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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】半導体発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/48 20100101AFI20240610BHJP
   H01S 5/022 20210101ALI20240610BHJP
【FI】
H01L33/48
H01S5/022
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020125826
(22)【出願日】2020-07-22
(65)【公開番号】P2022021921
(43)【公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】裏谷 雄大
【審査官】皆藤 彰吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-059716(JP,A)
【文献】特開2016-219505(JP,A)
【文献】特開2015-018873(JP,A)
【文献】特表2012-514347(JP,A)
【文献】特開2016-127156(JP,A)
【文献】特開2016-129215(JP,A)
【文献】国際公開第2019/141733(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0285232(US,A1)
【文献】特開2007-043125(JP,A)
【文献】特開2007-059371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/48
H01S 5/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体発光素子と、
前記半導体発光素子が搭載されるとともに、環形状を有する基板金属層が固着された基板接合面を備えた基板と、
ガラスからなり、前記半導体発光素子の放射光を透過する窓部と、前記基板金属層に対応する大きさを有する環形状のフランジ固着層が底面に固着されたフランジとを備え、前記フランジ固着層が前記基板金属層に接合されて前記半導体発光素子を収容する空間を有して前記基板に封止接合された透光キャップと、を有し、
前記フランジ固着層は、前記フランジに溶着されたセラミック層と、前記セラミック層上に形成された金属層とからなる、半導体発光装置。
【請求項2】
前記セラミック層は、前記フランジの底面から前記透光キャップの内側面に至り、前記フランジの内周面の全周に亘って固着されたセラミック層内周部を有する、請求項1に記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記フランジは内周部に凹部を有し、前記セラミック層内周部は前記凹部にセラミックが溶着されて形成されている、請求項に記載の半導体発光装置。
【請求項4】
前記フランジの上面は、前記半導体発光素子の光出射方向において、前記半導体発光素子の光出射面よりも後方に位置する、請求項2又は3に記載の半導体発光装置。
【請求項5】
前記半導体発光素子の光出射方向に測ったとき、前記セラミック層内周部の頂面の高さは、前記半導体発光素子の光出射面の高さ以上である、請求項2ないし4のいずれか一項に記載の半導体発光装置。
【請求項6】
前記セラミック層は黒アルミナ層である、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の半導体発光装置。
【請求項7】
前記セラミック層は、前記フランジに溶着された黒アルミナ層と、前記黒アルミナ層上に溶着された白アルミナ層とからなる、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の半導体発光装置。
【請求項8】
