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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】記録装置および記録装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240610BHJP
   B41J 2/17 20060101ALI20240610BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/01 303
B41J2/01 401
B41J2/17 103
H02P5/46 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020069489
(22)【出願日】2020-04-08
(65)【公開番号】P2021165018
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】宮原 勝敏
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-049891(JP,A)
【文献】特開2008-080669(JP,A)
【文献】特開2013-091220(JP,A)
【文献】特開2011-121244(JP,A)
【文献】特開2012-101387(JP,A)
【文献】特開2013-220478(JP,A)
【文献】特開2011-233634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
H02P 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送方向に搬送されたシートに画像を記録する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを前記搬送方向と交差する方向に移動するキャリッジと、
前記キャリッジを駆動する第1駆動部と、
前記第1駆動部に電流を供給する電源ユニットと、
前記電源ユニットから供給される電流によって被駆動部を駆動する第2駆動部と、
前記第1駆動部と前記第2駆動部とを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は前記キャリッジが一定速度となるように制御する期間において、前記第2駆動部の駆動電流が所定値となるように制御する記録装置であって、
前記制御部は、前記キャリッジを減速する少なくとも一部の期間において、前記第2駆動部の駆動電流が前記所定値より大きくなるように制御し、前記キャリッジを加速する少なくとも一部の期間において、前記第2駆動部の駆動電流が前記所定値より小さくなるように制御することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記被駆動部はミストを回収するファンであり、前記第2駆動部は前記ファンを駆動すモータであることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記ファンの回転数の変化による吸引口からの風量の変化を平滑化するダクトを備えることを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記被駆動部は搬送ローラまたはカッターであり、前記第2駆動部は前記搬送ローラまたは前記カッターを駆動するモータであることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記キャリッジが往路または復路で移動する期間において前記第2駆動部の駆動電流の平均が前記所定値となるように前記第2駆動部を制御することを特徴とする請求項1ないしの何れか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記被駆動部を駆動するための前記第2駆動部の駆動パラメータを前記キャリッジの走査ごとに決定することを特徴とする請求項1ないしの何れか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
搬送方向に搬送されたシートに画像を記録する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを前記搬送方向と交差する方向に移動するキャリッジと、
前記キャリッジを駆動する第1駆動部と、
前記第1駆動部に電流を供給する電源ユニットと、
前記電源ユニットから供給される電流によってミストを回収するファンを駆動する第2駆動部と、
前記第1駆動部と前記第2駆動部とを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は前記キャリッジが一定速度となるように制御する期間において、前記第2駆動部の駆動電流が所定値となるように制御する記録装置であって、
前記制御部は、前記キャリッジを減速する少なくとも一部の期間において、前記第2駆動部の駆動電流が前記所定値より大きくなるように制御することを特徴とする記録装置。
【請求項8】
搬送方向に搬送されたシートに画像を記録する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを前記搬送方向と交差する方向に移動するキャリッジと、
