(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】シャシ構造およびポート間アイソレーション抑制方法
(51)【国際特許分類】
H01P 1/04 20060101AFI20240610BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
H01P1/04
H05K9/00 C
(21)【出願番号】P 2020134123
(22)【出願日】2020-08-06
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】勝本 達也
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-336299(JP,A)
【文献】特開2016-072411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/04
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入出力用の複数のポートが設けられるとともに基板の下側を覆うベースと、
前記基板の上側を覆うとともに前記複数のポートのそれぞれに対応する複数の中空部を備えるケースと、を有し、
前記ケースの前記中空部どうしの間に、長さが、コの字導波路内波長λgとの関係において、λg/4またはλg/4×3N(但し、Nは自然数)であるチョークが形成される、
ことを特徴とするシャシ構造。
【請求項2】
前記チョークが、平面視において屈曲した形状に形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載のシャシ構造。
【請求項3】
前記チョークが、前記ケースの前記中空部どうしの間に、複数形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載のシャシ構造。
【請求項4】
入出力用の複数のポートが設けられるとともに基板の下側を覆うベースと組み合わされて前記基板の上側を覆い且つ前記複数のポートのそれぞれに対応する複数の中空部を備えるケースの前記中空部どうしの間に、長さが、コの字導波路内波長λgとの関係において、λg/4またはλg/4×3N(但し、Nは自然数)であるチョークを形成する、
ことを特徴とするポート間アイソレーション抑制方法。
【請求項5】
前記チョークを、平面視において屈曲した形状に形成する、
ことを特徴とする請求項4に記載のポート間アイソレーション抑制方法。
【請求項6】
前記チョークを、前記ケースの前記中空部どうしの間に、複数形成する、
ことを特徴とする請求項4に記載のポート間アイソレーション抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シャシ構造およびポート間アイソレーション抑制方法に関し、具体的には例えば通信やレーダ用の送受信ユニットなどに用いられる高周波回路のシャシに纏わる構造に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波回路において回路を電気的に遮蔽するため、基板をシャシにて覆う構造が広く使用されている。通信システムなどに用いられるマイクロ波帯の高周波モジュールのシールド構造に関する技術として、シャシ内部のキャビティを小さくすることによって導波管のカットオフ周波数を低くすることで不要な信号を防ぐ高周波モジュールが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば通信用の送受信ユニットとして無線周波数モジュールを構成する際に基板全体を覆うには、
図21に示すように、基板101の上部および下部を、シャシを構成する各々別体のケース102およびベース103を組み合わせて用いて覆う必要があり、その際にシャシとしてのケース102とベース103との間に隙間105が生じる。この場合、ベース103の一方の端部に並んで取り付けられている2つのコネクタ104Aおよびコネクタ104Bへと隙間105を介してTEモード(Transverse Electric mode)で信号が伝搬し、一方のコネクタ104Aへと信号(所望波)が入り込むとともに他方のコネクタ104Bへも信号(不要波)が漏れ込んで信号が結合することでコネクタ間(別言すると、ポート間)のアイソレーションが悪化する、という問題がある。なお、
図21は、あくまでも従来の高周波回路、特に無線周波数モジュールの問題を説明するための概略構成図であり、各部の詳細構造や相互の寸法関係を厳密に表すものではない。
【0005】
