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  • 特許-金属剥離剤 図1
  • 特許-金属剥離剤 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】金属剥離剤
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/00 20060101AFI20240610BHJP
   C23C 22/50 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
C23F1/00 103
C23C22/50
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022064997
(22)【出願日】2022-04-11
(65)【公開番号】P2023155587
(43)【公開日】2023-10-23
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 由香
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 佳
(72)【発明者】
【氏名】田中 克幸
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-218788(JP,A)
【文献】特開昭61-159580(JP,A)
【文献】特開平01-028385(JP,A)
【文献】特開昭52-133830(JP,A)
【文献】特開平03-140483(JP,A)
【文献】特開2010-090404(JP,A)
【文献】特表2005-506457(JP,A)
【文献】特開2002-194574(JP,A)
【文献】特開2005-320608(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103924245(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110512212(CN,A)
【文献】特開2016-000857(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1482277(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F1/00-1/46
C23C22/00-22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス槽用の金属剥離剤であって、
(A)無機酸及び有機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸、
(B)過酸化水素、及び、
(C)遷移金属
を含有し、
前記(C)遷移金属は、鉄、銅、ニッケル、銀、コバルト、マンガン、及び、バナジウムからなる群より選択される少なくとも1種である、
金属剥離剤。
【請求項2】
前記無機酸は、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、及び、ホウ酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の金属剥離剤。
【請求項3】
前記有機酸は、有機スルホン酸、及び、有機カルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の金属剥離剤。
【請求項4】
前記酸の含有量は、10~200g/Lである、請求項1又は2に記載の金属剥離剤。
【請求項5】
前記過酸化水素の濃度は、10~100g/Lである、請求項1又は2に記載の金属剥離剤。
【請求項6】
前記遷移金属は、鉄、銅、ニッケル、銀、コバルト、及び、バナジウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の金属剥離剤。
【請求項7】
前記遷移金属の含有量は、0.01~10g/Lである、請求項1又は2に記載の金属剥離剤。
【請求項8】
塩酸及び硝酸を含まない、請求項1又は2に記載の金属剥離剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属剥離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無電解Ni-Pめっきを行うためのめっき槽として、SUS316、SUS304等のステンレス槽が用いられており、配管などの付帯設備もステンレス製のものが使用されている。また、めっき槽や配管以外の物品を取り付けるための治具においてもステンレス製のものが用いられることが多い。
【0003】
めっき工程に用いられるめっき槽において、めっき液の空け換えやめっき液を更新する際は、めっき槽を洗浄した後、硝酸を用いてめっき槽内や配管に析出したNiを剥離している。また、治具においてもめっき槽と同様に、硝酸を用いて治具に析出した金属を剥離しており、析出金属としては、Ni以外にCuやSn、Zn等がある。
【0004】
また、めっき槽や配管については、これらへめっきの析出を抑制するために、硝酸溶液を用いてステンレス槽の表面を酸化させる、いわゆる不動態化処理が通常行われている。
【0005】
金属部品の耐食性を改善するために不動態化処理(パッシベーション)を行うことが開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、上述の方法では、めっき槽のニッケル剥離が十分でないという問題があり、不動態化処理が十分でないという問題がある。
【0007】
本発明者は、硝酸を用いてめっき槽内に析出したニッケルを剥離し、また、めっき槽へのめっきの析出を抑制するために硝酸溶液を用いてステンレス槽の不動態化処理を行うことができることに着目した。