前記セラミック層は、アルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミ及びジルコニアのうち少なくとも1からなる、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の半導体発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光装置、特に紫外光を放射する半導体発光素子が内部に封入された半導体発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子を半導体パッケージの内部に封入する半導体装置が知られている。半導体発光モジュールの場合では、半導体発光素子が載置された支持体に、発光素子からの光を透過するガラスなどの透明窓部材が接合されて気密封止される。
【0003】
例えば、特許文献1、2には、半導体発光素子を収容する凹部が設けられた基板と、窓部材とが接合された半導体発光モジュールが開示されている。
【0004】
また、特許文献3、4には、紫外線発光素子が搭載された実装基板と、スペーサと、ガラスにより形成されたカバーとが接合された紫外光発光装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献5には、表面をセラミック溶射膜で被覆した石英ガラス及びセラミックにおける溶射膜の付着性について開示されている。
【0006】
また、非特許文献1及び非特許文献2には、セラミックの溶射技術について開示されている。非特許文献3には、黒い色調のアルミナ系セラミック「ブラックアルミナ(AR(B))」について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-18873号公報
【文献】特開2018-93137号公報
【文献】特開2016-127255号公報
【文献】特開2016-127249号公報
【文献】特開2003-212598号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】日本溶射学会、http://www.jtss.or.jp/about_ts-j.htm
【文献】上野 和夫:2014年改正「JIS H8304セラミック溶射」、http://www.jtss.or.jp/journal/8304review.pdf
【文献】アスザック株式会社、http://www.asuzac-ceramics.jp/technology/tech15.htm
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、基板と窓部材との間の封止性、接合信頼性について一層の向上が求められている。紫外光を放射する半導体発光素子、特にAlGaN系の半導体発光素子は、気密が不十分であると劣化し易く、当該半導体発光素子が搭載された半導体装置には高い気密性が求められる。
【0010】
また、AlGaN系結晶は水分によって劣化する。特に、発光波長が短波長になるほどAl組成が増加して劣化し易い。そこで、発光素子を収めるパッケージ内部に水分が侵入しない気密構造として、基板とガラス蓋を金属接合材で気密する構造が採用されていたが、多湿環境下又は水回りで使用される場合に気密が十分でないという問題があった。
【0011】
また、特に紫外光や深紫外光を透過する石英などのガラスはガラス純度や硬度が高く、金属との密着性が弱いという問題があった。
【0012】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、長期の使用においても高い気密性が維持される高い信頼性、及び、耐湿性、耐腐食性など高い耐環境性を有する半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1実施形態による半導体発光装置は、
半導体発光素子と、
前記半導体発光素子が搭載されるとともに、環形状を有する基板金属層が固着された基板接合面を備えた基板と、
ガラスからなり、前記半導体発光素子の放射光を透過する窓部と、前記基板金属層に対応する大きさを有する環形状のフランジ固着層が底面に固着されたフランジとを備え、前記フランジ固着層が前記基板金属層に接合されて前記半導体発光素子を収容する空間を有して前記基板に封止接合された透光キャップと、を有し、
前記フランジ固着層は、前記フランジに溶着されたセラミック層と、前記セラミック層上に形成された金属層とからなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】第1の実施形態による半導体発光装置10の上面を模式的に示す平面図である。
