(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】半導体式ガス検知素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
G01N27/12 B
(21)【出願番号】P 2020097987
(22)【出願日】2020-06-04
【審査請求日】2023-05-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木浦 良重
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特許第6679787(JP,B1)
【文献】特開昭54-032394(JP,A)
【文献】米国特許第05382341(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象ガスを検知するための半導体式ガス検知素子であって、
前記半導体式ガス検知素子が、
金属酸化物半導体を主成分とする感応層と、
前記感応層を被覆し、前記感応層の劣化を抑制する保護層と
の2層からなり、
前記保護層が、金属酸化物と、前記金属酸化物に保持されたクロムおよびビスマスとを含み、
前記保護層の前記金属酸化物が、酸化スズを含む、
半導体式ガス検知素子。
【請求項2】
前記保護層が、前記感応層の、有機シリコーンガスによる劣化および高温高湿環境下における劣化を抑制する保護層である、
請求項
1に記載の半導体式ガス検知素子。
【請求項3】
前記保護層が、前記金属酸化物に保持されたランタンを含む、
請求項1
または2に記載の半導体式ガス検知素子。
【請求項4】
前記検知対象ガスが、メタンガスまたはイソブタンガスである、
請求項1~
3のいずれか1項に記載の半導体式ガス検知素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体式ガス検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス検知器に用いられるガス検知素子として、たとえば特許文献1に開示されているように、金属酸化物半導体を主成分とする感応層と、感応層を被覆する保護層とを備えた半導体式ガス検知素子が用いられている。感応層は、環境雰囲気中に含まれる検知対象となるガス(検知対象ガス)に接触して、電気抵抗値が変化することで、検知対象ガスを検知する。また、保護層は、たとえば環境雰囲気中に含まれるヘキサメチルジシロキサン(HMDS)などの有機シリコーンガスなどによる感応層の劣化(被毒)を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば、特許文献1の半導体式ガス検知素子にあるような、感応層の被毒を抑制するための保護層には、感応層の被毒を抑制する目的で、クロムが添加される場合がある。ところが、保護層にクロムが添加されると、有機シリコーンガスなどによる感応層の被毒を抑制することはできるが、高温高湿環境下において感応層が劣化するという問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みなされたもので、被毒耐久性および高温高湿耐久性に優れた半導体式ガス検知素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の半導体式ガス検知素子は、検知対象ガスを検知するための半導体式ガス検知素子であって、前記半導体式ガス検知素子が、金属酸化物半導体を主成分とする感応層と、
前記感応層を被覆し、前記感応層の劣化を抑制する保護層との2層からなり、前記保護層が、金属酸化物と、前記金属酸化物に保持されたクロムおよびビスマスとを含むことを特徴とする。
【0007】
また、前記保護層が、前記金属酸化物に保持されたランタンを含むことが好ましい。
【0008】
また、前記金属酸化物が、酸化スズを含むことが好ましい。
【0009】
また、前記検知対象ガスが、メタンガスまたはイソブタンガスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被毒耐久性および高温高湿耐久性に優れた半導体式ガス検知素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る半導体式ガス検知素子の概略図である。
【
図2】高温高湿耐久性試験前後の半導体式ガス検知素子のセンサ出力の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係る半導体式ガス検知素子を説明する。ただし、以下に示す実施形態は一例であり、本発明の半導体式ガス検知素子は、以下の例に限定されることはない。
