(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/58 20060101AFI20240610BHJP
B60N 3/10 20060101ALI20240610BHJP
B60N 3/00 20060101ALI20240610BHJP
B60N 2/897 20180101ALI20240610BHJP
B60N 2/75 20180101ALI20240610BHJP
【FI】
B60N2/58
B60N3/10 A
B60N3/00 A
B60N2/897
B60N2/75
(21)【出願番号】P 2020070123
(22)【出願日】2020-04-09
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】新道 隆
(72)【発明者】
【氏名】田口 雅之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝行
(72)【発明者】
【氏名】胡 夢迪
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-000665(JP,A)
【文献】登録実用新案第3209761(JP,U)
【文献】特開2016-172273(JP,A)
【文献】特開2016-215992(JP,A)
【文献】登録実用新案第3213018(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2005/0012374(US,A1)
【文献】特開2000-052831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/58
B60N 3/10
B60N 3/00
B60N 2/897
B60N 2/75
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションとシートバックとヘッドレストとを備えた車両用シートであって、
前記シートクッションの側面に設置されたスイッチの周辺部分に樹脂部材を用い、前記樹脂部材は、表面の一部に微小な凹凸が多数形成されており、前記微小な凹凸が多数形成された領域は、前記樹脂部材のうちの前記微小な凹凸が形成されていない部分と比べて大きな摩擦係数を有することを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項
1記載の車両用シートであって、前記樹脂部材はソフトシェルであって、前記微小な凹凸は、前記ソフトシェルにレーザを離散的に照射して形成したものであることを特徴とする車両用シート。
【請求項3】
請求項
1記載の車両用シートであって、前記樹脂部材はソフトシェルであって、前記微小な凹凸は、前記ソフトシェルにパルスレーザを離散的に照射して形成したものであることを特徴とする車両用シート。
【請求項4】
請求項1記載の車両用シートであって、前記スイッチは前記シートバックの傾きを調整するためものであることを特徴とする車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに係る。
【背景技術】
【0002】
車両シートの樹脂部材を用いる構成として、アームレストの前端部付近に凹所を形成し、この凹所に樹脂などからなる有底円筒型のカップホルダを埋設して、この凹部に飲料容器(カップ)を収容するようにしたものや、ヘッドレストのステーを支持する部分に樹脂で皮膜を形成してステー取り出し時の摩擦抵抗を小さくするようにしたものがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、合成樹脂材料からなるカップホルダを袋状に形成された表皮片の装着孔から表皮片の内部に挿入した状態で、袋状に形成された表皮片の内部に発泡樹脂材料を注入して表皮の内部に樹脂発泡体を形成することにより、カップホルダとアームレストとを一体成型することが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、乗り物用シートのヘッドレストにおいて、ヘッドレストサポートの内筒部の表面を、摩擦係数の低い樹脂皮膜で覆った構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-665号公報
