(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】バイポラリス・ヤマダイ菌株、そのスクリーニング・同定方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
A01N 63/30 20200101AFI20240610BHJP
C12N 1/14 20060101ALI20240610BHJP
A01P 13/00 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
A01N63/30
C12N1/14 A ZNA
A01P13/00
(21)【出願番号】P 2022562574
(86)(22)【出願日】2021-04-15
(86)【国際出願番号】 CN2021087342
(87)【国際公開番号】W WO2021208989
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】202010303803.X
(32)【優先日】2020-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【微生物の受託番号】CGMCC CGMCC 17778
(73)【特許権者】
【識別番号】507255592
【氏名又は名称】南京▲農業▼大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】強 ▲勝▼
(72)【発明者】
【氏名】譚 敏
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-284963(JP,A)
【文献】特開平06-269296(JP,A)
【文献】特開2000-269296(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107418900(CN,A)
【文献】Fungal Diversity,2019年,doi:10.1007/s13225-019-00434-5
【文献】Mycosphere,2017年,Vol.8 No.9,p.1555-1573
【文献】Acta phytopathologica sinica,2019年,Vol.49 No.5,p.711-714
【文献】日植病報,2016年,82,160-165
【文献】BioControl,2006年,vol.51,p.259-275
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
A01N 63/30
A01P 13/00
A01M 21/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中国微生物菌種寄託管理委員会普通微生物センタに寄託され、寄託番号がCGMCCNo.17778であるバイポラリス・ヤマダイ菌株
の生物的除草剤としての使用であって、
濃度が10
2
個以上/1mlの前記バイポラリス・ヤマダイ菌株の分生子を作物畑にある対象雑草に接種すること、
前記作物畑の作物はイネ、トウモロコシ、大豆、落花生、ゴマ、粟、ソラマメ、エンドウ、アブラナ、野菜、草花、生薬及び果樹のうちの少なくとも1種を含むこと、
前記作物が苗期にあるときに使用することにより、対象雑草の防除効果が70%以上あること、
を特徴とする生物的除草剤としての使用。
【請求項2】
前記対象雑草はイネ科雑草、カヤツリグサ科雑草及び広葉雑草のうちの少なくとも1種を含み、前記イネ科雑草はイヌビエ、エノコログサ、オニメヒシバ、メヒシバ、アゼガヤ、イトアゼガヤ、カラスムギ、スズメノテッポウ、セイバンモロコシ、アシボソ及び前記アシボソの近縁属植物のうちの少なくとも1種を含み、前記カヤツリグサ科雑草はタマガヤツリ、コシロガヤツリ及びクグガヤツリのうちの少なくとも1種を含み、前記広葉雑草はカナムグラ、クサネム、シロザ及びコアカザのうちの少なくとも1種を含む請求項
1に記載の
生物的除草剤としての使用。
【請求項3】
前記アシボソの近縁属植物はミクロステギウム・ノドサム、オオササガヤ、ササガヤ及びカリヤスのうちの少なくとも1種を含む請求項
2に記載の使用。
【請求項4】
前記野菜はチンゲンサイ、ハクサイ、大根、ヘチマ、ナス及び唐辛子のうちの少なくとも1種を含み、前記生薬はエゴマ、アリタソウ及びコウライカキドオシのうちの少なくとも1種を含み、前記果樹はヤマモモを含む請求項