【0008】
しかしながら、上述の方法では硝酸が用いられているため、ニッケル剥離を行う際にNOxガスが発生し易い。また、海外においては窒素等の排水規制が厳しくなっており、国内外においても環境負荷を軽減した金属剥離剤が望まれている。
【0009】
従って、ステンレス上の金属剥離性に優れ、且つ、ステンレスの表面を十分に不動態化できる金属剥離剤の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特表2007-528301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、ステンレス上の金属剥離性に優れ、且つ、ステンレスの表面を十分に不動態化できる金属剥離剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、(A)無機酸及び有機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸、(B)過酸化水素、及び、(C)遷移金属を含有する金属剥離剤によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、下記の金属剥離剤に関する。
1.(A)無機酸及び有機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸、
(B)過酸化水素、及び、
(C)遷移金属
を含有する金属剥離剤。
2.前記無機酸は、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、及び、ホウ酸からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の金属剥離剤。
3.前記有機酸は、有機スルホン酸、及び、有機カルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の金属剥離剤。
4.前記酸の含有量は、10~200g/Lである、項1又は2に記載の金属剥離剤。
5.前記過酸化水素の濃度は、10~100g/Lである、項1又は2に記載の金属剥離剤。
6.前記遷移金属は、鉄、銅、ニッケル、銀、コバルト、マンガン、スズ、及び、バナジウムからなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の金属剥離剤。
7.前記遷移金属の含有量は、0.01~10g/Lである、項1又は2に記載の金属剥離剤。
8.塩酸及び硝酸を含まない、項1又は2に記載の金属剥離剤。
【0014】
また、本発明は、下記の金属剥離剤に関する。
1.(A)無機酸及び有機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸、
(B)過酸化水素、及び、
(C)遷移金属
を含有する金属剥離剤。
2.前記無機酸は、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、及び、ホウ酸からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の金属剥離剤。
3.前記有機酸は、有機スルホン酸、及び、有機カルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の金属剥離剤。
4.前記酸の含有量は、10~200g/Lである、項1~3のいずれかに記載の金属剥離剤。
5.前記過酸化水素の濃度は、10~100g/Lである、項1~4のいずれかに記載の金属剥離剤。
6.前記遷移金属は、鉄、銅、ニッケル、銀、コバルト、マンガン、スズ、及び、バナジウムからなる群より選択される少なくとも1種である、項1~5のいずれかに記載の金属剥離剤。
7.前記遷移金属の含有量は、0.01~10g/Lである、項1~6のいずれかに記載の金属剥離剤。
8.塩酸及び硝酸を含まない、項1~7のいずれかに記載の金属剥離剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明の金属剥離剤は、ステンレス上の金属剥離性に優れ、且つ、ステンレスの表面を十分に不動態化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ニッケル剥離速度の測定結果を示す図である。
図2】アノード分極曲線測定(不動態化測定)の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
1.金属剥離剤
本発明の金属剥離剤は、(A)無機酸及び有機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸、(B)過酸化水素、及び、(C)遷移金属を含有することを特徴とする。以下、それぞれ、「(A)成分」、「(B)成分」、「(C)成分」とも示す。本発明の金属剥離剤は、上記(A)成分及び(C)成分を含有することにより、ステンレス槽等のステンレスの、ニッケル等の金属剥離性に優れている。また、本発明の金属剥離剤は、上記(B)成分を含有することにより、ステンレス槽等のステンレスの表面を十分に不動態化することができる。すなわち、本発明の金属剥離剤によれば、上記(A)~(C)成分を含有することがあいまって、ステンレス上の金属剥離性に優れ、且つ、ステンレスの表面を十分に不動態化することができる。
【0019】
(A)成分
(A)成分は、無機酸及び有機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸である。本発明の金属剥離剤が上記(A)成分を含有することにより、本発明の金属剥離剤がステンレス上の金属剥離性、及び、ステンレスの表面の不動態化に優れる。
【0020】
