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特許7500118ファンブレード、エンジン及び防氷・除氷機能付き構造体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】ファンブレード、エンジン及び防氷・除氷機能付き構造体
(51)【国際特許分類】
   B64D 15/12 20060101AFI20240610BHJP
   B64D 27/10 20060101ALI20240610BHJP
   F04D 29/38 20060101ALI20240610BHJP
   F04D 29/58 20060101ALI20240610BHJP
   F04D 29/70 20060101ALI20240610BHJP
   B64C 1/00 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
B64D15/12
B64D27/10
F04D29/38 Z
F04D29/58 L
F04D29/70 N
B64C1/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023550501
(86)(22)【出願日】2022-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2022033524
(87)【国際公開番号】W WO2023053870
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2021162473
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】谷 和夫
(72)【発明者】
【氏名】北條 正弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正也
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-108818(JP,A)
【文献】特表2015-531038(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0353523(US,A1)
【文献】中国実用新案第203035466(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 15/12
B64D 27/10
F04D 29/38
F04D 29/58
F04D 29/70
B64C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸気口側に配置されるファンブレードであって、
炭素繊維強化プラスチックからなるファンブレード本体と、
前記炭素繊維強化プラスチックに含まれる炭素繊維に電流を流すことで前記ファンブレード本体の通電領域に電流を流すための一対の第1の通電部及び第2の通電部と、
を具備し、
前記一対の第1の通電部及び第2の通電部の間に電流を流すとき、前記ファンブレード本体の前記ファンブレード本体の第1側の前記通電領域の発熱量が前記ファンブレード本体の第2側の前記通電領域の発熱量より高く、
前記ファンブレード本体の前記第1側の前記通電領域の発熱量が前記第2側の前記通電領域の発熱量より高いことは、
前記第1の通電部のスパン方向の長さに対する前記第1の通電部に導通された炭素繊維の割合である第1側の導通繊維密度が、前記第2の通電部の前記スパン方向の長さに対する前記第2の通電部に導通された炭素繊維の割合である第2側の導通繊維密度より高い、ことを含み、
前記ファンブレード本体は積層された複数の層を含み、前記複数の層に含まれる炭素繊維の配向は異なり、
前記複数の層から選択された1以上の層を前記第1の通電部及び前記第2の通電部に接続することにより、前記第1側の導通繊維密度が前記第2側の導通繊維密度より高い
ファンブレード。
【請求項2】
エンジンの吸気口側に配置されるファンブレードであって、
炭素繊維強化プラスチックからなるファンブレード本体と、
前記炭素繊維強化プラスチックに含まれる炭素繊維に電流を流すことで前記ファンブレード本体の通電領域に電流を流すための一対の第1の通電部及び第2の通電部と、
を具備し、
前記一対の第1の通電部及び第2の通電部の間に電流を流すとき、前記ファンブレード本体の前記ファンブレード本体の第1側の前記通電領域の発熱量が前記ファンブレード本体の第2側の前記通電領域の発熱量より高く、
前記ファンブレード本体は積層された複数の層を含み、
前記複数の層から選択された1以上の層が、前記第1の通電部及び前記第2の通電部に接続され
前記1以上の層は、
スパン方向及びコード方向の両方向に対して正に傾斜した第1の方向に配向した炭素繊維を含む第1の層、及び/又は
前記スパン方向及び前記コード方向の両方向に対して負に傾斜した第2の方向に配向した炭素繊維を含む第2の層
を含む
ファンブレード。
【請求項3】
エンジンの吸気口側に配置されるファンブレードであって、
炭素繊維強化プラスチックからなるファンブレード本体と、
前記炭素繊維強化プラスチックに含まれる炭素繊維に電流を流すことで前記ファンブレード本体の通電領域に電流を流すための一対の第1の通電部及び第2の通電部と、
を具備し、
前記一対の第1の通電部及び第2の通電部の間に電流を流すとき、前記ファンブレード本体の前記ファンブレード本体の第1側の前記通電領域の発熱量が前記ファンブレード本体の第2側の前記通電領域の発熱量より高く、
前記第2の通電部のスパン方向の長さは、前記第1の通電部の前記スパン方向の長さより長い
ファンブレード。
【請求項4】
エンジンの吸気口側に配置されるファンブレードであって、
炭素繊維強化プラスチックからなるファンブレード本体と、
前記炭素繊維強化プラスチックに含まれる炭素繊維に電流を流すことで前記ファンブレード本体の通電領域に電流を流すための一対の第1の通電部及び第2の通電部と、
を具備し、
前記一対の第1の通電部及び第2の通電部の間に電流を流すとき、前記ファンブレード本体の前記ファンブレード本体の第1側の前記通電領域の発熱量が前記ファンブレード本体の第2側の前記通電領域の発熱量より高く、
前記ファンブレード本体は積層された複数の層を含み、
前記複数の層から選択された正圧面側の層が前記第1の通電部及び前記第2の通電部に接続され、
前記一対の第1の通電部及び第2の通電部の間に電流を流すとき、前記ファンブレード本体の正圧面側の発熱量が前記ファンブレード本体の負圧面側の発熱量より高い
ファンブレード。
【請求項5】
エンジンの吸気口側に配置されるファンブレードであって、
炭素繊維強化プラスチックからなるファンブレード本体と、
前記炭素繊維強化プラスチックに含まれる炭素繊維に電流を流すことで前記ファンブレード本体の通電領域に電流を流すための一対の第1の通電部及び第2の通電部と、
前記ファンブレード本体を前記第1の通電部及び前記第2の通電部に接続する第1側導電性接着剤及び第2側導電性接着剤と、
を具備し、
前記一対の第1の通電部及び第2の通電部の間に電流を流すとき、前記ファンブレード本体の前記ファンブレード本体の第1側の前記通電領域の発熱量が前記ファンブレード本体の第2側の前記通電領域の発熱量より高く、
前記ファンブレード本体の前記第1側の前記通電領域の発熱量が前記第2側の前記通電領域の発熱量より高いことは、
前記第1側導電性接着剤の抵抗値が前記第2側導電性接着剤の抵抗値より高い、ことを含む
ファンブレード。
【請求項6】
請求項5に記載のファンブレードであって、
前記ファンブレード本体は積層された複数の層を含み、
前記第1側導電性接着剤及び前記第2側導電性接着剤は、前記複数の層から選択された1以上の層を前記第1の通電部及び前記第2の通電部に接続する
ファンブレード。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のファンブレードであって、
前記ファンブレード本体の正圧面側の前記第1側導電性接着剤の抵抗値は、前記ファンブレード本体の負圧面側の前記第1側導電性接着剤の抵抗値より高く、
前記正圧面側の前記第2側導電性接着剤の抵抗値は、前記負圧面側の前記第2側導電性接着剤の抵抗値より低い
ファンブレード。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載のファンブレードであって、
前記第1側は、前記ファンブレード本体の前縁側であり、
前記第2側は、前記ファンブレード本体の後縁側である
ファンブレード。
【請求項9】
回転軸と、
回転軸の吸気口側に設けられたファンディスクと、
前記ファンディスクに対して着脱可能に取り付けられ、請求項1乃至8の何れか一項に記載のファンブレードと、
第1の通電部及び第2の通電部ごとにファンディスク側及びファンブレード側にそれぞれ設けられ、前記ファンブレードが前記ファンディスクに取り付けられたときに相互に電気的に接続して前記ファンディスク側の電源と前記第1の通電部及び前記第2の通電部とを通電するための一対の接続端子と、
を具備するエンジン。
【請求項10】
炭素繊維強化プラスチックからなり、気体が流れにより着氷領域を有する板状部材と、
前記着氷領域を含むように前記板状部材の第1側及び第2側にそれぞれ設けられ、前記炭素繊維強化プラスチックに含まれる炭素繊維に電流を流すことで前記板状部材の通電領域に電流を流すための一対の第1の通電部及び第2の通電部と、
前記板状部材を前記第1の通電部及び前記第2の通電部に接続する第1側導電性接着剤及び第2側導電性接着剤と、
を具備し、
前記板状部材の前記第1側の前記通電領域の発熱量が前記第2側の前記通電領域の発熱量より高く、
前記板状部材の前記第1側の前記通電領域の発熱量が前記第2側の前記通電領域の発熱量より高いことは、
前記第1側導電性接着剤の抵抗値が前記第2側導電性接着剤の抵抗値より高い、ことを含む
防氷・除氷機能付き構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば航空機に用いられるファンブレード、エンジン及び防氷・除氷機能付き構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年ファンブレードは、ファンの大型化と共に燃費効率の改善が図られ、異物突入時の耐衝撃性・耐フラッター性の強化の開発が進んできた。しかし、同時にファンブレードの重量が増すことによる、エンジン自身が重くなるという別の根本的課題を有していた。更に、ファンブレードは、航空機が低温環境である高空で飛行することにより、翼の枚数分着氷現象が発生するという特徴を持っている。この着氷現象は、流体と熱の複合的な側面を併せ持つ複雑な自然現象であるが、運航する上でジェットエンジンの性能低下をもたらすと共に、最悪の場合、流路閉塞によるサージ、シェディング(着氷により成長した氷が離脱する現象)によりジェットエンジン内部に機械的損傷を与えるリスクを伴うことから、早急に解決しなければならない重要課題である。