【0013】
本実施形態の半導体式ガス検知素子は、たとえば大気などの環境雰囲気において、環境雰囲気に含まれる検知対象ガスを検知するために用いられる。半導体式ガス検知素子1は、
図1に示されるように、金属酸化物半導体を主成分とする感応層2と、感応層2を被覆する保護層3との2層からなる。半導体式ガス検知素子1は、感応層2の表面に吸着した酸素と環境雰囲気中の検知対象ガスとの化学反応に伴って感応層2の抵抗値(または電気伝導度)が変化することを利用して、検知対象ガスを検知する。
【0014】
検知対象ガスは、半導体式ガス検知素子1が検知の対象とするガスのことである。検知対象ガスとしては、感応層2の表面に吸着した酸素と化学反応し、感応層2の抵抗値を変化させるものであれば、特に限定されることはなく、たとえばメタンガスまたはイソブタンガスが例示される。
【0015】
半導体式ガス検知素子1は、本実施形態では、貴金属製のコイル4をさらに備え、コイル4の周囲に感応層2が設けられたコイル型(または熱線型、2端子型)として構成される。コイル4は、本実施形態では、感応層2および保護層3を検知対象ガスの検知に適した温度に加熱するとともに、感応層2の抵抗値の変化を検出するために用いられる。コイル4は、特に限定されることはなく、半導体式ガス検知素子において一般的に用いられる材質、線径、コイル径、コイル巻数のものが用いられる。半導体式ガス検知素子1は、コイル型とすることで、製造が容易であるとともに、広い濃度範囲の検知対象ガスを検知可能である。ただし、半導体式ガス検知素子は、感応層および保護層を備えていれば、コイル型に限定されることはなく、MEMS型(または基板型)など他のタイプであってもよい。
【0016】
半導体式ガス検知素子1は、たとえば、公知のブリッジ回路(図示せず)に組み込まれて、感応層2の表面の吸着酸素と環境雰囲気中の検知対象ガスとの化学反応に伴う抵抗値の変化が検出される。半導体式ガス検知素子1は、感応層2の抵抗値の変化を検出するために、コイル4を介してブリッジ回路に組み込まれる。ブリッジ回路は、半導体式ガス検知素子1における抵抗値の変化によって生じる回路内の電位差の変化を電位差計によって測定して、その電位差の変化を検知対象ガスの検知信号として出力する。ただし、半導体式ガス検知素子1は、感応層2の表面の吸着酸素と検知対象ガスとの化学反応に伴って生じる抵抗値の変化を検出することができれば、ブリッジ回路に限定されることはなく、ブリッジ回路とは異なる回路に組み込まれて使用されてもよい。
【0017】
感応層2は、金属酸化物半導体を主成分とし、表面の吸着酸素と検知対象ガスとの化学反応に伴って電気抵抗が変化する部位である。感応層2の金属酸化物半導体は、吸着酸素と検知対象ガスとの化学反応に伴って電気抵抗が変化するものであればよく、特に限定されることはない。本実施形態では、感応層2の金属酸化物半導体は、酸化スズを含んでいる。感応層2は、金属酸化物半導体として酸化スズを含むことにより、検知対象ガス(たとえばメタンガスまたはイソブタンガス)を高感度で検知することができる。
【0018】
感応層2の金属酸化物半導体は、電気抵抗を調整するために、ドナーとして金属元素が添加されていてもよい。添加される金属元素としては、金属酸化物半導体中にドナーとして添加可能であり、金属酸化物半導体の電気抵抗を調整することが可能であれば、特に限定されることはなく、たとえば、アンチモンやセリウムなどが例示される。アンチモンは、金属酸化物半導体の抵抗値を下げて、検知対象ガスの検知感度を上げるために有効であり、セリウムは、金属酸化物半導体の粒成長を抑制し、感応層2の長期安定性を向上させるために有効である。金属酸化物半導体中の金属元素濃度は、要求される電気抵抗に応じて、また要求される長期安定性に応じて、適宜設定することができる。
【0019】
感応層2は、金属酸化物半導体を主成分として(たとえば少なくとも50モル%以上)含むように形成されていればよく、その形成方法は特に限定されることはない。感応層2は、たとえば金属酸化物半導体の微粉体をエチレングリコールなどの溶媒に混ぜてペースト状にしたものをコイル4の周りに塗布して乾燥することにより形成することができる。本実施形態では、アンチモンおよびセリウムを含む酸化スズの微粉体を公知の共沈法により作製し、その微粉体をエチレングリコールに混ぜてペースト状にしたものをコイル4の周りに塗布して乾燥することにより、感応層2が形成される。
【0020】