3に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は農業植物保護、農作物雑草防除用の微生物の技術分野に関し、具体的には、バイポラリス・ヤマダイ菌株Bipolaris yamadae (Y.Nisik.) Shoemaker (HXDC-1-2)、そのスクリーニング・同定方法及びその使用に関する。
【0002】
本願は2020年4月17日に中国特許庁に提出された、出願番号が202010303803X、出願の名称が「バイポラリス・ヤマダイ菌株、そのスクリーニング・同定方法及びその使用」である中国特許出願の優先権を主張しており、その全内容は引用により本願に組み込まれている。
【背景技術】
【0003】
草害は作物の減産を招く最も主要な要因の1つであり、世界の農業に年間950億ドルの損失をもたらしている。中国の農地の草害面積は約7880万ヘクタールで、毎年235億人民元の雑草防除費用を投入していても、食糧、綿、油の損失は1460万トンに達し、直接的な経済損失は千億人民元近くに達している。イヌビエ、カラスムギ、スズメノテッポウ、オニメヒシバ、アゼガヤ、メヒシバ、エノコログサ、アカザ、コナギは農地の10種類の重要な害草であり、その中でイネ科のものが80%を占めている。人間が農業生産活動を開始するようになって以来、防除を試みる努力は絶えず、1950年代の初期に、化学除草剤はその使いやすさ、効果の速さなどの特徴から急速に発展した。化学除草剤が広く使用されるに伴い、それによるマイナスの影響も日増しに明らかになってきた。化学除草剤の大量施用は環境汚染の危機をもたらしている。長期残効性除草剤の使用は残毒や薬害を引き起こした。これが次の作物の減産、さらには土地の劣化につながっている。世界では、すでに100種類以上の化学除草剤が30か国以上で使用不可になったり、登録が取り消されたりしている。また、薬剤耐性雑草個体群も出現している。
【0004】
生物的除草剤とは、人工制御下で人工培養・繁殖した大容量の生物製剤を使用して雑草を除去するものを指す。2つの顕著な特徴がある。一つは人工で大量培養することにより大量の生物接種物を得ることであり、もう一つは大量に適用して、迅速な感染を達成し、短時間で雑草を殺滅することである。1981年、DeVineは米国で最初の生物的除草剤として登録された。DeVineはアメリカのフロリダ州に生まれたフィトフトラ・パルミボラ(Phytophthora palmivora)の病原菌株の厚膜胞子懸濁剤であり、雑草ストラングルヴァイン(Morrenia odorata)の防除に用いられ、防除効果は90%に達し、残効期間は2年に達し、フロリダ州のミカン園に広く使用されている。その後、Collegoは登録され、実用化された。遺伝子工学と細胞融合技術の介入により、自然界に存在する優れた除草遺伝子(例えば強い病原性と毒素産生など)の組み換えが可能になり、生物的除草剤の品種を改良し、防除効果を高め、宿主の特異性を改良する可能性が提供された。現在商業化されている生物的除草剤には、80年代に開発されたもの以外、90年代末に発売されたCampericoとBiochonがあり、これらの除草剤は対応する対象雑草を制御する上で重要な役割を果たし、場合によって唯一の選択肢でさえある。すでに研究されている候補の生物的防除用真菌は、次のようないくつかの属に比較的集中している。コレトトリカム属(Colletotrichum)18種類、フザリウム属(Fusarium)13種類、アルテルナリア属(Alternaria) 12種類、サーコスポラ属(Cercospora)8種類、パカシニア属(Puccinia)、スクレロティニア属(Sclerotinia)、エンチロマ属(Entyloma)、アスコキタ属(Ascochyta)。現在、主にコレトトリカム属(Colletotrichum species) (US3,849,104とUS3,999,973);フザリウム属(Fusarium species) (US4,419,120);アルテルナリア属(Alternaria species) (US4,390,360);アスコキタ属(Ascochyta species) (US4,915,724)及びスクレロティニア属(Selerotinia species) (CAOZ,292,233);スクリアロウシィアム属(Sclerotium rolfsii) (SC64)などが現在作物生産に用いられ、特許されている。