(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】粒子線治療装置および粒子線治療装置の作動方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
A61N5/10 H
A61N5/10 N
(21)【出願番号】P 2018221138
(22)【出願日】2018-11-27
【審査請求日】2021-10-04
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518119249
【氏名又は名称】株式会社ビードットメディカル
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 紗耶
(72)【発明者】
【氏名】原 洋介
(72)【発明者】
【氏名】丹正 亮平
(72)【発明者】
【氏名】長本 義史
(72)【発明者】
【氏名】笠井 茂
【合議体】
【審判長】内藤 真徳
【審判官】近藤 利充
【審判官】栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-514521(JP,A)
【文献】特開2018-102486(JP,A)
【文献】特開2017-12308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線ビームを患者に向けて出射するビーム出射部と、
前記ビーム出射部を覆う照射ポートカバーと、
前記照射ポートカバーの前記患者に最も近接する部分に対応して設けられ、通過する前記粒子線ビームのブラッグピークを拡幅するエネルギー変調部と、
を備え、
前記照射ポートカバーは、断面視でU字状を成し、
その底部に前記エネルギー変調部が配置されている、
粒子線治療装置。
【請求項2】
前記照射ポートカバーに設けられ、前記エネルギー変調部の位置を規定する位置規定部を備える請求項1に記載の粒子線治療装置。
【請求項3】
前記位置規定部は、前記照射ポートカバーにおける前記エネルギー変調部が配置される形状を成す部分である請求項2に記載の粒子線治療装置。
【請求項4】
複数の前記エネルギー変調部が前記粒子線ビームの軌道に沿って並んで配置され、少なくとも1つの前記エネルギー変調部が前記照射ポートカバーの前記患者に最も近接する部分に対応して設けられる請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項5】
前記照射ポートカバーが着脱される架台を備え、
前記エネルギー変調部が前記照射ポートカバーに接続され、このエネルギー変調部が前記照射ポートカバーとともに前記架台に着脱される請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項6】
前記エネルギー変調部は、アルミニウムで形成されたリッジフィルタから成る請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項7】
前記エネルギー変調部は、アクリルで形成されたリッジフィルタから成る請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項8】
前記エネルギー変調部は、多孔質の材質で形成される請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項9】
前記照射ポートカバーの少なくとも一部が前記多孔質の材質で形成され、この部分が前記エネルギー変調部となっている請求項8に記載の粒子線治療装置。
【請求項10】
ビーム出射部が、粒子線ビームを出射するステップと、
前記ビーム出射部を覆う照射ポートカバーの患者に最も近接する部分に対応して設けられるエネルギー変調部を前記粒子線ビームが通過するステップと、
前記エネルギー変調部により前記粒子線ビームのブラッグピークを拡幅するステップと、
を含み、
前記照射ポートカバーは、断面視でU字状を成し、
その底部に前記エネルギー変調部が配置されている、
粒子線
治療装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、粒子線治療装置および粒子線治療装置の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粒子線治療装置は、粒子線ビームのブラッグピークが生じる範囲をビームの進行方向に拡げるためのエネルギー変調用のフィルタを備える。特にスキャニング照射と呼ばれる方法において、このエネルギー変調用のフィルタにより粒子線ビームのブラッグピークが拡幅されることで、位置誤差の緩和または照射時間の短縮を図ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】U. Weber and G. Kraft, "Design and construction of a ripple filter for a smoothed depth dose distribution in conformal particle therapy," Phys. Med. Biol.44, 2765-75 (1999).
【文献】T. P. Ringbak, Y. Simeonov and M. Witt et al, "Modulation power of porous materials and usage as ripple filter in particle therapy", Phys. Med. Biol.62, 2892-2909 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エネルギー変調用のフィルタを用いて粒子線ビームのブラッグピークを拡幅した場合、フィルタを挿入しない単一エネルギーの粒子線ビームと比較すると、フィルタ内で生じた多重クーロン散乱、核反応によりビームサイズも意図せず拡がってしまうという副次的な性質がある。そのため粒子線ビームが径方向に拡がってしまい、患部への線量集中性が低下してしまうという課題がある。また、健常組織へのビーム照射の影響を抑え、かつ患部への線量集中性を高めるためにはビームサイズはできる限り小さいことが望まれている。
【0005】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、粒子線ビームのブラッグピークを拡幅させつつ、粒子線ビームの径方向の拡がりを抑えることができる粒子線治療技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る粒子線治療装置は、粒子線ビームを患者に向けて出射するビーム出射部と、前記ビーム出射部を覆う照射ポートカバーと、前記照射ポートカバーの前記患者に最も近接する部分に対応して設けられ、通過する前記粒子線ビームのブラッグピークを拡幅するエネルギー変調部と、を備え、前記照射ポートカバーは、断面視でU字状を成し、その底部に前記エネルギー変調部が配置されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態により、粒子線ビームのブラッグピークを拡幅させつつ、粒子線ビームの径方向の拡がりを抑えることができる粒子線治療技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の粒子線治療装置の全体構成を示す概念図。
【
図4】開口部が開口された状態の照射ポートを示す断面図。
【
図5】第2エネルギー変調部の交換時の照射ポートを示す断面図。
【
図8】エネルギー変調部としてのリッジフィルタを示す拡大斜視図。
【
図9】リッジバーを粒子線が通過する状態を示す拡大側面図。
【
図11】2枚のリッジフィルタの配置状態を示す斜視図。
【
図13】患部に設定されるスライス面を示す説明図。
【
図14】スライス面を走査する照射スポットを示す説明図。
【
図16】各段部とブラッグピークの関係を示すグラフ。
【
図17】第1エネルギー変調部を単体で用いた場合のガウス分布を示す説明図。
【
図18】第2エネルギー変調部を単体で用いた場合のガウス分布を示す説明図。
【
図19】第1エネルギー変調部と第2エネルギー変調部とを組み合わせて使用したときのガウス分布を示す説明図。
【
図20】粒子線治療装置のシステム構成を示すブロック図。
【
図21】第2エネルギー変調部の交換処理を示すフローチャート。
【
図22】第2エネルギー変調部の交換処理を示すフローチャート。
【
図24】第2実施形態の粒子線治療装置の照射ポートを示す断面図。
【
図25】第3実施形態の粒子線治療装置の照射ポートを示す断面図。
【
図26】第4実施形態の粒子線治療装置の照射ポートを示す断面図。
【
図27】第5実施形態の粒子線治療装置の照射ポートを示す断面図。
【
図28】第6実施形態の粒子線治療装置の照射ポートを示す断面図。
【
図29】第7実施形態の粒子線治療装置の照射ポートを示す断面図。
【
図30】第8実施形態の粒子線治療装置の照射ポートを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、本実施形態を添付図面に基づいて説明する。まず、第1実施形態の粒子線治療装置について
図1から
図23を用いて説明する。
図1の符号1は、粒子線治療装置である。この粒子線治療装置1では、炭素イオンなどの粒子線ビームを被検体としての患者の病巣組織(がん)に照射して治療を行う。
【0010】
粒子線治療装置1を用いた放射線治療技術は、重粒子線がん治療技術などとも称される。この技術は、がん病巣(患部)を炭素イオンがピンポイントで狙い撃ちし、がん病巣にダメージを与えながら、正常細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能とされる。なお、粒子線とは、放射線のなかでも電子より重いものと定義され、陽子線、重粒子線などが含まれる。このうち重粒子線は、ヘリウム原子より重いものと定義される。
【0011】
重粒子線を用いるがん治療では、従来のエックス線、ガンマ線、陽子線を用いたがん治療と比較してがん病巣を殺傷する能力が高く、患者の体の表面では放射線量が弱く、がん病巣において放射線量がピークになる特性を有している。そのため、照射回数と副作用を少なくすることができ、治療期間をより短くすることができる。
【0012】
図1は、粒子線治療装置1の全体構成を概略的に示した平面図である。
図2は、回転ガントリ5の側面視における断面図である。なお、
図2の紙面左側を粒子線治療装置1の正面側(前方側)として説明する。
【0013】
図1および
図2に示すように、粒子線治療装置1は、荷電粒子である炭素イオンを生成するイオン源を有するビーム発生器2と、炭素イオンを加速して粒子線ビームBとするリング状の円形加速器3と、粒子線ビームBを輸送するビーム輸送ライン4と、粒子線ビームが照射される患者Pが配置される回転ガントリ5とを備える。
【0014】
