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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
G03G15/20 510
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020132529
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2022029271
(43)【公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久米 隆生
(72)【発明者】
【氏名】小俣 将史
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-69007(JP,A)
【文献】特開2009-109697(JP,A)
【文献】特開2015-69006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに形成されたトナー像をシートに定着させる定着装置であって、
内周面に潤滑剤が塗布された無端状の第一回転体と、
前記第一回転体の内側に配置された発熱体と、
前記第一回転体の外周面に当接し、シートを挟持搬送するニップ部を前記第一回転体と共に形成する第二回転体と、
前記第二回転体と共に前記第一回転体を挟むように前記第一回転体の前記内周面に摺擦可能に設けられ、前記発熱体からの輻射熱を受けて前記ニップ部を加熱するニップ部材と、
前記第二回転体の回転軸線方向に視て前記発熱体を囲むように形成され、前記発熱体からの輻射熱を前記ニップ部材に向けて反射する反射板と、を備え、
前記ニップ部材は、前記回転軸線方向に視て、前記ニップ部に沿ってシート搬送方向に延びるニップ形成部と、前記シート搬送方向における前記ニップ形成部の下流端部に連続して形成され、前記第一回転体の前記内周面に摺擦しないように前記第二回転体から遠ざかる離間方向に延設された延設部と、を有し、
前記延設部は、前記回転軸線方向に沿って延びるように形成され、前記潤滑剤が前記延設部上を移動するのを阻害する阻害部を有し、
前記阻害部は、前記回転軸線方向において前記延設部の一端部から中央部に向けて重力方向下方に傾斜するように設けられている、
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記反射板は、前記ニップ部材に接触する接触部を有し、
前記阻害部は、前記潤滑剤が前記接触部に向けて移動するのを阻害する、
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記阻害部は、前記第一回転体の前記内周面に対向する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記阻害部は、前記回転軸線方向に平行に延びている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記阻害部は、第一阻害部であり、
前記延設部は、前記第一阻害部と、前記離間方向において前記第一阻害部に並んで配置されると共に前記回転軸線方向に沿って延びるように形成され、前記潤滑剤が前記延設部に沿って移動するのを阻害する第二阻害部とを有する、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項6】
前記第一回転体、前記第二回転体及び前記阻害部は、前記回転軸線方向においてそれぞれ第一領域、第二領域、第三領域に設けられ、
前記第三領域は、前記回転軸線方向において前記第一領域内にあり、
前記第二領域は、前記回転軸線方向において前記第三領域内にある、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項7】
前記阻害部は、前記延設部に形成された溝である、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項8】
前記阻害部は、前記延設部に突設された突状部である、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項9】
前記発熱体は、ハロゲンランプである、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項10】
シートにトナー像を形成する画像形成手段と、
前記画像形成手段により形成されたトナー像をシートに定着させる、請求項1乃至のいずれか1項に記載の定着装置と、を備える、
ことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートにトナー像を定着させる定着装置、及び定着装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置は、未定着のトナー像が形成されたシートに熱と圧力を加えることにより、シートにトナー像を定着させる定着装置を備えている。定着装置としては、無端状の定着ベルトと、定着ベルトの外周面に当接するローラ(加圧ローラと呼ぶ)と、ハロゲンランプと、ニップ板と、反射板と、ステイとを備えたものが従来から提案されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載の装置の場合、ハロゲンランプは回転する定着ベルトを輻射熱によって加熱するために、定着ベルトの内側に配設されている。ニップ板は、加圧ローラと定着ベルトを挟むように定着ベルトの内周面に摺擦可能に設けられている。未定着のトナー像が形成されたシートは、定着ベルトと加圧ローラとの間に形成される定着ニップ部を通過する際に熱と圧力が加えられ、トナー像が定着される。反射板は、ハロゲンランプからの輻射熱をニップ板に向けて反射可能にニップ板を囲むように形成されて、ニップ板と共にステイにより保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-170239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、定着ベルトの内周面には、ニップ板との摩擦抵抗を減らすために、粘度のあるグリスなどの潤滑剤が塗布されている。ただし、潤滑剤は加熱されると、粘度が低くなる。特許文献1に記載したような従来の装置では、定着ニップ部を通過した潤滑剤のうちの一部が定着ベルトの内周面から離れ、ニップ板における定着ベルトに摺擦していない折り返し部を伝って反射板まで移動してしまい、そのまま反射板に付着することがあった。潤滑剤が反射板に付着すると、ハロゲンランプからの輻射熱による定着ベルトの加熱が効率よく行われ難くなる。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、ハロゲンランプからの輻射熱による効率的な定着ベルトの加熱を維持するために、潤滑剤が反射板に付着するのを抑制可能な定着装置、及びこれを備えた画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る定着装置は、シートに形成されたトナー像をシートに定着させる定着装置であって、内周面に潤滑剤が塗布された無端状の第一回転体と、前記第一回転体の内側に配置された発熱体と、前記第一回転体の外周面に当接し、シートを挟持搬送するニップ部を前記第一回転体と共に形成する第二回転体と、前記第二回転体と共に前記第一回転体を挟むように前記第一回転体の前記内周面に摺擦可能に設けられ、前記発熱体からの輻射熱を受けて前記ニップ部を加熱するニップ部材と、前記第二回転体の回転軸線方向に視て前記発熱体を囲むように形成され、前記発熱体からの輻射熱を前記ニップ部材に向けて反射する反射板と、を備え、前記ニップ部材は、前記回転軸線方向に視て、前記ニップ部に沿ってシート搬送方向に延びるニップ形成部と、前記シート搬送方向における前記ニップ形成部の下流端部に連続して形成され、前記第一回転体の前記内周面に摺擦しないように前記第二回転体から遠ざかる離間方向に延設された延設部と、を有し、前記延設部は、前記回転軸線方向に沿って延びるように形成され、前記潤滑剤が前記延設部上を移動するのを阻害する阻害部を有し、前記阻害部は、前記回転軸線方向において前記延設部の一端部から中央部に向けて重力方向下方に傾斜するように設けられている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発熱体からの輻射熱による第一回転体への効率的な加熱を維持するために、潤滑剤が反射板に付着するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の画像形成装置の構成を示す概略図。
図2】本実施形態の定着装置を示す概略図。
図3】第一実施形態のニップ板を示す斜視図。
図4】シート摺擦面側から見たニップ板を示す斜視図。
図5】溝部の幅方向長さについて説明するための模式図。
図6】本実施形態における潤滑剤の移動を示す図。
図7】潤滑剤の移動について説明するための拡大模式図。
図8】第二実施形態のニップ板を示す斜視図。
図9】第三実施形態のニップ板を示す拡大図であり、(a)1個の突状部を設けた場合、(b)複数個の突状部を設けた場合。
図10】従来例における潤滑剤の移動を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第一実施形態>
