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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20240610BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240610BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
B41J2/165 501
B41J2/14 201
B41J2/165 303
B41J2/14 611
B41J2/01 401
B41J2/01 451
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020100273
(22)【出願日】2020-06-09
(65)【公開番号】P2021014111
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2019127883
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永持 創一朗
(72)【発明者】
【氏名】下津佐 峰生
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-214079(JP,A)
【文献】特開2008-273013(JP,A)
【文献】特開2008-023987(JP,A)
【文献】特開2009-220456(JP,A)
【文献】特開2017-001393(JP,A)
【文献】米国特許第06382773(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数のノズルと、多層構造の素子基板とを備える記録ヘッドを用いて記録媒体に記録を行う記録装置であって、
前記素子基板は、
電気熱変換素子と、
前記素子基板を平面視した際に前記電気熱変換素子と少なくとも一部が重なる位置に形成される温度検知素子と、
前記温度検知素子に接続される複数の配線と、
前記複数の配線それぞれに対応し、外部からの制御信号により配線の接続をオンオフする複数のスイッチと、
前記複数のスイッチによりオンとされた配線により接続された前記温度検知素子の異なる位置の間の電位差を比較する比較器と、
を有し、
前記温度検知素子は、異なる前記複数の配線が選択されることで複数の領域の温度検知が可能であり、
前記電気熱変換素子は、前記複数のノズルに対応する複数の電気熱変換素子の1つであり、
前記温度検知素子は、前記複数のノズルに対応する複数の温度検知素子の1つであり、
前記温度検知素子は矩形の薄膜抵抗体であり、前記複数の配線は、前記薄膜抵抗体が形成される層とは異なる層に形成され、前記薄膜抵抗体の周縁部に接続され、
前記記録装置は、
前記複数のスイッチのオンオフを制御する前記制御信号を生成する生成手段と、
前記比較器から出力された電位差の時間変化を監視する監視手段と、
前記監視手段により監視された電位差の時間変化に基づいて、インクの吐出不良が発生したかどうかを判定する判定手段と、
を有し、
前記判定手段は、インクは正常に吐出されていると判定された場合、前記複数のスイッチの一部ずつをオンして前記複数の配線の一部ずつを接続し、該接続により得られた前記比較器から出力された各電位差の差分に基づいて、インク吐出にヨレが発生しているかどうかを判定す
ことを特徴とする記録装置
【請求項2】
前記素子基板は、基板と、前記基板の上に設けられ、前記電気熱変換素子と前記温度検知素子とを含む多層構造と、を有し、
前記温度検知素子は、前記基板と前記電気熱変換素子の間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の記録装置
【請求項3】
前記素子基板は、基板と、前記基板の上に設けられ、前記電気熱変換素子と前記温度検知素子とを含む多層構造と、を有し、
前記電気熱変換素子は、前記基板と前記温度検知素子の間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の記録装置
【請求項4】
前記温度検知素子は、前記電気熱変換素子を覆う耐キャビテーション膜を兼ねることを特徴とする請求項3に記載の記録装置
【請求項5】
前記複数の配線とは4つの配線であり、
前記4つの配線は、前記薄膜抵抗体の周縁部であって、対向する2つの辺それぞれの2か所に接続されることを特徴とする請求項に記載の記録装置
【請求項6】
前記複数の配線とは6つの配線であり、
前記6つの配線は、前記薄膜抵抗体の周縁部であって、対向する2つの辺それぞれの3か所に接続されることを特徴とする請求項に記載の記録装置
【請求項7】
前記複数の配線とは8つの配線であり、
前記8つの配線は、前記薄膜抵抗体の周縁部であって、矩形の4つの辺それぞれの2か所に接続されることを特徴とする請求項に記載の記録装置
【請求項8】
前記記録ヘッドのインク吐出面を払拭するワイピングブレードと、
前記ワイピングブレードを前記インク吐出面に対して移動させる移動手段と、
前記ワイピングブレードのブレード方向を変更する変更手段とを有することを特徴とする請求項に記載の記録装置。
【請求項9】
前記生成手段は、前記インクの吐出不良の判定を行う場合には、前記複数のスイッチすべてをオンして前記複数の配線すべてを接続するよう前記制御信号を生成することを特徴とする請求項に記載の記録装置。
【請求項10】
