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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】ワイヤ保全方法及びワイヤ保全装置
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/20 20060101AFI20240610BHJP
   E02B 7/26 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
E02B7/20 108
E02B7/26 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020130747
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026994
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000220642
【氏名又は名称】東京電設サービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】武田 浩
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-023510(JP,A)
【文献】特開2010-064895(JP,A)
【文献】特開2003-261279(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0026660(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/20
E02B 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑車に掛けられたワイヤを保全するワイヤ保全方法であって、
前記ワイヤには、前記滑車の溝に巻回された巻回部と前記巻回部の両端を引張する一対の第1引張部と第2引張部とが生じており、
前記滑車には、前記巻回部に巻回された第1領域と、前記第1領域以外の第2領域が生じており、
前記滑車の曲率に合わせて曲げられたガイド部材を前記第2領域に設置する工程と、
前記第1引張部の側から前記ガイド部材内に可塑性を有する棒状体を通過させ前記曲率に曲げられた前記棒状体を前記第1領域の周囲において通過させる工程と、
前記第1領域を通過した前記棒状体を前記第2引張部の側から回収し、前記棒状体に接続された通線紐を前記第1領域に巻回させる工程と、を備え
前記第1領域に巻回された前記通線紐に保全用の器材を接続し、前記器材によって前記ワイヤの前記第1領域に対して点検、清掃、注油の保全作業を行う、ワイヤ保全方法。
【請求項2】
前記棒状体は、カメラケーブルであり先端にカメラを備え、前記第1領域に巻回させる工程において前記滑車と前記巻回部の状態を点検する工程を備える、請求項1に記載のワイヤ保全方法。
【請求項3】
長手方向に沿って複数のブラシが設けられた可撓性を有する帯状体を前記通線紐に接続し前記通線紐を引張して前記帯状体を前記第1領域に巻回させる工程と、前記帯状体を前記第1引張部及び前記第2引張部の方向に往復させ、前記第1領域を清掃する工程と、を備える、
請求項1または2に記載のワイヤ保全方法。
【請求項4】
長手方向に沿って流路が形成された可撓性を有する帯状のパッキンを前記通線紐に接続して前記パッキンを前記第1領域に巻回させ、前記パッキンを引張して前記第1領域に密着させ前記溝を覆い、前記パッキンと前記巻回部との間に空間を形成する工程と、
前記流路内にグリスを圧入して前記流路の途中に形成された吐出口から前記グリスを吐出させ、前記空間内に前記グリスを充満させ、前記第1領域と前記巻回部に前記グリスを充填する工程と、を備える、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載のワイヤ保全方法。
【請求項5】