保護層3は、感応層2を部分的または全体的に被覆し、感応層2の劣化を抑制する。感応層2の劣化とは、時間の経過に伴って感応層2の性能が変化(たとえば低下)することを意味する。感応層2の劣化には、たとえば、環境雰囲気中に含まれる有機シリコーンガス(たとえば、ヘキサメチルジシロキサンなど)が感応層2に付着することによって感応層2が被毒する(感応層2の検知感度が変化する)ことや、高温高湿環境下において無通電(非加熱)状態で放置されることにより感応層2が劣化する(感応層2の検知感度が変化する)ことなどが含まれる。
【0021】
保護層3は、本実施形態では、金属酸化物と、金属酸化物に保持されたクロムおよびビスマスとを含んでいる。保護層3は、金属酸化物とクロムおよびビスマスとを含むことにより、有機シリコーンガスによる感応層2の劣化と高温高湿環境下における感応層2の劣化とを抑制し、半導体式ガス検知素子1の被毒耐久性および高温高湿耐久性を向上させることができる。
【0022】
保護層3に含まれる金属酸化物は、主成分として(たとえば少なくとも50モル%以上の濃度で)保護層3を形成して、クロムおよびビスマスを保持する。金属酸化物は、少なくともその一部においてクロムおよびビスマスを保持していればよく、たとえば保護層3の全体に亘ってクロムおよびビスマスを保持していてもよいし、保護層3の一部の領域に亘ってクロムおよびビスマスを保持し、保護層3の他の領域に亘ってクロムおよびビスマスを保持していなくてもよい。また、金属酸化物は、クロムおよびビスマスを保持していれば、その保持形態は特に限定されることはなく、金属酸化物中に含まれるように(たとえば固溶されるように)クロムおよびビスマスを保持してもよいし、金属酸化物上に担持されるようにクロムおよびビスマスを保持してもよい。
【0023】
金属酸化物は、特に限定されることはないが、本実施形態では、酸化スズを含んでいる。保護層3は、金属酸化物が酸化スズを含むことにより、有機シリコーンガスによる感応層2の劣化を抑制することができる。これは、酸化スズの有機シリコーンガスに対する活性が高く、酸化スズによって有機シリコーンガスが変質させられ、感応層2にまで有機シリコーンガスが到達するのが抑制されるためだと考えられる。
【0024】
金属酸化物は、酸化スズに代えて、または酸化スズとともに、酸化インジウムを含んでいてもよい。保護層3は、金属酸化物として酸化インジウムを含むことにより、保護層3を設けることによる感応層2の検知感度の低下を抑制し、高温高湿環境下における感応層2の劣化を抑制することができる。これは、酸化インジウムの活性が低いために、感応層2の検知感度の低下が抑制されるとともに、高温高湿環境下における水分子との相互作用が抑制されるためだと考えられる。
【0025】
保護層3が、金属酸化物として酸化スズおよび酸化インジウムの両方を含む場合は、酸化スズおよび酸化インジウムの両方がクロムおよびビスマスを保持していてもよいし、酸化スズおよび酸化インジウムのいずれか一方がクロムおよびビスマスを保持していてもよい。また、酸化スズおよび酸化インジウムのいずれか一方がクロムおよびビスマスのいずれか一方を保持し、酸化スズおよび酸化インジウムの他方がクロムおよびビスマスの他方を保持していてもよい。
【0026】
金属酸化物は、上述したように、酸化スズや酸化インジウムなどの金属酸化物半導体を含んでいてもよいし、金属酸化物半導体に代えて、または金属酸化物半導体とともに、シリカ、アルミナ、シリカアルミナなどの絶縁性金属酸化物を含んでいてもよい。保護層3は、たとえばアルミナを含むことにより、有機シリコーンガスによる感応層2の劣化を抑制することができる。これは、アルミナが、緻密な層を形成することが可能であり、形成される緻密な層が、有機シリコーンガスに対してフィルタ層またはバリア層として機能して、有機シリコーンガスが感応層2に吸着するのを抑制することによるものと考えられる。また、保護層3は、たとえばシリカおよび/またはシリカアルミナを含むことにより、高温高湿環境下における感応層2の劣化を抑制することができる。これは、シリカおよび/またはシリカアルミナが高い吸湿性を有することで、シリカおよび/またはシリカアルミナへの水分の吸着が優先的に生じ、感応層2への水分吸着が抑制されて感応層2の劣化が抑制されることによるものと考えられる。
【0027】
