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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】画像記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/175 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
B41J2/175 309
B41J2/175 121
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020104275
(22)【出願日】2020-06-17
(65)【公開番号】P2021194876
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 恭輔
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】後藤 顕
(72)【発明者】
【氏名】村岡 千秋
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-034971(JP,A)
【文献】特開2005-041212(JP,A)
【文献】特開2003-291367(JP,A)
【文献】特開2008-073856(JP,A)
【文献】米国特許第6007173(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像の記録に用いる液体を貯蔵する液室と、
前記液室内に挿入される第1の電極及び第2の電極と
前記第1の電極を陽極側、前記第2の電極を陰極側として、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加する印加手段と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に流れる電流を検知する検知手段と、
を備え、
前記印加手段が前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加したときに、前記検知手段が前記電流を検知することで、前記液室の液体の残量を検出する検出動作を行うことが可能な画像記録装置において、
前記検出動作を実行する前に、前記印加手段が前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加する酸化エージング動作を行い、
前記第1の電極の少なくとも前記液室の内部に露出している部分に形成されている酸化被膜の量が、前記第2の電極の前記液室の内部に露出している部分に形成されている酸化被膜の量よりも多いことを特徴とする画像記録装置。
【請求項2】
前記検出動作は、複数回行われ、
前記酸化エージング動作は、複数の前記検出動作の夫々に対応して、複数回行われ、
前記検出動作における電流の検出閾値は、複数の前記検出動作ごとに設定される請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項3】
1回の前記酸化エージング動作において印加される電圧パルスの入力回数は、1回の前記検出動作において印加される電圧パルスの入力回数の少なくとも10倍である請求項1又は2に記載の画像記録装置。
【請求項4】
前記酸化エージング動作において印加される電圧パルスのパルス幅は、前記検出動作において印加される電圧パルスのルス幅の少なくとも10倍の長さである請求項1又は2に記載の画像記録装置。
【請求項5】
前記酸化エージング動作において印加される電圧の絶対値は、前記検出動作において印加される電圧の絶対値より大きい請求項1~4のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項6】
前記第1の電極と前記第2の電極は、SUS304もしくはSUS316である請求項1~5のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項7】
液体吐出ヘッドと、
前記液室から前記液体吐出ヘッドへ液体を供給する液体供給チューブと、
をさらに備える請求項1~6のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項8】
液体タンクと、
記録素子基板と、サブタンクと、を有する液体吐出ヘッドと、
前記液体タンクから前記サブタンクへ液体を供給する液体供給チューブと、
をさらに備え、