グリスが充満された袋体が取り付けられ、可撓性を有する帯状のパッキンを前記通線紐に接続して前記パッキンを前記袋体が前記溝に収容されるように前記パッキンの両端を引張して前記第1領域に巻回させて密着させ前記溝を覆い、前記パッキンと前記巻回部との間に空間を形成すると共に、前記袋体を破裂させて前記空間内に前記グリスを充満させ、前記第1領域と前記巻回部に前記グリスを充填する工程と、を備える、請求項1から3のうちいずれか1項に記載のワイヤ保全方法。
【請求項6】
滑車に掛けられたワイヤを保全するワイヤ保全装置であって、
前記ワイヤには、前記滑車の溝に巻回された巻回部と前記巻回部の両端を引張する一対の第1引張部と第2引張部とが生じており、
前記滑車には、前記巻回部に巻回された第1領域と、前記第1領域以外の第2領域が生じており、
前記滑車の曲率に合わせて曲げられたガイド部材と、
可塑性を有し、前記滑車の近傍に配置された前記ガイド部材を通過して前記曲率に湾曲して前記第1領域の周囲を通過する棒状体と
前記第1領域に巻回された前記通線紐に接続され、前記ワイヤの前記第1領域に対して点検、清掃、注油の保全作業を行う器材と、を備える、ワイヤ保全装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水門扉に設けられている滑車に掛けられたワイヤを保全するためのワイヤ保全方法及びワイヤ保全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上下方向に開閉する水門扉の内部には、ワイヤが懸架されたシーブと呼ばれる滑車が設けられている。水門扉は、ワイヤを巻回することにより上方に引き上げられるように構成されている(例えば、特許文献1参照)。水門扉は、通常状態において閉じられており、非常時に上方に引き上げられるので、シーブが常に稼働するように性能が維持されていることが必要である。そのため、シーブの状態を定期的に点検し、清掃すると共に、シーブやワイヤに注油することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-023510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シーブは、水門扉内の狭隘な空間内に隠蔽された状態にあり(例えば、特許文献1、図3参照)、且つ、水門扉を非常時以外に動かすことができず、シーブ内部を見ることは極めて困難である。そのため、ワイヤに注油することはおろか、シーブを点検することすら極めて困難であるのが現状である。発明者らは、鋭意研究の下、シーブを点検する共に、シーブに巻回されたワイヤの清掃、注油する方法を見出した。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、隠蔽された滑車に掛けられたワイヤを保全すると共に、性能を維持することができるワイヤ保全方法及びワイヤ保全装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、滑車に掛けられたワイヤを保全するワイヤ保全方法であって、前記ワイヤには、前記滑車の溝に巻回された巻回部と前記巻回部の両端を引張する一対の第1引張部と第2引張部とが生じており、前記滑車には、前記巻回部に巻回された第1領域と、前記第1領域以外の第2領域が生じており、前記滑車の曲率に合わせて曲げられたガイド部材を前記第2領域に設置する工程と、前記第1引張部の側から前記ガイド部材内に可塑性を有する棒状体を通過させ前記曲率に曲げられた前記棒状体を前記第1領域の周囲において通過させる工程と、前記第1領域を通過した前記棒状体を前記第2引張部の側から回収し、前記棒状体に接続された通線紐を前記第1領域に巻回させる工程と、を備え、前記第1領域に巻回された前記通線紐に保全用の器材を接続し、前記器材によって前記ワイヤの前記第1領域に対して点検、清掃、注油の保全作業を行う、ワイヤ保全方法である。
【0007】
本発明によれば、狭隘な場所に隠蔽された滑車の周囲に棒状体を通過させることで、外部から滑車の周囲に通線紐を巻回させることができる。滑車の周囲に通線紐を巻回させることで、ワイヤが懸架された滑車に対する点検、清掃、注油用の各器材を滑車の周囲に配置することができる。
【0008】
本発明の前記棒状体は、カメラケーブルであり先端にカメラを備え、前記第1領域に巻回させる工程において前記滑車と前記巻回部の状態を点検する工程を備えていてもよい。
