(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】液体吐出モジュール
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240610BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/18
B41J2/14 305
B41J2/14 603
(21)【出願番号】P 2020106032
(22)【出願日】2020-06-19
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉島 玲伊
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 裕之
(72)【発明者】
【氏名】中窪 亨
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-142143(JP,A)
【文献】特開2019-010762(JP,A)
【文献】特表2013-526441(JP,A)
【文献】特表2014-527490(JP,A)
【文献】特開平05-338168(JP,A)
【文献】特開2017-132211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出口に連通し、該吐出口から吐出される液体を収容する圧力室と、
前記圧力室に設けられ、前記吐出口から液体を吐出させるためのエネルギを発生するエネルギ発生素子と、
前記圧力室に液体を供給する供給流路と、
前記圧力室より液体を回収する回収流路と、
前記回収流路に接続する送液室と、
前記送液室と前記供給流路とを接続する接続流路と、
前記送液室の容積を膨張及び収縮させることにより、前記供給流路、前記圧力室、前記回収流路、前記送液室、及び前記接続流路において液体を循環させる送液手段と、
を有する液体吐出モジュールであって、
前記送液室は、連続的な傾斜構造を有し、
前記送液室において、重力方向に対して垂直となる面と平行な断面における断面積は、重力方向の反対方向に沿って小さくなっていき、
前記断面積が最も小さくなる部分は、前記接続流路に接続する部分であることを特徴とする液体吐出モジュール。
【請求項2】
前記送液手段は、前記送液室を挟み込むように前記接続流路の開口位置と対向する位置に配置される請求項1に記載の液体吐出モジュール。
【請求項3】
前記回収流路は、前記接続流路より前記送液手段に近い位置に配置される請求項1又は2に記載の液体吐出モジュール。
【請求項4】
前記送液手段は、圧電素子または電歪素子からなるアクチュエータを含む構成である
請求項1乃至3の何れか1項に記載の液体吐出モジュール。
【請求項5】
前記接続流路の開口面積は、前記送液手段を構成する圧電素子または電歪素子からなるアクチュエータの面積に対して小さくとも1%以上、且つ大きくとも10%以下である
請求項4に記載の液体吐出モジュール。
【請求項6】
前記送液室における前記傾斜構造の傾斜角度は、前記送液手段が配置される面に対して30°以上、且つ60°以下である
請求項1乃至5の何れか1項に記載の液体吐出モジュール。
【請求項7】
前記送液室における前記傾斜構造は、Si単結晶基板の(111)面により構成されることを特徴とする
請求項1乃至6の何れか1項に記載の液体吐出モジュール。
【請求項8】
複数の前記供給流路へインクを供給する共通供給流路を更に有し、
前記共通供給流路は、前記送液室の壁面と略平行になる側壁を有することを特徴とする
請求項1乃至7の何れか1項に記載の液体吐出モジュール。
【請求項9】
第1の吐出口列と、
第2の吐出口列と、
を更に有し、
前記第1の吐出口列における前記吐出口と、前記第2の吐出口列における前記吐出口とが前記供給流路を共有する
請求項1乃至8の何れか1項に記載の液体吐出モジュール。
【請求項10】
前記送液手段からみた前記供給流路、前記圧力室、および前記回収流路のイナータンスの合計は、前記送液手段からみた前記接続流路のイナータンスよりも大きい請求項1乃至9の何れか1項に記載の液体吐出モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録ヘッドのような液体吐出モジュールでは、吐出動作が暫く行われない吐出口において揮発成分の蒸発が進み、液体(インク)が変質する場合がある。この場合、インクの吐出量及び吐出方向がばらついてしまい、形成した画像に濃度むらやスジ等が生じることがある。このようなインクの変質を抑制するため、近年では、液体吐出モジュール内でインクを循環させて、常に新鮮なインクを吐出口に供給する方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、吐出のためのエネルギ発生素子に隣接する位置にアクチュエータを配し、吐出口に極めて近い位置でインクの循環を促す構成の液体吐出モジュールが開示されている。
【0004】
