(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】接着シート、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20240610BHJP
C09J 105/16 20060101ALI20240610BHJP
C09J 129/14 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J105/16
C09J129/14
(21)【出願番号】P 2022568063
(86)(22)【出願日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2021036620
(87)【国際公開番号】W WO2022123874
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2020203085
(32)【優先日】2020-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】田口 哲志
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/013215(WO,A1)
【文献】特開2020-105360(JP,A)
【文献】特開2019-189819(JP,A)
【文献】特開2015-192109(JP,A)
【文献】特開2010-138259(JP,A)
【文献】特開2009-292727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
C08L
A61L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリンと、
親水性ポリマーに、炭素数が6~18個のアルキル基が導入された誘導体ポリマーと、
を有し、
前記アルキル基の少なくとも一部が前記シクロデキストリンで包接されて
おり、
前記誘導体ポリマーが、以下の式1で表される繰り返し単位を有するポリビニルアセタールであり、
【化1】
(式1中、R
1は炭素数6~18個のアルキル基を表す。)
前記ポリビニルアセタールにおける前記アルキル基の導入量が、1~8モル%である、
皮膚に適用される接着シート。
【請求項2】
前記アルキル基の炭素数が、7~9個である、請求項1に記載の接着シート。
【請求項3】
前記シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン又はその誘導体である、請求項1又は2に記載の接着シート。
【請求項4】
前記親水性ポリマーが
、ポリビニルアルコー
ルである、請求項1~3のいずれか1項に記載の接着シート。
【請求項5】
前記R
1のアルキル基の炭素数が7~9個である、請求項
1~4のいずれか1項に記載の接着シート。
【請求項6】
前記誘導体ポリマーの含有量に対する前記シクロデキストリンの含有量の含有質量比が0.1~1.5である、請求項1~5のいずれか1項に記載の接着シート。
【請求項7】
前記含有質量比が、0.1~0.75である、請求項
6に記載の接着シート。
【請求項8】
前記ポリビニルアセタールにおける前記アルキル基の導入量が、1~5モル%である、請求項1~7のいずれか1項に記載の接着シート。
【請求項9】
前記ポリビニルアセタールにおける前記アルキル基の導入量が、1~4モル%である、請求項1~8のいずれか1項に記載の接着シート。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の
皮膚に適用される接着シートの製造方法であって、
親水性ポリマーに、炭素数が6~18個のアルキル基が導入された誘導体ポリマーと、溶媒と、を含む分散液を準備することと、
前記分散液にシクロデキストリンを添加し、前記アルキル基の少なくとも一部を前記シクロデキストリンで包接することと、
前記溶媒を除去して接着シートを得ることと、
を含
み、
前記誘導体ポリマーが、以下の式1で表される繰り返し単位を有するポリビニルアセタールであり、
【化1】
(式1中、R
1は炭素数6~18個のアルキル基を表す。)
前記ポリビニルアセタールにおける前記アルキル基の導入量が、1~8モル%である、
接着シートの製造方法。
【請求項11】
更に、前記親水性ポリマーに前記アルキル基を導入することで前記誘導体ポリマーを得ること、を含む請求項
10に記載の接着シートの製造方法。
【請求項12】
前記親水性ポリマーがポリビニルアルコールであり、前記導入することが、前記ポリビニルアルコールと、前記アルキル基を有するアルデヒドと
を反応させることである、請求項
11に記載の接着シートの製造方法。
【請求項13】
前記ポリビニルアセタールにおける前記アルキル基の導入量が、1~5モル%である、請求項10~12のいずれか1項に記載の接着シートの製造方法。
【請求項14】
前記ポリビニルアセタールにおける前記アルキル基の導入量が、1~4モル%である、請求項10~13のいずれか1項に記載の接着シートの製造方法。
【請求項15】
ウェアラブルデバイスの固定用である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の接着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着シート、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚に適用される接着シートは、基材と、基材上に配置されたゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、及び、シリコーン系粘着剤等を有するものが使用されてきた。
