IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-稚エビ養殖用海水の調製方法 図1
  • 特許-稚エビ養殖用海水の調製方法 図2
  • 特許-稚エビ養殖用海水の調製方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】稚エビ養殖用海水の調製方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 63/04 20060101AFI20240610BHJP
   A01K 61/59 20170101ALI20240610BHJP
【FI】
A01K63/04 A
A01K61/59
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020013208
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021118680
(43)【公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-11-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、JST-JICA国際科学技術共同研究推進事業・地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)、「バイオエネルギーで作動する固体酸化物形燃料電池の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】594152620
【氏名又は名称】ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】中塚 修志
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-237016(JP,A)
【文献】特開平08-141565(JP,A)
【文献】特開平05-096291(JP,A)
【文献】特開2005-313151(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104445809(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 63/04
A01K 61/59
B01D 61/14
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
稚エビの養殖に使用する稚エビ養殖用海水の調製方法であって、
天然海水を前処理する工程と、
前記天然海水の前処理水を限外ろ過膜モジュールによりろ過して稚エビ養殖用海水を得る工程を有しており、
原料となる天然海水、前処理水および稚エビ養殖用海水に対して、殺菌剤、抗生物質を含む薬剤を投与しない、稚エビ養殖用海水の調製方法であって、
前記限外ろ過膜モジュールが、ポリエーテルサルホンからなる中空糸膜を使用したものであり、前記中空糸膜が内径0.6mm以下で、前記限外ろ過膜モジュールに収容された中空糸膜の合計の有効膜面積が4~10m 2 のものである、稚エビ養殖用海水の調製方法。
【請求項2】
前記前処理工程が、天然海水をマイクロフィルターでろ過した後、さらに活性炭フィルターでろ過する工程である、請求項1記載の稚エビ養殖用海水の調製方法。
【請求項3】
前記天然海水が、海洋から採取され、船により運搬されたものであり、天然海水タンクに貯水した後に前処理工程の処理をする、請求項1または2記載の稚エビ養殖用海水の調製方法。
【請求項4】
養殖水量が100m3以下の養殖場に対して適用する、請求項1~のいずれか1項記載の稚エビ養殖用海水の調製方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項記載の稚エビ養殖用海水の調製方法により稚エビ養殖用海水を調製した後、前記稚エビ養殖用海水を複数の稚エビ養殖水槽に供給して養殖する方法であり、
前記複数の稚エビ養殖水槽が、一水槽当たり30~100万匹の稚エビの入った容量3~10m3の養殖水槽群である、稚エビの養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然海水を使用した稚エビ養殖用海水の調製方法と、それを使用した稚エビの養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エビ、かになどの甲殻類、魚などの水生生物を養殖池で養殖する養殖が実施されており、養殖池で養殖する際に使用する散気装置を含む散気システムとその運転方法の発明が知られている(特許文献1)。
【0003】
エビなどを養殖池で養殖する場合、稚エビを独立した水槽で飼育してある程度大きくした後、養殖池に放ってさらに大きく生育させる方法が通常である。
卵からふ化させた稚エビは脆弱であり、生存率は飼育水の影響を大きく受けることになるため、従来は、図2に示す薬剤添加ライン15から飼育水の原料となる天然海水(天然海水タンク2)に殺菌剤などの薬剤を添加することで卵の発生から18日後の生存率を50%程度に維持していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6188893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、天然海水を使用した、稚エビの養殖に使用する稚エビ養殖用海水の調製方法と、それを使用した稚エビの養殖方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、稚エビの養殖に使用する稚エビ養殖用海水の調製方法であって、
天然海水を前処理する工程と、
前記天然海水の前処理水を限外ろ過膜モジュールによりろ過して稚エビ養殖用海水を得る工程を有しており、
原料となる天然海水、前処理水および稚エビ養殖用海水に対して、殺菌剤、抗生物質を含む薬剤を投与しない、稚エビ養殖用海水の調製方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の稚エビ養殖用海水の調製方法によれば、天然海水を原料として、殺菌剤や抗生物質などの薬剤を使用することなく、無菌状態の稚エビ養殖用海水を調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の稚エビ養殖用海水の調製方法を実施するための調製フロー図である。
図2】従来技術の稚エビ養殖用海水の調製方法を実施するための調製フロー図である。
図3】(a)は原水の一般細菌の測定結果を示す写真、(b)は稚エビ養殖用海水の一般細菌の測定結果を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1により稚エビの養殖に使用する稚エビ養殖用海水の調製方法を説明する。
