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特許7500117体液に含まれる成分の濃度を測定するシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】体液に含まれる成分の濃度を測定するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20240610BHJP
   G01N 21/65 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
A61B5/1455
G01N21/65
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023523261
(86)(22)【出願日】2023-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2023002402
(87)【国際公開番号】W WO2023145810
(87)【国際公開日】2023-08-03
【審査請求日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2022011549
(32)【優先日】2022-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509339821
【氏名又は名称】アトナープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】中島 昭彦
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/178199(WO,A1)
【文献】特開2017-060753(JP,A)
【文献】特開2021-009135(JP,A)
【文献】特表2001-522625(JP,A)
【文献】国際公開第2019/208561(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/145-5/1455
G01N 21/17-21/65
G01N 33/483-33/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液に含まれる成分の濃度を測定するシステムであって、
流れている状態の前記血液の少なくとも一部にレーザー光を照射して得られるラマンスペクトルを時系列で含むデータを取得する装置と、
取得された前記データに含まれる解析対象のスペクトルを、前記血液の複数の主たる構成成分である血球成分および血漿成分のいずれかが主として反映された複数の参照スペクトルの中の、前記解析対象のスペクトルと前記主たる構成成分に対応するスペクトルとの類似性の高い解析参照スペクトルに基づき前記主たる構成成分に対応するスペクトルの変動の他の前記血液中のグルコース、ヘモグロビンA1c、クレアチニンおよびアルブミンの少なくともいずれかを含むターゲットの成分の濃度による変動を前記解析参照スペクトルに対して前記ターゲットの成分の濃度を求めるように予め設定された関数または学習モデルにより解析し、前記血液中を前記主たる構成成分とともに移動する前記ターゲットの成分の濃度を判断する解析装置とを有し、
前記学習モデルは、前記解析参照スペクトルに基づき前記ターゲットの成分の濃度を得ることを学習した学習モデルであり、
前記取得する装置は、生体から前記データを取得するラマン分光装置を含む、システム。
【請求項2】
請求項1において、
取得された前記データに含まれる複数のスペクトルの中に繰り返し現れる類似性の高いスペクトルを含む類似スペクトル群に基づき前記解析参照スペクトルを決定する参照スペクトル生成装置をさらに有する、システム。
【請求項3】
血液に含まれる成分の濃度を測定するシステムであって、
流れている状態の前記血液の少なくとも一部にレーザー光を照射して得られるラマンスペクトルを時系列で含むデータを取得する装置と、
取得された前記データに含まれる複数のスペクトルの中に繰り返し現れる類似性の高いスペクトルを含む類似スペクトル群に含まれる解析対象のスペクトルを、前記類似スペクトル群に共通するスペクトル成分を含む解析参照スペクトルであって、前記血液の複数の主たる構成成分である血球成分および血漿成分のいずれかが主として反映された解析参照スペクトルに基づき前記主たる構成成分に対応するスペクトルの変動の他の前記血液中のグルコース、ヘモグロビンA1c、クレアチニンおよびアルブミンの少なくともいずれかを含むターゲットの成分の濃度による変動を前記解析参照スペクトルに対して前記ターゲットの成分の濃度を求めるように予め設定された関数または学習モデルにより解析し、前記血液中を前記主たる構成成分とともに移動する前記ターゲットの成分の濃度を判断する解析装置とを有し、
前記学習モデルは、前記解析参照スペクトルに基づき前記ターゲットの成分の濃度を得ることを学習した学習モデルであり、
前記取得する装置は、生体から前記データを取得するラマン分光装置を含む、システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記解析装置は、前記血液中の前記複数の主たる構成成分である血球成分および血漿成分のいずれかに含まれる前記ターゲットの成分の濃度を判断する、システム。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記解析装置は、前記学習モデルを含む、システム。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記ラマン分光装置は、前記血液として、血管を流れている前記血液を対象として前記データを取得するプローブを含む、システム。
【請求項7】
請求項において、
前記プローブは前記血管を圧迫して前記血液の流速を制御する機能を含む、システム。
【請求項8】
流れている状態の血液にレーザー光を照射して得られるラマンスペクトルを時系列で含むデータを取得可能なシステムにより前記血液に含まれる成分の濃度を検出する方法であって、
前記システムの解析装置が、前記データを取得することと、
取得された前記データに含まれる解析対象のスペクトルを、前記血液の複数の主たる構成成分である血球成分および血漿成分のいずれかが主として反映された複数の参照スペクトルの中の、前記解析対象のスペクトルと前記主たる構成成分に対応するスペクトルとの類似性の高い解析参照スペクトルに基づき前記主たる構成成分に対応するスペクトルの変動の他の前記血液中のグルコース、ヘモグロビンA1c、クレアチニンおよびアルブミンの少なくともいずれかを含むターゲットの成分の濃度による変動を前記解析参照スペクトルに対して前記ターゲットの成分の濃度を求めるように予め設定された関数または学習モデルにより解析し、前記血液中を前記主たる構成成分とともに移動する前記ターゲットの成分の濃度を判断することとを有し、