[画像形成装置]
以下、本実施形態について説明する。まず、本実施形態の画像形成装置の構成について、図1を用いて説明する。図1に示す画像形成装置100は、中間転写ベルト8に沿ってイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの画像形成部PY、PM、PC、PKを複数備えたタンデム型中間転写方式のフルカラープリンタである。
【0011】
画像形成装置100は、図示を省略したが、装置本体に接続された原稿読取装置あるいは装置本体に対し通信可能に接続されたパーソナルコンピュータ等の外部機器からの画像情報に応じて、シートSに画像を形成する。シートSとしては、普通紙、厚紙、ラフ紙、凹凸紙、コート紙等の用紙、プラスチックフィルム、布など、といった様々な種類のシート材が挙げられる。なお、本実施形態の場合、画像形成部PY~PK、一次転写ローラ5Y~5K、中間転写ベルト8、二次転写内ローラ66、二次転写外ローラ67などにより、シートSにトナー像を形成する画像形成手段としての画像形成ユニット500が構成されている。
【0012】
シートSの搬送プロセスとして、例えばシートSはカセット62内に積載されており、給紙ローラ63により画像形成タイミングに合わせて1枚ずつ搬送パス64に供給される。あるいは、不図示の手差しトレイに積載されたシートSが1枚ずつ搬送パス64に給紙される。シートSは搬送パス64の途中に配置されたレジストレーションローラ65へ搬送され、レジストレーションローラ65によりシートSの斜行補正やタイミング補正が行われた後に二次転写部T2へと送られる。二次転写部T2は、対向する二次転写内ローラ66と二次転写外ローラ67とにより形成される転写ニップである。二次転写部T2では、二次転写内ローラ66に二次転写電圧が印加されることで、トナー像が中間転写ベルト8からシートSへ二次転写される。
【0013】
上記した二次転写部T2までのシートSの搬送プロセスに対して、同様のタイミングで二次転写部T2まで送られて来る画像の画像形成プロセスについて説明する。まず、画像形成部PY、PM、PC、PKについて説明する。ただし、画像形成部PY、PM、PC、PKは、現像装置4Y、4M、4C、4Kで用いるトナーの色がイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックと異なる以外、ほぼ同一に構成される。そこで、以下では代表してイエローの画像形成部PYを例に説明し、その他の画像形成部PM、PC、PKについては説明を省略する。
【0014】
画像形成部PYは、主に感光ドラム1Y、帯電装置2Y、現像装置4Y、及びドラムクリーナ6Y等から構成される。回転駆動される感光ドラム1Yの表面は、帯電装置2Yにより予め表面を一様に帯電され、その後、画像情報の信号に基づいて駆動される露光装置3によって静電潜像が形成される。次に、感光ドラム1Y上に形成された静電潜像は、現像装置4Yによるトナー現像を経て可視像化される。その後、画像形成部PYと中間転写ベルト8を挟んで対向配置される一次転写ローラ5Yにより所定の加圧力及び一次転写バイアスが与えられ、感光ドラム1Y上に形成されたトナー像が中間転写ベルト8上に一次転写される。一次転写後の感光ドラム1Y上に僅かに残る転写残トナーは、ドラムクリーナ6Yにより除去される。
【0015】
中間転写ベルト8は、テンションローラ10、二次転写内ローラ66、及び張架ローラ7a、7bによって張架され、図中矢印R2方向へと移動するように駆動される。本実施形態の場合、二次転写内ローラ66は中間転写ベルト8を駆動する駆動ローラを兼ねている。上述の画像形成部PY~PKにより処理される各色の作像プロセスは、中間転写ベルト8上に一次転写された移動方向上流の色のトナー像上に順次重ね合わせるタイミングで行われる。その結果、最終的にはフルカラーのトナー像が中間転写ベルト8上に形成され、二次転写部T2へと搬送される。なお、二次転写部T2を通過した後の転写残トナーは、転写クリーナ装置11によって中間転写ベルト8から除去される。
【0016】
以上、それぞれ説明した搬送プロセス及び画像形成プロセスをもって、二次転写部T2においてシートSとフルカラートナー像のタイミングが一致し、中間転写ベルト8からシートSにトナー像が二次転写される。その後、トナー像が転写されたシートSは定着装置30へと搬送され、定着装置30により熱と圧力が加えられることにより、トナー像がシートS上に溶融固着、つまり定着される。本実施形態の定着装置30については詳細を後述する(図2参照)。
【0017】
