(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】メタサーフェス反射板および該メタサーフェスを備えた信号機
(51)【国際特許分類】
H01Q 15/22 20060101AFI20240610BHJP
H01Q 15/14 20060101ALI20240610BHJP
G08G 1/095 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
H01Q15/22
H01Q15/14 Z
G08G1/095 C
(21)【出願番号】P 2019169090
(22)【出願日】2019-09-18
【審査請求日】2022-08-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000217653
【氏名又は名称】電気興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100193389
【氏名又は名称】谷口 智利
(72)【発明者】
【氏名】タナン ホンナラ
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 克守
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆吉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 啓介
(72)【発明者】
【氏名】大島 一郎
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-109264(JP,A)
【文献】特表2016-502792(JP,A)
【文献】国際公開第2018/156445(WO,A1)
【文献】特開2010-226695(JP,A)
【文献】米国特許第09515390(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0067826(US,A1)
【文献】Rajanikanta SWAIN et al.,“PHASE QUANTIZED METASURFACE SUPERCELLS FOR WAVE MANIPULATION AND RCS REDUCTION”,ProgressIn Electromagnetics Research M,2018年,Vol. 74,p.125-135
【文献】Shao-Yi XIE et al.,Design of a random distribution frequency selective surface,2014 International Conference on Electromagnetics in Advanced Applications (ICEAA),2014年08月,pp.834-836,DOI: 10.1109/ICEAA.2014.6903974
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 15/22
H01Q 15/14
G08G 1/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のメタサーフェス反射板から構成され、
前記メタサーフェス反射板は、
誘電体基板、
前記誘電体基板の底面に設けられ、全ての向きの偏波に対しメタサーフェス反射板を透過させない金属グラウンド層、および、
アーム長の異なる2種以上の十字型の金属共振器を有する複数のスーパーセルを備え、
前記金属共振器を有するスーパーセルは、
前記誘電体基板の上面に形成され、
入射波の垂直偏波および水平偏波を反射させ、
所定周波数での電磁波を要求される位相で異常波反射させる回折格子の周期で配列され、
前記電磁波を所望の範囲で拡散するものであり、
前記メタサーフェス反射板は、
水平方向に配列され、
主ローブ方向が水平面内の互いに異なる向きである、
メタサーフェス。
【請求項2】
複数のメタサーフェス反射板から構成され、
前記メタサーフェス反射板は、
誘電体基板、
前記誘電体基板の底面に設けられ、全ての向きの偏波に対しメタサーフェス反射板を透過させない金属グラウンド層、および、
アーム長の異なる2種以上の十字型の金属共振器を有する複数のスーパーセルを備え、
前記金属共振器を有するスーパーセルは、
前記誘電体基板の上面に形成され、
入射波の垂直偏波および水平偏波を反射させ、
