(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】光電変換装置
(51)【国際特許分類】
H01L 27/146 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
H01L27/146 D
H01L27/146 A
(21)【出願番号】P 2020065792
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上平 晃聖
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-191950(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0276394(US,A1)
【文献】特開2020-043265(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0148434(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0271383(US,A1)
【文献】国際公開第2014/050694(WO,A1)
【文献】特開2016-100347(JP,A)
【文献】特開2016-171253(JP,A)
【文献】特開2013-033864(JP,A)
【文献】特開2019-046974(JP,A)
【文献】特開2016-032001(JP,A)
【文献】特開2019-140251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の受光面の反対側に配線層を有する光電変換装置であって、
受光面の側にトレンチ部を有する半導体基板と、
金属酸化物の単層膜からなる金属酸化物膜と、を備え、
前記金属酸化物膜は、前記半導体基板の前記受光面に設けられた第1の
部分と
、前記トレンチ部の側面に設けられ、前記第1の
部分よりも膜厚が厚い、第2の
部分と、
を有し、
前記トレンチ部の側面は、第1の側面と、前記第1の側面に対向する第2の側面と、を有し、前記第1の側面に設けられた前記第2の部分と、前記第2の側面に設けられた前記第2の部分と、の間に埋め込み材が設けられる、
光電変換装置。
【請求項2】
前記トレンチ部の幅は、前記第1の
部分の膜厚の2倍よりも大きい、
請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項3】
前記第2の
部分に近接する前記半導体基板における水素濃度が、前記第1の
部分に近接する前記半導体基板における水素濃度よりも、高い、
請求項1または2に記載の光電変換装置。
【請求項4】
前記受光面に配され、前記受光面と接する第1の自然酸化膜と、前記トレンチ部の側面に配され、前記トレンチ部の側面と接する第2の自然酸化膜と、を有し、前記第1の自然酸化膜は前記受光面と前記第1の部分との間に配され、前記第2の自然酸化膜は前記受光面と前記第2の部分との間に配される、
請求項1から3のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項5】
前記第1の自然酸化膜は前記第1の部分と接し、前記第2の自然酸化膜は前記第2の部分と接する、
請求項4に記載の光電変換装置。
【請求項6】
前記第1の
部分と前記第2の
部分は、互いに同じ組成の金属酸化物により構成される、
請求項1から
5のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項7】
前記第1の
部分および前記第2の
部分は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化チタンのいずれかである、
請求項1から
6のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項8】
前記埋め込み材は、窒化シリコンまたは酸化シリコンである、
請求項
1に記載の光電変換装置。
【請求項9】
前記半導体基板における前記トレンチ部の近傍の受光面と、前記トレンチ部の側面とのなす角度は、直角ではない、
請求項1から8のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項10】
前記半導体基板における前記トレンチ部の近傍の受光面は、前記トレンチ部に近いほど隆起している、
請求項9に記載の光電変換装置。
【請求項11】
前記半導体基板における前記トレンチ部の近傍の受光面は、前記トレンチ部に近いほど落ち込んでいる、
請求項9に記載の光電変換装置。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の光電変換装置と、
前記光電変換装置から出力される信号を処理する信号処理部と、
を有することを特徴とする撮像システム。
【請求項13】
移動体であって、
請求項1から11のいずれか1項に記載の光電変換装置と、
移動装置と、
前記光電変換装置から出力される信号から情報を取得する処理装置と、
前記情報に基づいて前記移動装置を制御する制御装置と、
を有することを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子(光電変換装置)は、アレイ状に配列された画素を有する。受光面の反対側に配線を有する固体撮像素子は、裏面照射型固体撮像素子と呼ばれている。
【0003】