特許文献1には、「支持体の片面に粘着剤層が形成されており、該粘着剤層は下記(A)~(C)成分を含有すると共に、(A)成分と(B)成分の含有比率が1:0.5~1:1.5であり、外部架橋剤によって架橋されてなることを特徴とするアクリル系粘着テープ。(A)カルボキシル基もしくはヒドロキシル基を含有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルを必須成分として共重合してなる共重合体。(B)側鎖に塩構造を有さない窒素原子を有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルとを必須成分として共重合してなる共重合体。(C)上記(A)成分および(B)成分と相溶する有機液状成分。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の粘着剤は、皮膚に対する粘着力が不十分であったり、湿潤環境下での耐久性が不十分であったりすることを、本発明者は知見している。
そこで、本発明は、皮膚に対する優れた接着力を有し、かつ、湿潤環境下における優れた耐久性を有する接着シート、および、その製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0006】
[1] シクロデキストリンと、親水性ポリマーに、炭素数が6~18個のアルキル基が導入された誘導体ポリマーと、を有し、上記アルキル基の少なくとも一部が上記シクロデキストリンで包接されてなる、接着シート。
[2] 上記アルキル基の炭素数が、7~9個である、[1]に記載の接着シート。
[3] 上記シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン又はその誘導体である、[1]又は[2]に記載の接着シート。
[4] 上記親水性ポリマーがポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアルキレングリコール、ポリエチレンイミンからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載の接着シート。
[5] 上記誘導体ポリマーがポリビニルアセタールである、[1]~[4]のいずれかに記載の接着シート。
[6] 上記ポリビニルアセタールが、後述する式1で表される繰り返し単位を有する、[5]に記載の接着シート。
[7] 上記R1のアルキル基の炭素数が7~9個である、[6]に記載の接着シート。
[8] 上記ポリビニルアセタールにおける上記アルキル基の導入量が、0.1~8モル%である、[6]又は[7]に記載の接着シート。
[9] 上記ポリビニルアセタールにおける上記アルキル基の導入量が、1~4モル%である、[6]又は[7]に記載の接着シート。
[10] 上記誘導体ポリマーの含有量に対する上記シクロデキストリンの含有量の含有質量比が0.1~1.5である[1]~[9]のいずれかに記載の接着シート。
[11] 上記含有質量比が、0.1~0.75である、[10]に記載の接着シート。
[12] [1]~[11]のいずれかに記載の接着シートの製造方法であって、
親水性ポリマーに、炭素数が6~18個のアルキル基が導入された誘導体ポリマーと、溶媒と、を含む分散液を準備することと、上記分散液にシクロデキストリンを添加し、上記アルキル基の少なくとも一部を上記シクロデキストリンで包接することと、上記溶媒を除去して接着シートを得ることと、を含む、接着シートの製造方法。
[13] 更に、上記親水性ポリマーに上記アルキル基を導入することで前記誘導体ポリマーを得ることを含む[12]に記載の接着シートの製造方法。
[14] 上記親水性ポリマーがポリビニルアルコールであり、上記導入することが、上記ポリビニルアルコールと、上記アルキル基を有するアルデヒドと反応させることである、[13]に記載の接着シートの製造方法。
[15] ウェアラブルデバイスの固定用である、[1]~[11]のいずれかに記載の接着シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、皮膚に対する優れた接着力を有し、かつ、湿潤環境下における優れた耐久性を有する接着シートを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0009】
本明細書において、「包接」とは、シクロデキストリンの分子の内側に形成された疎水性空隙(内腔)に他の分子が会合された状態を意味する。従って、「アルキル基の少なくとも一部がシクロデキストリンで包接されてなる」状態は、アルキル基の少なくとも一部がシクロデキストリンの内腔に会合されている状態を意味する。
【0010】
[接着シート]
本発明の実施形態に係る接着シートは、シクロデキストリンと、誘導体ポリマーとを有する。この誘導体ポリマーは、親水性ポリマーに、炭素数が6~18個のアルキル基(以下、「特定アルキル基」ともいう。)が導入されたポリマーである。また、上記アルキル基の少なくとも一部がシクロデキストリンで包接されている。
【0011】
上記接着シートにより本発明の課題が解決される理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は以下のとおり推測している。
【0012】
本接着シートの成分である誘導体ポリマーは、接着シートのフレームを構成する。親水性ポリマーに導入されている特定アルキル基は疎水性を有し、親湿潤環境下において疎水性相互作用がより強く励起されやすく、誘導体ポリマー内で凝集しやすい特徴があると推測される。
【0013】