【0009】
本発明によれば、可塑性を有する棒状体にカメラが備えられたカメラケーブルを用いることにより、通線用の棒状体を通過させる作業において滑車の状態を点検することができ、保全に係る工期を短縮することができる。
【0010】
本発明はまた、長手方向に沿って複数のブラシが設けられた可撓性を有する帯状体を前記通線紐に接続し前記通線紐を引張して前記帯状体を前記第1領域に巻回させる工程と、前記帯状体を前記第1引張部及び前記第2引張部の方向に往復させ、前記第1領域を清掃する工程と、を備えていてもよい。
【0011】
本発明によれば、通線紐を用いてブラシが設けられた帯状体を滑車の周囲に巻回することで、ワイヤの巻回部と巻回部が存在する滑車の溝を清掃することができる。
【0012】
本発明はまた、長手方向に沿って流路が形成された可撓性を有する帯状のパッキンを前記通線紐に接続して前記パッキンを前記第1領域に巻回させ、前記パッキンを引張して前記第1領域に密着させ前記溝を覆い、前記パッキンと前記巻回部との間に空間を形成する工程と、前記流路内にグリスを圧入して前記流路の途中に形成された吐出口から前記グリスを吐出させ、前記空間内に前記グリスを充満させ、前記第1領域と前記巻回部に前記グリスを充填する工程と、を備えていてもよい。
【0013】
本発明によれば、通線紐を用いて注油用のパッキンを滑車の周囲に巻回することで、滑車の溝にパッキンを嵌め込んでワイヤの巻回部をパッキンで覆って、巻回部の周囲に密閉された空間を形成し、空間内にグリスを充満させることで、巻回部の周囲にグリスを充填することができる。
【0014】
本発明はまた、グリスが充満された袋体が取り付けられ、可撓性を有する帯状のパッキンを前記通線紐に接続して前記パッキンを前記袋体が前記溝に収容されるように前記パッキンの両端を引張して前記第1領域に巻回させて密着させ前記溝を覆い、前記パッキンと前記巻回部との間に空間を形成すると共に、前記袋体を破裂させて前記空間内に前記グリスを充満させ、前記第1領域と前記巻回部に前記グリスを充填させる工程と、を備えていてもよい。
【0015】
本発明によれば、グリスが充満した袋体を巻回部とパッキンとの間に配置して袋体を破裂させることで、巻回部にグリスを充填でき、注油に係る工程を簡素化し、保全に係る工期を短縮することができる。
【0016】
本発明の一態様は、滑車に掛けられたワイヤを保全するワイヤ保全装置であって、前記ワイヤには、前記滑車の溝に巻回された巻回部と前記巻回部の両端を引張する一対の第1引張部と第2引張部とが生じており、前記滑車には、前記巻回部に巻回された第1領域と、前記第1領域以外の第2領域が生じており、前記滑車の曲率に合わせて曲げられたガイド部材と、可塑性を有し、前記滑車の近傍に配置された前記ガイド部材を通過して前記曲率に湾曲して前記第1領域の周囲を通過する棒状体と、前記第1領域に巻回された前記通線紐に接続され、前記ワイヤの前記第1領域に対して点検、清掃、注油の保全作業を行う器材と、を備える、ワイヤ保全装置である。
【0017】
本発明によれば、狭隘な場所に隠蔽された滑車の周囲に棒状体を通過させることで、滑車に掛けられたワイヤに対する点検、清掃、注油用の各器材を滑車の周囲に配置するための通線紐を滑車に巻回させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、隠蔽された滑車を保全すると共に、性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の保全対象のシーブを備える水門扉の構成を示す断面図である。
図2】シーブの構成を示す断面図である。
図3】シーブの周囲に棒状体を通過させる方法を示す断面図である。
図4】シーブの周囲に通線紐が巻回された状態を示す断面図である。
図5】シーブの周囲に清掃用の器材が巻回された状態を示す断面図である。
図6】シーブの周囲に注油用の器材が巻回された状態を示す断面図である。
図7】注油用の器材の構成を示す斜視断面図である。
図8】注油用の器材が巻回された状態のシーブを示す断面図である。
図9】変形例1に係る注油用の器材の構成を示す断面図である。
