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特許7500276電極材料、電極、二次電池、電池パック、及び車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】電極材料、電極、二次電池、電池パック、及び車両
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20240610BHJP
【FI】
H01M4/485
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020093105
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021190250
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 康宏
(72)【発明者】
【氏名】吉間 一臣
(72)【発明者】
【氏名】高見 則雄
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-169343(JP,A)
【文献】特開2019-169350(JP,A)
【文献】特開2018-049705(JP,A)
【文献】特開2019-169348(JP,A)
【文献】特開2012-099287(JP,A)
【文献】特開2015-111550(JP,A)
【文献】特開2014-209445(JP,A)
【文献】特開2019-169399(JP,A)
【文献】特開2017-059307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/48-4/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンに対するニオブのモル比(MNb/MTi)が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物と、
カリウム、鉄及びリンからなる群より選択される少なくとも1種の元素Aと、
を含む活物質粒子を具備し、
前記活物質粒子に、前記元素Aが100ppm~2000ppmの範囲内の濃度で固溶し、
前記活物質粒子の粒子界面において、前記元素Aの濃度が高い電極材料。
【請求項2】
前記ニオブチタン複合酸化物は、チタンに対するニオブのモル比(MNb/MTi)が2より大きい組成を有するNb2TiO7相、Nb10Ti229相、Nb14TiO37相及びNb24TiO62相からなる群より選択される少なくとも1種の結晶相からなる請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
前記ニオブチタン複合酸化物は、チタンに対するニオブのモル比(MNb/MTi)が2より大きい組成を有するNb2TiO7相を含み、
前記ニオブチタン複合酸化物に対する、Cu-Kα線源を用いた粉末X線回折により得られる回折図は、2θ=44°±1.0°の範囲内に、高角側ピークPHと低角側ピークPLとを有しており、
前記低角側ピークPLのピーク強度ILに対する、前記高角側ピークPHのピーク強度IHの比(IH/IL)は1未満である請求項1に記載の電極材料。
【請求項4】
前記ニオブチタン複合酸化物は、Nb10Ti229相、Nb14TiO37相及びNb24TiO62相からなる群より選択される少なくとも1種の結晶相を含み、
前記ニオブチタン複合酸化物に対する、Cu-Kα線源を用いた粉末X線回折により得られる回折図は、2θ=44°±1.0°の範囲内に、高角側ピークPHと低角側ピークPLとを有しており、
前記低角側ピークPLのピーク強度ILに対する、前記高角側ピークPHのピーク強度IHの比(IH/IL)は1.5未満である請求項1に記載の電極材料。
【請求項5】
前記ニオブチタン複合酸化物の結晶子径は、95nm~130nmの範囲内にある請求項1~4の何れか1項に記載の電極材料。
【請求項6】
前記活物質粒子について、レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、D10は0.3μm~2.0μmの範囲内にある請求項1~5の何れか1項に記載の電極材料。
【請求項7】
前記活物質粒子について、レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、D90は5μm~30μmの範囲内にある請求項1~6の何れか1項に記載の電極材料。
【請求項8】
前記活物質粒子について、レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、D50に対するD10の比(D10/D50)が0.10~0.60の範囲内にあり、且つ、D90に対するD50の比(D50/D90)が0.20~0.50の範囲内にある請求項1~7の何れか1項に記載の電極材料。
【請求項9】
前記ニオブチタン複合酸化物は、一般式Nb2M2zTi1-z7、一般式Nb10-xM1xTi2-yM2y29、一般式Nb14-xM1xTi1-yM2y37、及び、一般式Nb24-xM1xTi1-yM2y62からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含み、
前記M1はTa、Ti、V、Mo及びWからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、前記M2は、Nb、Ta、Zr、Hf及びSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、前記xは0≦x≦5を満たし、前記yは0≦y<1.0を満たし、前記zは0<z<1を満たす請求項1~8の何れか1項に記載の電極材料。
【請求項10】
請求項1~9の何れか1項に記載の電極材料を含む電極。
【請求項11】
前記電極は、前記電極材料を含む活物質含有層を含む請求項10に記載の電極。
【請求項12】
正極と、
負極と、
電解質とを具備する二次電池であって、
前記負極は、請求項10又は11に記載の電極である二次電池。
【請求項13】
請求項12に記載の二次電池を具備する電池パック。
【請求項14】
通電用の外部端子と、
保護回路とを更に含む請求項13に記載の電池パック。
【請求項15】
複数の前記二次電池を具備し、前記二次電池が直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている請求項13又は14に記載の電池パック。
【請求項16】
請求項13~15の何れか1項に記載の電池パックを搭載した車両。
【請求項17】
前記車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含む請求項16に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電極材料、電極、二次電池、電池パック、及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高エネルギー密度電池として、リチウムイオン二次電池のような非水電解質二次電池などの二次電池の研究開発が盛んに進められている。非水電解質二次電池などの二次電池は、ハイブリッド電気自動車や電気自動車等の車両用、携帯電話基地局の無停電電源用などの電源として期待されている。また、自立走行型の産業用ロボットやドローンなど、移動体サービス向けの電源需要も急増しているため、二次電池は、高エネルギー密度に加えて、急速充放電性能、長期信頼性のような他の性能にも優れていることも要求されている。例えば、急速充放電が可能な二次電池は、充電時間が大幅に短縮されるだけでなく、動力の回生エネルギーの効率的な回収も可能になるため、実質的に車両やデバイスの1日あたりの稼働時間を大幅に伸ばすことができる。
【0003】
急速充放電を可能にするためには、電子及びリチウムイオンが正極と負極との間を速やかに移動できることが必要である。しかしながら、カーボン系負極を用いた電池は、急速充放電を繰り返すと、電極上に金属リチウムのデンドライト析出が生じ、内部短絡による発熱や発火の虞があった。
【0004】
そこで、カーボン系活物質の代わりに金属複合酸化物を負極に用いた電池が開発された。中でも、チタン酸化物を負極に用いた電池は、安定的な急速充放電が可能であり、カーボン系負極を用いた場合に比べて寿命も長いという特性を有する。
【0005】
しかしながら、チタン酸化物は炭素質物に比べて金属リチウムに対する電位が高い、すなわち貴である。その上、チタン酸化物は、重量あたりの容量が低い。このため、チタン酸化物を負極に用いた電池は、エネルギー密度が低いという問題がある。
【0006】
例えば、チタン酸化物の電極電位は、金属リチウム基準で約1.5V(vs.Li/Li)であり、カーボン系負極の電位に比べて高い(貴である)。チタン酸化物の電位は、リチウムを電気化学的に挿入脱離する際のTi3+とTi4+の間での酸化還元反応に起因するものであるため、電気化学的に制約されている。また、1.5V(vs.Li/Li)程度の高い電極電位においてリチウムイオンの急速充放電が安定的に行えるという事実もある。従って、エネルギー密度を向上させるために電極電位を低下させることは従来困難であった。
【0007】
一方、単位重量あたりの容量については、二酸化チタン(アナターゼ構造)の理論容量は165mAh/g程度であり、Li4Ti512のようなスピネル型リチウムチタン複合酸化物の理論容量も180mAh/g程度である。一方、一般的な黒鉛系電極材料の理論容量は385mAh/g以上である。このように、チタン酸化物の容量密度はカーボン系負極のものと比較して著しく低い。これは、チタン酸化物の結晶構造中に、リチウムを吸蔵するサイトが少ないことや、構造中でリチウムが安定化し易いため、実質的な容量が低下することによるものである。
【0008】
以上に鑑みて、Ti及びNbを含む新たな電極材料が検討されている。このようなニオブチタン複合酸化物材料は、高い充放電容量を有すると期待されている。特に、TiNb27で表される複合酸化物は380mAh/gを超える高い理論容量を有する。それ故、ニオブチタン複合酸化物は、Li4Ti512に代わる高容量材料として期待されているが、急速充電時及び充放電サイクル時に、リチウムイオンが結晶構造中に脱挿入されることで結晶構造の骨格が大きく変化するため、寿命特性が低いという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-168352号公報
【文献】米国特許出願公開第2012/0052401号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】M.Gasperin, Journal of Solid State Chemistry 53, pp144-147 (1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
優れた急速充放電特性及びサイクル寿命特性を示すことができる二次電池を実現することができる電極材料、この電極材料を含む電極、この電極を具備する二次電池、この二次電池を具備する電池パック、及び、この電池パックが搭載されている車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態によると、電極材料が提供される。電極材料は、チタンに対するニオブのモル比(MNb/MTi)が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物と、カリウム、鉄及びリンからなる群より選択される少なくとも1種の元素Aとを含む活物質粒子を具備する。活物質粒子に、元素Aが100ppm~2000ppmの範囲内の濃度で固溶する。活物質粒子の粒子界面において、元素Aの濃度が高い。
【0013】
他の実施形態によると、実施形態に係る電極材料を含む電極が提供される。
【0014】
他の実施形態によると、正極と負極と電解質とを具備する二次電池が提供される。負極は、実施形態に係る電極である。
【0015】
他の実施形態によると、実施形態に係る二次電池を具備する電池パックが提供される。
【0016】
他の実施形態によると、実施形態に係る電池パックを具備する車両が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】単斜晶型Nb2TiO7の結晶構造を示す模式図。
図2図1の結晶構造を他の方向から観察した場合を示す模式図。
図3】実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図。
図4図3に示す二次電池のA部を拡大した断面図。
図5】実施形態に係る二次電池の他の例を模式的に示す部分切欠斜視図。
図6図5に示す二次電池のB部を拡大した断面図。
図7】実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図。
図8】実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図。
図9図8に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図。
図10】実施形態に係る車両の一例を概略的に示す断面図。
図11】実施形態に係る車両の他の例を概略的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0019】
(第1の実施形態)
第1の実施形態によると、電極材料が提供される。電極材料は、チタンに対するニオブのモル比(MNb/MTi)が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物と、カリウム、鉄及びリンからなる群より選択される少なくとも1種の元素Aとを含む活物質粒子を具備する。活物質粒子は、元素Aを100ppm~2000ppmの範囲内の濃度で含有する。
【0020】
チタンに対するニオブのモル比(MNb/MTi)が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物の一例として、Nb10Ti229相、Nb14TiO37相及びNb24TiO62相を有するニオブチタン複合酸化物を挙げることができる。本願明細書及び特許請求の範囲において、「MNb」はニオブチタン複合酸化物が含むニオブ原子の物質量(モル数)を示し、「MTi」はニオブチタン複合酸化物が含むチタン原子の物質量(モル数)を示す。これら結晶相は、例えば、単斜晶型の結晶構造を有する。Nb10Ti229相は、直方晶型の結晶構造も取りうる。
【0021】
モル比(MNb/MTi)が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物が含む結晶相の他の例として、モル比(MNb/MTi)が2より大きい組成を有するNb2TiO7相を挙げることができる。モル比(MNb/MTi)が2より大きい組成を有するNb2TiO7相では、Nb2TiO7相中のチタンの一部がニオブで元素置換されている。モル比(MNb/MTi)が2より大きい組成を有するNb2TiO7相は、例えば単斜晶型の結晶構造を有する。なお、本願明細書においては、「チタンに対するニオブのモル比(MNb/MTi)」を「Nb/Ti比」と記載することがある。
【0022】
Nb2TiO7相とは、Nb2TiO7の結晶構造に帰属される結晶相を意味する。Nb10Ti229相とは、Nb10Ti229の結晶構造に帰属される結晶相を意味する。Nb14TiO37相とは、Nb14TiO37の結晶構造に帰属される結晶相を意味する。Nb24TiO62相とは、Nb24TiO62の結晶構造に帰属される結晶相を意味する。
【0023】