【0003】
前者の燃費効率改善や重量増に対する課題を解決するために、ファンブレードには、比強度、比弾性率が高く、力学特性に優れ、耐候性などの高機能特性を有する複合材料の炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic:CFRP)の利用が広がっている。
【0004】
炭素繊維強化プラスチックは1960年代から樹脂を基材とした複合材料の開発が軍用機を中心に始まり、従来から剛性に優れかつ熱膨張率も極めて低いとうい複合材料の特徴を生かして、現在の航空機では従来の金属材料から置き換わると共に、新たな航空機用途としても実用化が進んでいる。特筆すべきは、現在の複合材料特性は鉄の材料比較で強度と弾性率は2.5倍以上、そして比重は1/4以下とされ、これは機械特性の強化と軽量化が見込めることを示している。実際、近年の動向では、大型航空機、エアバスA350及びボーイング787では複合材料が機体重量の50%以上に展開されている。
【0005】
後者の着氷に関する課題に対して、機体やエンジンには防氷システムや除氷システムが搭載されている。このようなシステムとして、以下の技術が開示されている。
【0006】
非特許文献1には、エンジンの圧縮機から抽気された高温空気(ブリード・エア)を活用した技術が開示されている。
【0007】
非特許文献2には、電熱線等を張り付ける電熱ヒータを用いた技術が開示されている。
【0008】
非特許文献3には、主翼や尾翼前縁に設けた防氷ブーツ(ゴム膜)に空気を送込んで膨らませ、形状変化を活用した技術が開示されている。
【0009】
特許文献1や2には、着氷し易い部位にコーティングを事前に塗布、焼付またはナノサイズ構造ピン加工を活用した技術が開示されている。
【0010】
特許文献3には、アクチュエータ等の機械的振動を活用した技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2012-26361号公報
【文献】国際公開第2008/087861号
【文献】米国特許出願公開第2013/032671号明細書
【文献】特開2019-108818号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】日本航空技術学会、「航空工学講座3 航空機システム」、P163
【文献】日本航空技術学会、「航空工学講座8 ジェットエンジン(構造編)」、P120
【文献】日本航空広報部、「航空実用辞典」、朝日ソノラマ、P133-144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ブリード・エアを活用した技術に関しては、エンジン出力が低い時は、防除氷機能が低下することで効果のバラツキが発生し、また抽気によりエンジン出力が低下するため、燃料消費率も悪化する。
【0014】
電熱ヒータに関しては、ファンの薄い部材への設定や加工が困難で、更に空力的な影響を及ぼす。
【0015】
防氷ブーツに関しては、作動させるためにエンジンの圧縮機からの抽気を使用するため翼内部に複雑な機械構造部を設ける必要があり、また防氷ブーツは2、3年周期の短期間で交換が必要になる。
【0016】
防氷コーティングやナノサイズ構造ピンに関しては、経時変化による不安定性と耐久性の欠如がある。
【0017】
アクチュエータ等の機械的振動に関しては、複雑な構造でメンテナンス性が劣り、重量が増す。
【0018】
上記に記載の従来技術においては、着氷の課題に特化した対策技術であり、従来型の航空機仕様に後から付加(追加)された構成および構造から機能を実現する技術であることから、基本仕様に対してより体積・重量が増し、より複雑な構成と構造となり、更に加工やメンテナンスが困難になる事や他への影響が発生することは明らかである。
【0019】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、簡単な構造で、かつ、効率よく防氷や除氷を行うことができるファンブレード、エンジン及び防氷・除氷機能付き構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一形態に係るファンブレードは、
エンジンの吸気口側に配置されるファンブレードであって、
炭素繊維強化プラスチックからなるファンブレード本体と、
前記炭素繊維強化プラスチックに含まれる炭素繊維に電流を流すことで前記ファンブレード本体の通電領域に電流を流すための一対の第1の通電部及び第2の通電部と、
を具備し、
前記一対の第1の通電部及び第2の通電部の間に電流を流すとき、前記ファンブレード本体の前記ファンブレード本体の第1側の前記通電領域の発熱量が前記ファンブレード本体の第2側の前記通電領域の発熱量より高い。
【0021】
本発明の一形態に係るファンブレードは、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic:CFRP)の炭素繊維が導電性であり、マトリックス材のエポキシなどの樹脂材が絶縁性であり、そのため電流を流すことで発熱する性質を利用したものである。すなわち、CFRPからなるファンブレード本体の第1側及び第2側にファンブレード本体の通電領域に電流を流すための一対の第1の通電部及び第2の通電部を設け、これらの間に電圧を印加して電流を流すことでファンブレード本体自体がその抵抗によって発熱し、防氷や除氷を行う。従って、簡単な構造で防氷や除氷を行うことができる。航空機のジェットエンジンのファンブレードでは、前縁側(第1側)の着氷量が多く、後縁側(第2側)は空気中の過冷却液滴が衝突しないため、着氷がほぼ発生しない傾向がある。このため、ファンブレード本体の第1側の発熱量を、第2側の発熱量より高くすることで、第1側をより効率的に防氷することができる。
【0022】
前記ファンブレード本体の前記第1側の前記通電領域の発熱量が前記第2側の前記通電領域の発熱量より高いことは、
前記第1の通電部のスパン方向の長さに対する前記第1の通電部に導通された炭素繊維の割合である第1側の導通繊維密度が、前記第2の通電部の前記スパン方向の長さに対する前記第2の通電部に導通された炭素繊維の割合である第2側の導通繊維密度より高い、ことを含んでもよい。
【0023】
前記ファンブレード本体は積層された複数の層を含み、前記複数の層に含まれる炭素繊維の配向は異なり、
前記複数の層から選択された1以上の層を前記第1の通電部及び前記第2の通電部に接続することにより、前記第1側の導通繊維密度が前記第2側の導通繊維密度より高くてもよい。
【0024】
炭素繊維の配向は、要求される仕様や特性によって異なる。炭素繊維の配向が異なる1以上の層を選択して第1の通電部及び第2の通電部に接続することで、導通繊維密度の差を実現することが可能である。
【0025】
前記第1の通電部及び前記第2の通電部に接続される前記1以上の層は、
前記スパン方向及びコード方向の両方向に対して正に傾斜した第1の方向に配向した炭素繊維を含む第1の層、及び/又は
前記スパン方向及び前記コード方向の両方向に対して負に傾斜した第2の方向に配向した炭素繊維を含む第2の層
を含んでもよい。
【0026】
炭素繊維の配向が異なる1以上の層を選択して第1の通電部及び第2の通電部に接続することで、導通繊維密度の差を実現することが可能である。
【0027】
前記第2の通電部の前記スパン方向の長さは、前記第1の通電部の前記スパン方向の長さより長くてもよい。
【0028】
第1の通電部及び第2の通電部の両方に導通する炭素繊維(即ち、通電領域に含まれる炭素繊維)に着目すると、第1の通電部に導通する炭素繊維の本数と、第2の通電部に導通する炭素繊維の本数とは同じである。このため、同じ本数の炭素繊維が、短い第1の通電部及び長い第2の通電部に導通するとき、第1の通電部のスパン方向の長さ(短い)に対する第1の通電部に導通された炭素繊維の割合である第1側の導通繊維密度が、第2の通電部のスパン方向の長さ(長い)に対する第2の通電部に導通された炭素繊維の割合である第2側の導通繊維密度より高い。第1側の導通繊維密度が第2側の導通繊維密度より高いことで、ファンブレード本体の第1側の発熱量を、第2側の発熱量より高くする。第1側で導通する炭素繊維は、第2側よりも狭い領域で同本数存在する。このため、炭素繊維自身の発熱によっても、第2側より第1側の温度が高くなる。
【0029】
前記ファンブレード本体は積層された複数の層を含み、
前記複数の層から選択された正圧面側の層が前記第1の通電部及び前記第2の通電部に接続され、
前記一対の第1の通電部及び第2の通電部の間に電流を流すとき、前記ファンブレード本体の正圧面側の発熱量が前記ファンブレード本体の負圧面側の発熱量より高くてもよい。
【0030】
航空機のジェットエンジンのファンブレードへの着氷は、ファンブレードの正圧面に多く氷が付着集中する。このため、着氷量の多い正圧面を積極的に加熱するのが望ましい。上記のように、第1の通電部及び第2の通電部の間のファンブレード本体には電圧が印加されたことで電流が流れ、ファンブレード本体自体がその抵抗によって発熱する。このため、ファンブレード本体の正圧面側の発熱量がファンブレード本体の負圧面側の発熱量より高くすることで、正圧面側をより効率的に防氷することができる。正圧面に近い層を選択して通電することで、最小印可電力で発熱領域と発熱温度を確保できるとともに、ファンブレードの正圧面と負圧側の発熱温度の設定が行える。具体的には、着氷量の多い正圧面の温度を高温に、量が少ない負圧面の温度を低温にできる。この構成により、近年のファンブレードの軽量化に伴う中空構造化にも優位に機能し得る。
【0031】
前記ファンブレード本体を前記第1の通電部及び前記第2の通電部に接続する第1側導電性接着剤及び第2側導電性接着剤
をさらに具備し、
前記ファンブレード本体の前記第1側の前記通電領域の発熱量が前記第2側の前記通電領域の発熱量より高いことは、
前記第1側導電性接着剤の抵抗値が前記第2側導電性接着剤の抵抗値より高い、ことを含んでもよい。
【0032】