そこで本発明は、例えば通信用の送受信ユニットにおいて使用される周波数帯における不要な信号を抑圧することが可能な、シャシ構造およびポート間アイソレーション抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、入出力用の複数のポートが設けられるとともに基板の下側を覆うベースと、前記基板の上側を覆うとともに前記複数のポートのそれぞれに対応する複数の中空部を備えるケースと、を有し、前記ケースの前記中空部どうしの間に、長さが、コの字導波路内波長λgとの関係において、λg/4またはλg/4×3N(但し、Nは自然数)であるチョークが形成される、ことを特徴とするシャシ構造である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシャシ構造において、前記チョークが、平面視において屈曲した形状に形成される、ことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のシャシ構造において、前記チョークが、前記ケースの前記中空部どうしの間に、複数形成される、ことを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に記載の発明は、入出力用の複数のポートが設けられるとともに基板の下側を覆うベースと組み合わされて前記基板の上側を覆い且つ前記複数のポートのそれぞれに対応する複数の中空部を備えるケースの前記中空部どうしの間に、長さが、コの字導波路内波長λgとの関係において、λg/4またはλg/4×3N(但し、Nは自然数)であるチョークを形成する、ことを特徴とするポート間アイソレーション抑制方法である。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のポート間アイソレーション抑制方法において、前記チョークを、平面視において屈曲した形状に形成する、ことを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項4に記載のポート間アイソレーション抑制方法において、前記チョークを、前記ケースの前記中空部どうしの間に、複数形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明や請求項4に記載の発明によれば、基板の上側を覆うケースにチョークが形成されることにより、入力ポートと出力ポートとの間での信号のリークを抑えることができ、ポート間アイソレーションを改善することが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明や請求項5に記載の発明によれば、例えば通信用の送受信ユニットにおいて使用される周波数帯における不要な信号を抑圧するために前記周波数帯に合わせてチョークの長さが設定された場合に、ケースの寸法などの関係でチョークを前記長さを有する直線状には形成することができない場合に、チョークを鉤状にすることによって前記長さが鉤状の全長として確保されるようにすることができ、ケースの寸法などの制約を緩和することが可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明や請求項6に記載の発明によれば、例えば通信用の送受信ユニットにおいて使用される周波数帯が複数想定される場合に、複数の周波数帯のそれぞれに合わせて調節された長さを備える複数のチョークがケースに形成されることにより、前記複数の周波数帯のそれぞれにおいて不要な信号を抑圧することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の実施の形態に係るシャシ構造の概略構成を示す図である。(A)は側面図である(B)は平面図である。
【
図2】伝送モードを解析するための計算モデルを示す図である。
【
図3】
図2の計算モデルを用いた解析によって得られるSパラメータの計算結果を示す図である。
【
図4】
図2の計算モデルを用いた解析によって得られる電磁界分布の計算結果を示す図である。(A)は電界分布を示す図である。(B)は磁界分布を示す図である。
【
図5】
図2の計算モデルについてマクスウェルの方程式を解く際の境界条件を説明する図である。
【
図6】
図5の境界条件のもとでマクスウェルの方程式を解くことによって導出されるケース模擬部およびベース模擬部の長さとカットオフ周波数との間の関係を示すグラフである。
【
図7】
図5の境界条件のもとでマクスウェルの方程式を解くことによって導出される周波数と自由空間波長およびコの字導波路内波長との間の関係を示すグラフである。
