(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】シラン含有縮合環ジペプチド化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20240610BHJP
C07K 1/02 20060101ALI20240610BHJP
C07K 5/06 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
C07F7/18 U CSP
C07K1/02
C07K5/06
(21)【出願番号】P 2023561912
(86)(22)【出願日】2023-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2023022441
(87)【国際公開番号】W WO2023243720
(87)【国際公開日】2023-12-21
【審査請求日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2022098201
(32)【優先日】2022-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚
(72)【発明者】
【氏名】服部 倫弘
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/039901(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/262258(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/103857(WO,A1)
【文献】Journal of Organometallic Chemistry,2021年,956,122126
【文献】Journal of the American Chemical Society,2022年,144(4),P.1758-1765
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/
C07K 5/
C07K 1/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)で表されるシラン含有縮合環ジペプチド化合物を製造する方法であって、下記工程(i)~(iii)を含む方法。
(i)下記式(R1)で表される第1のアミノ酸と、下記式(S1)で表される第1のシラン化合物を反応させる工程。
(ii)下記式(R2)で表される第2のアミノ酸と、下記式(S2)で表される第2のシラン化合物を反応させる工程。
(iii)前記工程(i)の反応物と、前記工程(ii)の反応物を混合して更に反応させることにより、前記式(A)のシラン含有縮合環ジペプチド化合物を得る工程。
【化1】
但し、式(A)中、
R
11、R
12、R
13、R
21、及びR
22は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表し、
R
a1及びR
a2は、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
【化2】
但し、式(R1)中、
R
11、R
12、及びR
13は、各々独立に、前記式(A)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。
【化3】
但し、式(S1)中、
R
a1及びR
a2は、前記式(A)における同じ符号の基と同じ定義の基を表し、
Z
a1及びZ
a2は、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい、環構成原子として1以上の窒素原子を含む5~10員の複素環式基を表す。
【化4】
但し、式(R2)中、
R
21及びR
22は、各々独立に、前記式(A)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。
【化5】
但し、式(S2)中、
R
b1、R
b2、及びR
b3は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、
n
bは1又は2の整数を表し、
n
bが1の場合、Z
bは、1又は2以上の置換基を有していてもよい、アミノ基、カルボニルアミノ基、アセトアミド基、又は、環構成原子として1以上の窒素原子を含む5~10員の一価の複素環式基を表し、
n
bが2の場合、Z
bは、窒素を含有する二価の連結基を表す。なお、n
bが2の場合、各々2つずつ存在するR
b1、R
b2、及びR
b3は、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【請求項2】
前記工程(i)において、反応系に第3のシラン化合物を共存させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(iii)において、反応系に第4のシラン化合物を共存させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
下記式(B)で表されるシラン含有縮合環トリペプチド化合物を製造する方法であって、下記工程(iv)及び(v)を含む方法。
(iv)請求項1~3の何れか一項に記載の方法により、前記式(A)で表されるシラン含有縮合環ジペプチド化合物を製造する工程。
(v)前記式(A)で表されるシラン含有縮合環ジペプチド化合物と、下記式(Rx)で表されるアミノ酸エステルとを反応させる工程。
【化6】
但し、式(B)中、
R
11、R
12、R
13、R
21、R
22、R
a1、及びR
a2は、各々独立に、前記式(A)における同じ符号の基と同じ定義の基を表し、
R
x1及びR
x2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表し、
PG
xは、1価の保護基を表す。
【化7】
但し、式(R1)中、
R
x1、R
x2、及びPG
xは、各々独立に、前記式(B)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。
【請求項5】
前記工程(v)において、反応系に第5のシラン化合物を共存させる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
下記式(B)で表されるシラン含有縮合環トリペプチド化合物。
【化8】
但し、式(B)中、
R
11、R
12、R
13、R
21、R
22、R
a1、及びR
a2は、各々独立に、前記式(A)における同じ符号の基と同じ定義の基を表し、
R
x1及びR
x2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表し、
ここで一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基が1若しくは2以上の置換基を有する場合、当該置換基は各々、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、チオール基、スルホン酸基、アミノ基、アミド基、イミノ基、イミド基、炭化水素基、複素環式基、炭化水素オキシ基、炭化水素カルボニル基(アシル基)、炭化水素オキシカルボニル基、炭化水素カルボニルオキシ基、炭化水素置換アミノ基、炭化水素置換アミノカルボニル基、炭化水素カルボニル置換アミノ基、炭化水素置換チオール基、炭化水素スルホニル基、炭化水素オキシスルホニル基、炭化水素スルホニルオキシ基、複素環オキシ基、複素環カルボニル基、複素環オキシカルボニル基、複素環カルボニルオキシ基、複素環アミノ基、複素環アミノカルボニル基、複素環カルボニル置換アミノ基、複素環置換チオール基、複素環スルホニル基、複素環オキシスルホニル基、及び複素環スルホニルオキシ基から選択され、ここで一価の脂肪族炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基の炭素原子数、又は、複素環式基の炭素原子及びヘテロ原子の合計数が、1又は2以上の置換基を有する場合は当該置換基を含めた総数として、20以下であり、
PG
xは、カルボキシル基の1価の保護基を表す。
【請求項7】
請求項6に記載のシラン含有縮合環トリペプチド化合物を用いて、テトラペプチド以上のポリペプチド化合物を製造する方法であって、下記工程(vi)を含む方法。
(vi)前記式(B)で表されるシラン含有縮合環トリペプチド化合物を、下記式(Ra)で表される保護アミノ酸又は保護ペプチド化合物と反応させることにより、下記式(P3)で表されるポリペプチド化合物を得る工程。
【化9】
但し、式(Ra)中、
PG
aは、アミノ基の保護基を表し、
R
a1及びR
a2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、アミノ基、一価の脂肪族炭化水素基、一価の芳香族炭化水素基、若しくは一価の複素環式基を表し、
R
a3は、水素原子、カルボキシル基、水酸基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表し、ここで、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基の場合は、連結基を介して窒素原子に結合していてもよく、
或いは、R
a1とR
a3とが互いに結合して、R
a1が結合する炭素原子及びR
a3が結合する窒素原子と共に、1又は2以上の置換基を有していてもよい複素環を形成していてもよく、
A
a1及びA
a2は、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい炭素数1~3の二価の脂肪族炭化水素基を表し、
p
a1及びp
a2は、各々独立に、0又は1を表し、
m
aは、1以上の整数であり、かつ、[ ]内の構造で表される構成単位の数を表す。但し、mが2以上である場合は、[ ]内の構造で表される複数の構成単位は各々同一でもよく、異なっていてもよい。
【化10】
(P3)
但し、式(P3)中、
PG
a、R
a1、R
a2、R
a3、A
a1、A
a2、p
a1、p
a2、及びm
aは、前記式(Ra)における同じ符号の基と同じ定義の基を表し、
R
11、R
12、R
13、R
21、R
22、R
x1、R
x2、及びPG
xは、前記式(B)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。
【請求項8】
前記工程(iv)において、反応系に塩基を共存させる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項6に記載のシラン含有縮合環トリペプチド化合物を2分子用いて、ヘキサペプチド化合物を製造する方法であって、下記工程(vii)を含む方法。
(vii)下記式(B1)で表されるシラン含有縮合環トリペプチド化合物を塩基と混合する工程。
(viii)工程(vii)の混合物を、下記式(B2)で表されるシラン含有縮合環トリペプチド化合物と反応させることにより、下記式(P4)で表されるポリペプチド化合物を得る工程。
【化11】
但し、式(B1)中、R
111、R
112、R
113、R
211、R
212、R
a11、R
a12、R
x11、R
x12、及びPG
x1はそれぞれ、前記式(B)におけるR
11、R
12、R
13、R
21、R
22、R
a1、R
a2、R
x1、R
x2、及びPG
xと同じ定義の基を表す。
【化12】
但し、式(B2)中、R
121、R
122、R
123、R
221、R
222、R
a21、R
a22、R
x21、及びR
x22はそれぞれ、前記式(B)におけるR
11、R
12、R
13、R
21、R
22、R
a1、R
a2、R
x1、及びR
x2同じ定義の基を表し、
R
x23は、-O-PG
x、-NH-PG
x、又は-S-PG
xを表す。ここでPG
xは、前記式(B)におけるPG
xと同じ定義の一価の保護基を表す。
【化13】
(P4)
但し、式(P4)中、
R
111、R
112、R
113、R
211、R
212、R
x11、R
x12、及びPG
x1は、前記式(B1)における同じ符号の基と同じ定義の基を表し、
R
121、R
122、R
123、R
221、R
222、R
x21、及びR
x22は、前記式(B2)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。
【請求項10】
ヘプタペプチド以上のポリペプチド化合物を製造する方法であって、下記工程(viii)及び(ix)を含む方法。
(viii)請求項9に記載の方法により、前記式(P4)で表されるヘキサペプチド化合物を製造する工程。
(ix)前記ヘキサペプチド化合物を、下記式(Ra)で表される保護アミノ酸又は保護ペプチド化合物と反応させることにより、下記式(P5)で表されるポリペプチド化合物を製造する工程。
【化14】
但し、式(Ra)中、
PG
aは、アミノ基の保護基を表し、
R
a1及びR
a2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、アミノ基、一価の脂肪族炭化水素基、一価の芳香族炭化水素基、若しくは一価の複素環式基を表し、
R
a3は、水素原子、カルボキシル基、水酸基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表し、ここで、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基の場合は、連結基を介して窒素原子に結合していてもよく、
或いは、R
a1とR
a3とが互いに結合して、R
a1が結合する炭素原子及びR
a3が結合する窒素原子と共に、1又は2以上の置換基を有していてもよい複素環を形成していてもよく、
A
a1及びA
a2は、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい炭素数1~3の二価の脂肪族炭化水素基を表し、
p
a1及びp
a2は、各々独立に、0又は1を表し、
m
aは、1以上の整数であり、かつ、[ ]内の構造で表される構成単位の数を表す。但し、mが2以上である場合は、[ ]内の構造で表される複数の構成単位は各々同一でもよく、異なっていてもよい。
【化15】
(P5)
但し、式(P5)中、
PG
a、R
a1、R
a2、R
a3、A
a1、A
a2、p
a1、p
a2、及びm
aは、前記式(Ra)における同じ符号の基と同じ定義の基を表し、
R
111、R
112、R
113、R
211、R
212、R
x11、R
x12、PG
x1、R
121、R
122、R
123、R
221、R
222、R
x21、及びR
x22は、前記式(P4)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。
また、式(P5)中上段の構造の右端及び下段の構造の左端における丸囲み記号Aは、上段の構造と下段の構造がこの位置で連続していることを意味する。
【請求項11】
前記工程(viii)及び(ix)がワンポットで実施される、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なシラン含有縮合環ジペプチド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ペプチドに代表されるアミド化合物は、医薬品、化粧品、機能性食品をはじめ、幅広い分野で利用されており、その合成法の開発は、合成化学における重要な研究課題として精力的に実施されてきた(非特許文献1~3)。しかし、そのペプチド合成に最も重要であるアミド化にはカルボン酸活性化剤の他には、真に有効な触媒や反応剤が殆ど存在していない。そのため、大量の副生成物を生ずる反応様式を用いざるを得ず、しかも多段階の反応を繰り返すペプチド合成はアトム・エコノミー(原子収率)の観点から極めて非効率な合成であり、副生成物は膨大な量となり、また、有効な精製手段も少ない。その結果、副生成物の廃棄と精製にかかるコストがペプチド合成の殆どの必要経費を占め、この分野の発展における最大障壁の一つとなっている。
【0003】
アミノ酸又はその誘導体を原料とするペプチド合成では、高立体選択的にアミド化を行うことが求められる。高立体選択的なアミド化としては、生体内での酵素反応が挙げられる。例えば、生体内では、酵素と水素結合を巧みに利用して、極めて高立体選択的にペプチドを合成している。しかしながら、酵素反応は、大量生産には不向きであり、合成化学に適用すると、膨大な金銭的・時間的なコストが必要となる。
【0004】
合成化学においても、触媒を用いたアミド化が検討されているが、従来の手法では、主にカルボン酸を活性化する手法によりアミド結合を形成しているため、ラセミ化の進行が早く、高立体選択的且つ効率的にアミド化合物を合成することは困難である。
【0005】
また、従来の方法では、複数のアミノ酸又はその誘導体が連結されてなるペプチドに、更にアミノ酸又はその誘導体をアミド結合によりライゲーション(Chemical Ligation)することや、二以上のペプチドをアミド結合によりライゲーションすることは、極めて困難である。斯かるペプチドに対するライゲーションのためのアミド化法としては、硫黄原子を有するアミノ酸を用い、硫黄原子の高い反応性を利用してライゲーションを行う方法(非特許文献4)や、アミノ酸のヒドロキシアミンを合成し、ヒドロキシアミンの高い反応性を利用してライゲーションを行う方法(非特許文献5)が知られているが、前者は硫黄原子を有するアミノ酸の合成が難しく、後者は数工程に亘るヒドロキシアミン合成が別途必要となるため、何れも時間・費用がかかり、効率性の面で難がある。
【0006】
本発明者等は、β位にヒドロキシ基を有するカルボン酸/エステル化合物を特定の金属触媒の存在下でアミド化する方法(特許文献1)、アミノ酸前駆体としてヒドロキシアミノ/イミノ化合物を用い、これを特定の金属触媒の存在下でアミド化した後、特定の金属触媒の存在下で還元する方法(特許文献2)、カルボン酸/エステル化合物を特定の金属触媒の存在下でアミド化する方法(特許文献3)等により、高化学選択的にアミド化合物を合成する技術を開発している。更には、N末端保護アミノ酸・ペプチドのカルボキシル基と、C末端保護アミノ酸・ペプチドのアミノ基を、特定のシリル化剤(及び任意により併用されるルイス酸触媒)の存在下でアミド反応させた後、脱保護することにより、種々のアミノ酸残基からなるペプチドを高効率・高選択的に合成する技術(特許文献4)や、N末端保護若しくは無保護アミノ酸・ペプチドのカルボキシル基と、C末端保護若しくは無保護アミノ酸・ペプチドのアミノ基を、特定のシリル化剤の存在下でアミド反応させた後、脱保護することにより、種々のアミノ酸残基からなるペプチドを高効率・高選択的に合成する技術(特許文献5、6)、更にはブレンステッド酸を触媒として用いてアミド化反応を行う技術(特許文献7)も開発している。
【0007】
なお、近年では無保護アミノ酸を用いたペプチド合成の試みもなされているが(非特許文献6~8)、何れも使用可能なアミノ酸の種類や反応効率の点で満足できるものではなかった。
【0008】
本発明者等は、特定のシリルジハライド化合物と特定の含窒素複素環式基置換シラン化合物との存在下、無保護アミノ酸、次いでアミノ酸エステルを反応させることにより、新規な構造のシラン含有縮合環ジペプチド化合物が得られることを見出した。また、この縮合環ジペプチド化合物を、N保護アミノ酸又はペプチドと反応させ、次いでC保護アミノ酸又はペプチドと反応させることにより、環化ジペプチドのN末端伸長及びC末端伸長が連続して進行し、テトラペプチド等のポリペプチドを効率的に合成することが可能となることを見出した。これらの知見について、本発明者等は既に発表を行うと共に(非特許文献9)、特許出願を行っている(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2017/204144号
【文献】国際公開第2018/199146号
【文献】国際公開第2018/199147号
【文献】国際公開第2019/208731号
【文献】国際公開第2021/085635号
【文献】国際公開第2021/085636号
【文献】国際公開第2021/149814号
【文献】国際公開第2022/190486号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Chem. Rev., 2011, 111, 6557- 6602
【文献】Org. Process Res. Dev., 2016, 20(2), 140-177
【文献】Chem. Rev., 2016, 116, 12029-12122
【文献】Science, 1992, 256, 221-225
【文献】Angew. Chem. Int. Ed., 2006, 45, 1248-1252
【文献】Chem. Eur. J. 2019, 25, 15091
【文献】Org. Lett. 2020, 22,8039
【文献】Chem. Eur. J. 2018, 24, 7033
【文献】J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 1758-1765
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のペプチド合成技術の多くは、N末端が保護された求電子種アミノ酸のC末端と、C末端が保護(エステル化)された求核種アミノ酸のN末端とを、縮合剤によりアミド結合するというものであっった。求核性官能基及び求電子性官能基の双方を有するアミノ酸同士を所望の位置で選択的に結合させる上で、保護基の使用は必須と考えられており、ペプチド合成の長い歴史からは切り離せない概念となっている。しかし、保護基を使用するペプチド合成技術では、反応前の保護基の導入及び反応後の脱保護の工程が必要となるため、特にペプチドの長鎖伸長反応を視野に入れると、総収率や精製費等の面で大きな不利益が生じる。加えて、天然に大量に存在する原料アミノ酸に保護基を選択的に付与することは容易ではなく、斯かる保護アミノ酸の原料費は高額となる。そのため、無保護アミノ酸を使用したペプチド合成技術の開発が強く求められている。
【0012】
本発明者等が上記特許文献8において開示した当該シラン含有縮合環ジペプチド化合物の製造方法は、求電子種である無保護アミノ酸と、求核種であるアミノ酸エステルとの縮合反応、エステル脱保護、及び環化反応からなる方法である。本方法は、求電子種アミノ酸のN末端を保護する必要がない上に、求核種アミノ酸エステルについても系内で自動的に脱保護することができ、生成されたペプチドの両末端に更なるペプチド伸長反応を実施できるという利点を有している。しかし、求核種としてアミノ酸エステル(C末端保護アミノ酸)を使用する必要があるところ、原料費の観点からは改良の余地が残されていた。
【0013】
一方、上記の製造方法において、求電子種のみならず求核種についても無保護アミノ酸を使用した場合、求電子種アミノ酸と求核種アミノ酸とが所望の位置に組み込まれたシラン含有縮合環ジペプチド化合物に加えて、同種アミノ酸同士のホモカップリング体や、求電子種アミノ酸と求核種アミノ酸が所望とは逆の位置に入れ替わったジペプチド体が区別なく副生されてしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は鋭意検討の結果、含窒素複素環式基を二つ有する特定の第1のシラン化合物(式(S1)のシラン化合物)と求電子種アミノ酸(第1のアミノ酸)を反応させると共に、別途、含窒素置換基又は含窒素連結基を有する特定の第2のシラン化合物(式(S2)のシラン化合物)と求核種アミノ酸(第2のアミノ酸)を反応させ、続いてこれらの反応物を混合して反応させることにより、求電子種及び求核種として共に無保護アミノ酸を用いた場合でも、所望の構造のシラン含有縮合環ジペプチド化合物を特異的に合成することが可能となることを見出した。また、斯かるシラン含有縮合環ジペプチド化合物を用いて、新規なシラン含有縮合環トリペプチド化合物を合成することが可能となることも見出した。更には、これらのシラン含有縮合環ジペプチド化合物及びシラン含有縮合環トリペプチド化合物を利用して、テトラペプチド、ヘキサペプチド、ヘプタペプチド等のポリペプチド化合物を合成する新たな手法も提供されることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
即ち、本発明の趣旨は、例えば以下に関する。
[項1]下記式(A)で表されるシラン含有縮合環ジペプチド化合物を製造する方法であって、下記工程(i)~(iii)を含む方法。
(i)下記式(R1)で表される第1のアミノ酸と、下記式(S1)で表される第1のシラン化合物を反応させる工程。
(ii)下記式(R2)で表される第2のアミノ酸と、下記式(S2)で表される第2のシラン化合物を反応させる工程。
(iii)前記工程(i)の反応物と、前記工程(ii)の反応物を混合して更に反応させることにより、前記式(A)のシラン含有縮合環ジペプチド化合物を得る工程。
【化1】
但し、式(A)中、
R
11、R
12、R
13、R
21、及びR
22は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表し、
R
a1及びR
a2は、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
【化2】
但し、式(R1)中、
R
11、R
12、及びR
13は、各々独立に、前記式(A)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。
【化3】
但し、式(S1)中、
R
a1及びR
a2は、前記式(A)における同じ符号の基と同じ定義の基を表し、
Z
a1及びZ
a2は、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい、環構成原子として1以上の窒素原子を含む5~10員の複素環式基を表す。
【化4】
但し、式(R2)中、
R
21及びR
22は、各々独立に、前記式(A)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。
【化5】
但し、式(S2)中、
R
b1、R
b2、及びR
b3は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、
n
bは1又は2の整数を表し、
n
bが1の場合、Z
bは、1又は2以上の置換基を有していてもよい、アミノ基、カルボニルアミノ基、アセトアミド基、又は、環構成原子として1以上の窒素原子を含む5~10員の一価の複素環式基を表し、
n
bが2の場合、Z
bは、窒素を含有する二価の連結基を表す。なお、n
bが2の場合、各々2つずつ存在するR
b1、R
b2、及びR
b3は、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
[項2]前記工程(i)において、反応系に第3のシラン化合物を共存させる、項1に記載の方法。
[項3]前記工程(iii)において、反応系に第4のシラン化合物を共存させる、項1に記載の方法。
[項4]下記式(B)で表されるシラン含有縮合環トリペプチド化合物を製造する方法であって、下記工程(iv)及び(v)を含む方法。
(iv)項1~3の何れか一項に記載の方法により、前記式(A)で表されるシラン含有縮合環ジペプチド化合物を製造する工程。
(v)前記式(A)で表されるシラン含有縮合環ジペプチド化合物と、下記式(Rx)で表されるアミノ酸エステルとを反応させる工程。
【化6】
但し、式(B)中、
R
11、R
12、R
13、R
21、R
22、R
a1、及びR
a2は、各々独立に、前記式(A)における同じ符号の基と同じ定義の基を表し、
R
x1及びR
x2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表し、
PG
xは、1価の保護基を表す。
【化7】
但し、式(R1)中、
R
x1、R
x2、及びPG
xは、各々独立に、前記式(B)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。
[項5]前記工程(v)において、反応系に第5のシラン化合物を共存させる、項4に記載の方法。
[項6]下記式(B)で表されるシラン含有縮合環トリペプチド化合物。
【化8】
但し、式(B)中、
R
11、R
12、R
13、R
21、R
22、R
a1、及びR
a2は、各々独立に、前記式(A)における同じ符号の基と同じ定義の基を表し、