ところで、連続して吐出動作を行うと、液体吐出モジュールの回路基板が昇温し、隣接する流路内のインクが加熱される場合がある。この場合、インク中の溶存酸素が気化し、インク中に気泡が生じることがある。また何等かの原因で、外部からインク中に気泡が混入することがある。気泡が流路に滞留すると流路抵抗が増加し、エネルギ発生素子および吐出口を有する圧力室に供給するインクの量が不足する可能性がある。また、インクを循環させるアクチュエータの駆動において、圧力損失が発生し、インクの循環量が不足する可能性がある。その結果、休止直後における吐出動作や、連続的な吐出動作において、吐出の安定性が妨げられる懸念が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された液体吐出モジュールは、浮力方向に垂直かつ長い構造の流路を有しており、インク中に生じた気泡やインク中に混入した気泡が流路内に滞留しやすいという課題があった。
【0007】
そこで本発明の一実施形態は、上記の課題に鑑み、吐出口近傍に新鮮なインクを循環供給しながら流路から気泡を排出し、安定した吐出動作を行うことが可能な液体吐出モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、吐出口に連通し、該吐出口から吐出される液体を収容する圧力室と、前記圧力室に設けられ、前記吐出口から液体を吐出させるためのエネルギを発生するエネルギ発生素子と、前記圧力室に液体を供給する供給流路と、前記圧力室より液体を回収する回収流路と、前記回収流路に接続する送液室と、前記送液室と前記供給流路とを接続する接続流路と、前記送液室の容積を膨張及び収縮させることにより、前記供給流路、前記圧力室、前記回収流路、前記送液室、及び前記接続流路において液体を循環させる送液手段と、を有する液体吐出モジュールであって、前記送液室は、連続的な傾斜構造を有し、前記送液室において、重力方向に対して垂直となる面と平行な断面における断面積は、重力方向の反対方向に沿って小さくなっていき、前記断面積が最も小さくなる部分は、前記接続流路に接続する部分であることを特徴とする液体吐出モジュールである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、吐出口近傍に新鮮なインクを循環供給しながら流路から気泡を排出し、安定した吐出動作を行うことが可能な液体吐出モジュールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態におけるインクジェット記録ヘッドの斜視図
【
図2】第1の実施形態における記録素子基板の平面透視図
【
図3】第1の実施形態における記録素子基板の断面図
【
図4】第1の実施形態における記録素子基板の断面図
【
図5】第1の実施形態における送液機構、第1の基板、および第2の基板を含む記録素子基板106の断面図
【
図6】第1の実施形態における送液機構、第1の基板、および第2の基板を含む記録素子基板106平面透視図
【
図7】第1の実施形態における流路イナータンス比と、送液効率との関係を示す図
【
図8】第1の実施形態における送液機構において変位に寄与する領域のサイズと、接続流路の開口のサイズとの関係を示す図
【
図9】第1の実施形態における接続流路の開口部形状と、9個の吐出口近傍におけるインクの平均流速との関係を示す図
【
図10】第2の実施形態における記録素子基板の断面図
【
図11】第2の実施形態における接続流路の開口部形状と、9個の吐出口近傍におけるインクの平均流速との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。また、以下に記載されている構成要素の内容、相対配置等は、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0012】
本発明では、前述の課題を解決するにあたり、送液室316の側壁は連続的な傾斜を有し、重力方向の反対方向(浮力方向)に沿って送液室316の空間が狭まる構造を有する。この結果、インク中の気泡302は、浮力により上昇しつつも、側壁が連続的に傾斜していることで壁面にトラップされることなく、送液室316から排出される。このように、送液室316に気泡302が滞留せず、インクが安定的に循環できることを特徴とする。
【0013】
[第1の実施形態]
<インクジェット記録ヘッドの外観>
以下、本実施形態における液体吐出モジュール、具体的には、インクジェット記録ヘッド100(以下、単に記録ヘッド100と言う)について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態における記録ヘッド100の斜視図である。記録ヘッド100は、フレキシブル配線基板101、電気配線基板102、電力供給端子103、信号入力端子104、インク供給ユニット105、および記録素子基板106を有する。
【0014】
ここで、記録ヘッド100において、記録素子基板106が配列される方向をY方向とする。また、インクが吐出される方向をZ方向とする。また、Y方向およびZ方向に対して垂直となる方向をX方向とする。
【0015】
記録ヘッド100は、複数の記録素子がY方向に配列して成る記録素子基板106を有する。ここで記録素子とは、後述する吐出口202と、エネルギ発生素子201と、圧力室203とを組み合わせた素子である(