【
図8】チョークの作用の解析によって得られるSパラメータの計算結果を示す図である。
【
図9】チョークが形成される場合の電界を説明する模式図である。(A)は入射波の電界を説明する模式図である。(B)は反射波の電界を説明する模式図である。
【
図10】チョークの長さを変化させる解析によって得られるSパラメータの計算結果を示す図である。(A)はS
21の計算結果を示す図である。(B)はS
11の計算結果を示す図である。
【
図11】チョークの幅を変化させる解析によって得られるSパラメータの計算結果を示す図である。(A)はS
21の計算結果を示す図である。(B)はS
11の計算結果を示す図である。
【
図12】チョークが屈曲した形状(鉤状)に形成される場合のシャシ構造の概略構成を示す平面図である。
【
図13】
図12の場合にチョークの屈曲した部分の長さを変化させる解析によって得られるSパラメータの計算結果を示す図である。(A)はS
21の計算結果を示す図である。(B)はS
11の計算結果を示す図である。
【
図14】チョークが2本形成される場合のシャシ構造の概略構成を示す平面図である。
【
図15】
図14の場合に2本のチョークの間の寸法を変化させる解析によって得られるSパラメータの計算結果を示す図である。(A)はS
21の計算結果を示す図である。(B)はS
11の計算結果を示す図である。
【
図16】
図14の場合に2本のチョークの間におけるケースとベースとの間の寸法を変化させる解析によって得られるSパラメータのS
21の計算結果を示す図である。
【
図17】チョークが複数箇所で折れ曲がる形状に形成される場合のシャシ構造の概略構成を示す平面図である。
【
図18】チョークの効果を解析するための計算モデルを示す図である。(A)はチョークが無い場合の計算モデルを示す図である。(B)はチョークが形成される場合の計算モデルを示す図である。(C)はケースを透過させた状態の計算モデルを示す図である。
【
図19】
図18の計算モデルを用いた解析によって得られるSパラメータの計算結果を示す図である。(A)は
図18(A)の計算モデルの計算結果を示す図である。(B)は
図18(B)の計算モデルの計算結果を示す図である。
【
図20】
図18の計算モデルを用いた解析によって得られる電界分布を示す図である。(A)は
図18(A)の計算モデルの電界分布を示す図である。(B)は
図18(B)の計算モデルの電界分布を示す図である。
【
図21】従来の高周波回路の概略構成を示す図である。(A)は側面図である(B)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。なお、シャシに纏わる構造や計算モデルを示す各図は、あくまでもこの発明に係るシャシ構造に纏わる構成を説明するための概略構成図であり、各部の詳細構造や相互の寸法関係を厳密に表すものではない。
【0017】
図1は、この発明の実施の形態に係るシャシ構造の概略構成を示す図である。このシャシ構造は、例えば通信用の送受信ユニットにおいて使用される周波数帯における不要な信号を抑圧するための仕掛けであり、この実施の形態では、この発明に係るシャシ構造が通信用の送受信ユニットとしての無線周波数モジュール(具体的には、高周波回路として構成される)のシャシに適用される場合を例に挙げて説明する。この実施の形態に係る無線周波数モジュールは、基板1と、シャシを構成するケース2およびベース3と、2つのコネクタ4A,4Bと、を有する。
【0018】
そして、この実施の形態に係るシャシ構造は、入出力用の複数のポート(具体的には、コネクタ4A,コネクタ4B)が設けられるとともに基板1の下側を覆うベース3と、基板1の上側を覆うとともに複数のポートのそれぞれに対応する複数の中空部21を備えるケース2と、を有し、ケース2の中空部21どうしの間に、長さが、コの字導波路内波長λgとの関係において、λg/4またはλg/4×3N(但し、Nは自然数)であるチョーク6が形成される、ようにしている。
【0019】
また、上記のシャシ構造によって実現される、この実施の形態に係るポート間アイソレーション抑制方法は、入出力用の複数のポート(具体的には、コネクタ4A,コネクタ4B)が設けられるとともに基板1の下側を覆うベース3と組み合わされて基板1の上側を覆い且つ複数のポートのそれぞれに対応する複数の中空部21を備えるケース2の中空部21どうしの間に、長さが、コの字導波路内波長λgとの関係において、λg/4またはλg/4×3N(但し、Nは自然数)であるチョーク6を形成する、ようにしている。
【0020】
基板1はプリント回路板(PCB:Printed Circuit Board の略)である。