現在、中国の国内や国外では、コクリオボラス属としてエノコログサコクリオボラス、トウモロコシコクリオボラス及びキビコクリオボラスを生物的除草剤として使用する特許があるが、バイポラリス・ヤマダイが出願されておらず、また、生物的防除のために作物畑にあるイネ科雑草、芝生雑草やアシボソ及びその近縁種にバイポラリス・ヤマダイを適用することも報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願で開示された各例示的な実施例の目的は、イネ、トウモロコシ、大豆、落花生、ゴマ、粟、ソラマメ、エンドウ、アブラナ、野菜、草花、生薬、果樹などの作物畑の雑草(イヌビエ、エノコログサ、オニメヒシバ、メヒシバ、アゼガヤ、イトアゼガヤ、カラスムギ、スズメノテッポウ、セイバンモロコシ、アシボソなどのイネ科雑草、タマガヤツリ、コシロガヤツリ、クグガヤツリなどの一年生ハマスゲ、及びカナムグラ、クサネム、シロザ、コアカザなどの広葉雑草を含む)に対して、バイポラリス・ヤマダイ菌株、そのスクリーニング・同定方法及びその使用を提供することである。該菌株は生物的除草に用いられ、除草効率が高く、環境にやさしく、残留がなく、コストが低く、汚染がなく、農作物に対して安全性が高く、除草効果が高いという利点がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は、バイポラリス・ヤマダイ菌株、そのスクリーニング・同定方法及びその使用を開示し、採用する技術的手段は以下の通りである。
【0007】
バイポラリス・ヤマダイ菌株であって、前記菌株はバイポラリス・ヤマダイ菌株HXDC-1-2であり、中国微生物菌種寄託管理委員会普通微生物センタに寄託され、寄託番号がCGMCC No.17778である。
【0008】
一実施例では、前記菌株で形成されるコロニーは、直径範囲が50~60mmであり、前記コロニーは、表面が灰黒色、裏面が黒褐色であり、水溶性色素を含まず、分生子柄を含み、オリーブ色又は黄褐色であり、単生又は少数群生し、先端の色が浅く、湾曲形状をしており、幅範囲が4.5~9.5μmであり、
分生子をさらに含み、前記分生子は、黄褐色から濃褐色であり、紡錘形又は棒形をしており、また直線状や僅かな湾曲状であり、中央部がやや広く、両端がやや狭く、前記分生子の基底細胞は鈍い円形をしており、前記基底細胞は、表面が滑らかであり、6~9個の偽隔壁を持ち、表面の面積が54.5~92.5×12.5~17.5μmである。
【0009】
本願で開示された各例示的な実施例は、
前記菌株を28℃の暗いインキュベータに入れて4日間培養し、真菌gDNA抽出キットを用いてDNAを抽出し、rDNA ITS配列、GPDH配列及びEF1α配列をそれぞれPCR増幅して産物を得て、前記PCR増幅用のユニバーサルプライマーをそれぞれITS4、ITS5、GPD1、GPD2、EF1-983F及びEF1-2218Rとし、
ITS4:5’-TCCTCCGCTTATTGATATGC-3’、
ITS5:5’-GGAAGTAAAAGTCGTAACAAGG-3’、
GPD1:5’-CAACGGCTTCGGTCGCATTG-3’、
GPD2:5’-GCCAAGCAGTTGGTTGTGC-3’、
EF1-983F:5’-GCYCCYGGHCAYCGTGAYTTYAT-3’、及び
EF1-2218R:5’-ATGACACCRACRGCRACRGTYTG-3’であるステップ1)と、
アガロースゲル電気泳動によってステップ1)で得られた前記PCR増幅の前記産物を回収し、前記産物をpMD19ベクターに連結して、大腸菌DH5αを形質転換し、次に、ブルー・ホワイトセレクションによって白色コロニーを選択し、振蕩培養して菌液を得るステップ2)と、
ステップ2)で得られた前記菌液をシーケンシングしてシーケンシング結果を取得し、前記シーケンシング結果をGenbankにおいて核酸データベースのITS、GPDH及びEF1αの関連配列と相同性について比較するステップ3)と、
前記PCR増幅、前記シーケンシング及び前記比較をした後、EF1α増幅配列がそれぞれBipolaris yamadae基準株ACCC36334、CBS127087とは相同性が99%以上であり、ITS増幅配列がBipolaris yamadae基準株CPC28807とは相同性が99%以上であり、又はGPDH増幅配列がBipolaris yamadae基準株CPC28807とは相同性が99 %以上である場合、前記菌株がバイポラリス・ヤマダイ菌株であると判定するステップ4)と、を含むバイポラリス・ヤマダイ菌株のスクリーニング・同定方法を提供する。