前記液室は、前記サブタンクの液室であり、前記液体供給チューブから供給される液体を前記記録素子基板に供給する請求項1~6のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項9】
液体タンクと、
記録素子基板と、前記液体タンクに接続されたサブタンクと、を有する液体吐出ヘッドと、
をさらに備え、
前記液室は、前記サブタンクの液室であり、前記液体タンクから供給される液体を一時的に保持し、前記記録素子基板に液体を供給する請求項1~6のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項10】
前記液体は、自己分散型カーボンブラックを用いたインクである請求項1~9のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項11】
画像記録装置の出荷時点において、
前記第1の電極の少なくとも前記液室の内部に露出している部分に形成されている酸化被膜の量が、前記第2の電極の前記液室の内部に露出している部分に形成されている酸化被膜の量よりも多い請求項1~10のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項12】
前記酸化エージング動作が初めて行われる前の時点において、
前記第1の電極の少なくとも前記液室の内部に露出している部分に形成されている酸化被膜の量が、前記第2の電極の前記液室の内部に露出している部分に形成されている酸化被膜の量よりも多い請求項1~11のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項13】
前記検出動作における電流の検出閾値は、前記酸化エージング動作において得られた前記酸化被膜の状態に応じて決定されるように構成されている、請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項14】
前記酸化被膜の前記量は、密度または厚みである、請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項15】
前記酸化エージング動作において印加される前記電圧は、前記検出動作において印加される前記電圧よりも電位が高い、請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項16】
前記酸化エージング動作において印加される前記電圧は、前記検出動作において印加される前記電圧よりも、電圧パルスの入力回数が多い、または、電圧パルスのパルス幅が長い、請求項1に記載の画像記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を記録媒体へ吐出して画像の記録を行う画像記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙等の記録媒体に対してインク等の液体を吐出して画像記録を行う手段として、液体吐出カートリッジユニットを搭載した種々の記録方式が提案されており、例えば熱転写方式、ワイヤードット方式、感熱方式、インクジェット方式等が実用化されている。中でもインクジェット方式はランニングコストが安く、記録音が抑えられる記録方式として注目され、幅広い分野で使用されている。インクジェット方式は、液体吐出カートリッジユニットが具備する記録素子基板を駆動することにより、記録素子基板の表面にノズル部材により形成されるインク吐出口からインク液滴を吐出する。このインク液滴を紙面上の所望の位置に着弾させることによって画像形成を行う画像記録方式である。インクジェット方式の多くの場合、記録素子基板を駆動する信号や電源は、液体吐出カートリッジユニットが搭載される画像記録装置から電気接続部を通じて液体吐出カートリッジユニットへ供給される。
【0003】
画像形成に用いられるインク等の液体の液体吐出カートリッジユニットへの供給形態は種々の構成が見られる。ある代表的な一形態では、液体吐出カートリッジユニットとは別体の、液体収容室を有する液体タンクを液体吐出カートリッジユニットへ直接接続することにより、液体タンク内の液体を液体吐出カートリッジユニットへ供給する。また、画像記録装置内にセットされる液体タンクから液体供給チューブを介して液体吐出カートリッジへインクを供給するチューブ供給方式も実用化されている。チューブ供給方式の場合、液体吐出カートリッジユニットにはサブタンクが設けられ、液体供給チューブより供給される液体をサブタンク内に一時的に保持し、記録素子基板へと液体供給する構成が一般的である。
【0004】