前記キャリッジを駆動する第1駆動部と、
前記第1駆動部に電流を供給する電源ユニットと、
前記電源ユニットから供給される電流によって被駆動部を駆動する第2駆動部と、
前記第1駆動部と前記第2駆動部とを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は前記キャリッジが一定速度となるように制御する期間において、前記第2駆動部の駆動電流が所定値となるように制御する記録装置であって、
前記制御部は、前記一定速度が閾値以下の場合、前記第2駆動部の駆動電流を変更せず、前記一定速度が前記閾値より大きい場合、前記キャリッジを減速する少なくとも一部の期間において、前記第2駆動部の駆動電流が前記所定値より大きくなるように制御することを特徴とする記録装置。
【請求項9】
前記制御部は、駆動電流を供給する期間と駆動電流を停止する期間のデューティによって駆動電流を制御することを特徴とする請求項1ないし8の何れか1項に記載の記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録ヘッドを走査する記録装置および記録装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、キャリッジに記録ヘッドを搭載し、キャリッジの往復移動と同期して記録を行うシリアル式の記録装置が開示されている。キャリッジを駆動するキャリッジモータは、キャリッジを大きな減速度(負の加速度)で減速をさせた場合に回生エネルギーを発生する。この記録装置では、発生した回生エネルギーを蓄電器に蓄え、蓄えた電力をキャリッジモータの起動時に供給できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-278348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、記録装置の高速化によって回生エネルギーの影響が無視できなくなっている。しかし、特許文献1の方法では回生エネルギーを蓄えるための蓄電器が必要となる。このため、装置コストが上がってしまう課題があった。本発明の目的は、キャリッジモータより発生する回生エネルギーを効果的に利用する記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の記録装置は、搬送方向に搬送されたシートに画像を記録する記録ヘッドと、前記記録ヘッドを前記搬送方向と交差する方向に移動するキャリッジと、前記キャリッジを駆動する第1駆動部と、前記第1駆動部に電流を供給する電源ユニットと、前記電源ユニットから供給される電流によって被駆動部を駆動する第2駆動部と、前記第1駆動部と前記第2駆動部とを制御する制御部と、を備え、前記制御部は前記キャリッジが一定速度となるように制御する期間において、前記第2駆動部の駆動電流が所定値となるように制御する記録装置であって、前記制御部は、前記キャリッジを減速する少なくとも一部の期間において、前記第2駆動部の駆動電流が前記所定値より大きくなるように制御し、前記キャリッジを加速する少なくとも一部の期間において、前記第2駆動部の駆動電流が前記所定値より小さくなるように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、キャリッジモータより発生する回生エネルギーを効果的に利用する記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】記録装置の電気系ブロック図である。
図2】インクジェット記録装置の構成図である。
図3】記録動作時のフローチャートである。
図4】キャリッジ駆動パラメータを決定するためのフローチャートである。
図5】ミストファン駆動パラメータを決定するためのフローチャートである。
図6】ミストファンのPWM加算値の算出関数である。
図7】キャリッジ駆動に対する各種波形である。
図8】ミストファンPWMの変更による影響を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。なお、同一の構成については、同じ符号を付して説明する。また、実施形態に記載されている構成要素の相対配置、形状等は、あくまで例示であり、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0009】
なお、以下の実施形態の説明において、「記録」には、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広くシート上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も含まれる。人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。また、本実施形態ではシートとしてロールシートを想定しているが、カット紙、布、プラスチック、フィルム、ボード等であってもよい。
【0010】
<インクジェット記録装置>
図1はインクジェット記録装置の構成を表すブロック図、図2はインクジェット記録装置の斜視図(a)およびミスト回収部の断面図(b)である。
【0011】
