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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用セパレータ、及び鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/42 20210101AFI20240610BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20240610BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20240610BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240610BHJP
   H01M 50/437 20210101ALI20240610BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240610BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240610BHJP
【FI】
H01M50/42
H01M50/44
H01M50/414
H01M50/446
H01M50/437
H01M50/443 M
H01M50/434
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020130432
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2021057335
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2019177819
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】山田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】木山 朋紀
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-194911(JP,A)
【文献】特開2016-177872(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146919(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/052512(WO,A1)
【文献】特開2017-142888(JP,A)
【文献】特表2020-536357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 10/06-10/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラン化合物を含む樹脂を備え、かつ
前記樹脂100質量部に対して、前記シラン化合物中のケイ素(Si)が0質量部超過6.0質量部以下である、
鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項2】
前記樹脂100質量部に対して、前記シラン化合物中のケイ素(Si)が0.001質量部以上6.0質量部以下である、
請求項1に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項3】
前記樹脂は、前記樹脂100質量部に対し、メタクリル酸シクロヘキシルを40質量部以上含む、
請求項1又は2に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項4】
前記樹脂の計算ガラス転移温度が、-30℃以上10℃以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項5】
有機繊維をさらに含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項6】
前記有機繊維の表面の少なくとも一部は、融点220℃以下である、
請求項5に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項7】
前記有機繊維は、芯鞘型繊維を含む、
請求項5又は6に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項8】
前記樹脂と、前記芯鞘型繊維の鞘成分との質量の和を100質量部としたときに、前記シラン化合物中のケイ素(Si)が0質量部超過2.3質量部以下である、
請求項7に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項9】
前記芯鞘型繊維の鞘成分に対して、前記樹脂の質量比が0.1以上5以下である、
請求項7又は8に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項10】
前記芯鞘型繊維は、芯部が融点200℃以上のポリエステルであり、鞘部が融点200℃未満のポリエステルである、
請求項7~9のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項11】
前記鉛蓄電池用セパレータ100質量部に対して、前記樹脂を1.0質量部以上50質量部以下含む、
請求項1~10のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項12】
前記鉛蓄電池用セパレータ100質量部に対して、前記シラン化合物中のケイ素(Si)が0質量部超過0.7質量部以下である、
請求項1~11のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項13】
無機繊維をさらに含む、
請求項1~12のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項14】
前記無機繊維はガラス繊維を含む、
請求項13に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項15】
無機粒子をさらに含む、
請求項1~14のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項16】
前記無機粒子がシリカ粒子を含む、
請求項15に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータを介して電極が配置された鉛蓄電池。
【請求項18】
電解液の成層化速度が40mm毎時未満である、
請求項17に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用セパレータ、およびそれらを用いた鉛蓄電池等に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用途(例えば、乗用車、バス、トラック、二輪車、及びゴルフカート)又は産業用途(例えば、フォークリフト、耕作機械、鉄道、UPS、及び通信機器)等において、世界的に広く使用されている。特に、車載用途では、二酸化炭素排出規制対策、燃費向上を目的として、アイドリングスタートアンドストップ(Idling Start and Stop)車(以下、ISS車と略記する)の開発が盛んである。
【0003】
アイドリングストップ中は、エンジンが停止するためにオルタネータによる発電は行われない。他方、エアコン(air conditioner)又はオーディオ、ランプ等はアイドリングストップ中も動作するため、各種電装の電力は鉛蓄電池が供給する必要があり、鉛蓄電池の放電深度は大きくなる。さらに、オルタネータの発電による鉛蓄電池の充電時間も短くなることから、鉛蓄電池は部分充電状態(Partial State of Charge)での動作が続くことになる。
【0004】
鉛蓄電池は部分充電状態での充放電が繰り返されると、成層化と呼ばれる現象に起因する、劣化が促進される。成層化とは、鉛蓄電池の充電時に電極から放出される硫酸が、比重が大きいために沈降し、電解液の上下で硫酸濃度が低い領域と高い領域が形成される現象をいう。従来の車では、満充電時に電解液中の水が電気分解されて生ずるガスによって、電解液が撹拌されるために成層化が起こらない。他方、ISS車では部分充電状態が続くために、ガスによる電解液の撹拌の機会が限られる。従って、ISS車用途の鉛蓄電池においては、電解液の成層化を抑制することが重要な課題である。
【0005】
鉛蓄電池用セパレータとしては、ガラス繊維の不織布(AGM(Absorbed Glass Mat)という)が広く知られている。そのようなセパレータは、電解液の成層化の抑制能が高い。
【0006】
また、負極とセパレータの間に、細孔を有する膜体を設けることで、電解液の成層化を抑制する技術も報告されている(例えば、特許文献1)。表面が親水性である膜体(以下、親水性膜体という)を負極近傍に設けることで、充電反応で生成した硫酸は、膜体の細孔内部を縫うように沈降するため、電解液の成層化速度を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2018/105060号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したような親水性膜体と鉛蓄電池用セパレータとの併用を以ってしても、電池の上下部の間では電解液の比重差による成層化は依然として発生している。また、親水性膜体と鉛蓄電利用セパレータとの併用により、鉛蓄電池の設計が複雑になることも懸念される。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、鉛蓄電池電解液の成層化を抑制し、電池性能が高い鉛蓄電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の技術的手段により解決される。
[1]
シラン化合物を含む樹脂を備え、かつ
前記樹脂100質量部に対して、前記シラン化合物中のケイ素(Si)が0質量部超過6.0質量部以下である、