【0021】
基板1を覆うシャシは、各々別体のものとして形成されて組み合わされて用いられるケース2とベース3とを有する。ケース2およびベース3の材質は、導体であれば特定の素材に限定されるものではなく、例えばアルミニウムなどの金属が用いられ、また、表面が導体でコーティングされた樹脂素材が用いられ得る。
【0022】
ケース2は、下端面開口の、すなわち基板1に向けて開口する、中空部21(別言すると、凹部)を備える。ケース2は、中空部21を囲む肉厚の部材として形成され、ケース2によって基板1の上側が覆われる。
【0023】
中空部21は、複数のポートのそれぞれに対応して備えられ、図に示す例では具体的には、コネクタ4Aに対応する中空部21とコネクタ4Bに対応する中空部21とがそれぞれ備えられる。
【0024】
ベース3は、上面に基板1が据え付けられる底板部31と、底板部31から上向きに延出してコネクタ4Aおよびコネクタ4Bが固定される壁部32と、を有する。ベース3によって基板1の下側が覆われる。
【0025】
コネクタ4Aおよびコネクタ4Bは、小型高周波同軸コネクタ(尚、「SMA(Sub Miniature type A の略)コネクタ」とも呼ばれる)である。コネクタ4Aおよびコネクタ4Bは、ベース3の壁部32に、該壁部32を貫通して取り付けられて固定される。また、コネクタ4Aおよびコネクタ4Bと基板1上に形成されている伝送線路配線(図示していない)とが、コネクタ4Aおよびコネクタ4Bそれぞれの内部導体41を介して接続される。内部導体41は、ケース2の中空部21と連通する連通部22を通り抜けて、中空部21内において、基板1上に形成されている伝送線路配線と接続する。
【0026】
ケース2に、チョーク6が形成される。
図1に示す例では、チョーク6は、平面視において、コネクタ4Aに対応する中空部21とコネクタ4Bに対応する中空部21との間に、2つのコネクタ4Aとコネクタ4Bとが並ぶ方向(即ち、隙間5の長手方向)に対して垂直な、ケース2の高さ方向寸法全体(言い換えると、ケース2の上面と下面との間の全体)におよぶ切込みとして形成される。チョーク6は、また、側方の一端が、隙間5に面するように、言い換えると、隙間5に対して開放されるように、形成される。
【0027】
チョーク6の長さLは、コの字導波路内波長λg(下記の「伝送モードの解析」および「チョークの作用の解析」参照)との関係において、λg/4またはλg/4×3N(但し、Nは自然数)になるように調節される。
【0028】
(伝送モードの解析)
シャシを構成する各々別体のケース2とベース3とについて、成形精度などに起因して、基板1を覆うように組み合わされた状態でケース2とベース3の壁部32との間に隙間5が生じる。
【0029】
隙間5について、伝送特性および電磁界分布を計算する。ここでは、実施の形態に係るシャシを構成するケース2とベース3の壁部32との間の隙間5を模擬する計算モデル7(
図2参照)を用いて伝送特性および電磁界分布を計算する。計算モデル7について、どちらも平板状のケース模擬部72とベース模擬部73とは相互に対向し、連結部71はケース模擬部72とベース模擬部73とを連結し、側面視において一端開口のコ字形をなす。相互に対向するケース模擬部72とベース模擬部73との間には間隙74が存在し、この間隙74がシャシを構成するケース2とベース3の壁部32との間の隙間5に対応する。また、間隙74の一方の側方端面をポート1とするとともに他方の側方端面をポート2とする。ポート1,2がコネクタ4A,4Bに対応する。
【0030】
ここでは、隙間5に対応する間隙74の大きさについて、ケース模擬部72およびベース模擬部73の長さaが20mmであるとともにケース模擬部72とベース模擬部73との間の寸法bが0.1mmである場合の伝送特性および電磁界分布を計算する。計算には、電磁界シミュレータが用いられる。
【0031】
なお、ケース模擬部72およびベース模擬部73の長さaは、
図1に示すシャシ構造の、側面視におけるケース2およびベース3の壁部32の高さaに対応する。また、ケース模擬部72とベース模擬部73との間(即ち、間隙74)の寸法bは、
図1に示すシャシ構造の、ケース2とベース3の壁部32との間(即ち、隙間5)の寸法bに対応する。
【0032】
伝送特性に関係するSパラメータ(Scattering parameter)の計算結果を
図3に示す。なお、S
11はポート1(
図2に示す計算モデル7では、コの字導波路の一方の端面;基本的には電磁界が発生する箇所に設定され、計算モデル7ではコの字の開放面からの漏れもあることを考慮してx軸方向に延出させて設定している)から信号を入力したときにポート1へと反射してくる信号を表し、S
