0.1~1mgml-1、0.25~0.75mgml-1又は0.4~0.6mgml-1の界面活性剤を含む溶液を提供するのに十分な量である。
【0079】
添加剤と第2の溶媒とは、0.1~1000mgml-1の添加剤、より好ましくは1~500mgml-1、2.5~250mgml-1又は5~100mgml-1の添加剤、最も好ましくは10~75mgml-1、15~50mgml-1又は20~30mgml-1の添加剤を含む溶液を供給するのに十分な量で接触させることができる。
【0080】
好ましくは、添加剤と第2の溶媒とを接触させた後に、本方法は、添加剤及び第2の溶媒を含む溶液を超音波処理する工程を含む。本方法は、該溶液を、15分間以上、30分間以上、45分間以上又は60分間以上超音波処理する工程を含み、より好ましくは2時間以上又は3時間以上超音波処理する工程を含むことができる。
【0081】
好ましくは、本方法は、該溶液を超音波処理した後に、該溶液を静置する工程を含む。本方法は、好ましくは30分間~200時間、1時間~100時間、2時間~48時間又は4時間~36時間、より好ましくは6時間~24時間、8時間~20時間、10時間~18時間又は12時間~16時間、該溶液を静置する工程を含む。
【0082】
好ましくは、本方法は、該溶液を超音波処理した後に、頂部の溶液画分を得る工程を含む。頂部の溶液画分は、該溶液の1~99%、より好ましくは該溶液の10~90%、20~80%又は30~70%、最も好ましくは該溶液の40~60%又は45~65%に含まれ得る。
【0083】
好ましくは、本方法は、頂部の溶液画分を遠心分離する工程を含む。頂部の溶液画分は、1分間~100時間、より好ましくは15分間~10時間、30分間~5時間又は45分間~4時間、最も好ましくは60分間~3時間、70分間~2時間又は80分間~100分間遠心分離してよい。頂部の溶液画分は、10~100000rpm、より好ましくは100~10000rpm、250~7500rpm又は500~5000rpm、最も好ましくは750~4000rpm、1000~3000rpm、1200~2000rpm又は1400~1750rpmの速度で遠心分離してよい。
【0084】
好ましくは、本方法は、頂部の溶液画分を遠心分離した後に、頂部の溶液画分を得る工程を含む。頂部の溶液画分は、遠心分離溶液の1~99%、より好ましくは5~90%、10~70%又は15~50%、最も好ましくは20~40%又は25~45%に含まれ得る。好ましくは、遠心分離された頂部の溶液画分は、第2の分散液である。
【0085】
ポリマーオパールは、多くの用途に使用することができる。
【0086】
第3の態様によれば、第1の態様に係るポリマーオパールを含むフォトニックペーパーが提供される。
【0087】
実施例で説明するように、第1の態様に係るポリマーオパールは、異なる溶媒に晒すことによって色を変化させることができる。したがって、このフォトニックペーパーは、溶媒と共に、偽造防止の用途に使用され得る。例えば、1,6-ヘキサンジアミンなどの溶媒を含むペンは、フォトニックペーパーの表面に筆記するために使用でき、これによりその表面は短時間で色を変化させることができる。
【0088】
第4の態様によれば、第3の態様に係るフォトニックペーパーと、溶媒を含むペンとを含む偽造防止キットが提供される。
【0089】
溶媒は、水よりも屈折率の高い溶媒を含んでいてもよい。例えば、溶媒は、1,6-ヘキサンジアミンを含んでもよい。
【0090】
したがって、第5の態様によれば、第1の態様に係るポリマーオパールを含む宝飾品又は時間温度指示計が提供される。
【0091】
宝飾品は、ポリマー被覆層を含み得る。ポリマー被覆層は、間隙液の蒸発を防止するように構成されてよい。
【0092】
時間温度指示計は、ポリマー被覆層を含み得る。ポリマー被覆層は、間隙液の蒸発速度を制御するように構成されてよい。
【0093】
したがって、第6の態様によれば、第1の態様に係るポリマーオパールを含むメカノクロミックセンサーが提供される。
【0094】
メカノクロミックセンサーは、機械的入力に応答して色変化を示すように構成されたセンサーとみなすことができる。機械的入力は、応力又は歪みを含み得る。
【0095】
メカノクロミックセンサーは、指紋スキャナを含み得る。指紋スキャナは、ポリマーオパールの色変化を記録するように構成された分光器をさらに含んでいてもよい。分光器は、ポリマーオパールの第1の側面に配置され、ポリマーオパールは、その第2の側面上でユーザの指紋を受けるように構成され、ポリマーオパールの第1の側面は、第2の側面と対向している。
【0096】
メカノクロミックセンサーは、歪みセンサーを含み得る。
【0097】
メカノクロミックセンサーは、伸縮性電子回路を含み得る。
【0098】
代替的に、メカノクロミックセンサーは、衣料品、衣料品に適用されるように構成されたパッチ、又は運動器具を含み得る。
【0099】
衣料品は、バンドを含み得る。バンドは、ユーザの腕又は脚の動きによって伸びるよう、ユーザの腕又は脚の周りにフィットするように構成されてよい。有利には、バンドの色の変化により、ユーザは、自分が正確に運動していることを確認することができる。
【0100】
代替的に、衣料品は、靴の中敷を含み得る。有利には、ユーザの歩行又は走行によって生じる靴の中敷の色変化により、ユーザの歩容を解析することができる。
【0101】
運動器具は、ユーザが伸ばすように構成された長尺状の部材又はバンドを含み得る。有利には、長尺状の部材又はバンドの色変化により、ユーザは、長尺状の部材をどの程度強く伸ばしたかを判断することができ、これにより、どのような運動が有効であるかを判断することができる。
【0102】
第7の態様によれば、第1の態様に係るポリマーオパールを含む導波路が提供される。
【0103】
導波路は、三次元(3D)導波路であってよい。
【0104】
ポリマーオパールは、内部にチャネルを画定してよい。好ましくは、ポリマーオパールは、所定の波長で阻止帯域を示す。好ましくは、チャネルは、所定の波長の光を通過させるように構成されている。有利には、ポリマーオパールを通過しない光は、チャネルを通過してよい。ポリマーオパールは、第1の態様に関して定義された通りに阻止帯域を有し得る。
【0105】
第8の態様によれば、第1の態様に係るポリマーオパールを含む組織工学用スキャフォールドが提供される。
【0106】
