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特許7500201ホーニング加工装置及びそれを用いた加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】ホーニング加工装置及びそれを用いた加工方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 33/06 20060101AFI20240610BHJP
   B24B 33/02 20060101ALI20240610BHJP
   B24B 33/08 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
B24B33/06
B24B33/02
B24B33/08
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020004458
(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公開番号】P2021109299
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】391003668
【氏名又は名称】トーヨーエイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 省二
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-131864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 33/00 - 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸及び該回転軸に対して径方向に進退する砥石を有するホーニングツールによって、ワークに形成された円筒内面を加工するホーニング加工装置において、
上記回転軸を回転駆動する回転機構と、
上記ホーニングツールを軸方向へ往復移動させる往復移動機構と、
上記砥石を径方向に進退させる砥石制御機構と、を備え、
上記砥石制御機構は、上記往復移動機構による上記軸方向への上記ホーニングツールの移動速度が、
目標速度となったときに上記砥石を径方向外側へ押し出すことにより上記円筒内面と該砥石とを接触状態とし、
上記接触状態となった後、上記目標速度から減速されたときに上記砥石を径方向内側へ引き込むことにより上記円筒内面と該砥石とを非接触状態とし、
上記砥石の進退が、上記ホーニングツールの移動速度が変化している間に行われるように構成されていることを特徴とするホーニング加工装置。
【請求項2】
回転軸及び該回転軸に対して径方向に進退する砥石を有し、ワークに形成された円筒内面を加工するホーニングツールと、上記回転軸を回転駆動する回転機構と、上記ホーニングツールを軸方向へ往復移動させる往復移動機構と、上記砥石を径方向に進退させる砥石制御機構と、を備えるホーニング加工装置を準備する工程と、
上記円筒内面において、上記円筒内面と上記砥石とが接触状態である上記ホーニングツールを、上記ワークの軸方向端部へ向かって軸方向に移動させる工程と、
上記ワークの軸方向端部へ達する前に、上記ホーニングツールの移動速度が減速され、目標速度よりも減速されたとき、上記砥石制御機構が駆動して上記円筒内面と該砥石とを非接触状態とする工程と、
上記非接触状態で上記ホーニングツールが上記ワークの軸方向端部へ達し、上記移動速度がゼロになった後、移動方向が切り替わり、上記ホーニングツールの上記移動速度が加速され、再び上記目標速度に達したとき、上記砥石制御機構が駆動して上記円筒内面と該砥石とを接触状態とする工程と、を含み、
上記砥石の進退が、上記ホーニングツールの移動速度が変化している間に行われることを特徴とするホーニング加工装置を用いた加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに形成された円筒内面を加工するホーニング加工装置及びそれを用いた加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等に搭載される、レシプロエンジンのシリンダーブロック、コンプレッサの軸受や油圧部品、燃料噴射ノズル等、高精度な加工が要求されるワークに形成された円筒状の加工部において、その円筒内面に対して切削加工や研削加工を施し、ホーニング加工装置によって仕上げ加工が行われてきた。
【0003】