所定周波数での電磁波を要求される位相で異常波反射させる回折格子の周期で配列され、
前記電磁波を所望の範囲で拡散するものであり、
前記メタサーフェス反射板は、
垂直方向に配列され、
主ローブ方向が垂直面内の互いに異なる向きである、
メタサーフェス。
【請求項3】
複数のメタサーフェス反射板から構成され、
前記メタサーフェス反射板は、
誘電体基板、
前記誘電体基板の底面に設けられ、全ての向きの偏波に対しメタサーフェス反射板を透過させない金属グラウンド層、および、
アーム長の異なる2種以上の十字型の金属共振器を有する複数のスーパーセルを備え、
前記金属共振器を有するスーパーセルは、
前記誘電体基板の上面に形成され、
入射波の垂直偏波および水平偏波を反射させ、
所定周波数での電磁波を要求される位相で異常波反射させる回折格子の周期で配列され、
前記電磁波を所望の範囲で拡散するものであり、
前記メタサーフェス反射板は、
水平方向および垂直方向に配列され、
主ローブ方向が水平面内または垂直面内の互いに異なる向きである、
メタサーフェス。
【請求項4】
前記メタサーフェス
反射板において、
前記スーパーセルは回折格子の周期で水平方向に配列され、
入射波に対する主ローブ方向が略水平面内の所定方向である、請求項1または3のいずれかに記載のメタサーフェス。
【請求項5】
前記メタサーフェス
反射板において、
前記スーパーセルは回折格子の周期で垂直方向に配列され、
入射波に対する主ローブ方向が略垂直面内の所定方向である、請求項2または3のいずれかに記載のメタサーフェス。
【請求項6】
前記メタサーフェス反射板において、
前記スーパーセルは回折格子の周期で水平方向または垂直方向に配置され、
入射波に対する主ローブ方向が水平方向および垂直方向から0以外の所定角度だけ傾いた方向である、請求項1ないし3のいずれかに記載のメタサーフェス。
【請求項7】
前記メタサーフェス反射板において、
前記入射波は無線通信用であって、前記所定周波数は3.6GHz以上である、請求項1ないし
6のいずれかに記載のメタサーフェス。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のメタサーフェスを備えた信号機であって、反射波の主ローブ方向が、前記信号機の対象とする移動体の移動方向であって、前記所定周波数が移動体通信用周波数または携帯端末通信用周波数に設定されている、信号機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタサーフェス技術を用いた平面薄型の反射板に関し、特に、ワイアレス通信システムなどにおける電磁波反射板用の、反射周波数選択性表面を有するメタサーフェス反射板および該メタサーフェスを備えた信号機に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、 商用分野にも第5世代、いわゆる5Gのモバイル通信規格が導入されている。本規格では高スループット、より多くのチャネル容量、および、低遅延でのパフォーマンスの改善が大いに求められている。
データ速度の面では、本規格では10Gbps以上のスループットが約束されている。この事実に対応するため、ある解決案では5Gモバイル通信は非常に高い周波数を用いて動作することが提案されている。
多くの国々で、26GHzから28GHzの周波数領域のミリ波帯域が導入され実証された。この非常に高い周波数により、モバイル通信システムで非常に高いスループットを達成する、より広い帯域幅で伝送ができる。
それにも関わらず、モバイル通信にはカバーエリアに問題がある。ミリ波周波数を用いることから、電磁波は波の伝搬において高い直進性を持つ。波の伝搬では、障害物を屈折により通過するのが難しい。そのため、通信システムはカバーエリアが小さい。
上述の事由から、電磁波の反射板の考えが用いられてきた。伝搬する波は、反射板により所望の方向に反射することができる。この解決法は非常に単純でコストも低い。しかしながら、通常の金属反射板を使うと、反射板は所望の反射方向の角度まで回される。それゆえ、これを実施sると、反射角度が大きい場合には体積が大きくなる。特に室内環境では、実際には向いていない。
近年、メタサーフェスと名付けられた電磁波の反射器が提案されている。メタサーフェスの反射特性は、反射面上の波長以下の共振器の配列で生まれる、表面のインピーダンスと反射位相に依存する。メタサーフェスは周期的に配列された共振器や非周期的に配列された共振器で構成される。共振器を最適化することにより、メタサーフェスはその平面形状を維持しながら所望の反射角度を実現できるため、現実の環境で実施するのに適している。
