(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】コバルトフェライト粒子の製造方法とそれにより製造されたコバルトフェライト粒子
(51)【国際特許分類】
C01G 51/00 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
C01G51/00 B
(21)【出願番号】P 2020059760
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019083563
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227250
【氏名又は名称】日鉄鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村谷 直紀
(72)【発明者】
【氏名】新井 翔
(72)【発明者】
【氏名】岸本 章
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101774646(CN,A)
【文献】特開平05-027481(JP,A)
【文献】特開2016-221807(JP,A)
【文献】特開2017-020539(JP,A)
【文献】特開2004-346272(JP,A)
【文献】NGUYEN Viet Long, et al.,Synthesis and magnetism of hierarchical iron oxide particles,Materials & Design,2015年,Vol.86, 5,pp. 797-808
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 51/00
C01G 49/00
G03G 9/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一鉄塩とコバルト塩から形成されたフェライト前駆体を、亜硫酸塩の存在下で熱処理してなるコバルトフェライト粒子の製造方法であって、
前記熱処理が圧力容器中で100℃以上で190℃以下の温度範囲で水熱条件でおこなうことからなる、コバルトフェライト粒子の製造方法。
【請求項2】
第一鉄塩とコバルト塩から形成されたフェライト前駆体を、亜硫酸塩の存在下で熱処理してなるコバルトフェライト粒子の製造方法であって、
前記熱処理が常圧で60℃以上で100℃未満の温度範囲で加熱をおこなうことからなる、コバルトフェライト粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第一鉄塩とコバルト塩が、硫酸鉄(II)と硫酸コバルト(II)である請求項1又は2に記載のコバルトフェライト粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルトフェライト粒子の製造方法、及びそれにより製造されたコバルトフェライト粒子に関するもので、特に平均粒子径が比較的大きく、さらに粒子径分布もそろったコバルトフェライト粒子を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
フェライト粒子は、高透磁率材料や永久磁石材料として知られ、今日では磁性粉体はコピー用トナー、磁性インク、MR流体等の新たな素材に用いられるようになり、その品質や性能の向上が期待されている。
特にコバルトフェライトは、スピネル型フェライトの中でも結晶磁気異方性が大きく、保磁力の大きい磁性材料として知られている。また、コバルトは鉄と化学的な挙動が似ているため、その製造工程において各種制御が容易にできるという利点がある。
【0003】
フェライト粒子の製造方法としては、共沈法、湿式酸化法、水熱法などの方法が知られている。
共沈法は、二種類以上のイオンを同時に沈殿させる反応で、コバルトフェライト粒子を製造する場合、Fe3+とCo2+イオンを含む水溶液にアルカリを投入後、加熱することで反応を促進させてナノサイズのフェライト粒子を得る。この方法では、80~100℃の温度で反応をおこない、得られた粒子の平均粒子径は20~50nm程度で、比較的粒度分布の広い粒子しか得られない(特許文献1)。
【0004】
湿式酸化法は、Fe2+とCo2+イオンを含む原料水溶液に加熱しながら空気等の酸化剤を反応させる方法である。酸化剤として空気を使用した場合には、反応温度は60~100℃程度で、0.05~0.3μm程度の粒子を得ている(特許文献2、特許文献3)。また、原料水溶液と酸化剤液との反応を連続的におこなう方法では、30~100℃の温度で反応をおこない、3~20nmのフェライト粒子を得ている(特許文献4)