スキャフォールドは、心臓組織工学用及び/又は軟骨組織工学用であり得る。スキャフォールドは、心筋細胞(CM)又は軟骨細胞を増殖させるためのものであってよい。
【0107】
第9の態様によれば、第1の態様に係るポリマーオパールを含む標的検体を検知するように構成されたセンサーが提供される。
【0108】
センサーは、ガスセンサーであってよい。したがって、センサーは、ガス中の検体を検知するように構成され得る。代替的又は追加的に、センサーは、溶液中の検体を検知するように構成されてよい。センサーは、マスタードガス、神経剤の分解物、サリン、アセトン、二酸化窒素(NO2)、アンモニア(NH3)、硫化水素(H2S)、テトラヒドロフラン(THF)、ニトロトルエン、1,5-ジクロロペンタン(DCP)、1,4-ジクロロベンゼン(DCB)、一酸化炭素(CO)、水素(H2)、エタノール、クロロホルム、トルエン、アセトニトリル、メタノール、キシレン、二酸化硫黄(SO2)、メタン又は二酸化炭素(CO2)のうちの1種以上を検知するように構成することができる。
【0109】
第10の態様によれば、フォトニックペーパーとしての、宝飾品における、時間温度指示計Tとしての、メカノクロミックセンサーにおける、導波路における、組織工学用スキャフォールドとしての、又は標的検体を検知するセンサーとしての、第1の態様に係るポリマーオパールの使用が提供される。
【0110】
本明細書に記載された全ての特徴(添付の特許請求の範囲、要約書及び図面を含む)及び/又はこのように開示された方法又はプロセスの全てのステップは、かかる特徴及び/又はステップの少なくとも一部が相互排他的である組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
本発明をよりよく理解し、本発明の実施形態がどのように実施されるかを示すために、次に、例として、添付図面について記述する。
【0112】
【
図1】6ヶ月間の標準的な重力沈降の結果として生じたポリマーラテックス粒子の沈降を示す写真である。
【
図2】6ヶ月間の重力沈降の結果として生じたポリマーラテックス粒子及びグラフェンの沈降を示す写真である。
【
図3】a:グラフェンフレークの計算されたストークス沈降速度を、直径255nmのポリマー粒子のストークス沈降速度と比較した、サイズの関数として示すグラフである。 b:TEMにより得られたグラフェンフレークのサイズ分布のヒストグラムである。挿入図は、グラフェンフレークの代表的なTEM画像である。 c:AFMにより得られたグラフェンフレークの厚さを示すヒストグラムである。挿入図は、グラフェンフレークと、白い線でマークされた画像を水平方向にスキャンした対応するラインスキャンとの代表的な拡大画像である。この分析から、グラフェンフレークのトポグラフィの高さは、約2.45nmであると測定される。液体薄片化グラフェンの単層の見かけ上のAFM厚さが典型的には~0.96nmであることを考慮すると、AFMヒストグラムは、グラフェンシートが数層のみで構成されていることを示唆している。
【
図4】a:無次元座標ペクレ数(Pe)及び沈降数(Ns)に基づく乾燥状態マップである。 b、c:蒸発駆動の自己重層化中に形成される結晶の写真であり、それぞれ上面図及び側面図を示す。
【
図5】a:グラフェンをドープしたフォトニック結晶(PC-G)中に存在する水の量を示す熱重量分析(TGA)データを示す。 b:周囲条件下で72時間乾燥させた後に水が完全に失われた後のPC-G結晶(左)及び純粋なフォトニック結晶(PC)(右)の色の喪失を示す写真である。 c:湿潤又は乾燥時のPC-Gの薄い結晶の色の違いを示す写真である。
【
図6】フォトニック結晶の写真と微細構造を示す。特に、 a:PC(左)及びPC-G(右)のラテックス分散液の写真である。 b:PCの上面図の写真である。 c:PC-Gの上面図である。 d:異なる視野角から観察した場合の
図6cと同じPC-Gの写真である。 e、f:層状構造を示すPC-G断面のAFMトポグラフィック画像である。 g:高さを示すPC-G断面のAFMトポグラフィック画像である。 h:間隙部位に存在するグラフェンフレーク(偽色)を示すPC-Gの上面の位相画像である。
【
図7】a:PC及びPC-Gについてθ=0°で得られた波長の関数としての透過率を示し、かつグラフェンの含有による阻止帯域の有意な赤方偏移を示すグラフである。 b:PC試料とPC-G試料からのシミュレートされた透過である。試料の厚さは4000nmである。 c:PC-Gの光入射角による透過スペクトルの変動を示す。 d:異なる光入射角での偏光解析データから算出されたPC-Gの屈折率n(λ)を示す。比較のために、点線は、
図7fに示すように得られたn
effを示す。挿入図は、20°の光入射角で測定された偏光解析パラメータΨ(λ)及びΔ(λ)を示す。 e:挿入図が回折環を示す、PC及びPC-GのcSAXSデータを示す。 f:PC(正六角形)及びPC-G(四角形)の実験的(四角形及び正六角形)及びシミュレートされた(黒色破線及び青色破線)のブラッグ波長λ
Bを示す。データは、挿入図に示された方程式に、線形最小二乗法回帰式を用いて当てはめる(式中、d
hklは面間隔であり、n
effは有効屈折率であり、θは入射角である)。
【
図8】a:PCの光入射角による透過スペクトルの変動を示す。 b:入射角の関数としてのΨスペクトルのピークの位置を示す(試料表面の法線に対して測定される)。挿入図は、4つの異なる角度のスペクトルを示す。
【
図9】a:150%の伸長前(緑色)及び過程(青色)の伸縮性PC-Gの変形を示す。挿入図は、結晶形態の変動と、歪み(δ)の関数としての阻止帯域位置の関連するシミュレートされた変化との概略図を示す。 b:加えられた負荷の関数としての阻止帯域の青方偏移を示し、図中、Aは負荷が加えられる前のPC-G結晶に対応し、Bは負荷が加えられた後のPC-G結晶に対応する。 c:結晶が面内圧縮を受けたときの阻止帯域の赤方偏移を示す、PC-Gの透過率スペクトルを示す。対応する微視的粒子変形のAFMトポグラフィック画像と共に、巨視的圧縮の前及び巨視的圧縮中のPC-Gを示す光学写真も提供する。 d:曲げを加えたPC-Gの光学写真である。
【
図10】a:PC-Gにインプリントされた指紋の写真であり、指の上に載せたPC-Gに隆線が見られる。 b:イヤリングに埋め込まれたPC-Gの写真である。
【
図11】PC-G結晶の拡散のための活性化エネルギーを決定することができるグラフである。
【