【文献】特開2017-52309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された構成においては、アームレストの袋状に形成された表皮片の内部に発泡樹脂材料を注入して表皮の内部に樹脂発泡体を形成するときに、装着孔から表皮片の内部に挿入した合成樹脂材料からなるカップホルダと表皮片との間から発泡樹脂材料が装着孔から漏出するのを防止するために、装着孔の開口縁部にワディング部材で形成されたシール部を形成している。
【0007】
このシール部は、装着孔から表皮片の内部にカップホルダを挿入する前に、予め表皮片の装着孔の開口縁部にワディング部材で形成されたシール部を縫合又は接着により接合して形成している。
【0008】
しかし、この装着孔の開口縁部にワディング部材で形成されたシール部を形成するには、表皮片の装着孔の開口縁部にシール部を縫合又は接着により接合する工程を必要とし、工数低減を行う上でネックになってしまう。
【0009】
さらに、合成樹脂材料で形成されたカップホルダの表面は、一般的に摩擦係数が小さいため、カップホルダの内部に収納した飲料などの容器を取り出すときに、容器がカップホルダの内部で動いて取り出しにくくなるという不都合が生じる場合がある。
【0010】
また、特許文献2に記載されたヘッドレストの構成においては、ヘッドレストサポートの内筒部の表面を、ヘッドレストサポートを構成する材料よりステーの外表面に対する摩擦係数の低い樹脂皮膜で覆った構成が記載されているが、ヘッドレストサポートが、この樹脂皮膜でヘッドレストサポートを支持する部材(ヘッドレストブラケット)に対して抜けにくくするような構成とすることについては配慮されていない。
【0011】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決して、比較的簡単な工程で、車両用シートの一部に、摩擦係数が大きくて表面が滑りにくい表皮を形成できるようにするものである。具体的には、比較的単純な工程でアームレストへのカップホルダの取付けを容易に行えるようなアームレストを備えた車両用シートや、ヘッドレストサポートが、ヘッドレストサポートを支持する部材(ヘッドレストブラケット)に対して抜けにくい構成を有するヘッドレストを備えた車両用シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するために、本発明では、シートクッションとシートバックとヘッドレストとを備えた車両用シートにおいて、車両用シートは一部に樹脂部材を用い、この樹脂部材は、表面の一部に微小な凹凸が多数形成されており、この微小な凹凸が多数形成された領域は、ソフトシェルのうちの微小な凹凸が形成されていない部分と比べて大きな摩擦係数を有するように形成した。
【0013】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、シートクッションとシートバックとヘッドレストを備えた車両用シートにおいて、ヘッドレストは、このヘッドレストから延びるステーと、このステーが貫通する穴が形成されたヘッドレストブラケットを有し、
ヘッドレストブラケットはシートバックに固定されたヘッドサポートに形成された穴に挿入されてシートバックに支持される構成を有し、ヘッドレストブラケットに形成されたステーが貫通する穴の内面とヘッドレストブラケットのヘッドサポートに形成された穴に挿入される部分の表面には樹脂部材で構成された層が形成されており、樹脂部材で構成された層のうちヘッドサポートに形成された穴に挿入される部分の表面に形成された樹脂部材の層の表面には、微小な凹凸が多数形成されていることを特徴とする。
【0014】
更に、上記した課題を解決するために、本発明では、シートクッションとシートバックとヘッドレストとを備えた車両用シートにおいて、シートバックは裏面に折り畳み可能なテーブルを備え、このテーブルは表面を樹脂部材で覆われており、樹脂部材の表面に微小な凹凸が多数形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両用シートの一部に、表面に微小な凹凸を形成したエラストマー等の軟質樹脂部材(以下、ソフトシェルと表記)を用いて、この部分の摩擦係数を大きくすることにより、比較的簡単な工程で表面が滑りにくい表皮を形成することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例1に係る車両用シートの斜視図である。
【
図2】本発明の実施例1に係る車両用シートのアームレストの
図1におけるA-A断面図である。
【
図3】本発明の実施例1に係る車両用シートのカップホルダの断面図である。
【
図4】本発明の実施例1に係るカップホルダの底の部分の内側の面にレーザを照射して微小な凹凸を形成している状態におけるレーザ光源からレーザが照射されているカップホルダの底の部分の断面図である。