前記学習モデルは、前記解析参照スペクトルに基づき前記ターゲットの成分の濃度を得ることを学習した学習モデルであり、
前記取得することは、ラマン分光装置により生体から前記データを取得することを含む、方法。
【請求項9】
請求項において、
前記解析装置が、取得された前記データに含まれる複数のスペクトルの中に繰り返し現れる類似性の高いスペクトル群に基づき前記解析参照スペクトルを決定することをさらに有する、方法。
【請求項10】
流れている状態の血液の少なくとも一部にレーザー光を照射して得られるラマンスペクトルを時系列で含むデータを取得可能なシステムにより前記血液に含まれる成分の濃度を検出する方法であって、
前記システムの解析装置が、前記データを取得することと、
取得された前記データに含まれる複数のスペクトルの中に繰り返し現れる類似性の高いスペクトルを含む類似スペクトル群に含まれる解析対象のスペクトルを、前記類似スペクトル群に共通するスペクトル成分を含む解析参照スペクトルであって、前記血液の複数の主たる構成成分である血球成分および血漿成分のいずれかが主として反映された解析参照スペクトルに基づき前記主たる構成成分に対応するスペクトルの変動の他の前記血液中のグルコース、ヘモグロビンA1c、クレアチニンおよびアルブミンの少なくともいずれかを含むターゲットの成分の濃度による変動を前記解析参照スペクトルに対して前記ターゲットの成分の濃度を求めるように予め設定された関数または学習モデルにより解析し、前記血液中を前記主たる構成成分とともに移動する前記ターゲットの成分の濃度を判断することとを有し、
前記学習モデルは、前記解析参照スペクトルに基づき前記ターゲットの成分の濃度を得ることを学習した学習モデルであり、
前記取得することは、ラマン分光装置により生体から前記データを取得することを含む、方法。
【請求項11】
請求項ないし10のいずれかにおいて、
前記判断することは、前記血液中の前記複数の主たる構成成分である血球成分および血漿成分のいずれかに含まれる前記ターゲットの成分の濃度を判断することを含む、方法。
【請求項12】
請求項ないし10のいずれかにおいて、
前記血球成分は、赤血球、白血球および血小板の少なくともいずれかの成分を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の体液に含まれる成分の濃度を測定するシステムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
国際公開WO2019/117177号公報には、細胞から得られるラマンスペクトルに基づいて、従来よりも正確に細胞の種類を判別することを可能にする判別方法、学習方法、判別装置及びコンピュータプログラムを提供することが記載されている。試料に含まれる細胞の種類を判別する方法において、一つの未判別の細胞から一つのラマンスペクトルを取得し、種類の判明している複数の細胞の夫々から一つずつ得られたラマンスペクトルからなる複数のラマンスペクトルの主成分分析により得られた複数の主成分のスペクトルに対して、前記未判別の細胞のラマンスペクトルが一致する度合を示す複数の一致度を計算し、前記主成分分析により得られた前記種類の判明している複数の細胞の夫々に対応する複数の主成分スコアを、教師あり学習を用いる学習モデルによって種類別に分類した結果に基づいて、前記複数の一致度を分類することにより、前記未判別の細胞の種類を判別することが記載されている。
【0003】
特開2012-27008号公報には、血漿グルコース濃度の測定の精度を上げる技術を提供するために以下のステップを経て血漿グルコースの測定を行うことが記載されている。血液中の血球を溶血させ測定用試料を調製する試料調製ステップ、前記測定用試料を用いて全血のグルコース濃度を測定する全血グルコース測定ステップ、前記血液中の血球と血漿の比率、並びに、既知の値である血球の液体成分比率及び血漿の液体成分比率から、全血の液体成分比率を算出する全血液体成分比演算ステップが記載されている。
【発明の開示】
【0004】
生体の体液、例えば、血液には主な組成成分として血球と血漿とが含まれ、血球としては、赤血球、白血球、血小板などが含まれる。また、生体の健康状態をチェックするためには、主な組成成分とは別に、血液中のグルコース、ヘモグロビンA1c、クレアチニン、アルブミンなどの測定が求められ、血糖値の測定基準としては血漿血糖値が要求される。多様な成分が含まれる血液などの体液に含まれる測定の対象(ターゲット)となる成分の濃度を精度よく測定することは容易ではない。さらに、指標として血漿血糖値のように、特定の組成成分中の測定値が重要であることもある。
【0005】
本発明の一態様は、体液に含まれる成分の濃度を測定するシステムである。このシステムは、流れている状態の体液の少なくとも一部にレーザー光を照射して得られるスペクトルを時系列で含むデータを取得する装置と、取得されたデータに含まれる解析対象のスペクトルを、体液の複数の主たる構成成分のいずれかが主として反映された複数の参照スペクトルの中の、解析対象のスペクトルと類似性の高い解析参照スペクトルに基づき解析し、体液中のターゲットの成分の濃度を判断する解析装置とを有する。
【0006】
体液、例えば血液にレーザー光を照射して得られるラマンスペクトルから血中のグルコース濃度を得ることが行われようとしている。その検査方法の一例は、従来の全血のグルコース濃度を測定している手続きにしたがって、時系列的に得られた複数のラマンスペクトルを平均化して、平均化されたスペクトルに含まれるグルコースに関連したピークの高さあるいは形状からグルコース濃度を求めることが検討されている。しかしながら、本願の発明者は、流れている状態の体液、例えば、血管を流れる血液から、血球の速度よりも短い間隔でラマンスペクトルを取得すると、それらのラマンスペクトルは平均的な濃度を示す情報ではなく、特に、比較的細い血管においては、スペクトルが経時的に変化することを見出した。
【0007】
それらのスペクトルを平均化して全血のスペクトルとすることは可能であろう。しかしながら、経時的に変化するスペクトルに血液の主たる構成成分である血球および血漿の情報、さらには、赤血球、白血球、血小板などの異なる成分の情報が含まれているとすると、主たる構成成分をそれぞれ反映した複数のスペクトルを平均化することにより、それらの情報より一般的に小さい、ターゲットの成分の濃度を示す情報、例えば、グルコースの濃度に関する情報は、平均化により埋没してしまう可能性がある。したがって、単に、数多くのスペクトルを平均化しても、測定精度は向上せず、逆に、ターゲットの成分の濃度を精度よく測定することを困難にしている可能性がある。