鉛蓄電池用セパレータ。
[2]
前記樹脂100質量部に対して、前記シラン化合物中のケイ素(Si)が0.001質量部以上6.0質量部以下である、
項目1に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
[3]
前記樹脂は、前記樹脂100質量部に対し、メタクリル酸シクロヘキシルを40質量部以上含む、
項目1又は2に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
[4]
前記樹脂の計算ガラス転移温度が、-30℃以上10℃以下である、
項目1~3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
[5]
有機繊維をさらに含む、
項目1~4のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
[6]
前記有機繊維の表面の少なくとも一部は、融点220℃以下である、
項目5に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
[7]
前記有機繊維は、芯鞘型繊維を含む、
項目5又は6に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
[8]
前記樹脂と、前記芯鞘型繊維の鞘成分との質量の和を100質量部としたときに、前記シラン化合物中のケイ素(Si)が0質量部超過2.3質量部以下である、
項目7に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
[9]
前記芯鞘型繊維の鞘成分に対して、前記樹脂の質量比が0.1以上5以下である、
項目7又は8に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
[10]
前記芯鞘型繊維は、芯部が融点200℃以上のポリエステルであり、鞘部が融点200℃未満のポリエステルである、
項目7~9のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
[11]
前記鉛蓄電池用セパレータ100質量部に対して、前記樹脂を1.0質量部以上50質量部以下含む、
項目1~10のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
[12]
前記鉛蓄電池用セパレータ100質量部に対して、前記シラン化合物中のケイ素(Si)が0質量部超過0.7質量部以下である、
項目1~11のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
[13]
無機繊維をさらに含む、
項目1~12のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
[14]
前記無機繊維はガラス繊維を含む、
項目13に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
[15]
無機粒子をさらに含む、
項目1~14のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
[16]
前記無機粒子がシリカ粒子を含む、
項目15に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
[17]
項目1~16のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータを介して電極が配置された鉛蓄電池。
[18]
電解液の成層化速度が40mm毎時未満である、
項目17に記載の鉛蓄電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉛蓄電池電解液の成層化を抑制し、電池性能が高い鉛蓄電池用セパレータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
≪鉛蓄電池用セパレータ≫
本実施の形態に係る鉛蓄電池用セパレータ(以下、「セパレータ」と略記することもある)は、ケイ素(Si)元素を持つ化合物(以下、「シラン化合物」と記載する)を含む樹脂を含み、シラン化合物中のSiが樹脂全体(100質量部)の0質量部超過である。また、本実施の形態では、シラン化合物中のSi量の上限値を、樹脂100質量部に対して6.0質量部以下に設定することができる。本実施の形態に係るセパレータを使用することで、鉛蓄電池は、高い電解液の成層化抑制能を得ることができる。セパレータは、樹脂に加え、基板となる材料、例えば繊維を含むことができる。セパレータが繊維を含む場合、無機繊維、芯鞘型繊維、有機繊維(芯鞘型繊維を除く)など、種々の形態の繊維を用いることができ、所望により粒子等の成分を含むこともできる。以下、本発明に関する内容を細分化し、詳細に説明する。なお、本明細書では、各種部材の質量部を記載する際に、A~B質量部という表記を行っているが、これはA質量部以上かつB質量部以下を意味する。また、本明細書では、説明の便宜上、重量は、その単位がgで表されており、質量(g)と互換可能なものである。
【0014】
≪樹脂≫
本実施の形態に係るセパレータに含まれる樹脂とは、セパレータの含有有機成分の内、繊維の有機成分、及び粒子の有機成分を除いた有機成分である。樹脂は、セパレータ中で粒子形状を持っていない点で、上述された粒子と区別する。特に、樹脂がシラン化合物を含むことによって、セパレータと、電解液としての希硫酸との親和性を高めることができ、形成した電解液の成層化抑制の性能を向上させることができる。具体的には、実施例に記載の方法で測定されるときに40mm毎時未満の電解液の成層化速度を達成することができる。
【0015】
本実施の形態におけるシラン化合物の例としては、アルコキシシラン基を含有する重合性単量体であれば特に限定されないが、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、好ましくは、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、及びγ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランである。これらの中で、より好ましくは、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及びγ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランである。
【0016】
本実施の形態に関わるセパレータでは、シラン化合物が含まれる樹脂を使用することにより、シラン化合物が持つSi-O結合などに由来する極性により、電解液である希硫酸がセパレータに浸透し易くなるため、電解液の成層化抑制能を高めることができる。シラン化合物中のSiと、樹脂の重量比(シラン化合物中のSi(g)/樹脂(g))は、電解液の成層化抑制の効果を充分に得られる観点から、0超過が好ましく、より好ましくは0.001以上であり、更に好ましくは0.005以上であり、より更に好ましくは0.01以上であり、なお更に好ましくは0.03以上であり、特に好ましくは0.05以上であり、最も好ましくは0.07以上である。
【0017】
セパレータが有機繊維を含む場合、セパレータは有機繊維を含まない場合と比べ、相対的に高い疎水性を示す。従って、樹脂にシラン化合物を添加することで、セパレータの親水性が高くなり、電解液の成層化抑制能が向上する。セパレータが有機繊維を含む場合にも、シラン化合物中のSiと、樹脂の重量比(シラン化合物中のSi(g)/樹脂(g))は、電解液の成層化抑制の効果を充分に得られる観点から、0超過が好ましく、より好ましくは0.001以上であり、更に好ましくは0.005以上であり、より更に好ましくは0.01以上であり、なお更に好ましくは0.03以上であり、特に好ましくは0.05以上であり、最も好ましくは0.07以上である。また、シラン化合物の量が増えるに従い、有機繊維を含むセパレータの構成材料の表面を覆うシラン化合物重合体は厚くなり、セパレータの細孔体積が低下する。有機繊維に親水性を付与しつつ、希硫酸が浸透するセパレータの細孔体積を充分に確保して、電解液の高い成層化抑制能を得る観点から、シラン化合物中のSiと、樹脂の重量比(シラン化合物中のSi(g)/樹脂(g))は、6.0以下であり、好ましくは5.9以下であり、より好ましくは5.7以下であり、更に好ましくは5.5以下であり、より更に好ましくは5以下であり、なお更に好ましくは4以下であり、特に好ましくは、3以下、2以下、又は1.5以下であり、最も好ましくは1.0以下である。
【0018】
樹脂が、一連の湿式抄造プロセスの加熱乾燥工程等で融解し、セパレータの細孔の大部分を埋めると、蓄電池の電気抵抗が上昇する。樹脂の加熱時流動性を抑制することでセパレータ内に細孔を残し、低い電気抵抗を維持する観点から、本実施の形態に係る樹脂は、以下に例示するものが好ましい。
【0019】
樹脂の好ましい具体例としては、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル・ウレタン系樹脂、アクリル・スチレン系樹脂、酢酸ビニル・アクリル系樹脂、スチレン・ブタジエン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン系樹脂、天然ゴム系樹脂、ポリブタジエン系樹脂(BR樹脂)、メチルメタクリレート・ブタジエン系樹脂、2-ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン系樹脂(VP樹脂)、クロロプレン樹脂(CR樹脂)、ポリエチレン又はポリプロピレン又はポリブテン又はそれらの共重合体等のポリオレフィン系樹脂、該ポリオレフィン系樹脂を塩素化又は酸変性した変性ポリオレフィン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン又はポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体又はエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム、(メタ)アクリル酸-スチレン-ブタジエン共重合体樹脂及びその水素化物、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアルコール・ポリアセテート共重合体樹脂、並びにそれらのシリコーン変性物等がある。