定着装置30によりトナー像が定着されたシートSは、片面プリントの場合、順回転する排紙ローラ69により排紙トレイ601上に排出される。他方、両面プリントの場合、シートSは順回転する排紙ローラ69によりシートSの後端が切り替え部材602を通過するまで搬送された後、逆回転に切り換えられた排紙ローラ69により先後端が入れ替えられて両面搬送パス603へと搬送される。その後、再給紙ローラ604によって再び搬送パス64へと送られる。その後の搬送ならびに二面目の作像プロセスに関しては、上述の場合と同様なので説明を省略する。
【0018】
[定着装置]
次に、本実施形態の定着装置30について図2を用いて説明する。図2に示すように、定着装置30は、無端状の定着ベルト201と、定着ベルト201を加熱するための加熱ユニット200と、加熱ユニット200との間で定着ベルト201を挟む加圧ローラ202とを備える。なお、本明細書で言う定着ベルト201とは、薄肉のフィルム状のものを含む。
【0019】
第一回転体としての定着ベルト201は、高熱伝導率で低熱容量であるポリイミドなどの樹脂あるいはステンレスなどの金属で形成された、可撓性を有する無端状のベルト(エンドレスベルト)である。最近では、ポリイミド樹脂の定着ベルト201を用いることが多い。定着ベルト201は回転自在に設けられており、定着ベルト201の内周面には後述するニップ板204との摺動性を確保するために、潤滑剤が塗布されている。そして、この定着ベルト201の幅方向(X方向)の両端部には、定着ベルト201の回転を案内するとともに定着ベルト201の幅方向への移動を規制するために、不図示のガイド部材が設けられている。
【0020】
加熱ユニット200は定着ベルト201の内周側に配設されており、ハロゲンランプ203、ニップ板204、反射板205及びステイ206を有している。発熱体としてのハロゲンランプ203は定着ベルト201とニップ板204とから間隔をあけて配置され、輻射熱を発して定着ベルト201を加熱するために設けられている。ハロゲンランプ203は、不図示の電源による給電量に応じて輻射熱の温度が変わる。本実施形態の場合、ハロゲンランプ203が発する輻射熱の温度は、不図示の温度センサにより検出される定着ニップ部Nの温度が所定の目標温度に維持されるように、不図示の制御部によるハロゲンランプ203への給電量の制御に従って調整される。
【0021】
ニップ板204は、回転する定着ベルト201に対し非回転に設けられ、定着ベルト201の内周面に摺擦可能に、幅方向(加圧ローラ202の回転軸線方向)に亘って延設された長尺状のニップ部材である。ニップ板204は、ハロゲンランプ203からの輻射熱による定着ベルト201の加熱が効率よく行われるように、ハロゲンランプ203から受けた輻射熱を吸収して定着ベルト201に伝導するように構成されている。本実施形態のニップ板204は、ニップ形成部220と折り返し部210とを有している。ニップ形成部220は、加圧ローラ202の回転軸線方向(X方向)に視て、定着ニップ部Nに沿ってシート搬送方向(Y方向)に延びるように形成されている。延設部としての折り返し部210は、加圧ローラ202の回転軸線方向に視て、シート搬送方向においてニップ形成部220の下流端部に連続して形成され、定着ベルト201の内周面に摺擦しないように加圧ローラ202から遠ざかる離間方向に延設される。こうしたニップ形成部220と折り返し部210とを有するニップ板204は、後述のステイ206より熱伝導率が大きい、例えばアルミニウム板などが曲げ加工されるなどして形成されている。
【0022】
そして、上述のように、ハロゲンランプ203は定着ベルト201を加熱するために輻射熱を発するが、その際に、ニップ板204はハロゲンランプ203からの輻射熱を受ける。つまり、ニップ板204は、ハロゲンランプ203に対向してハロゲンランプ203からの輻射熱を受ける面(受熱面20aと呼ぶ)を有する。受熱面20aは、ハロゲンランプ203からの輻射熱を効率的に吸収して定着ベルト201に伝導させるため、輻射率(放射率)の高い黒色に近い色に着色されている。
【0023】
他方、ニップ形成部220において定着ベルト201と摺擦する面(区別するため、ベルト摺擦面20bと呼ぶ)は、定着ベルト201との摩擦抵抗を低減するために平滑化されている。また、定着ベルト201とニップ板204との摩擦抵抗を低減するために、定着ベルト201とベルト摺擦面20bとの間に、潤滑剤Gが常に存在するようにしている。一般的には、耐熱性の高い潤滑剤が定着ベルト201の内周面に一周に亘って塗布されている。あるいは、潤滑剤がニップ板204のベルト摺擦面20bに塗布されていてもよい。この場合には、定着ベルト201が回転しながらベルト摺擦面20bに摺擦されることにより、実質的に潤滑剤が定着ベルト201の内周面に一周に亘って塗布された状態になる。なお、潤滑剤としては、例えばフッ素グリスや、フッ素オイル、シリコーンオイルなどの比較的に広い温度範囲で粘度変化の少ないものが用いられる。