図1において、記録装置100はApplication Specific Integration Circuit(以下ASIC)101を備えている。ASIC101は制御部であるCPU102を内蔵しており、フラッシュROM103からDRAM104に展開されたプログラムに従って装置全体の制御を行う。USBインターフェース105およびLANインターフェース106は不図示のUSBケーブルやLANケーブルによって外部ホストPC107に接続され、送信されてきた記録データをASIC101に転送する。操作パネル108は液晶モニタ、タッチパネル、ボタンを備え、各種の情報の表示、ユーザーによる各種操作、ユーザーの操作情報のASIC101への送信をすることができる。
【0012】
キャリッジモータドライバ109は3相ブラシレスモータであるキャリッジモータ110のドライバ回路であり、記録ヘッド111を搭載したキャリッジ112とキャリッジ駆動ベルトを介して接続される。キャリッジモータドライバ109はASIC101から制御信号を受信してキャリッジモータ110を駆動させる。キャリッジ112は、キャリッジモータ110の回転によってレールステイ201上に取り付けられたガイドレール202に沿って主走査方向に摺動する。
【0013】
記録ヘッド111は、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー等のインクをノズルから吐出させるユニットで、色ごとにノズルが配列されている。記録ヘッド111は、ASIC101と不図示のFFC(Flexible Flat Cable)を介して接続されている。ASIC101から受信したヘッド駆動信号によってプラテン207で支持されたシート204にインクの吐出動作を行う。なお、プラテン207には、インクの吐出性能を維持回復する予備吐出を行うための吐出口(不図示)が設けられている。
【0014】
LFモータドライバ113はDCモータであるLFモータ114のドライバ回路である。LFモータ114は搬送ローラ203とベルトを介して接続される。LFモータドライバ113はASIC101から制御信号を受信してLFモータ114を駆動させる。LFモータ113の回転によって搬送ローラ203が回転し、ロール紙やカット紙などのシート204を搬送方向に搬送する。なお、主走査方向(X方向)は、搬送方向(Y方向)と交差する方向で、特に搬送方向と直交する。
【0015】
カッターモータドライバ115はDCモータであるカッターモータ116の駆動回路であり、カッターモータ116は被駆動部であるカッターユニット205とベルトを介して接続される。カッターモータドライバ115はASIC101からの駆動信号を受信してカッターモータ116を回転させることで、カッターユニット205を主走査方向に移動させ、シート204をカットさせる。
【0016】
ミストファン駆動回路117はDCシロッコファンであるミストファン118を駆動させるための回路である。なお、シロッコファンは、被駆動部である筒状に設けられた縦長の細長い羽根が回転する。ミストファン118は記録装置100の背面に取り付けられ、ミスト回収ダクト206を通じてキャリッジの走査領域付近の空気を装置外に排出できる。ミスト回収ダクト206の吸引口206aは、記録ヘッド111よりもシート204の搬送方向の上流側に位置している。ここはインクミストの発生源に近いので効率的にミスト回収がなされる。ミスト回収ダクト206のダクト内壁面には多数のリブが形成されており、このリブ表面にインクミストが付着してミストが捕捉される。また、このリブによってミストファン118の回転によって発生する風量の変化に抵抗が生じ、回転数の変化に対しダクト吸引口206a付近の風量を平滑化することができる。
【0017】
ミストファン駆動回路117はASIC101から制御信号を受信し、ミストファン118に対し回転数を制御するためのPWM(Pulse Width Modulation)値を供給する。ミストファン118はミストファン駆動回路117から受信したPWM値に応じてミストファン118を回転させる。フラッシュROM103にはこのミストファンの駆動条件が記録動作のモード毎に記録されており、ASIC101は記録動作の実施前に設定された記録モードに応じてフラッシュROMからPWMの制御値を読み出す。なお、記録モードとは、高い生産性のためにキャリッジを高速に移動させる高速モード、高画質にするため高速モードより低速にキャリッジを移動させる高画質モードなどがある。
【0018】
電源回路119は電源ユニット120から1系統の電源(例えば+32V)を供給され、キャリッジモータドライバ109、LFモータドライバ113、カッタードライバ115、ミストファン駆動回路117の駆動回路に電源を分配している。各駆動回路の電源は、ASIC101によって制御されるFETなどの半導体スイッチ(不図示)で供給または遮断をすることができる。なお、記録動作を行わない場合、上述の駆動回路への電源供給を遮断する。
【0019】
<記録動作時のフローチャート>
図3は記録装置100の記録動作のフローチャートである。
【0020】
S301工程において、外部ホストPC107から記録動作の実行命令が行われる。その後、USBケーブルもしくはネットワークを介して記録データが記録装置100に転送される。