特許文献1は、画素と画素の間にトレンチが形成された固体撮像素子を開示する。トレンチは受光面(裏面)側に設けられるので、この構造は裏面トレンチ構造と呼ばれる。裏面トレンチ構造によって、裏面照射型固体撮像素子の課題の1つである、画素間の混色が抑制できる。特許文献1は、さらに、トレンチ内部に金属酸化物膜を形成することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
裏面トレンチ構造を有する光電変換装置は、暗電流が顕著に増加し要求値を超えてしまい、画素性能が劣化するという問題を有する。
【0006】
本発明は、裏面トレンチ構造を有する光電変換装置において画素性能の劣化を抑制する上で有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様は、
半導体基板の受光面の反対側に配線層を有する光電変換装置であって、
受光面の側にトレンチ部を有する半導体基板と、
金属酸化物の単層膜からなる金属酸化物膜と、を備え、
前記金属酸化物膜は、前記半導体基板の前記受光面に設けられた第1の部分と、前記トレンチ部の側面に設けられ、前記第1の部分よりも膜厚が厚い、第2の部分と、を有し、
前記トレンチ部の側面は、第1の側面と、前記第1の側面に対向する第2の側面と、を有し、前記第1の側面に設けられた前記第2の部分と、前記第2の側面に設けられた前記第2の部分と、の間に埋め込み材が設けられる、
光電変換装置である。
【0008】
本発明の第二の態様は、
半導体基板の受光面の反対側に配線層を有する光電変換装置であって、
受光面の側にトレンチ部を有する半導体基板と、
前記半導体基板の前記受光面に設けられた第1の金属酸化物膜と、
前記トレンチ部に埋め込まれた第2の金属酸化物膜と、
を備え、
前記トレンチ部の幅は、前記第1の金属酸化物膜の厚さの2倍よりも大きい、
光電変換装置である。
【0009】
本発明の第三の態様は、
半導体基板の第1面にトレンチ部を形成するトレンチ形成工程と、
前記半導体基板の前記第1面および前記トレンチ部の側面に、金属酸化物膜を成膜する第1成膜工程と、
前記第1成膜工程の後に、前記半導体基板の前記第1面を薄化する薄化工程と、
前記薄化工程の後に、少なくとも前記半導体基板の前記第1面に、金属酸化物膜を成膜する第2成膜工程と、
を含む、光電変換装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、裏面トレンチ構造を有する光電変換装置において画素性能の劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図6】実施形態1に係る固体撮像素子の製法方法を示すプロセスフロー図
【
図10】実施形態と比較例に係る固体撮像素子を比較する図
【
図11】アルミナ膜の膜厚とフラットバンド電位シフトの関係図
【
図12】アルミナ膜をSIMS分析したときの水素濃度分布図
【
図15】実施形態3に係る撮像システムおよび移動体の構成図
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明をする前に、本発明者が検討した結果明確になった次の5つの現象について説明する。
(1)金属酸化物膜の膜厚が厚いと暗電流が抑制される
(2)金属酸化物膜の膜厚が厚いと水素濃度が高い
(3)金属酸化物膜の膜厚が厚いと透過率が低下する
(4)フォトダイオード界面の面積と暗電流の関係について
(5)暗電流の見積もり方法
以下、1項目ずつ詳細に説明する。ここでは金属酸化物としてアルミナ膜を例に説明する。
【0013】
第1に、「(1)金属酸化物膜の膜厚が厚いと暗電流が抑制される現象」を説明する。
【0014】
図11Aは、負の固定電荷をもったアルミナ膜130の膜厚を変化させたときのフラットバンド電圧のシフトΔVfbの膜厚依存性を示すグラフ1101である。グラフ1101の横軸はアルミナ膜130の膜厚、縦軸はフラットバンド電圧シフトである。
【0015】
図11Bは、測定に用いたサンプル1102の構造を示す。サンプル1102は、シリコンフォトダイオード100(以下、フォトオードと略記)、シリコン酸化膜110、アルミナ膜130がこの順で積層されている。フォトダイオード100とアルミナ膜130の間には自然形成された約50Åのシリコン酸化膜110がはさまれている。
【0016】
図11Aからわかるように、アルミナ膜厚を厚くするとΔVfbの値が正方向に大きくなる。これは、フォトダイオード100の界面で発生する暗電流が、アルミナ膜130の
固定電荷の電界に閉じ込められ(これをピニング効果と呼ぶ)、フォトダイオード100の暗電流発生を抑制する効果が高いことを示す。
【0017】
第2に、「(2)金属酸化物膜の膜厚が厚いと水素濃度が高い現象」を説明する。
【0018】
図12Aは、2つのサンプルに対して深さ方向に掘りながらSIMS分析した水素濃度を示す。グラフ1201はアルミナ膜の膜厚が厚いサンプルの水素濃度を示し、グラフ1202はアルミナ膜の膜厚が薄いサンプルの水素濃度を示す。グラフの横軸は深さ位置、縦軸は水素濃度である。
【0019】
図12Bは、水素濃度測定に用いたサンプル1203の膜構造を示す。サンプル1202は、
図11Bに示すサンプル1102の膜構造の最上部に絶縁膜135が形成された構造を有する。絶縁膜135には窒化シリコンを用いた。
図12Aの測定で用いた2つのサンプルの差は、アルミナ膜130の膜厚が異なることである。
【0020】
図12Aからわかるように、アルミナ膜130の膜厚が厚い方がシリコン内部の水素濃度が高い。また、水素濃度が高いとその周囲のシリコンのダングリングボンドが減り、暗電流が減る。
【0021】
第3に、「(3)金属酸化物膜の膜厚が厚いと透過率が低下する現象」を説明する。
【0022】