【0024】
反射板205は、ハロゲンランプ203から発せられる輻射熱をニップ板204に向けて反射する部材であり、加圧ローラ202の回転軸線方向(X方向)に視てハロゲンランプ203を囲むように、ハロゲンランプ203から所定の間隔をあけて配置される。そうするため、反射板205は、赤外線や遠赤外線つまり輻射熱の反射率が大きい例えばアルミニウム板を、図示のように断面が略U字状になるように湾曲して形成されている。この反射板205によってハロゲンランプ203からの輻射熱がニップ板204に集められることで、ハロゲンランプ203からの輻射熱を効率よく利用して、ニップ板204を介して定着ベルト201を速やかに加熱することができる。
【0025】
ステイ206は、ステイ206はニップ板204と反射板205とを保持している。ステイ206に保持されたニップ板204によって、定着ベルト201が内側から加圧ローラ202に向けて押圧されることで、より確実に定着ニップ部Nを形成できるようにしている。ステイ206は、例えばステンレスやバネ鋼などのニップ板204に比較して剛性が大きい金属を用い、加圧ローラ202の回転軸線方向(X方向)に視て、反射板205を囲むように、例えば断面略U形状に形成されている。
【0026】
なお、本実施形態の場合、シート搬送方向において、反射板205がニップ板204の折り返し部210よりも上流側に配置されるように、ニップ板204と反射板205とがステイ206に保持されている。また、ニップ板204と反射板205とはステイ206に保持された状態で、反射板205がニップ板204に接触する接触部205aを有するように、それぞれがステイ206に保持されると好ましい。
【0027】
加圧ローラ202は、回転自在に設けられている。加圧ローラ202は、不図示の駆動モータにより矢印A方向へ所定の周速度で回転される。すると、定着ニップ部Nで生じる摩擦力によって、加圧ローラ202の回転力が定着ベルト201に伝達される。こうして、定着ベルト201は加圧ローラ202により従動回転する(所謂、加圧ローラ駆動方式)。加圧ローラ202は、例えば回転軸としての金属製の芯金202Aと、第二回転体としてのローラ部202Bとを有する。ローラ部202Bは、シリコーンゴム等の弾性層と、弾性層の外周にさらにPTFE、PFA、FEP等のフッ素樹脂からなる離型層とを有し、芯金202Aの外周に形成されている。なお、芯金202Aは、加圧ローラ202の回転軸線方向(X方向)の両端部が不図示の軸受け部によって回転可能に支持されている。
【0028】
本実施形態の場合、加圧ローラ202が例えばバネ等の付勢機構(不図示)により所定の付勢力で、不図示の軸受け部を介して定着ベルト201に向けて付勢される。これにより、定着ベルト201と加圧ローラ202(より詳しくはローラ部202B)とが互いに所望の圧接力で圧接される。定着ベルト201と加圧ローラ202とを圧接させることにより、定着ベルト201と加圧ローラ202との間でシートSを加圧した状態で通過させてトナー像を加熱定着する定着ニップ部Nが形成される。なお、定着ニップ部Nを形成するために、バネなどの付勢手段によりステイ206ごとニップ板204を加圧ローラ202に向けて付勢するようにしてあってもよい。
【0029】
上記したように、ニップ板204がハロゲンランプ203からの輻射熱及び反射板205により反射された輻射熱によって加熱されることで、定着ベルト201の温度が上昇する。未定着トナー像が形成されたシートSは、回転する定着ベルト201と加圧ローラ202とにより挟持搬送される際に定着ニップ部Nで加熱及び加圧され、これにより、シートSにトナー像が定着される。
【0030】
ところで、定着ベルト201とニップ板204との摩擦抵抗を減らすために用いる潤滑剤Gは、加熱されると粘度が低くなることで、定着ベルト201とニップ板204との摺動性をより向上させる。しかしながら、従来の装置では、定着ニップ部Nを通過する際に加熱されて粘度の低くなった潤滑剤Gの一部が反射板205に付着してしまい、ハロゲンランプ203からの輻射熱による定着ベルト201の加熱を効率よく行えなくなる虞があった。以下、従来の場合に生じていた反射板205へ付着する潤滑剤Gの移動について、図10を用いて説明する。図10は、従来のニップ板250を用いた従来例における潤滑剤Gの移動を示す図である。
【0031】
