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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】ワイヤソー
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/06 20060101AFI20240610BHJP
   B28D 5/04 20060101ALI20240610BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
B24B27/06 F
B28D5/04 C
H01L21/304 611W
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020025852
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021130151
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000152675
【氏名又は名称】コマツNTC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】河津 知之
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲也
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-180607(JP,A)
【文献】特開平11-070457(JP,A)
【文献】特開平07-276218(JP,A)
【文献】特開平11-156694(JP,A)
【文献】特開平08-011047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B27/06
B28D5/04
H01L21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤによってワークを切断するワイヤソーにおいて、
前記ワークを昇降させる昇降装置と、
前記ワイヤによって前記ワークを切断加工した後、前記昇降装置によって前記ワークを上昇させた際に、前記ワイヤが前記ワークに引っ掛かって上昇したことを検出するワイヤ上昇検出手段と、
前記ワイヤ上昇検出手段が前記ワイヤの上昇を検出したことに応じて警報を発する警報手段と、
前記ワイヤ上昇検出手段に設けられて、前記ワイヤが上昇した際に、前記ワイヤによって押し上げられるワイヤ上昇検出用の棒状部材またはローラと、
前記ワイヤを所定のピッチ間隔で巻き掛けた加工用ローラと、
前記加工用ローラの延在する方向に延設されて、前記ワイヤに加工液を供給するための加工液供給ノズルと、
前記加工液供給ノズルと、前記棒状部材または前記ローラとの間に介在されて、前記棒状部材または前記ローラを前記ワイヤの上方に上下動可能に弾性的に支持する付勢部材と、
を備えている
ことを特徴とするワイヤソー。
【請求項2】
記棒状部材または前記ローラは、装置本体に対して回転自在に支持されている
ことを特徴とする請求項1に記載のワイヤソー。
【請求項3】
ワイヤ上昇検出手段は、前記ワイヤがワークに引っ掛かって上昇したことを検出するフォトカプラを備えている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のワイヤソー。
【請求項4】
前記棒状部材または前記ローラは、前記ワイヤを所定のピッチ間隔で巻き掛けた加工用ローラの延在する方向に延設されている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のワイヤソー。
【請求項5】
前記ワイヤ上昇検出手段は、前記棒状部材または前記ローラが上昇したことを検出するリミットスイッチを備えている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のワイヤソー。
【請求項6】
前記棒状部材または前記ローラは、前記加工用ローラが延在する全域に亘る長さに形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のワイヤソー。
【請求項7】
前記ワイヤ上昇検出手段が前記ワイヤの上昇を検出した際に、前記昇降装置を駆動させる制御手段を備え、
前記制御手段は、前記ワイヤ上昇検出手段が前記ワイヤの上昇を検出した際に、前記昇降装置を停止、または、下降駆動させる
ことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のワイヤソー。
【請求項8】
前記ワイヤ上昇検出手段が前記ワイヤの上昇を検出した際に、前記昇降装置を下降駆動させた後に、上昇駆動させる制御手段を備え、
前記制御手段は、前記ワイヤ上昇検出手段が前記ワイヤの上昇を複数回検出した際に、前記警報手段を駆動させる
ことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のワイヤソー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤソーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体材料や磁性材料等のワークをワイヤによって切断するワイヤソーは、複数のローラに所定間隔で巻き付けたワイヤを高速走行させて、そのワイヤにワークを押し当てることで切断している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図3は、従来のワイヤソー100を示す図であり、(a)はローラ410,420に巻き掛けたワイヤ430でワークWを切断する前の状態を示す概略図、(b)はワイヤ430でワークWを切断した後の状態を示す概略図である。
【0004】
図3(a)、(b)に示すように、従来のワイヤソー100は、切断加工の際に、昇降装置300によってワークWを下降させて加工部400のワイヤ430で切断後、昇降装置300でワークWを上昇させたときに、ワイヤ430がワークWに引っ掛かって一緒に上昇することがある。
【0005】
図3(b)に仮想線で示すワイヤ430の上昇を防止するために、特許文献1に記載のワイヤソーでは、ワイヤ(8)の浮き上がりを規制する規制部材(49L,49R)を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-11047号公報(図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載のワイヤソーは、ワイヤ(8)の浮き上がりを規制する規制部材(49L,49R)を備えていても、ワイヤ(8)がワーク(W)に引っ掛かる場合がある。ワーク(W)に引っ掛かったワイヤ(8)は、ワーク(W)から外れ難い。このため、ワイヤ(8)がワーク(W)に引っ掛かった場合は、作業員が引っ掛かったワイヤ(8)をワーク(W)から落とすか、または、作業員がワーク(W)に引っ掛かったワイヤ(8)を切断していた。
【0008】
このようなことから、ワーク(W)をワイヤ(8)で切断して上昇させる際に、作業員は、ワイヤ(8)がワーク(W)に引っ掛かっているか、否かを目視で確認する必要がある。このため、ワイヤソーでは、加工完了後に、ワーク(W)を上昇させるときの作業員によるチェック作業の効率化が望まれていた。
【0009】
本発明は、前記した問題点を解決して、ワイヤがワークに引っ掛かったことを目視による確認を必要とせず、作業を効率化することができるワイヤソーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明に係るワイヤソーは、ワイヤによってワークを切断するワイヤソーにおいて、前記ワークを昇降させる昇降装置と、前記ワイヤによって前記ワークを切断加工した後、前記昇降装置によって前記ワークを上昇させた際に、前記ワイヤが前記ワークに引っ掛かって上昇したことを検出するワイヤ上昇検出手段と、前記ワイヤ上昇検出手段が前記ワイヤの上昇を検出したことに応じて警報を発する警報手段と、前記ワイヤ上昇検出手段に設けられて、前記ワイヤが上昇した際に、前記ワイヤによって押し上げられるワイヤ上昇検出用の棒状部材またはローラと、前記ワイヤを所定のピッチ間隔で巻き掛けた加工用ローラと、前記加工用ローラの延在する方向に延設されて、前記ワイヤに加工液を供給するための加工液供給ノズルと、前記加工液供給ノズルと、前記棒状部材または前記ローラとの間に介在されて、前記棒状部材または前記ローラを前記ワイヤの上方に上下動可能に弾性的に支持する付勢部材と、を備えていることを特徴とする
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ワイヤがワークに引っ掛かったことを目視による確認を必要とせず、作業を効率化することができるワイヤソーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係るワイヤソーを示す概略図である。
図2】本発明の実施形態に係るワイヤソーの要部概略斜視図である。