図1B】半導体発光装置10の側面を模式的に示す図である。
図1C】半導体発光装置10の裏面を模式的に示す平面図である。
図1D】半導体発光装置10の内部構造を模式的に示す図である。
図1E】第1の実施形態の透光キャップ13の1/4部分を模式的に示す斜視図である。
図2A図1AのA-A線に沿った半導体発光装置10の断面を模式的に示す断面図である。
図2B図2Aの接合部(W部)の断面を拡大して示す部分拡大断面図である。
図3A】セラミック層21Cとして白アルミナを用いた場合のフランジ13B及びフランジ固着層21の部分を拡大して示す部分拡大断面図である。
図3B】セラミック層21Cとして黒アルミナを用いた場合のフランジ13B及びフランジ固着層21の部分を拡大して示す部分拡大断面図である。
図4A】本発明の第2の実施形態による半導体発光装置30の断面を模式的に示す断面図である。
図4B図4Aの接合部(W部)を拡大して示す部分拡大断面図である。
図5A】セラミック層21Cが光反射性のセラミック層21C(W)である場合を示す部分拡大断面図である。
図5B】セラミック層21Cが光吸収性のセラミック層21C(B)である場合を示す部分拡大断面図である。
図5C】セラミック層21Cが、光吸収性のセラミック層21C(B)及び光反射性のセラミック層21C(W)からなる場合(2層構造)を示す部分拡大断面図である。
図6】セラミック層内周部21Pの頂面の高さがフランジ13Bの上面13Fの高さを超える場合を模式的に示す部分拡大断面図である。
図7】第2の実施形態の改変例によるフランジ13B及びフランジ固着層21の部分の断面を拡大して示す模式的な部分拡大断面図である。
【0015】
[第1の実施形態]
図1Aは、本発明の第1の実施形態による半導体発光装置10の上面を模式的に示す平面図である。図1Bは、半導体発光装置10の側面を模式的に示す図である。図1Cは、半導体発光装置10の裏面を模式的に示す平面図である。図1Dは、半導体発光装置10の内部構造を模式的に示す図である。図1Eは、透光キャップ13の1/4部分を模式的に示す斜視図である。
【0016】
また、図2Aは、図1AのA-A線に沿った半導体発光装置10の断面を模式的に示す断面図である。図2Bは、図2Aの接合部(W部)の断面を拡大して示す部分拡大断面図である。
【0017】
図1A及び図1Bに示すように、半導体発光装置10は、矩形板形状の基板11と、半円球状のガラスからなる透光性窓である透光キャップ13と、が接合されて構成されている。より詳細には、基板11の上面上には、円環状の金属層12(以下、基板金属層12ともいう。)が形成され、透光キャップ13と接合されている。
【0018】
なお、基板11の側面がx方向及びy方向に平行であり、基板11の上面がxy平面に平行であるとして示している。
【0019】
図1E及び図2Aに示すように、透光キャップ13は、窓部である半円球状のドーム部13Aと、ドーム部13Aの底部の端部に設けられたフランジ部(以下、単にフランジという。)13Bとからなる。すなわち、透光キャップ13は、ドーム部13(窓部)とフランジ13Bとが気密的につなぎ合わされて構成されている。
【0020】
図2Bには、フランジ13Bと、フランジ13Bに溶着されたセラミック層21Cと、セラミック層21Cに固着された金属層(フランジ金属層)21Mが拡大して示されている。本明細書において、これらの層を特に区別しない場合には、セラミック層21C及び金属層21Mからなる層をフランジ固着層21と総称する。フランジ13Bは円環板形状を有している。
【0021】
基板11は、ガス等を透過しないセラミック基板である。例えば、高い熱伝導率を有し、気密性に優れた窒化アルミニウム(AlN)が用いられる。AlNセラミックの熱伝導率は150~170(W/m・K)であり、また熱膨張係数は4.5~4.6 (10-6・K-1)である。
【0022】
なお、基板11の基材としては、熱伝導率の高い炭化ケイ素(SiC)、反射率の高い白アルミナ(Al)などがある。SiCの熱伝導率は200(W/m・K)であり熱膨張係数は4.4 (10-6・K-1)である、またAlの熱伝導率は29~32(W/m・K)であり熱膨張係数は7.7~8 (10-6・K-1)である。
【0023】