【0010】
前記分子マーカーをプライマーとして検出してもよい。検出の結果、上記分子マーカー配列がBipolaris yamadae基準株CPC28807とは相同性が99%である場合、該菌株であると判定することができる。
【0011】
一実施例では、前記ITS増幅配列はSEQ ID NO:1に示され、前記GPDH増幅配列はSEQ ID NO:2に示され、前記EF1α増幅配列はSEQ ID NO:3に示される。しかし、本願の分子マーカーはこれらに限定されるものではない。
【0012】
バイポラリス・ヤマダイ菌株の生物的除草剤としての使用。
【0013】
バイポラリス・ヤマダイ菌株の生物的除草剤としての使用であって、濃度が102個以上/1mlの前記バイポラリス・ヤマダイ菌株の分生子を作物畑にある対象雑草に接種する。
【0014】
一実施例では、前記対象雑草は、イネ科雑草、カヤツリグサ科雑草及び広葉雑草のうちの少なくとも1種を含み、前記イネ科雑草は、イヌビエ、エノコログサ、オニメヒシバ、メヒシバ、アゼガヤ、イトアゼガヤ、カラスムギ、スズメノテッポウ、セイバンモロコシ、アシボソ及び前記アシボソの近縁属植物のうちの少なくとも1種を含む。前記カヤツリグサ科雑草はタマガヤツリ、コシロガヤツリ、クグガヤツリのうちの少なくとも1種を含んでもよい。前記広葉雑草はカナムグラ、クサネム、シロザ及びコアカザのうちの少なくとも1種を含んでもよい。しかし、本願では、雑草の種類はこれらに限定されるものではない。
【0015】
一実施例では、前記アシボソ近縁属植物はミクロステギウム・ノドサム(Microstegium nodosum)、オオササガヤ、ササガヤ、カリヤスを含んでもよい。
【0016】
一実施例では、前記作物畑の作物は、イネ、トウモロコシ、大豆、落花生、ゴマ、粟、ソラマメ、エンドウ、アブラナ、野菜、花卉、生薬及び果樹のうちの少なくとも1種を含んでもよい。ただし、本願では、作物の種類はこれらに限定されるものではない。
【0017】
一実施例では、前記野菜は、チンゲンサイ、ハクサイ、大根、ヘチマ、ナス及び唐辛子のうちの少なくとも1種を含んでもよい。前記生薬はエゴマ、アリタソウ及びコウライカキドオシのうちの少なくとも1種を含んでもよい。前記果樹はヤマモモを含んでもよい。ただし、本願では、野菜、生薬及び果樹作物の種類はこれらに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0018】
本願の各例示的な実施例は以下の利点及び有益な効果を有する。
1、バイポラリス・ヤマダイアシボソ分化型菌剤は、生物的除草に用いると、作物とイネ科雑草を安全に選別することができる。本願の除草剤は、環境にやさしく、雑草の薬剤耐性の発生や薬剤耐性の発展を抑制することができ、安全食品や有機農業の普及に有利であり、しかも、コストが低く、汚染がなく、農作物に対して安全である。試験対象とする30科103種類の作物や経済植物のうち、33種類はバイポラリス・ヤマダイに対して感受性であり、15種類は僅かに感受性であり、5種類は非感受性であり、感受性のある植物のほとんどはイネ科であり、マメ科、アブラナ科、ゴマ科などのような他の科の植物、イネ科の一部などの植物は感受性が低い。このため、該菌株は、イネ、トウモロコシ、大豆、落花生、ゴマ、粟、ソラマメ、エンドウ、アブラナ、野菜、草花、生薬、果樹などの作物の畑に用いられて、イヌビエ、エノコログサ、オニメヒシバ、メヒシバ、アゼガヤ、イトアゼガヤ、カラスムギ、スズメノテッポウ、セイバンモロコシ、アシボソなどのイネ科雑草、タマガヤツリ、コシロガヤツリ、クグガヤツリなどの一年生ハマスゲ、及びカナムグラ、クサネム、シロザ、コアカザなどの広葉雑草のような農地雑草を防除することができる。
2、本願のバイポラリス・ヤマダイ菌株の生物的除草における使用は、生きている生物自体を利用してスクリーニング・同定を行うことであり、該生物は自然環境から直接収集して、対象作物畑及びこの環境に生えている対象雑草の天然病原菌である。この生物が環境に既存するものであるので、その使用によるエコリスクがない。さらに、該菌株は、特異性が強く、作物や対象以外の植物に対して安全性が高く、環境に残留することによる危害がない。前記菌株の菌体が死亡すると迅速に腐敗して分解し、しかも、分解産物が全てリサイクル可能な有機物であるので、汚染をもたらすことはない。このため、前記菌株は環境に対して安全であり、安全な農産物や有機農産物の生産に用いることができる。