図3】従来のワイヤソーを示す図であり、(a)はワイヤでワークを切断する前の状態を示す概略図、(b)はワイヤでワークを切断した後の状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係るワイヤソー1を図1及び図2を参照して説明する。
なお、本発明のワイヤソー1の実施形態を説明するのにあたり、便宜上、図1に示す加工用ローラ41,42を前側から見た状態の方向側を正面として説明する。
【0014】
<ワーク>
図1に示すように、ワークWは、半導体材料、磁性材料、セラミック等の硬脆材料から成る。ワークWは、ワイヤソー1に配置された加工装置4のワイヤ43に押し当てることで切削して切断される。
【0015】
≪ワイヤソー≫
ワイヤソー1は、加工装置4の加工用ローラ41,42間における加工部40のワイヤ43によってワークWを切断する切断装置である。ワイヤソー1は、クランプ装置2と、昇降装置3と、加工装置4と、ワイヤ上昇検出手段5と、加工液供給装置6と、装置本体7(図2参照)と、制御手段8と、警報手段9と、を備えて構成されている。
【0016】
≪クランプ装置≫
クランプ装置2は、加工装置4でワークWを加工する際に、ワークWをクランプするための保持機構である。クランプ装置2は、加工室に搬入されたワークWを、ワーク治具21を介在して間接的にクランプしてから、そのワークWを加工装置4のワイヤ43に押し当てて加工する。
【0017】
図2に示すように、ワークWの上面には、ガラスプレート、金属プレート等の板状部材を介在してワーク治具21が着脱可能に装着されている。ワーク治具21の上面には、クランプ装置2のワーク保持部材(図示省略)に着脱可能に連結される複数の被クランプ部21aが設けられている。
【0018】
≪昇降装置≫
図1に示すように、昇降装置3は、下端部にワーク治具21等を介在してワークWを保持するクランプ装置2を備えて、ワークWを昇降させるための装置である。昇降装置3は、ワークWを加工装置4のワイヤ43に下降させて押し付けて加工したり、ワークWを昇降させたりする。昇降装置3は、例えば、クランプ装置2を上下させるボールねじ等を備えて成る移動機構(図示省略)と、その移動機構を作動させるサーボモータ等から成る移動用駆動モータ(図示省略)等と、を備えて構成されている。
【0019】
≪加工装置≫
図1及び図2に示すように、加工装置4は、クランプ装置2にクランプされたワークWを加工する切削機構である。加工装置4は、適宜な間隔で水平方向に対向配置された一対の加工用ローラ41,42と、加工用ローラ41と加工用ローラ42とに巻き掛けられたワイヤ43と、加工用ローラ41,42を回転駆動させる駆動モータ(図示省略)と、を備えて構成されている。加工装置4は、装置本体7の支持フレーム71に設けられている。
【0020】
加工装置4の上方には、ワークWを支持するクランプ装置2が昇降装置3によって昇降可能に配置されている。加工装置4は、ワイヤソー1の運転時に、ワイヤ43が加工用ローラ41,42間で走行されて、クランプ装置2で保持されたワークWが、昇降装置3によって下降されて加工部40のワイヤ43に押し付けられることで切断する。
【0021】
加工用ローラ41,42は、駆動モータ(図示省略)によって回転されることで、ワイヤ43を加工用ローラ41,42間で走行させるように構成されている。加工用ローラ41,42は、少なくとも一対であればよく、相互間隔をおいて平行に配置される構成であれば、3本以上でもよい。以下、加工用ローラ41,42が二つの場合を例に挙げて説明する。
【0022】
ワイヤ43は、例えば、1本の線材によって構成された加工用ワイヤである。ワイヤ43は、加工用ローラ41,42によって、一定量前進及び一定量後退を繰り返して、全体として歩進的に前進し、または、一方向に連続して前進するように駆動される。
【0023】
≪ワイヤ上昇検出手段≫
図1に示すように、ワイヤ上昇検出手段5は、ワイヤ43がワークWに引っ掛かって上昇したことを検出するための検出装置である。なお、ワイヤ上昇検出手段5は、ワイヤ43の上昇を検出可能なものであれば、その構成は特に限定されない。以下、ワイヤ上昇検出手段5の一例として、リミットスイッチ52を備えて構成されたものを例に挙げて説明する。
【0024】
ワイヤ上昇検出手段5は、ワイヤ上昇検出用の棒状部材またはローラ51と、リミットスイッチ52と、支持部材53と、付勢部材54と、を備えて構成されている。
【0025】
<棒状部材またはローラ>