図2参照)。記録素子基板106は、Y方向に複数配列される。ここでは、記録素子基板106がA4サイズの幅に対応する距離だけY方向に配列されることで、フルライン型の記録ヘッド100を構成しているものとする。
【0016】
記録素子基板106の夫々は、フレキシブル配線基板101を介して、電気配線基板102に接続されている。電気配線基板102は、電力を受容するための電力供給端子103と、吐出信号を受信するための信号入力端子104と、を有する。インク供給ユニット105には循環流路が形成されており、この循環流路を介して、不図示のインクタンクよりインクが記録素子基板106の夫々に供給される。また、この循環流路を介して、記録処理時に消費されなかったインクが回収される。
【0017】
記録素子基板106に配された記録素子の夫々は、信号入力端子104より入力された吐出信号に基づき、電力供給端子103から供給された電力を用いて、インク供給ユニット105より供給されたインクをZ方向に吐出する。
【0018】
<記録素子基板の流路構成>
図2、
図3、
図4は、記録素子基板106の流路構成の一部を示す図である。
図2は、吐出口202と対向する側から記録素子基板106を見たときの平面透視図である。
図2に示すように、本実施形態における記録素子基板106は、エネルギ発生素子201、吐出口202、圧力室203、供給流路205、および回収流路206を有する。
【0019】
図2に示すように、記録素子基板106において、記録素子は、Y方向に所定数(例えば、数十個程度)隣接して配される。記録素子の夫々は、流路形成部材210によって区切られる。また、供給流路205は、数個の記録素子に対して1個配され、これら数個の記録素子へインクを供給する。また、回収流路206は、供給流路205がインクを供給する記録素子の数と同じ数の記録素子よりインクを回収する。1つの流路ブロックは、前述した所定数の記録素子、これらの記録素子にインクを供給する複数の供給流路205、およびこれらの記録素子よりインクを回収する複数の回収流路206により構成される。インク供給ユニット105より供給されたインクは、流路ブロック毎に用意された循環流路を通って、記録素子基板106内を循環する。また、後述する送液機構308は、流路ブロック毎に設けられる(
図3参照)。
【0020】
図3は、
図2のIII-III線における記録素子基板106の断面図である。
図3に示すように、本実施形態における記録素子基板106は、第2の基板313、第1の基板312、機能層309、流路形成部材210、および吐出口形成部材311を有する。記録素子基板106は、これらの構成要素をこの順にZ方向に積層して形成される。機能層309の表面には電気熱変換素子であるエネルギ発生素子201が配される。吐出口形成部材311において、このエネルギ発生素子201とZ方向に重なる位置には、吐出口202が形成される。エネルギ発生素子201は、Y方向に複数配列し(
図2参照)、エネルギ発生素子201夫々は、機能層309と、吐出口形成部材311との間に介在する流路形成部材210によって隔絶される。これにより、個々のエネルギ発生素子201及び吐出口202に対応する圧力室203が形成される。
【0021】
圧力室203に収容されているインクは、安定状態において吐出口202の位置でメニスカスを形成する。吐出信号に従ってエネルギ発生素子201に電圧パルスが印加されると、エネルギ発生素子201に接触するインクに膜沸騰が生じる。この結果、インクが発泡する。この際、発生した泡の成長エネルギによって、吐出口202からインクが液滴301としてZ方向(
図3および
図4の黒塗り矢印の方向)に吐出される。
【0022】
図3に示すように、本実施形態の記録素子基板106では、第1の基板312、第2の基板313、共通供給流路314、機能層309、流路形成部材210、および吐出口形成部材311が循環流路を形成している。供給流路205と、回収流路206とは、1つの流路ブロック内の複数の記録素子において共有され、所定数の圧力室203に対するインクの供給と、回収とを行う。回収流路206は、圧力室203を介さずに送液機構308が設けられた送液室316に連通している。送液室316は、接続流路307を介して共通供給流路314に連通している。共通供給流路314は、供給流路205に連通している。
【0023】
共通供給流路314から供給流路205へ、供給流路205から圧力室203へ、圧力室203から回収流路206へ、回収流路206から送液室316へ、送液室316から接続流路307を介して再び共通供給流路314へ、インクが循環される。
図3および
図4における白抜きの矢印は、インク循環時のインクの流れを示す。このインクの循環は、送液機構308がインクに流れを生じさせることによって生じる。
【0024】
第2の基板313の吐出口202側の面には、送液機構308が配される。送液機構308は、第1の基板312において、機能層309に接する面とは反対側の位置にあり、その体積を変位させることによりインクを循環させる(
図5参照)。
【0025】
