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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】ビニル系重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20240610BHJP
   C08F 20/10 20060101ALI20240610BHJP
   C08F 20/32 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
C08F8/00
C08F20/10
C08F20/32
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020096139
(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公開番号】P2021187989
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】加藤 泰央
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-172117(JP,A)
【文献】特開2011-074326(JP,A)
【文献】特開2016-153464(JP,A)
【文献】特開2008-081738(JP,A)
【文献】特開2010-254761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08K
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(a-1)1分子あたり0.7個以上、分子末端にラジカル重合性基を有し、かつ(a-2)主鎖中に、下記一般式(1)で表される構造を有するビニル系重合体:
【化1】
(一般式(1)中、Aはオキシカルボニル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、およびアミノ基からなる群から選択される1つ以上を有する有機基またはハロゲン基を表し、Rは水素または炭素数1~20のアルキル基を表し、pは0以上の整数を表す。)。
【請求項2】
前記ラジカル重合性基が下記一般式(3)で表される基である、請求項1に記載のビニル系重合体:
【化2】
(一般式(3)中、Rは水素または炭素数1~20のアルキル基を表す。)。
【請求項3】
数平均分子量が1000以上である、請求項1または2に記載のビニル系重合体。
【請求項4】
サイズ排除クロマトグラフィーで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値が1.8未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載のビニル系重合体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のビニル系重合体を含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
(a)主鎖中に下記一般式(2)で表される構造を有する重合体Xの分子末端にラジカル重合性基を導入する工程、および、
(b)下記一般式(2)で表される構造と、カルボン酸化合物、ヒドロキシ化合物、アミン化合物およびハロゲン化水素から成る群より選択される1つ以上の化合物とを反応させることにより、下記一般式(1)で表される構造を形成する工程、をこの順で含む、ビニル系重合体の製造方法:
【化3】
(一般式(2)中、Rは水素または炭素数1~20のアルキル基を表し、pは0以上の整数を表す。);および
【化4】
(一般式(1)中、Aはオキシカルボニル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、およびアミノ基からなる群から選択される1つ以上を有する有機基またはハロゲン基を表し、Rは水素または炭素数1~20のアルキル基を表し、pは0以上の整数を表す。)。
【請求項7】
リビングラジカル重合により前記重合体Xを調製する重合体X調製工程をさらに有する、請求項6に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項8】
前記重合体X調製工程では、触媒として銅錯体、ニッケル錯体、ルテニウム錯体および鉄錯体からなる群より選択される1つ以上の錯体を使用する、請求項7に記載のビニル系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビニル系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル系重合体は、耐候性、耐熱性、耐油性、透明性等を有するため、様々な用途に用いられている。
【0003】
ビニル系重合体として、例えば、分子末端に重合性官能基を有するビニル系重合体(特許文献1)および側鎖に架橋性官能基を有するビニル系重合体(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-072816号公報
【文献】特開2002-060449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は、(a)ビニル系重合体が側鎖に有する官能基の種類、および(b)分子末端の重合性官能基と側鎖における官能基の種類の多様性との両立、という観点から、さらなる改善の余地があった。
【0006】
本発明の一実施形態は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、(a)側鎖に有する官能基の種類が異なる複数種の新規なビニル系重合体、および(b)分子末端に重合性官能基を有し、かつ側鎖に有する官能基の種類が異なる複数種の新規なビニル系重合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、本発明者らは本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下のような構成を有する。
【0009】
〔1〕(a)(a-1)1分子あたり0.5個以上、分子末端にラジカル重合性基を有し、かつ(a-2)主鎖中に、下記一般式(1)で表される構造および/もしくは下記一般式(2)で表される構造を有するか、または(b)(b-1)1分子あたり0.5個以上、分子末端にハロゲン基を有し、かつ(b-2)主鎖中に下記一般式(1)で表される構造を有するビニル系重合体:
【0010】
【化1】
【0011】
(一般式(1)中、Aはオキシカルボニル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、およびアミノ基からなる群から選択される1つ以上を有する有機基またはハロゲン基を表し、Rは水素または炭素数1~20のアルキル基を表し、pは0以上の整数を表す。);および
【0012】
【化2】
【0013】
(一般式(2)中、Rは水素または炭素数1~20のアルキル基を表し、pは0以上の整数を表す。)。
〔2〕前記ラジカル重合性基が下記一般式(3)で表される基である、〔1〕に記載のビニル系重合体:
【0014】
【化3】
【0015】
(一般式(3)中、Rは水素または炭素数1~20のアルキル基を表す。)。
〔3〕数平均分子量が1000以上である、〔1〕または〔2〕に記載のビニル系重合体。
〔4〕サイズ排除クロマトグラフィーで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値が1.8未満である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載のビニル系重合体。
〔5〕〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載のビニル系重合体を含む、硬化性樹脂組成物。
〔6〕(a)主鎖中に下記一般式(2)で表される構造を有する重合体Xの分子末端にラジカル重合性基を導入する工程、および/または、(b)下記一般式(2)で表される構造と、カルボン酸化合物、ヒドロキシ化合物、アミン化合物およびハロゲン化水素から成る群より選択される1つ以上の化合物とを反応させることにより、下記一般式(1)で表される構造を形成する工程、を含む、ビニル系重合体の製造方法:
【0016】
【化4】
【0017】
(一般式(2)中、Rは水素または炭素数1~20のアルキル基を表し、pは0以上の整数を表す。);および
【0018】
【化5】
【0019】
(一般式(1)中、Aはオキシカルボニル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、およびアミノ基からなる群から選択される1つ以上を有する有機基またはハロゲン基を表し、Rは水素または炭素数1~20のアルキル基を表し、pは0以上の整数を表す。)。
〔7〕リビングラジカル重合により前記重合体Xを調製する重合体X調製工程をさらに有する、〔6〕に記載のビニル系重合体の製造方法。
〔8〕前記重合体X調製工程では、触媒として銅錯体、ニッケル錯体、ルテニウム錯体および鉄錯体からなる群より選択される1つ以上の錯体を使用する、〔7〕に記載のビニル系重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一実施形態によれば、(a)側鎖に有する官能基の種類が異なる複数種のビニル系重合体、および(b)分子末端に重合性官能基を有し、かつ側鎖に有する官能基の種類が異なる複数種のビニル系重合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0022】
〔本発明の一実施形態の技術的思想〕
ビニル系重合体に様々な官能基を導入することにより、官能基の種類に応じた様々な物性を有するビニル系重合体を提供できる。しかしながら、従来、ビニル系重合体に様々な官能基を導入することは困難であった。なぜなら、一般的に、重合方法により使用できる単量体に制限があり、所望の官能基を有する単量体を所望する重合方法により重合することが容易でないためである。
【0023】
例えば、ラジカル重合でビニル系重合体を製造する場合、ラジカル重合性基である(メタ)アクリロイル基をビニル系重合体に導入することは容易でなかった。また、リビングラジカル重合の場合、特に、使用できる単量体に制限があり、所望の官能基を有する単量体をリビングラジカル重合で使用することは容易でなかった。
【0024】
本発明者らは、上述の課題を鑑み、(a)側鎖に有する官能基の種類が異なる複数種の新規なビニル系重合体、および(b)分子末端に重合性官能基を有し、かつ側鎖に有する官能基の種類が異なる複数種の新規なビニル系重合体を提供することを目的として鋭意検討を行った。その結果、分子末端にハロゲン基を有し、かつ側鎖にエポキシ基を有する重合体を用いれば、前記課題を達成できることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。以下、本発明の一実施形態について詳説する。
【0025】
〔ビニル系重合体〕
本発明の一実施形態に係るビニル系重合体は、(a)(a-1)1分子あたり0.5個以上、分子末端にラジカル重合性基を有し、かつ(a-2)主鎖中に、下記一般式(1)で表される構造および/もしくは下記一般式(2)で表される構造を有するか、または
(b)(b-1)1分子あたり0.5個以上、分子末端にハロゲン基を有し、かつ(b-2)主鎖中に下記一般式(1)で表される構造を有する:
【0026】
【化6】
【0027】