Nb/Ti比が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物の結晶を構成する基本骨格は、Nb/Ti比が2より大きい組成を有するNb2TiO7相、Nb10Ti229相、Nb14TiO37相及びNb24TiO62相からなる群より選択される少なくとも1種でありうる。言い換えると、Nb/Ti比が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物は、Nb/Ti比が2より大きい組成を有するNb2TiO7相、Nb10Ti229相、Nb14TiO37相及びNb24TiO62相からなる群より選択される少なくとも1種の結晶相からなる。Nb/Ti比が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物は、これら4種の結晶相のうちの2種以上の結晶相から構成されていてもよい。つまり、Nb/Ti比が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物は、Nb/Ti比が2より大きい組成を有する結晶相を2種以上含む混相を具備していてもよい。
【0024】
実施形態に係る電極材料は、チタンに対するニオブのモル比(MNb/MTi)が2であるニオブチタン複合酸化物を別途含んでいてもよい。
【0025】
Nb/Ti比が2より大きい組成を有するNb2TiO7相、Nb10Ti229相、Nb14TiO37相及びNb24TiO62相は、これらが単斜晶型の結晶構造を有する場合、いずれも単斜晶型Nb2TiO7の結晶構造と類似の構造を有している。
【0026】
図1及び図2には、単斜晶型Nb2TiO7の骨格構造を示している。図1は、単斜晶型Nb2TiO7の結晶構造を示す模式図である。図2は、図1の結晶構造を他の方向から観察した場合を示す模式図である。単斜晶型Nb2TiO7とは、チタンに対するニオブのモル比(MNb/MTi)が2であるニオブチタン複合酸化物である。
【0027】
図1に示すように、単斜晶型ニオブチタン複合酸化物Nb2TiO7の結晶構造は、金属イオン101と酸化物イオン102とが骨格構造部分103を構成している。金属イオン101の位置には、NbイオンとTiイオンとがNb:Ti=2:1の比でランダムに配置されている。この骨格構造部分103が三次元的に交互に配置されることで、骨格構造部分103同士の間に空隙部分104が存在する。この空隙部分104が、リチウムイオンのホストとなる。この空隙部分104は、図1に示すように、結晶構造全体に対して大きな部分を占めることができる。加えて、この空隙部分104は、リチウムイオンが挿入されても安定的に構造を保つことができる。
【0028】
図1において、領域105及び領域106は、[100]方向と[010]方向とに2次元的なチャネルを有する部分である。それぞれ図2に示すように、単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の結晶構造には、[001]方向に空隙部分107が存在する。この空隙部分107は、リチウムイオンの導電に有利なトンネル構造を有しており、領域105と領域106とを繋ぐ[001]方向の導電経路となる。この導電経路が存在することによって、リチウムイオンは領域105と領域106とを行き来することが可能となる。
【0029】
このように、単斜晶型ニオブチタン複合酸化物Nb2TiO7の結晶構造は、リチウムイオンの等価的な挿入空間が大きく且つ構造的に安定であり、さらに、リチウムイオンの拡散が速い2次元的なチャネルを有する領域とそれらを繋ぐ[001]方向の導電経路が存在する。それにより、単斜晶型ニオブチタン複合酸化物Nb2TiO7の結晶構造では、挿入空間へのリチウムイオンの挿入脱離性が向上すると共に、リチウムイオンの挿入脱離空間が実効的に増加する。これにより、高い容量と高いレート性能とを提供することが可能である。
【0030】
さらに、上記の結晶構造は、リチウムイオンが空隙部分104に挿入されたとき、骨格103を構成する金属イオン101が3価に還元され、これによって結晶の電気的中性が保たれる。単斜晶型ニオブチタン複合酸化物は、Tiイオンが4価から3価へ還元されるだけでなく、Nbイオンが5価から3価へと還元される。即ち、活物質重量あたりの還元価数が大きい。それ故、多くのリチウムイオンが挿入されても結晶の電気的中性を保つことが可能である。このため、単斜晶型ニオブチタン複合酸化物は、4価カチオンだけを含む酸化チタンのような化合物に比べて、エネルギー密度が高い。具体的には、単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の理論容量は387mAh/g程度であり、これはスピネル構造を有するチタン酸化物の2倍以上の値である。
【0031】
また、ニオブチタン複合酸化物は、1.5V(対Li/Li+)程度のリチウム吸蔵電位を有する。それ故、単斜晶型ニオブチタン複合酸化物を含む電極材料を用いることにより、安定した繰り返し急速充放電が可能な電池を提供することが可能である。
【0032】
更に、Nb/Ti比が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物は、以下に説明する理由で優れた急速充放電特性及びサイクル寿命特性を示すことができる二次電池を実現できる。
【0033】
Nb/Ti比が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物は、Nb/Ti比が2であるNb2TiO7相と比較してNb量が多い。それ故、Nb/Ti比が2より大きい組成を有する結晶相には、骨格を構成するNbと酸素との結合(Nb-O)がより多く存在する。5価のカチオンであるNbと酸素との結合(Nb-O)間の結合力は、4価のカチオンであるTiと酸素との結合(Ti-O)間の結合力に比べて強い。従って、Nb/Ti比が2より大きい組成を有する結晶相は、Nb/Ti比が2であるNb2TiO7と比較して、リチウムイオンが挿入された場合にも結晶の骨格構造をより安定的に保つことができる。即ち、Nb/Ti比が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物は、急速充放電及び繰り返し充放電における寿命性能に優れる。
【0034】
また、直方晶型のNb10Ti229相、及び、元素置換に起因してNb/Ti比が2より大きい組成を有するNb2TiO7相においても、Nb-O間の結合力は、Ti-O間の結合力に比べて強いため、同様の効果が得られる。
【0035】
一方で、Nb/Ti比が2より大きい組成を有する結晶相を含むニオブチタン複合酸化物は、粒子の焼結が進みやすいため、粉砕が困難になる傾向がある。工業的に合成する際には、この傾向が現れやすい。粉砕が困難になるのは、Nb-O間の結合力が強いために、硬度が高く硬い粒子になりやすいためと考えられる。更に、結晶構造中のニオブ又はチタンが、ニオブ、チタン及びタンタル以外の異種元素で置換された場合も焼結が進みやすくなる。ここで、異種元素にはカリウム、鉄及びリンも含まれない。即ち、ここでいう異種元素とは、ニオブ、チタン、タンタル、カリウム、鉄及びリン以外の元素を指す。タンタルは、ニオブ及びチタンと非常に近い性質を持つため、タンタルによりニオブ又はチタンが置換されたとしても、当該結晶構造の性質は変化しにくいことが分かっている。従って、Nb/Ti比が2であるNb2TiO7相に比べて、Nb/Ti比が2より大きい組成を有する結晶相は、粗大で硬い粒子ができやすい。
【0036】
急速充放電性能に優れる活物質粒子を得るには、結晶性が高く、且つ、小さな粒子径である必要がある。従来、Nb/Ti比が2より大きい組成を有する結晶相を含むニオブチタン複合酸化物を粉砕する際には、上述の理由で粉砕時に強い力を加える必要があるため、結晶性が低くなって急速充放電性能が劣る問題がある。また、強い粉砕によって生じる0.2μm未満の微粉末は、充放電に寄与せず、充放電効率の低下及び寿命性能低下の一因となりうるため、充放電サイクル寿命が低くなるという問題がある。
【0037】
実施形態に係る電極材料は、Nb/Ti比が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物を含む活物質粒子が、更に、カリウム、鉄及びリンからなる群より選択される少なくとも1種の元素Aを含んでいる。元素Aは、例えば、ニオブチタン複合酸化物中に固溶した状態で存在している。そして、元素Aの濃度が100ppm~2000ppmの範囲内にあるため、Nb-O間の結合力の一部が弱められる。これは、結晶中にNb-K-O結合、Nb-Fe-O結合及びNb-P-O結合のうちの少なくとも1つが形成されるためである。Nb-K-O結合、Nb-Fe-O結合及びNb-P-O結合は、いずれも、Nb-O結合と比較して結合強度が弱い。それ故、元素Aを含まない場合と比較して、より弱い粉砕を行うのみで、ニオブチタン複合酸化物の結晶性を低めること無しに粗大粒子を小さくすることができる上、粉砕によって生じる0.2μm未満の微粉末の発生を抑えることができる。
【0038】
更に、結晶内部でNb-O間の結合力の一部が弱められることで、リチウムイオンが結晶内を拡散する際に、基本的な骨格構造を崩すことなく、結合力の弱い元素A近傍で構造変化を緩和する効果が期待できる。結果として、繰り返し充放電においても結晶構造を安定的に保てるようになるため長寿命化が期待できる。
【0039】
元素Aがカリウムである場合、ニオブチタン複合酸化物を構成する結晶は、その結晶中にNb-K-O結合を含む。この場合、カリウムがニオブと酸化物イオンとの間の結合を弱めることができるだけでなく、リチウムイオンがトラップされやすい格子中の欠損などを埋めるため、充放電性能が向上する効果がある。
【0040】
元素Aが鉄である場合、ニオブチタン複合酸化物を構成する結晶は、その結晶中にNb-Fe-O結合を含む。この場合、鉄イオンの電子軌道がニオブと酸化物イオンとの間の結合を弱めるのに効果的である上、電子伝導性を向上して電極抵抗を下げる効果がある。
【0041】
元素Aがリンである場合、ニオブチタン複合酸化物を構成する結晶は、その結晶中にNb-P-O結合を含む。この場合、リンと酸化物イオンとの共有結合性が高いため、ニオブと酸化物イオンとの間の結合を最も効果的に弱める効果がある。
【0042】
元素Aの濃度が100ppmより小さいと、Nb-O間の結合力を弱める効果が得られにくい。元素Aの濃度が2000ppmを超えると特定の結晶軸のみが成長しやすくなり、結果として粗大粒子が発生するため好ましくない。元素Aの濃度は、200ppm~1500ppmの範囲内にあるのが好ましい。なお、元素Aの濃度とは、固体に含まれる元素Aの質量[mg/kg]、例えば、活物質粒子中に含まれる元素Aの質量を表している。元素Aの濃度は、後述する誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)発光分光法により分析することができる。
【0043】
元素Aは活物質粒子中に略均等に存在していてもよいが、粒子界面における存在濃度が最も高いことが好ましい。粒子界面において元素Aの濃度が高いことにより、焼成後に、より弱い粉砕力で粗大粒子を小さくすることができる。その結果、大きな結晶子径を維持することができる。
【0044】
以上の結果、実施形態に係る電極材料は、結晶性が高く基本骨格が安定な活物質粒子を含み、微粉末の割合が低いため、優れた急速充放電特性及びサイクル寿命特性を示すことができる。実施形態に係る電極材料は、活物質粒子のみからなっていてもよい。
【0045】
以下、実施形態に係る電極材料をより詳しく説明する。
【0046】
電極材料は、活物質として、Nb/Ti比が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物を含む。
【0047】
チタンに対するニオブのモル比(Nb/Ti)が2より大きい組成を有するNb2TiO7相の組成は、例えば、一般式Nb2M2zTi1-z7で表すことができる。ここで、zは0<z<1を満たす。また、Nb/Ti比が2より大きい組成を有するNb2TiO7相にLiが挿入された場合の組成は、LidNb2M2zTi1-z7(0≦d≦5)で表すことができる。
【0048】
Nb10Ti229相の組成は、例えば、一般式Nb10-xM1xTi2-yM2y29で表すことができる。また、Nb10Ti229相にリチウムイオンが挿入された場合の組成は、LiaNb10-xM1xTi2-yM2y29(0≦a≦22)で表すことができる。
【0049】
Nb14TiO37相の組成は、例えば、一般式Nb14-xM1xTi1-yM2y37で表すことができる。また、Nb14TiO37相にリチウムイオンが挿入された場合の組成は、LibNb14-xM1xTi1-yM2y37(0≦b≦29)で表すことができる。
【0050】
Nb24TiO62相の組成は、例えば、一般式Nb24-xM1xTi1-yM2y62で表すことができる。また、Nb24TiO62相にリチウムイオンが挿入された場合の組成は、LicNb24-xM1xTi1-yM2y62(0≦c≦49)で表すことができる。
【0051】
上記一般式中、M1はTa、Ti、V、Mo及びWからなる群より選択される少なくとも1種の添加元素であり、M2は、Nb、Ta、Zr、Hf及びSnからなる群より選択される少なくとも1種の添加元素であり、xは0≦x≦5を満たし、yは0≦y<1.0を満たす。ニオブチタン複合酸化物がTaを含んでいる場合、ニオブチタン複合酸化物を構成する結晶は、その結晶中にNb-Ta-O結合を含み得る。この場合、結晶構造中にリチウムが挿入される際に、ニオブが優先的に酸化還元されるが、タンタルは酸化物イオンとの結合を維持することから結晶構造を安定化する効果がある。
【0052】
Nb/Ti比が2より大きい組成を有すると電子伝導性を高めることができるため好ましい。xが5より大きいとLi挿入によって還元されるNbの量が、Liホストサイトの数よりも少なくなるため電極容量が低くなる可能性がある。yが1.0より大きいと骨格構造が不安定となりサイクル寿命が低下する可能性がある。
【0053】
<形態>
実施形態に係る電極材料が含む活物質粒子(活物質)の形態は、特に限定されない。活物質粒子は、例えば、一次粒子の形態をとることもできるし、一次粒子が凝集してなる二次粒子の形態をとることもできる。活物質粒子は、一次粒子と、二次粒子との混合物でもよい。
【0054】
活物質粒子は、表面に炭素含有層を有していてもよい。但し、元素Aは炭素含有層よりも内側に存在している。炭素含有層は、一次粒子の表面に付着していてもよいし、二次粒子の表面に付着していてもよい。或いは、活物質粒子は、表面に炭素含有層が付着した一次粒子が凝集してなる二次粒子を含んでいてもよい。このような二次粒子は、一次粒子間に炭素が存在しているため、優れた導電性を示すことができる。このような二次粒子を含む態様は、活物質含有層がより低い抵抗を示すことができるので、好ましい。
【0055】
<粒子径>
電極材料が含む活物質粒子は、レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、体積頻度10%(D10)は0.3μm~2.0μmの範囲内にあることが好ましい。D10が0.3μmより小さいと、電解液との副反応が増えて、充放電効率及びサイクル寿命性能が低下する傾向がある。D10が2.0μmより大きいと急速充放電性能が低くなる傾向がある。D10は、0.5μm~1.0μmの範囲内にあることがより好ましい。
【0056】
また、粒度分布チャートにおいて、体積頻度90%(D90)は5μm~30μmの範囲内にあることが好ましい。D90が5μmより小さいと、電極の集電体からの剥離が起こりやすくなり寿命性能が低下する傾向がある。D90が30μmより大きいと急速充放電性能が低くなる傾向がある。D90は、6μm~10μmの範囲内にあることがより好ましい。
【0057】
