(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】カスケード制御におけるパラメータ調整装置
(51)【国際特許分類】
G05B 13/02 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
G05B13/02 A
(21)【出願番号】P 2020138114
(22)【出願日】2020-08-18
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000133526
【氏名又は名称】株式会社チノー
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】石橋 政三
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-189464(JP,A)
【文献】国際公開第2018/100670(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 1/00 - 7/04
G05B 11/00 -13/04
G05B 17/00 -17/02
G05B 21/00 -21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気炉の
炉内温度PV1と目標温度
SV1を入力とする第1PID制御器と、該第1PID制御器の出力と前記目標温度
SV1との線形結合演算で構成されるカスケード演算器とからなる1次制御器と、
前記1次制御器に縦続接続され、前記カスケード演算器の出力と前記
電気炉の
炉壁温度PV2を入力とする第2PID制御器からなる2次制御器と、を備えたカスケード制御におけるパラメータ調整装置であって、
前記1次制御器のPIDオートチューニングを行ったときに観測される振幅値と周期に基づいてPIDパラメータを算出する第1PIDパラメータ算出手段と、
前記1次制御器のPIDオートチューニングの前に前記2次制御器のPIDオートチューニングを行ったときに観測される振幅値と周期に基づいてPIDパラメータを算出する第2PIDパラメータ算出手段と、
前記第1PIDパラメータ算出手段によるPIDパラメータの算出時に、
前記炉内温度PV1,前記炉壁温度PV2-前記目標温度SV1による正側と負側の偏差から前記
炉壁温度PV2と前記
炉内温度PV1の正負最大偏
差E
CFmax+,E
CFmax-
を算出する第1偏差算出手段と、
前記第2PIDパラメータ算出手段によるPIDパラメータの算出時に、
前記炉内温度PV1,前記炉壁温度PV2-前記目標温度SV1による正側と負側の偏差から前記
炉壁温度PV2と前記
炉内温度PV1の正負最大偏
差E
FCmax+,E
FCmax-
を算出する第2偏差算出手段と、
前記
炉壁温度PV2が前記目標温度
SV1とクロスした後に前記
炉内温度PV1が前記目標温度
SV1とクロスしたときの時間差
D
E
を算出し、前記
炉壁温度PV2が最大値になった時点から前記時間差
D
E
の分を遅らせた時点での
炉内温度PV1との差の温度
をE
D
として算出する位相差算出手段と、
前記カスケード演算器の出力比率:a、出力バイアス固定部:b、出力バイアス比率:cをカスケードパラメータとしたとき、前記
炉壁温度PV2が立上り移行中の場合は、a=(2
E
D
)/100.0%、b=-E
D 、c=1.00に基づいてカスケードパラメータを算出し、前記
炉壁温度PV2が目標温度
SV1近傍に到達した場合は、
前記第2偏差算出手段により算出される炉壁温度PV2と炉内温度PV1の負側の最大偏差と前記第1偏差算出手段により算出される炉壁温度PV2と炉内温度PV1の負側の最大偏差との最小値をE
max-
としたとき、a={MAX(E
FCmax+,E
CFmax+)+|MAX(E
FCmax-,E
CFmax-)|}/100.0%、b=E
max-、c=1.00に基づいてカスケードパラメータを算出するカスケードパラメータ算出手段と、を備えたことを特徴とするカスケード制御におけるパラメータ調整装置。
【請求項2】
前記カスケードパラメータ算出手段にて算出したカスケードパラメータを初期値として予め定めた水準を基に
生成した直交配列
表の実験順序に従って前記カスケード演算器の微調整を行う微調整手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載のカスケード制御におけるパラメータ調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのPID制御器を縦続に組合せて1つのフィードバックループを組むカスケード制御におけるパラメータ調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PID制御器は、例えば下記特許文献1などに開示されるように、制御対象の温度等のプロセス量を制御する制御装置として従来から多用されている。PID制御器は、現場において第一線の制御器として現在でも実装され続けられており、比例制御器、積分制御器、微分制御器のシンプルな3構造が魅力となっている。
