(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】トラス架構
(51)【国際特許分類】
E04C 3/04 20060101AFI20240610BHJP
E04C 3/12 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
E04C3/04
E04C3/12
(21)【出願番号】P 2020083775
(22)【出願日】2020-05-12
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】木原 智美
(72)【発明者】
【氏名】田中 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】山本 俊司
(72)【発明者】
【氏名】田中 里奈
(72)【発明者】
【氏名】和多田 遼
(72)【発明者】
【氏名】田中 壱成
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-505744(JP,A)
【文献】特開平10-131395(JP,A)
【文献】実開昭53-125224(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2007/0107365(US,A1)
【文献】特開2021-014764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 3/00-3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上弦材又は下弦材の一端側から他端側に向かって複数の三角形が並ぶように上弦材及び下弦材が複数の連結材で連結され
、下弦材の一部を底辺とする上向きの三角形どうしで底辺の長さが一様でないブリッジを有
し、
下弦材の一部を底辺とする上向きの三角形どうしで、ブリッジの中央側の三角形の底辺よりも両端側の三角形の底辺が短く、ブリッジの中央側に底辺が相互に同一の三角形が複数設けられるとともに、ブリッジの両端側のそれぞれに底辺が相互に同一の三角形が複数設けられ、
ブリッジは連結材として束材がなく斜材のみを含むトラス架構。
【請求項2】
ブリッジは、その長手方向において、中央でせん断力が小、ブリッジの両端側でせん断力が大となるせん断力分布を有する請求項1に記載のトラス架構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄骨造や木造のトラス架構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラチス梁等のロングスパンのトラス架構(
図3(A)参照)として、上弦材1又は下弦材2の一端側から他端側に向かって複数の三角形(少なくとも上弦材1又は下弦材2の一部を1辺とする三角形)が並ぶように上弦材1及び下弦材2が複数の連結材3で連結されたブリッジ4を有するものがある。斯かるトラス架構において、ブリッジ4の中央から支点のある端部に近づくにつれてせん断力が大きくなる分布(
図3(B)参照)をとる場合、ブリッジ4の端部に近い連結材3ほど負担する軸力が大きくなるため、この負担を考慮して連結材3の断面を設計する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、一般に、
図3(C)のようにブリッジ4端部の連結材3の断面のみを大きくするといったことは行われず、意匠性や製作性の観点からブリッジ4の各三角形の形状と連結材3の断面とは画一化され(
図3(A)参照)、この際、最も負担する軸力が大きいブリッジ4の端部の連結材3に必要とされる断面が他の連結材3にも適用され、それだけ連結材3に使用する材料のトータル量が増加することになる。
【0004】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、連結材に使用する材料のトータル量を抑えることが容易なトラス架構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係るトラス架構は、上弦材又は下弦材の一端側から他端側に向かって複数の三角形が並ぶように上弦材及び下弦材が複数の連結材で連結され、下弦材の一部を底辺とする上向きの三角形どうしで底辺の長さが一様でないブリッジを有し、下弦材の一部を底辺とする上向きの三角形どうしで、ブリッジの中央側の三角形の底辺よりも両端側の三角形の底辺が短く、ブリッジの中央側に底辺が相互に同一の三角形が複数設けられるとともに、ブリッジの両端側のそれぞれに底辺が相互に同一の三角形が複数設けられ、ブリッジは連結材として束材がなく斜材のみを含む(請求項1)。
【0006】
上記トラス架構において、ブリッジは、その長手方向において、中央でせん断力が小、ブリッジの両端側でせん断力が大となるせん断力分布を有していてもよい(請求項2)。
【0007】
【発明の効果】
【0008】
本願発明では、連結材に使用する材料のトータル量を抑えることが容易なトラス架構が得られる。
【0009】
すなわち、本願の各請求項に係る発明のトラス架構では、連結材等によって形成する複数の三角形の画一化及び各連結材の断面の画一化を図る従来のトラス架構(
図3(A)参照)に比べ、連結材等によって形成する複数の三角形の画一化を図らないことにより、各連結材の断面の画一化を図る場合はもちろん、図らない場合にも、連結材に使用する材料のトータル量を抑えることが容易となる。
【0010】
請求項1に係る発明のトラス架構は、ブリッジの中央でせん断力が小、ブリッジの両端側(支点周辺)でせん断力が大となる一般的な平行弦トラス(ラチス梁)等に用いて好適である。
【0011】
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るトラス架構の構成を概略的に示す説明図である。
【
図2】前記トラス架構の要部の構成を概略的に示す説明図である。
【
図3】(A)は従来のトラス架構の構成を示す説明図、(B)は(A)に示す従来のトラス架構に設計荷重(等荷重)が掛かったときに生ずるせん断力分布を示す説明図、(C)はブリッジの端部付近の連結材の断面を大きくした仮想のトラス架構を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら以下に説明する。