R
x1及びR
x2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表し、
PG
xは、カルボキシル基の1価の保護基を表す。
[項7]項6に記載のシラン含有縮合環トリペプチド化合物を用いて、テトラペプチド以上のポリペプチド化合物を製造する方法であって、下記工程(vi)を含む方法。
(vi)前記式(B)で表されるシラン含有縮合環トリペプチド化合物を、下記式(Ra)で表される保護アミノ酸又は保護ペプチド化合物と反応させることにより、下記式(P3)で表されるポリペプチド化合物を得る工程。
【化9】
但し、式(Ra)中、
PG
aは、アミノ基の保護基を表し、
R
a1及びR
a2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、アミノ基、一価の脂肪族炭化水素基、一価の芳香族炭化水素基、若しくは一価の複素環式基を表し、
R
a3は、水素原子、カルボキシル基、水酸基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表し、ここで、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基の場合は、連結基を介して窒素原子に結合していてもよく、
或いは、R
a1とR
a3とが互いに結合して、R
a1が結合する炭素原子及びR
a3が結合する窒素原子と共に、1又は2以上の置換基を有していてもよい複素環を形成していてもよく、
A
a1及びA
a2は、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい炭素数1~3の二価の脂肪族炭化水素基を表し、
p
a1及びp
a2は、各々独立に、0又は1を表し、
m
aは、1以上の整数であり、かつ、[ ]内の構造で表される構成単位の数を表す。但し、mが2以上である場合は、[ ]内の構造で表される複数の構成単位は各々同一でもよく、異なっていてもよい。
【化10】
(P3)
但し、式(P3)中、
PG
a、R
a1、R
a2、R
a3、A
a1、A
a2、p
a1、p
a2、及びm
aは、前記式(Ra)における同じ符号の基と同じ定義の基を表し、
R
11、R
12、R
13、R
21、R
22、R
x1、R
x2、及びPG
xは、前記式(B)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。
[項8]前記工程(iv)において、反応系に塩基を共存させる、項7に記載の方法。
[項9]項6に記載のシラン含有縮合環トリペプチド化合物を2分子用いて、ヘキサペプチド化合物を製造する方法であって、下記工程(vii)を含む方法。
(vii)下記式(B1)で表されるシラン含有縮合環トリペプチド化合物を塩基と混合する工程。
(viii)工程(vii)の混合物を、下記式(B2)で表されるシラン含有縮合環トリペプチド化合物と反応させることにより、下記式(P4)で表されるポリペプチド化合物を得る工程。
【化11】
但し、式(B1)中、R
111、R
112、R
113、R
211、R
212、R
a11、R
a12、R
x11、R
x12、及びPG
x1はそれぞれ、前記式(B)におけるR
11、R
12、R
13、R
21、R
22、R
a1、R
a2、R
x1、R
x2、及びPG
xと同じ定義の基を表す。
【化12】
但し、式(B2)中、R
121、R
122、R
123、R
221、R
222、R
a21、R
a22、R
x21、及びR
x22はそれぞれ、前記式(B)におけるR
11、R
12、R
13、R
21、R
22、R
a1、R
a2、R
x1、及びR
x2同じ定義の基を表し、
R
x23は、-O-PG
x、-NH-PG
x、又は-S-PG
xを表す。ここでPG
xは、前記式(B)におけるPG
xと同じ定義の一価の保護基を表す。
【化13】
(P4)
但し、式(P4)中、
R
111、R
112、R
113、R
211、R
212、R
x11、R
x12、及びPG
x1は、前記式(B1)における同じ符号の基と同じ定義の基を表し、
R
121、R
122、R
123、R
221、R
222、R
x21、及びR
x22は、前記式(B2)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。
[項10]ヘプタペプチド以上のポリペプチド化合物を製造する方法であって、下記工程(viii)及び(ix)を含む方法。
(viii)項9に記載の方法により、前記式(P4)で表されるヘキサペプチド化合物を製造する工程。
(ix)前記ヘキサペプチド化合物を、下記式(Ra)で表される保護アミノ酸又は保護ペプチド化合物と反応させることにより、下記式(P5)で表されるポリペプチド化合物を製造する工程。
【化14】
但し、式(Ra)中、
PG
aは、アミノ基の保護基を表し、
R
a1及びR
a2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、アミノ基、一価の脂肪族炭化水素基、一価の芳香族炭化水素基、若しくは一価の複素環式基を表し、
R
a3は、水素原子、カルボキシル基、水酸基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表し、ここで、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基の場合は、連結基を介して窒素原子に結合していてもよく、
或いは、R
a1とR
a3とが互いに結合して、R
a1が結合する炭素原子及びR
a3が結合する窒素原子と共に、1又は2以上の置換基を有していてもよい複素環を形成していてもよく、
A
a1及びA
a2は、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい炭素数1~3の二価の脂肪族炭化水素基を表し、
p
a1及びp
a2は、各々独立に、0又は1を表し、
m
aは、1以上の整数であり、かつ、[ ]内の構造で表される構成単位の数を表す。但し、mが2以上である場合は、[ ]内の構造で表される複数の構成単位は各々同一でもよく、異なっていてもよい。
【化15】
(P5)
但し、式(P5)中、
PG
a、R
a1、R
a2、R
a3、A
a1、A
a2、p
a1、p
a2、及びm
aは、前記式(Ra)における同じ符号の基と同じ定義の基を表し、
R
111、R
112、R
113、R
211、R
212、R
x11、R
x12、PG
x1、R
121、R
122、R
123、R
221、R
222、R
x21、及びR
x22は、前記式(P4)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。
また、式(P5)中上段の構造の右端及び下段の構造の左端における丸囲み記号Aは、上段の構造と下段の構造がこの位置で連続していることを意味する。
[項11]前記工程(viii)及び(ix)がワンポットで実施される、項10に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、求電子種及び求核種として共に無保護アミノ酸を用いて、所望の構造のシラン含有縮合環ジペプチド化合物を特異的に合成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0018】
[I.概要]
前述のように、本発明者等は、新規な構造のシラン含有縮合環ジペプチド化合物を開発し、既に発表を行うと共に(非特許文献9)、特許出願を行っている(特許文献8)。この縮合環ジペプチド化合物はジペプチドのN末端及びC末端が共に脱保護容易なケイ素により保護されているため、容易に脱保護することができる上に、求核種としても求電子種としても使用でき、極めて有用な化合物である。また、斯かる縮合環ジペプチド化合物を、N保護アミノ酸と反応させ、次いでC保護アミノ酸と反応させることにより、環化ジペプチドのN末端伸長及びC末端伸長が連続して進行し、テトラペプチド、ペンタペプチド等のポリペプチドをワンポットで効率的に合成することが可能となる。更には、斯かる合成反応において縮合環ジペプチド化合物を複数使用することもでき、これによりヘキサペプチド等の更に大型のポリペプチドを高い効率で合成することが可能である。
【0019】
しかし、本発明者等が前記特許文献8において開示した当該シラン含有縮合環ジペプチド化合物の製造方法は、求電子種としては無保護アミノ酸を使用できるが、求核種としてはアミノ酸エステルを使用する必要があった。仮に求核種についても無保護アミノ酸を使用した場合、求電子種アミノ酸と求核種アミノ酸とが所望の位置に組み込まれたシラン含有縮合環ジペプチド化合物に加えて、同種アミノ酸同士のホモカップリング体や、求電子種アミノ酸と求核種アミノ酸が所望とは逆の位置に入れ替わったジペプチド体が区別なく副生されてしまうという課題があった。
【0020】
一方、本発明の製造方法によれば、求電子種アミノ酸(式(R1)のアミノ酸)を、含窒素複素環式基を二つ有する特定の第1のシラン化合物(式(S1)のシラン化合物)と反応させた後、求核種アミノ酸(式(R2)のアミノ酸)及び含窒素複素環式基を一つ有する特定の第2のシラン化合物(式(S2)のシラン化合物)を加えて更に反応させることにより、求電子種及び求核種として共に無保護アミノ酸を用いた場合でも、所望の構造のシラン含有縮合環ジペプチド化合物を特異的に合成することが可能となる。理論に束縛されるものではないが、本発明では求電子種アミノ酸(式(R1)のアミノ酸)と式(S1)の第1のシラン化合物による五員環化合物の形成、及び、求核種アミノ酸(式(R2)のアミノ酸)と式(S2)の第2のシラン化合物によるシリルエステルの形成により、求電子種アミノ酸(式(R1)のアミノ酸)と求核種アミノ酸(式(R2)のアミノ酸)とを区別しながら反応が進行するため、所望の構造のシラン含有縮合環ジペプチド化合物が特異的に合成されるものと推測される。
【0021】
以下の記載ではまず、本開示で使用される主な用語を定義した後([II.用語の定義])、前記特許文献8の開示とも一部重複するが、本発明の製造対象となるシラン含有縮合環ジペプチド化合物(以下、適宜「本発明の縮合環ジペプチド化合物」等略称する場合がある。)について説明する([III.本発明の縮合環ジペプチド化合物])。次に、本発明の要旨の一つである、特定のシラン化合物(式(S1)の第1のシラン化合物及び式(S2)の第2のシラン化合物)を用いた当該縮合環ジペプチド化合物の製造方法(以下、適宜「本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法」等略称する場合がある。)について説明する([IV.本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法])。続いて、前記特許文献8の開示とも一部重複するが、斯かる本発明の縮合環ジペプチド化合物を用いたポリペプチドの新規な製造方法について説明する([V.本発明の縮合環ジペプチド化合物を用いたポリペプチドの製造方法])。
【0022】
また、本発明の縮合環ジペプチド化合物を用いて、新規なシラン含有縮合環トリペプチド化合物(以下、適宜「本発明の縮合環トリペプチド化合物」等略称する場合がある。)を製造することも可能である。以下、本発明の要旨の一つである、斯かる新規なシラン含有縮合環トリペプチド化合物及びその製造方法についても説明する([VI.本発明の縮合環トリペプチド化合物及びその製造方法])。最後に、斯かる本発明の縮合環トリペプチド化合物を用いたポリペプチドの新規な製造方法についても説明する([VII.本発明の縮合環トリペプチド化合物を用いたポリペプチドの製造方法])。
【0023】
[II.用語の定義]
本開示において「アミノ酸」とは、カルボキシル基及びアミノ基を有する化合物を意味する。別途明示しない限り、アミノ酸の種類は特に限定されない。例えば、光学異性の観点からは、D体でもL体でもラセミ体でもよい。また、カルボキシル基とアミノ基との相対位置の観点からは、α-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸、δ-アミノ酸、ω-アミノ酸等の何れであってもよい。アミノ酸の例としては、これらに限定されるものではないが、タンパク質を構成する天然アミノ酸等が挙げられ、具体例としては、バリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、システイン、トレオニン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン、グリシン、セリン等が挙げられる。
【0024】
本開示において「ペプチド」とは、複数のアミノ酸がペプチド結合を介して連結された化合物を意味する。別途明示しない限り、ペプチドを構成する複数のアミノ酸単位は、互いに同じ種類のアミノ酸単位であってもよく、二種類以上の異なるアミノ酸単位であってもよい。ペプチドを構成するアミノ酸の数は、2以上であれば特に制限されない。例としては、2(「ジペプチド」ともいう)、3(「トリペプチド」ともいう)、4(「テトラペプチド」ともいう)、5(「ペンタペプチド」ともいう)、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、100、又はそれ以上が挙げられる。また、トリペプチド以上のペプチドを指して「ポリペプチド」という場合もある。
【0025】
本開示において「アミノ基」とは、アンモニア、第一級アミン、又は第二級アミンから水素を除去して得られる、それぞれ式-NH2、-NRH、又は-NRR’(但しR及びR’はそれぞれ置換基を意味する。)で表される官能基を意味する。
【0026】
本開示において、別途明示しない限り、炭化水素基は、脂肪族でも芳香族でもよい。脂肪族炭化水素基は鎖状でも環状でもよい。鎖状炭化水素基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。環状炭化水素基は、単環式でも橋かけ環式でもスピロ環式でもよい。炭化水素基は、飽和でもよいが、不飽和でもよく、言い換えれば、一又は二以上の炭素-炭素二重結合及び/又は三重結合を含んでいてもよい。即ち、炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、アリール基等を含む概念である。なお、別途明示しない限り、炭化水素基の一又は二以上の水素原子が、任意の置換基で置換されていてもよく、炭化水素基の一又は二以上の炭素原子が、価数に応じた任意のヘテロ原子に置き換えられていてもよい。
【0027】
本開示において「炭化水素オキシ基」とは、前記定義の炭化水素基がオキシ基(-O-)の一方の結合手に連結された基を意味する。
【0028】
本開示において「炭化水素カルボニル基」とは、前記定義の炭化水素基がカルボニル基(-C(=O)-)の一方の結合手に連結された基を意味する。
【0029】
本開示において「炭化水素スルホニル基」とは、前記定義の炭化水素基がスルホニル基(-S(=O)2-)の一方の結合手に連結された基を意味する。
【0030】
本開示において、複素環式基は、飽和でもよいが、不飽和でもよく、言い換えれば、一又は二以上の炭素-炭素二重結合及び/又は三重結合を含んでいてもよい。また、複素環式基は単環式でも橋かけ環式でもスピロ環式でもよい。また、複素環式基の複素環構成原子に含まれるヘテロ原子は制限されないが、例としては窒素、酸素、硫黄、リン、ケイ素等が挙げられる。
【0031】
本開示において「複素環オキシ基」とは、前記定義の複素環式基がオキシ基(-O-)の一方の結合手に連結された基を意味する。
【0032】
本開示において「複素環カルボニル基」とは、前記定義の複素環式基がカルボニル基(-C(=O)-)の一方の結合手に連結された基を意味する。
【0033】
本開示において「複素環スルホニル基」とは、前記定義の複素環式基がスルホニル基(-S(=O)2-)の一方の結合手に連結された基を意味する。
【0034】
本開示において「置換基」とは、各々独立に、別途明示しない限り、本発明の製造方法におけるアミド化工程が進行すれば特に制限されず、任意の置換基を意味する。例としては、これらに限定されるものではないが、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、チオール基、スルホン酸基、アミノ基、アミド基、イミノ基、イミド基、炭化水素基、複素環式基、炭化水素オキシ基、炭化水素カルボニル基(アシル基)、炭化水素オキシカルボニル基、炭化水素カルボニルオキシ基、炭化水素置換アミノ基、炭化水素置換アミノカルボニル基、炭化水素カルボニル置換アミノ基、炭化水素置換チオール基、炭化水素スルホニル基、炭化水素オキシスルホニル基、炭化水素スルホニルオキシ基、複素環オキシ基、複素環カルボニル基、複素環オキシカルボニル基、複素環カルボニルオキシ基、複素環アミノ基、複素環アミノカルボニル基、複素環カルボニル置換アミノ基、複素環置換チオール基、複素環スルホニル基、複素環オキシスルホニル基、複素環スルホニルオキシ基等が挙げられる。また、これらの官能基が、その価数及び物理化学的性質が許容する限りにおいて、更にこれらの官能基により置換された官能基も、本開示における「置換基」に含まれるものとする。なお、ある官能基が置換基を有する場合、その個数は、その価数及び物理化学的性質が許容する限りにおいて、特に限定されない。また、複数の置換基が存在する場合、これらの置換基は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
本開示において使用する主な略語を以下の表1-1及び表1-2に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0035】
本開示において、アミノ酸及びその残基は、当業者に周知の三文字略称で表す場合がある。本開示において使用する主なアミノ酸の三文字略称を以下の表に示す。
【表2】
【0036】
本開示において、β-ホモアミノ酸及びその残基は、対応するα-アミノ酸の三文字略称の前に「Ho」を付して表す場合がある。
【0037】
[III.本発明の縮合環ジペプチド化合物]
本発明の一態様は、下記の式(A)で表される新規なシラン含有縮合環ジペプチド化合物(以下適宜「本発明の縮合環ジペプチド化合物」等略称する場合がある。)に関する。
【0038】
【0039】
式(A)中、R11、R12、R13、R21、及びR22は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表す。これらの基が置換基を有する場合、その種類は先に詳述した中から任意に選択される。置換基の数も制限されないが、例えば5、4、3、2、1、又は0である。
【0040】
式(A)において、R11、R12、R13、R21、及び/又はR22が、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基である場合は、斯かる脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基とそれが結合する炭素原子との間に、連結基が介在していてもよい。斯かる連結基は、限定されるものではないが、各々独立に、例えば以下に示す構造から選択される(なお、下記化学式中、Aは各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基を表す。同一の基の中にAが二つ存在する場合、それらは互いに同一でもよく、異なっていてもよい。)。
【0041】
【0042】
式(A)において、R11、R12、R13、R21、及び/又はR22が(1又は2以上の置換基を有していてもよい)脂肪族炭化水素基である場合、斯かる脂肪族炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は脂肪族炭化水素基の種類によっても異なるが、アルキル基の場合は1以上、アルケニル基やアルキニル基の場合は2以上、シクロアルキル基の場合には3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0043】
式(A)において、R11、R12、R13、R21、及び/又はR22が(1又は2以上の置換基を有していてもよい)芳香族炭化水素基である場合、斯かる芳香族炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は芳香族炭化水素基の種類によっても異なるが、通常4以上、例えば5以上、又は6以上である。当該原子数の具体例は、例えば4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0044】
式(A)において、R11、R12、R13、R21、及び/又はR22が(1又は2以上の置換基を有していてもよい)複素環式基である場合、斯かる複素環式基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子及びヘテロ原子の合計数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は複素環式構造の種類によっても異なるが、通常3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0045】
中でも、式(A)におけるR11、R12、R21、及びR22としては、各々独立に、水素原子、水酸基、チオール基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはハロゲン原子、又は、1又は2以上の置換基を有していてもよい、アミノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリーロキシ基、アシル基、複素環式基、若しくは複素環オキシ基等であることが好ましい。
【0046】
式(A)におけるR11、R12、R13、R21、及びR22の具体例としては、これらに限定されるものではないが、例えば以下が挙げられる。
【0047】
・水素原子、水酸基、チオール基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基;
・フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;
・メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、デシル基、ノニル基等のアルキル基;
・エテニル基、プロペニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、オクテニル基等のアルケニル基;
・プロパルギル基等のアルキニル基;
・シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、ビシクロオクチル基、スピロオクチル基等のシクロアルキル基;
・メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等のアルコキシ基;
・フェニル基、ベンジル基、トリル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基;
・フェニロキシ基、ベンジロキシ基、ナフチロキシ基等のアリーロキシ基;
・アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基、パラメトキシベンゾイル基、シンナモイル基等のアシル基;
・無置換のアミノ基、及び、ジメチルアミノ基、ベンジルアミノ基、トリフェニルメチルアミノ基等の置換アミノ基;
・フラニル基、チオフェニル基、ピラニル基、ピロリニル基、ピロリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピロリル基、ピぺリジニル基、ピペラジニル基、ホモピペラジニル基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、ヘキサヒドロピリミジル基、ヘキサヒドロピリダジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリダジル基、3,4-ジヒドロピリジル基、イミダゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、ピラゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、オキサゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、チアゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、カルバゾリル基等の複素環式基;
・フラニルオキシ基、ピロリルオキシ基、インドリルオキシ基、キノリルオキシ基等の複素環オキシ基;
・以上の基が1又は2以上の置換基(例えばハロゲン基)で置換された基;等。
【0048】
なお、上記の基のうち、カルボキシル基を有する基は、保護基を有していてもよいが、いなくてもよい。カルボキシル基の保護基については後述する。
【0049】
式(A)中、Ra1及びRa2は、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。これらの基が置換基を有する場合、その種類は先に詳述した中から任意に選択される。置換基の数も制限されないが、例えば5、4、3、2、1、又は0である。
【0050】
Ra1及び/又はRa2が(1又は2以上の置換基を有していてもよい)脂肪族炭化水素基である場合、脂肪族炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は脂肪族炭化水素基の種類によっても異なるが、アルキル基の場合は1以上、アルケニル基やアルキニル基の場合は2以上、シクロアルキル基の場合には3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0051】
Ra1及び/又はRa2が(1又は2以上の置換基を有していてもよい)芳香族炭化水素基である場合、芳香族炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は芳香族炭化水素基の種類によっても異なるが、通常4以上、例えば5以上、又は6以上である。当該原子数の具体例は、例えば4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0052】
中でも、Ra1及びRa2としては、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基等であることが好ましい。
【0053】
Ra1及びRa2の具体例としては、これらに限定されるものではないが、例えば以下が挙げられる。
【0054】
・メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、デシル基、ノニル基等のアルキル基;
・エテニル基、プロペニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、オクテニル基等のアルケニル基;
・プロパルギル基等のアルキニル基;
・シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、ビシクロオクチル基、スピロオクチル基等のシクロアルキル基;
・フェニル基、ベンジル基、トリル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基;
・以上の基が1又は2以上の置換基(例えばハロゲン基)で置換された基;等。
【0055】
本発明の縮合環ジペプチド化合物は、2つのα-アミノ酸残基からなるジペプチドが環化することで、2つの五員環がケイ素原子及び窒素原子を共有して縮合環を形成した、極めて特徴的な構造を有する。また、本化合物のジペプチドのN末端及びC末端は、ともに脱保護容易なケイ素原子により保護されているため、後述の参考例1及び2に示すように、酸又は塩基の存在下で容易に脱保護され、求核種としても求電子種としても使用することができる。また、本発明の縮合環ジペプチド化合物は、空気中安定で、取り扱い容易である。従って、後述するペプチドの製造反応の基質として利用できるほか、種々の用途が期待される。
【0056】
[IV.本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法]