【0008】
一方、流れている状態の体液にレーザー光を照射して得られる複数のスペクトルを時系列で含むデータにおいては、それら複数のスペクトルを時系列で分類(区別、分解、分画)することが可能であり、それらのスペクトルには体液の主要な構成成分を時分解(分画)した情報が含まれることを本願の発明者らは見出した。すなわち、主要な構成成分が一様には含まれていない体液のスペクトルを、体液が流れている状態で取得することにより、それら主要な構成成分を分画した情報を得ることが可能となる。このため、解析対象のスペクトルを、体液の複数の主たる構成成分のいずれかが主として反映された複数の参照スペクトルの中の、解析対象のスペクトルと類似性の高い解析参照スペクトルに基づき(参照として)解析することにより、体液中に含まれるターゲットの成分の濃度を精度よく測定できる。さらに、複数の主たる構成成分のいずれかを特定し、それに含まれるターゲットの成分の濃度を判断することが可能となる。
【0009】
例えば、血液の場合、複数の参照スペクトルは、血球成分を主たる構成成分として含むものと、血漿成分を主たる構成成分として含むものと、それらが混合した成分を含むもの、などが含まれる。血球成分を主たる構成成分として含む参照スペクトルは、さらに、赤血球の成分を主たる構成成分として含むものなどに分けることができる可能性がある。複数の参照スペクトルの中の、例えば、血漿成分を主として含むスペクトルに類似する解析対象のスペクトルを、血漿成分を含む平均的なスペクトルを解析参照スペクトルとして参照して解析することにより、他の主たる構成成分、例えば、血球成分の情報が解析時の参照情報として不利益(ノイズ)となることを抑制でき、グルコースなどのターゲットの成分の濃度の測定精度を向上できる。さらに、糖尿病などの判断の基準となる血漿グルコース濃度を直に取得することも可能となる。
【0010】
血球成分、血漿成分などの構成成分を主として含む参照スペクトルは、それぞれの構成成分の情報を含むスペクトルとして予め与えられていてもよい。時系列に取得されたデータに含まれる複数のスペクトルの中に繰り返し現れる類似性の高いスペクトルを含む類似スペクトル群に基づき解析参照スペクトルを決定してもよい。さらに、類似スペクトル群と、体液の複数の主たる構成成分のいずれかが主とした複数の標準スペクトルとから参照スペクトルを求めてもよい。また、システムは、参照スペクトルを生成する装置を含んでいてもよく、類似性の高いスペクトルから参照スペクトルを自動的に生成する(自己学習する)装置を含んでいてもよい。
【0011】
データを取得する装置は、クラウドなどからデータを取得する装置であってもよく、オンサイトで生体からデータを取得する検出装置であってもよい。検出装置は、ラマンスペクトルを取得するラマン分光装置を含んでいてもよく、生体から非侵襲でデータを取得する装置であってもよい。体液は典型的には血液であり、複数の主たる成分は、血漿成分および血球成分を含んでもよい。複数の主たる成分は、赤血球、白血球および血小板の少なくともいずれかの成分と、血漿成分とを含んでもよい。ターゲットの成分はグルコース、ヘモグロビンA1c、クレアチニンおよびアルブミンの少なくともいずれかを含んでもよい。
【0012】
本発明の他の態様の1つは、体液の成分を検出する方法である。この方法は、流れている状態の体液にレーザー光を照射して得られるスペクトルを時系列で含むデータを取得することと、取得されたデータに含まれる解析対象のスペクトルを、体液の複数の主たる構成成分のいずれかが主として反映された複数の参照スペクトルの中の、解析対象のスペクトルと類似性の高い解析参照スペクトルに基づき解析し、体液中のターゲットの成分の濃度を判断することとを有する。この方法は、取得されたデータに含まれる複数のスペクトルの中に繰り返し現れる類似性の高いスペクトル群に基づき解析参照スペクトルを決定することをさらに有してもよい。
【0013】
本発明の他の態様の1つは、体液に含まれる成分の濃度を測定する方法であって、流れている状態の体液の少なくとも一部にレーザー光を照射して得られるスペクトルを時系列で含むデータを取得することと、取得されたデータに含まれる複数のスペクトルの中に繰り返し現れる類似性の高いスペクトルを含む類似スペクトル群に含まれる解析対象のスペクトルを、類似スペクトル群に共通するスペクトル成分を含む解析参照スペクトルに基づき解析し、体液中のターゲットの成分の濃度を判断することとを有する方法である。
【0014】
判断することは、体液中の複数の主たる構成成分のいずれかに含まれるターゲットの成分の濃度を判断することを含んでもよい。また、取得することは、生体からデータを取得することを含んでもよく、取得することは、ラマンスペクトルを取得することを含んでもよく、これらの方法により非侵襲でデータを取得することを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】血管を流れる血液のCARSスペクトを取得するシステムの一例を示す図。
図2】プローブの一例を示す図。
図3】血液のCARSスペクトルの一例を示す図。
図4】全血のCARSスペクトルの一例を示す図。
図5】生体(人体)から得られるCARSスペクトルの例を示す図。
図6】血管中を流れる血液のCARSスペクトルの例を示す図。
図7】赤血球の主たる構成成分とするCARSスペクトルの一例を示す図。
図8】血漿成分を主とするCARSスペクトルの一例を示す図。
図9】グルコース濃度を反映した血液のCARSスペクトルの一例を示す図。
図10】グルコース濃度とRBCライクのCARSスペクトルの関連ピーク強度との相関を示す図。
図11】グルコース濃度とPlasmaライクのCARSスペクトルの関連ピーク強度との相関を示す図。
図12】グルコース濃度の測定方法の一例を示すフローチャート。
【発明の実施の形態】
【0016】
図1に本発明に関連して、サンプル(生体)の血管を流れる血液を観察対象(モニタリングの対象)とし、血液由来のラマンスペクトルを取得するシステム(体液検査システム、生体監視システム、血液検査システム)の概要を示している。このシステムの一例は、生体5の血管5aにレーザー光を照射して、血管5aを流れる血液を観察対象(検出対象)5tとしてCARS(コヒーレント反ストークスラマン散乱、Coherent Anti-Stokes
Raman Scattering)スペクトル51を取得し、生体5の状態を監視(モニタリング)