上記いずれの方式にしても、液体供給元から供給される液体は液体吐出カートリッジ内に導かれ、液体吐出カートリッジユニットの筐体内に形成される液体供給流路を通じて、記録素子基板がマウント実装される支持部材へと導かれる。画像記録装置には供給元の液体残量を把握する機能が必要とされる。その代表的な目的は次の二点にある。一つ目の目的は、ユーザに供給元の液体残量が少なくなった際にその旨を表示し、液体タンクの交換や液体注入などを促すことにある。また二つ目の目的は、液体が空となった状態で吐出動作を実行した場合に、ノズル部材の破壊などを防止するために、分割印字などの印字制御のトリガーにすることにある。
【0005】
液体残量の検出方法としては、これまで種々の方式が提案されている。液体吐出発数から液体残量を算出するドットカウント方式や、液体収容室に光を照射し、センサで反射光レベルを取得して判定するプリズム方式、液体収容室に電極ピンを挿入し電気応答を得るピン残量検出方式などが提案されてきた。上記のうち、ピン残量検出方式は導入に伴うコストが比較的に安く、かつ検出精度が高いことから、これまで広く実施されてきている。
【0006】
ピン残量検出方式では、液体収容室内に挿入した2本の電極ピンに対し、電気信号を印加し液体残量検出を行う。上記のような画像記録に用いられるインク等の液体は電気を通す性質のものが大半のため、液体収容室内に液体がある場合(2本の電極ピンが液体と接触している状態)には、電極ピンに電気信号が印加されると、液体を介して電極ピン間に電流が流れる。一方、液体がない場合(2本の電極ピンが液体と非接触の状態)には、電
極ピン間に電気経路がない状態となるため、電流は流れない。または、電極ピンに流れる電流値は液体に触れる面積に応じて電流量が増加するため、液体の残量を段階的に検出することも可能となる。このような特性を踏まえ、電極ピン間に電気信号を与え、電気的な応答を得ることで液体の有無を判定する構成が採用されてきた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-223830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の構成においては、以下のような問題を生じる可能性がある。
【0009】
電極ピンの材料には、金属のSUS材などが主に用いられるが、2本の電極ピンの一方を陽極側、他方を陰極側とし、電極ピン間に液体が介在する状態で一方向に電流を流す動作を繰り返すと、電極ピンの表面には金属の酸化・還元反応が生じることがある。すなわち、陽極側の電極ピン表面は酸化が進行し、陰極側の電極ピン表面は還元が進行していく。上記反応が進んでいくと、陽極側の電極ピンが酸化した影響により電気抵抗が増すため、液体が一定量ある状態にも関わらず電極ピン間に流れる電流値が減少していってしまう。液体残量を段階的に検出する場合、液体の物性により閾値を段階的に設定した場合、段階的に設定した液体残量と異なる液体量にて誤検出してしまう懸念がある。
【0010】
液体残量の検出精度が低下すると、あるケースでは、液体がある状態にも関わらずユーザに液体タンクの交換を促したり、液体を充填するシーケンスにより廃液体が増加してしまったりする可能性がある。
【0011】
このように、液体残量の検出精度の低下は、ユーザビリティや廃棄の観点より好ましくない。
【0012】
本発明の目的は、液体の残量の検出精度を向上させることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の画像記録装置は、
画像の記録に用いる液体を貯蔵する液室と、
前記液室内に挿入される第1の電極及び第2の電極と
前記第1の電極を陽極側、前記第2の電極を陰極側として、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加する印加手段と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に流れる電流を検知する検知手段と、
を備え、
前記印加手段が前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加したときに、前記検知手段が前記電流を検知することで、前記液室の液体の残量を検出する検出動作を行うことが可能な画像記録装置において、
前記検出動作を実行する前に、前記印加手段が前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加する酸化エージング動作を行い、
前記第1の電極の少なくとも前記液室の内部に露出している部分に形成されている酸化被膜の量が、前記第2の電極の前記液室の内部に露出している部分に形成されている酸化被膜の量よりも多いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、液体の残量の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る画像記録装置の装置構成例を示す模式図