導電性接着剤は、選択した炭素繊維間を介した電流経路を形成する際に用いるが、導電性接着剤の抵抗成分は、ファンブレードにおける着氷の集中する箇所を経由する領域を中心に成分比を選定することにより発熱効果と防除氷の効果が優位に得られる。
【0033】
前記ファンブレード本体は積層された複数の層を含み、
前記第1側導電性接着剤及び前記第2側導電性接着剤は、前記複数の層から選択された1以上の層を前記第1の通電部及び前記第2の通電部に接続してもよい。
【0034】
導電性接着剤により電極とファンブレード本体とを接着することで、炭素繊維との接着性及び接触面積が増大することから、電極とファンブレード本体との取り付け箇所における局所的な温度上昇及び導通不良を防止し、電力消費を抑えることができる。これにより、低電圧でも効果的な温度上昇を得ることができる。
【0035】
前記ファンブレード本体の正圧面側の前記第1側導電性接着剤の抵抗値は、前記ファンブレード本体の負圧面側の前記第1側導電性接着剤の抵抗値より高く、
前記正圧面側の前記第2側導電性接着剤の抵抗値は、前記負圧面側の前記第2側導電性接着剤の抵抗値より低くてもよい。
【0036】
航空機のジェットエンジンのファンブレードへの着氷は、前縁とハブ部に加えて、ファンブレードの正圧面に多く氷が付着集中する。このため、着氷量の多い正圧面を積極的に加熱するのが望ましい。上記のように、第1の通電部及び第2の通電部の間のファンブレード本体には電圧が印加されたことで電流が流れ、ファンブレード本体自体がその抵抗によって発熱する。このため、導電性接着剤の塗布の仕方を変えることで、正圧面に近い側の層に多く電流を流せるようにし、逆に負圧面側に近い側の層に流す電流を少なくする。これにより、正圧面側の発熱量を上げ、第1側をより効率的に防氷することができる。
【0037】
前記第1側は、前記ファンブレード本体の前縁側であり、
前記第2側は、前記ファンブレード本体の後縁側であってよい。
【0038】
航空機のジェットエンジンのファンブレードでは、前縁側(第1側)の着氷量が多く、後縁側(第2側)は空気中の過冷却液滴が衝突しないため、着氷がほぼ発生しない傾向がある。このため、ファンブレード本体の第1側の発熱量を、第2側の発熱量より高くすることで、第1側をより効率的に防氷することができる。
【0039】
本発明の一形態に係るエンジンは、
回転軸と、
回転軸の吸気口側に設けられたファンディスクと、
前記ファンディスクに対して着脱可能に取り付けられ、本発明の一形態の何れかのファンブレードと、
第1の通電部及び第2の通電部ごとにファンディスク側及びファンブレード側にそれぞれ設けられ、前記ファンブレードが前記ファンディスクに取り付けられたときに相互に電気的に接続して前記ファンディスク側の電源と前記第1の通電部及び前記第2の通電部とを通電するための一対の接続端子と、
を具備する。
【0040】
本発明の一形態に係る防氷・除氷機能付き構造体は、
炭素繊維強化プラスチックからなり、気体が流れにより着氷領域を有する板状部材と、
前記着氷領域を含むように前記板状部材の第1側及び第2側にそれぞれ設けられ、前記炭素繊維強化プラスチックに含まれる炭素繊維に電流を流すことで前記板状部材の通電領域に電流を流すための一対の第1の通電部及び第2の通電部と、
を具備し、
前記板状部材の前記第1側の前記通電領域の発熱量が前記第2側の前記通電領域の発熱量より高い。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、簡単な構造で、かつ、効率よく防氷や除氷を行うことができる。
【0042】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の一実施形態に係るジェットエンジンの構成を示す概略図である。
図2図1に示したファンブレード単体の基本的な構成を示す側面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るファンブレードの構成を示す概略図である。
図4図3に示したファンブレードの変形例を示すである。
図5】試験結果を示すグラフである。
図6】ファンディスクにファンブレードを取り付けた状態を示す斜視図である。
図7】本発明の一実施形態に係るファンブレードへの電源供給のための配線の構成を説明するための図である。
図8】本発明の一実施形態に係るファンブレードへの電源供給の構成を説明するための図である。
図9】本発明の一実施形態に係るファンブレードへの電源供給の他の構成を説明するための図である。
図10】ファンブレード本体を構成する積層されたプリプレグを模式的に示す分解図である。
図11】実験で用いた積層されたプリプレグの供試体の積層断面を模式的に示す。
図12】実験で用いた積層されたプリプレグの供試体を示す。
図13】実験で用いた導通繊維密度を説明するための模式図である。
図14】実験で用いたタイプ1及びタイプ2の供試体を示す。
図15】実験用の着氷風洞装置を示す。
図16】防氷試験結果を示す写真である。
図17】防氷試験結果を示す写真である。
図18】防氷試験結果を示すグラフである。
図19】防氷試験結果を示すグラフである。
図20】無風発熱試験結果を示すサーモグラフィである。
図21】無風発熱試験結果を示すグラフである。
図22】実験で用いた別の供試体を模式的に示す。
図23】試験結果を示すサーモグラフィである。
図24】試験結果を示すグラフである。
図25】試験結果を示す写真である。
図26】試験結果を示す写真である。
図27】試験結果を示す写真である。
図28】試験結果を示す写真である。
図29】試験結果を示すグラフである。
図30】試験結果を示すグラフである。
図31】試験結果を示すサーモグラフィである。
図32】実験で用いた層選択の具体例を示す。
図33】層選択通風温度確認試験結果を示すサーモグラフィである。
図34】層選択通風温度確認試験結果を示すグラフである。
図35】層選択通風温度確認試験結果を示すグラフである。
図36】試験結果を示す写真である。
図37】試験結果を示す写真である。
図38】試験結果を示すグラフである。
図39】試験結果を示すグラフである。
図40】試験結果を示すグラフである。
図41】試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0045】
I.概要
【0046】
1.ジェットエンジンの構成
【0047】
図1は本発明の一実施形態に係るジェットエンジンの構成を示す概略図である。
【0048】
ジェットエンジン1は、回転軸としての低圧軸2及び高圧軸3が中心に配置されている。
低圧軸2には、吸気口4側よりスピナー5、ファンディスク6、低圧圧縮機9及低圧タービン15が取り付けられ、ファンディスク6の外周には複数のファンブレード8がダブテール7を介して取り付けられている。
【0049】
ファンブレード8の下流には、低圧圧縮機9、高圧圧縮機11、燃焼器13、高圧タービン14、低圧タービン15、ストラット16、コアノズル17が配置され、これらの外周でエンジンナセル18との間の別流路には、ファン出口案内翼10、バイパスノズル12が配置されている。
高圧軸3には、高圧圧縮機11、高圧タービン14が取り付けられている。
【0050】
このように構成されたジェットエンジン1では、吸気口4付近のスピナー5やファンブレード8で過冷却水滴による着氷が発生する。このような着氷によって、形状変化による空力性能の低下や剥がれた氷塊のよる機械的損傷が問題となる。下記に示すファンブレード8はこの問題を解決するものである。
【0051】
2.ファンブレードの構成(概要)
【0052】
図2図1に示したファンブレード単体の基本的な構成を示す側面図である。図3は本発明の一実施形態に係るファンブレードの構成を示す概略図である。
【0053】
ファンブレード8は、エンジンの吸気口4側に配置される。ファンブレード8は、ファンブレード本体21と、ファンブレード本体21の前縁24側(第1側)に配置されたシース22と、ファンブレード本体21の後縁25側(第2側)に配置されたガード23とを有する。
【0054】
ファンブレード本体21は、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic:CFRP、以下「CFRP」と呼ぶ。)からなり、典型的には板状の成形品である。CFRPは、例えば強化繊維としての炭素繊維とマトリックスとしてエポキシ樹脂からなるプリプレグを、炭素繊維の配向を疑似等方性として積層し構成したものである。
【0055】
シース22は、剛性を有する導電性の金属からなり、ファンブレード本体21の前縁24側で、その基部であるハブ側26からその先端であるチップ側27に及ぶ領域を覆う。
ガード23は、同じく剛性を有する導電性の金属からなり、ファンブレード本体21の後縁25側で、ハブ側26からチップ側27に及ぶ領域を覆う。
【0056】
シース22及びガード23は本来的にはバードストライクに対応するための部品である。本実施形態に係るファンブレード8では、シース22とガード23とは接触しないように分離され、両者は電気的に絶縁状態にある。
【0057】
この実施形態に係るファンブレード8は、図3に示すように、ファンブレード本体21の加熱領域36の前縁24側及び後縁25側に設けられ、CFRPに含まれる炭素繊維に電流を流すことでファンブレード本体21の通電領域に電流を流すための一対の前縁側通電部31(第1の通電部)及び後縁側通電部32(第2の通電部)を有する。なお、図示の前縁側通電部31及び後縁側通電部32は、凡その位置を模式的に示すものであり、前縁側通電部31及び後縁側通電部32の形状等は実際には異なる(後述)。
【0058】
ここで、航空機のジェットエンジン1のファンブレード8では、前縁24のハブ側26は回転速度が遅いため着氷量が一番多くなり、チップ側27は回転逮度が速く、遠心力等により氷が剥がれ易いため堆積し難いという傾向がある。そのため、加熱領域36は、典型的には前縁24側でハブ側26に近い位置にある。この加熱領域36での防氷や除氷対策が重要である。
【0059】
前縁側通電部31及び後縁側通電部32は、加熱領域36の前縁24側及び後縁25側で、それぞれファンブレード本体21の表面とシース22の裏面との間、ファンブレード本体21の表面とガード23の裏面との間に挟まれるように配置されている。
【0060】