【
図5】本発明の実施例1に係る車両用シートの後部座席(またはセカンドシート)の斜視図である。
【
図6】本発明の実施例2に係る車両用シートの斜視図である。
【
図7】本発明の実施例3に係る車両用シートのシートバックとヘッドレストの斜視図である。
【
図8】本発明の実施例3に係る車両用シートのシートバックの
図7におけるB-B断面図である。
【
図9】本発明の実施例4に係る車両用シートを後方から見た斜視図である。
【
図10】本発明の実施例4に係る車両用シートのテーブルの
図9におけるC-C断面図である。
【
図11】本発明の実施例4に係る車両用シートのフック部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、車両用シートの一部に、表面に微小な凹凸を形成したソフトシェルなどの樹脂部材を用いて、この部分の摩擦係数を大きくすることによりソフトシェルなどの樹脂部材の表面が滑りにくくなるように形成したり、表面にザラザラ感を出すように形成することを、比較的簡単な工程で実現できるようにしたものである。
【0018】
本発明では、このようにして形成したソフトシェルなどの樹脂部材を、アームレストのカップホルダ、シートクッション側面の操作ボタンの周辺部、ヘッドレストのブラケット、テーブル、フック部などに適用した。
【0019】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は原則として省略する。
【0020】
ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【実施例1】
【0021】
本発明の第1の実施例として、アームレストに形成されたカップホルダに適用した例を、
図1乃至4を用いて説明する。
【0022】
図1は、本実施例に係る車両用シート100の外観を示す斜視図である。本実施例に係る車両用シート100は、搭乗者が着座するシートクッション110、着座した搭乗者の背中を支えるシートバック120、着座した乗車の頭部を保護するヘッドレスト130、シートクッション110に着座した搭乗者が腕を載せるアームレスト140を備えている。
【0023】
アームレスト140の先端部分付近には、カップホルダ141が形成されている。また、カップホルダ141の周囲領域146および147には表面に微小な凹凸が形成されていて、アームレスト140の表皮の他の部分と比べて、比較的大きな摩擦抵抗を有している。カップホルダ141とその周囲領域146および147は、同じ樹脂部材で形成されていてもよく、また、異なる樹脂部材で形成されていてもよい。また、カップホルダ141の周囲領域146および147のうち、アームレスト140の上面に位置する周囲領域146だけに表面に微小な凹凸を形成するようにしてもよい。
【0024】
図1におけるアームレスト140の部分のA-A断面矢視図を、
図2に示す。
図2において、150はアームレスト140の回転中心軸で、シートバック120に支持されている。151はアームレスト140のフレームで、回転中心軸150に回転可能に支持されている。
【0025】
アームレスト140は、表面が表皮部材1401で覆われ、その内部に発泡ウレタンで形成されたクッション部材1402が充填されて形成されている。
【0026】
141はカップホルダで、樹脂部材(例えば、ソフトシェル)で形成されている。145はクッション部材1402に形成されたカップホルダ挿入用の凹部であり、クッション部材1402を成形するときに一緒に成形される。ただし、カップホルダ141をクッション部材1402とは別工程で作成し、クッション部材1402にはめ込むようにしてもよい。
【0027】
図3に、カップホルダ141の断面形状を示す。カップホルダ141はソフトシェルなどの樹脂部材で形成されており、円筒部分の外周部144がクッション部材1402に形成されたカップホルダ挿入用の凹部145に挿入される。
【0028】
ここで、カップホルダ141の円筒部分の外周部144の表面の一部には他の部分と比べて外径が少し大きい部分1440が形成されている。そして、この外径が少し大きい部分1440には、
図3にその部分拡大図を示しているように、微小な凹凸1441が形成されている。この微小な凹凸1441が形成された外径が少し大きい部分1440の外径は、クッション部材1402に形成されたカップホルダ挿入用の凹部145の内径よりも少し大きめに形成されている。
【0029】