図2】液体吐出カートリッジユニットの構成説明図
図3】本発明の実施形態のインク残量の検出システムの回路構成図
図4】第1の電極ピン(陽極側)が酸化後の出力信号の例を示す図
図5】インク液面高さと電極ピンの酸化進行と電圧出力の関係を示す模式図
図6】本実施形態のインク量検出入力信号例と酸化エージングの入力信号例の図
図7】インク量検出入力信号の電圧印加時間に対する出力変化グラフ
図8】酸化エージングによる出力電圧の変化を示すグラフ
図9】酸化エージングの効果を説明する模式図
図10】酸化エージングによる出力電圧の変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【0017】
(第一の実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る画像記録装置101および液体吐出カートリッジユニット(以下、液体吐出ヘッド)1の簡易模式図である。図1(a)と図1(b)は、それぞれ液体吐出ヘッド1への液体供給方式が異なる画像記録装置101を示している。本発明はそれぞれの構成に対して好適に適用し得る。図1(a)は、いわゆるオンキャリッジインクタンク方式の構成である。すなわち、画像記録に使用される液体としてのインクを収容した液体タンクとしてのインクタンク103を、インク吐出機能を有する液体吐出ヘッド1に直接接続し、インク供給を行うものである。一方、図1(b)は、いわゆるチューブ供給方式の構成である。すなわち、画像記録装置内に配置されるインクタンク103から液体供給チューブとしてのインク供給チューブ104を介して液体吐出ヘッド1へ液体としてのインクを供給するものである。
【0018】
図1に示すいずれの方式においても、液体吐出ヘッド1へのインク供給が途切れる場合に検出する機能が必要となる。インク残量検出の主な目的は、次の2つにある。第一に、インクタンク103内のインクが空となった旨をユーザに表示し、インクタンク103の交換、もしくはインクのリフィルを促すために用いられる。第二に、液体吐出ヘッド1にインクがない状態で吐出動作されることを事前に検知し、印字停止や分割印字などの印字制御のトリガーとすることで、空吐時に生じえるノズル部材の破壊などを防止するために用いられる。特に、図1(b)に示すようなチューブ供給方式の構成においては、インクタンク103にはインクが残っていても、長期間の放置などによりインク供給チューブ104を透過してインク供給路内に空気が入り込んでしまう場合がある。この場合に発生する空吐も検知するために、本実施形態では液体吐出ヘッド1内にインク残量を検出する構成を設けている。
【0019】
図2に、内部にインク残量検出機能を有する液体吐出ヘッド1の詳細構成を示す。図2(a)は、液体吐出ヘッド1の斜視図、図2(b)は、液体吐出ヘッドの横断面図である。本実施形態の液体吐出ヘッド1は、インク100等の液体を吐出するための機能を備える記録素子基板7(不図示)を有し、画像記録装置のキャリッジ上に搭載されてスキャン
とともに液体を記録媒体へ吐出することで画像形成するものである。ただし、キャリッジのスキャンを伴わず、印字幅分だけ記録素子基板を配備する、フルライン形態の液体吐出ヘッドであってもよい。
【0020】
画像形成のため吐出するインク100は、内部にインクを貯留するインクタンク103から、液体吐出ヘッド1内に供給される。図2に示す液体吐出ヘッド1は、インク接続口2、インク貯留室3、フィルタ4、インク流路5、支持部材6と、を介してインクを吐出する機能を有する記録素子基板7へインク100を供給する流路を有している。インク接続口2にインクを供給する方法としては、インクタンク103を直接接続して供給してもよいし(図1(a))、インク供給チューブ104等で画像記録装置101に配置されたインクタンク103から供給してもよい(図1(b))。
【0021】
本実施形態では、インクを一時的に保持、貯留する液室、液体貯蔵室としてのインク貯留室3に、インク残量を検出するための第1の電極8と、第2の電極9を有している。なお、図2(b)では電極ピンが1本のみ示されているが、これは紙面垂直方向に2本が並んでおり、一方の電極ピンが他方の電極ピンの後ろに隠れた状態となっている(第2の電極ピン9が第1の電極ピン8の後ろに隠れている)。本実施形態では、インクに対する耐食性の観点から、電極8,9は、ステンレス鋼のうちSUS304で構成されているが、同様の理由からSUS316でもよい。また、腐食・析出反応が問題にならないインク物性の場合は、ピンの加工性の観点から、SUSXM7、SUS304Cu等、ヘッダー加工が容易な材料を使用しても良い。SUS材以外にも酸化、還元する材質であれば、電極として採用可能である。インク貯留室3に刺入される各電極ピン8、9は、インク貯留室3内に突出する一端とは反対側の端において、電気接続部材と接点を取り、電気接続部材を介して画像記録装置101は電気的に接続される。