D10の値が高いことは微粉末が少ないことを意味し、D90の値が低いことは粗大粒子が少ないことを意味する。つまり、粒度分布がシャープな傾向にあることを意味する。粒度分布がシャープであることが必ずしも好ましい訳ではないが、体積頻度50%(D50)に対するD10の比の値、及び、D0に対するD0の比の値に基づいて、粒度分布がシャープであるか否かを評価することができる。
【0058】
比D10/D50が0.10~0.60の範囲内にあり且つ比D50/D90が0.20~0.50の範囲内にあることが好ましい。こうすると、大きな粒子径を有する活物質粒子同士の間隙内に、小さな粒子径を有する活物質粒子が分散するため、結晶中のリチウムイオンの拡散距離を小さくすることができる。それ故、急速充放電性能を高めながら、優れた寿命性能を両立することができる。比D10/D50が0.1より小さいか、又は、比D50/D90が0.20より小さいと、粒度が偏っているため、電極密度を高め難い。比D10/D50が0.15~0.30の範囲内且つ比D50/D90が0.20~0.40の範囲にあることが好ましい。比D10/D50の値が0.60より大きいか、又は、D50/D90の比が0.50より大きいと、電極の柔軟性が損なわれるため、電極を捲回体にすることが困難になる可能性がある。
【0059】
なお、実施形態に係る活物質粒子のD50は特に限定されないが、例えば0.5μm~30μmの範囲内にある。
【0060】
前述の活物質粒子は、上記一次粒子から形成される二次粒子であっても良い。この場合、二次粒子の粒子径は特に制約されない。
【0061】
<結晶性>
Nb/Ti比が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物の結晶子径は、例えば、50nm~130nmの範囲内にあり、好ましくは95nm~130nmの範囲内にある。この場合、電極材料は優れた急速充放電特性を達成することができる。
【0062】
更に、Nb/Ti比が2より大きい組成を有するNb2TiO7相を含むニオブチタン複合酸化物は、Cu-Kα線源を用いた粉末X線回折で得られる回折図において、2θ=44°±1.0°に2本のピークが現れ、それら2本のピーク強度比(I/I)が1未満であることが好ましい。Nb/Ti比が2より大きい組成を有するNb2TiO7相に関するピーク強度比を第1ピーク強度比とも呼ぶ。第1ピーク強度比が1未満であると、Nb/Ti比が2より大きい組成を有するNb2TiO7相を含むニオブチタン複合酸化物は高い結晶性を有していると判断することができる。
【0063】
また、Nb10Ti229相、Nb14TiO37相及びNb24TiO62相からなる群より選択される少なくとも1種を含むニオブチタン複合酸化物は、Cu-Kα線源を用いた粉末X線回折で得られる回折図において、2θ=44°±1.0°に2本のピークが現れ、それら2本のピーク強度比(I/I)が1.5未満であることが好ましい。Nb10Ti229相、Nb14TiO37相及びNb24TiO62相のそれぞれに関するピーク強度比を第2ピーク強度比とも呼ぶ。第2ピーク強度比が1.5未満であると、当該ニオブチタン複合酸化物は高い結晶性を有していると判断することができる。
【0064】
ここで、Iは高角側ピークPのピーク強度であり、Iは低角側ピークPのピーク強度である。2θ=44°±1.0°に現れる2本のピークは、低角側のピークPが(0 0 5)面のピークであり、高角側のピークPが(-10 0 3)面のピークであると考えられる。第1ピーク強度比(I/I)が1未満であると、リチウムイオン伝導性が高く、容量が高い複合酸化物が得られる。また、第2ピーク強度比(I/I)が1.5未満であると、リチウムイオン伝導性が高く、容量が高い複合酸化物が得られる。
【0065】
なお、これらのピーク強度比(IH/IL)は、本実施形態のNb/Ti比が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物において、前述の粒子径の範囲内で、より好ましい結晶構造が得られているか、即ち高い結晶性を有しているか否かを判断する指針とすることができる。
【0066】
<電極材料の粉末X線回折測定>
電極材料の粉末X線回折測定は、例えば次のように行うことができる。
まず、対象試料を前述の粒子径(D10、D50及びD90)の範囲になるように粉砕する。粉砕した試料を、ガラス試料板上に形成された深さ0.2mmのホルダー部分に充填する。このとき、試料が十分にホルダー部分に充填されるように留意する。また、ひび割れ、空隙等が生じないように、過不足ない量の試料を充填するように注意する。次いで、外部から別のガラス板を押し付けて、ホルダー部分に充填された試料の表面を平らにする。充填量の過不足により、ホルダーの基準面より凹凸が生じることのないように注意する。
【0067】
次いで、試料が充填されたガラス板を粉末X線回折装置に設置し、Cu-Kα線を用いて回折パターン(XRDパターン;X‐Ray Diffraction pattern)を取得する。
【0068】
なお、試料の粒子形状により粒子の配向が大きくなる場合がある。試料の配向性が高い場合は、試料の充填の仕方によってピークの位置がずれたり、強度比が変化したりする可能性がある。このように配向性が著しく高い試料は、ガラスキャピラリを用いて測定する。具体的には、試料をキャピラリに挿入し、このキャピラリを回転式試料台に載置して測定する。このような測定方法により、配向性を緩和することができる。ガラスキャピラリとしては、直径1mm~6mmφのリンデマンガラス製キャピラリを用いることが好ましい。
【0069】
また、電極中に残留したリチウムイオンの影響で、粉末X線回折測定結果に、炭酸リチウムやフッ化リチウムなどの不純物相が混入することがある。不純物相の混入は、例えば、測定雰囲気を不活性ガス雰囲気とするか、又は電極表面の洗浄をすることで防ぐことができる。不純物相があってもこれらの相を無視して解析することは可能である。
【0070】
粉末X線回折測定の装置としては、例えばRigaku社製SmartLabを用いる。測定条件は以下の通りとする:
X線源:Cuターゲット
出力:45kV 200mA
ソーラスリット:入射及び受光共に5°
ステップ幅(2θ):0.02deg
スキャン速度:20deg/分
半導体検出器:D/teX Ultra 250
測定範囲:5°≦2θ≦90°
試料板ホルダー:平板ガラス試料板ホルダー(厚さ0.5mm)。
【0071】
その他の装置を使用する場合は、上記と同等の測定結果が得られるように、粉末X線回折用標準Si粉末を用いた測定を行い、ピーク強度及びピークトップ位置が上記装置と一致する条件に調整して測定を行う。
【0072】
得られる回折図において、2θが44°±1.0°の範囲内に現れる2本のピークのうち、高角側ピークのピーク強度Iと、低角側ピークのピーク強度Iとを決定する。そして、低角側ピークのピーク強度に対する、高角側ピークのピーク強度の比、即ち、ピーク強度比(I/I)を算出する。
【0073】
また、得られたXRD回折図をリートベルト法によって解析することにより、結晶子径を求めることができる。リートベルト法では、あらかじめ推定した結晶構造モデルから回折パターンを計算する。この計算値と実測値とを全てフィッティングすることにより、結晶構造に関するパラメータ(格子定数、原子座標、占有率等)を精密に分析することができる。これにより、合成した酸化物の結晶構造の特徴を調べることができる。
【0074】
ここでは、下記式1に示すシェラーの式から結晶子径を算出する。
【0075】
【数1】
式(1)中、K=0.9、λ=0.15406nm、βe:回折ピークの半値幅、βo:半値幅の補正値(0.07°)である。
【0076】
<BET比表面積>
実施形態に係る活物質のBET(Brunauer, Emmett, Teller)比表面積は、特に制限されない。しかしながら、BET比表面積は、5m2/g以上、200m2/g未満であることが好ましい。
【0077】
比表面積が5m2/g以上であれば、電解質との接触面積を確保することができ、良好な放電レート特性が得られやすく、また充電時間を短縮できる。一方、比表面積が200m2/g未満であれば、電解質との反応性が高くなり過ぎず、寿命特性を向上させることができる。また、後述する電極の製造に用いる、活物質を含むスラリーの塗工性を良好なものにすることができる。
【0078】
ここで、比表面積の測定は、粉体粒子表面に吸着占有面積が既知である分子を液体窒素の温度で吸着させ、その量から試料の比表面積を求める方法を用いる。最も良く利用されるのが不活性気体の低温低湿物理吸着によるBET法であり、単分子層吸着理論であるLangmuir理論を多分子層吸着に拡張した、比表面積の計算方法として最も有名な理論である。これにより求められた比表面積のことをBET比表面積と称する。
【0079】
<複合酸化物の組成の確認方法>
ニオブチタン複合酸化物の平均組成及び元素Aの濃度は、例えば、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)発光分光法を用いて分析することができる。
【0080】
<複合酸化物の固溶状態の確認>
ニオブチタン複合酸化物における、元素Aの存在状態、並びに、元素M1及びM2の固溶状態は、透過型電子顕微鏡観察(TEM:Transmission Electron Microscope)-エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy dispersive X-ray spectroscopy)により確認することができる。また、走査型電子顕微鏡観察(Scanning Electron Microscope; SEM)-EDX(エネルギー分散型X線分光法)により、電極断面における元素マッピング分析から、ニオブチタン複合酸化物粒子内部及び粒子界面の元素Aの存在濃度を確認することができる。
【0081】
<電極に含まれる電極材料の測定>
電極に含まれる電極材料(活物質)について、上述した粉末X線回折測定、ICP測定、TEM-EDX測定、BET法による比表面積の測定及びレーザー回折散乱法による粒度分布測定を行う場合、例えば以下のように対象試料を準備することができる。
【0082】
まず、活物質の結晶状態を把握するために、ニオブチタン複合酸化物からリチウムイオンが完全に離脱した状態にする。例えば、負極活物質を測定対象とした場合、電池を完全に放電状態にする。但し、負極活物質には、完全放電状態にしても、残留したリチウムイオンが存在することもある。
【0083】
次に、アルゴンを充填したグローブボックス中で電池を分解し、電極を取り出して、適切な溶媒で洗浄する。適切な溶媒としては、例えばエチルメチルカーボネートなどを用いることができる。
【0084】
粉末X線回折測定の場合は、上記のように洗浄した電極を、粉末X線回折装置のホルダーの面積と同程度切り出し、測定試料とすることができる。この試料を直接ガラスホルダーに貼り付けて測定を行う。
【0085】
このとき、電極に含まれる金属箔の金属に対応するピークについてXRDを用いてあらかじめ測定し、電極基板に由来するピーク位置を把握しておく。また、導電助剤やバインダーなどの他の成分のピーク位置も、同様の方法によってあらかじめ測定して、把握しておく。基板材料のピークと活物質のピークとが重なる場合、基板から活物質を剥離して測定することが望ましい。これは、ピーク強度を定量的に測定する際、重なったピークを分離するためである。もちろん、これらを事前に把握できているのであれば、この操作は省略することができる。
【0086】
測定にあたり、電極層を集電体から物理的に剥離してもよい。溶媒中で超音波をかけると、電極層を集電体から剥離しやすい。このようにして剥離した電極層から電極粉末試料を準備するか、又は活物質粒子のみを単分離して、この試料又は活物質粒子を上述した各種測定に供することができる。
【0087】
<電極材料の製造方法>
実施形態に係る電極材料は、以下に説明する合成方法により製造することができる。
【0088】
(合成方法)
チタンに対するニオブのモル比(Nb/Ti)が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物は、以下のように合成することができる。まず、出発原料を混合する。ニオブ及びチタンを含む出発原料として、Nb及びTiを含む酸化物又は塩を準備する。元素M1を含む出発原料として、Ta、Ti、V、Mo及びWからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物または塩を準備する。元素M2を含む出発原料として、Nb、Ta、Zr、Hf及びSnからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物又は塩を準備する。出発原料として用いる塩は、炭酸塩及び硝酸塩のような、比較的低温で分解して酸化物を生じる塩であることが好ましい。
【0089】
これらの出発原料を、目的組成となるようなモル比で混合する。次に、得られた混合物を粉砕し、できるだけ均一な混合物を得る。次いで、得られた混合物を仮焼成(第1の焼成)する。仮焼成(第1の焼成)は500~900℃の温度範囲で2回以上に分けて合計10~40時間行う。これにより、均一性の高い前駆体粒子を得ることができる。
【0090】
次に、元素Aの供給源として、カリウム、鉄及びリンからなる群より選択される少なくとも1つの元素Aを含む酸化物又は塩を準備する。先に得られた前駆体粒子に対して、元素Aを含む酸化物又は塩を、濃度が100ppm~2000ppmの範囲内となるように添加して湿式混合を行う。このとき、元素Aを含む供給源を、水などの溶媒に可溶な原料を用いて湿式混合すると、元素Aを前駆体粒子表面に均一に分布することができるため好ましい。
【0091】
次に、湿式混合によって得られた前駆体粒子と元素Aとの混合物を、本焼成(第2の焼成)に供する。本焼成は、800℃~1450℃の温度で、1時間~10時間に亘り行うことが好ましい。本焼成は、1000℃~1450℃の温度で、2.5時間~3.5時間に亘り行うことがより好ましい。このように、高温で短時間に亘って焼成することで、元素Aの濃度を粒子表面で高くすることができる。かくして得られた粉末を極力強いシェアをかけずに、できるだけ短時間にマイルド粉砕を行う。この粉砕には、例えば、ローラーコンパクタ、ビーズミル装置及びボールミル装置などを使うことができる。
【0092】
粉砕条件を変化させることにより、得られる電極材料のD10、D50及びD90を制御することができる。例えば、粉砕時間を長くすることによりD10、D50及びD90を小さくすることができる傾向にある。また、例えば、粉砕メディアとして、より小さな直径を有するものを使用することにより、D10、D50及びD90を小さくすることができる傾向にある。或いは、粉末を遠心分離に供することで、D10の小さな粒子を捕集したり、D90の大きな粒子を捕集したりすることができる。例えば、捕集した粒子を別途合成した電極材料と混合することで、D10、D50及びD90を制御することができる。
【0093】
粉砕後に、アニール処理を行ってもよい。アニール処理の温度は350℃以上800℃以下にすることが望ましい。この温度範囲でアニール処理を行うことにより、結晶内の歪を緩和させ、粉砕後の結晶状態を安定化させることができる。つまり、アニール処理により結晶子径を大きくすることができる。元素Aが添加された後に本焼成を行い、短時間で粉砕を行う合成スキームと併用することで、従来のアニール処理よりも効果的に結晶子径の大きな活物質粒子を得ることができる。
【0094】