まず、イオン源で生成された炭素イオンは、ビーム発生器2から円形加速器3に入射される。この炭素イオンは、円形加速器3を約百万回周回する間に光速の約70%まで加速され、粒子線ビームBとなる。そして、この粒子線ビームBがビーム輸送ライン4を介して回転ガントリ5まで導かれる。
【0015】
円形加速器3およびビーム輸送ライン4は、内部が真空にされる真空ダクトD(ビームパイプ)を備える。この真空ダクトDの内部を粒子線ビームBが進行する。円形加速器3およびビーム輸送ライン4が有する真空ダクトDが一体となり、粒子線ビームBを回転ガントリ5まで導く輸送経路を構成する。つまり、真空ダクトDは、粒子線ビームBを通過させるのに充分な真空度を有する密閉された連続空間である。
【0016】
円形加速器3は、磁場と加速電場の周波数を制御することで炭素イオンを加速する高周波加速空洞22と、粒子線ビームBの進行方向を円形に制御するための偏向電磁石23とを備える。
【0017】
また、ビーム輸送ライン4は、粒子線ビームBの進行方向の変更に用いられる偏向電磁石24と、粒子線ビームBの収束および発散を制御する制御用の四極電磁石25とを備える。
【0018】
それぞれの電磁石23~25は、真空ダクトDの外周を囲むように配置される。また、複数の電磁石23~25が、真空ダクトDが延びる方向に沿って並んでいる。なお、その他の装置または電磁石が、円形加速器3またはビーム輸送ライン4に設けられていても良い。
【0019】
図2に示すように、回転ガントリ5は、円筒形状を成す大型の装置である。この回転ガントリ5は、その円筒の回転軸Jが水平方向を向くように設置される。この回転軸Jを中心として回転ガントリ5が回転可能となっている。
【0020】
また、回転ガントリ5の下部には、回転ガントリ5を回転可能な状態で支持する支持ローラ7と、この回転ガントリ5を回転軸J周りに回転させる回転駆動部としての駆動モータ8が設けられる。
【0021】
なお、回転ガントリ5は、その外周に固定されたエンドリング9を介して支持ローラ7に支持される。駆動モータ8の回転駆動力は、支持ローラ7およびエンドリング9を介して回転ガントリ5に与えられる。
【0022】
回転ガントリ5には、ビーム輸送ライン4から延長された真空ダクトDおよび偏向電磁石6が取り付けられる。回転ガントリ5において、真空ダクトDは、まず、回転ガントリ5の外部からその回転軸Jに沿って導かれ、回転ガントリ5の円筒外周側へ向けて一旦延びた後に、再び回転ガントリ5の内周側に向けて延びる。偏向電磁石6は、真空ダクトDに沿って粒子線ビームBの進行方向の変更するために用いられる。
【0023】
また、真空ダクトDの端部には、ビーム輸送ライン4により導かれた粒子線ビームBを患者Pに向けて照射する照射ポート10が設けられる。この照射ポート10は、回転ガントリ5の内周面に固定されている。なお、粒子線ビームBは、回転軸Jに対して直交する方向に照射ポート10から照射される。
【0024】
なお、真空ダクトDにおいて、回転ガントリ5の回転軸Jに沿う部分には、回転機構が設けられ、この部分が回転ガントリ5の回転とともに回転するようになっている。
【0025】
図3および
図11に示すように、真空ダクトDの端部近傍には、スキャニング電磁石11が設けられる。このスキャニング電磁石11は、粒子線ビームBを、X方向に偏向走査するX偏向走査磁石とY方向に偏向走査するY偏向走査磁石とを有している。そして、スキャニング電磁石11は、粒子線ビームBを制御することで、細い粒子線ビームBを患者Pの患部形状に3次元的に合致させて走査することができる。つまり、照射ポート10から照射される粒子線ビームBは、ビーム進行方向に対して直交する2方向(X方向およびY方向)の所定の走査範囲Fに亘って走査が可能となっている。
【0026】
図2に示すように、回転ガントリ5の内部には、粒子線治療を行う治療空間12が設けられる。患者Pは、この治療空間12に設けられた治療台13に載置される。この治療台13は、患者Pを載置した状態で移動可能となっている。この治療台13の移動によって患者Pを粒子線ビームBの照射位置に移動させて位置合わせを行うことができる。そのため、患者Pの病巣組織に最適な精度で粒子線ビームBを照射することができる。
【0027】
また、回転ガントリ5を回転させることで、患者Pを中心として照射ポート10を回転させることができる。例えば、患者P(回転軸J)を中心として照射ポート10を、正面視で時計回りまたは反時計回りに180度ずつ回転させることができる。そして、患者Pの周囲のいずれの方向からも粒子線ビームBを照射させることができる。つまり、回転ガントリ5は、ビーム輸送ライン4により導かれた粒子線ビームBの患者Pに対する照射方向を変更可能な装置である。そのため、患者Pの負担を軽減しつつ、最適な方向から粒子線ビームBを正確に患部に照射することができる。
【0028】
粒子線ビームBは、患者Pの体内を通過する際に運動エネルギーを失って速度が低下するとともに、速度の二乗にほぼ反比例する抵抗を受け、ある一定の速度まで低下すると急激に停止する。この粒子線ビームBの停止点はブラッグピークと呼ばれ、高エネルギーが放出される。粒子線治療装置1は、このブラッグピークを患者Pの病巣組織(患部)の位置に合わせることにより、正常組織のダメージを抑えつつ、病巣組織のみを死滅させることができる。
【0029】
図2に示すように、回転ガントリ5の内部に設けられた治療空間12は、建屋14から繋がる治療室15と一体を成すように形成されている。この建屋14側の治療室15の床と壁と天井とが、治療空間12と連なるように設けられる。なお、治療台13は、建屋14側の治療室15の床に固定される。つまり、回転ガントリ5および照射ポート10が回転されても、治療台13の位置は変化しないようになっている。
【0030】
なお、患者Pは、治療室15を介して治療空間12に入る。この治療室15から照射ポート10を見たときに患者Pの視線方向G1に対向する面、つまり患者Pから見える面を照射ポート10の正面側とし、その反対側の面を照射ポート10の背面側として説明する。
【0031】
回転ガントリ5の内部には、内壁部16が設けられる。この内壁部16は、円盤状を成し、その周縁が、回転ガントリ5の内周面の全周に亘って設けられたサポート部17に支持される。この内壁部16は、サポート部17により周方向に回転自在に支持される。この内壁部16により、回転ガントリ5の内部が、治療空間12の部分とそれ以外の部分とに仕切られる。
【0032】
内壁部16において、治療空間12と反対側の中央部には、逆回転同期モータ18が接続される。この逆回転同期モータ18は、回転ガントリ5の内周面に固定される。駆動モータ8の駆動力により回転ガントリ5が回転されたときに、逆回転同期モータ18が内壁部16を回転ガントリ5の回転方向とは逆方向に回転させる。
【0033】
例えば、回転ガントリ5を正面視で時計回りに回転させるときに、内壁部16を反時計回りに回転させる。このとき、回転ガントリ5の回転速度と内壁部16の回転速度とを同一にする。つまり、内壁部16は、回転ガントリ5が回転されても、見かけ上、静止しているようになる。なお、内壁部16の治療空間12側には、この内壁部16を治療空間12側から見えないように隠蔽する化粧壁19が設けられる。
【0034】
回転ガントリ5の内部には、その一端側(前方側)に設けられた前方側の軌道レール20aと、他端側(後方側)に設けられた後方側の軌道レール20bと、これらの軌道レール20a,20bの間に架け渡される複数の移動床21とが設けられる。
【0035】
移動床21は、前後方向に長い長方形の板状を成す部材である。これらの移動床21より治療空間12の床と壁と天井とが形成される。なお、前方側の軌道レール20aが建屋14側の治療室15の床と壁と天井に固定される。一方、後方側の軌道レール20bが、内壁部16に固定される。回転ガントリ5および照射ポート10が回転した場合であっても、前後の軌道レール20a,20bは、回転せずに静止される。
【0036】
また、軌道レール20a,20bに架け渡された移動床21は、軌道レール20a,20bに沿って並び、かつ軌道レール20a,20bに沿って移動可能となっている。回転ガントリ5の回転とともに、照射ポート10が回転されると、この照射ポート10の回転に連れ立って移動床21が移動される。そして、照射ポート10がいずれの位置に移動されても、移動床21により治療空間12の床と壁と天井とが維持される。
【0037】
このように、治療空間12の床と壁と天井とが、化粧壁19と移動床21とにより形成されるので、治療空間12に居る患者Pには、回転ガントリ5を構成する機械的な部材が見えないようになっている。そのため、治療空間12の内装の見栄えを向上させることができる。また、患者Pに対して巨大な装置内部に居ることを感じさせないようにできるので、患者Pが心理的な圧迫感を生じることがない。
【0038】
図3から
図5は、照射ポート10の背面視における断面図である。なお、
図3では、照射ポート10が患者Pの上方に配置されている場合を図示している。ここで、照射ポート10は、回転ガントリ5の回転とともに回転されるので、照射ポート10が患者Pの下方に配置される場合もある。その場合は、
図3の照射ポート10の構成が上下反転される。説明の便宜上、照射ポート10が患者Pの上方に配置されている状態を定位置とし、
図3から
図5の紙面上側を照射ポート10の上方側として説明する。また、
図6から
図7は、照射ポート10の平面視における断面図である。なお、
図6から
図7の紙面上側を照射ポート10の正面側(前方側)として説明する。
【0039】
図3に示すように、照射ポート10の内部には、ビーム出射部30が設けられる。このビーム出射部30を介して粒子線ビームBを患者Pの患部Kに向けて照射する。なお、回転ガントリ5の回転に応じてビーム出射部30の患者Pに対する位置および向きを変更可能となっている。
【0040】
このビーム出射部30は、ビーム輸送ライン4から延びる真空ダクトDの下流端部であり、真空ダクトDに沿って導かれた粒子線ビームBが大気中へ出射される部分である。このビーム出射部30を形成している真空ダクトDの下流端部の開口は、ポリイミドフィルムで閉塞され、真空ダクトDの内部を真空に保ったまま粒子線ビームBを出射させることができる。つまり、真空ダクトDの下流端部の開口は、粒子線ビームBが飛び出す薄膜の真空窓となっている。
【0041】
照射ポート10は、照射ポートカバー31と胴カバー32とを備える。さらに、照射ポート10は、照射ポートカバー31により覆われるビーム出射部30を備える。照射ポートカバー31は、患者Pに最も近接する背面視でほぼ正方形を成す部分である。胴カバー32は、背面視でほぼ台形を成す部分である。なお、照射ポートカバー31と胴カバー32とは、合成樹脂などの非金属材料(例えばGFRP)で形成されている。また、照射ポートカバー31と胴カバー32とは、回転ガントリ5の内周面に固定された架台33に取り付けられている。なお、回転ガントリ5の内部に配置される真空ダクトDは、照射ポートカバー31と胴カバー32により覆われる。
【0042】
架台33は、複数本の金属フレームが組み合されることにより形成されている。また、真空ダクトDおよびスキャニング電磁石11は、架台33に支持されている。