さらに、基地局アンテナには、主に二偏波アンテナが求められている。これは通常、モバイル通信システムで高いスループットを実現するためのMIMO(マルチ入力、マルチ出力)技術に対応するために用いられている。それゆえ、通信システムにおいて、二偏波伝搬に対応するよう、特別な装置の設計が必要となる。
非特許文献1に記載されている薄型のメタサーフェスでは、金属層の上に印刷された、垂直方向のストリップライン共振器の配列を使った形状が示されている。この配列では一グループの共振器が繰り返される形となっている。各グループは10個のストリップ共振器を有する。個々の共振器の大きさ(幅と長さ)は、所望の方向において高い反射特性を達成できるような回折格子に関係して求められる反射位相に基づいている。メタサーフェスは、ストリップ共振器の縦方向にある単偏波に対応できる。
他方、特許文献1の
図3には、例として十字型の素子でもよい旨が記載されている。しかし、そもそもマッシュルーム型であって、設計上素子同士を密集させることが難しく、性能に限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許第5469724号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】“From the generalized reflection law to the realization of perfect anomalous reflectors,” Science Advances, 2017年8月 D.-Rubio, V. S. Asadchy, A. Elsakka, S. A. Tretyakov,
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1では、垂直方向に向いたストリップラインの共振器で構成されるメタサーフェスを有する。10個の共振器がグループ化され、回折格子の周期でスーパーセルとして配列されている。そして、その周期は、入射波が望む角度で反射されるような設計目標に基づいて定められている。
非特許文献1では、メタサーフェスは8GHzの動作周波数での0度の入射波を70度で反射できる。しかしながら、垂直方向のストリップ共振器を用いているため、電場がストリップ共振器の縦方向に平行な、入射波のうち1つの偏波のみしか対応できない。例えば非特許文献の
図10や
図12などを見ても、2偏波に対応するように変形することは難しいと考えられる。
また、特許文献1に記載の十字型の素子は、そもそもマッシュルーム型であって誘電体基板上に形成されたものでないため、設計上素子同士を密集させることが難しく、性能に限界がある。
本発明は、上記の問題を考慮して発明されたものである。本発明は、ミリ波周波数帯域の2偏波に対応できるメタサーフェスを提供する。さらに、2偏波に対するメタサーフェスの特性は、個別に最適化し修正することができる。
なお、本説明では、メタサーフェス反射板を単にメタサーフェスと呼ぶことがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ミリ波周波数帯域の電磁波を異常波反射する、2偏波用メタサーフェスを提供する。メタサーフェスの構造は、共振器の組の繰り返しから構成される。
例えば非特許文献の
図10や
図12などを見ると、2偏波に対応させようとして共振器の形状をㇿの字型や十字型などにしてしまうと、共振器間の間隔が大きくなって共振器間の結合が弱まり機能を果たさなくなるように思える。しかし、実際に設計してみると、十字型であれば十分に機能することを発見した。
共振器の1組において、一例では大きさの異なる4つの十字型の共振器が、金属グラウンド層に底面を支持された基板上に形成される。
共振器の1組の長さは、定められるべき電磁波の入射角と反射角の設計目標に関連付けられる。この長さは、基本モードでの回折格子の周期から計算できる。
1組の各共振器の大きさは、反射係数に対応する反射位相に依存し、非特許文献1の式3からも計算できる。
非特許文献1のメタサーフェスと異なり、本発明は十字型の共振器を用いることにより2偏波の動作に対応できる。なぜなら、十字型の共振器は、垂直面、水平面の2つの直交する方向に金属が配列されているからである。したがって、入射波と反射波の両偏波に対応できる。
さらに、十字型の共振器の長さと幅を変えることにより、メタサーフェスの動作周波数も変更できる。
