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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】接近通報システム
(51)【国際特許分類】
   B60Q 5/00 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
B60Q5/00 650B
B60Q5/00 620A
B60Q5/00 630B
B60Q5/00 640E
B60Q5/00 670A
B60Q5/00 660A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020115482
(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2022013125
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】田地 良輔
【審査官】當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-276504(JP,A)
【文献】特開2013-126816(JP,A)
【文献】特開2013-014286(JP,A)
【文献】特開2017-024538(JP,A)
【文献】特開2011-168130(JP,A)
【文献】特開2012-126236(JP,A)
【文献】特開2015-179194(JP,A)
【文献】特開2017-071240(JP,A)
【文献】特開2020-012917(JP,A)
【文献】特開平08-338224(JP,A)
【文献】国際公開第2014/038010(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0175959(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に搭載された、当該自動車の接近を通報する通報音を出力する接近通報システムであって、
前記自動車前方に向けて前記通報音を出力する通報音出力手段と、
少なくとも前記通報音出力手段が前記通報音を出力しているときに、前記自動車の周囲の環境音を収音し、収音した周囲の環境音に基づいて前記自動車前方の位置において周囲の環境音をキャンセルする音であるキャンセル音を生成し、前記自動車前方に向けて出力する能動型騒音制御手段とを有することを特徴とする接近通報システム。
【請求項2】
自動車に搭載された、当該自動車の接近を通報する通報音を出力する接近通報システムであって、
前記自動車前方の歩行者の位置を検出する歩行者検出手段と、
少なくとも前記歩行者検出手段が検出した歩行者の位置が当該自動車に接近しているときに、前記自動車前方に向けて前記通報音を出力する通報音出力手段と、
少なくとも前記通報音出力手段が前記通報音を出力しているときに、前記自動車の周囲の環境音を収音し、収音した周囲の環境音に基づいて前記歩行者検出手段が検出した歩行者の位置において周囲の環境音をキャンセルする音であるキャンセル音を生成し、前記自動車前方に向けて出力する能動型騒音制御手段とを有することを特徴とする接近通報システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の接近通報システムであって、
前記キャンセル音を前記自動車前方に出力するパラメトリックスピーカを備えていることを特徴とする接近通報システム。
【請求項4】
請求項2記載の接近通報システムであって、
前記能動型騒音制御手段は、
前記自動車の周囲の環境音を収音する第1のマイクと、
前記自動車の車外の音を収音する第2のマイクと、
前記第1のマイクの出力を入力とする適応フィルタと、
適応フィルタの出力を前記キャンセル音として出力するスピーカと、
前記第1のマイクの出力を入力とする、前記自動車前方の各々異なる複数の位置に対応する複数の補助フィルタと、
前記第2のマイクの出力を、対応する位置が前記歩行者検出手段が検出した歩行者の位置に最も整合する補助フィルタの出力を用いて補正してエラー信号として前記適応フィルタに出力するエラー補正手段とを有し、
前記適応フィルタは、前記エラー補正手段から入力するエラー信号を用いて、所定の適応アルゴリズムを実行して当該適応フィルタの伝達関数を更新し、