図4は、
図3のIV-IV線における記録素子基板106の断面図である。1つの送液機構308は、50程度の記録素子内のインクを循環させる。数個程度の記録素子に対して1つの送液機構308を設けてもよい。
【0026】
ここで、気泡302の排出性を高めるために、接続流路307の開口を大きくすることが好ましい。但し、バルブレスポンプの送液原理によると、接続流路307の開口を大きくするほど、送液機構308による流量変化を大きくすることが求められる。その結果、本実施形態のように送液機構308の配置領域が大きくなり、1つの送液機構308が受け持つ記録素子数が多くなる。
【0027】
このような構成のもと、インク供給ユニット105より共通供給流路314を介して供給されたインクは、供給流路205、圧力室203、回収流路206、送液室316、接続流路307の順に、記録素子基板106内を循環する。吐出動作によって圧力室203内のインクが消費されると、吐出口202には新たなインクが供給され、メニスカスを再形成する。吐出動作が行われなくても前述の循環は行われ、吐出口202の近傍には常に新鮮なインクが供給されている。尚、不図示だが、供給流路205内には、異物や気泡302などの流入を防ぐためのフィルタを設けておくことが好ましい。このフィルタとして、例えば、柱状構造物などが採用される。
【0028】
記録素子基板106は、予め構造物を形成した第1の基板312と第2の基板313とを貼り合わせることによって作製される。接続流路307は、第2の基板313を作製する際に、素材となる基板の両面からエッチングを施すことで形成される。送液室316における連続した傾斜構造の形成も含め、第2の基板313における送液室316などは、(100面)Si単結晶基板に対する異方性エッチングで形成することが好適である。
【0029】
<送液室の構造>
本実施形態において、送液室316の側壁を連続的な傾斜構造にする理由について述べる。記録ヘッド100を搭載した装置が連続的な吐出動作を行うと、記録ヘッド100の回路基板が発熱する。その結果、記録ヘッド100内のインクは、加熱され昇温する。インクが昇温すると、インクに溶存している酸素が気化し、インク中に微小な気泡302が生じやすくなる。このようにして生じた微小な気泡302は、合体し、サイズが大きい気泡302へと成長する。仮に、気泡302が送液室316中に留まると、送液機構308によるインクへの圧力が気泡302に吸収され、インク循環時のインクの流量が低下する。また、成長した気泡302の体積が送液機構308の変位量に近くなると、インクの循環は完全に停止する。
【0030】
このことから、インク中に生じた気泡302は、送液室316内に留まることなく送液室316外に排出されることが必須である。そのため、本実施形態では、送液室316の側壁を段差のない連続的な傾斜構造とする。この傾斜構造は、重力方向の反対方向(気泡302が受ける浮力の方向)に向かうほど、送液室316において、重力方向に対して垂直となる面と平行な断面における断面積が小さくなるように形成される。これにより、浮力で上昇する気泡302が送液室316の側壁によってトラップされることを抑制できる。送液室316の傾斜構造の最端部に、接続流路307を設ける。接続流路307は、送液室316と共通供給流路314とを接続する。前述の送液室316の断面積は、送液室316と共通供給流路314とが接続する部分(接続流路307)において、最も小さくなる。接続流路307を液室と一体化した構造にすることで、気泡302の通過する経路において段差のない流路を形成できる。
【0031】
送液室316内の気泡302が排出されても、インク循環動作を行うと、酸素の溶存している新たなインクが送液室316に流入してくる。そのため、本実施形態における送液室316および接続流路307のように、インク循環動作を行わずに、能動的に気泡302を排出させる構成が必要となる。
【0032】
図3および
図4における送液室316の壁面の傾斜角度315について説明する。検討の結果、傾斜角度315は、概ね30°以上必要であることが判明した。傾斜角度315が小さいと、気泡302の受ける浮力が側壁の摩擦力に負けてしまい、気泡302が流路側壁に留まってしまう場合があった。送液室316を形成する方法に依存するが、仮に、Si単結晶基板の異方性エッチングを想定する場合、傾斜角度315は約54.8°となる。この場合、送液室316の傾斜構造は、Si単結晶基板の(111)面により構成される。ここでは、傾斜角度315は、30°以上、かつ60°以下を想定している。
【0033】
気泡302の滞留防止の観点からみると、傾斜角度315は、大きいほど好ましいが、傾斜角度315が大きくなると、送液機構308から接続流路307までの距離が遠くなる。この場合、送液室316の容積が増加する。送液室316の容積が増加すると、送液室316のコンプライアンス(剛性の逆数)が増加し、系全体の周波数応答性が低下してしまうため、駆動する上で好ましくない。傾斜角度315は、最大でも65°以下であることが好ましい。
【0034】
また、
図3および