【0022】
図3に、電極ピン8、9によりインク残量を検出するシステム構成を簡易的に示す。残量検出を行う信号は、画像記録装置101の装置本体側の入力ポート14aより入力される。入力された信号は、残量検出するインク数だけ分岐され、各々検出抵抗15を介して液体吐出ヘッド1の各インク貯留室3内に設けられる陽極側の電極ピン8の陽極側と接続される。また各インク貯留室3に設けられる陰極側の電極ピン9は、液体吐出ヘッド1内でショートされ、画像記録装置101のGND端子と接続される。一方、残量検出の出力ポート14bは、検出抵抗15と陽極側の電極ピン8の間に接続され、検出を行うインク色数分だけ設けられる。
【0023】
上述の構成は、すなわち検出抵抗15とインクの電気抵抗Rの分圧比を出力として、画像記録装置101の電流検知部16が検出し、画像記録装置101の動作を制御する制御部18に送信するものである。制御部18は、電圧印加手段として、画像記録装置101が接続された商用電力17を電力供給源とする電源回路を制御し、電気信号として電極ピン8、9間に印加させる電圧の大きさ、極性を任意に制御することができる。制御部18は、かかる電源回路に接続された電流検知手段としての電流検知部16が検知する電流値により電極ピン8、9間の電圧を取得し、その大きさにより各インク貯留室3内のインク残量を検出することができる。以上の構成が、本実施形態の画像記録装置101における液体残量検出機構をなす。
【0024】
インク貯留室3内にインクが存在しない場合、陽極・陰極の電極ピン8、9間は電気的にはオープンな状態となるため、液体吐出ヘッド1側には電流は流れない。そのため、出力ポート14bにて入力信号に近い電圧が検出される。一方、インク貯留室3内にインクが存在する場合、陽極・陰極の電極ピン8、9はインクを介して電気的に接続されるため、液体吐出ヘッド1側にも電流が流れることとなる。そのため、出力ポート14bで検出される信号は、入力信号に対して低い電圧レベルの出力となる。
【0025】
図4図2(b)のインク貯留室3の模式体断面図を用いて、インク貯留室3の詳細について説明する。
【0026】
図4(a)に示すのは、インク貯留室3の詳細構成を模式的に示す図2(b)のB-B断面図である。第1の電極8と、第2の電極9は、インク貯留室3の上面から下方に向かってインク貯留室3を貫通するように配置され、インク貯留室3に充填されたインク液面の高さhを検出する。検出の方法としては、第1の電極8を+極、第2の電極9を-極として、電位を印加した際の電圧降下量によって検出する。そのため、検出可能なインクとしては、電流が流れるインク種に限定される。本実施形態では、画像性能や材料コスト面を考慮して、自己分散型顔料のうち、カルボン酸型CB(カーボンブラック)等の自己分散型カーボンブラックを用いた黒インクを採用している。
【0027】
図4(b)に、インク液面高さhに対する、電極8、9間の電圧出力をグラフ化したものを示す。このグラフには、電極8、9間への電位印加回数・時間が短い初期状態の特性を「ini」、長期間液体吐出ヘッドを使用し、電極8、9間への電位印加回数・時間が長い状態を経た状態の特性を「used」に示している。上記のような大きな特性変化は、インクの種類によって変化率、変化速度が異なる。カルボン酸型CBを用いた黒インクでは、電圧出力の変化が確認されている。上記の特性変化は、自己分散型顔料インクに限定されることはなく、樹脂分散型顔料インクや、染料インクに対しても同様の特性変化が発生する場合がある。
【0028】
それぞれインク液面高さh=Cを超えると、電極8、9とインクが触れるため、電流が流れる。電流が流れた量に応じて電圧降下が発生し、電圧出力が下がる。インク液面高さhが最大Fまであるとすると、インク液面高さhが増加するに従い、電極8、9に接するインク表面積が大きくなり、電流量が増加するため、電圧出力が下がる。前記現象を用いて、あらかじめインク液面高さhに対しての、電圧出力を設定しておくことで、インク貯留室3のインク充填量を検出することが可能となる。例えば、電圧c1の時:インク液面高さh=C、電圧b1の時:インク液面高さh=B、と設定することで、電圧b1を検出した時に、ユーザに交換用インクタンクの準備を促すフラグとして使用することができる。また同様に、電圧c1を検出した時にユーザに対して、インクタンクの交換を促すフラグとして使用することができる。また別の用途として、電圧a1の時:液面高さh=Aと設定することで、インク貯留室3へのインク充填の完了フラグとして使用可能となる。