図13は、アルミナ膜の厚さと、当該アルミナ膜の可視光(波長550nm)の透過率を示すグラフ1301である。膜厚および透過率の測定方法は、市販されている透過型分光測定器によって行った。
【0023】
グラフ1301から、膜厚が100Åであれば透過率は98%であり、透過率低下はほとんどないが、膜厚が1000Åならば77%程度まで透過率が低下することが分かる。センサとしての要求値は、例えば透過率95%以上が求められるため、厚くとも200Å程度までに抑える必要がある。
【0024】
一方で、(1)で説明したように、膜厚を薄くすると暗電流が増加するので、適切なアルミナ膜の厚さには制約がある。但し、透過率が低くなってもよい場合は、この限りではない。
【0025】
第4に、「(4)フォトダイオード界面の面積と暗電流の関係」を説明する。
【0026】
この関係を調べる目的は、フォトダイオード界面でダングリングボンドが発生すると考えられるためである。ここでは、界面の面積が異なる4つのタイプの固体撮像素子について検討した。その4つは以下の通りである。
(A)本発明の実施形態に係る固体撮像素子・・・
図1A,
図1B
(B)特許文献1に開示される固体撮像素子・・・
図2A,
図2B
(C)裏面トレンチ構造を持たない裏面照射型撮像素子・・・
図3A,
図3B
(D)表面照射型固体撮像素子・・・
図4A,
図4B
【0027】
図1A~
図4Aにおいて、100はフォトダイオード、103はフォトダイオード100の裏面に設けられたトレンチ(裏面トレンチ)、130はフォトダイオードの界面に設けられたアルミナ膜を表す。
図1Aの固体撮像素子(A)と
図2Aの固体撮像素子(B)の相違点は、裏面トレンチ部103に形成されるアルミナ膜130の厚さであり、本実施形態に係る固体撮像素子(A)のアルミナ膜130の厚さの方が、固体撮像素子(B)よりも厚い。いずれの固体撮像素子(A)(B)も、裏面に平行な面に設けられるアルミナ
膜130の厚さは同じである。
【0028】
図1B~
図4Bは、
図1A~
図4Aの1つのフォトダイオードを立体的に切り出して、フォトダイオードがシリコン以外の材料と接触する界面の面積を算出できるようにした略図である。ここで、Lはピクセルサイズ(一辺の長さ)、Wはピクセル深さ、aは裏面トレンチの幅、bは裏面トレンチの深さである。簡単のため、L=20t、W=10tとして、
図4Aの界面の面積を100%として比較できるようにした。また、a=t、b=5tとした。
【0029】
フォトダイオードが他の材料と接触する界面の面積の求め方について説明する。もっとも簡単な表面照射型固体撮像素子(D)では、界面の面積は
図4Bにおいてハッチングが付されたフォトダイオード表面部101全体と一致し、L
2=20t×20t=400t
2である。
【0030】
次に簡単な裏面トレンチ構造をもたない裏面照射型固体撮像素子(C)では、界面の面積は
図3Bにおいてハッチングが付されたフォトダイオード表面部101とフォトダイオード裏面部102の合計であり、2×L
2=800t
2である。
【0031】
同様に、本実施形態の撮像素子(A)および特許文献1の撮像素子(B)では、界面の面積は、
図1B,
図2Bにおいてハッチングを付した部分の面積である。界面の面積は、フォトダイオード表面部101の面積、フォトダイオード裏面部102の面積、裏面トレンチ部103の面積(底面および側面)を合計した値である。
【0032】
それぞれのタイプの撮像素子の界面面積をまとめたのが次表である。
【表1】
【0033】
図10Aは、この表をグラフで表した図である。すなわち、
図10Aのグラフは、
図1A~
図4Aの4つ構造の固体撮像素子において、フォトダイオードが他材料と接触する部分の面積を表す。
【0034】
図10Bは、4つの構造の固体撮像素子における暗電流値の比較グラフを表す図である。表面照射型固体撮像素子(D)の暗電流値を100%に規格化したときの他の固体撮像素子の暗電流値を%で表記している。なお、これらのデータは、発明者が4つの構造の固体撮像素子を自ら試作し、試作品を対象として測定した実測値である。
【0035】
図10Aおよび
図10Bを比較して言えることは、裏面トレンチ構造を採用すると暗電流値が急激に大きくなるということである。裏面トレンチ構造を有しない固体撮像素子(C)は、界面面積が増加しているが暗電流値は増加していない。これらから、暗電流値と界面面積には相関がないと結論づけられる。
【0036】
なお、厳密には固体撮像素子は表面側にもトレンチ構造を有しているが、ここでの検討においては与える影響が少ないため、平面とみなして扱っている。
【0037】
第5に、「(5)暗電流値の見積もり」について説明する。
【0038】
暗電流は、「暗電流が発生する界面の面積」と「その界面での欠陥密度」と「暗電流抑制部の抑制率」の積で見積もれる。前項(4)の検討で「界面の面積」の寄与が少ないことが判明したが、ここでは変数としては残しておく。暗電流抑制部とは、固定電荷膜や表面再結合膜などが挙げられる。以下、暗電流をI,界面の面積をS、欠陥密度をσ、暗電流抑制部の抑制率をNと表す。
【0039】
表面照射型固体撮像素子(Front Side Illumination)の暗電流値I(fs)は式(1)の通りである。
【数1】
【0040】
各変数の単位は、例えば、暗電流I[pA]、界面の面積S[cm2]、界面欠陥密度σ[個/cm2]、暗電流抑制部の抑制率N[%]である。
【0041】
裏面照射型固体撮像素子(Back Side Illumination)の暗電流値I(bs)は、式(2)の通りである。
【数2】
【0042】
S(fs)=S(bs)であるから、式(2)は式(2)’に変形できる。
【数3】
【0043】