する生体監視システム30である。生体監視システム30は、生体5の健康を維持するための薬剤を注入する投薬システム38を備えていてもよい。生体監視システム30の一例はスマートウォッチなどの通信機能およびユーザーインターフェイスを内蔵したウェアラブルな携帯端末である。投薬システム38の一例は、生体5の皮膚を介して薬剤を注入するシステムであり、インジェクタ38aと、インジェクタ38aに所定の薬剤を供給する供給装置(供給ユニット)38bとを含んでいてもよい。
【0017】
生体監視システム(生体管理システム)30の一例は血糖値を測定する測定システム(血糖値測定装置)である。生体監視システム30は、血管5aを流れる血液5tからCARSスペクトル51を取得するラマン分光装置(光学系)10を含む検出装置31と、検出装置31から入力インターフェイス32を介して得られたCARSスペクトル51を解析して血漿血糖値を出力する血糖値モニター33とを有する。図1に示したラマン分光装置10は一例であり、実験用に生体5としてマウスの耳を対象として、耳の血管5aを流れる血液5tを観察対象としたシステムを示している。ラマン分光装置10は、非侵襲で生体5の皮膚を介して血管5aを流れる血液5tの信号が得られるものであればよく、この例に限定されるものではない。また、ラマン分光装置10は、生体内に埋め込まれたインプラントで光路を制御したり、生体内に人口血管(バイオポート)を埋め込んで血液の流れを皮膚直下に形成したりするなどの低侵襲的な手法を備えたものであってもよい。
【0018】
ラマン分光装置10は、観察対象の血管中の血液5tにレーザー光を照射してCARS光を取得するためのプローブ(探査端、サンプラー)13と、プローブ13を介して血液5tにポンプ光(例えば波長1030nm)59pおよびストーク光(例えば波長1100-1300nm)59sとを照射するためのレーザー源11と、血液5tから発せられるCARS光50のスペクトル51を取得するスペクトロメータ12とを含む。ストークス光59sは波長帯の広いブロードバンドタイプであってもよく、可変長レーザーを用いたナローバンドタイプであってもよい。さらに、レーザー源11は、さらに、プローブ光(例えば波長780nm)を出力するものであってもよく、ラマン分光装置10は、遅延時間を考慮した時間依存型のCARSスペクトルを取得するものであってもよい。
【0019】
このラマン分光装置10は、実験に適した構成となっており、さらに、プローブ13を介してサンプル5に照射されているレーザーのポジションを光学的に確認するための可視光源15と、サンプル5を透過した可視光によりレーザーのポジションを確認するためのカメラ(CCDカメラ)16と、レーザーおよびCARS光と可視光とを分離するためのダイクロイックミラー17および18とを含む。レーザー光と可視光とを分離するためのダイクロイックミラー17の一例は波長750nm以上を透過するフィルターであり、CARS光と可視光と分離するためのダイクロイックミラー18の一例は波長805nmを中心とするSPフィルターである。ラマン分光装置10は、適当な光路を形成するためのミラーM1~M4、プリズムなどの光学素子を含んでいてもよい。
【0020】
レーザー源11からはfS(フェムト秒)からpS(ピコ秒)のパルス状のレーザーが放出され、スペクトロメータ12では、例えば、8mS(ミリ秒)単位で積分された解析対象のスペクトル(第1のスペクトル)51が断続的(時系列)に得られる。したがって、検出装置31は、時系列に得られた複数の解析対象のスペクトル51を含むデータ52を出力でき、血糖値モニター33は入力インターフェイス32を介してデータ52を取得できる。なお、パルス幅、積分時間は一例に過ぎない。
【0021】
血糖値モニター33は、インターフェイス32を介して取得したデータ52に含まれる解析対象のスペクトル51を解析する解析装置20を含む。解析装置20は、体液にレーザー光を照射して得られた体液の成分が反映された解析対象のスペクトル51を、体液の複数の主たる構成成分のいずれかが主としてそれぞれ反映された複数の参照スペクトル(第2のスペクトル)54の中の解析対象のスペクトル51と類似性の高い解析参照スペクトル53に基づき解析し、体液に含まれるターゲットの成分、例えばグルコースの濃度を判断する第1の解析ユニット21を含む。第1の解析ユニット21は、解析参照スペクトル53に基づく多変量解析(主成分分析)などの解析手法を用いて濃度を判断する解析ユニットであってもよい。また、第1の解析ユニット21は、解析対象のスペクトル51と類似性の高い解析参照スペクトル53に基づき、所定のターゲットの成分の濃度を推定することを事前に学習した学習モデル(AI(1))21aを含んでいてもよい。
【0022】
解析装置20は、さらに、取得されたデータ52に含まれる複数のスペクトル51の中に繰り返し現れる類似性の高いスペクトルを含む類似スペクトル群55に基づき解析参照スペクトル53を決定する参照スペクトル生成装置22を含んでいてもよい。生成装置22は、複数の解析対象のスペクトル(第1のスペクトル)51の中の、一部のスペクトル成分の相関または類似性の高い複数のスペクトルのグループ55から複数の参照スペクトル(第2のスペクトル)52を自己学習する装置(AI(2))22aを含んでいてもよい。
【0023】
解析装置20は、ラマン分光装置10により得られた、流れている状態の体液(血液)5tにレーザー光を照射して時系列で(経時的に、断続的に)得られた複数の解析対象のスペクトル51から学習モデル21aにより血液5tに含まれるグルコース(ターゲット)の成分の濃度を得る。学習モデル21aは、ライブラリ25に格納された、予め与えられた複数の参照スペクトル(第2のスペクトル)54に基づきグルコースなどのターゲットの成分の濃度を得るように学習されたものであってもよい。自己学習装置22aは、予め得られている血液の主たる構成成分、例えば、赤血球、血漿などの標準スペクトル56を参照し、ラマン分光装置10から得られる複数の解析対象のスペクトル51の中の、標準スペクトル56との類似性または相関性の高い複数のスペクトルのグループ55から、濃度を判断するための基準となる解析参照スペクトル53を含む参照スペクトル54を生成(自己学習)するものであってもよい。
【0024】
解析装置20は、学習モデル21aおよび22aの協働により、取得されたデータ52に含まれる複数のスペクトル51の中に繰り返し現れる類似性の高いスペクトルを含む類似スペクトル群55に含まれる解析対象のスペクトル51を、類似スペクトル群に共通するスペクトル成分を含む解析参照スペクトル53に基づき解析し、体液中のターゲットの成分の濃度を判断する機能を含んでいてもよい。
【0025】