本発明の請求項1にかかるメタサーフェス反射板は、
誘電体基板、
誘電体基板の底面に設けられ、全ての向きの偏波に対しメタサーフェス反射板を透過させない金属グラウンド層、および、
アーム長の異なる2種以上の十字型の金属共振器を有する複数のスーパーセルを備えたメタサーフェス反射板であって、
金属共振器を有するスーパーセルは、
誘電体基板の上面に形成され、
入射波の垂直偏波および水平偏波を反射させ、
所定周波数での電磁波を要求される位相で異常波反射させる回折格子の周期で配列されている、
メタサーフェス反射板である。
本発明の請求項2にかかるメタサーフェス反射板は、
スーパーセルは回折格子の周期で水平方向に配列され、
入射波に対する主ローブの反射方向が略水平面内の所定方向である、請求項1に記載のメタサーフェス反射板である。
本発明の請求項3にかかるメタサーフェス反射板は、
スーパーセルは回折格子の周期で垂直方向に配列され、
入射波に対する主ローブの反射方向が略垂直面内の所定方向である、請求項1に記載のメタサーフェス反射板である。
本発明の請求項4にかかるメタサーフェス反射板は、
スーパーセルは回折格子の周期で水平方向または垂直方向に配置され、
入射波に対する主ローブの反射方向が水平方向および垂直方向から0以外の所定角度だけ傾いた方向である、請求項1に記載のメタサーフェス反射板である。
本発明の請求項5にかかるメタサーフェス反射板は、
メタサーフェス反射板は複数のサブメタサーフェスから構成され、
サブメタサーフェスは、
水平方向に配列され、
主ローブ方向が水平面内の互いに異なる向きである、
請求項1、2、および、4のいずれかに記載のメタサーフェス反射板である。
本発明の請求項6にかかるメタサーフェス反射板は、
メタサーフェス反射板は複数のサブメタサーフェスから構成され、
サブメタサーフェスは、
垂直方向に配列され、
主ローブ方向が垂直面内の互いに異なる向きである、
請求項1、3、および、4のいずれかに記載のメタサーフェス反射板である。
本発明の請求項7にかかるメタサーフェス反射板は、
メタサーフェス反射板は複数のサブメタサーフェスから構成され、
サブメタサーフェスは、
水平方向および垂直方向に配列され、
主ローブ方向が水平面内または垂直面内の互いに異なる向きである、
請求項1ないし4のいずれかに記載のメタサーフェス反射板である。
本発明の請求項8にかかるメタサーフェス反射板は、
入射波は無線通信用であって、所定周波数は3.6GHz以上である、請求項1ないし7のいずれかに記載のメタサーフェス反射板である。
本発明の請求項9にかかる信号機は、
請求項1から8のいずれかに記載のメタサーフェス反射板を備えた信号機であって、反射波の主ローブ方向が、信号機の対象とする移動体の移動方向であって、所定周波数が移動体通信用周波数または携帯端末通信用周波数に設定されている、信号機である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の構造では、メタサーフェスはプリント回路基板上に形成できる、2次元形状である。したがって、メタサーフェスの構成は、単純で製造に適している。
また、メタサーフェス上に十字型の共振器を適用することにより、入射波の垂直方向および水平方向の両方の電界に対応し目的の角度で反射することができる。そのため、メタサーフェスは垂直偏波および水平偏波の2偏波で動作することができる。
さらに、メタサーフェスに十字型の共振器を適用することにより、設計における最適化プロセスにおいて、メタサーフェスの特性は、垂直方向および水平方向の間で自由に調整できる。このように、設計が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施例における、十字型の共振器を有するユニットセルを示す。
【
図2】本発明の一実施例における、十字型のセルを持つユニットセルを含む、メタサーフェスの構成の一部を示す。
【
図3】本発明の一実施例における、0度で入射する波がメタサーフェスにおいて70度で異常波反射するのに必要な反射位相を計算した結果を示す。
【
図4】
図3での初期の反射位相を用いた、メタサーフェスでのバイスタティックレーダー反射断面の結果を示す。
【
図5】隣接するユニットセル間での結合を調整することで最適化した後のメタサーフェスでのバイスタティックレーダー反射断面の結果を示す。
【
図6】本発明の一実施例におけるメタサーフェスの構成を示す。
【
図7】本発明の一実施例におけるメタサーフェスの構成を示す。