前記判定手段は、インク吐出にヨレが発生していると判定された場合、さらに前記一部ずつとは異なる前記複数のスイッチの一部ずつをオンして前記複数の配線の一部ずつを接続し、該接続により得られた前記比較器から出力された各電位差に基づいて、ヨレが発生している方向を判定することを特徴とする請求項に記載の記録装置。
【請求項11】
前記判定された前記ヨレが発生している方向に基づいて、前記変更手段を動作させて前記ワイピングブレードのブレード方向を変更させ、前記移動手段を動作させて該変更された方向に前記ワイピングブレードを移動させて前記記録ヘッドのインク吐出面を払拭することを特徴とする請求項10に記載の記録装置。
【請求項12】
記複数のノズルからのインクの吐出の状態を回復するための回復手段と、
前記複数の領域の温度検知の結果に応じて前記回復手段を制御する制御手段と、を更に有することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項13】
前記回復手段は、前記記録ヘッドのインク吐出面を払拭するワイピングブレードであり、
前記制御手段は、前記複数の領域の温度検知の結果に応じて前記ワイピングブレードと前記インク吐出面との相対的な移動方向を制御することを特徴とする請求項12に記載の記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は素子基板、液体吐出ヘッド、及び記録装置に関し、特に、例えば、素子基板を組み込んだ液体吐出ヘッドをインクジェット方式に従って記録を行うために記録ヘッドとして適用した記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルからインク液滴を吐出させ、紙、プラスチックフィルムなどの記録媒体に付着させるインクジェット記録方式の中で、インクを吐出するために熱エネルギーを発生するヒータを有する記録ヘッドを用いるものがある。この方式に従う記録ヘッドは、例えば、通電に応じて発熱する電気熱変換素子とその駆動方法などを半導体製造工程と同様の工程を用いて形成できる。従って、ノズルの高密度実装が容易であり、記録の高精度化が達成できるなどの利点がある。
【0003】
このような記録ヘッドでは、異物や粘度の増加したインクなどによるノズルの目詰まりや、インク供給路やノズル内に混入した気泡、又はノズル表面の濡れ性の変化などの原因により、記録ヘッドの全部又は一部のノズルでインク吐出不良が発生することがある。そのような吐出不良が発生した場合に生じる画像品位の低下を避けるために、インク吐出状態を回復させる動作や、他のノズルなどによる補完動作を速やかに実行できる構成が備えられている。これらの動作を速やかに実行するためには、インク吐出状態の判定やその吐出不良発生の判定を正確にかつ適時に行うことが極めて重要である。
【0004】
従って、従来からも種々のインク吐出状態の判定方法やこれらを適用した装置が提案されている。
【0005】
特許文献1は、吐出不良を検出するために、正常吐出に生じる温度低下を検出する方法を開示している。正常吐出時は吐出されるインク液滴の一部が記録ヘッドの電気熱変換素の耐キャビテーション層に接触し、温度検知素子の検知温度が低下する。これに対して、インクの吐出不良時はインク液滴が耐キャビテーション層に接触することはないので、温度検知素子の温度は穏やかに低下する。従って、この温度変化の違いから吐出状態を検出することができる。
【0006】
さらに、特許文献1は、インクなどの液体に熱を供給する電気熱変換素子と、電気熱変換素子の下に電気熱変換素子の温度を検知する温度検知素子を2つ備えることにより、各温度検知素子から得られる出力電圧を比較できる構成を開示している。このような構成により、インクなどの液体の吐出状態をより正確に判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-214079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、特許文献1に記載の記録ヘッドの素子基板では電気熱変換素子の温度を電圧として検知するという性質上、出力電圧を上げる、即ち、感度を上げるために第1と第2の温度検知素子を夫々、電気熱変換素子の中央に近い場所に配置する構成を採用している。
【0009】
しかし、温度検知素子を複数配置するという性質上、第1と第2の温度検知素子の間に、温度検知素子を配置することのできない隙間が必ず存在する。そのため、温度検知できない領域がどうしても発生してしまう。
【0010】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、温度検知可能な領域を確保し、より信頼性の高い素子基板、液体吐出ヘッド、及び記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の素子基板は次のような構成からなる。
【0012】
即ち、
インクを吐出する複数のノズルと、多層構造の素子基板とを備える記録ヘッドを用いて記録媒体に記録を行う記録装置であって、
前記素子基板は、
電気熱変換素子と、
前記素子基板を平面視した際に前記電気熱変換素子と少なくとも一部が重なる位置に形成される温度検知素子と、
前記温度検知素子に接続される複数の配線と、
前記複数の配線それぞれに対応し、外部からの制御信号により配線の接続をオンオフする複数のスイッチと、
前記複数のスイッチによりオンとされた配線により接続された前記温度検知素子の異なる位置の間の電位差を比較する比較器と、
を有し、
前記温度検知素子は、異なる前記複数の配線が選択されることで複数の領域の温度検知が可能であり、