ワイヤ上昇検出用の棒状部材またはローラ51は、ワイヤ43が上昇した際に、ワイヤ43によって押し上げられる部材である。図2に示すように、棒状部材またはローラ51は、ワイヤ43を所定のピッチ間隔で巻き掛けた加工用ローラ41,42の延在する方向に延設された回転可能な丸棒状の部材、あるいは、円筒状部材から成る。棒状部材またはローラ51は、加工用ローラ41,42が延在する全域に亘る長さL1と、加工液供給ノズル61が延在する全域に亘る長さL3と、と略同じ長さL2に形成されている。このため、棒状部材またはローラ51の長さL2は、加工用ローラ41,42にそれぞれ巻回されて軸方向に延在するワイヤ43の全域に亘る長さL4よりも長く形成されている。
【0026】
<リミットスイッチ>
図1に示すように、リミットスイッチ52は、棒状部材またはローラ51が上昇したことを検出する検出器である。リミットスイッチ52は、ワイヤ43がワークWに引っ掛かって上昇した際に、ワイヤ43が棒状部材またはローラ51を押し上げたときに、支持部材53が上昇したことを検出することで、ワイヤ43の上昇を間接的に検出する開閉器である。リミットスイッチ52は、固定接点(図示省略)と、支持部材53が上昇したときに固定接点に接触してON、支持部材53が下降したしたときに固定接点から離間してOFF状態になる可動接点と、を備えている。リミットスイッチ52は、加工液供給ノズル61の下面等に取り付けされている。リミットスイッチ52は、制御手段8の制御部81に接続されている。
【0027】
<支持部材>
支持部材53は、棒状部材またはローラ51を回転自在に軸支するための部材である。つまり、棒状部材またはローラ51は、装置本体7に対して回転自在に支持されている。支持部材53は、一端部が棒状部材またはローラ51を回転自在に支持し、他端部が加工液供給ノズル61に設けられた保持部63に取り付けられている。支持部材53は、棒状部材またはローラ51が上昇・下降すると、基端部が保持部63を中心として上方向及び下方向に回動するように設けられている。図2に示すように、支持部材53は、棒状部材またはローラ51の前後端部と、保持部63の前後端部と、をそれぞれ連結するリンク状の部材から成る。
【0028】
図1に示すように、付勢部材54は、加工液供給ノズル61と、棒状部材またはローラ51との間に介在されて、棒状部材またはローラ51を加工液供給ノズル61に弾性的に連結する部材である。付勢部材54は、加工用ローラ41と加工用ローラ42との間のワイヤ43の上方に適宜な隙間を介して配置されている。付勢部材54は、棒状部材またはローラ51をワイヤ43の上方に上下動可能に弾性的に支持する弾性体である。付勢部材54は、上端部が、加工液供給ノズル61の下面に連結され、下端部が、棒状部材またはローラ51に連結されている。
【0029】
付勢部材54は、平常時に、棒状部材またはローラ51をワイヤ43の上側の所定位置に支持している。付勢部材54は、棒状部材またはローラ51がワイヤ43によって押し上げられて予め設定した所定の高さまで上昇したとき、支持部材53がリミットスイッチ52を押圧してONさせるように、弾性変形する。
【0030】
≪加工液供給装置≫
加工液供給装置6は、ワイヤ43に加工液を供給するための供給装置である。加工液供給装置6は、加工液貯留タンク(図示省略)と、加工液供給ポンプ60と、加工液供給ノズル61と、加工液供給管62と、保持部63と、を備えて構成されている。
【0031】
加工液貯留タンク(図示省略)は、ワイヤ43でワークWを切削加工するときに、ワイヤ43に供給する加工液を貯留するタンクである。加工液貯留タンク(図示省略)は、基台(図示省略)上に載置されている。
加工液供給ポンプ60は、加工液貯留タンク(図示省略)内の加工液を、加工液供給管62を介して加工液供給ノズル61に送るためのポンプである。
【0032】
加工液供給ノズル61は、加工用ローラ41,42に巻き掛けられたワイヤ43に加工液を放出する装置である。加工液供給ノズル61は、左側に加工用ローラ41の近傍位置にあるワイヤ43と、右側に加工用ローラ41の近傍位置にあるワイヤ43と、にそれぞれ加工液を放出する左右一対のノズルから成る。加工液供給ノズル61は、加工用ローラ41,42の延在する方向に延設されて、加工用ローラ41,42に所定間隔で巻き掛けられてワイヤ43の全てに加工液を供給可能になっている。加工液供給ノズル61は、ブラケット(図示省略)によって、支持フレーム71に固定されている。
【0033】
図1に示すように、加工液供給管62は、加工液供給ポンプ60と、左右の加工液供給ノズル61と、を連結するチューブ等から成る。