【0021】
S302工程において、ASIC101が記録データを受信すると、制御部であるCPU102は記録データをDRAMに記録させる。
【0022】
S303工程において、CPU102は記録装置100の初期化動作を実行する。初期化動作とは、記録ヘッド111のクリーニング、記録位置へのシートの搬送などである。
【0023】
S304工程において、初期化動作と並行して、ASIC101によって、設定された記録モードに従って記録ヘッド111の駆動信号に変換するためのデータ処理を実行する。変換されたヘッド駆動データは一時的にDRAM104に記録され、記録ヘッド111の動作タイミングに合わせて記録ヘッド111に転送される。ヘッド駆動データの生成はキャリッジ112の1回の往路および復路の主走査方向の走査単位で行われる。また、ミストファンのPWM値(デューティ)は、所定値である基準値(D0)である。ここでは、PWM値によってモータの駆動電流を制御しているものとする。なお、PWM値によってモータの駆動電力を制御しても良い。ただし、PWM制御は、1周期の中で電流または電力を供給するONと供給を停止するOFFの期間をデューティにより制御する。このため、駆動電力または駆動電流は1周期の中の平均的な電力または電流としてもよい。
【0024】
S305工程において、ヘッド駆動データをもとにキャリッジ112の駆動パラメータが決定される。キャリッジ112の駆動パラメータは、画像開始位置、画像終了位置、加速開始位置、減速開始位置、最高速度などである。駆動パラメータの決定方法については、図4を用いて後述する。
【0025】
S306工程において、CPU102は、キャリッジ112の駆動パラメータに対応するミストファン118の駆動パラメータを決定する。ミストファン118の駆動パラメータは、PWM値、減速期間のPWM加算値、加速期間のPWM減算値、減速期間(T1)、加速期間(T2)などである。ミストファンの駆動パラメータの決定については、図5から図7を用いて後述する。なお、キャリッジ112の駆動パラメータ、ミストファン118の駆動パラメータは、記録する画像の領域に合わせて走査毎に決定される。
【0026】
S307工程において、記録準備が整うと、1ラインの記録動作が開始される。まずキャリッジ112が所定の加速度で加速を開始する。キャリッジ112の加速期間(T2)において、ミストファン118のPWM値が基準値(D0)からD0より小さいD2に変更される。キャリッジ112がヘッド駆動位置P0に達すると、記録ヘッド111を駆動して記録動作が開始される。キャリッジ112は加速を継続し、所定の最高速度Vpに達すると、再びミストファン118のPWM値は基準値(D0)に変更される。キャリッジ112は走査を継続し、キャリッジ112が減速開始位置に達すると、所定の減速度(負の加速度)で減速を開始する。キャリッジ112の減速している減速期間(T1)において、ミストファン118のPWM値が基準値(D0)からD0より大きいD1に変更される。キャリッジ112が記録動作領域P1を超えた後、LFローラが回転し、次の記録領域上をキャリッジ112が走査できるようシートを搬送する。
【0027】
S308工程において、キャリッジ112は減速を継続し、目標停止位置Psで停止する。キャリッジ112が停止すると、ミストファン118のPWM値は再び基準値(D0)に変更される。
【0028】
S309工程において、CPU102は、記録画像の1ページ分の記録が完了したかどうかを判定する。記録が完了しておらず、次の走査用のデータ処理が継続されている場合は引き続きキャリッジの駆動パラメータを決定し、ミストファン118の駆動パラメータを決定して次のラインの記録動作を実行する。
【0029】
S310工程において、1ページ分の記録が完了している場合、CPU102はシートをカット位置まで搬送させ、カッターユニットを動作させてシートをカットする。
【0030】
<駆動パラメータの決定>
図4はS305工程におけるキャリッジ112の駆動パラメータを決定するためのフローチャートである。まず、ASIC101で処理された記録データ情報から、記録画像の終了位置を算出する(S401)。次に、CPU102は画像の終了位置に基づきキャリッジ停止位置を決定する(S402)。高い生産性が求められる記録モードの場合、キャリッジ112を高速に走査させることで記録動作時間を短縮できる。この場合、キャリッジ112の最高速度および加速度が大きく設定される。また、キャリッジ112の走査範囲を短くするため、キャリッジ112の加速の途中から記録ヘッド111の駆動を開始して記録動作を行わせてもよい。さらに、キャリッジ112の走査範囲を狭くするため、シートの幅に合わせてキャリッジ112の走査をするのではなく、記録画像の幅に合わせて走査が行われる。この場合、記録画像の走査後に記録画像の幅に合わせたキャリッジ停止位置にキャリッジ112を停止させて反対方向に走査を行わせる。ただし、予備吐出動作を行わせる場合は、シートの端部を越えてシートの外側の吐出口の位置をキャリッジ停止位置とする。キャリッジ停止位置が決まると、その位置に停止するためにキャリッジ112の減速を開始する減速開始位置を算出する(S403)。すなわち、キャリッジ112の減速度、最高速度、キャリッジ停止位置から減速を開始する減速開始位置を算出することができる。なお、キャリッジが所定の最高速度に達する前に減速を開始するような場合、減速度およびキャリッジ停止位置に基づいて減速開始位置の直前の速度を算出する。