特定アルキル基が疎水性相互作用により凝集することは、誘導体ポリマーの分子鎖の物理的な絡み合い(物理架橋)の発生要因となることを表している。
上記特定アルキル基によって物理架橋が形成されると、接着シートのフレームが強化され、接着シート自体の力学特性、及び、耐水性が向上する。
【0014】
また、上記特定アルキル基により、本接着シートは、被着体、特に、脂質膜を有する生体組織に対してアンカー効果を発揮し、より強く接着しやすい。
【0015】
本接着シートの特徴点の一つは、上記2つの機能(物理架橋の形成/被着体に対するアンカーの形成)を有する特定アルキル基の少なくとも一部がシクロデキストリンで包接されている点にある。
【0016】
誘導体ポリマーは特定アルキル基が包接されていない状態では、疎水性相互作用によって物理架橋が生じやすい。言い換えれば、硬化しやすい。一方で、特定アルキル基による物理架橋が生じると、その後にアンカー効果は発揮されにくく、被着体に対する接着力は生じにくい。
【0017】
本接着シートは特定アルキル基が包接されているため、物理架橋の形成が抑制された状態にある。ここに水分が接触すると、シクロデキストリンが特定アルキル基から脱離していく。このとき、接着シートが被着体に接していると、特定アルキル基による物理架橋の形成と、被着体へのアンカー形成とが競合的に起こる。
【0018】
すると、被着体と接着シートとの界面近傍では特定アルキル基の少なくとも一部が被着体との接着に使われ、接着シートの内部側では、特定アルキル基が物理架橋に使われる。すなわち、本接着シートは、特定アルキル基によるアンカー効果で被着体と強固に接着しつつ、特定アルキル基による物理架橋でシート自身も硬化して耐水性も強化される。
【0019】
このように、本接着シートは湿潤環境下において(水分の存在下において)被着体に対して優れた接着性を有しつつ、更に、物理架橋が形成され、接着シート自体の耐水性も高まるという性質を有している。
【0020】
一般に、水溶性の粘着剤を用いた接着シートでは、一旦、湿潤環境下において被着体に接着させ、乾燥、硬化させた後、再度水分に触れると、粘着剤が軟化して接着力が落ち、場合によっては剥離してしまうという問題がある。
一方で、本接着シートは、一旦接着すると、再度水分に触れても接着力が落ちることはなく、むしろ、物理架橋がより進み、シートの耐水性がより増加する。
【0021】
また、一般の接着シートは、基材と、基材上に形成された接着剤層とで構成されている場合が多い。接着剤層がタックを有していたり、流動的だったりする場合、一方側に基材を有していないと、著しく取り扱い性が低下したり、接着剤層だけでは機械強度が不十分になりやすく、接着剤層単独では「接着シート」としては使用しにくい。
【0022】
一方、本接着シートは、当初は殆どタックを有しておらず、基材を有していなくても取り扱いは容易である。本接着シートは、湿潤状態の被着体に触れると、被着体との界面は接着剤層のように機能し、それより内側は、物理架橋の形成により基材のように機能する。
【0023】
また、一般の接着シートでは、接着剤層がタックを有する場合、この接着シートを巻き回してロールを形成しようとすると、接着剤層による意図しない接着を避けるために、予め接着面に剥離シート(セパレータ)を付着せしめるか、基材の反対面に接着防止の処理をする必要がある。
【0024】
一方、本接着シートは、湿潤状態の被着体に触れて接着力を生じるため、巻き回してロールを形成する場合であっても、上記のような処理は必須ではない。
【0025】
更に、本接着シートは、被着体と接する面が接着剤層のように機能するため、例えば、接着シートの両面を湿潤状態の被着体に触れさせれば、両面接着シートとしても使用できる。
一般の接着シートでは、両面接着用であれば、基材の両面に接着剤層を予め設ける必要があり、その構成も、製造方法も、片面接着用の接着シートとは異なるものである。
本接着シートは、基材が無くても使用できる点で、用途に応じて、特別な処理や準備をしなくとも片面接着用にも両面接着用にも使用でき、従来の接着シートとは異なる。以下では、本接着シートの成分について詳述する。
【0026】
<誘導体ポリマー>
本接着シートは、親水性ポリマーに炭素数が6~18個のアルキル基が導入された誘導体ポリマーを含む。以下、炭素数が6~18個のアルキル基を「特定アルキル基」と記載する場合がある。
本接着シートにおける誘導体ポリマーの含有量としては特に制限されないが、接着シートの全質量を100質量%としたとき、20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、55質量%以上が更に好ましく、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下が更に好ましい。
なお、本接着シートは、誘導体ポリマーの1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。本接着シートが、2種以上の誘導体ポリマーを含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0027】
親水性ポリマーとしては特に制限されないが、例えば、アルギン酸塩、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、エチレンオキシド-プロピレンオキシドコポリマー、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、ポリアミン、ポリホスファゼン、多糖類、キチン、キトサン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリルアミド、エチレンビニルアルコール(エチレン-ビニルアルコール共重合体)、ポリアルキレングリコール、ポリエチレンイミン、グリコサミノグリカン(例えば、ヒアルロン酸、及び、コンドロイチン硫酸等)、プロテオグリカン、キサンタンガム、カラギナン、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、及び、サクラン等が挙げられる。