上記(4)の検討において、裏面トレンチ構造がない裏面照射型撮像素子は、フォトダイオードの界面面積が2倍になったにもかかわらず暗電流値がほとんど増加していない(
図10B参照)。その理由は、上記式(2)’から、裏面側の欠陥密度σ(bs)が低い、あるいは、裏面側の暗電流抑制率N(bs)が高い、のいずれかまたはその両方であると考えられる。しかしながら、試作品の製造手順を検討すると、裏面側の欠陥密度σ(bs)が表面側の欠陥密度σ(fs)よりも著しく小さいとは考え難い。したがって、フォトダイオード裏面側に成膜する負の固定電荷をもった金属酸化物膜のピニング効果N(bs)が大きく、暗電流抑制率が大きく働いているからだと推測される。
【0044】
裏面トレンチ構造(Trench)を有する裏面照射型固体撮像素子(T-bs)の暗電流値I(T-bs)は、式(3)の通りである。ここで、bs-surfaceはフォトダイオード裏面部を、bs-trenchは裏面トレンチ内部を意味する。
【数4】
【0045】
ここで、S(fs) ≒ S(bs-surface) ≒ S(bs-trench)とみなせる。厳密には異なるが、その差異は、議論したい暗電流のオーダーと比較して十分に小さく、このような近似を行っても問題ない。
【0046】
また、シリコン表面部とトレンチ内部には、同じ膜厚、同じ素材の負の固定電荷膜をも
った金属酸化物膜が成膜されているから、ピニング抑制率は同じである。すなわち、N(bs-surface)=N(bs-trench)。
【0047】
以上から、式(3)は式(3)’に変形できる。
【数5】
【0048】
上記(4)の検討(
図10Bのグラフ参照)において、裏面トレンチ構造を追加したとき、暗電流値が2倍近くまで増加した理由として考えられる要因を2つ、以下に列挙する。
【0049】
(要因1)裏面トレンチ形成のために追加した工程(=フォト・エッチング・レジスト剥離)が、フォトダイオード裏面部に多数の欠陥を発生させた。すなわち、σ(bs-surface)の値が大きくなっている。
【0050】
(要因2)裏面トレンチ形成時のダメージにより、トレンチ内部に多数の欠陥を発生させた。その結果、欠陥密度σ(bs-trench)がσ(bs-surface)よりも大きいが、それに対するN(bs-trench)が不足している。
【0051】
本実施形態に係る、裏面トレンチ構造を有する裏面照射型固体撮像素子の暗電流値は、式(4)の通りである。
【数6】
【0052】
このとき、S(fs)≒S’(fs)≒S’(bs-surface)≒S’(bs-trench)とみなせる点は上記と同様である。また、フォトダイオード表面は、従来例も同じであるから、σ(fs)=σ’(fs)、N(fs)=N’(fs)が成り立つ。また、フォトダイオード裏面部に成膜する金属酸化物の膜厚は、従来例と同じであるから、N(bs-surface)=N’(bs-surface)が成り立つ。また、トレンチ内部の欠陥密度は、従来例と同様にエッチング形成されてダメージが発生する点は共通であるため、σ(bs-trench)=σ’(bs-trench)である。
【0053】
以上から、式(4)は式(4)’に変形できる。
【数7】
【0054】
上記(4)の検討(
図10Bのグラフ参照)において、同じ裏面トレンチ構造を有していても、本実施形態の固体撮像素子(A)の方が従来例の固体撮像素子(B)よりも暗電流が小さくなる根拠は以下の通りである。
【0055】
式(3)’と式(4)’から、I(T-bs)とI’(T-bs)の差分は以下の式(5)で表される。
【数8】
【0056】
式(5)の右辺第1項は上記要因1の抑制効果を表す。本実施形態では、後述するように「製法フロー7.追加の裏面薄化工程」において表面のダメージ部分をCMP等で除去している。これにより、要因1すなわちフォトダイオード裏面部に多数の欠陥が抑制される。そのため、σ(bs-surface) > σ’(bs-surface) の関係が成り立つ。
【0057】
式(5)の右辺第2項は上記要因2の抑制効果を現す。本実施形態の固体撮像素子は、「成膜する金属酸化物膜の厚みが、表面部よりもトレンチ内部の方が大きい」という構造を有する。これにより、固定電荷膜の効果が高まり(この点については後述で詳しく説明する)、暗電流抑制率が大きくなる。そのため、N(bs-trench)>N’(bs-trench)の関係が成り立つ。
【0058】
このように、本実施形態と従来例の固体撮像素子における暗電流値を表す式(5)において、第1項、第2項ともに正の値になることから、I(T-bs)>I’(T-bs)の関係式が得られる。すなわち、本実施形態の固体撮像素子は、従来例と比較して暗電流を抑制できることを意味する。
【0059】
以上が、本実施形態における暗電流抑制の効果見積もりである。
【0060】
<実施形態1>
図1Aは、実施形態1に係る固体撮像素子(光電変換装置)10の断面構造を示す図である。本実施形態に係る固体撮像素子10は、半導体基板の受光面(裏面;第1面)とは反対側の面(表面;第2面)に配線層が設けられる裏面照射型固体撮像素子である。
【0061】
図1Aに示すように、半導体基板100は例えばシリコン基板であり、光を受光して電荷を発生する複数の光電変換部が形成される。また、半導体基板100の表面部101に構造物200が形成され、裏面部102に金属酸化物膜130、構造物150、遮光壁160、カラーフィルター170、マイクロレンズ180が形成される。
【0062】
半導体基板100は、受光面(裏面)の側に、画素を分離するための裏面トレンチ部103を有する。半導体基板100の裏面部102および裏面トレンチ部103内部(側面および底面)に金属酸化物膜130が設けられる。裏面側の構造物150は、層間絶縁膜を含む。遮光壁160は、マイクロレンズ180を通過した光が隣接する画素に入射すること防ぎ、光学的な混色を防止する。表面側の構造物200は、配線層、層間絶縁膜、回路基板を含む。