図12】界面構造が遷移して関連する色が変化する状態を示す温度に対する時間のプロットである。挿入画像は、PC-G結晶の光学写真、及び緑色から透明への色の変化を示す粒子境界の概略図である。
【
図13】a~c:異なる視野角から観察した場合の、0.005体積%のグラフェンを含む295nmのポリマー粒子で製造されたフォトニック結晶の写真を示す。 d:ポリマーの粒径の関数としての阻止帯域位置の変化を示す(示されているように)PC-Gの透過スペクトルである。
【
図14】(a、b)窒化ホウ素(BN)及び(c)二硫化モリブデン(MoS
2)を含む製造されたフォトニック結晶の写真を示す。
【
図15】グラフェンの重量パーセントを変化させた薄膜フォトニック結晶の初期細胞毒性試験を示す顕微鏡画像の集合である。(A)を付した写真は純粋な膜(0wt%のグラフェン)であり、(B)を付した写真は0.01wt%のグラフェン、(C)を付した写真は0.05wt%である。全ての膜を同様に処理し、UV光の下でダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)と称する細胞培地に約4時間浸漬した後、1試料あたり約10000個の軟骨細胞及び1mLの補充DMEMを播種し、そして、5%のCO
2のインキュベータ内に37℃で5日間保管した。細胞は、エタナール系固定液で固定された。後に1が付された画像は、脱イオン水により再水和されたPCの反射モードでの光学顕微鏡画像を示す。2が付された画像は、脱水膜上の定着細胞のデジタル写真を示す。3又は4が付された画像は、膜のSEM画像である。Dは、細胞が固定され、かつ脱イオン水に再水和された膜のUV~Vi分光スペクトルである。
【
図16】A:光学顕微鏡の反射モードで5日間成長した後の脱水された0.01wt%グラフェンスキャフォールドを示す。 B:反射モードで5日間成長した後の0.05wt%グラフェンスキャフォールドを示す。
【
図17】各膜条件の50×50μm
2領域の二乗平均平方根(RMS)粗さを示す。
【
図18】軟骨細胞を5日間播種し、細胞を酵素的に除去した後の、0wt%のグラフェンを含む薄膜のSEM及びAFM画像の集合である。
【
図19】軟骨細胞を5日間播種し、細胞を酵素的に除去した後の、0.01wt%のグラフェンを含む薄膜のSEM及びAFM画像の集合である。
【
図20】軟骨細胞を5日間播種し、細胞を酵素的に除去した後の、0.05wt%のグラフェンを含む薄膜のSEM及びAFM画像の集合である。
【
図21】MoS
2ナノシートで強化したPCの分光エリプソメトリの反射率データを示し、これらのデータは、アンモニアに晒すことによる反射率ピークの強度の変化と、結晶の濃い緑色から鮮やかな緑色への対応する色変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0113】
本発明者らは、グラフェンを含む新規なコロイド結晶を製造するために、実施例1に記載されるようなa)閉鎖系での重力沈降と、実施例2に記載されるようなb)蒸発駆動の自己重層化という2種類の沈降方法を検討した。
(実施例1)
【0114】
閉鎖系における重力による沈降を用いたコロイド結晶の形成
【0115】
材料及び方法
【0116】
コロイド分散液
使用したラテックスポリマーは、DSMコーティングレジン社(バールビルク、オランダ)から提供され、ブチルアクリレート(BA)、メチルメタクリレート(MMA)、メタクリル酸(MAA)のモル比がBA:MMA:MAA=41:56:3であるランダムコポリマーに基づくものであった。ポリマーは、粒径が255nmであり、乾燥ガラス転移温度(Tg)が28℃であり、初期固形分が55wt.%であり、粘度が42mPa.sであった。ラテックス分散液は、セミバッチ式乳化重合により調製した。
【0117】
グラフェン分散液
シグマアルドリッチ社から購入した黒鉛粉末(品番332461)2.5gを界面活性剤水溶液(0.5mg・ml-1のTritonX-100)100mlに添加し、初期黒鉛濃度を25mg・ml-1にした。この混合物を、ソニックチップ(平坦なヘッドチップを備える超音波処理機ソニックVX-750)を用いて4時間超音波処理した。分散液を一晩静置した。懸濁液の上部50mlを28.5mlのバイアル瓶2本へ静かに移し、1500rpmで90分間、遠心分離機(ヘティヒ社製のマイクロ22R)にかけた。バイアル内の上部14mlの遠心分離液を14mlのバイアル瓶へ静かに移した。グラフェンの水中の最終濃度を0.57mg・ml-1にした。
【0118】
コロイドとグラフェンの分散液
上記のように調製したグラフェン界面活性剤分散液とラテックスを手で撹拌して混合した後、氷水浴中でチップ超音波処理により10分間均質化した。ラテックスとグラフェン界面活性剤分散液の体積比は100:0.012であった。ポリマーに対する複合分散液中のグラフェンの最終的な体積分率は0.005vol.%であった。
【0119】
結果及び考察
純粋なコロイド分散液を密閉されたバイアル瓶に入れ、オープンベンチ上に室温で6ヶ月間放置した。沈降の結果として、
図1に示すように、4つの明確な領域が形成された。各層について、(1)は、透明な液体であり、(2)は、粒子が均一に懸濁した不変領域であり、(3)は、粒子体積分率が深さに応じて減少する層からなる可変領域であり、(4)は沈降物であった。
【0120】
ポリマー粒子が沈降した後に、上方から水を除去してから、蓋を開けて残った水を蒸発させ、結晶を乾燥させた。コロイド結晶の乾燥は、収縮プロセス(乾燥時に目視で観察した体積変化)を伴い、この収縮プロセスは、典型的には粒子の菱形十二面体構造への変形を伴う。
【0121】
直径が500nm未満の粒子について、重力沈降は、それに対抗するブラウン運動により、非常に遅いプロセスとなる。沈降速度は、ポリマーと分散媒との密度差に依存する。ポリマーラテックス球の室温での重力沈降下での沈降速度は、ストークスの式を用いて算出することができる。
【0122】
【0123】
式中、U0は沈降速度であり、ρpは粒子密度であり、ρLは液体(水)密度であり、ηは液体(水)の粘度であり、gは重力加速度であり、rは粒子半径である。
【0124】
gが9.8m/s2、ρpが1.1g/cm3、ρLが1g/cm3、ηが1.002mPa・sである場合、式1によれば、直径255nmのポリマーラテックス粒子について、沈降速度は3.54×10-9m/sであった。
【0125】