図10】変形例2に係る注油用の器材の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、ワイヤ保全方法及びワイヤ保全装置の実施形態について説明する。ワイヤ保全方法は、既存の構造物に設けられた、滑車に掛けられたワイヤを保全するための維持管理作業に適用される。ワイヤ保全方法は、例えば水門扉に設けられた滑車に掛けられたワイヤに対して定期的に点検、清掃、注油の保全作業を行い、非常時に水門扉を確実に稼働させるものである。ワイヤ保全装置は、滑車に掛けられたワイヤの点検、清掃、注油の保全作業を定期的に行うための装置である。
【0021】
図1に示されるように、水門扉Tは、水路Cを閉じた状態を維持している。水門扉Tの上部には、開閉に用いられるシーブ1と呼ばれる滑車が設けられている。シーブ1には、ワイヤWが掛けられている。シーブ1は、外装Sに覆われている。ワイヤWは、外装Sに形成された第1開口S1、第2開口S2から外部に連通して緊張状態が保持されている。水門扉Tは、非常時に稼働するものであり、通常は稼働することは無い。シーブ1は、外装Sに覆われて隠蔽されているため、外装Sの第1開口S1、第2開口S2からの目視だけではシーブ1の下部の状態を確認することが困難である。
【0022】
図2に示されるように、シーブ1は、停止状態が維持されている。以下、この状態におけるシーブ1とワイヤWの構成を定義する。この定義は便宜上のものであるので、シーブ1、ワイヤWにおいて対称性がある部分は入れ替えられてもよい。シーブ1の下半分の領域を第1領域R1とし、上半分の領域を第2領域R2と定義する。シーブ1を吊り下げているワイヤWのうち、第1開口S1側の一方を第1引張部W1とし、第2開口S2側の他方を第2引張部W2と定義する。シーブ1の溝2の第1領域R1においてワイヤWが巻回されている部分を巻回部W3と定義する。
【0023】
即ち、ワイヤWには、シーブ1の溝2に巻回された巻回部W3と巻回部W3の両端を引張する一対の第1引張部W1と第2引張部W2とが生じている。シーブ1には、巻回部W3に巻回された第1領域R1と、第1領域R1以外の第2領域R2が生じている。
【0024】
次に、ワイヤWが懸架されたシーブ1の点検方法について説明する。シーブ1の第1領域R1における巻回部W3の状態を点検するためにカメラなどの装置を設置する必要がある。
【0025】
図3に示されるように、シーブ1には、水門扉Tの外装Sに形成された第1開口S1や第2開口S2のみからアクセスするしかなく、視認が困難である。巻回部W3の点検には、先ず第1領域R1を通過するようにロープ体である通線紐を通線し、通線紐を用いて点検用の器材、清掃用の器材、注油用の器材を設置する。
【0026】
第1引張部W1側の第1開口S1からシーブ1の曲率に合わせて曲げられたガイド部材Pが挿入され、シーブ1の近傍の第2領域R2に設置される。ガイド部材Pは、例えば、管状部材により形成されている。ガイド部材Pは、例えば、塩ビ管を熱加工して曲げて形成されている。ガイド部材Pは、金属管を加工して形成されていてもよい。ガイド部材Pは、概ねシーブ1の曲率に合わせて曲げられていればよい。
【0027】
ガイド部材Pは、例えば、第1開口S1から挿入される保持用工具(不図示)等を用いて位置が保持される。第1開口S1から作業者の手が入る場合は、作業者がガイド部材Pを保持してもよい。ガイド部材Pは、第1引張部W1に固定されてもよい。ガイド部材Pには、第1引張部W1の側からガイド部材P内に可塑性を有する棒状体Bが挿通される。
【0028】
棒状体Bは、例えば、金属棒、導線、ケーブル線等により形成されている。棒状体Bは、可塑性を有していれば他の材料を用いて形成されていてもよい。これにより、棒状体Bは、湾曲するとその形状を保持することができる。棒状体Bの先端には、フックB1が設けられている。ガイド部材Pは、棒状体Bの先端部がガイド部材Pに挿入された状態で設置されてもよい。
【0029】
棒状体Bの先端がガイド部材Pに挿通された状態から、棒状体Bを第1開口S1内に押し込んでガイド部材Pを通過させる。ガイド部材Pを通過した棒状体Bは、ガイド部材Pの曲線に馴染み、ガイド部材Pの曲率のカーブに沿うように湾曲する。棒状体Bを更に押し込むと、棒状体Bは、第1領域R1の周囲を通過し、第2引張部W2側の第2開口S2から視認できる位置に到達する。