【0003】
しかしながら、現場でPID制御器を使いこなすためには、PIDパラメータを最適に調整する必要があり、調整に手間がかかるという問題がある。
【0004】
このように、PIDパラメータの調整に手間がかかるにも関わらず、金属熱処理や半導体・電子部品熱処理の世界では、PID制御に関数演算を組合せたアドバンスト制御手法の一つであるカスケード制御を採用して、高付加価値材料を製造しているケースが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、カスケード制御では、複数のPID制御器を縦続接続するので、パラメータの調整はさらに困難を極める。このため、現場では、カスケード制御におけるパラメータの調整に要するオペレータの負担を軽減し、パラメータの調整に要する時間の短縮が望まれている。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、パラメータの調整に要する時間の短縮を図ることができるカスケード制御におけるパラメータ調整装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載されたカスケード制御におけるパラメータ調整装置は、電気炉の炉内温度PV1と目標温度SV1を入力とする第1PID制御器と、該第1PID制御器の出力と前記目標温度SV1との線形結合演算で構成されるカスケード演算器とからなる1次制御器と、
前記1次制御器に縦続接続され、前記カスケード演算器の出力と前記電気炉の炉壁温度PV2を入力とする第2PID制御器からなる2次制御器と、を備えたカスケード制御におけるパラメータ調整装置であって、
前記1次制御器のPIDオートチューニングを行ったときに観測される振幅値と周期に基づいてPIDパラメータを算出する第1PIDパラメータ算出手段と、
前記1次制御器のPIDオートチューニングの前に前記2次制御器のPIDオートチューニングを行ったときに観測される振幅値と周期に基づいてPIDパラメータを算出する第2PIDパラメータ算出手段と、
前記第1PIDパラメータ算出手段によるPIDパラメータの算出時に、前記炉内温度PV1,前記炉壁温度PV2-前記目標温度SV1による正側と負側の偏差から前記炉壁温度PV2と前記炉内温度PV1の正負最大偏差E
CFmax+,ECFmax-
を算出する第1偏差算出手段と、
前記第2PIDパラメータ算出手段によるPIDパラメータの算出時に、前記炉内温度PV1,前記炉壁温度PV2-前記目標温度SV1による正側と負側の偏差から前記炉壁温度PV2と前記炉内温度PV1の正負最大偏差E
FCmax+,EFCmax-
を算出する第2偏差算出手段と、
前記炉壁温度PV2が前記目標温度SV1とクロスした後に前記炉内温度PV1が前記目標温度SV1とクロスしたときの時間差D
E
を算出し、前記炉壁温度PV2が最大値になった時点から前記時間差D
E
の分を遅らせた時点での炉内温度PV1との差の温度をE
D
として算出する位相差算出手段と、
前記カスケード演算器の出力比率:a、出力バイアス固定部:b、出力バイアス比率:cをカスケードパラメータとしたとき、前記炉壁温度PV2が立上り移行中の場合は、a=(2E
D
)/100.0%、b=-ED 、c=1.00に基づいてカスケードパラメータを算出し、前記炉壁温度PV2が目標温度SV1近傍に到達した場合は、前記第2偏差算出手段により算出される炉壁温度PV2と炉内温度PV1の負側の最大偏差と前記第1偏差算出手段により算出される炉壁温度PV2と炉内温度PV1の負側の最大偏差との最小値をE
max-
としたとき、a={MAX(EFCmax+,ECFmax+)+|MAX(EFCmax-,ECFmax-)|}/100.0%、b=Emax-、c=1.00に基づいてカスケードパラメータを算出するカスケードパラメータ算出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に記載されたカスケード制御におけるパラメータ調整装置は、請求項1のパラメータ調整装置において、
前記カスケードパラメータ算出手段にて算出したカスケードパラメータを初期値として予め定めた水準を基に生成した直交配列表の実験順序に従って前記カスケード演算器の微調整を行う微調整手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パラメータの調整に要する時間の短縮を図ることができる。また、直交配列表を組合せたパラメータ算出法を採用すれば、パラメータの調整時間をさらに短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るパラメータ調整装置の全体構造を示す図である。