ポリマー粒子は、帯電した界面活性剤分子により安定化され、コロイド安定性が著しく向上する。したがって、界面活性剤の存在下では、ポリマー粒子が長期間にわたって非常に安定であるため、ポリマー粒子の実際の沈降速度は非常に遅くなる。
【0126】
コロイドとグラフェンの分散液について同様の重力沈降法を実施した場合、ポリマー粒子に比べて、グラフェンは著しく速く沈降しており、
図2に示すように、有効サイズが大きいため、その結果として、相分離が発生し、かつバイアル瓶の底部に黒色の沈降物が形成された。
【0127】
これを説明するために、本発明者らは、上記式を使用して水性懸濁液からのグラフェンの沈降速度を算出した。
図3に示すように、使用されたグラフェン懸濁液において、大部分のフレークは、厚さが1~5層であり、横サイズが約100nm~約3.5μmであることが見出された。
図3(a)に示すように、グラフェンの沈降速度がラテックス粒子の沈降速度より著しく速いため、重力沈降は、グラフェンをドープしたフォトニック結晶(PC-G)の製造に実現できないプロセスとなっている。
(実施例2)
【0128】
蒸発駆動の自己重層化を用いたコロイド結晶の形成
【0129】
材料及び方法
【0130】
グラフェンをドープしたフォトニック結晶(PC-G)の形成
実施例1に記載されるように、コロイドとグラフェンの分散液を調製した。分散液2.5mlをオープンガラスビーカーに入れて室温で4~6日間放置した。結晶は相対湿度約65%で形成された。
【0131】
純粋なフォトニック結晶(PC)の形成
また、実施例1に記載されるように、コロイド分散液を調製した。調製後、コロイドとグラフェンの分散液に存在する界面活性剤と同量の界面活性剤を添加した。分散液2.5mLをオープンガラスビーカーに入れて放置し、上記したように蒸発させた。
【0132】
結果及び考察
蒸発駆動の自己重層化中に、水相の蒸発と、固相の沈降と、粒子の拡散とが競合している。初期厚さH0で発生する蒸発及び拡散プロセスを表す無次元ペクレ数(Pe)は、以下の式(2)で表記され得る。
【0133】
【0134】
式中、Eは実験的に得られた水分蒸発速度(E=1.1×10
-7m・s
-1)であり、H
0は乾燥結晶の初期厚さであり、D
0はストークス-アインシュタイン拡散係数(D
0=kT/6πηr(式中、kはボルツマン定数であり、Tは温度である)である。この式から、ペクレ数が大きい場合(Pe>>1)に、蒸発が支配的であるが、Pe<<1の場合に、拡散が支配的であることがわかる。Cardinalら(Cardinal C.M.、Jung、Y.D.、Ahn、K.H.&Francis L.F.Drying regime maps for particulate coatings(粒子コーティングのための乾燥領域マップ)。AIChE Journal56号、2769~2780、doi:10.1002/aic.12190(2010))は、PC-Gの形成がどの乾燥状態に支配されるかを予測するための乾燥マップを作成している。
図4aを参照されたい。
図4aでは、logPeを沈降数N
sに対してプロットしており、蒸発に対する沈降の強さを以下の式で表す。
【0135】
【0136】
【0137】
本発明者らの計算によれば、これら3つのプロセスの速度は、蒸発が拡散及び沈降に対して支配的であることを明確に示している。したがって、膜の上方の大気-水界面が蒸発時に下方へ降下すると、ポリマー粒子及びグラフェンが掃引され、上方に堆積される。したがって、このメカニズムでは、
図4b及び4cに示すように、コロイド結晶は自己重層化層において上方から下に向かって成長する。
【0138】
本発明者らは、コポリマーのMAA中に帯電したカルボン酸基が存在するため、蒸発工程におけるポリマー粒子の秩序性が向上すると共に、粒子間の鎖拡散を抑制する膜を生成することに気づいた。また、結晶の向上したロバスト性は、膜の部分的な破断やその後の鎖間拡散の影響も受ける。
(実施例3)
【0139】
PC-Gの構造及び光学的性質の分析
【0140】
材料及び方法
実施例2で製造されたPC-G及びPCを以下のように分析した。
【0141】
トポグラフィック研究
セミコンタクトモードの原子間力顕微鏡(AFM)(NT-MDT、モスクワ、ロシア)を使用した。断面を研究するために、PCを液体窒素中で破断させた。変形中の結晶のAFM画像を得るために、まず、結晶を熱水(80℃)に3秒間浸漬させて変形させた後、撮像用構造物を「凍結」させるために、速やかに氷水浴に浸漬させた。
【0142】
光透過率の測定
光透過率の測定は、コンピュータ制御式ダブルビームUV-Vi分光光度計(島津製作所製UV2501PCデュアルビーム分光光度計)を使用して行った。透過率の測定における入射角を、自主製造の試料ホルダーを用いて試料を回転させることにより、0°~55°に変化させた。吸収スペクトルを200~900nmで記録した。
【0143】
標準偏光解析量の測定
それぞれ偏光の振幅及び相対位相の変化を示す、標準偏光解析量であるΨ及びΔは、可変角度分光エリプソメータ(J.A.ウーラム社、米国)を用いて、385nm~700nmの範囲の波長で20°~55°の入射角の関数として測定した。
【0144】
コヒーレント小角X線散乱データ
cSAXS実験は、スイスのポール・シェーラ研究所で行われた。測定には、試料-検出器間距離7160mm(7mの真空飛行管を使用)及び8.9812keVのX線エネルギーを用い、スポットサイズは約0.7×0.7mmであった。搭載した試料から散乱パターンを捕捉するために、PILATUS 2M検出器を使用した。この検出器は、172×172μm(253.7×288.8mmの活性領域)の1475×1679個の画素を有する。捕捉された散乱パターンを方位角で積分して、放射状散乱プロファイルを得た。
【0145】
結果及び考察
図5aに示すとおり、天然のオパール原石と同様に、このコロイド結晶には、結晶形成プロセスにおいてトラップされた間隙水(約9wt%)が充填されている。しかしながら、これは結晶の色に顕著な影響を与えるグラフェンの含有物である。純粋なフォトニック結晶(PC)は、503nmでの部分的な阻止帯域(
図7a)の結果として、緑色の淡い色味の望ましくない光散乱(
図6a)のために、乳白色に見える。グラフェンプレートレットを配合すると、自然な照明条件下での視野角の変化に伴い、濃い緑色が徐々に濃い青色に変化する(
図6c及びd)。
【0146】
本発明者らは、結晶断面の原子間力顕微鏡(AFM)画像を用いて、知覚された色とその基となる形態との関係を把握した。