ホーニング加工装置による仕上げ加工では、円筒内面の真円度・円筒度が高められるとともに、潤滑油保持のために、油溜りとして円筒内面にクロスハッチ(交差した溝又は条痕)が形成される。クロスハッチは、円筒内面に進入させるホーニング砥石を軸周りに回転させながら軸方向に往復移動させることによって形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5679544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ホーニング加工装置の軸方向の往復移動は、例えば、上昇から下降又は下降から上昇のように移動方向が切り替わるとき、一定の速度から減速され、停止して移動方向が切り替わった後、加速されて再び一定の速度に戻る。従来のホーニング加工装置では、このような減速及び加速によって、図6に示すように、減速・加速中に砥石Zが当接する範囲では、円筒内面に湾曲した形状のクロスハッチM’が形成されることが問題であった。このような乱れたクロスハッチM’は軸方向端部付近に多く形成され、軸方向中央へ近づくほど少なくなり、砥石Zが略一定の速度で移動する軸方向略中央では形成されない。なお、図6はクロスハッチM’が形成されたワークW’の円筒内面を周方向に展開した模式図である。
【0006】
このようにワークの軸方向端部付近において形状の乱れたクロスハッチM’が形成されることに対処すべく、加速時間及び減速時間の短縮が行われたが、それでもクロスハッチM’の湾曲部分の軸方向の寸法は数mm~数十mmに及ぶことがあり、十分な対処法とは言えなかった。
【0007】
また、特許文献1のような研削装置も提案されている。特許文献1の研削装置は、往復移動機構により往復移動される砥石の転向点(上死点,下死点)における砥石の回転速度をゼロにして、砥石の往復移動速度と回転速度とを同期させることにより、ワークの全加工領域においてクロスハッチ線の交差角を一定化することができると記載されている。
【0008】
しかし、上記従来の特許文献1の研削装置では、砥石の移動速度の変化に合わせて回転速度を減速、停止及び加速させるため、大きなモータを搭載する必要があり、消費電力も大きい。また、ワークの軸方向端部において、砥石が異常摩耗を起こすおそれやワークへの異常切込みが発生するおそれがあった。
【0009】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、既存のホーニング加工装置に大きな改造を加えることなく容易にクロスハッチの形成を制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、この発明では、ホーニングツールの往復移動の速度と、砥石の径方向の進退の制御を同期させることにより、簡易な構成でクロスハッチの形成を制御し、ワークの軸方向端部にクロスハッチを形成しないようにした。
【0011】
具体的には、第1の発明では、
回転軸及び該回転軸に対して径方向に進退する砥石を有するホーニングツールによって、ワークに形成された円筒内面を加工するホーニング加工装置において、
上記回転軸を回転駆動する回転機構と、
上記ホーニングツールを軸方向へ往復移動させる往復移動機構と、
上記砥石を径方向に進退させる砥石制御機構と、を備え、
上記砥石制御機構は、上記往復移動機構による上記軸方向への上記ホーニングツールの移動速度が、
目標速度となったときに上記砥石を径方向外側へ押し出すことにより上記円筒内面と該砥石とを接触状態とし、
上記接触状態となった後、上記目標速度から減速されたときに上記砥石を径方向内側へ引き込むことにより上記円筒内面と該砥石とを非接触状態とするように構成されている。
【0012】
第1の発明では、ホーニングツールの軸方向への往復移動の移動速度と砥石の径方向の進退の制御とを同期させることにより、クロスハッチの形成を制御することができる。なお、ここでいうクロスハッチとは、ワークの加工部であるの円筒内面に潤滑油を保持するために付ける網目状に交差した細かい傷(溝や条痕等)であり、軸方向とは、回転軸が延びる方向と平行な方向である。
【0013】