生体監視システム30は、得られたグルコースなどのターゲットの成分の濃度を出力する出力インターフェイス35を含んでいてもよい。出力インターフェイス35は、測定された血液中のグルコースの濃度として出力してもよく、濃度を測定するために参照された解析参照スペクトル53に含まれる主たる構成成分、例えば血漿を参照して、血漿とともに流動する(主たる構成成分中の)グルコースの濃度(血漿血糖値)として出力する機能(血漿血糖値出力装置)35aを含んでいてもよい。出力インターフェイス35は、血漿に限らず、赤血球などの他の主たる構成成分に含まれるターゲットの成分の濃度を構成成分毎に出力する機能35bを含んでいてもよい。
【0026】
図2にプローブ13の一例を示している。このプローブ13は、このシステム30のサンプルであるマウスの耳たぶ5を挟み込んで耳たぶ5の血管5aを流れる血液5tを観察対象としてレーザー光59pおよび59sを照射し、非侵襲でCARS光50を取得する。プローブ13は耳たぶ5を挟み込む上下の透光性の板13aおよび13bと、それらの板13aおよび13bの間隔を変えることができるアクチュエータ、例えばピエゾアクチュエータ13cとを含む。このプローブ13のアクチュエータ13cは、血管5aを圧迫して血液5tの流速を制御する機構として機能する。
【0027】
血管5aを圧迫することにより血管5aの断面積を制御することが可能であり、血管5a中を流れる血液5tの流速を制御できる。例えば、断面積を小さくすることにより、血流を遅くできるとともに、血液5tに含まれる主たる構成成分である赤血球などの血球成分の通過を阻害でき、血球成分(赤血球)を断続的に通過させ、その間に血漿成分が主となる時間的なタイミングを作りやすい。したがって、血管5aを流れる血液5tを測定することにより、血液5tに含まれる主たる構成要素、例えば、赤血球と血漿とを時間的に分画した状態で測定でき、主たる構成要素が、より特徴的に表れるスペクトルを得ることができる。プローブ13はフィンガークリップ型や、その他の皮膚の薄い部分を挟むタイプ、あるいは皮膚に圧着され皮膚表面の毛細血管に圧力を加えられるタイプなどであってもよい。プローブ13は、入射するレーザー光59pおよび59sに対して前方に皮膚を透過したCARS光50を取得するタイプであってもよく、入射するレーザー光59pおよび59sに対して後方あるいは斜めに放出されるCARS光50を取得するタイプであってもよい。なお、図2に示したサイズは、サンプル5としてマウスの耳たぶを挟み込んで圧力を加えるのに適したものであり、プローブ13のサイズはこれに限定されない。
【0028】
図3に、血液5t(in-vitro, ex-vivo)のCARSスペクトルの一例を示している。
図3(a)は、マウスの血液5tを採取した後、溶血させたサンプル(全血)のCARSスペクトル(Raw Spectrum)61を、水のCARSスペクトル69と比較して示している。溶血サンプルのCARSスペクトル61は、いくつかの領域68で水のCARSスペクトル69と明確な差が見られる。図3(b)に、溶血サンプル(hemolyzed whole blood
)のCARSスペクトルのMEM(最大エントロピー法)により解析したスペクトル(MEMスペクトル)62を示している。MEMスペクトル62では原スペクトル61の特徴が強調して表される。
【0029】
図4に、上述したシステム30により、マウスの耳5の血管5aを流れる血液5t(in-vivo)から取得されたCARSスペクトル51の一例を示している。図4(a)に、図
3(b)の全血(hemolyzed blood)のCARSスペクトル(MEMスペクトル)62を
比較のために示し、図4(b)に、システム30により取得されたMEMスペクトル51を示している。これらの体内(in-vivo)のCARSスペクトル51は、図3(b)に示
した体外(in-vitro)の溶血サンプルのMEMスペクトル62と同様の特徴を備えている。したがって、システム30により、非侵襲で、血管5a中を流れる血液5tを示すCARSスペクトル51が精度よく得られることがわかる。
【0030】
なお、図4(b)に示したMEMスペクトル51は、積分時間25msec(m秒)で1秒間測定した結果を示しており、1秒間で得られた40のスペクトルの概要を示している。
【0031】
図5に、生体から得られるCARSスペクトルのいくつかの例を比較して示している。図5(a)は、溶血(全血)のCARSスペクトル(MEMスペクトル)62を示している。図5(b)は、表皮(shallow skin)のCARSスペクトル(MEMスペクトル)63の一例を示している。図5(c)は、血管を外した皮膚下組織(tissue)のCARSスペクトル(MEMスペクトル)64の一例を示している。いずれのスペクトルも異なる特徴を示しており、システム30において、血管5aを観察対象としたときにて血管由来のCARSスペクトルを判別できることがわかる。また、システム30においては、カメラ16により、CARSスペクトルを取得するためにレーザーを照射している位置が画像により確認できるようになっている。
【0032】
図6に、このシステム30により、血管5aを流れる血液5tから得られたCARSスペクトル(MEMスペクトル、in-vivo)51をさらに詳しく解析した様子を示している
図6(a)は、8msec(m秒)単位で積分したCARSスペクトル(MEMスペクトル)51であって、1秒間に、時系列で(断続的に)得られた複数のスペクトルを重ね合わせて示している。これらのCARSスペクトル51は、図1に示したシステム30においてデータ52に含まれるスペクトルの一例である。これらのスペクトル51は、血液5tから得られるCARSスペクトルであり、全体の傾向は似ているように見えるが、ピークの高さなどが異なるいくつかのパターンのスペクトルが繰り返し現れていることがわかる。
【0033】
図6(b)に、これらのスペクトル51を主成分解析(PCA)した結果を示している。多変量解析の1つである主成分分析により、相関のある多数の変数から、相関のない、少数で全体のばらつきを最もよく表す主成分となる変数を合成することができ、データの次元を削減することができる。本例においては、血液から取得されたスペクトル51は、類似性の高い3つのグループ55a、55bおよび55cに分類できる。第1のグループ55aは、血球、特に、赤血球(RBC)の成分が主に反映されたスペクトル群であり、第2のグループ55bは、血漿(plasma)の成分が主に反映されたスペクトル群であり、第3のグループ55cは、赤血球と血漿とが混合されたスペクトル群であると想定される。
【0034】