【0063】
以下では、半導体基板100の裏面部102(受光面と平行な面)に形成される金属酸化物膜を金属酸化物膜130aと称し、裏面トレンチ部103内部に形成される金属酸化物膜を金属酸化物膜130bと称する。金属酸化物膜130aが第1の金属酸化物膜に相当し、金属酸化物膜130bが第2の金属酸化物膜に相当する。また、金属酸化物膜130aと金属酸化物膜130bをまとめて金属酸化物膜130と称する。
【0064】
図1Aに示される通り、本実施形態の固体撮像素子10においては、裏面トレンチ部103内部の金属酸化物膜130bの膜厚のほうが、裏面部102の金属酸化物膜130aの膜厚よりも、厚くなっている。
【0065】
半導体基板100と金属酸化物膜130の間には、自然酸化膜であるSiO2膜(不図示)が50Å程形成されている。この酸化膜の厚みが固定電荷の効果に影響与えうる。膜厚が厚ければ厚いほど、フラットバンド電位シフトΔVfbの値が大きくなり、暗電流抑制効果が大きくなるため、望ましい。しかし、薄すぎると、固定電化膜とシリコンが接触して、固定電荷が低下するリスクがあるため、このリスクが管理可能な膜厚に抑えることが望ましい。自然酸化膜の厚さは、例えば25Å以上100Å以下とすることができる。
【0066】
金属酸化物膜130の素材は、アルミナ(酸化アルミニウム)やハフニア(酸化ハフニウム)などの負の固定電荷膜であることが望ましい。その理由は、半導体基板裏面部102を加工するときに発生する欠陥が暗電流発生の要因となるのに対して、金属酸化物膜130の固定電荷が暗電流を抑制する効果があるためである。金属酸化物膜130がアルミナ膜である場合は、金属酸化物膜130における水素濃度は1021atoms/cm3に近い値である。金属酸化物膜130の素材は、アルミナやハフニア以外に、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化チタンであってもよい。なお、半導体基板100の裏面部102に形成される金属酸化物膜130aと、裏面トレンチ部103内部に形成される金属酸化物膜130bは、互いに同じ組成の金属酸化物により構成されてもよいし、異なる組成の金属酸化物により構成されてもよい。
【0067】
裏面トレンチ部内の金属酸化物膜130bによって囲まれる部分は、埋め込み材によって埋められていてもよい。埋め込み材は例えば酸化シリコンや窒化シリコンである。埋め込み材を設けることにより、裏面トレンチ部103内部の空孔をなくすことができて信頼性が向上する。
【0068】
暗電流と透過率は相反関係にあるので半導体基板裏面部102上に形成されている金属酸化物膜130aの膜厚には制約があるのは既に説明した通りである。したがって、要求によって使い分けなければならない。一方で、裏面トレンチ部103内部に形成されている金属酸化物膜130bの膜厚には、その制約がない。なぜなら、この部分においては、入射光は通過しないためである。したがって、裏面トレンチ部103の内部においては、暗電流対策のために、トレンチに埋め込める範囲であれば、制限なしに金属酸化物の膜厚を厚くすることができる。
図1Aでは裏面トレンチ部103は金属酸化物膜130bによって完全には埋められていないが、
図5Cに示すように裏面トレンチ部103の内部全体が金属酸化物膜130bによって完全に埋められていてもよい。
【0069】
図5A~
図5Cを参照して、金属酸化物膜130の膜厚の定義について説明する。
【0070】
金属酸化物膜130の膜厚とは、半導体基板100との界面に対して垂直な方向(界面の法線方向)の厚さをさす。具体的には、
図5Aに示すように、半導体基板裏面部102上の金属酸化物膜130aの膜厚X(bs-surface)は、受光面と垂直な方向(図中の上方向)の厚さである。裏面トレンチ部103内部の金属酸化物膜130bの膜厚は、裏面トレンチ部103の側面と垂直な方向の厚さである。トレンチ左側面の膜厚X(trench-L)はトレンチ左側面に垂直な方向(図中の右方向)の膜厚であり、右側面の膜厚X(trench-R)はトレンチ右側面に垂直な方向(図中の左方向)の膜厚である。
【0071】
図5Bに示すように、裏面トレンチ部103内部の金属酸化物膜130bの膜厚が、位置毎に異なる場合もありえる。この場合、金属酸化物膜130bの膜厚は、最も厚い部分の厚さとして捉えてよい。すなわち、金属酸化物膜130bの最も厚い部分の膜厚が、金属酸化物膜130aの膜厚よりも厚ければよい。なお、裏面トレンチ部103内部の金属酸化物膜130bは前述したように厚膜化することが望ましいため、意図的に一部を薄く
することは避けた方がよい。
【0072】
金属酸化物膜130の上に、酸化タンタルのような金属酸化物膜130よりも屈折率が高い材料からなる反射防止膜が形成される場合がある。すなわち、半導体基板100の裏面部102上には、組成または特性(屈折率、水素濃度など)が異なる複数の金属酸化物膜が形成される場合がある。このような場合、金属酸化物膜130aの膜厚は、反射防止膜の膜厚を含めずに定義される。
【0073】
金属酸化物膜130aの膜厚は、半導体基板100の裏面部102の自然酸化膜上に設けられた、あるいは半導体基板100の裏面部102の界面に最も近い、ある特定の組成または特性を有する金属酸化物膜の厚さであるとも捉えられる。同様に、金属酸化物膜130bの膜厚は、裏面トレンチ部103側面の自然酸化膜上に設けられた、あるいは裏面トレンチ部103の界面に最も近い、ある特定の組成または特性を有する金属酸化物膜の厚さであるとも捉えられる。また、半導体基板裏面部102上の金属酸化物膜130aの膜厚と、裏面トレンチ部103内部の金属酸化物膜130bの膜厚は、互いに同じ組成または特性を有する金属酸化物膜の厚さとして定義されてもよい。