【
図8】本発明の一実施例におけるメタサーフェスの利用例を示す。
【
図9】本発明の一実施例における信号機の構成を示す。
【
図10】本発明の一実施例における信号機の構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の実施例では、目的のメタサーフェス100の中心周波数は28GHzである。また、以下の説明では、メタサーフェス100は入射角が0度の入射波を70度の向きに反射するよう設計されている。
なお、本明細書ではメタサーフェス100に垂直に入射した電磁波が反射する方向のうち、最大の強度を示す反射方向を「主反射方向」と呼ぶことがある。同様に、反射波のメインとなるローブの向きとして「主ローブ方向」と呼ぶことがある。また、電磁波の反射板としてのメタサーフェス、つまり、メタサーフェスを備えた反射板を、単にメタサーフェスと呼ぶことがある。
以下に説明されるように、動作周波数、異常波反射における入射角と反射角は、十字型の共振器130の大きさや回折格子の周期の長さを調整することにより設計、変更できる。
ここで、異常波反射とは、例えば非特許文献1に記載のような、入射角が0度の入射波を70度などの向きに反射できるような反射を言う。
【0010】
(ユニットセル(U1、U2、U3、U4)の説明)
図1は、本発明の一実施例における、十字型の共振器130を有するユニットセル(U1、U2、U3、U4)を示す。
メタサーフェス100の設計に関して各軸を定義するために、
図1を参照すると、y軸は入射波および反射波の垂直偏波の向きとし、x軸は入射波および反射波の水平偏波の向きとし、z軸はメタサーフェス100への入射電磁波の向きである。
【0011】
図1に示されるように、メタサーフェス100のユニットセル(U1、U2、U3、U4)は、金属グラウンド層120、誘電体基板110、および、十字型の共振器130を有する。ユニットセル(U1、U2、U3、U4)の領域は、周期Pの正方形である。
金属グラウンド層120は、メタサーフェス100を通過する波を消すために利用される。また、誘電体基板110の層を支持するのに利用される。
【0012】
そして、十字型の共振器130は、誘電体基板110の領域の中心に形成される。そのアーム長はWである。アーム長には、2つのパラメーターlV、lHがある。垂直方向のアーム長はlVであり、垂直偏波を考える際にユニットセル(U1、U2、U3、U4)の反射位相に関係する。水平方向のアーム長はlHであり、水平偏波を考える際にユニットセル(U1、U2、U3、U4)の反射位相に関係する。
【0013】
(メタサーフェス100の説明)
図2は、本発明の一実施例における、十字型のセルを持つユニットセル(U1、U2、U3、U4)を含む、メタサーフェス100の構成の一部を示す。
図2に示されるように、メタサーフェス100ではアーム長の異なる十字型の共振器130のグループが繰り返し配列されている。以下、繰り返し配列される、アーム長の異なる十字型の共振器130のグループを、スーパーセルS1と呼ぶ。
言い換えると、メタサーフェス100は、誘電体基板110、誘電体基板110の底面に設けられ、全ての向きの偏波に対しメタサーフェス100を透過させない金属グラウンド層120、および、アーム長の異なる2種以上の十字型の金属共振器130を有する複数のスーパーセルS1を備える。スーパーセルS1は、3種以上の十字型の金属共振器130を有することが望ましい。
【0014】
一方、1つのグループは4つの十字型の共振器130から構成される。4つの十字型の共振器130はそれぞれ異なるlV、lHを有する。また、共振器130の、グループの長さD、すなわちスーパーセルS1の周期は、周期Pの4倍に相当する。さらに、グループの長さと回折格子の周期との関係は、動作周波数での波長をλ、入射角をθi、反射角をθrとして、式(1)のように示される。
【0015】
【0016】
図3は、本発明の一実施例における、0度で入射する波がメタサーフェス100において70度で異常波反射するのに必要な反射位相を計算した結果を示す。
この位相の結果は、反射係数の反射位相を以下の式(2)で求めることによって、求めることができる。
【0017】
【数2】
ここでZs(x)はx平面方向の表面インピーダンスの関数で、損失のない完全な反射を実現できるものであり、非特許文献1にも記載されている。また、120πは背景媒体の波に対するインピーダンスである。表面インピーダンスの式は以下の式(3)のとおりである。