【0043】
ビーム出射部30の下方側には、線量モニタ34と位置モニタ35とレンジシフタ36とが設けられる。線量モニタ34は、ビーム出射部30から出射された粒子線ビームBの線量を計測する装置である。位置モニタ35は、ビーム出射部30から出射された粒子線ビームBの位置を計測する装置である。レンジシフタ36は、粒子線ビームBの飛翔距離(停止位置)を調整する装置である。つまり、レンジシフタ36は、ブラッグピークが生じる位置を患者Pの体内の深さ方向に調整する。
【0044】
線量モニタ34の内部には、粒子線ビームBの通過により電離されるガスが充填されている。そして、このガスが充填された空間に電極とワイヤが設けられている。粒子線ビームBが線量モニタ34を通過するとガスが電離され、電極とワイヤの間に電流が流れる。この原理を利用して粒子線ビームBの強度を計測する。
【0045】
位置モニタ35の内部にも、粒子線ビームBの通過により電離されるガスが充填されている。そして、粒子線ビームBによりガスが電離され、電極とワイヤの間に電流が流れる原理を利用して粒子線ビームBの通過位置を計測する。
【0046】
照射ポート10の内部において、線量モニタ34と位置モニタ35とレンジシフタ36とが設けられる部分のさらに下方側には、第1エネルギー変調部41と第2エネルギー変調部42とが設けられる。第1および第2エネルギー変調部41,42は、通過する粒子線ビームBのブラッグピークが生じる範囲をビームの進行方向に拡げるための部材である。
【0047】
第1実施形態では、粒子線ビームBの上流側から下流側に向かって、スキャニング電磁石11、線量モニタ34、位置モニタ35、レンジシフタ36、第2エネルギー変調部42、第1エネルギー変調部41の順で並んでいる。つまり、第1エネルギー変調部41が患者Pに最も近接する位置に設けられる。なお、粒子線ビームBの上流側とは、患者Pから離れる側であり、粒子線ビームBの下流側とは、患者Pに近接される側である。例えば、
図3では、紙面上側が上流側である。
【0048】
第1および第2エネルギー変調部41,42は、スキャニング電磁石11と線量モニタ34と位置モニタ35とレンジシフタ36とを含む照射に関連する部品よりも下流側に設けられる。つまり、第1および第2エネルギー変調部41,42よりも下流側に照射に関連する部品が配置されない。なお、照射に関連する部品とは、粒子線ビームBの制御または計測に関する部品のことを示す。
【0049】
第1実施形態の第1および第2エネルギー変調部41,42は、平板状を成すリッジフィルタから成る。これら第1および第2エネルギー変調部41,42は、平面視で正方形状を成す(
図7参照)。なお、リッジフィルタは、ミニリッジフィルタまたはリップルフィルタとも呼ばれることがあるが、これらの用語は同義である。
【0050】
第1エネルギー変調部41は、粒子線ビームBの照射時に常に粒子線ビームBの軌道上に配置される。また、第2エネルギー変調部42は、粒子線ビームBの軌道上から退避される位置と第1エネルギー変調部41に重なる位置との間で移動可能となっている。つまり、第2エネルギー変調部42は、交換可能になっている。なお、第1実施形態において、粒子線ビームBの退避される位置とは、照射ポートカバー31の外部のことである。
【0051】
図8に示すように、リッジフィルタとしての第1および第2エネルギー変調部41,42は、その表面に複数本のリッジバー43が形成されている。これらのリッジバー43は、側面視で山型形状(三角形状)を成し、平面視で直線状に延びる部分である。複数本のリッジバー43は、平面視で互いに平行を成すように配置される。つまり、複数本のリッジバー43が1次元方向に周期的に配置されている。なお、
図8では、理解を助けるためにリッジバー43を拡大して図示してある。
【0052】
リッジバー43の幅寸法R1は、充分に小さいものとして形成する必要がある。このリッジバー43の幅寸法R1は、粒子線ビームBのビーム径以下に形成される。例えば、粒子線ビームBのビーム径寸法が1mmである場合に、リッジバー43の幅寸法R1は1mm以下に形成される。なお、第1および第2エネルギー変調部41,42のリッジバー43の幅寸法R1は、それぞれ異なっていても良い。
【0053】
図9に示すように、1つのリッジバー43は、複数の段部44が形成されることにより側面視で山型を成している。これらリッジバー43が形成されることで、リッジフィルタには、厚みを有する山部分と、薄い谷部分とが形成される。
【0054】
例えば、山部分を通過した粒子線ビームB1は、谷部分を通過した粒子線ビームB2よりもエネルギーが減衰される。つまり、患者Pの体内において、山部分を通過した粒子線ビームB1は、谷部分を通過した粒子線ビームB2よりも浅い位置で停止される。このように、リッジフィルタは、リッジバー43によって各部分で厚みが異なることで、粒子線ビームBのエネルギーの分布を変化させることができる。
【0055】
図12は、粒子線ビームBの照射により患者Pの体組織に与える線量と深さとの関係を示すグラフである。縦軸は、粒子線ビームBに基づく線量を規格化した相対線量を示し、横軸は、患者Pの体表面からの深さを示す。このグラフにおいて、実線は、リッジフィルタを用いて照射した粒子線ビームBを示し、点線は、リッジフィルタを用いずに照射した粒子線ビームBを示す。患者Pの体内の所定の深さ範囲Q1にある患部Kに向けて粒子線ビームBを照射している。
【0056】
点線のグラフに示すように、リッジフィルタを通過していない場合の粒子線ビームBでは、ブラッグピークが生じる深さ方向の範囲Q2、いわゆる幅が狭くなっている。これに対して、実線のグラフに示すように、リッジフィルタを通過した場合の粒子線ビームBでは、ブラッグピークが生じる深さ方向の範囲Q2が拡がるようになる。つまり、粒子線ビームBがリッジフィルタを通過することで、ブラッグピークが拡幅されるようになる。
【0057】
ブラッグピークの幅が狭い場合では、患部Kの範囲Q1の全体に亘って粒子線ビームBを照射するときに多数の照射を行わなければならない。これに対して、リッジフィルタによりブラッグピークが拡幅されることで、1回の照射で広い範囲にブラッグピークを生じさせることができるので、粒子線ビームBの照射回数を減らすことができる。つまり、粒子線ビームBの照射時間を短縮することができる。さらに、照射位置の誤差を緩和することができる。
【0058】
具体的には、
図13に示すように、粒子線ビームBを照射するときには、患部Kに体内の深度方向に並ぶ複数層のスライス面80が設定される。そして、それぞれのスライス面80に対応する出力で粒子線ビームBが順次照射される。なお、スライス面80の間隔に対応するようにリッジフィルタが選択され、粒子線ビームBのブラッグピーク幅が設定される。つまり、照射対象となる患部Kごとにリッジフィルタが設定される。
【0059】
図14に示すように、スライス面80に粒子線ビームBが照射されるときの照射スポット81は、スライス面80に沿って走査される。この走査によって照射スポット81の位置が順次変更されることで、スライス面80の全体に亘って粒子線ビームBのエネルギーが付与される。さらに、全てのスライス面80に対して粒子線ビームBを照射することで、患部Kの全体に亘って粒子線ビームBのエネルギーが付与される。
【0060】
図9に示すように、リッジバー43においてそれぞれの段部44の高さ寸法R2と幅寸法R3は、一定の寸法でなくても良く、粒子線ビームBにより生じるブラッグピークに合わせて適宜設定される。それぞれの段部44の高さ寸法R2と幅寸法R3は、通過する粒子線ビームBの線量がガウス分布を示すように設定される。
【0061】
図17、
図18および
図19を用いてエネルギー変調部41,42とガウス分布91,92のグラフとの関係を説明する。グラフの横軸は深さ方向を示す。ここで、
図17に示すように、第1エネルギー変調部41は、単体で用いた場合であっても、粒子線ビームBの線量がガウス分布91を示すように設定される。第1エネルギー変調部41を単体で用いた場合には、段部44のそれぞれに対応したブラッグピーク93により実際にはガウス分布91に近似したエネルギー分布95を生じさせる。
【0062】
図18に示すように、第2エネルギー変調部42を単体で用いた場合には、段部44のそれぞれに対応したブラッグピーク94aによりエネルギー分布96aを生じさせるが、隣り合う間隔が広いため、滑らかなエネルギー分布96aとはならない。つまり、エネルギー分布96aはガウス分布92に近似しない。
【0063】
図19に示すように、第2エネルギー変調部42は、第1エネルギー変調部41と組み合わせて使用することで、粒子線ビームBの線量がガウス分布92を示すように設定される。つまり、第1エネルギー変調部41は、通過する粒子線ビームBのブラッグピークを拡幅することにより第2エネルギー変調部42で形成されるブラッグピークの拡幅を補うようになっている。このようにすれば、必要とする幅のブラッグピークを生じさせることができる。2枚のエネルギー変調部41,42を用いた場合には、ブラッグピーク94bにより、実際にはガウス分布92に近似したエネルギー分布96bを生じさせる。
【0064】
例えば、必要とするブラッグピークの幅が、1mm、2mm、3mm、4mmの4種類である場合に、照射ポート10に常に配置される第1エネルギー変調部41は、最も小さい1mmに対応するものとする。ここで、3種類の第2エネルギー変調部42を適宜交換することで、1mm、2mm、3mm、4mmのいずれのブラッグピークの幅にも対応できるようにする。
【0065】
なお、リッジフィルタにリッジバー43を形成するときには、リッジフィルタの元となる平板の表面をドリルで削り、それぞれの段部44を形成する。つまり、削り出し加工によりリッジバー43が形成される。リッジバー43は、幅および高さが数ミリの微小な部分であり、かつ精度を要する部分であるため、リッジバー43が高くなるほど、その加工が困難になる。
【0066】
具体的には、リッジバー43の構成により変化するブラッグピークは、それぞれの段部44の寸法により異なる。ここで、
図15および
図16を参照して段部44a,44bの寸法とブラッグピークとの関係を説明する。
図15は、リッジバー43の寸法が異なるそれぞれの段部44a,44bを示す。
図16は、それぞれの段部44a,44bに対応するブラッグピークを示す。このグラフの横軸は深さ方向を示す。
【0067】
図15に示すように、最も高い高さ寸法R6を有する段部44aと、これよりも低い高さ寸法R7を有する段部44bを例示する。それぞれの段部44a,44bの寸法は、目的とするブラッグピーク83,84に応じて適宜設定される。
【0068】
図16では、リッジフィルタを用いていないときのブラッグピーク82と、高い段部44aを通過したときのブラッグピーク83と、低い段部44bを通過したときのブラッグピーク84とのグラフを示している。このグラフに示すように、リッジフィルタを用いていないときのブラッグピーク82よりも、低い段部44bを通過したときのブラッグピーク84が浅い位置に変位している。また、高い段部44aを通過したときのブラッグピーク83がさらに浅い位置に変位している。このように、所定のガウス分布90を生じさせるためには、これらのブラッグピーク83,84を適宜設定する必要がある。