前縁側通電部31及び後縁側通電部32は、それぞれ絶縁被覆付き電線33、34の先端の絶縁被覆を除去して構成される電極を、ファンブレード本体21の表面とシース22の裏面との間、ファンブレード本体21の表面とガード23の裏面との間を、ペースト状の導電性接着剤(図示を省略)を介して接着して構成される。ここで、ファンブレード本体21は、前縁側通電部31及び後縁側通電部32に対応する各位置に、炭素繊維強化プラスチックに含まれる炭素繊維が露出する炭素繊維露出部位を有する。この炭素繊維露出部位は、例えば当該箇所において絶縁性であるエポキシ樹脂を削り、導電性である炭素繊維剥き出しにすることにより構成される。そこに、更に導電性接着剤を使うことにより効率よく炭素繊維に電流を流せるようになる。これは、ファンブレード本体21の材料構成を基に、導電性を有する炭素繊維からなる電流経路を形成して抵抗発熱を発現出来ることを示すものである。
【0061】
前縁側通電部31には、絶縁被覆付き電線33を介して電源35より例えばマイナス電圧が印加され、後縁側通電部32には、絶縁被覆付き電線34を介して電源35より例えばプラス電圧が印加され、前縁側通電部31及び後縁側通電部32の間のファンブレード本体21の通電領域には電圧が印加されたことで電流が流れ、ファンブレード本体21自体がその抵抗によって発熱する。発熱によって加熱される領域が加熱領域36を含む、或いは加熱領域36が発熱によって加熱される領域を含む。
前縁側通電部31にプラス電圧が印加され、後縁側通電部32にマイナス電圧が印加されるように構成してもよい。
【0062】
本実施形態に係るファンブレード8では、ファンブレード本体21がCFRPからなり、導電性であることから、そのため電流を流すことで発熱する性質を利用したものである。すなわち、CFRPからなるファンブレード本体21の前縁24側及び後縁25側に、CFRPに含まれる炭素繊維に電流を流すことでファンブレード本体21の通電領域に電流を流すための一対の前縁側通電部31及び後縁側通電部32を設け、これらの間に電源35より電圧を印加して通電領域に電流を流すことでファンブレード本体21を加熱し、加熱領域36の防氷や除氷を行う。その際に、CFRP自身(ファンブレード本体21)による発熱とその熱がCFRP(ファンブレード本体21)を伝って流れ広がる熱伝導、また、シース22及びガード23部分に熱伝導として伝わるものがあり、それぞれの熱が防氷や除氷として働く。これにより、加熱領域36の防氷や除氷が行われる。
【0063】
このような加熱により防氷や除氷を行う加熱領域36については、一対の前縁側通電部31及び後縁側通電部32を取り付ける位置によって調整が可能である。すなわち、シース22及びガード23とファンブレード本体21との間に絶縁被覆付き電線33、34を敷設し、加熱対象となる領域に合わせ、絶縁被覆付き電線33、34の先端の電極とファンブレード本体21との接点(電極)位置を調整する。
【0064】
例えば、前縁24側のハブ側26で防氷や除氷を行なう場合、図4の説明は、上で示した選択した層の炭素繊維間において電極を介した電流経路を形成した場合において、前縁24側・後縁25側双力の電極(第1の通電部31及び第2の通電部32)の位置をハブ側26寄りに設置する。そうすることで前縁24側のハブ側26での防氷や除氷が効率的に実施される。
【0065】
前縁側通電部31及び後縁側通電部32は、それぞれ絶縁被覆付き電線33、34の先端の絶縁被覆を除去して構成される電極を、導電性接着剤(図示を省略)を介して対象部位に接着しているので、電流が流れやすくなる。導電性接着剤は、例えば銅テープで電極を取り付けたものと異なり、加工面の細かい凹凸まで導電性物質が入り込んだことにより、導通面積が大きくなり、結果として抵抗が小さくなり電流が流れやすくなり、局所的な温度上昇及び導通不良を防止し、電力消費を抑えることができると考えられる。なお、導電性接着剤を使わず銅テープで張り付けた場合は同じ電圧でも殆ど暖まらないことを確認している。特に、ジュール熱と考えれば、電流は二乗で効いてくるので、同じ印加電圧でいかに電流を流せるようにするかということが重要である。よって、導電性接着剤により電極とファンブレード本体21等とを接着することの効果は大きいと考えられる。
【0066】
また、本実施形態に係るファンブレード8では、絶縁被覆付き電線33、34を通してファンブレード本体21に供給される電圧もしくは電流の大きさを変えることで、加熱領域36の発熱温度及び発熱の速さの調整が可能である。
【0067】
3.ファンブレードのファンディスクへの取り付け・電源供給
【0068】
図6はファンディスク6にファンブレード8を取り付けた状態を示す斜視図であり、図7はファンブレード8への電源供給のための配線の構成を説明するための図であり、図8はファンブレード8への電源供給の構成を説明するための図である。
【0069】
図6に示すように、ファンディスク6は、ファンブレード8に取り付けられたダブテール7が係止される係止溝41を有する。ダブテール7の端面と係止溝41の底部との間には隙間を有する。
【0070】
ダブテール7を前縁24側から係止溝41に入れ(図8の矢印を参照)、ファンブレード8を後縁25側に滑らせることで、ダブテール7が係止溝41に係止し、ファンブレード8がファンディスク6に取り付けられる。
図7に示すように、ファンブレード8のハブ側26には、プラットフォーム43及びシャンク42を介してダブテール7が取り付けられている。
【0071】
ダブテール7の端面には、前縁24側及び後縁25側のそれぞれに絶縁シート46a、49aを介して接続端子46、49が取り付けられている。接続端子46は、前縁24側の前縁側通電部31と絶縁被覆付き電線33を介して接続されている。絶縁被覆付き電線33は、プラットフォーム43及びシャンク42の前縁24側に配線される。接続端子49は、後縁25側の後縁側通電部32と絶縁被覆付き電線34を介して接続されている。絶縁被覆付き電線34は、プラットフォーム43及びシャンク42の後縁25側に配線される。
【0072】
図8に示すように、ファンディスク6の係止溝41の底面には、の接続端子46、49に対応する位置にそれぞれ絶縁シート51a、52aを介してV字接点金具(接続端子)51、52が設けられている。
【0073】
ダブテール7を係止溝41に係止し、ファンブレード8がファンディスク6に取り付けられると、接続端子46、49がそれぞれV字接点金具51、52に接触して押圧する。これにより、接続端子46、49とV字接点金具51、52とは、それぞれ係止溝41の底部及びダブテール7の端面で弾性力をもって接触する。
【0074】
スピナー5内には、電源となるバッテリ53が収容され、バッテリ53とV字接点金具51、52とはそれぞれファンディスク6及びスピナー5内を通る絶縁被覆付き電線45、48を介して接続されている。これにより、ファンブレード本体21に加熱用の電力が供給される。このような構成を採用することで、電力供給のための構成を簡単にすることができる。
【0075】
図9はファンブレード8への電源供給の他の構成を説明するための図である。
【0076】
この構成は、外部である既存の電源系統62からファンブレード本体21の加熱用の電力が供給するものである。この構成では、スリップリング61が回転軸である低圧軸2に取り付けられ、スリップリング61を介してファンブレード本体21の加熱用の電力を既存の電源系統62から供給している。これにより、外部から電力を供給することが可能となる。
【0077】
II.ファンブレード
【0078】
1.ファンブレードの構成(詳細)
【0079】
図10は、ファンブレード本体を構成する積層されたプリプレグを模式的に示す分解図である。
【0080】
ファンブレード本体21は、積層された複数(n層)の層211、212、213、214・・・21nからなる一例を示すものである。各層211、212、213、214・・・21nは、例えば強化繊維としての炭素繊維、マトリックスとしてエボキシ樹脂を使用したプリプレグである。各層211、212、213、214・・・21nは、同じプリプレグでもよい。
【0081】
複数(n層)の層211、212、213、214・・・21nに含まれる炭素繊維の配向は異なる。ファンブレード8のスパン方向(長手方向)を0°且つコード方向(短手方向)を90°としたとき、層214に含まれる炭素繊維の配向は0°であり、層211に含まれる炭素繊維の配向は90°である。層212は、スパン方向及びコード方向の両方向に対して正に傾斜した第1の方向(本例では、+45°)に配向した炭素繊維を含む。層213は、スパン方向及びコード方向の両方向に対して負に傾斜した第2の方向(本例では、-45°)に配向した炭素繊維を含む。その他の層21nは、配向方向90°、±45°、0°又は他の角度の炭素繊維を配置した擬似等方性構成を繰返し複数回積層した構成を有する。
【0082】
複数の層211、212、213、214・・・21nは、同じプリプレグにより作製したものであっても、各層211、212、213、214・・・21nの繊維配向角が異なれば強度や剛性は異なる値を示す。このような性質を利用し、外周方向に対し一定以上の力学機械特性を得るために一方向に炭素繊維を配向したプリプレグを、積層に応じて配向を変える擬似等方性の積層構成を用いる。具体的にはファンブレードは、スパン方向(長手方向)に対して炭素繊維配向方向90°、±45°、0°を配置した構成を繰返し複数回積層した構成で所望する機械特性を得る。同図では擬似等方性の一例を示すが、擬似等方性でなくてもよい。
【0083】
上記のように、航空機のジェットエンジン1のファンブレード8では、前縁24のハブ側26は回転速度が遅いため着氷量が一番多くなり、後縁25のチップ側27は回転逮度が速く、遠心力等により氷が剥がれ易いため堆積し難いという傾向がある。また、上記のように、前縁側通電部31及び後縁側通電部32の間のファンブレード本体21の通電領域には電圧が印加されたことで電流が流れ、ファンブレード本体21自体がその抵抗によって発熱する。一対の前縁側通電部31及び後縁側通電部32の間に電流を流すとき、ファンブレード本体21の前縁24側の発熱量を、後縁25側の発熱量より高くすることで、ファンブレード本体21の前縁24側(さらに細かく言うとそのハブ側26)の発熱量を上げ、前縁24側(さらに細かく言うとそのハブ側26)をより効率的に防氷することを図る。さらに、ジェットエンジン1のファンブレード8では、ファンブレード8の大小に関わらず(エンジンの大小に関わらず)、ファンブレード8の回転によりハブ側26に着氷が集中する傾向を示すことから、本実施形態に記載した手段によって効果的な防氷効果を得ることが可能となる。
【0084】