【
図2】本発明に係るパラメータ調整装置によるパラメータ調整方法のフローチャートである。
【
図3】本発明に係るパラメータ調整装置によるPIDオートチューニング結果の一例を示す図である。
【
図4】本発明に係るパラメータ調整装置によるPIDオートチューニング時の炉壁温度と炉内温度の正負最大偏差の算出方法の説明図である。
【
図5】本発明に係るパラメータ調整装置によるPIDオートチューニング時の位相差および偏差の算出方法の説明図である。
【
図6】本発明に係るパラメータ調整装置に用いられるカスケードパラメータの水準割付けを示す図である。
【
図7】本発明に係るパラメータ調整装置に採用される直交配列表を示す図である。
【
図8】本発明に係るパラメータ調整装置のカスケード制御における各パラメータの具体的な数値例を示す図である。
【
図9】本発明に係るパラメータ調整装置のカスケード制御応答結果の一例を示す図である。
【
図10】炉内温度制御応答結果の一例を示す図である。
【
図11】炉壁温度制御応答結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
本発明に係るパラメータ調整装置は、2つのPID制御器を縦続に組合せて1つのフィードバックループを組む制御方式であるカスケード制御において、制御対象の異なる2点の温度(中心温度、周囲温度)を制御量としてパラメータを調整するものである。
【0015】
以下、本実施の形態では、制御対象を電気炉とし、電気炉のヒータ近傍とチャンバー内に設置される2つの温度センサにて検出される異なる2点の温度(中心温度に相当するチャンバー温度:以下、炉内温度PV1という、周囲温度に相当するファーネス温度:以下、炉壁温度PV2という)を制御量(プロセス量)としてパラメータを調整する場合を例にとって説明する。
【0016】
[パラメータ調整装置の構成]
図1に示すように、本実施の形態のパラメータ調整装置1は、電気炉の炉内に設置されたヒータをサイリスタなどのスイッチング手段を介してON/OFF制御する調節計に採用され、温度(1次制御器の制御量)-温度(2次制御器の制御量)のカスケード制御におけるパラメータの調整時間の短縮を図ることを目的として、1次制御器2、2次制御器3、パラメータ算出部4、波形観測器5を備えて概略構成される。
【0017】
1次制御器2は、第1PID制御器11とカスケード演算器12を備えて構成される。第1PID制御器11は、例えば偏差微分型の制御器からなり、電気炉の炉内温度PV1と電気炉の目標温度SV1を入力とし、後述するPIDパラメータP1,I1,D1に基づいてPID演算された結果に対応する操作量MV1を出力する。
【0018】
カスケード演算器12は、第1PID制御器11の出力MV1を入力として第1PID制御器11の後段に接続され、第1PID制御器11の出力(操作量)MV1と電気炉の目標温度SV1との線形結合演算による演算ブロックで構成され、R2 (s)=a・U(s)+b+c・R1 (s)…式(1)で示される。
【0019】
なお、式(1)の各変数R1 (s),R2 (s),U(s),a,b,cは以下の通りである。
R1 (s):1次制御器目標値(0~100%)
R2 (s):2次制御器目標値(0~100%)
U(s):1次制御器出力(0~100%)
カスケードパラメータ
a:出力比率(0.00~1.00)
b:出力バイアス固定分(-100~100%)
c:出力バイアス比率(0.00~10.00)
【0020】
2次制御器3は、1次制御器2に縦続接続され、カスケード演算器12の出力SV2と電気炉の炉壁温度PV2を入力とする例えば偏差微分型の制御器からなる第2PID制御器13で構成され、後述するPIDパラメータP2,I2,D2に基づいてPID演算された結果に対応する操作量MV2を出力する。
【0021】
パラメータ算出部4は、第1PIDパラメータ算出手段4a、第2PIDパラメータ算出手段4b、カスケードパラメータ算出手段4cからなる。
【0022】
第1PIDパラメータ算出手段4aは、後述するオートチューニング手段5aにて1次制御ループ側のPIDオートチューニングを実行したときに波形観測器5にて観測される振幅値(A1)と周期(T1)に基づいてPIDパラメータP1,I1,D1を算出する。
【0023】
第2PIDパラメータ算出手段4bは、後述するオートチューニング手段5aにて2次制御ループ側のPIDオートチューニングを実行したときに波形観測器5にて観測される振幅値(A2)と周期(T2)に基づいてPIDパラメータP2,I2,D2を算出する。