前記複数の補助フィルタには、対応する位置において、キャンセル音によって騒音がキャンセルされたときに、前記第2のマイクの出力を当該補助フィルタの出力を用いて補正した信号が0となる伝達関数として学習した伝達関数が予め設定されていることを特徴とする能動型騒音制御システム。
【請求項5】
請求項2記載の接近通報システムであって、
前記能動型騒音制御手段は、
前記自動車の周囲の環境音を収音する第1のマイクと、
前記自動車の車外の音を収音する第2のマイクと、
前記第1のマイクの出力を入力とする適応フィルタと、
適応フィルタの出力を前記キャンセル音として出力するスピーカと、
前記第1のマイクの出力を入力とする、前記自動車前方の各々異なる複数の位置に対応する複数の補助フィルタと、
二つの補助フィルタであって、当該二つの補助フィルタに対応する二つの位置の間が、前記歩行者検出手段が検出した歩行者の位置となる二つの補助フィルタを、第1混合対象補助フィルタと第2混合対象補助フィルタとして、前記第2のマイクの出力を第1混合対象補助フィルタの出力で補正したエラー信号と、前記第2のマイクの出力を第2混合対象補助フィルタの出力で補正したエラー信号とを、前記第1混合対象補助フィルタに対応する位置と前記歩行者検出手段が検出した歩行者の位置との距離と前記第2混合対象補助フィルタに対応する位置と前記歩行者検出手段が検出した歩行者の位置との距離との比に応じて定まる時間的比率で交互に前記適応フィルタに出力するエラー補正手段とを有し、
前記適応フィルタは、前記エラー補正手段から入力するエラー信号を用いて、所定の適応アルゴリズムを実行して当該適応フィルタの伝達関数を更新し、
前記複数の補助フィルタには、対応する位置において、キャンセル音によって騒音がキャンセルされたときに、前記第2のマイクの出力を当該補助フィルタの出力を用いて補正した信号が0となる伝達関数として学習した伝達関数が予め設定されていることを特徴とする能動型騒音制御システム。
【請求項6】
請求項4、5記載の接近通報システムであって、
前記スピーカは、前記キャンセル音の出力と前記通報音の出力に共用されることを特徴とする接近通報システム。
【請求項7】
請求項4、5または6記載の接近通報システムであって、
前記スピーカはパラメトリックスピーカであることを特徴とする接近通報システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の接近を音により通報する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の接近を音により通報する技術としては、電気モータ走行時のハイブリッド車や電気自動車等の、内燃エンジン音が発生しない車両において、歩行者に車両の接近を通報する通報音の音量やピッチを、歩行者までの距離や環境音に応じて変化させる技術が知られている(たとえば、特許文献1、2、3)。
【0003】
また、本発明に関する技術としては、騒音キャンセル位置の近傍に配置したマイクと、騒音キャンセル位置において騒音をキャンセルするキャンセル音を出力するスピーカと、騒音を表す騒音信号に適応的に設定した伝達関数を施してスピーカから出力するキャンセル音を生成する適応フィルタとを設け、適応フィルタにおいて、マイクの出力を、補助フィルタの伝達関数を施した騒音信号を用いて補正したエラー信号として伝達関数を適応的に設定する能動型騒音制御(ANC; Active Noise Control)の技術が知られている(たとえば、特許文献4)。
【0004】
ここで、この技術では、補助フィルタには、予め学習した、騒音キャンセル位置にマイクが配置されていた場合にマイクから出力される信号に、マイクが実際に出力する信号を補正する補正信号を騒音信号から生成できる伝達関数が設定されており、このような補助フィルタを用いることにより、マイクの位置と異なる騒音キャンセル位置において、騒音をキャンセルしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-178342号公報
【文献】特開2014- 91419号公報
【文献】国際公開2011/155021号
【文献】特開2018-72770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気モータ走行時のハイブリッド車や電気自動車等の、内燃エンジン音が発生しない車両において、歩行者に車両の接近を通報する通報音を出力する場合、通報音は周囲環境に対する騒音ともなるため、その音量をあまり大きくすることができない。一方で、通報音は、自動車の前方にいる歩行者に周囲環境音に埋もれずに確実に認知される必要がある。