原料となる天然海水は、海洋から船1により採取され、運搬されたものであり、第1天然海水ライン10から天然海水タンク2に送って貯水する。
【0010】
最初の工程にて、天然海水タンク2内の天然海水を第2天然海水ライン11から前処理工程に送って前処理する。
前処理工程は、限外ろ過膜モジュー5においてろ過するときの負荷が軽減できる方法であれば特に制限されるものではなく、各種プレフィルターによる濾過方法、活性炭による処理方法などを適用できる。
本発明の好ましい一態様は、天然海水をマイクロフィルター3でろ過した後、第1前処理水ライン12から活性炭フィルター4に送ってろ過する工程である。
マイクロフィルター3は、例えば、孔径3~10μmのマイクロフィルターを使用することができる。
【0011】
次の工程にて、活性炭フィルター4でろ過したものを第2前処理水ライン13から限外ろ過膜モジュール5に送って、限外ろ過して稚エビ養殖用海水を得る。
限外ろ過膜モジュール5は、ケースハウジング内に限外濾過膜の束が収容されたものであり、限外ろ過膜としては、ポリエーテルサルホンからなる中空糸膜を使用することができる。
中空糸膜は、内圧式と外圧式のいずれでもよい。
中空糸膜の分画分子量(ポリスチレン換算)は、本発明の好ましい一態様は50,000以上であり、本発明の別の好ましい一態様は80,000以上であり、本発明のさらに別の好ましい一態様は90,000以上である。
中空糸膜の分画分子量は、5,000,000以下(公称孔径0.5μm以下)が好ましいが、さらに好ましくは200,000以下(公称孔径0.01μm以下)である。分画分子量200,000以下により、細菌だけでなく、ウイルスの除去性能が高まる。
限外ろ過膜モジュール5は、処理水量に応じて複数を並列に配置して使用することもできるほか、分画分子量の異なるものの複数を直列配置して使用することもできる。
【0012】
ポリエーテルサルホンからなる中空糸膜は、本発明の好ましい一態様は内径0.6mm以下のものであり、本発明の別の好ましい一態様は内径0.4~0.6mmのものである。
限外ろ過膜モジュール5に収容された中空糸膜の合計の有効膜面積は、本発明の好ましい一態様は4~10m2であり、本発明の別の好ましい一態様は5~8m2である。
【0013】
限外ろ過膜モジュール5でろ過したろ過水は、ろ過水ライン14から稚エビ養殖池(稚エビ養殖水槽)6に供給することができるほか、稚エビ養殖用海水タンク6に貯めた後、1または2以上の稚エビ養殖池(稚エビ養殖水槽)に供給することもできる
その他、稚エビ養殖用海水を容器に充填したものを販売することもできる。
限外ろ過膜モジュール5でろ過したときの濃縮水の一部または全部は、天然海水タンク2に返送することもできる。
本発明の稚エビ養殖用海水の調製方法では、原料となる天然海水、前処理水および稚エビ養殖用海水に対して、殺菌剤、抗生物質を含む薬剤を投与しないため、限外濾過膜モジュール5の濃縮水は、そのままで、または天然海水や河川水と混合した後、海洋または河川に放出することができる。
【0014】
限外濾過膜モジュール3によるろ過運転を継続してろ過性能(ろ過水量)が低下した場合には、適宜逆圧洗浄を実施することができる。
逆圧洗浄は、限外濾過膜モジュール3に接続した逆圧洗浄ライン(図示せず)から、限外濾過膜モジュール5によるろ過水(稚エビ養殖用海水)または原水(天然海水)を限外濾過膜モジュール3に圧入して実施する。
【0015】
本発明の稚エビ養殖用海水の調製方法は、養殖水量が合計で100m3以下の養殖場に対して適用することができる。
本発明の稚エビ養殖用海水の調製方法により得た稚エビ養殖用海水を使用して養殖するときは、一水槽当たり30~100万匹の稚エビの入った容量3~10m3の養殖水槽を複数設置して養殖することができる。
【0016】
各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせなどは一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲で、適宜構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。本発明は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例
【0017】
実施例1
図1に示す調製フローにより稚エビ養殖用海水を調製した。
天然海水は、メコン川の河口から南に100kmの海域から採取したものを使用した。
マイクロフィルター3は孔径5μmのものを使用し、活性炭フィルター4はカートリッジ型活性炭フィルターを使用した。
限外濾過膜モジュール5は、ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社の商品名MOLSEP(品番FG06HFC-FUS1041,中空糸型限外濾過膜,膜材質ポリエーテルサルホン,分画分子量100,000,中空糸膜内径0.4mm,膜面積7m2,外圧式)を使用した。
限外濾過膜モジュール5のろ過水は、ろ過水タンクに貯水した。
限外濾過膜モジュール5のろ過は、ろ過流量1.5m3/hrで240分間運転した。ろ過流量の合計が6m3の時点で、原水とろ過水(稚エビ養殖用海水)中の一般細菌を測定した。
【0018】
一般細菌の測定は、滅菌シャーレの寒天培地に1mlのサンプル水(原水または稚エビ養殖用海水)を添加し、40℃で48時間保持した後の状態を観察した。結果を図3に示す。
図3(a)は原水であり、細菌叢が確認できたが、図3(b)の稚エビ養殖用海水を添加培養した方は、全く細菌叢が確認できなかった。
この結果から、実施例1により調製された稚エビ養殖用海水は、稚エビ養殖用海水として安全性が高いことが確認された。また、薬剤も使用していないため、稚エビに対する薬剤残留の問題も無く、養殖後の稚エビ養殖用海水の排水処理も容易である。
【0019】
図1に示すフローで調製した稚エビ養殖用海水を使用して、4,5m3の水槽中で約80万匹の稚エビを養殖した。
その結果、大きな養殖池に移すことができる程度(卵の発生から18日後のポストラーバ体長約10mm)まで成長させたときの生存率は80%以上であった。
なお、図2のフローで調製した稚エビ養殖用海水を使用して同様に稚エビを養殖した場合の生存率は約50%であり、これは殺菌剤(次亜塩素酸ソーダ水溶液)の影響を受けたものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の稚エビ養殖用海水の調製方法は、稚エビの養殖に使用する稚エビ養殖用海水の調製方法のほか、他の海洋生物の養殖水や観賞魚用の飼育水の調製方法としても利用することができる。
【符号の説明】
【0021】
1 船(天然海水を採取する船)
2 天然海水タンク
3 マイクロフィルター
4 活性炭フィルター
5 限外濾過膜モジュール
6 稚エビ養殖水槽または稚エビ養殖用海水タンク
10 第1天然海水ライン
11 第2天然海水ライン
12 第1前処理水ライン
13 第2前処理水ライン
14 ろ過水ライン
15 薬剤供給ライン
図1
図2
図3