本発明の一態様は、特定のシリルジハライド化合物及び特定の含窒素複素環式基置換シラン化合物を用いて、前述の本発明の縮合環ジペプチド化合物を製造する方法(本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法)に関する。
【0057】
本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法は、少なくとも下記工程(i)及び(ii)を含む。
(i)下記式(R1)で表される第1のアミノ酸と、下記式(S1)で表される第1のシラン化合物を反応させる工程。
(ii)下記式(R2)で表される第2のアミノ酸と、下記式(S2)で表される第2のシラン化合物を反応させる工程。
(iii)前記工程(i)の反応物と、前記工程(ii)の反応物を混合して更に反応させることにより、前記式(A)の縮合環ジペプチド化合物を得る工程。
【0058】
・アミノ酸(基質化合物):
本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法において求電子種及び求核種として使用されるアミノ酸は、それぞれ下記の式(R1)及び(R2)で表される。
【0059】
【0060】
【0061】
式(R1)におけるR11、R12、及びR13、並びに、式(R2)におけるR21及びR22は、各々独立に、前記式(A)における定義と同じ基、即ち、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表す。その詳細については先に説明した通りである。
【0062】
式(R1)の第1のアミノ酸、及び、式(R2)の第2のアミノ酸の例としては、任意のα-アミノ酸が挙げられる。その具体例としては、限定されるものではないが、生体タンパク質を構成する20種のα-アミノ酸、即ちアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンの他、オルニチン、2-アミノイソ酪酸、メチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン等が挙げられる。また、これらのα-アミノ酸の側鎖が、1又は2以上の前述の置換基(例えばハロゲン等)、及び/又は、1又は2以上の後述の保護基(カルボシキル基の保護基及び/又はアミノ基の保護基)で置換されてなるアミノ酸、例えばt-ブチル置換アスパラギン、t-ブチル置換グルタミン、t-ブチル置換セリン、t-ブチル置換トレオニン、t-ブチル置換トリプトファン、t-ブチル置換リシン、Boc置換アスパラギン、Boc置換グルタミン、Boc置換セリン、Boc置換トレオニン、Boc置換トリプトファン、Boc置換リシン、t-ブチル置換アスパラギン酸、t-ブチル置換グルタミン酸、トリチル置換アスパラギン、トリチル置換グルタミン、トリチル置換ヒスチジン、t-ブチル置換チロシン、メチル置換チロシン、メチル置換スレオニン、メチル置換セリン、Cbz置換リシン、Fmoc置換リシン等も挙げられる。なお、これらのα-アミノ酸の光学異性は特に制限されず、L体であってもD体であっても、或いはラセミ体であっても構わない。
【0063】
式(R1)の第1のアミノ酸のN末端アミノ基(HNR13-)、及び、式(R2)の第2のアミノ酸のC末端カルボキシル基(-COOH)は、何れも無保護である。本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法は、求電子種である第1のアミノ酸及び求核種である第2のアミノ酸として共に無保護アミノ酸を用いた場合でも、所望の構造のシラン含有縮合環ジペプチド化合物を特異的に合成可能である点に、大きな利点がある。但し、第1のアミノ酸のN末端アミノ基、及び/又は、第2のアミノ酸のC末端カルボキシル基が、それぞれ保護されている態様を排除するものではなく、反応を妨げない限りにおいて、後述するアミノ基の保護基及び/又はカルボキシル基の保護基によって、保護されていてもよい。
【0064】
・第1及び第2のシラン化合物:
本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法では、下記式(S1)で表される第1のシラン化合物と、下記式(S2)で表される第2のシラン化合物という、2種類のシラン化合物を組み合わせて使用することを、特徴の一つとする。
【0065】
第1のシラン化合物は、下記式(S1)で表される。
【化20】
【0066】
式(S1)中、Ra1及びRa2は、前記式(A)における定義と同じ基を表す。
【0067】
式(S1)中、Za1及びZa2は、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい、環構成原子として1個以上(好ましくは2~4個、更に好ましくは2個又は3個)の窒素原子を含む5~10員(好ましくは5員、6員、又は10員)の複素環式基を表す。なお、置換基を有する場合、その種類については先に記載したとおりであるが、中でもアルキル基(例えば炭素数1~10個の直鎖又は分岐鎖のアルキル基。以下-Rと示す場合がある。)、アルコキシ基(-O-R)、アミノ基(-NH2)、アルキルアミノ基(-NHR)、ジアルキルアミノ基(-NR2:二つのアルキル基Rは同一でも、異なっていてもよい。)、チオアルキル基(-SR)、並びにこれらの基が1又は2以上のハロゲン原子(例えば臭素又は塩素原子)で置換された基等が好ましい。置換基の数の具体例は、例えば10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、又は0である。置換基の数が2以上の場合、これらは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0068】
Za1及びZa2の含窒素複素環式基の具体例としては、これらに制限されるものではないが、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾール基、トリアゾール基(1,2,3-トリアゾール基、1,2,4-トリアゾール基)、ピペリジル基、ピリジニル基、ピペラジニル基、、テトラゾール基、インドール基、ベンズイミダゾール基等、更にはこれらの基が前述の置換基で置換されて得られる基、例えば(2-/3-/4-/5-)メチルイミダゾール基、(2,3-/2,4-/2,5-)ジメチルイミダゾール基等が挙げられる。中でもイミダゾール基、ピラゾール基、トリアゾール基、2-メチルイミダゾール基等が好ましい。
【0069】
式(S1)の第1のシラン化合物の具体例としては、これらに制限されるものではないが、ジメチルジイミダゾールシラン、ジエチルジイミダゾールシラン、メチルエチルジイミダゾールシラン、ジプロピルジイミダゾールシラン、メチルプロピルジイミダゾールシラン、ジブチルジイミダゾールシラン、メチルブチルジイミダゾールシラン、ジメトキシジイミダゾールシラン、ジエトキシジイミダゾールシラン、ジメチルジピラゾールシラン、ジエチルジピラゾールシラン、ジメトキシジピラゾールシラン、ジメチルジトリアゾールシラン、ジエチルジトリアゾールシラン、ジメトキシジトリアゾールシラン等が挙げられる。中でも、ジメチルジイミダゾールシラン、ジメトキシジイミダゾールシラン等が好ましい。
【0070】
第2のシラン化合物は、下記式(S2)で表される。
【化21】
【0071】
式(S2)中、Rb1、Rb2、及びRb3は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は、1又は2以上の置換基を有していてもよい、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。これらの基が置換基を有する場合、その種類は先に詳述した中から任意に選択される。置換基の数も制限されないが、例えば5、4、3、2、1、又は0である。
【0072】
脂肪族炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は脂肪族炭化水素基の種類によっても異なるが、アルキル基の場合は1以上、アルケニル基やアルキニル基の場合は2以上、シクロアルキル基の場合には3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0073】
芳香族炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は芳香族炭化水素基の種類によっても異なるが、通常4以上、例えば5以上、又は6以上である。当該原子数の具体例は、例えば4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0074】
中でも、Rb1、Rb2、及びRb3としては、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基等であることが好ましい。
【0075】
Rb1、Rb2、及びRb3の具体例としては、これらに限定されるものではないが、例えば以下が挙げられる。
【0076】
・メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、デシル基、ノニル基等のアルキル基;
・エテニル基、プロペニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、オクテニル基等のアルケニル基;
・プロパルギル基等のアルキニル基;
・シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、ビシクロオクチル基、スピロオクチル基等のシクロアルキル基;
・フェニル基、ベンジル基、トリル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基;
・以上の基が1又は2以上の置換基(例えばハロゲン基)で置換された基;等。
【0077】
式(S2)中、nbは1又は2の整数を表す。
【0078】
式(S2)においてnbが1の場合、Zbは、1又は2以上の置換基を有していてもよい、アミノ基(NR2-)、カルボニルアミノ基(R-C(=O)-NR-)、アセトアミド基(R-NR-C(=O)-)(但し以上の化学式において、Rは各々独立に、水素原子又は置換基を表す。)、又は、環構成原子として1個以上(好ましくは2~4個、更に好ましくは2個又は3個)の窒素原子を含む5~10員(好ましくは5員、6員、又は10員)の一価の複素環式基を表す。含窒素複素環式基の具体例としては、これらに制限されるものではないが、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾール基、トリアゾール基(1,2,3-トリアゾール基、1,2,4-トリアゾール基)、ピペリジル基、ピリジニル基、ピペラジニル基、、テトラゾール基、インドール基、ベンズイミダゾール基等、更にはこれらの基が前述の置換基で置換されて得られる基、例えば(2-/3-/4-/5-)メチルイミダゾール基、(2,3-/2,4-/2,5-)ジメチルイミダゾール基等が挙げられる。中でもイミダゾール基、ピラゾール基、トリアゾール基、2-メチルイミダゾール基等が好ましい。
【0079】
式(S2)において、nbが2の場合、Zbは、窒素を含有する二価の連結基を表す。窒素を含有する二価の連結基の例としては、制限されるものではないが、nbが1の場合のZbの選択肢から水素原子又は置換基を取り除いて得られる二価の基、即ち、-NR-基、-C(=O)-NR-基、-NR-C(=O)-基、(但し以上の化学式において、Rはそれぞれ水素原子又は置換基を表す。)、又は、環構成原子として1個以上(好ましくは2~4個、更に好ましくは2個又は3個)の窒素原子を含む5~10員(好ましくは5員、6員、又は10員)の二価の複素環式基を表す。
【0080】
式(S2)において、Zbの前述の各基が置換基を有する場合、その種類については先に記載したとおりであるが、中でもアルキル基(例えば炭素数1~10個の直鎖又は分岐鎖のアルキル基。以下-Rと示す場合がある。)、アルコキシ基(-O-R)、アミノ基(-NH2)、アルキルアミノ基(-NHR)、ジアルキルアミノ基(-NR2:二つのアルキル基Rは同一でも、異なっていてもよい。)、チオアルキル基(-SR)、並びにこれらの基が1又は2以上のハロゲン原子(例えば臭素又は塩素原子)で置換された基等が好ましい。置換基の数の具体例は、例えば10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、又は0である。置換基の数が2以上の場合、これらは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0081】
なお、言うまでもないが、式(S2)において、nbが2の場合、各々2つずつ存在するRb1、Rb2、及びRb3は、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0082】
式(S2)の第2のシラン化合物の具体例としては、これらに制限されるものではないが、以下の化合物が挙げられる。
・nbが1の場合の具体例:トリメチルシリルイミダゾール、メチルシリルイミダゾール、トリエチルシリルイミダゾール、トリイソプロピルシリルイミダゾール、トリtert-ブチルジメチルシリルイミダゾール、N-メチル-Nトリメチルシリルトリフルオロアセタミド(MSTFA)、N-(tert-ブチルジメチルシリル)-N-メチルトリフルオロアセトアミド(MTBSTFA)等。
・nbが2の場合の具体例:N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセタミド(BSTFA)、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセタミド(BSA)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)等。
【0083】
本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法において、式(S1)の第1のシラン化合物及び式(S2)の第2のシラン化合物を用いることで、無保護の求電子種アミノ酸及び無保護の求核種アミノ酸を用いた所望のシラン含有縮合環ジペプチド化合物の特異的な合成が可能となる理由は、理論に拘束されるものではないが、以下のように推測される。すなわち、工程(i)において、式(S1)の第1のシラン化合物が、求電子種である第1の無保護のアミノ酸と五員環を形成し、第1のアミノ酸の末端アミノ基を保護する一方で、工程(ii)において、式(S2)の第2のシラン化合物が、求核種である第2の無保護のアミノ酸とシリルエステルを形成し、第2のアミノ酸の末端カルボキシル基を保護する。その後、工程(iii)において両反応物を混合することにより、求電子種である第1のアミノ酸と求電子種である第2のアミノ酸とを区別しながら、第1のアミノ酸の末端カルボキシル基と、第2のアミノ酸の末端アミノ基とを、特異的に反応させることが可能になるものと推測される。
【0084】
・第3及び第4のシラン化合物:
本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法では、工程(i)において、反応系に第3のシラン化合物を共存させてもよい。第3のシラン化合物は必須ではないが、反応系に第3のシラン化合物を共存させて工程(i)を実施することにより、反応効率の改善や反応特異性の向上等、種々の利点が得られる場合がある。理論に拘束されるものではないが、第1のシラン化合物と第1のアミノ酸との五員環形成が不十分或いは寿命が短く分解してしまった場合でも、第3のシラン化合物が共存することで、第1のアミノ酸の末端アミノ基が十分に保護され得るものと推測される。
【0085】
第3のシラン化合物を使用する場合、その種類は特に限定されるものではないが、トリメチルブロモシラン(TMBS)、トリメチルクロロシラン(TMCS)、トリス(ハロアルキル)シラン、N-(トリメチルシリル)ジメチルアミン(TMSDMA)、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(TMS-OTf)、ジメチルシリルイミダゾール、ジメチルシリル(2-メチル)イミダゾール、1-(トリメチルシリル)イミダゾール(TMSIM)、ジメチルエチルシリルイミダゾール(DMESI)、ジメチルイソプロピルシリルイミダゾール(DMIPSI)、1-(tert-ブチルジメチルシリル)イミダゾール(TBSIM)、1-(トリメチルシリル)トリアゾール、1-(tert-ブチルジメチルシリル)トリアゾール、N-メチル-Nトリメチルシリルトリフルオロアセタミド(MSTFA)、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセタミド(BSTFA)、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセタミド(BSA)、N-(tert-ブチルジメチルシリル)-N-メチルトリフルオロアセトアミド(MTBSTFA)、及びヘキサメチルジシラザン(HMDS)から選択される化合物であることが好ましい。なお、第3のシラン化合物として、2種以上のシラン化合物を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。
【0086】
また、本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法では、工程(iii)において、反応系に第4のシラン化合物と混合する工程を含んでいてもよい。第4のシラン化合物は必須ではないが、反応系に第4のシラン化合物を共存させて工程(iii)を実施することにより、反応効率の改善や反応特異性の向上等、種々の利点が得られる場合がある。理論に拘束されるものではないが、工程(iii)においてペプチド結合が形成された後に、第1のシラン化合物及び/又は第2のシラン化合物からSi-OHが発生した場合でも、第4のシラン化合物が共存することで、Si-OHがSi-O-Siとしてブロックされ得るものと推測される。
【0087】
第4のシラン化合物を使用する場合、その種類は特に限定されるものではないが、トリメチルブロモシラン(TMBS)、トリメチルクロロシラン(TMCS)、トリス(ハロアルキル)シラン、N-(トリメチルシリル)ジメチルアミン(TMSDMA)、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(TMS-OTf)、ジメチルシリルイミダゾール、ジメチルシリル(2-メチル)イミダゾール、1-(トリメチルシリル)イミダゾール(TMSIM)、ジメチルエチルシリルイミダゾール(DMESI)、ジメチルイソプロピルシリルイミダゾール(DMIPSI)、1-(tert-ブチルジメチルシリル)イミダゾール(TBSIM)、1-(トリメチルシリル)トリアゾール、1-(tert-ブチルジメチルシリル)トリアゾール、N-メチル-Nトリメチルシリルトリフルオロアセタミド(MSTFA)、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセタミド(BSTFA)、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセタミド(BSA)、N-(tert-ブチルジメチルシリル)-N-メチルトリフルオロアセトアミド(MTBSTFA)、及びヘキサメチルジシラザン(HMDS)から選択される化合物であることが好ましい。なお、第4のシラン化合物として、2種以上のシラン化合物を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。
【0088】
・ルイス酸触媒:
本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法では、反応系内にルイス酸触媒を共存させてもよい。反応系にルイス酸触媒を共存させて反応を実施することにより、反応収率の向上や立体選択性の向上等、種々の利点が得られる場合がある。但し一方で、ルイス酸触媒を使用した場合、反応生成物からルイス酸触媒を分離除去する作業が必要となる場合もある。よって、ルイス酸触媒の使用如何は、本発明の製造方法を使用する目的等を考慮して適宜決定することが好ましい。
【0089】
本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法にルイス酸触媒を使用する場合、その種類は制限されないが、ルイス酸として機能する金属化合物であることが好ましい。金属化合物を構成する金属元素としては、元素周期律表の第2族から第15族に属する種々の金属が挙げられる。金属元素の具体例としては、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、珪素、カルシウム、鉛、ビスマス、水銀、遷移金属、ランタノイ系元素等が挙げられる。遷移金属の具体例としては、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、スズ、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、プラチナ、金、タリウム等が挙げられる。ランタノイ系元素の具体例としては、ランタン、セリウム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム等が挙げられる。これらの中でも、優れた反応促進効果を発揮し、高立体選択的にアミド化合物を製造する観点からは、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ニオブ、ホウ素、バナジウム、タングステン、ネオジム、鉄、鉛、コバルト、銅、銀、パラジウム、スズ、タリウム等から選択される1種又は2種以上が好ましく、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ニオブ等から選択される1種又は2種以上が好ましい。なお、金属化合物に含まれる金属元素は1つでも2つ以上でもよい。金属化合物が2つ以上の金属元素を含む場合、これらはそれぞれ同じ種類の元素でもよく、2種類以上の異なる金属元素であってもよい。
【0090】
金属化合物を構成する配位子は、金属の種類に応じて適宜選択される。配位子の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、トリフルオロエトキシ基、トリクロロエトキシ基等の、置換又は非置換の炭素数が1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;炭素数1~10のアリロキシ基;アセチルアセトナート基(acac)、アセトキシ基(AcO)、トリフルオロメタンスルホナート基(TfO);置換又は非置換の炭素数が1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基;フェニル基、酸素原子、硫黄原子、基-SR(ここでRは置換基であり、置換基の例としては、置換又は非置換の炭素数が1~20程度の炭化水素基が挙げられる。)、基-NRR’(ここでR及びR’は、各々独立に、水素原子又は置換基であり、置換基の例としては、置換又は非置換の炭素数が1~20程度の炭化水素基が挙げられる。)、シクロペンタジエニル(Cp)基等が挙げられる。
【0091】
中でも、金属化合物としては、チタン化合物、ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物、タンタル化合物、又はニオブ化合物が好ましい。以下、それぞれの具体例を挙げる。なお、これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0092】
チタン化合物の具体例としては、TiX1
4(但し、4つのX1は、各々独立に、前記で例示した配位子である。4つのX1は同一の配位子でもよく、互いに異なっていてもよい。)で表されるチタン化合物が挙げられる。X1がアルコキシ基の場合、好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、中でも炭素数1~5の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、更には炭素数1~4の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基等が挙げられる。X1がアリロキシ基の場合、好ましくは炭素数1~20のアリロキシ基、中でも炭素数1~15のアリロキシ基、更には炭素数1~10のアリロキシ基等が挙げられる。これらの配位子は更に置換基を有していてもよい。X1がハロゲン原子の場合、好ましくは塩素原子、臭素原子等が挙げられる。これらの中でも、例えばTi(OMe)4、Ti(OEt)4、Ti(OPr)4、Ti(Oi-Pr)4、Ti(OBu)4、Ti(Ot-Bu)4、Ti(OCH2CH(Et)Bu)4、CpTiCl3、Cp2TiCl2、Cp2Ti(OTf)2、(i-PrO)2TiCl2、(i-PrO)3TiCl等が好ましい。
【0093】
ジルコニウム化合物の具体例としては、ZrX2
4(但し、4つのX2は、各々独立に、前記で例示した配位子である。4つのX2は同一の配位子でもよく、互いに異なっていてもよい。)で表されるジルコニウム化合物が挙げられる。X2がアルコキシ基の場合、好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、中でも炭素数1~5の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、更には炭素数1~4の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基等が挙げられる。X2がアリロキシ基の場合、好ましくは炭素数1~20のアリロキシ基、中でも炭素数1~15のアリロキシ基、更には炭素数1~10のアリロキシ基等が挙げられる。これらの配位子は更に置換基を有していてもよい。X2がハロゲン原子の場合、好ましくは塩素原子、臭素原子等が挙げられる。これらの中でも、例えばZr(OMe)4、Zr(OEt)4、Zr(OPr)4、Zr(Oi-Pr)4、Zr(OBu)4、Zr(Ot-Bu)4、Zr(OCH2CH(Et)Bu)4、CpZrCl3、Cp2ZrCl2、Cp2Zr(OTf)2、(i-PrO)2ZrCl2、(i-PrO)3ZrCl等が好ましい。
【0094】
ハフニウム化合物の具体例としては、HfX3
4(但し、4つのX3は、各々独立に、前記で例示した配位子である。4つのX3は同一の配位子でもよく、互いに異なっていてもよい。)で表されるハフニウム化合物が挙げられる。X3がアルコキシ基の場合、好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、中でも炭素数1~5の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、更には炭素数1~4の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基等が挙げられる。X3がアリロキシ基の場合、好ましくは炭素数1~20のアリロキシ基、中でも炭素数1~15のアリロキシ基、更には炭素数1~10のアリロキシ基等が挙げられる。これらの配位子は更に置換基を有していてもよい。X3がハロゲン原子の場合、好ましくは塩素原子、臭素原子等が挙げられる。これらの中でも、例えばHfCp2Cl2、HfCpCl3、HfCl4等が好ましい。
【0095】
タンタル化合物の具体例としては、TaX4
5(但し、5つのX4は、各々独立に、前記で例示した配位子である。5つのX4は同一の配位子でもよく、互いに異なっていてもよい。)で表されるタンタル化合物が挙げられる。X4がアルコキシ基の場合、好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、中でも炭素数1~5の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、更には炭素数1~3の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基等が挙げられる。X4がアリロキシ基の場合、好ましくは炭素数1~20のアリロキシ基、中でも炭素数1~15のアリロキシ基、更には炭素数1~10のアリロキシ基等が挙げられる。これらの配位子は更に置換基を有していてもよい。X4がハロゲン原子の場合、好ましくは塩素原子、臭素原子等が挙げられる。これらの中でも、タンタルアルコキシド化合物(例えばX4がアルコキシ基の化合物)等であることが好ましく、例えばTa(OMe)5、Ta(OEt)5、Ta(OBu)5、Ta(NMe2)5、Ta(acac)(OEt)4、TaCl5、TaCl4(THF)、TaBr5等が好ましい。また、X4が酸素である化合物、即ちTa2O5も使用することができる。