【0024】
カスケードパラメータ算出手段4cは、カスケード演算器12の出力比率:a、出力バイアス固定部:b、出力バイアス比率:cをカスケードパラメータとし、プラント出力としての炉壁温度PV2が立上り移行中の場合、後述する位相差算出手段5dの算出結果からa=(2ED )/100.0%、b=-ED 、c=1.00に基づいてカスケードパラメータa,b,cを算出する。
【0025】
カスケードパラメータ算出手段4cは、プラント出力としての炉壁温度PV2が目標温度SV1近傍に到達した場合、後述する第1偏差算出手段5bおよび第2偏差算出手段5cの算出結果からa={MAX(EFCmax+,ECFmax+)+|MAX(EFCmax-,ECFmax-)|}/100.0%、b=Emax-、c=1.00に基づいてカスケードパラメータa,b,cを算出する。
【0026】
波形観測器5は、電気炉の目標温度SV1、炉内温度PV1、炉壁温度PV2を入力とし、プラント出力としての炉壁温度PV2の状態に応じてパラメータの調整を行う機能を有し、オートチューニング手段5a、第1偏差算出手段5b、第2偏差算出手段5c、位相差算出手段5d、カスケードパラメータ算出手段5e、微調整手段5fを備えて構成される。
【0027】
オートチューニング手段5aは、炉壁温度PV2または炉内温度PV1のオートチューニング実行指令により、電気炉の目標温度SV1に対し、第2PID制御器13→第1PID制御器11の順番でON/OFF制御してオートチューニングを実行する。その際の制御応答は、周期振動を描くので、その振舞いから、周期振動における振幅値(A=A1,A2)と周期(T=T1,T2)を波形観測器5にて観測し、調整則に基づいて第2PIDパラメータ算出手段4bがPIDパラメータP2,I2,D2を算出し、その後、第1PIDパラメータ算出手段4aがPIDパラメータP1,I1,D1を算出する。
【0028】
PIDパラメータは、Ziegler&Nichols法からの改良調整則を採用して得られる応答結果に基づくP(%)=A/0.86、I(s)=0.46T、D(s)=0.1Tによって算出される。なお、調整則は従来技術でも十分に適用できる。
【0029】
第1偏差算出手段5bは、第1PIDパラメータ算出手段4aにてPIDパラメータP1,I1,D1を算出するときに、炉壁温度PV2と炉内温度PV1の正負最大偏差(ECFmax+,ECFmax-)を算出する。
【0030】
第2偏差算出手段5cは、第2PIDパラメータ算出手段4bにてPIDパラメータP2,I2,D2を算出するときに、炉壁温度PV2と炉内温度PV1の正負最大偏差(EFCmax+,EFCmax-)を算出する。
【0031】
位相差算出手段5dは、PIDオートチューニングのON/OFF制御で得られる位相差、すなわち、炉壁温度PV2と炉内温度PV1が目標温度SV1とクロスしたときの時間差(DE )を算出する。さらに説明すると、最初に炉壁温度PV2が目標温度SV1とクロスし、その後から炉内温度PV1が目標温度SV1とクロスしたときの時間差(DE )を算出する。また、位相差算出手段5dは、炉壁温度PV2が最大値になった時点から時間差(DE )の分を遅らせた時点での炉内温度PV1との差の温度(ED )を算出する。
【0032】
微調整手段5eは、カスケードパラメータ算出手段4cにて算出したカスケードパラメータa,b,cを初期値として予め定めた水準を基に直交配列表への割り付けを行ったときの調整順序に従ってカスケード演算器12の微調整を行う。
【0033】
[カスケード制御におけるパラメータ調整方法]
次に、上述したパラメータ調整装置1を用いたカスケード制御におけるパラメータ調整方法について
図2のフローチャートを参照しながら説明する。
【0034】
ステップ1:炉壁温度制御(2次側)オートチューニング
オートチューニング手段5aは、炉壁温度PV2のオートチューニング実行指令が入力されると、前述した改良調整則を採用し、2次制御ループ側、すなわち、2次制御器3の第2PID制御器13を目標温度SV1に対してON/OFF制御してPIDオートチューニングを実行する。このときの炉壁温度制御オートチューニング結果の一例を
図3の一点鎖線で示す。そして、第2PIDパラメータ算出手段4bは、P(%)=A/0.86、I(s)=0.46T、D(s)=0.1Tに基づいてPIDパラメータP,I,Dを算出する。
【0035】
ステップ2:炉内温度制御(1次側)オートチューニング
オートチューニング手段5aは、炉内温度PV1のオートチューニング実行指令が入力されると、ステップ1の炉壁温度制御オートチューニングと同様に、前述した改良調整則を採用し、1次制御ループ側、すなわち、1次制御器2の第1PID制御器11を目標温度SV1に対してON/OFF制御してPIDオートチューニングを実行する。このときの炉内温度制御オートチューニング結果の一例を