【0007】
そこで、本発明は、歩行者に自動車の接近を通報する通報音を、自動車の前方にいる歩行者が周囲環境音に妨げられることなく認知できる接近通報システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題達成のために、本発明は、自動車に搭載された、当該自動車の接近を通報する通報音を出力する接近通報システムに、前記自動車前方に向けて前記通報音を出力する通報音出力手段と、少なくとも前記通報音出力手段が前記通報音を出力しているときに、前記自動車の周囲の環境音を収音し、収音した周囲の環境音に基づいて前記自動車前方の位置において周囲の環境音をキャンセルする音であるキャンセル音を生成し、前記自動車前方に向けて出力する能動型騒音制御手段とを備えたものである。
【0009】
また、本発明は、前記課題達成のために、自動車に搭載された、当該自動車の接近を通報する通報音を出力する接近通報システムに、前記自動車前方の歩行者の位置を検出する歩行者検出手段と、少なくとも前記歩行者検出手段が検出した歩行者の位置が当該自動車に接近しているときに、前記自動車前方に向けて前記通報音を出力する通報音出力手段と、少なくとも前記通報音出力手段が前記通報音を出力しているときに、前記自動車の周囲の環境音を収音し、収音した周囲の環境音に基づいて前記歩行者検出手段が検出した歩行者の位置において周囲の環境音をキャンセルする音であるキャンセル音を生成し、前記自動車前方に向けて出力する能動型騒音制御手段とを備えたものである。
【0010】
ここで、以上の接近通報システムには、前記キャンセル音を前記自動車前方に出力するパラメトリックスピーカを備えてもよい。
また、上記した前記歩行者検出手段が検出した歩行者の位置において周囲の環境音をキャンセルする音であるキャンセル音を生成する接近通報システムは、前記能動型騒音制御手段を、前記自動車の周囲の環境音を収音する第1のマイクと、前記自動車の車外の音を収音する第2のマイクと、前記第1のマイクの出力を入力とする適応フィルタと、適応フィルタの出力を前記キャンセル音として出力するスピーカと、前記第1のマイクの出力を入力とする、前記自動車前方の各々異なる複数の位置に対応する複数の補助フィルタと、前記第2マイクの出力を、対応する位置が前記歩行者検出手段が検出した歩行者の位置に最も整合する補助フィルタの出力を用いて補正してエラー信号として前記適応フィルタに出力するエラー補正手段とをより構成してもよい。ここで前記適応フィルタは、前記エラー補正手段から入力するエラー信号を用いて、所定の適応アルゴリズムを実行して当該適応フィルタの伝達関数を更新し、前記複数の補助フィルタには、対応する位置において、キャンセル音によって騒音がキャンセルされたときに、前記第2のマイクの出力を当該補助フィルタの出力を用いて補正した信号が0となる伝達関数として学習した伝達関数を予め設定する。
【0011】
または、このような接近通報システムは、前記能動型騒音制御手段を、前記自動車の周囲の環境音を収音する第1のマイクと、前記自動車の車外の音を収音する第2のマイクと、前記第1のマイクの出力を入力とする適応フィルタと、適応フィルタの出力を前記キャンセル音として出力するスピーカと、前記第1のマイクの出力を入力とする、前記自動車前方の各々異なる複数の位置に対応する複数の補助フィルタと、二つの補助フィルタであって、当該二つの補助フィルタに対応する二つの位置の間が、前記歩行者検出手段が検出した歩行者の位置となる二つの補助フィルタを、第1混合対象補助フィルタと第2混合対象補助フィルタとして、前記第2のマイクの出力を第1混合対象補助フィルタの出力で補正したエラー信号と、前記第2のマイクの出力を第2混合対象補助フィルタの出力で補正したエラー信号とを、前記第1混合対象補助フィルタに対応する位置と前記歩行者検出手段が検出した歩行者の位置との距離と前記第2混合対象補助フィルタに対応する位置と前記歩行者検出手段が検出した歩行者の位置との距離との比に応じて定まる時間的比率で交互に前記適応フィルタに出力するエラー補正手段とより構成してもよい。ここで、前記適応フィルタは、前記エラー補正手段から入力するエラー信号を用いて、所定の適応アルゴリズムを実行して当該適応フィルタの伝達関数を更新し、前記複数の補助フィルタには、対応する位置において、キャンセル音によって騒音がキャンセルされたときに、前記第2のマイクの出力を当該補助フィルタの出力を用いて補正した信号が0となる伝達関数として学習した伝達関数を予め設定する。