【0096】
ニオブ化合物の具体例としては、NbX5
5(但し、5つのX5は、各々独立に、前記で例示した配位子である。5つのX5は同一の配位子でもよく、互いに異なっていてもよい。)で表されるニオブ化合物が挙げられる。X5がアルコキシ基の場合、好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、中でも炭素数1~5の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、更には炭素数1~3の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基等が挙げられる。X5がアリロキシ基の場合、好ましくは炭素数1~20のアリロキシ基、中でも炭素数1~15のアリロキシ基、更には炭素数1~10のアリロキシ基等が挙げられる。これらの配位子は更に置換基を有していてもよい。X5がハロゲン原子の場合、好ましくは塩素原子、臭素原子等が挙げられる。これらの中でも、ニオブアルコキシド化合物(例えばX5がアルコキシ基の化合物)であることが好ましく、例えばNbCl4(THF)、NbCl5、Nb(OMe)5、Nb(OEt)5等が好ましい。また、X5が酸素である化合物、即ちNb2O5も使用することができる。
【0097】
なお、ルイス酸触媒は、担体に担持されていてもよい。ルイス酸触媒を担持する担体としては、特に制限されず、公知のものが使用できる。また、ルイス酸触媒を担体に担持させる方法としても、公知の方法が採用できる。
【0098】
・塩基:
本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法では、反応効率を高める観点から、反応系内に塩基を共存させてもよい。塩基の種類は制限されず、反応効率を向上させることが知られている公知の塩基を使用することができる。斯かる塩基の例としては、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)、トリエチルアミン(Et3N)、ジイソプロピルアミン(i-Pr2NH)、ジイソプロピルエチルアミン(i-Pr2EtN)等の、炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基を1~4個有するアミンなどが挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0099】
・その他の成分:
本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法では、反応系内に他の成分を共存させてもよい。斯かる他の成分の例としては、制限されるものではないが、ヨウ素、トリメチルシリルクロライド、トリメチルシリルブロマイド、トリメチルシリルヨージド等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0100】
なお、反応効率を高める観点からは、溶媒中で反応を行ってもよい。溶媒としては、特に制限されないが、例えば水性溶媒や有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、制限されるものではないが、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、石油エーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1-メチルテトラヒドロフラン(1-MeTHF)、ジイソプロピルエーテル(i-Pr2O)、ジエチルエーテル(Et2O)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)等のエーテル類、アセトニトリル(MeCN)等の窒素系有機溶媒、ジクロロメタン(DCM)等の塩素系有機溶媒、酢酸エチル(AcOEt)等のエステル類、酢酸等の有機酸などが挙げられる。これらの溶媒は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0101】
・反応手順:
本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法では、工程(i)として、基質化合物のうち式(R1)の第1のアミノ酸を、式(S1)の第1のシラン化合物と接触させて反応させる一方、工程(ii)として、もう一方の基質化合物である式(R2)のアミノ酸を、式(S2)の第2のシラン化合物と接触させて反応させる。その後、工程(iii)として、工程(i)の反応物と、前記工程(ii)の反応物を混合して更に反応させることにより、前記式(A)の縮合環ジペプチド化合物を得る。このような反応手順により、求電子種である式(R1)の第1のアミノ酸と、求核種である式(R2)の第2のアミノ酸とによって、本発明の縮合環ジペプチド化合物が形成される。その反応機序については、理論に拘束されるものではないものの、本発明者等は以下の様に推測している。すなわち、工程(i)において、式(S1)の第1のシラン化合物が、求電子種である第1の無保護のアミノ酸と五員環を形成し、第1のアミノ酸の末端アミノ基を保護する一方で、工程(ii)において、式(S2)の第2のシラン化合物が、求核種である第2の無保護のアミノ酸とシリルエステルを形成し、第2のアミノ酸の末端カルボキシル基を保護する。その後、工程(iii)において両反応物を混合することにより、求電子種である第1のアミノ酸と求電子種である第2のアミノ酸とを区別しながら、第1のアミノ酸の末端カルボキシル基と、第2のアミノ酸の末端アミノ基とを、特異的に反応させることが可能になるものと推測される。
【0102】
なお、任意により用いられる第3及び/又は第4のシラン化合物、ルイス酸触媒及び塩基等、その他の成分を反応系に添加するタイミングは特に制限されず、何れも任意のタイミングで加えればよい。但し、第3のシラン化合物を使用する場合は、工程(i)の開始時に系内に添加することが好ましい。また、第4のシラン化合物を使用する場合は、工程(iii)の開始時に系内に添加することが好ましい。また、ルイス酸触媒を使用する場合は、工程(ii)の開始時に系内に添加することが好ましい。また、塩基を使用する場合には、工程(i)の開始時に系内に添加することが好ましい。また、溶媒を用いて反応を行う場合には、溶媒中で各成分を混合し、相互に接触させればよい。
【0103】
・各成分の使用量比:
本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法において、各成分の使用量は限定されるものではないが、好ましくは以下の通りである。
【0104】
式(R1)のアミノ酸と式(R2)のアミノ酸との量比は、特に制限されないが、式(R1)のアミノ酸1モルに対して、式(R2)のアミノ酸を例えば0.05モル以上、又は0.1モル以上、又は0.2モル以上、又は0.3モル以上、又は0.4モル以上、また、例えば10モル以下、又は5モル以下、又は4モル以下、又は3モル以下、又は2モル以下の範囲で用いることができる。なお、式(R1)のアミノ酸を式(R2)のアミノ酸よりも多く用いることが、反応の効率が高くなる点で好ましい。具体的には、式(R1)のアミノ酸1モルに対して、式(R2)のアミノ酸が概ね0.5モル程度となるように用いることができる。なお、当然ながら、製造対象となる本発明の式(A)の縮合環ジペプチド化合物の目標製造量に対し、基質となる式(R1)のアミノ酸及び式(R2)のアミノ酸をそれぞれ1モル以上用いる必要がある。
【0105】
式(S1)の第1のシラン化合物の使用量は、反応の妨げとならない限り特に制限されないが、例えば、式(R1)のアミノ酸1モルに対して、式(S1)の第1のシラン化合物を例えば0.1モル以上、又は0.2モル以上、又は0.3モル以上、又は0.4モル以上、又は0.5モル以上、また、例えば20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は8モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下、又は2モル以下の範囲で用いることができる。なお、2種類以上の式(S1)の第1のシラン化合物を併用する場合には、2種類以上の式(S1)の第1のシラン化合物の合計量が前記範囲を満たすようにすればよい。
【0106】
式(S2)の第2のシラン化合物の使用量は、反応の妨げとならない限り特に制限されないが、例えば、式(R2)のアミノ酸1モルに対して、式(S2)の第2のシラン化合物を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。なお、2種類以上の式(S2)の第2のシラン化合物を併用する場合には、2種類以上の式(S2)の第2のシラン化合物の合計量が前記範囲を満たすようにすればよい。
【0107】
第3のシラン化合物を使用する場合、その使用量は、反応の妨げとならない限り特に制限されないが、例えば、式(R1)のアミノ酸1モルに対して、第3のシラン化合物を例えば0.1モル以上、又は0.2モル以上、又は0.3モル以上、又は0.4モル以上、又は0.5モル以上、また、例えば20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は8モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下、又は2モル以下の範囲で用いることができる。なお、2種類以上の第3のシラン化合物を併用する場合には、2種類以上の第3のシラン化合物の合計量が前記範囲を満たすようにすればよい。
【0108】
第4のシラン化合物を使用する場合、その使用量は、反応の妨げとならない限り特に制限されないが、例えば、式(R2)のアミノ酸1モルに対して、第4のシラン化合物を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。なお、2種類以上の第4のシラン化合物を併用する場合には、2種類以上の第4のシラン化合物物の合計量が前記範囲を満たすようにすればよい。
【0109】
塩基を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、式(R1)のアミノ酸1モルに対して、塩基を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。
【0110】
ルイス酸触媒を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、式(R1)のアミノ酸の使用量を100mol%とした場合に、通常0.1mol%以上、例えば0.2mol%以上、又は0.3mol%以上、また、通常30mol%以下、例えば20mol%以下、又は15mol%以下のルイス酸触媒を用いることができる。
【0111】
・反応条件:
本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法における反応条件は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応手順毎に例示すると以下のとおりである。
【0112】
工程(i)として、式(R1)のアミノ酸を、式(S1)の第1のシラン化合物と接触させて反応させる際の反応条件は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば以下の通りである。
【0113】
工程(i)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0114】
工程(i)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0115】
工程(i)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0116】
工程(i)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0117】
工程(ii)として、式(R2)のアミノ酸を、式(S2)の第2のシラン化合物と接触させて反応させる際の反応条件も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば以下の通りである。
【0118】
工程(ii)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0119】
工程(ii)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0120】
工程(ii)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0121】
工程(ii)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0122】
工程(iii)として、工程(i)の反応物と、工程(ii)の反応物とを接触させて反応させる際の反応条件も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば以下の通りである。
【0123】
工程(iii)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0124】
工程(iii)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0125】
工程(iii)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0126】
工程(iii)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0127】
なお、工程(i)、(ii)、及び(iii)は各々、逐次法(バッチ法)にて実施してもよく、連続法(フロー法)にて実施してもよい。具体的な逐次法(バッチ法)及び連続法(フロー法)の実施手順の詳細は、本技術分野では公知である。また、工程(i)の反応系に工程(ii)の反応物を添加することにより、工程(i)及び工程(iii)を連続してワンポッドで行ってもよい。
【0128】
なお、前述のとおり、第4のシラン化合物を使用する場合は、工程(ii)の開始前に、求核種である式(R2)の第2のアミノ酸と混合してから、工程(i)の反応物と混合することが好ましい。斯かる混合時の温度、圧力、雰囲気、及び時間等の条件は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、工程(i)及び工程(ii)の温度、圧力、雰囲気、及び時間等の条件に準じて、適宜設定すればよい。
【0129】
・後処理等(精製・回収等):
上述の製造方法により得られた本発明の縮合環ジペプチド化合物に対して、更に種々の後処理を施してもよい。例えば、生成された本発明の縮合環ジペプチド化合物を、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の常法に従って単離・精製することができる。また、生成された本発明の縮合環ジペプチド化合物を直接、又は単離・精製後、後述する本発明のポリペプチドの製造方法に供し、ポリペプチドの製造に利用してもよい。
【0130】
[V.本発明の縮合環ジペプチド化合物を用いたポリペプチドの製造方法]
本発明の縮合環ジペプチド化合物は、種々の反応に利用することが可能であるが、中でも、ポリペプチドの製造における利用が好適である。本発明の縮合環ジペプチド化合物を用いたポリペプチドの製造方法としては、二種類の態様が挙げられる(これらの態様を以下、適宜「本発明の第1のポリペプチドの製造方法」及び「本発明の第2のポリペプチドの製造方法」と略称する。)。但し、本発明の縮合環ジペプチド化合物を用いたポリペプチドの製造方法は、これら2つの態様に限定されるものではない。
【0131】
(1)第1のポリペプチドの製造方法:
本発明の第1のポリペプチドの製造方法は、一分子のポリペプチド化合物の製造に、本発明の縮合環ジペプチド化合物を一分子用いる方法であって、前記式(A)の縮合環ジペプチド化合物、下記式(R3)で表される保護アミノ酸又は保護ペプチド化合物、及び、下記式(R4)で表されるアミノ酸エステル又はペプチドエステル化合物を反応させることにより、下記式(P1)で表されるポリペプチド化合物を得ることを含む方法である。
【0132】
・シラン含有縮合環ジペプチド化合物(基質化合物):
本発明の第1のポリペプチドの製造方法において基質化合物として使用されるアミノ酸は、前記の式(A)で表されるシラン含有縮合環ジペプチド化合物(本発明の縮合環ジペプチド化合物)である。その詳細は詳述したとおりである。
【0133】
・保護アミノ酸・ペプチド及びアミノ酸・ペプチドエステル(基質化合物):
本発明の第1のポリペプチドの製造方法において基質化合物として使用される保護アミノ酸又は保護ペプチド、及びアミノ酸エステル又はペプチドエステルは、それぞれ下記の式(R3)及び式(R4)で表される化合物である。
【0134】
【0135】
【0136】
式(R3)及び式(R4)において、R31、R32、R41、及びR42は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、アミノ基、一価の脂肪族炭化水素基、一価の芳香族炭化水素基、若しくは一価の複素環式基を表す。なお、これらの基が置換基を有する場合、その種類については先に記載したとおりである。置換基の数の具体例は、例えば5、4、3、2、1、又は0である。
【0137】
式(R3)及び式(R4)において、R31、R32、R41、及び/又はR42が、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基である場合は、斯かる脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基とそれが結合する炭素原子との間に、連結基が介在していてもよい。斯かる連結基は、限定されるものではないが、各々独立に、例えば以下に示す構造から選択される(なお、下記化学式中、Aは各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基を表す。同一の基の中にAが二つ存在する場合、それらは互いに同一でもよく、異なっていてもよい。)。
【0138】
【0139】
式(R3)及び式(R4)において、R31、R32、R41、及び/又はR42が脂肪族炭化水素基である場合、斯かる脂肪族炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は脂肪族炭化水素基の種類によっても異なるが、アルキル基の場合は1以上、アルケニル基やアルキニル基の場合は2以上、シクロアルキル基の場合には3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0140】
式(R3)及び式(R4)において、R31、R32、R41、及び/又はR42が芳香族炭化水素基である場合、斯かる芳香族炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は芳香族炭化水素基の種類によっても異なるが、通常4以上、例えば5以上、又は6以上である。当該原子数の具体例は、例えば4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0141】
式(R3)及び式(R4)において、R31、R32、R41、及び/又はR42が複素環式基である場合、斯かる複素環式基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子及びヘテロ原子の合計数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は複素環式構造の種類によっても異なるが、通常3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0142】
式(R3)及び式(R4)におけるR31、R32、R41、及びR42としては、各々独立に、水素原子、水酸基、チオール基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはハロゲン原子、又は、1又は2以上の置換基を有していてもよい、アミノ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリーロキシ基、アシル基、複素環式基、若しくは複素環オキシ基等であることが好ましい。
【0143】
式(R3)及び式(R4)におけるR31、R32、R41、及びR42の具体例としては、これらに限定されるものではないが、例えば以下が挙げられる。
【0144】
・水素原子、水酸基、チオール基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基;
・フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;
・メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、デシル基、ノニル基等のアルキル基;
・エテニル基、プロペニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、オクテニル基等のアルケニル基;
・プロパルギル基等のアルキニル基;
・シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、ビシクロオクチル基、スピロオクチル基等のシクロアルキル基;
・メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等のアルコキシ基;
・フェニル基、ベンジル基、トリル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基;
・フェニロキシ基、ベンジロキシ基、ナフチロキシ基等のアリーロキシ基;
・アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基、パラメトキシベンゾイル基、シンナモイル基等のアシル基;
・無置換のアミノ基、及び、ジメチルアミノ基、ベンジルアミノ基、トリフェニルメチルアミノ基等の置換アミノ基;
・フラニル基、チオフェニル基、ピラニル基、ピロリニル基、ピロリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピロリル基、ピぺリジニル基、ピペラジニル基、ホモピペラジニル基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、ヘキサヒドロピリミジル基、ヘキサヒドロピリダジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリダジル基、3,4-ジヒドロピリジル基、イミダゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、ピラゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、オキサゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、チアゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、カルバゾリル基等の複素環式基;
・フラニルオキシ基、ピロリルオキシ基、インドリルオキシ基、キノリルオキシ基等の複素環オキシ基;等。
【0145】
式(R3)及び式(R4)において、R33及びR43は、各々独立に、水素原子、カルボキシル基、若しくは水酸基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、一価の炭化水素基若しくは複素環式基を表す。なお、置換基を有する場合、その種類については先に記載したとおりである。置換基の数の具体例は、例えば5、4、3、2、1、又は0である。
【0146】
式(R3)及び式(R4)において、R33及び/又はR43が、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基である場合は、斯かる脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基とそれが結合する窒素原子との間に、連結基が介在していてもよい。斯かる連結基は、限定されるものではないが、各々独立に、例えば以下に示す構造から選択される(なお、下記化学式中、Aは各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基を表す。同一の基の中にAが二つ存在する場合、それらは互いに同一でもよく、異なっていてもよい。)。
【0147】
【0148】
式(R3)及び式(R4)において、R33及び/又はR43が脂肪族炭化水素基である場合、斯かる脂肪族炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は脂肪族炭化水素基の種類によっても異なるが、アルキル基の場合は1以上、アルケニル基やアルキニル基の場合は2以上、シクロアルキル基の場合には3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0149】
式(R3)及び式(R4)において、R33及び/又はR43が芳香族炭化水素基である場合、斯かる芳香族炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は芳香族炭化水素基の種類によっても異なるが、通常4以上、例えば5以上、又は6以上である。当該原子数の具体例は、例えば4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0150】
式(R3)及び式(R4)において、R33及び/又はR43が複素環式基である場合、斯かる複素環式基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子及びヘテロ原子の合計数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は複素環式構造の種類によっても異なるが、通常3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0151】
式(R3)及び式(R4)におけるR33及び/又はR43としては、各々独立に、水素原子、水酸基、若しくはカルボキシル基、又は、1又は2以上の置換基を有していてもよい、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリーロキシ基、アシル基、複素環式基、若しくは複素環オキシ基等であることが好ましい。
【0152】
式(R3)及び式(R4)におけるR33及び/又はR43の具体例としては、これらに限定されるものではないが、例えば以下が挙げられる。
【0153】
・水素原子、水酸基、カルボキシル基;
・メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、デシル基、ノニル基等のアルキル基;
・エテニル基、プロペニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、オクテニル基等のアルケニル基;
・プロパルギル基等のアルキニル基;
・シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、ビシクロオクチル基、スピロオクチル基等のシクロアルキル基;
・フェニル基、ベンジル基、トリル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基;
・フラニル基、チオフェニル基、ピラニル基、ピロリニル基、ピロリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピロリル基、ピぺリジニル基、ピペラジニル基、ホモピペラジニル基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、ヘキサヒドロピリミジル基、ヘキサヒドロピリダジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリダジル基、3,4-ジヒドロピリジル基、イミダゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、ピラゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、オキサゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、チアゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、カルバゾリル基等の複素環式基;等。