図3の点線で示す。そして、第1PIDパラメータ算出手段4aは、P(%)=A/0.86、I(s)=0.46T、D(s)=0.1Tに基づいてPIDパラメータP,I,Dを算出する。
【0036】
ステップ3:偏差算出
第2偏差算出手段5cは、2次側のPIDパラメータの算出時に、
図4に示すように、炉壁温度PV2と炉内温度PV1の正負最大偏差(E
FCmax+,E
FCmax-)を算出する。同様に、第1偏差算出手段5bは、1次側のPIDパラメータの算出時に、炉壁温度PV2と炉内温度PV1の正負最大偏差(E
CFmax+,E
CFmax-)を算出する。ただし、偏差は、制御量(炉内温度PV1,炉壁温度PV2)-目標温度(SV1)である。例えば
図4は炉内温度制御オートチューニングにおいて負側の偏差を矢印Aで示し、正側の偏差を矢印Bで示している。
【0037】
ステップ4:位相差算出
図5に示すように、位相差算出手段5dは、PIDオートチューニングのON/OFF制御で得られる位相差として、炉壁温度PV2と炉内温度PV1が目標温度SV1(
図5では600℃)とクロスしたときの時間差(D
E )を算出する。すなわち、最初に炉壁温度PV2が目標温度SV1とクロスし、その後から炉内温度PV1が目標温度SV1とクロスしたときの時間差(D
E )を算出する。さらに、
図5に示すように、位相差算出手段5dは、炉壁温度PV2がチューニング最高温度(最大値)に達した時点から時間差(D
E )の分を遅らせた時点での炉内温度PV1との差の温度(E
D )を算出する。
【0038】
ステップ5:カスケード演算器12のカスケードパラメータ算出
以上の結果から、カスケードパラメータ算出手段4fは、プラント出力(炉壁温度PV2)の状態に応じた異なる算出式を用いてカスケード演算器12のカスケードパラメータa,b,cを算出する。すなわち、プラント出力(炉壁温度PV2)が立上り移行中の状態では、電気炉内部への伝熱速度が遅いため炉壁温度PV2と炉内温度PV1の差は大きくなり、反対にプラント出力(炉壁温度PV2)が目標温度SV1近傍に到達する状態では、電気炉内部への熱が伝わっているので炉壁温度PV2と炉内温度PV1の差は小さくなることになり、カスケードパラメータa,b,cの算出式が異なる。なお、プラント出力と制御量は同じ意味である。
【0039】
(1)プラント出力(炉壁温度PV2)が立上り移行中の場合
a=2ED /100.0%
b=-ED
c=1.00
【0040】
(2)プラント出力(炉壁温度PV2)が目標温度SV1近傍に到達した場合
Emax+=MAX(EFCmax+,ECFmax+)
Emax-=MIN(EFCmax-,ECFmax-)
a=(Emax++|Emax-|)/100%
b=Emax-
c=1.00
【0041】
なお、カスケードパラメータcは、温度-温度のカスケード制御の場合、炉内温度PV1と炉壁温度PV2の単位次元が同一なこと、また両者の温度差は極端に大きく現れるものではないとの仮定から「1.00」としている。
【0042】
ステップ6:直交配列表L9 によるパラメータ微調整
直交表とは、任意の2因子(列)について、その水準のすべての組合せが同数回ずつ現れるという性質をもつ実験のための割付け表である。本実施の形態では、直交配列表を適用することにより微調整の短縮化を図っている。
【0043】
本実施の形態では、カスケードパラメータa,b,cに対して3水準を設定した。基本の水準設定方法は
図6に示す通りである。そして、第1水準がステップ6で得られたカスケードパラメータa,b,cを初期値とし、予め定めた水準を基に、直交配列表L
9 への割付を行った。この直交配列表L
9 への割付を行ったときのテーブルを
図7に示す。そして、微調整手段4gは、
図7のテーブルの調整順序に従ってカスケード演算器12の微調整を行う。このように、本実施の形態では、
図7のテーブルを用いるので、27通りある調整順序の組合せを9通りに減らすことができ、カスケード演算器12の微調整に要する時間の短縮を図ることができる。
【0044】
[具体例]
次に、具体例として、カスケード演算器12のカスケードパラメータa,b,cの数値例について説明する。
【0045】
(1)プラント出力(炉壁温度PV2)が立上り移行中の場合
炉壁温度PV2が目標温度SV1とクロスする時間-炉内温度PV1が目標温度SV1とクロスする時間:DE =30sec
炉壁温度PV2がチューニング最高温度(最大値)に達した時点から時間DE の分だけ遅らせた時点での炉内温度PV1との差の温度:ED =618.7-592.2=26.5℃