21はポート1から信号を入力したときにポート2(
図2に示す計算モデル7では、コの字導波路の他方の端面;ポート1と同様に、x軸方向に延出させて設定している)へと伝送される(言い換えると、漏れ込む)信号を表す。
【0033】
図3に示す結果から、ケース2とベース3との間の隙間5を模擬する計算モデル7は、4GHz弱をカットオフとするハイパスフィルタのような伝送特性となり、方形導波管に似た特性になることが確認される。
【0034】
電磁界分布の計算結果を
図4に示す。
図4(A)は周波数が10GHzにおける電界分布を示し、同図(B)は周波数が10GHzにおける磁界分布を示す。
図4(A)は濃淡の違いにより電界の強度の違いを表し、同図(B)は濃淡の違いにより磁界の強度の違いを表す。
【0035】
図4に示す結果から、電磁界分布については、伝送方向のZ軸方向に対し、電界はy軸方向に存在するTE波(Transverse Electric Wave;電気的横波)、また、磁界はx軸方向およびz軸方向に存在するTE波となっていることが確認される。
【0036】
上記の結果も踏まえ、以下の説明では、
図2に示す計算モデル7のようにモデル化される、シャシ間の隙間(この実施の形態では、ケース2とベース3との間の隙間5)を「コの字導波路」と呼ぶ。
【0037】
ここで、
図5に示す境界条件のもとでマクスウェルの方程式を解くことにより、カットオフ周波数fcを下記の数式1のように近似することができ、また、コの字導波路内波長λgを下記の数式2のように近似することができる(尚、下記の数式1および数式2は発明者が独自に導出した)。
【0038】
【0039】
上記の数式1および数式2の各記号の意味は下記のとおりである。
m:y軸方向における波の数(別言すると、短辺寸法bに沿う方向における波の数)
n:x軸方向における波の数(別言すると、長辺寸法aに沿う方向における波の数)
μ:透磁率
ε:誘電率
ω:角振動数
【0040】
ケース模擬部72およびベース模擬部73の長さaと、ケース模擬部72とベース模擬部73との間の寸法bと、の間の関係がa>bである場合、主要モードはm=1,n=0であるTE
10となり、前記長さaや前記寸法bの値に応じてカットオフ周波数fcの値が変化し(数式1参照)、例えば前記長さaが20mmであるとともに前記寸法bが0.1mmであるときカットオフ周波数fcは3.75GHzとなることが確認される(
図6参照)。
【0041】
また、ケース模擬部72およびベース模擬部73の長さaやケース模擬部72とベース模擬部73との間の寸法bの値に応じて自由空間波長λの値およびコの字導波路内波長λgの値が変化し(数式2参照)、例えば、前記長さaが20mmであるとともに前記寸法bが0.1mmであるとき、周波数が9.5GHzであるときの、自由空間波長λは31.6mmとなり、コの字導波路内波長λgは34.4mmとなることが確認される(
図7参照)。
【0042】
したがって、ケース2およびベース3の壁部32の高さaが20mmであるとともにケース2とベース3の壁部32との間(即ち、隙間5)の寸法bが0.1mmである、例えば通信用の送受信ユニットとしての無線周波数モジュールにおいて使用される周波数帯が9.5GHzであるときは、チョーク6の長さLが、λg/4=34.4/4=8.6[mm]、または、λg/4×3N=34.4/4×3N=8.6×3N[mm](但し、Nは自然数)に設定される。
【0043】
(チョークの作用の解析)
ケース2にチョーク6が形成されることによる作用を検証するため、
図1におけるチョーク6の幅cが1mmであるとともに長さLが10mmである場合のSパラメータを計算する。
【0044】
ここで、以降の解析では、解析内容に合わせて例えば
図2に示す計算モデル7のような計算用のモデルが作成され電磁界シミュレータで計算が行われる。
【0045】
Sパラメータ(Scattering parameter)の計算結果を
図8に示す。なお、ケース2およびベース3の壁部32の高さaは20mm、ケース2とベース3との間の寸法bは0.1mmである。
【0046】
図8に示す結果から、周波数が8.4GHzにおいてS
21の極ができてリーク電力が抑圧されていることが確認される。
【0047】
ここで、ケース2にチョーク6が形成される場合、入射波の電界は