このように、外周部144の一部に微小な凹凸1441が形成されたカップホルダ141をクッション部材1402に形成されたカップホルダ挿入用の凹部145に挿入するときには、微小な凹凸1441が形成された部分の外径がカップホルダ挿入用の凹部145の内径よりも少し大きいので抵抗を受ける。しかし、微小な凹凸1441を含めてカップホルダ141が樹脂部材で形成されているので、微小な凹凸1441を含めてカップホルダ141は押込み力に応じて変形する。これにより、カップホルダ141をカップホルダ挿入用の凹部145に所定の深さまで挿入することができる。
【0030】
カップホルダ141をカップホルダ挿入用の凹部145に一旦挿入すると、微小な凹凸1441が抵抗となって、カップホルダ141はカップホルダ挿入用の凹部145から容易には抜けにくくなる。
【0031】
これにより、カップホルダ挿入用の凹部145の入り口周辺に、特許文献1に記載されているような特別な加工を施すこと無く、比較的単純な構成で、クッション部材1402に形成されたカップホルダ挿入用の凹部145にカップホルダ141を安定して保持することができる。
【0032】
また、本実施例では、カップホルダ141の底143の部分の内側の面にも、その拡大図に示すように、微小な凹凸1431を形成して、カップホルダ141の表面のこのような微小な凹凸1431が形成されていない部分と比較して、摩擦係数が大きくなるように形成している。
【0033】
カップホルダ141の底143の部分の内側の面に微小な凹凸1431を形成したことにより、カップホルダ141に収容した容器がカップホルダ141の底143の部分に対して滑りにくくなるので、カップホルダ141に収容した容器の出し入れをスムーズに行うことができる。
【0034】
次に、ソフトシェルなどの樹脂部材で形成されたカップホルダ141の外周面の外径が少し大きい部分1440に微小な凹凸1441を形成する方法、及び、底143の部分の内側の面に微小な凹凸1431を形成する方法について、
図4を用いて説明する。本実施例においては、樹脂部材としてソフトシェルを用いた場合について説明する。
【0035】
図4は、カップホルダ141の底143の部分の内側の面に、レーザ光源210から発射されたレーザ211を離散的に照射することにより微小な凹凸1431を形成している状態を示している。レーザ光源210から発射するレーザ211はパルスレーザである。
【0036】
このレーザ211をカップホルダ141の底143の部分を形成するソフトシェルの同一の個所に照射するときのレーザ211の照射パルス数と、レーザパワーとを調整することにより、カップホルダ141の底143の部分に形成される微小な凹凸1431の深さdと大きさ(穴径)wを変えることができる。また、レーザ211を離散的に照射するピッチを制御することにより、微小な凹凸1431のピッチpを調整することができる。
【0037】
レーザ光源210から発射するレーザ211のパワーと同一箇所への照射パルス数、レーザ211の送りピッチを、カップホルダ141を形成するソフトシェルの硬さに応じて調整することにより、微小な凹凸1441及び1431が形成された部分の摩擦抵抗の度合いを調整することができる。
【0038】
また、
図1には、このレーザ211を、アームレスト140のカップホルダ141の周辺領域146に照射してこの周辺領域146の表面を荒らして表面にザラザラ感を出して、この周辺領域146の摩擦抵抗をアームレスト140のそのほかの部分の摩擦抵抗よりも大きくした状態も示している。
【0039】
アームレスト140のカップホルダ141の周辺領域146をアームレスト140のそのほかの部分の表面と比べて摩擦抵抗よりも大きくすることにより、カップホルダ141の周辺領域146において、飲み物の容器を持った手を周辺領域146の表面で滑らせてしまう可能性を少なくした。これにより、カップホルダ141への飲み物容器を出し入れする際に安全性を高めることができる。
【0040】
図5には、本実施例に係る車両用シートを示す斜視図で、車両の後部座席(またはセカンドシート)300を示している。
【0041】
この後部座席300には、両側のシート310と320との間に、根元部分を中心にして回動可能なアームレスト340を備えたタイプがある。このアームレスト340は、不使用時にはアームレスト340を立てた状態で、中間座席330のアームレスト収納部331の内部に収納し、使用時には、アームレスト340を根元部分を回動中心にして
図5に示すように前に倒して使用する。
【0042】
このような構成のアームレスト340においても、