透光キャップ13は、半導体発光装置10内に配された発光素子15からの放射光を透過する透光性のガラスからなる。例えば、石英ガラス又はホウ珪酸ガラスを好適に用いることができる。
【0024】
半導体発光装置10内の封入ガスとしては、ドライな窒素ガスや酸素含有割合が低いドライな空気などを用いることができ、あるいは内部を真空としてもよい。
【0025】
図1Dに示すように、基板11上には、半導体発光装置10内の配線電極である第1配線電極(例えば、アノード電極)14A及び第2配線電極(例えば、カソード電極)14Bが備えられている(以下、特に区別しない場合には、配線電極14と称する。)。発光ダイオード(LED)又は半導体レーザなどの半導体発光素子15が第1配線電極14A上に金属接合層15Aによって接合され、発光素子15のボンディングパッド15Bがボンディングワイヤ18Cを介して第2配線電極14Bに電気的に接続されている。
【0026】
発光素子15は、n型半導体層、発光層及びp型半導体層を含む半導体構造層が形成されたアルミ窒化ガリウム(AlGaN)系の半導体発光素子(LED)である。また、発光素子15は、半導体構造層が、反射層を介して導電性の支持基板(シリコン:Si)上に形成(接合)されている。
【0027】
発光素子15は、支持基板の半導体構造層が接合された面の反対面(発光素子15の裏面とも称する)にアノード電極を備え(図示せず)、基板11上の第1配線電極14Aに電気的に接続されている。また、発光素子15は、半導体構造層の支持基板が接合された面の反対面(発光素子15の表面とも称する)にカソード電極(パッド15B)を備え、ボンディングワイヤを介して第2配線電極14Bに電気的に接続されている。
【0028】
発光素子15は、波長265~415nmの紫外光を発光する窒化アルミ系の発光素子であることが好適である。具体的には、発光中心波長が、265nm、275nm、355nm、365nm、385nm、405nm又は415nmの発光素子を用いた。
【0029】
窒化アルミ系の紫外線を放射する発光素子(UV-LED素子)を構成する半導体結晶のAl組成は高く、酸素(O2)や水分(H2O)によって酸化劣化され易い。なお、発光素子15の第1配線電極14Aへの接合にフラックス等の有機物を含む接合部材を用いた場合には、接合部材の残留フラックス(有機物)による発光素子表面への炭化物の堆積が起こるが、封入ガスに若干のO2を混合することで防止できる。このとき、O2は発光素子15を劣化させる以前に不活性化されるので問題ない。
【0030】
また、基板11上には、第1配線電極14A及び第2配線電極14Bに接続されたツェナーダイオード(ZD)である保護素子16が設けられ、発光素子15の静電破壊を防止する。
【0031】
図1Cに示すように、基板11の裏面には、第1配線電極14A及び第2配線電極14Bにそれぞれ接続された第1実装電極17A及び第2実装電極17B(以下、特に区別しない場合には、実装電極17と称する。)が設けられている。具体的には、第1配線電極14A及び第2配線電極14Bの各々は、金属ビア18A、18B(以下、特に区別しない場合には、金属ビア18と称する。)を介してそれぞれ第1実装電極17A及び第2実装電極17Bに接続されている。
【0032】
配線電極14、実装電極17及び金属ビア18は、例えば、タングステン/ニッケル/金(W/Ni/Au)、もしくは、ニッケルクロム/金/ニッケル/金 (NiCr/Au/Ni/Au)である。
【0033】
図2Aを参照すると、半導体発光装置10は配線回路基板(図示しない)上に実装されるように構成され、第1実装電極17A及び第2実装電極17Bへの電圧印加によって、発光素子15は発光し、発光素子15の表面(光取り出し面)からの放射光LEは透光キャップ13を経て外部に放射される。
【0034】
次に、基板11と透光キャップ13のフランジ13Bとの接合について説明する。
【0035】
(透光キャップ13及びフランジ13B)
また、図1A図1B及び図1Eに示すように、透光キャップ13は、窓部である半円球状のドーム部13Aと、ドーム部13Aの底部(端部)から延在されたフランジ13Bとからなる。フランジ13Bは円柱状の外形を有している。より詳細には、フランジ13Bの底面はドーム部13Aの中心と同心の円環形状(中心:C)を有している。すなわち、フランジ13Bの外縁(外周)は、フランジ13Bの内縁(内周)と同心である。