【0028】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する接着シートが得られる点で、親水性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリアルキレングリコール、ポリエチレンイミン及び、ポリアミンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ポリビニルアルコール、及び、ポリ酢酸ビニルからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0029】
親水性ポリマーに特定アルキル基を導入し、誘導体ポリマーを得る方法としては特に制限されず公知の方法を使用できる。このような方法としては、例えば、親水性ポリマーが有する反応性の置換基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及び、アミノ基等)と反応できる部位と、特定アルキル基とを有する化合物を親水性ポリマーと反応させる方法が挙げられる。このような化合物としては、例えば、特定アルキル基を有するアルコール、アミン、アルデヒド、及び、ケトン等が挙げられる。
【0030】
特定アルキル基は、炭素数が6~18個のアルキル基である。アルキル基の炭素数が6個未満だと、アンカー効果が十分に発現せず、被着体への十分な接着力が得られない。また、物理架橋が不十分となり、接着シートの耐水性が得られない。
一方、炭素数が18個を超えると、疎水性が高くなりすぎて凝集力が強くなりすぎ、結果として十分な接着性が得られない。
【0031】
より優れた本発明の効果を有する接着シートが得られる観点では、特定アルキル基の炭素数としては、7個以上が好ましく、8個以上がより好ましく、14個以下が好ましく、12個以下がより好ましく、10個以下が更に好ましく、9個以下が特に好ましい。
【0032】
特定アルキル基は、直鎖状でも分枝鎖状でも良いが、より優れた本発明の効果が得られる観点では、特定アルキル基は直鎖状であることが好ましい。
【0033】
誘導体ポリマーにおけるアルキル基の導入量としては、特に制限されないが0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、8モル%以下が好ましく、4モル%以下がより好ましい。
アルキル基の導入量が1~4モル%であると、得られる接着シートは、更に優れたピール強度を有する。
【0034】
なお、本明細書において、アルキル基の導入量は、誘導体ポリマーの1H-NMRの測定結果から、求められる値(モル%)を意味する。
例えば、誘導体ポリマーがポリビニルアセタールであれば、以下の方法を用いて、アルキル基の導入量を計算する。
【0035】
まず、ポリビニルアセタールとジメチルスルホキシド-d6の0.5%(w/v)の溶液を準備する。これを、1H-NMR装置(商品名「JNM-ECS-400、JEOL製)を用いて測定する。測定は25℃で行う。各サンプル8回スキャンする。得られた結果から、以下の計算式を用いて、アルキル基の導入量を計算する。
【0036】
(式)アルキル基の導入量(モル%)={(-CH3プロトンのピーク面積)/3}/(-CH-プロトンのピーク面積)×100
ここで、-CH-プロトンのピーク面積は、3.08ppmにおける、骨格のαCHプロトンに由来するピークの積算である。
また、-CH3プロトンのピーク面積は、アルキル基のCH3に由来する0.75ppmにおけるピーク面積である。
【0037】
(誘導体ポリマーの好適形態)
より優れた本発明の効果を有する接着シートが得られる観点では、誘導体ポリマーの好適形態は、以下の式1で表される繰り返し単位(以下、「単位1」ともいう。)を有するポリビニルアセタール(以下「誘導体ポリマー1」ともいう。)であることが好ましい。
【0038】
【0039】
上記式中、R1は炭素数が6~18個のアルキル基(特定アルキル基)を表す。
上記R1のアルキル基の炭素数は、7個以上が好ましく、8個以上がより好ましく、14個以下が好ましく、12個以下がより好ましく、10個以下が更に好ましく、9個以下が特に好ましい。R1のアルキル基は、直鎖状でも分枝鎖状でも良いが、より優れた本発明の効果が得られる観点では、直鎖状であることが好ましい。
【0040】
誘導体ポリマー1は、式1で表される以外の繰り返し単位を更に有していてもよい。このような繰り返し単位としては、例えば、以下の式2、及び、式3で表される繰り返し単位(以下、それぞれ「単位2」及び「単位3」ともいう。)が挙げられる。
【0041】
【0042】
誘導体ポリマー1における各単位の含有量は特に制限されないが、全繰り返し単位数を100%としたとき、単位1が、0.1%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、8%以下が更に好ましく、4.5%以下が特に好ましい。
【0043】
誘導体ポリマー1における単位2の含有量は特に制限されないが、誘導体ポリマー1が単位2を含む場合、全繰り返し単位数を100%としたとき、72%以上が好ましく、76.5%以上がより好ましく、83%以上が更に好ましく、86%以上が特に好ましく、98.9%以下が好ましく、98%以下がより好ましい。