図6(c)に、第1のグループ(スペクトル群)55aの代表的なスペクトル、例えば、グループ55aのスペクトルを平均化したスペクトル53aを示している。このスペクトル(RBCスペクトル)53aは、血球、特に、赤血球(RBC)の成分を強く反映したスペクトルであると想定される。図6(d)に、第2のグループ(スペクトル群)55bの代表的なスペクトル、例えば、グループ55bのスペクトルを平均化したスペクトル(血漿スペクトル、plasmaスペクトル)53bを示している。このスペクトル53bは、血漿(plasma)の成分を強く反映したスペクトルであると想定される。このように、血管5aを流れる血液5tから得られるCARSスペクトル51には、赤血球の成分が主に反映されたスペクトル群55aに属するスペクトルと、血漿の成分が主に反映されたスペクトル群55bに属するスペクトルと、赤血球および血漿の両方の成分が反映されたスペクトル群55cに属するスペクトルとの、大きく分けて3つのパターンのスペクトルが、時間経過により繰り返し含まれることがわかる。
【0035】
発明者らの解析によると、これらの異なるパターンのスペクトル群55a~55cに属するスペクトルが繰り返される時間間隔は血液の流速に依存すると判断される。血管5aの血液5tの流速は、血管5aを圧迫する圧力により血管の口径や形状が変動したり、食後などで血糖量が変動することにより変わり、その血液の流速の変動が血液から得られるCARSスペクトル51のパターンの変動と有意に関連性があることがわかった。また、血管5aを流れる血液5tの速度(血流)をさらに遅くしたり、流れている血液5tから得られるCARSスペクトル51の積分時間を短縮することにより、繰り返し現れるパターンとして、血液の他の成分、例えば、血小板、白血球の成分が強く反映したスペクトルを識別できると考えられる。
【0036】
図7に、体外で赤血球を溶血したサンプル(in-vitro)から取得したCARSスペクトル56aの一例(図7(a))と、システム30により非侵襲(in-vivo)で得られた、
赤血球の成分が反映されていると考えられるタイミングのCARSスペクトル51aの一例(図7(b))とを比較して示している。これらのスペクトルは特徴が共通していると考えられる。
【0037】
図8に、体外で血漿サンプル(in-vitro)から取得したCARSスペクトル56aの一例(図8(a))と、システム30により非侵襲(in-vivo)で得られた、血漿成分が反
映されていると考えられるタイミングのCARSスペクトル51bの一例(図8(b))とを示している。これらのスペクトルも特徴が共通していると考えられる。したがって、血管5aを流れる血液5tを観察対象としてCARSスペクトル51を時系列で連続的に、または、短時間で平均化あるいは積分した結果を断続的に得ると、血液5tの主な構成成分の中の、異なる構成成分、例えば、血漿と、血球(本例では赤血球)とをそれぞれ反映したCARSスペクトル51bおよび51aが、血流に応じた所定のタイミングで得られることがわかる。特に、皮膚表面に近い、毛細血管あるいはそれに準ずる細い血管内を流れる血液を観察対象とする場合は、その傾向が顕著に表れると考えられる。
【0038】
図9(a)に、本例のシステム30において、マウス5の血液にグルコース溶液を注入した後に、1秒間に得られる複数のCARSスペクトル51を示している。これらのCARSスペクトル51は、血液5t中のグルコース濃度の変化が反映されていると考えられる。さらに、図9(b)に、これらのCARSスペクトル51中で、赤血球の成分を主体とするグループ55aに属すると判断されるCARSスペクトル51aを抜き出して示している。これらの赤血球の成分が主に反映されたスペクトル(RBCライクスペクトル)51aは、データ52の中に時系列で(経時的に)取得された複数のCARSスペクトル51の中に周期的に現れる。したがって、RBCライクスペクトル51aは、データ52に含まれるCARSスペクトル51の中から時間(タイミング、時間間隔)により選択してもよく、RBCスペクトル53aに類似すると判断できるスペクトルを選択してもよい。血漿の成分を主体するするグループ55bに属すると判断されるCARSスペクトル(plasmaライクスペクトル)51bも同様にデータ2に含まれる複数のCARSスペクトル51から選択(抽出)することができる。plasmaライクスペクトル51bは、データ52に含まれるCARSスペクトル51の中から時間(タイミング、時間間隔)により選択してもよく、plasmaスペクトル53bに類似すると判断できるスペクトルを選択してもよい。
【0039】
図9(a)に示したCARSスペクトル51には、主成分の差によるバリエーションの他に、グルコース濃度による変動がみられる。例えば、発明者らの事前解析によると、一例として、波長928nm近傍(Pg1)の値にグルコース濃度が強く反映され、波長926-927nm近傍(Pg0)の値はグルコース濃度の影響を受けにくいことが分かった。したがって、RBCライクと分類されたスペクトル51aおよびPlasmaライクと分類されたスペクトル51bを、それぞれ標準となるRBCスペクトル53aおよびPlasmaスペクトル53bと比較することにより、それぞれ異なる主成分のピークに対してグルコースをターゲットとして、その濃度を個別にさらに精度よく示す関係を解析することができる。1つの好適な方法は、それぞれのスペクトル53aおよび53bに基づいて、グルコースの濃度の変化を事前に学習した学習モデルAI21を採用することであることは上記に説明した通りである。
【0040】
簡易的にグルコースの濃度を求める一例は、RBCライクと分類されたスペクトル51aを、標準となるRBCスペクトル53aと比較し、例えば、波長920-930nmの強度が同一となるようにリスケーイル(拡大および/または縮小)し、所定のピーク間の強度とグルコース濃度との相関を事前に得ておくことにより判断することである。例えば、RBCライクスペクトル51aにおいては、発明者らの解析によると、波長928nmの強度Iと、波長926.2nmの強度Iの差分(I-I)とグルコース濃度との相関が高く、血液中のグルコース濃度、特に、赤血球とともに移動するグルコース濃度を精度よく判断できることが分かった。Plasmaライクスペクトル51bにおいては、波長928.5nm)の強度Iと、波長926-927nmの強度の平均値Iとの差分(I-I)とグルコース濃度との相関が高く、血液中のグルコース濃度、特に、血漿とともに移動するグルコース濃度(血漿血糖濃度)を精度よく判断できることが分かった。
【0041】
図10に、図9(b)において選択されたRBCライクスペクトル51aに含まれるグルコース関連のピークの強度差、本例においては上述した差分(I-I)と、グルコースメータ(Glucometer (SMBG) ニプロ社製 Freestyle Freedom Lite)により得られた