前記電気熱変換素子は、前記複数のノズルに対応する複数の電気熱変換素子の1つであり、
前記温度検知素子は、前記複数のノズルに対応する複数の温度検知素子の1つであり、
前記温度検知素子は矩形の薄膜抵抗体であり、前記複数の配線は、前記薄膜抵抗体が形成される層とは異なる層に形成され、前記薄膜抵抗体の周縁部に接続され、
前記記録装置は、
前記複数のスイッチのオンオフを制御する前記制御信号を生成する生成手段と、
前記比較器から出力された電位差の時間変化を監視する監視手段と、
前記監視手段により監視された電位差の時間変化に基づいて、インクの吐出不良が発生したかどうかを判定する判定手段と、
を有し、
前記判定手段は、インクは正常に吐出されていると判定された場合、前記複数のスイッチの一部ずつをオンして前記複数の配線の一部ずつを接続し、該接続により得られた前記比較器から出力された各電位差の差分に基づいて、インク吐出にヨレが発生しているかどうかを判定す
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、1つの温度検知素子によって複数の領域の温度検知が可能であるので、より信頼性の高い素子基板が提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の代表的な実施例である記録ヘッドを備えた記録装置の構成概略を示す斜視図である。
図2図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
図3】温度検知素子を備える記録ヘッドの素子基板の一部を模式的に示す図である。
図4】正常にインク吐出が行われている場合と吐出不良が発生した場合のノズル内のインクの状態を示す図である。
図5】正常にインク吐出が行われている場合と吐出不良が発生した場合の温度センサが検出する温度変化を示す図である。
図6】温度センサとヒータの配置構成を示す図である。
図7】温度センサに設けられた4つの配線を選択的に用いて配線間の電流の流れを模式的に示す図である。
図8】温度センサに設けられた4つの配線を選択的に用いて配線間の電流の流れを模式的に示す図である。
図9図7図8に示した構成を備えた温度センサを用いた温度検出回路の構成を示す等価回路図である。
図10】吐出状態の判定方法を示したフローチャートである。
図11】温度センサとヒータと温度センサの配線の配置構成を示す図である。
図12】温度センサとヒータと温度センサの配線の配置構成を示す図である。
図13】実施例2における温度センサとヒータの配置構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には、複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられても良い。さらに添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0019】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0020】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0021】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0022】
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0023】
以下に用いる記録ヘッド用の素子基板(ヘッド基板)とは、シリコン半導体からなる単なる基体を指し示すものではなく、各素子や配線等が設けられた構成を差し示すものである。
【0024】
さらに、基板上とは、単に素子基板の上を指し示すだけでなく、素子基板の表面、表面近傍の素子基板内部側をも示すものである。また、本発明でいう「作り込み(built-in)」とは、別体の各素子を単に基体表面上に別体として配置することを指し示している言葉ではなく、各素子を半導体回路の製造工程等によって素子板上に一体的に形成、製造することを示すものである。
【0025】
<記録装置の概要説明(図1図2)>
図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)を用いて記録を行なう記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。
【0026】
図1に示すように、インクジェット記録装置(以下、記録装置)1はインクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行なうインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)3をキャリッジ2に搭載している。そして、キャリッジ2を矢印A方向に往復移動させて記録を行う。記録紙などの記録媒体Pを、給紙機構5を介して給紙し、記録位置まで搬送し、その記録位置において記録ヘッド3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行なう。
【0027】
記録装置1のキャリッジ2には記録ヘッド3を搭載するのみならず、記録ヘッド3に供給するインクを貯留するインクタンク6を装着する。インクタンク6はキャリッジ2に対して着脱自在になっている。
【0028】
図1に示した記録装置1はカラー記録が可能であり、そのためにキャリッジ2にはマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)のインクを夫々、収容した4つのインクカートリッジを搭載している。これら4つのインクカートリッジは夫々独立に着脱可能である。