【0036】
(フランジ固着層21)
図2Bは、基板11と透光キャップ13の接合前の状態を模式的に示す断面図である。また、上記したように、フランジ13Bは、フランジ13Bの底面(フランジ接合面)13Sに溶着されたセラミック層21Cと、セラミック層21Cに固着された金属層21Mとを有している。
【0037】
基板金属層12上に接合層22によってフランジ固着層21が接合されることによって接合部24が形成され(図2A参照)、基板11と透光キャップ13との気密が保たれている。
【0038】
フランジ13Bの底面13Sは平面であるが、粗面加工されているか、あるいは溝などが形成され、セラミック層21Cの固着性が高められていても良い。
【0039】
より詳細には、セラミック層21Cには、白アルミナ、黒アルミナを用いることができる。黒アルミナとしては、例えば、黒い色調を有するブラックアルミナ(AR(B))(アスザック株式会社製)があり、ファインセラミックスの特長である強度、耐久性を維持しつつ、表面反射を抑えることができる。(反射率は波長240~2600nmで5.1~15.3%)。また、白アルミナは、半導体や液晶の製造装置用として用いられるアルミナ系ファインセラミックスで、白色又はアイボリーの色調を有する。
【0040】
ガラスの主成分は酸化ケイ素(SiO)なので、アルミナの他にジルコニア、マグネシア等の酸素(O)元素を含むセラミック、及び炭化ケイ素、窒化ケイ素等のケイ素(Si)元素を含むセラミックと高い固着性を有する。また、これらのセラミックは単一体又は複合体として用いることもできる。
【0041】
セラミック層21Cには、光を拡散反射する光反射性、又は光を吸収する光吸収性のセラミックを用いることができる。一方、多結晶体であるセラミックの微細な粒界からなる表面の凹凸部に金属が入り込むので、セラミック層を介在することによって、フランジ13Bから金属層21Mが剥離することを防止ですることができる。また、金属層21Mの酸化物のセラミック層21Cに接する金属にクロム(Cr)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)等の酸化され易い金属を選択することで、当該金属の一部がセラミックと結合するので、高い固着性を得ることができる。同様に、金属層21Mの窒化物のセラミック層21Cに接する金属にクロム(Cr)、チタン(Ti)、タングステン(W)等の窒化され易い金属を選択することで、当該金属の一部がセラミックと結合するので、高い固着性を得ることができる。
【0042】
金属層21Mには、例えば、クロム/ニッケル/金(Cr/Ni/Au)層、もしくは、チタン/パラジウム/銅/ニッケル/金(Ti/Pd/Cu/Ni/Au)層(Au層が最表面層)などを用いることができる。
【0043】
上述のセラミック層21Cは、例えば、高温で高速なプラズマジェット中にセラミック粉末等を投入し、高速の溶融粒子としてガラスに吹き付けることで形成することができる(プラズマ溶射法)。また、金属層21Mも同様なプラズマ溶射法、電子ビーム蒸着法等で形成することができる。
【0044】
(基板金属層12)
図1A及び図1Dに示すように、基板11上には、円環形状を有する金属環体である基板金属層12が固着され、基板接合面12S(基板金属層12の表面)が形成されている。より詳細には、基板金属層12が固着されている基板11の接合領域は平坦であり、基板金属層12は、フランジ13Bの底面13Sに対応する形状(すなわち、円環形状)及び大きさを有している。あるいは、基板金属層12は、フランジ13Bの底面13Sのフランジ固着層21の全体を包含する大きさを有している。なお、上述と同様に基板11の基材セラミックに接する金属に窒化(酸化物セラミックの場合は酸化)し易い金属を選択することで高い固着性を得ることができる。
【0045】
基板金属層12は、基板11上に、順にタングステン、ニッケル、金を積層した構造(W/Ni/Au)、あるいは、ニッケルクロム、金、ニッケル、金を積層した構造(NiCr/Au/Ni/Au)を有している。
【0046】
基板金属層12は、第1配線電極14A、第2配線電極14B、発光素子15及び保護素子16とは電気的に絶縁され、これらを取り囲むように形成されている。
【0047】