【0069】
図15に示すように、高い段部44aの幅寸法R8は、低い段部44bの幅寸法R9よりも、狭くなるように形成する必要がある。つまり、段部44aは、高さ寸法R6が高くなるに連れてその幅寸法R8が狭くなる。そのため、リッジバー43が高くなるほど、その加工が困難になる。
【0070】
図10に示すように、第1エネルギー変調部41のリッジバー43の高さ寸法R4は、第2エネルギー変調部42のリッジバー43の高さ寸法R5よりも低くなっている。このようにすれば、リッジバー43の工作精度を維持することができる。また、第1エネルギー変調部41のリッジバー43および第2エネルギー変調部42のリッジバー43のそれぞれの高さ寸法をR4,R5を抑えることができる。例えば、粒子線ビームBのブラッグピークを拡幅する場合には、リッジバー43を高くする必要があるが、リッジバー43を高くしようとすると、リッジバー43が細長くなるので工作が難しくなる。本実施形態では、2枚のリッジフィルタを用いて、それぞれのリッジバー43の高さ寸法をR4,R5を抑えることで、ブラッグピークを拡幅しつつ、リッジバーの工作精度を維持することができる。
【0071】
第1実施形態では、第1エネルギー変調部41は、単体でブラッグピークの拡幅が可能な性質を有する。このようにすれば、第1エネルギー変調部41を単体でブラッグピークの拡幅に使用することができる。また、第2エネルギー変調部42は、単体でブラッグピークの拡幅が不可能であり、第1エネルギー変調部41と重なることでブラッグピークの拡幅が可能な性質を有する。このようにすれば、第2エネルギー変調部42を単体で使用する必要がないので、単体で用いる場合と比べて第2エネルギー変調部42の工作精度を落としてコストダウンを図ることができる。さらに第1エネルギー変調部41と第2エネルギー変調部42との組み合せの態様を単純化でき、第2エネルギー変調部42の交換手順の簡素化、装置の簡略化を図ることができる。
【0072】
例えば、第2エネルギー変調部42を単体で使用する場合において、所定のブラッグピーク幅から別のブラッグピーク幅へと変更する際に、第1エネルギー変調部41を取り外し、代わりに第2エネルギー変調部42を組み込む、という2段階の手順が必要となる。一方、第1実施形態では、同様の変更を、第1エネルギー変調部41はそのままで、第2エネルギー変調部42を組み込む、という1段階の手順で済む。
【0073】
さらに、例えば、第2エネルギー変調部42を単体で使用する場合において、第1エネルギー変調部41を取り外す可能性があるため、それぞれに対応する挿入および退避のための機構が必要となる。一方、第1実施形態では、第2エネルギー変調部42のみに対応する挿入および退避のための機構があればよく、部品点数を少なくできる。
【0074】
第1実施形態の第1および第2エネルギー変調部41,42は、アルミニウムで形成されたリッジフィルタから成る。このようにすれば、第1および第2エネルギー変調部41,42を薄く形成することができる。
【0075】
なお、第1および第2エネルギー変調部41,42は、アクリルで形成されたリッジフィルタであっても良い。このようにすれば、工作が容易となるので、第1および第2エネルギー変調部41,42の製造コストを低減することができる。
【0076】
なお、第1実施形態のリッジフィルタのリッジバー43は、側面視で山型形状(二等辺三角形状)を成しているが、リッジフィルタの各部分の厚みを異ならせるものであれば、リッジバー43が山型形状以外でも良い。例えば、リッジバーが半円形状、直角三角形状、四角形状、または台形状を成していても良い。
【0077】
図11に示すように、第1および第2エネルギー変調部41,42は、互いに上下に重ねて配置されるが、それぞれのリッジバー43の向きが90°異なるように配置される。例えば、粒子線ビームBを中心としてビームの径方向に四方に延びる4軸(X方向、-X方向、Y方向、-Y方向)のうち、第1エネルギー変調部41のリッジバー43がY軸に沿うように延びる場合に、第2エネルギー変調部42のリッジバー43がX軸に沿うように延びる。つまり、平面視で第1および第2エネルギー変調部41,42のリッジバー43が互いに交差する。このようにすれば、通過する粒子線ビームBの線量が適切なガウス分布を示すようになる。
【0078】
図4に示すように、照射ポートカバー31は、断面視でU字状を成し、その底部に第1エネルギー変調部41が配置される。この第1エネルギー変調部41は、照射ポートカバー31の底部の裏面、つまり患者Pから見えない面に設けられる。
【0079】
照射ポートカバー31の裏面には、第1エネルギー変調部41の縁辺を保持する接続部37が形成されている。この接続部37により第1エネルギー変調部41が照射ポートカバー31の患者Pに最も近接する部分に対応して設けられる。第1エネルギー変調部41は、接続部37に対してネジを用いて固定しても良い。なお、接続部37は、第1エネルギー変調部の位置を規定する位置規定部となっている。このようにすれば、第1エネルギー変調部41を照射ポートカバー31に対応する位置に設けることができる。
【0080】
第1実施形態の位置規定部としての接続部37は、第1エネルギー変調部41の縁辺に係合される係合片を成す。つまり、位置規定部は、照射ポートカバー31における第1エネルギー変調部41が配置される形状を成す部分である。このようにすれば、照射ポートカバー31に第1エネルギー変調部41が配置されるので、第1エネルギー変調部41の位置を正確に規定することができる。
【0081】
リッジフィルタには、粒子線ビームBを散乱させてしまうという副次的な性質がある。なお、散乱とは、粒子線ビームBの直径のサイズが拡がることを示す。粒子線ビームBが散乱されると、リッジフィルタから下流側に離れるに連れて、その直径が大きくなってしまう。これに対して、第1実施形態では、第1エネルギー変調部41の位置が、照射ポートカバー31の患者Pに最も近接する部分とほぼ一致するので、粒子線ビームBのブラッグピークを拡幅させつつ、粒子線ビームBの径方向の拡がりを最小限に抑えることができる。つまり、患部Kへの線量集中性を高めることができる。
【0082】
なお、第1実施形態では、複数のエネルギー変調部41,42が粒子線ビームBの軌道に沿って並んで配置されているが、少なくとも1つのエネルギー変調部41が照射ポートカバー31に対応して設けられていれば良い。このようにすれば、複数のエネルギー変調部41,42により目的とするブラッグピークに対応できるので、個々のエネルギー変調部41,42の製造が容易になる。
【0083】
第1エネルギー変調部41は、照射ポートカバー31に支持されている。なお、照射ポートカバー31は、所定の接続治具を用いて架台33に対して着脱可能に取り付けられる。メンテナンス時において、第1エネルギー変調部41の取付作業または交換作業を行う場合には、照射ポートカバー31を架台33から取り外してから作業を行うようにしている。この第1エネルギー変調部41は、照射ポートカバー31とともに架台33に着脱可能に支持される。このようにすれば、照射ポートカバー31とともに第1エネルギー変調部41が着脱されるので、第1エネルギー変調部41のメンテナンス作業を容易に行うことができる。
【0084】
第1エネルギー変調部41は、照射ポートカバー31に固定的に配置され、患者P毎に交換する必要がない部材となっている。つまり、第1エネルギー変調部41は、患部Kに必要なブラッグピーク幅に関係なく、粒子線ビームBの照射時に常に粒子線ビームBの軌道上に配置される部材となっている。これに対して、第2エネルギー変調部42は、患部Kに必要なブラッグピーク幅に応じて交換可能な部材となっている。
【0085】
図4および
図6に示すように、照射ポートカバー31を背面から見たときの右側の側面には、開口部38が開口されている。この開口部38の縦寸法M1および横寸法M2(開口寸法)は、第2エネルギー変調部42が通過可能な寸法となっている。このようにすれば、メンテナンス時に照射ポートカバー31を取り外さずに、開口部38を介して第2エネルギー変調部42を照射ポートカバー31に対して出し入れすることができる。
【0086】
照射ポートカバー31の内部には、第2エネルギー変調部42の挿入および退避を案内するガイド部45が設けられる。また、ガイド部45の少なくとも一部を保持し、ガイド部45を開口部38から出し入れさせる移動保持部46が設けられる。なお、移動保持部46は、架台33に固定されている。ガイド部45は、移動保持部46に対して移動可能に保持される。移動保持部46は、水平方向に延びるレールであり、ガイド部45は、このレールに沿って水平方向に移動可能となっている。
【0087】
なお、ガイド部45が照射ポートカバー31の内部に収納されたときに、第2エネルギー変調部42が配置される部分が、配置部47(接続部)となっている。この配置部47は、粒子線ビームBの軌道上の位置に設けられている。ガイド部45は、粒子線ビームBの軌道上の位置(配置部47)と、この軌道上から退避される位置との間で、第2エネルギー変調部42を移動させる。
【0088】
また、ガイド部45は、照射ポートカバー31の内部に収納されたときに、移動保持部46が備える所定の固定機構により固定される。そのため、回転ガントリ5の回転とともに照射ポート10が傾いても、ガイド部45の架台33に対する固定状態を維持することができる。
【0089】
照射ポートカバー31には、開口部38を閉塞する蓋部39が設けられる。ガイド部45を出し入れさせるときには、蓋部39を開放する。なお、本実施形態では、蓋部39を開閉させる蓋駆動部51とガイド部45を駆動させるガイド駆動部52が設けられる(
図20参照)。
【0090】
図4および
図6に示すように、照射ポートカバー31の開口部38の近傍には、操作部40が設けられる。この操作部40を作業者が操作することで、蓋部39またはガイド部45が駆動される。また、ガイド部45には、第2エネルギー変調部42を拘束するラッチ部48(接続部)が設けられる。なお、本実施形態では、ラッチ部48を駆動させるラッチ駆動部53が設けられる(
図20参照)。作業者が操作部40を操作することで、ラッチ部48による第2エネルギー変調部42の拘束と解除が自動的に行えるようになっている。このようにすれば、メンテナンスの作業者が照射ポートカバー31の外部からラッチ部48の拘束を解除することができるので、メンテナンス性を向上させることができる。
【0091】
ラッチ部48は、第2エネルギー変調部42を上下方向から挟み込み、かつ第2エネルギー変調部42の複数箇所を拘束する。このようにすれば、回転ガントリ5の回転により照射ポート10の上下が反転されても、第2エネルギー変調部42のガイド部45に対する固定状態を維持することができる。
【0092】