【0012】
このような接近通報システムにおいて、前記スピーカは、前記キャンセル音の出力と前記通報音の出力に共用されるものとしてもよい。
また、前記スピーカとしてパラメトリックスピーカを用いるようにしてもよい。
以上のような接近通報システムによれば、自動車前方の歩行者に対して、自動車の接近を知らせる通報音と共に、歩行者に聞こえる周囲の環境音をキャンセルすることが期待できるキャンセル音を出力する。したがって、自動車前方の歩行者は、聞こえる環境音が低減した状態において、自動車の接近を知らせる通報音を聞くこととなる。また、自動車前方の歩行者は、聞こえる周囲環境音の突然の低減に対する生理的反応によって音に対する注意力が鋭敏となった状態において通報音を聞くこととなる。したがって、自動車前方の歩行者に対して、自動車の接近を知らせる通報音を明瞭に認知させることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、自動車の接近を通報する通報音を、自動車の前方にいる歩行者が周囲環境音に妨げられることなく認知できる接近通報システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る接近通報システムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る能動型騒音制御システムのレーダ装置とスピーカとエラーマイクと参照マイクの配置例を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る能動型騒音制御装置の構成を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態に係る学習用マイクの配置例を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る補助フィルタの伝達関数の学習の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る接近通報システムの構成を示す。
接近通報システム1は、ハイブリッド車や電気自動車等の電気モータ走行を行う自動車に搭載されるシステムであり、図示するように、能動型騒音制御装置11、スピーカ12、エラーマイク13、参照マイク14、通報音出力装置15、歩行者検出装置16、前方監視装置17、オーディオミクスチャ18を備えている。
【0016】
前方監視装置17は、たとえば、図2に示すようにフロントウインドウシールドの上部に配置された、自動車前方を監視する、レーダ装置やステレオカメラなどの装置である。
また、スピーカ12は、可聴音で変調した超音波を出力する超指向性のパラメトリックスピーカであり、自動車の前方に向けて音を出力するように配置されている。
次に、エラーマイク13は自動車の前端等の自動車前方の歩行者にできるだけ近くなる位置に配置され、自動車の車外の音を収音する。また、参照マイク14は自動車の周囲環境音を収音するように配置される。
【0017】
図1に戻り、歩行者検出装置16は、前方監視装置17の出力を解析して、自動車の前方の歩行者の有無と、自動車の前方の歩行者の自動車に対する相対位置等を検出する。
通報音出力装置15は、歩行者検出装置16が自動車に所定距離以内に接近している歩行者を検出している期間中、自動車の接近を知らせる所定の通報音をオーディオミクスチャ18に出力する。
【0018】
また、能動型騒音制御装置11は、通報音出力装置15が通報音を出力している期間中、エラーマイク13と参照マイク14を用いて、歩行者検出装置16が検出した歩行者の位置において、周囲環境音をキャンセルするキャンセル音を生成し、オーディオミクスチャ18に出力する。但し、能動型騒音制御装置11は、通報音出力装置15が通報音を出力している期間より少し前の時点(たとえば、0.5秒前)からキャンセル音の生成とオーディオミクスチャ18への出力を行うようにしてもよい。なお、通報音出力装置15が通報音を出力する期間は、通報音出力装置15から能動型騒音制御装置11に通知することにより、能動型騒音制御装置11において検出可能とする。
【0019】
そして、オーディオミクスチャ18は、通報音出力装置15から出力される通報音と能動型騒音制御装置11から出力されるキャンセル音をミックスして、スピーカ12から自動車前方に向けて出力する。
【0020】
次に、能動型騒音制御装置11の構成を図3に示す。