【0005】
水熱法は、Fe2+イオンを含む水溶液にCo2+イオンを含む水溶液を混合し、オートクレーブ中で水熱合成する方法で、160~300℃という高温反応により、0.3~8μmという比較的大きな粒子径のフェライト粒子を製造している(特許文献5)。
【0006】
従来技術によりフェライト粒子を製造する場合、共沈法や湿式酸化法によれば、比較的低い温度で製造することができるが、得られたフェライト粒子はnmオーダーの微細な粒子しか得られない。また、水熱法によればμmオーダーの比較的大きな粒子を得ることができるが、高温高圧で水熱反応(シッコール反応)を行なわせる必要があり、設備やコストの面で問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4138344号公報
【文献】特公平3-24412号公報
【文献】特公昭60-47722号公報
【文献】特許第5504399号公報
【文献】特開平5-275224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の技術の問題点を克服し、平均粒子径が従来のものよりも大きくかつ均一な粒子径を持つコバルトフェライト粒子を、より低いエネルギーで合成することができる製造方法及び、これにより製造された、球形の形状を有し粒子径のそろったコバルトフェライト粒子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段として、本発明では、次の構成からなる手段を採用する。
(1)第一鉄塩とコバルト塩から形成されたフェライト前駆体を、亜硫酸塩の存在下で熱処理してなるコバルトフェライト粒子の製造方法。
(2)(1)の熱処理が圧力容器中で100℃以上で190℃以下の温度範囲で水熱条件でおこなうことからなる(1)のコバルトフェライト粒子の製造方法。
(3)(1)の熱処理が常圧で60℃以上で100℃未満の温度範囲で加熱をおこなうことからなる(1)のコバルトフェライト粒子の製造方法。
(4)(1)の第一鉄塩とコバルト塩が、硫酸鉄(II)と硫酸コバルト(II)であるコバルトフェライト粒子の製造方法。
(5)球形の形状で平均粒子径が0.5~2 μmであるコバルトフェライト粒子。
(6)球形の形状で平均粒子径が2~5 μmであるコバルトフェライト粒子。
(7)(5)又は(6)のコバルトフェライト粒子からなるコピー用トナー。
(8)(5)又は(6)のコバルトフェライト粒子からなる磁性インク。
(9)(5)又は(6)のコバルトフェライト粒子からなるMR流体。
(10)(5)又は(6)のコバルトフェライト粒子の表面に、酸化チタン膜と金属銀膜とをこの順に有する白色粉体。
(11)明度L*が75以上である(10)の白色粉体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法を採用することにより、従来方法で製造された磁性粒子と比較して、より低いエネルギーで、粒子径のそろったコバルトフェライトからなる磁性粒子を製造することができる。また、反応途中の反応溶液に対して、フェライト前躯体を追加して熱処理を行なうことにより、製造される磁性粒子の粒子径を調整することが可能である。
本発明の製造方法で得られたコバルトフェライト粒子は、球形の形状で粒子径がそろっているので、コピー用トナー、磁性インク、MR流体としての用途が期待される。また、本発明のコバルトフェライト粒子は、公知の方法で白色化することにより、白色、あるいはさらに着色層を設けて、明度の高い白色粉体あるいは鮮やかな色に着色されたカラー粉体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、本発明のコバルトフェライト粒子の製造方法を、工程にそって説明する。
(フェライト前駆体の製造)
まず、第一鉄塩とコバルト塩を脱塩脱気水に溶解して原料溶液を調製する。
本発明の方法において使用する第一鉄塩としては特に限定されず、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、硝酸鉄(II)等が例示でき、高炉や電炉の鉄洗廃液なども安価な原料として良い。前駆体とした際に安定であることから硫酸鉄(II)が最も好ましい。また、コバルト塩についても特に限定されず、塩化コバルト(II)、硝酸コバルト(II)等が例示できる。同様な理由から、硫酸コバルト(II)が最も好ましい。
ここで脱塩脱気水を使用するのは、溶液中に溶解した鉄等の金属イオンの電荷状態が、溶存している塩や酸素の影響を受けることを防ぐためである。例えば、反応系中に遊離酸素が存在すると2価鉄が3価鉄に酸化してしまい、目的としない粒子径の微粒子が発生してしまうことが知られている。