温度スケールを0℃~1000℃とした場合、以下のように、プラント出力(炉壁温度PV2)が立上り移行中の場合のカスケードパラメータa,b,cが算出される。
ED =(26.5/1000-0)×100.0=2650.0/1000=2.650
a=(2×2.650)/100.0=0.053
b=-2.650
c=1.00
【0046】
(2)プラント出力(炉壁温度PV2)が目標温度SV1近傍に到達した場合
炉壁温度PV2のオートチューニング実行時、炉壁温度PV2と炉内温度PV1の正負最大偏差(EFCmax+,EFCmax-)を算出する。
EFCmax+=18.8
EFCmax-=17.2
炉内温度PV1のオートチューニング実行時、炉壁温度PV2と炉内温度PV1の正負最大偏差(ECFmax+,ECFmax-)を算出する。
ECFmax+=-18.6
ECFmax-=-18.7となる。
温度スケールを0℃~1000℃とした場合、以下のように、プラント出力(炉壁温度PV2)が目標温度SV1近傍に到達した場合のカスケードパラメータa,b,cが算出される。
Emax+=MAX(EFCmax+,ECFmax+)=18.8
Emax-=MIN(EFCmax-,ECFmax-)=-18.7
これらを正規化すると、
Emax+=18.8/(1000-0)=1.88
Emax-=|{-18.7/(1000-0)}×100.0|=1.87
a=(1.88+1.87)/100=0.0375=0.038
b=-1.87
c=1.00
【0047】
[実験例]
実験例として、電気炉の目標温度SV1を600℃とし、2次制御ループ側(炉壁温度PV2)→1次制御ループ側(炉内温度PV1)の順番で前述した改良調整則に基づくPIDオートチューニングを実行し、それぞれのPIDパラメータP1,I1,D1、P2,I2,D2を算出した。さらに、カスケード演算器12のカスケードパラメータa,b,cを算出し、パラメータ微調整に直交配列表L
9 を活用した。このときの算出結果を
図8に示す。また、オートチューニング実行時のチューニング波形を
図3に示す。
【0048】
そして、上記算出により得られたパラメータをもとにカスケード制御を行ったときの応答を
図9に示す。
図9に示すように、本実施の形態のパラメータ調整に基づくカスケード制御によれば、安定制御が実現できていることが見て取れる。
【0049】
なお、炉内温度単独で制御を行った場合に得られた応答を
図10に示し、炉壁温度単独で制御を行った場合に得られた応答を
図11に示す。
図11に示すように、炉壁温度単独で制御を行った場合には、炉内温度の保証はないため、炉壁温度の目標温度を修正する必要がある。すなわち、炉内温度が目的とする温度になるように、炉壁温度の目標温度を加算する工夫が必要になる。その点では、カスケード制御は前述の目標温度を変更することなく、制御しやすいことがメリットとしてあげられる。
【0050】
ところで、上述した実施の形態において、パラメータ調整装置1が備える構成要素(パラメータ算出部4の第1PIDパラメータ算出手段4a、第2PIDパラメータ算出手段4b、カスケードパラメータ算出手段4c、波形観測器5のオートチューニング手段5a、第1偏差算出手段5b、第2偏差算出手段5c、位相差算出手段5d、微調整手段5e)は、演算処理装置、記憶装置などを備えたコンピュータで構成し、各構成要素の処理がプログラム(パラメータ調整プログラム)によって実行されるものとしてもよい。
【0051】
このように、本実施の形態によれば、現場においてもパラメータ調整に時間の要するカスケード制御であるが、大幅な調整時間の短縮が期待できる。しかも、直交配列表を組合せたパラメータ算出法を採用すれば、パラメータ調整に要する時間をさらに短縮することができる。
【0052】
以上、本発明に係るカスケード制御におけるパラメータ調整装置の最良の形態について説明したが、この形態による記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例及び運用技術などはすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0053】
1 パラメータ調整装置
2 1次制御器
3 2次制御器
4 パラメータ算出部
4a 第1PIDパラメータ算出手段
4b 第2PIDパラメータ算出手段
4c カスケードパラメータ算出手段
5 波形観測器
5a オートチューニング手段
5b 第1偏差算出手段
5c 第2偏差算出手段
5d 位相差算出手段
5e 微調整手段
11 第1PID制御器
12 カスケード演算器
13 第2PID制御器
PV1 炉内温度(チャンバー温度):制御量
PV2 炉壁温度(ファーネス温度):制御量
SV1 電気炉の目標温度
SV2 カスケード演算器の出力
MV1 第1PID制御器の出力
MV2 第2PID制御器の出力:操作量