【0030】
棒状体Bは、第1領域R1を通過した状態において、先端のフックB1に工具Kが引っ掛けられ、第2引張部W2の側の第2開口S2から回収される。棒状体Bが第2開口S2から回収されると、棒状体Bは、第1開口S1、第1領域R1、第2開口S2を通過した状態となる。この状態において、棒状体BのフックB1に通線紐H(図4参照)が結びつけられる。
【0031】
図4に示されるように、棒状体Bを第1開口S1側から引っ張り、ガイド部材Pと共に第1開口S1から回収すると、棒状体に接続された通線紐が第1領域に巻回され、通線紐Hが第2開口S2、第1領域R1、第1開口S1に通線される。通線紐Hがシーブ1に通線されると、点検用の器材、清掃用の器材、注油用の器材を設置することができる。
【0032】
上述した棒状体Bは、先端に小型のCCDカメラを備えたカメラケーブルであってもよい。カメラケーブルは、可塑性を有し、ガイド部材Pの曲率に馴染んで第1領域R1に巻回させることができる。棒状体Bにカメラケーブルを用いることにより、第1領域R1に巻回させる工程において同時にシーブ1におけるワイヤWの巻回部W3の状態を点検することができる(図3参照)。CCDカメラの先端には、例えば、光源が設けられており点検時にシーブ1の第1領域R1周辺を照らすことができる。照明は、第1開口S1、第2開口S2から吊り下げられるものであってもよい。
【0033】
次に、シーブ1を清掃する工程について説明する。
【0034】
図5に示されるように、シーブ1の周囲に清掃用の器材Uを巻回する。例えば、シーブ1の周囲に通線紐Hが通線された状態から、通線紐Hの一端に清掃用の器材Uが接続され、通線紐Hの他端側を引張するとシーブ1の第1領域R1に清掃用の器材Uが巻回される。清掃用の器材Uは、例えば、可撓性を有する帯状体U1を備える。帯状体U1の両端には、一対の紐U3,U4が連結されている。帯状体U1には、長手方向に沿って複数のブラシU2が設けられている。ブラシU2は、シーブ1の溝2の断面形状に合わせられており、巻回部W3が巻回された溝2を擦るように形成されている。各ブラシU2は、それぞれ固さが異なるように形成されていてもよい。
【0035】
一対の紐U3,U4を第1引張部W1及び第2引張部W2に沿って上方に引張すると、巻回部W3が巻回された溝2に複数のブラシU2が当接する。帯状体U1を第1引張部W1及び第2引張部W2の方向に沿って往復させるように引張すると、巻回部W3が巻回された溝2は、複数のブラシU2により擦られ、表面の古いグリスやグリスに付着した塵が掻き取られて清掃される。清掃時には、水路Cの汚濁を防止するためになるべくクリーナや洗剤は使用されないことが望ましい。クリーナや洗剤を用いる場合、洗浄後の廃液や塵は吸引等により回収される。
【0036】
次に、シーブ1における第1領域R1及び巻回部W3に注油する工程について説明する。
【0037】
図6から図8に示されるように、シーブ1の周囲に注油用の器材Gが巻回される。注油用の器材Gは、例えば、可撓性を有する帯状のパッキンG1を備える。パッキンG1は、可撓性を有するウレタンゴム等により形成されている。パッキンG1の内部には、長手方向に沿って一対の流路G2が形成されている。パッキンG1の巻回部W3に面した側を内周側とすると、流路G2の途中には、パッキンG1の内周側に連通する吐出口G2Aが形成されている。G1の両端には、一対の紐G3,G4が連結されている。
【0038】
器材Gは、通線紐Hに接続され、シーブ1の第1領域R1の周囲に巻回される。この時、パッキンG1の一端から流路G2が見えるようにパッキンG1の一端が第1開口S1又は第2開口S2の近傍に配置される。通線紐Hの代わりに清掃用の器材Uを通線紐Hの代わりに用いてもよい。
【0039】
通線紐Hに器材Gを接続し、通線紐Hを引張してパッキンを第1領域に巻回させた後、一対の紐G3,G4を上方に引張するとパッキンG1がシーブ1の溝2に嵌って密着する。パッキンG1は、巻回部W3の周囲を覆い、パッキンG1と巻回部W3との間に空間Fが形成される。
【0040】