【0013】
次に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニアなどのアルカリと、亜硫酸塩を脱塩脱気水に溶解してアルカリ水溶液を調製する。その後に、原料溶液とアルカリ溶液を混合する。この順番で原料成分を混合することにより、原料成分が完全に溶解するし、意図しない反応が進行することもない。
原料溶液とアルカリ溶液を混合することにより、添加した金属元素の水酸化物が共沈してゲル状前駆体を形成する。
【0014】
(亜硫酸塩)
本発明は、第一鉄塩とコバルト塩からなるゲル状前駆体を、亜硫酸塩の存在下で熱処理することに特徴がある。本発明の発明者らは、亜硫酸塩はフェライトの合成反応において次のような作用を及ぼすものと考えている。しかし、亜硫酸塩の下記の作用は、発明者らが各種反応の経過から予測したものであって、本発明がこの解釈に拘束されるわけではない。
【0015】
亜硫酸塩は還元作用を有することが一般的に知られており、各種物品の酸化防止剤として使われている。そして、前記のとおり、本発明のゲル状前駆体は金属元素の水酸化物が共沈したものであるが、加熱を始める前の段階では、亜硫酸塩は通常の還元作用をゲル状前駆体に及ぼし、金属水酸化物が酸化されることを防止する。これにより、フェライト以外の意図しない酸化物が生成されることを防ぐ。
【0016】
次に、ゲル状前駆体溶液が高温に加熱されると、亜硫酸イオン、及び亜硫酸イオンの一部が酸化した硫酸イオンは、酸素供給源としての作用を発揮するものと考えられる。
このことは、180℃で水熱法によりコバルトフェライトの合成実験を行なった際に、鉄コバルト硫化物の生成が確認されていることから裏付けられる。金属硫化物が生成されるのは、亜硫酸イオンあるいは硫酸イオンが還元されて金属イオンと結合したためと考えられるからである。
このため、亜硫酸イオンあるいは硫酸イオンの酸素は、フェライト合成反応にも供給されると考えられる。
【0017】
そうすると、亜硫酸塩は、加熱が始まると徐々に還元力を失い、逆に酸化剤として作用することになると考えられる。このため、ゲル状前駆体が加熱されても、加熱による酸化速度を遅らせることができ、合成されるフェライト粒子の粒子径を大きくすることができる。さらには、粒子径がそろったフェライト粒子を製造することができる。
本発明は、発明者らが新たに発見した上記知見に基づいてなされたものである。
【0018】
(熱処理)
本発明においては2通りの熱処理方法が可能である。圧力容器を用いた水熱法による熱処理と、ウォーターバスを用いた常圧下でおこなう熱処理である。
加熱温度は、常圧下で熱処理をおこなう場合には60℃以上で100℃未満であり、水熱法でおこなう場合には100℃以上190℃程度までである。熱処理条件を変えることにより、生成されるコバルトフェライト粒子の平均粒子径が異なったものを製造することができる。
すなわち、圧力容器を用いた水熱法による高温高圧の条件で製造した場合には、平均粒子径が0.5~2μm程度の比較的細粒が得られ、一方、ウォーターバスを用いた常圧下の加熱で製造した場合には、平均粒子径が2~5μm程度の比較的粒子径が大きいコバルトフェライト粒子が得られる。
以下では、それぞれの合成方法を簡単に説明する。
【0019】
(水熱法)
本発明で使用する圧力容器は、通常の高圧反応容器であれば良く、オートクレーブ、圧力釜、ボイラー等が例示できるが、汎用性等からオートクレーブが好ましい。
通常のシッコール法では200℃以上の高温で反応が進められるが、本発明では100~190℃の温度範囲でコバルトフェライトからなる磁性粒子を合成することができる。圧力容器内では、酸化加水分解をおこなうシッコール反応ではなく、酸化反応が進行する。
このことは、シッコール反応が進行した場合には必然的に水素ガスが発生するが、本発明では水素ガスが発生していないことから確認できる。上記したように硫化物の生成が確認されているので、亜硫酸イオンを酸化剤とする酸化反応が起こっていると考えられる。
得られた磁性粒子は洗浄して非磁性の副産物を除去して得られる。
【0020】
(常圧法)
前工程で得られたゲル状前駆体を容器に入れて、これを60~100℃に維持したウォーターバスに浸漬して熱処理をおこなう。この状態で48時間程度維持してコバルトフェライトの緩やかな合成反応をおこなう。水熱法と同じ酸化反応が進行すると考えられる。
得られた生成物は洗浄処理の後に大気中で乾燥して熱処理することにより磁性粒子とする。
【0021】
(コバルトフェライト粒子)