【0029】
この実施例の記録ヘッド3は、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用している。このため、電気熱変換素子(ヒータ)を備えている。この電気熱変換素子は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換素子にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出する。なお、記録装置は、上述したシリアルタイプの記録装置に限定するものではなく、記録媒体の幅方向に吐出口を配列した記録ヘッド(ラインヘッド)を記録媒体の搬送方向に配置するいわゆるフルラインタイプの記録装置にも適用できる。
【0030】
図2図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【0031】
図2に示すように、コントローラ600は、MPU601、ROM602、特殊用途集積回路(ASIC)603、RAM604、システムバス605、A/D変換器606などで構成される。ここで、ROM602は後述する制御シーケンスに対応したプログラム、所要のテーブル、その他の固定データを格納する。ASIC603は、キャリッジモータM1の制御、搬送モータM2の制御、及び、記録ヘッド3の制御のための制御信号を生成する。RAM604は、画像データの展開領域やプログラム実行のための作業用領域等として用いられる。システムバス605は、MPU601、ASIC603、RAM604を相互に接続してデータの授受を行う。A/D変換器606は以下に説明するセンサ群からのアナログ信号を入力してA/D変換し、デジタル信号をMPU601に供給する。
【0032】
また、図2において、610は画像データの供給源となる図1に示したホストやMFPに対応するホスト装置である。ホスト装置610と記録装置1との間ではインタフェース(I/F)611を介して画像データ、コマンド、ステータス等をパケット通信により送受信する。このパケット通信については後で説明する。なお、インタフェース611としてUSBインタフェースをネットワークインタフェースとは別にさらに備え、ホストからシリアル転送されるビットデータやラスタデータを受信できるようにしても良い。
【0033】
さらに、620はスイッチ群であり、電源スイッチ621、プリントスイッチ622、回復スイッチ623などから構成される。
【0034】
630は装置状態を検出するためのセンサ群であり、位置センサ631、温度センサ632等から構成される。この実施例では、この他にもインク残量を検出するフォトセンサが設けられる。このフォトセンサの詳細について後述する。
【0035】
さらに、640はキャリッジ2を矢印A方向に往復走査させるためのキャリッジモータM1を駆動させるキャリッジモータドライバ、642は記録媒体Pを搬送するための搬送モータM2を駆動させる搬送モータドライバである。
【0036】
ASIC603は、記録ヘッド3による記録走査の際に、RAM604の記憶領域に直接アクセスしながら記録ヘッドに対して電気熱変換素子(インク吐出用のヒータ)を駆動するためのデータを転送する。加えて、この記録装置には、ユーザインタフェースとしてLCDやLEDで構成される表示部が備えられている。
【0037】
<記録ヘッドの概要説明(図3図5)>
図3は温度検知素子を備える記録ヘッド3の素子基板(ヒータボード又はヘッド基板)の一部を模式的に示す図である。図3において、(a)はその素子基板を上面から眺めた平面図であり、(b)は図3(a)における1つのヒータ(電気熱変換素子)104と1つの温度検知素子(温度センサ)105の構造を模式的に示すa-a’線に沿った断面図である。
【0038】
図3(a)に示されるように、ヒータ104に対してワイヤボンディングなどにより外部と接続された電力供給を行うための端子106が接続されている。また、ヒータ104に対応して温度センサ105(温度検知素子)が設けられる。そして、ヒータ104や温度センサ105と、端子106とはAl(アルミニウム)配線110によって接続される。
【0039】
また、図3(b)に示されるように、ヒータボードを構成するSi基板108には、熱酸化膜SiO2などからなる蓄熱層を介して温度に応じて抵抗値が変化する薄膜抵抗体で形成される温度センサ105が配置される。温度センサ105はAl,Pt,Ti,TiN,Ta,Cr,W,AlCu,TaSiNなどからなる。さらに、Si基板108には、ヒータ104に対する個別配線と、ヒータ104とこれに選択的に電力供給を行うための制御回路を接続する配線とを含むAl配線110が形成される。さらに、層間絶縁膜111を介してヒータ104、SiNなどのパッシベーション膜112および耐キャビテーション膜113が半導体製造工程と同様のプロセスにて高密度に積層されて配置される。なお、耐キャビテーション膜113には、ヒータ104上の耐キャビテーション性を高めるためにTaなどを用いることができる。さらに、ヒータ104の上部にはインクを吐出するノズル103が形成されている。
【0040】
以上説明した構造から分かるように、Si基板108の上は多層構造をしており、ヒータ104が形成される層とは異なる層に温度センサ105が形成され、これらの層の間には層間絶縁膜111が形成される。
【0041】