【0044】
誘導体ポリマー1における単位3の含有量は特に制限されないが、誘導体ポリマー1が単位3を含む場合、単位全繰り返し単位数を100%としたとき、0.1%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、9.5%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、8.5%以下が更に好ましく、8%以上が特に好ましい。
【0045】
誘導体ポリマー1の分子量としては特に制限されないが、一般に、10,000~200,000が好ましく、50,000~100,000がより好ましい。
【0046】
誘導体ポリマー1の製造方法としては特に制限されず、公知の製造方法が適用可能である。典型的には、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られたポリビニルアルコールを酸触媒下でアルデヒドと縮合させることによって得ることができる。この場合、得られる誘導体ポリマー1における特定アルキル基は、上記アルデヒドに由来する。従って、用いるアルデヒドの種類や仕込み比を適宜変更することによって所望のアルキル基を有する誘導体ポリマー1が製造できる。
【0047】
<シクロデキストリン>
本接着シートはシクロデキストリンを含む。シクロデキストリンは、D-グルコース単位がα-1,4-グルコシド結合で環状に結合した環状化合物であり、澱粉、及び/又は、澱粉の加水分解物にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ等の酵素を作用させて製造できる。
【0048】
シクロデキストリンとしては、構成するグルコースの数が6個(α型)、7個(β型)、及び、8個(γ型)等のシクロデキストリンを用いることができ、更にその誘導体も使用することができる。
なかでも、α-シクロデキストリン又はその誘導体は、その内腔の大きさが、特定アルキル基を包接するためにより適している点で好ましい。
【0049】
α-シクロデキストリンの誘導体としては、例えば、メチルα-シクロデキストリン、ブチルα-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピルα-シクロデキストリン、アセチルα-シクロデキストリン、スクシニルα-シクロデキストリン、グルコシルα-シクロデキストリン、マルトシルα-シクロデキストリン、α-シクロデキストリンカルボキシメチルエーテル、リン酸エステルα-シクロデキストリン、及び、カルボキシメチルα-シクロデキストリン等が挙げられる。
【0050】
β-シクロデキストリンの誘導体としては、例えば、メチル-β-シクロデキストリン(MBCD)、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン(HPBCD)、カルボキシメチル-β-シクロデキストリン、カルボキシメチル-エチル-β-シクロデキストリン、ジエチル-β-シクロデキストリン、ジメチル-β-シクロデキストリン、グルコシル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシブテニル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシエチル-β-シクロデキストリン、マルトシル-β-シクロデキストリン、ランダム メチル-β-シクロデキストリン、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン、2-セレニウム架橋-β-シクロデキストリン、及び、2-テルリウム架橋-β-シクロデキストリン等が挙げられる。
【0051】
γ-シクロデキストリンの誘導体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル-γ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン、ブチル-γ-シクロデキストリン、3A-アミノ-3A-デオキシ-(2AS,3AS)-γ-シクロデキストリン、モノ-2-O-(p-トルエンスルホニル)-γ-シクロデキストリン、モノ-6-O-(p-トルエンスルホニル)-γ-シクロデキストリン、モノ-6-O-メシチレンスルホニル-γ-シクロデキストリン、オクタキス(2,3,6-トリ-O-メチル)-γ-シクロデキストリン、オクタキス(2,6-ジ-O-フェニル)-γ-シクロデキストリン、オクタキス(6-O-t-ブチルジメチルシリル)-γ-シクロデキストリン、及び、オクタキス(2,3,6-トリ-O-アセチル)-γ-シクロデキストリン等が挙げられる。
【0052】
本接着シートにおけるシクロデキストリンの含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する接着シートが得られる点で、接着シートの全質量を100質量%としたとき、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましく、80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましく、45質量%以下が特に好ましい。
【0053】
また、接着シート中における誘導体ポリマーの含有量に対するシクロデキストリンの含有量の含有質量比(シクロデキストリンの含有量/誘導体ポリマー)としては、0.01以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.3以上が更に好ましく、3.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.0以下が更に好ましく、0.9以下が特に好ましく、0.75以下が最も好ましい。