3、該菌株は、特に苗期の植物体に対しては、対象雑草の防除効果が70%以上、さらに80%以上に達し得る。
4、試験した結果、バイポラリス・ヤマダイHXDC-1-2はほとんどの作物に安全であり、綿、小麦や大麦に対しては低い感受性があり、イネ、トウモロコシ、大豆、落花生、ゴマ、粟、ソラマメ、エンドウ、アブラナ、野菜、草花、生薬、果樹の作物畑に安全に使用でき、上記畑の雑草(イヌビエ、エノコログサ、オニメヒシバ、メヒシバ、アゼガヤ、イトアゼガヤ、カラスムギ、スズメノテッポウ、セイバンモロコシ、アシボソなどのイネ科雑草、タマガヤツリ、コシロガヤツリ、クグガヤツリなどの一年生ハマスゲ、及びカナムグラ、クサネム、シロザ、コアカザなどのような広葉雑草を含む)を防除することができる。これによっても、バイポラリス・ヤマダイHXDC-1-2はアシボソ及びイネ科雑草を防除し得る生物的除草剤であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】HXDC-1-2バイポラリス・ヤマダイ菌株のコロニーの形態図である。
【
図2】HXDC-1-2バイポラリス・ヤマダイ菌株の分生子の形態である。
【
図3】HXDC-1-2バイポラリス・ヤマダイ菌株のゲル電気泳動図であり、ここで1、2はEF1α配列、3、4はITS配列、5、6はGPDH配列である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上記したように、全世界で188種類の雑草の324個の生物型が19種類の化学除草剤に耐性を持っていることが発見され、その結果、化学除草剤の薬効が低下し、使用量が増加し、コストも上昇し、さらに汚染が深刻化する。その結果、除草剤品種は単一になるため、薬剤耐性進化のリスクは上昇する。
【0021】
本発明者らは、以上の欠陥のため、市場では広域スペクトル、高効率、低毒性の新規除草剤の研究開発及び生物的除草を発展する技術的需要が向上することを発見した。そのため、環境にやさしい除草剤、特に化学除草剤の代わりに生物的除草剤を発展することはこの矛盾を解決する重要な手段である。さらに、新しい化学除草剤1種あたり1億ドルの開発コストに対し、生物的除草剤の開発コストは数十倍、さらには百倍も低い。世界の多くの国が実施している農業の持続可能な発展戦略はこの技術の発展を推進しており、そのため、生物的除草剤の研究開発はこれらのイネ科雑草に対抗する新しい手段となっている。しかし、現在、これらのイネ科雑草を対象とする有効な生物的除草剤は少ない。
【0022】
以下、図面及び実施例を参照して本願についてさらに詳細に説明する。
【0023】
バイポラリス・ヤマダイ菌株Bipolaris yamadae (Y.Nisik) Shoemaker (HXDC-1-2)(寄託機関:中国微生物菌種寄託管理委員会普通微生物センタ;住所:北京市朝陽区北辰西路1号院3号;寄託日:2019年5月10日;寄託番号:CGMCC No.17778)は、真菌界(Fungi)、子嚢菌門(Ascomycota)、クロイボタケ綱(Dothideomycetes)、ピレオスポラ亜綱(Pleosporomycetidae)、プレオスポラ目(Pleosporales Luttrell ex Barr)、プレオスポラ科(Plesporaceae Nitschke)、コクリオボラス属(Cochliobolus Drechsler)[無性段階:コクリオボラス属(Bipolaris Shoemarke)]のバイポラリス・ヤマダイ(Bipolaris yamadae (Y.Nisik) Shoemaker)である。該菌株はジャガイモブドウ糖培地で迅速に成長し、28℃の暗い条件で5日間培養すると、コロニーの直径が50~60mmになり、このコロニーは灰黒色であり、裏面が黒褐色であり、水溶性色素を含まない。例えば、