図4に示すように、送液機構308と、接続流路307の開口位置との配置関係は、送液室316を挟み込んで対向させることが好ましい。送液機構308の変位高さは、たかだか1μm程度と小さい。しかし、本実施形態における流路構成を前提として、送液機構308にバルブレスポンプとしての機能を求める場合、送液機構308の変位体積量として数十pL~100(百)pL以上が求められる。従って、送液機構308の変位体積量を大きくするために、送液機構308の設置面積を大きくする必要がある。そのため、送液機構308の配置領域は大きくなる。インク色間の間隔は1mm程度であり、その空間に供給流路205、圧力室203、吐出口202、回収流路206、送液機構308、送液室316、および接続流路307を配する必要がある。送液機構308の配置領域を最大限に確保するためには、送液機構308および接続流路307の開口位置を対向配置にすることが好適となる。
【0035】
接続流路307の付近は流れが激しく切り替わるので、接続流路307は、層流が求められる回収流路206から遠ざけて配されることが好ましい。接続流路307と、回収流路206との配置関係が近い場合、接続流路307の激しい流れが回収流路206の緩やかな流れに影響を与え、送液性能の低下を招く恐れがある。そのため、回収流路206は、接続流路307より送液機構308に近い位置関係にしておくことが好ましい。本実施形態において、回収流路206は、送液機構308に隣接するように送液室316に接続される。
【0036】
また、供給流路205へ接続する共通供給流路314の一部の流路形状は、段差の無い連続的な傾斜構造が好ましい。段差形状があると、気泡302がトラップされやすくなるからである。微小な気泡302がトラップされると、それは次第に大きな気泡302へと成長してしまう。供給流路205側に大きな気泡302が存在すると、インクの循環が妨げられる。また、この大きな気泡302から分離した気泡302が圧力室203および送液室316に流れ込む場合もある。
【0037】
このような状況を招かないため、共通供給流路314の一部を、隣接する送液室316の壁面の傾きに沿った形状としておくことが空間使用効率の観点からも好ましい。Si(100)単結晶基板に対するアルカリ溶液によるウェットエッチングによって、共通供給流路314の一部および送液室316を形成する場合、共通供給流路314の一部および送液室316における傾斜構造の傾斜角度315は±1°以内で一致する。これにより、共通供給流路314の一部は、本実施形態のように隣接する送液室316の壁面に沿った形状として形成され、送液室316の壁面と略平行となる。尚、2つの構造のなす角度が±1°であった場合、それらの構造は略平行とする。
【0038】
<送液機構の構成>
以下、送液機構308の構成について、
図5および
図6を用いて説明する。まず、送液機構308として薄膜圧電体526をポンプアクチュエータとして用いた場合の構成について、
図5を用いて説明する。
図5は、送液機構308、第1の基板312、および第2の基板313を含む記録素子基板106の断面図である。送液機構308には、ユニモルフの圧電アクチュエータが用いられる。ユニモルフの圧電アクチュエータとは、ダイヤフラム521の片面側に圧電素子や電歪素子等を使用した薄膜圧電体526が形成される構成である。薄膜圧電体526は、電圧が印加されると、ダイヤフラム521の第1の基板312側を変位させ、送液室316の容積を膨張及び収縮させる。
図5の双方向の白抜き矢印は、ダイヤフラム521が変位する方向を示す。
【0039】
送液室316を大気側から区分するようダイヤフラム521を構成し、薄膜圧電体526は大気側に配置する。薄膜圧電体526の配置位置に対応するように、第1の基板312側には掘り込み構造が施されており、第1の基板313および第2の基板313は、薄膜圧電体526を外気やインクの侵入から遮断するように封着される。
【0040】
ダイヤフラム521には、必要な機械的特性、耐信頼性などの条件を満たすシリコン窒化膜、シリコン、金属、耐熱ガラスなどが使用される。
【0041】
薄膜圧電体526の形成方法は、真空スパッタ成膜、ゾルゲル成膜、CVD成膜などから選択できる。薄膜圧電体526は、成膜後に焼成を伴うものが多い。薄膜圧電体526は、例えば、成膜後にランプアニール加熱などを用いて酸素雰囲気下にて最大650℃程度で焼成することによって形成される。また、薄膜圧電体526は、プロセスフローの整合を鑑みて、ダイヤフラム521に直接成膜し、一体焼成により形成してもよい。また、薄膜圧電体526は、別の基板上に成膜し焼成してからダイヤフラム521側に剥離転写してもよい。また、薄膜圧電体526は、別の基板上に成膜しダイヤフラム521側に剥離転写してから一体焼成するなどにより形成してもよい。ここでは、薄膜圧電体526には、PZT系の圧電材料が使用されることを想定している。この圧電材料は、電圧の応答変位特性として線形性の高い材料であり、線形性の高い電圧範囲にて駆動することが好ましい。但し、現実においては、分極の飽和特性、電歪の非線形特性が、変位特性に混入したとしても致し方ない。
【0042】