具体的には、ホーニングツールの軸方向への移動速度が次第に大きくなり、目標速度となったときに、砥石制御機構が砥石を径方向外側へ押し出すことにより、円筒内面と砥石とが接触状態となる。そして、その状態のままホーニングツールが軸方向へさらに移動することにより、円筒内面には砥石によってクロスハッチの一部となる直線状の条痕が形成される。そして、ホーニングツールが、例えば、上昇から下降又は下降から上昇のように移動方向を切り替えるべく、移動速度が次第に小さくなり、目標速度から減速されたときに、砥石制御機構が砥石を径方向内側へ引き込むことにより、円筒内面と砥石とが非接触状態となる。その状態のままホーニングツールが移動方向を切り替えるので、移動方向の切り替え前後において円筒内面に湾曲した条痕が形成されない。そして、反対方向へと移動する際に移動速度が次第に大きくなり、目標速度となったときに、砥石制御機構が再び砥石を径方向外側へ押し出すことにより、円筒内面と砥石とが接触状態となる。その状態のままホーニングツールが軸方向へさらに移動することにより、円筒内面には砥石によってクロスハッチの一部となる直線状の条痕がさらに形成される。これによって、ホーニングツールの移動方向が切り替わる際には湾曲した条痕が形成されないので、クロスハッチの乱れ部分が形成されない。このように、簡易な構成でクロスハッチの形成を制御することができるため、ホーニング加工装置の小型化やコスト削減に貢献できる。
【0014】
さらに、往復移動の方向が切り替わる際に、移動速度の変化によって砥石の制御をおこなうことで、ホーニング加工に最適な加工速度で加工することができるため、ワークの軸方向端部における砥石の異常摩耗やワークへの異常切込みを防止できる。
【0015】
第2の発明では、第1の発明において、
上記ワークの加工中に上記ホーニングツールが往復移動する間、上記回転機構は上記回転軸の回転速度を一定に保つことを特徴とする。
【0016】
この第2の発明では、回転速度を変化させることなく、クロスハッチの形成範囲を制御できるため、従来のような大きなモータを搭載する必要がなく、従来よりも消費電力を抑えることができる。
【0017】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、
上記ホーニングツールが上記軸方向への移動により所定の位置に達したとき、上記砥石制御機構によって上記砥石の進退が駆動されることを特徴とする。
【0018】
この第3の発明では、既存のホーニング加工装置に大幅な改造を施すことなく、ホーニングツールの位置によってクロスハッチの形成範囲を制御することができるため、より有用である。
【0019】
第4の発明では、第1から第3のいずれかの発明を用い、
上記円筒内面において、上記円筒内面と該砥石とが上記接触状態である上記ホーニングツールを、上記ワークの軸方向端部へ向かって軸方向に移動させ、
上記ワークの軸方向端部へ達する前に、上記ホーニングツールの上記移動速度が減速され、上記目標速度よりも減速されたとき、上記砥石制御機構が駆動して上記円筒内面と該砥石とを非接触状態とし、
上記非接触状態で上記ホーニングツールが上記ワークの軸方向端部へ達し、上記移動速度がゼロになった後、移動方向が切り替わり、上記ホーニングツールの上記移動速度が加速され、再び上記目標速度に達したとき、上記砥石制御機構が駆動して上記円筒内面と該砥石とを接触状態とすることを特徴とする。
【0020】
この第4の発明では、ホーニングツールが軸方向端部へ達する前に砥石を引き込み、移動方向が切り替わった後にまた砥石を押し出すことにより、ワークの軸方向端部における砥石の異常摩耗やワークへの異常切込みをより確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によると、ホーニングツールの往復移動の移動速度と砥石の径方向の進退の制御とを同期させることにより、簡易な構成でクロスハッチの形成を制御することができるため、ホーニング加工装置の小型化やコスト削減に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係るホーニング加工装置の概略斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るホーニング加工装置の砥石の進退を説明するための概略断面図である。
図3】砥石の進退及び回転数とホーニングツールの移動速度との関係を示すタイミングチャートである。
図4】本発明の実施形態に係るホーニング加工装置によりクロスハッチが形成されたワークの円筒内面を展開して示す模式図である。
図5】本発明の実施形態に係る砥石の円筒内面における移動を説明するための模式図である。
図6】従来のホーニング加工装置によりクロスハッチが形成されたワークの円筒内面を展開して示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0024】
なお、以下の説明において、ホーニングツールの回転軸が延びる方向に平行な方向を「軸方向」と呼び、回転軸を中心とする径方向を「径方向」と呼ぶ。また、軸方向を上下方向として、図面の上側を単に「上方」と呼び、下側を単に「下方」と呼ぶ。ホーニングツールの往復移動の移動速度は、単に「移動速度」と呼ぶ。