【0014】
本実施の形態に係るトラス架構は、
図1及び
図2に示すように、上弦材1又は下弦材2の一端側から他端側に向かって複数の三角形が並ぶように上弦材1及び下弦材2が複数の連結材3で連結され、平行弦トラスを構成するブリッジ(トラス枠体)4を有する。本例のトラス架構は、その両端が柱等の支持部材(支点)によって支持されているロングスパン(例えば形成される三角形が五つ以上)のトラス架構である。
【0015】
そして、本例では、上弦材1の一部を底辺5とする下向きの三角形6どうし又は下弦材2の一部を底辺7とする上向きの三角形8どうしで底辺5、7の長さが一様でないようにしてある。なお、図示例では、下向きの三角形6どうしにおいても、上向きの三角形8どうしにおいても、底辺5,7の長さが一様ではない。
【0016】
斯かる本例のトラス架構では、連結材3等によって形成する複数の三角形の画一化及び各連結材3の断面の画一化を図る従来のトラス架構(
図3(A)参照)に比べ、連結材3等によって形成する複数の三角形の画一化を図らないことにより、各連結材3の断面の画一化を図る場合はもちろん、図らない場合にも、連結材3に使用する材料のトータル量を抑えることが容易となる。
【0017】
また、本例のトラス架構では、
図2に示すように、下向きの三角形6どうし又は上向きの三角形8どうしで、ブリッジ4の中央側の三角形6,8の底辺5,7よりも両端側の三角形6,8の底辺5,7が短くなるようにしてある。
【0018】
なお、本例では、下向きの三角形6どうしにおいても、上向きの三角形8どうしにおいても、ブリッジ4の中央側の三角形6,8の底辺5,7よりも両端側の三角形6,8の底辺5,7が短くなるようにしてある。すなわち、
図2において、ブリッジ4の中央側の三角形6の底辺5の長さL5Cよりも、ブリッジ4の両端側の三角形6の底辺5の長さL5Sは短く、また、ブリッジ4の中央側の三角形8の底辺7の長さL7Cよりも、ブリッジ4の両端側の三角形8の底辺7の長さL7Sは短い。
【0019】
斯かる本例のトラス架構は、例えば、ブリッジ4の中央でせん断力が小、ブリッジ4の両端側(支点周辺)でせん断力が大となる一般的な平行弦トラス(ラチス梁)等に用いて好適となる。なぜなら、せん断力が小となるブリッジ4の中央側よりもせん断力が大となる両端側において連結材3が高密度に配され、各連結材3が負担する軸力Nのばらつきを抑制するのが容易となるからである。
【0020】
換言すれば、本例のトラス架構では、ブリッジ4の長手方向におけるせん断力分布(例えばブリッジ4を一つの梁(単純梁)とみなした場合に考えられるせん断力分布であり、等荷重分布ではない)に応じて三角形6,8の底辺5,7の長さを異ならせてあり、具体的には、せん断力分布に応じ、相対的にせん断力が小となる領域(相対的に支点から遠い領域であり、本例ではブリッジ4の中央側)では三角形6,8の底辺5,7を相対的に長く(連結材3の勾配θを小さく)し、せん断力が大となる領域(相対的に支点に近い領域であり、本例ではブリッジ4の両端側)では三角形6,8の底辺5,7を相対的に短く(連結材3の勾配θを大きく)してある。
【0021】
ここで、せん断力Qと連結材3に生じる軸力Nと勾配θ(各三角形6,8において底辺5,7と連結材3とのなす角度)との間にはQ=N×sinθの関係があるので、同じ値のせん断力Qに対して、連結材3の勾配θが大きくなるほど、連結材3に生じる軸力Nを低減することができる。そのため、ブリッジ4が一般的な平行弦トラスの場合、連結材3の勾配θを、ブリッジ4両端側のせん断力が相対的に大きい領域では鉛直に近づけ、ブリッジ4中央側のせん断力が相対的に小さい領域では水平に近づけることで、連結材3に生じる軸力Nのばらつきを抑制し、連結材3の断面の均一化を図りつつ最小限に抑えて、使用する材料のトータル量の低減を図ることが可能となる。
【0022】
また、
図1の例では、底辺5,7の長さをブリッジ4の中央側と両端側との二段階でのみ異ならせてあるが、三段階以上に異ならせてもよい。例えば、せん断力がブリッジ4の両端から中央に向かって大中小の三段階に分けられる場合には、ブリッジ4の両端から中央に向かって、底辺5,7が長い領域と、中間の領域と、短い領域との三種類に区分することが考えられる。
【0023】
なお、この場合、勾配θは、例えば、連結材3の数量を評価条件、応力度・変形・振動数を制約条件とした遺伝的アルゴリズムを用いて最適化した解とすることが考えられる。
【0024】
斯かる本例のトラス架構では、せん断力分布に応じた合理的な構造を実現するのが容易となる。また、ロングスパンのブリッジ4の連結材3断面を画一化し、ブリッジ4に統一感を持たせつつ製作性に優れた架構とすることも容易となる。
【0025】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。
【0026】
本発明のトラス架構は、例えば、鉄骨造(鉄骨トラス)や木造(木造トラス)等のトラス架構に適用可能である。
【0027】
図1及び
図2には、ブリッジ4が、連結材3として束材(垂直材)がなく斜材のみを含むワーレントラスの場合を示してあるが、本発明は、連結材3として束材及び斜材を含むワーレントラス、ハウトラス、プラットトラス等、他のトラス構造にも適用可能である。
【0028】
また、
図1及び
図2には、上弦材1と下弦材2とが平行に延びる平行弦トラスを示してあるが、本発明は、上弦材1が山なりに延びる山形トラス(例えばキングポストトラスや曲弦プラットトラス)等、上下二本の弦材1,2が平行でない他のトラス構造にも適用可能である。
【0029】
また、
図1及び
図2には、平面トラスを示してあるが、本発明は、立体トラスにも適用可能である。
【0030】
なお、上記変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0031】
1 上弦材
2 下弦材
3 連結材
4 ブリッジ
5 底辺
6 下向きの三角形
7 底辺
8 上向きの三角形
L5C 中央側の下向きの三角形の底辺の長さ
L5S 両端側の下向きの三角形の底辺の長さ
L7C 中央側の上向きの三角形の底辺の長さ
L7S 両端側の上向きの三角形の底辺の長さ
N 軸力
Q せん断力
θ 勾配