図2乃至4で説明したソフトシェルなどの樹脂部材で形成されたカップホルダ341を採用することができる。このようなカップホルダ341を用いることにより、アームレスト340を中間座席330に形成されたアームレスト収納部331に対して出し入れすることを繰り返し行っても、カップホルダ341がアームレスト340から抜け落ちることなく、アームレスト340に安定して保持することができる。
【0043】
なお、上記に説明した実施例では、カップホルダ341をアームレスト340に形成した例について説明したが、図示していないコンソールボックスに設けられてカップホルダにも適用することができる。
【0044】
本実施例によれば、比較的単純な工程でアームレストへのカップホルダの取付けを容易に行えるようなアームレストを備えた車両用シートを提供することができる。
【実施例2】
【0045】
ソフトシェルなどの樹脂部材の表面にパルスレーザを離散的に照射して樹脂部材の表面に微小な凹凸を形成して樹脂部材の表面の摩擦抵抗を部分的に変えることの応用例として、実施例2においては、
図6に示すように、車両用シート200のシートクッション110の側面111に設置したボタン状のスイッチ112の周辺部分に設けた場合について説明する。
【0046】
図6に示した構成において、シートクッション110とシートバック120を備えた構成については実施例1で説明した車両用シート100の構成と同じである。
【0047】
車両用シート200においては、シートクッション110の側面に、シートクッション110の高さを調整したり、シートバック120の傾きを調整するためのスイッチ112が備えられている場合がある。
【0048】
このスイッチ112は、シートクッション110の側面111に設置されているために、搭乗者は、シートクッション110の側面に手を差し込んで、手探りでスイッチ112の位置を探さなければならなかった。
【0049】
これに対して、本実施例においては、スイッチ112を囲む周辺の領域(以下、単に領域と記す)113に,実施例1で説明した微小な凹凸1431に相当する凹凸を加工して、その周辺の領域と比べて摩擦抵抗が大きくなるようにして、ザラザラ感を出すようにした。
【0050】
領域113に形成する微小な凹凸は、その表面を手で触ったときに、微小な凹凸が形成されていない領域との違いを直ちに感じ取れる程度に、
図4で説明したような微小な凹凸1431の深さd、微小な凹凸151の開口部の径w、微小な凹凸151の間隔(ピッチ)pに相当する寸法を調整して形成する。
【0051】
このように、領域113を加工したことにより、シートクッション110に着座した搭乗者が手探りでスイッチ112を探すときに、スイッチ112の周辺に摩擦抵抗が周囲よりも大きいザラザラ感がある領域113が形成されているので、スイッチ112の位置を探しやすくなり、スイッチの操作性が向上するとともに、誤操作を防止できるようになった。
【実施例3】
【0052】
ソフトシェルなどの樹脂部材の表面にパルスレーザを離散的に照射して樹脂部材の表面に微小な凹凸を形成して樹脂部材の表面の摩擦抵抗を部分的に変えることの応用例として、ヘッドレストのステーを収納する部分に適用した例を、第3の実施例として、
図7及び
図8を用いて説明する。
【0053】
本実施例においては、
図7に示すように、ヘッドレスト130の本体部分131から延びるステー132を、ヘッドレストブラケット133に挿入したうえで、図示していないシートバック120のフレームに固定されたヘッドレストサポート160に挿入してヘッドレスト130をシートバック120で支持する。
【0054】
図8には、図示していないシートバック120のフレームに固定されたヘッドレストサポート160に、ヘッドレストブラケット133が挿入されている状態の
図7におけるB-B断面矢視図を示す。本実施例においては、樹脂部材としてソフトシェルを用いた場合について説明する。
【0055】
ヘッドレストブラケット133は、円筒部分1332がヘッドレストサポート160に形成された穴121に挿入され、フランジ部分1331がヘッドレストサポート160に突き当たって止まっている。ヘッドレストブラケット133に形成された孔1330にはヘッドレスト130のステー132が挿入される。
【0056】
ヘッドレストブラケット133の円筒部分1332の外周面にはソフトシェルで形成された膜135が形成されている。
【0057】
図8において円筒部分1332の一部の丸で囲んだ部分を拡大して示したように、ヘッドレストブラケット133の円筒部分1332の内周面にはソフトシェルで形成された膜134の表面は平坦で、孔1330に挿入されるヘッドレスト130のステー132との摩擦抵抗が小さくなるように形成されている。
【0058】