【0074】
上述したように、裏面トレンチ部103内部の金属酸化物膜130bの膜厚のほうが、裏面部102の金属酸化物膜130aの膜厚よりも厚い。金属酸化物膜130bの厚さは、金属酸化物膜130aの厚さの2倍以上とすることが好ましく、5倍以上とすることがより好ましく、10倍以上とすることが更に好ましい。また、金属酸化物膜130bの厚さは、金属酸化物膜130aの厚さと比較して、100Å以上厚いことが好ましく、500Å以上厚いことがより好ましく、1000Å以上厚いことが更に好ましい。例えば、金属酸化物膜130aの厚さを50Å以上200Å以下とし、金属酸化物膜130bの厚さを500Å以上2000Å以下とすることができる。
【0075】
また、
図5Bで示したように裏面トレンチ部103内部の金属酸化物膜130bの膜厚が場所によって異なる場合には、最も厚い部分の金属酸化物膜130bの厚さが、金属酸化物膜130aの厚さよりも厚ければよい。
【0076】
図5Cのように裏面トレンチ部103内部をすべて金属酸化物膜130で埋めた構成も考えられる。この場合の、裏面トレンチ部103内部の金属酸化物膜130bの膜厚は、トレンチ幅の半分として定義される。このような定義に従うと、金属酸化物膜130bの膜厚が金属酸化物膜130aの膜厚よりも厚いということは、裏面トレンチ130の幅が金属酸化物膜130aの膜厚の2倍よりも大きいとも表現できる。
【0077】
ここまで具体例を挙げて説明をしたが、本発明の範囲は上記の具体例に限定して解釈されるべきではない。例えば、半導体基板100や金属酸化物膜130の素材や膜厚については、上記で説明した具体例に限定されるものではない。
【0078】
このように、金属酸化物膜130bの方が金属酸化物膜130aよりも厚いので、
図12Aに示すように、金属酸化物膜130bに近接する領域の半導体基板100の水素濃度は、金属酸化物膜130aに近接する領域の半導体基板100の水素濃度よりも高い。
【0079】
次に、固体撮像素子10の製造方法について図面を用いて説明する。
【0080】
図6は、本実施形態に係る製造方法の工程フロー図である。図中、点線枠で示した工程S4およびS6は省略可能な工程である。
図7A~
図7Fは、工程S6を省略した場合の工程ごとの断面図である。
図8A~
図8Gは、工程S6を採用した場合の工程ごとの断面図である。
図9A,
図9Bは、第2の基板薄膜化(CMP)工程S7後の裏面トレンチの
断面模式図である。
【0081】
【0082】
(S1:2枚の基板の接合工程)
まず、約775μm厚さのシリコンウエハに駆動回路トランジスタおよび金属配線が構築された基板と、同じく約775μm厚さのシリコンウエハに光電変換部および金属配線が構築された基板を用意する。そして、これら2つの基板を、互いに金属配線面を対面にして張り合わせて接合する。これにより、互いの金属配線同士が接合し、光電変換部が駆動回路トランジスタによって制御できるようになる。
【0083】
(S2:第1の基板薄化工程)
半導体基板100の受光面側を公知の方法で薄化する(
図7A,
図8A)。最終的には、裏面(受光面)側からの光が光電変換部に十分入射できる程度の厚さまで薄化する。
【0084】
(S3:トレンチ形成工程)
半導体基板100の裏面(受光面)側にトレンチを公知の方法で形成する(
図7B,
図8B)。例えば、半導体基板100の裏面102にエッチングハードマスク120をパターニングして、エッチングによりトレンチを形成する。トレンチ形成後、マスク120を除去する。なお、本工程では、半導体基板裏面部102および裏面トレンチ部103において、ダメージ(例えばエッチング等によるダメージ)が入ることがわかっている。これを、図面上には「×」印で表記した。このダメージは界面欠陥となり、暗電流の原因になりうることがわかっている。
【0085】
(S4:トレンチ内部への追加処理(任意))
必要に応じて、前の工程で生じたダメージによる欠陥を公知の水素アロイやプラズマドーピングで修復してもよい。
【0086】
(S5:第1の金属酸化物膜の成膜工程)
原子層堆積法(ALD法)によりアルミナ膜130を1000Å成膜する(
図7C,
図8C)。成膜後には、配線のエレクトロマイグレーションが起こらないような温度(300℃から400℃)の範囲でアニールし、アルミナ膜を活性化する。本工程において、裏面トレンチ部103の内部を、アルミナ膜130で完全に埋めてもよいし、完全には埋めなくてもよい。
【0087】
(S6:トレンチ内部の追加埋め込み工程(任意))
トレンチ部103内部がアルミナ膜130によって完全に埋められていない場合は、必要に応じてトレンチ部103内のアルミナ膜によって囲まれる部分に、酸化シリコン(SiO)や、窒化シリコン(SiN)などの埋め込み材140を埋め込む(
図8D)。これにより、トレンチ部103内部の空孔をなくす、あるいは小さくでき、信頼性が低下する問題を抑制できる。
【0088】
(S7:第2の基板薄化工程)
半導体基板100厚さが所望の厚さになるまで、CMP等を用いて第2の薄化処理を実施する(
図7D,
図8E)。例えば、半導体基板100が3μmの厚さになるまで薄化する。
【0089】
本工程をCMPで実施する場合は、シリコン裏面部102の材料と、埋め込み材140または金属酸化物膜130bの材料が異なることに起因する研磨レートの相違により、シリコン裏面部102と裏面トレンチ部103に特異的な形状が現れる場合がある。具体的