図示するように、能動型騒音制御装置11は、参照マイク14で収音した周囲環境音を表す騒音信号x(n)と、エラーマイク13でピックアップした音声信号であるマイクエラー信号err(n)を用いて、キャンセルポイントにおいて周囲環境音をキャンセルするキャンセル音CA(n)を生成し、オーディオミクスチャ18を介してスピーカ12から出力する。
【0021】
能動型騒音制御装置11は、信号処理部111と、切替制御部112とを備えている。
信号処理部111は、可変フィルタ1111、適応アルゴリズム実行部1112、予め伝達関数S^(z)が設定された推定フィルタ1113、減算器1114、各々予め伝達関数H1(z)、H2(z)、H3(z)、...、Hn(z)が設定されたn個の補助フィルタ1115、切替制御部112の制御に従ってn個の補助フィルタ1115の出力のうちの一つの出力を選択して減算器1114に出力するセレクタ1116とを備えている。
【0022】
このような信号処理部111の構成において、入力した騒音信号x(n)は、可変フィルタ1111を通ってキャンセル信号CA(n)としてスピーカ12に出力される。
また、入力した騒音信号x(n)はn個の補助フィルタ1115をそれぞれ通ってセレクタ1116に送られ、セレクタ1116は、切替制御部112の制御に従ってn個の補助フィルタ1115の出力のうちの一つの出力を選択して減算器1114に送る。減算器1114は、エラーマイク13でピックアップしたマイクエラー信号err(n)からセレクタ1116の出力を減算し、エラーとして、適応アルゴリズム実行部1112に出力する。
【0023】
次に、可変フィルタ1111と適応アルゴリズム実行部1112と推定フィルタ1113はFiltered-X適応フィルタを構成している。推定フィルタ1113には、信号処理部111からエラーマイク13までの伝達関数S(z)を実測等により推定した推定伝達特性S^(z)が予め設定されており、推定フィルタ1113は、伝達特性S^(z)を入力した騒音信号x(n)に畳み込んで、適応アルゴリズム実行部1112に入力する。
【0024】
そして、適応アルゴリズム実行部1112は、推定フィルタ1113で伝達関数S^(z)が畳み込まれた騒音信号x(n)と、減算器1114から出力されるエラーとを入力として、NLMSやLMSなどの適応アルゴリズムを実行し、エラーが0となるように可変フィルタ1111の伝達関数W(z)を更新する適応動作を行う。
【0025】
次に、信号処理部111の各補助フィルタ1115の伝達関数H1(z)、H2(z)、H3(z)、...、Hn(z)は、それぞれについて、予め第1段階の学習処理と第2段階の学習処理を行うことにより設定する。
【0026】
ここで、n個の補助フィルタ1115の伝達関数H1(z)、H2(z)、H3(z)、...、Hn(z)は、それぞれ異なるキャンセルポイントに対応している。
すなわち、iを1からnまでの整数とし、iが異なるdiは異なる距離であるものとして、伝達関数Hi(z)は、標準的な体格の人物が自動車から前方に距離di離れた位置にいるときの当該人物の頭部の位置であるキャンセルポイントPiに対応している。
【0027】
より具体的には、たとえば、図4に示すように、伝達関数H1(z)は、標準的な体格の人物が自動車から前方に距離d1離れた位置にいるときの当該人物の頭部の位置であるキャンセルポイントP1に対応しており、伝達関数H2(z)は、標準的な体格の人物が自動車から前方に距離d2離れた位置にいるときの当該人物の頭部の位置であるキャンセルポイントP2に対応しており、伝達関数H3(z)は、標準的な体格の人物が自動車から前方に距離d3離れた位置にいるときの当該人物の頭部の位置であるキャンセルポイントP3に対応しているといったように、n個の補助フィルタ1115の伝達関数H1(z)、H2(z)、H3(z)、...、Hn(z)は、それぞれ異なるキャンセルポイントに対応している。
【0028】
さて、第1段階の学習処理は、第1信号処理部を図5aに示す第1段階学習処理部5に、エラーマイク13を学習用マイク41に置き換えた構成において行う。
iを1からnの整数のうちの任意の数として、伝達関数Hi(z)を学習する際には、学習用マイク41は、キャンセルポイントPiに配置する。すなわち、図4に示すように、伝達関数H1(z)を学習するときには、キャンセルポイントP1に学習用マイク41を配置し、伝達関数H2(z)を学習するときには、キャンセルポイントP2に学習用マイク41を配置し、伝達関数H3(z)を学習するときには、キャンセルポイントP3に学習用マイク41を配置する。