また、図3(b)では、ヒータ104の下に温度センサ105を配置している例を説明しているが、温度センサ105を液室114とヒータ104の間に配置してもよい。また、耐キャビテーション膜113を温度センサとして用いてもよい。
【0042】
各ヒータの温度を検出するためには、端子106を通して温度センサ105に対して電力が供給され、温度センサ105の電圧を検出し、これを出力する必要がある。キャリッジ2にはそのような電力を供給する端子と温度センサ105からの出力電圧を受信する端子が備えられている。さらに、これらの端子を介した電力はフレキシブルケーブル(不図示)を介して記録装置1の本体部に出力される。
【0043】
そして、記録装置1の本体部では、フレキシブルケーブルを介して得られた温度情報に基づいて各ノズルからインクが正常吐出されたか、あるいは、吐出不良が発生したかを判定することができる。
【0044】
<吐出状態と層間絶縁膜温度の関係>
記録ヘッド3は、図3に示したように、基本的にインクを吐出するため熱エネルギーを発生するヒータ(電気熱変換素子)104と、その駆動に伴う温度変化を検出する温度センサ105とを備える。
【0045】
図4は正常にインク吐出が行われている場合と吐出不良が発生した場合のノズル内のインクの状態を示す図である。特に、吐出状態に伴う耐キャビテーション膜113上の状態を示したものである。図4において、(a)は吐出不良時、(b)は正常吐出時の様子を示している。
【0046】
図4(a)と図4(b)に示すように、ヒータ104を加熱後の経過時間t=t1では、インク吐出不良時と正常吐出時、共に、耐キャビテーション膜113上は加熱により発生した泡に覆われる。さらに一定時間が経過後のt=t2では、インク吐出不良時は耐キャビテーション膜113の上に泡が残存している。これに対して、正常吐出時は、吐出に伴い発生するインク液滴120の一部121がヒータ104の中央部直上にある耐キャビテーション膜113の表面に接触する。
【0047】
図5は、正常にインク吐出が行われている場合と吐出不良が発生した場合の温度センサ105が検出する温度変化を示す図である。特に、図5は吐出状態における耐キャビテーション膜113の表面下の温度変化を示したものである。また、図5におけるt=t2は図4におけるt=t2に対応している。
【0048】
図5によれば、インク吐出不良時は耐キャビテーション膜113の表面に常に泡が存在するため急激な温度変化は発生せず穏やかに温度が低下する。一方、インク正常吐出時は、t=t2のタイミングで熱がインク側に移動するため、耐キャビテーション膜113の表面の温度は急激に低下する。これは、温度センサ105が正の抵抗温度係数を持つ場合、温度が低下すると、温度センサ105の抵抗値が下がり、定電流の場合は出力電圧が減少するために生じる。
【0049】
次に、以上のような構成の記録ヘッドに実装される素子基板において、インク吐出動作におけるヒータの温度変化の特性を踏まえたインク吐出状態を判定する構成を実現する実施例について説明する。
【実施例1】
【0050】
図6は温度センサとヒータの配置構成を示す図である。図6において、(a)は図3(b)に示したのと同様なa-a’側断面図であり、(b)は1つのヒータとその温度センサとに着目した上面図である。
【0051】
図6(b)に示すように、この実施例では、温度センサ105をヒータ104の中心に配置し、温度センサ105の四隅にそれぞれ配線110A、110B、110C、110Dを配置する。また、各配線は端子106に接続される。これにより、任意の配線間の電気抵抗と電圧の測定が可能となる。これにより、温度センサ105のエリアを分割しての測定が可能となる。この点については後述する。
【0052】
なお、ヒータ104と温度センサ105との位置関係については、素子基板を平面視した際にヒータ104と温度センサ105との少なくとも一部が互いに重なっていればよい。温度検知を精度よく行うためには、ヒータ104の中央部と温度センサ105の中央部が重なっていることが好ましい。また、ヒータ104と温度センサ105とが重なる面積が大きいことが好ましい。
【0053】
図6(a)に示すように、ヒータ104の下に層間絶縁膜111を挟んで温度センサ105が配置され、また、温度センサ105の下部側で配線110C、110Dが接続されている。なお、図6(a)には示されていないが、配線110A、110Bも温度センサ105の下部側で接続されている。
【0054】
また、この実施例では、温度センサ105は配線110A~Dにより電気的に接続されるが、このような形態ではなく、別層のタングステンなどによって形成されたプラグにより電気的に接続されても構わない。即ち、温度センサ105と配線110A~Dとがプラグを介して接続されていてもよい。この場合は、プラグを温度センサ105の周縁部に接続することが好ましい。また、そのプラグ形状はスリット形状やホール形状でも構わない。
【0055】
図7図8は、温度センサに設けられた4つの配線を選択的に用いて配線間の電流の流れを模式的に示す図である。
【0056】
上述のように薄膜状で矩形の温度センサ105の周縁部の4か所(対向する2辺夫々に2か所)に配線を設けた構成にすることにより、図7図8に示すように、次のようないくつかの配線間の温度センサの抵抗と出力電圧を監視可能になる。
【0057】
即ち、図7(a)に示すように、配線110Aと配線110Cを一つの配線ACとみなし、配線110Bと配線110Dを一つの配線BDとして、配線ACと配線BDの間の温度センサ105の抵抗Rallと出力電圧を監視できる。
【0058】