(一般式(1)中、Aはオキシカルボニル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、およびアミノ基からなる群から選択される1つ以上を有する有機基またはハロゲン基を表し、Rは水素または炭素数1~20のアルキル基を表し、pは0以上の整数を表す。);および
【0028】
【化7】
【0029】
(一般式(2)中、Rは水素または炭素数1~20のアルキル基を表し、pは0以上の整数を表す。)。
【0030】
「本発明の一実施形態に係るビニル系重合体」を、以下「本ビニル系重合体」とも称する。「1分子あたり0.5個以上、分子末端にラジカル重合性基を有し、かつ主鎖中に、前記一般式(1)で表される構造および/もしくは前記一般式(2)で表される構造を有するビニル系重合体」を、以下、「第1のビニル系重合体」とも称する。「1分子あたり0.5個以上、分子末端にハロゲン基を有し、かつ主鎖中に下記一般式(1)で表される構造を有するビニル系重合体」を、以下、「第二のビニル系重合体」とも称する。また、「本ビニル系重合体」は、「第1のビニル系重合体」および「第二のビニル系重合体」を包含する。
【0031】
本ビニル系重合体は、前期構成を有するため、(a)側鎖に有する官能基の種類が異なる複数種のビニル系重合体であるか、または(b)分子末端に重合性官能基を有し、かつ側鎖に有する官能基の種類が異なる複数種のビニル系重合体である。本ビニル系重合体は側鎖に有する官能基の種類が多様であるため、官能基の種類に応じて様々な物性、反応性および機能を有する。
【0032】
本ビニル系重合体は、後述するように、当該ビニル系重合体を一成分(例えば主剤)として含む硬化性樹脂組成物を提供し得る。本ビニル系重合体を含む硬化性樹脂組成物を硬化させることにより、硬化物を得ることができる。本ビニル系重合体が有する官能基は、当該ビニル系重合体を含む硬化性樹脂組成物、および当該硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物の物性、機能などにも影響を与え得る。
【0033】
(主鎖)
本ビニル系重合体は、構成単位としてビニル系単量体に由来する構成単位を含み、すなわち、当該ビニル系重合体の主鎖は、ビニル系単量体に由来する構成単位から構成される。
【0034】
主鎖を構成する構成単位の由来となるビニル系単量体としては、ビニル基を有する限りとくに限定はない。当該ビニル系単量体としては、(メタ)アクリル酸系単量体、スチレン系単量体、マレイミド系単量体、塩素含有ビニル系単量体、フッ素含有ビニル系単量体、ケイ素含有ビニル系単量体、二トリル基含有ビニル系単量体、アミド基含有ビニル系単量体、ビニルエステル類、アルケン類、共役ジエン類などが好適に挙げられる。なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸」は、「メタクリル酸」と「アクリル酸」とを包含する。
【0035】
(メタ)アクリル酸系単量体としては、とくに限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸-tert-ブチル、(メタ)アクリル酸-n-ペンチル、(メタ)アクリル酸-n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸-n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸-n-オクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、γ-((メタ)アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロメチル-2-パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルエチルなどが好適に挙げられる。
【0036】
スチレン系単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸の塩などが好適に挙げられる。
【0037】
マレイミド系単量体としては、特に限定されないが、例えば、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどが好適に挙げられる。
【0038】
塩素含有ビニル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリルなどが好適に挙げられる。
【0039】
フッ素含有ビニル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンなどが好適に挙げられる。
【0040】
ケイ素含有ビニル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどが好適に挙げられる。
【0041】
二トリル基含有ビニル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが好適に挙げられる。
【0042】
アミド基含有ビニル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミドなどが好適に挙げられる。
【0043】
ビニルエステル類としては、特に限定されないが、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニルなどが好適に挙げられる。
【0044】
アルケン類としては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレンなどが好適に挙げられる。
【0045】
共役ジエン類としては、特に限定されないが、例えば、ブタジエン、イソプレンなどが好適に挙げられる。
【0046】
主鎖を構成する構成単位の由来となるビニル系単量体としては、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル、マレイン酸のジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル、フマル酸のジアルキルエステルおよびアリルアルコールなども好適に挙げられる。
【0047】
本ビニル系重合体は、上述したビニル系単量体のうち1種のビニル系単量体に由来する構成単位のみを含んでいてもよいし、上述したビニル系単量体のうち2種以上の任意のビニル系単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0048】
本ビニル系重合体に含まれる構成単位は、(a)得られるビニル系重合体に求めるガラス転移温度、(b)得られるビニル系重合体に求める耐油性および低温特性などの物性、並びに(c)得られるビニル系重合体と硬化性組成物が含む配合剤(例えば硬化剤など)との相溶性などの観点から、適宜選択され得る。
【0049】
本ビニル系重合体は、製造が容易であり、且つ物性等が優れることから、(メタ)アクリル酸系単量体およびスチレン系単量体からなる群から選択される1種以上のビニル系単量体に由来する構成単位を含むことが好ましく、(メタ)アクリル酸系単量体からなる群から選択される1種以上のビニル系単量体に由来する構成単位を含むことがより好ましく、アクリル酸-n-ブチルに由来する構成単位を含むことがさらに好ましい。
【0050】
得られるビニル系重合体が加工性に優れる点、コストが低い点および単量体の入手が容易である点から、本ビニル系重合体はメタアクリル酸メチルに由来する構成単位を含むことが好ましい。得られるビニル系重合体のガラス転移温度を高くできる点から、本ビニル系重合体はメタアクリル酸イソボルニル、メタアクリル酸シクロヘキシルなどに由来する構成単位を含むことが好ましい。得られるビニル系重合体の良好なゴム弾性および低温特性とコストとのバランスに優れる点から、本ビニル系重合体はアクリル酸-n-ブチルに由来する構成単位を含むことが好ましい。得られるビニル系重合体が耐油性に優れる点から、本ビニル系重合体はアクリル酸-n-ブチルに由来する構成単位を含むことが好ましい。得られるビニル系重合体が耐油性と低温特性とのバランスに優れる点から、本ビニル系重合体はアクリル酸-n-エチル、アクリル酸-n-ブチルおよびアクリル酸-2-メトキシエチルに由来する構成単位を含むことが好ましい。得られるビニル系重合体が低温特性に優れる点から、本ビニル系重合体はアクリル酸-2-エチルヘキシルに由来する構成単位を含むことが好ましい。
【0051】
本ビニル系重合体は、上述したビニル系単量体に由来する構成単位に加えて、上述したビニル系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。本ビニル系重合体は、全構成単位100モル%中、上述したビニル系単量体からなる群から選択される1種以上のビニル系単量体に由来する構成単位を40モル%以上含むことが好ましく、50モル%以上含むことがより好ましく、60モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことがより好ましく、80モル%以上含むことがより好ましく、90モル%以上含むことがさらに好ましく、95モル%以上含むことが特に好ましい。当該構成によると、本ビニル系重合体を高収率で得られるという利点を有する。
【0052】
本ビニル系重合体は、全構成単位100モル%中、(メタ)アクリル酸系単量体に由来する構成単位を40モル%以上含むことが好ましく、50モル%以上含むことがより好ましく、60モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことがより好ましく、80モル%以上含むことがより好ましく、90モル%以上含むことがさらに好ましく、95モル%以上含むことが特に好ましい。当該構成を有するビニル系重合体は、耐候性、耐熱性、耐油性および透明性に優れるという利点を有する。本明細書において、全構成単位100モル%中、(メタ)アクリル酸系単量体に由来する構成単位を50モル%以上含むビニル系重合体を、「(メタ)アクリル系重合体」とも称する。本ビニル系重合体は(メタ)アクリル系重合体であることが好ましいともいえる。
【0053】
(ラジカル重合性基)
第1のビニル系重合体は、1分子あたり0.5個以上、分子末端にラジカル重合性基を有する。本明細書において、「(第1の)ビニル系重合体は、1分子あたり0.5個以上、分子末端にラジカル重合性基を有する。」とは、(第1の)ビニル系重合体の集合体が、平均して、1分子あたり0.5個以上、分子末端にラジカル重合性基を有することを意図する。当該(第1の)ビニル系重合体の集合体に含まれる一つ一つの(第1の)ビニル系重合体は、分子末端にラジカル重合性基を、1分子あたり自然数の値で有し、例えば0個、1個または2個有する。「(第1の)ビニル系重合体の集合体に含まれる一つ一つの(第1の)ビニル系重合体」を、以下「(第1の)ビニル系重合体一個体」とも称する。本明細書では、ビニル系重合体の態様について、特に言及する場合を除き、複数のビニル系重合体の集合体の態様として説明する。
【0054】
第1のビニル系重合体一個体が分子末端に有するラジカル重合性基の数は、とくに限定されない。第1のビニル系重合体一個体の分子末端におけるラジカル重合性基の数は、1分子あたり1個以上であることが好ましく、2個以上であることがより好ましい。当該構成によると、第1のビニル系重合体一個体を含む硬化性樹脂組成物は硬化性が良好となるという利点を有する。第1のビニル系重合体一個体が、1分子あたり2個以上、分子末端にラジカル重合性基を有する場合、当該第1のビニル系重合体一個体は、例えば、分子末端の一方のみに2個以上のラジカル重合性基を有していてもよく、分子の両末端にそれぞれ1個以上ずつラジカル重合性基を有していてもよい。