図9(A)に示すようになり、反射波の電界は同図(B)に示すようになる。そして、チョーク6の長さLがλg/4またはλg/4×3N(但し、Nは自然数)に設定されることにより、チョーク6に入射する信号は短絡端であるために位相が180°変わり、また、チョーク6内は往復でλg/2の線路であるために位相が180°変わり、合計で位相が360°回転して戻ってくる。この際、反射波は位相が逆相の状態で入出力に分配されるため、出力側では逆相で足し合わされ、相殺されることで出力側への信号は0になる。
【0048】
また、チョーク6の長さLを7,10,および13mmに変化させた場合のSパラメータ(Scattering parameter)について、S
21の計算結果を
図10(A)に示し、S
11の計算結果を同図(B)に示す。なお、ケース2およびベース3の高さaは20mm、ケース2とベース3との間の寸法bは0.1mm、チョーク6の幅cは1mmで一定である。
【0049】
図10(A)に示す結果から、S
21は、チョーク6の長さLの値により、極が生じる周波数の値が異なることが確認される。すなわち、例えば通信用の送受信ユニットとしての無線周波数モジュールにおいて使用される周波数帯に合わせてチョーク6の長さLを調節することにより、前記周波数帯において不要な信号を抑圧し得ることが知見される。
【0050】
一方、同図(B)に示す結果から、S11は、チョーク6の長さLの値によらず、S21ほどには影響を受けないことが確認される。
【0051】
また、チョーク6の幅cを0.1,0.5,および1mmに変化させた場合のSパラメータ(Scattering parameter)について、S
21の計算結果を
図11(A)に示し、S
11の計算結果を同図(B)に示す。なお、ケース2およびベース3の高さaは20mm、ケース2とベース3との間の寸法bは0.1mm、チョーク6の長さLは10mmで一定である。
【0052】
図11(A)に示す結果から、S
21は、チョーク6の幅cの値により、極が生じる周波数の値が異なることが確認される。すなわち、例えば通信用の送受信ユニットとしての無線周波数モジュールにおいて使用される周波数帯に合わせてチョーク6の幅cを調節することにより、前記周波数帯において不要な信号を抑圧し得ることが知見される。
【0053】
一方、同図(B)に示す結果から、S11は、チョーク6の幅cの値によらず、S21ほどには顕著な極は生じないことが確認される。
【0054】
(チョークの態様/形状)
図1に示す例では、チョーク6は平面視において1本の直線状に形成されるようにしているが、チョーク6の平面視における態様/形状は1本の直線には限定されない。
【0055】
チョーク6は、例えば、
図12に示すように、屈曲した形状に、すなわち鉤状に形成されるようにしてもよい。
図12に示す例では、チョーク6(全長L)は、平面視において2つのコネクタ4Aとコネクタ4Bとが並ぶ方向(即ち、隙間5の長手方向)に対して垂直な部分(「垂直部分6v」と呼ぶ)と、前記垂直部分6vと連続するとともに平面視において2つのコネクタ4Aとコネクタ4Bとが並ぶ方向(即ち、隙間5の長手方向)と平行な部分(「平行部分6p」と呼ぶ)と、から構成される。平行部分6pの長さをoとすると、垂直部分6vの長さはL-oとなる。
【0056】
チョーク6を構成する垂直部分6vおよび平行部分6pは、平面視においてコネクタ4Aに対応する中空部21とコネクタ4Bに対応する中空部21との間に、ケース2の高さ方向寸法全体(言い換えると、ケース2の上面と下面との間の全体)におよぶ切込みとして形成される。また、チョーク6の垂直部分6vの、平行部分6pと連接しない方の一端が、隙間5に面するように、言い換えると、隙間5に対して開放されるように、形成される。
【0057】
チョーク6が鉤状に形成される場合について、チョーク6のうちの平行部分6pの長さoを0,5,7,および9mmに変化させた場合のSパラメータ(Scattering parameter)について、S
21の計算結果を
図13(A)に示し、S
11の計算結果を同図(B)に示す。なお、ケース2およびベース3の高さaは20mm、ケース2とベース3との間の寸法bは0.1mm、チョーク6の幅cは0.5mm、チョーク6の全長Lは10mmで一定である。
【0058】
図13(A)に示す結果から、S
21は、チョーク6のうちの平行部分6pの長さoの値によらず、極が生じる周波数の値は一定であることが確認される。すなわち、極が生じる周波数の値は、平行部分6pの長さoの値によらず、チョーク6の全長Lによって定まることが知見される。したがって、例えば通信用の送受信ユニットとしての無線周波数モジュールにおいて使用される周波数帯における不要な信号を抑圧するために前記周波数帯に合わせてチョーク6の長さLが設定された場合に、ケース2の寸法などの関係でチョーク6を前記長さLの直線状には形成することができない場合に、チョーク6を鉤状にすることによって前記長さLが鉤状の全長Lとして確保されるようにしてもよいことが知見される。