また、図7(b)に示すように、配線110Cと配線110Dの間の温度センサ105の抵抗RCDと出力電圧を監視できる。そして、図7(c)に示すように、配線110Aと配線110Bの間の温度センサ105の抵抗RABと出力電圧を監視できる。さらには、図8(a)に示すように、配線110Aと配線110Dの間の温度センサ105の抵抗RADと出力電圧を監視できる。そして、図8(b)に示すように、配線110Cと配線110Bの間の温度センサ105の抵抗RCBと出力電圧を監視できる。
【0059】
このように、この実施例では、任意の配線間の温度センサの抵抗と出力電圧を監視できる。これにより、温度センサで温度検知可能な最大領域を所定の領域とした場合、所定の領域のうちの複数の領域の温度検知が可能である。
【0060】
図9図7図8に示した構成を備えた温度センサを用いた温度検出回路の構成を示す等価回路図である。
【0061】
図9に示すように、温度検出回路には温度センサ105に定電流を流すための電流供給源400と、温度センサ105に発生する電位差を測定する差分器(比較器)200を備える。このような構成により、温度センサ105に電流が流れたとき、温度変化による抵抗値の変化を電圧として出力できる。また、この構成では、温度センサ105の抵抗RAB、RCD、RAD、RCBと出力電圧は各スイッチング素子300A~Dをオンオフすることにより測定できる。この温度検出回路のうち、電流供給源400を除く構成は全て、素子基板に実装される。
【0062】
具体的には、抵抗RABを測定する場合、スイッチ300F、300Hをオンすれば、抵抗RABの両端間が導通する。そして、スイッチ300A、300Cをオンすれば、差分器200からは抵抗RABの両端の電位差が出力電圧Voutとして得られる。抵抗RCDを測定する場合、スイッチ300E、300Gをオンすれば、抵抗RCDの両端間が導通する。そして、スイッチ300B、300Dをオンすれば、差分器200からは抵抗RCDの両端の電位差が出力電圧Voutとして得られる。
【0063】
抵抗RCBを測定する場合、スイッチ300E、300Hをオンすれば、抵抗RCBの両端間が導通する。そして、スイッチ300B、300Cをオンすれば、差分器200からは抵抗RCBの両端の電位差が出力電圧Voutとして得られる。抵抗RADを測定する場合、スイッチ300F、300Gをオンすれば、抵抗RADの両端間が導通する。そして、スイッチ300A、300Dをオンすれば、差分器200からは抵抗RADの両端の電位差が出力電圧Voutとして得られる。
【0064】
また、8つ全てのスイッチ(スイッチング素子)をオンすることにより、抵抗Rallも測定することが可能となる。
【0065】
なお、これらスイッチのオンオフは、外部(記録装置の本体部)から供給される制御信号によって行われる。
【0066】
次に、上記構成の温度センサと温度検知回路を用いたインク吐出状態の判定方法について説明する。
【0067】
吐出状態として吐出に伴い発生するインク液滴の一部が耐キャビテーション膜113の表面に接触する際に生じる温度センサにより検出されたヒータ温度の変化を利用して吐出判定をすると説明したが、通常インク液滴の一部はヒータ104の中央部に落下する。しかしながら、ノズル103付近に異物が存在したり、ノズル103の表面の撥水性のばらつきにより、吐出に伴い発生するインク液滴の一部の落下がヒータ104の中央部ではなく、ずれることがある。この現象を「ヨレ」と呼んでいる。その際、吐出されたインク液滴の主滴(図4(b)の120)も記録媒体上の所望の位置からはずれたところに着弾することが分かっている。このような理由から、耐キャビテーション膜113に接触するインク液滴の一部にヨレが発生しているかどうかを判定することは、吐出状態のより正確な把握につながる。
【0068】
ここでは、そのヨレ方向を判定方法について説明する。
【0069】
図10は吐出状態の判定方法を示したフローチャートである。
【0070】
まず、ステップS100では、図7(a)に示したように、配線ACと配線BDを用いて、インク吐出動作に伴う、温度センサ105の全エリアの抵抗Rallを用いてヒータ温度の時間変化を監視し、急峻な温度変化があるかを調べる。ここで、急峻な温度変化がない場合、処理はステップS200に進んで、インク吐出不良であると判定する(不吐判定)。これに対して、急峻な温度変化があり、インクは正常に吐出されると判定された場合、処理はステップS105に進み、ヨレ判定の処理を行う。
【0071】
ここで、ヨレ判定について説明する。インクが正常に吐出されたノズルのヒータでは、急激に温度降下が生じるため、温度センサの抵抗値が下がる。この現象を利用して以下のようなヨレ判定を行う。
【0072】
即ち、ステップS105において、図7(b)に示すように、配線110Cと配線110Dを用いて、破線で囲まれた温度センサ105の上側エリアのインク吐出時の抵抗Rcdを測定する。同じく、図7(c)に示すように、配線110Aと配線110Bを用いて、破線で囲まれた温度センサ105の下側エリアのインク吐出時の抵抗RADを測定する。このとき、図5におけるt=t2以降のタイミングで測定を行うのが、温度センサ105の抵抗RCDとRABの値の差分が大きくなるため好ましい。そして、これら抵抗の差分(RCD-RAB:差分(上-下))を読取る。
【0073】