には、半導体基板100の裏面トレンチ部103の近傍の裏面部102(受光面)と、裏面トレンチ部103の側面とのなす角度が、直角とは異なる角度となる。
【0090】
例えば、裏面トレンチの埋め込み材140がシリコン裏面部102より硬い場合には、
図9Aのようにシリコン裏面部102は、裏面トレンチ部103の近傍102aで隆起する。すなわち、シリコン裏面部102の高さ(厚さ)は、裏面トレンチ部103に近いほど高く(厚く)なる。これは硬い裏面トレンチ埋め込み材140の周囲が残り、シリコン裏面部が削られてディッシングをおこすためである。
【0091】
また、逆に、この裏面トレンのチ埋め込み材140がシリコン裏面部102より柔らかい場合には、
図9Bのようにシリコン裏面部102は、裏面トレンチ部103の近傍102bで落ち込んでいる。すなわち、シリコン裏面部102の高さ(厚さ)は、裏面トレンチ部103に近いほど低く(薄く)なる。
【0092】
ここでは、裏面トレンチ部103が埋め込み材140によって埋め込まれている場合を例に説明したが、埋め込み材140が設けられない場合であっても、金属酸化物膜130bと裏面トレンチ部103との研磨レートの相違により同様の形状が現れうる。
【0093】
従来の手法は、第1の基板薄化工程S2で先に基板を所望の厚さまで薄化処理するのに対し、本実施形態では、先にトレンチを形成した後で、基板を所望の厚さまで薄化処理する。この手法により、裏面トレンチ形成時のダメージに起因する、シリコン裏面部の欠陥(図中「×」印で表記)が除去される。これにより、暗電流が低減される。
【0094】
(S8:第2の金属酸化物膜の成膜工程)
第2の基板薄化工程S7後に、シリコン裏面部102および裏面トレンチ部103内部に、ALD法によりアルミナを100Å成膜する(
図7E,
図8F)。第2の成膜工程S8で成膜される金属酸化物膜の膜厚は、第1の成膜工程S5で成膜される金属酸化物膜の膜厚よりも薄くするとよい。成膜後には、配線のエレクトロマイグレーションが起こらないような温度(300℃から400℃)の範囲でアニールし、アルミナ膜を活性化する。ここでは、第1の成膜工程S5と同じ組成の金属酸化物膜を成膜しているが、第1の成膜工程S5とは異なる組成の金属酸化物膜を成膜してもよい。
【0095】
(S9:裏面側構造物の形成工程)
上記のアルミナ膜130上に、遮光壁160やカラーフィルター170、マイクロレンズ180などの固体撮像素子の機能具備に必要な構造物を、公知の方法で形成する。
【0096】
以上の工程により上述の固体撮像素子(光電変換装置)を製造できる。
【0097】
<実施形態2>
本発明の実施形態2による撮像システムについて、
図14を用いて説明する。
図14は、本実施形態による撮像システムの概略構成を示すブロック図である。
【0098】
上記実施形態1で述べた固体撮像素子(光電変換装置)は、種々の撮像システムに適用可能である。適用可能な撮像システムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、デジタルスチルカメラ、デジタルカムコーダ、監視カメラ、複写機、ファックス、携帯電話、車載カメラ、観測衛星、医療用カメラなどの各種の機器が挙げられる。また、レンズなどの光学系と固体撮像素子(光電変換装置)とを備えるカメラモジュールも、撮像システムに含まれる。
図14にはこれらのうちの一例として、デジタルスチルカメラのブロック図を例示している。
【0099】
撮像システム2000は、
図14に示すように、撮像装置10、撮像光学系2002、CPU2010、レンズ制御部2012、撮像装置制御部2014、画像処理部2016、絞りシャッター制御部2018を備える。撮像システム2000は、また、表示部2020、操作スイッチ2022、記録媒体2024を備える。
【0100】
撮像光学系2002は、被写体の光学像を形成するための光学系であり、レンズ群、絞り2004等を含む。絞り2004は、その開口径を調節することで撮影時の光量調節を行なう機能を備えるほか、静止画撮影時には露光秒時調節用シャッターとしての機能も備える。レンズ群及び絞り2004は、光軸方向に沿って進退可能に保持されており、これらの連動した動作によって変倍機能(ズーム機能)や焦点調節機能を実現する。撮像光学系2002は、撮像システムに一体化されていてもよいし、撮像システムへの装着が可能な撮像レンズでもよい。
【0101】
撮像光学系2002の像空間には、その撮像面が位置するように撮像装置10が配置されている。撮像装置10は、実施形態1で説明した固体撮像素子(光電変換装置)であり、CMOSセンサ(画素部)とその周辺回路(周辺回路領域)とを含んで構成される。撮像装置10は、複数の光電変換部を有する画素が2次元配置され、これらの画素に対してカラーフィルターが配置されることで、2次元単板カラーセンサを構成している。撮像装置10は、撮像光学系2002により結像された被写体像を光電変換し、画像信号や焦点検出信号として出力する。
【0102】
レンズ制御部2012は、撮像光学系2002のレンズ群の進退駆動を制御して変倍操作や焦点調節を行うためのものであり、その機能を実現するように構成された回路や処理装置により構成されている。絞りシャッター制御部2018は、絞り2004の開口径を変化して(絞り値を可変として)撮影光量を調節するためのものであり、その機能を実現するように構成された回路や処理装置により構成される。
【0103】