その後、グリスポンプ(不図示)等を用いてパッキンG1の一端の流路G2内にグリスを圧入する。グリスは、流路G2内を進行して吐出口G2Aから吐出され、グリスが空間F内に流入する。グリスの圧入を続けると、吐出口G2Aから流出したグリスが空間F内の空気を押し出しながら空間F内に充満する。その後、一対の紐G3,G4のうちのいずれか一方を引張して器材Gを回収する。パッキンG1がシーブ1から外されると、第1領域R1と巻回部W3には、グリスが充填されて注油された状態が出来上がる。
【0041】
[変形例1]
図9に示されるように、第1領域R1と巻回部W3への注油には、グリスが充満された袋体Qが用いられてもよい。パッキンG1の内周側には、複数の袋体Qが取り付けられている。袋体Qは、長手方向の断面が溝2の幅に形成されている。複数の袋体をパッキンG1の内周側に取り付け、通線紐に接続してパッキンG1をシーブ1の第1領域R1に巻回させる。
【0042】
袋体Qが溝2に収容されるようにパッキンG1の両端を引張して第1領域R1に巻回させながらパッキンG1の両端を溝2に密着させつつパッキンG1により巻回部W3を覆わせる。パッキンG1を引張することにより、パッキンG1と巻回部W3との間に空間Fを形成すると共に、袋体Qを破裂させて空間F内にグリスを充満させる。その後、一対の紐G3,G4のうちのいずれか一方を引張して器材Gを回収する。パッキンG1がシーブ1から外されると、第1領域R1と巻回部W3には、グリスが充填されて注油された状態が出来上がる。袋体Qを用いることにより、グリスを充填する工程を簡略化することができる。
【0043】
[変形例2]
第1領域R1と巻回部W3へのグリスの充填は、汚れの再付着を防止するためにグリスが表面を覆う程度の層が形成されていることが望ましい。
【0044】
図10に示されるように、流路G2は、パッキンG1の内周側に設けられていてもよい。流路G2は、例えば、ビニールチューブ等の可撓性を有する管により形成されている。流路G2は、パッキンG1の内周側に接着剤、溶着等により固定されている。パッキンG1と流路G2は、充填材等を用いて断面形状がなだらかに繋がるように形成されている。流路G2の途中には、グリスを吐出させる吐出口(不図示)が形成されている。
【0045】
変形例2に掛かるパッキンG1によれば、パッキンG1と巻回部W3との間の空間Fの体積を減少させることができる。変形例2に係るパッキンG1によれば、第1領域R1と巻回部W3との表面にグリスの層ができるように充填できる。変形例2に係るパッキンG1によれば、余分なグリスの充填を防止し、第1領域R1と巻回部W3との表面に汚れが堆積することが防止される。
【0046】
上述したワイヤ保全方法によれば、従来困難であった水門扉等の狭隘な空間に隠蔽されたシーブ1の下側を定期的に点検すると共に、清掃、給油を行うことができる。ワイヤ保全方法によれば、シーブ1の保全により緊急時において水門扉等を確実に稼働させることができる。ワイヤ保全方法によれば、可塑性を有する棒状体Bをガイド部材Pに挿通して湾曲させることで、棒状体Bをシーブ1の下方を通過させ、棒状体Bを用いて通線紐Hをシーブ1の周囲に通線することができる。点検、清掃、注油のための器材をシーブ1の周囲に配置することができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。例えば、ワイヤ保全方法は、シーブ1の下方が隠蔽されたものを保全することを例示したが、シーブ(滑車)の上方が隠蔽されたものに適用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 シーブ、2 溝、B 棒状体、B1 フック、C 水路、G 器材、G1 パッキン、G2 流路、G2A 吐出口、G3、G4 紐、H 通線紐、K 工具、P ガイド部材、Q 袋体、R1 第1領域、R2 第2領域、S 外装、S1 第1開口、S2 第2開口、T 水門扉、U 器材、U1 帯状体、U2 ブラシ、U3、U4 紐、W ワイヤ、W1 第1引張部、W2 第2引張部、W3 巻回部
図1
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図10