上述のように、Nb/Ti比が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物を製造する際に、元素Aが添加された後に本焼成を行い、マイルド粉砕を行うことで、高い結晶性を有し、且つ、微粉末の割合が小さい電極材料を得ることができる。例えば、こうして得られた電極材料に対する粉末X線回折にて得られる回折図において、当該電極材料がNb/Ti比が2より大きい組成を有するNb2TiO7相を含む場合には、上述の第1ピーク強度比が1未満であり得る。また、当該電極材料が、Nb10Ti229相、Nb14TiO37相及びNb24TiO62相の少なくとも1種を含む場合には、上述の第2ピーク強度比が1.5未満であり得る。
【0095】
なお、上記方法により合成されたニオブチタン複合酸化物は、電池を組み立てた後に充電することによってリチウムイオンが挿入されてもよい。或いは、出発原料として、炭酸リチウムのようなリチウムを含む化合物を用いることにより、リチウムを含む複合酸化物として合成されてもよい。
【0096】
第1の実施形態によると、電極材料が提供される。電極材料は、チタンに対するニオブのモル比(MNb/MTi)が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物と、カリウム、鉄及びリンからなる群より選択される少なくとも1種の元素Aとを含む活物質粒子を具備する。活物質粒子は、元素Aを100ppm~2000ppmの範囲内の濃度で含有する。この電極材料は、結晶性が高く基本骨格が安定な活物質粒子を含み、微粉末の割合が低いため、優れた急速充放電特性及びサイクル寿命特性を示すことができる。
【0097】
(第2の実施形態)
第2の実施形態によると、電極が提供される。
【0098】
第2の実施形態に係る電極は、第1の実施形態に係る電極材料を含む。実施形態に係る電極は、負極であってもよく、正極であってもよい。実施形態に係る電極は、例えば電池用電極、二次電池用電極又はリチウム二次電池用電極である。電極は、第1の実施形態に係る電極材料を、負極材料として含む負極であり得る。
【0099】
第2の実施形態に係る電極は、集電体と活物質含有層とを含むことができる。活物質含有層は、集電体の片面又は両面に形成され得る。活物質含有層は、活物質と、任意に導電剤及び結着剤とを含むことができる。
【0100】
活物質含有層は、第1の実施形態に係る電極材料を単独で含んでもよく、第1の実施形態に係る電極材料を2種以上含んでもよい。さらに、第1の実施形態に係る電極材料を1種又は2種以上と、更に1種又は2種以上の他の活物質とを混合した混合物を含んでもよい。
【0101】
例えば、第1の実施形態に係る電極材料を負極材料として含む負極の場合、この負極は、Nb/Ti比が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物以外の他の活物質を含むことができる。
【0102】
他の活物質の例には、ラムスデライト構造を有するチタン酸リチウム(例えばLi2+yTi37、0≦y≦3)、スピネル構造を有するチタン酸リチウム(例えば、Li4+xTi512、0≦x≦3)、単斜晶型二酸化チタン(TiO2)、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、ホランダイト型チタン複合酸化物及び直方晶型(orthorhombic)チタン含有複合酸化物が挙げられる。更に、電極材料は、他の活物質としてNb/Ti比が2であるニオブチタン複合酸化物を含んでいてもよい。電極材料が含む活物質粒子に占める、Nb/Ti比が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物の割合は、例えば50質量%以上である。
【0103】
直方晶型チタン含有複合酸化物の例として、Li2+aM(I)2-bTi6-cM(II)d14+σで表される化合物が挙げられる。ここで、M(I)は、Sr,Ba,Ca,Mg,Na,Cs,Rb及びKからなる群より選択される少なくとも1つである。M(II)はZr,Sn,V,Nb,Ta,Mo,W,Y,Fe,Co,Cr,Mn,Ni,及びAlからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦a≦6、0≦b<2、0≦c<6、0≦d<6、-0.5≦σ≦0.5である。直方晶型チタン含有複合酸化物の具体例として、Li2+aNa2Ti614(0≦a≦6)が挙げられる。
【0104】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。あるいは、導電剤を用いる代わりに、活物質粒子の表面に、炭素コートや電子導電性無機材料コートを施してもよい。
【0105】
結着剤は、分散された活物質の間隙を埋め、また、活物質と集電体を結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジェンゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
【0106】
活物質含有層中の電極材料、導電剤及び結着剤の配合割合は、電極の用途に応じて適宜変更することができる。例えば、電極を二次電池の負極として用いる場合は、電極材料、導電剤及び結着剤を、それぞれ、68質量%以上96質量%以下、2質量%以上30質量%以下及び2質量%以上30質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤の量を2質量%以上とすることにより、活物質含有層の集電性能を向上させることができる。また、結着剤の量を2質量%以上とすることにより、活物質含有層と集電体との結着性が十分となり、優れたサイクル性能を期待できる。一方、導電剤及び結着剤はそれぞれ30質量%以下にすることが高容量化を図る上で好ましい。
【0107】
集電体は、活物質にリチウム(Li)が挿入及び脱離される電位において電気化学的に安定である材料が用いられる。例えば、電極材料が負極材料として用いられる場合は、集電体は、銅、ニッケル、ステンレス又はアルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金から作られることが好ましい。集電体の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましい。このような厚さを有する集電体は、電極の強度と軽量化のバランスをとることができる。
【0108】
また、集電体は、その表面に活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、集電タブとして働くことができる。
【0109】
電極は、例えば次の方法により作製することができる。まず、実施形態に係る電極材料、導電剤及び結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを、集電体の片面又は両面に塗布する。次いで、塗布したスラリーを乾燥させて、活物質含有層と集電体との積層体を得る。その後、この積層体にプレスを施す。このようにして、電極を作製する。
【0110】
或いは、電極は、次の方法により作製してもよい。まず、電極材料、導電剤及び結着剤を混合して、混合物を得る。次いで、この混合物をペレット状に成形する。次いで、これらのペレットを集電体上に配置することにより、電極を得ることができる。
【0111】
第2の実施形態に係る電極は、第1の実施形態に係る電極材料を含んでいる。それ故、この電極は、優れた急速充放電特性及びサイクル寿命特性を示すことができる二次電池を実現することができる。
【0112】
(第3の実施形態)
第3の実施形態によると、負極と、正極と、電解質とを含む二次電池が提供される。この二次電池は、負極として、第2の実施形態に係る電極を含む。つまり、第3の実施形態に係る二次電池は、第1の実施形態に係る電極材料を含む電極を、負極として含む。
【0113】
実施形態に係る二次電池は、正極と負極との間に配されたセパレータを更に具備することもできる。負極、正極及びセパレータは、電極群を構成することができる。電解質は、電極群に保持され得る。
【0114】
二次電池は、電極群及び電解質を収容する外装部材を更に具備することができる。
【0115】
更に、二次電池は、負極に電気的に接続された負極端子及び正極に電気的に接続された正極端子を更に具備することができる。
【0116】
二次電池は、例えばリチウムイオン二次電池であり得る。また、二次電池は、非水電解質を含んだ非水電解質二次電池であり得る。
【0117】
以下、負極、正極、電解質、セパレータ、外装部材、負極端子及び正極端子について詳細に説明する。
【0118】
(1)負極
負極は、負極集電体と、負極活物質含有層とを含むことができる。負極集電体及び負極活物質含有層は、それぞれ、第2の実施形態に係る電極が含むことのできる集電体及び活物質含有層であり得る。負極活物質含有層は、第1の実施形態に係る電極材料を負極活物質として含む。
【0119】
負極の詳細のうち、第2の実施形態について説明した詳細と重複する部分は、省略する。
【0120】
負極活物質含有層の密度(集電体を含まず)、即ち電極密度は、1.8g/cm3以上3.5g/cm3以下であることが好ましい。負極活物質含有層の密度がこの範囲内にある負極は、エネルギー密度と電解質の保持性とに優れている。負極活物質含有層の密度は、2.5g/cm3以上2.9g/cm3以下であることがより好ましい。
【0121】
負極は、例えば、第2の実施形態に係る電極と同様の方法により作製することができる。
【0122】
(2)正極
正極は、正極集電体と、正極活物質含有層とを含むことができる。正極活物質含有層は、正極集電体の片面又は両面に形成され得る。正極活物質含有層は、正極活物質と、任意に導電剤及び結着剤を含むことができる。
【0123】
正極活物質としては、例えば、酸化物又は硫化物を用いることができる。正極は、正極活物質として、1種類の化合物を単独で含んでいてもよく、2種類以上の化合物を組み合わせて含んでいてもよい。酸化物及び硫化物の例には、Li又はLiイオンを挿入及び脱離させることができる化合物を挙げることができる。
【0124】
このような化合物としては、例えば、二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn24又はLixMnO2;0<x≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2;0<x≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoy2;0<x≦1、0<y<1)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-y2;0<x≦1、0<y<1)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiy4;0<x≦1、0<y<2)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLixFePO4;0<x≦1、LixFe1-yMnyPO4;0<x≦1、0<y<1、LixCoPO4;0<x≦1)、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、バナジウム酸化物(例えばV25)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-y-zCoyMnz2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)が含まれる。
【0125】
上記のうち、正極活物質としてより好ましい化合物の例には、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn24;0<x≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2;0<x≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoy2;0<x≦1、0<y<1)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiy4;0<x≦1、0<y<2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-y2;0<x≦1、0<y<1)、リチウムリン酸鉄(例えばLixFePO4;0<x≦1)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-y-zCoyMnz2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)が含まれる。これらの化合物を正極活物質に用いると、正極電位を高めることができる。
【0126】
電池の電解質として常温溶融塩を用いる場合、リチウムリン酸鉄、LixVPO4F(0≦x≦1)、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、又はこれらの混合物を含む正極活物質を用いることが好ましい。これらの化合物は常温溶融塩との反応性が低いため、サイクル寿命を向上させることができる。常温溶融塩の詳細については、後述する。
【0127】
正極活物質の一次粒子径は、100nm以上1μm以下であることが好ましい。一次粒子径が100nm以上の正極活物質は、工業生産上の取り扱いが容易である。一次粒子径が1μm以下の正極活物質は、リチウムイオンの固体内拡散をスムーズに進行させることが可能である。
【0128】
正極活物質の比表面積は、0.1m2/g以上10m2/g以下であることが好ましい。0.1m2/g以上の比表面積を有する正極活物質は、Liイオンの吸蔵・放出サイトを十分に確保できる。10m2/g以下の比表面積を有する正極活物質は、工業生産の上で取り扱い易く、かつ良好な充放電サイクル性能を確保できる。
【0129】
結着剤は、分散された正極活物質の間隙を埋め、また、正極活物質と正極集電体とを結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
【0130】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、正極活物質と正極集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。また、導電剤を省略することもできる。
【0131】
正極活物質含有層において、正極活物質及び結着剤は、それぞれ、80質量%以上98質量%以下、及び2質量%以上20質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0132】
結着剤の量を2質量%以上にすることにより、十分な電極強度が得られる。また、結着剤は、絶縁体として機能し得る。そのため、結着剤の量を20質量%以下にすると、電極に含まれる絶縁体の量が減るため、内部抵抗を減少できる。
【0133】
導電剤を加える場合には、正極活物質、結着剤及び導電剤は、それぞれ、77質量%以上95質量%以下、2質量%以上20質量%以下、及び3質量%以上15質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0134】
導電剤の量を3質量%以上にすることにより、上述した効果を発揮することができる。また、導電剤の量を15質量%以下にすることにより、電解質と接触する導電剤の割合を低くすることができる。この割合が低いと、高温保存下において、電解質の分解を低減することができる。
【0135】
正極集電体は、アルミニウム箔、又は、Mg、Ti、Zn、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。
【0136】
アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。アルミニウム箔の純度は99質量%以上であることが好ましい。アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔に含まれる鉄、銅、ニッケル、及びクロムなどの遷移金属の含有量は、1質量%以下であることが好ましい。
【0137】
また、正極集電体は、その表面に正極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、正極集電タブとして働くことができる。
【0138】
正極は、例えば、正極活物質を用いて、第2の実施形態に係る電極と同様の方法により作製することができる。
【0139】
(3)電解質
電解質としては、例えば液状非水電解質又はゲル状非水電解質を用いることができる。液状非水電解質は、溶質としての電解質塩を有機溶媒に溶解することにより調製される。電解質塩の濃度は、0.5 mol/L以上2.5 mol/L以下であることが好ましい。
【0140】
電解質塩の例には、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、及びビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)のようなリチウム塩、及び、これらの混合物が含まれる。電解質塩は、高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiPF6が最も好ましい。
【0141】
有機溶媒の例には、プロピレンカーボネート(propylene carbonate;PC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate;EC)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate;VC)のような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(diethyl carbonate;DEC)、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate;DMC)、メチルエチルカーボネート(methyl ethyl carbonate;MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran;THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2-methyl tetrahydrofuran;2MeTHF)、ジオキソラン(dioxolane;DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(dimethoxy ethane;DME)、ジエトキシエタン(diethoxy ethane;DEE)のような鎖状エーテル;γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone;GBL)、アセトニトリル(acetonitrile;AN)、及びスルホラン(sulfolane;SL)が含まれる。これらの有機溶媒は、単独で、又は混合溶媒として用いることができる。
【0142】
ゲル状非水電解質は、液状非水電解質と高分子材料とを複合化することにより調製される。高分子材料の例には、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile;PAN)、ポリエチレンオキサイド(polyethylene oxide;PEO)、又はこれらの混合物が含まれる。
【0143】
或いは、非水電解質としては、液状非水電解質及びゲル状非水電解質の他に、リチウムイオンを含有した常温溶融塩(イオン性融体)、高分子固体電解質、及び無機固体電解質等を用いてもよい。
【0144】
常温溶融塩(イオン性融体)は、有機物カチオンとアニオンとの組合せからなる有機塩の内、常温(15℃以上25℃以下)で液体として存在し得る化合物を指す。常温溶融塩には、単体で液体として存在する常温溶融塩、電解質塩と混合させることで液体となる常温溶融塩、有機溶媒に溶解させることで液体となる常温溶融塩、又はこれらの混合物が含まれる。一般に、二次電池に用いられる常温溶融塩の融点は、25℃以下である。また、有機物カチオンは、一般に4級アンモニウム骨格を有する。
【0145】
高分子固体電解質は、電解質塩を高分子材料に溶解し、固体化することによって調製される。
【0146】
無機固体電解質は、Liイオン伝導性を有する固体物質である。
【0147】
電解質は、水を含んだ水系電解質であってもよい。
【0148】
水系電解質は、水系溶媒と電解質塩とを含む。水系電解質は、例えば、液状である。液状水系電解質は、溶質としての電解質塩を水系溶媒に溶解することにより調製される水溶液である。水系溶媒は、例えば、水を50体積%以上含む溶媒である。水系溶媒は、純水であってもよい。
【0149】
水系電解質は、水系電解液と高分子材料とを複合化したゲル状の水系電解質であってもよい。高分子材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等を挙げることができる。
【0150】
水系電解質は、溶質となる塩1molに対し、水系溶媒量が1mol以上であることが好ましい。さらに好ましい形態は、溶質となる塩1molに対する水系溶媒量が3.5mol以上である。
【0151】
水系電解質に水が含まれていることは、GC-MS(ガスクロマトグラフィー-質量分析;Gas Chromatography - Mass Spectrometry)測定により確認できる。また、水系電解質中の塩濃度および水含有量の算出は、例えばICP(誘導結合プラズマ;Inductively Coupled Plasma)発光分析などで測定することができる。水系電解質を規定量はかり取り、含まれる塩濃度を算出することで、モル濃度(mol/L)を算出できる。また水系電解質の比重を測定することで、溶質と溶媒のモル数を算出できる。
【0152】
水系電解質は、例えば電解質塩を1-12mol/Lの濃度で水系溶媒に溶解することにより調製される。
【0153】
水系電解質の電気分解を抑制するために、LiOH又はLi2SO4などを添加し、pHを調整することができる。pHは、3-13であることが好ましく、4-12であることがより好ましい。
【0154】
(4)セパレータ
セパレータは、例えば、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、セルロース、若しくはポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)を含む多孔質フィルム、又は合成樹脂製不織布から形成される。安全性の観点からは、ポリエチレン又はポリプロピレンから形成された多孔質フィルムを用いることが好ましい。これらの多孔質フィルムは、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能なためである。
【0155】
セパレータとして、固体電解質粒子を含む固体電解質層を使用することもできる。固体電解質層は、1種類の固体電解質粒子を含んでいても良く、複数種類の固体電解質粒子を含んでいてもよい。固体電解質層は、固体電解質粒子を含む固体電解質複合膜であってもよい。固体電解質複合膜は、例えば、固体電解質粒子を、高分子材料を用いて膜状に成形したものである。固体電解質層は、可塑剤及び電解質塩からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいても良い。固体電解質層が電解質塩を含んでいると、例えば、固体電解質層のアルカリ金属イオン伝導性をより高めることができる。
【0156】
高分子材料の例は、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリアミン系、ポリエチレン系、シリコーン系及びポリスルフィド系を含む。
【0157】
固体電解質としては、無機固体電解質を用いることが好ましい。無機固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、又は硫化物系固体電解質を挙げることができる。酸化物系固体電解質としては、NASICON型構造を有し、一般式LiM2(PO43で表されるリチウムリン酸固体電解質を用いることが好ましい。上記一般式中のMは、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも一種類以上の元素であることが好ましい。元素Mは、Ge、Zr及びTiの何れか1つの元素と、Alとを含むことがより好ましい。
【0158】
NASICON型構造を有するリチウムリン酸固体電解質の具体例としては、LATP(Li1+xAlTi2-x(PO)、Li1+xAlGe2-x(PO、Li1+xAlZr2-x(POを挙げることができる。上記式におけるxは、0<x≦5の範囲内にあり、0.1≦x≦0.5の範囲内にあることが好ましい。固体電解質としては、LATPを用いることが好ましい。LATPは、耐水性に優れ、二次電池内で加水分解を生じにくい。
【0159】
また、酸化物系固体電解質としては、アモルファス状のLIPON(Li2.9PO3.30.46)、又はガーネット型構造のLLZ(Li7La3Zr212)を用いてもよい。
【0160】
(5)外装部材
外装部材としては、例えば、ラミネートフィルムからなる容器、又は金属製容器を用いることができる。
【0161】
ラミネートフィルムの厚さは、例えば、0.5mm以下であり、好ましくは、0.2mm以下である。
【0162】
ラミネートフィルムとしては、複数の樹脂層とこれらの樹脂層間に介在した金属層とを含む多層フィルムが用いられる。樹脂層は、例えば、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate;PET)等の高分子材料を含んでいる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔からなることが好ましい。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行うことにより、外装部材の形状に成形され得る。
【0163】
金属製容器の壁の厚さは、例えば、1mm以下であり、より好ましくは0.5mm以下であり、更に好ましくは、0.2mm以下である。
【0164】
金属製容器は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、及びケイ素等の元素を含むことが好ましい。アルミニウム合金は、鉄、銅、ニッケル、及びクロム等の遷移金属を含む場合、その含有量は100質量ppm以下であることが好ましい。
【0165】
外装部材の形状は、特に限定されない。外装部材の形状は、例えば、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、又はボタン型等であってもよい。外装部材は、電池寸法や電池の用途に応じて適宜選択することができる。
【0166】
(6)負極端子
負極端子は、上述の負極活物質のLi吸蔵放出電位において電気化学的に安定であり、かつ導電性を有する材料から形成することができる。具体的には、負極端子の材料としては、銅、ニッケル、ステンレス若しくはアルミニウム、又は、Mg,Ti,Zn,Mn,Fe,Cu,及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子の材料としては、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることが好ましい。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料からなることが好ましい。
【0167】
(7)正極端子
正極端子は、リチウムの酸化還元電位に対し3V以上5V以下の電位範囲(vs.Li/Li)において電気的に安定であり、且つ導電性を有する材料から形成することができる。正極端子の材料としては、アルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0168】
次に、第3の実施形態に係る二次電池について、図面を参照しながらより具体的に説明する。
【0169】
図3は、第3の実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図である。図4は、図3に示す二次電池のA部を拡大した断面図である。
【0170】
図3及び図4に示す二次電池100は、図3及び図4に示す袋状外装部材2と、図4に示す電極群1と、図示しない電解質とを具備する。電極群1及び電解質は、袋状外装部材2内に収納されている。電解質(図示しない)は、電極群1に保持されている。
【0171】
袋状外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
【0172】
図3に示すように、電極群1は、扁平状の捲回型電極群である。扁平状で捲回型である電極群1は、図4に示すように、負極3と、セパレータ4と、正極5とを含む。セパレータ4は、負極3と正極5との間に介在している。
【0173】
負極3は、負極集電体3aと負極活物質含有層3bとを含む。負極3のうち、捲回型の電極群1の最外殻に位置する部分は、図4に示すように負極集電体3aの内面側のみに負極活物質含有層3bが形成されている。負極3におけるその他の部分では、負極集電体3aの両面に負極活物質含有層3bが形成されている。
【0174】
正極5は、正極集電体5aと、その両面に形成された正極活物質含有層5bとを含んでいる。
【0175】
図3に示すように、負極端子6及び正極端子7は、捲回型の電極群1の外周端近傍に位置している。この負極端子6は、負極集電体3aの最外殻に位置する部分に接続されている。また、正極端子7は、正極集電体5aの最外殻に位置する部分に接続されている。これらの負極端子6及び正極端子7は、袋状外装部材2の開口部から外部に延出されている。袋状外装部材2の内面には、熱可塑性樹脂層が設置されており、これが熱融着されていることにより、開口部が閉じられている。
【0176】
第3の実施形態に係る二次電池は、図3及び図4に示す構成の二次電池に限らず、例えば図5及び図6に示す構成の電池であってもよい。
【0177】
図5は、第3の実施形態に係る二次電池の他の例を模式的に示す部分切欠斜視図である。図6は、図5に示す二次電池のB部を拡大した断面図である。
【0178】
図5及び図6に示す二次電池100は、図5及び図6に示す電極群1と、図5に示す外装部材2と、図示しない電解質とを具備する。電極群1及び電解質は、外装部材2内に収納されている。電解質は、電極群1に保持されている。
【0179】
外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
【0180】
電極群1は、図6に示すように、積層型の電極群である。積層型の電極群1は、負極3と正極5とをその間にセパレータ4を介在させながら交互に積層した構造を有している。
【0181】
電極群1は、複数の負極3を含んでいる。複数の負極3は、それぞれが、負極集電体3aと、負極集電体3aの両面に担持された負極活物質含有層3bとを備えている。また、電極群1は、複数の正極5を含んでいる。複数の正極5は、それぞれが、正極集電体5aと、正極集電体5aの両面に担持された正極活物質含有層5bとを備えている。
【0182】
各負極3の負極集電体3aは、その一辺において、いずれの表面にも負極活物質含有層3bが担持されていない部分3cを含む。この部分3cは、負極集電タブとして働く。図6に示すように、負極集電タブとして働く部分3cは、正極5と重なっていない。また、複数の負極集電タブ(部分3c)は、帯状の負極端子6に電気的に接続されている。帯状の負極端子6の先端は、外装部材2の外部に引き出されている。