特に、上記含有質量比が0.1~0.75であると、得られる接着シートは更に優れたピール強度と、更に優れた水中安定性とを有する。
【0054】
なお、接着シートは、シクロデキストリンの1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が、2種以上のシクロデキストリンを含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0055】
なお、接着シートは本発明の効果を奏する範囲内において他の成分を含有していてもよい。
【0056】
[接着シートの製造方法]
接着シートの製造方法は特に制限されないが、より簡便に接着シートを製造できる点で、以下の工程;
親水性ポリマーに、炭素数が6~18個のアルキル基が導入された誘導体ポリマーと、溶媒と、を含む分散液を準備すること、
分散液にシクロデキストリンを添加し、アルキル基の少なくとも一部をシクロデキストリンで包接すること、および、
溶媒を除去して接着シートを得ること、
を含むことが好ましい。
【0057】
分散液の製造に用いる溶媒は、水を含むことが好ましい。溶媒は、水以外にも水溶性の有機溶媒を含むことが好ましい。水溶性有機溶媒としては特に制限されないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等のC1~C6アルコール;ジメチルホルムアミド、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、及び、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒;等が挙げられる。
【0058】
なかでも、取り扱いが容易で、毒性がより低い観点からは、有機溶媒としてはC1~C6アルコールが好ましく、なかでも、エタノールが好ましい。
溶媒がC1~C6アルコールを含む場合、その含有量としては特に制限されないが、体積基準で、10~90%が好ましく、15~50%がより好ましい。
【0059】
分散液の調製方法としては、より簡便である点で、誘導体ポリマーを予め溶媒に分散させて分散液を得て、上記分散液にシクロデキストリンを添加することが好ましい。
その後、シクロデキストリンにより誘導体ポリマーのアルキル基を包接する方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。なかでも、加熱による方法が好ましい。
包接する方法としては、例えば、上記分散液を、60~120℃で、1~60分加熱する方法が挙げられる。この際、上記分散液を加圧することが好ましい。
【0060】
アルキル基が包接された後、分散液から接着シートを得る方法としては特に制限されない。例えば、支持体、又は、仮支持体上に分散液を用いて分散液層を形成させ、上記分散液層から溶媒を除去すればよい。
分散液層を形成する方法としては特に制限されず、公知のコーティング、及び、印刷技術等が使用できる。また、曲面を含んでも含まなくてもよいモールド型に分散液を注液する方法も使用できる。
【0061】
例えば、ロールコーターを用いる場合、仮支持体上に、グラビアコーター、リバースコーター、スロットダイコーター、ナイフコーター、コンマコーター、及び、バーコーター等で分散液層を形成し、オーブンで乾燥させた後、仮支持体を剥離させ、接着シートを得る方法が挙げられる。
【0062】
得られた分散液層から溶媒を除去する方法としては、公知の方法が使用できる。例えば、分散液層を10~100℃で1分~48時間保持して溶媒を乾燥させる方法等が挙げられる。なお、この際、減圧してもよい。
【0063】
本接着シートは、被着体の表面の水分と反応して接着力を生ずる。そのため得られた接着シートは、剥離紙等を貼付せずに、巻き芯に巻き回してロールを形成してもよい。
【0064】
接着シートの厚みとしては、特に制限されないが、一般に、5~200μmが好ましい。
【0065】
[接着シートの用途]
本接着シートは、生体組織への優れた接着力を有し、かつ、優れた耐水性を有するため、ウェアラブルデバイスの固定用として使用することができる。
また、実施例に示されたとおり、本接着シートは優れたイオン透過性を有し、かつ、タンパク質を透過させにくいため、ウェアラブルデバイスが生体情報の計測用である場合でも優れた性能を発揮する。
【0066】
本接着シートを用いてウェアラブルデバイスを固定する方法としては特に制限されないが、例えば、以下の固定方法が挙げられる。
まず、皮膚上に、生体情報モニタ等のウェアラブルデバイスを載置する。ここに、上記ウェアラブルデバイスの平面視の輪郭よりも大きい本接着シートを用いて、上記ウェアラブルデバイスを覆うように皮膚に接着させる。
本接着シートは、優れた水蒸気透過率と、優れたイオン透過性等を有しており、この方法で生体情報モニタを固定した場合でもその機能を損ないにくく、更に、蒸れにくい。
【0067】
また、本接着シートは、湿潤環境下で物理架橋が進行して強固なフィルムを形成するため、プリンテッド・エレクトロニクス技術等を適用して、接着シート上に直接、デバイスを形成することもできる。ウェアラブルデバイスが形成された状態で皮膚に貼付することにより、ウェアラブルデバイスを固定できる。
【0068】
また、ウェアラブルデバイスの筐体が親水性表面である(例えば、すでに説明した親水性ポリマー等で形成されている)場合、皮膚とウェアラブルデバイスの間に本接着シートを配置し、両面を接着させることで、本接着シートを介して、皮膚とウェアラブルデバイスとを接着することができる。