そこで、本実施形態では、一対の前縁側通電部31及び後縁側通電部32の間に電流を流すとき、ファンブレード本体21の前縁24側の発熱量を、後縁25側の発熱量より高くするために、ファンブレード本体21の前縁24側の導通繊維密度が後縁25側の導通繊維密度より高くする。具体的には、前縁側通電部31のスパン方向の長さに対する前縁側通電部31に導通された炭素繊維の割合が、後縁側通電部32のスパン方向の長さに対する後縁側通電部32に導通された炭素繊維の割合より高いようにすることで、前縁24側の導通繊維密度が後縁25側の導通繊維密度より高くなる。
【0085】
その導通繊維密度の差を実現するために、炭素繊維の配向が90°である1以上の層211だけではなく、炭素繊維の配向が+45°である1以上の層212及び炭素繊維の配向が-45°である1以上の層213が、前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続される。そして、後縁側通電部32のスパン方向の長さを、前縁側通電部31のスパン方向の長さより長いものとする。一方、前縁側通電部31及び後縁側通電部32の両方に導通する炭素繊維(即ち、通電領域に含まれる炭素繊維)に着目すると、前縁側通電部31に導通する炭素繊維の本数と、後縁側通電部32に導通する炭素繊維の本数とは同じである。このため、同じ本数の炭素繊維が、短い前縁側通電部31及び長い後縁側通電部32に導通するとき、前縁側通電部31のスパン方向の長さ(短い)に対する前縁側通電部31に導通された炭素繊維の割合である前縁24側の導通繊維密度が、後縁側通電部32のスパン方向の長さ(長い)に対する後縁側通電部32に導通された炭素繊維の割合である後縁25側の導通繊維密度より高い。前縁24側の導通繊維密度が後縁25側の導通繊維密度より高いことで、一対の前縁側通電部31及び後縁側通電部32の間に電流を流すとき、ファンブレード本体21の前縁24側の発熱量を、後縁25側の発熱量より高くすることで、ファンブレード本体の前縁24側の温度が上昇する。前縁24側で導通する炭素繊維は、後縁25側よりも狭い領域で同本数存在する。このため、炭素繊維自身の発熱によっても、後縁25側より前縁24側の温度が高くなる。
【0086】
2.供試体
【0087】
図11は、実験で用いた積層されたプリプレグの供試体の積層断面を模式的に示す。
【0088】
積層されたプリプレグの供試体を準備する。本例では、炭素繊維の配向が90°、+45°、-45°、0°の層211、212、213、214が、シンメトリーに24層に積層されている。これはあくまでも一例であり、例えば、+30°~+60°配向の層が設けられてもよい。例えば、-30°~-60°配向の層が設けられてもよい。例えば、炭素繊維の配向が90°、+60°、+30°、-30°、-60°、0°の層が設けられてもよい。疑似等方性に積層されてもよいし、疑似等方性で無く例えば90°配向の層の割合が他の角度の配向の層より高くてもよい。積層状態において、複数の層211、212、213、214・・・21nの前縁24側及び後縁25側の両端は、層状に露出している。この両端面は、例えば、1平面ではなく、角度を持った2平面からなるナイフエッジ状である。各層211、212、213、214・・・21nの厚みは、例えば、0.19mmである。
【0089】
第1の方向は+30°~+60°であり、第2の方向は-30°~-60°であることで(即ち、鋭角であることで)、前縁側通電部31及び後縁側通電部32のスパン方向の長さを比較的短くすることが出来る。これにより、導電性接着剤の塗布面積が狭いことにより抵抗率が上昇し、抵抗による加熱量を上昇させることが可能となる。
【0090】
図12は、実験で用いた積層されたプリプレグの供試体を示す。
【0091】
積層状態において、複数の層211、212、213、214・・・21nのコード方向の前縁24側及び後縁25側の両端は、層状に露出している。このため、複数の層211、212、213、214・・・21nから選択された1以上の層を、導電性接着剤を介して前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続することができる。1つの層21nが前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続されてもよく、選択された一部の層21nが前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続されてもよく、全ての層21nが前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続されてもよい。全ての層21nではなく選択された1以上の層21nに導電性接着剤を塗布する場合、電子部品の高密度実装で用いられる異方性導電膜材や絶縁材料(試験では例えばマスキングテープ)を使用してもよい。
【0092】
図13は、実験で用いた導通繊維密度を説明するための模式図である。
【0093】
タイプ2は、本実施形態であり、炭素繊維の配向が90°である1以上の層211、炭素繊維の配向が+45°である1以上の層212及び炭素繊維の配向が-45°である1以上の層213が、前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続される。具体的には、図11の全ての層に導電性接着剤を塗布し、全ての層が前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続される。後縁側通電部32のスパン方向の長さ31Lは、前縁側通電部31のスパン方向の長さ31Lより長い。一方、前縁側通電部31及び後縁側通電部32の両方に導通する炭素繊維(即ち、通電領域に含まれる炭素繊維)に着目すると、前縁側通電部31に導通する炭素繊維の本数と、後縁側通電部32に導通する炭素繊維の本数とは同じである。このため、同じ本数の炭素繊維が、短い前縁側通電部31及び長い後縁側通電部32に導通するとき、前縁側通電部31のスパン方向の長さ31L(短い)に対する前縁側通電部31に導通された炭素繊維の割合が、後縁側通電部32のスパン方向の長さ32L(長い)に対する後縁側通電部32に導通された炭素繊維の割合より高い。これにより、前縁24側(図中の楕円内の領域)の導通繊維密度が後縁25側の導通繊維密度より高い。前縁24側の導通繊維密度が後縁25側の導通繊維密度より高いことで、ファンブレード本体21の前縁24側の発熱量を、後縁25側の発熱量より高くすることで、ファンブレード本体の前縁24側の温度が上昇する。前縁24側で導通する炭素繊維は、後縁25側よりも狭い領域で同本数存在する。このため、炭素繊維自身の発熱によっても、後縁25側より前縁24側の温度が高くなる。
【0094】
タイプ1は、比較例であり、炭素繊維の配向が90°である1以上の層211が前縁側通電部31A及び後縁側通電部32Aに接続される。具体的には、図11の厚み方向中央(シンメトリーの中央)の2層(90°配向)のみに導電性接着剤を塗布し、厚み方向中央の2層(90°配向)のみが前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続される。前縁側通電部31A及び後縁側通電部32Aの両方に導通する炭素繊維(即ち、通電領域に含まれる炭素繊維)に着目すると、前縁側通電部31Aに導通する炭素繊維の本数と、後縁側通電部32Aに導通する炭素繊維の本数とは同じである。このため、前縁24側の導通繊維密度と、後縁25側の導通繊維密度とは、同じである。
【0095】
図14は、実験で用いたタイプ1及びタイプ2の供試体を示す。
【0096】
図14中、線で囲まれた領域が導通により繊維加熱が発生する領域で、防氷効果を算出する際に、面積として、評価対象となる領域を表す。上記のタイプ1及びタイプ2の供試体を準備する。タイプ1及びタイプ2の供試体ともにスパン方向187mm、コード方向58.6mm、厚み方向4.6mmサイズのCFRP積層体である。タイプ1の供試体は、ミッドスパン位置に、前縁側通電部31A(スパン方向長さ30mm)及び後縁側通電部32A(スパン方向長さ30mm)を有し、前縁側通電部31A及び後縁側通電部32Aの間を通電する。タイプ2の供試体は、ミッドスパン位置に、前縁側通電部31(スパン方向長さ60mm)及び後縁側通電部32(スパン方向長さ100mm)を有し、前縁側通電部31及び後縁側通電部32の間の通電領域を通電する。前縁側通電部31A及び後縁側通電部32Aは導電性接着剤である。タイプ1とタイプ2では加熱領域のサイズが異なる。図中の直線で囲んだ領域が、前縁側通電部31A及び後縁側通電部32Aの間の通電領域であると同時に、加熱領域であり評価領域である。
【0097】
3.試験結果1
【0098】
図15は、実験用の着氷風洞装置を示す。
【0099】
着氷風洞装置100は、風洞110と、ドロップレットキャッチャ106と、カメラ(不図示)と、これらを収容するリフリジレーションルーム107と、を有する。風洞110は、上流から下流への順に、ブロワ101、ストレーナグリッド102、スプレートンネル103、コントラクション104、テストセクションであるエアアウトレット105を含む。スプレートンネル103は、複数のスプレーノズル108を内蔵する。カメラ(不図示)は、テストセクションであるエアアウトレット105を撮影する。カメラ(不図示)は、少なくともサーモカメラを含み、さらに、写真を撮影するカメラを含んでもよい。ドロップレットキャッチャ106は、エアアウトレット105の下流に設置される。
【0100】
着氷風洞装置100のスペックは、以下の通りである。最大流速50m/s。温度-30~-5°C。リフリジレーションルーム107の体積2500×4500×2400mm。スプレートンネル103の断面積400×400mm。エアアウトレット105の断面積200×200mm
【0101】
テストセクションであるエアアウトレット105の下流に供試体109を設置する。風洞110内に空気を流し、供試体に向けてスプレーノズル108から液滴を噴霧する。空気の流速条件は、20m/sと40m/sの2種類である。スプレーノズル108から噴霧する液滴粒径の条件は、15μmと29μmの2種類で実施する。
【0102】
図16及び図17は、防氷試験結果を示す写真である。
【0103】
図16は、第1の試験条件(空気流速20m/s、液滴粒径15μm、電力(投入電力/加熱領域の面積)1.1W/cm)での、タイプ1及びタイプ2の防氷試験後の供試体をカメラで撮影した写真である。
【0104】