【0025】
本発明のホーニング加工装置1による被加工物であるワークWには、円筒状の加工部が形成されており、本発明のホーニング加工装置1は、その加工部の円筒内面W1を加工する。
【0026】
図1に示すように、ホーニング加工装置1は、直方体形状のベッド2とベッド2の後方側に立設された直方体形状のコラム3とを備え、ベッド2とコラム3とで側面視略L字形状をなすように構成されている。
【0027】
また、ホーニング加工装置1は、コラム3の前側に設けられ、ワークWの円筒内面W1を加工する加工部4と、ベッド2上に設置され、ワークWを支持するワーク支持部5と、を備える。
【0028】
次に、ホーニング加工装置1の詳細構造を以下にて説明する。
【0029】
ワーク支持部5は、ベッド2の上面側に固定されたワークテーブル52と、ワークテーブル52の上面側に、ワークWを保持する保持台53と、を有する。ワークWの中心軸は、ホーニングツール70の回転軸74が延びる方向に平行な方向(軸方向)へ延びるように保持されている。
【0030】
加工部4は、コラム3の前面側に固定されたツールテーブル41を備え、ツールテーブル41には、ホーニング加工ユニット7が設けられている。
【0031】
ホーニング加工ユニット7は、ツールテーブル41の前面側に取付けられた矩形状のホーニング本体部71と、ホーニング本体部71のさらに前面側に取付けられたホーニング支持部72と、ホーニング支持部72内を上下方向に延びて設けられた支持シャフト73と、支持シャフト73の下部に取付けられたホーニングツール70を備える。
【0032】
ホーニングツール70は、回転軸74と、回転軸74のさらに下部に設けられた砥石75を有する。砥石75は、回転軸74とともに回転し、回転軸74に対して径方向に進退する。
【0033】
ホーニング加工装置1は、ホーニングツール70の回転軸74を回転駆動する回転機構7aを備える。回転機構7aは、ホーニング本体部71に配設され、ホーニングツール70に回転力を伝導する伝導ベルト(図示しない)と、伝導ベルトを介してホーニングツール70を回転軸74中心に回転させる回転駆動モータ(図示しない)とを含む。
【0034】
また、ホーニング加工装置1は、ホーニングツール70を軸方向へ往復移動させる往復移動機構7bを備える。往復移動機構7bは、ワークWの円筒内面W1に、潤滑油の油溜りとして機能する網目状のクロスハッチMを形成するために、回転軸74及び砥石75を上下方向(軸方向)に往復移動させるものである。往復移動機構7bは、具体的には、ホーニング本体部71に対してホーニング支持部72を軸方向に往復移動させる往復動モータ81と、ホーニング本体部71の前面側に設けられたスライドレール82と、ホーニング支持部72に設けられスライドレール82に案内されてスライドする、スライド受け部83とを備える。
【0035】
さらに、ホーニング加工装置1は、砥石75を径方向に進退させる砥石制御機構7cを備える。砥石制御機構7cは、支持シャフト73に配設されている。詳細は後述するが、砥石制御機構7cは、駆動シャフト調整モータ(図示しない)を有し、駆動シャフト調整モータは、ホーニングツール70の駆動シャフト76を上昇及び下降させ、テーパー部77の上下方向の移動量を調整することで、砥石75を径方向に進退させる。
【0036】
砥石制御機構7cは、往復移動機構7bによる軸方向へのホーニングツール70の移動速度が、目標速度Qとなったときに砥石75を径方向外側へ押し出すことにより円筒内面W1と砥石75とを接触状態とし、接触状態となった後、目標速度Qから減速されたときに砥石75を径方向内側へ引き込むことにより円筒内面W1と砥石75とを非接触状態とするように構成されている。
【0037】
そして、ベッド2内部に配設された制御装置58は、ホーニング加工装置1の各種機器の作動を制御するものであり、本実施形態では、例えば、回転機構7aを構成する回転駆動モータ、ホーニング支持部72を軸方向に往復移動させる往復動モータ81、砥石75を径方向に進退させるための駆動シャフト調整モータを制御するように設けられている。
【0038】
次に、ホーニング加工ユニット7の詳細構造を図2に基づいて説明する。
【0039】
回転軸74の下端部には、回転軸74と一体に形成された保持枠体79が軸方向に延びており、保持枠体79の下部には軸方向に延びるスリット79aが形成されている。砥石75は、このスリット79aから出入り可能に装着されている。
【0040】