図6e~fに示すように、マイクロメートルスケールでは、ポリマー粒子は、間隙部位にグラフェンが存在する明確な平面内で六方最密充填(HCP)構造に集合する(
図1g~h)。AFM及び透過型電子顕微鏡(TEM)によるグラフェンの層数及び長さ分析(
図2b及びc)は、活性充填剤が主に数層のグラフェンであることを示している。グラフェンは、アスペクト比が高く、曲げ弾性率が低いため、ポリマー粒子上を湿潤させ、その結果として結晶内の間隙部位に集合する。導入量が極めて低いため、グラフェンプレートレットの存在がポリマー粒子の配列にほとんど影響せず、結果として結晶の周期性に与える影響もわずかである。
【0147】
また、グラフェン含有結晶は、ブラッグ条件を満たすために、必要な秩序性を有しており、粒子直径の約2倍(約520nm)に位置する阻止帯域が形成されており(
図7a)、この阻止帯域は、純粋な結晶に対して17nm偏移している。
図7fのデータにブラッグの式を当てはめることにより、有効屈折率n
effを算出することができる。得られた分析結果から、PC結晶及びPC-G結晶のn
effはそれぞれ1.26±0.01及び1.34±0.01であり、これらの値は、他の方法で得られたn
eff値とほぼ一致している。PC及びPC-Gの両方の阻止帯域位置を計算したシミュレーション(
図7b)は、シミュレーションでは厚さ4μmの試料を使用する一方、製造された結晶の厚さが5mmであるにもかかわらず、実験スペクトル(
図7a)とよく一致している。コヒーレント小角X線散乱(cSAXS)(
図7e)から得られたデータでは、粒子間距離に関する格子定数が、PCについては239±2nmであり、PC-Gについては240±4nmであることを示されている。粒子間距離は両方の種類の結晶で類似しているため、グラフェンの含有が屈折率差の増加に起因する阻止帯域の赤方偏移の原因である可能性がある。
【0148】
光反射率の特性を明らかにすると共にグラフェン存在下での屈折率の変化を確認するために、偏光解析を入射角θが20°~60°の範囲で行った。純粋なPCは反射率が非常に低いため、スペクトルを得ることができなかった。PC-Gについては、Ψ(s-偏光上のp-偏光の振幅変化の割合)及びΔ(対応する位相変化の差)をθ=20°の場合の波長の関数として示す代表的な偏光解析スペクトルを、
図7dの挿入図に示す。どちらの偏光解析角度にも強いピークを観察するのは500~530nmの波長範囲であり、コロイド結晶中のポリマー粒子の周期界面で発生した反射により説明される。ブラッグの条件を満たさないスペクトル領域の残りの部分では、Ψ及びΔはほぼ一定のままである。予想通り、(試料表面の法線に対して測定された)入射角を大きくすると、共振ピークは短波長側にシフトする(
図8b)。
【0149】
注目すべきことに、PC-Gの光学的性質に対するグラフェン含有の影響は、わずか0.005vol.%の存在下で発生する。このような低い体積分率のグラフェンによってPC-Gの構造色が強く増強されるのは、グラフェンの高い屈折率と、PCに比べて可視領域での広いスペクトル吸光度との独自の組み合わせに起因するものである。天然オパールには、様々な内部欠陥によって非干渉性散乱事象が発生し、そして透過スペクトルの一部が乱反射する。これにより、可視光スペクトルにおける背景反射率が高くなり、試料の外観が乳白色となる。グラフェンの存在下では、非干渉性散乱によってオパール内の有効光路が増加するため、透過光の吸収の可能性が大幅に高くなる。したがって、非励振反射が低減され、そして阻止帯域によりブラッグ散乱された光が反射スペクトルを支配する。有利なことに、このような体積含有率が低いグラフェンは、ポリマー粒子の規則的なHCP構造への充填を妨害せず、光学的性質の特定の調整を可能にする。
(実施例4)
【0150】
応力及び歪みがPC-Gの光学的性質に与える影響の分析
【0151】
材料及び方法
実施例2で製造されたPC-G及びPCに以下のように力を加えた。
【0152】
結果及び考察
図9を参照すると、結晶の高分子的性質により、阻止帯域の位置の顕著な変化は、横方向圧縮、伸長、面内圧力及び曲げによる機械的調節により得ることができる。結晶は、機械的に強固であり、弾性を有し、そしてその性能にヒステリシスがなく周期的に変形することができる。
【0153】
変形したPC-Gの阻止帯域は機械的に制御でき、印加された応力の方向によっては、顕著な青方偏移や赤方偏移が観察される。例えば、延伸倍率が大きくなるにつれて、結晶表面に平行な面間隔が小さくなり、その結果として、伸長された試料の阻止帯域が短波長側に偏移する。その結果、試料の色が緑色から青色へと明らかに変化する。応力が解放されると、試料は元の形状に戻る。結晶格子の変形の概略図は、歪み(δ)の関数としての阻止帯域における関連するシミュレートされた変化と共に、
図9(a)の挿入図に示される。
【0154】
面内一軸圧縮を実施することにより、透過率スペクトル中に約62nmの阻止帯域の顕著な赤方偏移が観察される(
図9c)。再び、応力が解放されると、試料は元の形状に戻る。
図9cのAFM画像から分かるように、圧縮により、結晶表面に平行な面間隔が小さくなっている。画像では見えないが、個々のコロイド粒子の体積保存により、断面における粒子間距離は常に大きくなる。
【0155】
追加的に、PC-Gの阻止帯域は、接触圧を加えると、徐々に青方偏移していく(
図9b)。阻止帯域調節(約45nm)は、21Nの力を加えると、緑色から青色へ明らかに変化する。このPC-Gのメカノクロミック応答は、阻止帯域波長の変化率が歪み率と等しい応力下での粒子のアフィン変形により決定される。これは、初期阻止帯域波長Δλ/ε(%)=λ
O/100=5.2nm/%に係る感度に相当し、この感度は、上記の加えられた歪み及び波長偏移について実験的に検証したものである。この感度は、文献に報告されているメカノクロムセンサーと対抗するものであり、そしてラテックス粒子の大きさ、さらに初期の阻止帯域位置を変更することによりさらに高めることができる。PCのこの可逆的な阻止帯域調節は、印加された荷重を可視的に表示する必要がある幅広い検知用途に利用することができる。
【0156】
PC-G結晶を曲げることにより、断面に沿って虹状の色の変動が発生し、上から下への粒子の変形の程度の変化に関連する微視的な2D歪み場が効果的に生成される(
図9d)。