無機酸としては硫酸、リン酸、フッ化水素酸、ホウ酸等が挙げられる。これらの中でも、硫酸及びリン酸が好ましく、排水処理性がより一層向上する点で、硫酸がより好ましい。
【0021】
無機酸としては、環境への負荷を低減する観点から、硝酸及び塩酸を含まないことが好ましい。また、無機酸としては、ステンレス表面の酸化皮膜(不動態皮膜)の破壊を抑制し、局部腐食を抑制する観点から、塩酸(塩化物イオン)を含まないことが好ましい。すなわち、本発明の金属剥離剤は、硝酸及び塩酸を含まないことが好ましい。
【0022】
有機酸としては特に限定されず、有機スルホン酸、有機カルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、ステンレス槽のニッケル剥離性、及び、ステンレス槽の表面の不動態化がより向上する点で、有機スルホン酸が好ましい。
【0023】
有機スルホン酸としてはメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ペンタンスルホン酸等の炭素数1~5の脂肪族スルホン酸;トルエンスルホン酸、ピリジンスルホン酸、フェノールスルホン酸等の芳香族スルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、ステンレス槽のニッケル剥離性、及び、ステンレス槽の表面の不動態化がより向上する点で、炭素数1~5の脂肪族スルホン酸が好ましい。
【0024】
上記酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
金属剥離剤中の酸濃度は特に限定されず、例えば、合計の酸濃度として10~200g/Lが好ましく、20~150g/Lがより好ましく、30~100g/Lが更に好ましい。なお、上記酸濃度は、例えば、98%硫酸を用いる場合は、当該98%硫酸中の硫酸の量であり、例えば、98%硫酸を100g/Lの濃度で用いる場合は、酸濃度は98g/Lとなる。
【0026】
(B)成分
(B)成分は、過酸化水素である。本発明の金属剥離剤が上記(B)成分を含有することにより、本発明の金属剥離剤がステンレス槽のニッケル剥離性、及び、ステンレス槽の表面の不動態化に優れる。
【0027】
金属剥離剤中の過酸化水素の濃度は特に限定されず、10~100g/Lが好ましく、15~70g/Lがより好ましく、20~50g/Lが更に好ましい。なお、上記過酸化水素の濃度は、例えば、35%過酸化水素水を用いる場合は、当該35%過酸化水素水中の過酸化水素の量であり、例えば、35%過酸化水素水を100g/Lの濃度で用いる場合は、過酸化水素濃度は35g/Lとなる。
【0028】
(C)成分
(C)成分は、遷移金属である。本発明の金属剥離剤が上記(C)成分を含有することにより、ステンレス槽のニッケル剥離速度がより向上し、本発明の金属剥離剤がステンレス槽のニッケル剥離性に優れる。
【0029】
遷移金属としては特に制限されず、例えば、鉄、銅、ニッケル、銀、コバルト、マンガン、スズ、バナジウム等の金属が挙げられる。ステンレス槽のニッケル剥離性がより向上する点で、鉄、銅、ニッケル、銀が好ましい。
【0030】
上記遷移金属は、塩として添加されていてもよい。塩の種類は特に制限されず、例えば硝酸塩、硫酸塩等の強酸との塩;酢酸塩等の弱酸との塩等が挙げられる。これらの中でも、強酸との塩が好ましく、環境への負荷がより低減される点で、硫酸塩がより好ましい。具体的な金属塩として、好ましくは硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸銅、硝酸銅、硫酸銀、硝酸銀、硫酸コバルト、ヘキサアンミンコバルト、硫酸バナジウム、メタバナジン酸等が挙げられ、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硫酸ニッケル、硫酸銅、硫酸銀がより好ましい。
【0031】
上記遷移金属は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
金属剥離剤中の遷移金属濃度は特に限定されず、例えば、0.01~10g/Lが好ましく、0.05~5g/Lがより好ましく、0.1~3g/Lが更に好ましい。遷移金属濃度の範囲が上記範囲であると、ステンレスの金属剥離速度がより向上し、本発明の金属剥離剤のステンレスの金属剥離性がより向上する。
【0033】
その他の成分
本発明の金属剥離剤は、上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の他に、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、過酸化水素安定剤、界面活性剤、ミスト防止剤、消泡剤、表面調整剤等が挙げられる。
【0034】
過酸化水素安定剤としては、金属剥離剤中の過酸化水素を安定化できれば特に限定されず、リン酸、アミド化合物類等が挙げられる。これらの中でも、金属剥離剤中の過酸化水素をより安定化できる点で、アミド化合物類が好ましい。
【0035】
アミド化合物類としては、例えば、尿酸、アセトアミド、アスパラギン、カルバミン酸エチル、グルタミン、アセトアニリド、メチルアセトアニリド、エチルアセトアニリド、ε-カプロラクタム等が挙げられる。これらの中でも、金属剥離剤中の過酸化水素をより安定化できる点で、ε-カプロラクタムが好ましい。
【0036】
金属剥離剤中の過酸化水素安定剤の濃度は特に限定されず、例えば、0.01~50g/Lが好ましく、0.05~30g/Lがより好ましく、0.1~20g/Lが更に好ましく、0.2~10g/Lが特に好ましく、0.2~5g/Lが最も好ましい。過酸化水素安定剤の濃度の下限が上記範囲であると、金属剥離剤中の過酸化水素がより安定化する。過酸化水素安定剤の濃度の上限が上記範囲であると、金属剥離剤中の過酸化水素がより安定化する。