図1及び図2に示すように、保持部63は、支持部材53の基端部を加工液供給ノズル61に支持させるための部材である。保持部63は、加工液供給ノズル61の基端部側の下面に固定されている。
【0034】
≪装置本体≫
図2に示すように、装置本体7は、ワイヤソー1の基台の上部に設置されたコラム等から成る。装置本体7は、加工用ローラ41,42を支持する支持フレーム71を固定した固定フレーム等を備えている。
【0035】
≪制御手段≫
図1に示すように、制御手段8は、クランプ装置2、昇降装置3、加工装置4、加工液供給装置6、及び、警報手段9を駆動させるための制御装置である。制御手段8は、制御部81と、警報装置駆動部82と、加工装置駆動部83と、昇降装置駆動部84と、加工液供給ポンプ駆動部85と、を備えて構成されている。また、制御手段8は、不図示の制御盤を介して電源に接続されている。
【0036】
<制御部>
制御部81は、各種のデータを記憶する記憶部を有し、その記憶部にはワイヤソー1全体の動作を制御するためのプログラムが記憶されている。また、制御部81は、警報装置駆動部82と、加工装置駆動部83と、昇降装置駆動部84と、加工液供給ポンプ駆動部85と、にそれぞれ接続されている。
【0037】
<警報装置駆動部>
警報装置駆動部82は、ワイヤ上昇検出手段5がワイヤ43の上昇を検出した際に、リミットスイッチ52のON信号を、制御部81を介して受信した場合に、アラーム等の警報手段9を駆動させる装置である。警報装置駆動部82は、警報手段9を駆動させることで、作業者に、ワイヤ43がワークWによって引き上げられたことを知らせることができる。
【0038】
<加工装置駆動部>
加工装置駆動部83は、制御部81に記憶されているプログラムに基づいて、加工装置4の駆動用モータ(図示省略)を駆動させる装置である。加工装置駆動部83は、その駆動用モータ(図示省略)を駆動させることによって、加工用ローラ41,42を回転させて、ワイヤ43を走行させる。
【0039】
<昇降装置駆動部>
昇降装置駆動部84は、制御部81に記憶されているプログラムに基づいて、昇降装置3を駆動させる装置である。昇降装置駆動部84は、昇降装置3の駆動モータ(図示省略)を駆動させることによって、クランプ装置2に保持したワークWを上昇、下降させる。また、昇降装置駆動部84は、ワイヤ上昇検出手段5(リミットスイッチ52)がワイヤ43の上昇を検出した際に、制御部81を介して、昇降装置3を駆動させて、ワークWを上昇・下降させる機能も備えている。
【0040】
<加工液供給ポンプ駆動部>
加工液供給ポンプ駆動部85は、制御部81に記憶されている各種データやプログラムに基づいて、加工液供給ポンプ60を駆動させる装置である。加工液供給ポンプ駆動部85は、加工液供給ポンプ60を駆動させることによって、加工液供給ノズル61から加工液を放出させる。
【0041】
<警報手段>
警報手段9は、ワイヤ上昇検出手段5がワイヤ43の上昇を検出したことに応じて、制御部81を介して、警報を発する警報装置である。警報手段9は、例えば、アラーム音を発生させる警報器から成る。
【0042】
[ワイヤソーの作用]
次に、本発明の実施形態に係るワイヤソー1の作用を、図1及び図2を参照しながら作業工程順に説明する。
【0043】
図1または図2に示すように、ワークWに取り付けたワーク治具21を介してクランプ装置2でクランプしたワークWを昇降装置3で下降させることによって、加工装置4のワイヤ43に押し当ててワークWを切削加工する。
【0044】
ワークWの切削加工が終了後に、昇降装置3でワークWを上昇させる際に、ワイヤ43がワークWに引っ掛かってワークWによって引き上げられることがある。その場合、引き上げられたワイヤ43は、付勢部材54に抗して棒状部材またはローラ51を、上昇させる。
【0045】
棒状部材またはローラ51が上昇することで、支持部材53は、基端部を中心として上方向(矢印a方向)に回動して、リミットスイッチ52を押圧してONさせる。このリミットスイッチ52のON信号は、制御部81を介して、警報装置駆動部82及び昇降装置駆動部84に送られる。
【0046】
警報装置駆動部82は、警報手段9を駆動させて作業者に、ワイヤ43がワークWに引っ掛かって引き上げられたことを知らせる。作業者は、常に、ワイヤ43がワークWに引っ掛かったかを監視することなく、警報手段9を駆動したときだけ、ワイヤ43がワークWに引っ掛かったことを確認して、ワイヤ43に引っ掛かりを外せばよい。このため、ワイヤ43の監視作業を簡素化して、効率よくワイヤ43を監視することができる。
【0047】