【0055】
第1のビニル系重合体の分子末端におけるラジカル重合性基の数は、優れた硬化性を有する硬化性樹脂組成物を提供できることから、1分子あたり0.5個以上が好ましく、0.7個以上がより好ましく、1.0個以上がより好ましく、1.2個以上がより好ましく、1.5個以上が好ましく、1.7個以上がより好ましく、2.0個以上が特に好ましい。
【0056】
第1のビニル系重合体の分子末端におけるラジカル重合性基の数は、優れた柔軟性を有する硬化性樹脂組成物を提供できることから、1分子あたり4.0個以下が好ましく、3.0個以下がより好ましく、2.5個以下がより好ましく、2.3個以下がさらに好ましく、2.0個以下が特に好ましい。
【0057】
ラジカル重合性基としては、とくに限定されないが、炭素-炭素二重結合を有する官能基であることが好ましく、下記一般式(3)で表される基であることがより好ましい。当該構成によると、硬化が早く、高反応率で硬化が進行する硬化性樹脂組成物を提供できるという利点を有する。
【0058】
【化8】
【0059】
(一般式(3)中、Rは水素または炭素数1~20のアルキル基を表す。)。
【0060】
前記一般式(3)中、Rは水素および/またはメチル基であることが好ましい。換言すれば、ラジカル重合性基は、アクリロイル基および/またはメタアクリロイル基であることが好ましい。当該構成を有するビニル系重合体は汎用性が高いという利点を有する。
【0061】
(一般式(1)で表される構造)
第1のビニル系重合体は、主鎖中に一般式(1)で表される構造を有し得る。
【0062】
一般式(1)で表される構造は、下記一般式(4)で表される構造であってもよい。
【0063】
【化9】
【0064】
(一般式(4)中、Aはオキシカルボニル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、およびアミノ基からなる群から選択される1つ以上を有する有機基またはハロゲン基を表し、nは1以上の整数を表し、Rは水素または炭素数1~20のアルキル基を表し、pは0以上の整数を表す。)
一般式(1)および(4)中、Rは、水素および/またはメチル基が好ましい。当該構成によると、構成単位の由来となる単量体の汎用性と得られるビニル系重合体の安定性との両方に優れるという利点を有する。
【0065】
一般式(4)中、nは、1~300が好ましく、3~150がより好ましく、10~100が特に好ましい。当該構成によると、ビニル系重合体に導入された官能基(一般式(4)中のA)の特徴(特性)がビニル系重合体、硬化性樹脂組成物および硬化物にて十分に発揮されるとともに、ビニル系重合体本来の成形加工性が悪化しない、という利点を有する。
【0066】
一般式(1)および(4)中、pは、0~12が好ましく、0~6がより好ましく、0~3がさらに好ましく、1が特に好ましい。当該構成を有するビニル系重合体は汎用性が高いという利点を有する。
【0067】
一般式(1)および(4)中、Aは、(a)オキシカルボニル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基からなる群から選択される1つ以上を有する有機基、および/または(b)ハロゲン基であり、オキシカルボニル基、ヒドロキシ基およびハロゲン基であることが好ましく、オキシカルボニル基およびハロゲン基であることがより好ましく、オキシカルボニル基であることが特に好ましい。当該構成を有するビニル系重合体は、短時間且つ高収率で製造することができるという利点を有する。
【0068】
オキシカルボニル基としては、とくに限定されないが、例えば、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基(別名;アセトキシ基)、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、イソバレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、カプロロイルオキシ基、ラウロイルオキシ基、ミスチロイルオキシ基、パルミチオリルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシル基、トルイルオキシ基、アクリロイルオキシル基、メタクリロイルオキシ基、プロピオロイルオキシ基、クロトノイルオキシ基およびマロイルオキシ基などが好適に挙げられ、アクリロイルオキシル基、メタクリロイルオキシ基、プロピオロイルオキシ基、クロトノイルオキシ基およびマロイルオキシ基がより好適に挙げられる。当該構成を有するビニル系重合体は、反応性の二重結合を有するという利点、並びに汎用性に優れるという利点を有する。
【0069】
アルコキシ基としては、とくに限定されないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基およびフェノキシ基などが好適に挙げられる。当該構成を有するビニル系重合体は汎用性に優れるという利点を有する。
【0070】
アミノ基としては、とくに限定されない。アミノ基としては、例えば、下記一般式(5)で示されるアミノ基および一般式(6)で示されるアンモニウム塩が好適に挙げられる:
-NR 一般式(5)
(一般式(5)中、Rは水素または炭素数1~20の1価の有機基であり、2個のRは互いに同一でもよく異なっていてもよく、また、他端において相互に連結し、環状構造を形成していてもよい。)、および
-(NR 一般式(6)
(一般式(6)中、Rは水素または炭素数1~20の1価の有機基であり、3個のRは互いに同一でもよく異なっていてもよく、また、他端において相互に連結し、環状構造を形成していてもよい。一般式(5)中、Zは対アニオンである。)。
【0071】
一般式(5)および(6)中、Rは、例えば、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアラルキル基などをあげることができる。
【0072】
ハロゲン基としては、とくに限定されないが、例えば、フッ素基、塩素基、臭素基、およびヨウ素基などが好適に挙げられる。当該構成を有するビニル系重合体は汎用性に優れるという利点を有する。
【0073】
(一般式(2)で表される構造)
第1のビニル系重合体は、主鎖中に一般式(2)で表される構造を有し得る。
【0074】
一般式(2)で表される構造は、下記一般式(7)で表される構造であってもよい。
【0075】
【化10】
【0076】
一般式(2)および(7)中、Rは、水素および/またはメチル基が好ましい。当該構成によると、構成単位の由来となる単量体の汎用性と得られるビニル系重合体の安定性との両方に優れるという利点を有する。
【0077】
一般式(7)中、nは、0~100が好ましく、0~30がより好ましく、0~10が特に好ましい。当該構成によると、ビニル系重合体に導入されたエポキシ基の特徴(特性)がビニル系重合体、硬化性樹脂組成物および硬化物にて十分に発揮されるとともに、ビニル系重合体本来の成形加工性が悪化しない、という利点を有する。
【0078】
一般式(2)および(7)中、pは、0~12が好ましく、0~6がより好ましく、0~3がさらに好ましく、1が特に好ましい。当該構成を有するビニル系重合体は汎用性が高いという利点を有する。
【0079】
主鎖中に一般式(2)で表される構造を有する第1のビニル系重合体は、側鎖にエポキシ基を有するビニル系単量体ともいえる。エポキシ基とは、エポキシ環を有する有機基またはエポキシ環を有する官能基ともいえる。第1のビニル系重合体が主鎖中に一般式(2)で表される構造を有し、かつ一般式(2)中、pが0である場合、当該第1のビニル系重合体は側鎖に1,2-エポキシエチル基を有するといえる。第1のビニル系重合体が主鎖中に一般式(2)で表される構造を有し、かつ一般式(2)中、pが1である場合、当該第1のビニル系重合体は側鎖に2,3-エポキシプロピル基(別名:グリシジル基)を有するといえる。
【0080】
エポキシ基は反応性が高く様々な官能基と反応し得る。そのため、第1のビニル系重合体が主鎖中に一般式(2)で表される構造を有する場合、当該第1のビニル系重合体は、様々な官能基と反応できることから、中間体としての有用性が高いという利点を有する。
【0081】
第1のビニル系重合体は、全構成単位100モル%中、一般式(1)で表わされる構造(構成単位)と一般式(2)で表わされる構造(構成単位)とを、合計で、1モル%以上含むことが好ましく、5モル%以上含むことがより好ましく、10モル%以上含むことがさらに好ましく、20モル%以上含むことが特に好ましい。当該構成によると、一般式(1)及び一般式(2)で表わされる構造由来の特徴(特性)が、ビニル系重合体、硬化性樹脂組成物および硬化物において十分に発揮されるという利点を有する。
【0082】
第1のビニル系重合体は、全構成単位100モル%中、一般式(1)で表わされる構造(構成単位)を、1モル%以上含むことが好ましく、5モル%以上含むことがより好ましく、10モル%以上含むことがさらに好ましく、20モル%以上含むことが特に好ましい。当該構成によると、ビニル系重合体に導入された官能基(一般式(4)中のA)の特徴(特性)が、ビニル系重合体、硬化性樹脂組成物および硬化物において十分に発揮されるという利点を有する。
【0083】
第1のビニル系重合体は、全構成単位100モル%中、一般式(1)で表わされる構造(構成単位)を、一般式(2)で表わされる構造(構成単位)よりも多く含むことが好ましい。第1のビニル系重合体の全構成単位100モル%中、一般式(1)で表わされる構造(構成単位)に対する一般式(2)で表わされる構造(構成単位)の比(一般式(2)で表わされる構造/一般式(1)で表わされる構造)は、1.0未満であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.5以下であることがさらに好ましく、0.3以下であることが特に好ましい。
【0084】
(ハロゲン基)
第2のビニル系重合体は、1分子あたり0.5個以上、分子末端にハロゲン基を有する。本明細書において、「(第2の)ビニル系重合体は、1分子あたり0.5個以上、分子末端にハロゲン基を有する。」とは、(第2の)ビニル系重合体の集合体が、平均して、1分子あたり0.5個以上、分子末端にハロゲン基を有することを意図する。当該(第2の)ビニル系重合体の集合体に含まれる一つ一つの(第2の)ビニル系重合体は、分子末端にハロゲン基を、1分子あたり自然数の値で有し、例えば0個、1個または2個有する。「(第2の)ビニル系重合体の集合体に含まれる一つ一つの(第2の)ビニル系重合体」を、以下「(第2の)ビニル系重合体一個体」とも称する。
【0085】
第2のビニル系重合体一個体が分子末端に有するハロゲン基の数は、とくに限定されない。第2のビニル系重合体一個体の分子末端におけるハロゲン基の数は、1分子あたり1個以上であることが好ましく、2個以上であることがより好ましい。当該構成によると、第2のビニル系重合体一個体を含む硬化性樹脂組成物は硬化性が良好となるという利点を有する。第2のビニル系重合体一個体が、1分子あたり2個以上、分子末端にハロゲン基を有する場合、当該第2のビニル系重合体一個体は、例えば、分子末端の一方のみに2個以上のハロゲン基を有していてもよく、分子の両末端にそれぞれ1個以上ずつハロゲン基を有していてもよい。
【0086】
第2のビニル系重合体の分子末端におけるハロゲン基の数は、優れた硬化性を有する硬化性樹脂組成物を提供できることから、1分子あたり0.5個以上が好ましく、0.7個以上がより好ましく、1.0個以上がより好ましく、1.2個以上がより好ましく、1.5個以上が好ましく、1.7個以上がより好ましく、2.0個以上が特に好ましい。