図1には、バイポラリス・ヤマダイ5日間培養後のコロニーの形態図が示されている。分生子柄はオリーブ色又は黄褐色であり、単生又は少数群生し、先端の色が浅く、ひざまずくように湾曲し、幅が4.5~9.5μmである。分生子は黄褐色から濃褐色であり、略紡錘形又は逆棒形をしており、また、直線状や僅かな湾曲状であり、中央部がやや広く、両端がやや狭く、基底細胞は鈍い円形をしており、滑らかであり、6~9個(多くの場合7~8個)の偽隔壁を持ち、54.5~92.5×12.5~17.5μm(平均では69.5×14.7μm)である。
図2はバイポラリス・ヤマダイの高倍率顕微鏡下の分生子の形態図である。
【実施例1】
【0024】
本願に係る新規菌株は、次の手段により得られるものであり、本発明者らは、中国の安徽省、福建省、広東省、広西省、貴州省、河南省、湖北省、湖南省、江蘇省、江西省、四川省、山東省、台湾、雲南省、チベットや浙江省などの省において、森林の縁部、草原、広野、湿地、作物畑の縁部、溝、生け垣、峡谷や農地のアシボソの発病状況を調査し、発病したアシボソの葉を採集し、植物体の発病症状と関連情報を記録し、実験室に持ち帰ってアシボソの寄生真菌を分離、研究し、厳密にコッホの原則(Koch's Postulate)に基づいて病原性を検証した。
【0025】
まず、バイポラリス・ヤマダイ菌株(Bipolaris yamadae (Y.Nisik.) Shoemaker) HXDC-1-2が自然条件で発生した胞子のアシボソにおける病原症状は以下の通りである。アシボソの罹病植物体の葉にはいずれも大きさの異なる病斑が見られ、発病初期には、植物の葉の表面に濃い茶色や黒色の病斑、円形(直径0.25~0.40cm)や楕円形(幅0.25~0.3cm×長さ0.4~0.5cm)の病斑が出現し、葉縁に黄色や緑色のハローがあり、葉先や葉縁部分が黄化する。発病中期には、病斑は次第に拡大し、病葉の縁部は枯れて茶色っぽくなり、僅かにカールし、一部の葉の中心は黄色から茶色になる。その後、病斑は一面に連なって茶色や黒色を呈し、葉は枯れたりカールしたりし、結局、葉全体が死滅に至る。
【0026】
病葉の病健境界で組織小片を切り出し、75%アルコールと1%次亜塩素酸ナトリウム溶液で表面消毒を行った。これらの組織小片をPDA培地に接種し、28℃の暗い条件下で2日間培養し、分離した菌株を精製培養した。観察された菌糸の生長状況や胞子の産生状況もこれまでと類似しており、これはアシボソの強病原菌であった。これを傾斜培地に保存し、4℃で用意しておく。
【0027】
光学顕微鏡下で分生子、分生子柄の形態を検察し、顕微鏡写真により分生子の大きさを測定した。『中国真菌志』、『真菌同定マニュアル』に記載の形態学的特徴に基づいて病原同定を行った。同定したところ、菌株HXDC-1-2の形態学的特徴は『中国真菌志』第30巻におけるバイポラリス・ヤマダイ(Bipolaris yamadae (Y.Nisik.) Shoemaker)の説明とほぼ一致するので、Bipolaris yamadaeであると同定した。上記の説明は以下の通りである。分生子柄は黄褐色で、単生又は群生し、分岐することもあり、先端の色が浅く、ひざまずくように湾曲し、幅が4.5~9.5μmである。分生子は黄褐色から濃褐色であり、略紡錘形をし、又は逆棒形をすることもあり、また、直線状や僅かな湾曲状であり、中央部が広く、基底細胞は鈍い円形をしており、滑らかであり、6~9個(多くの場合7~8個)の偽隔壁を持ち、54.5~92.5×12.5~17.5μm(平均には69.5×14.7μm)であり、臍部が明らかで、僅かに突出している。
【0028】
真菌gDNA抽出キット(BIOMIGA)を用いて病原真菌DNAを抽出し、rDNA ITS配列、GPDH配列及びEF1αをそれぞれPCR増幅した(Polymerase Chain Reaction)。そのユニバーサルプライマーは、それぞれITS4(5’-TCCTCCGCTTATTGATATGC-3’)、ITS5(5’-GGAAGTAAAAGTCGTAACAAGG-3’)、GPD1(5’-CAACGGCTTCGGTCGCATTG-3’)、GPD2(5’-GCCAAGCAGTTGGTTGTGC-3’)、EF1-983F(5’-GCYCCYGGHCAYCGTGAYTTYAT-3’)、EF1-2218R(5’-ATGACACCRACRGCRACRGTYTG-3’)である。増幅産物をアガロースゲル電気泳動により回収し、pMD19ベクターに連結し、大腸菌DH5αを形質転換し、ブルー・ホワイトセレクションによって白色コロニーを選択して、振蕩培養した。PCR増幅を行って、電気泳動及びゲル分析装置によって検出し、