【0059】
一方、同図(B)に示す結果から、S11は、チョーク6のうちの平行部分6pの長さoの値によらず、S21ほどには顕著な極は生じないことが確認される。
【0060】
チョーク6は、また、
図14に示すように、複数の直線状に形成されるようにしてもよい。
図14に示す例では、チョーク6は、平面視において2つのコネクタ4Aとコネクタ4Bとが並ぶ方向(即ち、隙間5の長手方向)に対して垂直な2本の直線部分6Aおよび直線部分6Bから構成される。
【0061】
チョーク6を構成する2本の直線部分6Aと直線部分6Bとは、どちらも、平面視において、コネクタ4Aに対応する中空部21とコネクタ4Bに対応する中空部21との間に、2つのコネクタ4Aとコネクタ4Bとが並ぶ方向(即ち、隙間5の長手方向)に対して垂直に且つ相互に平行に、ケース2の高さ方向寸法全体(言い換えると、ケース2の上面と下面との間の全体)におよぶ切込みとして形成される。また、チョーク6を構成する2本の直線部分6Aと直線部分6Bとは、どちらも、側方の一端が、隙間5に面するように、言い換えると、隙間5に対して開放されるように、形成される。
【0062】
チョーク6が2本の直線状に形成される場合について、平面視において2つのコネクタ4Aとコネクタ4Bとが並ぶ方向(即ち、隙間5の長手方向)に対して垂直な2本の直線部分6Aと直線部分6Bとの間の寸法dを7,10,13mmに変化させた場合のSパラメータ(Scattering parameter)について、S
21の計算結果を
図15(A)に示し、S
11の計算結果を同図(B)に示す。なお、ケース2およびベース3の高さaは20mm、ケース2とベース3との間の寸法bは0.1mm、チョーク6の幅cは0.5mm、2本の直線部分6Aと直線部分6Bとの間におけるケース2とベース3の壁部32との間の寸法eは0.1mm、直線部分6Aおよび直線部分6Bの長さLはどちらも10mmで一定である。
【0063】
図15(A)に示す結果から、S
21は、2本の直線部分6Aと直線部分6Bとの間の寸法dの値によらず、極が生じる周波数の値は概ね一定であることが確認される。また、相互の間隔が1~1.5GHz程度の2つの極が隣接して生じており、2つの極が隣接して生じることにより、極が1つの場合(例えば、
図10(A))と比べて広い範囲で信号を抑圧し得ることが確認される。
【0064】
一方、同図(B)に示す結果から、S11は、S21ほどには顕著でないものの、極が生じることが確認される。ただし、S21に関して極が生じる周波数の値と、S11に関して極が生じる周波数の値とは異なることが確認される。
【0065】
ここで、例えば通信用の送受信ユニットとしての無線周波数モジュールにおいて使用される周波数帯が複数想定される場合には、複数の周波数帯のそれぞれに合わせて調節された長さLを備える複数のチョーク6がケース2に形成されることにより、前記複数の周波数帯のそれぞれにおいて不要な信号を抑圧することができる。
【0066】
チョーク6が2本の直線状に形成される場合について、また、2本の直線部分6Aと直線部分6Bとの間におけるケース2とベース3の壁部32との間の寸法eを0.1,0.5mmに変化させた場合のSパラメータ(Scattering parameter)について、S
21の計算結果を
図16に示す。なお、ケース2およびベース3の高さaは20mm、ケース2とベース3との間の寸法bは0.1mm、チョーク6の幅cは0.5mm、直線部分6Aおよび直線部分6Bの長さLはどちらも10mm、直線部分6Aと直線部分6Bとの間の寸法dは10mmで一定である。
【0067】
図16に示す結果から、S
21は、2本の直線部分6Aと直線部分6Bとの間におけるケース2とベース3の壁部32との間の寸法eの値により、2つの極の相互の間隔が異なることが確認される。すなわち、例えば通信用の送受信ユニットとしての無線周波数モジュールにおいて使用される周波数帯域の幅に合わせて上記寸法eを調節することにより、前記周波数帯域において不要な信号を抑圧し得ることが知見される。
【0068】
チョーク6は、また、
図17に示すように、平面視において複数箇所で折れ曲がる形状に形成されるようにしてもよい。この場合も、チョーク6の全長Lが、コの字導波路内波長λgとの関係において、λg/4またはλg/4×3N(但し、Nは自然数)になるように調節される。この場合も、チョーク6は、平面視においてコネクタ4Aに対応する中空部21とコネクタ4Bに対応する中空部21との間に、ケース2の高さ方向寸法全体(言い換えると、ケース2の上面と下面との間の全体)におよぶ切込みとして形成される。チョーク6は、また、側方の一端が、隙間5に面するように、言い換えると、隙間5に対して開放されるように、形成される。チョーク6は、さらに、平面視において曲線状に形成されるようにしてもよい。