図10に示すように、従来例においても、ニップ板250と反射板205とはステイ206に保持されている。また、ニップ板250はニップ形成部220と折り返し部210とを有している。潤滑剤Gは粘度が低くなると、回転する定着ベルト201(図2参照)によって、ニップ板250に沿ってシート搬送方向(矢印Y方向)の下流側へと移動され、その一部が、定着ベルト201の内周面から離れて折り返し部210上を伝い得る。折り返し部210を伝う潤滑剤Gの量が多くなると、潤滑剤Gは折り返し部210の先端から回り込んで受熱面20a側に到達する。そして、ニップ板250の受熱面20a側には、反射板205がニップ板204と共にステイ206に保持されている。それ故、受熱面20a側に到達した潤滑剤Gが反射板205に付着する虞がある。潤滑剤Gが反射板205に付着してしまうと、上記の図2に示したハロゲンランプ203からの輻射熱による定着ベルト201の加熱を効率よく行い難くなる。
【0032】
この点、ニップ板250から反射板205を大きく離してステイ206に保持させれば、潤滑剤Gが受熱面20a側に到達しても反射板205に付着するのを防ぐことが可能である。しかし、仮にそうした場合には、受熱面20aが潤滑剤Gに覆われる虞があり、ハロゲンランプ203からの輻射熱を有効活用できず、やはり定着ベルト201を効率よく加熱することが難しくなる。また、ニップ板250と反射板205とを大きく離すと、ニップ板250と反射板205との間から輻射熱が逃げやすくなり、定着ベルト201を効率よく加熱し得なくなることから、反射板205とニップ板250とはできる限り間を狭くした方が好ましい。さらに、加熱ユニット200(図2参照)の小型化の観点からも、ニップ板250と反射板205とを大きく離すことなく、できれば接触させるのが望ましい。
【0033】
上記点に鑑み、本実施形態では、低粘度となってニップ板250に沿って移動される潤滑剤Gのうちの一部が、定着ベルト201の内周面から離れて折り返し部210を伝っても、受熱面20a側に到達し難くした。潤滑剤Gが受熱面20a側に到達しなければ、潤滑剤Gは反射板205や受熱面20aに付着しない。以下、潤滑剤Gが反射板205や受熱面20aに付着するのを抑制可能な本実施形態のニップ板204について、図2を参照しながら図3乃至図7を用いて説明する。なお、図5では、説明を理解しやすくするために、ニップ板204を定着ベルト201の外側に出して図示している。
【0034】
[ニップ板]
上述のように、ニップ板204は定着ニップ部Nに沿ってシート搬送方向に延びるニップ形成部220と、ニップ形成部220の下流端部に連続形成され、定着ベルト201の内周面に摺擦せずに離間方向に延設された折り返し部210とを有する(図2参照)。そして、図3及び図4に示すように、折り返し部210には、加圧ローラ202の回転軸線方向(矢印X方向)に沿って延びるように、阻害部としての溝Mが形成されている。本実施形態では、複数(ここでは3本)の溝Mが折り返し部210において定着ベルト201の内周面に対向する面に、平行に形成されている。即ち、複数の溝M(第一阻害部、第二阻害部)はそれぞれ、折り返し部210が延びる離間方向に並んで配置されると共に、加圧ローラ202の回転軸線方向に延びるように形成されている。なお、一例であるが、例えば折り返し部210の厚みが「1mm」である場合、溝Mは、深さとシート搬送方向の長さが共に約「10μm」に形成される。
【0035】
また、本実施形態の場合、定着装置30内において、図5に示すように、定着ベルト201は第一領域Jに設けられ、加圧ローラ202はローラ部202Bが第二領域Lに設けられ、溝Mは第三領域Kに設けられる。そして、加圧ローラ202の回転軸線方向(矢印X方向)において、第三領域Kは第一領域J内(第一領域内)にあり、第二領域Lは第三領域K内(第三領域内)にある。具体的に、回転軸線方向の長さに関し、「ローラ部202B<定着ベルト201」、「定着ベルト201<ニップ板204」、「ローラ部202B<溝M<定着ベルト201」の関係となっている。また、回転軸線方向に関し、溝Mは両端部がそれぞれローラ部202Bの端部と定着ベルト201の端部との間に位置するように形成される。言い換えれば、溝Mは、両端部のそれぞれが、ローラ部202Bの端部よりも外側に位置し、また定着ベルト201の端部よりも内側に位置するように形成されている。
【0036】
本実施形態のニップ板204の場合、図6に示すように、溝Mは、シート搬送方向(矢印Y方向)の下流側へと移動され且つ定着ベルト201の内周面から離れて折り返し部210の表面を伝ってくる潤滑剤Gが反射板205に向けて移動するのを阻害する。即ち、折り返し部210上(延設部上)を伝ってくる潤滑剤Gは、溝Mに沿って加圧ローラ202の回転軸線方向に移動される。これにより、潤滑剤Gは折り返し部210の先端から回り込むことがないので、受熱面20a側に到達し難くなる。このように、反射板205がニップ板204と共にステイ206に保持されている受熱面20a側に、潤滑剤Gが到達し難くなるので、潤滑剤Gが反射板205に付着しない。