円環状の基板金属層12上に、円環状の接合材が載置され、加熱しつつ、透光キャップ13に力Fを印加し押圧することによって、図2Aに示すように、基板11に透光キャップ13が接合された円環状のキャップ接合層22が形成される。
【0048】
キャップ接合層22となる接合材は、例えば、フラックスを含まない円環状のAuSn(金スズ)シートであり、Snを20wt%含有するもの(溶融温度:約280℃)を用いた。金スズ合金シートの両表面に、Au(10~30nm)層を備えることもできる。AuSn合金の酸化を防ぎ、後述のキャップ接合工程において均一な溶融を可能とするので気密性を向上できる。また、このAu層は、溶融固化(接合)時に、キャップ接合層22に溶解される。
【0049】
[発光装置10の製造方法]
以下に、発光装置10の製造方法について、詳細かつ具体的に説明する。
【0050】
(素子接合工程)
まず、基板11の第1配線電極14A上に、素子接合のための揮発性ソルダーペーストはんだを塗布する。揮発性ソルダーペーストとしては、融点付近に沸点を有するフラックスと金錫合金(Au-Sn)の微粒子からなる揮発性ソルダーペーストはんだを用いた。金錫合金の組成は、溶融温度が約280となるAu-Sn:20wt%のものを用いた。粒子サイズは、数nm~数十μmである。フラックスは、例えば、発光素子15の光(365nm)で炭化するロジン類、アルコール類、糖類、エステル類、脂肪酸類、油脂類、重合油類、界面活性剤、有機酸、などである。
【0051】
次に、発光素子15を揮発性ソルダーペースト上に載せて、基板を300℃まで加熱して、AuSnを溶融・固化して第1配線電極14A上に発光素子15を接合する。なお、保護素子16を搭載する場合には同時に行う。このとき、揮発性ソルダーペーストに含まれるフラックスは殆ど揮発する。
【0052】
次に、発光素子15の上部電極のボンディングパッド15Bと第2配線電極14Bとの間をボンディングワイヤ18C(Auワイヤ)によって電気的に接続する。
【0053】
(キャップ接合工程)
エキシマ光洗浄工程後の基板11と、透光キャップ13とをキャップ接合装置にセットする。次に、基板11及び透光キャップ13の雰囲気を真空状態にし、温度275℃で15分加熱処理(アニール処理)する。
【0054】
続いて、基板11及び透光キャップ13の雰囲気を封入ガスであるドライ窒素(N)ガス、1気圧(101.3kPa)で満たす。次に、図2Bに示すように、基板11の基板金属層12上に環状AuSnシート(キャップ接合層22の接合材)載せ、さらにその上に透光キャップ13を載せ押圧する。
【0055】
透光キャップ13を環状AuSnシートに押圧しつつ、300℃まで加熱する。加熱によりAuSnシートは溶融し、金属層12および21の金を若干量溶融しつつ、冷却により固化する。以上のように、基板11及び透光キャップ13が接合され、半導体発光装置10が完成する。
【0056】
[フランジ13Bのセラミック層21C]
図3Aは、セラミック層21Cとして光反射性のセラミック(白アルミナ)を用いた場合のフランジ13B及びフランジ固着層21の部分を拡大して示す部分拡大断面図である。この場合のセラミック層21Cをセラミック層21C(W)として表記する。
【0057】
また、図3Bは、セラミック層21Cとして光吸収性のセラミック(黒アルミナ)を用いた場合のフランジ13B及びフランジ固着層21の部分を拡大して示す部分拡大断面図である。この場合のセラミック層21Cをセラミック層21C(B)として表記する。
【0058】
なお、本明細書においては、光反射性のセラミック21C(W)及び光吸収性のセラミック層21C(B)を特に区別しない場合にはセラミック層21Cとして表記する。
【0059】
なお、フランジ13Bはキャップ接合層22によって基板11(基板金属層12)に接合されているが、これらの部分については図示を省略している。
【0060】
図3Aを参照して説明すると、発光素子15からフランジ13Bに入射した光Laは、フランジ13Bによって反射され、発光装置10の主に側方に放射される。また、窓部であるドーム部13A内からフランジ13Bに導波された光Lbは、セラミック層21C(W)によって拡散反射され、発光装置10の主に前方に放射される。
【0061】
従って、光反射性のセラミック21C(W)を用いることで、発光装置10の光出力が向上する。例えば、発光装置10の外周を覆うリフレクタを備える装置等で出射光を効率的に利用できる。