図17は、第2の試験条件(空気流速40m/s、液滴粒径15μm、電力(投入電力/加熱領域の面積)0.83W/cm)での、タイプ1及びタイプ2の防氷試験後の供試体をカメラで撮影した写真である。
【0105】
図18及び図19は、防氷試験結果を示すグラフである。
【0106】
横軸は、電力を示し、具体的には、投入電力/加熱領域の面積[w/cm]である。タイプ1とタイプ2では加熱領域のサイズが異なり、投入電力での単純比較が出来ないため、投入電力/加熱領域の面積で評価する。縦軸は、防氷効果(アンチアイスエフェクト)[%]であり、次の式で算出する。
【数1】
【0107】
上記式において、Aanti‐ice[mm]は、防氷試験後の供試体の正面と側面の着氷面積の平均値である。Aice[mm]は、は非発熱時着氷量確認試験後の供試体の正面と側面の着氷面積の平均値である。これらの着氷面積は、本来、着氷重量で評価するのが理想だが、加熱領域と非加熱領域の着氷を分離することが出来ないため、写真(図16及び図17)を画像解析することにより評価する。
【0108】
図18は、空気流速20m/s、液滴粒径15μm及び29μm、投入電力を複数変更した防氷試験結果を示す。少なくとも電力(投入電力/加熱領域の面積)が0.83W/cm以上のとき、タイプ2の防氷効果がタイプ1の防氷効果より高い。
【0109】
図19は、空気流速40m/s、液滴粒径15μm及び29μm、投入電力を複数変更した防氷試験結果を示す。電力(投入電力/加熱領域の面積)がおよそ0.5~1.1W/cmのとき、タイプ2の防氷効果がタイプ1の防氷効果より高い。
【0110】
4.試験結果2
【0111】
図20は、無風発熱試験結果を示すサーモグラフィである。
【0112】
ケース1及びケース2の供試体を準備する。ケース1及びケース2の供試体は、前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続される層が異なる。ケース1は、全てのナイフエッジ面の層が前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続される。ケース2は、選択された1以上の試験片の厚み方向の中央部分に構成された層(具体的には図11中心部211の2層部分)が前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続される。ケース1及びケース2の供試体を室温10°Cで無風の室内に設置し、投入電力10Wを30秒間印加し、サーモカメラで供試体底面を撮影して表面温度分布を得る。
【0113】
図21は、無風発熱試験結果を示すグラフである。
【0114】
このグラフは、図20の破線が示す供試体底面中央部の、通電開始から30秒後の断面の温度分布を示す。横軸は、ミッドコードの位置の正圧面表面から負圧面表面までの供試体の位置を示す。横軸の5ピクセル~27ピクセルが、供試体部分に相当する。縦軸は、断面温度(°C)を示す。ケース1とケース2では断面の発熱の様子が異なった。これは、異方性導電フィルム(ACF)試験時の確認でも通用すると考えられる。ケース2はケース1より全体的に温度が上昇している。ケース2は特に前後縁の温度が高くなっており、ミッドコード部の温度上昇はその影響を受けたと考えられる。
【0115】
5.正圧側と負圧側の層の選択
【0116】
航空機のジェットエンジン1のファンブレード8への着氷は、ファンブレード8の前縁24(特にハブ側26周辺からミッドスパン周辺までの領域)と正圧面に多く氷が付着集中する。この現象は、ハブ側26とチップ側27の回転周方向速度の差に起因する。前縁24のハブ側26は回転速度が遅いため着氷量が一番多くなり、チップ側27は回転速度が速く、遠心力により氷が剥がれ易いため堆積し難い。また、大気中の液滴がファンブレード8に衝突すると同時に、ファンブレード8の前縁24と正圧面に対して急速に液滴が氷結する過冷却現象の着氷メカニズムが発生する。
【0117】
以上の2つの要因から、ファンブレード8独特の複数個所に集中する着氷が発生することになり、そのため複雑な現象から発生する複数の着氷個所に応じた適切な防氷・除氷対策が重要になる。
【0118】
このため、着氷量の多い前縁24ハブ側26からミッドスパン近傍領域及び正圧面を積極的に加熱するのが望ましい。上記のように、前縁側通電部31及び後縁側通電部32の間のファンブレード本体21の通電領域には電圧が印加されたことで電流が流れ、ファンブレード本体21自体がその抵抗によって発熱する。
【0119】
例えば、前縁24と後縁25を跨ぐ90°配向層と防除氷面(正圧面)に近い層を選択して通電する。また、正圧面と負圧面に電流を流し、正圧面と負圧面に温度差、又は異なる発熱領域を発現してもよい。異なる発熱領域を発現するには、前後縁の導電性接着剤の塗布長さ、塗布する位置をオフセットさせる等を行えばよい。また、正圧面に電流を流し負圧面には流さなくてもよい。また、正圧面側を負圧面側より電流を流す層を多くし、導通繊維自身の発熱する繊維の本数を正圧面側の方を多くしてもよい。電流経路を構成する層の選択により、正圧面と負圧面の発熱温度又は発熱領域に違いを発現し、結果的に最小電力化で防氷が行える。最小印可電力で発熱領域と発熱温度を確保できるとともに、ファンブレード本体21の正圧面と負圧側の発熱温度の設定が行える。具体的には、着氷量の多い正圧面の温度を高温に、量が少ない負圧面の温度を低温にできる。この構成により、近年のファンブレードの軽量化に伴う中空構造化にも優位に機能し得る。さらに、ジェットエンジン1のファンブレード8では、ファンブレード8の大小に関わらず(エンジンの大小に関わらず)、ファンブレード8の回転によりハブ側26に着氷が集中する傾向を示すことから、本実施形態に記載した手段によって効果的な防氷効果を得ることが可能となる。
【0120】
6.小括
【0121】
ファンブレード本体21を構成する最小単位(部品)は、積層されるプリプレグである。プリプレグ層は、構成される樹脂と炭素繊維の種類、炭素繊維と樹脂の含有率、厚みを含めたスペックを有する。本実施形態では、通電する1以上の層を選択する。CFRPの積層方向に向けて一定方向に配列した各炭素繊維の層の炭素繊維の両端部間を一対とした電流経路を介してCFRP構造体に電流の流れる方向と発熱に寄与する領域の指定が行える。
【0122】
ミクロな観点では、CFRPの発熱を励起する抵抗成分は、選択した層の炭素繊維の層の両端部間の長さに比例し、選択したプリプレグ層の厚みと炭素繊維の含有率に反比例する。例えば配向を変えて積層する擬似等方性の構成では、厚み方向に選択する層の違いにより炭素繊維の長さが異なることで、抵抗成分が変わり発熱温度も変化する。このことから、ファンブレードの防除氷の為の発熱を得るためには、前縁後縁を跨ぐ炭素繊維の長さの短い配向の層を優先的に選択すると発熱効率が高くなる。
【0123】
マクロな観点では、本実施形態のファンブレード8の基本構成は、電源とファンブレード本体21のCFRPの選択した層の炭素繊維に導通した一対の前縁側通電部31及び後縁側通電部32と、ファンブレード本体21のCFRPの抵抗成分からなる直列回路からなる。故に、構成する回路内では電流は均一に流れ、各抵抗成分に応じて流れる電流により抵抗加熱を励起し、その発熱量は各抵抗成分の抵抗値の比で決まる。1以上の層の選択については、ファンブレード9の前縁24と後縁25を跨ぐ炭素繊維の層の選択により、着氷の集中する箇所の前縁24(ハブ側26周辺)の電流経路が形成でき、発熱領域が設定できる。
【0124】
積層する厚み方向に対して複数炭素繊維配向層の組合せ(例えば、90°、+45°、-45°)からなる電流経路を形成し、前縁24側の導通繊維密度の増加による前縁24の発熱温度上昇およびファンブレード8表面部(正圧面)での発熱領域の拡大が見込める。
【0125】
III.導電性接着剤
【0126】
1.導電性接着剤の構成
【0127】
導電性接着剤は銀、銅、ニッケル等の導電性の良好な金属粒子をポリマー等のバインダー樹脂の溶液に分散させて製造される材料で、これを硬化させることにより導電性の塗膜あるいは導電性接着剤層を形成させる。導電性接着剤の主な機能は導電性と接着性であり、左記の電気的性質と機械的性質を決める因子としては、硬化時間、硬化温度、銀等の金属粒子含有量及び金属粒子のサイズと形状等があげられる。
【0128】
例えば、硬化時間と温度の増加によって金属粒子間の分布は緻密になり、電気抵抗は全体的に減少する傾向を示すが、接着強度は増加する。これは硬化時間の増加とともに樹脂中の溶剤が蒸発し、硬化しながら基板とペーストが親密な接着を形成したと判断される。
【0129】
更に、導電性接着剤は大きく分けると等方性材料と異方性材料に区分できる。等方性材料ははんだと同じようにすべての方向に電気を通すが、異方性材料は、対向電極間に圧縮された方向にのみ電流を流す一方向接続を実現する。本発明においては、電流経路を形成する際の層選択時に、異方性材料と等方性材料を選択的に用いることが出来る。異方性導電膜の利用の際は、積層された各繊維方向に配列された層を選択する際、複数のファンブレードに対し、電流経路の精度向上の目的としたい場合に有効になる。尚、導電性接着剤は、選択した炭素繊維間を介した電流経路を形成する際に用いるが、導電性接着剤の抵抗成分は、ファンブレードにおける着氷の集中する箇所を経由する領域を中心に成分比を選定することにより発熱効果と防除氷の効果が優位に得られる。
【0130】
導電性接着剤により電極とファンブレード本体とを接着することで、炭素繊維との接着性及び接触面積が増大することから、電極とファンブレード本体との取り付け箇所における局所的な温度上昇及び導通不良を防止し、電力消費を抑えることができる。これにより、低電圧でも効果的な温度上昇を得ることができる。
【0131】
本実施形態では、一対の前縁側通電部31及び後縁側通電部32の間に電流を流すとき、ファンブレード本体21の前縁24側の発熱量を、後縁25側の発熱量より高くするために、ファンブレード本体21を前縁側通電部31に接続する導電性接着剤(以下、前縁側導電性接着剤と称する)の抵抗値が、ファンブレード本体21を後縁側通電部32に接続する導電性接着剤(以下、後縁側導電性接着剤と称する)の抵抗値より高いものとする。例えば、実験用に用いた前縁側導電性接着剤の抵抗値は、3×10-3~8×10-4Ω・cmであり、後縁側導電性接着剤の抵抗値は、8×10-4~2×10-4Ω・cmである。尚、導電性接着剤の抵抗成分は上に記載した通り、導電性の良好な金属粒子を用いて導通性を確保していることから金属粒子の平均粒径や導通性および電極部の機械的特性から適時選択でき、本文に記載した抵抗値は限定されない。ファンブレードに要求される基本仕様と電流経路構成の点から組合せることが可能である。