また、昇降装置駆動部84は、ワイヤ43がワークWに引っ掛かって引き上げられた場合、警報手段9の駆動と共に、駆動して上昇している昇降装置3を上昇途中で停止させ、さらに、下降させる。これにより、ワイヤ43が引っ掛かったワークWを、それ以上上方に上昇しないので、ワイヤ43が切断するのを防止することができると共に、引っ掛かったワイヤ43をワークWから外し易い状態にすることができる。このため、ワイヤ43がワークWに引っ掛かったことを確認するチェック作業、及び、ワークWに引っ掛かったワイヤ43を取り外す取り外し作業の作業効率を向上させることができる。
【0048】
このように、本発明のワイヤソー1は、ワイヤ43によってワークWを切断するワイヤソー1において、ワークWを昇降させる昇降装置3と、を備え、ワイヤ43によってワークWを切断加工した後、昇降装置3によってワークWを上昇させた際に、ワイヤ43がワークWに引っ掛かって上昇したことを検出するワイヤ上昇検出手段5と、ワイヤ上昇検出手段5がワイヤ43の上昇を検出したことに応じて警報を発する警報手段9と、を備えている。
【0049】
かかる構成によれば、ワイヤソー1は、ワイヤ上昇検出手段5と、警報手段9と、を備えていることで、ワイヤ43がワークWに引っ掛かって上昇した場合に、ワイヤ43の上昇をワイヤ上昇検出手段5で検出して、ワイヤ43がワークWに引っ掛かっていることを警報手段9で作業者に知らせて呼ぶことができる。このため、作業者は、警報手段9の警報で知らされたときだけ、ワイヤ43がワークに引っ掛かったことを確認するチェック作業を行ったり、引っ掛かったワイヤ43の取り外し作業を行ったりすればよい。つまり、作業者は、ワイヤソー1に付きっ切りで、ワイヤ43を長時間に亘って常に視認しながら監視する必要がない。その結果、ワイヤがワークに引っ掛かったことを確認するチェック作業及びワイヤ43の取り外し作業の作業効率を向上させて効率化を図ることができる。
【0050】
また、図1及び図2に示すように、ワイヤ上昇検出手段5は、ワイヤ43が上昇した際にワイヤ43によって押し上げられるワイヤ上昇検出用の棒状部材またはローラ51を備え、棒状部材またはローラ51は、ワイヤ43を所定のピッチ間隔で巻き掛けた加工用ローラ41,42の延在する方向に延設されている。
【0051】
かかる構成によれば、ワイヤ上昇検出手段5は、ワークWに引っ掛かったワイヤ43が上昇した際に、押し上げられる棒状部材またはローラ51が、加工用ローラ41,42の延在する方向に延設されている。このため、加工用ローラ41,42に巻き掛けられたワイヤ全体を、最小限の部材で監視することができる。
【0052】
また、図1に示すように、ワイヤ上昇検出手段5は、棒状部材またはローラ51が上昇したことを検出するリミットスイッチ52を備えている。
【0053】
かかる構成によれば、ワイヤ上昇検出手段5は、リミットスイッチ52から成ることで、ワイヤ上昇検出手段5を小型化することができる。このため、リミットスイッチ52は、加工液供給装置6等に容易に設置することができると共に、棒状部材またはローラ51の上昇を検出することで、ワイヤ43の上昇を間接的に検出することができる。
【0054】
また、図2に示すように、棒状部材またはローラ51は、加工用ローラ41,42が延在する全域に亘る長さL2に形成されている。
【0055】
かかる構成によれば、棒状部材またはローラ51は、加工用ローラ41,42が延在する全域に亘って配置されていることで、加工用ローラ41,42に適宜な間隔で巻き掛けられた多数のワイヤ43全体の上昇を監視して検出することが可能となる。
【0056】
また、図1に示すように、本発明のワイヤソー1は、加工用ローラ41,42の延在する方向に延設されて、ワイヤ43に加工液を供給するための加工液供給ノズル61と、加工液供給ノズル61と、棒状部材またはローラ51との間に介在されて、棒状部材またはローラ51をワイヤ43の上方に上下動可能に弾性的に支持する付勢部材54と、を備えている。
【0057】
かかる構成によれば、ワイヤソー1は、加工液供給ノズル61と、棒状部材またはローラ51との間に付勢部材54を配置していることで、棒状部材またはローラ51を付勢部材54によってワイヤ43の昇降に応じて上下動するように弾性支持することができる。このため、横方向に長い棒状部材またはローラ51であっても、ワイヤ43の上下動に的確に応じて作動するように配置することができる。
【0058】
また、棒状部材またはローラ51は、装置本体7に対して回転自在に支持されている。
【0059】