CPU2010は、カメラ本体の種々の制御を司るカメラ内の制御装置であり、演算部、ROM、RAM、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、通信インターフェイス回路等を含む。CPU2010は、ROM等に記憶されたコンピュータプログラムに従ってカメラ内の各部の動作を制御し、撮像光学系2002の焦点状態の検出(焦点検出)を含むAF、撮像、画像処理、記録等の一連の撮影動作を実行する。CPU2010は、信号処理部でもある。
【0104】
撮像装置制御部2014は、撮像装置10の動作を制御するとともに、撮像装置10から出力された信号をA/D変換してCPU2010に送信するためのものであり、それら機能を実現するように構成された回路や制御装置により構成される。A/D変換機能は、撮像装置10が備えていてもかまわない。画像処理部2016は、A/D変換された信号に対してγ変換やカラー補間等の画像処理を行って画像信号を生成する処理装置であり、その機能を実現するように構成された回路や制御装置により構成される。表示部2020は、液晶表示装置(LCD)等の表示装置であり、カメラの撮影モードに関する情報、撮影前のプレビュー画像、撮影後の確認用画像、焦点検出時の合焦状態等を表示する。操作スイッチ2022は、電源スイッチ、レリーズ(撮影トリガ)スイッチ、ズーム操作スイッチ、撮影モード選択スイッチ等で構成される。記録媒体2024は、撮影済み画像等を記録するためのものであり、撮像システムに内蔵されたものでもよいし、メモリカード等の着脱可能なものでもよい。
【0105】
このようにして、実施形態1による固体撮像素子を適用した撮像システム2000を構成することにより、高性能の撮像システムを実現することができる。
【0106】
<実施形態3>
本発明の実施形態3による撮像システム及び移動体について、
図15A及び
図15Bを用いて説明する。
図15A及び
図15Bは、本実施形態による撮像システム及び移動体の構成を示す図である。
【0107】
図15Aは、車載カメラに関する撮像システム2100の一例を示したものである。撮像システム2100は、撮像装置2110を有する。撮像装置2110は、上述の実施形態1に記載の固体撮像素子(光電変換装置)のいずれかである。撮像システム2100は、画像処理部2112と視差取得部2114を有する。画像処理部2112は、撮像装置2110により取得された複数の画像データに対し、画像処理を行う処理装置である。視差取得部2114は、撮像装置2110により取得された複数の画像データから視差(視差画像の位相差)の算出を行う処理装置である。また、撮像システム2100は、算出された視差に基づいて対象物までの距離を算出する処理装置である距離取得部2116と、算出された距離に基づいて衝突可能性があるか否かを判定する処理装置である衝突判定部2118と、を有する。ここで、視差取得部2114や距離取得部2116は、対象物までの距離情報等の情報を取得する情報取得手段の一例である。すなわち、距離情報とは、視差、デフォーカス量、対象物までの距離等に関する情報である。衝突判定部2118はこれらの距離情報のいずれかを用いて、衝突可能性を判定してもよい。上述の処理装置は、専用に設計されたハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアモジュールに基づいて演算を行う汎用のハードウェアによって実現されてもよい。また、処理装置はFPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等によって実現されてもよいし、これらの組合せによって実現されてもよい。
【0108】
撮像システム2100は、車両情報取得装置2120と接続されており、車速、ヨーレート、舵角などの車両情報を取得することができる。また、撮像システム2100は、衝突判定部2118での判定結果に基づいて、車両に対して制動力を発生させる制御信号を出力する制御装置である制御ECU2130が接続されている。すなわち、制御ECU2130は、距離情報に基づいて移動体を制御する移動体制御手段の一例である。また、撮像システム2100は、衝突判定部2118での判定結果に基づいて、ドライバーへ警報を発する警報装置2140とも接続されている。例えば、衝突判定部2118の判定結果として衝突可能性が高い場合、制御ECU2130はブレーキをかける、アクセルを戻す、エンジン出力を抑制するなどして衝突を回避、被害を軽減する車両制御を行う。警報装置2140は音等の警報を鳴らす、カーナビゲーションシステムなどの画面に警報情報を表示する、シートベルトやステアリングに振動を与えるなどしてユーザに警告を行う。
【0109】
本実施形態では、車両の周囲、例えば前方又は後方を撮像システム2100で撮像する。
図15Bに、車両前方(撮像範囲2150)を撮像する場合の撮像システム2100を示した。車両情報取得装置2120は、撮像システム2100を動作させ撮像を実行させるように指示を送る。上述の実施形態1の固体撮像素子を撮像装置2110として用いることにより、本実施形態の撮像システム2100は、測距の精度をより向上させることができる。
【0110】
以上の説明では、他の車両と衝突しないように制御する例を述べたが、他の車両に追従して自動運転する制御、車線からはみ出さないように自動運転する制御等にも適用可能である。更に、撮像システムは、自動車等の車両に限らず、例えば、船舶、航空機あるいは産業用ロボットなどの移動体(輸送機器)に適用することができる。移動体(輸送機器)における移動装置はエンジン、モーター、車輪、プロペラなどの各種の駆動源である。加えて、移動体に限らず、高度道路交通システム(ITS)等、広く物体認識を利用する機器に適用することができる。
【符号の説明】
【0111】
100 半導体基板
102 半導体基板裏面部
103 裏面トレンチ
130,130a,130b 金属酸化物膜