【0031】
図5はS306工程におけるミストファン118の駆動パラメータを決定するためのフローチャートである。まず、記録モードに応じた記録動作中に駆動されるミストファンのPWM値の所定値である基準値をフラッシュROM103から読み出す(S501)。ミストファンのPWM値の基準値は記録モードに応じてフラッシュROM103に記録されている。
【0032】
次に、キャリッジ112の減速期間に変更されるミストファンPWM値の算出のためフラッシュROM103からPWM加算値の算出テーブルを読み出す(S502)。PWM加算値の算出テーブルが読み出されると、キャリッジ112の最高速度を入力してPWM加算値を算出する(S503)。
【0033】
ここで、図6にPWM加算値の算出テーブルのためのPWM加算値の算出関数の例を示す。ここでは記録モードに応じた減速度を一定とする。PWM加算値はキャリッジモータ110の減速時に発生する回生電力をミストファン118の消費電力で吸収させるのに必要な値である。キャリッジモータ110から発生する回生電力の大きさは、キャリッジ112の最高速度と減速度とがそれぞれ大きい場合に大きくなる。したがって、キャリッジモータ110が発生する回生電力が大きいと、その他の負荷によって消費される電力よりも大きくなる。このため、通常の負荷を上回る回生電力を消費できるようミストファン118のPWM値の増加量が決められる。逆にキャリッジ112の最高速度と減速度とがそれぞれ小さい場合、キャリッジモータ110から発生する回生電力も小さい。最高速度が閾値より小さい場合、その他の負荷によって消費される電力の方が大きいため、ミストファン118の回転数を変更する必要は無い。
【0034】
図6のキャリッジ速度Vxは、ミストファン118に吸収させる境界となる閾値である。最高速度がこれ以上の場合はPWMの加算が行われる。記録画像の主走査幅が狭く、キャリッジ速度がVxに達する前に記録が完了し、減速が開始されるような条件では最高速度がVx以下となり、PWM加算値は0となる。すなわち、所定の最高速度が閾値以下の場合、ミストファン118の回転数を変更しない。なお、PWM算出関数は記録モードに応じて持つことが望ましい。記録装置にはキャリッジモータ、ミストファン以外の負荷も搭載されており、それらの駆動は記録モードに応じて異なる。同じキャリッジ速度からの減速であっても、その時に動作している他の負荷、キャリッジの減速度に違いがある。したがって、PWMの加算を行うVx、加算値の割合が異なる。
【0035】
このようにして算出したPWM加算値をPWM値の基準値に加え、キャリッジ減速期間中のPWM値を算出する(S504)。図6のPWM加算値の算出関数によって速度Vpの状態から減速を行う場合のPWM加算値をΔDとすると、キャリッジ減速期間(T1)に設定されるPWM値(D1)は、式1で求められる。
【0036】
D1=D0+ΔD 式1
続いて、PWM値を変更する期間が決定される(S505)。PWM値の変更は、キャリッジ112が減速することで回生電力を発生する期間の少なくとも一部で行われればよい。ここではキャリッジ112の減速期間と同じ期間がPWM値を変更する減速期間(T1)とする。最後に、キャリッジ112の加速期間におけるミストファン118のPWM値と変更期間を決定する(S506)。この期間におけるPWM値変更の目的は、記録動作中のミストファン118のミスト回収量を一定にすることである。ミストファン118の回転数は、PWM値に比例しており、かつキャリッジ112の減速期間(T1)と同じ時間PWM値を変更する。この場合、キャリッジ112の加速期間に変更されるミストファンPWM値D2は、式2で求められる。
【0037】
D2=D0-ΔD 式2
また、加速期間(T2)の開始位置と終了位置が合わせて設定される。このようにしてミストファン118の駆動パラメータが設定される。なお、PWM値の変更は、キャリッジ112が加速する期間の少なくとも一部で行われればよい。
【0038】
以上の制御は、ミストファン118の風量がPWMのデューティに比例する場合である。したがって、PWMデューティが非線形である場合は専用のテーブルや係数等を用いて変換する必要がある。また、T1、T2の期間が同一でない場合もそれに応じた変換を必要とする。
【0039】
図7(a)はキャリッジ112の往路と復路の1往復分の動作における経過時間に対するキャリッジ速度、(b)は経過時間に対するキャリッジ位置、(c)は経過時間に対するミストファンのPWM値の変化を示したものである。また、図7(d)はキャリッジ112の1回の往復動作によるキャリッジモータ110の消費電流(Icr)、ミストファン118の消費電流(Imf)、および電源回路から出力される電流(Ipw)を表している。記録動作における基準のミストファンPWM値をD0(例えば50%)として、キャリッジ112の加速期間と減速期間にそれぞれデューティが変更される。キャリッジ112の減速期間(T1)において、キャリッジモータ110より回生電力が発生するため、電流が逆方向(マイナス方向)に流れている。一方、ミストファン118のPWM値を増加させることで電流負荷が増加し、逆方向に流れようとしている電流を吸収する。