【0029】
図4(b)にあるように「ini」グラフと、「used」グラフの傾きの差が大きい場合、同じ電圧b1を検出したとしても、全く別のインク液面高さh=Bとh=B’を示すことがある。その様子を図5に示す。図5(a)は使用初期の、図5(b)は長期間使用後のそれぞれのインク貯留室3のB-B断面図である。このように電圧出力特性が大きく変化してしまうと、適正なタイミングでユーザに対してインクタンク準備・交換を促すことができず、ユーザビリティの低下を招く。また、図5(b)のインク液面高さh=A’のように、インク貯留室3の内部にある電極8、9の表面積を超えてインク100が電極に触れなければ、インク充填完了フラグ電圧a1が出力されない状態となることがある。すなわち、計測値と実際の状態との乖離が大きくなり過ぎて、現実には有り得ない状態にならなければ、所望の状態検知が行えない状態となってしまう。その場合、インク充填を完了できなくなってしまう。本実施形態では、電極8、9は、インク貯留室3の上面から貫通して配置されている形態で説明したが、インク充填完了が検知できなくなる現象は、側面から貫通して配置された場合でも同じ事が起こりえる。
【0030】
上記、長期使用後の電圧出力特性が変化してしまう原因は、電極8を+極に設定しているため、電流を流すことで酸化・還元反応が進み、SUS表面の酸化被膜10が増加し、
電極8表面の接触抵抗が増加することにある。本実施形態の電極8、9の表面をXPS(X線光電子分光法)分析すると第1の電極8(+極側)表面8nm以内の酸化鉄Fe2O2成分が増加し、第2の電極9(-極)表面の8nm以内のFe成分が増加していることが確認されている。自然酸化膜(不動態皮膜)は通常1~3nmであるため、4nm以上の酸化膜が第1の電極8を覆っている、もしくは表層1~3nmの酸化鉄FeO2密度が高い、酸化被膜が多い状態にある。
【0031】
本実施形態では、上記誤検出を解消するために、電極8、9間に次に示す酸化エージング信号を印加することで解消する。すなわち、第1の電極ピン8の少なくとも液室内部に露出している部分に形成されている酸化被膜の量が、第2の電極ピン9の液室内部に露出している部分に形成されている酸化被膜の量よりも多くなるように、意図的に酸化を促進させる。
【0032】
図6(a)は、本実施形態のインク量検出入力信号例である。図6(b)、図6(c)、図6(d)、図6(e)には、酸化エージングの入力信号例を示す。
【0033】
通常、インク量検出タイミングは常に監視する必要がない場合、印字開始や、印字終了後等、インク量変化が起こったタイミングで行うことが多い。したがって、図6(a)のように検出用のパルスを少なくとも1回、本実施形態では2回、検出したいタイミングで入れたあと、電圧を印加するタイミングまで電極8、9の間を電流が流れることはない。
【0034】
本実施形態では、図6(a)パルス入力時間は15msec、パルス間インターバル時間20msecであるが、検出精度・ノイズ・検出可能時間等によってはこの限りではない。例えば、次の検出パルスまでの間隔は、枚葉印刷の紙面幅サイズのフルラインヘッド構成であれば、1枚印字する前後で検出することで、印字途中のインク切れを低減できる。毎分50枚で印刷している状態であれば約833msecの間隔で検出し、印字ジョブが無い場合は、次の印字ジョブが来るまで検出することはない。紙面幅方向へのシリアル操作型ヘッドの場合、紙面幅端部印字終了後、リターンする間の時間で検出することもできる。ヘッド操作スピードが、平均840m/secの場合、A4紙面幅サイズ210mmであれば約250msec間隔で検出することになる。印字ジョブが無い時は検出しないのは、シリアル操作型ヘッドでも同様である。
【0035】
上記の例のように通常使用される場合、長期間にわたり使用されると、徐々に酸化被膜10が増加し、最終的には図4(b)にある「used」グラフのような特性に変化してしまう。上記を回避するために、本実施形態では、画像記録装置の使用開始時に特性変化(酸化)を強制的に進め、使用中の特性変化を減少させることを行う(以下酸化エージングと記す)。図6(b)の信号入力例ように、検出信号を連続的に入力する。すなわち、1回の酸化エージング動作において印加される電圧パルスの入力回数を、1回の検出動作において印加される電圧パルスの入力回数よりも多くする。少なくとも10倍多くすることが好ましい。こうすることで、通常使用時よりも酸化速度を加速することができる。本実施形態では、検出電圧は回路駆動用の3.3Vを使用している。液体吐出ヘッドの動作など他の動作にて他の電圧を使用している場合は、5V,24V等他の電圧でもよい。