グルコース濃度との相関を示している。したがって、解析装置20を用いて、血管5aを流れる血液5tから得られた複数のCARSスペクトル51から、RBCライクのグループ55aに含まれるRBCライクスペクトル(解析対象のスペクトル、第1のスペクトル)51aに対して、標準となるRBCスペクトル53aを選択し、RBCスペクトル53aを解析参照スペクトル(第2のスペクトル)として、血液中のターゲットとなるグルコースの濃度を求めることにより、極めて高い精度で血液中のグルコース濃度、特に、赤血球とともに流れる(赤血球中の)グルコース濃度を判断(推定)できることがわかる。
【0042】
図11に、同様に、データ52に含まれるCARSスペクトル51の中から、血漿の成分を主体とするCARSスペクトル(血漿ライクスペクトル、Plasmaライクスペクトル)のグループ55bに含まれるPlasmaライクスペクトル(解析対象のスペクトル、第1のスペクトル)51bに対して、標準となるPlasmaスペクトル53bを選択し、Plasmaスペクトル53bを解析参照スペクトル(第2のスペクトル)として、血液中のターゲットとなるグルコースの濃度を求めた結果を示している。具体的には、Plasmaライクスペクトル51bに含まれるグルコース関連のピークの強度差、本例においては上述した差分(I-I)と、グルコースメータにより得られたグルコース濃度との相関を示している。
【0043】
本図から分かるように、血液5tから得られたCARSスペクトル51を時間で分解(分画)したPlasmaライクスペクトル51bから、それらの標準または平均となるPlasmaスペクトル53bを参照して求められたグルコース濃度(強度)と、グルコースメータにより得られたグルコース濃度とは高い相関を示している。したがって、ターゲットとなるグルコースの血液中の濃度を極めて高い精度で測定できる。さらに、血管中を血漿とともに流れる(血漿中の)グルコース濃度を判断(推定)できる。糖尿病における血糖値モニターとしては血漿グルコース濃度が参照され、グルコースメータなどにおいてはヘマトクリット補正により血漿グルコース濃度を示すように設計されているものがある。これに対し、本例のシステム30においては、血漿グルコース濃度を、血漿ライク(Plasmaライク)のCARSスペクトル51bから直に導くことが可能となる。
【0044】
図12に、本例のシステム30において、血管中を流れる血液から、ターゲット、例えばグルコースの濃度を求める方法をフローチャートにより示している。ステップ71において、血糖値モニター33は、入力インターフェイス32を介して血管5aを流れる血液5tからの複数のCARSスペクトル51を時系列で含むデータ52を取得する。データ52は、検出装置31からオンサイトまたはリアルタイムで取得されたデータであってもよく、過去に測定され、クラウドなどに予め蓄積されたデータであってもよい。ステップ72において、入力インターフェイス32または解析装置20が、ある程度の期間にわたり測定されたCARSスペクトル51が得られたと判断したり、纏まりのあるデータ52が取得されたと判断すると、データ52に含まれるCARSスペクトル51の解析を開始する。
【0045】
解析装置20は、取得されたデータ52に含まれる解析対象のスペクトル51を、体液の複数の主たる構成成分のいずれかが主として反映された複数の参照スペクトルの中の、解析対象のスペクトルと類似性の高い解析参照スペクトルに基づき解析し、体液中(血液中)のターゲット(グルコース)の成分の濃度を判断する。まず、ステップ73において、第1の解析ユニット21により、取得されたデータ52に含まれる複数のスペクトル51の中に繰り返し現れる類似性の高いスペクトル群に基づき、解析参照スペクトルを決定する。具体的には、データ52に含まれているCARSスペクトル51を、赤血球を主たる構成成分とするRBCライクスペクトルのグループ55aと、血漿を主たる構成成分とするPlasmaライクスペクトルのグループ55bとに分類し、解析の際に参照する解析参照スペクトルとしてRBCスペクトル53aまたはPlasmaスペクトル53bを決定する。
【0046】
この際、参照スペクトル生成装置22により、類似スペクトル群に共通するスペクトル成分を含む解析参照スペクトルを自動生成してもよい。具体的には、ステップ74において、参照スペクトルの生成が指定されていると、ステップ75において、参照スペクトル生成装置22は、グルーピングされたCARSスペクトル群であるRBCライクスペクトルのグループ55aおよびPlasmaライクスペクトルのグループ55bのそれぞれから平均的な成分を抽出してRBCスペクトル53aとPlasmaスペクトル53bとを生成してもよい。この際、標準的なRBCスペクトルおよびPlasmaスペクトルを、個人(ユーザー)の血液から得られたRBCライクスペクトルのグループ55aおよびPlasmaライクスペクトルのグループ55bの情報によりユーザーの特性が反映された参照スペクトルを生成してもよい。
【0047】
第1の解析ユニット21は、ステップ76において、RBCライクであると分類されたスペクトル(RBCライクスペクトル)51aの場合は、ステップ77において、RBCスペクトル53aを解析参照スペクトルとしてグルコースの濃度を判断する処理を行う。この処理では、予め設定された関数による計算にグルコース濃度を求めてもよく、グルコース濃度を求めるように予め機械学習を行った学習モデル21aがグルコース濃度を求めてもよい。ステップ76において、Plasmaライクであると分類されたスペック(Plasmaライクスペクトル)51bに対しては、ステップ78において、Plasmaスペクトル53bを解析参照スペクトルとしてグルコースの濃度を判断する処理を行う。この処理では、血漿成分を主たる構成成分とするスペクトルに対して予め設定された関数による計算にグルコース濃度を求めてもよく、血漿成分を主たる構成成分とする参照スペクトルに基づきグルコース濃度を求めるように予め機械学習を行った学習モデル21aがグルコース濃度を求めてもよい。
【0048】
ステップ79において、求められたグルコース濃度が規定値よりも高く、インシュリンの投与が必要であると判断されると、ステップ80において投薬システム38が投薬する。さらに、血糖値モニター33は、ステップ81において、出力インターフェイス35を介して血液中のグルコース濃度を出力(表示)したり、適当なメディアまたはクラウド上のサーバーなどに記録することができる。ステップ81において、Plasmaライクスペクトル51bの解析結果より、血漿中の血糖値(血漿血糖値)を出力することも可能である。また、ステップ81において、赤血球などの血液中の他の構成成分に含まれるグルコース成分の濃度を出力することも可能である。
【0049】