【0132】
2.供試体
【0133】
図22は、実験で用いた別の供試体を模式的に示す。
【0134】
レイアウト1及びレイアウト2の供試体を準備する。レイアウト1及びレイアウト2の供試体は、導電性接着剤の種類が異なる。レイアウト1及びレイアウト2の供試体ともに、スパン方向187mm、コード方向58.6mm、厚み方向4.6mmサイズのCFRP積層体である。供試体は、ミッドスパン位置に、前縁側通電部31A(スパン方向長さ30mm)及び後縁側通電部32(スパン方向長さ30mm)を有し、前縁側通電部31及び後縁側通電部32の間の通電領域を通電する。前縁側通電部31は、供試体の前縁LEに前縁側導電性接着剤を用いて接続される。後縁側通電部32は、供試体の後縁TEに後縁側導電性接着剤を用いて接続される。レイアウト1及びレイアウト2の供試体ともに、前縁側導電性接着剤及び後縁側導電性接着剤は、積層された全てのプリプレグに塗布され、積層された全てのプリプレグが前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続される。図中の直線で囲んだ領域が、前縁側通電部31及び後縁側通電部32の間の通電領域であると同時に、加熱領域であり評価領域である。
【0135】
レイアウト2は、本実施形態であり、前縁側導電性接着剤と後縁側導電性接着剤の種類が異なる。前縁側導電性接着剤の抵抗値が後縁側導電性接着剤の抵抗値より高い。具体的には、前縁側導電性接着剤の抵抗値は、3×10-3~8×10-4Ω・cmであり、後縁側導電性接着剤の抵抗値は、8×10-4~2×10-4Ω・cmである。
【0136】
レイアウト1は、比較例であり、前縁側導電性接着剤と後縁側導電性接着剤の種類が同じである。具体的には、前縁側導電性接着剤及び後縁側導電性接着剤の抵抗値は、3×10-4~5×10-5Ω・cmである。
【0137】
3.試験結果1
【0138】
図23は、試験結果を示すサーモグラフィである。
【0139】
着氷風洞装置100にレイアウト1及びレイアウト2の供試体を設置し、空気流速40m/sで空気を流す。レイアウト1及びレイアウト2の供試体に同じ投入電力(40W)を印加し、サーモカメラで供試体を撮影して表面温度分布を得る。
【0140】
図24は、試験結果を示すグラフである。
【0141】
このグラフは、図23の破線が示すミッドスパン位置の供試体の表面温度分布を示す。横軸は、前縁(0)から後縁(1)までの供試体の位置を示す。縦軸は、表面温度(°C)を示す。同じ投入電力でありながら、レイアウト2は、全域に亘ってレイアウト1より高い温度が実現でき、前縁LEの方が後縁TEより高い温度が実現できている。また、レイアウト1では前縁は対流効果により熱が奪われてしまい後縁の方が温度が高い。一方、レイアウト2では同じ試験条件にもかかわらず、後縁より前縁の方が高い温度が実現できている。
【0142】
図25図26図27及び図28は、試験結果を示す写真である。
【0143】
図25は、第1の試験条件(空気流速20m/s、液滴粒径15μm、投入電力(10W、20W、40W)での、レイアウト1及びレイアウト2の防氷試験結果後の供試体をカメラで撮影した写真である。
【0144】
図26は、第2の試験条件(空気流速20m/s、液滴粒径29μm、投入電力(10W、20W、40W)での、レイアウト1及びレイアウト2の防氷試験結果後の供試体をカメラで撮影した写真である。
【0145】
図27は、第3の試験条件(空気流速40m/s、液滴粒径15μm、投入電力(20W、30W、50W)での、レイアウト1及びレイアウト2の防氷試験結果後の供試体をカメラで撮影した写真である。
【0146】
図28は、第4の試験条件(空気流速40m/s、液滴粒径29μm、投入電力(20W、30W、50W)での、レイアウト1及びレイアウト2の防氷試験結果後の供試体をカメラで撮影した写真である。
【0147】
図29及び図30は、試験結果を示すグラフである。
【0148】
横軸は、投入電力[w]を示す。縦軸は、防氷効果(アンチアイスエフェクト)[%]であり、上記の式(数1)で算出する。
【0149】
図29は、空気流速20m/s、液滴粒径15μm及び29μm、投入電力を複数変更した試験結果を示す。全ての投入電力において、レイアウト2の防氷効果がレイアウト1の防氷効果より高い。なお、本来防氷効果がマイナスになることはあり得ないが、レイアウト1ではバラツキが大きく、平均化した結果、防氷効果にマイナスの値が発生した。
【0150】
図30は、空気流速40m/s、液滴粒径15μm及び29μm、投入電力を複数変更した試験結果を示す。全ての投入電力において、レイアウト2の防氷効果がレイアウト1の防氷効果より高い。なお、本来防氷効果がマイナスになることはあり得ないが、レイアウト1ではバラツキが大きく、平均化した結果、防氷効果にマイナスの値が発生した。
【0151】
4.試験結果2
【0152】
図31は、試験結果を示すサーモグラフィである。
【0153】
レイアウト3及びレイアウト4の供試体を準備する。レイアウト3及びレイアウト4の供試体ともに、スパン方向187mm、コード方向58.6mm、厚み方向4.6mmサイズのCFRP積層体である。供試体は、ミッドスパン位置に、前縁側通電部31(スパン方向長さ30mm)及び後縁側通電部32(スパン方向長さ30mm)を有し、前縁側通電部31及び後縁側通電部32の間の通電領域を通電する。レイアウト3において、前縁側導電性接着剤及び後縁側導電性接着剤は、積層された全てのプリプレグに塗布され、積層された全てのプリプレグが前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続される。レイアウト4において、前縁側導電性接着剤及び後縁側導電性接着剤は、厚み方向中央(シンメトリーの中央)の2層(90°配向)のみに塗布され、厚み方向中央の2層が前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続される。なお、この試験では、レイアウト3及びレイアウト4の前縁側通電部31及び後縁側通電部32のスパン方向長さは30mm(上記と同じ)である。着氷風洞装置100にレイアウト3及びレイアウト4の供試体を設置し、室温-10°Cとし、空気流速20m/sで空気を流す。レイアウト3及びレイアウト4の供試体に同じ投入電力(20W)を90秒間印加し、通電開始から90秒後にサーモカメラで供試体を撮影して表面温度分布を得る。
【0154】
図5は、試験結果を示すグラフである。
【0155】
このグラフは、図31の破線が示すミッドスパン位置の供試体の表面温度分布を示す。横軸は、前縁(0)から後縁(1)までの供試体の位置を示す。縦軸は、通電開始から90秒後の表面温度(°C)を示す。レイアウト4は、前後縁の発熱がレイアウト3より全域で高い温度分布となった。その理由は、下記の式において、レイアウト4では導電性接着剤の塗布面積Sが狭いことにより(導電性接着剤の厚さは同じ)抵抗R[Ω]が大きくなり加熱量が上昇したためと考えられる。
また、レイアウト3は通風時でも前縁の温度を後縁より高くできたが、レイアウト4は後縁の方が前縁より温度が高くなった。層選択では導電性接着剤の塗布面積が減ったため、対流熱伝達による熱の奪われに対する今回使用した前縁の導電性接着剤の抵抗が足りず、このような結果となった。しかし、前縁の導電性接着剤の体積を減少(導電性接着剤の塗布面積を同一と考えた場合、塗布厚を減少させる)させたり、前後縁の抵抗の比率(前縁の抵抗値÷後縁の抵抗値)を大きくすることで、層選択でも前縁の温度を後縁より上げることは可能である。
ちなみに常温・無風の条件ではレイアウト3同様、レイアウト4も前縁側の方が後縁側より温度が高くなることを確認している。
【0156】
R=(ρL)/S
【0157】
上述の「前縁の導電性接着剤の体積を減少(導電性接着剤の塗布面積を同一と考えた場合、塗布厚を減少させる)させたりすることで、層選択でも前縁の温度を後縁より上げることは可能」について下記の様な試験結果を得た。
図40は、-10°C、無風、10W投入電力条件にて、前縁と後縁の導電性接着剤の塗布厚を変えたもの(150μm、300μm、400μm、前後縁同じ厚み)の前後縁間の抵抗値を計測したグラフである。図40のグラフに示す様に、塗布厚を小さくした方が抵抗が大きくなる。
図41は、図40と同じ試験条件で、CFRP供試体の側面の温度分布をサーモカメラで取得し、ミッドスパンを前縁から後縁にかけてグラフ化したものである。この結果からも、塗布厚を小さくしたことにより前後縁とも温度が高くなっている。これは図40の通り塗布厚を小さくしたことにより抵抗が大きくなったことが原因だと考えられる。何故、塗布厚を小さくすると抵抗が大きくなったかというと、電流が流れ難くなり抵抗が大きくなったと考えられる。これは、塗布厚を小さくすることで導電性接着剤の容積が減少し、その結果塗布面積が減少したときと同様である。
【0158】
5.正圧側と負圧側の導電性接着剤の選択
航空機のジェットエンジン1のファンブレード8への着氷は、ファンブレード8の前縁24(特にハブ側26周辺からミッドスパン周辺までの領域)と正圧面に多く氷が付着集中する。この現象は、ハブ側26とチップ側27の回転周方向速度の差に起因する。前縁24のハブ側26は回転速度が遅いため着氷量が一番多くなり、チップ側27は回転速度が速く、遠心力により氷が剥がれ易いため堆積し難い。また、大気中の液滴がファンブレード8に衝突すると同時に、ファンブレード8の前縁24と正圧面に対して急速に液滴が氷結する過冷却現象の着氷メカニズムが発生する。
【0159】
以上の2つの要因から、ファンブレード8独特の複数個所に集中する着氷が発生することになり、そのため複雑な現象から発生する複数の着氷個所に応じた適切な防氷・除氷対策が重要になる。
【0160】
このため、着氷量の多い前縁24ハブ側26からミッドスパン近傍領域及び正圧面を積極的に加熱するのが望ましい。上記のように、前縁側通電部31及び後縁側通電部32の間のファンブレード本体21の通電領域には電圧が印加されたことで電流が流れ、ファンブレード本体21自体がその抵抗によって発熱する。このため、一対の前縁側通電部31及び後縁側通電部32の間に電流を流すとき、ファンブレード本体21の正圧面側の発熱量がファンブレード本体21の負圧面側の発熱量より高いのが望ましい。
【0161】