回転軸74及び保持枠体79は円筒状であり、例えば、NC制御や油圧等によって軸方向に摺動可能な駆動シャフト76が内部に設けられている。駆動シャフト76の下部には、下方へ向かって縮径する円錐状のテーパー部77が2つ設けられている。
【0041】
砥石75は、回転軸74の周方向に少なくとも1つ設けられ、例えば等間隔に複数個並べて配置されている。また、砥石75は、駆動シャフト76のテーパー部77のテーパー面77aに接触可能なテーパー面75aを備える。この砥石75が、保持枠体79に形成されたスリット79aから出入りすることで、回転軸74に対して径方向に進退する。
【0042】
具体的には、テーパー部77(駆動シャフト76)が下方へ摺動することによって、テーパー部77に接触した砥石75が径方向外側へ押し出されて、ホーニングツール70の径が拡張するようになっている。また、テーパー部77が上方に摺動することによって、テーパー部77に接触する砥石75が径方向内側へ引き込まれて、ホーニングツール70の径が縮小し、元の径に戻る。ワークWをホーニング加工する際には、ワークWの円筒内に進入したホーニングツール70のホーニング砥石75がスリット79aから飛び出して、すなわち砥石75が拡張してワークWの円筒内面W1と接触した状態でワークWが回転することにより、ホーニング加工できるようになっている。
【0043】
次に、図3乃至図5に基づいて、ワークWの円筒内面W1にクロスハッチMを形成する手順について説明する。なお、図3は、クロスハッチを形成する際の砥石の進退及び回転数とホーニングツールの移動速度との関係を示すタイミングチャートであり、横軸である時間軸が0の位置は、砥石75が図5におけるZ1の位置にある状態に該当する。
【0044】
まず、回転機構7aの回転駆動モータ(図示しない)を作動させて、回転軸74を所定の回転速度Rにする。なお、ワークWの加工中にホーニングツール70が往復移動する間、回転機構7aは回転軸74の回転速度を一定に保つ。
【0045】
その後、往復動モータ81を作動させると、徐々に移動速度が加速されながら、ホーニング支持部72に設けられたスライド受け部83が、ホーニング本体部71に設けられたスライドレール82に案内されて、ホーニング支持部72、回転軸74及び砥石75がワークWに近付くよう軸方向に下降する。このとき、砥石75は径方向内側へ引き込まれた状態である。
【0046】
そして、砥石75がワークWの円筒内面W1に進入し、移動速度が所定の目標速度Qとなったとき、砥石制御機構7cの駆動シャフト調整モータ(図示しない)が作動して駆動シャフト76が下方へ摺動する。このとき、砥石75は径方向外側へ押し出されて径が拡張し、円筒内面W1と砥石75とが接触状態となる。このとき砥石75は図5中、Z1の位置にある。
【0047】
円筒内面W1において、円筒内面W1と砥石75とが接触状態であるホーニングツール70は、往復動モータ81の作動により、目標速度Q以上の一定速度でワークWの軸方向端部へ向かって上昇する。すなわち、図5中、砥石75はZ1からZ2へ移動する。これにより、図4に示すように、ワークWの円筒内面W1にクロスハッチMの一部であるX方向の直線状の条痕が形成される。
【0048】
次いで、ワークWの軸方向端部W2へ達する前に、ホーニングツール70の移動速度が減速される。そして、その移動速度が目標速度Qよりも減速されたとき、砥石制御機構7cが駆動して駆動シャフト76が軸方向上方に摺動する。このとき、砥石75は径方向内側へ引き込まれて径が縮小し、円筒内面W1と砥石75とが非接触状態となる。
【0049】
この非接触状態でホーニングツール70がワークの軸方向端部W2へ達し、すなわち、図5中、砥石75がZ2からZ3へ移動し、移動速度がゼロになった後、移動方向が上昇から下降へと切り替わる。そして、ホーニングツール70の移動速度が加速され、下降しながら再び目標速度Qに達したとき、砥石制御機構7cが駆動して円筒内面W1と砥石75とが再び接触状態となる(図5中、Z3からZ4)。
【0050】
この接触状態のまま、さらに、往復動モータ81の作動により、目標速度Q以上の一定速度でワークWの軸方向端部W3へ向かって下降させる。すなわち、図5中、Z4からZ5への移動である。これにより、ワークWの円筒内面W1にクロスハッチMの一部であるY方向の直線状の条痕が形成される。
【0051】
そして、ワークWの軸方向端部W3へ達する前に、ホーニングツール70の移動速度が減速される。そして、その移動速度が目標速度Qよりも減速されたとき、砥石制御機構7cが駆動し、砥石75は径方向内側へ引き込まれて径が縮小し、円筒内面W1と砥石75とが非接触状態となる(図5中、Z5からZ6)。
【0052】