本接着シートは、優れた水蒸気透過率と優れたイオン透過性等を有しているため、生体情報モニタ等のデバイスをこの方法で固定した場合であっても、デバイスの機能を十分に発揮させることができる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0070】
(C9-PVAの合成)
水とDMSO(ジメチルスルホキシド)を体積比で1:3の割合で混合し、更に、塩酸を添加して、終濃度0.01Mとした溶媒を用意した。上記溶媒に5%w/vとなるように、ポリビニルアルコール(Mw=88,000、ケン化率>98.5%、ナカライテスク製)を添加して混合して、混合液を得た。
【0071】
次に、アルキル基の導入量が2.5モル%、及び、5モル%となるように量を調製したノナナール(C9、但し、式1のR1として導入されるアルキル基はC8)を上記混合液に加え、還流冷却器を用いて、液温を50℃に維持して1時間攪拌した。導入されたアルキル基の量は、1H-NMRで確認した。その結果、アルキル基の導入量がそれぞれ2.5モル%、5モル%で、ヒドロキシ基の消費量がそれぞれ5モル%、10モル%であった。
なお、この反応で得られる生成物を以下、「C9-PVA」という。C9-PVAは、単位1を有しており、式1のR1は炭素数が8個の直鎖状のアルキル基(オクチル基)である。
【0072】
反応後、得られたC9-PVA溶液は、600mLの冷エタノールに、1時間撹拌しながら添加された。未反応のアルデヒドと、溶媒中のDMSOは、このエタノール洗浄で取り除かれた。最後に、沈殿したC9-PVAを真空下で白色結晶として蒸発させた。次に、クラッシャー(商品名「ワンダークラッシャーWC-3」、大阪ケミカル製)を用いて、得られた結晶を細かく粉砕した。
【0073】
(接着シートの調製)
まず、α-シクロデキストリン(以下、「α-CD」という。富士フイルム和光純薬工業製)を1%w/v「C9-PVA」分散液(40%v/vエタノール水溶液)に加え、オートクレーブ(商品名「LSX-500」、TOMY製)で90℃で10分加熱した。
このとき、α-CDの添加量は、接着シート中におけるC9-PVAの含有量に対する、α-CDの含有量の含有質量比(α-CD/C9-PVA)が0.5又は1となるように調製した。
【0074】
なお、α-CDがアルキル基と包接することは、40%エタノール中にノナナールとα-CDとを加え、上記と同様の条件で処理したところ、白色の沈殿が生じた(包接錯体)ことから確認した。
【0075】
次に、得られた溶液を25℃で一晩撹拌した。次に、溶液を厚さ1mmのシリコーンモールドに注ぎ、クリーンベンチ(As One製)で25℃で一晩乾燥させた。
乾燥後にシリコーンモールドから接着シートを剥離し、厚みをマイクロメーター(「MDC-MX」、ミツトヨ株式会社)で測定した。
【0076】
(接着性:Tピール試験)
ブタの皮膚を被着体として用いて、Tピール試験を行った。まず、使用したブタの皮膚は東京芝浦オルガン株式会社から購入した。実験前に、ブタの皮膚をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で3回洗浄し、クリッパーで表面を剃った(商品名「Thriveモデル515R」、大東電気産業製)。なお、ブタの皮膚は、と畜後48時間以内のものを使用した。
【0077】
接着シートのTピール試験は、ASTMF2256-05に準拠して測定した。
まず、準備したブタの皮膚を200mm×30mmの長方形に切り、メッシュを使用して余分な水分を取り除いた。その後、80μLの40%v/vエタノール水溶液をブタの皮膚に噴霧し、接着シート(100mm×15mm、厚み:15μm)を貼付した。
【0078】
貼付後、25℃で15分間乾燥させた。ブタの皮膚をステージに固定し、接着シートの一端を治具で挟持し、剥離の方向(剥離した接着シート)と、ブタの皮膚の表面とのなす角が90度となるように、接着シートを剥離させ(200mm/分)、ピール強度を測定した。
【0079】
試験は各サンプルにつき5回行い、これを算術平均して、平均ピール強度(N/m)を求めた。求めた平均ピール強度を以下の基準に沿って評価した。表1の「ピール強度」の欄がその結果である。
なお、参考として、「3Mスコッチテープ(商品名)」「Tegadermフィルム(商品名)」についても同様の試験を実施した。
【0080】
・評価基準
AA:平均ピール強度が、8.00N/m以上だった。
A:平均ピール強度が、6.00N/m以上、8.00N/m未満だった。
B:平均ピール強度が、4.00N/m以上、6.00N/m未満だった。
C:平均ピール強度が、3.00N/m以上、4.00N/m未満だった。
D:平均ピール強度が、3.00N/m未満だった。
【0081】
(水中安定性)
60mm×60mmの大きさのブタの皮膚に40%(v/v)エタノールを吹き付けて湿潤状態として、約30mm×30mmの大きさ、厚みが15μmの接着シートを貼り付けて積層体を作製した。次に、この積層体を300mLの生理食塩水(液温37℃)の入った容器に浸漬し、200rpmの回転速度で攪拌しながら、24時間保持し、剥離するまでの時間を計測した。なお、各接着シートとも、3つの別の試験片を準備し、結果はその平均値とした。結果を以下の基準に沿って評価した。表1の「水中安定性」の欄がその結果である。
【0082】
・評価基準
AA:水中安定性が、125秒以上だった。
A:水中安定性が、75秒以上、125秒未満だった。
B:水中安定性が、25秒以上、75秒未満だった。
C:水中安定性が、25秒未満だった。
【0083】
なお、実施例1の接着シートは、試験開始から24時間経過した後も、剥がれ等は観察されなかった。