【0029】
第1段階学習処理部5は、図4に示した信号処理部111から、3つの補助フィルタ1115とセレクタ1116と減算器1114を排して、推定フィルタ1113を伝達関数Sv^(z)が設定された学習用推定フィルタ51に置換し、学習用マイク41の出力をエラーとして適応アルゴリズム実行部1112に入力した構成を備えている。ただし、伝達関数Sv^(z)は、第1段階学習処理部5から学習用マイク41までの伝達関数として、実測等により推定した伝達関数を表す。
【0030】
そして、このような構成において、適応アルゴリズム実行部1112による適応動作によって可変フィルタ1111の伝達関数W(z)を収束安定させ、収束安定した伝達関数W(z)を第1段階の学習処理の結果として得る。
【0031】
次に、第2段階の学習処理は、信号処理部111を図5bに示す第2段階学習処理部6に置き換えた構成において設定する。
第2段階学習処理部6は、段階の学習処理の結果として得た伝達関数W(z)を伝達関数として設定した固定フィルタ61と、可変フィルタ62と、適応アルゴリズム実行部63と、減算器64を備えている。
【0032】
第2段階学習処理部6に入力した騒音信号x(n)は、固定フィルタ61を通ってスピーカ12に出力される。
また、入力した騒音信号x(n)は可変フィルタ62を通って減算器64に送られ、減算器64はエラーマイク13でピックアップした信号から可変フィルタ62の出力を減算し、エラーとして、適応アルゴリズム実行部63に出力する。
【0033】
そして、このような構成において、適応アルゴリズム実行部63による適応動作によって可変フィルタ62の伝達関数H(z)を収束安定させ、収束安定した伝達関数H(z)を伝達関数Hi(z)として学習する。
【0034】
ここで、このようにして学習された伝達関数Hi(z)は、信号処理部111において、キャンセルポイントPiにエラーマイク13が位置していた場合にエラーマイク13から出力される信号に、エラーマイク13が実際に出力するマイクエラー信号err(n)を補正する信号を騒音信号x(n)から生成する伝達関数Hi(z)となる。
【0035】
したがって、セレクタ1116で伝達関数Hi(z)が設定された補助フィルタ1115の出力を選択して減算器1114に送っている状態では、適応アルゴリズム実行部1112による可変フィルタ1111の伝達関数W(z)の適応動作によって、キャンセルポイントPiにおいて周囲環境音をキャンセルするキャンセル音CA(n)がスピーカ12から出力されることとなる。
【0036】
次に、図3の信号処理部111の切替制御部112が行う切り替え動作について説明する。
切替制御部112は、歩行者検出装置16が検出した歩行者の自動車に対する相対位置に応じて、セレクタ1116で出力を選択して減算器1114に送る補助フィルタ1115を切り替える。
【0037】
この切り替えは、キャンセルポイントP1、P2、P3のうちの、歩行者検出装置16が検出した歩行者の相対位置から求まる当該歩行者の頭部の位置が最も近いキャンセルポイントを算定し、算定したキャンセルポイントが変化したときに、セレクタ1116に、算定したキャンセルポイントPxに対応する伝達関数Hx(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力に減算器1114に送る出力を切り替えさせることにより行う。
【0038】
すなわち、たとえば、図4のキャンセルポイントP1が、歩行者の頭部の位置に最も近い場合には、セレクタ1116に、伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力に減算器1114に送る出力を切り替えさせ、キャンセルポイントP2が、歩行者の頭部の位置に最も近い場合には、セレクタ1116に、伝達関数H2(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力に減算器1114に送る出力を切り替えさせ、キャンセルポイントP3が、歩行者の頭部の位置に最も近い場合には、セレクタ1116に、伝達関数H3(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力に減算器1114に送る出力を切り替えさせる。
【0039】
または、信号処理部111の切替制御部112が行う切り替え動作は、次のように行うようにしてもよい。