図10aに示すように、PC-Gは、マルチチャネル応答(圧力と時間)を提供する指紋検出にも使用できる。結果として生じる色の変化によって、指紋を高精度で明らかにする。特に、肌の隆線は明確に定義されており、隆線の深さも明確に区別できる。PC-Gの色変化は、分光学的に検出することができ、例えば、PC-Gの下部に配置されたスキャナで指紋を記録することができる。さらに、PC-Gが元の形状に戻るまでに数秒かかるため、PC-Gに指紋が正しく付与されていることを確認することができる。
【0157】
PC-Gは、光学的性質が調節又は調整できるため、結果が肉眼で直接観察できる幅広い検知用途の魅力的な候補になる。
【0158】
例えば、PC-Gは、インテリジェントな衣料を形成するために使用され得る。このようなインテリジェントな衣料の一例では、PC-Gを含むバンドは、ユーザの腕の周囲に配置可能なサイズにすることができる。ユーザが腕を曲げると、バンドが伸長し、ユーザにフィードバックを与える。特に、このようなバンドは理学療法に応用できる可能性があり、バンドの色変化により、ユーザが運動を正確に完了していることを確認できる。
【0159】
代替的に、PC-Gは、人の歩き方又は走り方に関するフィードバックを提供することができる靴の中敷に使用され得る。
(実施例5)
【0160】
形状記憶ポリマーとしてのPC-Gの使用
【0161】
材料及び方法
実施例2で製造されたPC-G及びPCを以下のように異なる温度に晒した。
【0162】
ガラス転移温度Tgの決定
結晶のTgは、示差走査熱量計(DSC)(TAインスツルメント社製のQ1000、ニューキャッスル、米国)を使用して決定した。試料を、ドロップキャスティング法でポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)型上に付着させた後、DSCに装填する前に室温で48時間乾燥させた。全ての試料について、標準な昇温速度10(℃/min)及び冷却速度10(℃/min)を用いた。ガラス転移に関連した比熱の中間点段階的増加における最初の加熱スキャンで、Tgの値を取得した。
【0163】
考察及び結果
本発明者らは、結晶が、熱などの外部刺激を受けた後に形状及び色を記憶して回復することができるインテリジェントな形状記憶ポリマーとしても機能し得ることを発見した。PC-G結晶の温度は、Tg値の前後で、繰り返して変動させた。結晶は、Tgを超えて変形し、その都度、室温で初期形状に戻る。同時に、阻止帯域は変形前の元の値に戻る。これは、グラフェンプレートレットが結晶格子内に閉じ込められ、粒子のコアレッセンスを阻害しやすいことを示している。
【0164】
同様の条件では、純粋な結晶が不可逆的な粒子膨張と部分的なコアレッセンスを経て、阻止帯域が不可逆的に偏移したり、高温の場合に阻止帯域が完全に消失したりする。
(実施例6)
【0165】
時間温度指示計(TTI)としての又は宝飾品におけるPC-Gの使用
本発明者らは、PC-Gをインテリジェントな包装用の時間温度指示計(TTI)として利用できることを発見した。TTIは、食品、医薬品、化学製品、インク、塗料、塗膜などの腐敗しやすい製品が、望ましくない時間温度履歴を経ているか否かを可視的に示す。PC-Gは、ラミネート又は保護されていない場合には、最終的に乾燥し、そして阻止帯域が消失してしまう。乾燥速度は、選択された乾燥温度に依存し、かつ明確な色変化によって明らかになる。
図5b及びcに示すように、室温で乾燥させると、結晶の色は、結晶厚さに応じて緑色から透明又は黒色に変化する。
【0166】
結晶を再び水に浸漬すると、PC-Gは、再水和して元の緑色に戻る。本発明者らは、厚い結晶の場合、この過程に12時間かかることを発見した。PCがその最低成膜温度(MFFT)付近で形成されているため、粒子変形は不完全であり、依然として粒子間界面が存在している。粒子表面に親水性官能基の他に細孔の網が存在するため、水の拡散は間隙部位に沿って進行し、良好な浸透性を可能にする。結晶は、そのTg値以上の温度で処理されると、広い温度範囲(RT~100℃)で機能する可視型TTIとなり得る。結果として生じる間隙水の蒸発(屈折率の低下)とポリマー粒子の熱膨張(格子定数の増加)が相まって、阻止帯域の赤方偏移が生じ、わずかな温度上昇に対しても非常に敏感となる。
【0167】
高温では、阻止帯域が消えて結晶が不可逆的に色を失う特定のカットオフポイントがある。ポリマーのTgを超えて長時間晒される場合、個々のポリマー鎖が粒子間界面に拡散することにより、ポリマーラテックス膜においてよく知られているコアレッセンスである、粒子の不可逆的、かつ完全なコアレッセンスが生じる。周期性が消失するため、ブラッグ回折は、それ以上適用されなくなる。阻止帯域の消失は、ポリマー鎖が粒子間の界面を拡散するのに要する時間により遷移時間が定義された拡散駆動プロセスとして扱うことができる。その応答をアレニウスの式5を用いて説明する。
【0168】
【0169】
式中、kは反応速度定数であり、Zは温度に依存しない前指数因子であり、Eaは品質損失反応の温度感度を表す活性化エネルギーであり、Rは一般ガス定数であり、Tはケルビン(K)単位の絶対温度である。
【0170】
粒子のコアレッセンスには、断面回転半径Rgのオーダーの距離でポリマー鎖を拡散させる必要がある。拡散係数Dは、以下の式(6)のように拡散距離x及び時間tに関連する。
【0171】
【0172】
本発明者らは、鎖がその断面回転半径を拡散する時間は、以下の式(7)のように表記されることを着目した。
【0173】
【0174】
このモデルにとって重要なことは、拡散が熱的に活性化されるという概念である。拡散係数は、以下の式(8)の形態のアレニウス関係で記述される。
【0175】
【0176】
式中、Eaはモル活性化エネルギーであり、Rは理想ガス定数である。この式は、より高い温度で拡散がより速いことを示している。Dを代入すると、以下のようになる。
【0177】
【0178】
したがって、光学的明瞭化及び不可逆なコアレッセンスを達成する時間の自然対数を実験の逆数温度に対してプロットすると、直線関係は以下の式(10)のとおりである。
【0179】
【0180】
図11に示すように、勾配から拡散のための活性化エネルギーが求められる。
【0181】
時間温度相図(
図12)は、界面構造が遷移して関連する色が変化する時間と温度との組み合わせを示している。
図11のデータから得られたPC-Gの活性化エネルギーは、65kJ/molであり、この値は、幅広い適用性を示す市販のTTIと類似している。