【0087】
第2のビニル系重合体の分子末端におけるハロゲン基の数は、優れた柔軟性を有する硬化性樹脂組成物を提供できることから、1分子あたり4.0個以下が好ましく、3.0個以下がより好ましく、2.5個以下がより好ましく、2.3個以下がさらに好ましく、2.0個以下が特に好ましい。
【0088】
ハロゲン基としては、とくに限定されないが、例えば、塩素基、臭素基、およびヨウ素基などが好適に挙げられる。当該構成によると、当該構成を有するビニル系重合体のリビングラジカル重合が制御しやすいという利点を有する。
【0089】
(数平均分子量)
本ビニル系重合体は、数平均分子量が1000以上であることが好ましく、1500以上であることがより好ましく、2000以上であることがさらに好ましく、2500以上であることが特に好ましい。当該構成によると、ビニル系重合体が本来有する特性(例えば、耐候性、耐熱性、耐油性、透明性など)が発現されやすいという利点を有する。本ビニル系重合体は、数平均分子量が100000以下であることが好ましく、80000以下であることがより好ましく、60000以下であることがさらに好ましく、50000以下であることが特に好ましい。当該構成によると、ビニル系重合体または当該ビニル系重合体を含む硬化性樹脂組成物のハンドリングが容易であるという利点を有する。ビニル系重合体の数平均分子量が小さいほどビニル系重合体の粘度は低くなり、ビニル系重合体の数平均分子量が大きいほどビニル系重合体の粘度は高くなる傾向がある。それゆえ、本ビニル系重合体の数平均分子量は、当該ビニル系重合体または当該ビニル系重合体を含む硬化性樹脂組成物に求める加工特性に応じて、適宜設定され得る。
【0090】
(Mw/Mn)
本ビニル系重合体は、サイズ排除クロマトグラフィー(Size Exclusion Chromatography;SEC)で測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値が1.8未満であることが好ましく、1.7以下であることがより好ましく、1.6以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましく、1.4以下であることが特に好ましい。当該構成によると、ビニル系重合体または当該ビニル系重合体を含む硬化性樹脂組成物のハンドリングが容易であるという利点を有する。
【0091】
本明細書におけるビニル系重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、SECで測定して得られた値とする。SEC測定には、通常、クロロホルムなどを移動相として、シリカゲルカラムなどを使用する。また、本明細書におけるビニル系重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の値はポリスチレン換算値で求めた値とする。
【0092】
本ビニル系重合体の主鎖をリビングラジカル重合によって得る場合、Mw/Mnの値が1.8未満であるビニル系重合体を容易に得ることができる。ビニル系重合体の主鎖は、下記〔ビニル系重合体の製造方法〕における重合体Xの主鎖ともいえる。重合体Xの調製方法(重合方法)については、〔ビニル系重合体の製造方法〕にて詳述する。
【0093】
〔ビニル系重合体の製造方法〕
本発明の一実施形態に係るビニル系重合体の製造方法は、(a)主鎖中に前記一般式(2)で表される構造を有する重合体Xの分子末端にラジカル重合性基を導入する工程、および/または、(b)前記一般式(2)で表される構造と、カルボン酸化合物、ヒドロキシ化合物、アミン化合物およびハロゲン化水素から成る群より選択される1つ以上の化合物とを反応させることにより、前記一般式(1)で表される構造を形成する工程、を含む。
【0094】
「本発明の一実施形態に係るビニル系重合体の製造方法」を、以下「本製造方法」とも称する。「主鎖中に前記一般式(2)で表される構造を有する重合体Xの分子末端にラジカル重合性基を導入する工程」を、以下、「ラジカル重合性基導入工程」とも称する。「前記一般式(2)で表される構造と、カルボン酸化合物、ヒドロキシ化合物、アミン化合物およびハロゲン化水素から成る群より選択される1つ以上の化合物とを反応させることにより、前記一般式(1)で表される構造を形成する工程」を、以下、「一般式(1)形成工程」とも称する。
【0095】
本製造方法は、前期構成を有するため、(a)側鎖に有する官能基の種類が異なる複数種のビニル系重合体、および(b)分子末端に重合性官能基を有し、かつ側鎖に有する官能基の種類が異なる複数種のビニル系重合体を提供できる。本製造方法は、官能基の種類に応じて様々な物性、反応性および機能を有する多様なビニル系重合体を提供できる。
【0096】
本製造方法において、ラジカル重合性基導入工程と一般式(1)形成工程との順序は特に限定されるものではない。すなわち、一般式(1)形成工程の実施後にラジカル重合性基導入工程が実施されてもよい。
【0097】
(ラジカル重合性基導入工程)
ラジカル重合性基導入工程は、重合体Xとラジカル重合性基を有する化合物とを反応させる工程であり、具体的には、重合体Xの分子末端の官能基とラジカル重合性基を有する化合物のラジカル重合性基とを反応させる工程である。ラジカル重合性基導入工程を行い、重合体Xの分子末端にラジカル重合性基を導入することにより、1分子あたり0.5個以上、分子末端にラジカル重合性基を有するビニル系重合体を得ることができる。ビニル系重合体の製造方法がラジカル重合性基導入工程を有し、一般式(1)形成工程を有さない場合、当該製造方法は、(a)1分子あたり0.5個以上、分子末端にラジカル重合性基を有し、かつ(b)主鎖中に、前記一般式(2)で表される構造を有するビニル系重合体、すなわち第1のビニル系重合体を提供する。
【0098】
本製造方法において、一般式(1)形成工程が実施されないか、または一般式(1)形成工程に先立ってラジカル重合性基導入工程が実施される場合、ラジカル重合性基導入工程における重合体Xは主鎖中に前記一般式(2)で表される構造を有する。一方、本製造方法において、ラジカル重合性基導入工程に先立って一般式(1)形成工程が実施される場合、ラジカル重合性基導入工程における重合体Xは主鎖中に前記一般式(1)で表される構造を有する。
【0099】
ラジカル重合性基を容易に導入できることから、重合体Xは、分子末端にヒドロキシ基および/またはハロゲン基を有することが好ましい。重合体Xは、分子末端にヒドロキシ基および/またはハロゲン基を、1分子あたり0.5個以上有することが好ましく、0.7個以上有することがより好ましく、1.0個以上有することがより好ましく、1.2個以上有することがより好ましく、1.5個以上有することが好ましく、1.7個以上有することがより好ましく、2.0個以上有することが特に好ましい。
【0100】
以下、分子末端にヒドロキシ基またはハロゲン基を有する重合体Xを使用し、導入するラジカル重合性基が一般式(3)で表される基である場合を例に挙げ、重合体Xの分子末端にラジカル重合性基を導入する方法について説明する。
【0101】
重合体Xの分子末端にラジカル重合性基を導入する方法としては、限定はされないが、例えば、以下のような方法1~3が挙げられる。
方法1:分子末端にハロゲン基を有する重合体Xと、一般式(8)で示される化合物とを反応させる方法。
OC(O)C(R)=CH 一般式(8)
(一般式(8)中、Rは水素または炭素数1~20の有機基を表し、Mはアルカリ金属、または4級アンモニウムイオンを表す。)
方法2:分子末端にヒドロキシ基を有する重合体Xと、一般式(9)で示される化合物とを反応させる方法。
YC(O)C(R)=CH 一般式(9)
(一般式(9)中、Rは水素または炭素数1~20の有機基を表し、Yは塩素、臭素、または水酸基を表す。)
方法3:分子末端にヒドロキシ基を有する重合体Xにジイソシアネート化合物を反応させ、その後、残存イソシアネート基と一般式(10)で示される化合物とを反応させる方法。
HO-R’-OC(O)C(R)=CH 一般式(10)
(一般式(10)中、Rは水素または炭素数1~20の有機基を表し、R’は炭素数2~20の2価の有機基を表す。)
以下にこれらの各方法について詳細に説明する。
【0102】
方法1について説明する。方法1において、重合体Xは、好ましくは、分子末端に下記一般式(11)で表される構造を有する。
-CRZ 一般式(11)
(一般式(11)中、R、Rは、ビニル系単量体のエチレン性不飽和基に結合した基を表し、Zは、塩素、臭素またはヨウ素を表す。)。
【0103】
分子末端に一般式(11)で表される構造を有するビニル系重合体は、後述する有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤として使用し、かつ遷移金属錯体を触媒として使用して、ビニル系単量体を重合して得られる。分子末端に一般式(11)で表される構造を有するビニル系重合体は、ハロゲン化合物を連鎖移動剤として使用して、ビニル系単量体を重合しても得られる。分子末端に一般式(11)で表される構造を有するビニル系重合体は、好ましくは、有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤として使用し、かつ遷移金属錯体を触媒として使用して、ビニル系単量体を重合して得られるものであることが好ましい。
【0104】
一般式(8)で表される化合物としては特に限定されない。一般式(8)中のRの具体例としては、例えば、-H、-CH、-CHCH、-(CHCH(nは2~19の整数を表す)、-C、-CHOH、-CN、等が挙げられ、好ましくは-H、-CHである。一般式(8)中のMはオキシアニオンの対カチオンである。一般式(8)中のMの種類としてはアルカリ金属イオン、具体的にはリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、および4級アンモニウムイオンが挙げられる。4級アンモニウムイオンとしてはテトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラベンジルアンモニウムイオン、トリメチルドデシルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオンおよびジメチルピペリジニウムイオン等が挙げられ、好ましくはナトリウムイオン、カリウムイオンである。
【0105】
分子末端にハロゲン基を有する重合体Xと、一般式(8)で示される化合物とを反応させるときの、重合体Xと一般式(8)で示される化合物との量比について説明する。一般式(8)で示される化合物の使用量は、一般式(8)で示される化合物中のMが重合体Xのハロゲン基1当量に対して、1.0~5.0当量となる量が好ましく、1.0~3.0当量となる量がより好ましく、1.0~1.8当量となる量がさらに好ましく、1.0~1.2当量となる量が特に好ましい。当該構成によると、得られるビニル系重合体が1分子当たり分子末端に有するラジカル重合性基の数と製造コストとのバランスに優れる、という利点を有する。
【0106】
方法1において、上述の反応を実施する溶媒としては特に限定はされないが、求核置換反応であるため極性溶媒が好ましく、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、アセトニトリル等が好適に用いられる。
【0107】
方法1において、上述の反応を実施する温度(反応温度)は限定されないが、一般に0℃~120℃であり、ラジカル重合性の末端基を保持するために50℃以下が好ましく、室温(例えば15℃~30℃)がより好ましい。
【0108】