なお、第2エネルギー変調部42の全体が開口部38から引き出される必要はなく、第2エネルギー変調部42の一部が開口部38から引き出されれば良い。また、作業者が開口部38から手を差し入れて、第2エネルギー変調部42にアクセスし、着脱作業を行うようにしても良い。
【0093】
図5および
図7に示すように、配置部47に配置された第2エネルギー変調部42を、交換用の第2エネルギー変調部42’と交換する場合には、作業者が操作部40を操作することで、蓋部39が駆動されて開口部38が自動的に開放される。さらに、ガイド部45が駆動されて開口部38から第2エネルギー変調部42が自動的に引き出される。そして、作業者が操作部40を操作することでラッチ部48を解除し、ガイド部45から第2エネルギー変調部42を取り外す。その後、交換用の第2エネルギー変調部42’をガイド部45に取り付け、再びラッチ部48により第2エネルギー変調部42を拘束させる。そして、作業者が操作部40を操作することで、ガイド部45が自動的に照射ポートカバー31の内部に戻り、蓋部39により開口部38が閉塞される。
【0094】
第1実施形態では、移動保持部46に沿ってガイド部45が移動されるので、作業者は、このガイド部45を介して第2エネルギー変調部の出し入れを容易に行うことができる。
【0095】
なお、架台33には、ガイド部45が定位置に存在することを検出する位置検出センサ54が設けられている。つまり、位置検出センサ54により第2エネルギー変調部42が配置部47に配置されたことを確認することができる。また、ラッチ部48には、第2エネルギー変調部42が適切に拘束されていることを検出するとラッチセンサ55が設けられている。
【0096】
第1実施形態では、ラッチセンサ55により第2エネルギー変調部42が適切に拘束されたことを確認し、かつ位置検出センサ54により第2エネルギー変調部42が配置部47に配置されたことを確認する。
【0097】
第2エネルギー変調部42が配置部47に配置されているときに、ラッチ部48により第2エネルギー変調部42が拘束されるので、第2エネルギー変調部42が配置部47から位置ずれを起こすことがなくなる。
【0098】
第1エネルギー変調部41には、第1タグ56が取り付けられているとともに、第2エネルギー変調部42には、第2タグ57が取り付けられている。これら第1および第2タグ56,57は、RFIDタグで構成されている。これら第1および第2タグ56,57には、それぞれのエネルギー変調部41,42を識別可能な識別情報が記憶されている。さらに、架台33には、第1タグ56を読み取る非接触式の第1タグ読取部58が設けられるとともに、第2タグ57を読み取る非接触式の第2タグ読取部59が設けられる。
【0099】
第2エネルギー変調部42は、患部Kの深さ位置に応じて交換される部材である。そこで、第2タグ57の識別情報を読み取ることで、適切な第2エネルギー変調部42がセットされているか否かを確認することができる。この確認により、作業者が間違った第2エネルギー変調部42をセットした場合であっても、所定の報知を行って作業者に知らせることができる。なお、第1タグ56の識別情報を読み取ることで、適切な第1エネルギー変調部41がセットされているか否かを確認することができる。
【0100】
第1実施形態では、第2エネルギー変調部42が、照射ポートカバー31の内部から開口部38を介して一方向のみに出し入れされる。この第2エネルギー変調部42が出し入れされる方向を特定方向と称する。つまり、開口部38は、照射ポートカバー31の特定方向に対応する部分に開口されている。このようにすれば、照射ポートカバー31を架台33から取り外さなくても第2エネルギー変調部42の交換作業が容易に行えるようになり、交換作業を簡略化することができるので、メンテナンス性を向上させることができる。
【0101】
第1実施形態では、粒子線ビームBを中心としてビームの径方向に四方に延びる4軸のうちの1つの軸に対応した特定方向に沿って第2エネルギー変調部42の挿入および退避を行えるようになっている。例えば、
図11に示すように、粒子線ビームBを中心としてビームの径方向に四方に延びる4軸(X方向、-X方向、Y方向、-Y方向)のうち、Y方向を照射ポートカバー31の前方とし、-Y方向を照射ポートカバー31の後方とした場合に、特定方向はX方向のみとなる。つまり、第2エネルギー変調部42は、配置部47に対して1つの特定方向に沿って挿入および退避がなされる。
【0102】
このようにすれば、第2エネルギー変調部42の挿入および退避をさせるときの移動距離を短くすることができる。また、照射ポートカバー31の一方向からのみ第2エネルギー変調部42にアクセスする構成となるので、照射ポートカバー31の小型化を図ることができる。
【0103】
図3に示すように、開口部38を閉塞しているときの蓋部39の外面が、照射ポートカバー31の外面と面一を成す。このようにすれば、開口部38の部分が目立たないようになるので、照射ポートカバー31の見栄えを向上させることができる。
【0104】
開口部38は、照射ポートカバー31の治療台13に対向する面以外の側面に設けられる。つまり、開口部38は、照射ポートカバー31の底面以外の側面に設けられる。このようにすれば、治療台13に載置された患者Pから開口部38が見えなくなるので照射ポートカバー31の見栄えを向上させることができる。なお、照射ポートカバー31の正面または背面に開口部38を設けないようにする。
【0105】
図2および
図3に示すように、回転ガントリ5の一方の端部から回転軸Jに沿う視線方向G2で見える面を照射ポートカバー31の正面としたときに、この正面以外の側面に開口部38が設けられる。このようにすれば、患者Pが治療空間12の入口側から照射ポートカバー31を見たときに、開口部38が見えなくなるので、照射ポートカバー31の見栄えを向上させることができる。
【0106】
また、開口部38は、照射ポートカバー31の回転軸Jに対向する面以外の側面に設けられる。このようにすれば、治療台13に載せられて回転軸Jに居る患者Pから照射ポートカバー31を見たときの視線方向G2に対して、開口部38が見えなくなるので照射ポートカバー31の見栄えを向上させることができる。また、開口部38のような機械を連想させる構成を患者Pから見えないようにできるので、患者Pに圧迫感を与えずに済むようになる。
【0107】
図3および
図11に示すように、第2エネルギー変調部42は、第1エネルギー変調部41よりも粒子線ビームBの進行方向の上流側に配置される。このようにすれば、ブラッグピークの拡幅を主に設定する第1エネルギー変調部41が患者Pに近接するので、常に粒子線ビームBの径方向の拡がりを抑えることができる。
【0108】
第1および第2エネルギー変調部41,42の上流側にスキャニング電磁石11が配置されている。また、第1エネルギー変調部41の面積N1は、第2エネルギー変調部42の面積N2よりも広くなっている。なお、粒子線ビームBは、スキャニング電磁石11により横方向に揺れながら患部Kを走査するようになっている。
【0109】
第1実施形態では、第1エネルギー変調部41の面積N1は、第2エネルギー変調部42の面積N2よりも広くなっているので、それぞれのエネルギー変調部41,42の面積N1,N2を粒子線ビームBの走査範囲に応じたものとすることができる。
【0110】
次に、粒子線治療装置1のシステム構成を
図20に示すブロック図を参照して説明する。
【0111】
図20に示すように、粒子線治療装置1は、照射ポート10を制御する照射制御システム50を備える。なお、照射制御システム50は、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0112】
照射制御システム50は、スキャニング電磁石11と、線量モニタ34と、位置モニタ35と、レンジシフタ36と、操作部40と、蓋駆動部51と、ガイド駆動部52と、ラッチ駆動部53と、位置検出センサ54と、ラッチセンサ55と、第1タグ読取部58と、第2タグ読取部59と、報知出力部60と、設定記憶部61と、配置判定部62と、タグ判定部63と、照射制御部64とを備える。
【0113】
報知出力部60は、第2エネルギー変調部42の交換作業するときに所定の報知を行う。この報知出力部60は、報知情報を表示するディスプレイでも良いし、報知音を出力するスピーカでも良い。なお、報知出力部60は、照射ポート10に設けられている。なお、報知出力部60は、技師が居る制御室の制御コンピュータに設けられていても良い。
【0114】
設定記憶部61は、粒子線治療に必要な患者Pおよび患部Kに関する設定情報を記憶する。この設定情報には、患部Kの位置および範囲に関する情報、患部Kに照射する線量に関する情報、第1および第2エネルギー変調部41,42に関する情報が含まれる。なお、設定記憶部61は、制御室の制御コンピュータに設けられていている。設定記憶部61に対する設定情報の入力は、粒子線治療を開始する前、特に第2エネルギー変調部42の交換作業を行う前に予めなされる。
【0115】
配置判定部62は、位置検出センサ54およびラッチセンサ55による検出に基づいて、第2エネルギー変調部42が配置部47に配置されたか否かを判定する。この判定結果は、照射制御部64に送られる。このようにすれば、第2エネルギー変調部42が配置部47に配置された否かを把握することができる。
【0116】
タグ判定部63は、タグ読取部58,59で読み取られた識別情報に基づいて、適切なタグ56,57がタグ読取部58,59で読み取られたか否かを判定する。この判定結果は、照射制御部64に送られる。なお、タグ判定部63による判定は、設定記憶部61に予め記憶された設定情報と比較することで行われる。
【0117】
照射制御部64は、照射ポート10の各機器の制御を行う。この照射制御部64は、スキャニング電磁石11およびレンジシフタ36を制御する。なお、照射制御部64は、スキャニング電磁石11から粒子線ビームBの制御結果を示す情報を取得する。
【0118】
また、照射制御部64は、線量モニタ34および位置モニタ35から粒子線ビームBに関する情報を取得する。さらに、照射制御部64は、所定の報知を行うときに報知出力部60の制御を行う。
【0119】
また、照射制御部64は、設定記憶部61から設定情報を取得する。さらに、照射制御部64は、粒子線治療中または粒子線治療終了後に、治療に関する情報および各種フラグに関する情報を設定記憶部61に記憶させる。
【0120】
操作部40は、蓋駆動部51とガイド駆動部52とラッチ駆動部53を制御する。なお、照射制御部64は、操作部40から蓋部39およびガイド部45の駆動に関する情報を取得する。また、操作部40は、粒子線治療が停止中であるか否か、つまり、蓋部39およびガイド部45の駆動を行っても安全であるか否かの情報を照射制御部64から取得する。
【0121】
なお、図示は省略するが、粒子線治療装置1は、ビーム発生器2と円形加速器3とビーム輸送ライン4を制御する加速器制御システムと、回転ガントリ5を制御するガントリ制御システムと、治療台13を制御する治療台制御システムを備える。照射制御システム50の照射制御部64は、加速器制御システム、ガントリ制御システムおよび治療台制御システムのそれぞれと双方向に制御情報のやり取りをしつつ、照射ポート10の制御を行う。