【0020】
上記具体例の中でも、アクリル系樹脂、又はスチレン系樹脂が、粒子又は繊維との結着性に優れ、かつ耐酸性に優れるため、より好ましい。
【0021】
なお、本明細書でアクリル系樹脂と表記した場合、アクリル・ウレタン系樹脂、アクリル・スチレン系樹脂、アクリル・スチレン・ブタジエン系樹脂、酢酸ビニル・アクリル系樹脂、アクリル樹脂等の重合体を含む。
【0022】
また、本明細書でスチレン系樹脂と表記したものは、アクリル・スチレン系樹脂、スチレン・ブタジエン系樹脂、アクリル・スチレン・ブタジエン系樹脂、2-ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン系樹脂、スチレン樹脂等の重合体を含む。
【0023】
これらの樹脂は、上記例示した組成に、その他の成分が1種以上含まれていてもよい。
【0024】
なお、本実施の形態に係る樹脂は、1種に限定されず、本発明の効果が得られる範囲内で、複数種を併用することができる。例えば、アクリル系樹脂とスチレン系樹脂の組み合わせ等が例示できる。
【0025】
本実施の形態における樹脂には、耐酸性、耐熱性を向上させる観点から、メタクリル酸シクロヘキシルを含むことが好ましく、メタクリル酸シクロヘキシルとアクリル酸2-エチルヘキシルの双方を含むことがより好ましい。なお、セパレータにおいて、樹脂100質量部に対するメタクリル酸シクロヘキシルの含有量は、耐酸性、又は耐熱性の向上の観点から、30質量部以上であることが好ましく、40質量部以上であることがより好ましい。樹脂100質量部に対するメタクリル酸シクロヘキシルの含有量は、成膜性の観点から、60質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。
【0026】
樹脂の計算ガラス転移温度(計算Tg)は、樹脂の耐熱性を高める観点から-50℃以上であることが好ましく、また、複数の材料間の結着力を高める観点から70℃以下が好ましい。同様の観点から、計算Tgは、-30℃以上、50℃以下がより好ましく、更に好ましくは-30℃以上、30℃以下であり、特に好ましくは-30℃以上、10℃以下である。本実施の形態において、計算Tgとは、各単量体の単独重合体のガラス転移温度と共重合比率より、下記式によって決定されるものである。なお、アルコキシシラン基含有重合性単量体は、架橋性があること、使用量が少ないことから計算ガラス転移温度の計算には含めない。また、反応性界面活性剤についても、計算ガラス転移温度の計算には含めない。
1/Tg=W/Tg+W/Tg+・・・
{式中、
Tg:単量体1、2・・・よりなる共重合体の計算ガラス転移温度(K);
、W・・・:単量体1、単量体2、・・・の共重合体中の質量分率(W1+W2+・・・=1);
Tg、Tg・・・:単量体1、単量体2、・・・の単独重合体のガラス転移温度(K)}
【0027】
上記の式に使用する単独重合体のTg(K)は、例えば、ポリマーハンドブック(Jhon Willey & Sons)に記載されている。本実施の形態に使用される数値を次に例示する。カッコ内の値が単独重合体のTgを示す。ポリスチレン(373K)、ポリメタクリル酸メチル(378K)、ポリアクリル酸n-ブチル(228K)、ポリアクリル酸2-エチルヘキシル(218K)、ポリアクリル酸(360K)、ポリメタクリル酸(417K)、ポリアクリロニトリル(369K)、ポリアクリル酸2-ヒドロキシエチル(258K)、ポリメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(328K)。共重合比率が未知である場合、計算ガラス転移温度は、熱分解GC-MS、NMRで共重合比率を求めた後、上記式にて計算する。
【0028】
セパレータ内で樹脂を均一に分布させ、複数の材料間で強固な結着を形成させる観点、及び電池用セパレータとして使用するときに微細な細孔を残して電気抵抗上昇を抑制しつつ、セパレータの希硫酸中での耐熱性を高める観点から、本実施の形態に係るセパレータを形成するための樹脂としては、液状分散媒中に微小な重合粒子が分散した、ラテックスを使用することが好ましい。ラテックスを使用することによって、重合粒子が、生成物として得られるセパレータに細孔を残しつつ、セパレータ内部に均一に分布して各種の構成材料と結着することで、セパレータの耐熱性、例えば希硫酸中におけるセパレータの耐熱性(特に、重量保持性)を高めることができる。
【0029】
また、各種の構成材料(例えば、樹脂、粒子、繊維等)をセパレータ中に均一に分布させて、かつそれらの材料間の結着を強固にすることで、耐熱性、特に希硫酸中での耐熱性を高めることができる為、本実施の形態に係るセパレータは、湿式抄造体であることが好ましい。本明細書における湿式抄造体は、例えば、樹脂、繊維及び/又は粒子を含む液体(以後、このように固形分が分散した液体を「スラリー」と記載する)を、メッシュに通過させ、該メッシュ上に堆積したスラリー中の固形分を加熱乾燥させることで得られる。環境への配慮という観点から、スラリーに使用する前記液体は、水又は水系液体が好ましい。水系液体は、水が主成分として含まれる溶液、水と他の液体との混合物などでよい。その為、本実施の形態に係るセパレータを形成するための樹脂においても、水又は水系液体の液状分散媒に微小な重合粒子が分散した樹脂、すなわち水系ラテックスを使用することが好ましい。本実施の形態に係るセパレータは、該ラテックスを前記スラリーに加え、メッシュ上に堆積させて乾燥することにより作製されることができる。その他の作製方法としては、繊維を主成分として(例えば50質量%以上で)含む不織布を予め作製し、該不織布を、樹脂及び/若しくは粒子を含むスラリーに浸漬させるか、又は、該不織布表面に樹脂及び/若しくは粒子を含むスラリーをコートした後に、乾燥することで、本実施の形態に係るセパレータを得ることができる。
【0030】
≪粒子≫
本実施の形態に係るセパレータは、次の観点(i)及び/又は(ii)から、粒子を含むことが好ましい:
(i)粒子を本実施の形態に係るセパレータと複合化することによって、細孔を作ることができる観点;及び/又は
(ii)複数の繊維間の空隙部分に粒子を保持してセパレータの細孔径を小さくすることで、セパレータが鉛蓄電池内部でセパレータとして使用されたときに、デンドライトショート又は活物質がセパレータに入り込むことによる短絡を抑制する観点。
上記観点(i)及び/又は(ii)から、粒子としては、無機粒子、有機粒子、及び有機-無機複合粒子のいずれでも、特に限定なく用いることができる。有機粒子及び有機-無機複合粒子は、無機粒子と比較して一般的に密度が低いことが多い為、粉体取り扱い時に空間中に粒子が飛散し難い無機粒子が好ましい。
【0031】
有機粒子及び有機-無機複合粒子を使用する場合、セパレータの製造時(特に加熱工程)にセパレータ中に粒子形状を残したまま複合化することで、セパレータに細孔を形成することができる。セパレータ中に粒子形状を残す観点から、有機粒子及び有機-無機複合粒子に含まれる有機成分の融点は、後述する芯鞘型繊維の鞘の融点より高いことが好ましい。この観点において、有機粒子及び有機-無機複合粒子に含まれる有機成分の融点は、芯鞘型繊維の鞘の融点より5℃以上高いことが好ましく、より好ましくは10℃以上高いことであり、更に好ましくは20℃以上高いことであり、より更に好ましくは100℃以上高いことである。
【0032】
無機粒子の材料の例としては、シリカ(沈降法シリカ、ゲル化法シリカ、ヒュームドシリカ等)、アルミナ、硫酸塩(例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム)、チタニア(ルチル型、アナターゼ型)、ギブサイト、バイヤライト、ベーマイト、ジルコニア、マグネシア、セリア、イツトリア、酸化亜鉛及び酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン及び窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、チタン酸カリウム、タルク、合成カオリナイト、カオリンクレー、カオリン(カオリナイト、ディク石、ナルク石)、焼成カオリンフライボンタイト、スチブンサイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、オーディナイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、ボルコンスコアイト、サポナイト、ヘクトライト、フッ素ヘクトライト、ソーコナイト、スインホルダイト、バーミキュライト、フッ素バーミキュライト、バーチェリン、セリサイト、アメサイト、ケリアイト、フレイポナイト、プリンドリアイト、ベントナイト、ゼオライト、黒雲母、金雲母、フッ素金雲母、鉄雲母、イーストナイト、テニオライト、シデロフィライト、テトラフェリ鉄雲母、鱗雲母、フッ素四ケイ素雲母、ポリリシオナイト、白雲母、セラドン石、鉄セラドン石、鉄アルミノセラドン石、アルミノセラドン石、砥部雲母、ソーダ雲母、クリンナイト、木下、ビテ雲母、アナンダ石、真珠雲母、クリノクロア、シャモサイト、ペナンタイト、ニマイト、ベイリクロア、ドンバサイト、クッケアサイト、スドーアイト、ハイドロタルサイト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ藻土及びケイ砂等が挙げられる。
【0033】