【0018】
【数3】
ここで、Φr(x)は、以下の式(4)で示される、反射係数の位相である。また、k0は波数である。
【0019】
【数4】
式(4)の右辺第2項は、入射波に対する反射波の要求される位相シフトであり、今回得られた結果では、0度、つまり、位相シフトなし、に設定されている。
【0020】
さらに、この位相はU1、U2、U3、U4のそれぞれのlvとlhの長さを規定する。本例では、U1、U2、U3、U4はそれぞれ-29度、-100度、+29度、+100度の反射位相が要求される。
【0021】
図1に示されるユニットセル(U1、U2、U3、U4)は、これらの位相に対応するように、垂直偏波と水平偏波の両方を有する平面電磁波の励起により数値計算される。ユニットセル(U1、U2、U3、U4)のx軸方向およびy軸方向に周期境界条件が設定される。次に、完全導体が-z方向に適用される。ユニットセル(U1、U2、U3、U4)構造体に平面電磁波を供給するために、完全一致層(perfect match layer)と導波管ポートが+z方向に適用される。
垂直偏波の反射位相を調べる際には、垂直方向のアーム長lVを変化させることにより要求される反射位相を実現する。次に、水平偏波の反射位相を調べる際には、水平方向のアーム長lHを変化させることにより要求される反射位相を実現する。
【0022】
図4は、
図3での初期の反射位相を用いた、メタサーフェスでのバイスタティックレーダー反射断面の結果であり、15λ0mm四方の面積を有するメタサーフェス100での両偏波の、動作周波数における、xz平面でのバイスタティックレーダー反射断面(RCS)の結果を示す。この初期結果は、
図3に示されるユニットセル(U1、U2、U3、U4)の個々の反射位相によって得られる。さらに、この結果は、波の反射のメインローブが目的の方向に向けられていることを示す。しかしながら、サイドローブが大きいためメタサーフェス100の反射性能としては低い。
【0023】
図5は、隣接するユニットセル間での結合を調整することで最適化した後のメタサーフェスでのバイスタティックレーダー反射断面の結果であり、lVとlHを最適化した後の、メタサーフェス100での両偏波の、xz平面でのバイスタティックレーダー反射断面(RCS)の結果を示す。隣接するユニットセル(U1、U2、U3、U4)間の結合を調整し適切なものにすることにより、高い反射効率を実現することが、最適化の目的である。
【0024】
以上のように設計されたメタサーフェス100では、金属共振器130を有するスーパーセルS1は、誘電体基板110の上面に形成され、入射波の垂直偏波および水平偏波を反射させ、所定周波数での電磁波を要求される位相で異常波反射させる回折格子の周期で配列されている。
本構成により、異常波反射を利用することで、0度で入射する電磁波を50度、60度、70度など大きな角度で反射させることが可能となる。
【0025】
上記の実施例では、スーパーセルS1は回折格子の周期で水平方向に配列され、入射波に対する主ローブの反射方向が略水平面内の所定方向となっている。
一実施例において、スーパーセルS1は回折格子の周期で垂直方向に配列され、入射波に対する主ローブの反射方向が略垂直面内の所定方向とすることもできる。
例えば、エレベータの通信における電磁波に適用し、電磁波を上下方向に反射させることにより、エレベータなどにおいても通信が容易となる。
【0026】
上記の実施例を組み合わせることにより、一実施例においては、スーパーセルS1は回折格子の周期で水平方向または垂直方向に配列することができる。そして、入射波に対する主ローブの反射方向が水平方向および垂直方向から0以外の所定角度だけ傾いた方向とすることができる。
本構成により、所望の方向に電磁波を反射させることができる。
【0027】
図6は、本発明の一実施例におけるメタサーフェスの構成を示す。メタサーフェス100を1種類のみから構成した場合、一方向に強い指向性を示す。これに対して、本実施例では、より広い範囲に電磁波を反射する。本実施例において、メタサーフェス100は複数のサブメタサーフェス(201、202、203)から構成される。本実施例では3つのサブメタサーフェス100から構成される。それぞれのサブメタサーフェス(201、202、203、204、205、206)の構造は、既述のメタサーフェス100と同様であり、本実施例では主ローブ方向が水平面内の所定の向きに調整されている。