【0122】
本実施形態のシステムは、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の粒子線治療装置1の作動方法は、プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0123】
次に、照射制御システム50が実行する第2エネルギー変調部42の交換処理について
図21および
図22のフローチャートを用いて説明する。なお、
図20に示すブロック図を適宜参照する。
【0124】
図21に示すように、まず、ステップS11において、照射制御部64は、粒子線治療装置1が停止中であるか否かを判定する。つまり、ビーム発生器2と円形加速器3とビーム輸送ライン4と回転ガントリ5が停止中であるか否かを判定する。ここで、粒子線治療装置1が停止中でない場合(ステップS11がNO)は、第2エネルギー変調部42の交換処理を終了する。一方、粒子線治療装置1が停止中である場合(ステップS11がYES)は、ステップS12に進む。
【0125】
次のステップS12において、作業者が設定記憶部61に対して設定情報の入力を行う。ここで、交換用の第2エネルギー変調部42’に関する設定情報が入力される。なお、設定情報の入力は、上位系から所定のタイミングで自動的に行われてもよい。
【0126】
次のステップS13において、操作部40は、開口部38の開放操作があるか否かを判定する。ここで、作業者が操作部40による開放操作を行わなかった場合(ステップS13がNO)は、第2エネルギー変調部42の交換処理を終了する。一方、作業者が操作部40による開放操作を行った場合(ステップS13がYES)は、ステップS14に進む。
【0127】
次のステップS14において、操作部40は、蓋駆動部51により蓋部39を駆動し、開口部38を開放する。
【0128】
次のステップS15において、操作部40は、ガイド駆動部52によりガイド部45を駆動し、開口部38からガイド部45を外部に突出させて、照射ポートカバー31から第2エネルギー変調部42を引き出す。なお、このときに、ガイド部45により配置部47から特定方向に沿って第2エネルギー変調部42が退避される。つまり、第2エネルギー変調部42が、粒子線ビームBの軌道上から退避される位置に移動する。
【0129】
次のステップS16において、操作部40は、ラッチ駆動部53によりラッチ部48を駆動し、第2エネルギー変調部42の拘束を解除する。
【0130】
次のステップS17において、ラッチ部48の解除が行われた状態で、作業者が第2エネルギー変調部42の交換を行う。つまり、作業者は、開口部38を介して第2エネルギー変調部42に対してアクセスすることができる。ここで、作業者が第2エネルギー変調部42の交換を終えたときに、操作部40による完了操作を行う。
【0131】
次のステップS18において、操作部40は、ラッチ駆動部53によりラッチ部48を駆動し、第2エネルギー変調部42を拘束する。なお、第2エネルギー変調部42がラッチ部48により拘束されると、その旨がラッチセンサ55により検出される。
【0132】
次のステップS19において、操作部40は、ガイド駆動部52によりガイド部45を駆動し、開口部38にガイド部45を挿入し、照射ポートカバー31の内部の第2エネルギー変調部42を引き込む。なお、このときに、ガイド部45により配置部47に対して特定方向に沿って第2エネルギー変調部42が挿入される。つまり、第2エネルギー変調部42が、第1エネルギー変調部41に重なる位置であり、かつ粒子線ビームBの軌道上の位置に移動する。
【0133】
次のステップS20において、第2エネルギー変調部42が配置部47に配置されたとき、つまり、ガイド部45が定位置まで移動されると、その旨が位置検出センサ54により検出される。なお、このときに、第2エネルギー変調部42が粒子線ビームBの軌道上に設けられる。
【0134】
次のステップS21において、操作部40は、蓋駆動部51により蓋部39を駆動し、開口部38を閉塞する。
【0135】
図22に示すように、次のステップS22において、第1タグ読取部58は、照射ポートカバー31に配置された第1エネルギー変調部41の第1タグ56の識別情報を読み取る。
【0136】
次のステップS23において、タグ判定部63は、設定記憶部61に記憶された第1エネルギー変調部41に関する設定情報と、第1タグ読取部58で読み取られた第1タグ56の識別情報とを比較し、第1エネルギー変調部41が適切なものであるか否かを判定する。ここで、第1エネルギー変調部41が適切なものでない場合(ステップS23がNO)は、ステップS31に進み、報知出力部60による異常報知を行い、処理を終了する。一方、第1エネルギー変調部41が適切なものである場合(ステップS23がYES)は、ステップS24に進む。
【0137】
次のステップS24において、照射制御部64は、開口部38が蓋部39により閉塞されているか否かを判定する。ここで、開口部38が蓋部39により閉塞されていない場合(ステップS24がNO)は、ステップS31に進み、報知出力部60による異常報知を行い、処理を終了する。一方、開口部38が蓋部39により閉塞されている場合(ステップS24がYES)は、ステップS25に進む。
【0138】
次のステップS25において、配置判定部62は、ラッチセンサ55による検出に基づいて、第2エネルギー変調部42がラッチ部48により拘束されているか否かを判定する。ここで、第2エネルギー変調部42がラッチ部48により拘束されていない場合(ステップS25がNO)は、ステップS31に進み、報知出力部60による異常報知を行い、処理を終了する。一方、第2エネルギー変調部42がラッチ部48により拘束されている場合(ステップS25がYES)は、ステップS26に進む。
【0139】
次のステップS26において、配置判定部62は、位置検出センサ54による検出に基づいて、第2エネルギー変調部42が配置部47に配置されているか否かを判定する。ここで、第2エネルギー変調部42が配置部47に配置されていない場合(ステップS26がNO)は、ステップS31に進み、報知出力部60による異常報知を行い、処理を終了する。一方、第2エネルギー変調部42が配置部47に配置されている場合(ステップS26がYES)は、ステップS27に進む。
【0140】
次のステップS27において、第2タグ読取部59は、配置部47に配置された第2エネルギー変調部42の第2タグ57の識別情報を読み取る。
【0141】
次のステップS28において、タグ判定部63は、設定記憶部61に記憶された第2エネルギー変調部42に関する設定情報と、第2タグ読取部59で読み取られた第2タグ57の識別情報とを比較し、第2エネルギー変調部42が適切なものであるか否かを判定する。ここで、第2エネルギー変調部42が適切なものでない場合(ステップS28がNO)は、ステップS31に進み、報知出力部60による異常報知を行い、処理を終了する。一方、第2エネルギー変調部42が適切なものである場合(ステップS28がYES)は、ステップS29に進む。
【0142】
次のステップS29において、照射制御部64は、報知出力部60により、正常に交換作業が完了したことを知らせる完了報知を行う。
【0143】
次のステップS30において、照射制御部64は、照射許可フラグをセットし、処理を終了する。
【0144】
次に、照射制御システム50が実行する粒子線治療処理について
図23のフローチャートを用いて説明する。なお、
図20に示すブロック図を適宜参照する。
【0145】
図23に示すように、粒子線治療を開始するときにおいて、まず、ステップS41において、照射制御部64は、照射許可フラグがセットされているか否かを判定する。ここで、照射許可フラグがセットされていない場合(ステップS41がNO)は、ステップS52に進み、報知出力部60による停止報知を行い、処理を終了する。一方、照射許可フラグがセットされている場合(ステップS41がYES)は、ステップS42に進む。
【0146】
次のステップS42において、照射制御部64は、加速器制御システムに照射許可信号を送信し、粒子線ビームBの出力を行う。
【0147】
次のステップS43において、照射制御部64は、スキャニング電磁石11による粒子線ビームBの走査方向の調整を行う。
【0148】
次のステップS44において、照射制御部64は、線量モニタ34による粒子線ビームBの線量の計測を行い粒子線ビームBの線量が正常な範囲にあるか否かを判定する。ここで、粒子線ビームBの線量に異常がある場合(ステップS44がNO)は、粒子線ビームBの出力を停止し、ステップS52に進み、報知出力部60による停止報知を行い、処理を終了する。一方、粒子線ビームBの線量が正常な範囲にある場合(ステップS44がYES)は、ステップS45に進む。
【0149】
次のステップS45において、照射制御部64は、位置モニタ35による粒子線ビームBの位置の計測を行い、粒子線ビームBの位置が正常な範囲にあるか否かを判定する。ここで、粒子線ビームBの位置に異常がある場合(ステップS45がNO)は、粒子線ビームBの出力を停止し、ステップS52に進み、報知出力部60による停止報知を行い、処理を終了する。一方、粒子線ビームBの位置が正常な範囲にある場合(ステップS45がYES)は、ステップS46に進む。
【0150】
次のステップS46において、照射制御部64は、レンジシフタ36による粒子線ビームBの飛翔距離の調整を行う。
【0151】
次のステップS47において、粒子線ビームBは、第2エネルギー変調部42を通過する。
【0152】
次のステップS48において、粒子線ビームBは、第1エネルギー変調部41を通過する。
【0153】
次のステップS49において、粒子線ビームBが患者に向けて照射され、第1および第2エネルギー変調部41,42によりブラッグピークが拡幅された粒子線ビームBが患部Kに到達する。
【0154】
次のステップS50において、照射制御部64は、粒子線治療が終了したか否かを判定する。ここで、粒子線治療が終了していない場合(ステップS50がNO)は、前述のステップS42に戻る。一方、粒子線治療が終了した場合(ステップS50がYES)は、ステップS51に進む。
【0155】
次のステップS51において、照射制御部64は、照射許可フラグをクリアし、処理を終了する。
【0156】
第1実施形態では、照射許可フラグがセットされている場合にのみ、粒子線ビームBの照射がなされる。つまり、前述のステップS25において、第2エネルギー変調部42がラッチ部により拘束されていると判定された場合に粒子線ビームBの照射が許可される。このようにすれば、第2エネルギー変調部42がラッチ部48により拘束されていないときに、粒子線ビームBが照射されないので、インターロックを構成することができる。
【0157】
また、前述のステップS26において、第2エネルギー変調部42が配置部47に配置されていると判定された場合に粒子線ビームBの照射が許可される。このようにすれば、第2エネルギー変調部42が配置部47に配置されていないときに、粒子線ビームBが照射されないので、インターロックを構成することができる。