図3に示されるように、2%アガロースゲルに単一の明るいバンドが現れ、図においては、1、2はEF1α増幅配列であり、目的バンドの大きさは約800bpであり、3、4はITS増幅配列であり、目的バンドの大きさは約500bpであり、5、6はGPDH増幅配列であり、目的バンドの大きさは約500bpである。菌液のシーケンシングを上海生工公司に委託し、測定した結果をGenbankの核酸データベースのEF1α、ITS及びGPDHの関連配列と相同性について比較した(Blastソフトウェア分析)。増幅、シーケンシング及び比較をした結果、EF1α増幅配
列はそれぞれBipolaris yamadae基準株(ACCC36334、CBS127087)とは相同性が99%であり、ITS増幅配
列はBipolaris yamadae基準株(CPC28807)とは相同性が99%であり、GPDH増幅配
列はBipolaris yamadae基準株(CPC28807)とは相同性が99%以上であり、菌株はバイポラリス・ヤマダイであると判定する。ITS増幅配
列はSEQ ID NO:1に示され、GPDH増幅配
列はSEQ ID NO:2に示され、EF1α増幅配
列はSEQ ID NO:3に示される。
【0029】
バイポラリス・ヤマダイHXDC-1-2を純粋培養して生じた胞子のアシボソにおける病原症状は以下の通りである。葉の表面に明らかな濃い茶色や黒色の病斑が現れ、円形や楕円形で、一部の葉の先端や葉の縁部に黄化が現れ、時間の経過に伴い、病斑は次第に拡大し、色は深くなり、深刻な場合、葉の病斑は密に繋がっており、葉の先端は枯死し、接種後期には、葉の大部分は黄化又は枯死し、葉はカールする。病葉部から病原菌を再分離すると、病斑の表面の胞子は散布したバイポラリス・ヤマダイの胞子と一致し、コッホの原則に合致した。
【0030】
以上の実験条件での発病症状は自然の病症に似ている。
【0031】
本願のバイポラリス・ヤマダイ菌株HXDC-1-2はアシボソから分離されたものであるが、イネ科雑草に対して広いスペクトルの病原力がある。同じように、そのもう一つの利点として、周辺の作物に影響を与えずに、多くの一年生や多年生のイネ科雑草を効果的に殺滅することである。このことから、バイポラリス・ヤマダイHXDC-1-2は化学除草剤である芳香族フェノキシプロピオン酸類除草剤と同等の特異性を有しながら、環境に対して安全である。
【0032】
その特徴に基づいて、子嚢菌門(Ascomycota)、クロイボタケ綱(Dothideomycetes)、ピレオスポラ亜綱(Pleosporomycetidae)、プレオスポラ目(Pleosporales Luttrell ex Barr)、プレオスポラ科(Plesporaceae Nitschke)、コクリオボラス属(Cochliobolus Drechsler)[無性段階:コクリオボラス(Bipolaris Shoemarke)]、バイポラリス・ヤマダイ(Bipolaris yamadae (Y.Nisik.) Shoemaker)であると同定する。該分化型菌株は主にアシボソ及びその近縁種、及びイネ科雑草を感染し、イネ、トウモロコシ、大豆、落花生、ゴマ、粟、ソラマメ、エンドウ、アブラナ、野菜、草花、生薬、果樹などの主要作物に対して高度免疫がある。試験対象とする30科103種類の作物や経済植物のうち、33種類はバイポラリス・ヤマダイに対して感受性があり、15種類はわずかに感受性であり、5種類は非感受性であり、感受性のある植物のほとんどはイネ科であり、マメ科、アブラナ科、ゴマ科などの他の科の植物、イネ科の一部などの植物は感受性が低い。このため、該菌株は、イネ、トウモロコシ、大豆、落花生、ゴマ、粟、ソラマメ、エンドウ、アブラナ、野菜、草花、生薬、果樹などの作物の畑に用いられて、イヌビエ、エノコログサ、オニメヒシバ、メヒシバ、アゼガヤ、イトアゼガヤ、カラスムギ、スズメノテッポウ、セイバンモロコシ、アシボソなどのイネ科雑草、タマガヤツリ、コシロガヤツリ、クグガヤツリなどの一年生ハマスゲ、及びカナムグラ、クサネム、シロザ、コアカザなどのような広葉雑草を含む農地雑草を防除するために用いられることができる。
【実施例2】
【0033】
本願のバイポラリス・ヤマダイHXDC-1-2は生物的除草に用いられ、具体的な使用方法は、菌種を以下の培地に接種し、分生子を誘導生成した後、畑や雑草が生えている農地に散布し、使用量を102~106個/mLとすることである。