複数のサブメタサーフェス(201、202、203)は、水平方向に配列されている。そして、それぞれの主ローブ方向は、水平面内の互いに異なる向きである。
本構成により、メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散することができる。
【0028】
水平方向に拡散する代わりに、垂直方向に拡散することもできる。
一実施例において、メタサーフェス100は複数のサブメタサーフェスから構成され、サブメタサーフェス100は垂直方向に配列される。それぞれのサブメタサーフェスの主ローブ方向は、垂直面内の互いに異なる向きである。
本構成により、メタサーフェス100で反射する電磁波を垂直方向に所望の範囲で拡散することができる。
【0029】
図7は本発明の一実施例におけるメタサーフェス100の構成を示す。
メタサーフェス100は、複数のサブメタサーフェス(201、202、203、204、205、206)から構成される。
それぞれのサブメタサーフェス(201、202、203、204、205、206)は水平方向および垂直方向に配列される。
それぞれのサブメタサーフェス(201、202、203、204、205、206)の主ローブ方向は水平面内または垂直面内の互いに異なる向きである。
本構成により、メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向および垂直方向に所望の範囲で拡散することができる。
【0030】
本実施例では、上段のサブメタサーフェス(201、202、203)と下段のサブメタサーフェス(204、205、206)の角度を変えることで垂直方向に電磁波を拡散しているが、代わりに、サブメタサーフェスは一列に水平方向に並べて配列し、上下方向に曲率を持たせることにより、垂直方向に電磁波を拡散させることもできる。あるいは、サブメタサーフェスは一列として水平方向に並べて配列し、その大きさをより小さくすることにより、垂直方向に拡散させることもできる。
【0031】
図8は本発明の一実施例におけるメタサーフェス100の利用例を示す。
無線通信を行う携帯電話の基地局200から出た、5G用の3.6GHz以上の無線通信用の電磁波は、メタサーフェス100に入射し反射する際に所定角度曲がり、携帯電話などの移動端末300の利用者301に向かう。
5Gで利用される3.6GHz以上の電磁波は直進性が強いが、本発明におけるメタサーフェス100を用いると、電磁波を所望の方向に向け、さらに所望の範囲で拡散させることが容易となる。
【0032】
図9、
図10は本発明の一実施例における信号機400の構成を示す。
信号機400は道路の上に設置されており、外面にメタサーフェス100を備えている。本実施例では信号機400の下面にメタサーフェス100が設置されている。
外部の基地局200から発信される、自動車通信周波数の電磁波は、信号機400の下面に設置されたメタサーフェス100で反射される。本発明におけるメタサーフェス100は、所望の角度に電磁波を反射できるため、かつ、必要に応じて、所望の範囲に電磁波を拡散できるため、本実施例では、反射波の主ローブ方向は、信号機400の対象とする移動体410の移動方向である、信号機400の下の道路方向に設定されている。
【0033】
本実施例における電磁波の周波数は、移動体通信用周波数または携帯端末通信用周波数に設定されている。
通常の反射板では、信号機400の下面に設置した場合、反射波の方向が真下の方向などに限定されるため、反射角度の調整が難しいが、本メタサーフェス100では、所望の角度に電磁波を反射できるため、自動車などの移動体410の通る方向に電磁波を反射できる。さらに、必要に応じて、所望の範囲に電磁波を拡散できるため、通信が安定になる。
【0034】
本発明は以上の実施例に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々な実施例を含むことは言うまでもない。
例えば、設置場所に応じて、入射方向がメタサーフェス100にして垂直より若干傾いている場合には、その入射方向に応じて、求められる主反射方向を実現するよう設計することもできる。
【符号の説明】
【0035】
100 メタサーフェス
201、202、203、204、205、206 サブメタサーフェス
110 誘電体基板
120 金属グラウンド層
130 共振器
131 アーム
U1、U2、U3、U4 ユニットセル
S1 スーパーセル
200 基地局
300 移動端末
301 利用者
400 信号機
410 移動体
411 移動体側通信機