【0183】
また、図示しないが、各正極5の正極集電体5aは、その一辺において、いずれの表面にも正極活物質含有層5bが担持されていない部分を含む。この部分は、正極集電タブとして働く。正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)と同様に、負極3と重なっていない。また、正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)に対し電極群1の反対側に位置する。正極集電タブは、帯状の正極端子7に電気的に接続されている。帯状の正極端子7の先端は、負極端子6とは反対側に位置し、外装部材2の外部に引き出されている。
【0184】
第3の実施形態に係る二次電池は、第1の実施形態に係る活物質を負極活物質として含んでいる。そのため、この二次電池は、優れた急速充放電特性及びサイクル寿命特性を示すことができる。
【0185】
(第4の実施形態)
第4の実施形態によると、組電池が提供される。第4の実施形態に係る組電池は、第3の実施形態に係る二次電池を複数個具備している。
【0186】
第4の実施形態に係る組電池において、各単電池は、電気的に直列若しくは並列に接続して配置してもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて配置してもよい。
【0187】
次に、第4の実施形態に係る組電池の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0188】
図7は、第4の実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図である。図7に示す組電池200は、5つの単電池100a~100eと、4つのバスバー21と、正極側リード22と、負極側リード23とを具備している。5つの単電池100a~100eのそれぞれは、第3の実施形態に係る二次電池である。
【0189】
バスバー21は、例えば、1つの単電池100aの負極端子6と、隣に位置する単電池100bの正極端子7とを接続している。このようにして、5つの単電池100は、4つのバスバー21により直列に接続されている。すなわち、図7の組電池200は、5直列の組電池である。例を図示しないが、電気的に並列に接続されている複数の単電池を含む組電池では、例えば、複数の負極端子同士がバスバーにより接続されるとともに複数の正極端子同士がバスバーにより接続されることで、複数の単電池が電気的に接続され得る。
【0190】
5つの単電池100a-100eのうち少なくとも1つの電池の正極端子7は、外部接続用の正極側リード22に電気的に接続されている。また、5つの単電池100a-100eうち少なくとも1つの電池の負極端子6は、外部接続用の負極側リード23に電気的に接続されている。
【0191】
第4の実施形態に係る組電池は、第3の実施形態に係る二次電池を具備する。従って、この組電池は、優れた急速充放電特性及びサイクル寿命特性を示すことができる。
【0192】
(第5の実施形態)
第5の実施形態によると、電池パックが提供される。この電池パックは、第4の実施形態に係る組電池を具備している。この電池パックは、第4の実施形態に係る組電池の代わりに、単一の第3実施形態に係る二次電池を具備していてもよい。
【0193】
第5の実施形態に係る電池パックは、保護回路を更に具備することができる。保護回路は、二次電池の充放電を制御する機能を有する。或いは、電池パックを電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を、電池パックの保護回路として使用してもよい。
【0194】
また、第5の実施形態に係る電池パックは、通電用の外部端子を更に具備することもできる。通電用の外部端子は、外部に二次電池からの電流を出力するため、及び/又は二次電池に外部からの電流を入力するためのものである。言い換えれば、電池パックを電源として使用する際、電流が通電用の外部端子を通して外部に供給される。また、電池パックを充電する際、充電電流(自動車などの動力の回生エネルギーを含む)は通電用の外部端子を通して電池パックに供給される。
【0195】
次に、第5の実施形態に係る電池パックの一例について、図面を参照しながら説明する。
【0196】
図8は、第5の実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図である。図9は、図8に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図である。
【0197】
図8及び図9に示す電池パック300は、収容容器31と、蓋32と、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35と、図示しない絶縁板とを備えている。
【0198】
図8に示す収容容器31は、長方形の底面を有する有底角型容器である。収容容器31は、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35とを収容可能に構成されている。蓋32は、矩形型の形状を有する。蓋32は、収容容器31を覆うことにより、上記組電池200等を収容する。収容容器31及び蓋32には、図示していないが、外部機器等へと接続するための開口部又は接続端子等が設けられている。
【0199】
組電池200は、複数の単電池100と、正極側リード22と、負極側リード23と、粘着テープ24とを備えている。
【0200】
複数の単電池100の少なくとも1つは、第3の実施形態に係る二次電池である。複数の単電池100の各々は、図9に示すように電気的に直列に接続されている。複数の単電池100は、電気的に並列に接続されていてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されていてもよい。複数の単電池100を並列接続すると、直列接続した場合と比較して、電池容量が増大する。
【0201】
粘着テープ24は、複数の単電池100を締結している。粘着テープ24の代わりに、熱収縮テープを用いて複数の単電池100を固定してもよい。この場合、組電池200の両側面に保護シート33を配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて複数の単電池100を結束させる。
【0202】
正極側リード22の一端は、組電池200に接続されている。正極側リード22の一端は、1以上の単電池100の正極と電気的に接続されている。負極側リード23の一端は、組電池200に接続されている。負極側リード23の一端は、1以上の単電池100の負極と電気的に接続されている。
【0203】
プリント配線基板34は、収容容器31の内側面のうち、一方の短辺方向の面に沿って設置されている。プリント配線基板34は、正極側コネクタ342と、負極側コネクタ343と、サーミスタ345と、保護回路346と、配線342a及び343aと、通電用の外部端子350と、プラス側配線(正側配線)348aと、マイナス側配線(負側配線)348bとを備えている。プリント配線基板34の一方の主面は、組電池200の一側面と向き合っている。プリント配線基板34と組電池200との間には、図示しない絶縁板が介在している。
【0204】
正極側コネクタ342に、正極側リード22の他端22aが電気的に接続されている。負極側コネクタ343に、負極側リード23の他端23aが電気的に接続されている。
【0205】
サーミスタ345は、プリント配線基板34の一方の主面に固定されている。サーミスタ345は、単電池100の各々の温度を検出し、その検出信号を保護回路346に送信する。
【0206】
通電用の外部端子350は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。通電用の外部端子350は、電池パック300の外部に存在する機器と電気的に接続されている。通電用の外部端子350は、正側端子352と負側端子353とを含む。
【0207】
保護回路346は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。保護回路346は、プラス側配線348aを介して正側端子352と接続されている。保護回路346は、マイナス側配線348bを介して負側端子353と接続されている。また、保護回路346は、配線342aを介して正極側コネクタ342に電気的に接続されている。保護回路346は、配線343aを介して負極側コネクタ343に電気的に接続されている。更に、保護回路346は、複数の単電池100の各々と配線35を介して電気的に接続されている。
【0208】
保護シート33は、収容容器31の長辺方向の両方の内側面と、組電池200を介してプリント配線基板34と向き合う短辺方向の内側面とに配置されている。保護シート33は、例えば、樹脂又はゴムからなる。
【0209】
保護回路346は、複数の単電池100の充放電を制御する。また、保護回路346は、サーミスタ345から送信される検出信号、又は、個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号に基づいて、保護回路346と外部機器への通電用の外部端子350(正側端子352、負側端子353)との電気的な接続を遮断する。
【0210】
サーミスタ345から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の温度が所定の温度以上であることを検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の過充電、過放電及び過電流を検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100について過充電等を検出する場合、電池電圧を検出してもよく、正極電位又は負極電位を検出してもよい。後者の場合、参照極として用いるリチウム電極を個々の単電池100に挿入する。
【0211】
なお、保護回路346としては、電池パック300を電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を用いてもよい。
【0212】
また、この電池パック300は、上述したように通電用の外部端子350を備えている。したがって、この電池パック300は、通電用の外部端子350を介して、組電池200からの電流を外部機器に出力するとともに、外部機器からの電流を、組電池200に入力することができる。言い換えると、電池パック300を電源として使用する際には、組電池200からの電流が、通電用の外部端子350を通して外部機器に供給される。また、電池パック300を充電する際には、外部機器からの充電電流が、通電用の外部端子350を通して電池パック300に供給される。この電池パック300を車載用電池として用いた場合、外部機器からの充電電流として、車両の動力の回生エネルギーを用いることができる。
【0213】
なお、電池パック300は、複数の組電池200を備えていてもよい。この場合、複数の組電池200は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。また、プリント配線基板34及び配線35は省略してもよい。この場合、正極側リード22及び負極側リード23を通電用の外部端子の正側端子と負側端子としてそれぞれ用いてもよい。
【0214】
このような電池パックは、例えば大電流を取り出したときにサイクル性能が優れていることが要求される用途に用いられる。この電池パックは、具体的には、例えば、電子機器の電源、定置用電池、各種車両の車載用電池として用いられる。電子機器としては、例えば、デジタルカメラを挙げることができる。この電池パックは、車載用電池として特に好適に用いられる。
【0215】
第5の実施形態に係る電池パックは、第3の実施形態に係る二次電池又は第4の実施形態に係る組電池を備えている。従って、この電池パックは、優れた急速充放電特性及びサイクル寿命特性を示すことができる。
【0216】
(第6の実施形態)
第6実施形態によると、車両が提供される。この車両は、第5実施形態に係る電池パックを搭載している。
【0217】
第6実施形態に係る車両において、電池パックは、例えば、車両の動力の回生エネルギーを回収するものである。車両は、この車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含んでいてもよい。
【0218】
第6実施形態に係る車両の例としては、例えば、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車、及び鉄道用車両が挙げられる。
【0219】
車両における電池パックの搭載位置は、特には限定されない。例えば、電池パックを自動車に搭載する場合、電池パックは、車両のエンジンルーム、車体後方又は座席の下に搭載することができる。
【0220】
車両は、複数の電池パックを搭載してもよい。この場合、それぞれの電池パックが含む電池同士は、電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。例えば、各電池パックが組電池を含む場合は、組電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、又は電気的に並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。或いは、各電池パックが単一の電池を含む場合は、それぞれの電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。
【0221】
次に、第6実施形態に係る車両の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0222】
図10は、実施形態に係る車両の一例を概略的に示す部分透過図である。
【0223】
図10に示す車両400は、車両本体40と、実施形態に係る電池パック300とを含んでいる。図10に示す例では、車両400は、四輪の自動車である。
【0224】
この車両400は、複数の電池パック300を搭載してもよい。この場合、電池パック300が含む電池(例えば、単電池または組電池)は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。
【0225】
図10では、電池パック300が車両本体40の前方に位置するエンジンルーム内に搭載されている例を図示している。上述したとおり、電池パック300は、例えば、車両本体40の後方又は座席の下に搭載してもよい。この電池パック300は、車両400の電源として用いることができる。また、この電池パック300は、車両400の動力の回生エネルギーを回収することができる。
【0226】
次に、図11を参照しながら、第6実施形態に係る車両の実施態様について説明する。
【0227】
図11は、第6実施形態に係る車両における電気系統に関する制御システムの一例を概略的に示した図である。図11に示す車両400は、電気自動車である。
【0228】
図11に示す車両400は、車両本体40と、車両用電源41と、車両用電源41の上位の制御装置である車両ECU(ECU:Electric Control Unit;電気制御装置)42と、外部端子(外部電源に接続するための端子)43と、インバータ44と、駆動モータ45とを備えている。
【0229】
車両400は、車両用電源41を、例えばエンジンルーム、自動車の車体後方又は座席の下に搭載している。なお、図11に示す車両400では、車両用電源41の搭載箇所については概略的に示している。
【0230】
車両用電源41は、複数(例えば3つ)の電池パック300a、300b及び300cと、電池管理装置(BMU:Battery Management Unit)411と、通信バス412とを備えている。