方法2について説明する。方法2において、一般式(9)で表される化合物としては特に限定されない。一般式(9)中のRの具体例としては、例えば、-H、-CH、-CHCH、-(CHCH(nは2~19の整数を表す)、-C、-CHOH、-CN、等が挙げられ、好ましくは-H、-CHである。
【0109】
分子末端にヒドロキシ基を有するビニル系重合体は、後述する有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤として使用し、かつ遷移金属錯体を触媒として使用して、ビニル系単量体を重合して得られる。分子末端にヒドロキシ基を有するビニル系重合体は、ヒドロキシ基を有する化合物を連鎖移動剤として使用して、ビニル系単量体を重合しても得られる。分子末端にヒドロキシ基を有するビニル系重合体は、好ましくは、有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤として使用し、かつ遷移金属錯体を触媒として使用して、ビニル系単量体を重合して得られるものであることが好ましい。
【0110】
方法2において、分子末端にヒドロキシ基を有するビニル系重合体を得る方法としては、特開2000-072816の段落〔0060〕~〔0064〕に記載の方法も好適に挙げられる。
【0111】
分子末端にヒドロキシ基を有する重合体Xと、一般式(9)で示される化合物とを反応させるときの、重合体Xと一般式(9)で示される化合物との量比について説明する。一般式(9)で示される化合物の使用量は、一般式(9)で示される化合物中のYが重合体Xのヒドロキシル基1当量に対して、1.0~5.0当量となる量が好ましく、1.0~3.0当量となる量がより好ましく、1.0~1.8当量となる量がさらに好ましく、1.0~1.2当量となる量が特に好ましい。当該構成によると、得られるビニル系重合体が1分子当たり分子末端に有するラジカル重合性基の数と製造コストとのバランスに優れる、という利点を有する。
【0112】
方法2において、上述の反応を実施する溶媒としては特に限定はされないが、副生するハロゲン酸を中性塩にさせる観点から、例えば、脱水トリエチルアミン、脱水トリブチルアミン、脱水ピリジンおよび脱水ピコリン等が好適に用いられる。
【0113】
方法2において、上述の反応を実施する温度(反応温度)は限定されないが、上述の反応は発熱を伴う反応であることから、例えば、-10℃~50℃が好ましく、0℃~30℃がさらに好ましい。
【0114】
方法2について説明する。方法2において、一般式(10)で表される化合物としては特に限定されない。一般式(10)中のRの具体例としては、例えば、-H、-CH、-CHCH、-(CHCH(nは2~19の整数を表す)、-C、-CHOH、-CN、等が挙げられ、好ましくは-H、-CHである。一般式(10)で示される化合物の具体例としては、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピルが好適に挙げられる。
【0115】
方法3における分子末端にヒドロキシ基を有するビニル系重合体については、好ましい態様を含み、方法2の分子末端にヒドロキシ基を有するビニル系重合体に関する説明を援用できる。
【0116】
方法3におけるジイソシアネート化合物は、特に限定されず、従来公知のものをいずれも使用することができる。ジイソシアネート化合物としては、例えば、トルイレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチルジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化トルイレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のイソシアネート化合物;等を挙げることができる。これらジイソシアネート化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ジイソシアネート化合物として、ブロックイソシアネートを使用しても構わない。
【0117】
よりすぐれた耐候性を生かすために、多官能イソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香環を有しないジイソシアネート化合物を用いるのが好ましい。
【0118】
分子末端にヒドロキシ基を有する重合体Xと、ジイソシアネート化合物とを反応させるときの、重合体Xとジイソシアネート化合物との量比について説明する。ジイソシアネート化合物の使用量は、ジイソシアネート化合物が重合体Xのヒドロキシル基1当量に対して、1.0~5.0当量となる量が好ましく、1.0~3.0当量となる量がより好ましく、1.0~1.8当量となる量がさらに好ましく、1.0~1.2当量となる量が特に好ましい。当該構成によると、得られるビニル系重合体が1分子当たり分子末端に有する残存イソシアネート基の数と製造コストとのバランスに優れる、という利点を有する。
【0119】
方法3において、分子末端にヒドロキシ基を有する重合体Xと、ジイソシアネート化合物とを反応させるときの溶媒としては特に限定はされないが、副反応し得る活性水素を有さないことから、例えば、脱水ピリジン、脱水テトラヒドロフラン、脱水トルエン、脱水ジメチルホルムアミド、脱水ジメチルスルホキシドおよび脱水ジメチルアセトアミド等が好適に用いられる。
【0120】
方法3において、分子末端にヒドロキシ基を有する重合体Xと、ジイソシアネート化合物とを反応させるときの温度(反応温度)は限定されないが、上述の反応は発熱を伴う反応であることから、例えば、-10℃~50℃が好ましく、0℃~30℃がさらに好ましい。
【0121】
方法3において、ジイソシアネート化合物と反応させた後の重合体X中の残存イソシアネート基と一般式(10)で示される化合物とを反応させるときの、重合体Xと一般式(10)で示される化合物との量比について説明する。一般式(10)で示される化合物の使用量は、一般式(10)で示される化合物が重合体X中の残存イソシアネート基1当量に対して、1.0~5.0当量となる量が好ましく、1.0~3.0当量となる量がより好ましく、1.0~1.8当量となる量がさらに好ましく、1.0~1.2当量となる量が特に好ましい。当該構成によると、得られるビニル系重合体が1分子当たり分子末端に有するラジカル重合性基の数と製造コストとのバランスに優れる、という利点を有する。
【0122】
方法3において、ジイソシアネート化合物と反応させた後の重合体Xと、一般式(10)で示される化合物とを反応させるときの溶媒としては特に限定はされないが、副反応し得る活性水素を有さないことから、例えば、脱水ピリジン、脱水テトラヒドロフラン、脱水トルエン、脱水ジメチルホルムアミド、脱水ジメチルスルホキシドおよび脱水ジメチルアセトアミド等が好適に用いられる。
【0123】
方法3において、ジイソシアネート化合物と反応させた後の重合体Xと、一般式(10)で示される化合物とを反応させるときの温度(反応温度)は限定されないが、上述の反応は発熱を伴う反応であることから、例えば、-10℃~50℃が好ましく、0℃~30℃がさらに好ましい。
【0124】
(一般式(1)形成工程)
一般式(1)形成工程は、重合体Xが主鎖中に有する一般式(2)で表される構造と、カルボン酸化合物、ヒドロキシ化合物、アミン化合物およびハロゲン化水素から成る群より選択される1つ以上の化合物と、を反応させる工程である。一般式(1)形成工程によって、主鎖中に一般式(1)で表される構造を有するビニル系重合体を得ることができる。
【0125】
重合体Xが主鎖中に有する一般式(2)で表される構造とカルボン酸化合物とを反応させることにより、(a)主鎖中に一般式(1)で表され、かつ(b)Aがオキシカルボニル基を有する有機基である構造、を有するビニル系重合体を得ることができる。
【0126】
カルボン酸化合物としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、ラウリン酸、ミスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アクリル酸、プロピオル酸、メタクリル酸、クロトン酸、オレイン酸、マレイン酸、フマル酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、グリオキシル酸、ピルビン酸、アセト酢酸、安息香酸、トルイル酸、アニス酸、ナフトエ酸、ケイ皮酸、ニコチン酸、フタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、フロ酸、テノ酸、酢酸カリウム、アクリル酸カリウムおよびメタクリル酸ナトリウムなどを好適に挙げることができる。これらカルボン酸化合物の中でも、汎用性が高いことから、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ラウリン酸、ミスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アクリル酸、プロピオル酸、メタクリル酸、安息香酸およびアクリル酸カリウムがより好ましい。これらカルボン酸化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0127】
重合体Xが主鎖中に有する一般式(2)で表される構造とヒドロキシ化合物とを反応させることにより、(a)主鎖中に一般式(1)で表され、かつ(b)Aがヒドロキシ基を有する有機基である構造、を有するビニル系重合体を得ることができる。
【0128】
ヒドロキシ化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、ヘキサノール、デカノール、シクロヘキサノール、フェノール、グレゾール、キシレノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ピナコール、グリセリン、ヒドロキノン、ナルトール、ナトリウムエトキシドおよびカリウムブトキシドなどを好適に挙げることができる。これらヒドロキシ化合物の中でも、汎用性が高いことから、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールおよびフェノールが好ましい。これらヒドロキシ化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0129】
重合体Xが主鎖中に有する一般式(2)で表される構造とアミン化合物とを反応させることにより、(a)主鎖中に一般式(1)で表され、かつ(b)Aがアミノ基を有する有機基である構造、を有するビニル系重合体を得ることができる。
【0130】
アミン化合物としては、ジプロミルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、プロパンジアミン、アニリンおよびトリイジンなどを好適に挙げることができる。これらアミン化合物の中でも、汎用性が高いことから、ジプロミルアミン、ブチルアミンおよびジブチルアミンが好ましい。これらアミン化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0131】
重合体Xが主鎖中に有する一般式(2)で表される構造とハロゲン化水素とを反応させることにより、(a)主鎖中に一般式(1)で表され、かつ(b)Aがハロゲン基である、構造を有するビニル系重合体を得ることができる。
【0132】
ハロゲン化水素としては、塩化水素、フッ化水素、臭化水素およびヨウ化水素などを挙げることができる。これらハロゲン化水素は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0133】