【0037】
溶媒
本発明の金属剥離剤は、上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分、並びに、必要に応じて含まれるその他の成分が、上述の含有量で、溶媒に含まれていることが好ましい。このような溶媒としては、水等が挙げられる。溶媒として水を用いることにより、環境への負荷が少なく、安全性に優れる。
【0038】
金属剥離剤中の溶媒の含有量は特に限定されず、上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分、並びに、必要に応じて含まれるその他の成分を添加した後の、残部であってよい。
【0039】
2.金属剥離剤の製造方法
本発明の金属剥離剤を製造する方法としては、特に限定されず、上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分、並びに、必要に応じて含まれるその他の成分を、溶媒に添加する工程を有する製造方法により製造することができる。
【0040】
上記工程では、(A)成分、(B)成分及び(C)成分、並びに、必要に応じて含まれるその他の成分を、順次溶媒に添加して金属剥離剤を調製すればよく、各成分を添加する順序としては特に限定されない。
【0041】
上記工程では、金属剥離剤を調製する条件としては、特に限定されず、混合槽等で、20~60℃、1分~12時間程度の条件で撹拌混合すればよい。
【0042】
3.金属剥離方法
本発明の金属剥離剤を用いてステンレスのニッケル等の金属剥離を行う方法としては特に限定されず、例えば、めっき槽であるステンレス槽を洗浄した後、ステンレス槽中に本発明の金属剥離剤を充填する方法が挙げられる。
【0043】
ステンレス槽中に充填した金属剥離剤の温度は特に限定されず、10~70℃が好ましく、20~60℃がより好ましい。金属剥離剤の温度が上記範囲であることにより、ステンレス上の金属剥離性がより向上し、且つ、ステンレスの表面をより十分に不動態化できる。
【0044】
金属剥離の際の時間は特に限定されず、30秒から2時間が好ましく、1~90分がより好ましい。金属剥離の時間が上記範囲であることにより、ステンレス槽のニッケル剥離性がより向上し、且つ、ステンレス槽の表面をより十分に不動態化できる。
【実施例
【0045】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0046】
(実施例、比較例及び参考例)
実施例及び比較例の金属剥離剤を調製する原料として、98%硫酸、35%過酸化水素水、硫酸第二鉄(Fe3+)、及び、ε-カプロラクタムを用意した。
【0047】
上述した原料を、それぞれ表1に示した配合量で溶媒としての水に添加し、混合槽中で撹拌し、実施例1及び比較例1の金属剥離剤を製造した。なお、比較例2、及び、参考例1では、成分を混合せず、それぞれ、35%過酸化水素、及び、60%硝酸を用いた。
【0048】
得られた金属剥離剤について、以下の測定条件により金属剥離試験を行い、特性を評価した。
【0049】
(金属剥離試験)
<試験片の調製>
金属剥離試験の試験片として、2.5cm×2.5cm、厚み0.3mmのステンレス板(SUS304)を用意した。ステンレス板を無電解ニッケルリンめっき液に90℃、45分の条件で浸漬し、無電解ニッケルリンめっきを10μm施し、金属剥離試験用試験片を調製した。
【0050】
金属剥離試験用試験片を、上記実施例、比較例及び参考例1で調製した金属剥離剤に50℃、4分の条件で浸漬し、金属剥離を行った。
【0051】
(ニッケル剥離速度)
金属剥離前後の試験片の重量を測定し、単位時間当たりのニッケル剥離速度を算出した。
【0052】
結果を表1及び図1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
(アノード分極曲線測定(不動態化測定))
<試験片の調製>
アノード分極曲線測定のための試験片として、2.5cm×2.5cm、厚み0.3mmのステンレス板(SUS304)を用意した。
【0055】
ステンレス(SUS)の不動態化の程度を、アノード分極曲線を測定することにより測定した。具体的には、上記試験片を、上記実施例、比較例及び参考例1で調製した金属剥離剤に50℃、60分の条件で浸漬し、金属剥離を行い、アノード分極曲線測定用試験片を調製した。当該アノード分極曲線測定用試験片を用いて、下記測定条件により、アノード分極曲線測定を行った。なお、参考例2(ブランク)では、金属剥離剤に浸漬しない試験片を使用した。
・装置:電気化学測定システム(北斗電工社製 HZ-7000)
・作用極(W.E.):SUS304
・対極(C.E.):白金電極
・参照電極(R.E.):Ag/AgCl
・電解液:98%硫酸 50g/L
【0056】
結果を図2に示す。
【0057】
図2では、測定電位1.0V~1.5V付近において、金属剥離剤に浸漬しなかった参考例2が電流密度は最も高く、硝酸を用いて浸漬を行った参考例1が電流密度は最も低かった。なお、電流密度が低いほど不動態化の程度が高いことを示している。(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する金属剥離剤を用いた実施例1では、硝酸を用いて浸漬を行った参考例1よりも電流密度は若干高かったが、低い電流密度を維持しており、不動態化の程度が十分に高いことが分かった。すなわち、実施例1の金属剥離剤は、上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有することにより、硝酸を使用することなく、ステンレス槽のニッケル剥離性、及び、ステンレス槽の表面の不動態化が十分となっており、環境の負荷を低減しながら上記特性を発揮することができることが分かった。
図1
図2