本発明で製造されたコバルトフェライト粒子は、平均粒子径がμmオーダーと比較的大きな粒子である。また、球形に近い形状で粒子径の分布幅も狭いので、粒子相互間の凝集性が少なく、成形した場合に最密充填が可能なので成形体の磁性特性を向上できる、あるいは嵩密度が大きくできるという特徴を有する。
このため、コピー用トナー、磁性インク、MR流体の用途に用いることで、その特性を充分に発揮することができる。
【0022】
(白色粉体)
本発明のコバルトフェライト粒子は、白色化して白色粉体としたり、白色化した後にさらに着色層を設けてカラー粉体とすることができる。
公知の方法で白色化できるが、例えば、本件出願人が特許権を有する白色化方法(特許第4113045号)によることが望ましい。
この白色化方法は、基体粒子と金属銀膜の間に酸化チタン膜を設けることによる粉体の白色化方法である。具体的には、チタンアルコキシドの加水分解(例えば、国際公開96/28269号)やチタン塩水溶液からの反応(例えば、特開平11-131102号)等により、基体粒子の表面に酸化チタン膜を形成し、その後に、無電解メッキ法等の公知の方法により金属銀膜を形成することにより行うことができる。
この方法により、本発明のコバルトフェライト粒子の表面に酸化チタン膜と金属銀膜とをこの順に有する白色粉体を製造することができ、明度L*を75以上に向上させることができる。
【実施例】
【0023】
以下に本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例で製造したコバルトフェライト粒子の平均粒子径及び粒子径分布の測定は、次の方法により行なった。
【0024】
(平均粒子径)
平均粒子径の測定は次のとおりおこなった。
粉体試料のSEM像上に縦線、横線を16本ずつグリッド状に均等配置した画像を印刷し、縦線と横線の交点にある粒子あるいは交点に最も近い粒子計256個の直径をノギスで測定し、その平均値を求めた。また、SEM像上のスケールバーの長さを測定し、その値を用いてmm単位で測定した粒径をμm単位に変換したものを平均粒子径とした。
【0025】
(粒径分布)
本発明のコバルトフェライトの粒子径がそろっている点は、粒子径の変動係数であるCV値により特定した。
すなわち、統計学上はデータ分布のばらつきの1つの尺度として標準偏差が用いられるが、これをデータの算術平均値で割ることで規格化して、データのばらつきを評価することが行なわれている。これが変動係数であるCV値で、本発明でも、形成されたコバルトフェライト粒子の粒子径にばらつきが少ないことを、CV値を用いて評価することとした。CV値が小さいことが、粒子径分布にばらつきが少ないことを示しており、特にCV値が0.1以下の粒子は単分散粒子とされ、その特性が注目されている。
【0026】
〔実施例1〕常圧法による熱処理I
(1) 脱塩脱気水の調製
脱塩水480gを2.5L/minのN2で30分脱気し、脱塩脱気水を調製した。
(2) 原料水溶液の調製
硫酸鉄(II)七水和物(FeSO4・7H2O)45g、硫酸コバルト(II)七水和物(CoSO4・7H2O)9gを脱塩脱気水118gに溶解し、原料水溶液を調製した。
(3) アルカリ水溶液の調製
水酸化ナトリウム(NaOH)14g、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)50gを脱塩脱気水240gに溶解し、アルカリ水溶液を調製した。
(4) ゲル状前駆体の調製
N2置換した容器の中で原料水溶液とアルカリ水溶液を混合し、5分間撹拌してゲル状前駆体を調製した。
(5) ゲル状前駆体の熱処理による低磁性粒子の調製
ゲル状前駆体をN2置換した容器に入れ、60℃のウォーターバスに20日間浸漬し熱処理を行い、低磁性粒子を調製した。
(6) 低磁性粒子の洗浄
低磁性粒子をろ過、通水洗浄し、80℃の脱塩水4Lに分散させ24時間撹拌した。その後1:1硫酸でpHを2.5から3に調製した1Lの脱塩水に分散させ、撹拌しながら超音波をかけた後、磁石を用いて固液分離することで非磁性の副産物を除去した。
(7) 低磁性粒子の乾燥
洗浄後の低磁性粒子を大気雰囲気の下110℃で2時間乾燥させた。
(8) 低磁性粒子の熱処理
乾燥後の低磁性粒子をN2雰囲気の下600℃で3時間熱処理を行い、磁性粒子を得た。
【0027】
[実施例2]常圧法による熱処理II
実施例1におけるゲル状前駆体の熱処理において、90℃のウォーターバスに48時間浸漬して熱処理をおこなった以外は、実施例1と同様の方法により磁性粒子を調製した。
【0028】
[比較例1]
実施例1におけるゲル状前駆体の熱処理において、30℃のウォーターバスに浸漬して熱処理をおこなった以外は実施例1と同様の方法により磁性粒子を調製した。
【0029】
[比較例2]