上記例示の中でも、セパレータに使用する粒子としては、耐酸性及び耐酸化性に優れ親水性の高い、シリカ、アルミナ、カオリン、チタニア、ケイ酸アルミニウム又は硫酸バリウムの粒子が好ましい。電解液の成層化を抑制するためには、電解液中の希硫酸の均一化が必要である。そのためには、電池反応により電極表面から放出される硫酸の沈降を抑制する作用が必要となる。そのために、無機粒子の表面に硫酸を静電気的相互作用で吸着・保持する観点から、アルミナ、シリカ又はカオリン等の粒子を使用することがより好ましい。また、本実施の形態に係るセパレータによって、鉛蓄電池の正極及び負極に形成される導電性の低いサルフェーションを微細化する観点から、無機粒子に硫酸バリウムを使用することが好ましい。本実施の形態に係る粒子は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0034】
粒子の粒子径は、セパレータに微細な細孔を形成する観点から、200μm以下が好ましく、より好ましくは100μm以下であり、更に好ましくは70μm以下であり、より更に好ましくは50μm以下である。該粒子径は、セパレータの全体に微細な細孔を形成する観点から、平均粒子径であることが好ましい。また、粒子が微粉末になると計量時又はスラリー作製時に粉体が飛散し易くなることから、作業性の観点を考慮し、粒子の粒子径は、0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.1μm以上であり、更に好ましくは0.3μm以上であり、より更に好ましくは0.5μm以上であり、なお更に好ましくは1μm以上であり、特に好ましくは、2μm以上、又は5μm以上であり、最も好ましくは8μm以上である。該粒子径は、粉体全体を平均的に飛散し難いようにする観点から、平均粒子径であることが好ましい。
【0035】
また、粒子が硫酸バリウムである場合には、硫酸バリウムの粒子径は、上記サルフェーションを微細化させる観点から、200μm以下が好ましく、より好ましくは100μm以下であり、更に好ましくは70μm以下であり、より更に好ましくは50μm以下であり、なお更に好ましくは20μm以下であり、特に好ましくは、10μm以下、5μm以下、又は2μm以下であり、最も好ましくは1μm以下である。該粒子径は、鉛蓄電池の電極に形成するサルフェーションを広範囲に亘り微細化する観点から、平均粒子径であることが好ましい。また、上記で説明された作業性の観点から、硫酸バリウム粒子の粒子径は0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.1μm以上であり、更に好ましくは0.3μm以上であり、特に好ましくは0.5μm以上である。該粒子径は、粉体全体を平均的に飛散し難いようにする観点から、平均粒子径であることが好ましい。本明細書における粒子径d(μm)は、走査型電子顕微鏡(SEM)にてセパレータの断面を観察する際に観察される粒子の直径である。観察される粒子が真球状ではない場合の前記粒子径dは、該観察から確認される前記粒子の最大直径をd(μm)とし、前記粒子の最小直径をd(μm)として、下記式:
d=(d+d)/2
より求めるものとする。また、本明細書における平均粒子径は、前記観察時に無作為に選定した50個の粒子に関して、上記手法で各々の粒子径dを求め、該50個分の粒子径の相加平均値より求める値である。例えば、無機粒子の平均粒子径とは、前記観察時に無作為にセパレータから選定した50個の無機粒子に関して、上記手法で各々の粒子径dを求め、該50個分の粒子径より求める相加平均値である。
【0036】
≪繊維≫
本実施の形態に係るセパレータは、セパレータが繊維の絡み合いによって強度が高まる観点、及び/又は上記で説明された粒子を複数の繊維間に保持して細孔径を小さくする観点から、繊維を含むことが好ましい。これらの観点から、繊維は、無機繊維と有機繊維のいずれでも、特に限定なく用いることができる。なお、本明細書における繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)によるセパレータの断面観察を行うことで観察される繊維の繊維径Φ(μm)である。繊維断面が真円ではない場合の前記繊維径Φは、前記繊維断面の内接円の直径をΦ(μm)とし、前記繊維断面の外接円の直径をΦ(μm)として、下記式:
Φ=(Φ+Φ)/2
より求めるものとする。また、本明細書における平均繊維径は、セパレータの断面観察で無作為にセパレータから選定した50本の繊維に関して、上記手法で各々の繊維径Φを求め、該50本分の繊維径の相加平均値より求める値である。例えば、無機繊維の平均繊維径とは、前記観察で無作為に選定した50本の無機繊維に関して、上記手法で各々の繊維径Φを求め、該50本分の無機繊維径より求める相加平均値である。
【0037】
≪無機繊維≫
無機繊維の材料の例としては、上記無機粒子の材料の例で示した材料が挙げられる。中でも、ガラス繊維、又はアルミナ繊維を使用することで、電解液である希硫酸との濡れ性が向上し、電解液がセパレータ内部に浸透し易くなる。その結果、鉛蓄電池の充電時に電極から発生する酸素及び水素ガスが、セパレータ内に保持されることを抑制し、電気抵抗の上昇を抑制することができる。この観点から、本実施の形態に係るセパレータは、無機繊維を含んでいることが好ましく、中でも、ガラス繊維又はアルミナ繊維等の無機繊維を含んでいることがより好ましい。また、電解液の成層化を抑制する観点からも、セパレータはガラス繊維又はアルミナ繊維等の無機繊維を含んでいることがより好ましい。ガラス繊維の中でも、鉛蓄電池の電解液である希硫酸に対する耐酸性を考慮すると、耐酸性に優れた組成(例えば、Cガラス組成)を使用することが好ましい。また、繊維同士の絡み合いによるセパレータの膜強度向上の観点から、ウール状のガラス繊維を使用することが好ましい。
【0038】
また、無機繊維による網目構造によって、セパレータ内に微細な細孔を形成する観点、及び/又は上述した電解液の成層化を抑制する観点から、無機繊維の平均繊維径は、500μm以下が好ましく、より好ましくは100μm以下であり、更に好ましくは50μm以下であり、より更に好ましくは30μm以下であり、なお更に好ましくは20μm以下であり、特に好ましくは、10μm以下、5μm以下、3μm以下、2μm以下、又は1μm以下であり、最も好ましくは1μm以下である。また、製造上の難易度から、無機繊維の平均繊維径は、0.05μm以上が好ましく、より好ましくは0.1μm以上であり、更に好ましくは0.3μm以上であり、より更に好ましくは0.5μm以上である。
【0039】
≪芯鞘型繊維≫
本実施の形態に係るセパレータは、芯鞘型繊維を含むことによって、芯鞘型繊維がセパレータ内部で三次元的網目構造を形成し、かつ該網目構造は鞘の融解成分によって強固に結着される為、高い耐熱性、特に希硫酸中での高い耐熱性(重量保持性、及び形状保持性)を示す。
【0040】
本明細書における芯鞘型繊維とは、繊維(芯)表面の少なくとも一部が、融点220℃以下の有機成分(鞘)で被覆された繊維であり、かつ、前記芯の融点は前記鞘の融点より高い繊維と定義する。一般的に、湿式抄造工程で使用される湿紙乾燥工程が200℃以下であることを考慮すると、該芯鞘型繊維表面の少なくとも一部又が融点200℃未満であることがより好ましい。前記芯表面の全てを前記鞘が被覆している必要はないが、芯鞘型繊維と周辺材料とを均一かつ強く結着させる観点から、芯鞘型繊維(芯)表面の好ましくは20%以上の面積が、より好ましくは50%以上の面積が、更に好ましくは70%以上の面積が、最も好ましくは100%の面積が、鞘で被覆される。例えば、サイド-バイ-サイド型繊維(融点の異なる2種以上の繊維が、繊維長手方向に同一繊維として複合化された繊維)のように、繊維(芯)の表面の一部が、該芯より低融点の有機成分(鞘)で被覆されたものも、広義の意味で本実施の形態に係る芯鞘型繊維に含むものとする。また、鞘は1種の組成に限定されることは無く、2種以上の鞘組成が芯を被覆していてもよい。その場合、芯鞘型繊維に含まれる最も融点の高い繊維を芯とする。セパレータ中での複数種の材料間の均一な結着を考慮すると、芯表面が全て1種の組成の鞘で被覆された芯鞘型繊維が好ましい。また、セパレータ中での複数種の材料間の均一な結着を考慮すると、芯表面の全面が有機成分(鞘)で被覆されていることが好ましい。芯鞘型繊維を繊維長手方向に対して垂直かつ短手方向にカットした断面は、セパレータのその他の材料と均一に結着する観点を考慮すると、略円形(但し、真円を含む)、又は楕円形であることが好ましい。該断面に占める芯の形状も任意に決定されることができ、同様の観点を考慮すると円形であることが好ましい。また、無機繊維表面(例えばガラス繊維)が融点220℃以下の有機成分(鞘)で被覆され、かつ、前記無機繊維の融点が前記有機成分の融点より高い繊維も、広義において本実施の形態に係る芯鞘型繊維に含まれるものとする。なお、本明細書では、上記無機繊維表面を融点200℃未満の有機成分(鞘)で被覆した繊維は、芯鞘型繊維とみなし、上述した無機繊維(無機成分のみから成る繊維)とは区別する。軽いセパレータを作製する観点、及びセパレータの高密度化(プレス加工等)時に掛かる応力で無機繊維は折れ易く、切れ易いという観点を考慮すると、芯鞘型繊維の芯と鞘の双方が有機成分であることが好ましい。
【0041】
なお、本明細書における融解成分とは、上記で説明された芯鞘型繊維の鞘を意味する。また、本実施の形態に係る芯鞘型繊維の非融解成分とは、該芯鞘型繊維の芯を意味する。
【0042】
また、本明細書における融点とは、空気中で材料を室温から10℃/minの昇温速度で加熱した際に、材料が融解変形し始める融解温度である。なお、該融解には、形状変化を伴う軟化も含まれるものとする。例えば、特定の芯鞘型繊維を他の材料(例えば、繊維又は粒子又は樹脂等)と接点を持つ状態で静置し、室温から10℃/minの昇温速度で220℃まで加熱し、その後室温まで冷却した時に、該芯鞘型繊維表面が融解変形して、他の材料と融着点を形成している場合、又は、該芯鞘型繊維の断面形状が変化している場合、該芯鞘型繊維の融解成分の融点は220℃以下である。
【0043】