【0036】
特別な回路等を用意する必要が無く、検出用システムをそのまま流用できる。本実施形態では、図6(b)のように、電圧3.3V、パルス入力時間15msec、パルス間インターバル時間20msecであるが、±10%程度の電圧・時間のばらつきは、ほぼ同等のパルスとみなせる。
【0037】
図6(c)に示す入力信号例は、同様に検出信号と同じようなパルスを入力しているが、パルスの電圧の絶対値を検出信号よりも大きく、すなわち、電位を高く(10%より多
く)設定することで、より早く酸化エージング動作を完了できる。例えば、サーマルヘッドのように、ヒーターに高電圧24Vを使用している場合、検出パルスに3.3V、酸化エージングパルスに24Vを使用することも可能である。
【0038】
図6(d)、図6(e)に示す入力信号例のように、パルスではなく一定電圧を連続的に印加することで、パルス入力より酸化エージングを完了できる。すなわち、酸化エージング動作において印加される電圧パルスのパルス幅を、検出動作において印加される電圧パルスのルス幅よりも長くする。少なくとも10倍の長さであると好ましい。この場合でも電位が高い(10%より多い)方がより早く酸化エージングを完了できる。先の例と
同様に、例えば、回路駆動用定電圧3.3Vと、駆動用高電圧24Vを持つ場合、定電圧で印加することになる。
【0039】
インク貯留室3にインクが充填され、インク液面高h=Aにある状態で、上記、図6(b)、図6(c)、図6(d)、図6(e)のいずれかの酸化エージング信号入力を用いて、酸化エージングを行う。
【0040】
図7に、一例として図6(a)のインク量検出入力信号の電圧印加時間に対する出力変化グラフを示す。出力変化は、使用初期の電圧印加時間帯の変化が大きく、電圧印加時間と共に徐々に収束していく。初期出力電圧a1[V]に対し、ある単位時間T[sec]の酸化エージングによって、インク液面高さh=Aに対する検出出力値が、a2[V]に変化した時を酸化エージング完了とする。
【0041】
図8に示すように、上記酸化エージングの結果、「ini」グラフ特性から「ini aging」グラフ特性に酸化エージングにより変化する。本実施形態では、カルボン酸型カーボンを用いた黒インクに対して酸化エージング時間Tを600sec設定している。より長く酸化エージング時間Tを設定すれば、出力変化量が小さくなるため、より高精度の検出が可能になる。
【0042】
本実施形態の画像記録装置は、図10にあるa2、b2、c2を閾値として持ち、酸化エージング後の「ini aging」グラフ特性の状態から使用開始することができる。図10には、長期使用後の「used」グラフを記載しているが、「ini aging」グラフとの差が小さくなっていることがわかる。また、この特性変化による誤検出に関しても同様に小さくなる。
【0043】
図9(a)に「ini aging」特性、図9(b)に「used」特性のB-B断面図を示す。図9(a)、図9(b)に示すように、各閾値電圧a2、b2、c2に対し、液面高さA≒A”、B≒B”、C≒C”となり、従来のシステムより高精度にインク残量を検出することが可能となる。
【0044】
上述した酸化エージング動作シーケンスは、画像記録装置の仕様開始前、すなわち、インク残量の検出動作シーケンスの実行前に行う。酸化エージング動作は複数回行うことができる。例えば、複数の検出動作シーケンスの実行の度に、その実行前に酸化エージング動作を実行するようにしてよい。また、実施形態の変形例として、上記酸化エージングを使用開始前だけでなく、ユーザの使用していないタイミングで段階的に行う方法がある。この場合、各酸化エージングのタイミングに対し、それぞれエージング時間が設定されており、夫々に対応した検出閾値電圧を持つ。上記対応を取ることで、初期セットアップ時にまとまった酸化エージング時間を確保しなくても良くなるため、初期セットアップ時間を短くすることが可能となる。
【0045】
上記のような酸化エージング動作を行うことにより、インク貯留室3内部、第1の電極
8(+極側)表面が自然酸化被膜(不動態被膜)より酸化した状態を構成することができ、高精度にインク残量を検出可能となる。
【0046】