保護層3は、金属酸化物に保持されたクロムを含むことにより、有機シリコーンガスによる感応層2の劣化を抑制することができる。これは、クロムの有機シリコーンガスに対する活性が高く、クロムによって有機シリコーンガスが変質させられ、感応層2にまで有機シリコーンガスが到達するのが抑制されるためだと考えられる。保護層3に含まれるクロムの量は、特に限定されることはないが、有機シリコーンガスによる感応層2の劣化をさらに抑制するという観点から、0.055mol%以上が好ましく、0.088mol%以上がより好ましく、0.11mol%以上が最も好ましい。また、保護層3に含まれるクロムの量は、高温高湿環境下における感応層2の劣化をさらに抑制するという観点から、0.13mol%以下が好ましく、0.11mol%以下が最も好ましい。
【0028】
また、保護層3は、金属酸化物に保持されたビスマスを含むことにより、高温高湿環境下における感応層2の劣化を抑制することができる。これは、ビスマスの活性が低いために、感応層2の検知感度の低下が抑制されるとともに、高温高湿環境下における水分子との相互作用が抑制されるためだと考えられる。保護層3に含まれるビスマスの量は、特に限定されることはないが、高温高湿環境下における感応層2の劣化をさらに抑制するという観点から、0.14mol%以上が好ましく、0.19mol%以上がより好ましく、0.28mol%以上がよりさらに好ましく、0.33mol%以上であることが最も好ましい。また、保護層3に含まれるビスマスの量は、有機シリコーンガスによる感応層2の劣化をさらに抑制するという観点から、0.33mol%以下が好ましく、0.28mol%以下が最も好ましい。
【0029】
クロムおよびビスマスは、上述したように、金属酸化物に保持されていれば、その保持される方法は特に限定されることはない。クロムおよびビスマスは、たとえば、公知の共沈法により金属酸化物と混合されることで金属酸化物中に含まれていてもよいし(たとえば、固溶されていてもよいし)、クロムおよびビスマスを含む溶液に金属酸化物が浸漬されることにより金属酸化物上に担持されていてもよい。
【0030】
保護層3はさらに、金属酸化物に保持されたランタンを含んでいてもよい。保護層3は、金属酸化物に保持されたランタンを含むことにより、高温高湿環境下における感応層2の劣化をさらに抑制することができる。これは、ランタンの活性が低いために、感応層2の検知感度の低下が抑制されるとともに、高温高湿環境下における水分子との相互作用が抑制されるためだと考えられる。保護層3に含まれるランタンの量は、特に限定されることはないが、高温高湿環境下における感応層2の劣化をさらに抑制するという観点から、0.14mol%以上が好ましく、0.19mol%以上がより好ましく、0.28mol%以上が最も好ましい。また、保護層3に含まれるランタンの量は、有機シリコーンガスによる感応層2の劣化をさらに抑制するという観点から、0.33mol%以下が好ましく、0.28mol%以下が最も好ましい。
【0031】
保護層3は、金属酸化物と、クロムおよびビスマス、ならびに任意でランタンとを含んでいればよく、その形成方法は特に限定されない。保護層3は、たとえば、クロムおよびビスマス、任意でランタンを保持した金属酸化物の微粉体をエチレングリコールなどの溶媒に混ぜてペースト状にしたものを感応層2の周りに塗布して乾燥することにより形成することができる。なお、保護層3は、クロムおよびビスマス、ならびに任意でランタンを保持しない金属酸化物の微粉体が混在していてもよい。
【実施例】
【0032】
以下において、実施例をもとに本実施形態の半導体式ガス検知素子の優れた効果を説明する。ただし、本発明の半導体式ガス検知素子は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
(半導体式ガス検知素子)
半導体式ガス検知素子として、
図1に示される半導体式ガス検知素子1を作製した。半導体式ガス検知素子の各構成要素は、以下の要領で作製した。
【0034】
感応層は、公知の共沈法によりアンチモンおよびセリウムが添加された酸化スズの微粉体を溶媒(エチレングリコール)に混ぜてペースト状にしたものをコイルの周りに塗布して乾燥させることにより略球形状に形成した。粒径は、約400~420μmであった。
【0035】
保護層は、公知の浸漬法によりビスマスおよび/またはランタンを担持させた酸化スズの微粉体と、公知の共沈法によりクロムを内部に含ませた酸化スズの微粉体と、酸化インジウムの微粉体とを適宜混合して溶媒(エチレングリコール)に混ぜてペースト状にしたものを感応層上に塗布して乾燥させることにより形成した。膜厚は、約50~60μmであった。
【0036】
(半導体式ガス検知素子のセンサ出力の測定)
半導体式ガス検知素子を公知のブリッジ回路に組み込んで、大気中に100ppmの13Aガスが含まれる環境において、半導体式ガス検知素子から出力されるセンサ出力を測定した。