【0154】
或いは、式(R3)において、R31とR33とが互いに結合して、R31が結合する炭素原子及びR33が結合する窒素原子と共に、1又は2以上の置換基を有していてもよい複素環を形成していてもよい。同様に、式(R4)において、R41とR43とが互いに結合して、R41が結合する炭素原子及びR43が結合する窒素原子と共に、1又は2以上の置換基を有していてもよい複素環を形成していてもよい。なお、置換基を有する場合、その種類については先に記載したとおりである。置換基の数の具体例は、例えば5、4、3、2、1、又は0である。
【0155】
斯かる複素環式基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子及びヘテロ原子の合計数は、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は複素環式構造の種類によっても異なるが、通常3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0156】
斯かる複素環の具体例としては、これらに限定されるものではないが、ピロリニル基、ピロリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピロリル基、ピぺリジニル基、ピペラジニル基、ホモピペラジニル基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、ヘキサヒドロピリミジル基、ヘキサヒドロピリダジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリダジル基、3,4-ジヒドロピリジル基、イミダゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、ピラゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、オキサゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、チアゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基等が挙げられる。
【0157】
式(R3)及び式(R4)において、A31、A32、A41、及びA42は、各々独立に、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい炭素数1~3の二価の脂肪族炭化水素基を表す。具体例としては、これらに限定されるものではないが、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、及びイソプロピレン基等、並びにこれらの基が1又は2以上の前記の置換基で置換された基が挙げられる。置換基の数の具体例は、例えば3、2、1、又は0である。
【0158】
式(R3)及び式(R4)において、p31、p32、p41、及びp42は、各々独立に、0又は1を表す。
【0159】
式(R3)及び式(R4)において、m及びnは、各々独立に、[ ]内の構造で表される構成単位の数を表す、1以上の整数である。即ち、mは、式(R3)の[ ]内のアミノ酸単位の数を表す。mが1の場合、式(R3)の化合物は保護アミノ酸となり、mが2以上の場合、式(R3)の化合物は保護ペプチドとなる。同様に、nは、式(R4)の[ ]内のアミノ酸単位の数を表す。nが1の場合、式(R4)の化合物はアミノ酸エステルとなり、nが2以上の場合、式(R4)の化合物はペプチドエステルとなる。m及びnの上限は、反応が進行する限りにおいて特に制限されないが、例えば100以下、80以下、60以下、50以下、40以下、30以下、20以下、15以下、12以下、又は10以下等である。m及びnの具体例は、各々独立に、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100等である。
【0160】
式(R3)中、PGaは、アミノ基の保護基を表す。アミノ基の保護基PGaとしては、所与の反応時に当該アミノ基が反応しないように保護することができ、反応後にこれを脱保護してアミノ基に変換可能なものであれば、特に制限されない。斯かるアミノ基の保護基の詳細については、後述する。
【0161】
式(R4)中、PGbは、カルボキシル基の保護基を表す。カルボキシル基の保護基PGbとしては、所与の反応時に当該カルボキシル基が反応しないように保護することができ、反応後にこれを脱保護してカルボキシル基に変換可能なものであれば、特に制限されない。斯かるカルボキシル基の保護基の詳細については、先に詳述したとおりである。
【0162】
・アミノ基の保護基:
本発明の各製造方法(本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法、及び、本発明の第1及び第2のポリペプチドの製造方法)において使用されるアミノ基の保護基PGaとしては、公知の多種多様のものが知られている。例としては、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい一価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい一価の複素環式基等が挙げられる。中でも、1又は2以上の置換基を有していてもよい一価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基が好ましい。但し、斯かる脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基と、それが保護するアミノ基の窒素原子(式(R3)中PGaが結合する窒素原子)との間に、連結基が介在していてもよい。斯かる連結基は、限定されるものではないが、各々独立に、例えば以下に示す連結基から選択される(なお、下記化学式中、Aは各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基を表す。同一の基の中にAが二つ存在する場合、それらは互いに同一でもよく、異なっていてもよい。)。
【0163】
【0164】
アミノ基の保護基PGaの炭素数は、通常1以上、又は3以上、また、通常20以下、又は15以下が挙げられる。
【0165】
中でも、アミノ基の保護基PGaは、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基、アシル基、炭化水素オキシカルボニル基、及び炭化水素スルホニル基、及びアミド基からなる群より選択される1種以上の基であることが好ましい。
【0166】
以下、アミノ基の保護基PGaの具体例を列記する。なお、アミノ基の保護基の名称としては、アミノ基の窒素原子に結合している官能基の名称の他、窒素原子をも含めた名称も存在しており、以下の名称においても両者が含まれている。
【0167】
非置換又は置換の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;エテニル基、プロペニル基、アリル基、等のアルケニル基;プロパルギル基等のアルキニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ベンジル基、パラメトキシベンジル基、トリル基、トリフェニルメチル基(トロック基)等のアリール基;シアノメチル基等の置換炭化水素基等が挙げられる。炭素数は、通常1以上、又は3以上、また、通常20以下、又は15以下が挙げられる。
【0168】
非置換又は置換のアシル基の具体例としては、ベンゾイル基(Bz)、オルトメトキシベンゾイル基、2,6-ジメトキシベンゾイル基、パラメトキシベンゾイル基(PMPCO)、シンナモイル基、フタロイル基(Phth)等が挙げられる。
【0169】
非置換又は置換の炭化水素オキシカルボニル基の具体例としては、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz又はZ)、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、2-トリメチルシリルエトキシカルボニル基、2-フェニルエトキシカルボニル基、1-(1-アダマンチル)-1-メチルエトキシカルボニル基、1-(3,5-ジ-t- ブチルフェニル)-1-メチルエトキシカルボニル基、ビニロキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基(Alloc)、N-ヒドロキシピペリジニルオキシカルボニル基、p-メトキシベンジルオキシカルボニル基、p-ニトロベンジルオキシカルボニル基、2-(1,3-ジチアニル)メトキシカルボニル、m-ニトロフェノキシカルボニル基、3,5-ジメトキシベンジルオキシカルボニル基、o-ニトロベンジルオキシカルボニル基、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基(Troc)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)等が挙げられる。
【0170】
非置換又は置換の炭化水素スルホニル基の具体例としては、メタンスルホニル基(Ms)、トルエンスルホニル基(Ts)、2-又は4-ニトロベンゼンスルホニル基(Ns)基等が挙げられる。
【0171】
非置換又は置換のアミド基の具体例としては、アセトアミド、o-(ベンゾイロキシメチル)ベンズアミド、2-[(t-ブチルジフェニルシロキシ)メチル]ベンズアミド、2-トルエンスルホンアミド、4-トルエンスルホンアミド、2-ニトロベンゼンスルホンアミド、4-ニトロベンゼンスルホンアミド、tert-ブチルスルフィニルアミド、4-トルエンスルホンアミド、2-(トリメチルシリル)エタンスルホンアミド、ベンジルスルホンアミド等が挙げられる。
【0172】
また、脱保護の手法の観点からは、水素化による脱保護、弱酸による脱保護、フッ素イオンによる脱保護、一電子酸化剤による脱保護、ヒドラジンによる脱保護、酸素による脱保護等のうち、少なくとも1種の手法により脱保護可能な保護基も、アミノ基の保護基PGaの例として挙げられる。
【0173】
アミノ基の保護基PGaの好ましい具体例としては、メシル基(Ms)、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンジル基(Bn又はBzl)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)、ベンゾイル基(Bz)、パラメトキシベンジル基(PMB)、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基(Troc)、アリルオキシカルボニル基(Alloc)、2,4-ジニトロフェニル基(2,4-DNP)、フタロイル基(Phth)、パラメトキシベンゾイル基(PMPCO)、シンナモイル基、トルエンスルホニル基(Ts)、2又は4-ニトロベンゼンスルホニル基(Ns)、シアノメチル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)等が挙げられる。これらの保護基は、前記の通り、容易にアミノ基を保護でき、かつ比較的温和な条件で除去することができるためである。
【0174】
アミノ基の保護基PGaのより好ましい具体例としては、メシル基(Ms)、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)、ベンジル基(Bn)、パラメトキシベンジル基(PMB)、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基(Troc)、アリルオキシカルボニル基(Alloc)、パラメトキシベンゾイル基(PMPCO)、ベンゾイル基(Bz)、シアノメチル基、シンナモイル基、2又は4-ニトロベンゼンスルホニル基(Ns)、トルエンスルホニル基(Ts)、フタロイル基(Phth)、2,4-ジニトロフェニル基(2,4-DNP)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)等が挙げられる。
【0175】
アミノ基の保護基PGaの更に好ましい具体例としては、メシル基(Ms)、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)、ベンジル基(Bn)、パラメトキシベンジル基(PMB)、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基(Troc)、アリルオキシカルボニル基(Alloc)、パラメトキシベンゾイル基(PMPCO)、ベンゾイル基(Bz)、シアノメチル基、シンナモイル基等が挙げられる。
【0176】
前記工程(i)及び/又は(ii)において、反応系に、縮合剤及び/又はラセミ化防止剤を共存させてもよい。
【0177】
前記式(P1)のポリペプチド化合物のアミノ基の保護基PGa及び/又はカルボキシル基の保護基PGbを脱保護する工程を更に含んでいてもよい。
【0178】
・カルボキシル基の保護基:
本発明の各製造方法(本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法、及び、後述する本発明の第1及び第2のポリペプチドの製造方法)において使用されるカルボキシル基の保護基PGbの例としては、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基等が挙げられる。なお、置換基を有する場合、その種類については先に記載したとおりである。置換基の数の具体例は、例えば5、4、3、2、1、又は0である。
【0179】
カルボキシル基の保護基PGbが脂肪族炭化水素基の場合、脂肪族炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は脂肪族炭化水素基の種類によっても異なるが、アルキル基の場合は1以上、アルケニル基やアルキニル基の場合は2以上、シクロアルキル基の場合には3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0180】
カルボキシル基の保護基PGbが芳香族炭化水素基の場合、芳香族炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は芳香族炭化水素基の種類によっても異なるが、通常4以上、例えば5以上、又は6以上である。当該原子数の具体例は、例えば4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0181】
カルボキシル基の保護基PGbの具体例としては、これらに限定されるものではないが、例えば以下が挙げられる。
【0182】
・メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、デシル基、ノニル基等のアルキル基;
・エテニル基、プロペニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、オクテニル基等のアルケニル基;
・プロパルギル基等のアルキニル基;
・シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、ビシクロオクチル基、スピロオクチル基等のシクロアルキル基;
・フェニル基、ベンジル基、トリル基、クミル基、1,1-ジフェニルエチル基、トリフェニルメチル基、フルオレニル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基及びアリールアルキル基;
・フラニル基、チオフェニル基、ピラニル基、ピロリニル基、ピロリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピロリル基、ピぺリジニル基、ピペラジニル基、ホモピペラジニル基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、ヘキサヒドロピリミジル基、ヘキサヒドロピリダジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリダジル基、3,4-ジヒドロピリジル基、イミダゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、ピラゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、オキサゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、チアゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、カルバゾリル基等の複素環式基;
トリメチルシリル(TMS)基、トリエチルシリル(TES)基、トリイソプロピルシリル(TIPS)基、トリtert-ブチルシリル(TBS)基、tert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)基、トリス(トリアルキルシリル)シリル基等のケイ素系保護基;等。
【0183】
・縮合剤及びラセミ化防止剤:
本発明の第1のペプチド製造方法では、ペプチド形成反応の効率を高める観点から、縮合剤を系内に共存させてもよい。縮合剤の種類は制限されず、縮合反応効率を向上させることが知られている公知の縮合剤を使用することができる。斯かる縮合剤の例としては以下が挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0184】
・カルボジイミド系縮合剤:1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(wsc、edc)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(wscHCl、edcHCl)、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)等。
【0185】
・ホスホニウム系縮合剤:1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩(BOP)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホ二ウムヘキサフルオロりん酸塩(PyBOP)、(7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩(PyAOP)、クロロトリピロリジノホスホ二ウムヘキサフルオロりん酸塩(PyCloP)、ブロモトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩(Brop)、3-(ジエトキシホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オン(DEPBT)等。
【0186】
・イミダゾール系縮合剤:N,N’-カルボニルジイミダゾール(CDI)、1,1’-カルボニルジ(1,2,4-トリアゾール)(CDT)等。
【0187】
・ウロニウム系縮合剤:O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩(HBTU)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩(HATU)、O-(N-スクシンイミジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩(TSTU)等。
【0188】
・トリアジン系縮合剤:4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウム=クロリドn水和物(DMT-MM)等。
【0189】
なお、縮合剤を使用する場合、ペプチド形成反応時のラセミ化を防止する観点から、ラセミ化防止剤を併用してもよい。ラセミ化防止剤の種類も制限されず、縮合反応時のラセミ化を防止することが知られている公知のラセミ化防止剤を使用することができる。斯かるラセミ化防止剤の例としては、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAtN-ヒドロキシこはく酸イミド(HOSu)、炭酸N,N’-ジスクシンイミジル(DSC)等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0190】
・塩基:
本発明の第1のペプチド製造方法では、反応効率を高める観点から、塩基を系内に共存させてもよい。塩基の種類は制限されず、反応効率を向上させることが知られている公知の塩基を使用することができる。斯かる塩基の例としては、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)、トリエチルアミン(Et3N)、ジイソプロピルアミン(i-Pr2NH)、ジイソプロピルエチルアミン(i-Pr2EtN)等の、炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基を1~4個有するアミンや、フッ化セシウム等の無機塩基などが挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0191】
・その他の成分:
本発明の第1のペプチド製造方法では、基質化合物である前述の式(A)の縮合環ジペプチド化合物、式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチド、式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステル、並びに任意により用いられる塩基、縮合剤、及びラセミ化防止剤に加えて、他の成分を共存させてもよい。斯かる他の成分の例としては、制限されるものではないが、アミド化反応に使用可能な従来の触媒や、シラン化合物、リン化合物等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0192】
触媒の例としては、前述の本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法の欄で詳述した種々のルイス酸触媒、例えばチタン化合物、ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物、タンタル化合物、ニオブ化合物等や、メチルアルミニウムビス(4-ブロモ-2,6-ジ-tert-ブチルフェノキシド)(MABR)、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(TMS-OTf)、メチルアルミニウムビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノキシド)(MAD)等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0193】
シラン化合物の例としては、HSi(OCH(CF3)2)3、HSi(OCH2CF3)3、HSi(OCH2CF2CF2H)3、HSi(OCH2CF2CF2CF2CF2H)3等の各種のトリス{ハロ(好ましくはフッ素)置換アルキル}シランの他、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(TMS-OTf)、1-(トリメチルシリル)イミダゾール(TMSIM)、ジメチルエチルシリルイミダゾール(DMESI)、ジメチルイソプロピルシリルイミダゾール(DMIPSI)、1-(tert-ブチルジメチルシリル)イミダゾール(TBSIM)、1-(トリメチルシリル)トリアゾール、1-(tert-ブチルジメチルシリル)トリアゾール、ジメチルシリルイミダゾール、ジメチルシリル(2-メチル)イミダゾール、トリメチルブロモシラン(TMBS)、トリメチルクロロシラン(TMCS)、N-メチル-Nトリメチルシリルトリフルオロアセタミド(MSTFA)、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセタミド(BSTFA)、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセタミド(BSA)、N-(トリメチルシリル)ジメチルアミン(TMSDMA)、N-(tert-ブチルジメチルシリル)-N-メチルトリフルオロアセトアミド(MTBSTFA)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0194】
リン化合物の例としては、ホスフィン化合物(例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリメチロキシホスフィン、トリエチロキシホスフィン、トリプロピロキシホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリフェニロキシホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4-フルオロフェニル)ホスフィン、トリス(4-メチルフェニロキシ)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニロキシ)ホスフィン、トリス(4-フルオロフェニロキシ)ホスフィン等)、ホスフェート化合物(例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリメチロキシホスフェート、トリエチロキシホスフェート、トリプロピロキシホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリナフチルホスフェート、トリフェニロキシホスフェート、トリス(4-メチルフェニル)ホスフェート、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフェート、トリス(4-フルオロフェニル)ホスフェート、トリス(4-メチルフェニロキシ)ホスフェート、トリス(4-メトキシフェニロキシ)ホスフェート、トリス(4-フルオロフェニロキシ)ホスフェート等)、多価ホスフィン化合物又は多価ホスフェート化合物(例えば、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル(BINAP)、5,5’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-4,4’-ビ-1,3-ベンゾジオキソール(SEGPHOS)等)等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0195】
また、反応効率を高める観点から、反応時に溶媒を用いてもよい。溶媒としては、特に制限されないが、例えば水性溶媒や有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、制限されるものではないが、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、石油エーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1-メチルテトラヒドロフラン(1-MeTHF)、ジイソプロピルエーテル(i-Pr2O)、ジエチルエーテル(Et2O)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)等のエーテル類、アセトニトリル(MeCN)等の窒素系有機溶媒、ジクロロメタン(DCM)等の塩素系有機溶媒、酢酸エチル(AcOEt)等のエステル類、酢酸等の有機酸などが挙げられる。これらの溶媒は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0196】
・反応手順:
本発明の第1のペプチド製造方法では、式(A)の縮合環ジペプチド化合物、式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチド化合物、及び、式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステル化合物を反応させる。懸かる反応により、式(A)の縮合環ジペプチド化合物の式中左側のアミノ酸残基の環が開いて、そのN末端に式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドが連結されると共に、式(A)の縮合環ジペプチド化合物の式中右側のアミノ酸残基の環が開いて、そのC末端に式(R4)の保護アミノ酸又は保護ペプチドが連結され、その結果として、式(P1)のポリペプチド化合物が形成される。
【0197】
本発明の第1のペプチド製造方法では、上記の反応が生じる限り、各基質化合物の混合順は制限されない。例としては以下の2つの態様が挙げられるが、各基質化合物の混合順は、これらに限定されるものではない。
【0198】
第1の態様としては、工程(i)として、式(A)の縮合環ジペプチド化合物に、式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドを加えて反応させた後、次いで工程(ii)として、式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステルを反応系に加えて反応させる態様が挙げられる。本態様では、工程(i)において、式(A)の縮合環ジペプチド化合物の式中左側のアミノ酸残基の環が開いて、そのN末端に式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドが連結されると共に、工程(ii)において、式(A)の縮合環ジペプチド化合物の式中右側のアミノ酸残基の環が開いて、そのC末端に式(R4)の保護アミノ酸又は保護ペプチドが連結され、その結果として、式(P1)のポリペプチド化合物が形成される。
【0199】
第2の態様としては、工程(i)として、式(A)の縮合環ジペプチド化合物に、式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステルを加えて反応させた後、次いで工程(ii)として、式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドを反応系に加えて反応させる態様が挙げられる。本態様では、工程(i)において、式(A)の縮合環ジペプチド化合物の式中右側のアミノ酸残基の環が開いて、そのC末端に式(R4)の保護アミノ酸又は保護ペプチドが連結されると共に、工程(ii)において、式(A)の縮合環ジペプチド化合物の式中左側のアミノ酸残基の環が開いて、そのN末端に式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドが連結され、その結果として、式(P1)のポリペプチド化合物が形成される。
【0200】
なお、任意により用いられる縮合剤及び塩基等、その他の成分を反応系に添加するタイミングは特に制限されず、何れも任意のタイミングで加えればよい。但し、縮合剤及び/又は塩基を使用する場合は、第1及び第2の何れの態様においても、工程(i)及び/又は工程(ii)の開始時に系内に添加することが好ましい。また、縮合剤に加えてラセミ化防止剤を使用する場合には、縮合剤と一緒に系内に添加することが好ましい。また、溶媒を用いて反応を行う場合には、溶媒中で各成分を混合し、相互に接触させればよい。
【0201】
・各成分の使用量比:
本発明の第1のペプチド製造方法において、各成分の使用量は限定されるものではないが、好ましくは以下の通りである。
【0202】
式(A)の縮合環ジペプチド化合物と式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドとの量比は、特に制限されないが、式(A)の縮合環ジペプチド化合物1モルに対して、式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドを、例えば0.1モル以上、又は0.2モル以上、又は0.3モル以上、又は0.4モル以上、又は0.5モル以上、また、例えば20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は8モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下、又は2モル以下の範囲で用いることができる。
【0203】
式(A)の縮合環ジペプチド化合物と式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステルとの量比は、特に制限されないが、式(A)の縮合環ジペプチド化合物1モルに対して、式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステルを、例えば0.1モル以上、又は0.2モル以上、又は0.3モル以上、又は0.4モル以上、又は0.5モル以上、また、例えば20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は8モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下、又は2モル以下の範囲で用いることができる。
【0204】
なお、当然ながら、製造対象となる本発明の式(P1)のポリペプチド化合物の目標製造量に対し、基質となる式(A)の縮合環ジペプチド化合物、式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチド、及び式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステルをそれぞれ1モル以上用いる必要がある。
【0205】
塩基を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、式(A)の縮合環ジペプチド化合物1モルに対して、塩基を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。なお、複数の工程において塩基を添加する場合には、各工程において上記範囲内の量の塩基を添加することが好ましい。
【0206】
縮合剤を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、式(A)の縮合環ジペプチド化合物1モルに対して、縮合剤を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。なお、複数の工程において縮合剤を添加する場合には、各工程において上記範囲内の量の縮合剤を添加することが好ましい。
【0207】
縮合剤に加えてラセミ化防止剤を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、式(A)の縮合環ジペプチド化合物1モルに対して、ラセミ化防止剤を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。なお、複数の工程においてラセミ化防止剤を添加する場合には、各工程において上記範囲内の量のラセミ化防止剤を添加することが好ましい。
【0208】
・反応条件:
本発明の第1のペプチド製造方法における反応条件は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例として、前記の第1及び第2の各態様について、反応手順毎に例示すると以下のとおりである。
【0209】
まず、第1の態様の場合、工程(i)として、式(A)の縮合環ジペプチド化合物に、式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドを加えて反応させる際の反応条件は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば以下の通りである。
【0210】
工程(i)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0211】
工程(i)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0212】
工程(i)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0213】
工程(i)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0214】
一方、工程(ii)として、式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステルを反応系に加えて反応させる際の反応条件も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば以下の通りである。
【0215】
工程(ii)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0216】
工程(ii)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0217】
工程(ii)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0218】
工程(ii)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0219】
次に、第2の態様の場合、工程(i)として、式(A)の縮合環ジペプチド化合物に、式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステルを加えて反応させる際の反応条件は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば以下の通りである。
【0220】
工程(i)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0221】
工程(i)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0222】
工程(i)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0223】
工程(i)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0224】
一方、工程(ii)として、式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドを反応系に加えて反応させる際の反応条件も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば以下の通りである。
【0225】
工程(ii)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0226】
工程(ii)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0227】
工程(ii)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0228】
工程(ii)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0229】
なお、第1及び第2の態様のいずれにおいても、工程(i)及び工程(ii)は各々、逐次法(バッチ法)にて実施してもよく、連続法(フロー法)にて実施してもよい。具体的な逐次法(バッチ法)及び連続法(フロー法)の実施手順の詳細は、本技術分野では公知である。また、工程(i)及び工程(ii)を連続してワンポッドで行ってもよい。
【0230】
・ポリペプチド(目的化合物):
本発明の第1のポリペプチドの製造方法において最終的に製造される目的化合物たるポリペプチド化合物は、下記の式(P1)で表される化合物である。
【化27】
【0231】
式(P1)中、R11、R12、R13、R21、及びR22は、前記式(A)における定義と同じ基を表し、PGa、R31、R32、R33、A31、A32、p31、p32、及びmは、前記式(R3)における定義と同じ基を表し、PGb、R41、R42、R43、A41、A42、p41、p42、及びnは、前記式(R4)における定義と同じ基を表す。
【0232】
ここで、式(P1)の化合物は、m+n+2をアミノ酸残基数とするポリペプチド化合物となる。即ち、例えば式(R3)の化合物が保護アミノ酸であり、式(R4)の化合物がアミノ酸エステルである場合(即ち、m及びnが共に1の場合)、製造される式(P1)の化合物はアミノ酸残基数m+n+2=4のポリペプチド化合物、即ちテトラペプチド化合物となる。また、例えば式(R3)の化合物が保護ジペプチドであり、式(R4)の化合物がアミノ酸エステルである場合(即ち、mが2、nが1の場合)や、例えば式(R3)の化合物が保護アミノ酸であり、式(R4)の化合物がジペプチドエステルである場合(即ち、mが1、nが2の場合)、製造される式(P1)の化合物はアミノ酸残基数m+n+2=5のポリペプチド化合物、即ちペンタペプチド化合物となる。また、例えば式(R3)の化合物が保護ジペプチドであり、式(R4)の化合物がジペプチドエステルである場合(即ち、mが2、nが2の場合)、製造される式(P1)の化合物はアミノ酸残基数m+n+2=6のポリペプチド化合物、即ちヘキサペプチド化合物となる。即ち、使用する式(R3)及び式(R4)の基質化合物の各アミノ酸残基数(m及びn)によって、得られる式(P1)のポリペプチド化合物(m+n+2)を調整することが可能となる。
【0233】
なお、上述の製造方法により得られた式(P1)のポリペプチド化合物に対して、更に種々の後処理を施してもよい。斯かる後処理としては、得られた式(P1)のポリペプチド化合物の単離・精製や、アミノ基の保護基PGa及び/又はカルボキシル基の保護基PGbの脱保護等が挙げられる。斯かる後処理についてはまとめて後述する。
【0234】
(2)第2のポリペプチドの製造方法:
本発明の第2のポリペプチドの製造方法は、一分子のポリペプチドの製造に、本発明の縮合環ジペプチド化合物を二分子用いる方法であって、少なくとも下記工程(i)~(iii)を含む方法である。
(i)下記式(A1)で表されるシラン含有縮合環ジペプチド化合物に、下記式(R3)で表される保護アミノ酸又は保護ペプチドを加えて反応させる工程。
(ii)前記工程(i)の反応物に、下記式(A2)で表されるシラン含有縮合環ジペプチド化合物を加えて更に反応させる工程。
(iii)前記工程(ii)の反応物に、下記式(R4)で表されるアミノ酸エステル又はペプチドエステルを加えて更に反応させることにより、下記式(P1)で表されるポリペプチド化合物を得る工程。
【0235】
・シラン含有縮合環ジペプチド化合物(基質化合物):
本発明の第2のポリペプチドの製造方法において基質化合物として使用されるシラン含有縮合環ジペプチド化合物は、前記の式(A)で表されるシラン含有縮合環ジペプチド化合物(本発明の縮合環ジペプチド化合物)と同様の化合物であるが、一分子のポリペプチドの合成に際し二分子のシラン含有縮合環ジペプチド化合物を使用する点で、前述した本発明の第1のポリペプチドの製造方法とは異なる。ここで、これら二分子のシラン含有縮合環ジペプチド化合物を区別するために、それぞれ下記の式(A1)及び式(A2)で表すものとする。
【0236】
【0237】
【0238】
式(A1)におけるR111、R112、R113、R121、及びR122、並びに、式(A2)におけるR211、R212、R213、R221、及びR222は、各々独立に、式(A)におけるR11、R12、R21、及びR22と同様の定義を表す。また、式(A1)におけるRa11及びRa12、並びに、式(A2)におけるRa21及びRa22は、各々独立に、式(A)におけるRa1及びRa2と同様の定義を表す。その詳細については、何れも前述したとおりである。
【0239】
・保護アミノ酸・ペプチド及びアミノ酸・ペプチドエステル(基質化合物):
本発明の第2のポリペプチドの製造方法において基質化合物として使用される保護アミノ酸又は保護ペプチド、及び、アミノ酸エステル又はペプチドエステルは、本発明の第2のポリペプチドの製造方法と同様、前述の式(R3)及び式(R4)で表される化合物である。その詳細については前述したとおりである。
【0240】
・縮合剤:
本発明の第2のペプチド製造方法でも、ペプチド形成反応の効率を高める観点から、縮合剤を系内に共存させてもよい。また、縮合剤を使用する場合、ラセミ化防止剤を併用してもよい。縮合剤及びラセミ化防止剤の詳細については、先の本発明の第1のペプチド製造方法の説明において詳述したとおりである。
【0241】
・塩基:
本発明の第2のペプチド製造方法でも、反応効率を高める観点から、塩基を系内に共存させてもよい。塩基の詳細についても、先の本発明の第1のペプチド製造方法の説明において詳述したとおりである。
【0242】
・その他の成分:
本発明の第2のペプチド製造方法でも、基質化合物である前述の式(A1)及び式(A2)の縮合環ジペプチド化合物、式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチド、式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステル、並びに任意により用いられる塩基、縮合剤、及びラセミ化防止剤に加えて、他の成分を共存させてもよい。例としては、触媒、シラン化合物、リン化合物等が挙げられる。斯かる他の成分の詳細についても、先の本発明の第1のペプチド製造方法の説明において詳述したとおりである。
【0243】
なお、反応効率を高める観点からは、溶媒中で反応を行ってもよい。斯かる溶媒の詳細についても、先の本発明の第1のペプチド製造方法の説明において詳述したとおりである。
【0244】
・反応手順:
本発明の第2のペプチド製造方法では、式(A1)及び式(A2)の縮合環ジペプチド化合物、式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチド化合物、及び、式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステル化合物を反応させる。懸かる反応により、式(A1)の縮合環ジペプチド化合物の式中右側のアミノ酸残基の環と、式(A2)の縮合環ジペプチド化合物の式中左側のアミノ酸残基の環が共に開いて、前者のアミノ酸残基のC末端に、後者のアミノ酸残基のN末端が連結されると共に、式(A1)の縮合環ジペプチド化合物の式中左側のアミノ酸残基の環が開いて、そのN末端に式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドが連結され、更には、式(A2)の縮合環ジペプチド化合物の式中右側のアミノ酸残基の環が開いて、式(R4)の保護アミノ酸又は保護ペプチドが連結され、その結果として、式(P2)のポリペプチド化合物が形成される。
【0245】
本発明の第1のペプチド製造方法では、上記の反応が生じる限り、各基質化合物の混合順は制限されない。例としては以下の2つの態様が挙げられるが、各基質化合物の混合順は、これらに限定されるものではない。
【0246】
第1の態様としては、工程(i)として、式(A1)の縮合環ジペプチド化合物に、式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドを加えて反応させ、次いで工程(ii)として、式(A2)の縮合環ジペプチド化合物を反応系に加えて反応させ、更に工程(iii)として、式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステルを反応系に加えて反応させる態様が挙げられる。本態様では、工程(i)において、式(A1)の縮合環ジペプチド化合物の式中左側のアミノ酸残基の環が開いて、そのN末端に式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドが連結され、工程(ii)において、式(A1)の縮合環ジペプチド化合物の式中右側のアミノ酸残基の環と、式(A2)の縮合環ジペプチド化合物の式中左側のアミノ酸残基の環が共に開いて、前者のアミノ酸残基のC末端に、後者のアミノ酸残基のN末端が連結され、工程(iii)において、式(A2)の縮合環ジペプチド化合物の式中右側のアミノ酸残基の環が開いて、式(R4)の保護アミノ酸又は保護ペプチドが連結され、その結果として、式(P2)のポリペプチド化合物が形成される。
【0247】
第2の態様としては、工程(i)として、式(A2)の縮合環ジペプチド化合物に、式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステルを加えて反応させ、次いで工程(ii)として、式(A1)の縮合環ジペプチド化合物を反応系に加えて反応させ、更に工程(iii)として、式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドを反応系に加えて反応させる態様が挙げられる。本態様では、工程(i)において、式(A2)の縮合環ジペプチド化合物の式中右側のアミノ酸残基の環が開いて、式(R4)の保護アミノ酸又は保護ペプチドが連結され、工程(ii)において、式(A1)の縮合環ジペプチド化合物の式中右側のアミノ酸残基の環と、式(A2)の縮合環ジペプチド化合物の式中左側のアミノ酸残基の環が共に開いて、前者のアミノ酸残基のC末端に、後者のアミノ酸残基のN末端が連結され、工程(iii)において、式(A1)の縮合環ジペプチド化合物の式中左側のアミノ酸残基の環が開いて、そのN末端に式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドが連結され、その結果として、式(P1)のポリペプチド化合物が形成される。
【0248】
なお、任意により用いられる縮合剤及び塩基等、その他の成分を反応系に添加するタイミングは特に制限されず、何れも任意のタイミングで加えればよい。但し、縮合剤及び/又は塩基を使用する場合は、第1及び第2の何れの態様においても、工程(i)及び/又は工程(ii)及び/又は工程(iii)の開始時に系内に添加することが好ましい。また、縮合剤に加えてラセミ化防止剤を使用する場合には、縮合剤と一緒に系内に添加することが好ましい。また、溶媒を用いて反応を行う場合には、溶媒中で各成分を混合し、相互に接触させればよい。
【0249】
・各成分の使用量比:
本発明の第2のペプチド製造方法において、各成分の使用量は限定されるものではないが、好ましくは以下の通りである。
【0250】
式(A1)の縮合環ジペプチド化合物と式(A2)の縮合環ジペプチド化合物との量比は、特に制限されないが、式(A1)の縮合環ジペプチド化合物1モルに対して、式(A2)の縮合環ジペプチド化合物を、例えば0.1モル以上、又は0.2モル以上、又は0.3モル以上、又は0.4モル以上、又は0.5モル以上、また、例えば20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は8モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下、又は2モル以下の範囲で用いることができる。
【0251】
式(A1)の縮合環ジペプチド化合物と式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドとの量比は、特に制限されないが、式(A1)の縮合環ジペプチド化合物1モルに対して、式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドを、例えば0.1モル以上、又は0.2モル以上、又は0.3モル以上、又は0.4モル以上、又は0.5モル以上、また、例えば20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は8モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下、又は2モル以下の範囲で用いることができる。
【0252】
式(A1)の縮合環ジペプチド化合物と式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステルとの量比は、特に制限されないが、式(A1)の縮合環ジペプチド化合物1モルに対して、式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステルを、例えば0.1モル以上、又は0.2モル以上、又は0.3モル以上、又は0.4モル以上、又は0.5モル以上、また、例えば20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は8モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下、又は2モル以下の範囲で用いることができる。
【0253】
なお、当然ながら、製造対象となる本発明の式(P2)のポリペプチド化合物の目標製造量に対し、基質となる式(A)の縮合環ジペプチド化合物、式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチド、及び式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステルをそれぞれ1モル以上用いる必要がある。
【0254】
塩基を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、式(A1)の縮合環ジペプチド化合物1モルに対して、塩基を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。なお、複数の工程において塩基を添加する場合には、各工程において上記範囲内の量の塩基を添加することが好ましい。
【0255】
縮合剤を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、式(A1)の縮合環ジペプチド化合物1モルに対して、縮合剤を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。なお、複数の工程において縮合剤を添加する場合には、各工程において上記範囲内の量の縮合剤を添加することが好ましい。
【0256】
縮合剤に加えてラセミ化防止剤を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、式(A1)の縮合環ジペプチド化合物1モルに対して、ラセミ化防止剤を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。なお、複数の工程においてラセミ化防止剤を添加する場合には、各工程において上記範囲内の量のラセミ化防止剤を添加することが好ましい。
【0257】
・反応条件:
本発明の第2のペプチド製造方法における反応条件は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例として、前記の第1及び第2の各態様について、反応手順毎に例示すると以下のとおりである。
【0258】
まず、第1の態様の場合、工程(i)として、式(A1)の縮合環ジペプチド化合物に、式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドを加えて反応させる際の反応条件は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば以下の通りである。
【0259】
工程(i)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0260】
工程(i)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0261】
工程(i)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0262】
工程(i)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0263】
次に、工程(ii)として、式(A2)の縮合環ジペプチド化合物を反応系に加えて反応させる際の反応条件も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば以下の通りである。
【0264】
工程(ii)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0265】
工程(ii)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0266】