重合体Xが主鎖中に有する一般式(2)で表される構造と、カルボン酸化合物、ヒドロキシ化合物、アミン化合物およびハロゲン化水素から成る群より選択される1つ以上の化合物とを反応させるときの、重合体X中の一般式(2)で表される構造と、カルボン酸化合物、ヒドロキシ化合物、アミン化合物およびハロゲン化水素から成る群より選択される1つ以上の化合物との量比について説明する。カルボン酸化合物、ヒドロキシ化合物、アミン化合物およびハロゲン化水素から成る群より選択される1つ以上の化合物の使用量は、当該反応の副反応による架橋構造の発現を抑制できることから、重合体X中の一般式(2)で表される構造1当量に対して1当量以上が好ましく、2当量以上がより好ましく、5当量以上がさらに好ましい。
【0134】
重合体Xが主鎖中に有する一般式(2)で表される構造と、カルボン酸化合物、ヒドロキシ化合物、アミン化合物およびハロゲン化水素から成る群より選択される1つ以上の化合物とを反応させるときの溶媒としては特に限定はされず、無溶媒で反応させてもよい。溶媒を使用する場合、当該溶媒としては、重合体X、カルボン酸化合物、ヒドロキシ化合物およびアミン化合物に対する溶解性に優れることから、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、アセトニトリル等が好適に用いられる。
【0135】
重合体Xが主鎖中に有する一般式(2)で表される構造と、カルボン酸化合物、ヒドロキシ化合物、アミン化合物およびハロゲン化水素から成る群より選択される1つ以上の化合物とを反応させるときの温度(反応温度)は限定されないが、当該反応が速やかに進行することから、例えば、50℃~150℃が好ましく、70℃~130℃がより好ましく、80℃~120℃がさらに好ましい。
【0136】
(重合体X調製工程)
本製造方法は、重合体Xを調製する工程をさらに有することが好ましい。本明細書において、「重合体Xを調製する工程」を、「重合体X調製工程」と称する場合もある。
【0137】
重合体Xの製造方法は、とくに限定されない。重合体Xは、制御重合により得られることが好ましい。制御重合としては、リビングアニオン重合、連鎖移動剤を用いるラジカル重合およびリビングラジカル重合をあげることができる。
【0138】
重合体Xは、リビングラジカル重合により得られることが好ましい。換言すれば、本製造方法は、リビングラジカル重合により重合体Xを調製する重合体X調製工程をさらに有することが好ましい。当該構成によると、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値が小さく、例えば1.8未満であるビニル系重合体を容易に得ることができる。
【0139】
リビングラジカル重合としては、(a)ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いる重合法、(b)コバルトポルフィリン錯体および/またはニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いる重合法、(c)有機ハロゲン化物などを開始剤として使用し、かつ遷移金属錯体を触媒として使用する原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)などを挙げることができる。本発明の一実施形態において、リビングラジカル重合としてこれらのうちどの方法を使用するかは特に限定されない。
【0140】
原子移動ラジカル重合は、一般的に非常に重合速度が高く、ラジカル同士のカップリングなどの停止反応が起こりやすいラジカル重合でありながら、重合がリビング的に進行し得る。原子移動ラジカル重合では、分子量分布が狭く、例えばMw/Mn=1.8未満またはMw/Mn=1.1~1.5程度の重合体を得ることができる。原子移動ラジカル重合において、得られる重合体の分子量は単量体および開始剤の仕込み量の比によって自由にコントロールすることができる。Mw/Mnが小さく、例えば1.8未満であるビニル系重合体をより容易に得ることができることから、本発明の一実施形態では、リビングラジカル重合が原子移動ラジカル重合であることが好ましい。換言すれば、本製造方法は、原子移動ラジカル重合により重合体Xを調製する工程をさらに有することが好ましい。
【0141】
重合体X調製工程で使用する開始剤としては、特に限定されず、例えば原子移動ラジカル重合で使用され得る有機ハロゲン化物およびハロゲン化スルホニル化合物などを挙げることができる。有機ハロゲン化物およびハロゲン化スルホニル化合物としては、従来公知の物質を使用できる。
【0142】
重合体X調製工程で使用する触媒としては、特に限定されず、例えば原子移動ラジカル重合で使用され得る、周期律表第8族、9族、10族または11族元素を中心金属とする金属錯体を触媒として使用することができる。「周期律表第8族、9族、10族または11族元素を中心金属とする金属錯体」を、以下「遷移金属錯体」とも称する。
【0143】
遷移金属錯体としては特に限定されないが、1価および0価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄または2価のニッケルの錯体を好適に挙げることができる。これらのなかでも、コストや反応制御の点から銅の錯体が好ましい。
【0144】
1価の銅化合物としては、たとえば、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅などをあげることができる。銅化合物を用いる場合、触媒活性を高めるために2,2’-ビピリジルおよびその誘導体、1,10-フェナントロリンおよびその誘導体、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチル(2-アミノエチル)アミンなどのポリアミンなどを配位子として添加することができる。また、2価の塩化ルテニウムのトリストリフェニルホスフィン錯体(RuCl(PPh)も触媒として好ましい。
【0145】
ルテニウム化合物を触媒として用いる場合は、活性化剤としてアルミニウムアルコキシド類を添加することができる。さらに、2価の鉄のビストリフェニルホスフィン錯体(FeCl(PPh)、2価のニッケルのビストリフェニルホスフィン錯体(NiCl(PPh)、および、2価のニッケルのビストリブチルホスフィン錯体(NiBr(PBu)も、触媒として好ましく使用できる。使用する触媒、配位子および活性化剤の量は、とくに限定されないが、使用する開始剤、単量体および溶媒の量と必要とする反応速度の関係から適宜決定することができる。
【0146】
本製造方法の重合体X調製工程では、触媒として銅錯体、ニッケル錯体、ルテニウム錯体および鉄錯体からなる群より選択される1つ以上の錯体を使用することが好ましい。
【0147】
重合体X調製工程で使用できる溶媒としては、特に限定されない。原子移動ラジカル重合は、無溶媒(塊状重合)または各種の溶媒中で行なうことができる。重合体X調製工程で使用できる溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、ニトリル系溶媒、エステル系溶媒、カーボネート系溶媒などが挙げられる。
【0148】
上述した溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。重合体X調製工程を無溶媒で実施する場合、重合体Xの調製は塊状重合となる。一方、溶媒を使用して重合体X調製工程を実施する場合、溶媒使用量は、系全体の粘度と必要とする撹拌効率(すなわち、反応速度)の関係から適宜決定することができる。
【0149】
重合体X調製工程における温度、換言すれば重合体Xの重合温度は、室温~200℃、好ましくは50~150℃の範囲で行なうことができる。
【0150】
〔硬化性樹脂組成物〕
本発明の一実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、〔ビニル系重合体〕の項に記載のビニル系重合体、または〔ビニル系重合体の製造方法〕の項に記載の製造方法により製造されたビニル系重合体を含む。
【0151】
「本発明の一実施形態に係る硬化性樹脂組成物」を、以下「本組成物」とも称する。本ビニル系重合体または本製造方法により製造されたビニル系重合体を、本組成物における「主成分」とも称する。
【0152】
本組成物は、本ビニル系重合体または本製造方法により製造されたビニル系重合体を含む限り、その他の態様としては特に限定されない。本組成物は、当該組成物100重量%中、本ビニル系重合体または本製造方法により製造されたビニル系重合体を30重量%以上含むことが好ましく、50重量%以上含むことがより好ましく、70重量%以上含むことがさらに好ましく、80重量%以上含むことが特に好ましい。当該構成によると、強度、柔軟性など良好な力学物性を有する硬化物を提供できるという利点を有する。
【0153】
本組成物は、主成分以外に、目的に応じて、主成分以外の重合性の単量体および/またはオリゴマーを含んでいてもよい。本組成物は、残存単量体による臭気問題の解消のために、他の重合性単量体を含有しないことが好ましい。主成分以外の重合性の単量体および/またはオリゴマーとしては、ラジカル重合性基を有する単量体および/またはオリゴマー、並びにアニオン重合性基を有する単量体および/またはオリゴマーが好ましい。前記ラジカル重合性基を有する単量体としては、(メタ)アクリロイル基などの(メタ)アクリロイル系基、スチレン系基、アクリロニトリル系基、ビニルエステル系基、N-ビニルピロリドン系基、アクリルアミド系基、共役ジエン系基、ビニルケトン系基、塩化ビニル系基、などを有する単量体が挙げられる。上述したラジカル重合性基を有する単量体のなかでも、本ビニル系重合体の好ましい態様と類似する(メタ)アクリロイル系基を有する単量体が好ましい。アニオン重合性基を有する単量体としては、(メタ)アクリロイル系基、スチレン系基、アクリロニトリル系基、N-ビニルピロリドン系基、アクリルアミド系基、共役ジエン系基、ビニルケトン系基、などを有する単量体が挙げられる。上述したアニオン重合性基を有する単量体のなかでも、本ビニル系重合体の好ましい態様と類似する(メタ)アクリロイル系基を有する単量体が好ましい。主成分以外の重合性の単量体および/またはオリゴマーとしては、特開2000-072816の段落〔0068〕~〔0074〕に記載の単量体およびオリゴマーも好適に挙げられる。本組成物に含まれる主成分以外の重合性の単量体および/またはオリゴマーは、当該組成物が含み得る開始剤および当該組成物の硬化条件などに応じて、適宜選択され得る。
【0154】
本組成物は、硬化剤および硬化触媒を含んでいてもよい。本組成物に含まれる硬化剤および硬化触媒は、本組成物に含まれるビニル系重合体が有する官能基の種類に応じて、適宜選択され得る。
【0155】
本組成物がビニル系単量体として、(a)1分子あたり0.5個以上、分子末端にラジカル重合性基を有し、かつ(b)主鎖中に前記一般式(1)で表される構造を有するビニル系重合体を含む場合について説明する。この場合、本組成物は、側鎖にエポキシ基を有するビニル系重合体を含む。この場合、本組成物は、硬化剤および硬化触媒として、エポキシ樹脂において従来から用いられている硬化剤および硬化触媒を含むことができる。エポキシ樹脂において従来から用いられている硬化剤および硬化触媒としては、例えば、ポリアミン、変性ポリアミン、酸無水物、ポリフェノール、ポリメルカプタン、イソシアネート、有機酸、3級アミン、イミダゾール、ルイス酸、ブレンステッド酸塩などを挙げることができる。ポリアミン、変性ポリアミン、酸無水物、ポリフェノール、ポリメルカプタン、イソシアネートおよび有機酸はそれら自体がエポキシ基と反応して架橋するものである。3級アミン、イミダゾール、ルイス酸およびブレンステッド酸塩はエポキシ基どうしの重合触媒となるものである。また、この場合、本組成物は、硬化剤および硬化触媒として、特開2002-060449の段落〔0107〕~〔0118〕に記載の物質を含んでいてもよい。