電極527には、焼成プロセスを経るならばPt系の材料が使用されるが、焼成工程を分離できるならばAL系の材料が使用されてもよい。本実施形態において、ダイヤフラム521には、約1~2μmのSOI基板が用いられる。ダイヤフラム521側の電極527はTi層とPt層とを組み合わせて形成される。薄膜圧電体526は、約1~3μmのPZT層により形成される。薄膜圧電体526を間に挟み、ダイヤフラム521側の電極527と対向する位置に配される電極527はTi系合金により形成され、その最外層はSiN系の保護膜により覆われる。
【0043】
図6は、
図5のVI-VI線における平面透視図である。ここでは、ダイヤフラム521の領域は最大で600μm(短辺側)×1200μm(長辺側)程度である。
【0044】
電極527に電圧を印加すると、ダイヤフラム521に薄膜圧電体526による撓みが発生する。本実施形態の構成において、市販の有限要素シミュレータを用い、流路負荷を踏まえて、アクチュエータの剛性量と変位量のバランスを考慮した設計をした場合、系全体の共振周波数は、100~200kHzとなる。系全体の共振周波数は、容器共鳴を意味するヘルムホルツ周波数とも呼ばれる。ヘルムホルツ共振周波数は、吐出モジュールに組み込まれた各送液装置について、インクを充填した状態にてインピーダンス測定を実施することで導出できる。
【0045】
本実施形態の送液機構308は、系全体の共振周波数を利用して駆動される。バルブレスポンプの送液原理は、速い流れによる渦流および遅い流れによる層流における流路抵抗の非線形変化を利用したものである。ここで、送液機構308を速く膨張させる速度として2.5μs~5.0μsを想定するため、系全体の共振周波数として100~200KHzが必要となる。
【0046】
<流路構成の寸法例>
以下、本実施形態における流路構成の具体的な寸法例について説明する。本実施形態では、以降の寸法例を基準とするが、各部の寸法値は一例に過ぎず、要求仕様に応じて、適宜変更することができる。
【0047】
記録ヘッド100における個々の記録素子、即ち、エネルギ発生素子201、吐出口202、および圧力室203は、Y方向に1200npi(nozzle per inchs)の密度で配列される。エネルギ発生素子201の大きさは、32μm×12μm程度である。吐出口202の直径は、15μm程度であり、吐出口202の厚さは、8μmで程度ある。圧力室203の大きさは、X方向37μm(長さ)×Y方向17μm(幅)×Z方向13μm(高さ)程度である。供給流路205の断面形状は、75μm×75μm程度であり、供給流路205の長さは、200μm程度である。回収流路206の断面形状は、75μm×50μm程度であり、回収流路206の長さは、200μm程度である。
【0048】
送液室316は、Si基板が異方性エッチングされることにより形成され、その形状は、第2の基板313において、送液機構308が配された側を底面とし、接続流路307の開口面を上面とする4角錐台である。この4角錐台の底面は、最大で700μm(短辺)×1200μm(長辺)程度であり、この4角錐台の上面は、30~50μm(短辺)×500μm(長辺)程度である。送液室316を形成するSi基板の厚みは、凡そ500μm程度である。吐出口形成部材311の厚みは6μm程度である。使用されるインクの粘度は3cP程度であり、個々の吐出口202から吐出されるインク吐出量は4pL程度である。
【0049】
接続流路307近傍に逆止弁となる渦流を発生させるには、接続流路307におけるレイノルズ数を高くする事が必須である。レイノルズ数を構成する変数は複数あるものの、流速を高くすることが最も有効である。ここでは、送液機構308の変位体積量を最大限に接続流路307側に配分し、併せて接続流路307の開口を絞ることにより流速が高速化される。送液機構308の変位体積量は有限であるため、接続流路307において渦流を発現する流速を得るためには、開口面積を適切に定める必要がある。
【0050】
ここまで示した流路寸法を採用した場合における、送液室316の一部、回収流路206、圧力室203、および供給流路205を第1経路とする。また、第1経路に含まれない送液室316の部分および接続流路307を第2経路とする。この場合、送液機構308からみた第1経路のイナータンスは、送液機構308からみた第2経路のイナータンスの約20倍となる。
【0051】
第1経路のイナータンスが第2経路のイナータンスより約20倍大きいことは、送液機構308からみて第1経路の駆動負荷は重く、第2経路の駆動負荷が軽いことを意味する。即ち、送液機構308の変位体積量の内、最大で95%が第2経路側に配分される。
【0052】
<イナータンス比と、送液効率との関係>
以下、イナータンス比と、送液効率との関係について、
図7を用いて説明する。以降、イナータンス比とは、送液機構308からみた第1経路のイナータンス/送液機構308からみた第2経路のイナータンスを指す。
図7は、イナータンス比と、送液効率との関係を示す図である。
図7に示すように、送液効率を高める場合、イナータンス比には最適値が存在し、その最適値は、5程度である。但し、送液室316内に存在する気泡排出性を高めるには、接続流路307の開口面積をできるだけ大きくしておくことが好ましい。