一方、ヘッドレストサポート160に形成された穴121に接する円筒部分1332の外周面にはソフトシェルで形成された膜135の表面には、実施例1で説明したレーザ加工により微小な凹凸1351が形成されている。
【0059】
円筒部分1332の外周面に形成されたソフトシェルで形成された膜135の表面の外径は、ヘッドレストサポート160に形成された穴121の内径よりも少し大きく形成されている。そのため、ヘッドレストブラケット133の円筒部分1332をヘッドレストサポート160に形成された穴121に挿入するときには、ソフトシェルで形成された膜135の表面の外径が穴121の内径よりも少し大きい分だけ抵抗を受けるが、ソフトシェルで形成された膜135の表面に形成した微小な凹凸1351が変形することにより、円筒部分1332を穴121に挿入することができる。この、微小な凹凸1351の変形量が大きくなるほど、ソフトシェルで形成された膜135と穴121との間の摩擦係数が大きくなる。
【0060】
一方、ヘッドレストブラケット133の円筒部分1332がヘッドレストサポート160に形成された穴121に挿入した状態で、ヘッドレストブラケット133の円筒部分1332をヘッドレストサポート160に形成された穴121から引き抜こうとすると、円筒部分1332を穴121に挿入した時と同程度の力が必要になる。
【0061】
ここで、ヘッドレスト130を持ち上げてステー132をヘッドレストブラケット133の孔1330から引き抜こうとすると、ステー132とヘッドレストブラケット133の孔1330の内周面に形成されたソフトシェルで形成された膜134の表面1341との間の摩擦抵抗によりヘッドレストブラケット133を上方に引き上げるような力が発生する。
【0062】
しかし、円筒部分1332におけるソフトシェルで形成された膜134の表面1341の内径はステー132の外径よりも大きく、また、ソフトシェルで形成された膜134の表面1341は平坦に形成されているので、ステー132とソフトシェルで形成された膜134の表面1341との間の摩擦係数は、ヘッドレストブラケット133の円筒部分1332の外周の表面に微小な凹凸1351が形成されたソフトシェルで形成された膜135とヘッドレストサポート160に形成された穴121との間の摩擦係数よりも小さい。
【0063】
これにより、ヘッドレスト130を持ち上げてステー132をヘッドレストブラケット133の孔1330から引き抜くときにステー132が孔1330の内面に接触して発生する摩擦力は、ヘッドレストブラケット133の円筒部分1332をヘッドレストサポート160に形成された穴121に対して上方に引き上げるのに必要な力に及ばず、ヘッドレストブラケット133の円筒部分1332は、ヘッドレストサポート160に形成された穴121の中に固定された状態が維持される。
【0064】
また、ヘッドレストブラケット133の円筒部分1332の外周面のソフトシェルで形成された膜135の表面の微小な凹凸1351について、
図4で説明したような、微小な凹凸1431の深さd、微小な凹凸1431の開口部の径w、微小な凹凸1431の間隔(ピッチ)pに相当する寸法を調整して形成することにより、ヘッドレストブラケット133の円筒部分1332をヘッドレストサポート160に形成された穴121から容易に抜けることなく、確実に固定することができる。
【0065】
なお、ソフトシェルで形成された膜135の表面の微小な凹凸1351は、ヘッドレストブラケット133の円筒部分1332の外周面の全面に渡って形成してもよく、部分的に形成してもよい。
【0066】
本実施例によれば、ヘッドレストサポートが、ヘッドレストサポートを支持する部材(ヘッドレストブラケット)に対して抜けにくい構成を有するヘッドレストを備えた車両用シートを提供することができる。
【0067】
また、本実施例によれば、ヘッドレストブラケット133の円筒部分1332をヘッドレストサポート160に形成された穴121に挿入した状態で、ヘッドレストブラケット133の円筒部分1332の外周面のソフトシェルで形成された膜135の表面の微小な凹凸1351を変形させて、微小な凹凸1351と穴121との間の摩擦係数を大きくすることにより、ヘッドレストブラケット133の円筒部分1332をヘッドレストサポート160に形成された穴121で確実に保持することができる。
【0068】
これにより、ヘッドレストブラケット133がヘッドレストサポート160から抜けやすくなるという不具合の発生を防止することができる。
【実施例4】
【0069】