ステップS110では、その差分の値を調べる。ここで、その差分が(RCD-RAB)がゼロ、即ち、差分がないか、もしくは判定閾値内の場合は、処理はステップS300に進み、上下に「ヨレなし」と判定する。一方、その差分が(RCD-RAB)がマイナス(-)であるか、あるいは判定閾値よりマイナス側の場合は、処理はステップS115に進み、「上にヨレ」があると判定する。さらに、その差分が(RCD-RAB)がプラス(+)であるか、あるいは判定閾値よりプラス側の場合は、処理はステップS150に進み、「下にヨレ」があると判定する。
【0074】
次に、「上にヨレ」があると判定された場合、ステップS120において、図8(a)に示すように、配線110Aと配線110Dを用いて温度センサの左下右上エリアのインク吐出時の抵抗RADを測定する。また、「下にヨレ」があると判定された場合、ステップS155において、図8(a)に示すように、配線110Aと配線110Dを用いて温度センサの左下右上エリアのインク吐出時の抵抗RADを測定する。同じく、ステップS120およびステップS155において、図8(b)に示すように、配線110Bと配線110Cを用いて温度センサの左上右下エリアのインク吐出時の抵抗RCBを測定する。そして、これらの抵抗の差分(RAD-RCB:差分(左下右上-左上右下エリア)を読取る。
【0075】
ステップS125とステップS160では、その差分の値を調べる。
【0076】
まず、ステップS115において「上にヨレ」があると判定された場合、ステップS120における抵抗の差分の読取と、その差分の値を調べた結果、差分がマイナス(-)、あるいは判定閾値よりマイナス側の場合、処理はステップS130に進む。そして、「右上にヨレ」があると判定する。これに対して、差分がプラス(+)、あるいは判定閾値よりプラス側の場合、処理はステップS140に進み、「左上にヨレ」があると判定する。
【0077】
また、ステップS150において「下にヨレ」があると判定された場合、ステップS155における抵抗の差分の読取と、その差分の値を調べた結果、差分がマイナス(-)、あるいは判定閾値よりマイナス側の場合、処理はステップS165に進む。そして、「右下にヨレ」があると判定する。これに対して、差分がプラス(+)、あるいは判定閾値よりプラス側の場合、処理はステップS175に進み、「左下にヨレ」があると判定する。
【0078】
以上のように、ステップS130、S140、S165、S175のいずれかにおいて、ヨレ方向が判定された後、処理はステップS135、S145、S170、S180においてノズルの周辺を洗浄するワイピングブレードの移動方向を決定する。これは、図1に示した記録装置1の右下側に設けられた回復機構に備えられ、記録ヘッド3のインク吐出面を払拭するワイピングブレードの移動方向を決定することである。そして、その決定に従って、ワイピングブレードを移動させて、ワイピングを行う。
【0079】
ワイピングブレードは通常、記録ヘッドの複数のノズルの配列方向に沿って、或いは、その配列方向に直交する方向にブレード方向があるように設けられる。そして、そのブレード方向とは直交する方向に、ワイピングブレードを移動させることで、ノズル又はその周辺領域を払拭する。この実施例では、このワイピングブレードをブレード方向に直交する軸を回転軸として回転させることで、ノズルに対するワイピングブレードの移動方向を変更できる機構を備える。これにより、図7図8のように素子基板をノズル方向に上面から眺めたとき、各ノズルに対してワイピングブレードが右から左、左から右、右上から左下、左上から右下、左下から右上、右下から左上のように移動させることができる。
【0080】
これは、例えば、図7図8のように、素子基板をノズル方向に上面から眺めたとき、ノズルの右上に異物があった場合に、異物の影響により異物の対角方向の左下にヨレが発生すると考えられる。従って、左下から右上方向にワイピングすることにより異物がノズル内に取り込まれないよう取り除くができる。
【0081】
このようにして、ステップS135、S145、S170、S180のいずれかにおいて決定された方向にワイピングを行ったあと、再度ヨレ判定を行う。即ち、処理はステップS100に戻って、以上説明した処理を繰り返す。そして、そのような処理によっても依然としてヨレが発生する場合は、そのノズルは吐出不良と判定する(不吐判定)。
【0082】
従って以上説明した実施例に従えば、1つの電気熱変換素子に1つの温度センサを対応させ、その温度センサの周縁部に4つの配線を接続可能にし、これら4つの配線の異なる2つずつを選択して導通させ、抵抗値や電位差(電圧)を測定することができる。これにより、1つの電気熱変換素子に2つの温度センサを対応させなくとも、1つの温度センサを用いて2つ以上の(ここでは4つの)抵抗値や電位差(電圧)を得ることができ、吐出状態の判定をより信頼性を高めることができる。また、各ヒータに対応する温度センサに4つの配線を設け、定電流を供給してヒータ温度を測定するために用いる配線を選択できるので、各ノズルの吐出不良判定のみならず、その測定結果からヨレ方向の判定も行うことができる。これにより、適切なワイピング動作により異物除去も可能になるので、ノズルからのインク吐出状態を良好に維持することができる。
【0083】
また、図6に示した構造からも分かるように、素子基板においてヒータ104の中央部と温度センサ105の中央部とが重なっており、温度センサは平面上、四角にパターニングされており、その内側はパターニングされていない。そのため、温度が高くなる温度センサの中央部の温度検知が可能であり、温度検知ができない領域の発生を抑えて温度検知可能な領域を確保することが可能となる。
【0084】