【0053】
イナータンス比は、第2経路の断面積に反比例する。接続流路307の開口面積を大きくすると、第2経路のイナータンスが小さくなり、イナータンス比は、大きくなる。イナータンス比が大きくなると、送液室316を介して第2経路から第1経路へインクが送液される際に、第2経路の慣性抵抗が大きすぎるために、送液室316への第2経路からのインク吸い込み量が少量となる。イナータンスが大きい場合、一般的にレジスタンス(粘性抵抗、DC抵抗)も大きい。この場合、インクの流量が少なくなる。以上、説明したように、気泡排出性を高めることと、送液性能を高めることとは相反するので、目的に合わせ流路構成を適宜選択する。
【0054】
本実施形態の流路構成において、接続流路307の開口形状の長辺が500μmかつ短辺が30μmの場合、イナータンス比は約19となり、接続流路307の開口形状の長辺が500μmかつ短辺が50μmの場合、イナータンス比は約22となる。発明者が鋭意検討を行った結果、気泡排出性より送液を重視する場合、第1経路のイナータンス比は、少なくとも第2経路のイナータンスの2.5倍以上が好ましいことを見出した。また、気泡排出性を重視しつつも送液を行う場合、第1経路のイナータンス比は、大きくても第2経路のイナータンスの25倍以下が好ましいことを見出した。
【0055】
<送液機構において変位に寄与する領域のサイズと、接続流路の開口とのサイズの関係>
図8は、送液機構308において変位に寄与する領域のサイズと、接続流路307との開口のサイズとの関係を示す図である。
図8のX軸は、送液機構308全体のサイズに対する送液機構308において変位に寄与する実効的な領域のサイズの割合を示す。送液機構308に圧電薄膜を用いた場合、実効的に変位する送液機構308の領域は、送液機構308全体のサイズより小さくなる。その理由は、圧電薄膜の電気的な接続や、駆動配線の引き回し、隣接する送液機構と切離すための隔壁接着部、アクチュエータの端部剛性を維持する送液機構308の領域の一部に割り当てられるためである。そのため、送液機構308の概ね70%~95%が実効的に変位する領域となる。
【0056】
図8のY軸は、(接続流路307の開口領域)/(変位に寄与する送液機構308の実効領域)を示す。接続流路307の形状によって、(接続流路307の開口領域)/(変位に寄与する送液機構308の実効領域)で示される特性比は、ある一定の幅を有する。ここでは、この特性比は、2%~6%を示し、凡そ数%の幅を有する。
【0057】
ここで、
図8に示されるプロットは、送液機構308および接続流路307の設計水準の一部を示すものであり、送液機構308および接続流路307の設計は、これだけに限るものではない。記録素子基板106における他の部分の構造の水準も考慮すると、前述の特性比は、少なくとも1%以上から、大きくても10%以下が好ましい。1%という閾値は、接続流路307の開口を絞りすぎず、かつ、気泡排出性を維持することを条件として導出した値である。また、10%という閾値は、接続流路307の開口を開けすぎず、かつ、バルブレスポンプを機能させることを条件として導出した値である。
【0058】
<接続流路の開口部形状と、吐出口近傍におけるインクの平均流速との関係>
図9は、接続流路307の開口部形状と、9個の吐出口202近傍におけるインクの平均流速との関係を示す図である。一般に流れを評価する手法としてPIV(Particle Image Velocimetry)、PTV(Particle Tracking Velocimetry)という手法が広く知られているが、どちらの手法を用いて評価しても構わない。ここでは、インクの流れを評価する手法として、PTVを用いた。具体的には、光学顕微鏡および高速度カメラを使用して、直径1μmのトレーサ粒子を加えて撹拌したインクを循環させた状態における吐出口202近傍(圧力室203)のインクの流れに対する観察と、解析とを行った。この観察結果および解析結果より、9個の吐出口202近傍におけるインクの平均流速を導出した。吐出口形成部材311は光学的に透明であるため、光学顕微鏡および高速度カメラを使用して、圧力室203内を流れるトレーサ粒子を観察することは可能である。
【0059】
開口部形状が異なる3種の接続流路307に対して、インクの流れを評価した。3種の接続流路307夫々の開口部形状は、長辺は3種とも約500μmとし、短辺は30、40、50μmとした。駆動電圧条件は、条件Aおよび条件Bの2種とした。条件Aは、DC-BIAS電圧として-30Vを印加し、立上の時間を3μs、立下の時間を47μsとし、のこぎり波形が周波数20KHzで繰り返されるようにした。条件Aにおいて、X軸(接続流路307の短辺)が50μm~30μmへと小さくなるにつれ、吐出口202近傍において観察されるインクの流速は、1mm/s~4mm/sへと速くなっていた。
【0060】
また、条件Bは、電圧値を条件Aの1.5倍にしたものである。条件Bにおいて、X軸が50μm~30μmへと小さくなるにつれ、吐出口202近傍において観察されるインクの流速は、2mm/s~11mm/sへと条件Aの場合より速くなっていた。