かかる構成によれば、棒状部材またはローラ51は、装置本体7に対して回転自在に支持されていることで、ワークWに引っ掛かったワイヤ43が昇降装置3によって上昇した際に、棒状部材またはローラ51がワイヤ43に押されて、装置本体7に対して回動するように支持させることができる。このため、ワイヤ43は、棒状部材またはローラ51を押し上げた際に、棒状部材またはローラ51が回転するので、ワイヤ43にかかる負荷を低減させて、ワイヤ43が切断されるのを抑制することができる。
【0060】
[第1変形例]
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の改造及び変更が可能であり、本発明はこれら改造及び変更された発明にも及ぶことは勿論である。
【0061】
例えば、前記実施形態では、ワイヤ上昇検出手段5の一例として、棒状部材またはローラ51が上昇したことを検出するリミットスイッチ52を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。
ワイヤ上昇検出手段5は、ワイヤ43がワークWに引っ掛かって上昇したことを検出するフォトカプラを備えたものであってもよい。
【0062】
かかる構成によれば、ワイヤソー1は、フォトカプラの発光素子と受光素子とでワイヤ43の上昇を検出することができるので、前記実施形態で説明した加工液供給装置6、棒状部材またはローラ51、リミットスイッチ52、支持部材53、及び、付勢部材54が不要となる。このため、ワイヤソー1の部品点数及び組付工数を削減してコストダウンを図ることができる。
【0063】
[第2変形例]
また、ワイヤ上昇検出手段5は、棒状部材またはローラ51と、リミットスイッチ52とを備えたものに限定されるものではない。ワイヤ上昇検出手段5は、ワイヤ43が上昇したときに接触するように、加工用ローラ41,42の延在する方向に配線された電線と、この電線に電流を流してワイヤ43が接触したときに変化する電流値からワイヤ43の上昇を検出する検出器と、を備えたものであってもよい。
【0064】
ワイヤ上昇検出手段5は、このように構成しても、前記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。この場合は、棒状部材またはローラ51と、リミットスイッチ52とは不要である。
【0065】
[第3変形例]
また、ワイヤソー1は、ワイヤ上昇検出手段5がワイヤ43の上昇を検出した際に、昇降装置3を駆動させる制御手段8を備え、制御手段8は、ワイヤ上昇検出手段5がワイヤ43の上昇を検出した際に、昇降装置3を停止、または、下降駆動させてもよい。
【0066】
かかる構成によれば、制御手段8は、ワイヤ上昇検出手段5のリミットスイッチ52がワイヤ43の上昇を検出した際に、昇降装置3を駆動させるので、ワイヤ43がワークWに確実に引っ掛かって上昇した場合に、昇降装置3を下降させて、ワイヤ43をワークWから外し易くすることができる。
【0067】
[第4変形例]
また、ワイヤソー1は、ワイヤ上昇検出手段5がワイヤ43の上昇を検出した際に、昇降装置3を下降駆動させた後に、上昇駆動させる制御手段8を備え、制御手段8は、ワイヤ上昇検出手段5がワイヤ43の上昇を複数回(例えば、2~4回)検出した際に、警報装置9を駆動させるようにしてもよい。
【0068】
かかる構成によれば、制御手段8は、ワイヤ上昇検出手段5がワイヤ43の上昇を複数回検出した際に、警報装置駆動部82を駆動させて、警報手段9でワイヤ43がワークWによって引き上げられたことを報知する。このようにすることで、ワイヤ43がワークWによって確実に引き上げられたときに、警報手段9で警報させて作業者に知らせることができる。
【0069】
[その他の変形例]
また、図1に示す付勢部材54は、リミットスイッチ52の可動接点を付勢する接点ばねを共用したものであってもよい。
【0070】
また、リミットスイッチ52は、ワイヤ43が上昇したのに応じてONするその他の種類のスイッチ(例えば、プッシュスイッチ等)でもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 ワイヤソー
2 クランプ装置
3 昇降装置
4 加工装置
5 ワイヤ上昇検出手段
6 加工液供給装置
7 装置本体
8 制御手段
9 警報手段
41,42 加工用ローラ
43 ワイヤ
51 棒状部材またはローラ
52 リミットスイッチ
54 付勢部材
61 加工液供給ノズル
L1 加工用ローラの長さ
L2 棒状部材またはワイヤ上昇検出用ローラの長さ
L3 加工液供給ノズルの長さ
W ワーク
図1
図2
図3