【0062】
図3Bを参照して説明すると、発光素子15からフランジ13Bに入射した光Laは、フランジ13Bによって反射され、発光装置10の外部に放射される。また、窓部であるドーム部13A内からフランジ13Bに導波された光Lbは、セラミック層21C(B)によって吸収される。
【0063】
従って、光吸収性のセラミック層21C(B)を用いることで、発光装置10の主に前方に放射される迷光を抑制することができる。例えば、発光装置10の前方に集光レンズ等を備える装置で迷光の入光を防止できる。
【0064】
なお、発光素子15からフランジ13Bに入射する光Laは、例えば基板11の上面を高さの基準として測ったとき、フランジ13Bの上面(底面に対向する面)13Fの高さFLが発光素子15の光出射面15Sの高さELよりも高い(図2Aを参照)場合に、発生する。すなわち、フランジ13Bの上面13Fが発光素子15の光出射面15Sよりも光出射方向の後方に位置させることで、発光素子15からフランジ13Bに入射する光Laを減衰(または消失)させることができる。
【0065】
上記したように、本実施形態の発光装置10においては、透光キャップ13のフランジ13Bにセラミック層21C/金属層21からなるフランジ固着層21が固着されている。セラミック層を介在したメタライズ層は、石英ガラス等のガラスに対する密着強度が強く、ガラスからの剥離を防止することができる。従って、透光キャップ13と基板11との接合強度が強く、気密性に優れた封止構造を実現することができる。
【0066】
[第2の実施形態]
図4Aは、本発明の第2の実施形態による半導体発光装置30の断面を模式的に示す断面図である。図4Bは、図4Aの接合部(W部)を拡大して示す部分拡大断面図である。
【0067】
本実施形態の半導体発光装置30は、セラミック層21Cが、フランジ13Bの底面13Sから透光キャップ13の内側面に至るように形成されている点において、上記した第1の実施形態の半導体発光装置10と異なっている。
【0068】
より詳細には、図4A及び図4Bに示すように、セラミック層21Cは、フランジ13Bの底面13Sから透光キャップ13の内側面に至り、フランジ13Bの内周面の全周に亘って形成されている。本発実施形態においては、フランジ13Bの内周部に凹部が設けられ、当該凹部にセラミックが溶着されている。
【0069】
すなわち、セラミック層21Cは、フランジ13Bの底面13Sにセラミックが溶着された部分と、当該凹部にセラミックが溶着された部分(セラミック層内周部21P)とからなる。セラミック層21Cは、基板11に垂直な断面においてL字形状を有している。
【0070】
セラミック層内周部21Pは、基板11に垂直な断面において高さHC(セラミック層21Cの底面からの高さ)を有する。そして、例えば基板11の上面を基準面としたとき、セラミック層内周部21Pの頂面の高さ(レベル)CLは、基板11の上面に対する発光素子15の光出射面15Sの高さ(レベル)ELよりも高い。なお、ここで、高さの基準を基板11の上面として説明するが、発光素子15の光出射面15Sに平行な面を基準面として発光素子15の光出射方向(光出射面15Sに垂直な方向)に測った高さであればよい。
【0071】
次に、図5A図5B及び図5Cを参照して、発光素子15からの光がフランジ13Bに入射した場合の入射光の反射及び吸収について説明する。
【0072】
図5Aは、セラミック層21Cが光反射性のセラミック層21C(W)である場合、図5Bは、セラミック層21Cが光吸収性のセラミック層21C(B)である場合を示す部分拡大断面図である。また、図5Cは、セラミック層21Cが、フランジ13Bに溶着された光吸収性のセラミック層21C(B)及びセラミック層21C(B)上に形成された光反射性のセラミック層21C(W)からなる場合(2層構造)を示す部分拡大断面図である。
【0073】
図5Aを参照して説明すると、発光素子15からフランジ13Bに入射した光Laは、反射性のセラミック層21C(W)の内周部21Pによって拡散反射され、遮光される。そして反射された光は発光装置の出射光に転換される。また、窓部であるドーム部13Aからフランジ13Bに導波された光Lbは、セラミック層21C(W)によって拡散反射され、発光装置10の主に前方に放射される。
【0074】