【0061】
ここで、インクの循環による吐出特性の改善効果を得るには、インク循環時の吐出口202近傍における流速は、1mm/sから10mm/s程度であることが好ましい。本実施形態の送液装置は、単体であってもよいし、単体を複数組み合わせたものであってもよい。例えば、送液装置は、大きなものを1つ配してもよいし、小さなものを複数配してもよいし、大きさが異なるものを複数配してもよい。
【0062】
<吐出速度の安定性>
記録ヘッド100に内蔵した送液機構308の送液能力を評価するために、休止期間から吐出開始し始めた際のインクの吐出速度の安定性を評価した。インクは、粘度が3cpsのものを使用した。駆動条件は、DC-BIAS電圧として-30Vを印加し、立上の時間を3μs、立下の時間を47μsとし、のこぎり波形が周波数20KHzで繰り返されるようにした。この駆動条件のもと、送液装置を駆動させた。この場合、休止期間を数s~数十sとしても、インクの吐出速度に不安定さは見られず、インクの液滴301が不吐になる吐出口202は見られなかった。
【0063】
<本実施形態の効果>
送液室316の側壁が連続的な傾斜構造となる構成において、各記録素子に送液装置を組み込み、インクを循環させると、気泡302が送液室316の側壁にトラップされることを抑制できる。これにより、各記録素子内の吐出口202近傍のインクを安定的に循環させることが可能となる。その結果、インク吐出部におけるインク蒸発によるインクの粘度増加に起因する吐出不良を抑制でき、初期吐出の特性を改善できる。
【0064】
[第2の実施形態]
本実施形態では、記録素子は、1200npi×2列に配され、第1の実施形態より細密に配される。
図10は、本実施形態における記録素子基板106の断面図である。
図10に示すように、本実施形態では、供給流路205を吐出口列間で共有している。夫々の吐出口列に対して送液機構308が適宜配される。本実施形態は、2列の吐出口列が供給流路205を共有している点で第1の実施形態と異なる。
【0065】
<接続流路の開口部形状と、吐出口近傍におけるインクの平均流速との関係>
第1の実施形態と同様に、インクの流れを評価する手法として、PTVを用いて吐出口202近傍におけるインクの流速を評価した。インクを循環させた状態において、9個の吐出口202近傍(圧力室203)のインクへの流れに対する観察と、解析とを行い、吐出口202近傍におけるインクの平均流速を導出した。
図11は、本実施形態における接続流路307の開口部形状と、9個の吐出口202近傍におけるインクの平均流速との関係を示す図である。
【0066】
開口部形状が異なる3種の接続流路307に対して、インクの流れを評価した。3種の接続流路307夫々の開口部形状は、長辺は3種とも約500μmとし、短辺が20、30、50μmとした。駆動電圧条件は、条件Cおよび条件Dの2種とした。条件Cは、DC-BIAS電圧として-30Vを印加し、立上の時間を3μs、立上後の状態で維持する時間を10μs、立下の時間を37μsとし、のこぎり波形が周波数20KHzで繰り返されるようにした。条件Cにおいて、X軸(接続流路307の短辺)が50~20μmへと小さくなるにつれ、吐出口202より観察される流速は、1mm/s弱~約1mm/sへと速くなっていた。
【0067】
また、条件Dは、電圧値を条件Cの1.5倍にしたものである。条件Dにおいて、X軸が50μm~20μmへと小さくなるにつれ、吐出口202より観察される流速は、1mm/s弱から約3mm/sへと速くなっていた。以上より、本実施形態における構成において、インク循環時の吐出口202近傍(圧力室203)における流速を1mm/s以上とすることが可能である。
【0068】
本実施形態において、インク循環時の吐出口202近傍(圧力室203)における流速が第1の実施形態と比較して小さい原因は、本実施形態の色間距離が第1の実施形態と同様に1mm程度でありながら、その中に送液機構308を2つ配しているためである。この結果、第1の実施形態と比較して、送液機構308の配置領域が小さくなり、送液機構308の絶対的な変位体積量が小さくなる。これにより、接続流路307近傍に速い流れを生じさせることが難しくなり、渦流の程度が弱くなる。
【0069】
<吐出速度の安定性>
ここで、第1の実施形態と同様に、記録ヘッド100に内蔵した送液機構308の送液能力を評価するために、休止期間からと吐出開始し始めた際のインクの吐出速度の安定性を評価した。この評価の結果、休止期間を充分長くおいても、インクの吐出速度に不安定さは見られず、インクの液滴301が不吐になる吐出口202は見られなかった。
【0070】
<本実施形態の効果>
供給流路205を吐出口列間で共有し、夫々に送液機構308が配された2列の吐出口202において、インク吐出部におけるインク蒸発によるインクの粘度増加に起因する吐出不良を抑制でき、初期吐出の特性を改善できる。
【符号の説明】
【0071】
100:記録ヘッド
201:エネルギ発生素子
202:吐出口
203:圧力室
205:供給流路
206:回収流路
307:接続流路
308:送液機構
314:共通供給流路
315:傾斜角度
316:送液室