工程(ii)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0267】
工程(ii)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0268】
更に、工程(iii)として、式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステルを反応系に加えて反応させる際の反応条件も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば以下の通りである。
【0269】
工程(iii)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0270】
工程(iii)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0271】
工程(iii)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0272】
工程(iii)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0273】
次に、第2の態様の場合、工程(i)として、式(A2)の縮合環ジペプチド化合物に、式(R4)のアミノ酸エステル又はペプチドエステルを加えて反応させる際の反応条件は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば以下の通りである。
【0274】
工程(i)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0275】
工程(i)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0276】
工程(i)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0277】
工程(i)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0278】
次に、工程(ii)として、式(A1)の縮合環ジペプチド化合物を反応系に加えて反応させる際の反応条件も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば以下の通りである。
【0279】
工程(ii)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0280】
工程(ii)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0281】
工程(ii)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0282】
工程(ii)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0283】
更に、工程(iii)として、式(R3)の保護アミノ酸又は保護ペプチドを反応系に加えて反応させる際の反応条件も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば以下の通りである。
【0284】
工程(iii)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0285】
工程(iii)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0286】
工程(iii)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0287】
工程(iii)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0288】
なお、第1及び第2の態様のいずれにおいても、工程(i)、工程(ii)、及び工程(ii)は各々、逐次法(バッチ法)にて実施してもよく、連続法(フロー法)にて実施してもよい。具体的な逐次法(バッチ法)及び連続法(フロー法)の実施手順の詳細は、本技術分野では公知である。また、工程(i)及び工程(ii)、及び/又は、工程(ii)及び工程(ii)を、それぞれ連続してワンポッドで行ってもよい。
【0289】
・ポリペプチド(目的化合物):
本発明の第2のポリペプチドの製造方法において最終的に製造される目的化合物たるポリペプチドは、下記の式(P2)で表される化合物である。
【化30】
【0290】
式(P2)中、R111、R112、R113、R121、及びR122は、前記式(A1)における定義と同じ基を表し、R211、R212、R213、R221、及びR222は、前記式(A2)における定義と同じ基を表し、PGa、R31、R32、R33、A31、A32、p31、p32、及びmは、前記式(R3)における定義と同じ基を表し、PGb、R41、R42、R43、A41、A42、p41、p42、及びnは、前記式(R4)における定義と同じ基を表す。
【0291】
ここで、式(P2)の化合物は、m+n+4をアミノ酸残基数とするポリペプチド化合物となる。即ち、例えば式(R3)の化合物が保護アミノ酸であり、式(R4)の化合物がアミノ酸エステルである場合(即ち、m及びnが共に1の場合)、製造される式(P2)の化合物はアミノ酸残基数m+n+4=6のポリペプチド化合物、即ちヘキサペプチド化合物となる。また、例えば式(R3)の化合物が保護ジペプチドであり、式(R4)の化合物がアミノ酸エステルである場合(即ち、mが2、nが1の場合)や、例えば式(R3)の化合物が保護アミノ酸であり、式(R4)の化合物がジペプチドエステルである場合(即ち、mが1、nが2の場合)、製造される式(P2)の化合物はアミノ酸残基数m+n+4=7のポリペプチド化合物、即ちヘプタペプチド化合物となる。即ち、使用する式(R3)及び式(R4)の基質化合物の各アミノ酸残基数(m及びn)によって、得られる式(P2)のポリペプチド化合物(m+n+4)を調整することが可能となる。
【0292】
なお、上述の製造方法により得られた式(P2)のポリペプチド化合物に対して、更に種々の後処理を施してもよい。斯かる後処理としては、得られた式(P2)のポリペプチド化合物の単離・精製や、アミノ基の保護基PGa及び/又はカルボキシル基の保護基PGbの脱保護等が挙げられる。斯かる後処理についてはまとめて後述する。
【0293】
[VI.本発明の縮合環トリペプチド化合物及びその製造方法]
・概要:
また、本発明の縮合環ジペプチド化合物を用いて、トリペプチドが縮合環を形成した新規なシラン含有縮合環トリペプチド化合物を製造することも可能である。斯かる新規なシラン含有縮合環トリペプチド化合物(以下適宜「本発明の縮合環トリペプチド化合物」と称する。)及びその製造方法も、本発明の対象となる。
【0294】
・シラン含有縮合環トリペプチド化合物:
本発明の縮合環トリペプチド化合物は、下記式(B)で表される構造を有するシラン含有縮合環トリペプチド化合物である。
【0295】
【0296】
式(B)中、R11、R12、R13、R21、R22、Ra1、及びRa2は、各々独立に、前記式(A)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。その詳細は、前述したとおりである。
【0297】
式(B)中、Rx1及びRx2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表す。その詳細は、R11、R12、R13、R21、R22等について前述したものと同様である。
【0298】
式(B)中、PGxは、1価の保護基を表す。その例としては、制限されるものではないが、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基等が挙げられる。なお、置換基を有する場合、その種類については先に記載したとおりである。置換基の数の具体例は、例えば5、4、3、2、1、又は0である。
【0299】
式(B)の保護基PGxが脂肪族炭化水素基の場合、脂肪族炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は脂肪族炭化水素基の種類によっても異なるが、アルキル基の場合は1以上、アルケニル基やアルキニル基の場合は2以上、シクロアルキル基の場合には3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0300】
式(B)の保護基PGxが芳香族炭化水素基の場合、芳香族炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は芳香族炭化水素基の種類によっても異なるが、通常4以上、例えば5以上、又は6以上である。当該原子数の具体例は、例えば4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0301】
式(B)の保護基PGxの具体的な種類は制限されるものではないが、例えば以下が挙げられる。
【0302】
・メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、デシル基、ノニル基等のアルキル基;
・エテニル基、プロペニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、オクテニル基等のアルケニル基;
・プロパルギル基等のアルキニル基;
・シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、ビシクロオクチル基、スピロオクチル基等のシクロアルキル基;
・フェニル基、ベンジル基、トリル基、クミル基、1,1-ジフェニルエチル基、トリフェニルメチル基、フルオレニル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基及びアリールアルキル基;
・前記のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアリールアルキル基がそれぞれ1又は2以上のハロゲンで置換された基;
・フラニル基、チオフェニル基、ピラニル基、ピロリニル基、ピロリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピロリル基、ピぺリジニル基、ピペラジニル基、ホモピペラジニル基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、ヘキサヒドロピリミジル基、ヘキサヒドロピリダジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリダジル基、3,4-ジヒドロピリジル基、イミダゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、ピラゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、オキサゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、チアゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、カルバゾリル基等の複素環式基;
トリメチルシリル(TMS)基、トリエチルシリル(TES)基、トリイソプロピルシリル(TIPS)基、トリtert-ブチルシリル(TBS)基、tert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)基、トリス(トリアルキルシリル)シリル基等のケイ素系保護基;等。
【0303】
・シラン含有縮合環トリペプチド化合物の製造方法の概要:
本発明の縮合環トリペプチド化合物は、以下の工程を含む方法(以下適宜「本発明の縮合環トリペプチド化合物」と称する。)により製造することが出来る。
(iv)式(A)の縮合環ジペプチド化合物を用意する工程。
(v)式(A)の縮合環ジペプチド化合物と、下記式(Rx)で表されるアミノ酸エステルとを反応させる工程。
【0304】
・式(A)の縮合環ジペプチド化合物(基質化合物):
工程(iv)では、式(A)の縮合環ジペプチド化合物を用意する。その方法は特に制限されないが、前述した本発明の縮合環ジペプチド化合物の製造方法により製造することが好ましい。
【0305】
・式(Rx)のアミノ酸エステル(基質化合物):
工程(v)では、工程(iv)で用意した式(A)の縮合環ジペプチド化合物を、下記式(Rx)で表されるアミノ酸エステルと反応させる。
【0306】
【0307】
式(R1)中、Rx1、Rx2、及びPGxは、各々独立に、前記式(B)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。その詳細は、前述したとおりである。
【0308】
・第5のシラン化合物:
なお、工程(v)において、式(A)の縮合環ジペプチド化合物と、式(Rx)のアミノ酸エステルとを反応させるに際しては、任意により反応系に第5のシラン化合物を共存させることが好ましい。
【0309】
第5のシラン化合物を使用する場合、その種類は特に限定されるものではないが、1-(トリメチルシリル)イミダゾール(TMSIM)、トリメチルブロモシラン(TMBS)、トリメチルクロロシラン(TMCS)、トリス(ハロアルキル)シラン、N-(トリメチルシリル)ジメチルアミン(TMSDMA)、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(TMS-OTf)、ジメチルシリルイミダゾール、ジメチルシリル(2-メチル)イミダゾール、ジメチルエチルシリルイミダゾール(DMESI)、ジメチルイソプロピルシリルイミダゾール(DMIPSI)、1-(tert-ブチルジメチルシリル)イミダゾール(TBSIM)、1-(トリメチルシリル)トリアゾール、1-(tert-ブチルジメチルシリル)トリアゾール、N-メチル-Nトリメチルシリルトリフルオロアセタミド(MSTFA)、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセタミド(BSTFA)、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセタミド(BSA)、N-(tert-ブチルジメチルシリル)-N-メチルトリフルオロアセトアミド(MTBSTFA)、及びヘキサメチルジシラザン(HMDS)から選択される化合物であることが好ましい。なお、第5のシラン化合物として、2種以上のシラン化合物を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。
【0310】
・その他の成分:
工程(v)において、反応系内に他の成分を共存させてもよい。斯かる他の成分の例としては、制限されるものではないが、ルイス酸触媒、塩基、リン酸等が挙げられる。これらの詳細については前述したとおりである。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0311】
なお、反応効率を高める観点からは、溶媒中で反応を行ってもよい。溶媒としては、特に制限されないが、例えば水性溶媒や有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、制限されるものではないが、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、石油エーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1-メチルテトラヒドロフラン(1-MeTHF)、ジイソプロピルエーテル(i-Pr2O)、ジエチルエーテル(Et2O)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)等のエーテル類、アセトニトリル(MeCN)等の窒素系有機溶媒、ジクロロメタン(DCM)等の塩素系有機溶媒、酢酸エチル(AcOEt)等のエステル類、酢酸等の有機酸などが挙げられる。これらの溶媒は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0312】
・各成分の使用量比:
工程(v)における、式(A)の縮合環ジペプチド化合物と、式(Rx)のアミノ酸エステルとの使用量の比率は、反応が阻害されない限り特に制限されない。例えば、式(A)の縮合環ジペプチド化合物1モルに対して、式(Rx)のアミノ酸エステルを、例えば0.1モル以上、又は0.2モル以上、又は0.3モル以上、又は0.4モル以上、又は0.5モル以上、また、例えば20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は8モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下、又は2モル以下の範囲で用いることができる。なお、2種類以上の式(A)の縮合環ジペプチド化合物及び/又は2種類以上の式(Rx)のアミノ酸エステルを併用する場合には、各成分の合計量が前記範囲を満たすようにすればよい。
【0313】
工程(v)において第5のシラン化合物を使用する場合、その使用量は、反応の妨げとならない限り特に制限されないが、例えば、式(A)の縮合環ジペプチド化合物1モルに対して、第5のシラン化合物を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。なお、2種類以上の第5のシラン化合物を併用する場合には、2種類以上の第4のシラン化合物物の合計量が前記範囲を満たすようにすればよい。
【0314】
・反応条件:
工程(v)における反応条件は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例示すると以下のとおりである。
【0315】
工程(v)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、加熱条件下で実施することが好ましい。具体的には、例えば10℃以上、又は20℃以上、又は30℃以上、又は40℃以上、又は50℃以上とすることができる。上限は特に制限されないが、例えば120℃以下、又は110℃以下、又は100℃以下とすることができる。
【0316】
工程(v)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0317】
工程(v)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0318】
工程(v)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0319】
・後処理等(精製・回収等):
工程(v)の反応により得られた本発明の縮合環トリペプチド化合物に対して、更に種々の後処理を施してもよい。例えば、生成された本発明の縮合環トリペプチド化合物を、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の常法に従って単離・精製することができる。また、生成された本発明の縮合環ジペプチド化合物を直接、又は単離・精製後、後述する本発明のポリペプチドの製造方法に供し、ポリペプチドの製造に利用してもよい。
【0320】
[VII.本発明の縮合環トリペプチド化合物を用いたポリペプチドの製造方法]
本発明の縮合環トリペプチド化合物は、種々の反応に利用することが可能であるが、中でも、ポリペプチドの製造における利用が好適である。本発明の縮合環トリペプチド化合物を用いたポリペプチドの製造方法としては、二種類の態様が挙げられる(これらの態様を以下、適宜「本発明の第3のポリペプチドの製造方法」及び「本発明の第4のポリペプチドの製造方法」と略称する。)。但し、本発明の縮合環トリペプチド化合物を用いたポリペプチドの製造方法は、これら2つの態様に限定されるものではない。
【0321】
(1)第3のポリペプチドの製造方法:
・概要:
本発明の第3のポリペプチドの製造方法は、本発明の縮合環トリペプチド化合物を一分子用いて、テトラペプチド以上のポリペプチド化合物一分子を製造する方法であって、以下の工程(vi)を含む方法である。
(vi)前記式(B)で表されるシラン含有縮合環トリペプチド化合物を、下記式(Ra)で表される保護アミノ酸又は保護ペプチド化合物と反応させることにより、下記式(P3)で表されるポリペプチド化合物を得る工程。
【0322】
・シラン含有縮合環トリペプチド化合物(基質化合物):
本発明の第3のポリペプチドの製造方法では、基質化合物として、前記の式(B)で表されるシラン含有縮合環トリペプチド化合物(本発明の縮合環トリペプチド化合物)を使用する。その詳細は詳述したとおりである。
【0323】
・保護アミノ酸・ペプチド(基質化合物):
本発明の第3のポリペプチドの製造方法において基質化合物として使用される保護アミノ酸又は保護ペプチド化合物は、下記の式(Ra)で表される化合物である。
【0324】
【0325】
式(Ra)中、PGaは、アミノ基の保護基を表す。式(Ra)のPGaの詳細は、本発明の第1及び第2のペプチド製造方法における式(R3)及び式(R4)のPGaについて前述したとおりである。
【0326】
式(Ra)中、Ra1及びRa2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、アミノ基、一価の脂肪族炭化水素基、一価の芳香族炭化水素基、若しくは一価の複素環式基を表す。式(Ra)のRa1及びRa2の詳細は、式(R3)及び式(R4)のR31、R32、R41、及びR42について前述したとおりである。
【0327】
式(Ra)中、Ra3は、水素原子、カルボキシル基、水酸基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表す。ここで、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基の場合は、連結基を介して窒素原子に結合していてもよい。或いは、Ra1とRa3とが互いに結合して、Ra1が結合する炭素原子及びRa3が結合する窒素原子と共に、1又は2以上の置換基を有していてもよい複素環を形成していてもよい。式(Ra)のRa3の詳細は、式(R3)及び式(R4)のR33及びR43について前述したとおりである。
【0328】
式(Ra)中、Aa1及びAa2は、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい炭素数1~3の二価の脂肪族炭化水素基を表す。式(Ra)のAa1及びAa2の詳細は、式(R3)及び式(R4)のA31、A32、A41、及びA42について前述したとおりである。
【0329】
式(Ra)中、pa1及びpa2は、各々独立に、0又は1を表す。
【0330】
式(Ra)中、maは、1以上の整数であり、かつ、[ ]内の構造で表される構成単位の数を表す。但し、mが2以上である場合は、[ ]内の構造で表される複数の構成単位は各々同一でもよく、異なっていてもよい。式(Ra)のma及び[ ]内の構成単位の詳細は、式(R3)及び式(R4)のm及びn並びに[ ]内の構成単位について前述したとおりである。
【0331】
・塩基:
本発明の第3のペプチド製造方法でも、反応効率を高める観点から、塩基を系内に共存させてもよい。塩基の種類は制限されず、反応効率を向上させることが知られている公知の塩基を使用することができる。斯かる塩基の例としては、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)、トリエチルアミン(Et3N)、ジイソプロピルアミン(i-Pr2NH)、ジイソプロピルエチルアミン(i-Pr2EtN)等の、炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基を1~4個有するアミンや、フッ化セシウム等の無機塩基などが挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0332】
・縮合剤:
本発明の第3のペプチド製造方法でも、ペプチド形成反応の効率を高める観点から、縮合剤を系内に共存させてもよい。また、縮合剤を使用する場合、ラセミ化防止剤を併用してもよい。縮合剤及びラセミ化防止剤の詳細については、先の本発明の第1及び第2のペプチド製造方法の説明において詳述したとおりである。
【0333】
・その他の成分:
本発明の第3のペプチド製造方法でも、基質化合物である前述の式(B)の縮合環トリペプチド化合物、式(Ra)の保護アミノ酸又は保護ペプチド、並びに任意により用いられる塩基、縮合剤、及びラセミ化防止剤に加えて、他の成分を共存させてもよい。例としては、触媒、シラン化合物、リン化合物等が挙げられる。斯かる他の成分の詳細についても、先の本発明の第1及び第2のペプチド製造方法の説明において詳述したとおりである。
【0334】
なお、反応効率を高める観点からは、溶媒中で反応を行ってもよい。斯かる溶媒の詳細についても、先の本発明の第1及び第2のペプチド製造方法の説明において詳述したとおりである。
【0335】
・各成分の使用量比:
本発明の第3のペプチド製造方法において、各成分の使用量は限定されるものではないが、好ましくは以下の通りである。
【0336】
式(B)の縮合環トリペプチド化合物と式(Ra)の保護アミノ酸又は保護ペプチドとの量比は、特に制限されないが、式(B)の縮合環トリペプチド化合物1モルに対して、式(Ra)の保護アミノ酸又は保護ペプチドを、例えば0.1モル以上、又は0.2モル以上、又は0.3モル以上、又は0.4モル以上、又は0.5モル以上、また、例えば20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は8モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下、又は2モル以下の範囲で用いることができる。
【0337】
なお、当然ながら、製造対象となる本発明の式(P3)のポリペプチド化合物の目標製造量に対し、基質となる式(B)の縮合環トリペプチド化合物及び式(Ra)の保護アミノ酸又は保護ペプチドをそれぞれ1モル以上用いる必要がある。
【0338】
塩基を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、式(B)の縮合環トリペプチド化合物1モルに対して、塩基を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。なお、複数の工程において塩基を添加する場合には、各工程において上記範囲内の量の塩基を添加することが好ましい。
【0339】
縮合剤を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、式(B)の縮合環トリペプチド化合物1モルに対して、縮合剤を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。なお、複数の工程において縮合剤を添加する場合には、各工程において上記範囲内の量の縮合剤を添加することが好ましい。
【0340】
縮合剤に加えてラセミ化防止剤を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、式(B)の縮合環トリペプチド化合物1モルに対して、ラセミ化防止剤を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。なお、複数の工程においてラセミ化防止剤を添加する場合には、各工程において上記範囲内の量のラセミ化防止剤を添加することが好ましい。
【0341】
・反応条件:
本発明の第3のペプチド製造方法では、工程(vi)として、式(B)の縮合環トリペプチド化合物を、式(Ra)の保護アミノ酸又は保護ペプチド化合物と反応させる。その反応条件は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例示すると以下のとおりである。
【0342】
工程(vi)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0343】
工程(vi)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0344】
工程(vi)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0345】
工程(vi)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0346】
・ポリペプチド(目的化合物):