芯鞘型繊維は、例えば湿式抄造プロセスの加熱乾燥時(例えば、鞘の融点以上、芯の融点未満の温度による乾燥)に、芯が融解せず繊維状に残る為、融解成分が、芯周辺に留まり易く、他の材料(例えば、無機繊維、粒子等)に融解成分が濡れ広がり難い。その為、セパレータの細孔が埋まって電気抵抗が高くなることを抑制する。また、加熱乾燥時に鞘が融けた際、セパレータ内に芯が繊維状に残る為、芯繊維の網目構造と鞘由来の融解成分の結着により、セパレータ内に強固な3次元網目構造が出来、セパレータの強度が高くなる。また、セパレータの高い膜強度と低い電気抵抗を両立する観点から、本実施の形態に係る芯鞘型繊維の融解成分は、融点220℃以下のポリエステルであることが好ましい。他方、芯鞘型繊維の非融解成分としては、融点200℃以上のポリエステルが好ましい。融点が200℃未満の融解成分の場合、比較的低い加熱乾燥温度でセパレータを作製することが可能である。
【0044】
また、繊維として、全融解型繊維も知られているが、次の2つの観点から、本実施の形態に係るセパレータには、芯鞘型繊維を使用することが好ましい:
(ア)同じ長さかつ同じ直径の芯鞘型繊維と比較して、全融解型繊維は、繊維に占める融解成分の割合が多い為、他の材料(例えば繊維、粒子等)に濡れ広がり易く、結果としてセパレータの電気抵抗が上昇し易い;及び
(イ)全融解型繊維を融点以上に加熱すると、芯鞘型繊維の芯部のように融け残る成分が無い為、繊維全体が融解して他の材料に濡れ広がり易い。結果として、加熱された全融解型繊維の融解成分含有率が低くなり、芯鞘型繊維と比較して、セパレータの機械的膜強度も低くなる。
【0045】
本実施の形態に係る芯鞘型繊維は、特定の樹脂組成に限定されるものではないが、その芯鞘型繊維の芯組成としては、鉛蓄電池の電解液の希硫酸に対して化学的に安定な、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ-1,3-トリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン)等が例示でき、低価格で比重が水より大きい(すなわち、水系スラリー作製時にスラリー表面に浮遊し難い)PETが好ましい。また、前記芯は、ガラス又はアルミナ等の無機成分であっても良い。
【0046】
芯鞘型繊維の鞘組成の例としては、低温で鞘を融解させる観点から有機成分であることが好ましく、融点200℃未満のポリエステル、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、EVOH(エチレン・ビニル共重合体)等が例示でき、中でも電解液の希硫酸に対して化学的に安定な、ポリエステル、ポリエチレン、及びポリプロピレンが好ましい。融解成分が親水材料の無機粒子又はガラス繊維に濡れ広がり難く、かつ、セパレータの細孔を埋め難く、かつ、抵抗上昇を抑制し易いポリエステルがより好ましく、セパレータ製造時の加工温度を下げる観点から、融点200℃未満のポリエステルであることが更に好ましい。
【0047】
また、本実施の形態に係る芯鞘型繊維においては、非晶性の鞘と結晶性の鞘のいずれを選択してもよい。非晶性の鞘は、芯鞘型繊維の融解成分による結着性に優れ、結晶性の鞘は、耐酸化性、耐薬品性等に優れる。鞘の例として、非晶性のポリエステル、結晶性のポリエステルが例示できる。これらのポリエステルは、加工温度を下げる観点から融点200℃未満が好ましい。
【0048】
代表的な芯鞘型繊維としては、芯が融点200℃以上のPETで鞘が融点150℃以下のポリエステルから成る繊維、芯が融点200℃以上のPETで鞘が融点200℃未満のポリエチレンから成る繊維、芯が融点200℃以上のPETで鞘が融点200℃未満のポリプロピレンから成る繊維、鞘が融点200℃未満のポリエチレン又はポリプロピレンで芯が該鞘より高融点のポリプロピレンから成る繊維、芯が融点200℃以上のPETで鞘が融点200℃未満のEVOHから成る繊維等が挙げられる。中でも、セパレータの電気抵抗の上昇を抑制し、希硫酸に対する耐性を高める観点から、芯が融点200℃以上のPETで鞘が融点200℃未満のポリエステルから成る繊維が好ましい。
【0049】
芯鞘型繊維の鞘成分と芯成分の重量比(融解成分重量(g)/非融解成分重量(g))は、セパレータ内に、芯鞘型繊維による三次元網目構造を形成し、該網目構造の繊維間の結着力を高めて、希硫酸中での耐熱性(重量保持性、形状保持性)を向上させる観点から、0.06以上が好ましく、より好ましくは0.10以上であり、更に好ましくは0.15以上であり、より更に好ましくは0.20以上であり、なお更に好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは、0.40以上、又は0.50以上であり、最も好ましくは0.60以上である。また、(I)セパレータの加熱乾燥時に、融解成分が融けて、繊維状の非融解成分がセパレータに残ると、セパレータに非融解成分由来の強度を付与することができ、又は(II)芯鞘型繊維に占める融解成分の割合を減らすことで、融解成分がセパレータの細孔を埋めることを抑制できる。上記の観点(I)又は(II)から、重量比(融解成分重量(g)/非融解成分重量(g))は、50以下が好ましく、より好ましくは10以下であり、更に好ましくは9.0以下であり、より更に好ましくは8.0以下であり、なお更に好ましくは7.0以下であり、特に好ましくは、6.0以下、5.0以下、4.0以下、3.0以下、又は2.0以下であり、最も好ましくは1.6以下である。
【0050】
また、芯鞘型繊維の鞘の融点が低くなるにつれて耐熱性が低くなり、一方で該融点が高くなるにつれて、鞘を十分融解させる為に必要な加熱乾燥温度が高くなることから、鞘成分の融点は、50℃超過かつ220℃以下であることが好ましく、より好ましくは60℃超過かつ200℃未満、更に好ましくは65℃~180℃、より更に好ましくは85℃~170℃であり、なお更に好ましくは90℃~150℃、特に好ましくは100℃~150℃である。また、芯鞘型繊維の芯の融点が低くなるにつれて必然的に鞘の融点も下がることで耐熱性が低くなることから、芯の融点は、60℃以上が好ましく、より好ましくは、100℃以上であり、更に好ましくは150℃以上であり、より更に好ましくは200℃超過であり、なお更に好ましくは220℃超過であり、最も好ましくは240℃以上である。
【0051】
また、本実施の形態に係るセパレータを湿式抄造する場合、水系のスラリー表層に繊維が浮遊することを抑制し、芯鞘型繊維を均一に分散させる観点から、芯鞘型繊維の比重が水の比重よりも大きいことが好ましい。そのような観点から、本実施の形態に係る芯鞘型繊維の組成に、ポリエステルを含んでいることが好ましく、芯がPETで鞘がポリエステルから成る芯鞘型繊維がより好ましい。
【0052】
≪有機繊維(芯鞘型繊維を除く)≫
本実施の形態に係るセパレータでは、上記で説明された芯鞘型繊維のほか、芯鞘型繊維以外の有機繊維を使用することができる。前記芯鞘型繊維と、芯鞘型繊維以外の有機繊維とを併用してもよい。該芯鞘型繊維以外の有機繊維の融点は、耐熱性を高める観点から200℃以上の融点を有することが好ましく、より好ましくは220℃以上であり、更に好ましくは230℃以上である。なお、セパレータの高い膜強度と低い電気抵抗を両立する観点から、有機繊維の表面の少なくとも一部は、融点220℃以下であることが好ましい。芯鞘型繊維以外の有機繊維として、耐酸性に優れ安価なポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリ-1,3-トリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、カーボン繊維、耐熱性に優れたPA9T等のポリアミド繊維、セルロース繊維等が例示できる。本発明の効果を奏する範囲内で、これらの例示以外の繊維を使用することも可能である。
【0053】
上述した有機繊維は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。上記芯鞘型繊維及び上記芯鞘型繊維以外の有機繊維の繊維長は、繊維1本当たりの材料間の結着点を増やして、セパレータの強度、特に膜形態の場合の膜強度を高める観点から、0.5mm以上が好ましく、より好ましくは1mm以上、更に好ましくは2mm以上、特に好ましくは3mm以上である。また、湿式抄造時のスラリー中での繊維同士の絡まりを抑制し、繊維のスラリー中での分散性を高める観点から、繊維長は、300mm以下が好ましく、より好ましくは100mm以下であり、更に好ましくは50mm以下であり、より更に好ましくは30mm以下であり、なお更に好ましくは15mm以下であり、特に好ましくは10mm以下であり、最も好ましくは8mm以下である。
【0054】
上記芯鞘型繊維及び上記芯鞘型繊維以外の有機繊維の平均繊維径(直径)は、湿式抄造時のスラリー中での繊維同士の絡まりを抑制し、繊維のスラリー中での分散性を高める観点から、0.1μm以上が好ましく、より好ましくは0.5μm以上であり、更に好ましくは1μm以上であり、より更に好ましくは3μm以上であり、なお更に好ましくは5μm以上であり、特に好ましくは8μm以上である。また、セパレータに同一重量かつ同一繊維長の繊維を付与した場合、繊維の直径が小さい方が、繊維本数が多くなり、繊維による緻密な網目構造を付与することができる為、上記芯鞘型繊維及び上記芯鞘型繊維以外の有機繊維の平均繊維径(直径)は、500μm以下が好ましく、より好ましくは50μm以下であり、更に好ましくは30μm以下であり、より更に好ましくは25μm以下であり、特に好ましくは20μm以下である。
【0055】
≪各種材料の混合比について≫
本実施の形態に係るセパレータでは、樹脂と、セパレータ中の他の材料との結着力を高め、耐熱性を高め、より詳細には希硫酸中での耐熱性(特に重量保持性)を高める観点から、セパレータ100質量部に対して、樹脂は1.0質量部以上又は1.0質量部超過であることが好ましく、より好ましくは2.0質量部以上であり、更に好ましくは3.0質量部以上、特に好ましくは、4.0質量部以上、5.0質量部以上、5.1質量部以上、5.3質量部以上、5.5質量部以上、5.7質量部以上、6.0質量部以上、6.5質量部以上、7.0質量部以上、7.5質量部以上、8.0質量部以上、9.0質量部以上、又は9.5質量部以上であり、最も好ましくは10質量部以上である。
【0056】