【0034】
該バイポラリス・ヤマダイHXDC-1-2の培養方法:バイポラリス・ヤマダイを暗い条件下で約4日間成長させた。培養皿を無菌条件下でブラックライト又は紫外線ランプ(24 h)下に置いて照射し、培地は照射中に胞子を生成する。
PDA培地 ジャガイモブドウ糖寒天培地
ジャガイモ 200 g
ブドウ糖 20 g
寒天 20 g
水 1 L
【0035】
現在、中国の国内や国外では、アシボソに対する真菌除草剤の開示はまだされていない。これについての研究は、アシボソ及びイネ科雑草を防除するための良好な手段を提供する。本願の除草組成物は、他の適切な化学除草剤と併用することができ、これにより、低化学除草剤の使用量を減らし、環境汚染を低減させる。
【0036】
必要に応じて、本願の除草組成物は界面活性剤、安定化剤などの助剤を使用してもよく、界面活性剤は例えばトウェイン20、トウェイン80などであり、安定化剤は酸化防止剤などを使用することができる。
【実施例3】
【0037】
罹病アシボソの葉を野外で採集し、植物体の発病症状を記録し、顕微鏡で検査した。アシボソエキス寒天培地を用いて病原真菌を分離した。顕微鏡下で菌株の単胞子を選択し、PDA培地にそれぞれ接種し、暗い条件下、28℃で培養した。病原真菌を純粋培養したコロニーの特徴を観察し、コロニーの直径を測定した。また、直径5mmの各円形コロニーをPDAプレートの中央に接種し、4日後、各コロニーの直径を測定した。
【0038】
【表1】
注:D1は単胞子5日間後に形成されたコロニー直径、D2は5mm円形コロニー4日間後に形成されたコロニー直径である。
【実施例4】
【0039】
貴州省貴陽市で自然発生したアシボソ病害植物体から病原真菌を採集して分離し、その病原性について実験を行った。異なる濃度の各種病原真菌胞子懸濁液(ここで、界面活性剤はトウェイン20、トウェイン80、安定剤は酸化防止剤)をそれぞれ自然条件でアシボソに散布し、各真菌の病原特性を観察した。
【0040】
【表2】
注:10
5、10
4はそれぞれ散布させた胞子懸濁液の濃度が10
5、10
4 個胞子/1ml(下同)を表す。
小文字は0.05であって有意レベル、大文字は0.01であって有意レベル(下同)。
【0041】
表2から分かるように、バイポラリス・ヤマダイ菌株HXDC-1-2の病原率は他の菌株よりも高い。
【実施例5】
【0042】
HXDC-1-2菌株をPDA培地で4日間培養し、28℃でブラックライト下に置いて照射し、無菌水を用いて胞子懸濁液を調製した(実施例4参照)。また、9cmの鉢にアシボソ幼苗を育て、3~4葉期まで成長させ、手持ち噴霧器を用いて胞子懸濁液を散布させ、28℃で48h保湿し、湿度を80%に維持した。1週間処理すると、該草は全て枯死した。
【実施例6】
【0043】
試験植物(表3、4参照)の種子を直径9cmの鉢に播種した。4群の重複を設置し、温度28℃の温室にて飼育した。試験植物が3~4葉期になると接種し(実施例4、5参照)、1鉢あたり5~10株保留した。各試験植物のHXDC-1-2菌株に対する感受性を測定した。安全性試験の結果、HXDC-1-2菌株は、モロコシ及びササゲに対して病原性があり、イネ、トウモロコシ、大豆、落花生、ゴマ、粟、ソラマメ、エンドウ、アブラナ、野菜、草花、生薬、果樹などの作物のいずれにも病原性がない。殺草スペクトル試験の結果、HXDC-1-2菌株は、イネ科雑草としてイヌビエ、エノコログサ、オニメヒシバ、メヒシバ、アゼガヤ、イトアゼガヤ、カラスムギ、スズメノテッポウ、セイバンモロコシ、アシボソ、ミクロステギウム・ノドサム、ササガヤ、オオササガヤ、カヤツリグサ科雑草としてタマガヤツリ、コシロガヤツリ、クグガヤツリ、及び広葉雑草としてカナムグラ、クサネム、シロザ、コアカザに高い病原性がある。さらに、オニメヒシバ、メヒシバ、タマガヤツリなどに対して中等レベルの病原性がある。このため、HXDC-1-2菌株はイネ、トウモロコシ、大豆、落花生、ゴマ、粟、ソラマメ、エンドウ、アブラナ、野菜、草花、生薬、果樹などの作物畑に用いられて、イヌビエ、エノコログサ、オニメヒシバ、メヒシバ、アゼガヤ、イトアゼガヤ、カラスムギ、スズメノテッポウ、セイバンモロコシ、アシボソなどのイネ科雑草、タマガヤツリ、コシロガヤツリ、クグガヤツリなどの一年生ハマスゲ、及びカナムグラ、クサネム、シロザ、コアカザなどの広葉雑草を防除することができる。
【表3】
【表4】
【配列表】