以上に、体液として血液を例に説明したように、血管を流れている状態の血液(体液)にレーザー光を照射して時系列得られるスペクトルには、血液の主たる構成成分がそれぞれ反映されたスペクトルが繰り返し(サイクリックに)含まれており、主たる構成成分が時間的に分類された(分画された)スペクトルを得ることができる。特に、非侵襲で測定する対象となる皮膚下の毛細血管は直径が小さく細いので、構成成分が分画されたスペクトルをサイクリックに取得しやすい。そのスペクトルを、血液の主たる構成成分が主に反映されたスペクトルを参照して解析することにより、主たる構成成分の影響を除き、あるいは主たる構成成分のピークを参照して、グルコースなどの生体の条件により変動しやすい微量な成分の濃度を精度よく取得することができる。
【0050】
血液にレーザー光を照射して得られるラマンスペクトルから血中のグルコース濃度を得ることが検討されているが、血液から得られたラマンスペクトルをすべて平均化すると、血漿成分の情報や赤血球の情報などスペクトルのピークに大きな影響を持つ主たる構成成分の情報が平均化して含まれることとなる。そのような平均化されたスペクトルは、時間的に変動する大きな成分が平均化されて情報が大きなノイズとなり、グルコースなどの、検査または測定のターゲットとなる微量成分の検出を難しくしていた。
【0051】
これに対し、本発明においては、血管を流れる血液から得られるCARSスペクトルに、血漿ライクのCARSスペクトル、RBCライクのCARSスペクトルが定期的に繰り返し含まれることに注目し、それらを分けて解析することにより、主たる構成成分の情報がノイズとなることを抑制でき、グルコースなどのターゲットとなる微量成分を高い精度で測定(解析)することができる。すなわち、この測定方法においては、血管、特に毛細血管が、赤血球などの血液の主たる構成成分の流動の障害となることに着目し、血管を、血液の主たる構成成分を分画する要素として用い、成分が一様ではない血液を分画(時分解)した情報(スペクトル)を得ることを1つの特徴としている。
【0052】
また、本発明においては、血液の血漿ライクが組成のターゲットの成分の濃度、例えば、血漿血糖値を直に得ることも可能となる。さらに、血漿ライクなCARSスペクトル51bと、RBCライクなCARSスペクトル51cが現れる頻度から、ヘマトクリット値を求めることも可能となる。
【0053】
このような処理は、複数のCARSスペクトルから血漿ライクまたはRBCライクの参照スペクトルを選択して、血漿ライクまたはRBCライクのスペクトルに含まれるグルコースなどの測定対象の成分を反映した情報から測定対象の濃度を導くように学習した学習モデル(AI(1))21aを用いて行ってもよい。
【0054】
解析の基準となる体液中の主な構成成分をそれぞれ反映した参照スペクトル、例えば、RBCスペクトル53a、Plasmaスペクトル(血漿スペクトル)53bは、予め与えられていてもよいが、個人の特性をさらに反映できるように、システム30において、時系列で得られる複数のCARSスペクトル51の中の、一部のスペクトル成分の類似性(相関)の高い複数のスペクトルのグループ55aおよび55bから複数の参照スペクトル、例えば、血漿成分を示すPlasmaスペクトル53b、血球成分を示すRBCスペクトル53aを自己学習により取得するモジュール(AI(2))22aを設けてもよい。
【0055】
なお、上記においては、体液の典型的な例として血管を流れる血液を例に説明しているが、体液はリンパ管を流れるリンパ液などの他の体液に含まれる成分であっても同様に測定できる。主たる構成成分は、血漿成分、赤血球に限らず、他の血球成分、例えば、白血球および/または血小板を含んでいてもよい。また、濃度を測定するターゲットとなる成分はグルコースに限らず、ヘモグロビンA1c、クレアチニンおよびアルブミンの少なくともいずれかを含んでもよく、血液などの体液の検査対象となるいずれかの成分を含んでいてもよい。体液に含まれる成分が反映されたスペクトルを取得する好適な方法の1つは、散乱スペクトルを取得するラマン散乱を用いることであり、CARSに限らず、誘導ラマン散乱(SRS、Stimulated Raman Scattering)、表面増強ラマン散乱(SERS、Surface Enhanced Raman Scattering)などの他の公知の方法を用いて取得されたスペクトルであってもよい。また、IR吸収スペクトルなどの吸収スペクトルを取得する方法を採用してもよい。
【0056】
上記においては、体液の成分を検出する方法であって、流れている状態の体液にレーザー光を照射して断続的に得られる複数の第1のスペクトルであって、前記体液の複数の成分がそれぞれ反映された複数の第1のスペクトルを取得することと、前記体液の複数の主たる成分のいずれかが主としてそれぞれ反映された複数の第2のスペクトルのいずれかに基づき解析し、前記体液に含まれるターゲットの成分の濃度を得ることを有する方法が開示されている。この方法は、時系列で得られる前記複数の第1のスペクトルの中の、一部のスペクトル成分の相関の高い複数のスペクトルのグループから前記複数の第2のスペクトルを得ることをさらに有してもよい。この方法は、時系列で得られる前記複数の第1のスペクトルの中で定期的に現れる、一部のスペクトル成分の相関の高い複数のスペクトルのグループから前記複数の第2のスペクトルを得ることをさらに有してもよい。この方法は、時系列で得られる前記複数の第1のスペクトルの中の、一部のスペクトル成分の相関の高い複数のスペクトルのグループから前記複数の第2のスペクトルを自己学習することをさらに有してもよい。前記複数の第1のスペクトルの典型的なものはラマンスペクトルである。
【0057】
上記には、また、体液にレーザー光を照射して得られた前記体液の成分が反映されたスペクトルを、前記体液の複数の主たる成分のいずれかが主としてそれぞれ反映された複数の第2のスペクトルのいずれかに基づき解析し、前記体液に含まれるターゲットの成分の濃度を得ることを学習した学習モデルと、流れている状態の前記体液にレーザー光を照射して断続的に得られた複数の第1のスペクトルから前記学習モデルにより前記体液に含まれるターゲットの成分の濃度を得る解析装置とを有するシステムが開示されている。このシステムは、時系列で得られる前記複数の第1のスペクトルの中の、一部のスペクトル成分の相関の高い複数のスペクトルのグループから前記複数の第2のスペクトルを自己学習する装置をさらに有してもよい。前記複数の第1のスペクトルはラマンスペクトルを含んでもよい。
【0058】
また、上記においては、本発明の特定の実施形態を説明したが、様々な他の実施形態および変形例は本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者が想到し得ることであり、そのような他の実施形態および変形は以下の請求の範囲の対象となり、本発明は以下の請求の範囲により規定されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図11
図12