また、セパレータに含まれる樹脂の質量比が高くなるにつれ、樹脂が、一連の湿式抄造プロセスの加熱乾燥工程等で融解し、セパレータの細孔の大部分を埋めることで、セパレータの電気抵抗が上昇する。樹脂成分の加熱時流動性を抑制することでセパレータ内に細孔を残し、低い電気抵抗を維持する観点から、セパレータ100質量部に対して、樹脂は50質量部以下又は50質量部未満であることが好ましく、より好ましくは45質量部以下であり、更に好ましくは40質量部以下であり、より更に好ましくは35質量部以下であり、なお更に好ましくは31質量部以下であり、特に好ましくは、30質量部以下、25質量部以下、22質量部以下、20質量部以下であり、又は18質量部以下であり、最も好ましくは15質量部以下である。
【0057】
セパレータ100質量部を基準としたときに、上記で説明されたシラン化合物中のSi量は、電解液の成層化の抑制という観点から、0質量部超過0.7質量部以下であることが好ましく、0.0001質量部以上0.4質量部以下であることがより好ましく、0.001質量部以上0.3質量部以下であることが更に好ましく、0.01質量部以上0.2質量部以下であることが特に好ましい。
【0058】
本実施の形態に係るセパレータは、セパレータ100質量部に対して、粒子と無機繊維の質量の和が、5質量部~80質量部であることが好ましい。セパレータに含まれる親水性の粒子と無機繊維の配合比が高いと、セパレータが電解液である希硫酸に濡れ易くなる。また、粒子と無機繊維の質量の和を大きくすることで、相対的に樹脂と芯鞘型繊維の質量が下がり、セパレータの電気抵抗が下がり易くなることから、セパレータ100質量部に対して、粒子と無機繊維の質量の和が5質量部以上であることが好ましく、より好ましくは10質量部以上であり、更に好ましくは15質量部以上であり、より更に好ましくは20質量部以上であり、なお更に好ましくは30質量部以上であり、特に好ましくは40質量部以上である。また、粒子と無機繊維の配合比が高いと、相対的に樹脂と芯鞘型繊維の配合比が低くなり、希硫酸中での耐熱性が低くなり易く、膜強度も低くなり易いことから、セパレータ100質量部に対して、粒子と無機繊維の質量の和が80質量部以下であることが好ましく、より好ましくは70質量部以下であり、更に好ましくは67質量部以下であり、より更に好ましくは65質量部以下であり、なお更に好ましくは63質量部以下であり、特に好ましくは、60質量部以下、又は58質量部以下であり、最も好ましくは55質量部以下である。なお、上記親水性の粒子としては無機粒子が好ましく、中でもシリカ粒子が好ましい。また、上記親水性の無機繊維としては、電解液の成層化を抑制する効果を奏するガラス繊維が好ましい。
【0059】
本実施の形態に係るセパレータは、セパレータ100質量部に対して、粒子を3~70質量部含んでいることが好ましい。該粒子は、電池用セパレータとして使用されるセパレータの細孔径を小さくし、デンドライトショート耐性の高いセパレータを作製する観点、及び、電極から脱離した活物質がセパレータ内部に入り込むことによる短絡を抑制することができるという観点から、セパレータ100質量部に対して、粒子の含有量は3質量部以上であることが好ましく、より好ましくは5質量部以上であり、更に好ましくは8質量部以上であり、より更に好ましくは10質量部以上であり、なお更に好ましくは15質量部以上、特に好ましくは20質量部以上、最も好ましくは25質量部以上である。また、セパレータ中で親水性の粒子を使用することで、セパレータの電解液への濡れ性を高めることができることから、粒子は無機粒子であることが好ましく、シリカ粒子であることがより好ましい。セパレータに占める粒子の配合比が高くなると、無機繊維、有機繊維、及び樹脂の配合比が相対的に低くなる(特に、芯鞘型繊維及び樹脂の配合比が相対的に低くなる)ことで複数種の材料間の結着が弱くなり、希硫酸中での耐熱性(例えば、重量保持性、及び形状保持性)を確保し難くなる為、本実施の形態に係るセパレータ100質量部に対して、粒子の配合量は、70質量部以下であることが好ましく、より好ましくは60質量部以下であり、更に好ましくは55質量部以下であり、より更に好ましくは50質量部以下であり、なお更に好ましくは45質量部以下であり、特に好ましくは40質量部以下であり、最も好ましくは35質量部以下である。
【0060】
本実施の形態に係るセパレータは、セパレータ100質量部に対して、無機繊維を3~70質量部含んでいることが好ましい。無機繊維の3次元網目構造内に上記粒子を保持する観点から、セパレータ100質量部に対して、無機繊維の含有量は、3質量部以上であることが好ましく、より好ましくは5質量部以上であり、更に好ましくは8質量部以上であり、より更に好ましくは10質量部以上であり、なお更に好ましくは12質量部以上であり、特に好ましくは15質量部以上であり、最も好ましくは17質量部以上である。セパレータ中の無機繊維の割合を増やし、相対的に有機繊維、及び樹脂の配合比を減らすと、複数の材料間の結着が弱くなり易く、例えば希硫酸中での耐熱性を保持し難くなることから、セパレータ100質量部に対して、無機繊維の含有量は、70質量部以下であることが好ましく、より好ましくは60質量部以下であり、更に好ましくは55質量部以下であり、より更に好ましくは50質量部以下であり、なお更に好ましくは45質量部以下であり、特に好ましくは、40質量部以下、30質量部以下、又は25質量部以下であり、最も好ましくは23質量部以下である。なお、電解液の成層化を抑制する観点、及び親水性の無機繊維を用いて電解液への濡れ性を高める観点から、無機繊維はガラス繊維であることが好ましい。
【0061】
本実施の形態のセパレータは、セパレータ100質量部に対して、有機繊維を10~80質量部含んでいることが好ましい。セパレータに芯鞘型繊維を有機繊維として使用する場合であり、かつ芯と鞘の質量比が一定の繊維であり、かつ密度が同等の複数のセパレータを比較した場合、セパレータに含まれる芯鞘型繊維の配合比が高いと、セパレータに含まれる融解成分の質量比が相対的に増え、セパレータの膜強度が強くなると共に、芯鞘型繊維による三次元網目構造により、セパレータが希硫酸中で高い耐熱性(特に高い形状保持性)を示す傾向にある。このような観点から、セパレータ100質量部に対して、芯鞘型繊維の含有量は、10質量部以上であることが好ましく、より好ましくは12質量部以上であり、更に好ましくは14質量部以上であり、より更に好ましくは16質量部以上であり、なお更に好ましくは17質量部以上であり、特に好ましくは、18質量部以上、19質量部以上、20質量部以上、23質量部以上、25質量部以上、27質量部以上、30質量部以上、又は32質量部以上であり、最も好ましくは35質量部以上である。一方、セパレータが親水性の無機粒子又は無機繊維を含む場合、セパレータに含まれる芯鞘型繊維の配合比が高すぎると、無機粒子及び無機繊維の配合比が相対的に低くなり易く、セパレータの希硫酸への濡れ性が低くなる。無機繊維(例えば、ガラス繊維)の配合比が低くなった場合、鉛蓄電池の電解液の成層化抑制能が下がり易く、また、無機粒子(例えばシリカ粒子)の配合比が低くなった場合、セパレータの細孔径が大きくなり易く、デンドライトショートに対する耐性が低くなり易い。このような理由から、本実施の形態に係るセパレータ100質量部に対して、芯鞘型繊維の含有量は、80質量部以下が好ましく、より好ましくは70質量部以下であり、更に好ましくは65質量部以下であり、より更に好ましくは60質量部以下であり、なお更に好ましくは55質量部以下であり、特に好ましくは50質量部以下であり、最も好ましくは45質量部以下である。
【0062】
本実施の形態に係るセパレータは、芯鞘型繊維の鞘成分と、樹脂との質量の和を100質量部としたときに、シラン化合物中のSiが0質量部超過2.3質量部以下であることが好ましい。シラン化合物によって、芯鞘型繊維の鞘成分、および樹脂の固形分の表面を被覆し、セパレータの親水性を向上させ、セパレータへの硫酸電解液の浸透性を確保する観点から、シラン化合物中のSiの含有量は、芯鞘型繊維の鞘成分と、樹脂の固形分との質量の和(100質量部)に対して、0質量部超過が好ましく、より好ましくは0.0001質量部以上であり、更に好ましくは0.0005質量部以上であり、より更に好ましくは0.001質量部以上であり、なお更に好ましくは0.005質量部以上であり、特に好ましくは、0.01質量部以上、又は0.02質量部以上であり、最も好ましくは0.03質量部以上である。また、芯鞘型繊維の鞘成分、および樹脂の固形分の表面を被覆することで親水性を付与しつつ、粒子又は無機繊維の比表面積およびセパレータの細孔の減少を防ぐ観点から、シラン化合物中のSiの含有量は、芯鞘型繊維の鞘成分と、樹脂の質量の和(100質量部)に対して、2.3質量部以下が好ましく、より好ましくは2.0質量部以下であり、更に好ましくは1.5質量部以下であり、より更に好ましくは1.0質量部以下であり、なお更に好ましくは0.5質量部以下であり、特に好ましくは、0.1質量部以下、0.08質量部以下、0.07質量部以下、0.06質量部以下、又は0.05質量部以下であり、最も好ましくは0.04質量部以下である。
【0063】
本実施の形態に係るセパレータは、芯鞘型繊維の鞘成分に対する樹脂の質量比が、0.1以上5以下であることが好ましい。芯鞘型繊維の鞘成分の表面が、樹脂で被覆されることで、シラン化合物による親水化の効果を得る観点から、芯鞘型繊維の鞘成分に対する樹脂の質量比は0.1以上が好ましく、より好ましくは0.15以上であり、更に好ましくは0.2以上であり、より更に好ましくは0.3以上であり、なお更に好ましくは0.4以上であり、特に好ましくは0.5以上である。また、樹脂に含まれるシラン化合物によって芯鞘型繊維の鞘成分に親水性を付与しつつ、樹脂によってセパレータの微多孔構造、ひいては電解液の浸透性を保つ観点から、芯鞘型繊維の鞘成分に対する樹脂の質量比は5以下が好ましく、より好ましくは3以下であり、更に好ましくは2以下であり、より更に好ましくは1.5以下であり、なお更に好ましくは1.2以下であり、特に好ましくは1以下である。
【0064】