上記した様に、このため、塗布する導電性接着剤の抵抗値の大きさが高い順に、前縁・正圧面(最高値)、前縁・負圧面、後縁・負圧面、後縁・正圧面(最低値)とするのがよい。例えば、ファンブレード本体21の正圧面側の前縁側導電性接着剤の抵抗値は、ファンブレード本体21の負圧面側の前縁側導電性接着剤の抵抗値より高いものとすればよい。ファンブレード本体21の負圧面側の後縁側導電性接着剤の抵抗値は、ファンブレード本体21の正圧面側の後縁側導電性接着剤の抵抗値より高いものとすればよい。
【0162】
導電性接着剤の抵抗値の大小に加えて、電子部品系の基板技術ではなく、設備産業で利用されている基板技術では、大電流を流して利用することから導電性接着剤の塗布量(体積)、炭素繊維と接合している面積、電流経路の(道の断面積)サイズによっても、ファンブレード本体21の部分ごとの抵抗を変化させることを図れる。
【0163】
IV.層選択
【0164】
図11で説明したように、積層状態において、複数の層211、212、213、214・・・21nのコード方向の前縁24側及び後縁25側の両端は、層状に露出している。このため、複数の層211(90°配向)、212(+45°配向)、213(-45°配向)、214(0°配向)・・・21nから選択された1以上の層を、選択的に、導電性接着剤を介して前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続することができる。1つの層21nが前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続されてもよく、選択された一部の層21nが前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続されてもよく、全ての層21nが前縁側通電部31及び後縁側通電部32に接続されてもよい。
【0165】
1.層選択通風温度確認試験
【0166】
図32は、実験で用いた層選択の具体例を示す。
【0167】
4種類の供試体を準備する。レイアウト1は、層状に露出した全ての層に導電性接着剤をべた塗りすることで、全ての90°層を導通する。層選択Aは、供試体前縁の温度を上げることを想定し、供試体中央の90°層の2層を導通する。層選択Bは、供試体表面側の温度を上げることを想定し、表面層に近い90°層の2層を導通する。層選択C(2層側)は、前縁の温度を上げつつ正圧面に相当する片側の面のみ温度を上げることを想定し、供試体中央の90°層の1層及び表面層(正圧面)に近い90°層の1層、計2層分を導通する。層選択C(1層側)は、前縁の温度を上げ、負圧面に相当する片側の面の温度は正圧面より低くなるようにするため、供試体中央の90°層の1層のみ導通する。
【0168】
全ての供試体は、ミッドスパン位置に、前縁側通電部31(スパン方向長さ30mm)及び後縁側通電部32(スパン方向長さ30mm)を有し、前縁側通電部31及び後縁側通電部32の間を通電する。実験用に用いた前縁側導電性接着剤の抵抗値は、3×10-3~8×10-4Ω・cmであり、後縁側導電性接着剤の抵抗値は、8×10-4~2×10-4Ω・cmである。主流速度20m/s、投入電力9W、室温-10°C、投入時間90秒の条件で、通風時の供試体表面温度分布を確認する。
【0169】
図33は、層選択通風温度確認試験結果を示すサーモグラフィである。図34は、層選択通風温度確認試験結果を示すグラフである。
【0170】
図34のグラフの縦軸は、図33のサーモグラフィのミッドスパン破線部の表面温度である。横軸は、供試体前縁から後縁までをコード長で無次元化したものである。
【0171】
どの層選択もLayout1(べた塗)より前縁部の温度を高く出来る。特に層選択Aおよび層選択C(2層側)は前縁部2層の導通があるため、集中的に前縁部を加熱でき、前縁部の温度を高く出来る。。層選択Bは表面層に一番近い為、供試体ミッドコード付近前後の温度を一番高く出来る。層選択C(2層側)と層選択C(1層側)を比較すると、層選択C(2層側)は前縁および表面に近い2層の導通が可能なため、層選択C(1層側)より全領域にわたって温度を高く出来る。層選択を行うことで、前縁部の温度を効率的に上げ、さらに供試体表面の片側を正圧面、もう一方を負圧面と想定した場合、正圧面(層選択C(2層側))の温度を負圧面(層選択C(1層側))の温度より高くすることが可能である。Layout1(べた塗)は通風時でも前縁の温度を後縁より高くできたが、層選択A、層選択C(2層側及び1層側)は後縁の方が前縁より温度が高くなった。層選択では導電性接着剤の塗布面積が減ったため、対流熱伝達による熱の奪われに対する今回使用した前縁の導電性接着剤の抵抗が足りず、このような結果となった。しかし、接着剤の体積の減少(導電性接着剤の塗布面積を同一と考えた場合、塗布厚を減少させる)、前後縁の抵抗の比率(前縁の抵抗値÷後縁の抵抗値)を大きくすることで、層選択でも前縁の温度を後縁より上げることは可能である。ちなみに常温・無風の条件ではLayout1(べた塗)同様、層選択A、層選択C(2層側及び1層側)も前縁側の方が後縁側より温度が高くなることを確認している。
【0172】
図35は、層選択通風温度確認試験結果を示すグラフである。
【0173】
主流速度20m/s、投入電力20W、室温-10°C、投入時間90秒の条件で、通風時の供試体表面温度分布を確認する。図35図34との差異は、投入電力の違いのみである。投入電力9Wの時と同様な機能は投入電力20Wでも実現できる。Layout1(べた塗)は通風時でも前縁の温度を後縁より高くできたが、層選択A、層選択C(2層側及び1層側)は後縁の方が前縁より温度が高くなった。層選択では導電性接着剤の塗布面積が減ったため、対流熱伝達による熱の奪われに対する今回使用した前縁の導電性接着剤の抵抗が足りず、このような結果となった。しかし、接着剤の体積の減少(導電性接着剤の塗布面積を同一と考えた場合、塗布厚を減少させる)、前後縁の抵抗の比率(前縁の抵抗値÷後縁の抵抗値)を大きくすることで、層選択でも前縁の温度を後縁より上げることは可能である。ちなみに常温・無風の条件ではLayout1(べた塗)同様、層選択A、層選択C(2層側及び1層側)も前縁側の方が後縁側より温度が高くなることを確認している。
【0174】
2.層選択防氷試験
【0175】
図32のレイアウト1及び層選択Aの供試体を準備する。試験条件は、主流速度20m/s、40m/s、液滴粒径15μm、投入電力20m/s(10W、22W、40W)、40m/s(20W、30W、49W)、室温-10°Cである。
【0176】
図36及び図37は、試験結果を示す写真である。
【0177】
図36は、試験条件(空気流速20m/s、液滴粒径15μm、投入電力(10W、22W、40W)での、レイアウト1及び層選択Aの防氷試験結果後の供試体をカメラで撮影した写真である。
【0178】
図37は、別の試験条件(空気流速40m/s、液滴粒径15μm、投入電力(20W、30W、49W)での、レイアウト1及び層選択Aの防氷試験結果後の供試体をカメラで撮影した写真である。
【0179】
図38及び図39は、試験結果を示すグラフである。
【0180】
横軸は、投入電力[w]を示す。縦軸は、防氷効果(アンチアイスエフェクト)[%]であり、上記の式(数1)で算出する。
【0181】
図38は、図36の結果を示し、空気流速20m/s、液滴粒径15μm、投入電力10W、22W、40Wの試験結果を示す。投入電力22W、40Wにおいて、層選択Aの防氷効果がレイアウト1の防氷効果より高い。
【0182】
図39は、図37の結果を示し、空気流速40m/s、液滴粒径15μm、投入電力10W、22W、40Wの試験結果を示す。投入電力30W、49Wにおいて、層選択Aの防氷効果がレイアウト1の防氷効果より高い。
【0183】
図38及び図39の何れも、低電力および投入電力が大きく防氷効果が限界に達している所では効果の差が出にくいが、その間では、低電力の箇所でわずかであるが層選択Aの方が防氷効果が悪く出ているが、実は評価領域でない着氷も含めた「着氷重量[g]」として供試体全体を秤にて防氷時の着氷重量を計測すると、層選択Aの方が防氷効果が高く出る。面積計算のため、氷の成長の仕方で不利な結果が出てしまったと考えられる。レイアウト1(べた塗)よりも層選択Aの方が、同じ投入電力でも防氷効果が大きい。
【0184】
V.結語
【0185】
本実施形態は、近年ファンブレードに採用されている優れた機械特性を有するCFRPをベースに、材料特性と構造の観点から着氷の課題解決の方法を得たものである。本実施形態によれば、簡単な構造で、かつ、効率よく防氷や除氷を行うことが可能である。また、最低限の簡便な追加工によりファンブレードの防氷機能実現が可能となることで、本来の空力性能に悪影響を及ぼすことなく、高い防氷効果の長期安定性と耐久性も得られる。
【0186】
本実施形態は、特に、現行のファンブレードの仕様(CFRP)を用いて着氷の多い箇所に抵抗加熱の発現が可能である。着氷の多い箇所に抵抗加熱を集中して発現が可能である。最低限の追加加工で防除氷機能の実現が可能であり、メンテナンスも容易で長期安定性がある。等の有利な効果がある。
【0187】
航空機業界は年々市場規模が拡大しており、機体、エンジンともにCFRPの適用割合が増加している。航空業界における防氷・除氷技術は従来からあまり変化していないが、金属を使用していた部位にCFRPが適用され、新たな防氷・除氷技術の開発が期待される。本実施形態においては、そのCFRPの特性を活かし、空力的に悪影響を及ぼすことなく、既存のCFRPファンに追加工を加えることで防氷・除氷が可能となる。また、航空業界と同じく着氷問題が生じている風力発電等に使用する風車や、CFRPの普及が進みつつある自動車業界においても寒冷地における着氷対策等に応用可能である。
【0188】
本技術の各実施形態及び各変形例について上に説明したが、本技術は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0189】
1 :ジェットエンジン
2 :低圧軸
4 :吸気口
5 :スピナー
6 :ファンディスク
7 :ダブテール
8 :ファンブレード
21 :ファンブレード本体
22 :シース
23 :ガード
24 :前縁
25 :後縁
31 :前縁側通電部
32 :後縁側通電部
35 :電源
36 :加熱領域
41 :係止溝
46 :接続端子
49 :接続端子
53 :バッテリ
61 :スリップリング
図1
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