【0231】
電池パック300aは、組電池200aと組電池監視装置301a(例えば、VTM:Voltage Temperature Monitoring)とを備えている。電池パック300bは、組電池200bと組電池監視装置301bとを備えている。電池パック300cは、組電池200cと組電池監視装置301cとを備えている。電池パック300a-300cは、前述の電池パック300と同様の電池パックであり、組電池200a-200cは、前述の組電池200と同様の組電池である。組電池200a-200cは、電気的に直列に接続されている。電池パック300a、300b、及び300cは、それぞれ独立して取り外すことが可能であり、別の電池パック300と交換することができる。
【0232】
組電池200a-200cのそれぞれは、直列に接続された複数の単電池を備えている。複数の単電池の少なくとも1つは、第2実施形態に係る二次電池である。組電池200a-200cは、それぞれ、正極端子413及び負極端子414を通じて充放電を行う。
【0233】
電池管理装置411は、組電池監視装置301a-301cとの間で通信を行い、車両用電源41に含まれる組電池200a-200cに含まれる単電池100のそれぞれについて電圧及び温度などに関する情報を収集する。これにより、電池管理装置411は、車両用電源41の保全に関する情報を収集する。
【0234】
電池管理装置411と組電池監視装置301a-301cとは、通信バス412を介して接続されている。通信バス412では、1組の通信線が複数のノード(電池管理装置411と1つ以上の組電池監視装置301a-301cと)で共有されている。通信バス412は、例えばCAN(Control Area Network)規格に基づいて構成された通信バスである。
【0235】
組電池監視装置301a-301cは、電池管理装置411からの通信による指令に基づいて、組電池200a-200cを構成する個々の単電池の電圧及び温度を計測する。ただし、温度は1つの組電池につき数箇所だけで測定することができ、全ての単電池の温度を測定しなくてもよい。
【0236】
車両用電源41は、正極端子413と負極端子414との間の電気的な接続の有無を切り替える電磁接触器(例えば図11に示すスイッチ装置415)を有することもできる。スイッチ装置415は、組電池200a-200cへの充電が行われるときにオンになるプリチャージスイッチ(図示せず)、及び、組電池200a-200cからの出力が負荷へ供給されるときにオンになるメインスイッチ(図示せず)を含んでいる。プリチャージスイッチ及びメインスイッチのそれぞれは、スイッチ素子の近傍に配置されたコイルに供給される信号によりオン又はオフに切り替わるリレー回路(図示せず)を備えている。スイッチ装置415等の電磁接触器は、電池管理装置411又は車両400全体の動作を制御する車両ECU42からの制御信号に基づいて、制御される。
【0237】
インバータ44は、入力された直流電圧を、モータ駆動用の3相の交流(AC)の高電圧に変換する。インバータ44の3相の出力端子は、駆動モータ45の各3相の入力端子に接続されている。インバータ44は、電池管理装置411又は車両全体の動作を制御するための車両ECU42からの制御信号に基づいて、制御される。インバータ44が制御されることにより、インバータ44からの出力電圧が調整される。
【0238】
駆動モータ45は、インバータ44から供給される電力により回転する。駆動モータ45の回転によって発生する駆動力は、例えば差動ギアユニットを介して車軸および駆動輪Wに伝達される。
【0239】
また、図示はしていないが、車両400は、回生ブレーキ機構(リジェネレータ)を備えている。回生ブレーキ機構は、車両400を制動した際に駆動モータ45を回転させ、運動エネルギーを電気エネルギーとしての回生エネルギーに変換する。回生ブレーキ機構で回収した回生エネルギーは、インバータ44に入力され、直流電流に変換される。変換された直流電流は、車両用電源41に入力される。
【0240】
車両用電源41の負極端子414には、接続ラインL1の一方の端子が接続されている。接続ラインL1の他方の端子は、インバータ44の負極入力端子417に接続されている。接続ラインL1には、負極端子414と負極入力端子417との間に電池管理装置411内の電流検出部(電流検出回路)416が設けられている。
【0241】
車両用電源41の正極端子413には、接続ラインL2の一方の端子が、接続されている。接続ラインL2の他方の端子は、インバータ44の正極入力端子418に接続されている。接続ラインL2には、正極端子413と正極入力端子418との間にスイッチ装置415が設けられている。
【0242】
外部端子43は、電池管理装置411に接続されている。外部端子43は、例えば、外部電源に接続することができる。
【0243】
車両ECU42は、運転者などの操作入力に応答して電池管理装置411を含む他の管理装置及び制御装置とともに車両用電源41、スイッチ装置415、及びインバータ44等を協調制御する。車両ECU42等の協調制御によって、車両用電源41からの電力の出力及び車両用電源41の充電等が制御され、車両400全体の管理が行われる。電池管理装置411と車両ECU42との間では、通信線により、車両用電源41の残容量など、車両用電源41の保全に関するデータ転送が行われる。
【0244】
第6の実施形態に係る車両は、第5の実施形態に係る電池パックを搭載している。それ故、本実施形態によれば、優れた急速充放電特性及びサイクル寿命特性を示すことができる電池パックを搭載した車両を提供することができる。
【0245】
[実施例]
以下に実施例を説明するが、実施形態は、以下に記載される実施例に限定されるものではない。
【0246】
(実施例1~6)
以下に説明する固相合成法により電極材料を合成した。
まず、Nb10Ti229が得られるように、Nb25粒子及びTiO2粒子のモル比を5:2として乾式ボールミルによる混合を行った。得られた粉末をアルミナ坩堝に入れ、800℃の温度で10時間に亘り加熱したのち、粉砕混合を行い再び800℃の温度で10時間に亘り仮焼成(第1の焼成)を行い、前駆体粒子を得た。実施例1では、得られる活物質粒子に対して元素Kが100ppmとなるように、炭酸カリウム(K2CO3)を前駆体粒子に添加し、純水を用いて湿式混合を行って湿式混合物を得た。同様にして、実施例2では200ppm、実施例3では500ppm、実施例4では1000ppm、実施例5では1500ppm、実施例6では2000ppmとなるように、それぞれ、炭酸カリウムを添加した。
【0247】
次に、前駆体粒子とK2CO3との湿式混合物を、本焼成(第2の焼成)にて1150℃の温度で3時間に亘り焼成した。このようにして得られた粉末を直径10mmの粉砕メディアを使用するメノウ製ボールミルを用いて、500rpm、30分の条件で粉砕を行うことで、実施例1~6に係る電極材料を得た。
【0248】
(実施例7)
得られる活物質粒子に対して元素Feが500ppmとなるように塩化鉄(FeCl)を添加したことを除いて、実施例1と同様の方法で電極材料を合成した。
【0249】
(実施例8)
得られる活物質粒子に対して元素Pが500ppmとなるようにオルトリン酸(HPO)を添加したことを除いて、実施例1と同様の方法で電極材料を合成した。
【0250】
(実施例9~12)
粒度分布を調整するために、実施例3に記載したのと同様の方法で合成した電極材料の粉砕条件を変更した。
【0251】
実施例9では、メノウ製ボールミルによる粉砕時間を15分に短縮した。実施例10にでは、メノウ製ボールミルの際に、粉砕メディアとして直径10mm及び直径5mmのメディアを体積比1:1で含むものを用いて、60分に亘る粉砕を行った。実施例11では、まず、本焼成後に得られた粉末を乳鉢にて粗粉砕した後、粗粉砕後の試料を水に分散し、沈降分離することでD90の大きい粒子を集めた。こうして集めたD90の大きい粒子を、実施例3で得られた粒子と混合して電極材料を得た。実施例12では、まず、実施例3に従って得られた電極材料を遠心分離に供してD10の小さな粒子を捕集した。こうして集めたD10の小さな粒子を、実施例3で得られた粒子と混合して電極材料を得た。
【0252】
(実施例13~18)
ニオブチタン複合酸化物として、下記表1の「複合酸化物組成」の列に示した組成が得られるようにNb25粒子及びTiO2粒子のモル比を調整して混合し、且つ、元素Aの濃度が表1の「元素A/濃度」の列に示す濃度となるように、炭酸カリウム(K2CO3)、塩化鉄(FeCl)及びオルトリン酸(HPO)からなる群より選択される少なくとも1種を添加したことを除いて、実施例1と同様の方法で電極材料を合成した。
【0253】
(実施例19~32)
ニオブチタン複合酸化物として、下記表1及び表3の「複合酸化物組成」の列に示した組成が得られるようにNb25粒子、TiO2粒子及びTa25粒子のモル比を調整して混合し、且つ、元素Aの濃度が表1の「元素A/濃度」の列に示す濃度となるように、炭酸カリウム(K2CO3)、塩化鉄(FeCl)及びオルトリン酸(HPO)からなる群より選択される少なくとも1種を添加したことを除いて、実施例1と同様の方法で電極材料を合成した。
【0254】
(実施例33)
ニオブチタン複合酸化物として、NbSn0.5Ti0.5が得られるように、Nb25粒子、TiO2粒子及びSnO2粒子のモル比を調整して混合し、且つ、元素Aの濃度が表1の「元素A/濃度」の列に示す濃度となるように、炭酸カリウム(K2CO3)及びオルトリン酸(HPO)を添加したことを除いて、実施例1と同様の方法で電極材料を合成した。
【0255】
(実施例34)
ニオブチタン複合酸化物として、Nb9.50.5ZrTiO29が得られるように、Nb25粒子、TiO2粒子、V25粒子及びZrO2粒子のモル比を調整して混合し、且つ、元素Aの濃度が表1の「元素A/濃度」の列に示す濃度となるように、炭酸カリウム(K2CO3)及びオルトリン酸(HPO)を添加したことを除いて、実施例1と同様の方法で電極材料を合成した。
【0256】
(実施例35)
ニオブチタン複合酸化物として、Nb12.9TaW0.1Ti0.9Hf0.137が得られるように、Nb25粒子、TiO2粒子、Ta25粒子、WO3粒子及びHfO2粒子のモル比を調整して混合し、且つ、元素Aの濃度が表1の「元素A/濃度」の列に示す濃度となるように、炭酸カリウム(K2CO3)及びオルトリン酸(HPO)を添加したことを除いて、実施例1と同様の方法で電極材料を合成した。
【0257】
(実施例36)
ニオブチタン複合酸化物として、Nb11.5Ta2.5Ti0.6Zr0.437が得られるように、Nb25粒子、TiO2粒子、Ta25粒子及びZrO2粒子のモル比を調整して混合し、且つ、元素Aの濃度が表1の「元素A/濃度」の列に示す濃度となるように、炭酸カリウム(K2CO3)及びオルトリン酸(HPO)を添加したことを除いて、実施例1と同様の方法で電極材料を合成した。
【0258】
(実施例37)
ニオブチタン複合酸化物として、Nb19Ta4.9Mo0.1Ti0.7Sn0.362が得られるように、Nb25粒子、TiO2粒子、Ta25粒子、MoO3粒子及びSnO2粒子のモル比を調整して混合し、且つ、元素Aの濃度が表1の「元素A/濃度」の列に示す濃度となるように、炭酸カリウム(K2CO3)及びオルトリン酸(HPO)を添加したことを除いて、実施例1と同様の方法で電極材料を合成した。
【0259】
(比較例1~4)
Nb10Ti229が得られるように、Nb25粒子とTiO2粒子のモル比を5:2として乾式ボールミルによる混合を行った。得られた粉末をアルミナ坩堝に入れ、800℃の温度で10時間に亘り加熱したのち、粉砕混合を行い再び800℃の温度で10時間に亘り仮焼成(第1の焼成)を行った。得られた前駆体粒子に対して、比較例1では元素Aの供給源を添加せずに(何も添加せず)、1150℃の温度で3時間に亘る本焼成に供した。
【0260】
比較例2では、仮焼成後に得られた前駆体粒子に対して、元素Kの濃度が50ppmとなるように炭酸カリウムを添加し、純水を用いて湿式混合を行って湿式混合物を得た。その後、湿式混合物を1150℃の温度で3時間に亘る本焼成に供した。
【0261】
同様にして、比較例3では2200ppmとなるように炭酸カリウムを添加し、湿式混合を行った後、本焼成に供した。また、比較例4では、仮焼成後に得られた前駆体粒子に対して、元素Naの濃度が500ppmとなるように炭酸ナトリウム(Na2CO3)を添加し、湿式混合を行った後、本焼成に供した。
【0262】
比較例1~4のそれぞれにおいて、本焼成後に得られた粉末を、10mmφのメノウ製ボールミルを用いて、500rpm、30分の条件で粉砕を行うことで、比較例1~4に係る電極材料を得た。
【0263】
(比較例5~7)
ニオブチタン複合酸化物として、表1の「複合酸化物組成」の列に示した組成が得られるようにNb25粒子及びTiO2粒子のモル比を調整して混合し、乾式ボールミルによる粉砕混合を行った。得られた粉末をアルミナ坩堝に入れ、1150℃の温度で12時間に亘り焼成し、ニオブチタン複合酸化物粉末を得た。このニオブチタン複合酸化物粉末を、直径10mmの粉砕メディアを使用したメノウ製ボールミルに供して、D50が3μm程度となるように粉砕を行い、比較例5~7に係る電極材料を得た。
【0264】
(比較例8)
ニオブチタン複合酸化物として、Nb2.01Ta0.001Ti0.989が得られるように、Nb25粒子、TiO2粒子及びTa25粒子のモル比を調整して混合したことを除いて、比較例5と同様の方法で電極材料を合成した。
【0265】
(比較例9)
ニオブチタン複合酸化物として、Nb11.5Ta2.5Ti0.6Zr0.437が得られるように、Nb25粒子、TiO2粒子、Ta25粒子及びZrO2粒子のモル比を調整して混合したことを除いて、比較例5と同様の方法で電極材料を合成した。
【0266】
(比較例10)
Nb/Ti比が2であるNb2TiO7が得られるように、Nb25粒子及びTiO2粒子を1:1のモル比で使用し、乾式ボールミルによる混合を行った。得られた粉末をアルミナ坩堝に入れ、800℃の温度で10時間に亘り加熱したのち、粉砕混合を行い再び800℃の温度で10時間に亘り仮焼成(第1の焼成)を行った。得られた前駆体粒子に、得られる活物質粒子に対して元素Kが500ppmとなるように炭酸カリウム(K2CO3)を添加し、純水を用いて湿式混合を行って湿式混合物を得た。次に、前駆体粒子とK2CO3との湿式混合物を、本焼成(第2の焼成)にて1150℃の温度で3時間に亘り焼成した。このようにして得られた粉末を直径10mmの粉砕メディアを使用するメノウ製ボールミルを用いて、D50が3μm程度となるまで粉砕を行うことで、比較例10に係る電極材料を得た。
【0267】
<ICP分析>
各実施例及び各比較例にて得られた電極材料に対して、ICP分析を実施して、ニオブチタン複合酸化物の平均組成、元素Aの種類及び濃度を確認した。これらの結果を下記表1及び表3に示す。
【0268】
<粉末X線回折測定及びピーク強度比I/Iの算出>
各実施例及び各比較例にて得られた電極材料に対して、サンプリング間隔0.01°、スキャン速度2°/minの条件で、第1の実施形態において説明した粉末X線回折測定を行った。得られた回折図において、単斜晶型Nb2TiO7に帰属される相においては、2θ=44°±1.0°の範囲内に、高角側に出現するP及び低角側に出現するPの2本のピークが現れた。これらのピーク強度比(I/I)を算出した。また、単斜晶型Nb10Ti229相、単斜晶型Nb14TiO37相及び単斜晶型Nb24TiO62においても同様に、ピーク強度比(IH/IL)を算出した。更に、回折図に対してリートベルト法による解析を行って結晶子径を調べた。これらの結果を表1及び表3に示す。