【0040】
キャリッジ112の加速期間(T2)において、キャリッジモータ110が消費する電流が大きいのに対し、ミストファン118のPWM値を下げることで電流負荷を下げる。電源ユニット120から見た消費電流としてはピークが抑えられた形になる。すなわち、ミストファン118の駆動電流を経過時間に応じて変えることによって、間接的にキャリッジ112減速時に発生した回生電力がキャリッジ112の加速時に必要な電力に利用されたことになる。
【0041】
図8はキャリッジ112の1往復分の動作における経過時間に対するミストファンPWM、ミストファン回転数、インクミスト回収用ダクトの入り口付近の風量を示す。ここでは、キャリッジ112の移動中にミストファンのPWM値を変更する場合としない場合を比較する。図8(a)のようにPWM値がD0で一定の場合、ミストファン118の回転数は図8(b)のように常にR0付近で維持され、結果的に図8(c)のように風量もQ0を維持することになる。一方、図8(d)のように、キャリッジの加速期間(T2)及び減速期間(T1)においてミストファン118のPWM値が変更されると、ミストファン118の回転数は図8(e)のように変化する。ミストファンのPWMの変更に対する応答性は比較的早く、PWM値の変更に合わせて回転数が変化する。ダクト吸引口206a付近の風量はインクミストを回収するためのリブ等よって、図8(f)のように緩やかに変化する。すなわち期間T1においてPWM値を増加させたことにより、図8(f)の期間T3において、風量がわずかに増加している。これに対し、期間T2においてPWM値を減少させたことで、期間T4において風量がわずかに減少している。このため、加速期間および減速期間におけるミストファンPWM値の変更による風量の変化は軽微に抑えられることになり、気流が大きく変化してミストが予期せぬ箇所に付着するなどの影響を抑えることができる。このようにインクミストの回収性能としてもキャリッジ112の1回の走査に要する時間が短く、さらに風量の変動も小さいことから基準となるPWM値でミストファン118を回転させたときとほぼ同じ性能を得ることができる。
【0042】
以上説明したように、キャリッジ112の減速時に発生した回生電力がミストファン118の駆動電力として有効利用することが可能になる。なお、キャリッジ112で発生した回生電力が他負荷によって消費しきれない場合、放電回路によって熱としてエネルギーを消費するか、蓄電回路等を設ける等の対策をする必要がある。ただしどちらの方法も追加構成が必要となり、装置のコストを上昇させてしまう。本発明ではミストファン118が発生した回生電力を使って回転数を上昇(風量を上昇)させた分、それ以外の期間で回転数を抑制(風量を抑制)させる。ダクト構造による風量平滑化の効果によってインクミストの回収という機能に対する影響を抑えることが可能であり、結果として構成を追加すること無しに回生エネルギーを有効利用することが可能となる。
【0043】
本実施形態では、キャリッジ112の減速期間においてミストファンのPWM値を増加させた期間と同等の時間だけキャリッジ112の加速期間中にミストファンのPWM値を減少させる説明を行った。しかし、キャリッジ112の減速期間中とそれ以外の期間として、2段階以上PWM値を変更するようにしても良い。この場合にミストファン118の駆動によるキャリッジ駆動領域における風量の平均値が初期設定値と同等になるように調整されることが望ましい。
【0044】
また、第2駆動部およびそれによって駆動される機構をミストファン118およびミストファン駆動回路117として説明を行ったが、発明の範囲はこれに限ったものではない。例えば本実施形態で説明された被駆動部であるLFモータ114やカッターモータ116、記録ヘッド111のように電源回路119より共通の電源が供給されている構成であれば良い。これらの負荷をキャリッジモータ110の減速期間中の駆動電流がキャリッジモータ110の所定の速度の駆動期間よりも高くなるように制御することで同等の効果を得ることができる。LFモータ114の場合、キャリッジ112が所定の速度で駆動している期間は停止制御を行わせ、キャリッジ112が減速している間に駆動させ、シート204を搬送させる。また、キャリッジ112が所定の速度で駆動している場合の駆動制御に対し、キャリッジ112が減速している間に予備吐出動作のための吸引ファン(不図示)の駆動電流を高くなるように駆動しても良い。
【0045】
このように、キャリッジの減速時に発生する回生エネルギーを同じ電源ラインに接続されているミストファンの回転数を上げることで消費させることができる。なお、他の期間のミストファンの回転数を下げることでミストファンによる消費電流を1ラインで平均化することができる。このため、追加の部品および回路等を必要としない構成でキャリッジモータの回生エネルギーを効果的に利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
100 記録装置
102 CPU
110 キャリッジモータ
111 記録ヘッド
118 ミストファン
120 電源ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8