【0156】
本組成物がビニル系単量体として、(a)(a-1)1分子あたり0.5個以上、分子末端にラジカル重合性基を有し、かつ(a-2)主鎖中に、下記一般式(1)で表され、Aがオキシカルボニル基を有する有機基である構造を有するか、または(b)(b-1)1分子あたり0.5個以上、分子末端にハロゲン基を有し、かつ(b-2)主鎖中に下記一般式(1)で表され、Aがオキシカルボニル基を有する有機基である構造を有するビニル系重合体を含む場合について説明する。この場合、本組成物は、側鎖にオキシカルボニル基を有するビニル系重合体を含む。この場合、本組成物は、硬化剤および硬化触媒として、例えば、ポリアミン、変性ポリアミン、酸無水物、ポリフェノール、ポリメルカプタン、イソシアネート、ポリカルボン酸、3級アミン、イミダゾールなどを含むことができる。
【0157】
本組成物がビニル系単量体として、(a)(a-1)1分子あたり0.5個以上、分子末端にラジカル重合性基を有し、かつ(a-2)主鎖中に、下記一般式(1)で表され、Aがアルコキシ基を有する有機基である構造を有するか、または(b)(b-1)1分子あたり0.5個以上、分子末端にハロゲン基を有し、かつ(b-2)主鎖中に下記一般式(1)で表され、Aがアルコキシ基を有する有機基である構造を有するビニル系重合体を含む場合について説明する。この場合、本組成物は、側鎖にアルコキシ基を有するビニル系重合体を含む。この場合、本組成物は、硬化剤および硬化触媒として、例えば、酸無水物、ポリメルカプタン、イソシアネート、ポリカルボン酸などを含むことができる。
【0158】
本組成物がビニル系単量体として、(a)(a-1)1分子あたり0.5個以上、分子末端にラジカル重合性基を有し、かつ(a-2)主鎖中に、下記一般式(1)で表され、Aがハロゲン基である構造を有するか、または(b)(b-1)1分子あたり0.5個以上、分子末端にハロゲン基を有し、かつ(b-2)主鎖中に下記一般式(1)で表され、Aがハロゲン基である構造を有するビニル系重合体を含む場合について説明する。この場合、本組成物は、側鎖にハロゲン基を有するビニル系重合体を含む。この場合、本組成物は、硬化剤および硬化触媒として、例えば、ポリアミン、変性ポリアミン、ポリカルボン酸塩およびポリアルコキシドなどを含むことができる。
【0159】
本組成物がビニル系単量体として、(a)(a-1)1分子あたり0.5個以上、分子末端にラジカル重合性基を有し、かつ(a-2)主鎖中に、下記一般式(1)で表され、Aがヒドロキシ基を有する有機基である構造を有するか、または(b)(b-1)1分子あたり0.5個以上、分子末端にハロゲン基を有し、かつ(b-2)主鎖中に下記一般式(1)で表され、Aがヒドロキシ基を有する有機基である構造を有するビニル系重合体を含む場合について説明する。この場合、本組成物は、側鎖にヒドロキシ基を有するビニル系重合体を含む。この場合、本組成物は、硬化剤および硬化触媒として、ポリウレタン樹脂において従来から用いられている硬化剤および硬化触媒を含むことができる。ポリウレタン樹脂において従来から用いられている硬化剤としては、例えば、ポリイソシアネート、レゾール型フェノール樹脂、メチロール基含有尿素樹脂、メチロール基含有メラミン樹脂などが挙げられる。これら硬化剤は、水酸基と縮合反応を起こす。リウレタン樹脂において従来から用いられている硬化触媒としては、例えば、3級アミンおよびアミン塩などを用いることができる。また、この場合、本組成物は、硬化剤および硬化触媒として、特開2002-060449の段落〔0119〕~〔0121〕に記載の物質を含んでいてもよい。
【0160】
本組成物がビニル系単量体として、(a)(a-1)1分子あたり0.5個以上、分子末端にラジカル重合性基を有し、かつ(a-2)主鎖中に、下記一般式(1)で表され、Aがアミノ基を有する有機基である構造を有するか、または(b)(b-1)1分子あたり0.5個以上、分子末端にハロゲン基を有し、かつ(b-2)主鎖中に下記一般式(1)で表され、Aがアミノ基を有する有機基である構造を有するビニル系重合体を含む場合について説明する。この場合、本組成物は、側鎖にアミノ基を有するビニル系重合体を含む。この場合、本組成物は、硬化剤として、多官能有機酸、2官能グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、多官能グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂を含むことができる。また、この場合、本組成物は、硬化剤および硬化触媒として、特開2002-060449の段落〔0122〕~〔0125〕に記載の物質を含んでいてもよい。
【0161】
本組成物における硬化剤および硬化触媒の態様として、特開2002-060449の段落〔0126〕~〔0129〕の記載を適宜援用できる。
【0162】
本組成物は、目的とする物性に応じて、物性を改善するために各種の配合剤を含んでいてもよい。配合剤としては、特に限定されないが、たとえば、公知の、熱可塑性樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマー、複合ゴム粒子、安定剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、顔料、充填剤などが好適に挙げられる。
【0163】
本組成物が配合剤としてフィラーを含む場合、当該組成物は、補強効果に優れ、かつコストが低減されるという利点を有する。本組成物が配合剤として熱可塑性樹脂を含む場合、当該組成物は、硬度およびモジュラスに優れる硬化物を提供できるという利点を有する。本組成物が配合剤として可塑剤および/または未加硫ゴム含む場合、当該組成物は、硬度およびモジュラスに優れる硬化物を提供できるという利点を有する。本組成物は、物性バランスに優れた硬化性樹脂組成物を得るために、複数の配合剤を組み合わせて含んでいてもよい。
【0164】
本組成物における配合剤の含有量は特に限定されない。硬化性樹脂組成物中の配合剤の含有量(重量%)が増加するほど、硬化性樹脂組成物中のビニル系重合体の含有量(重量%)が減少しうる。硬化性樹脂組成物中のビニル系重合体の含有量(重量%)が多いほど、ビニル系重合体による耐熱性、圧縮永久歪み、安定性などの改良効果が高くなる傾向があり、硬化性樹脂組成物中の配合剤の含有量(重量%)が多いほど、配合剤に起因した物性の向上効果が得られやすい傾向がある。それゆえ、硬化性樹脂組成物中のビニル系重合体または配合剤の含有量は、硬化性樹脂組成物または硬化性樹脂組成物の硬化物に対して所望する効果および物性に応じて、適宜設定され得る。例えば、本組成物は、硬化性樹脂組成物100重量%中、配合剤を5重量%~100重量%含むことが好ましく、配合剤を10重量%~90重量%含むことがより好ましく、配合剤を20重量%~80重量%含むことがさらに好ましく、配合剤を30重量%~70重量%含むことが特に好ましい。
【0165】
本組成物は、配合剤として、特開2002-060449の段落〔0132〕~〔0140〕に配合剤(b)として列挙されている物質を含んでいてもよい。
【0166】
(硬化性樹脂組成物の製造方法)
本組成物は、(a)主成分、並びに(b)必要に応じて主成分以外の重合性の単量体および/またはオリゴマー、硬化剤、硬化触媒並びに各種配合剤、を公知の方法により混合することにより、製造することができる。本組成物の製造に用いる装置としては、バンバリーミキサー、ロールミル、二軸押出機などが好適に挙げられる。本組成物は、(a)主成分、並びに(b)必要に応じて主成分以外の重合性の単量体および/またはオリゴマー、硬化剤、硬化触媒並びに各種配合剤、を上述した公知の装置を用い、機械的に混合し、得られた混合物をペレット状に賦形する方法、などの既存の方法を用いて製造することもできる。本組成物を賦形して得られたペレットは、幅広い温度範囲で成形可能である。当該ペレットの成形には、通常の射出成形機、ブロー成形機、押出成形機、圧縮成形機などを用いることができる。
【0167】
(硬化性樹脂組成物の硬化方法)
本組成物を硬化させることにより、硬化物を得ることができる。本組成物は、UVおよび/または電子線などの活性エネルギー線により硬化させることが好ましい。本組成物は、活性エネルギー線により硬化し得るよう、光重合開始剤を含有することが好ましい。
【0168】
光重合開始剤としては、特に限定されないが、光ラジカル開始剤および/または光アニオン開始剤が好ましく、特に光ラジカル開始剤が好ましい。光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、キサントール、フルオレイン、ベンズアルデヒド、アンスラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3-メチルアセトフェノン、4-メチルアセトフェノン、3-ペンチルアセトフェノン、4-メトキシアセトフェン、3-ブロモアセトフェノン、4-アリルアセトフェノン、p-ジアセチルベンゼン、3-メトキシベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、4-クロロ-4’-ベンジルベンゾフェノン、3-クロロキサントーン、3,9-ジクロロキサントーン、3-クロロ-8-ノニルキサントーン、ベンゾイル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、ベンジルメトキシケタール、2-クロロチオキサントーン、などが好適に挙げられる。これらの開始剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、これらの開始剤の1種以上を他の化合物と組み合わせて用いても良い。上述した開始剤と他の化合物とを組み合わせて使用する場合、他の化合物として、具体的には、ジエタノールメチルアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミンが好適に挙げられる。上述した開始剤と上述したアミンと、更にフェニルヨードニウムクロリドなどのヨードニウム塩とを組み合わせて使用することがより好ましく、上述した開始剤と上述したアミンと、メチレンブルーなどの色素とを組み合わせて使用することもより好ましい。
【0169】
本組成物は、近赤外光重合開始剤として、近赤外光吸収性陽イオン染料を含んでいてもよい。近赤外光吸収性陽イオン染料としては、650~1500nmの領域の光エネルギーで励起する、例えば特開平3-111402号、特開平5-194619号公報等に開示されている近赤外光吸収性陽イオン染料-ボレート陰イオン錯体などを用いるのが好ましく、近赤外光吸収性陽イオン染料-ボレート陰イオン錯体とホウ素系増感剤とを併用することがさらに好ましい。
【0170】
本組成物における光重合開始剤の含有量としては、系をわずかに光官能化する程度の量で充分であるので、特に限定されない。本組成物は、当該組成物100重量中、光重合開始剤を0.001重量部~10重量部含むことが好ましい。
【0171】
本組成物を硬化させる方法は特に限定されない。本組成物を硬化させる方法としては、当該硬化性樹脂組成物に含まれる光重合開始剤開始剤の性質に応じて、高圧水銀灯、低圧水銀灯、電子線照射装置、ハロゲンランプ、発光ダイオード、半導体レーザー等による光および電子線の照射方法などが好適に挙げられる。
【0172】
本組成物を硬化させて得られる硬化物もまた、本発明の一実施形態である。
【0173】
〔用途〕