【0182】
重要なことは、結晶は、柔軟性や剛性のあるポリマー被覆層に封入されて、間隙水の蒸発を加減することもできる。したがって、所望の用途に応じて、特定の温度での色変化の速度を変化させることができる。
【0183】
代替的に、ポリマー被覆層を使用して、間隙水の蒸発を完全に防止することができる。これにより、結晶の色を永久的に維持することができる。装飾用途に使用される封入化PC-Gの一例は、
図10bに示される。
(実施例8)
【0184】
フォトニックバンドギャップ導波路としてのPC-Gの使用
近年、3Dポリマー系PCによる光伝搬の制御はかなりの関心を集めており、導波路構造及びコロイド結晶レーザの大幅な進歩につながっている。しかしながら、3D PCにおける導波路の製造は、構造の複雑化、高誘電体材料の処理に係る制約及び3D高分解能微細加工技術の実現の困難性などの原因により、大きな課題となっている。
【0185】
材料及び方法
PC-G試料を2つに切断し、2つの切断縁を揃えて平坦面を形成し、試料の平坦な底面の間にラテックスの層を挟む(サンドイッチする)ことにより、導波路試料を作製した。実施例2に記載されるようにPC-G試料を作製し、サンドイッチ層に使用されるラテックスには、PC-Gに使用されるポリマーと同じで、粒径50nmのポリマーを使用した。ファイバ光カプラは、522nmのダイオードレーザ(LCS-T-11、レーザコンパクト社製、ロシア)からの光を導波路構造体の平坦面に集光するように使用した。マイクロメートルステージを用いることにより、レーザ光をPC層又は透明な導波層に選択的に集光させることができる。オリンパスE620デジタルSLRカメラを用いて画像を撮影した。
【0186】
結果
本発明者らは、阻止帯域の存在により、全てのPC-G層を通る522nmレーザからの光伝搬が抑制されたことに着目した。しかしながら、光は、サンドイッチ層を容易に透過した。
(実施例9)
【0187】
フォトニックペーパーとしてのPC-Gの使用
実施例2で製造されたPC-Gを1,6-ヘキサンジアミン中に時間範囲10~60sで浸漬した。浸漬前後に、UV-vis分光を行った。本発明者らは、1,6-ヘキサンジアミンに浸漬した後の阻止帯域は、浸漬時間及び結晶型によって直ちに60nmまで赤方偏移することに着目した。
【0188】
その後に、本発明者らは、吸収スペクトルを時間の関数として得て、間隙部位に存在する1,6-ヘキサンジアミンが経時的に蒸発すると共に阻止帯域が青方偏移することを経時的に観察した。薄いフォトニック結晶ペーパーに対して分光エリプソメトリを行って、該ペーパーが、1,6-ヘキサンジアミンに晒しても膨潤しないことを確認した。厚さの値を求めるために、VASEエリプソメトリソフトウェアを使用して、実験データをCauchyモデルに当てはめた。
【0189】
したがって、これは本発明のドープしたフォトニック結晶をフォトニックペーパーとして使用できることを示している。
(実施例10)
【0190】
フォトニック結晶の性質の変化
【0191】
材料及び方法
実施例2に記載された方法に従い、必要な変更を加えた上で、本実施例に記載されたフォトニック結晶を製造した。
【0192】
結果及び考察
本発明者らは、異なる粒径のポリマー(
図13)及び異なるガラス転移温度を用いることにより、PC-Gの阻止帯域及び膜の機械的性質を容易に調節できることを発見した。
【0193】
追加的に、グラフェンに代えて、幅広い2Dナノ材料を使用することができる。例えば、
図14は、二硫化モリブデン(MoS
2)及び窒化ホウ素(BN)を含むフォトニック結晶を示している。
(実施例11)
【0194】
心臓組織工学用フォトニック結晶スキャフォールド
再生医療は、幅広い疾患や傷害の治療に有望であり、特に身体の神経部位、循環器部位、整形外科部位などの創傷治癒が不良な部位で有望である。例えば、関節の損傷については、関節軟骨は無血管であるため、現在の治療では特に修復が困難である。しかしながら、体外で人工的に増殖させた健康な機能性細胞を移植することで解決できる可能性がある。
【0195】
一方、心循環器疾患の治療では、心臓の機構的な働き及び効率的かつ効果的な薬理薬の両方をよく把握する必要がある。これを実現するために、細胞機能を詳細に研究する必要があり、このため、細胞の生存性及び表現型を維持するためにロバストで信頼性の高い組織モデルが必要とされる。
【0196】
組織工学的に有効なスキャフォールドは、細胞本来の環境または細胞外マトリックス(ECM)を模したものでなければならないことが判明している。これにより、細胞接着が最大限に強化され、さらに重要なことに、人工的に生成された組織が生体内と同じ特性を持つことが保証される。
【0197】
しかしながら、機能的で高度に最適化された組織構造を形成するために、スキャフォールドの物理的性質及び構造に関連する細胞の局所環境を詳細に制御する必要がある。これには、適度なスキャフォールドの空隙率だけでなく、マクロ、マイクロ、ナノスケールのトポグラフィック特徴も含まれる。しかしながら、ECMの模倣に関しては、ナノスケールではほとんど考慮されておらず、このレベルにおいて細胞が基質と相互作用することが非常に重要である。
【0198】
コラーゲンなどの天然ポリマー又は合成ポリマー(例えば、ポリ乳酸グリコール酸(PLGA)、ポリウレタン(PU))を含む心臓や軟骨組織用スキャフォールド材を組み立てるために一般的に用いられている材料は免疫原性(免疫応答を誘発する)であり得る。
【0199】
本発明者らは、これらのPC-Gが心臓組織工学用スキャフォールドとして使用できるか否かを検討することを決定した。
【0200】
方法
スキャフォールドの製造
組織工学用スキャフォールドの製造は、実施例1、2に記載されたとおりである。
【0201】
組織培養実験では、直径10mmのウェルプレートに収まるように、PCを小さな円形に穴開けする必要がある。PCの展延性を高めるために、PCを沸騰水に浸漬し、速やかに取り出して、穴開けを行った。そして、新たに切り出した形状を沸騰水又は熱水に再度浸漬し、冷水中に入れて結晶を元の形状に戻した。
【0202】
組織培養手順
まずフォトニック結晶スキャフォールド構造を最適化するために、関節軟骨細胞(軟骨産生細胞)を使用した。関節軟骨細胞は、ウシ足首の外植片解剖から得たものである。
【0203】
細胞毒性試験