【0069】
(チョークの効果の解析)
ケース2にチョーク6が形成されることによる効果を検証するため、基板1としてのプリント回路板(PCB)上のマイクロストリップライン(図中では「MSL」と表記)と同軸線路を接続した計算モデルを100mm離して2つ構成し、これらのアイソレーションを計算する。
【0070】
チョークが無い場合とある場合とを比較して効果を検証するために、ケース2にチョーク6が無い計算モデル(
図18(A)参照)とチョーク6が形成される計算モデル(同図(B)参照)とが設定される。チョーク6が形成される計算モデルのチョーク6は、平面視において1本の直線状に形成され、各部の寸法が下記のとおりに設定される。
ケース2およびベース3の高さa:20mm
ケース2とベース3との間の寸法b:0.1mm
チョーク6の幅c:2mm
チョーク6の長さL:10mm
【0071】
ケース2にチョーク6が無い場合のSパラメータの計算結果を
図19(A)に示し、チョーク6が形成される場合のSパラメータの計算結果を同図(B)に示す。なお、
図19における各Sパラメータの意味は下記のとおりである。
S
11:ポート1から信号を入力したときにポート1へと反射してくる信号
S
21:ポート1から信号を入力したときにポート2へと伝送される信号
S
31:ポート1から信号を入力したときにポート3へと伝送される信号
S
41:ポート1から信号を入力したときにポート4へと伝送される信号
【0072】
また、ケース2にチョーク6が無い場合の電界分布を
図20(A)に示し、チョーク6が形成される場合の電界分布を同図(B)に示す。
図20(A),(B)は濃淡の違いにより電界の強度の違いを表す。
【0073】
Sパラメータの計算結果である
図19の(A)と(B)とを比較するとともに電界分布である
図20の(A)と(B)とを比較することにより、チョーク6が形成されることによって不要な信号が抑圧され、9GHzでのアイソレーションが約-90dBから約-125dBへと改善されることが確認される。
【0074】
上記のようなシャシ構造やポート間アイソレーション抑制方法によれば、基板1の上側を覆うケース2にチョーク6が形成されることにより、入力ポートと出力ポートとの間(コネクタ4Aとコネクタ4Bとの間)での信号のリークを抑えることができ、ポート間アイソレーションを改善することが可能となる。
【0075】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態ではこの発明に係るシャシ構造が
図1に概略構成を示す無線周波数モジュールに適用されるようにしているが、この発明が適用される対象は、
図1に概略構成を示す無線周波数モジュールには限定されない。すなわち、シャシとして基板の下側を覆うベースと上側を覆うケースとを有して、これらベースとケースとの間に組み立て製造の際に隙間が生じる構造を備えるシャシに対してこの発明は適用され得る。さらに言えば、上記の実施の形態ではこの発明に係るシャシ構造が通信用の送受信ユニットとしての無線周波数モジュールのシャシに適用されるようにしているが、この発明が適用される対象は無線周波数モジュールに限定されるものではなく、この発明は、例えばレーダ用の送受信ユニットも含む、高周波回路を覆うシャシ全般に適用され得る。
【0076】
また、
【符号の説明】
【0077】
1 基板
2 ケース
21 中空部
22 連通部
3 ベース
31 底板部
32 壁部
4A (一方の)コネクタ
4B (他方の)コネクタ
41 内部導体
5 隙間
6 チョーク
6A 直線部分
6B 直線部分
6p 平行部分
6v 垂直部分
7 計算モデル
71 連結部
72 ケース模擬部
73 ベース模擬部
74 間隙
a ケース(ケース模擬部)およびベース(ベース模擬部)の長さ
b ケース(ケース模擬部)とベース(ベース模擬部)との間の寸法
c チョークの幅
d チョークを構成する2本の直線部分の間の寸法
e チョークを構成する2本の直線部分の間におけるケースとベースとの間の寸法
l 平面視において2つのコネクタが並ぶ方向に対して垂直な部分の長さ
o 平面視において2つのコネクタが並ぶ方向と平行な部分の長さ
101 基板
102 ケース
103 ベース
104A コネクタ
104B コネクタ
105 隙間