【0158】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の粒子線治療装置1Aの照射ポート10Aについて
図24を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0159】
図24に示すように、第2実施形態では、第1エネルギー変調部41が架台33に固定されている。また、第2エネルギー変調部42が、照射ポートカバー31Aの底部の裏面に接続部37を介して着脱自在に取り付けられる。つまり、第1エネルギー変調部41の下方に第2エネルギー変調部42が設けられる。なお、第2実施形態では、照射ポートカバー31Aの底部の裏面が配置部47となっている。また、照射ポートカバー31Aの接続部37が位置規定部となっている。
【0160】
このように、第2実施形態の第2エネルギー変調部42は、第1エネルギー変調部41よりも粒子線ビームBの進行方向の下流側に配置される。なお、第2実施形態では、照射ポートカバー31Aの側面に開口部38(
図4参照)が設けられていない。
【0161】
また、第2エネルギー変調部42の面積は、第1エネルギー変調部41の面積よりも広くなっている。このようにすれば、それぞれのエネルギー変調部41,42の面積を粒子線ビームBの走査範囲に応じたものとすることができる。
【0162】
第2エネルギー変調部42の交換作業を行う場合には、照射ポートカバー31Aを架台33から取り外す。そして、照射ポートカバー31Aから第2エネルギー変調部42を取り外し、交換用の第2エネルギー変調部42’を取り付けるようにする。
【0163】
第2実施形態では、第2エネルギー変調部42を照射ポート10Aにおいて患者Pに最も近接する部分に設けることができる。また、粒子線ビームBの進行方向の下流側から第2エネルギー変調部42にアクセスし易くなるので、第2エネルギー変調部42の交換作業が容易に行えるようになる。
【0164】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の粒子線治療装置1Bの照射ポート10Bについて
図25を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0165】
図25に示すように、第3実施形態では、第1エネルギー変調部41が架台33に固定されている。また、照射ポートカバー31Bの底部には、第2エネルギー変調部42が配置される開口部71が開口されている。つまり、第1エネルギー変調部41の下方に第2エネルギー変調部42が設けられる。
【0166】
また、照射ポートカバー31Bの底部の開口部71の縁辺には、第2エネルギー変調部42が着脱可能に接続される接続部37が設けられる。なお、第3実施形態では、照射ポートカバー31Bの底部の開口部71が配置部となっている。また、照射ポートカバー31Bの接続部37が位置規定部となっている。
【0167】
このように、第3実施形態の第2エネルギー変調部42は、第1エネルギー変調部41よりも粒子線ビームBの進行方向の下流側に配置される。なお、第3実施形態では、照射ポートカバー31Bの側面に開口部38(
図4参照)が設けられていない。
【0168】
また、照射ポートカバー31Bの底部の表面には、化粧カバー72が着脱可能に取り付けられる。この化粧カバー72により第2エネルギー変調部42を隠蔽することができるので、照射ポート10Bの見栄えを向上させることができる。
【0169】
第2エネルギー変調部42の交換作業を行う場合には、照射ポートカバー31Bから化粧カバー72を取り外す。そして、照射ポートカバー31Bの開口部71から第2エネルギー変調部42を取り外し、交換用の第2エネルギー変調部42’を取り付けるようにする。その後、化粧カバー72を再び取り付けるようにする。
【0170】
第3実施形態では、第2エネルギー変調部42が第1エネルギー変調部41よりも粒子線ビームBの進行方向の下流側に配置される場合において、照射ポートカバー31Bを取り外さずに、第2エネルギー変調部42の交換作業を行うことができる。
【0171】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態の粒子線治療装置1Cの照射ポート10Cについて
図26を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0172】
図26に示すように、第4実施形態では、第1エネルギー変調部41が架台33に固定されている。また、第1エネルギー変調部41よりも下方において、第2エネルギー変調部42が架台33に固定されている。つまり、第1および第2エネルギー変調部41,42の両方が架台33に支持されている。さらに、照射ポートカバー31Cの底部には、開口部73が開口されている。なお、架台33の下端は、開口部73に対応する位置に設けられる。
【0173】
架台33の下端には、第2エネルギー変調部42が着脱可能に接続される接続部37が設けられる。第4実施形態では、架台33の下端が配置部47となっている。この架台33の下端は、照射ポートカバー31Cの開口部73の位置に対応して設定される。つまり、第4実施形態では、照射ポートカバー31Cの開口部73が位置規定部となっている。
【0174】
このように、第4実施形態の第2エネルギー変調部42は、第1エネルギー変調部41よりも粒子線ビームBの進行方向の下流側に配置される。なお、第4実施形態では、照射ポートカバー31Cの側面に開口部38(
図4参照)が設けられていない。
【0175】
なお、照射ポートカバー31Cは、胴カバー32を介して架台33に支持される。照射ポートカバー31Cの開口部73の縁辺と、架台33との間には隙間が形成されている。
【0176】
第2エネルギー変調部42の交換作業を行う場合には、架台33の接続部37から第2エネルギー変調部42を取り外す。そして、交換用の第2エネルギー変調部42’を架台33の接続部37に取り付けるようにする。
【0177】
第4実施形態では、第2エネルギー変調部42が架台33に支持されるので、第2エネルギー変調部42を強固に支持することができる。また、粒子線ビームBの進行方向の下流側から第2エネルギー変調部42にアクセスし易くなるので、第2エネルギー変調部42の交換作業が容易に行えるようになる。さらに、第2エネルギー変調部42を取り外すと、第1エネルギー変調部41にアクセスすることができる。
【0178】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態の粒子線治療装置1Dの照射ポート10Dについて
図27を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0179】
図27に示すように、第5実施形態では、第1エネルギー変調部41が架台33に固定されている。また、第2エネルギー変調部42が、照射ポートカバー31Dの底部の表面に接続部37を介して着脱自在に取り付けられる。つまり、第1エネルギー変調部41の下方に第2エネルギー変調部42が設けられる。なお、第5実施形態では、照射ポートカバー31Dの底部の表面が配置部47となっている。また、照射ポートカバー31Dの接続部37が位置規定部となっている。
【0180】
このように、第5実施形態の第2エネルギー変調部42は、第1エネルギー変調部41よりも粒子線ビームBの進行方向の下流側に配置される。なお、第5実施形態では、照射ポートカバー31Dの側面に開口部38(
図4参照)が設けられていない。
【0181】
第2エネルギー変調部42の交換作業を行う場合には、照射ポートカバー31Dの接続部37から第2エネルギー変調部42を取り外す。そして、交換用の第2エネルギー変調部42’を照射ポートカバー31Dの接続部37に取り付けるようにする。
【0182】
第5実施形態では、第2エネルギー変調部42が照射ポートカバー31Dの表面に設けられているので、交換作業を容易に行うことができる。
【0183】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態の粒子線治療装置1Eの照射ポート10Eについて
図28を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0184】
図28に示すように、第6実施形態では、第1エネルギー変調部41Eは、照射ポートカバー31Eの底部の裏面に設けられている。この第1エネルギー変調部41Eは、接続部37により照射ポートカバー31Eに取り付けられる。また、第2エネルギー変調部42は、第1エネルギー変調部41Eの上方のガイド部45に設けられる。つまり、第1エネルギー変調部41Eが第2エネルギー変調部42よりも粒子線ビームBの進行方向の下流側に配置される。
【0185】
第6実施形態の第1エネルギー変調部41Eは、多孔質の材質で形成された多孔質ブロックから成る。この多孔質ブロックは、合成樹脂の内部に微細な空洞が多数形成されている。つまり、多孔質ブロックの内部は、微細な空洞とブロックを構成する物質とが斑に配置されている。多孔質ブロックには、少数の空洞を通る経路と、多数の空洞を通る経路とが形成される。なお、ここで言う経路とは、第1エネルギー変調部41Eを一方の面から他方の面に向かって上下方向に通過する直線を示す。
【0186】
例えば、少数の空洞を通る経路を通過した粒子線ビームBは、多数の空洞を通る経路を通過した粒子線ビームBよりもエネルギーが減衰される。つまり、患者Pの体内において、患者Pの体内において、少数の空洞を通過した粒子線ビームBは、多数の空洞を通過した粒子線ビームBよりも浅い位置で停止される。このように、第1エネルギー変調部41Eが多孔質ブロックから成ることで、粒子線ビームBのエネルギーの分布を変化させることができる。これにより粒子線ビームBのブラッグピークを拡幅させることができる。
【0187】
なお、多孔質ブロックは、通過する粒子線ビームBの線量がガウス分布を示すように設定される。また、多孔質ブロックから成る第1エネルギー変調部41Eの厚み寸法T1は、リッジフィルタから成る第2エネルギー変調部42の厚み寸法T2よりも厚くなっている。
【0188】
第6実施形態では、第1エネルギー変調部は、多孔質の材質で形成されることで、リッジフィルタで形成するときよりも、第1エネルギー変調部41Eを容易に製造することができる。
【0189】
また、厚みを有する第1エネルギー変調部41Eが照射ポートカバー31Eに固定され、これよりも薄い第2エネルギー変調部42が交換作業の対象となるので、メンテナンス性を向上させることができる。
【0190】
多孔質ブロックには、粒子線ビームBを散乱させてしまうという副次的な性質があるが、第6実施形態では、第1エネルギー変調部41Eの位置が、照射ポートカバー31Eの患者Pに最も近接する部分とほぼ一致するので、粒子線ビームBのブラッグピークを拡幅させつつ、粒子線ビームBの径方向の拡がりを抑えることができる。