【0084】
(水蒸気透過率)
接着シートの水蒸気透過率は、ASTM 96 procedure Bに準拠して測定した。まず、底面積3.14cm2のねじ口バイアル瓶を準備し、蒸留水を所定量ずつ計量して収容した。次に、バイアル瓶の開口部を接着シートで塞ぎ、その状態で接着シートを固定した。
この状態で37℃に保持し、バイアル瓶からの水の蒸発量を定量した。
【0085】
水蒸気透過率(WVTR)は、以下の式を用いて計算した。
(式)WVTR=V/T
なお、Vは蒸留水の体積変化(減少)、Tはインキュベーション時間である。
【0086】
なお、各接着シートとも、3回試験を行い、その算術平均を結果とした。結果を以下の基準に沿って評価した。表1の「水中安定性」の欄がその結果である。
【0087】
・評価基準
A:水蒸気透過率が、0.50mL/日以上だった。
B:水蒸気透過率が、0.10mL/日以上、0.50mL/日未満だった。
C:水蒸気透過率が、0.10mL/日未満だった。
【0088】
(イオン透過性)
直径24mmのtranswell(登録商標)インサート付きの6ウェルプレートを準備した。transwell インサートは、直径8μmの孔を底部に有しており、この孔をふさぐように各接着フィルムをキャスト製膜した。
次に、インサート内に濃度100mg/mLのNaCl水溶液を加え、6-ウェルプレートの各ウェルには、3mLの脱イオン水を加え、37℃でインキュベートした。
【0089】
試験開始から1時間経過後のウェル内の脱イオン水中に浸出したNaClをICP-OES(Inductively coupled plasma optical emission spectrometry)により定量した。試験は5回行い、算術平均して結果とした。以下の基準により結果を評価した。表1はその結果である。
【0090】
・評価基準
A:侵出したNaClの量が30mg/mL以上だった。
B:侵出したNaClの量が20mg/mL以上、30mg/mL未満だった。
C:侵出したNaClの量が20mg/mL未満だった。
【0091】
(タンパク質透過率)
直径24mmのtranswell(登録商標)インサート付きの6ウェルプレートを準備した。transwell インサートは、直径8μmの孔を底部に有しており、この孔をふさぐように各接着フィルムをキャスト製膜した。
次に、インサート内に濃度2mg/mLのHSA(Human serum albumin)を加え、6-ウェルプレートの各ウェルには、3mLのD-PBS(ダルベッコリン酸生理食塩水)3mLを加え、37℃でインキュベートした。
【0092】
試験開始から1時間経過後のウェル内の緩衝液中に浸出したHSAをマイクロBCAアッセイにより定量した。試験は5回行い、算術平均して結果とした。以下の基準により結果を評価した。表1はその結果である。
【0093】
・評価基準
A:侵出したHSAの量が、5μg/mL未満だった。
B:侵出したHSAの量が、5μg/mL以上、15μg/mL未満だった。
C:侵出したHSAの量が、15μg/mL以上だった。
【0094】
【0095】
表1中、サンプル名の欄の各表記の意味は以下のとおりである。
・「PVA」:ポリビニルアルコールからなるシート
・「α-CD/PVA(w/w=1)」:誘導体ポリマーに代えてPVAを用いたこと以外は実施例3と同様にして作成したシート
・「2.5C9-PVA」:アルキル基の導入量を2.5モル%に調整したC9-PVAからなるシート
・「α-CD/2.5C9-PVA(w/w=0.5)」:α-CDとアルキル基の導入量を2.5モル%としたC9-PVAとの含有質量比を1:2とした接着シート
・「α-CD/2.5C9-PVA(w/w=1)」:α-CDとアルキル基の導入量を2.5モル%としたC9-PVAとの含有質量比を1:1とした接着シート
・「α-CD/5C9-PVA(w/w=1)」:α-CDとアルキル基の導入量を5モル%としたC9-PVAとの含有質量比を1:2とした接着シート
【0096】
表1の結果から、実施例1の接着シートは、シクロデキストリンを含まず、特定アルキル基が導入されていない親水性ポリマー(PVA)からなる比較例1の接着シートと比較して、優れたピール強度、及び、優れた水中安定性を有していた。
【0097】
また、実施例1の接着シートは、シクロデキストリンと、特定アルキル基が導入されていない親水性ポリマー(PVA)からなる比較例2の接着シートと比較して、優れた水中安定性を有していた。
【0098】
また、実施例1の接着シートは、シクロデキストリンを含まず、特定アルキル基が導入された誘導体ポリマーからなる比較例3の接着シートと比較して、優れたピール強度を有していた。
【0099】
また、実施例1の接着シートは、市販品(スコッチテープ、及び、テガダームフィルム)と比較して、より優れたピール強度を有していた。
【0100】
また、接着シート中における誘導体ポリマーの含有量に対するシクロデキストリンの含有量の含有質量比が0.1~0.75である実施例1の接着シートは、実施例2の接着シートと比較してより優れたピール強度、及び、より優れた水中安定性を有していた。
【0101】
また、アルキル基の導入量が1~4モル%である実施例2の接着シートは実施例3の接着シートと比較してより優れたピール強度を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本接着シートは、湿潤環境下における優れた接着力と優れた耐久性とを併せ持つため、例えば皮膚等の被着体に対して貼付する用途に適している。また、優れた水蒸気透過率と、イオン透過率等を有しているため、ウェアラブルデバイスの固定用にも適している。