ソフトシェルなどの樹脂部材の表面にパルスレーザを離散的に照射して樹脂部材の表面に微小な凹凸を形成して樹脂部材の表面の摩擦抵抗を部分的に変えることの応用例として、シートバックの裏面に取り付けたテーブルやフック部に適用した例を、第4の実施例として、
図9乃至11を用いて説明する。
【0070】
図9は、車両用シート400を後方から見た斜視図である。シートバック120の裏面側に、テーブル410が取り付けられている。テーブル410は、シートバック120の裏面側に対して図示指令内ヒンジの周りに回動自在で折り畳み可能に取り付けられており、使用しないときには、シートバック120の側に形成されて収納部420に折り畳んで収納することができる。
図9は、テーブル410を収納部420から回動させて、使用可能な状態を示している。
【0071】
また、シートバック120の裏面側には、袋などを吊り下げるためのフック部430が形成されている。
【0072】
図10に、
図9におけるテーブル410のC-C断面の一部を示す。411はテーブル本体で、412は、テーブル本体411の表面を覆うソフトシェルなどの樹脂部材で形成された表面カバーである。
【0073】
表面カバー412に表面には、微小な凹凸413が形成されている。この微小な凹凸413は、実施例1において
図4を用いて説明したように、レーザ光源210から発射したレーザ(パルスレーザ)211を表面カバー412に離散的に照射して形成する。
【0074】
このように、表面カバー412に表面に微小な凹凸413を形成することにより、表面カバー412に表面に微小な凹凸413を形成せずに平坦な面とした場合と比べて表面の摩擦係数が大きくなる。これにより、車両が走行中に振動した場合に、テーブル410に乗せた物品がテーブル410上で動きにくくなり、テーブル410から落下する危険性を低減することができる。
【0075】
また、表面カバー412の表面に微小な凹凸413を形成したことにより、微小な凹凸413を形成しない場合と比べてテーブル410に触った場合の手のべたつき感を低減することができ、触手時の感触を向上させることができる。
【0076】
ソフトシェルなどの樹脂部材で形成した表面カバー412の表面の微小な凹凸413について、
図4で説明したような、微小な凹凸1431の深さd、微小な凹凸1431の開口部の径w、微小な凹凸1431の間隔(ピッチ)pに相当する寸法を調整して形成することにより、表面カバー412の表面の摩擦係数を調整することができる。
【0077】
なお、表面カバー412はテーブル本体411の全体を覆うようにして形成してもよく、一部分だけを覆うように形成してもよい。また、微小な凹凸413は、表面カバー412の全面に形成してもよく、一部分だけに形成してもよい。さらに、
図4で説明したような、微小な凹凸1431の深さd、微小な凹凸1431の開口部の径w、微小な凹凸1431の間隔(ピッチ)pに相当する微小な凹凸413の寸法を、表面カバー412上の位置に応じて変えて形成してもよい。
【0078】
図11には、フック部430の側面図を示す。フック部430はシートバック120に固定されており、引掛け部431の内側の表面に、ソフトシェルなどの樹脂部材で形成された表皮432が形成されている。
【0079】
この表皮432の表面は、
図10で説明した微小な凹凸413に相当する図示していない微小な凹凸が形成されていて、微小な凹凸が形成されていない場合と比べて、摩擦係数が比較的大きくなっている。
【0080】
このように、引掛け部431の内側の表面にソフトシェルなどの樹脂部材で形成された表皮432を形成してその表面に微小な凹凸を形成することにより、フック部430に吊り下げた袋などの荷物が、車両が走行中に振動した場合にフック部430から容易に落下してしまうのを防止することができる。
【0081】
本実施例によれば、テーブルの表面やフック部の内側の面に微小な凹凸を形成して滑りにくくしたことにより、車両が走行中に振動することによりテーブルに乗せていた物品がテーブル上を滑って床に落下したり、フック部に引掛けた袋などがフック部から外れて落下してしまう危険性を低減することができる。
【0082】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0083】
100、200、300 車両用シート
110 シートクッション
120 シートバック
130 ヘッドレスト
132 ステー
133 ヘッドレストブラケット
134、135 ソフトシェルなどの樹脂部材で形成された膜
140,340 アームレスト
141,341 カップホルダ
160 ヘッドレストサポート
210 レーザ光源
1351、1431,1441、413 微小な凹凸
400 後部座席
410 テーブル
430 フック部