本発明の第3のポリペプチドの製造方法において最終的に製造される目的化合物たるポリペプチド化合物は、下記の式(P3)で表される化合物である。
【化34】
(P3)
【0347】
式(P3)中、PGa、Ra1、Ra2、Ra3、Aa1、Aa2、pa1、pa2、及びmaは、前記式(Ra)における同じ符号の基と同じ定義の基を表し、R11、R12、R13、R21、R22、Rx1、Rx2、及びPGxは、前記式(B)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。
【0348】
ここで、式(P3)の化合物は、ma+3をアミノ酸残基数とするポリペプチド化合物となる。即ち、例えば式(Ra)の化合物が保護アミノ酸である場合(即ち、maが1の場合)、製造される式(P3)の化合物はアミノ酸残基数1+3=4のポリペプチド化合物、即ちテトラペプチド化合物となる。また、例えば式(Ra)の化合物が保護ジペプチドである場合(即ち、maが2の場合)、製造される式(P3)の化合物はアミノ酸残基数2+3=5のポリペプチド化合物、即ちペンタペプチド化合物となる。また、例えば式(Ra)の化合物がトリペプチド以上の保護ポリペプチドである場合(即ち、maが3以上の場合)、製造される式(P3)の化合物はアミノ酸残基数アミノ酸残基数3+3=6以上のポリペプチド化合物、即ちヘキサペプチド以上のポリペプチド化合物となる。即ち、使用する式(Ra)の基質化合物のアミノ酸残基数(ma)によって、得られる式(P3)のポリペプチド化合物(ma+3)を調整することが可能となる。
【0349】
なお、上述の製造方法により得られた式(P3)のポリペプチド化合物に対して、更に種々の後処理を施してもよい。斯かる後処理としては、得られた式(P3)のポリペプチド化合物の単離・精製や、アミノ基の保護基PGa及び/又はカルボキシル基の保護基PGxの脱保護等が挙げられる。斯かる後処理についてはまとめて後述する。
【0350】
(2)第4のポリペプチドの製造方法:
・概要:
本発明の第4のポリペプチドの製造方法は、本発明の縮合環トリペプチド化合物を二分子用いて、ヘキサペプチド化合物一分子を製造する方法である。また、任意により、得られたヘキサペプチド化合物に対して更に保護アミノ酸又は保護ペプチド化合物を反応させることにより、ヘプタペプチド以上のポリペプチド化合物を製造することも可能となる。
【0351】
即ち、本発明の第4のポリペプチドの製造方法は、下記工程(vii)及び(viii)を少なくとも含む方法である。更に任意により、下記工程(ix)を含んでいてもよい。
(vii)下記式(B1)で表されるシラン含有縮合環トリペプチド化合物を塩基と混合する工程。
(viii)工程(vii)の混合物を、下記式(B2)で表されるシラン含有縮合環トリペプチド化合物と反応させることにより、下記式(P4)で表されるヘキサペプチド化合物を得る工程。
(ix)工程(viii)のヘキサペプチド化合物を、下記式(Ra)で表される保護アミノ酸又は保護ペプチド化合物と反応させることにより、下記式(P5)で表されるヘプタペプチド以上のポリペプチド化合物を製造する工程。
【0352】
以下、まずは工程(vii)及び(viii)による式(P4)のヘキサペプチド化合物の合成手順を説明した上で、任意の工程(ix)による式(P5)のヘプタペプチド以上のポリペプチド化合物の合成手順を説明する。
【0353】
・シラン含有縮合環トリペプチド化合物(基質化合物):
本発明の第4のポリペプチドの製造方法において基質化合物として使用されるシラン含有縮合環トリペプチド化合物は、前記の式(B)で表されるシラン含有縮合環トリペプチド化合物(本発明の縮合環トリペプチド化合物)と同様の化合物であるが、一分子のポリペプチドの合成に際し二分子のシラン含有縮合環トリペプチド化合物を使用する点で、前述した本発明の第3のポリペプチドの製造方法とは異なる。ここで、これら二分子のシラン含有縮合環トリペプチド化合物を区別するために、求核種側の化合物を下記の式(B1)で、求電子種側の化合物を下記の式(B2)で表すものとする。
【0354】
【0355】
式(B1)中、R111、R112、R113、R211、R212、Ra11、Ra12、Rx11、及びRx12はそれぞれ、前記式(B)におけるR11、R12、R13、R21、R22、Ra1、Ra2、Rx1、及びRx2と同じ定義の基を表す。
【0356】
式(B1)中、PGx1は、前記式(B)におけるPGxと同じく、カルボキシル基の保護基を表す。その詳細は前述したとおりである。但し、求核種側の化合物である式(B1)のカルボキシル保護基PGxとしては、制限されるものではないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、デシル基、ノニル基等のアルキル基;前記アルキル基が1又は2以上のハロゲンで置換されたハロアリール基及びハロアリールアルキル基が挙げられる。
【0357】
【0358】
式(B2)中、R121、R122、R123、R221、R222、Ra21、Ra22、Rx21、及びRx22はそれぞれ、前記式(B)におけるR11、R12、R13、R21、R22、Ra1、Ra2、Rx1、及びRx2と同じ定義の基を表す。
【0359】
式(B2)中、Rx23は、-O-PGx、-NH-PGx、又は-S-PGxを表す。ここでPGxは、前記式(B)におけるPGxと同じ定義の一価の保護基を表す。PGxについては前述したとおりである。中でも、求電子種である式(B2)の保護基PGxとしては、プロパルギル基等のアルキニル基;フェニル基、ベンジル基、トリル基、クミル基、1,1-ジフェニルエチル基、トリフェニルメチル基、フルオレニル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基及びアリールアルキル基;前記アリール基及びアリールアルキル基が1又は2以上のハロゲン基で置換された、ペンタフルオロフェニル基等のハロアリール基及びハロアリールアルキル基;トリメチルシリル(TMS)基、トリエチルシリル(TES)基、トリイソプロピルシリル(TIPS)基、トリtert-ブチルシリル(TBS)基、tert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)基、トリス(トリアルキルシリル)シリル基等のケイ素系保護基;等が好ましい。
【0360】
・塩基:
本発明の第4のペプチド製造方法では、工程(vii)において塩基を使用する。塩基の種類は制限されず、反応効率を向上させることが知られている公知の塩基を使用することができる。斯かる塩基の例としては、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)、トリエチルアミン(Et3N)、ジイソプロピルアミン(i-Pr2NH)、ジイソプロピルエチルアミン(i-Pr2EtN)等の、炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基を1~4個有するアミンや、フッ化セシウム等の無機塩基などが挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0361】
・縮合剤:
本発明の第4のペプチド製造方法でも、ペプチド形成反応の効率を高める観点から、縮合剤を系内に共存させてもよい。また、縮合剤を使用する場合、ラセミ化防止剤を併用してもよい。縮合剤及びラセミ化防止剤の詳細については、先の本発明の第1~3のペプチド製造方法の説明において詳述したとおりである。
【0362】
・その他の成分:
本発明の第4のペプチド製造方法でも、基質化合物である前述の式(B1)及び(B2)の縮合環トリペプチド化合物、及び塩基、更には任意により用いられる縮合剤、及びラセミ化防止剤に加えて、他の成分を共存させてもよい。例としては、触媒、シラン化合物、リン化合物等が挙げられる。斯かる他の成分の詳細についても、先の本発明の第1~3のペプチド製造方法の説明において詳述したとおりである。
【0363】
なお、反応効率を高める観点からは、溶媒中で反応を行ってもよい。斯かる溶媒の詳細についても、先の本発明の第1~3のペプチド製造方法の説明において詳述したとおりである。
【0364】
・反応手順:
本発明の第4のペプチド製造方法では、工程(vii)において、求核種側の基質化合物である式(B1)の縮合環トリペプチド化合物を塩基と混合する。次いで、工程(viii)において、工程(vii)の混合物を、求電子種側の基質化合物である式(B2)の縮合環トリペプチド化合物と混合する。これにより、式(B1)の縮合環トリペプチド化合物が開環して求核種として機能する一方、式(B2)の縮合環トリペプチド化合物が開環して求電子種として機能し、アミド結合を形成することにより、式(P4)のヘキサペプチド化合物が得られることになる。
【0365】
なお、任意により用いられる縮合剤等のその他の成分を反応系に添加するタイミングは特に制限されず、何れも任意のタイミングで加えればよい。但し、縮合剤及び/又は塩基を使用する場合は、工程(vii)及び/又は工程(viii)の開始時に系内に添加することが好ましい。また、縮合剤に加えてラセミ化防止剤を使用する場合には、縮合剤と一緒に系内に添加することが好ましい。また、溶媒を用いて反応を行う場合には、溶媒中で各成分を混合し、相互に接触させればよい。
【0366】
・各成分の使用量比:
本発明の第4のペプチド製造方法において、各成分の使用量は限定されるものではないが、好ましくは以下の通りである。
【0367】
式(B1)の縮合環トリペプチド化合物と式(B2)の縮合環トリペプチド化合物との量比は、特に制限されないが、式(B1)の縮合環トリペプチド化合物1モルに対して、式(B2)の縮合環トリペプチド化合物を、例えば0.05モル以上、又は0.1モル以上、又は0.2モル以上、又は0.3モル以上、又は0.4モル以上、又は0.5モル以上、また、例えば20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は8モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下、又は2モル以下の範囲で用いることができる。
【0368】
塩基の使用量は特に制限されないが、式(B1)の縮合環トリペプチド化合物1モルに対して、塩基を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。なお、複数の工程において塩基を添加する場合には、各工程において上記範囲内の量の塩基を添加することが好ましい。
【0369】
縮合剤を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、式(B1)の縮合環トリペプチド化合物1モルに対して、縮合剤を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。なお、複数の工程において縮合剤を添加する場合には、各工程において上記範囲内の量の縮合剤を添加することが好ましい。
【0370】
縮合剤に加えてラセミ化防止剤を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、式(B1)の縮合環トリペプチド化合物1モルに対して、ラセミ化防止剤を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。なお、複数の工程においてラセミ化防止剤を添加する場合には、各工程において上記範囲内の量のラセミ化防止剤を添加することが好ましい。
【0371】
・反応条件:
本発明の第4のペプチド製造方法における反応条件は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応手順毎に例示すると以下のとおりである。
【0372】
まず、工程(vii)として、式(B1)の縮合環トリペプチド化合物と塩基を混合する際の反応条件は、反応が進行する限り制限されないが、例えば以下の通りである。
【0373】
工程(vii)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0374】
工程(vii)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0375】
工程(vii)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0376】
工程(vii)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0377】
次に、工程(viii)として、工程(vii)の混合物に式(B2)の縮合環トリペプチド化合物を加えて反応させる際の反応条件も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば以下の通りである。
【0378】
工程(viii)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0379】
工程(viii)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0380】
工程(viii)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0381】
工程(viii)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0382】
なお、工程(vii)及び工程(viii)は各々、逐次法(バッチ法)にて実施してもよく、連続法(フロー法)にて実施してもよい。具体的な逐次法(バッチ法)及び連続法(フロー法)の実施手順の詳細は、本技術分野では公知である。また、工程(vii)及び工程(viii)を、それぞれ連続してワンポッドで行ってもよい。
【0383】
・ヘキサペプチド(目的化合物):
本発明の第4のポリペプチドの製造方法において、工程(viii)の実施後に製造される目的化合物たるヘキサペプチド化合物は、下記の式(P4)で表される化合物である。
【0384】
【0385】
式(P4)中、R111、R112、R113、R211、R212、Rx11、Rx12、及びPGx1は、前記式(B1)における同じ符号の基と同じ定義の基を表し、R121、R122、R123、R221、R222、Rx21、及びRx22は、前記式(B2)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。
【0386】
なお、上述の製造方法により得られた式(P4)のヘキサペプチド化合物に対して、更に種々の後処理を施してもよい。斯かる後処理としては、得られた式(P4)のヘキサペプチド化合物の単離・精製や、カルボキシル基の保護基PGx1の脱保護等が挙げられる。斯かる後処理についてはまとめて後述する。
【0387】
(3)第4のポリペプチドの製造方法の変形例:
・概要:
本発明の第4のポリペプチドの製造方法では、工程(vii)及び(viii)により製造されたヘキサペプチド化合物に対して、更に工程(ix)として、保護アミノ酸又は保護ペプチド化合物を反応させてもよい(この態様を以下適宜「本発明の第4のポリペプチドの製造方法の変形例」とする。)。これにより、ヘプタペプチド以上のポリペプチド化合物を製造することも可能となる。
【0388】
・保護アミノ酸・ペプチド(基質化合物):
本発明の第4のポリペプチドの製造方法の変形例では、工程(ix)として、工程(viii)で得られた式(P4)のヘキサペプチド化合物に対し、下記式(Ra)で表される保護アミノ酸又は保護ペプチド化合物を混合する。
【0389】
【0390】
式(Ra)の保護アミノ酸又は保護ペプチド化合物の詳細は、本発明の第3のペプチド製造方法について前述したとおりである。
【0391】
式(Ra)の保護アミノ酸又は保護ペプチド化合物の使用量は特に制限されないが、式(B1)の縮合環トリペプチド化合物1モルに対して、塩基を例えば0.2モル以上、又は0.4モル以上、又は0.6モル以上、又は0.8モル以上、又は1.0モル以上、また、例えば40モル以下、又は30モル以下、又は20モル以下、又は15モル以下、又は10モル以下、又は6モル以下、又は4モル以下の範囲で用いることができる。なお、複数の工程において塩基を添加する場合には、各工程において上記範囲内の量の塩基を添加することが好ましい。
【0392】
・反応条件:
本発明の第4のペプチド製造方法の変形例において、工程(ix)を実施してヘプタペプチド以上のポリペプチド化合物を合成する場合、工程(ix)における反応条件は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例示すると以下のとおりである。
【0393】
工程(ix)の反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0394】
工程(ix)の反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0395】
工程(ix)の反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0396】
工程(ix)の反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。
【0397】
なお、工程(vii)及び(viii)の後に工程(ix)を実施する場合、工程(vii)及び(viii)と工程(ix)とは各々、逐次法(バッチ法)にて実施してもよく、連続法(フロー法)にて実施してもよい。具体的な逐次法(バッチ法)及び連続法(フロー法)の実施手順の詳細は、本技術分野では公知である。また、工程(vii)及び(viii)と工程(ix)とを、それぞれ連続してワンポッドで行ってもよい。
【0398】
・ポリペプチド(目的化合物):
本発明の第4のポリペプチドの製造方法の変形例において、工程(ix)の実施後に製造される目的化合物たるヘプタペプチド以上のポリペプチド化合物は、下記の式(P5)で表される化合物である。
【0399】
【0400】
式(P5)中、
PGa、Ra1、Ra2、Ra3、Aa1、Aa2、pa1、pa2、及びmaは、前記式(Ra)における同じ符号の基と同じ定義の基を表し、R111、R112、R113、R211、R212、Rx11、Rx12、PGx1、R121、R122、R123、R221、R222、Rx21、及びRx22は、前記式(P4)における同じ符号の基と同じ定義の基を表す。また、式(P5)中上段の構造の右端及び下段の構造の左端における丸囲み記号Aは、上段の構造と下段の構造がこの位置で連続していることを意味する。
【0401】
ここで、式(P5)の化合物は、ma+6をアミノ酸残基数とするポリペプチド化合物となる。即ち、例えば式(Ra)の化合物が保護アミノ酸である場合(即ち、maが1の場合)、製造される式(P5)の化合物はアミノ酸残基数1+6=7のポリペプチド化合物、即ちヘプタペプチド化合物となる。また、例えば式(Ra)の化合物が保護ジペプチドである場合(即ち、maが2の場合)、製造される式(P5)の化合物はアミノ酸残基数2+6=8のポリペプチド化合物、即ちオクタペプチド化合物となる。また、例えば式(Ra)の化合物がトリペプチド以上の保護ポリペプチドである場合(即ち、maが3以上の場合)、製造される式(P5)の化合物はアミノ酸残基数アミノ酸残基数3+6=9以上のポリペプチド化合物、即ちノナペプチド以上のポリペプチド化合物となる。即ち、使用する式(Ra)の基質化合物のアミノ酸残基数(ma)によって、得られる式(P5)のポリペプチド化合物(ma+6)を調整することが可能となる。
【0402】
なお、上述の製造方法により得られた式(P5)のポリペプチド化合物に対して、更に種々の後処理を施してもよい。斯かる後処理としては、得られた式(P5)のポリペプチド化合物の単離・精製や、アミノ基の保護基PGa及び/又はカルボキシル基の保護基PGbの脱保護等が挙げられる。斯かる後処理についてはまとめて後述する。
【0403】
(3)その他:
上述の製造方法により得られた式(P1)~(P5)のポリペプチド化合物に対して、更に種々の後処理を施してもよい。
【0404】
例えば、上述の製造方法により得られた式(P1)~(P5)のポリペプチド化合物を、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の常法に従って単離・精製することができる。
【0405】
また、上述の製造方法により得られた式(P1)~(P5)のポリペプチド化合物において、保護基PGaにより保護されたアミノ基の脱保護を行うこともできる。保護アミノ基を脱保護する方法は特に制限されず、保護基PGaの種類に応じて様々な方法を用いることができる。例としては、水素化による脱保護、弱酸による脱保護、フッ素イオンによる脱保護、一電子酸化剤による脱保護、ヒドラジンによる脱保護、酸素による脱保護などが挙げられる。水素化による脱保護の場合、(a)水素ガスの存在下に、還元触媒として、パラジウム、パラジウム-炭素、水酸化パラジウム、水酸化パラジウム-炭素等のなどの金属触媒を用いて還元して脱保護する方法、(b)パラジウム、パラジウム-炭素、水酸化パラジウム、水酸化パラジウム-炭素等のなどの金属触媒の存在下、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素リチウム、ジボラン等の水素化還元剤を用いて還元して脱保護する方法等が挙げられる。
【0406】
また、上述の製造方法により得られた式(P1)~(P5)のポリペプチド化合物において、保護基PGbにより保護されたカルボキシル基の脱保護を行うこともできる。保護カルボキシル基を脱保護する方法は特に制限されず、保護基PGbの種類に応じて様々な方法を用いることができる。例としては、水素化による脱保護、塩基による脱保護、弱酸による脱保護などが挙げられる。塩基による脱保護の場合、塩基として、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強塩基を用いて脱保護する方法等が挙げられる。
【0407】
また、上述の製造方法により得られた式(P1)~(P5)のポリペプチド化合物を(必要に応じて脱保護した上で)、前記の式(R3)若しくは式(Ra)の保護ペプチド及び/又は式(R4)のペプチドエステルとして用い、再び本発明の第1~第4のペプチド製造方法に供してもよい。或いは、上述の製造方法により得られた式(P1)~(P5)のポリペプチド化合物を(必要に応じて脱保護した上で)、従来公知の他のアミド化方法又はペプチド製造方法に供してもよい。こうして、式(P1)~(P5)のポリペプチド化合物に他のアミノ酸又はペプチドをアミド結合により連結し、アミノ酸残基を伸長して、より大型のポリペプチドを合成することができる。こうした手順を逐次繰り返すことにより、原理的には任意のアミノ酸残基数及びアミノ酸配列のポリペプチドを合成することが可能となる。
【0408】
なお、本発明者等はアミノ酸又はペプチドを連結するためのアミド化反応やそれによるポリペプチドの製造方法に関し、以下の先行特許出願を行っているところ、本発明の種々のポリペプチドの製造方法を、これらの先行特許出願に記載のアミド化反応やポリペプチドの製造方法と適宜組み合わせて実施し、及び/又は、これらの先行特許出願に記載のアミド化反応やポリペプチドの製造方法の条件を考慮して適宜改変することも可能である。なお、これらの先行特許出願の記載は、その全体が援用により本明細書に組み込まれる。
(1)国際公開第2017/204144号(前記の特許文献1)
(2)国際公開第2018/199146号(前記の特許文献2)
(3)国際公開第2018/199147号(前記の特許文献3)
(4)国際公開第2019/208731号(前記の特許文献4)
(5)国際公開第2021/085635号(前記の特許文献5)
(6)国際公開第2021/085636号(前記の特許文献6)
(7)国際公開第2021/149814号(前記の特許文献7)
(8)国際公開第2022/190486号(前記の特許文献8)
【実施例】
【0409】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に述べるアミノ酸のうち、光学異性を有するものについては、別途明記するものを除き、L体を指すものとする。
【0410】
[実施例1:シラン含有縮合環ジペプチド化合物の合成]
(一般的合成手順)
【化40】
【0411】
5mLのバイヤル瓶に、無保護の第1のアミノ酸(0.25mmol)、ジメチルシリルジイミダゾール(第1のシラン化合物;2当量;96mg)、N-(tert-ブチルジメチルシリル)-N-メチルトリフルオロアセトアミド(MTBSTFA)(第3のシラン化合物;1当量;58μL)、及びジクロロメタン(0.1mL)を入れ、室温で一時間攪拌した。一方、20mLの試験管に、無保護の第2のアミノ酸(0.5mmol)及びN,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA)(第2のシラン化合物;3当量;200μL)を入れ、室温で一時間攪拌した。各反応後、前記バイヤル瓶内の反応物を前記試験管内に添加し、前記バイヤル瓶の内表面をジクロロメタン(0.2mL)で洗い込んで前記試験管内に移した。その後、当該試験管にトリメチルシリルイミダゾール(第4のシラン化合物;2当量;73.2μL)を添加して、50℃で24時間攪拌することにより、所望のシラン含有縮合環ジペプチド化合物を得た。
【0412】
【0413】
[実施例2:シラン含有縮合環トリペプチド化合物の合成]
(一般的合成手順)
【化41】
【0414】
20mL試験管に、実施例1に記載の手段で合成した下記表に示す式(A)のシラン含有縮合環ジペプチド化合物(1当量;0.25mmol)と、式(Rx)のアミノ酸エステル(3当量)及びトリメチルシリルイミダゾール(TMS-IM)(第5のシラン化合物;1当量)を入れ、90℃で24時間攪拌して加熱することにより、下記表に示す式(B)のシラン含有縮合環トリペプチド化合物を得た。
【0415】
(結果)
結果を以下の表に示す。
【表4-1】
【表4-2】
【0416】
[実施例3:テトラペプチド化合物の合成]
(一般的合成手順)
【化42】
【0417】
20mL試験管に、実施例2に記載の手段で合成した下記表に示す式(B)のシラン含有縮合環ジペプチド化合物(1当量;0.25mmol)と、下記表に示す式(Ra)の保護アミノ酸(2当量)、1Mテトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF;塩基;1.5当量)のテトラヒドロフラン(THF)溶液、及びジクロロメタン(DCM;1.5mL)を入れ、室温で12時間攪拌することにより、下記表に示す所望の式(P3)のテトラペプチド化合物を得た。
【0418】
【0419】
[実施例4:ヘキサペプチド化合物の合成]
【化43】
【0420】
20mL試験管に、実施例2に記載の手段で合成した、上記反応式に示すシラン含有縮合環ジペプチド化合物(式(B1)においてPGx1がMeの化合物:1当量)と、1Mテトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF;塩基;1当量)のテトラヒドロフラン(THF)溶液、及びジクロロメタン(DCM;1.5mL)を入れ、50℃で24時間攪拌した。その後、実施例2に記載の手段で合成した、上記反応式に示すシラン含有縮合環ジペプチド化合物(式(B2)においてPGx2がBnの化合物:1当量)を入れ、50℃で24時間攪拌することにより、上記反応式に示すヘキサペプチド化合物を得た(収率21%)。
【0421】
[実施例5:ヘプタペプチド化合物の合成]
【化44】
【0422】
20mL試験管に、実施例2に記載の手段で合成した、上記反応式に示すシラン含有縮合環ジペプチド化合物(式(B1)においてPGx1がMeの化合物:1当量)と、1Mテトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF;塩基;1当量)のテトラヒドロフラン(THF)溶液、及びジクロロメタン(DCM;1.5mL)を入れ、50℃で24時間攪拌した。その後、実施例2に記載の手段で合成した、上記反応式に示すシラン含有縮合環ジペプチド化合物(式(B2)においてPGx2がBnの化合物:1当量)を入れ、50℃で24時間攪拌することにより、上記反応式に示すヘキサペプチド化合物を得た。更に、Fmoc-Ala-Cl(N末端Fmoc保護アラニンクロリド;2当量)を加えて、室温で24時間攪拌することにより、上記反応式に示すヘプタペプチド化合物を得た(収率11%)。