すなわち、切替制御部112は、歩行者検出装置16が検出した歩行者の相対位置から求まる当該歩行者の頭部の位置が間に存在する二つのキャンセルポイントPiとPi+1を算定し、二つのキャンセルポイントPiとPi+1に対応する二つの補助フィルタ1115の出力が減算器1114に出力される時間比率が、対応するキャンセルポイントPiとPi+1と頭部の位置との間の距離の逆数の比率となるように、セレクタ1116に二つのキャンセルポイントPiとPi+1に対応する二つの補助フィルタ1115の出力を交互に減算器1114に出力させてもよい。
【0040】
すなわち、たとえば、頭部の位置Prが、キャンセルポイントP1とP2の間にあり、位置PrからキャンセルポイントP1までの距離と、位置PrからキャンセルポイントP2までの距離の比が70:30である場合には、減算器1114に入力するキャンセルポイントP1に対応する伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力と、減算器1114に入力するキャンセルポイントP2に対応する伝達関数H2(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力との時間的比率が、距離の比70:30の逆数の比となる30:70となるようにセレクタ1116に、伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115と伝達関数H2(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力を交互に減算器1114に出力させる。
【0041】
このようにすることにより、二つの補助フィルタ1115とセレクタ1116を用いて、歩行者検出装置16が検出した歩行者の相対位置から求まる当該歩行者の頭部の位置に学習用マイク41を配置して学習した場合に得られる伝達関数を模擬する仮想の補助フィルタ1115を構成して、より良好に歩行者の頭部の位置において周囲環境音をキャンセルすることができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明した。
このように本実施形態によれば、自動車前方の歩行者に対して、自動車の接近を知らせる通報音と共に、歩行者に聞こえる周囲環境音をキャンセルすることが期待できるキャンセル音を出力する。したがって、自動車前方の歩行者は、聞こえる周囲環境音が低減した状態において、自動車の接近を知らせる通報音を聞くこととなる。また、自動車前方の歩行者は、聞こえる周囲環境音の突然の低減に対する生理的反応によって音に対する注意力が鋭敏となった状態において通報音を聞くこととなる。したがって、自動車前方の歩行者に対して、自動車の接近を知らせる通報音を明瞭に認知させることができる。
【0043】
よって、本実施形態によれば、歩行者に車両の接近を通報する通報音を、歩行者が周囲環境音に妨げられることなく認知できるように出力することができる。
なお、以上の実施形態では、n個の補助フィルタ1115の伝達関数H1(z)、H2(z)、H3(z)、...、Hn(z)に対応するn個のキャンセルポイントを、自動車からの前後方向の距離が相互に異なるn個のキャンセルポイント、すなわち、自動車に対する前後方向の相対位置が相互に異なるn個のキャンセルポイントとしたが、n個のキャンセルポイントとしては、自動車に対する前後方向の相対位置、自動車に対する左右方向の相対位置、自動車に対する上下方向の相対位置のうちの少なくとも一つが他のキャンセルポイントとは異なるn個のキャンセルポイントを設定するようにしてよい。
【0044】
また、以上の実施形態では、通報音とキャンセル音を同じスピーカ12から出力したが、通報音とキャンセル音は、それぞれ異なるスピーカ12から出力するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1…接近通報システム、5…第1段階学習処理部、6…第2段階学習処理部、11…能動型騒音制御装置、12…スピーカ、13…エラーマイク、14…参照マイク、15…通報音出力装置、16…歩行者検出装置、17…前方監視装置、18…オーディオミクスチャ、41…学習用マイク、51…学習用推定フィルタ、61…固定フィルタ、62…可変フィルタ、63…適応アルゴリズム実行部、64…減算器、111…信号処理部、112…切替制御部、1111…可変フィルタ、1112…適応アルゴリズム実行部、1113…推定フィルタ、1114…減算器、1115…補助フィルタ、1116…セレクタ。
図1
図2
図3
図4
図5