【0037】
(有機シリコーンガス曝露環境下における半導体式ガス検知素子の被毒耐久性について)
保護層における添加元素の違いにより、有機シリコーンガス曝露環境下における半導体式ガス検知素子の耐久性がどのように変化するのかを調べた。試験に供した半導体式ガス検知素子の保護層は、以下の表1に示す通りであった。なお、表1中、添加元素の含有量は、保護層全体の元素の含有率を100モル%としたときの添加元素の含有率(モル%)で表している。半導体式ガス検知素子の被毒耐久性試験では、大気中に20ppmのヘキサメチルジシロキサン(HMDS)が含まれる環境に半導体式ガス検知素子を間欠曝露した。間欠曝露は、1分間の曝露と4分間の非曝露とを交互に繰り返した。間欠曝露のトータルの時間は、1時間、4時間、6時間、8時間、10時間とした。半導体式ガス検知素子の被毒耐久性は、間欠曝露の各時間経過後に半導体式ガス検知素子のセンサ出力を測定して、センサ出力が、スパン調整下限15mVを下回るか、スパン調整上限100mVを上回るまでの間欠曝露時間で評価した。スパン調整下限およびスパン調整上限という用語は、半導体式ガス検知素子を組み込んだガス検知器の調整可能範囲(本実施例では、大気中に100ppmの13Aガスが含まれる場合に半導体式ガス検知素子から出力されるセンサ出力の所定の規格範囲)の下限および上限を意味する。なお、いずれの半導体式ガス検知素子も、間欠曝露の経過に伴って、センサ出力がスパン調整上限100mVを上回ることはなかった。
【0038】
【0039】
表1は、被毒耐久性試験前後の半導体式ガス検知素子から得られたセンサ出力値を示している。表1から分かるように、添加元素がクロムだけの保護層(比較例1)の場合、HMDS間欠曝露時間が4時間になると、センサ出力がスパン調整下限15mVを下回っている。それに対して、添加元素としてクロムに加えてビスマスまたはランタンが含まれる保護層(実施例1、実施例2)の場合、センサ出力がスパン調整下限15mVを下回るまでのHMDS間欠曝露時間が10時間まで延びている。さらに、添加元素としてクロムに加えてビスマスおよびランタンが含まれる保護層(実施例3、実施例4)の場合、HMDS間欠曝露時間が10時間を過ぎても、センサ出力がスパン調整下限15mVを下回ることがない。この結果から、保護層に、金属酸化物と、金属酸化物に保持されたクロムおよびビスマスまたはランタンとが含まれることで、半導体式ガス検知素子の被毒耐久性が向上し、保護層に、金属酸化物と、金属酸化物に保持されたクロムならびにビスマスおよびランタンとが含まれることで、半導体式ガス検知素子の被毒耐久性がさらに向上することが分かる。
【0040】
(高温高湿無通電環境下における半導体式ガス検知素子の高温高湿耐久性について)
保護層における添加元素の違いにより、高温高湿無通電環境下における半導体式ガス検知素子の耐久性がどのように変化するのかを調べた。試験に供した半導体式ガス検知素子は、上記の表1に示す通りであった。半導体式ガス検知素子の高温高湿耐久性試験では、半導体式ガス検知素子を、温度40℃、相対湿度100%の大気環境において、通電することなく15日間放置した。半導体式ガス検知素子の高温高湿耐久性は、高温高湿耐久性試験前後における半導体式ガス検知素子のセンサ出力の変化の大きさにより評価した。
【0041】
図2は、高温高湿耐久性試験前後の半導体式ガス検知素子のセンサ出力の変化を示している。なお、
図2では、すべての半導体式ガス検知素子のそれぞれの高温高湿耐久性試験前のセンサ出力を1としている。
図2から分かるように、添加元素がクロムだけの保護層(比較例1)の場合、高温高湿耐久性試験によって、センサ出力が試験前の約40%程度にまで落ち込んでいる。それに対して、添加元素がクロムに加えてビスマスまたはランタンが含まれる保護層(実施例1、実施例2)の場合、高温高湿耐久性試験後もなお、センサ出力は試験前の約80~90%程度を維持している。さらに、添加元素がクロムに加えてビスマスおよびランタンが含まれる保護層(実施例3、実施例4)の場合、高温高湿耐久性試験の前後でセンサ出力はほとんど変化していない。この結果から、保護層に、金属酸化物と、金属酸化物に保持されたクロムおよびビスマスまたはランタンとが含まれることで、半導体式ガス検知素子の高温高湿耐久性が向上し、保護層に、金属酸化物と、金属酸化物に保持されたクロムならびにビスマスおよびランタンとが含まれることで、半導体式ガス検知素子の高温高湿耐久性がさらに向上することが分かる。
【符号の説明】
【0042】
1 半導体式ガス検知素子
2 感応層
3 保護層
4 コイル