本ビニル系重合体、本組成物、および当該組成物を硬化させて得られる硬化物の具体的な用途としては、シーリング材、接着剤、粘着材、弾性接着剤、塗料、粉体塗料、発泡体、電気電子用ポッティング材、フィルム、ガスケット、レジスト、各種成形材料、光造型、人工大理石等を挙げることができる。
【実施例
【0174】
以下、本発明の一実施形態を実施例により具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0175】
[分析方法]
先ず、実施例によって得られたビニル系共重合体の分析方法について、以下説明する。
【0176】
(重合転化率)
重合体Xの製造における、単量体の重合体への転化率は、ガスクロマトグラフ(Gas Chromatograph,GC(株式会社島津製作所製、GC-2000))を用いて測定した。カラムには、Agilent J&W社製、GCカラムHP-1を用いた。また、デカンをスタンダードとして測定した。
【0177】
(官能基の定性分析および定量分析)
ビニル系重合体における官能基の定性分析および定量分析は、H NMR(Bruker 400MHz NMR)を用いて行なった。ビニル系重合体30mgを重クロロホルム0.8gに溶解させて得られた溶解物を分析用の試料とした。
【0178】
(重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn))
重合体Xの重量平均分子量および数平均分子量の分析は、SEC(HLC-8420GPC)を用いて行った。カラムにはTOSOH TSKgel SuperHM-Lを用い、スタンダードにはポリスチレンスタンダードサンプルを用いた。ビニル系重合体3mgをクロロホルム3mlに溶解させて得られた溶解物を分析用の試料とした。重合体Xの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の値は、ビニル系重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の値とほぼ同じであるため、ビニル系重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の値とみなすことができる。
【0179】
(末端臭素量分析)
ビニル系重合体の末端臭素量は、臭素基をアクリル酸カリウムで置換した後、H NMRにより置換基の根元のH量を計算することで求めた。末端臭素基の置換方法を次に示す。ビニル系重合体に大過剰量のジメチルアセトアミドおよびアクリル酸カリウムを加え、得られた溶液を50℃にて30分間攪拌した。得られた溶液に過剰量の酢酸エチルおよび水を加え、得られた混合物から有機層のみを採取した。その後、有機層を濃縮して、末端臭素基をアクリル酸カリウムで置換したビニル重合体を得た。得られたビニル重合体を重クロロホルムに溶解させて得られた溶解物を分析用の試料として、H NMR測定を行った。その結果、4.8~5.2ppmの範囲にアクリル酸カリウムで置換された置換基の根元のHのシグナルが確認され、それらの積分値からビニル系重合体の末端臭素量を算出した。
【0180】
(末端ラジカル重合性基量分析)
ビニル系重合体の末端ラジカル重合性基量は、H NMRにより置換基の根元のH量を計算することで求めた。すなわち、得られたビニル重合体を重クロロホルムに溶解させて得られた溶解物を分析用の試料として、H NMR測定を行った。その結果、4.8~5.2ppmの範囲に末端ラジカル重合性基が導入された根元のHのシグナル、および5.5~7.0ppmの範囲にラジカル重合性基の二重結合のHのシグナルが確認され、それらの積分値からビニル系重合体の末端ラジカル重合性基量を算出した。
【0181】
製造例1:1分子あたり少なくとも1個、分子末端に臭素基を有し、かつ主鎖中にエポキシ基を有する重合体(重合体X)の製造
フラスコにメタノール18g、メタクリル酸グリシジル3g、アクリル酸2-メトキシエチル31g、2-ブロモイソ酪酸エチル3g、トリエチルアミン0.3g、臭化第二銅15mg、およびトリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン15mgを添加した。次に、フラスコ内を窒素バブリングした。なお「窒素バブリング」とは、フラスコまたは溶液などの対象物に窒素を流入して対象物から酸素を除去することを意図する。
【0182】
その後、フラスコ内の混合物を加熱し、45℃まで昇温した。ここで、メタノール26g、アスコルビン酸0.3gおよびトリエチルアミン0.3gを混合し、メタノール溶液を得た。続いて、フラスコ内にメタノール溶液を滴下した。
【0183】
ここで、メタクリル酸グリシジル13gおよびアクリル酸2-メトキシエチル47gを混合し、アクリル酸エステル混合液を調製した。メタノール溶液の滴下開始から3時間後、フラスコ内に窒素バブリングしたアクリル酸エステル混合液を1.5時間かけて滴下した。メタノール溶液滴下開始から6時間後、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸2-メトキシエチル、2-ブロモイソ酪酸エチルの転化率がそれぞれ98%以上に達したことをガスクロマトグラフィーにより確認し、メタノール溶液の滴下を止めた。その後、フラスコ内の反応溶液を80℃および真空下で1時間濃縮した。濃縮された反応溶液に、酢酸ブチル100g、キョーワード500(協和化学)1g、キョーワード700(協和化学)1gを添加した。得られた反応溶液を、80℃で1時間攪拌した。次に、得られた反応溶液をろ過した。得られたろ液を100℃および真空下で2時間濃縮した。かかる操作により、(a)1分子あたり0.8個以上、分子末端にハロゲン基として臭素基を有し、かつ(b)主鎖中に一般式(2)で表される構造を有する重合体Xを約70g得た。
【0184】
製造例1は、重合体X調製工程ともいえる。得られた重合体Xの主鎖中に含まれているエポキシ基は、全アクリル酸エステルユニット(100モル%)のうち20モル%であることをH NMRにより確認した。得られた重合体Xの数平均分子量は5700、分子量分布は1.51であることをSECにより確認した。
【0185】
(実施例1)
重合体X5g、アクリル酸カリウム0.2g、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル0.5mgおよびN,N’-ジメチルアセトアミド5gを混合し、得られた混合物を70℃で2時間攪拌した。その後、得られた混合物を100℃および真空下で1時間濃縮した。次に、得られた濃縮物を酢酸ブチル10gに溶解して溶液を得た。次に、得られた溶液をろ過し、更に得られたろ液を100℃および真空下で1時間濃縮した。かかる操作により、ビニル系重合体(E1)を得た。得られたビニル系重合体(E1)のH NMR測定より、側鎖のエポキシ基の量は変化なく、一方で分子末端にアクリロイル基が重合体1分子あたり1.1個導入されたのを確認した。すなわち、実施例1で得られたビニル系重合体(E1)は、(a)1分子あたり1.1個、分子末端にラジカル重合性基としてアクリロイル基を有し、かつ(b)主鎖中に一般式(2)で表される構造を有するビニル系重合体である。ビニル系重合体(E1)は、第1のビニル系重合体といえる。
【0186】
(実施例2)
ビニル系重合体(E1)5g、酢酸5gおよび4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル1mgを混合し、得られた混合物を120℃で2時間攪拌した。その後、得られた混合物を100℃および真空下で1時間濃縮した。かかる操作により、ビニル系重合体(E2)を得た。ビニル系重合体(E2)のH NMR測定より、側鎖のエポキシ基は完全に消失し、側鎖にアセトキシ基が導入され、一方で分子末端のアクリロイル基は重合体1分子あたり0.9個を維持しているのを確認した。すなわち、ビニル系重合体(E2)は、(a)1分子あたり0.9個、分子末端にラジカル重合性基としてアクリロイル基を有し、また(b)主鎖中に前記一般式(1)で表され、Aがアセトキシ基であり、Rがメチル基であり、pが1である構造を有するビニル系重合体である。ビニル系重合体(E2)は、第1のビニル系重合体といえる。
【0187】
(実施例3)
ビニル系重合体(E1)5g、クロトン酸7g、N,N’-ジメチルアセトアミド10gおよび4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル1mgを混合し、得られた混合物を120℃で2時間攪拌した。その後、得られた混合物を100℃および真空下で1時間濃縮した。かかる操作により、ビニル系重合体(E2)を得た。ビニル系重合体(E3)のH NMR測定より、側鎖のエポキシ基は完全に消失し、側鎖にクロトノイルオキシ基が導入され、一方で分子末端のアクリロイル基は重合体1分子あたり1.0個を維持しているのを確認した。すなわち、ビニル系重合体(E3)は、(a)1分子あたり1.0個、分子末端にラジカル重合性基としてアクリロイル基を有し、また(b)主鎖中に前記一般式(1)で表され、Aがクロトノイルオキシ基であり、Rがメチル基であり、pが1である構造を有するビニル系重合体である。ビニル系重合体(E3)は、第1のビニル系重合体といえる。
【0188】
参考例4)
重合体X5g、酢酸5gを混合し、得られた混合物を70℃で2時間攪拌した。その後、得られた混合物を80℃および真空下で1時間濃縮することにより、ビニル系重合体(E4-1)を得た。ビニル系重合体(E4-1)のH NMR測定より、側鎖のエポキシ基は完全に消失し、側鎖にアセトキシ基が導入されたのを確認した。すなわち、ビニル系重合体(E4-1)は、(a)1分子あたり0.8個以上、分子末端にハロゲン基として臭素基を有し、また(b)主鎖中に前記一般式(1)で表され、Aがアセトキシ基であり、Rがメチル基であり、pが1である構造を有するビニル系重合体である。ビニル系重合体(E4-1)は、第二のビニル系重合体といえる。
【0189】
次に、ビニル系重合体(E4-1)5g、アクリル酸カリウム0.2g、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル0.5mgおよびN,N’-ジメチルアセトアミド5gを混合し、得られた混合物を70℃で2時間攪拌した。その後、得られた混合物を100℃および真空下で1時間濃縮した。次に、得られた濃縮物を酢酸ブチル10gに溶解して溶液を得た。次に、得られた溶液をろ過し、更に得られたろ液を100℃および真空下で1時間濃縮した。かかる操作により、ビニル系重合体(E4-2)を得た。ビニル系重合体(E4-2)のH NMR測定より、分子末端にアクリロイル基が重合体1分子あたり0.6個導入されたのを確認した。すなわち、ビニル系重合体(E4-2)は、(a)1分子あたり0.6個、分子末端にラジカル重合性基としてアクリロイル基を有し、また(b)主鎖中に前記一般式(1)で表され、Aがアセトキシ基であり、Rがメチル基であり、pが1である構造を有するビニル系重合体である。ビニル系重合体(E4-2)は、第1のビニル系重合体といえる。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本発明の一実施形態によれば、(a)側鎖に有する官能基の種類が異なる複数種のビニル系重合体、および(b)分子末端に重合性官能基を有し、かつ側鎖に有する官能基の種類が異なる複数種のビニル系重合体を提供することができる。そのため、本発明の一実施形態に係るビニル系重合体、硬化性樹脂組成物および硬化物は、シーリング材、接着剤、粘着材、弾性接着剤、塗料、粉体塗料、発泡体、電気電子用ポッティング材、フィルム、ガスケット、レジスト、各種成形材料、光造型、人工大理石などに好適に利用することができる。