実施例2におけるゲル状前駆体の熱処理において、亜硫酸ナトリウムを使用しなかったこと以外は実施例2と同様の方法により磁性粒子を調整した。
【0030】
[実施例3]水熱合成法による熱処理I
(1) 脱塩脱気水の調製
脱塩水480gを2.5L/minのN2で30分脱気し、脱塩脱気水を調製した。
(2) 原料水溶液の調製
硫酸鉄(II)七水和物(FeSO4・7H2O)45g、硫酸コバルト(II)七水和物(CoSO4・7H2O)9gを脱塩脱気水118gに溶解し、原料水溶液を調製した。
(3) アルカリ水溶液の調製
水酸化ナトリウム(NaOH)14g、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)50gを脱塩脱気水240gに溶解し、アルカリ水溶液を調製した。
(4) ゲル状前駆体の調製
N2置換した容器の中で原料水溶液とアルカリ水溶液を混合し、5分間撹拌してゲル状前駆体を調製した。
(5) ゲル状前駆体の水熱処理による磁性粒子の調製
ゲル状前駆体をN2置換したオートクレーブに入れ、撹拌しながら100℃で20時間水熱処理を行い、磁性粒子を得た。
(6) 磁性粒子の洗浄
磁性粒子をろ過、通水洗浄し、80℃の脱塩水4Lに分散させ24時間撹拌した。その後1:1硫酸でpHを2.5から3に調整した1Lの脱塩水に分散させ、撹拌しながら超音波をかけた後、磁石を用いて固液分離することで非磁性の副産物を除去した。
(7) 磁性粒子の乾燥
洗浄後の磁性粒子を大気雰囲気の下110℃で2時間乾燥させた。
【0031】
[実施例4]水熱合成法による熱処理II
実施例3におけるゲル状前駆体の水熱処理において、190℃で4時間水熱処理をおこなった以外は実施例3と同様の方法により磁性粒子を調製した。
【0032】
[比較例3]
実施例4におけるゲル状前駆体の水熱処理において、亜硫酸ナトリウムを使用しなかったこと以外は実施例4と同様の方法により磁性粒子を調製した。
【0033】
実施例1~4及び比較例1~3で製造された磁性粒子の各種特性は、次の表1に示すとおりである。
【表1】
【0034】
本発明の製造方法で採用する製造条件で製造された実施例1~4のコバルトフェライト粒子は、平均粒子径が大きいフェライト粒子であった。一方、比較例1の条件で製造した場合には、フェライト粒子が生成されなかったし、比較例2及び3の条件では、平均粒子径が小さい粒子しか得られなかった。実施例1~4の粒子のCV値は、比較例1~3と同程度であった。
【0035】
製造したフェライト粒子の形状をSEMで観察すると
図1~
図4に示すとおりとなる。
図1は実施例2の粉体試料のSEM画像で、請求項3に対応する常圧下で熱処理して得られたフェライト粒子を示す。また、
図2は実施例4の粉体試料のSEM画像で、請求項2に対応する水熱条件で熱処理して得られたフェライト粒子を示す。いずれも球形の形状であることがわかる。
一方、
図3及び
図4は比較例2及び3の粉体試料のSEM画像で、いずれも亜硫酸塩が存在しない条件で熱処理して得られたフェライト粒子である。いずれも立方体形状の粒子となっており、実施例におけるフェライト粒子とは全く別のフェライト粒子であることがわかる。
これらの実施例及び比較例の結果から、亜硫酸塩の存在、及びこれに対応する適切な製造条件を設定することの技術的な意味は明らかである。
【0036】
[実施例5]
脱イオン水19.8 gに4塩化チタン溶液(16.0~17.0% as Ti)2.2 mL、アンモニア水5.84 g、過酸化水素水10.0 gを混合して黄色透明のペルオキソチタン酸溶液を作成した。脱イオン水535.81 gに無水ホウ酸9.92 g、塩化カリウム11.72 g、水酸化ナトリウム2.55 gを溶解し、実施例2で得られたフェライト粒子16.75 gを懸濁した。懸濁液を撹拌しながらペルオキソチタン酸溶液を滴下混合し、その後に懸濁物を乾燥を行うことで、酸化チタン被覆粉末を得た。
脱イオン水106.24 gにブドウ糖4.78 g、酒石酸0.48 g、エタノール8.50 gを溶解して還元液を調製した。脱イオン水360 gに水酸化ナトリウム5 g、硝酸銀7.00 g、アンモニア水12.00 gを混合して銀アンミン錯体溶液を調製し、これに酸化チタン被覆粉末10.40 gを懸濁した。懸濁液に超音波照射を行いながら還元液を混合し、懸濁物を乾燥して銀膜被覆粉体を得た。得られた白色粉体は、明度L*が78.62であった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の製造方法で得られたコバルトフェライト粒子は、球形の形状で粒子径がそろっているので、コピー用トナー、磁性インク、MR流体としての用途が期待される。