なお、特許文献1のように2つの温度センサを配置すると、2つの温度センサの間の隙間による段差に挟まれた部分が生じることが想定される。この場合、温度センサと電気熱変換素子の間の層間絶縁膜の成膜時に、カバレッジが十分でないために段差に挟まれた部分に空洞が生じてしまう可能性がある。特に、電気熱変換素子の温度を電圧として検知するという性質上、出力電圧を上げる、即ち、感度を上げるためには、2つの温度センサを夫々、電気熱変換素子の中央に近い場所に配置する構成が求められる。この場合、2つの温度センサが近くに配置されるため空洞が生じる可能性が高まる。
【0085】
このような空洞が生じた場合、2つの温度センサの間にある電気熱変換素子、保護膜、耐キャビテーション層などのカバレッジが不十分となり、所望の膜質や所望の膜厚の確保が困難となる恐れがある。
【0086】
また、電気熱変換素子の中央部は特にキャビテーションが強く発生しやすい。そのために、電気熱変換素子の中央部やこの部分を覆う膜の膜質や膜厚が確保されていないと、記録ヘッドの素子基板の信頼性が低下する。
【0087】
しかしながら、この実施例のような構成であれば、ヒータの中央部とその直下の温度センサに挟まれた層間絶縁膜111のカバレージは良好である。同じく、ヒータ104、保護膜112、耐キャビテーション膜113のカバレージも良好である。従って、上述したような、温度センサとヒータの間の層間絶縁膜の成膜時において、カバレッジ不良による空洞が生じてしまう可能性もなく、信頼性の高い素子基板が形成される。
【実施例2】
【0088】
図13は実施例2における温度センサとヒータの配置構成を示す図である。この実施例では、実施例1で示した構成より、図13に示すようにヒータ直下にあった温度センサがなくなり、代わりに耐キャビテーション膜が温度センサ105を兼ねる構成となっている。また、耐キャビテーション膜を兼ねる温度センサ105の下部側で配線110C、110Dが接続されている。
【0089】
なお、図13(b)には示されていないが、配線110A、110Bも温度センサ105の下部側で接続されている。それ以外は実施例1と同様である。この構成にすることにより、耐キャビテーション膜と別に温度センサ105を設けずに済むため、製造工程の削減が可能となる。また、耐キャビテーション膜を兼ねる温度センサ105は、ヒータを全て覆っている状態で、実施例1と同様に温度センサ105のエリアを分割しての測定が可能となる。
【0090】
なお、以上説明した実施例では、図6図8に示すように、各温度センサに対して4つの配線を設けるとしたが、本発明はこれによって限定されるものではない。例えば、図11図12に示すような配線構成を用いても良い。
【0091】
図11は、温度センサに対して、図6に示した例と比較して、配線110E、110Fの2つが追加されている。このように、配線を6つに増やすことにより、温度検知のエリアをより細かく分けることが可能となる。
【0092】
図12は、温度センサに対して、図6に示した例と比較して、配線110E、110F、110G、110Hが追加されている。このように、配線を8つに増やすことにより、温度検知のエリアをより細かく分けることが可能となる。特にこの場合、縦方向に電流を流すことが可能となる。
【0093】
また、温度センサは、所定の領域のうちの少なくとも2つのエリアの温度検知を行えればよい。例えば、図6における配線110A、110Cが1つの配線として形成された配線と、配線110B、配線110Dがある場合を考える。この配線と配線110Bとに電流を流す場合と、この配線と配線110Dとに電流を流す場合とで、一部領域が重複された2つのエリアの温度検知を行うことができる。これにより、簡易な構成で複数のエリアの温度検知を行うことができる。
【0094】
また、図10のフローチャートでは、4つのエリアのうちのいずれかのエリアでヨレが発生しているかを判定し、この結果に応じてワイピングを制御する例を示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、2つのエリア(例えば上ヨレと下ヨレ)の判定をステップS115、ステップS150で行い、判定結果に応じてワイピングブレードとインク吐出面との相対的な移動方向を制御してもよい。これにより、温度検知と回復とを簡易に行うことができる。なお、判定結果によって制御する回復手段はワイピングブレードに限定されず、判定結果に応じてその他の回復手段の制御を異ならせてもよい。
【0095】
なお、以上説明した実施例では、インクを吐出する記録ヘッドとその記録装置を例として説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に適用可能である。また本発明は、例えば、バイオチップ作製や電子回路印刷やカラーフィルタ製造などの用途としても用いることができる。
【0096】
以上の実施例で説明した記録ヘッドは、一般的には、液体吐出ヘッドということもできる。また、そのヘッドから吐出するのはインクに限定されるものではなく、一般的に、液体ということもできる。
【0097】
本発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0098】
1 記録装置、2 キャリッジ、3 記録ヘッド、6 インクタンク、
104 電気熱変換素子(ヒータ)、105 温度検知素子(温度センサ)、
106 端子、108 Si基板、110 Al(アルミニウム)配線、
110A、110B、110C、110D 配線
111 層間絶縁膜、112 パッシベーション膜、113 耐キャビテーション膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13