【0191】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態の粒子線治療装置1Fの照射ポート10Fについて
図29を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0192】
図29に示すように、照射ポートカバー31Fの底部が多孔質の材質で形成され、この部分が第1エネルギー変調部41Fとなっている。この照射ポートカバー31Fの底部が位置規定部となっている。また、リッジフィルタから成る第2エネルギー変調部42は、第1エネルギー変調部41Fの上方のガイド部45に設けられる。
【0193】
第7実施形態では、第1エネルギー変調部41Fが露呈されているが、照射ポートカバー31Fと第1エネルギー変調部41Fが一体化されるので、第1エネルギー変調部41Fの部分を目立ち難くすることができる。そのため、照射ポート10Fの見栄えを向上させることができる。
【0194】
(第8実施形態)
次に、第8実施形態の粒子線治療装置1Gの照射ポート10Gについて
図30を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0195】
図30に示すように、第8実施形態では、照射ポートカバー31Gの内部には、3つのガイド部45が設けられている。それぞれのガイド部45には、第2エネルギー変調部42が設けられる。つまり、3つの第2エネルギー変調部42が上下方向に並んで配置される。
【0196】
照射ポートカバー31Gの内部には、それぞれの第2エネルギー変調部42に対応して配置部47が設けられる。これらの配置部47は、第1エネルギー変調部41に重なり、かつブラッグピークの拡幅を補う位置となっている。また、照射ポートカバー31Gの内部には、粒子線ビームBの軌道上から退避される位置である退避部74が設けられる。
【0197】
ガイド部45が駆動されることで、第2エネルギー変調部42が配置部47と退避部74との間で移動される。つまり、予め複数の第2エネルギー変調部42を照射ポートカバー31Gの内部に配置しておくことができ、照射対象に応じて第2エネルギー変調部42を変更することができる。
【0198】
照射ポートカバー31Gの側面には、大型の開口部38が開口されている。この開口部38は、蓋部39により閉塞される。開口部38を開口することで、作業者がそれぞれの第2エネルギー変調部42にアクセスすることができる。
【0199】
また、ガイド部45を開口部38から外部に突出させて、第2エネルギー変調部42の交換作業を行うこともできる。なお、3つの第2エネルギー変調部42は、ガイド部45の駆動により同一の特定方向に沿って移動される。この特定方向に対応して開口部38が形成されている。
【0200】
また、2つ以上の第2エネルギー変調部42を配置部47に配置した状態で粒子線ビームBの照射を行っても良い。さらに、全ての第2エネルギー変調部42を退避部74に退避した状態で粒子線ビームBの照射を行っても良い。
【0201】
第8実施形態では、予め複数の第2エネルギー変調部42を照射ポートカバー31Gの内部に配置しておき、照射対象に応じて第2エネルギー変調部42を変更することができるので、メンテナンス性を向上させることができる。
【0202】
本実施形態に係る粒子線治療装置を第1実施形態から第8実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
【0203】
なお、本実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0204】
本実施形態のシステムは、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。このシステムは、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0205】
なお、本実施形態のシステムで実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
【0206】
また、このシステムで実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、このシステムは、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0207】
なお、本実施形態では、重粒子線がん治療を行う施設を例示しているが、その他の施設にも本実施形態を適用できる。例えば、陽子線がん治療を行う施設に本実施形態を適用しても良い。
【0208】
なお、本実施形態の位置規定部は、エネルギー変調部41,42との接続部37でも良いし、エネルギー変調部41,42が配置される開口部71,73でも良いし、エネルギー変調部41,42が取付治具を介して間接的に照射ポートカバー31に接続される部分でも良い。
【0209】
なお、複数の第1エネルギー変調部41を重ねて使用し、粒子線ビームBのブラッグピークの拡幅を行っても良い。また、複数の第2エネルギー変調部42を重ねて使用し、粒子線ビームBのブラッグピークの拡幅を行っても良い。
【0210】
なお、第2エネルギー変調部42を用いずに、第1エネルギー変調部41のみを用いて粒子線ビームBのブラッグピークの拡幅を行っても良い。
【0211】
なお、本実施形態のアクセスの用語は、作業者がエネルギー変調部42に触れることができる態様を含む。例えば、エネルギー変調部42を照射ポートカバー31の外部に移動させずに、作業者がエネルギー変調部42に触れることができることもアクセスに含まれる。また、アクセスの用語には、作業者がエネルギー変調部42に近接して、見ることができる態様を含む。
【0212】
なお、本実施形態の粒子線治療装置1は、回転ガントリ5を備えているが、回転ガントリ5が設けられておらず、照射ポート10が固定的に配置される固定照射室を備えた粒子線治療装置であっても良い。
【0213】
なお、エネルギー変調部42を保持する枠部を設け、エネルギー変調部42と枠部とで開口部38に対して着脱可能なカートリッジ式の交換器具を構成しても良い。そして、枠部に開口部38を閉塞する蓋部39を一体的に設けるようにし、蓋部39を枠部とともに開口部38に対して着脱可能にしても良い。
【0214】
なお、本実施形態では、タグ56,57に記憶された識別情報に基づいて、適切なエネルギー変調部41,42が配置されているか否を判定しているが、タグ56,57以外の構成で適切なエネルギー変調部41,42が配置されているか否を判定しても良い。例えば、エネルギー変調部41,42の縁辺に、エネルギー変調部41,42毎に異なる形状の凹凸を設けるようにし、凹凸の形状を読み取ることで、適切なエネルギー変調部41,42が配置されているか否を判定しても良い。
【0215】
なお、本実施形態では、空気が無い真空ダクトDの内部を粒子線ビームBが進行することで、粒子線ビームBが空気で散乱されないようになっているが、この真空ダクトDの内部は必ずしも真空にしなくても良い。例えば、真空ダクトDの内部に粒子線ビームBの散乱が比較的少ないヘリウムガスがあっても良い。
【0216】
なお、本実施形態では、蓋部39を開閉させる蓋駆動部51が設けられているが、蓋部39をフラップ式とし、ガイド部45の移動に応じて開閉されるものとしても良い。また、蓋部39を作業者が手で押すことでバネにより開放されるプッシュ式としても良い。
【0217】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、照射ポートカバーの患者に最も近接する部分に対応して設けられ、通過する粒子線ビームのブラッグピークを拡幅するエネルギー変調部を備えることにより、粒子線ビームのブラッグピークを拡幅させつつ、粒子線ビームの径方向の拡がりを抑えることができる。
【0218】
また、少なくとも1つの実施形態によれば、軌道上から退避される位置と第1エネルギー変調部に重なりブラッグピークの拡幅を補う軌道上の位置との間で移動可能な第2エネルギー変調部を備えることにより、エネルギー変調部の変更作業を簡略化することができる。
【0219】
また、少なくとも1つの実施形態によれば、照射ポートカバーの特定方向に対応する部分に開口され、エネルギー変調部に対してアクセスを可能にする開口部を備えることにより、メンテナンス性を向上させることができる。
【0220】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0221】
1(1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G)…粒子線治療装置、2…ビーム発生器、3…円形加速器、4…ビーム輸送ライン、5…回転ガントリ、6…偏向電磁石、7…支持ローラ、8…駆動モータ、9…エンドリング、10(10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G)…照射ポート、11…スキャニング電磁石、12…治療空間、13…治療台、14…建屋、15…治療室、16…内壁部、17…サポート部、18…逆回転同期モータ、19…化粧壁、20a,20b…軌道レール、21…移動床、22…高周波加速空洞、23,24…偏向電磁石、25…四極電磁石、30…ビーム出射部、31(31A,31B,31C,31D,31E,31F,31G)…照射ポートカバー、32…胴カバー、33…架台、34…線量モニタ、35…位置モニタ、36…レンジシフタ、37…接続部、38…開口部、39…蓋部、40…操作部、41(41E,41F)…第1エネルギー変調部、42…第2エネルギー変調部、43…リッジバー、44(44a,44b)…段部、45…ガイド部、46…移動保持部、47…配置部、48…ラッチ部、50…照射制御システム、51…蓋駆動部、52…ガイド駆動部、53…ラッチ駆動部、54…位置検出センサ、55…ラッチセンサ、56…第1タグ、57…第2タグ、58…第1タグ読取部、59…第2タグ読取部、60…報知出力部、61…設定記憶部、62…配置判定部、63…タグ判定部、64…照射制御部、71…開口部、72…化粧カバー、73…開口部、74…退避部、80…スライス面、81…照射スポット、82,83,84…ブラッグピーク、90,91,92…ガウス分布、93,94a,94b…ブラッグピーク、95,96a,96b…エネルギー分布、B(B1,B2)…粒子線ビーム、D…真空ダクト、F…走査範囲、G1,G2…視線方向、J…回転軸、K…患部、M1…開口部の縦寸法、M2…開口部の横寸法、N1…第1エネルギー変調部の面積、N2…第2エネルギー変調部の面積、P…患者、Q1…患者の体内の患部がある範囲、Q2…ブラッグピークが生じる深さ方向の範囲、R1…リッジバーの幅寸法、R2…段部の高さ寸法、R3…段部の幅寸法、R4…第1エネルギー変調部のリッジバーの高さ寸法、R5…第2エネルギー変調部のリッジバーの高さ寸法、R6,R7…段部の高さ寸法、R8,R9…段部の幅寸法、T1…第1エネルギー変調部の厚み寸法、T2…第1エネルギー変調部の厚み寸法。