従って、発光装置10のフランジ部13Bの外側面から出射する光を抑制しつつ光出力を向上することができる。
【0075】
また、図5Bを参照して説明すると、発光素子15からフランジ13Bに入射した光La及びドーム部13Aからフランジ13Bに導波された光Lbは、セラミック層21C(B)によって吸収される。
【0076】
従って、紫外光や赤外光などの視認できない光が発光装置10の周辺部から出力されるのを防止することができる。
【0077】
また、図5Cを参照して説明すると、発光素子15からフランジ13Bに入射した光Laはセラミック層21C(W)によって拡散反射されて遮光される。そして反射された光は発光装置の出射光に転換される。フランジ13Bに導波された光Lbは、セラミック層21C(B) によって吸収されて発光装置10から出射されるのを防止することができる。
【0078】
従って、紫外光や赤外光などの視認できない光が発光装置10の周辺部から出力される光を抑えつつ光出力を向上することができる。
【0079】
なお、発光素子15の側面(フランジ13Bの側面)から出射される光を遮光する上では、セラミック層内周部21Pの高さCLが、フランジ13Bの上面13Fの高さと同じであるか、又は、図6に示すように、内周部21Pの頂面がドーム部13A内に達し、内周部21P(頂面の高さCL)がフランジ13Bの上面13F(高さFL)を超える高さを有することが好ましい(CL>FL)。
【0080】
また、第1の実施形態において説明したように、発光素子15からフランジ13Bに入射する光Laは、例えば基板11の上面を高さの基準として測ったとき、フランジ13Bの上面(底面に対向する面)13Fの高さFLが発光素子15の光出射面15Sの高さELよりも高い(図2Aを参照)場合に、発生する。すなわち、フランジ13Bの上面13Fが発光素子15の光出射面15Sよりも光出射方向の後方に位置させることで、発光素子15からフランジ13Bに入射する光Laを減衰(または消失)させることができる。
【0081】
[改変例]
図7は、第2の実施形態の改変例によるフランジ13B及びフランジ固着層21の部分の断面を拡大して示す模式的な部分拡大断面図である。
【0082】
本改変例においては、少なくともフランジ13Bの上面上にセラミックからなる遮光層27が設けられている。フランジ13Bは、遮光層27によって、半導体発光装置30の前方に出射される光を遮光することができる。遮光層27は、光吸収性のセラミック、例えば黒アルミナによって形成されていることが好適である。
【0083】
上記したように、セラミックはガラスに対する密着強度が強く、また耐候性が高いため、キャップ部13A及びフランジ部13Bの表面に設けても劣化することがないので、長寿命の半導体発光装置30を実現することができる。
【0084】
なお、上記した第2の実施形態においては、フランジ13Bの内周部に凹部が設けられ、当該凹部にセラミックが溶着された場合を例に説明したが、これに限定されない。例えば、透光キャップ13に当該凹部を設けず、第1の実施形態のフランジ13Bの内側面上にセラミック層を溶着させた構造を採用しても良い。
【0085】
上記したように、本実施形態の発光装置30においては、フランジ13Bの底面のみならず、フランジ13Bの内周面の全周に亘って固着されている。従って、さらに石英ガラス等のガラスに対する密着強度が強く、ガラスからの剥離を防止することができる。従って、透光キャップ13と基板11との接合強度が強く、気密性に優れた封止構造を実現することができる。
【0086】
以上、詳細に説明したように、本実施形態による半導体発光装置によれば、長期の使用においても高い気密性が維持される高い信頼性、及び、耐湿性、耐腐食性など高い耐環境性を有する半導体装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0087】
10,30 半導体発光装置
11 基板
12 基板金属層
12S 基板接合面
13 透光キャップ
13A 窓部
13B フランジ
15 半導体発光素子
21 フランジ固着層
21C,21C(W) ,21C(B) セラミック層
21M 金属層(フランジ金属層)
21P セラミック層内周部
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7