本実施の形態に係るセパレータは、上記芯鞘型繊維のほか、芯鞘型繊維以外の有機繊維を使用することができる。該芯鞘型繊維以外の有機繊維として、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維等のポリエステル繊維、ポリ-1,3-トリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、カーボン繊維、耐熱性に優れたPA9T等のポリアミド繊維、セルロース繊維、ポリオレフィン繊維(例えば、ポリエチレン繊維又はポリプロピレン繊維)等が挙げられる。該芯鞘型繊維以外の有機繊維の配合比が相対的に高いと、材料間の結着力が弱くなり易い。有機繊維による三次元網目構造により、粒子の歩留まり(抄造プロセスにおける、粒子のセパレータへの捕捉率)が向上する。このような観点から、セパレータ100質量部に対して、有機繊維の含有量は、10質量部以上であることが好ましく、より好ましくは12質量部以上であり、更に好ましくは14質量部以上であり、より更に好ましくは16質量部以上であり、なお更に好ましくは17質量部以上であり、特に好ましくは、18質量部以上、19質量部以上、20質量部以上、23質量部以上、25質量部以上、27質量部以上、30質量部以上、又は32質量部以上であり、最も好ましくは35質量部以上である。希硫酸中での耐熱性(重量保持性及び形状保持性)を高くする観点から、セパレータ100質量部に含まれる前記有機繊維の量は、80質量部以下が好ましく、より好ましくは70質量部以下であり、更に好ましくは65質量部以下であり、より更に好ましくは55質量部以下であり、なお更に好ましくは50質量部以下であり、特に好ましくは45質量部以下である。なお、上記ポリエステル繊維は、製造プロセスで延伸された繊維であっても、未延伸の繊維であってもよい。また、無機繊維表面を有機成分で被覆した繊維も、広義において本実施の形態に係る有機繊維に含まれるものとする(但し、上述した芯鞘型繊維を除く)。この場合、上記有機繊維の利点(曲げ又は外力に対して切れ難い)を繊維に付与する観点から、無機繊維の表面の20%以上の面積が有機成分で被覆されていることが好ましく、より好ましくは50%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、最も好ましくは100%である。
【0065】
≪セパレータの製造方法について≫
セパレータは、任意の方法で製造することができ、例えば、繊維、樹脂、粒子を含むスラリーを湿式抄造プロセスで作製できる。その際、凝集剤及び/又は分散剤、その他の抄紙で利用される添加剤をスラリーへ加えてもよい。また、湿式抄造プロセスでスラリー中での繊維の水分散性を高める為、セパレータの製造に使用する各種繊維に適した分散剤をスラリーに添加してもよい。また、予め各種繊維表面に、界面活性剤を付着させておくことで、水分散性を向上させることも可能である。その他の製造方法としては、繊維を主体とする不織布を予め作製しておき、該不織布を樹脂及び/又は無機粒子を含むスラリーに含浸・乾燥させることによってもセパレータを作製可能である。代替的には、該不織布に、樹脂及び/又は無機粒子を含むスラリーを塗工することでセパレータを作製することもできる。
【0066】
≪鉛蓄電池用セパレータ、及びそれを備える鉛蓄電池≫
実施例に記載の方法で測定されるときに40mm毎時未満の電解液の成層化速度を提供するセパレータも本発明の一態様である。また、本実施の形態に係るセパレータを備える鉛蓄電池も本発明の別の態様である。鉛蓄電池用セパレータの形態は、鉛蓄電池の各構成部材と適合するように、決定することができる。本発明の鉛蓄電池は、正極、負極、及び電解液として希硫酸を含み、該正極と該負極の間に本実施の形態に係るセパレータを配置した鉛蓄電池である。正極を構成する正極格子は鉛又は鉛合金でよく、正極活物質は、酸化鉛、例えば二酸化鉛でよい。負極を構成する負極格子は鉛又は鉛合金でよく、負極活物質は鉛でよく、鉛負極そのものは、例えば海綿状の形態でよい。また、これらの正極及び負極の活物質については、上記組成にその他の金属元素が30質量%以下で含まれていてよい。また、上記希硫酸とは、比重1.1~1.4の硫酸であり、さらに添加剤を含むことができる。
【0067】
本実施の形態では、Si化合物を含む樹脂を使用したセパレータを鉛蓄電池に使用することで、電解液としての希硫酸の成層化を抑制することができる。その為、鉛蓄電池の上記正極と上記負極の間に本発明の一態様に係るセパレータを配置することが好ましい。尚、本発明の一態様に係る鉛蓄電池用セパレータが、他のセパレータと重ねた状態で、上記正極と上記負極の間に配置された鉛蓄電池も本発明の鉛蓄電池に含まれる。
【0068】
また、本発明の一態様に係る鉛蓄電池用セパレータを他のセパレータと重ねる際に、セパレータ間を樹脂等の有機成分によって結着させた状態で、前記正極と負極の間に配置された鉛蓄電池も本発明の鉛蓄電池に含まれる。他のセパレータは、特に限定されないが、例として(1)無機繊維不織布、(2)無機繊維と無機粒子を含むセパレータ、(3)無機繊維と有機繊維と無機粒子を含むセパレータ、(4)上記(2)又は(3)に樹脂が含まれるセパレータ、(5)平均孔径800nm以下の微多孔を有するポリエチレンセパレータ(その中に無機粒子が含まれていてよい)等が挙げられる。上記(1)、(2)及び(3)の無機繊維の例としては、ガラス繊維が例示できる。
【0069】
また、本実施の形態では、鉛蓄電池用セパレータに関しては、2層の重ね合わせのみならず、3層以上の多層の形態でも使用してよい。そのような3層以上の形態は、少なくとも本実施の形態に係るセパレータを特定の単層として含み、その他の層は、任意のセパレータから選択できる。正極と負極の間に本実施の形態に係る鉛蓄電池用セパレータを設けることによって、電解液としての希硫酸の成層化を抑制する性能が高いセパレータを具備する鉛蓄電池が得られる。本実施の形態に係る鉛蓄電池用セパレータは、開放式鉛蓄電池、及び、制御弁式鉛蓄電池のいずれにおいても使用可能である。
【実施例
【0070】
以下、本発明について、実施例に基づき詳述するが、これらは説明のために記述されるものであり、本発明の範囲が以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
実施例および比較例で得たセパレータの各種評価結果を表1~2に示す。なお、表1~2に記載されている樹脂の配合比(wt%)は、樹脂の重量である。表1~2に記載した各評価項目について、評価手法を以下に説明する。
【0072】
≪厚さ≫
本明細書における厚さは、前記セパレータの断面SEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、倍率200倍の条件下、該観察部の中から異なる5つの領域に関して厚さを測定した際の、5領域の厚さの相加平均値であり、測定結果を表1~2に記載した。相加平均値である厚さの単位は、mmである。
【0073】
≪目付け(坪量)≫
後述する実施例および比較例の回転型乾燥機で加熱乾燥した後のセパレータを、さらに空気中にて90℃で30分間乾燥(吸着水除去)した後に、セパレータに質量を測定し、該質量を該セパレータの片面の面積で割った値を表1~2に記載した。単位はg/mである。
【0074】
≪密度≫
上記目付けを、上記厚みで割った値を、密度として表1~2に記載した。単位はg/m/mmである。
【0075】
≪電気抵抗≫
日置電気製のバッテリーハイテスタBT3562-01を用い、交流四端子法(交流1kHz,電流1mA)で電気抵抗を測定した。温調(27±1℃)された、比重1.28の希硫酸を入れた容器(PP製)に、2つのグラファイト電極(70mm×90mm×7mm)を24mmの間隔で平行に設置し、該グラファイト電極間の中央に、2枚のマスク(PP製のプラスチック板で、その中央に20mm×20mmの開口部がある)を配置した。その後、該2枚のマスク間に、サイズ30mm×30mmに切り出したセパレータを上記開口部の中央に配置(開口部をセパレータで塞ぐように配置)して、抵抗値1を測定した。次に、セパレータを取り除いた状態での抵抗値2を測定した。抵抗値1と抵抗値2の差分に上記開口部の面積を掛けることで、電気抵抗を測定した。単位は、mΩ・cmである。尚、サイズ30mm×30mmに切り出したセパレータとしては、電気抵抗測定の前に、比重1.28の希硫酸に24時間浸漬しておいたものを測定に使用した。得られた電気抵抗を、表1~2に記載した。
本発明の効果である、電解液の優れた成層化抑制能が得られる範囲内で好ましい電気抵抗の基準としては、100mΩ・cm以下である。
【0076】
≪成層化速度≫
BCIS-03A Rev. Dec15の規格に準拠し、希硫酸の成層化速度を測定した。サイズ24cm×5cmに切り出したセパレータを、2枚のポリカーボネート製ブロックで挟み、トルクレンチを用いて3Nにてボルトを締めることで固定した。固定後のセパレータの密度は、440±20g/m/mmとなるよう、ボルト締結後の2枚のブロック間隔を調節した。ブロック間隔の調節は、ブロックにセパレータを挟む際、セパレータと重ならない位置にポリカーボネート製のシムを配置することで行った。上記のセパレータ密度を得るために必要なシムの厚さは、上記項目≪目付け(坪量)≫に記載した方法によって求めた目付けを用いることで、計算することが可能である。ブロックを鉛直に配置した後、挟み込まれたセパレータの上端と接触する位置に設けられたブロックのくぼみ部分に、メチルレッドを溶解した比重1.28の希硫酸を約10mL滴下した。60分後、沈降したメチルレッドの移動距離を目視で観察し、電解液としての希硫酸の成層化速度を測定した。沈降したメチルレッドの先端が、地面に対して平行でない場合、セパレータの上端から最も離れた位置の着色部分までの距離を記録した。単位はmm/hである。なお、サイズ24cm×5cmに切り出したセパレータとして、成層化速度の測定の前に、比重1.10の希硫酸に24時間浸漬したものを使用した。
【0077】
以下、実施例および比較例のサンプル作製方法について詳細を記載する。
【0078】
(実施例1)