なお、ホーニングツール70の往復移動の制御はNC制御によっておこなってもよく、具体的には、ホーニングツール70が軸方向への移動により所定の位置に達したとき、砥石制御機構7cによって砥石75の進退が駆動されるような構成とすれば、より高い精度でクロスハッチMの形成範囲を制御することができる。
【0053】
その場合、例えば、加減速時定数t(sec)と速度v(m/sec)から加減速距離S(mm)を式1のように計算することが可能であり、
S=v×t×1000 ・・・(式1)
停止位置のSmm手前に到達した瞬間に、砥石制御機構7cを駆動させ、円筒内面W1と砥石75とを非接触状態とし、停止後、移動方向を切り替えてSmm進んだ瞬間に、砥石制御機構7cを駆動させ、円筒内面W1と砥石75とが再び接触状態となるように制御することができる。
【0054】
このように、本実施形態によると、ホーニングツール70の往復移動の移動速度と砥石75の径方向の進退の制御とを同期させることにより、簡易にクロスハッチMの形成を制御することができる。具体的には、ホーニングツール70の軸方向の移動速度が次第に大きくなり、目標速度Qとなったときに、砥石制御機構7cが砥石75を径方向外側へ押し出すことにより、円筒内面W1と砥石75とが接触状態となる。そして、その状態のままホーニングツール70が一定の速度で軸方向へさらに移動することにより、円筒内面W1にはクロスハッチMの一部となる直線状の条痕が形成される。そして、ホーニングツール70が、例えば、上昇から下降又は下降から上昇のように移動方向を切り替えるべく、移動速度が次第に小さくなり、目標速度Qから減速されたときに、砥石制御機構7cが砥石75を径方向内側へ引き込むことにより、円筒内面W1と砥石75とが非接触状態となる。その状態のままホーニングツール70が移動方向を切り替えるので、移動方向の切り替え前後において円筒内面W1に湾曲した条痕が形成されない。そして、反対方向へと移動する際に移動速度が次第に大きくなり、目標速度Qとなったときに、砥石制御機構7cが再び砥石75を径方向外側へ押し出すことにより、円筒内面W1と砥石75とが接触状態となる。その状態のままホーニングツール70が一定の速度で軸方向へさらに移動することにより、円筒内面W1にはクロスハッチMの一部となる直線状の条痕がさらに形成される。これによって、ホーニングツール70の移動方向が切り替わる際にはクロスハッチMが形成されないので、クロスハッチMの乱れ部分が形成されない。簡易な構成でクロスハッチMの形成を制御することができるため、ホーニング加工装置1の小型化やコスト削減に貢献できる。
【0055】
さらに、往復移動の方向が切り替わる際に、移動速度の変化によって砥石75の制御をおこなうことで、ホーニング加工に最適な加工速度で加工することができるため、ワークWの軸方向端部W2,W3における砥石75の異常摩耗やワークWへの異常切込みを防止できる。
【0056】
また、加工中に回転軸74の回転速度を変化させることなく、クロスハッチMの形成範囲を制御できるため、従来のような大きなモータを搭載する必要がなく、従来よりも消費電力を抑えることができる。
(その他の実施形態)
本実施形態では、軸方向を上下方向としているが、これに限られるのものではない。また、ワークWの円筒内面に形成されるクロスハッチMは、図4の模様に限られるものではなく、ワークWの大きさや潤滑油保持の機能等を考慮して、間隔、傾斜角度、深さ、幅等は適宜設定すればよいものである。
【0057】
また、本実施形態では、回転機構7a及び往復動モータ81はホーニング本体部71に配設され、砥石制御機構7cは支持シャフト73に配設され、制御装置58はベッド2内部に配設されているが、これらが配設される場所はこれに限られるのものではない。
【0058】
また、本実施形態では、回転機構7aの回転駆動モータ、往復移動機構7bの往復動モータ81及び砥石制御機構7cの駆動シャフト調整モータを設けるようにしたが、それぞれ作動させる機能を果たせばよいものであり、モータに限られるものではない。
【0059】
回転軸74の回転駆動の開始は、砥石75が円筒内面W1へ進入した後や進入途中でもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 ホーニング加工装置
7a 回転機構
7b 往復移動機構
7c 砥石制御機構
70 ホーニングツール
74 回転軸
75 砥石
M クロスハッチ
Q 目標速度
W ワーク
W1 円筒内面
W2 軸方向端部
W3 軸方向端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6