【0037】
そして、上記のように、溝Mの両端部それぞれが加圧ローラ202のローラ部202Bの端部の外側に位置するように、溝Mが形成されることから、図7に示すように、折り返し部210の表面を伝ってくる潤滑剤Gは溝Mにより確実に阻害される。また、溝Mの両端部それぞれが定着ベルト201の端部よりも内側に位置するように、溝Mが形成されることから、溝Mに沿って回転軸線方向に移動された潤滑剤Gは、定着ベルト201の端部から定着ベルト201の表面に回り込み難い。溝Mに阻害された潤滑剤Gは、回転する定着ベルト201の内周面側に戻り、定着ベルト201と共に内周面に沿って移動され得る。なお、折り返し部210に形成する溝Mは1本であってもよいが、潤滑剤Gが反射板205に向けて移動するのをより確実に阻害するには、溝Mは複数本の方が好ましい。
【0038】
以上のように、本実施形態では、ニップ板204において、定着ベルト201の内周面に摺擦せずに離間方向に延設された折り返し部210に溝Mが形成される。この溝Mによって、加熱により低粘度となった潤滑剤Gが折り返し部210を伝ってきたとしても、反射板205がニップ板204と共にステイ206に保持されている受熱面20a側への、潤滑剤Gの移動が阻害される。これにより、潤滑剤Gが反射板205に到達し難くなることから、潤滑剤Gが反射板205に付着するのを抑制することができる。
【0039】
<第二実施形態>
上述したニップ板204では、加圧ローラ202の回転軸線方向に平行に延びている溝Mを折り返し部210に形成した例を示したが(図3参照)、これに限らない。例えば、図8に示すニップ板204Aのように、加圧ローラ202の回転軸線方向(矢印X方向)において、折り返し部210の一端部から中央部に向けて重力方向下方に傾斜するように、溝Mが折り返し部210に形成されていてもよい。こうした場合、溝Mにより阻害された潤滑剤Gは重力に従って中央部に集まりやすくなる。それ故、溝Mに沿って回転軸線方向に移動された潤滑剤Gは、定着ベルト201の端部から定着ベルト201の表面により回り込み難くできる。
【0040】
<第三実施形態>
あるいは、図9(a)に示すニップ板204Bや、図9(b)に示すニップ板204Cのように、折り返し部210を伝ってくる潤滑剤Gを阻害するために、折り返し部210に溝Mの代わりに突状部270が突設されてもよい。図9(a)に示すニップ板204Bは突状部270が1個設けられた例を示し、図9(b)に示すニップ板204Cは突状部270が複数個設けられた例を示す。この突状部270は、上述した溝Mと同様の構成であってよい(図3図5図8参照)。
【0041】
<他の実施形態>
なお、上述した第一~第三の各実施形態では、溝Mや突状部270が折り返し部210において定着ベルト201の内周面に対向する面に形成された例を示したが、これに限らない。例えば、溝Mや突状部270は、折り返し部210において定着ベルト201の内周面に対向する面と反対側の面に形成されてもよい。
【0042】
なお、上述の実施形態では、発熱体としてハロゲンランプ203(ハロゲンヒータ)を例に示したが、これに限らず、例えば赤外線ヒータやカーボンヒータなどであってもよい。
【0043】
なお、上述の実施形態では、各色の感光ドラム1Y~1Kから中間転写ベルト8に各色のトナー像を一次転写した後に、シートSに各色のトナー像を一括して二次転写する構成の画像形成装置100を例に説明したが、これに限らない。例えば、感光ドラム1Y~1KからシートSに直接転写する直接転写方式の画像形成装置であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
30…定着装置、100…画像形成装置、201…第一回転体(定着ベルト)、202B…第二回転体(ローラ部)、203…発熱体(ハロゲンランプ)、204(204A、204B、204C)…ニップ部材(ニップ板)、205…反射板、205a…接触部、210…延設部(折り返し部)、220…ニップ形成部、270…阻害部(第一阻害部、第二阻害部、突状部)、500…画像形成手段(画像形成ユニット)、M…阻害部(第一阻害部、第二阻害部、溝)、N…ニップ部(定着ニップ部)、S…シート
図1
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図8
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図10