粒子として無機粒子である平均粒子径10μmのシリカ粒子(水澤化学工業社製P-510)29.4質量%、無機繊維としてガラス繊維(平均繊維径0.9μm、Cガラス)19.6質量%、有機繊維として芯部がPET(融点255℃)で鞘部が共重合ポリエステル(融点130℃)から成る芯鞘型繊維(平均繊度2.2dtex、平均繊維長5mm、芯部と鞘部の重量比1:1)39.2質量%、および、樹脂としてシリコーン変性アクリル系樹脂(固形分濃度:51%、重合性単量体混合物100質量部に占めるメタクリル酸シクロヘキシル量:49質量部、計算Tg:-2℃、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン濃度:0.5%、分散媒:水、高分子ラテックス)11.8%(固形分)の配合比で、これらの材料を水中で分散・混合し、スラリーを作製した。なお、本実施例1における、樹脂に占めるSi化合物中のSi重量の計算結果は0.1%である。この時、スラリー中の固形分100質量部に対して、アルキルベタイン系分散剤を2質量部、該スラリーに添加・撹拌した。その後、スラリー中の固形分100質量部に対し、凝集剤(8wt%硫酸バンド水溶液)7質量部を該スラリーに添加・撹拌し、生成物スラリーを得た。該生成物スラリーを用いて通常の抄紙機にてシート形成し、湿紙状態で脱水プレスした後、回転型乾燥機にて180℃で3分加熱/乾燥し、セパレータを得た。得られたセパレータを、上記の評価方法に従って評価した結果を表1に記載した。
【0079】
(実施例2~5、比較例2~3)
樹脂に占めるシラン化合物(γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)のSi重量を表1または表2に示すとおりに変更した点を除き、使用した材料、作製方法および評価方法に関して実施例1と同じである。
【0080】
(実施例6~9)
粒子であるシリカ粒子、無機繊維であるガラス繊維、有機繊維である芯鞘型繊維、および樹脂であるシリコーン変性アクリル系樹脂の配合比を表1に示すとおりに変更した点を除き、使用した材料、作製方法および評価方法に関して実施例1と同じである。
【0081】
(実施例10~11)
樹脂を実施例1のとおりに保ち、かつシリカ粒子と無機繊維の配合比を実施例1のとおりに保ちつつ、芯鞘型繊維の配合量を表2に示すとおりに変更した点を除き、使用した材料、作製方法および評価方法に関して実施例1と同じである。
【0082】
(実施例12~14)
シリカ粒子と無機繊維の配合比を実施例1のとおりに保ちつつ、樹脂に含まれるSi成分量、および芯鞘型繊維と樹脂の配合比を表2に示すとおりに変更した点を除き、使用した材料、作製方法および評価方法に関して実施例1と同じである。
【0083】
(実施例15)
樹脂に含まれるシラン化合物を、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランに変更した点を除き、使用した材料、作製方法および評価方法に関して実施例1と同じである。
【0084】
(比較例1)
樹脂として、シラン化合物を含まない樹脂(固形分濃度50%、分散媒:水、高分子ラテックス)に変更した点を除き、使用した材料、作製方法および評価方法に関して実施例1と同じである。
【0085】
以下、表1~2に記載された実施例および比較例の結果について説明する。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
以下、電解液の成層化抑制能が高いことは、上記の方法によって測定した希硫酸の成層化速度が40mm毎時未満であることを意味する。成層化抑制能が低いことは、該成層化速度が40mm毎時以上であることを意味する。
【0089】
実施例1~5、および比較例1~3は、無機繊維であるガラス繊維、芯鞘型繊維、粒子であるシリカ粒子の配合比を固定して、樹脂に含まれるシラン化合物の量を変化させた結果である。実施例1~5に関しては、樹脂100質量部に対してシラン化合物中のSiが0質量部超過かつ6質量部以下含まれるという条件を満たすことで、希硫酸の成層化抑制能が高い結果となった。これは、樹脂がシラン化合物を充分量で含む場合、セパレータの親水性が向上し、セパレータへ希硫酸が浸透し、微多孔内に留まることで、希硫酸の成層化が抑制されたと考えられる。また、シラン化合物が含まれない樹脂を用いた比較例1では、成層化速度は45mm毎時となり、希硫酸の成層化抑制能が低い結果となった。さらに、樹脂100質量部に対してシラン化合物中のSiが6.0質量部以下であるという条件を満たしていない比較例2および3は、それぞれ成層化速度が40mm毎時、43mm毎時となり、希硫酸の成層化抑制能が低い結果となった。比較例2および3でセパレータに担持されるシラン化合物の量は、実施例1~5と比較して多いことが考えられるにも関わらず、希硫酸の成層化抑制能が低い原因は次のように考えることができる。有機繊維は、表面が相対的に疎水的であるため、シラン化合物のコーティングによって表面の親水性が向上する。ガラス繊維とシリカ粒子は、元より親水的であるため、シラン化合物のコーティングによる表面のさらなる親水性向上は期待できない。比較例2および3においては、実施例1~5と比べて、より大きな面積のセパレータ表面が、シラン化合物によって覆われると考えられる。有機繊維の親水性は向上する一方で、シリカ粒子の比表面積は減少し、セパレータの気孔率も減少するため、セパレータの微多孔が有する希硫酸の保持能力は一部損なわれることになる。一方、実施例1~5においては、シリカ粒子の比表面積又はセパレータの空隙率を損なうことなく、有機繊維の表面の親水性を向上させることができるため、比較例2および3よりも、実施例1~5のセパレータは、多くの希硫酸を微多孔内に保持し、希硫酸の成層化抑制能が高い結果が得られたと考えることができる。また、実施例1~5の電気抵抗が比較例2および3に対して比較的小さい値を示した結果も、実施例1~5のセパレータが電解液に対して高い親和性を持ち、電解液がセパレータ微多孔内に浸透し易いためであると考察することができる。
【0090】
実施例6~9は、樹脂に含まれるシラン化合物の重量を0.1質量部で固定し、無機繊維であるガラス繊維、芯鞘型繊維、粒子であるシリカ粒子、樹脂の配合比を変化させた結果である。いずれも、樹脂に対してシラン化合物中のSiが0質量部超過かつ6.0質量部以下であるという条件を満たしていることで、電解液の成層化抑制能が高い結果となった。実施例6は、セパレータに占める樹脂の配合量は39.2質量部と高いことにより、電気抵抗と成層化速度とが、他の実施例に対して大きい値を示した。樹脂はセパレータの構成成分の中で相対的に疎水性であり、電解液がセパレータ微多孔内部に浸透し難くなったことが考えられる。
【0091】
実施例1および実施例10~11は、セパレータ中の樹脂の重量を11.8質量部で固定し、シリカ粒子とガラス繊維の配合比を1.5:1で固定し、芯鞘型繊維の配合量を変化させた結果である。各実施例において、樹脂に占めるシラン化合物のSi(表1および2の項目E)は0.1質量部、セパレータに占めるシラン化合物のSi(表1および2の項目F)は0.0118質量部でそれぞれ共通である。芯鞘型繊維の配合量を変更することにより、芯鞘型鞘成分に占めるシラン化合物のSi量(表1および2の項目I)を変化させた。実施例1および実施例10~11を比較すると、芯鞘型繊維の鞘成分が増加するにつれ、電気抵抗が上昇、および電解液の成層化速度が増加する結果となった。芯鞘型繊維の鞘成分は、セパレータの構成成分の中で比較的疎水性であり、配合量の増加によって電解液がセパレータ微多孔内部へ浸透し難くなるためと考察できる。
【0092】
実施例1および実施例12~14は、セパレータ中のシリカ粒子、ガラス繊維の配合量を29.4質量%、19.6質量%で固定し、樹脂に含まれるSi成分量、芯鞘型繊維と樹脂の配合量を変化させた結果である。各実施例において、樹脂と芯鞘型繊維鞘成分の和に占めるシラン化合物のSi(表1および2の項目H)はおよそ0.04質量部で共通である。芯鞘型繊維と樹脂の配合比を変更することにより、芯鞘型繊維鞘成分量に対する樹脂量比(表1および2の項目J)を変化させた。実施例1および12~14を比較すると、芯鞘型繊維鞘成分量に対する樹脂量比が0.60である実施例1において、希硫酸の成層化速度および電気抵抗の双方が小さくなる結果が得られた。実施例1に対して、芯鞘型繊維の鞘成分量が減少し、かつ樹脂量が増加した実施例12~13においては、希硫酸の成層化速度および電気抵抗の上昇が見られた。減少した鞘成分に対して、樹脂が過剰に存在することで、樹脂に含まれるSiが鞘成分へ付与する親水性の効果は飽和していることが考えられる。さらに、増加した樹脂によってセパレータの微多孔部分が充填され、電解液の成層化速度と電気抵抗とが大きくなったと考察される。一方、実施例1に対して、芯鞘型繊維の鞘成分量が増加し、かつ樹脂量が減少した実施例14においても、希硫酸の成層化速度と電気抵抗の上昇が見られた。樹脂が、芯鞘型繊維の鞘成分に対して減少すると、樹脂により被覆される鞘成分の表面積が限定される。それにより、Si成分によって鞘成分へ親水性が付与される効果は減少し、電解液の成層化速度と電気抵抗とが上昇したと考えられる。
【0093】
特に、芯鞘型繊維の鞘成分量に対する樹脂の質量比がほぼ1である実施例13においては、希硫酸の成層化速度と電気抵抗が、実施例12及び14に対して比較的小さい結果を考えると、樹脂は鞘成分に対して同等または少ない量で混合することにより、セパレータの微多孔部分の体積を保ちつつ、鞘成分の表面に親水性を付与することで、希硫酸の成層化速度および電気抵抗を低くすることができると考えられる。
【0094】
実施例15は、樹脂に含まれるシラン化合物をγ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランに変更し、樹脂に含まれるシラン化合物の量と、無機繊維であるガラス繊維、芯鞘型繊維、粒子であるシリカ粒子、樹脂の配合比は実施例1と同様とした結果である。樹脂に含まれるシラン化合物の種類を変化させても、樹脂の固形分100質量部に対してシラン化合物中のSiが0質量部超過かつ6.0質量部以下であるという条件を満たしていることで、希硫酸の成層化抑制能が高い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る鉛蓄電池用セパレータは、電解液の高い成層化抑制能が要求される鉛蓄電池において利用することができる。