薄膜を直径10mmの円形である適当な形状に切断し、ポリジメチルシロキサン(PDMS)でスライドガラスに貼り付けた。軟骨細胞を基質あたり10000細胞となるように播種し、37℃で5%のCO2で基質あたり1mLの補助濾過DMEMで培養した。5日後、培養物をエタノール/ホルムアルデヒド溶液で固定し、播種したスキャフォールドの半分からトリプシンを介して細胞を除去した。全ての基板に対してAFM、SEM、光学及びDAPIの検査を行った。プラスチックスリップについても対照と同様に処理し、比較のために播種しないPCを同時に複製した。
【0204】
0.05wt%のグラフェンを含むPCのCM膜を使用した場合については、播種は軟骨細胞の手順を模倣した。
【0205】
結果
細胞毒性試験
5日後に、全ての膜が実質的に成長しており、
図15に示すように、0.05wt%のグラフェンを含むPCが最も顕著であった。したがって、ラテックス系ポリマーが軟骨細胞の増殖及び成長のための実行可能なプラットフォームとなり得ることが初めて証明された。
【0206】
図4.6の(A.1)は、0wt%のグラフェンを含む乾燥PCの画像であり、ドットが軟骨細胞である。(A.3)は、細胞がどのように広がり、樹状突起に付着するか、細孔のサイズ及び粗さが、スキャフォールドに固定するためのインテグリンにどのように適応しているか、および、どのように2次元で広がっているかを示している。0wt%~0.01wt%のグラフェンの場合にも同様の細胞の被覆率がある。しかしながら、0.01wt%の場合、分光実験に有用な色(B.1)の遊色効果が大きくなっている。
【0207】
図15の(C.1)を参照すると、0.05wt%のグラフェンを含む膜は、細胞の被覆率がより顕著であり、色のコントラストが最も大きい。付着の表面積がより大きいことから、他のPCスキャフォールドに比べて細胞がより速く付着し、より速く増殖して、コンフルエントなシートを形成することがわかる。グラフェンの含有量が多いほど、グラフェンはよりカラフルで分散性が高くなる。
【0208】
信頼性のある結果を得るために対照のプラスチックスリップを同じ条件で保管した。示されているとおり、使用した細胞はプラスチックスリップを覆っていたため、正常なものであった。撮像されている細胞が、培地に投入されたPC及び培養によるものではないことを保証するために、複製したスキャフォールドも同じ条件で保管していたが、撮像アッセイにおける比較のために細胞を播種しなかった。
【0209】
図17の棒グラフは、5日間の成長と固定後、グラフェンが0.01wt%及び0.05wt%である場合に、表面が最も粗いことを示している。これは、表面に最も高い細胞密度を持っていたという事実に沿うものであり、細胞がグラフェンを好んだことを意味する。興味深いことに、細胞播種後に細胞が除去されたときの粗さは、裸の膜よりも大きく、これは、細胞が十分に柔軟な表面で引っ張られていたことを示唆する。このことは
図18~20に見られるものと一致しており、AFM顕微鏡写真中の高さプロファイルは、表面を引っ張って変形させるポリマーにインテグリンがラッチしたときの高い点である局所的な点を示している。なお、グラフェンが0.01wt%及び0.05wt%である裸の膜は、純粋なスキャフォールドよりも若干粗いことに留意されたい。
(実施例12)
【0210】
化学センサーとしてのフォトニック結晶
また、本発明者らは、PCの化学センサーとしての機能について検討した。
【0211】
上記の方法を用いて、二硫化モリブデン(MoS2)を含むPCを製造した。
【0212】
複合結晶を、NH
3水溶液に異なる時間晒した。結果を
図21に示す。晒すことで、分光エリプソメトリにより得られた結晶の阻止帯域に、顕著な赤方偏移で説明される暗緑から明青緑への急激な色変化がある。また、アンモニアの吸着により、反射の強度が増加する。光学的性質の変化は、MoS
2シート表面のアンモニアの毛管凝縮によって、結晶中の局所屈折率が変化したためと考えられる。アンモニアが蒸発すると、阻止帯域は、晒す前に測定された初期の波長及び強度に戻る。反応は、非常に速く(<1分間)、完全に可逆的である。重要なことは、水自体、またはMoS
2を含まない結晶には反応がないことである。
【0213】
検知材料は、ガス検知の基礎となる。表面機能化、3D構造追従化、ハイブリッド構造の形成などの2Dナノ材料の製造技術を改善することにより、従来の市販の装置により実現できない、ガス検知装置の最高感度および選択性を達成することができる。表1は、特定の化学物質に対して選択的であることが実験的に示され(文献を参照)、かつ結果として得られるPCガスセンサーの選択性と感度を向上させるために、本明細書に記載のフォトニック結晶に組み込むことができる2Dナノ材料の例を示している。これら材料の性質(例えば、化学兵器としての性質)により、リストされたすべての検体を試験することは容易ではないことに留意されたい。したがって、必要に応じて、試験の実施を可能にする適切な類似物も記載されている。
【0214】
【0215】
結論
本発明者らの作業によって、コロイダルポリマー結晶格子に閉じ込められた純粋なグラフェンプレートレットを含む、機械的に強固で、自立した、柔軟的でかつ厚い合成オパールの第1の実験実証が提供された。本発明者らは、純粋なグラフェン又は他の2D材料を少量添加することにより、虹色を著しく増加させると共に、角度依存性の高い構造色と、可視光スペクトル全体で可逆的にシフトし得る阻止帯域とを生成する有害散乱を低減することを発見した。
【0216】
蒸発駆動型自己重層化で製造されたPCは、安価であり、メカノクロミックセンサー又はサーモクロミックセンサーとしての応用範囲が広い。重要なことに、これは、カーボンブラックなどの他の炭素系充填剤と比べて、大幅に小さい体積分率で適用できる。汎用的な製造プロセスでは、様々な粒径とガラス転移温度を用いて、特性の調整が可能である。色は、圧力と応力、温度と時間によく反応し、高温で長時間晒した際に粒子がコアレッセンスすると完全に消失する。これらの性質には、TTIセンサーやセキュリティデバイスなど様々な分野に応用される。さらに、PCは、細胞スキャフォールドや検知用途にも利用できる。
【0217】
最終的に、本発明者らは、2Dナノ材料をフォトニック結晶内に広範囲に含有させることにより、多くの潜在的で新規な機能を実現する方法を開発した。これらの結晶の汎用性から、この方法は、多機能グラフェン系合成オパールを製造するための、簡便で安価で急成長の余地があるアプローチであり、新規な溶液加工可能なフォトニクス系ナノ材料の興味深い用途を開拓するものである。