本実施形態では、インク貯留室3がサブタンクとして液体吐出カートリッジ内に配置された例を示した。液体吐出ヘッド(液体吐出カートリッジ)内に配置する場合、サイズが大きくなると印字速度低下、装置サイズの大型化につながるため、インク貯留室3は小さな容積に収める要求がある。また、チューブによるインク供給の場合、長期放置などにより空気がチューブを透過するため、イレギュラーにインク貯留室3に空気が流入してしまい、吐出の影響を与えてしまう可能性がある。また、インクカートリッジの場合、適切なカートリッジ交換を促すためには、高精度なインク残量検出が必要となる。本実施形態によれば、イニシャライズステップにて、第1の電極ピン(陽極側)の表面の酸化をあらかじめ生じさせることにより、検出ステップの使用中の酸化進行を減少させることができる。すなわち、電極ピン表面の電気抵抗の変動幅を抑制でき、インクが一定量ある状態での電極ピン間に流れる電流値を一定に保つことが可能となる。そのため、段階的に設定したインク残量を、高い検出精度にて検出可能なインク残量検出システムが提供可能となる。
【0047】
また、本実施形態によれば、画像記録装置にインク貯留室が配置された構成においても、同様の高精度インク検出が可能な構成となる。すなわち、本実施形態では、液体吐出ヘッド1内のインク残量検出に適用したが、インクタンク103内や、その他インク供給経路内のインク有無検出にも適用可能である。画像記録装置にインク貯留室が配置される場合は、例えば大型の装置の場合、生産性を落とさずに、連続印字を行いたい場合、正確な残量検出によりインク切れによる生産性低下を低減することが可能となる。
【0048】
本実施形態とは逆に、第2の電極ピン9を陽極側とし第1の電極ピン8を陰極側として残量検出を行う構成としてもよい。
【0049】
本実施形態では、電極ピンが液室内に上方から鉛直方向下方に向かって挿入される構成としているが、挿入方向は限定されない。また、電極ピンの本数も、2本に限定されるものではない。例えば、1本の陰極ピンに対して複数の陽極ピンを配置して検出することも可能であり、3本以上の電極ピンを用いて、液体に対する侵入深さをそれぞれ異ならせたり、液室内における検出位置を複数取ることで検出精度を高めるように構成してもよい。
【0050】
(第二の実施形態)
第二の実施形態では、先の第一の実施形態の酸化エージングを液体吐出カートリッジユニットの組み立て工程で処理する。すなわち、画像記録装置の出荷時点においてある程度の酸化エージングが済んだ状態とする。工程処理のため、画像記録装置の立ち上げ時に酸化エージング処理を行う時間を必要とすることなく、ユーザはすぐに印字を開始できる。すなわち、画像記録装置の使用開始後に初めて酸化エージング動作シーケンスを実行する時点において、既にある程度のエージングが済んだ状態となっているため、当該シーケンスに要する時間を短縮することができる。
【0051】
組み立て工程では、第一の実施形態の酸化エージングと同じく、インク充填状態にて図6(b)、図6(c)、図6(d)、図6(e)の入力信号を、第1の電極8を+極側、第2の電極9を-極側として、印加する。もしくは、あらかじめ上記の酸化エージングと同等の酸化被膜を、熱などで第1の電極8にあたるピンに処置を行い、インク貯留室3に組み込むことで、同様の効果を得ることができる。例えば、SUS304を大気中で400℃の加熱を3時間程度行うと、表面のFe酸化物が増加することが確認されている。
【0052】
インク充填と、酸化エージングを工程内で行う場合は、図6に示す電圧・パルス等の印加し、出力値を測定できるため、所定の酸化被膜状態を出力値で管理しながら製造するこ
とが可能となる。確実に所望の酸化被膜状態を維持管理可能な為、検出精度向上の点では望ましい。また、似たような処理に電解研磨がある。
【0053】
熱処理の場合、インク貯留室内のピン表面に選択的に処理できることが望ましいが、ピン全体に酸化被膜が増加する可能性がある。そのため、検出用の電圧出力を測定するまでの配線に対して、接触抵抗が上がってしまう。接触抵抗部の表面積を増加させることや、接触抵抗部の材質を低抵抗の金メッキに処理することで、対応する場合もある。しかしながら、工程内にインクや電源、酸化エージング後のインク処理を行う必要がないため、工程簡略化の点では有利である。
【符号の説明】
【0054】
101…画像記録装置、1…液体吐出カートリッジユニット(液体吐出ヘッド)、103…インクタンク、104…インク供給チューブ、2…インク接続口、3…インク貯留室、4…フィルタ、5…インク流路、6…支持部材、7…記録素子基板、8…第1の電極、9…第2の電極、10…酸化被膜、100…インク
図1
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図7
図8
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図10