【0269】
<電極材料のSEM-EDX観察>
各実施例及び各比較例にて得られた電極材料を樹脂に埋め込み、イオンミリングで検体内部を削り出した。その後、検体内部を観察し、各例に係る活物質粒子の粒子界面における元素Aの存在濃度を確認した。その結果、実施例1~37及び比較例2~4において、元素Aの存在濃度が粒子界面において最も高かった。
【0270】
<レーザー回折散乱法>
各実施例及び各比較例にて得られた電極材料について、レーザー回折散乱法による粒度分布測定を実施し、D10、D50及びD90を求めた。また、これらの値から、比(D10/D50)及び比(D50/D90)を算出した。これらの結果を表2及び表4に示す。
【0271】
<電気化学測定>
各実施例及び各比較例にて得られた電極材料を使用して、各例に係る電気化学測定用セルを作製した。
【0272】
各例で得られた電極材料粉末100質量%、導電剤としてアセチレンブラック10質量%、及び、カーボンナノファイバー5質量%、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)10質量%をN-メチルピロリドン(NMP)に加えて混合してスラリーを得た。このスラリーを厚さ12μmのアルミニウム箔からなる集電体の片面に塗布し、乾燥後プレスすることにより電極密度2.4g/cm3の電極を作製した。
【0273】
一方、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比1:2で混ぜた混合溶媒に、LiPF支持塩を1mol/Lの濃度で溶解させることにより電解液を調製した。
【0274】
得られた電極を作用極とし、対極及び参照極をLi金属とし、電解液を用いた三電極式ビーカーセルを作製して、後述の通り電気化学特性を評価した。
【0275】
本実施例において、この測定用の三電極式ビーカーセルでは、リチウム金属を対極としているため、実施例および比較例の電極電位は対極に比して貴となるため正極として作動する。このため、実施例および比較例の電極を負極として用いたときの充放電の定義は反対になる。ここで、混乱を避けるため、本実施例では、電極にリチウムイオンが挿入される方向を充電、脱離する方向を放電という呼称で統一する。なお、本実施形態の活物質は、公知の正極材料と組み合わせることで負極として作動する。
【0276】
作製した電気化学測定用セルを、金属リチウム電極基準で1.0V~3.0Vの電位範囲で充放電させた。充放電電流値を0.2C(時間放電率)とし、室温にて0.2C放電容量の確認を行った。0.2C放電容量の値は、エネルギー密度の指標となる。また、急速放電特性を調べるため、0.2C放電容量確認後に再び充電電流値を0.2Cとして充電し、室温にて5Cの急速放電容量の確認を行った。そして、5C放電容量を0.2C放電容量で除すことにより、放電容量比(5C/0.2C)を求めた。放電容量比(5C/0.2C)は、急速充放電特性を評価する指標となる。
【0277】
次に、実施例に係る電極材料(負極材料)が安定的に充放電可能であることを確認するため、実施例及び比較例のセルに、金属リチウム電極基準で1.0V~3.0Vの電位範囲で0.2C充放電を繰り返す寿命試験を45℃環境下で行った。この条件で100サイクル繰り返し充放電を行い(充電及び放電で1サイクルとする)、100サイクル後の放電容量維持率を調べた。100サイクル後の放電容量維持率を確認するため、再び0.2C(時間放電率)で充放電を行い、100サイクル後の放電容量を初回放電容量で除して100を掛けることにより、初回放電容量を100%とした場合のサイクル容量維持率(%)を算出した。100サイクル後の放電容量維持率は、サイクル寿命特性を評価する指標となる。以上の結果を表2及び表4にまとめる。
【0278】
【表1】
【0279】
【表2】
【0280】
【表3】
【0281】
【表4】
【0282】
表1及び表3に記載している「一般式中のx、y、z量」の列について説明する。
該当する例に係るニオブチタン複合酸化物を構成する結晶相が「単斜晶型Nb2TiO7」の場合には、第1実施形態にて記載した一般式Nb2M2zTi1-z7におけるz量を示す。ここで、M2は、Nb、Ta、Zr、Hf及びSnからなる群より選択される少なくとも1種の添加元素であり、zは0<z<1を満たす。
【0283】
また、該当する例に係るニオブチタン複合酸化物を構成する結晶相が「単斜晶型Nb10Ti229」の場合には、第1実施形態にて記載した一般式Nb10-xM1xTi2-yM2y29におけるx量及びy量を示す。該当する例に係るニオブチタン複合酸化物を構成する結晶相が「単斜晶型Nb14TiO37」の場合には、第1実施形態にて記載した一般式Nb14-xM1xTi1-yM2y37におけるx量及びy量を示す。該当する例に係るニオブチタン複合酸化物を構成する結晶相が「単斜晶型Nb24TiO62」の場合には、第1実施形態にて記載した一般式Nb24-xM1xTi1-yM2y62におけるx量及びy量を示す。上記一般式中、M1はTa、Ti、V、Mo及びWからなる群より選択される少なくとも1種の添加元素であり、M2は、Nb、Ta、Zr、Hf及びSnからなる群より選択される少なくとも1種の添加元素であり、xは0≦x≦5を満たし、yは0≦y<1.0を満たす。
【0284】
表1~4より、以下の事項を読み取ることができる。
実施例1~6においては元素A(ここではK)の濃度が増えるごとに粉砕が容易になる傾向が示されている。例えば、元素Aの濃度が増えるごとに、D10、D50及びD90は小さくなる傾向があった。また、実施例1~6のD10の値から、0.2μm以下の微粉末の混入が抑制されていることが分かる。
【0285】
実施例7~8では、元素AとしてFe又はPを含む場合にも、Kを含む場合と同等の効果が得られたことが示されている。
【0286】
実施例9ではD10が2.0μmよりも大きいため、他の実施例に比して急速放電性能が劣ることが分かる。一方、実施例10ではD10が0.3μmよりも小さいため、急速放電性能が優れているものの、他の実施例に比してサイクル寿命性能が劣ることが分かる。
【0287】
これと同様に、実施例11ではD90が30μmよりも大きいため、他の実施例に比して急速放電性能が劣ることが分かる。一方、実施例12ではD90が5μmよりも小さいため、他の実施例に比してサイクル寿命性能が劣る傾向があったことが分かる。
【0288】
実施例13~18では、Nb/Ti比が2より大きく且つ5以外であるニオブチタン複合酸化物を含む電極材料である場合にも、元素Aを100ppm~2000ppmの濃度で含有していることにより、優れた急速充放電特性及びサイクル寿命特性を示したことが分かる。
【0289】
実施例19~32では、ニオブチタン複合酸化物の結晶中に更にTaが挿入されることにより、優れた急速充放電特性及びサイクル寿命特性を維持しつつ、充放電容量がより大きくなる傾向があったことを示している。
【0290】
実施例33~37では、ニオブチタン複合酸化物が、Nb、Ti及びTa以外の異種元素を含むことで、急速充放電特性が高くなる傾向があったことが分かる。
【0291】
比較例1及び5~9に係る電極材料は、Nb/Ti比が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物を含んでいたものの、元素Aを含んでいなかった。その結果、実施例と比較して結晶子径が小さく、また、D10も小さかったことから、粉砕時に微粉末が多く生じた。それ故、放電容量、急速充放電特性及びサイクル寿命特性のいずれも、実施例と比較して低かった。
【0292】
比較例2及び3に示すように、元素Aを100ppm~2000ppmの濃度で含有しない電極材料は、優れた電池特性を有していなかった。例えば、比較例3ではKの濃度が過度に高かったため、特定の結晶軸のみが成長して粗大粒子が多く含まれていた。その結果、急速充放電特性及びサイクル寿命特性のみならず、放電容量も低かった。
【0293】
比較例4に示すように、電極材料がNaを500ppmの濃度で含有していても、急速充放電特性及びサイクル寿命特性は向上しなかった。
【0294】
比較例10に示すように、Nb/Ti比が2の場合には、元素AとしてのKを500ppmの濃度で含んでいても、急速充放電特性及びサイクル寿命特性の向上は見られなかった。これは、もともとNb/Ti比が2の組成においては、粒子成長による凝集粒子が生成しにくいこと、及び、それによって粉砕時の微粉も生じにくいことから、K添加の効果が見えにくいためと考えられる。
【0295】
以上説明した少なくとも1つの実施形態及び実施例によると、電極材料が提供される。電極材料は、チタンに対するニオブのモル比(MNb/MTi)が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物と、カリウム、鉄及びリンからなる群より選択される少なくとも1種の元素Aとを含む活物質粒子を具備する。活物質粒子は、元素Aを100ppm~2000ppmの範囲内の濃度で含有する。この電極材料は、結晶性が高く基本骨格が安定な活物質粒子を含み、微粉末の割合が低いため、優れた急速充放電特性及びサイクル寿命特性を示すことができる。
【0296】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] チタンに対するニオブのモル比(M Nb /M Ti )が2より大きい平均組成を有するニオブチタン複合酸化物と、
カリウム、鉄及びリンからなる群より選択される少なくとも1種の元素Aと、
を含む活物質粒子を具備し、
前記活物質粒子は、前記元素Aを100ppm~2000ppmの範囲内の濃度で含有する電極材料。
[2] 前記ニオブチタン複合酸化物は、チタンに対するニオブのモル比(M Nb /M Ti )が2より大きい組成を有するNb 2 TiO 7 相、Nb 10 Ti 2 29 相、Nb 14 TiO 37 相及びNb 24 TiO 62 相からなる群より選択される少なくとも1種の結晶相からなる[1]に記載の電極材料。
[3] 前記ニオブチタン複合酸化物は、チタンに対するニオブのモル比(M Nb /M Ti )が2より大きい組成を有するNb 2 TiO 7 相を含み、
前記ニオブチタン複合酸化物に対する、Cu-Kα線源を用いた粉末X線回折により得られる回折図は、2θ=44°±1.0°の範囲内に、高角側ピークP H と低角側ピークP L とを有しており、
前記低角側ピークP L のピーク強度I L に対する、前記高角側ピークP H のピーク強度I H の比(I H /I L )は1未満である[1]に記載の電極材料。
[4] 前記ニオブチタン複合酸化物は、Nb 10 Ti 2 29 相、Nb 14 TiO 37 相及びNb 24 TiO 62 相からなる群より選択される少なくとも1種の結晶相を含み、
前記ニオブチタン複合酸化物に対する、Cu-Kα線源を用いた粉末X線回折により得られる回折図は、2θ=44°±1.0°の範囲内に、高角側ピークP H と低角側ピークP L とを有しており、
前記低角側ピークP L のピーク強度I L に対する、前記高角側ピークP H のピーク強度I H の比(I H /I L )は1.5未満である[1]に記載の電極材料。
[5] 前記ニオブチタン複合酸化物の結晶子径は、95nm~130nmの範囲内にある[1]~[4]の何れか1項に記載の電極材料。
[6] 前記活物質粒子について、レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、D10は0.3μm~2.0μmの範囲内にある[1]~[5]の何れか1項に記載の電極材料。
[7] 前記活物質粒子について、レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、D90は5μm~30μmの範囲内にある[1]~[6]の何れか1項に記載の電極材料。
[8] 前記活物質粒子について、レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、D50に対するD10の比(D10/D50)が0.10~0.60の範囲内にあり、且つ、D90に対するD50の比(D50/D90)が0.20~0.50の範囲内にある[1]~[7]の何れか1項に記載の電極材料。
[9] 前記ニオブチタン複合酸化物は、一般式Nb 2 M2 z Ti 1-z 7 、一般式Nb 10-x M1 x Ti 2-y M2 y 29 、一般式Nb 14-x M1 x Ti 1-y M2 y 37 、及び、一般式Nb 24-x M1 x Ti 1-y M2 y 62 からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含み、
前記M1はTa、Ti、V、Mo及びWからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、前記M2は、Nb、Ta、Zr、Hf及びSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、前記xは0≦x≦5を満たし、前記yは0≦y<1.0を満たし、前記zは0<z<1を満たす[1]~[8]の何れか1項に記載の電極材料。
[10] [1]~[9]の何れか1項に記載の電極材料を含む電極。
[11] 前記電極は、前記電極材料を含む活物質含有層を含む[10]に記載の電極。
[12] 正極と、
負極と、
電解質とを具備する二次電池であって、
前記負極は、[10]又は[11]に記載の電極である二次電池。
[13] [12]に記載の二次電池を具備する電池パック。
[14] 通電用の外部端子と、
保護回路とを更に含む[13]に記載の電池パック。
[15] 複数の前記二次電池を具備し、前記二次電池が直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている[13]又は[14]に記載の電池パック。
[16] [13]~[15]の何れか1項に記載の電池パックを搭載した車両。
[17] 前記車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含む[16]に記載の車両。
【符号の説明】
【0297】
1…電極群、2…外装部材、3…電極(負極)、3a…集電体(負極集電体)、3b…負極活物質含有層、3c…負極集電タブ、4…セパレータ、5…正極、5a…正極集電体、5b…正極活物質含有層、6…負極端子、7…正極端子、21…バスバー、22…正極側リード、22a…他端、23…負極側リード、23a…他端、24…粘着テープ、31…収容容器、32…蓋、33…保護シート、34…プリント配線基板、35…配線、40…車両本体、41…車両用電源、42…電気制御装置、43…外部端子、44…インバータ、45…駆動モータ、100…二次電池、101…金属イオン、102…酸化物イオン、103…骨格構造部分、104…空隙部分、105及び106…二次元的なチャネルを有する部分、107…空隙部分、200…組電池、200a…組電池、200b…組電池、200c…組電池、300…電池パック、300a…電池パック、300b…電池パック、300c…電池パック、301a…組電池監視装置、301b…組電池監視装置、301c…組電池監視装置、342…正極側コネクタ、343…負極側コネクタ、345…サーミスタ、346…保護回路、342a…配線、343a…配線、350…通電用の外部端子、352…正側端子、353…負側端子、348a…プラス側配線、348b…マイナス側配線、400…車両、411…電池管理装置、412…通信バス、413…正極端子、414…負極端子、415…スイッチ装置、416…電流検出部、417…負極入力端子、418…正極入力端子、L1…接続ライン、L2…接続ライン、W…駆動輪。
図1
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